説明

ラクトバチルス(Lactobacillus)抽出物による皮膚の処置方法

【課題】皮膚細胞においてβデフェンシンを刺激する方法を提供する。
【解決手段】有効量のラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)未処理培養物またはその抽出物もしくはその活性画分を適用することを含んでなる、医薬の調製における局所用組成物または化粧品組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品組成物およびその使用の分野に関する。特に、本発明は、皮膚細胞におけるβデフェンシン産生を刺激するために使用することができる化粧品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌性ペプチドは、多くの植物種および動物種を通じて広範に見られる天然の防御システムである。脊椎動物において認められる抗菌性ペプチドの一種が、デフェンシンとして知られている分子群である。構造的には、これらの分子は6個の不変のシステインおよび3個の分子内シスチンジスルフィド結合の存在によって特徴づけられる(Lehrerら、Cell 64:229-230, 1997; Ann. Rev. Immunol. 11:105-128, 1993)。2つの異なるクラスのデフェンシンが存在する。第1は古典的なデフェンシンであって、それは好中球およびマクロファージに貯えられ、これらの細胞が貪食した微生物を不活化するために利用される。第2のクラスはβデフェンシンを含んでなり、これは哺乳類の肺および皮膚細胞から分離された。これらの分子は、細菌、真菌およびウイルスといった病原体に対して広範な抗生物質活性を示すことが知られている(Porterら、Infect. Immun. 65(6): 2396-2401, 1997)。
【0003】
上記のように、皮膚細胞はβデフェンシンを産生することが知られている。また、皮膚細胞を細菌細胞、特にシュードモナス(Pseudomonas)属細菌に曝露すると、たとえ不活化された状態であっても、角化細胞においてβデフェンシン-2の産生が誘導されうることも明らかとなっている。こうした応答は、おそらく、有害な刺激、特に微生物という刺激の来襲から皮膚を守るために皮膚に存在するのであろう。エンドトキシンLPSがグラム陰性細菌に対するβデフェンシン応答を誘発する原因であるのに対して、グラム陽性細菌の刺激性成分はリポタイコ酸もしくはペプチドグリカンであろうと理論づけられている。
【0004】
こうした応答をより安全な刺激で皮膚から自由に引き出すことができれば、皮膚に一貫した保護剤を提供するために役立つであろう。しかしながら、現在までのところ、皮膚細胞βデフェンシンを誘発するためにシュードモナス属細菌より安全な細菌を使用することは、提案されていない。そこで本発明は、化粧品として許容される非病原性細菌を用いて皮膚細胞におけるβデフェンシン産生を刺激するための方法を提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Lehrerら、Cell 64:229-230, 1997
【非特許文献2】Lehrerら、Ann. Rev. Immunol. 11:105-128, 1993
【非特許文献3】Porterら、Infect. Immun. 65(6): 2396-2401, 1997
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明は、刺激として有効な量のラクトバチルス(Lactobacillus)抽出物を皮膚細胞に適用することを含んでなる、皮膚細胞におけるβデフェンシン産生を刺激する方法に関する。本発明はまた、刺激として有効な量のラクトバチルス抽出物を適用することによって有害な刺激によるダメージから皮膚を保護する方法に関する。
【0007】
図面の説明
図1および2は、ラクトバチルス抽出物画分のさまざまなサンプルに関する28SリボソームRNAバンドの視覚的な定量を示す。図1、レーンの識別:1、1844透過液 5x10E9;2、1839培養液10E8;3、1839 保持液 5x10E10;4、1839透過液10E9;5、1839透過液5x10E9;6、1839透過液10E10;7、1839 熱交換 10E10;8、lambda Hind III。図2、レーンの識別:1、lambda Hind III;2、未処理B;3、1844培養液5x10E9;4、1844 保持液 10E10; 5、1844 保持液 5x10E10;6、1844透過液5x10E10;7、1844 熱交換 10E9;8、1844 熱交換 5x10E9。
【0008】
図3は、ラクトバチルス抽出物のさまざまな画分の調製を図解するフローチャートである。
【0009】
図4は、NHEK(正常ヒト表皮角化細胞)を48時間増殖させた後の内部標準18SリボソームmRNAレベルに対する、ラクトバチルス抽出物1839および1844のさまざまな画分の効果を示す。灰白色のサンプルは非処理のものである。緑色のサンプルは、1844未処理培養物に相当する(細菌数108、109、5x109もしくは1010)。薄緑色のサンプルは1839未処理培養物に相当する(108、109もしくは1010)。赤色のサンプルは1844熱交換処理サンプルである(109、5x109もしくは1010)。黄色のサンプルは1839熱交換処理サンプルである(108、109もしくは1010)。青色のサンプルは1844透過液である(109、5x109もしくは1010)。水色のサンプルは1839透過液である(109、5x109もしくは1010)。透過液は水溶性の細胞破砕成分からなり、クロスフローフィルターを通過することができる。紫色で示すサンプルは1844保持液に相当する(109、1010もしくは5x1010)。桃色のサンプルは1839保持液に相当する(109、1010もしくは5x1010)。保持液は水に不溶性の細胞残渣を含有し、クロスフローフィルター(0.22μ)を通過しない。*印を付したサンプルは別個の処理である。
【0010】
図5は、NHEKを48時間増殖させた後のヒトβデフェンシン-2 mRNAレベルに対する、ラクトバチルス抽出物1839および1844のさまざまな画分の効果を示す。灰白色で示すサンプルは非処理のものである。緑色のサンプルは、1844未処理培養物に相当する(細菌数108、109、5x109もしくは1010)。薄緑色のサンプルは1839未処理培養物に相当する(108、109もしくは1010)。赤色のサンプルは1844熱交換処理サンプルである(109、5x109もしくは1010)。黄色のサンプルは1839熱交換処理サンプルである(108、109もしくは1010)。青色のサンプルは1844透過液である(109、5x109もしくは1010)。水色のサンプルは1839透過液である(109、5x109もしくは1010)。透過液は水溶性の細胞破砕成分からなり、クロスフローフィルターを通過することができる。紫色で示すサンプルは1844保持液に相当する(109、1010もしくは5x1010)。桃色のサンプルは1839保持液に相当する(109、1010もしくは5x1010)。保持液は水に不溶性の細胞残渣を含有し、クロスフローフィルター(0.22μ)を通過しない。*印を付したサンプルは別個の処理である。
【0011】
図6は、NHEKを48時間増殖させた後のヒトβデフェンシン-2 mRNAレベルに対する、他の物質の効果を、ラクトバチルス画分の効果と比較して示す。灰白色で示すサンプルは非処理のものである。白色で示すサンプルはMMP由来のマンギフェリン(#4245)である。赤色のサンプルは緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)に相当する(細菌数105、106もしくは107)。緑色がかった青色のサンプルは、寒天培地で増殖させたラクトバチルス(細菌数108)と寒天培地で増殖させたシュードモナス(細菌数105もしくは106)の混合物に相当する。黄色のサンプルは、寒天培地で増殖させたラクトバチルス(108)に相当する。青色のサンプルは24時間未処理ラクトバチルス培養液に相当する。青緑色のサンプルは未処理熱交換サンプルである。深緑色のサンプルは透過液に相当する。透過液は水溶性の細胞破砕成分からなり、クロスフローフィルター(0.22μ)を通過することができる。薄緑色のサンプルは保持液に相当する。保持液は水に不溶性の細胞残渣を含有し、クロスフローフィルター(0.22μ)を通過しない。
【0012】
図7は、皮膚上の微生物叢の量に対するラクトバチルス抽出物の効果を示す。
【0013】
図8は、皮膚微生物叢に対するラクトバチルス抽出物の効果を、抗菌性/デフェンシン刺激物質トリクロサンおよびプロミリンと比較して示す。
【0014】
図9は、6週間にわたる、(a)にきびの丘疹および膿疱、ならびに(b)にきびの開放面皰および閉鎖面皰に対する、10%ラクトバチルス溶液を含む組成物の効果を示す。
【0015】
図10は、乳酸によるヒリヒリ痛に対するラクトバチルス抽出物の効果を、トリクロサンおよびアルガード(Alguard)と比較して示す。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ラクトバチルス抽出物画分のさまざまなサンプルに関する28SリボソームRNAバンドの視覚的な定量を示す。
【図2】ラクトバチルス抽出物画分のさまざまなサンプルに関する28SリボソームRNAバンドの視覚的な定量を示す。
【図3】ラクトバチルス抽出物のさまざまな画分の調製を図解するフローチャートである。
【図4】NHEK(正常ヒト表皮角化細胞)を48時間増殖させた後の内部標準18SリボソームmRNAレベルに対する、ラクトバチルス抽出物1839および1844のさまざまな画分の効果を示す。
【図5】NHEKを48時間増殖させた後のヒトβデフェンシン-2 mRNAレベルに対する、ラクトバチルス抽出物1839および1844のさまざまな画分の効果を示す。
【図6】NHEKを48時間増殖させた後のヒトβデフェンシン-2 mRNAレベルに対する、他の物質の効果を、ラクトバチルス画分の効果と比較して示す。
【図7】皮膚上の微生物叢の量に対するラクトバチルス抽出物の効果を示す。
【図8】皮膚微生物叢に対するラクトバチルス抽出物の効果を、抗菌性/デフェンシン刺激物質トリクロサンおよびプロミリンと比較して示す。
【図9】6週間にわたる、(a)にきびの丘疹および膿疱、ならびに(b)にきびの開放面皰および閉鎖面皰に対する、10%ラクトバチルス溶液を含む組成物の効果を示す。
【図10】乳酸によるヒリヒリ痛に対するラクトバチルス抽出物の効果を、トリクロサンおよびアルガード(Alguard)と比較して示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
本発明は、ラクトバチルス属細菌の抽出物が、概して用量依存的に、皮膚細胞におけるβデフェンシン産生を刺激することができるという知見に基づいている。特に、水溶性および水不溶性の物質をいずれも含有する抽出物を含めて、いくつかの異なる形態のラクトバチルス抽出物が、皮膚細胞培養物におけるβデフェンシン産生を誘発することができることが見出された。さまざまな処理サンプルの調製の概略が図1に示される。要約すると、未処理抽出物サンプル、ならびに熱交換分画およびクロスフロー濾過した透過液および保持液はそれぞれ、βデフェンシン産生を刺激する、ある程度の活性を示す。活性は、少なくともおよそ1x109から1x1010までの範囲の細胞濃度を含むサンプルにおいてもっとも顕著である。ビーフベースのブロスおよびダイズベースのブロスで増殖させたラクトバチルスの抽出物はいずれも、βデフェンシン誘導活性をもつことが明らかとなった。
【0018】
ラクトバチルス抽出物はすでに、さまざまな目的で化粧品用途に使用されてきた。たとえば、国際公開WO 9907332は、病原性微生物叢から皮膚を保護するのに有用であると言われる培養物を製造するためのラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)菌株の使用を開示している。欧州特許EP 1097700は、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)透過液を含有する育毛組成物を開示している。国際公開WO 02/60395は、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)を用いて醗酵させたコメから調製される製品に関するが、この製品は、乳化剤としてスキンケア製品に有効であるといわれている。日本特許JP 3112983は、皮膚の保湿のために、破砕したラクトバチルス細胞と培養液を併用することを開示している。JP 2002037742は、肌の疲れおよびアンチエイジングに有用なラクトバチルス醗酵代謝産物を記述している。JP 2002037739は、さまざまな基質による乳酸菌発酵の代謝産物である「免疫賦活剤」を開示している。日本特許JP 2804312はラクトバチルス属の菌種によって醗酵した豆乳を記載しているが、これは美白に有効であるとされている。しかしながら、本出願人の知る限りでは、ラクトバチルスが、皮膚細胞におけるβデフェンシン産生を刺激するために、これまで使用されたことはない。
【0019】
さまざまな画分に適切な活性がみとめられるので、さまざまな形態の抽出物を本発明の組成物および方法に使用することができる。たとえば、煮沸するがそれ以外の処理をしない抽出物を使用することができる。しかし、同様の活性は、熱交換処理(フラッシュ加熱およびフラッシュ冷却)した抽出物を用いても得ることができ、こうした抽出物中では細菌細胞は破壊されている。加えて、熱交換処理抽出物をさらに0.22μフィルターによるクロスフロー濾過にかけると、透過液(水溶性の細胞破砕成分を含有する)および保持液(水に不溶性の細胞残渣を含有する)が得られるが、これらはそれぞれデフェンシン誘導活性を示す。これらの抽出物もしくは画分のいずれか1つまたは組合せを使用してもよい。
【0020】
実用に際してラクトバチルス抽出物は、βデフェンシン産生を刺激することができる量で、事実上あらゆるタイプの局所的に有用な担体に混合される。担体は、すなわち、医薬品もしくは化粧品として許容される、医薬用または化粧用のビヒクルであって、皮膚、毛髪もしくは爪といった身体の外表面への塗布を目的とするが、こうしたビヒクルは活性成分を目的とする標的に運び、しかも、処置すべき対象の表面に塗布したとき、平均的なヒトもしくは他のレシピエント生物に害を及ぼさないものである。本明細書で用いる「医薬品」または「化粧品」は、当然のことながら、活性成分と適合するヒトおよび動物(好ましくは哺乳類)の医薬品もしくは化粧品であって、たとえば、ジェル、クリーム、ローション、軟膏、ムース、スプレー、固形スティック、粉末、懸濁液、分散剤などを包含する。さまざまな種類のビヒクルの処方技術は当業者によく知られており、たとえば、Chemistry and Technology of the Cosmetics and Toiletries Industry, WilliamsおよびSchmitt編、Blackie Academic and Professional, 第2版、1996;Harry’s Cosmeticology、第8版、M. Reiger編(2000);およびRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 第20版、A. Gennaro編(2003)に見出すことができるが、これらの各々の内容は参照することにより本明細書に含めるものとする。局所送達に有用な典型的な組成物、たとえば、水性分散剤、無水組成物、乳濁液(水中油もしくは水中シリコーン型、油中水もしくはシリコーン中水型、複合エマルジョン、マイクロエマルジョン、ナノエマルジョン)は、その諸成分が活性抽出物もしくは画分と適合するという条件で、いずれも用いることができる。組成物はまた、組成物の活性を強めたり、もしくは補ったりすることができる、局所的に有用な他の成分を含有することができる。組成物中の共存成分の選択はまた、組成物の使用目的によっても左右される。標準的な局所有効成分は、たとえば、The International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook, 第10版、2004に見出すことができるが、この内容は参照することにより本明細書に含めるものとする。抽出物と混合することができ、局所的に受け入れられる成分の有用な種類の例としては、限定するものではないが、下記のものがある:芳香油もしくは精油;顔料もしくは着色料;処方補助剤、たとえば固結防止剤、消泡剤、充填剤および増量剤、増粘剤、ゲル化剤、構造化剤および乳化安定剤;界面活性剤および乳化剤;目的とする標的上の付着および保持を強める被膜形成剤;噴射剤、防腐剤およびpH調整剤、ならびに中和剤。抽出物と組み合わせて使用しうる他の成分は、組成物を塗布する角質表面に追加的な利益をもたらす成分であり、これらを以後「皮膚に有益な物質」と呼ぶ。このような皮膚に有益な物質の例には、限定するものではないが、以下のものが含まれる:アストリンゼント(収斂剤)、たとえば、丁子油、メントール、ショウノウ、ユーカリ油、オイゲノール、乳酸メンチル、アメリカマンサク蒸留液;酸化防止剤もしくはフリーラジカルスカベンジャー、たとえば、アスコルビン酸、その脂肪酸エステルおよびリン酸エステル、トコフェロールおよびその誘導体、N-アセチルシステイン、ソルビン酸およびリポ酸;にきび防止剤、たとえば、サリチル酸および過酸化ベンゾイル;抗菌剤もしくは抗真菌剤、たとえば、カプリリルグリコール、トリクロサン、フェノキシエタノール、エリスロマイシン、トルナフテート、ナイスタチンまたはクロトリマゾール;EDTAのようなキレート剤;局所麻酔剤、たとえば、ベンゾカイン、リドカインまたはプロカイン;アンチエイジング/アンチリンクル剤、たとえば、レチノイド類もしくはヒドロキシ酸;美白剤、たとえば、カンゾウ、アスコルビルリン酸、ヒドロキノンまたはコウジ酸;スキンコンディショニング剤(例:湿潤剤があり、多岐に亘る閉鎖性湿潤剤を含む);抗刺激剤、たとえば、コーラノキ、ビサボロール、アロエ、もしくはパンテノール;抗炎症剤、たとえば、ヒドロコルチゾン、クロベタゾール、デキサメタゾン、プレドニゾン、アセチルサリチル酸、グリシルリジン酸もしくはグリシルレチン酸;アンチセルライト(抗脂肪沈着)物質、たとえば、カフェインおよび他のキサンチン;保湿剤、たとえば、アルキレンポリオール類もしくはヒアルロン酸;皮膚軟化剤、たとえば、油性エステルもしくはペトロラタム;日焼け防止剤(有機または無機)、たとえば、アボベンゾン、オキシベンゾン、メトキシ桂皮酸オクチル、二酸化チタンもしくは酸化亜鉛;(化学的もしくは物理的な)角質除去剤、たとえば、N-アセチルグルコサミン、マンノースリン酸、ヒドロキシ酸、ラクトビオン酸、桃仁、または海塩;セルフ・タンニング剤、たとえば、ジヒドロキシアセトン;ならびに生理活性ペプチド、たとえば、パルミトイル・ペンタペプチドもしくはアルギレリン。これらの補足的な、皮膚に有益な物質は、意図した目的に使用するとき、その活性のために通常有効であると認められる量で使用される。
【0021】
使用する抽出物の量は、抽出物中の細菌性物質の濃度によって決まってくるが、約1x109から約1x1010個の細胞濃度に基づく抽出物を、全組成物の重量基準で約0.001から約50%までの濃度で使用することができ、好ましくは約0.001から約30%まで、さらに好ましくは約1から約20%までの濃度で使用する。安全であると一般に認められているあらゆるラクトバチルス属菌種を、こうした抽出物のベースとして使用することができる。特に好ましいのは、ラクトバチルス・プランタルム(L. plantarum)から得られる抽出物である。
【0022】
デフェンシンを誘導する抽出物は、皮膚における微生物集団の増殖を抑制もしくは予防するのに有用であると考えられる。有効量(上記)のラクトバチルス抽出物を含有する組成物は、上記の目的のために、皮膚に、たとえば、汚れや望ましくない微生物に接触した可能性のある開いた傷口もしくは創傷部に、必要に応じて塗布され、または、長期的には、日常的に皮膚微生物叢を健康な水準に維持するよう皮膚を清潔にするために塗布される。
【0023】
上記抽出物は、化粧品もしくは医薬品の防腐剤としても有用であると考えられる。とりわけ、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)抽出物およびその画分は、in vitroでグラム陽性およびグラム陰性細菌のいずれに対しても広範な活性スペクトルを示す。
【0024】
本発明の抽出物はまた、にきびの処置にも有用である。ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)抽出物を含有する局所用組成物は、6週間にわたって恒常的に使用した場合、炎症性および非炎症性のにきび病変の発生をいずれも減少させることが明らかである(実施例5を参照されたい)。
【0025】
本発明の抽出物は、2ヶ月間にわたって規則的に(1日2回)使用した場合、乳酸によるヒリヒリ痛を低減することによって示されるように(実施例6)、肌の過敏性を減少させるのにも有用である。
【実施例】
【0026】
下記の限定的でない実施例によってさらに本発明を説明する。
【0027】
[実施例1]
ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)の培養方法
L. plantarum菌は、下記の組成を有する、非動物性MRS寒天培地にて最終pH 6.3+/-0.2で維持する:

ペプトン 10 g/l
酵母エキス 20
グルコース 20
Tween 80 1.08
リン酸水素二カリウム 2
酢酸ナトリウム 5
クエン酸アンモニウム 2
硫酸マグネシウム 0.2
硫酸マンガン 0.05

MRS寒天培地を作るために、55.3gの粉末を1リットルの精製水中に懸濁し、十分混合する。混合物を頻繁に撹拌しながら加熱して、1分間沸騰させ、粉末を完全に溶解させる。次に、その培地を121℃にて15分間オートクレーブ処理して滅菌する。
【0028】
Lactobacillus plantarumの特性
回収されたL. plantarumは、丸い端部を有するまっすぐな桿状で、総じて幅0.9〜1.2μm、長さ3〜8μmである。この菌は1つ1つが、2つ1組の状態で、または短い鎖状で存在する。L. plantarumの生化学的特性を表1に示す。
【表1】

【0029】
醗酵
集菌されたL. plantarumを、醗酵によって嫌気的に増殖させる。L. plantarum菌を、滅菌白金耳によってMRS傾斜培地から移し、2リットルの非動物性MRSブロス培地を入れたフラスコに接種する。このブロスを撹拌しながら37℃にて一晩インキュベートして、良好な増殖を達成させる。培地は濁ってくる。その後、培養物を固体培地に移し、培養物の純度を確認するためにグラム染色する。
【0030】
15リットルNew Brunswick醗酵槽を、下記の組成を有する10リットルの培地で満たす:

植物性ペプトン 20 g/l
酵母エキス 5
グルコース 20
Tween 80 1.08
リン酸水素二カリウム 2
酢酸ナトリウム 5
クエン酸アンモニウム 2
硫酸マグネシウム 0.2
硫酸マンガン 0.05
醗酵槽および培地は121℃にて15ポンド圧で15分間滅菌する。醗酵槽培地を脱イオン水に加えて発酵槽に入れ、容量10リットルとなるまで希釈し、17 psiで120℃にて20分間滅菌する。超高純度の圧縮窒素を醗酵槽内に噴射して、1.5 L/分の流速で溶存酸素を0 mm Hgに維持する。室温に冷却した後、2 Lフラスコから得た接種菌を、無菌的に、醗酵槽の中の10リットルの培地に加える。醗酵槽温度は、150rpmで撹拌して、30〜32℃となるようにする。培地の初期pHは6.0〜6.2である。この培養物を30〜32℃で16〜20時間インキュベートすると、培養混合物の最終pHは4.0〜4.2、細菌密度は106〜107個/mlとなる。
【0031】
その後、醗酵液を、加熱部および冷却部を有するコイル式熱交換器に通す。温度を105〜110℃に上げることによってブロスを溶解した後、ただちに7〜10℃まで冷却する。この時点で、すべてのインタクト細胞は溶解した。次に、この培養液は0.4 L/分の流速で0.22μクロスフロー濾過ユニットを通して、補助貯蔵槽に移すが、このとき0.5%フェノキシエタノールを防腐剤として添加する。その後、生成物はポリマーライニング層を有する滅菌容器中に保存する。
【0032】
[実施例2]
概論
Lactobacillus plantarumは、上記のようにNew Brunswick発酵槽(10リットル容)を用いて嫌気条件下で培養し、MIC 1844と名付けた。MIC 1844は30℃にて24時間培養した。この細菌を、すでに記述したように熱交換(1回通過)で分画し、0.22μクロスフローフィルターを通して処理した。未処理培養液、熱交換(処理なし)、透過液および保持液をhBD-2誘導についてNHEK(正常ヒト表皮角化細胞)でアッセイした。熱交換から回収されクロスフロー濾過で処理された、透過されない細胞残渣を保持液と称した。保持液は濾過プロセスによって7倍に濃縮された。未処理培養液の最終濃度は2.5〜5.0x1010 細胞/mlであった。熱交換およびクロスフロー濾過から回収された、透過された物質(代謝された培地および可溶性細胞成分)を透過液と称した。透過液は、未処理熱交換もしくは未処理培養液と同じ濃度であった。NHEKとともにインキュベートする前に、すべての画分を20分間煮沸した。NHEKの処理の間に生菌が大いに増殖し、哺乳動物細胞培養物の汚染および無価値の結果をもたらすため、こうした予防策は当然と考えられる。
【0033】
1844培養液の細菌濃度は、ビーフベースのMRSブロスで増殖させて4℃にて3か月保存した1839培養液と同様であると予想された。NHEKを細菌抽出物で処理する前にカウント数を測定することはできなかった。したがって、細菌細胞濃度は同様であると仮定した。
【0034】
リポタイコ酸(水溶性)およびペプチドグリカン(水に不溶)が、toll様受容体を介してNHEKからhDB-2を誘導するための、グラム陽性細菌由来の主要な細胞壁成分である。LPSまたはエンドトキシンが、hBD-2を誘導するためのグラム陰性菌由来の外膜の主要成分である。ラクトバチルスのリポタイコ酸はおそらく、透過液中に存在し、NHEKにおけるhBD-2 mRNAの誘導に寄与している。同様に、ラクトバチルスのペプチドグリカンは、おそらく保持液中に存在し、NHEKにおけるhBD-2 mRNAの誘導に寄与している可能性がある。このことから、活性が上記画分の両方に認められた理由が説明されよう。
【0035】
方法
Cascade EPI Life の存在下でNHEKを増殖させた。80〜90%コンフルエントで細胞を処理した。NHEKを48時間処理してRNAを回収した。ラクトバチルスをSolabia社製ダイズエキスの存在下で増殖させた。この培地は、一から調製した。DIFCO社製の乳酸菌MRSブロスは、ペプトン、ビーフエキス、酵母エキス、デキストロース、酢酸ナトリウムおよび選択された複数の塩類を含有する。この処方では、ビーフエキス(10g/l)をSolabia社製ダイズエキス(10g/l)で置き換えた。1844実験から得られた未処理培養液、熱交換画分、透過液画分および保持液画分を、1839画分と比較した。1839画分は、MRSブロス(ビーフエキス)で増殖させて、熱交換処理したラクトバチルス菌から得られた。4つの画分は3ヶ月間4℃に維持した。ラクトバチルス菌を30℃にて24時間10リットルNew Brunswick醗酵槽で増殖させた。1844培養液からの回収は2.5〜5 x 1010細胞/mlであった。1839培養液は、約9 x 1010〜2.8 x 1011細胞/mlであった。このことは、ダイズエキス使用時には、細胞数の44〜72%減少と言い換えられる。
【0036】
1844未処理培養液を、細菌数108、109、5 x 109、または1010の4段階の量で、100mmプレート上に播いたNHEKに添加した。熱交換処理した1844ラクトバチルス抽出物は、3段階の細菌量109、5 x 109、または1010でNHEKに加えた。1844透過液は、細菌数109、5 x 109、1010または5 x 1010の4段階の量で加えた。1844保持液は、細菌数109、5 x 109、1010または5 x 1010の4段階の量で、100mmプレート上のNHEKに加えた。0.22μより小さい細菌成分は、クロスフロー濾過後に透過液中に回収された。0.22μより大きい細胞残渣は、クロスフロー濾過後に保持液として回収された(4回)。細菌画分の一部は酸性(pH3〜4)であったが、これを添加すると角化細胞培地が黄色になった。ただちに200μl以下の800mM HepesでpHを中和した。Hepesを全培養物に添加した。4℃にて3か月保存した1839細菌抽出物を比較のために含めた。細菌数が得られる前に処理を開始したが、両方の培養物とも同じ細菌濃度に達していると仮定した。したがって、1839に使用したのと同じ処理容量を1844についても含めた(未処理培養液:1、10、50および100μl;熱交換:10、50および100μl;透過液:3.6、18、36および180μl;保持液:10、50、100および500μl)。細菌抽出物はすべて20分間煮沸した。
【0037】
全RNAはTRIzol試薬(Invitrogen)を用いて回収した。mRNA濃度は、RiboGreenキット(Molecular Probes)を用いて測定し、さらに、選択されたサンプルのゲル電気泳動によっても測定した。各サンプルを2回または3回反復で評価するために、複数回のRiboGreenアッセイを実施した。結果を平均した(表2を参照されたい)。RNA分解量は2つのゲルで評価した(図1および2)。Ambion社製RETROscriptキットを用いてRNAをcDNAに逆転写した。内部標準は18SリボソームRNAとした。Roche社製FastStart DNA Master SYBR Green IキットとともにLight Cyclerを用いてcDNAを増幅した。18SリボソームRNAおよびhBD-2に特異的なプライマーは、これまでに記述された。18SリボソームRNAについては、100ngのテンプレートを40サイクルで増幅した。hBD-2については、300ngのテンプレートを40サイクルで増幅した。PCR反応によって生じた分子量の異なるPCR産物の数は、Rocheの融解曲線プログラムを使って間接的に測定した。各プライマーセットについて、単一の融解点ピークが観察された。
【0038】
結果と結論
RNAに特異的な蛍光プローブを用いて全RNAレベルを測定した(RiboGreen ELISA)(表1)。選択されたサンプル群についてリボソーム28S RNAを光学的に定量した(図1および2)。RNAの分解は一切認められなかった。28SリボソームRNAバンド(一番上のバンド)の強度はわずかに変化し、783000+/-25000(図1)および882000+/-46000(図2)であった。2つのゲルの当該バンドの強度は、8000のピクセル面積に限定された。内部標準として18SリボソームmRNA(下方のバンド)を増幅することに成功した。逆転写の効率を測定する外部標準は含めなかった。さまざまな画分を表すフローチャートを図3に示す。
【0039】
NHEKを処理するために使用したラクトバチルス抽出物の大半は、未処理サンプルの範囲内の18SリボソームmRNAレベルをもたらした(図4)。ほとんどの場合、18SリボソームmRNAレベルの用量依存性の増加が認められ、これは抽出物により誘導された増殖を示唆する。18SリボソームmRNAレベルの最大の増加は、細菌数10E10の1839熱交換サンプルで認められた。例外には1839培養液があり、これは、18SリボソームmRNAレベルの用量依存性の減少を示した。18Sレベルの減少は通常、何らかの自然の細胞ストレスの表れであって、それが用量依存性であったので、抽出物と関係があると思われる。18S mRNAレベルの減少は、NHEK増殖の減少、もしくはNHEK細胞死の増加によって説明することができる。概して、18S mRNAレベルは、未処理対照の標準偏差の範囲内にあったが、用量依存的にわずかに増加しているようであった。
【0040】
1844ラクトバチルス抽出物はすべて、NHEKにおいてhBD-2 mRNAレベルの用量依存性増加を引き起こした。細菌数5x109〜1010に相当する用量を使用したとき、未処理培養液、熱交換、透過液もしくは保持液は、hBD-2 mRNAレベルを誘導した。1844保持液および1844透過液は、熱交換もしくは未処理培養液と比べて、hBD-2 mRNAを誘導するためにやや多くの細菌量を必要とした(図5)。
【0041】
結論として、1839実験もしくは1844実験からのラクトバチルス抽出物はすべて活性を有していた。18SリボソームmRNAレベルが低い1839培養液でさえも、なんとかhBD-2 mRNAレベルをもたらしたが、最大量は顕著に減少した。1839画分はいずれも、4℃にて3ヶ月間保存したにもかかわらず、活性を保持した。1839画分のhBD-2 mRNAレベルは、MIC1839に関する以前のデータに匹敵した(平均35x105 コピーに対して平均55x105 コピー)。その差異は、未処理サンプルにおけるhBD-2 mRNAレベルの増加によって説明することができる(20x105に対して45x105コピー)。したがって、それらはかなり類似していた(比較のために図6を参照されたい)。1839培養液と比較して、1844培養液からはより少量のラクトバチルスしか回収されず、約44〜72%の減少であった。ダイズエキスは、こうした細菌数の減少にもかかわらずhBD-2 mRNAの誘導を有意に低下させないようであった。1844保持液は、1839培養液についてすでに行ったのと同様に濃縮されると仮定されたため、7倍の濃縮係数を使用した。アッセイは、並行して処理された2回反復処理サンプルが、2つの処理セット(1844培養液および1844熱交換)について標準偏差の範囲内にある値を与えた(第3の処理セット(1844保持液)についてはそうでなかった)ため、再現性があると思われる。hBD-2 mRNAレベルの全体としての増加は、小さかったものの、有意であった。こうしたデータセットは、クロスフロー濾過がサンプルの活性を増加させないことを示すが、それは、透過液および保持液が培養液より少し低い同様のレベルのmRNAを誘導したためである。したがって、hBD-2 mRNAの少なくとも2つの異なる誘導物質が存在する。誘導物質はおそらく透過液中のリポタイコ酸および保持液中のペプチドグリカンである。1844抽出物のすべてが、hBD-2 mRNAレベルの用量依存性の増加を引き起こした。
【表2】

【0042】
表2:ビーフエキス(1839)およびダイズエキス(1844)を含有するラクトバチルス培養液で48時間処理されたNHEKから誘導された全RNAの定量
[実施例3]
臨床研究は、デフェンシン放出を刺激するとされたラクトバチルス抽出物で1回処理した後の皮膚微生物叢を調べるように計画された。試験される物質は、ラクトバチルスを含まないCarbopolゲルビヒクル、および20%ラクトバチルス抽出物を含有するCarbopolゲルビヒクルである(いずれもpH 3.90)。
【0043】
被験者
全部で9人の被験者、25〜55歳の男女が本研究に参加した。被験者は全員、急性もしくは慢性疾患の徴候がなく、かつ/または皮膚科もしくは眼科的問題のない普通の健康状態であった。日焼け、発疹、擦り傷、やけど痕などのある被験者は、試験結果の評価の妨げとなる可能性があるため、本研究から除外した。妊婦または授乳中の女性も除いた。試験部位には、疣、母斑、ほくろ、日焼け、瘢痕、および観察時に認められる進行中の皮膚病変がまったく存在しない。
【0044】
方法
皮膚微生物叢
調査対象者は実験室に出向き、マイルドな液体石鹸で洗顔する。顔の右側をビヒクルで処理し、左側をラクトバチルス抽出物含有製剤で処理する。研究者が無菌手袋を用いて、当該物質を塗布し、なじませる。次の3時間で、正常な微生物叢を皮膚に出現させる。この間、調査対象者には、髪の毛を顔から離しておくように、さらに顔に触れたり、顔を洗ったり、または顔に何かを付けたりするのを避けるよう助言する。この3時間の終わりの時点で、微生物を分析するために顔の頬の部分から食塩水洗浄液を得る。
【0045】
額部分の食塩水(Dulbeccosリン酸緩衝食塩水)洗浄液は、滅菌ガラスシリンダーおよび滅菌ゴムポリスマン(rubber policeman)を用いて得る。1mlの食塩水をカップに注ぎ入れ、その後ゴムポリスマンで皮膚をこすり(10ストローク)、洗浄した後、食塩水を吸引して、9mlのPBS中に回収する。サンプルの好気性および嫌気性細菌数を分析する。
【0046】
結果
図7のグラフは、各被験者についてビヒクル処理部位に対するラクトバチルス処理部位の比を示す。1の値は、差異がないことを示すが、1より低い値は、ラクトバチルス処理部位で細菌の増殖が減少したことを示す。グラフにおいて認められるように、20%ラクトバチルス抽出物は皮膚上での細菌増殖を減少させるのに有効であった。9人のうち6人の被験者は、処理の3時間後に微生物増殖の低下を示した。1人は変化せず、2人は20%ラクトバチルス抽出物でより多くの増殖を示した。
【0047】
[実施例4]
Lactobacillus plantarum抽出物のいくつかの異なる画分を、細菌および真菌増殖を抑制する能力について試験した。画分は、1-上清画分;2-濃縮細胞画分;3-濃縮全ブロス;4-非濃縮;5-植物性ブロス培地で非濃縮;ならびに6-蒸留水対照。
【0048】
方法
本実験のために選ばれたいくつかの生物は、化粧品防腐剤試験におけるそれらの多様性および妥当性のために選び出された。こうした生物には、大腸菌(Escherichia coli)(EC)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)(KP)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(PA)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)(PC)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(SA)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)(SE)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)(CA)、カンジダ・パラプシロシス(Candida parapsilosis)(CP)およびクロカビ(Aspergillus niger)(AN)が含まれる。
【0049】
個々の細菌培養物(EC, KP, PA, PC, SA およびSE)はTrypticase Soy Agar (TSA)プレート上で画線培養し、真菌培養物(CA, CP およびAN)はPotato Dextrose Agar (PDA)上で画線培養した。コルクボーラー(#5)を用いて各プレートの中央にくぼみを作り、各サンプルの200μlアリコートをそれぞれの生物の個別のくぼみに加えた。次にプレートを37℃にて48時間インキュベートする。この後、プレートを検査して阻止ゾーン(もしあれば)を観察した。阻止ゾーンは、各くぼみの縁からミリメートル単位で測定する。
【0050】
結果
ラクトバチルス培養液のMICゾーン:(生物およびサンプルの説明については上記を参照されたい)。2mmより大きい阻止ゾーンは、有意な活性があるとみなす。
【表3】

【0051】
結論
化粧品の防腐剤効果試験に一般に用いられる数種の微生物に対する抗菌活性について、ラクトバチルスの5つの画分を評価した。すべての画分がグラム陰性およびグラム陽性細菌に対して有意なレベルの活性を示した。酵母およびカビに対しては、活性がほとんどもしくはまったく認められなかった。
【0052】
[実施例5]
下記の処方を有するにきび防止ローションを試験して、炎症性および非炎症性のにきび病変を減少させるその能力を測定した:

材料 重量%
蒸留水 十分量
EDTA ナトリウム 0.100
クオタニウム 22 0.100
スクレロチウムガム 0.500
セテアレス 20 2.500
ブチレングリコール 5.000
ポリメチルメタクリレート 1.000
ゼオライト 0.500
シクロペンタシロキサン 10.500
ジメチコン(100cts) 2.000
ミリスチルアルコール 0.750
ヒアルロン酸ナトリウム 2.000
藻類エキス (アルガード;Alguard) 0.900
ビサボロール 0.050
酢酸トコフェロール 0.100
防腐剤 1.000
着色料 0.0042
アクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリン
ナトリウムコポリマー/イソヘキサデカン/
ポリソルベート 80 2.000
着色料 0.0080
ラクトバチルス溶液 10.000

6週間の試験後、この組成物は炎症性病変および非炎症性病変をいずれも有意に(p<0.0001)減少させることが示された。結果を図9のグラフで示す。
【0053】
[実施例6]
デフェンシンの放出を刺激する物質、すなわちラクトバチルス抽出物およびアルガード(Alguard)で2か月処理した後、皮膚感受性を調べるために臨床研究を行った。この研究は3つの試験製品を用いて行い(それぞれ同一の基剤で調製した)、試験される物質は、(1) ラクトバチルス培養液(Lactobacillus plantarum) 1% (0.22μ未満の大きさに寸断されたラクトバチルスに由来する); (2) トリクロサン(抗菌物質)、0.1%(対照); ならびに (3)紅藻(porphyridium sp;紅藻植物門(Rhodophyta))の生体浸出物であるアルガード (Poly sea)、1%である。これは1%多糖を含有し、抗刺激特性を示すと言われている。
【0054】
被験者
年齢25〜55歳の、全部で29人の女性がこの研究に参加した。パネルはそれぞれ9〜10人からなる3グループに分けられた。全ての被験者は、急性もしくは慢性疾患の徴候がなく、かつ/または皮膚科的もしくは眼科的問題のない普通の健康状態であった。
【0055】
日焼け、発疹、擦り傷、やけど痕などのある被験者は、試験結果の評価の妨げとなる可能性があるため、本研究から除外した。妊婦または授乳中の女性も除いた。試験部位には、疣、母斑、ほくろ、日焼け、瘢痕、および観察時に認められる進行中の皮膚病変がまったくなかった。
【0056】
方法
処理
パネルは、試験物質に対応して、それぞれ9〜10人からなる3グループに分けられた。被験者はクリームを与えられ、2ヶ月間1日2回顔全体および左前腕に使用した。右腕が未処理対照である。被験者は、他の保湿剤もしくはトリートメント製品を何も使用しないよう指導されるが、しかしながら、製品を変更しない限り洗浄剤および化粧品を使い続けることができる。試験当日に、被験者はクリーム、ローション、化粧品などを付けていない素顔および前腕で実験室に出向くよう指導される。被験者に対する乳酸によるヒリヒリ痛の測定は、ベースライン、1か月および2か月時点で得られる。10%乳酸を顔の片側に塗り、反対側には生理食塩水を付ける(Frosch および Kligman, J Soc Cosmet Chem, 28:197-209, 1977)。2.5分および5分後に、被験者によって報告されたヒリヒリ痛の強さを記録する。ヒリヒリ痛の累積強度は、食塩水処理部位でのヒリヒリ痛の強度の合計を差し引いた乳酸処理部位のヒリヒリ痛の強度の合計である。1か月処理後および2か月処理後に、再び乳酸で被験者を試験する。試験当日被験者は製品を付けない。ベースラインと4週間処理のヒリヒリ痛の強度の差異を計算した。
【0057】
図10は、パネルのヒリヒリ痛の累積スコアを示す。グラフから、ラクトバチルス抽出物が、乳酸によって引き起こされるヒリヒリ痛を低減させるのに有意に効果があることは明白である。1か月および2か月使用後、ヒリヒリ痛はそれぞれ27% (p=0.035)および39% (p=0.009)減少する。アルガードは、1か月および2か月使用後、それぞれ8% (p=.53)および27% (0.058)のヒリヒリ痛の減少を示す。トリクロサンは、この物質の使用後ヒリヒリする反応が増したので、皮膚を刺激すると思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量のラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)の未処理培養物またはその抽出物もしくは活性画分を含んでなる、皮膚細胞においてβデフェンシン産生の刺激に使用される医薬の調製における局所用組成物の使用。
【請求項2】
前記抽出物が、破壊されたラクトバチルス・プランタルムの細胞を含む、熱交換処理されたラクトバチルス・プランタルムの抽出物である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記活性画分が、水に不溶性であるラクトバチルス・プランタルムの細胞残渣を含む、クロスフロー濾過によって回収される熱交換処理されたラクトバチルス・プランタルムの抽出物の保持液画分である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記局所用組成物が、皮膚に有益な物質をさらに含有する、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
皮膚細胞においてβデフェンシン産生を刺激する方法のために使用される化粧品組成物であって、該方法が化粧品組成物を皮膚に適用することを含み、且つ該化粧品組成物が皮膚に適用される有効量のラクトバチルス・プランタルムの未処理培養物またはその抽出物もしくは活性画分を含んでなる、前記組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−215641(P2010−215641A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111076(P2010−111076)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【分割の表示】特願2007−501930(P2007−501930)の分割
【原出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(598100128)イーエルシー マネージメント エルエルシー (112)
【Fターム(参考)】