説明

ラグ形成減少下でのニトリル混合物からのニッケル(0)錯体の抽出

不飽和モノニトリルのジニトリルへのヒドロシアノ化の反応流出物から、均質に溶解した触媒を、炭化水素Hを使用した抽出により抽出除去する方法であって、
a)非極性非プロトン液体Lを反応流出物に加え、流れIを得る工程、及び、
b)炭化水素Hを使用し、温度Tで流れIを抽出し、触媒含有量が多い炭化水素Hを含む流れII、及び触媒含有量が少ない流れIIIを得る工程、
を含むことを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和モノニトリルのジニトリルへのヒドロシアノ化の反応流出物から、均質に溶解した触媒を、炭化水素Hを使用した抽出により抽出除去する方法であって、
a)非極性非プロトン液体Lを反応流出物に加え、流れIを得る工程、及び、
b)炭化水素Hを使用し、温度Tで流れIを抽出し、触媒含有量が多い炭化水素Hを含む流れII、及び触媒含有量が少ない流れIIIを得る工程、
を含む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和モノニトリルのヒドロシアノ化のために、例えば、燐リガンドのニッケル錯体が適切な触媒である。例えば、ポリアミド製造での重要な中間物であるアジポニトリルは、1,3−ブタジエンの二重ヒドロシアノ化によって製造される。第1のヒドロシアノ化において、1,3−ブタジエンは、燐リガンドで安定化されたニッケル(0)の存在下にシアン化水素と反応され、3−ペンテンニトリルが得られる。第2のヒドロシアノ化において、次に、同様にニッケル(0)触媒を使用し、3−ペンテンニトリルが、シアン化水素と反応してアジポニトリルが得られるが、しかし、所望により、助触媒(promoter)、例えば、ルイス酸を加えることができる。ニッケル(0)又はNi(0)は、酸化状態のニッケルがゼロであることを意味する。
【0003】
ヒドロシアノ化を経済的により実施可能性なものとするために、一般的にニッケル触媒は除去され、そして再生(触媒循環)される。錯体と遊離リガンドの混合物である、第2のヒドロシアノ化での触媒組成物(catalyst system)が、熱的負荷を大きくかけることができないので、沸点が高いアジポニトリルは、蒸留によって触媒組成物から除去することができない。従って、この分離は、通常、クロロヘキサン又はメチルシクロヘキサン又は他の炭化水素を抽出剤として使用して抽出することにより行われる。触媒組成物は、より軽い炭化水素相中に、理想的には全て残り、実際の条件下には部分的に残り、一方、より重い相中には、より極性で、そして粗製アジポニトリルを含み、そして、存在する場合にはルイス酸を含んでいる。相分離の後、通常、抽出剤は、減圧下に蒸留によって除去される。抽出剤の沸点は、アジポニトリルの沸点よりも明らかに高い。
【0004】
抽出の過程において、望ましくないラグ形成(rag formation)が起こり得る。ラグ存在下に、上部相と下部相の分離の不完全な領域が存在することが理解され、該領域は、通常は、(固体も分散して良い)液/液混合物である。過剰のラグ形成は望ましくない。その理由は、ラグ形成は、抽出を阻害し、そして抽出装置が、ある環境下にラグによってあふれ出しを起こし得るからで、その結果、抽出装置がその分離作業を行うことができなくなるからである。
【0005】
特許文献1(US−A3773809)及び特許文献2(5932772)には、パラフィンとシクロパラフィン、例えば、シクロヘキサン、ヘプタン及びオクタン、又はアルキル芳香族化合物で、触媒錯体及びリガンドを抽出することが記載されている。
【0006】
特許文献3(US−A4339395)には、単座(monodentate)のリガンド及び助触媒としてトリアリールボランを有する触媒組成物のために、ヒドロシアノ化の反応流出物を抽出処理するための方法が記載されており、該方法では、ラグの形成を防止するために、少量のアンモニアが計量導入されている。
【0007】
特許文献4(WO2004/062765)には、抽出剤としてアルカン又はシクロアルカンを使用して、ニッケルジホスファイト触媒をモノ−及びジニトリルの混合物から除去することが記載されており、該除去では、混合物がルイス塩基、例えば、有機アミン又はアンモニアで処理されている。
【0008】
特許文献5(US−A5847191)には、ヒドロシアノ化の反応流出物の抽出処理のための方法が記載されており、該方法では、キレートリガンドがC9−〜C40−アルキル基を帯びている。
【0009】
特許文献6(US−A4990645)には、抽出の前に、反応中に形成されるNi(CN)2固体が、デカンター内で除去される場合には、ニッケル錯体と遊離リガンドの抽出性が改良され得ることが記載されている。このため、触媒とNi(CN)2の溶解度を低くするために、ペンテンニトリルの一部が予め蒸発される。
【0010】
本出願の優先日の時点では、まだ公開されていない、前のドイツ特許出願09.15.2004の、特許文献7(DE102004 045036.6)には、燐リガンド及び/又は遊離燐リガンドを有するNi(0)錯体を、特定の境界条件下に炭化水素を使用して、ヒドロシアノ化反応の流出物から抽出することが記載されている。抽出の前に、非極性非プロトン性液体を使用して流出物を処理することは記載されていない。
【0011】
【特許文献1】US−A3773809
【特許文献2】US−A5932772
【特許文献3】US−A4339395
【特許文献4】WO2004/062765
【特許文献5】US−A5847191
【特許文献6】US−A4990645
【特許文献7】DE102004 045036.6
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上述した不利な点を解消することにある。その意図は、不飽和モノニトリルのジニトリルへのヒドロシアノ化の反応流出物から、均一に溶解した触媒、例えば、燐リガンド及び/又は遊離リガンドを有するニッケル(0)錯体を抽出して除去する、従来の技術の上述した不利な点を回避する方法を提供することにある。特に、この方法は、ラグの形成を明確に低減するか又は完全に防止するべきで、そして従って、抽出装置の中断することのない操作を可能にするべきものある。
【0013】
同時に、抽出の効果(効率)、特に炭化水素相中の触媒の回収が減少するべきではない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従って、上述した方法が見出された。本発明の好ましい実施の形態は、サブクレームに見ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
触媒は、反応流出物内に均一に溶解する。原則として、有用な触媒は、モノニトリルのジニトリルへのヒドロシアノ化に触媒作用を及ぼす全ての化合物である。触媒は、好ましくは、燐リガンド及び/又は遊離燐リガンドを有するニッケル(0)錯体である。これらNi(0)錯体及びリガンド、及びまた、適切な場合には、使用するルイス酸及び助触媒が以下に記載されており、最初に本発明に従う方法について説明する。
【0016】
特に好ましい実施の形態では、本発明に従う方法は、アジポニトリルの製造に使用される。従って、本発明に従う方法は、好ましくは、モノニトリルとして3−ペンテンニトリルを意図し、及びジニトリルとしてアジポニトリルを意図している。同様に、燐リガンドを有する少なくとも1種のニッケル(0)錯体、適切な場合には、助触媒(promoter)、例えば、少なくとも1種のルイス酸の存在下に、3−ペンテンニトリルをシアン化水素と反応させることにより、ヒドロシアノ化の反応流出物を得ることが好ましい。
【0017】
本発明に従う方法は、不飽和モノニトリルのジニトリルへのヒドロシアノ化で得られる反応流出物から、均一に溶解した触媒、特に燐リガンド及び/又は遊離燐リガンドを含むニッケル(0)錯体を抽出して除去するのに適切である。
【0018】
必要な場合には、工程a)の前に、蒸留により、反応流出物を例えば、その最初の体積の、例えば5〜70%、好ましくは15〜60%に濃縮(concentrate)して良く、該濃縮は、例えば、0.1〜5000ミリバール(絶対圧)、好ましくは0.5〜1000ミリバール(絶対圧)、及び特に1〜200ミリバール(絶対圧)の圧力、及び10〜150℃、好ましくは40〜100℃の温度、又は他の適切な測定値で行なわれる。
【0019】
工程a):非極性非プロトン性液体Lの添加
工程a)において、非極性非プロトン性液体Lが、反応流出物に加えられ流れIが得られる。ここで、液体とは、少なくとも工程a)における圧力と温度では、化合物Lが液体状態で存在することを意味し、他の圧力と温度条件では、Lは固体又は気体として存在しても良い。
【0020】
適切な非極性非プロトン性液体Lは、工程a)の条件下では液体であり、そして触媒、例えば燐リガンド及び/又は遊離リガンドを有するNi(0)錯体、を化学的又は物理的に変化させないか、又は実質的に変化させない全ての化合物である。液体Lとして適切な化合物は、分子内にイオン化可能なプロトンを含んでおらず、そして、通常、相対誘電率が低く(εr<15)、そして電気双極子モーメントが低い(μ<2.5デバイ)ものである。
【0021】
特に適切なものは、例えばハロゲン化されていなくて良く、又ハロゲン化されていて良い炭化水素、及びアミン、特に第3アミン及び二硫化炭素である。
【0022】
好ましい実施の形態では、液体Lは、炭化水素H*である。適切な炭化水素H*は、脂肪族、脂環式、又は芳香族化合物である。適切な脂肪族炭化水素は、例えば、5〜30個、好ましくは5〜16個の炭素原子を有する、直鎖状、又は分岐アルカン、又はアルケン、特にペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、及びドデカン(各場合、全て異性体)である。
【0023】
適切な脂環式炭化水素は、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、及びシクロデカン等、5〜10個の炭素原子を有している。置換された、特にC1-10−アルキル−置換の、メチルシクロヘキサン等の脂環式化合物も適切である。適切な芳香族炭化水素は、6〜20個の炭素原子を有するものが好ましく、特に、ベンゼン、トルエン、o−、m−、及びp−キシレン、ナフタレン及びアントラセンである。置換された、好ましくは、C1-10−アルキル−置換の、エチルベンゼン等の芳香族化合物を使用することも可能である。
【0024】
炭化水素H*は、以下に炭化水素Hのために記載した化合物から選択されることがより好ましい。極めて好ましくは、炭化水素H*は、炭化水素Hと同一であり、すなわち、同一の炭化水素が抽出のため、及び液体Lとして使用される。
【0025】
液体の添加の形態***
通常のミキサー装置内で、非極性非プロトン性液体を反応流出物に加えて良い。この理由は、方法技術工学(process technology)的観点から、特に単純であるからで、工程a)で、攪拌容器内、又はポンプ作動の循環システム内で、非極性非プロトン性液体Lを反応流出物と攪拌することが好ましい。
【0026】
非極性非プロトン性液体を反応流出物と十分に攪拌することが好ましい。適切な攪拌容器は、強力攪拌ミキサー要素及び/又は静的又は動的内部構造が設けられても良い、通常の液体ミキサーである。
【0027】
同様に、ポンプ作動式の循環システムを使用することが好ましい。これは、通常では、ポンプで循環内に搬送する量と、ポンプ作動の循環から排出される量の比が、0.1:1〜1000:1、好ましくは1:1〜100:1、及びより好ましくは2:1〜25:1になるように操作される。適切な循環ポンプは、例えば、ギヤポンプ又は他の通常のポンプである。循環ポンプは、例えば3〜10バール(絶対圧)の定められた圧力で開くオーバーフローバルブに対して作動することが好ましい。
【0028】
工程a)及びb)に、同じ炭化水素が使用される場合、各場合において、新しい炭化水素を両工程に使用することが可能である。工程a)で使用した炭化水素を、工程b)で再使用することも同様に可能であり、又は工程b)で使用した炭化水素を工程a)に再循環させ、そしてそこで再使用することも可能である。
【0029】
極めて好ましい実施の形態では、液体Lは、工程b)で得られた流れII(触媒の含有量が多い炭化水素H、以下参照、乞う)の一部である。このことは、流れIIの一部が工程b)で分岐し、そして分岐した部分が工程a)で反応流出物に加えられることを意味する。この実施の形態では、従って、流れIIの一部が循環される。
【0030】
同様に好ましい、他の実施の形態では、非極性非プロトン性液体Lが、ディレー領域(以下、参照乞う)に、例えば、その初期段階(初めの段階)で直接計量導入される。
【0031】
液体Lは、通常、0〜150℃の温度、好ましくは10〜100℃、及び特に20〜80℃の温度、及び、0.01〜100バール(絶対圧)、好ましくは0.1〜10バール(絶対圧)、及び特に0.5〜5バール(絶対圧)の圧力で加えられる。
【0032】
液体Lの必要とされる量は、広い範囲内で変動して良い。これは、使用する炭化水素H(これを使用して工程b)で抽出が行なわれる)の量よりも通常は少ないが、しかし多くても良い。液体Lの量は、工程b)で抽出のために使用される炭化水素Hの量に対して、好ましくは0.1〜200体積%、特に1〜50体積%、及びより好ましくは5〜30質量%である。
【0033】
特に、抽出(工程b)に供給する前の流れIにおいて、相分離を達成するために十分な量で液体Lを加えることが好ましい。この実施の形態では、2相の流れIが、工程a)の後、及び工程b)の前に、ディレー領域を通して導入される(このことについては、下記を参照)。ディレー領域は、デカンターとして機能し、そして、流れIの2相を互いに分離する。除去された第1の相は、(適切である場合には濃縮された、)反応流出物の成分の主要部分及び抽出されるべき触媒の部分(fraction)を含み、そして、抽出装置に供給される。第1の相に加えて得られた、同様に、除去された第2の相は、炭化水素H(抽出剤)と共に、抽出装置に(通常、他の箇所で)供給される。相の向流とすることが好ましい。この実施の形態では、従って、流れIは、分離した2相として抽出に供給される。
【0034】
同様に、特に好ましい他の実施の形態では、2相流Iは、相の分離を行うことなく、すなわち、両相が共に同一の箇所にて、及び同時に抽出装置内に導入される。これは、炭化水素H(抽出剤)に対して向流状態で行なわれることが好ましい。
【0035】
アンノミア又はアミンでの任意の処理
本発明に従う方法の好ましい実施の形態では、ヒドロシアノ化の反応流出物が、工程a)の前に、又は流れIが、工程a)の間、又は後、又は工程b)の間に、アンモニア、第1、第2、又は第3芳香族又は脂肪族アミンで処理される。芳香族化合物は、アルキル芳香族化合物を含み、そして、脂肪族化合物は、脂環式化合物を含む。
【0036】
このアンモニア又はアミン処理は、抽出の過程(工程b))において、触媒、特にニッケル(0)錯体又はリガンドの(ジニトリルの含有量が多くなる第2の相(流れIII)内での)含有量を低減し得ることが見出された。すなわち、抽出の過程で、二相間でのNi(0)錯体又はリガンドの分散が、第1の相(流れII)の方へシフトすることが見出された。このアンモニア又はアミン処理は、流れII内の触媒エンリッチメントを改良する;このことは、触媒循環内で、触媒の損失を低減し、そして、ヒドロシアノ化の経済面での実施可能性を増加させる。
【0037】
従って、本実施の形態では、抽出の前に、反応流出物又は流れIのアンモニア又はアミンでの処理が行われ、又はこの処理は、抽出の間に行われる。抽出の間の処理は、あまり好ましくはない。
【0038】
アンモニア又はアミンを非極性非プロトン性液体と共に加えることが特に好ましい。特に、液体L及びアンモニア又はアミンが同一の攪拌装置内に加えられる。
【0039】
使用したアミンは、モノアミン、ジアミン、トリアミン、又はより高官能性のアミン(ポリアミン)である。モノアミンは、一般的には、1〜30個の炭素原子を有する、アルキル基、アリール基、又はアリールアルキル基を有し、;適切なモノアミンは、例えば、第1(級)アミン、例えば、モノアルキルアミン、第2、又は第3アミン、例えば、ジアルキルアミンである。適切な第1モノアミンは、例えば、ブチルアミン、シクロヘキサアミン、2−メチルシクロヘキサアミン、3−メチルシクロヘキサアミン、4−メチルシクロヘキサアミン、ベンジルアミン、テトラヒドロフルフリルアミン、及びフルフリルアミンである。有用な第2モノアミンは、例えば、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、及びN−メチルベンジルアミンである。適切な第3アミンは、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、又はトリブチルアミン等の、C1-10−アルキル基を有するトリアルキルアミンである。
【0040】
適切なジアミンは、例えば、式R1−NH−R2−NH−R3(但し、R1、R2、及びR3が、それぞれ、独立して、水素又は1〜20個の炭素原子を有するアルキル基、アリール基、又はアリールアルキル基である)のものである。アルキル基は、直鎖状又は特に、R2のために環状であっても良い。適切なジアミンは、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン(1,2−ジアミノプロパン及び1,3−ジアミノプロパン)、N−メチル−エチレンジアミン、ピペラジン、テトラメチレンジアミン(1,4−ジアミノブタン)、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、1,5−ジアミノペンタン、1,3−ジアミノ−2,2−ジエチルプロパン、1,3−ビス(メチルアミノ)プロパン、ヘキサメチレンジアミン(1,6−ジアミノヘキサン)、1,5−ジアミノ−2−メチルペンタン、3−(プロピルアミノ)プロピルアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン及びイソホロンジアミン(IPDA)である。
【0041】
適切なトリアミン、テトラアミン、又はより高官能性のアミンは、例えば、トリス(2−アミノエチル)アミン、トリス(2−アミノプロピル)アミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、イソプロピレントリアミン、ジプロピレントリアミン、及びN,N’−ビス(3−アミノプロピルエチレンジアミン)である。2個以上のアミノ基を有するアミノベンジルアミン及びアミノヒドラジドも同様に適切である。
【0042】
当然、1種以上のアミンを有するアンモニアの混合物、又は複数種類のアミンの混合物を使用することも可能である。
【0043】
アンモニア又は脂肪族アミン、特にアルキル基に1〜10個の炭素原子を有するトリアルキルアミン、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、又はトリブチルアミン、及びエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のジアミン又は1,5−ジアミノ−2−メチルペンタンも使用することが好ましい。
【0044】
アンモニアのみであることが特に好ましい;換言すれば、アンモニア以外にアミンを使用しないことが特に好ましい。非常に特に好ましくは、無水アンモニアで;この場合、無水とは、水分含有量が1質量%未満、好ましくは1000質量ppm未満、及び特に100質量ppm未満を意味する。
【0045】
アミンのアンモニアに対するモル割合(molar ratio)は、広い範囲内で変動し、そして、通常10000:1〜1:10000である。
【0046】
使用するアンモニア又はアミンの量は、特に、触媒のタイプと量に依存し、例えば、ニッケル(0)触媒及び/又はリガンドのタイプと量に依存し、及び使用される場合には、ヒドロシアノ化で助触媒として使用されるルイス酸のタイプと量に依存する。一般的に、アンモニア又はアミンのルイス酸に対するモル割合は、少なくとも1:1である。このモル割合の上限は、通常、重要ではなく、そして例えば、100:1であるが、しかしながら、アンモニア又はアミンの過剰量は、Ni(0)錯体又はリガンドが分解する程大きくあるべきではない。アンモニア又はアミンのルイス酸に対するモル割合は、好ましくは1:1〜10:1、より好ましくは1.5:1〜5:1であり、及び特に約2.0:1である。アンモニアとアミンの混合物が使用された場合、これらモル割合を、アンモニアとアミンの合計量に適用する。
【0047】
アンモニア又はアミンを使用しての処理における温度は、一般的には重要ではなく、そして、例えば、10〜140℃、好ましくは20〜100℃、及び特に20〜90℃である。圧力も通常、重要ではない。
【0048】
アンモニア又はアミンは、反応流出物に、気体状、液体状(圧力下)で加えられて良く、又は溶媒中に溶解される。適切な溶媒は、例えば、ニトリル、特にヒドロシアノ化中に存在するものであり、及びまた、本発明に従う方法で抽出剤として使用する、脂肪族、脂環式、又は芳香族炭化水素、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ヘプタン又はn−オクタンである。
【0049】
アンモニア又はアミン付加は、通常の装置、例えば、気体導入用の装置内、又は液体ミキサー内で行われる。沈殿する固体は、多くの場合、反応流出物中に残る(すなわち、抽出に懸濁物が供給される)か、又は以下に説明するように除去される。
【0050】
固体の除去(任意のもの)
好ましい実施の形態では、抽出(工程b))の前に、本方法の工程a)で沈殿する固体が、流れIから除去される。
【0051】
多くの場合、このことは、本発明に従う方法の抽出の挙動(性能)を更に改善する。この理由は、発生する固体が、抽出装置の分離性能をしばしば低下させるからである。抽出の前の固体の除去が望ましくないラグ形成をしばしば明確に低減するか、又は完全に抑制することも見出された。
【0052】
固体除去を次のように設定することが好ましい。すなわち、水力学的直径(hydraulic diameter)が5μmを超える、特に1μmを超える、及びより好ましくは100nmを超える固体粒子が除去されるように設定することが好ましい。
【0053】
固体除去のために、通常の方法、例えば、濾過、交流濾過、遠心分離、沈降分離、分級、又は好ましくはデカンテーションを使用することが可能であり、このために、フィルター、遠心機、デカンター等の通常の装置が使用可能である。
【0054】
固体除去における温度と圧力は、一般的には重要ではない。例えば、上述した、又は以下に説明する温度及び圧力内で固体除去を行なうことが可能である。
【0055】
固体除去は、反応流出物又は流れIのアンモニア又はアミンでの任意の処理の前、間、又は後に行なって良い。この除去は、アンモニア又はアミン処理の間又は後に行なうことが好ましく、この後に行なうことがより好ましい。
【0056】
アミン又はアンモニア処理の間又は後に固体が除去される場合、通常、固体は、使用したルイス酸又は反応流出物中に弱溶解性(少ししか溶解しない)の助触媒を有するアンモニア又はアミンの化合物である。例えば、ZnCl2が使用された場合、実質的に弱溶解性ZnCl2・2NH3がアンモニア処理の過程で沈殿する。
【0057】
固体がアンモニア又はアミン処理の前に除去される場合、或いはアンモニア又はアミンでの処理が全くされない場合、通常、固体は、+II酸化状態のニッケル化合物、例えばニッケル(II)シアン化物又は類似したシアン化物−含有ニッケル(II)化合物、又はルイス酸又はこれらの化合物である。上述した化合物は、例えば、沈殿させて良い。この理由は、これらの溶解度は、例えば温度変化によって減少するからである。
【0058】
ディレー領域(任意のもの)
工程a)からの流出物としての流れIは、工程b)に、例えばパイプラインを通して直接的に移される。この場合、直接的とは、パイプライン中の流れIの滞留時間が1分未満であることを意味する。
【0059】
しかしながら、本発明に従う方法の好ましい実施の形態では、流れIは、工程a)の後、及び工程b)の前にディレー領域を通して導入される。従って、ディレー領域は、液体Lの添加の下流及び抽出の上流に設けられる。
【0060】
適切なディレー領域は、例えば、パイプライン、静的ミキサー、攪拌又は非攪拌容器又は容器群(vessel battery)、及びこれら要素の組合せでもある。ディレー領域は、ディレー領域での流れIの平均滞留時間が少なくとも1分、好ましくは少なくとも5分になるように形成され、そして設計される。
【0061】
上述した任意の固体除去も、ディレー領域で行って良い。この場合、ディレー領域は、固体が沈降可能な沈着(calming)領域として作用する。このように、ディレー領域は、デカンター又は交流フィルターとして作用する。固体を運搬及び/又は排出する装置を設けて良い。
【0062】
上述のように、好ましい実施の形態では、非極性非プロトン性液体Lは、ディレー領域に(例えばその開始時点にて)直接的に計量導入される。この実施の形態では、反応流出物と液体Lとの十分な混合を確実に行うようにディレー領域を選択することが特に好ましい。同様に上述したように、ディレー領域が、流れIの相分離を生じさせても良い。
【0063】
ディレー領域は、通常、0〜200℃の温度、好ましくは10〜150℃の温度、及び特に20〜100℃の温度で操作され、そして、0.01〜100バール(絶対圧)、好ましくは0.1〜10バール(絶対圧)、及び特に0.5〜5バール(絶対圧)の圧力で操作される。
【0064】
本発明の好ましい実施の形態では、本発明に従う方法で使用される全てのパイプライン中の流れIの流速は、少なくとも0.5m/秒、特に少なくとも1m/秒、及びより好ましくは少なくとも2m/秒である。
【0065】
工程a)で得られた流れIは、適切な場合には、アンモニア又はアミンでの処理の後、及び/又は固体除去の後、及び/又はディレー領域を通過の後、工程b)で抽出される。
【0066】
工程b):流れIの炭化水素Hでの抽出
工程b)で、工程a)で得られた流れIが、温度Tにて、炭化水素Hで抽出される;この抽出は、触媒の含有量が多い炭化水素を含む流れII及び触媒の含有量が少ない流れIIIを与える。反応流出物と比較して触媒の含有量が多い第1の相(流れII)及び反応流出物と比較してジニトリルの含有量が多い第2の相(流れIII)が形成される。通常、流れIIがより軽い相、すなわち、上部相であり、そして流れIIIがより重い相、すなわち下部相である。
【0067】
相割合に依存して、抽出は、抽出係数を有しており、該抽出係数は、流れII中の触媒(例えば、上述したニッケル(0)錯体及びリガンド)の含有量の、流れIII中の触媒の含有量に対する割合として定義され、抽出係数は、各理論抽出段階で、好ましくは0.1〜10、より好ましくは0.8〜5である。抽出係数によって測定される抽出作用(extractive action)について、遊離リガンドのものは、ニッケル(0)錯体のものと同等であるか又は良好であり、良好であることが好ましい。
【0068】
相分離の後、流れIIは、好ましくは50〜99質量%、より好ましくは60〜97質量%、特に80〜95質量%の、抽出に使用された炭化水素を含む(加えられた非極性非プロトン性液体Lは考慮していない)。
【0069】
適切である場合には、(特に、冒頭に述べた第2のヒドロシアノ化で、)抽出の供給流れ(流れI)中に存在するルイス酸は、好ましくは大部分が、及びより好ましくは全てが下部相(流れIII)内に残る。ここで、「全て(fully)」とは、上部相(流れII)内のルイス酸の残留濃度が、好ましくは1質量%未満、より好ましくは0.5質量%未満、特に500質量ppm未満であることを意味する。
【0070】
炭化水素H
炭化水素は抽出剤である。炭化水素の沸点は、好ましくは少なくとも30℃、より好ましくは少なくとも60℃、特に少なくとも90℃であり、及び好ましくは140℃以下、より好ましくは135℃以下、特に130℃以下で、各場合は、105Pa(絶対圧)においてのものである。
【0071】
特に好ましくは、炭化水素を使用することであり、該炭化水素は、本発明において、個々の炭化水素を示すか、又はアジポニトリルを含む混合物からのアジポニトリルの(特に抽出による)除去用等の炭化水素と触媒(例えばNi(0)を含む)の混合物を示し、上記炭化水素は、90℃〜140℃の範囲に沸点を有している。この触媒は、適切である場合には、炭化水素H(例えば、ペンテンニトリル)よりも沸点が高い適切な溶媒が添加されるが、蒸留による炭化水素除去による(本方法に従う)除去の後に得られる混合物から有利に得られて良い。上述した範囲に沸点を有する炭化水素の使用は、特に経済的に実施可能な、そして技術的に単純(容易)な除去を可能にする。この理由は、蒸留した炭化水素が、脱水(river water)により濃縮(凝縮)されるからである。
【0072】
適切な炭化水素は、例えば、US3773809、カラム3、50〜62行に記載されている。好ましくは、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、異性体ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、2,2,4−トリメチルペンタン等の異性体オクタン、シス−及びトランス−デカリン、又はこれらの混合物、特に、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ヘプタン、異性体ヘプタン、n−オクタン、2,2,4−トリメチルペンタン等の異性体オクタンの混合物、又はこれらの混合物である。シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ヘプタン、又はn−オクタンを使用することが特に好ましい。
【0073】
n−ヘプタン又はn−オクタンが極めて好ましい。これら炭化水素の使用下に、望ましくないラグ形成は特に低くなる。
【0074】
使用される炭化水素は、好ましくは無水であり、ここで無水とは、水分含有量が100質量ppm未満、好ましくは50質量ppm未満、特に10質量ppm未満を意味する。炭化水素は、この技術分野の当業者にとって公知である適切な方法、例えば、吸着、又は共沸点(azeotropic)蒸留で乾燥して良い。乾燥は、本発明に従う方法の前の段階で行って良い。
【0075】
好ましい実施の形態で述べたように、炭化水素Hは、非極性非プロトン性液体Lとしても使用される。
【0076】
抽出の形態
触媒、例えばニッケル(0)錯体又はリガンドの流れIからの抽出は、この技術分野の当業者の適切な如何なる公知の装置ででも行って良く、向流抽出カラム、ミキサー−沈殿装置、又はミキサー−沈殿装置とカラムとの組み合わせで行うことが好ましい。分散要素として、特にシートメタルパッキングを備えた向流抽出カラムを使用することが特に好ましい。更なる特に好ましい実施の形態では、抽出は、区分化された攪拌抽出カラム内の向流内で行われる。
【0077】
分散の傾向に関し、本発明の好ましい実施の形態では、炭化水素Hは、連続相として使用され、そして流れIは、分散相として使用される。このことは、通常、相分離時間を短縮し、そして、ラグ形成を低減させる。しかしながら、逆の分散傾向、すなわち、連続相としての流れI及び分散相としての炭化水素も可能であり、特に、ラグ形成が完全に抑圧され得る場合にはそうである。一般的に、抽出装置の分離性能にとってより好ましい分散傾向が選択される。
【0078】
抽出において、加えられた炭化水素Hの質量の、流れIの質量に対する割合としてそれぞれ計算して、好ましくは0.1〜10、より好ましくは0.4〜2.5、特に0.75〜1.5の相割合が使用される。
【0079】
抽出の間の絶対圧は、好ましくは、10kPa〜1MPa、より好ましくは50kPa〜0.5MPa、特に75kPa〜0.25MPa(絶対圧)である。
【0080】
抽出は、−15℃〜120℃の温度で行われることが好ましく、特に20〜100℃、及びより好ましくは30〜80℃である。抽出の温度が高いとラグ形成が低くなることがわかった。
【0081】
特に好ましい実施の形態では、抽出は温度プロフィールを使用して操作される。特にこの場合、抽出温度が少なくとも60℃、好ましくは60〜95℃、及びより好ましくは少なくとも70℃で操作が行われる。
【0082】
温度プロフィールは、好ましくは、次のように形成されることが好ましい。すなわち、触媒例えば、燐リガンド及び/又は遊離リガンドを有するニッケル(0)錯体の含有量が、他の領域よりも高い抽出の領域において、温度が他の領域よりも低くなるように形成されることが好ましい。このようにして、熱的に不安定なNi(0)錯体が、より熱的な負荷を受けず、そしてその分解が低減される。
【0083】
例えば、抽出カラムが抽出のために使用され、そして温度プロフィールが用いられた場合、最も低い温度がカラムの頂部に設定され、そして最も高い温度がカラムの底部に設定される。カラムの頂部と底部の温度差は、例えば、0〜30℃、好ましくは10〜30℃であり、そして特に20〜30℃である。
【0084】
特に好ましい実施の形態では、流れIが抽出の前に温度T*に調節され、該温度T*は、抽出が行なわれる温度Tよりも少なくとも5℃低く、特に少なくとも10℃低く、及びより好ましくは少なくとも20℃低い。流れIの代わりに、反応流出物(反応流出物が工程a)の前のもであっても良い)又は、加えられるべき非極性非プロトン性液体Lを、上述したT*に調節することも可能である。従って、実際に流れIを冷却することによってではなく、しかし、その成分(反応流出物又は液体L)の一方又は両方を冷却することにより、流れIの有利な冷却が事前に行われても良い。
【0085】
従って、この方法では、3種(3部分)の流れ、反応流出物、非極性非プロトン性液体L及び流れIの少なくとも1種が、(温度Tよりも少なくとも5℃低く、特に少なくとも10℃低く、及びより好ましくは少なくとも20℃低い)温度T*に調節されることが好ましい。温度差ΔT=T−T*が、これにより、抽出工程b)での固体の沈降が防止されるものであることが特に好ましい。
【0086】
ある場合では、低い温度T*に冷却後、反応流出物、液体L、又は流れIを、抽出を行う前に再度、例えば温度Tに加熱することが有利であって良い。
【0087】
相分離の形態
相分離は、装置の構成に応じて、空間的、時間的に、抽出の最終部分として考えることもできる。相分離のために、通常、広い圧力範囲、濃度範囲、及び温度範囲が選択されて良く、そして、反応混合物の特定の組成のための最適なパラメーターが、いくつかの単純な予備実験により容易に決定され得る。
【0088】
相分離における温度は、一般的には、少なくとも0℃、好ましくは少なくとも10℃、より好ましくは少なくとも20℃である。この温度は、一般的には、120℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下である。例えば、相分離は、0〜100℃、好ましくは60〜95℃で行なわれる。相分離で温度が高い程、ラグ形成が低くなることがわかった。
【0089】
相分離における圧力は、通常、少なくとも1kPa、好ましくは少なくとも10kPa、より好ましくは20kPaである。通常、相分離における圧力は、2MPa以下、好ましくは1MPa以下、より好ましくは0.5MPa(絶対圧)以下である。
【0090】
相分離時間、すなわち、流れIと炭化水素H(抽出剤)との混合から均一な上部相と均一な下部相の形成までの継続時間は、広い範囲で変動する。相分離時間は、通常、0.1〜60分、好ましくは1〜30分及び特に2〜10分である。本発明に従う方法が工業的規模で行なわれる場合、相分離の最長時間を15分、特に10分とすることが、一般的に、技術的に及び経済的に適切(sensible)である。
【0091】
特に、炭化水素Hとしてn−ヘプタン又はn−オクタン等の長鎖脂肪族アルカンが使用された場合、相分離時間が有利な方法で低減されることがわかった。
【0092】
相分離は、このような相分離の技術分野の当業者にとって公知である、1台以上の装置内で行って良い。有利な実施の形態では、抽出装置、例えば、ミキサー−沈殿装置を1台以上組合せて、又は沈着(calming)領域を有する抽出カラムを設けることにより、この相分離を行って良い。
【0093】
相分離において、液体の2相が得られ、この内の1相(流れII)は、触媒、例えば燐リガンド及び/又は遊離リガンドを有するニッケル(0)錯体を、(この相の合計質量に基づいて)他方の相(流れIII)よりも多い割合で有している。
【0094】
ニッケル(0)錯体及びリガンド
触媒として使用することが好ましく、そして燐リガンド及び/又は遊離リガンドを含むニッケル(0)錯体は、均一に溶解したニッケル(0)錯体であることが好ましい。
【0095】
本発明に従う抽出により除去される、ニッケル(0)錯体の燐リガンド及び遊離リガンドは、単一座−又は2座のホスフィン、ホスファイト、ホスフィナイト及びホスホナイトから選択されることが好ましい。
【0096】
これら燐リガンドは、式I、
P(X11)(X22)(X33) (I)
を有することが好ましい。
【0097】
本発明において、化合物Iは、単一化合物、又は上述した式の異なる化合物の混合物である。
【0098】
本発明に従えば、X1、X2、X3は、それぞれ独立して、酸素、又は単一結合である。X1、X2、及びX3基の全てが単一結合の場合、化合物Iは、式P(R123)(但し、R1、R2、及びR3が、この説明において定義されたものである)のホスフィンである。
【0099】
1、X2、及びX3基の2個が単一結合であり、そして1個が酸素の場合、化合物Iは、式P(OR1)(R2)(R3)又はP(R1)(OR2)(R3)又はP(R1)(R2)(OR3)(但し、R1、R2、及びR3が、以下に定義されたものである)のホスフィナイトである。
【0100】
1、X2、及びX3基の1個が単一結合であり、そして2個が酸素の場合、化合物Iは、式P(OR1)(OR2)(R3)又はP(R1)(OR2)(OR3)又はP(OR1)(R2)(OR3)(但し、R1、R2、及びR3が、この説明(本願明細書)において定義されたものである)のホスホナイトである。
【0101】
好ましい実施の形態では、X1、X2、及びX3基の全てが酸素であるべきで、従って、化合物Iは、式P(OR1)(OR2)(OR3)(但し、R1、R2、及びR3が、以下に定義されたものである)のホスファイト(亜燐酸塩)であることが有利である。
【0102】
本発明に従えば、R1、R2、R3は、それぞれ独立して同一又は異なる有機基である。R1、R2、及びR3は、それぞれ独立して、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル等の1〜10個の炭素原子を有することが好ましいアルキル基、フェニル、o−トリル、m−トリル、p−トリル、1−ナフチル、2−ナフチル等のアリール基、又は、1,1’−ビフェノール、1,1’−ナフチル等の1〜20個の炭素原子を有していることが好ましいヒドロカルビルである。R1、R2、及びR3基は、共に直接的に結合(すなわち、単に中心燐原子を介して結合しているのではない)していても良い。R1、R2、及びR3基が、共に直接的に結合していないことが好ましい。
【0103】
好ましい実施の形態では、R1、R2、及びR3基は、フェニル、o−トリル、m−トリル、及びp−トリルからなる群から選ばれる基である。特に好ましい実施の形態では、R1、R2、及びR3基の最大2個がフェニル基であるべきである。
【0104】
他の好ましい実施の形態では、R1、R2、及びR3基の最大2個がo−トリル基であるべきである。
【0105】
使用して良い特に好ましい化合物Iは、式Ia、
(o−トリル−O−)w(m−トリル−O−)x(p−トリル−O)y(フェニル−O−)zP (Ia)
(但し、w、x、y及びzが、それぞれ自然数であり、且つw+x+y+z=3、及びw、z≦2である)
のものである。
【0106】
このような化合物1aは、例えば、(p−トリル−O−)(フェニル−O−)2P、(m−トリル−O−)(フェニル−O−)2P、(o−トリル−O−)(フェニル−O−)2P、(p−トリル−O−)2(フェニル−O−)P、(m−トリル−O−)2(フェニル−O−)P、(o−トリル−O−)2(フェニル−O−)P、(m−トリル−O−)(p−トリル−O−)(フェニル−O−)P、(o−トリル−O−)(p−トリル−O−)(フェニル−O−)P、(o−トリル−O−)(m−トリル−O−)(フェニル−O−)P、(p−トリル−O−)3P、(m−トリル−O−)(p−トリル−O−)2P、(o−トリル−O−)(p−トリル−O−)2P、(m−トリル−O−)2(p−トリル−O−)P、(o−トリル−O−)2(p−トリル−O−)P、(o−トリル−O−)(m−トリル−O−)(p−トリル−O−)P、(m−トリル−O−)3P、(o−トリル−O−)(m−トリル−O−)2P、(o−トリル−O−)2(m−トリル−O−)P、又はこのような化合物の混合物である。
【0107】
例えば、(m−トリル−O−)3P、(m−トリル−O−)2(p−トリル−O−)P、(m−トリル−O−)(p−トリル−O−)2P、及び(p−トリル−O−)3Pを含む混合物が、粗製オイルの蒸留処理で得られるようなm−クレソール及びp−クレソール(特に2:1のモル割合で含む混合物)を、燐トリクロリド等の燐トリハロゲン化物と反応させることにより得られて良い。
【0108】
他の、同様に好ましい実施の形態では、燐リガンドは、DE−A19953058に詳細に記載されている式Ib、
P(O−R1x(O−R2y(O−R3z(O−R4p (Ib)
(但し、
1が、燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してo−位にC1−C18−アルキル置換基を有する芳香族基、又は、燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してo−位に芳香族置換基を有する芳香族基、又は、燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子へのo−位に縮合した芳香族系(fused aromatic system)を有する芳香族基であり、
2が、燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してm−位にC1−C18−アルキル置換基を有する芳香族基、又は燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してm−位に芳香族置換基を有する芳香族基、又は燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してm−位に縮合した芳香族系を有する芳香族基、燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してo−位に水素原子を帯びた芳香族基であり、
3が、燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してp−位にC1−C18−アルキル置換基を有する芳香族基、又は燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してp−位に芳香族置換基を有する芳香族基、又は、燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してo−位に水素原子を帯びた芳香族基であり、
4が、燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してo−、m−、及びp−位にR1、R2、及びR3のために定義した置換基以外の置換基を帯びた芳香族基、燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してo−位に水素原子を帯びた芳香族基であり、
xが、1又は2であり、
y、z、pが、それぞれ独立して0、1又は2であり、且つx+y+z+p=3である。)
のホスファイトである。
【0109】
式Ibの好ましいホスファイトは、DE−A19953058に記載されている。R1基は、o−トリル、o−エチルフェニル、o−n−プロピルフェニル、o−イソプロピルフェニル、o−n−ブチルフェニル、o−sec−ブチルフェニル、o−tert−ブチルフェニル、(o−フェニル)フェニル又は1−ナフチル基であることが有利であって良い。
【0110】
好ましいR2基は、m−トリル、m−エチルフェニル、m−n−プロピルフェニル、m−イソプロピルフェニル、m−n−ブチルフェニル、m−sec−ブチルフェニル、m−tert−ブチルフェニル、(m−フェニル)フェニル又は2−ナフチル基である。
【0111】
有利なR3基は、p−トリル、p−エチルフェニル、p−n−プロピルフェニル、p−イソプロピルフェニル、p−n−ブチルフェニル、p−sec−ブチルフェニル、p−tert−ブチルフェニル、又は(p−フェニル)フェニル基である。
【0112】
4基は、フェニルであることが好ましい。pは、ゼロであることが好ましい。化合物Ibにおける指数(インデックス)x、y、z及びpのために、以下のものが可能である。
【0113】
【表1】

【0114】
式Ibの好ましいホスファイトは、pがゼロであり、そしてR1、R2、及びR3が、それぞれ独立してo−イソプロピルフェニル、m−トリル、及びp−トリルから選ばれ、そしてR4が、フェニルのものである。
【0115】
式Ibの特に好ましいホスファイトは、R1がo−イソプロピルフェニル基であり、R2がm−トリル基であり、そしてR3が、p−トリル基であり、指数が上記表に記載されたものであり;また、R1がo−トリル基であり、R2がm−トリル基であり、そしてR3が、p−トリル基であり、指数が表に記載されたものであり;追加的に、R1が1−ナフチル基であり、R2がm−トリル基であり、そしてR3が、p−トリル基であり、指数が表に記載されたものであり;また、R1がo−トリル基であり、R2が2−ナフチル基であり、そしてR3が、p−トリル基であり、指数が表に記載されたものであり;そして、最後に、R1がo−イソプロピルフェニル基であり、R2が2−ナフチル基であり、そしてR3が、p−トリル基であり、指数が表に記載されたものであり;そして、これらホスファイトの混合物でもある。
【0116】
式Ibのホスファイトは、
a)燐トリハロゲン化物を、R1OH、R2OH、R3OH、及びR4OH、又はこれらの混合物から成る群から選ばれるアルコールと反応させ、ジハロホスホラスモノエステルを得、
b)上述したジハロホスホラスモノエステルを、R1OH、R2OH、R3OH、及びR4OH、又はこれらの混合物から成る群から選ばれるアルコールと反応させ、モノハロホスホラスジエステルを得、及び、
c)上述したモノハロホスホラスジエステルを、R1OH、R2OH、R3OH、及びR4OH、又はこれらの混合物から成る群から選ばれるアルコールと反応させ、式Ibのホスファイトを得る、
ことによって得られて良い。
【0117】
反応は、別個の3工程で行われて良い。同様に、3工程の内の2工程が結合されて良く、すなわち、a)とb)、又はb)とc)が結合されて良い。この代わりに、a)、b)及びc)の全てが一緒に結合されて良い。
【0118】
適切なパラメータとR1OH、R2OH、R3OH、及びR4OH、又はこれらの混合物から成る群から選ばれるアルコールの量は、いくつかの単純な予備試験により容易に決定されて良い。
【0119】
有用な燐トリハロゲン化物は、原則として、全ての燐トリハロゲン化物であり、好ましくは、使用するハロゲン化物が、Cl、Br、I、特にClのもの、及びこれらの混合物である。同様に、又は異なってハロゲン置換された、異なるホスフィンの混合物を燐トリハロゲン化物として使用することも可能である。特に好ましくは、PCl3である。ホスファイトIbの製造及び処理のための反応条件の更なる詳細は、DE−A19953058に記載されている。
【0120】
ホスファイトIbは、リガンドとして、異なるホスファイトIbの混合物の状態で使用しても良い。このような混合物は、例えば、ホスファイトIbの製造で得られる。
【0121】
しかしながら、燐リガンンドが多座、特に二座であることが好ましい。従って、使用するリガンドは、好ましくは、式II、
【0122】
【化1】

【0123】
(但し、
11、X12、X13、X21、X22、X23が、それぞれ独立して酸素又は単一結合であり、
11、R12が、それぞれ独立して同一又は異なり、個々の又は橋状結合(ブリッジ)した有機基であり、
21、R22が、それぞれ独立して同一又は異なり、個々の(分離)又は橋状結合した有機基であり、
Yが、橋状結合基である。)
を有している。
【0124】
本発明において、化合物IIは、上述した式の単一化合物又は異なる化合物の混合物であって良い。
【0125】
好ましい実施の形態では、X11、X12、X13、X21、X22、X23が、それぞれ酸素である。この場合、橋状結合基Yは、ホスファイト基に結合している。
【0126】
他の好ましい実施の形態では、X11及びX12はそれぞれ酸素であり、そしてX13は、単一結合であり、又は、X11及びX13はそれぞれ酸素であり、そしてX12は、単一結合であり、従って、X11、X12及びX13によって囲まれた燐原子は、ホスホナイトの中心原子である。この場合、X21、X22及びX23はそれぞれ酸素であるか、又はX21とX22がそれぞれ酸素で、及びX23は単一結合であるか、又はX21とX23がそれぞれ酸素で、及びX22は単一結合であるか、又はX23が酸素で、及びX21とX22はそれぞれ単一結合であるか、又はX21が酸素で、X22とX23はそれぞれ単一結合であるか、又はX21、X22及びX23はそれぞれ単一結合で良く、従って、X21、X22及びX23によって囲まれた燐は、ホスファイト、ホスホナイト、ホスフィナイト、又はホスフィン、好ましくはホスホナイトの中心原子であって良い。
【0127】
他の好ましい実施の形態では、X13は酸素で良く、そしてX11及びX12は、それぞれ単一結合で良く、又はX11は酸素で良く、そしてX12及びX13は、それぞれ単一結合で良く、従って、X11、X12及びX13によって囲まれた燐原子は、ホスホナイトの中心原子である。この場合、X21、X22及びX23はそれぞれ酸素で良く、又はX23は酸素で良く、そしてX21とX22は、それぞれ単一結合で良く、又はX21は酸素で良く、そしてX22とX23は、それぞれ単一結合で良く、又はX21、X22及びX23はそれぞれ単一結合で良く、従って、X21、X22及びX23に囲まれた燐原子は、ホスファイト、ホスフィナイト、又はホスフィン、好ましくはホスフィナイトの中心原子である。
【0128】
他の好ましい実施の形態では、X11、X12及びX13は、それぞれ単一結合で良く、従って、X11、X12及びX13によって囲まれた燐原子は、ホスフィンの中心原子である。この場合、X21、X22及びX23は、それぞれ酸素で良く、又はX21、X22及びX23は、それぞれ単一結合で良く、従って、X21、X22及びX23によって囲まれた燐原子は、ホスファイト、又はホスフィン、好ましくはホスフィンの中心原子であって良い。橋状結合基Yは、好ましくは、例えば、C1−C4−アルキル、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン、トリフルオロメチル等のハトゲン化アルキル、フェニル等のアリールで置換されたアリール基、又は無置換のアリール基、好ましくは、芳香族系内に好ましくは6〜20個の炭素原子を有する基、特にピロカテコール、ビス(フェノール)又はビス(ナフトール)である。
【0129】
11及びR12基は、それぞれ、独立して同一又は異なる有機基である。有利なR11及びR12基は、アリール基、好ましくは、6〜10個の炭素原子を有するもので、無置換であって良く、又は単一置換又は多置換されて良く、特に、C1−C4−アルキル、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン、トリフルオロメチル等のハロゲン化アルキル、フェニル等のアリールによって単一置換又は多置換されて良く、又は無置換のアリール基である。
【0130】
21及びR22基は、それぞれ独立して同一又は異なる有機基で良い。有利なR21及びR22基は、アリール基、好ましくは、6〜10個の炭素原子を有し、無置換であって良く、又は単一置換又は多置換されて良く、特に、C1−C4−アルキル、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン、トリフルオロメチル等のハロゲン化アルキル、フェニル等のアリールで単一置換又は多置換されて良く、又は無置換のアリール基である。
【0131】
11及びR12基は、それぞれ個々のもの又は橋状結合していて良い。R21及びR22基も、それぞれ個々のもの又は橋状結合していて良い。R11、R12、R21及びR22基は、それぞれ上述のように個々の状態(分離状態)で良く、2個が橋状結合し、2個が個々の状態で良く、4個の全てが橋状結合していて良い。
【0132】
特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5723641に記載された式I、II、III、IV及びVである。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5512696に記載された式I、II、III、IV、V、VI及びVIIであり、特に、実施例1〜31で使用された化合物である。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5821378に記載された式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV、及びXVのものであり、特に実施例1〜73で使用された化合物である。
【0133】
特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5512695に記載された式I、II、III、IV、V及びVIのものであり、特に実施例1〜6で使用された化合物である。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5981772に記載された式I、II、III、IV、V、VI、VIII、IX、X、XI、XII、XIII及びXIVのものであり、特に実施例1〜66に使用された化合物である。
【0134】
特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US6127567に記載されたものであり、及び実施例1〜29で使用された化合物である。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US6020516に記載された式I、II、III、IV、VI、VII、VIII、IX及びXのものであり、特に実施例1〜33で使用された化合物である。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5959135に記載されたものであり、及び実施例1〜13で使用された化合物である。
【0135】
特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5847191に記載された、式I、II、及びIIIものである。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5523453に記載されたもので、特に式1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20及び21にて記載された化合物である。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、WO01/14392に記載されたもので,特に該文献中で、式V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV、XV、XVI、XVII、XXI、XXII、XXIIIで説明された化合物である。
【0136】
特に好ましい実施の形態では、有用な化合物はWO98/27054に記載されたものである。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物はWO99/13983に記載されたものである。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物はWO99/64155に記載されたものである。
【0137】
特に好ましい実施の形態では、有用な化合物はドイツ特許出願DE10038037に記載されたものである。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物はドイツ特許出願DE10046025に記載されたものである。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物はドイツ特許出願DE10150285に記載されたものである。
【0138】
特に好ましい実施の形態では、有用な化合物はドイツ特許出願DE10150286に記載されたものである。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物はドイツ特許出願DE10207165に記載されたものである。本発明の更なる特に好ましい実施の形態では、有用な燐キレートリガンドは、US2003/0100442A1に記載されたものである。
【0139】
本発明の更なる特に好ましい実施の形態では、有用な燐キレートリガンドは、10.30.2003のドイツ特許出願DE10350999.2に記載されたもので、該文献は本出願の優先日の時点では公開されていない。
【0140】
上述した化合物I、Ia、Ib及びII及びこれらの製造方法は、それ自体は公知である。使用する燐リガンドは、化合物I、Ia、Ib及びIIの少なくとも2種類を含む混合物であっても良い。
【0141】
本発明に従う方法の特に好ましい実施の形態では、ニッケル(0)錯体の燐リガンド及び/又は遊離リガンドは、トリトリルホスファイト、二座の燐キレートリガンド、及び式Ib、
P(O−R1x(O−R2y(O−R3z(O−R4p (Ib)
(但し、R1、R2、及びR3が、それぞれ、o−イソプロピルフェニル、m−トリル及びp−トリルから選ばれ、R4がフェニルであり、xが1又は2であり、及びy、z、pがそれぞれ独立して0、1又は2で、且つx+y+z+p=3である。)
のホスファイト、及びこれらの混合物から選ばれる。
【0142】
ルイス酸又は助触媒
本発明において、ルイス酸は、単一ルイス酸であるか、又は他に、複数、例えば2種、3種又は4種のルイス酸の混合物である。
【0143】
有用なルイス酸は、カチオンがスカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、銅、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カドミウム、レニウム及び錫から成る群から選ばれる無機又は有機金属化合物である。例は、例えば、US6127567、US6171996及びUS6380421に記載されているような、BnBr2、ZnI2、ZnCl2、ZnSO4、CuCl2、CuCl、Cu(O3SCF32、CoCl2、CoI2、FeI2、FeCl3、FeCl2(THF)2、TiCl4(THF)2、TiCl4、TiCl4、TiCl3、ClTi(O−イソプロピル)3、MnCl2、ScCl3、AlCl3、(C817)AlCl2、(C8172AlCl、(i−C492AlCl、(C652AlCl、(C652AlCl2、ReCl5、ZrCl4、NbCl5、VCl3、CrCl2、MoCl5、YCl3、CdCl2、LaCl3、Er(O3SCF33、Yb(O2CCF33、SmCl3、B(C653、TaCl5を含む。同様に、有用なものは、ZnCl2、CoI2、及びSnCl2等の金属塩、及びRAlCl2、R2AlCl、RSnO3SCF3及びR3B(但し、Rが、例えばUS3496217、US3496218及びUS4774353に記載されているように、アルキル又はアリール基である。)等の有機金属化合物である。
【0144】
US3773809に従い、使用する助触媒は、亜鉛、カドミウム、ベリリウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、エルビウム、ゲルマニウム、錫、バナジウム、ニオブ、スカンジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、パラジウム、トリウム、鉄、及びコバルト、好ましくは、亜鉛、カドミウム、チタン、錫、クロム、鉄及びコバルトから選ばれるカチオン性状態の金属であっても良く、そして、化合物のアニオン性の部分(moiety)は、フルオリド、クロリド、ブロマイド、及びアイオダイド等のハロゲン化物、2〜7個の炭素原子を有する低級脂肪酸のアニオン、HPO32-、H3PO2-、CF3COO-、C715OSO2-又はSO42-から成る群から選ばれて良い。US3773809に開示された別の適切な助触媒は、ボロヒドリド、有機ボロヒドリド、及び式R3B及びB(OR)3(但し、Rが、水素、6〜18個の炭素原子を有するアリール、1〜7個の炭素原子を有するアルキル基によって置換されたアリール基、及び1〜7個の炭素原子を有するシアノ置換されたアルキル基によって置換されたアリール基から選ばれ、有利なものはトリフェニルボロンである。)のホウ素エステルである。
【0145】
更に、US4874884に記載されているように、触媒組成物(catalyst system)の活性を高めるために、ルイス酸の相乗的な活性の組合せを使用することも可能である。適切な助触媒は、例えば、CdCl2、FeCl2、ZnCl2、B(C653及びSnX(但し、X=CF3SO3、CH364SO3、又は(C653BCN)から成る群から選ばれ、そして上記助触媒のニッケルに対する好ましい割合は、約1:16〜約50:1である。
【0146】
本発明において、ルイス酸という用語は、US3496217、US3496218、US4774353、US4874884、US6127567、US6171996及びUS6380421に記載された助触媒も含む。
【0147】
これら上述したものの中で特に好ましいルイス酸は、特に金属塩、より好ましくはフルオリド、クロリド、ブロマイド、アイオダイド(ヨー化物)等の金属ハロゲン化物で、特に好ましくは、順に、亜鉛、クロリド、鉄(II)クロリド及び鉄(III)クロリドのものである。
【0148】
本発明に従う発明は、望ましくないラグ形成を明確に低減するか、完全に防止する。抽出装置は、ラグであふれる(漏れ出る)ことがなく、長期間にわたっても問題なく操作することができる。炭化水素相(流れII)内の触媒の回収は、従来技術の方法と同様に良好である。
【0149】
任意のアンモニア又はアミンでの処理、任意の個体除去、及び任意のディレー領域は、本方法を更に最適化し、ラグ形成を更に低減し、そして抽出の分離性能を適合させる。
【0150】
実施例
使用した非極性非プロトン性液体L及び炭化水素H(抽出剤)は、n−ヘプタンであった。
【0151】
ペンテンニトリルの炭化水素のアジポニトリルへのヒドロシアノ化の(使用した)反応流出物は、以下の組成を有していた。
−29.5質量%のC6ジニトリル:特に、アジポニトリル、2−メチルグルタロニトリル、エチルスシノニトリル、
−51.3質量%のC5モノニトリル:主にトランス−3−ペンテンニトリル、及びまた、更なる直鎖状ペンテンニトリル異性体、及び、
−19.2質量%の触媒組成物:特に、Ni(0)−トリトリルホスファイト錯体、遊離トリトリルホスファイトリガンド、塩化亜鉛、及び触媒とトリトリルホスファイトの分解生成物。
【0152】
本発明にかかるものではない実施例A:抽出の前にヘプタンを加えない
78kg/hの質量流で得られた反応流出物を、ポンプ作動の循環が備えられた容器内で、5ミリバールの絶対圧で蒸留することにより38kg/h〜40kg/hの範囲に濃縮した。以下の組成:
− 57.5質量%のC6ジニトリル、
− 5質量%のC5モノニトリル、及び、
− 37.5質量%の触媒成分、
の濃縮流出物が得られた。
【0153】
この濃縮された流出物を、向流抽出カラム内の向流にて、120kg/hのn−ヘプタンで抽出した。このカラムは、7段の理論段を含むシートメタルパッキングを有し、そして内径が100mmであった。分散傾向は、n−ヘプタンが連続相となるように選択した。入口温度が70℃の温水で加熱されたジャケットでカラムを加熱した。
【0154】
カラムは、相当量のラグ形成を示し、そして、約17時間の操作時間の後、ラグで完全に満たされた。この方法では、もはや操作できなくなったので抽出を終了した。
【0155】
本発明にかかる実施例1:抽出の前にヘプタンを添加
反応流出物を、実施例Aで記載したように濃縮した。濃縮された流出物(組成については、実施例A参照)を、ポンプ作動のサーキット内で20kg/hのn−ヘプタンと混合した。ポンプ作動のサーキットは、内径が15mmで約10mのパイプ、及び(5バールゲージで開くオーバーフローバルブに対して作動する)循環ポンプとしてのギアポンプで構成されていた。ポンプは500l/hの体積流速で搬送した。
【0156】
ポンプ作動のサーキットから排出された後、得られた流れIを、50lのガラス容器(ディレー領域としてのもの)に通した。ガラス容器のオーバーフローから、流れIが排出され、そして、抽出カラムの下端部に供給された。抽出カラムとその操作条件は、100kg/hのn−ヘプタンがカラムの頂部にて供給されたこと以外は、実施例Aと同様であった。
【0157】
11日間の操作時間の後であっても、カラムはラグ形成を示さず、そして、中断することなく操作可能であった。ヘプタン相(流れII)及びニトリル相(流れIII)が取り出された。
【0158】
抽出の効率を評価するために、ヘプタン相とニトリル相を、Ni(0)のために循環ボルタ計を使用し、及び燐のために原子吸収分光器を使用して解析した。ヘプタン相は、抽出の供給から、99.4%のNi(0)及び99.2%の燐を含み、ニトリル相には、Ni(0)が検出できず、そして0.7%の燐が検出できた。
【0159】
実施例は、本発明に従う方法では、望ましくないラグ形成が完全に存在しなかったことを示した。同時に、抽出の効率は低下しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和モノニトリルのジニトリルへのヒドロシアノ化の反応流出物から、均質に溶解した触媒を、炭化水素Hを使用した抽出により抽出除去する方法であって、
a)非極性非プロトン液体Lを反応流出物に加え、流れIを得る工程、及び、
b)炭化水素Hを使用し、温度Tで流れIを抽出し、触媒含有量が多い炭化水素Hを含む流れII、及び触媒含有量が少ない流れIIIを得る工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
触媒が、燐リガンド及び/又は遊離燐リガンドを有するニッケル(0)錯体であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
モノニトリルが、3−ペンテンニトリルであり、及びジニトリルがアジポニトリルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
燐リガンドを有する少なくとも1種のニッケル(0)の存在下に、及び所望により、少なくとも1種のルイス酸の存在下に、3−ペンテンニトリルをシアン化水素と反応させることにより、反応流出物が得られることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
使用する炭化水素Hが、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ペンタン、又はn−オクタンであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
非極性非プロトン性液体Lが、炭化水素H*であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
炭化水素H*が、炭化水素Hと同一であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
非極性非プロトン性液体Lが、工程a)で、攪拌容器又はポンプ作動の循環システム内で反応流出物と混合されることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
非極性非プロトン溶液Lが、流れIIの一部であることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
反応流出物が、アンモニア又は第1、第2又は第3芳香族又は脂肪族アミンで、工程a)の前で処理されるか、又は流れIが、工程a)の間、又は後、又は工程b)の間に処理されることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
アンモニア又はアミンが非極性非プロトン性液体Lと一緒に加えられることを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程a)で沈殿した固体が、工程b)の前に流れIから除去されることを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
流れIが、工程a)の後であって工程b)の前にディレー領域を通して導入されることを特徴とする請求項1〜12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
ディレー領域中の流れIの平均滞留時間が少なくとも1分であることを特徴とする請求項1〜13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
工程中に使用される全パイプライン中の流れIの流速が、少なくとも2m/秒であることを特徴とする請求項1〜14の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
反応流出物、非極性非プロトン性液体L、及び流れIの3種の流れの内、少なくとも1種が、温度Tよりも少なくとも5℃低い温度T*に調整されることを特徴とする請求項1〜15の何れか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2008−516907(P2008−516907A)
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−536077(P2007−536077)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【国際出願番号】PCT/EP2005/010956
【国際公開番号】WO2006/042675
【国際公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】