説明

ラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物、及びそれを用いてなるフィルム

【課題】ハードコートを行ってもカールや割れの問題がなく、可撓性と表面硬度の両方を満足できるラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物およびそれから得られるフィルムの提供。
【解決手段】(1)(A)ビス(2−オキサゾリン)化合物と、(B)オキサゾリン基と反応する官能基と不飽和基の両方を分子内に有する化合物とを予め反応させてなる硬化性化合物、(2)前記(1)と共重合性を有し且つ複素環基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシル基、及びカルボキシル基の内少なくともいずれか1つを有する重合性モノマー、および(3)前記(1)と共重合性を有し且つホモポリマーのTgが−20℃以下である重合性モノマーを、(1)が100質量部に対して、(2)を20〜120質量部、(3)を5〜15質量部の比率で、かつ前記(1)〜(3)の合計で95質量%以上含むことを特徴とするラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物、及びそれから得られるフィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物、及びそれを用いてなるフィルム関し、とりわけ可撓性とハードコート性を有するフィルムに適した樹脂組成物、及びそれを用いて得られるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス産業を先頭として近年の技術革新はまことに目覚ましいものがあり、これを支える材料技術もまた長足の進歩を遂げてきている。材料の一翼を担う高分子材料の開発についても例外ではなく、新規あるいは高性能の高分子材料が新たに多数登場してきて、それぞれの地歩を固めつつある。
エレクトロニクス分野において高分子材料に求められる主要な特性は、成形性、耐熱性、耐久性、電気特性、耐蝕性等であり、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等に代表される熱硬化性フィルム用樹脂や、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキサイド等に代表される各種エンジニアリングプラスチック等が重用されている。中でも、耐熱性と強度とが併せ要求される用途ではポリイミドが専ら重用されているが、その加工性には難点が多く、用途が限定的であるため量産効果が得られず、それがまた材料のコストを一段と押し上げる要因となっている。ポリイミドはこの他に耐薬品性や耐溶剤性にも弱点を有し、また透明性の点では本質的な問題点を抱えている。
【0003】
一方、成長著しいオプトエレクトロニクス分野においては、可撓性、透明性、耐熱性、低複屈折性等が併せて要求されることが多い。ポリカーボネート、メタクリル樹脂、三酢酸セルロース、シクロオレフィンポリマー等のプラスチック材料が加工性、軽量性、耐衝撃性などに優れることからガラス製品と置き換わりつつあるが、プラスチック製品は表面が柔らかく傷つき易いという欠点を有している。
このため、プラスチック材料の表面硬度を改良し、耐擦傷性を付与する試みがなされている。
例えば、特許文献1には紫外線硬化型アクリレート系ハードコート塗料が提案され、特許文献2にはエポキシ樹脂等を芳香族スルフォニウム塩等の存在下で紫外線硬化するカチオン重合型紫外線硬化性ハードコート塗料にて表面を被覆する方法が、特許文献3には、プライマー層、及び金属酸化物粒子とシラン化合物の硬化体とからなるハードコート層を順次積層させる方法が提案されている。
このように、熱可塑性樹脂フィルムにおいては傷防止のためにはハードコート層を設ける必要があり、事実上工程が増えることになる。また、その際にはハードコート層の収縮による基材の反りや、ハードコート層自身が割れてしまうという問題もしばしばあった。
【0004】
ラジカル硬化性フィルム用樹脂系のプラスチック材料としては、例えば、特許文献4にあるように、ビニルエステル樹脂とホモポリマーのTgが異なる複数のモノマーを複合した系が提案されている。
この系で作製されたフィルムは、可撓性、透明性、低複屈折性では優れた特性が得られているものの、耐擦傷性を必要とする部分に使用するには表面硬度が足りないため、熱可塑性フィルムと同様に、表面を保護するためにハードコート層を設ける必要があり、コスト上、工程上でもメリットがない。一般的にラジカル硬化系では可撓性と表面硬度は相反する性質であり、一方を高めると他方が低下してしまう傾向にあるため両立は困難とされ、特に硬度を高めたときは非常に脆いものになってしまっていた。
以上のように、可撓性のあるフィルムにおいて、ハードコートを施すこと無く表面硬度を満足したフィルムは未だ無いのが現状である。
【0005】
【特許文献1】特開平5−271579号公報
【特許文献2】特開昭62−129365号公報
【特許文献3】特開2003−25478号公報
【特許文献4】特開2002−167414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、
ハードコートを施すことなく、可撓性と表面硬度の両方を満足できるラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物およびそれから得られるフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはこのような状況に鑑み、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、オキサゾリン化合物をベースにラジカル硬化性フィルム用樹脂を合成し、可撓性と透明性および表面硬度を付与して新規な高性能樹脂を創製した結果、前記の課題を解決するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(I)(1)(A)ビス(2−オキサゾリン)化合物と、(B)オキサゾリンと反応する官能基と不飽和基の両方を分子内に有する化合物とを予め反応させてなる硬化性化合物、(2)前記(1)と共重合性を有し且つ複素環基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシル基、及びカルボキシル基の内少なくともいずれか1つを有する重合性モノマー、及び(3)前記(1)と共重合性を有し且つホモポリマーのガラス転移点が−20℃以下である重合性モノマーを、前記(1)100質量部に対して、前記(2)を20〜120質量部、前記(3)を5〜15質量部の比率で、かつ前記(1)〜(3)の合計で95質量%以上含むことを特徴とするラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物、
(II)(1)(A)ビス(2−オキサゾリン)化合物と、(B)オキサゾリン環と反応する官能基と不飽和基の両方を分子内に有する化合物及び(C)オキサゾリン環と反応する官能基を2つもつ化合物とを予め反応させてなる硬化性化合物、(2)前記(1)と共重合性を有し且つ複素環基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシル基、及びカルボキシル基の内少なくともいずれか1つを有する重合性モノマー、及び(3)前記(1)と共重合性を有し且つホモポリマーのガラス転移温度が−20℃以下である重合性モノマーを、前記(1)100質量部に対して、前記(2)を20〜120質量部、前記(3)を5〜15質量部の比率で、かつ前記(1)〜(3)の合計で95質量%以上含むことを特徴とするラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物、
(III)前記(A)ビス(2-オキサゾリン)化合物が、1,3−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼンである前記(I)又は(II)記載のラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物、
(IV)前記(B)オキサゾリンと反応する官能基と不飽和基の両方を分子内に有する化合物におけるオキサゾリン環と反応する官能基が、カルボキシル基である前記(I)〜(III)のいずれかに記載のラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物、
(V)前記(B)オキサゾリン環と反応する官能基と不飽和基の両方を分子内に有する化合物が、不飽和アルコールと酸無水物との反応により得られる化合物である前記(I)〜(IV)のいずれかに記載のラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物、
(VI)前記(I)〜(V)のいずれかに記載の樹脂組成物を硬化してなるフィルム、
(VII)全光線透過率が90%以上である前記(VI)記載のフィルム、及び
(VIII)鉛筆硬度がH以上である前記(VI)又は(VII)記載のフィルム
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物は、材料的にも容易かつ大量に入手し得るもので構成されており極めて実用性が高く、使用粘度も幅広く調整することが可能であり、フィルムの製造に好適に用いられる。
また、本発明のラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物より得られるフィルムは、表面硬度、可撓性、透明性、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性等に優れている他、熱硬化性樹脂から得られるため、熱可塑性樹脂の成形に生じるような分子の特定な配向がなく、複屈折現象とは本質的に無縁である利点も有する。よって、本発明によれば、表面硬度と可撓性を備えた、オプトエレクトロニクス分野、エレクトロニクス分野等の幅広い分野に使用することができるフィルムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に用いられる(A)ビス(2-オキサゾリン)化合物〔以下、化合物(A)ということがある。〕は、一般式
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ水素、アルキル基又はアリール基を示し、Rは炭素間結合又は2価の炭化水素基を示す)で表わされる化合物である。
上記一般式において、R1、R2、R3又はR4で示されるアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられ、アリール基としては、例えばフェニル基、トリル基などが挙げられる。
また、Rで示される炭化水素基としては、例えば炭素数が2〜8のアルキレン基、炭素数が3〜8のシクロアルキレン基、フェニレン基、トリレン基などのアリーレン基などが挙げられる。具体例としては、例えば、2,2'−ビス(2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、1,3−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン(以下、1,3−PBOと記す)、1,4−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼンなどが挙げられる。上記化合物の中でも1,3−PBOが、入手が容易である点で好ましい。
【0013】
本発明で用いられる(B)オキサゾリン環と反応する官能基と不飽和基の両方を分子内に有する化合物〔以下、化合物(B)ということがある。〕における、オキサゾリン環と反応する官能基としては、カルボキシル基、ヒドロキシル基、チオール基、アミノ基などを挙げることができ、これらの中でもカルボキシル基が、反応性が良好である点で好ましい。
【0014】
本発明で用いられる化合物(B)における不飽和基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロペニル基、アリル基などが挙げることができ、これらの中でもアクリロイル基が、可撓性を付与できる点で好ましい。
また、化合物(B)を選択することにより、ハンドリングが良好な液状の化合物が得られる。
化合物(B)の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、ジメタクリル酸、エタクリル酸、アリル酢酸、ビニル酢酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等の不飽和アルコール、また、これら不飽和アルコールと無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物とを反応して得られる化合物が挙げられ、これらの中でも不飽和アルコールと酸無水物との反応で得られる化合物が好ましい。これらは、化合物(A)1molに対し、化合物(B)の割合が1mol以上であると、(A)ビス(2−オキサゾリン)化合物が未反応で残留する割合が少なく、加熱硬化して得られる硬化物の物性低下がなく、2mol以下であれば、オキサゾリン環と反応する官能基と不飽和基の両方を分子内に有する化合物が未反応物として残留することがなく、重合性モノマーとして、硬化物の物性が安定したものが得られる。
【0015】
また、本発明においては、(1)の硬化性化合物として、上記化合物(A)及び化合物(B)を予め反応させてなる硬化性化合物のみならず、化合物(A)と化合物(B)、及び(C)オキサゾリン環と反応する官能基を2つもつ化合物〔以下、化合物(C)ということがある。〕とを、予め反応させてなる硬化性化合物を用いることができる。
化合物(C)としては、ジカルボン酸、ジチオール、ジアミン、ジオール、アミノカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。具体例としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、エチレングリコールビスチオグリコレート、4,4'−チオビスベンゼンチオール、エチレンジアミン、キシレンジアミン、エチレングリコール、グリシン、アラニン、グリコール酸などが挙げられる。これらの中でも、コハク酸、アジピン酸、テレフタル酸が好ましい。
化合物(C)は、化合物(A)1molに対し0〜0.5molの割合で、かつ化合物(B)との合計が2mol以内で使用すると、靭性等の物性がより良好な硬化性化合物が得られる。
なお、本発明において、上記化合物(A)及び化合物(B)を予め反応させてなる硬化性化合物、又は、化合物(A)と化合物(B)及び化合物(C)とを予め反応させてなる硬化性化合物における、「予め反応させる」とは、化合物(A)のオキサゾリン環と、化合物(B)又は化合物(B)及び(C)の、オキサゾリン環と反応する官能基とを反応させることを意味する。なお、当該反応においては、必要に応じてトリフォスフィン等の触媒を存在させる。
【0016】
本発明において(2)成分として用いられる、前記(1)と共重合性を有し且つ複素環基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシル基、及びカルボキシル基の内少なくともいずれか1つを有する重合性モノマーとしては、例えば、アクリロイルモルホリン、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルアクリレート、アクリルアミド、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン、カプロラクタム、等が挙げられる。
なお、(2)成分の一部を硬化性不飽和樹脂、例えばエポキシ樹脂と不飽和一塩基酸とのエステル化反応で得られるビニルエステル樹脂に替えてもよい。ただし、その量は、(2)成分中の50質量%以下とする。
前記(1)成分に対する(2)成分の割合は、(1)100質量部に対し20〜120質量部が好ましく、30〜80質量部がより好ましい。(2)成分が20〜120質量部の範囲であれば、適度な粘度で作業性がよく、靭性(可撓性)と表面硬度が満足できる。
【0017】
本発明において(3)成分として用いられるホモポリマーのガラス転移点(以下、Tgという。)が−20℃以下のモノマーとしては、例えば、イソデシルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、イソアミルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、 フェノキシエチルアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、イソノニルアクリレート、イソステアリルアクリレート、各種のウレタンアクリレート、エポキシアクリレート等が挙げられる。
前記(1)成分に対する(3)成分の割合は、(1)100質量部に対し5〜15質量部が好ましく、6〜9質量部がより好ましい。(3)成分が5〜15質量部の範囲内であれば、耐熱性、表面硬度が低下することがなく、十分な靭性が得られる。
これらラジカル重合性モノマーは、粘度や成形物の物性を考慮して単独で又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0018】
本発明のラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物から得られるフィルムは、可撓性、透明性、表面硬度、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性等に優れている他、ラジカル硬化性であるために複屈折現象とは本質的に無縁である利点も有する。
本発明のラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物を用いたフィルムは、全光線透過率が90%以上、表面硬度がH以上でありながら、可撓性も有するといった今までに見られなかった性能を発現できる。
可撓性と表面硬度の両方を満足するためには、分子同士に水素結合のような相互作用を持たせることが良いとの仮説から、オキサゾリン化合物由来のエステルアミド基同士の水素結合およびそれと水素結合可能なラジカル重合性モノマーを配合したことで、分子が凝集することによって可撓性を維持しつつ表面硬度が向上したものと思われる。
また、フィルムのTgに関しても100℃以上が可能であり、硬さと可撓性をもつた極めて異例なラジカル硬化性フィルムである。
【0019】
本発明のラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物を得るには、各種の一般的に知られている混合用機器を使用し、なるべく均一に混合させるのが望ましい。複合時には、すべての成分を均一混合してから、最後にラジカル重合開始剤を加えて混合するのが好ましい。
本発明のラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物に使用できるラジカル重合開始剤としては、加熱または高エネルギー線を照射することによって、ラジカルを発生する光重合開始剤又は有機過酸化物開始剤等以下のようなものが例示される。
【0020】
光重合開始剤の例:2,2−ジメトキシ−1,2ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、ベゾフェノン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モンフォリノプロパノン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−フォスフィンオキサイド。
【0021】
有機過酸化物開始剤の例:ジアルキルパーオキサイド、アシルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ケトンパーオキサイド、パーオキシエステルなど公知のものを用いることができ、具体的には以下のようなものが例示しうる。ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、2,5−ジメチル−2,5ジ(2−エチルヘキサノイル)パーオキシヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5ジブチルパーオキシヘキサン、1,1,3,3−テトラメチルブチル パーオキシ−2−エチルヘキサノエート。
【0022】
本発明のラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物は、前記ラジカル重合開始剤を樹脂組成物に対して0.2〜4質量%程度添加した硬化前の樹脂を、各種の薄膜状形態にした後、加熱または高エネルギー線を照射する等の公知の方法により硬化することができる。
なお、本発明のラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物には、硬度、耐久性、耐候性、耐水性等を改良するために、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、消泡剤、レベリング剤、離型剤、はっ水等の添加剤、無機フィラー等を加えて更に一層の性能改善を図ることもできる。
本発明のラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物は、また低粘度であって、全く有機溶剤を含有せずに良好な加工性、作業性を有していることも熱可塑性樹脂と比較して実用的に有利である。無論、本発明のラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物の成形加工性を一層高めるために、溶剤の添加による流動性の一段の向上を図ることも可能である。また本発明のラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物は、加工工程に供するまで常温で長期にわたって安定に保存し得ることも、従来型の縮合反応タイプのエポキシ樹脂やフェノール樹脂等の熱硬化性フィルム用樹脂組成物には見られない特徴である。
【実施例】
【0023】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、物性値の測定条件は以下の通りである。鉛筆硬度は、JIS K 5400に準拠し、透過率は、JIS K 7105に準拠し、引張り強度、引張り弾性率、伸びはJIS K 7113に準拠し測定した。また、折り曲げ試験は、フィルムを180度折り曲げたときに、割れがない場合を○、割れがある場合を×として評価した。
【0024】
(硬化性化合物1の合成)
温度調節器、攪拌装置、ジムロート冷却管、空気導入管を付した300ml四つ口フラスコに、無水コハク酸20g、テトラヒドロフタル酸無水物(THPA)122g、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)122g、触媒としてトリフェニルホスフィン0.8gを仕込み、空気気流下で攪拌しながら90℃まで昇温し、90分反応を行いTHPAにHEAを付加させた。IR測定で酸無水物のピークが消失したことを確認し、60℃に冷却した後1,3−PBO 130gを投入し、110℃に加熱してさらに5時間反応を行い液状の硬化性化合物1を得た。酸価は13mgKOH/gであった。
【0025】
実施例1〜3及び比較例1〜3
この(1)成分の硬化性化合物1を用いて、(2)成分の重合性モノマーとして、アクリロイルモルホリン、ヒドロキシエチルアクリレート(共栄社化学社製:商品名「ライトアクレートHOP」)、メタクリル酸、(3)成分の重合性モノマーとして、Tgが−22℃以下のフェノキシジエチレングリコールアクリレート(新中村化学社製:商品名「NKエステル AMP−60G」)を準備した。
また、比較例用の重合性モノマーの一部としてスチレン、イソボニルメタクリレート(Tg:180℃)を準備した。
重合開始剤として、1,1,3,3−テトラメチルブチル パーオキシ−2−エチルヘキサノエート(日本油脂社製、商品名「パーオクタO」)を使用し、表1に示すような組成でラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物を調製した。
【0026】
【表1】

【0027】
各実施例及び比較例のラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物をPETフィルム上に塗布し、その上部にPETフィルムを載置して挟み、125℃で30分間加熱し硬化せしめて、厚さ80μmの透明なフィルムを成形した。得られたフィルムの鉛筆硬度と折り曲げ試験の結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2より、実施例1〜3では、鉛筆硬度がH以上であるにもかかわらず、折り曲げ試験において良好な結果が得られた。
一方、比較例1及び比較例2では(1)成分〜(3)成分の合計が約90質量%と本発明の95質量%以上の要件を外れ、かつ、比較例1では、モノマーの一部にエステルアミド基と相互作用を持たないスチレンを使用したので、可撓性は良好であるものの表面硬度が低下し、比較例2では、同じくエステルアミド基と相互作用をもたないがホモポリマーのTgが高い、イソボルニルメタクリレートを使用したので、表面硬度はHと硬くなった反面、脆さが出て可撓性がなくなってしまっていた。
比較例3では、ホモポリマーのTgが−20℃以下であるモノマーを15質量部を超えて加えたために、必要以上に柔らかくなった。
本発明においては、樹脂と適切なモノマーの組み合わせにより、本来相反する可撓性と硬度の両性質がバランスよく発現した。本発明の実施例で得られたフィルムの物性を表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
表3から明らかなように、全光線透過率は91%以上、ヘイズも0.1以下と非常に良好なフィルムであった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物は、材料的にも容易かつ大量に入手し得るもので構成されており、極めて実用性が高く、使用粘度も幅広く調整することが可能であり、各種のラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物として利用できる。
また本発明のラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物より得られる成形物は、表面硬度、可撓性、透明性、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性等に優れている他、熱硬化性であるために複屈折現象とは本質的に無縁である利点も有することから、オプトエレクトロニクス分野、エレクトロニクス分野等の幅広い分野のフィルム、シート等として有効に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(A)ビス(2−オキサゾリン)化合物と、(B)オキサゾリン環と反応する官能基と不飽和基の両方を分子内に有する化合物とを予め反応させてなる硬化性化合物、(2)前記(1)と共重合性を有し且つ複素環基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシル基、及びカルボキシル基の内少なくともいずれか1つを有する重合性モノマー、及び(3)前記(1)と共重合性を有し且つホモポリマーのガラス転移温度が−20℃以下である重合性モノマーを、前記(1)100質量部に対して、前記(2)を20〜120質量部、前記(3)を5〜15質量部の比率で、かつ前記(1)〜(3)の合計で95質量%以上含むことを特徴とするラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物。
【請求項2】
(1)(A)ビス(2−オキサゾリン)化合物と、(B)オキサゾリン環と反応する官能基と不飽和基の両方を分子内に有する化合物及び(C)オキサゾリン環と反応する官能基を2つもつ化合物とを予め反応させてなる硬化性化合物、(2)前記(1)と共重合性を有し且つ複素環基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシル基、及びカルボキシル基の内少なくともいずれか1つを有する重合性モノマー、及び(3)前記(1)と共重合性を有し且つホモポリマーのガラス転移温度が−20℃以下である重合性モノマーを、前記(1)100質量部に対して、前記(2)を20〜120質量部、前記(3)を5〜15質量部の比率で、かつ前記(1)〜(3)の合計で95質量%以上含むことを特徴とするラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)ビス(2-オキサゾリン)化合物が、1,3−ビス( 2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼンである請求項1又は2記載のラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)オキサゾリン環と反応する官能基と不飽和基の両方を分子内に有する化合物におけるオキサゾリン環と反応する官能基が、カルボキシル基である請求項1〜3のいずれかに記載のラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)オキサゾリン環と反応する官能基と不飽和基の両方を分子内に有する化合物が、不飽和アルコールと酸無水物との反応により得られる化合物である請求項1〜4のいずれかに記載のラジカル硬化性フィルム用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物を硬化してなるフィルム。
【請求項7】
全光線透過率が90%以上である請求項6記載のフィルム。
【請求項8】
鉛筆硬度がH以上である請求項6又は7記載のフィルム。

【公開番号】特開2007−254504(P2007−254504A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−77249(P2006−77249)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】