ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)タンパク質の切断型変異体
本発明は、mTORベータ、mTORのスプライス形態、mTORベータをコードする核酸、およびmTORベータに対する抗体に関する。本発明はまた、mTORベータを産生する方法ならびにmTORベータの発現および/または活性を調整する作用物質をスクリーニングするための方法にも関する。本発明はさらに、mTORの活性および/または発現を変化させる作用物質の投与によって、mTORベータの異常な発現と関連する疾患を治療する方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)タンパク質の切断型変異体に関する。
【背景技術】
【0002】
[発明の背景]
ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)は、セリン/トレオニンキナーゼであり、これは、PI3K関連キナーゼの大きなファミリーに属し、これは、さらに、DNA依存性プロテインキナーゼ、ATMおよびATRを含む。生化学的研究および遺伝学的研究から、mTORが、増殖因子刺激、エネルギー、および栄養素利用能を統合して、細胞増殖、大きさ、および細胞周期進行を担う生合成プロセスを調節することが実証された。様々な細胞外のキューに応じたmTORキナーゼ活性の調節は、最近の10年間で広範囲に研究されてきた。プロテインキナーゼPKB/AktおよびAMPK、腫瘍抑制因子PTENおよび結節性硬化症複合体TSC1/2、低分子量GTP結合タンパク質Rheb、足場タンパク質RaptorおよびRictorを含む、様々な酵素活性、足場、およびアダプター機能を有する広範囲の細胞タンパク質は、mTORへのシグナル伝達およびmTORの活性の調節に関係している。活性化状態において、mTORは、S6K、4E−BP1、およびPKB/Aktなどの主な下流の標的のリン酸化によって、シグナル伝達および代謝情報を伝達する。様々な研究所の研究により、mTORが、mTOR複合体1(mTORC1)およびmTORC2と称される、2つの機能的に異なる複合体で存在することが示された。mTORC1は、基本的な構成成分mTOR、raptor、およびmLST8/GβLを含み、ラパマイシンに対して感受性である。mTORC2は、ラパマイシン非感受性であると考えられており、mTOR、Rictor、およびmLST8/GβLを含む。ラパマイシンおよびその類似体は、多くの臨床治験において抗癌剤として目下評価されている。そのうえ、それらは、現在、冠動脈形成術の後の、ステント留置後の再狭窄を低下させるステントのコーティングに広く使用されている。2つのTOR遺伝子を有する酵母とは対照的に、哺乳動物は、約280kDaの分子量を有する単一ポリペプチドをコードすることが知られている、たった1つの遺伝子を有する。
【0003】
mTORのうちで1つの重要な下流の標的は、S6Kである。S6キナーゼ(p70 S6キナーゼ(p70S6k))は、真核生物のリボソームの40Sサブユニットの構成成分であるリボソームS6タンパク質のS6リン酸化を担う(つまり、mRNAの翻訳およびタンパク質合成を担う細胞性機構)。それはまた、哺乳動物細胞における主な生理学的S6キナーゼとも考えられている(Proud、1996 Trends Biochem.Sci.21:181〜185ページ)。40Sリボソームタンパク質S6は、真核生物のリボソームの40Sサブユニットの構成成分である。S6タンパク質は、ホルモンまたは増殖因子誘発性の細胞増殖などのある種の細胞シグナル伝達イベントに応じてリン酸化される。
【0004】
S6キナーゼは、多種多様の、インスリンなどの増殖因子およびマイトジェンによって活性化される(Alessiら、1998 Curr.Biol.8:69〜81ページ)。S6キナーゼ活性を調節するある種の薬剤が、同定されており、これには、S6キナーゼの最も強力な阻害剤であるラパマイシンが含まれる(Pullenら、1997 FEBS Letters 410:78〜82ページ)。S6キナーゼアルファおよびS6キナーゼベータの構造およびいくつかの機能は、その全体が参照によって本明細書において組み込まれる米国特許第6,830,909号において開示されている。
【0005】
S6キナーゼは、リン酸化される上に、アセチル化されることが示された。S6キナーゼタンパク質は、p300アセチルトランスフェラーゼおよびP/CAFアセチルトランスフェラーゼによってin vivoでもin vitroでもアセチル化されることが分かった。S6Kアセチル化が増加する条件(つまり、HDAC阻害剤の存在/p300の過剰発現)において、S6キナーゼ活性および412リン酸化が低下すると表現するのがより正確である。Pループリシン(P-loop lysine)(p300によってin vitroでアセチル化される)のグルタミンへの変異は、これはアセチル化に似ているが、S6Kの完全な不活性化および412リン酸化の減少(loss)をもたらす。S6K2(S6Kベータ)は、さらに、ATフックDNA結合モチーフを有することが示された。したがって、S6キナーゼ2タンパク質は、DNAに結合し、それによって活性化され、これは、引き続いて、そのキナーゼ活性を刺激する。そのため、S6K2は、マイトジェンおよび栄養素に応じて増殖促進効果を伝達すると考えられる。これは、S6K2が、DNAと複合体を形成し、この相互作用によって活性化される場合に、リン酸化による転写因子および/またはクロマチンリモデリングタンパク質の調節を伴う可能性がある。S6キナーゼタンパク質活性の調節および関連する方法は、その全体が参照によって本明細書において組み込まれる国際公開第2007/019421号において開示されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
[発明の要旨]
本発明は、mTORベータ(mTORβ)と呼ばれるmTORの新規に見出されたスプライス形態に関する。特に、本発明は、
(a)配列番号2のアミノ酸配列を含む単離ポリペプチド、
(b)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む単離ポリペプチド、および
(c)配列番号1によってコードされるアミノ酸配列を含む単離ポリペプチド
からなる群から選択される、S6K1および/または4E−BP1をリン酸化する単離ポリペプチドを提供する。
【0007】
本発明はまた、以下のものも提供する:
(a)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(b)配列番号1のヌクレオチド配列またはその相補体を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号1の連続した配列全体にわたって少なくとも80%の配列同一性を有する核酸配列を含み、S6K1および/または4E−BP1をリン酸化するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、ならびに
(d)配列番号1のヌクレオチド配列またはその相補体に、68℃で0.1×SSCを用いる条件下でハイブリダイズし、S6K1および/または4E−BP1をリン酸化するタンパク質をコードする単離核酸分子
からなる群から選択される単離ポリヌクレオチド。
本発明のポリヌクレオチドを含むベクター。
本発明のポリペプチド、本発明のポリヌクレオチド、または本発明のベクターを含む宿主細胞。
本発明のポリペプチドに特異的に結合する単離抗体。
本発明のポリペプチド、または本発明のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが発現する条件下で、本発明の宿主細胞を培養するステップを含む、ポリペプチドを産生するための方法。
mTORベータ活性を調整する作用物質をスクリーニングするための方法であって、
(a)本発明のポリペプチドを試験作用物質と接触させるステップと、
(b)前記ポリペプチドの活性の任意の変化を検出するステップと
を含み、活性の変化が、mTORベータ活性を調整することができる作用物質を示す方法。
mTORベータの発現および/または活性を調整する作用物質をスクリーニングするための方法であって、
(a)本発明のポリペプチド、または本発明のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドを含むまたは発現する、請求項5に記載の宿主細胞を提供するステップと、
(b)前記宿主細胞を試験作用物質と接触させるステップと、
(c)前記ポリペプチドの発現および/または活性の任意の変化を検出するステップと
を含み、発現および/または活性の変化が、mTORベータの発現および/または活性を調整することができる作用物質を示す方法。
本発明のポリペプチドの異常な発現と関連する疾患を治療するための方法であって、その必要のある対象へ有効量の作用物質を投与するステップを含み、前記作用物質が、前記ポリペプチドの活性および/または発現を変化させる方法。
前記ポリペプチドの異常な発現と関連する疾患の治療における使用のための、本発明のポリペプチドの活性および/または発現を変化させる作用物質。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】C末端抗mTOR抗体およびF11抗mTOR抗体を使用した、ラット組織におけるmTORの発現のウェスタンブロット分析を示した図である。ラット組織のタンパク質抽出物(30μg)をSDS−PAGEにより解析し、PVDFメンブランに転写し、Cell Signalingより入手したC末端mTORポリクローナル抗体を用いてプローブした(上のパネル)。その後、メンブランをストリップし(strip)、抗アクチン抗体を用いてリプローブした(下のパネル)。
【図2】ヒト組織におけるmTOR発現のノーザンブロット分析を示した図である。ブロットをストリップし、β−アクチン発現に関してリプローブした(下のパネル)。
【図3】C末端抗mTOR抗体を用いた、Hep2G、Hek293およびMCF7細胞からの、mTORβの免疫沈降を示した図である。Hep2G、Hek293およびMCF7細胞の溶解物をC末端抗mTOR抗体(Cell Signaling)を用いて免疫沈降させ、免疫複合体を、N末端抗mTOR抗体(Santa Cruz)を用いてウェスタンブロットにおいてプローブした。
【図4】PCRによる、ヒト細胞株における潜在的mTORスプライス変異体の同定を示した図である。図4Aは、Hep2G、HEK293およびMCF7に由来する全RNAおよびmTORベータRNAについてのアガロースゲルを示す。全RNAを、Hep2G、HEK293およびMCF7細胞株から精製し、第1鎖DNAに転換した。一連のmTOR特異的プライマーをPCR反応に使用し、潜在的スプライス変異体を探索した。増幅断片を、2%アガロースゲルにおいて電気泳動により解析した。最も顕著なバンドをゲルから切り取り、配列を分析した。一組のプライマー(N1およびC3)は、3種の細胞株から、常に100bpの断片を増幅した。グリセルアルデヒド−3リン酸デヒドロゲナーゼ(GADPH)およびβアクチンの特異的断片を増幅し、第1鎖DNAの添加コントロールおよび質的コントロールとして使用した。図4Bは、N1およびC3のmTOR特異的プライマーを用いて増幅された、100bpのPCR断片の配列アラインメントを示す図である。増幅断片を配列決定し、Clustal Wのプログラムを用いてアラインメントを行った。潜在的スプライス融合の位置を、矢印で示してある。図4Cは、N1およびC3のmTOR特異的プライマーを用いて増幅させた100bpのPCR産物のアミノ酸配列を示す図である。潜在的スプライス融合の位置を、矢印で示してある。mTORの、N末端領域およびFATNドメインに対応する配列にアンダーラインを引いてある。
【図5】完全長mTORαおよびmTORβのスプライシングアイソフォームのドメイン構成を示す図である。各ドメインの位置を、そのアミノ酸の位置を含めて示す。抗mTOR抗体に対応するエピトープの局在化を示す。公知のmTORの結合パートナーの相互作用を媒介する領域にアンダーラインを引いてある。それぞれがタンパク質間の相互作用にかかわる、37〜43のアミノ酸の20のHEATモチーフ(Huntingtin、EF3、PP2AのサブユニットおよびTor)が存在する。HEAT18および19は、mTORをERまたはゴルジ体の標的とするために十分である。mTORは、これらのHEAT領域を介して二量化する。FATドメイン=FRAP/ATM/TRAPP;FATN=N末端のFATドメイン;FATC=C末端のFATドメイン。FATCドメインは、mTORキナーゼの活性および機能にとって必要であることが見出された。FRB(FKBP12−ラパマイシン結合)ドメインは、FKBP12−ラパマイシン結合に必要かつ十分な、11kDaの保存領域である。KD=キナーゼドメイン、PI3K−関連ドメインと考えられている。RD=調節ドメイン。
【図6】mTORβが、血清刺激に反応して、全mTORαのアミノ酸配列のSer2448に対応するセリン残基においてリン酸化され、in vitroのキナーゼアッセイにおいて、S6K1および4E−BP1をリン酸化することを示す図である。図6Aは、pcDNA3.1 mTORβの形質移入により、mTORβを発現する細胞のゲルを示す図である。HEK293細胞に、pcDNA3.1またはpcDNA3.1 mTORβを形質移入した。1日後、細胞を24時間飢餓状態にし、その後、10%ウシ胎児血清を用いて1時間刺激した。ラパマイシン(10nM)を、刺激する30分前に加えた。細胞を溶解し、SDS−PAGEで解析し、C末端抗mTORおよびpS2448 mTOR抗体を用いて免疫ブロットを行った。図6Bは、mTORのin vitroキナーゼアッセイの結果を示す図である。HEK293細胞に、pcDNA3.1、pcDNA3.1/FLAG−mTORβまたはpcDNA3.1/FLAG−mTORaを形質移入した。2日後、細胞を溶解し、抗FLAG抗体を用いて免疫沈降させた。His−4E−BPlおよびHis−S6K1Cを基質として用いて、免疫複合体をmTOR in vitroキナーゼアッセイに使用した。キナーゼ反応をSDS−PAGEで解析し、4E−BP1 p65およびS6K1 p389に対するリン酸化特異的抗体を用いて免疫ブロットを行った。免疫沈降したFLAG−mTORαおよびFLAG−mTORβのレベルを、抗FLAGを用いてウェスタンブロットを行うことによって測定した。
【図7】mTORβと、Raptor、RictorおよびGβLとの特異的相互作用を示す図である。HEK293細胞に、pcDNA3.1−mTORβ−FLAGおよびpRK−Raptor−HAまたはpcDNA3.1−mTORβ−FLAGおよびpRK−Rictor−MycまたはpcDNA3.1−mTORβ−FLAGおよびpcRK−GβLを形質移入した。溶解細胞の上清を、抗FLAG抗体またはコントロールの非特異的抗体を用いて、免疫沈降させた。形質移入細胞(15μg)由来の免疫複合体または全細胞溶解物をSDS−PAGEによって解析し、抗HA、抗Rictorまたは抗GβL抗体を用いたウェスタンブロットにおいてプローブした。
【図8】mTORβが、mTORαと比較して、ラパマイシンに対する感受性が低いことを示す図である。HEK293細胞に、pcDNA3.1、pcDNA3.1 mTORβまたはpcDNA3.1 mTORαを形質移入した。1日後、細胞を24時間飢餓状態にし、その後、10%血清を用いて1時間刺激した。様々な濃度のラパマイシンを、刺激する30分前に加えた。細胞を溶解し、SDS−PAGEにより解析し、C末端mTOR抗体、抗アクチンおよび様々なリン酸化特異的抗体を用いて免疫ブロットした。
【図9】mTORβの細胞内局在化を示す図である。対数増殖期のHEK293細胞を、ProteoExstract Extraction kit(Calbiochem)を使用して分画化した。mTORαおよびmTORβを、抗mTOR C末端抗体を使用して、全分画から免疫沈降させ、免疫複合体を、SDS−PAGEにより解析し、抗mTOR N末端抗体を用いて免疫ブロットした。抗4EBP1、HSP60およびc−Jun抗体を、それぞれ細胞質、メンブランおよび核の分画のコントロールとして使用した。
【図10】mTORβの過剰発現は細胞増殖を誘導するが、mTORαは誘導しないことを示す図である。mTORβwt、mTORαwtまたはEGFPを過剰発現するHek293安定細胞株を、様々な濃度(250、500、1000および2000細胞/ウェル)で96ウェルプレートに播種し、標準条件下で7日間増殖させた。その後、細胞数を、Resosurinに基づくアッセイにより各ウェルにおいて測定した。各細胞株に関する正規化増殖曲線を、6つの独立した実験からのデータを使用して計算した(A)。c−mycおよびその転写標的に対する抗体を用いた、安定細胞株の全細胞溶解物のウェスタンブロット分析(B)。タンパク質のレベルを濃度測定し、アクチンを正規化し、倍率をEGFP発現安定細胞株に対して計算した(C)。
【図11】mTORβキナーゼ活性が、増殖の導入に必要であることを示す図である。mTORβwt、mTORβキナーゼ不活性型(mTORβ kinase dead)またはEGFPを過剰発現するHEK293安定細胞株を、様々な濃度(1000、2000、4000および8000細胞/ウェル)で96ウェルプレートに播種し、標準条件下で5日間増殖させた。その後、細胞数を、Resazurinに基づくアッセイにより各ウェルにおいて測定した。各細胞株に関する正規化増殖曲線を、6つの独立した実験からのデータを使用して計算した(A)。c−mycおよびその転写標的に対する抗体を用いた、安定細胞株の全細胞溶解物のウェスタンブロット分析。タンパク質のレベルを、濃度測定し、アクチンを正規化し、倍率をEGFP発現安定細胞株に対して計算した(B)。
【図12】mTORβが、細胞周期のG1期進行にとって重要であることを示す図である。mTORβ、mTORαまたはEGFPを安定して過剰発現するHEK293細胞を、BrdUを用いて30分間パルス標識し、2時間ごとに、24時間追跡した。BrdUの組込みを、FACS分析により測定した。各細胞株に関して観察された細胞周期のGl期、S期およびG2期の存続期間をグラフに表した。SD、p=0.05。
【図13】mTORβの過剰発現が、細胞を、飢餓誘導性細胞死から保護することを示す図である(A)。mTORβキナーゼ活性は、生存促進作用(pro-survival effect)の媒介に必要である(B)。mTORβwt、mTORαwt、mTORβキナーゼ不活性型またはEGFPを過剰発現する、Hek293安定細胞株を、60時間血清飢餓状態にした。細胞の生存を、Trypan Blue色素排除アッセイにより評価した。データは、5つの実験の平均±SEである。*P値≦0.01。
【図14】mTORβの過剰発現が、細胞発癌性の増加をもたらすことを示す図である。mTORβ、mTORαまたはEGFPを安定して過剰発現するHEK293細胞を培養培地中のアガロースの薄層にプレーティングした。14日後、MTTを使用してコロニーを染色した(A)。コロニーを、Quantity One Software(Bio−Rad)を使用して計測し、倍率をプロットした(B)。データは、4つの実験の平均±SEである。*P値≦0.01。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[配列表の簡単な説明]
配列番号1は、ヒトmTORベータスプライス変異体をコードするポリヌクレオチド配列であり、配列番号2は、ヒトmTORベータタンパク質のアミノ酸配列である。
配列番号3は、完全長ヒトmTORアルファタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列であり、配列番号4は、ヒトmTORアルファタンパク質のアミノ酸配列である。
配列番号5〜8は、実施例4において使用したプライマーである。
配列番号9は、ヒトMCF7、Keh293およびHEP2G細胞株から、PCRにより作製された増幅断片であり、配列番号10は、配列番号9によりコードされたアミノ酸配列である。
【0010】
[発明の詳細な説明]
本発明は、ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)タンパク質の新規のスプライス形態の同定および特徴付けに基づくものである。mTORの新規のスプライス形態(以後mTORベータまたはmTORβと称される)の存在が示されたのはこれが最初である。本発明は、mTORベータタンパク質のアッセイおよびその活性の研究に基づくものである。
【0011】
mTORベータは、目下知られているmTOR(以後mTORα)のN末端アミノ酸1〜23およびのC末端アミノ酸1867〜2549のスプライス融合物であり、これは、706アミノ酸長の融合タンパク質をもたらす(配列番号2)ことが決定された。融合タンパク質において、調節性のHEATドメインおよびFATドメインは失われている。mTORβに対応するmRNAの転写物は、心臓および肝臓において高度に発現するが、腎臓、肝臓、血液、小腸、および大腸は、mTORβのタンパク質レベルが最も高いこともまた示された。さらに、完全長mTORαと同様に、スプライス形態もまた、基質提示分子Raptor、Rictor、およびGβLと結合することができる。mTORβはまた、in vitroで、S6K1および4E−BP1をリン酸化することができる。そのうえ、mTORβは、血清刺激に応じて、全mTORαアミノ酸配列のSer2448(S2448)に対応するセリン残基(mTORβのSer605)でリン酸化されることが示された。全mTORαアミノ酸配列のSer2448に対応するセリン残基でのmTORβのリン酸化は、ラパマイシンに対して感受性である。さらに、mTORαと比較した場合に、mTORβは、ラパマイシンに対してそれほど感受性ではないことが示された。
【0012】
本明細書において使用される場合、「mTORベータ」(mTORβ)という用語は、mTORのスプライス形態を指す。例えば、発明者らは、配列番号2のポリペプチドが、天然に存在するヒトmTORベータポリペプチドであることを見出した。このタンパク質は、706アミノ酸長であると考えられ、約2121ヌクレオチド長である配列番号1の核酸によってコードされる。本明細書において使用される場合、「mTORアルファ」(mTORα)という用語は、完全長の、ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)タンパク質を指す。例えば、ヒトmTORアルファポリペプチドは、約2549アミノ酸長であるタンパク質であると考えられ(配列番号4)、配列番号3のヌクレオチドによってコードされると考えられる。
【0013】
[ポリペプチド]
本発明は、mTORベータポリペプチドを提供する。
【0014】
「ポリペプチド」は、2つ以上のサブユニットのアミノ酸、アミノ酸類似体、または他のペプチドミメティック(peptidomimetic)の化合物を指すのに、その最も広い意味で、本明細書において使用される。「ポリペプチド」という用語は、したがって、短いペプチド配列ならびにさらに、より長いポリペプチドおよびタンパク質を含む。本明細書において使用される場合、「アミノ酸」という用語は、グリシンを含む天然アミノ酸および/または非天然アミノ酸もしくは合成アミノ酸のいずれか、ならびにD光学異性体またはL光学異性体の両方、ならびにアミノ酸類似体およびペプチドミメティック(peptidomimetic)を指す。
【0015】
本発明のポリペプチドは、好ましくは単離形態で提供される。本明細書において使用される場合、物理的な方法、力学的な方法、または化学的な方法が、タンパク質と通常に結合している細胞性成分からタンパク質を取り出すために用いられる場合に、タンパク質は、単離されると表現される。当業者は、単離タンパク質を得るために、標準的な精製法を容易に用いることができる。
【0016】
本発明は、mTORベータ(mTORβ)ポリペプチドを含む。本発明によるmTORベータポリペプチドは、本明細書において記載される場合、天然に存在するmTORベータポリペプチドであってもよく、またはその変異体、誘導体、もしくは断片であってもよい。本発明の一実施形態において、mTORベータポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列からなる、またはそれから本質的になる、またはそれを含む。本発明の一実施形態において、mTORベータポリペプチドは、配列番号4のmTORαポリペプチドにおけるそれらのアミノ酸などのmTORαのN末端アミノ酸1〜23とC末端アミノ酸1867〜2549の間のスプライス融合物である。本発明の他の実施形態において、mTORベータポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも75%または少なくとも95%の配列同一性を有する配列からなり、またはそれから本質的になり、またはそれを含み、S6K1および/または4E−BP1をリン酸化する。
【0017】
本発明のポリペプチドは、配列番号1のヌクレオチド配列によってまたは配列番号1を含むポリヌクレオチドなど、本明細書に記載されている本発明のポリヌクレオチドによってコードされ得る。本発明のポリペプチドは、配列番号1の連続した配列全体にわたって少なくとも80%もしくは少なくとも95%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによって、または配列番号1のポリヌクレオチドに、68℃で0.1×SSCを用いる条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ得る。そのようなポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドは、S6K1および/または4E−BP1をリン酸化することができるであろう。
【0018】
mTORベータポリペプチドは、天然に存在するmTORベータポリペプチドまたはその変異体、誘導体、もしくは断片であってもよい。天然に存在するmTORベータポリペプチドは、任意の種、好ましくは哺乳動物種において天然に発現されるmTORベータポリペプチドであってもよい。例えば、適した天然に存在するmTORベータポリペプチドは、ヒト、非ヒト霊長動物、げっ歯動物(例えばラットもしくはマウス)、ウサギ、ウマ、または家畜動物(例えばヤギ、ヒツジ、ブタ、もしくはウシ)からの哺乳動物mTORベータポリペプチドであってもよい。mTORベータポリペプチドは、ウサギ、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ヒト、または非ヒト霊長動物のmTORβポリペプチドであってもよい。好ましくは、mTORベータポリペプチドは、ヒトmTORベータポリペプチドである。例えば、ヒトmTORベータポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号2において提供される。ヒトmTORベータポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は、配列番号1において提供される。本発明によるmTORベータポリペプチドは、ヒトポリペプチドなどの任意のそのような天然に存在するmTORベータポリペプチドであってもよく、またはその対立遺伝子変異体であってもよい。対立遺伝子変異体は、上記に記載されるアミノ酸配列とはわずかに異なるアミノ酸配列を有するが、開示されているタンパク質と関連する同じまたは類似した生物学的機能をなお有するであろう。
【0019】
mTORベータポリペプチドは、天然に存在するmTORベータペプチドの誘導体、類似体、ポリペプチド断片、またはミメティックなどの変異ポリペプチドであってもよい。そのような変異ポリペプチドは、好ましくは、天然に存在するmTORベータペプチドと同じ生物学的機能または活性を保持する。活性は、天然に存在するmTORベータポリペプチドが有する任意の活性であってもよい。mTORベータの多くの活性は、本明細書において開示されている。適した変異ポリペプチドは、任意の1以上のこれらの活性を有し得る。例えば、変異ポリペプチドは、アセチル化される能力および/または第2のタンパク質をリン酸化する能力および/またはDNAに結合する能力を保持することができる。例えば、適した変異ポリペプチドは、cMycに対する影響を誘発することができる。適した変異ポリペプチドは、配列番号4の全mTORαアミノ酸配列のS2448(配列番号2のmTORβポリペプチドのSer605)に対応するセリン残基でリン酸化することができる。適した変異ポリペプチドは、S6K1をリン酸化する能力を有し得る。適した変異ポリペプチドは、4E−BP1をリン酸化する能力を有し得る。適した変異ポリペプチドは、S6K1および4E−BP1をリン酸化する能力を有し得る。適した変異ポリペプチドは、Raptor、Rictor、およびGβLの1つ、2つ、または3つすべてと相互作用することができる。適した変異ポリペプチドは、細胞増殖を誘発することができる。適した変異ポリペプチドは、飢餓誘発性の細胞死から細胞を保護することができる。適した変異ポリペプチドは、細胞の発癌能を増加させることができる。適した変異ポリペプチドは、細胞周期のG1期の期間を減少させることができる。これらの活性を評価するための方法は、本明細書において記載され、当業者によって容易に理解されると思われる。実施例は、どのようにそのような活性が評価され得るか、および例としての配列番号2のポリペプチドの使用を示す。これらの方法は、本明細書において記載される、他のポリペプチドを用いる使用に容易に適応させることができる。
【0020】
本発明のmTORβポリペプチドは、完全長mTORαポリペプチドの1以上の機能を保持することができる。これらの機能は、キナーゼ活性;配列番号4のmTORαアミノ酸配列のS2448(配列番号2のmTORβポリペプチドのSer605)に対応するセリン残基のリン酸化による活性化;S6K1をリン酸化する能力および/または4E−BP1をリン酸化する能力などの他のタンパク質をリン酸化する能力;Raptor、Rictor、およびGβLのうちの1つ、2つ、または3つすべてと相互作用するまたは結合する能力のうちの1以上を含んでいてもよい。
【0021】
本発明のmTORベータポリペプチドは、完全長mTORアルファポリペプチドの活性とは異なる、天然に存在するmTORベータの少なくとも1つの活性を保持することができる。例えば、本明細書において記載されるように、mTORβを発現する細胞は、mTORαを発現する細胞よりも速く増殖し、mTORαではなくmTORβの発現は、c−Mycタンパク質発現の誘発を導き、mTORβを発現する細胞は、mTORαを発現する細胞よりもG1期の期間が短く、mTORαではなくmTORβの発現は、血清飢餓の影響から細胞を保護し、mTORβの発現は、mTORαを発現する細胞と比較して、細胞発癌能の増加を導く。本発明のmTORβポリペプチドは、mTORαポリペプチドと比較した場合に、任意の1以上のこれらの差異を保持することができる。
【0022】
ポリペプチド変異体は、配列番号2のポリペプチドなどの天然に存在するmTORβポリペプチドの欠失変異体、追加変異体、または置換変異体を含むが、これらに限定されない。例えば、適した変異体は、そのような配列の置換変異体、欠失変異体、もしくは追加変異体であってもよく、または任意のそのような配列の断片であってもよい。変異ポリペプチドは、配列番号2など、天然に存在するmTORβポリペプチド配列から、1、2、3、4、5、10までの、20までの、30までの、40までの、50までの、もしくは75までのまたはそれ以上のアミノ酸置換および/またはアミノ酸欠失を含んでいてもよい。
【0023】
「置換」変異体は、好ましくは、1以上のアミノ酸の同数のアミノ酸との交換および保存的アミノ酸置換を行うことを伴う。ポリペプチドは、1以上のアミノ酸の1以上の他のアミノ酸との保存的置換を有し得る。当業者は、様々なアミノ酸が、類似した特徴を有することを認識している。ポリペプチドの1以上のそのようなアミノ酸は、そのポリペプチドの所望の特性(アセチルトランスフェラーゼ活性など)を排除することなく、1以上の他のそのようなアミノ酸によって置換することができることが多い。例えば、アミノ酸は、類似した特性を有する代替アミノ酸(例えば、他の塩基性アミノ酸、他の酸性アミノ酸、他の中性アミノ酸、他の荷電アミノ酸、他の親水性アミノ酸、他の疎水性アミノ酸、他の極性アミノ酸、他の芳香族アミノ酸、または他の脂肪族アミノ酸)と置換されてもよい。適した置換基を選択するために使用することができる20の主要なアミノ酸のいくつかの特性は、以下の通りである。
【表1】
【0024】
例えば、アミノ酸のグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンは、互いに置換することができることが多い(脂肪族側鎖を有するアミノ酸)。これらの起こり得る置換のうちで、グリシンおよびアラニンが互いに置換するために使用される(それらは相対的に短い側鎖を有するので)こと、ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシンが互いに置換するために使用される(それらは疎水性である、より大きな脂肪族側鎖を有するので)ことが好ましい。互いに置換することができることが多い他のアミノ酸は、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン(芳香族側鎖を有するアミノ酸)、リシン、アルギニン、およびヒスチジン(塩基性側鎖を有するアミノ酸);アスパラギン酸およびグルタミン酸(酸性側鎖を有するアミノ酸);アスパラギンおよびグルタミン(アミド側鎖を有するアミノ酸);ならびにシステインおよびメチオニン(硫黄含有側鎖を有するアミノ酸)を含む。
【0025】
本明細書において使用される場合、保存的変異体は、上記に記載した機能/活性などのタンパク質の生物学的機能または生物学的活性に不利に影響を与えない、アミノ酸配列の変化を指す。例えば、保存的変異体は、アセチル化されるためのそれらの能力、第2のタンパク質をリン酸化する能力、およびDNAに結合する能力を保持することができる。置換、挿入、または欠失は、変化した配列が、タンパク質と関連する生物学的機能または生物学的活性を妨げるまたは妨害する場合に、タンパク質に影響を与えると表現される。例えば、タンパク質の全体的な荷電、構造、または疎水性/親水性の特性は、生物学的活性に不利に影響を与えることなく変化させることができる。したがって、アミノ酸配列は、タンパク質の生物学的活性に不利に影響を与えることなく、例えばポリペプチドをより疎水性または親水性にするために変化させることができる。
【0026】
変異ポリペプチドは、配列番号2において記載される全配列など、天然に存在するmTORβポリペプチド配列と少なくとも約75%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、および最も好ましくは、少なくとも約99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し得る。例えば、ヒトTOR、マウスTOR、およびラットTORは、タンパク質レベルで95%の同一性を共有する。これらのレベルのアミノ酸同一性のどれでも、完全長の天然に存在するmTORβポリペプチド配列にわたって存在していてもよく、またはその50、100、150、200、もしくはそれ以上のアミノ酸など、完全長配列の一部にわたって存在していてもよい。これらのレベルのアミノ酸同一性のどれでも、完全な連続mTORβポリペプチド配列にわたって存在していてもよい。配列同一性のレベルは、mTORβ配列の異なる領域において変動してもよい。例えば、変異体mTORβは、完全長の天然に存在するmTORβポリペプチドにわたって少なくとも75%のアミノ酸同一性を有し得るが、いくつかの領域内でより高いレベルの配列同一性を有し得る。例えば、そのような変異ポリペプチドは、天然に存在する配列からの1以上の保存ドメインを保持することができる。
【0027】
そのような配列に関しての同一性または相同性は、あらゆる保存的置換を配列同一性の一部として考慮せずに、最大のパーセント相同性を達成するために配列を整列し、必要であればギャップを導入した後に、知られているペプチドと同一である、候補配列におけるアミノ酸残基の割合として本明細書において定義される。融合タンパク質またはポリペプチド配列へのN末端、C末端、もしくは内部の伸長、欠失、もしくは挿入は、相同性に影響を与えるとして解釈されないものとする。
【0028】
アミノ酸配列に関連して、「配列同一性」は、以下のパラメーターを用いて、ClustalWを使用して評価した場合に確定される値を有する配列を指す(Thompsonら、1994、前掲):ペアワイズアラインメントパラメーター−メソッド:アキュレート、マトリックス:PAM、ギャップ開始ペナルティー:10.00、ギャップ伸長ペナルティー:0.10;マルチプルアラインメントパラメーター−マトリックス:PAM、ギャップ開始ペナルティー:10.00、ディレイに対する%同一性:30、ペナライズエンドギャップ:オン、ギャップ分離距離:0、ネガティブマトリックス:ノー、ギャップ伸長ペナルティー:0.20、残基特異的ギャップペナルティー:オン、親水性ギャップペナルティー:オン、親水性残基:GPSNDQEKR。特定の残基での配列同一性は、単に誘導体化された同一の残基を含むことが意図される。
【0029】
好ましい「誘導体」または「変異体」は、天然に存在するアミノ酸の代わりに、配列において現われるアミノ酸がその構造的な類似体であるものを含む。配列において使用されるアミノ酸はまた、ペプチドの機能が著しく不利に影響を与えられないという条件で、誘導体化または改変、例えば標識することもできる。
【0030】
上記に記載した誘導体および変異体は、ペプチドの合成の間にまたは産生後の改変によってまたはペプチドが組換え形態である場合に、部位特異的突然変異誘発、ランダム突然変異誘発、または核酸の酵素による切断および/もしくはライゲーションの公知の技術を使用して調製することができる。
【0031】
ポリペプチドの欠失変異体および挿入変異体は本発明の範囲内である。アミノ酸欠失は、所望の活性を保持しながら、ポリペプチドの全長および分子量を低下させることができるので、有利となり得る。これは、特定の目的に必要とされるポリペプチドの量を低下させることを可能にすることができる。「欠失」変異体は、個々のアミノ酸の欠失、2つ、3つ、4つ、もしくは5つのアミノ酸などのアミノ酸の小さなグループの欠失、または特異的なアミノ酸ドメインもしくは他の特徴の欠失などのより大きなアミノ酸領域の欠失を含んでいてもよい。ポリペプチドに関するアミノ酸挿入もまた行うことができる。これは、ポリペプチドの性質を変化させるために(例えば同定、精製、または発現を補助するために)行われてもよい。上記に定義されるようなポリペプチドの配列に関するアミノ酸変化を組み込むポリペプチド(置換、欠失、または挿入のいずれにせよ)は、任意の適した技術を使用して提供することができる。例えば、所望の配列変化を組み込む核酸配列は、部位特異的突然変異誘発によって提供することができる。次いで、これは、そのアミノ酸配列における対応する変化を有するポリペプチドの発現を可能にするために使用することができる。
【0032】
本発明のポリペプチドは、配列番号2において開示されているアミノ酸配列を有するポリヌクレオチドなどの天然に存在するmTORβ分子およびそのいずれかのアミノ酸配列変異体を含み、1以上のアミノ酸残基は、開示されているコード配列のN末端もしくはC末端にまたはその配列内に挿入されている。上記に説明されるように、配列番号2のmTORβポリペプチドは、完全長mTORαポリペプチドからの2つの断片を共にスプライスすることによって形成される。配列番号2は、したがって、配列番号4のアミノ酸1〜23および1867〜1549を含む。変異体mTORβは、他の天然に存在するmTORαポリペプチド由来など、他のmTORαポリペプチド由来の等価な断片を含んでいてもよい。関連するポリペプチドにおける等価なアミノ酸は、例えば配列のアラインメントおよび比較によって容易に同定することができる。変異体mTORβは、したがって、天然に存在するmTORαポリペプチドからのN末端断片およびC末端断片を組み合わせることによって形成されてもよい。変異体mTORβポリペプチドはまた、そのようなN末端断片およびC末端断片から配列が変わってもよい。例えば、変異体mTORβポリペプチドは、任意の天然に存在するmTORαポリペプチドからの関係のあるN末端断片およびC末端断片と比較した場合に、上記に論じられるアミノ酸配列同一性の程度のいずれかを有し得る。
【0033】
変異体mTORβは、上記に定義されるようなmTORβ活性を有するポリペプチドを形成するために、共にスプライスすることができるmTORαポリペプチドと異なる断片を含んでいてもよい。
【0034】
例として配列番号4のmTORαポリペプチドを使用して、本発明のmTORβポリペプチドは、配列番号4のアミノ酸1〜23を含んでいてもよく、またはmTORαのN末端からのより多いもしくはより少ないアミノ酸を含んでいてもよい。mTORαの適した断片は、配列番号4の残基1から開始してもよく、またはアミノ酸2、3、4、5、6、またはより後のアミノ酸などの後の残基から開始してもよい。mTORαの適した断片は、配列番号4の残基23で終了してもよく、またはアミノ酸18、19、20、21、22、24、25、26、27、もしくは28またはより前もしくはより後のアミノ酸残基などの異なる残基で終了してもよい。これらの開始点および終了点の任意の組合せもまた、適した断片を形成するために使用することができる。mTORαのN末端からの適した断片は、例えば15、17、18、20、21、22、23、24、25、27、30、35、またはそれ以上のアミノ酸長であってもよい。
【0035】
同様に、mTORβポリペプチドは、配列番号4のアミノ酸1867〜2549を含んでいてもよく、またはmTORαのC末端からのより多いもしくはより少ないアミノ酸を含んでいてもよい。mTORαの適した断片は、配列番号4の残基1867から開始してもよく、またはアミノ酸1860、1861、1862、1863、1864、1865、1866、1868、1869、1870、1871、1872、1873、またはより前もしくはより後のアミノ酸などの異なる残基から開始してもよい。mTORαの適した断片は、配列番号4の残基2549で終了してもよく、またはアミノ酸2548、2547、2546、2545、2544、またはより前のアミノ酸残基などのより前の残基で終了してもよい。しかしながら、mTORαのC末端断片が、配列番号4のアミノ酸2517〜2549に位置するFATCドメインを含むことが好ましい。これらの開始点および終了点の任意の組合せもまた、適した断片を形成するために使用することができる。mTORαのC末端からの適した断片は、例えば680、681、682、683、684、685、686、690、695、700まで、またはそれ以上のアミノ酸長であってもよい。
【0036】
mTORβポリペプチドは、mTORαポリペプチドからのそのようなN末端断片およびC末端断片の任意の組合せを含んでいてもよい。そのような断片は、本明細書に記載されている置換、追加、または欠失によって、天然に存在する配列からさらに改変することができる。
【0037】
上記に記載されるように、mTORβポリペプチドは、mTORαの少なくとも1つの機能/活性などのmTORβの少なくとも1つの機能/活性を保持するであろう。図5において示されるように、配列番号2のmTORβは、mTORαからのある種のドメインを保持するが、他のものを欠く。例えば、配列番号2のmTORβは、mTORαからの調節性のHEATドメインおよびFATNドメインを欠く。そのため、これらのドメインは、mTORβの機能にとって不必要であるように思われる。そのため、mTORβポリペプチドは、mTORαポリペプチドからの1つ、それ以上、またはすべてのHEATドメインを欠いていてもよい。mTORβは、機能性のHEATドメインを完全に欠いてもよい。mTORβポリペプチドは、mTORαポリペプチドからのFATNドメインを欠いてもよい。mTORβポリペプチドは、機能性のFATドメインを欠いてもよい。
【0038】
しかしながら、配列番号2のmTORβポリペプチドは、mTORαからの他のドメインを保持する。これらのドメインからのアミノ酸または構造的な特徴は、mTORβの様々な活性を担っていてもよい。そのため、mTORβポリペプチドは、FRBドメインおよび/またはキナーゼドメイン(KD)および/または調節性ドメインおよび/またはFATCドメインを保持することができる。FRBドメインは、FKBP12−ラパマイシン結合に必要であり、かつ十分である。mTORβポリペプチドは、FRBドメインを保持することができる。mTORβポリペプチドは、FKBP12−ラパマイシン結合能力を付与する代替ドメインまたは変異ドメインを保持することができる。キナーゼドメインは、P13キナーゼ関連ドメインである。mTORβポリペプチドは、キナーゼドメインを保持することができる。mTORβポリペプチドは、P13キナーゼ能力を付与する代替ドメインまたは変異ドメインを保持することができる。FATCドメインは、mTORキナーゼの活性および機能に必要である。mTORβポリペプチドは、FATCドメインを保持することができる。mTORβポリペプチドは、そのようなmTORβキナーゼの活性および機能を付与する代替ドメインまたは変異ドメインを保持することができる。mTORβポリペプチドは、キナーゼドメインおよびFATCドメインの両方などのmTORαからの2つ以上のこれらのドメインを保持することができる。mTORβポリペプチドはまた、Raptorおよび/またはRictorおよび/またはGβLに対する機能性の結合部位を保持することができる。
【0039】
本発明のポリペプチドはまた、少なくとも1つの残基によって置換された、配列番号2において開示されているアミノ酸配列および開示されている配列のアミノ酸配列変異体を有するポリヌクレオチドなどの天然に存在するmTORβ分子または上記に定義されるようなそれらの断片を含む。そのような断片は、ペプチドまたはポリペプチドとも称されるが、ATフックドメインなどの知られているタンパク質ドメインに対応する、アミノ酸配列の領域として同定されるタンパク質の機能性の領域および強い親水性の領域を含有し得る。領域は、すべて、MacVector(Oxford Molecular)などの一般に入手可能なタンパク質配列分析ソフトウェアを使用することによって容易に同定可能である。
【0040】
本発明によるポリペプチド「断片」は、切断によって、例えばポリペプチドのN末端および/またはC末端からの1以上のアミノ酸の除去によって作製することができる。10まで、20まで、30まで、40まで、50まで、60まで、75まで、またはそれ以上のアミノ酸は、N末端および/またはC末端からこのように除去することができる。断片はまた、1以上の内部の欠失によって生成することができる。
【0041】
本発明のポリペプチドは、さらなる追加の配列、例えば下記に記載されるポリヌクレオチドおよびベクターによってコードされる配列を含んでいてもよい。ポリペプチドは、リーダー配列、つまり、ポリペプチドのターゲティングまたは調節において機能するポリペプチドのアミノ末端のまたはその近くの配列を含んでいてもよい。例えば、ポリペプチドを体内の特定の組織に向ける配列、または発現に際してポリペプチドのプロセシングもしくはフォールディングを助ける配列が、ポリペプチド中に含まれていてもよい。様々なそのような配列は、当該分野において周知であり、例えばポリペプチドの所望の特性および産生方法に応じて当業者によって選択することができる。
【0042】
ポリペプチドは、ポリペプチドまたはポリペプチドの発現を同定もしくはスクリーニングするためにタグまたは標識をさらに含んでいてもよい。適した標識は、125I、32P、もしくは35Sなどの放射性同位元素、蛍光標識、酵素標識、またはビオチンなどの他のタンパク質標識を含む。適したタグは、日常的なスクリーニング法によって同定することができる短いアミノ酸配列であってもよい。例えば、特定のモノクローナル抗体によって認識される短いアミノ酸配列が含まれていてもよい。
【0043】
本発明のポリペプチドは、本明細書において定義されるように、化学的に改変し、例えば翻訳後に改変することができる。例えば、それらは、グリコシル化することもでき、または改変アミノ酸残基を含んでいてもよい。それらは、アミドおよびポリペプチドとのコンジュゲートを含む、ポリペプチド誘導体の多種多様の形態とすることができる。
【0044】
化学的に改変されたペプチドはまた、機能性の側鎖の反応によって化学的に誘導体化される1以上の残基を有するペプチドをも含む。そのような誘導体化された側鎖は、アミン塩酸塩、p−トルエンスルホニル基、カルボベンゾキシ基、t−ブチルオキシカルボニル基、クロロアセチル基、およびホルミル基を形成するために誘導体化された側鎖を含む。遊離カルボキシル基は、塩、メチルエステルおよびエチルエステルもしくは他のタイプのエステル、またはヒドラジドを形成するために誘導体化することができる。遊離水酸基は、Oアシル誘導体またはOアルキル誘導体を形成するために誘導体化することができる。ヒスチジンのイミダゾール窒素は、N−イム−ベンジルヒスチジンを形成するために誘導体化することができる。ペプチドはまた、リン酸化(例えば、3アミノリン酸化)によって、およびグリコシル化(例えば、マンノシル化)によって改変することができる。
【0045】
20の標準的なアミノ酸の1以上の天然に存在するアミノ酸誘導体を含有するものもまた、化学的に修飾されたペプチドとして含まれていてもよい。例えば、4−ヒドロキシプロリンは、プロリンの代わりに用いられてもよく、またはホモセリンは、セリンの代わりに用いられてもよい。
【0046】
企図されるポリペプチドの変異体および/または誘導体は、例えば相同組換え、部位特異的突然変異誘発、またはPCR突然変異誘発による所定の変異を含有するものならびにウサギ、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、および非ヒト霊長動物種を含むが、これらに限定されない他の動物種の対応するタンパク質ならびにタンパク質のファミリーの対立遺伝子または他の天然に存在する変異体;ならびにタンパク質が、天然に存在するアミノ酸以外の部分(例えば、酵素または放射性同位元素などの検出可能な部分)を用いて、置換による手段、化学的な手段、酵素による手段、または他の適切な手段によって共有結合で改変された誘導体をさらに含む。
【0047】
[mTORベータペプチドミミック]
mTORβの三次元構造に似たペプチドミメティックを産生することができる。そのようなペプチドミメティックは、例えば、より経済的な生産、より高い化学的安定性、薬理学的特性の増強(半減期、吸収、効力、効能など)、特異性の変化(例えば生物学的活性の広域スペクトル)、抗原性の低下などを含む、天然に存在するペプチドに対して有意な利点を有し得る。
【0048】
そのようなミメティックは、任意の1以上の上記に論じられるmTORβの機能または活性を有し得る。一形態において、ミメティックは、mTORβ二次構造の要素に似たペプチド含有分子である。他の実施形態において、ミメティックは、cMycに結合することができる。代替の実施形態において、ミメティックは、Raptor、Rictor、およびGβLのいずれか1つと結合することができる。他の実施形態において、ミメティックは、S6K1および/または4E−BP1をリン酸化することができる。
【0049】
ペプチドミメティックの使用の背景にある根本的な理論的根拠は、タンパク質のペプチドバックボーンが、主として、抗体および抗原の相互作用に類似する、分子の相互作用を促進するようにアミノ酸側鎖を方向付けるために存在するということである。ペプチドミメティックは、天然分子に類似した、分子の相互作用を可能にすることが予想される。他の形態において、ペプチド類似体は、鋳型ペプチドの特性と類似性の特性を有する非ペプチド薬剤として医薬品産業において一般に生産される。これらのタイプの非ペプチド化合物はまた、ペプチドミメティックまたはペプチドミメティック(peptidomimetic)とも称され(参照によって本明細書において組み込まれるFauchere(1986)Adv.Drug Res.15、29〜69ページ;Veber & Freidinger(1985)Trends Neurosci.8、392〜396ページ;Evansら(1987)J.Med.Chem、30、1229〜1239ページ)、コンピュータ化された分子モデリングの支援によって通常開発される。
【0050】
治療的に有用なペプチドに構造的に類似したペプチドミメティックは、等価な治療効果または予防効果をもたらすために使用することができる。一般に、ペプチドミメティックは、パラダイムポリペプチド(つまり、生化学的特性または薬理学的活性を有するポリペプチド)に構造的に類似しているが、当該分野において知られている方法による、ペプチド中に通常で見つけられない化学的連結によって必要に応じて交換される1以上のペプチド連結を有する。ペプチドミメティックの標識は、定量的構造−活性データおよび分子モデリングによって予測される、ペプチドミメティック上の非干渉位置へ、直接またはスペーサー(例えばアミド基)を通して、1以上の標識を共有結合することを通常伴う。そのような非干渉位置は、一般に、ペプチドミメティックが結合して、治療効果をもたらす高分子と直接接触しない位置である。ペプチドミメティックの誘導体化(例えば標識)は、ペプチドミメティックの所望の生物学的活性または薬理学的活性に実質的に干渉しないはずである。
【0051】
ペプチドミメティックの使用は、コンビナトリアルケミストリーを使用して増強して、薬剤ライブラリーを作り出すことができる。ペプチドミメティックの設計は、例えば腫瘍細胞へのペプチドの結合を増加または減少させるアミノ酸変異を同定することによって支援することができる。使用することができるアプローチは、酵母2ハイブリッド法(Chienら(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88、9578〜9582ページを参照されたい)およびファージディスプレイ法の使用を含む。2ハイブリッド法は、酵母におけるタンパク質−タンパク質相互作用を検出する(Fieldsら(1989)Nature 340、245〜246ページ)。ファージディスプレイ法は、固定されたタンパク質ならびにラムダおよびM13などのファージの表面上に発現したタンパク質の間の相互作用を検出する(Ambergら(1993)Strategies 6、2〜4ページ;Hogrefeら(1993)Gene 128、119〜126ページ)。これらの方法は、ペプチド−タンパク質相互作用の正の選択および負の選択、ならびにこれらの相互作用を決定する配列の同定を可能にする。
【0052】
[核酸分子]
本発明は、mTORベータポリペプチドをコードする核酸分子を提供する。
【0053】
本明細書において使用される場合、「核酸」および「ポリヌクレオチド」という用語は、区別なく使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態、デオキシリボヌクレオチド(アデニン、グアニン、チミン、および/もしくはシトシン)またはリボヌクレオチド、またはその類似体のいずれかを指す。そのようなポリヌクレオチドは、一本鎖形態または二本鎖ヘリックスであってもよい。この用語は、分子の一次構造および二次構造のみを指し、あらゆる特定の三次形態に限定されない。ポリヌクレオチドの非限定的な例は、遺伝子、遺伝子断片、DNA、メッセンジャーRNA(mRNA)、cDNA、一本鎖RNAまたは一本鎖DNA、線状のDNA分子(例えば制限断片)中に見つけられる二本鎖DNA、ウイルス、染色体、組換えポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離DNA、任意の配列の単離RNA、核酸プローブ、およびプライマーを含む。二本鎖DNA分子の配列などのポリヌクレオチド配列は、DNAの非転写鎖(例えばmRNAに相同性の配列を有する鎖)に沿って5’から3’方向の配列のみを提供する通常の慣習に従って、本明細書において記載することができる。
【0054】
本発明のポリヌクレオチドは、単離形態または精製形態で提供することができる。本明細書において使用される場合、核酸分子は、核酸分子が、他のポリペプチドをコードする混在物質(contaminant)である核酸分子から実質的に分離される場合に、「単離される」と表現される。
【0055】
本発明のポリヌクレオチドは、上記に定義されるような本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(例えばRNAまたはDNA)であってもよい。本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドをコードする核酸配列に相補的なポリヌクレオチドであってもよい。本発明のポリヌクレオチドは、適切なストリンジェンシー条件下で、オープンリーディングフレームにわたって、本発明のポリペプチドをコードする核酸にハイブリダイズするポリヌクレオチドであってもよい。本発明のポリヌクレオチドは、配列番号2の連続したアミノ酸配列全体と少なくとも約75%または少なくとも約95%の同一性を共有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであってもよい。特に企図されるのは、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、およびアンチセンス分子ならびに天然源に由来するにせよ、合成されるにせよ代替バックボーンに基づくまたは代替塩基を含む核酸である。しかしながら、本発明によるタンパク質をコードする核酸をコードする、それに適切なストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする、またはそれに相補的であるものを含むそのような核酸は、あらゆる先行技術の核酸に対して新しくかつ自明でないとしてさらに定義される。
【0056】
本発明のポリヌクレオチドは、上記に記載されるように、ポリペプチドをコードする任意のポリヌクレオチドであってもよい。本発明のポリヌクレオチドは、mTORβポリペプチドをコードする任意のポリヌクレオチドであってもよい。本発明のポリヌクレオチドは、配列番号2のmTORβポリペプチドをコードする配列、配列番号2のmTORβポリペプチドを含むもしくはそれから本質的になるポリペプチド、または上記に記載したそのいずれかの変異体もしくは断片を含んでいてもよい。本発明のポリヌクレオチドは、配列番号1の核酸配列または遺伝子コードにおける重複性を通してのみ配列番号1から変わった核酸配列、つまり、配列番号1と同じポリペプチドをコードする他の核酸配列を含んでいてもよく、それから本質的になってもよく、またはそれからなってもよい。
【0057】
核酸「コード配列」または選択されるポリペプチドを「コードする」核酸配列は、適切な調節配列のコントロール下に配置された場合に、in vivoで転写され(DNAの場合)、ポリペプチドに翻訳される(mRNAの場合)核酸分子(例えばDNAまたはRNA)である。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドンおよび3’(カルボキシ)末端の翻訳終止コドンによって決定される。ポリアデニル化シグナルおよび転写終結配列は、通常、コード配列に対して3’に位置するであろう。本発明の目的のために、そのような核酸配列は、ウイルス、原核生物、または真核生物のmRNAからのcDNA、ウイルスもしくは原核生物のDNAまたはRNAからのゲノム配列、および合成DNAを含むことができるが、これらに限定されない。
【0058】
本発明のポリヌクレオチドは、mTORβポリペプチドをコードする天然に存在する核酸であってもよい。例えば、配列番号1のポリヌクレオチドは、配列番号2のmTORβポリペプチドをコードする。本発明のポリヌクレオチドは、そのようなポリペプチドの変異体であってもよく、または上記に記載した天然に存在するmTORβポリペプチドの変異体をコードしてもよい。
【0059】
本発明のポリヌクレオチドは、配列番号2の連続したアミノ酸配列全体など、天然に存在するmTORβポリペプチドと少なくとも約75%の配列同一性、好ましくは、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%もしくはそれ以上、少なくとも約97%、または最も好ましくは、少なくとも約99%もしくはそれ以上の同一性を有するポリペプチドをコードしてもよい。本発明のポリヌクレオチドは、特にオープンリーディングフレームにわたって、配列番号1のヌクレオチド配列など、天然に存在するmTORβポリヌクレオチド配列または配列番号2のポリペプチドをコードする他のポリヌクレオチドと少なくとも80%、好ましくは、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%もしくはそれ以上、少なくとも約97%もしくはそれ以上、最も好ましくは、99%の配列同一性を共有してもよい。
【0060】
相同性または同一性を測定するための方法は、当該分野において周知であり、本文脈において、相同性は、核酸同一性に基づいて計算されることが当業者らによって理解されるであろう。そのような相同性は、少なくとも15、好ましくは、少なくとも30、例えば少なくとも40、60、100、200、またはそれ以上の連続ヌクレオチドの領域にわたって存在してもよい。そのような相同性は、無改変mTORβポリヌクレオチドまたは無改変mTORβポリペプチド配列の全長にわたって存在してもよい。例えば、UWGCGパッケージは、相同性を計算するために使用することができるBESTFITプログラムを提供する(例えばそのデフォルト設定で使用)(Devereuxら(1984)Nucleic Acids Research 12、387〜395ページ)。PILEUPアルゴリズムおよびBLASTアルゴリズムもまた、例えばAltschul S.F.(1993)J Mol Evol 36:290〜300ページ;Altschul,S,Fら(1990)J Mol Biol 215:403〜10ページにおいて記載されるように、相同性を計算するまたは配列を並べるために使用することができる(典型的にそれらのデフォルト設定で)。
【0061】
ヌクレオチド配列レベルまたはアミノ酸配列レベルでの相同性または配列同一性は、配列類似性検索に調整される、プログラムblastp、blastn、blastx、tblastn、およびtblastxによって用いられるアルゴリズムを使用するBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)分析によって好ましくは決定される(Altschulら(1997)Nucleic Acids Res.25、3389〜3402ページおよびKarlinら(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87、2264〜2268ページ、両者とも参照によって完全に組み込まれる)。BLASTプログラムによって使用されるアプローチは、最初に、クエリー配列およびデータベース配列の間で、ギャップを用いて(不連続)およびギャップを用いずに(連続)、類似したセグメントを考慮すること、次いで、同定された、すべてのマッチの統計的有意性を評価すること、ならびに最後に、あらかじめ選択された有意性の閾値を満たす、それらのマッチのみを集計することである。配列データベースの類似性検索における基本的な問題の論述については、参照によって完全に組み込まれるAltschulら(1994)Nature Genetics 6、119〜129ページを参照されたい。ヒストグラム、ディスクリプション、アラインメント、エクスペクト(つまり、データベース配列に対してマッチを報告するための統計的有意性閾値)、カットオフ、マトリックス、およびフィルター(低複雑性)についての検索パラメーターは、デフォルト設定とする。blastp、blastx、tblastn、およびtblastxによって使用されるデフォルトのスコア化マトリックスは、85のヌクレオチド長またはアミノ酸長にわたるクエリー配列に対して推奨されるBLOSUM62マトリックスとする(参照によって完全に組み込まれるHenikoffら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89、10915〜10919ページ)。
【0062】
blastnについては、スコア化マトリックスは、N(つまり、ミスマッチ残基に対するペナルティースコア)に対する、M(つまり、マッチ残基のペアに対するリワードスコア)の比によって設定され、MおよびNについてのデフォルト値は、それぞれ、+5および−4とする。4つのblastnパラメーターは、以下のように設定した:Q=10(ギャップ生成ペナルティー);R=10(ギャップ伸長ペナルティー);ウィンク=1(クエリーに沿ってすべてのwinkth位置でワードヒットを生成する);およびgapw=16(ギャップアラインメントが生成されるウィンドウ幅を設定する)。等価なBlastpパラメーター設定はQ=9;R=2;ウィンク=1;およびgapw=32とした。GCGパッケージバージョン10.0において入手可能な配列の間のBestfit比較は、DNAパラメーターGAP=50(ギャップクリエーションペナルティー)およびLEN=3(ギャップ伸長ペナルティー)を使用し、タンパク質比較において等価な設定はGAP=8およびLEN=2とする。
【0063】
変異ポリヌクレオチドは、3まで、5まで、10まで、15まで、20まで、30まで、50まで、100まで、またはそれ以上の変異(これらはそれぞれ、置換、欠失、または挿入であってもよい)によって、関係のあるポリヌクレオチドにおける配列と異なっていてもよい。これらの変異は、少なくとも30、例えば少なくとも40、60、もしくは100、またはそれ以上の、変異体の連続ヌクレオチドの領域にわたって、または完全長の変異体もしくはそれが由来するポリヌクレオチドにわたって測定されてもよい。
【0064】
本発明の変異ポリヌクレオチドは、配列番号1のポリヌクレオチドなどの天然に存在するmTORβポリヌクレオチドなどのmTORβポリヌクレオチドまたはそのいずれかの相補体とバックグラウンドを有意に超えるレベルでハイブリダイズすることができる。変異体および元のポリヌクレオチドの間の相互作用によって生成されるシグナルレベルは、典型的に、「バックグラウンドハイブリダイゼーション」の少なくとも10倍、好ましくは、少なくとも100倍強い。相互作用の強度は、例えば32Pを用いてプローブを放射標識することによって測定されてもよい。そのような変異体は、本発明のポリペプチドをコードしてもよく、またはコードしなくてもよい。好ましい分子は、配列番号1の相補体にハイブリダイズし、上記に定義されるようなmTORβポリペプチドなどの機能性のタンパク質をコードするものである。より好ましいハイブリダイズ分子は、配列番号1のオープンリーディングフレームの相補体鎖に上記の条件下でハイブリダイズするものである。
【0065】
そのようなハイブリダイゼーションは、好ましくは、ストリンジェントな条件下で生じる。「ストリンジェントな条件」は、(1)洗浄のために低イオン強度および高温、例えば、少なくとも50℃の温度の、0.015M NaCl/0.0015Mクエン酸ナトリウム/0.1%SDSを用いる条件または(2)ハイブリダイゼーションの間にホルムアミドなどの変性剤、例えば、42℃の、0.1%ウシ血清アルブミン/0.1% Ficoll/0.1%ポリビニルピロリドン/750mMl NaCl、75mMクエン酸ナトリウムを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)を含む50%(容量/容量)ホルムアミドを用いる条件とする。他の例は、少なくとも42℃の温度での、50%ホルムアミド、5×SSC(0.75M NaCl、0.075Mクエン酸ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%ピロリン酸ナトリウム、5×デンハート溶液、超音波処理サケ精子DNA(50μg/ml)、0.1%SDS、および10%硫酸デキストラン中でのハイブリダイゼーション、0.2×SSCおよび0.1%SDS中での42℃での洗浄とする。当業者は、明瞭で検出可能なハイブリダイゼーションシグナルを適切に得るために、ストリンジェンシー条件を容易に決定し、変えることができる。
【0066】
本発明は、コード核酸分子の断片をさらに提供する。本発明のポリヌクレオチドは、したがって、本明細書において記載されるポリヌクレオチドのいずれかの断片であってもよく、または上記に記載した断片ポリペプチドをコードしてもよい。本明細書において使用される場合、コード核酸分子の断片は、全タンパク質コード配列の小さな部分を指す。断片の大きさは、意図される使用によって決定される。例えば、断片が、タンパク質の活性部分をコードするように選ばれる場合、断片は、タンパク質の機能性の領域をコードすることができるほど十分に大きい必要がある。断片が、核酸プローブまたはPCRプライマーとして使用されることになっている場合、次いで、断片長は、プロ−ビング/プライミングの間に相対的に少数の偽陽性しか得られないように選ばれる。
【0067】
本発明によるポリヌクレオチド「断片」は、切断によって、例えば、ポリヌクレオチドの一端または両端からの1以上のヌクレオチドの除去によって作製することができる。10まで、20まで、30まで、40まで、50まで、75まで、100まで、200まで、またはそれ以上の核酸は、このように、ポリヌクレオチドの3’端末および/または5’端末から除去することができる。断片はまた、1以上の内部の欠失によって生成することができる。
【0068】
本発明の核酸分子の断片(つまり、合成オリゴヌクレオチド)は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のためにプローブもしくは特異的プライマーとして、または本発明のタンパク質をコードする遺伝子配列を合成するために使用することができる。そのような分子は、化学的な技術、例えばMatteucciら(1981)J.Am.Chem.Soc.103、3185〜3191ページのリン酸トリエステル法または自動合成法を使用することによって容易に合成することができる。そのうえ、より大きなDNAセグメントは、遺伝子の様々なモジュールセグメントを定義する一群のオリゴヌクレオチドの合成、その後に続く、完全な修飾遺伝子を構築するためのオリゴヌクレオチドのライゲーションなどのよく知られている方法によって、容易に調製することができる。好ましい実施形態において、本発明の核酸分子は、少なくとも約2121ヌクレオチドの連続したオープンリーディングフレームを含む。
【0069】
本発明のポリペプチドは、したがって、それをコードし、発現することができるポリヌクレオチドから産生することもでき、またはその形態で送達することもできる。本発明のポリヌクレオチドは、例としてSambrookら(1989、Molecular Cloning-a laboratory manual;Cold Spring Harbor Press)において記載されるように、当該分野において周知の方法によって合成することができる。すなわち、上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は、cDNAおよびゲノムライブラリーのスクリーニングまたはコード配列を含むことが知られているベクターからポリペプチドのコード配列を得ることなどによって、組換え法を使用して得ることができる。さらに、所望の配列は、フェノール抽出およびcDNAまたはゲノムDNAのPCRなどの標準的な技術を使用して、所望の配列を含有する細胞および組織から直接単離することができる。ポリヌクレオチド配列はまた、クローニングするのではなく、合成により産生することもできる。
【0070】
本発明の核酸分子は、診断上の目的およびプローブのための目的のために、検出可能な標識を含有するようにさらに改変することができる。多種多様のそのような標識は、当該分野において知られており、本明細書において記載されるコード分子とともに容易に用いることができる。適した標識は、ビオチン、放射標識ヌクレオチド、およびその他同種のものを含むが、これらに限定されない。当業者は、本発明の核酸分子の標識変異体を得るために任意のそのような標識を容易に用いることができる。翻訳の間にタンパク質配列の中に組み込まれるアミノ酸の欠失、追加、または変化による一次構造自体に対する改変は、タンパク質の活性を破壊することなく行うことができる。そのような置換または他の変化は、本発明の企図される範囲内にある核酸によってコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質をもたらす。
【0071】
[ベクターおよび宿主細胞]
本発明のポリヌクレオチドは、発現ベクターなどのベクター中に提供することができる。本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、およびベクターは宿主細胞中に提供することができる。
【0072】
本発明は、コード配列を含有する組換えDNA分子(rDNA)をさらに提供する。本明細書において使用される場合、rDNA分子は、in situで分子操作に供されるDNA分子である。rDNA分子を生成するための方法は、当該分野においてよく知られており、例えばSambrookら(2001)、Molecular Cloning-A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい。好ましいrDNA分子において、コードDNA配列は、発現コントロール配列および/またはベクター配列に作動可能に連結されている。本発明の一実施形態において、コード配列は、配列番号1またはその断片を含有する。代替の実施形態において、コード配列は、配列番号2のポリペプチドまたはその断片をコードする。
【0073】
本発明の核酸分子は、挿入配列に作動可能に連結されたコントロール配列を含み、したがって、標的被験体種におけるin vivoでの本発明のポリペプチドの発現を可能にする発現カセットの形態で提供することができる。これらの発現カセットは、引き続いて、ベクター内に典型的に提供される。適したベクターは、十分な量の遺伝情報を運ぶことができ、本発明のポリペプチドの発現を可能にすることができる任意のベクターであってもよい。
【0074】
ベクターは、さらなるプロセシングのための大量の核酸の調製のために(クローニングベクター)またはポリペプチドの発現のために(発現ベクター)、本発明の核酸の操作を単純化するために使用することができる。そのようなタンパク質は、mTORβ、配列番号2の任意のアミノ酸残基で1以上の変異を含むタンパク質、およびその誘導体ポリペプチドを含む。ベクターは、プラスミド、ウイルス(ファージを含む)、および組み込まれたDNA断片(つまり、組換えによって宿主ゲノムの中に組み込まれる断片)を含む。
【0075】
本発明のmTORβポリペプチドのコード配列が、一旦調製または単離されると、それは、任意の適したベクターの中にクローニングすることができ、それによって、mTORβコード配列を全く含まない細胞が実質的に存在しないように細胞を維持することができる。本明細書において記載されるように、多数のクローニングベクターが当業者らに知られている。クローニングベクターは、発現コントロール配列を含有する必要はない。
【0076】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチド配列またはrDNA分子を含む発現ベクターをも含む。そのような発現ベクターは、分子生物学の技術分野において日常的に構築され、例えば、プラスミドDNAならびに適切なイニシエーター、プロモーター、エンハンサー、および例えば、本発明のペプチドの発現を可能にするために必要である可能性がある、正しい向きで位置するポリアデニル化シグナルなどの他の要素の使用を伴っていてもよい。他の適したベクターは、当業者に明白であろう。さらなる例として、この点に関して、発明者らはSambrookらに言及する。したがって、本発明のポリペプチドは、そのようなベクターを細胞に送達し、ベクターから転写が生じることを可能にすることによって提供することができる。好ましくは、本発明のまたはベクター中での本発明における使用のためのポリヌクレオチドは、宿主細胞によるコード配列の発現を提供することができるコントロール配列に作動可能に連結され、つまり、ベクターは発現ベクターである。
【0077】
「作動可能に連結された」とは、そのように記載される構成成分が、それらの通常の機能を実行するように構成されている要素の配置をさす。したがって、核酸配列に作動可能に連結された、プロモーターなどの所与の調節配列は、ふさわしい酵素が存在する場合に、その配列の発現をもたらすことができる。プロモーターは、プロモーターが配列の発現を指示するように機能する限り、その配列と連続している必要はない。したがって、例えば、介在性の、翻訳されていないが、転写された配列は、プロモーター配列および核酸配列の間に存在することができ、プロモーター配列はなお、コード配列に「作動可能に連結された」と見なすことができる。
【0078】
本発明の配列をコードするタンパク質ファミリーのうちの1つが、作動可能に連結されるベクターおよび/または発現コントロール配列の選考は、当該分野においてよく知られているように、所望の機能特性、例えば、タンパク質発現および形質転換されることになっている宿主細胞に直接依存する。本発明によって企図されるベクターは、本発明のポリヌクレオチドの(例えば、rDNA分子中に含まれる構造遺伝子の)宿主染色体の中への複製または挿入を少なくとも指示することができ、そして好ましくはその発現もまた指示することができる。
【0079】
配列をコードする、作動可能に連結されたタンパク質の発現を調節するために使用される発現コントロールエレメントは、当該分野において知られており、誘発性プロモーター、構成的プロモーター、分泌シグナル、および他の調節性の要素を含むが、これらに限定されない。好ましくは、誘発性プロモーターは、宿主細胞の培地中で栄養素に応答性であるなどのように、容易にコントロールされる。
【0080】
一実施形態において、コード核酸分子を含有するベクターは、原核生物レプリコン(つまり、それを用いて形質転換された細菌宿主細胞などの原核生物宿主細胞中で、染色体外で、自律複製および組換えDNA分子の維持を指示する能力を有するDNA配列)を含むであろう。そのようなレプリコンは、当該分野においてよく知られている。そのうえ、原核生物レプリコンを含むベクターはまた、その発現が薬剤抵抗性などの検出可能なマーカーを付与する遺伝子を含んでいてもよい。典型的な細菌の薬剤抵抗性遺伝子は、アンピシリンまたはテトラサイクリンに対する抵抗性を付与する遺伝子である。
【0081】
原核生物レプリコンを含むベクターは、大腸菌(E. coli)などの細菌宿主細胞中でのコード遺伝子配列の発現(転写および翻訳)を指示することができる原核生物プロモーターまたはバクテリオファージプロモーターをさらに含むことができる。プロモーターは、RNAポリメラーゼの結合および転写が生じることを可能にするDNA配列によって形成される発現コントロールエレメントである。細菌宿主と適合性のプロモーター配列は、本発明のDNAセグメントの挿入のための好都合な制限部位を含有するプラスミドベクター中に典型的に提供される。典型的なそのようなベクタープラスミドは、pUC8、pUC9、pBR322、およびpBR329(BioRad)、pPLおよびpKK223(Pharmacia)である。
【0082】
真核細胞と適合性の発現ベクター、好ましくは脊椎動物細胞と適合性の発現ベクターもまた、コード配列を含有するベクターまたはrDNA分子を形成するために使用することができる。ウイルスベクターを含む真核細胞発現ベクターは、当該分野で周知であり、いくつかの商業的供給源から入手可能である。典型的に、そのようなベクターは、所望のDNAセグメントの挿入に好都合な制限部位を含有して提供される。典型的なそのようなベクターは、pSVLおよびpKSV−10(Pharmacia)、pBPV−1/pML2d(International Biotechnologies,Inc.)、pTDT1(ATCC)、本明細書において記載されるベクターpCDM8、ならびに同様な真核生物発現ベクターである。
【0083】
例示的な真核生物発現系は、当該分野において周知のワクシニアウイルスを用いる発現系である(例えば国際公開第86/07593号を参照されたい)。酵母発現ベクターは、当該分野において公知である(例えば米国特許第4,446,235号および同第4,430,428号を参照されたい)。他の発現系は、ベクターpHSIであり、これは、チャイニーズハムスター卵巣細胞を形質転換する(国際公開第87/02062号を参照されたい)。哺乳動物組織は、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)またはチミジンキナーゼなどの選択可能なマーカーをコードするDNA、およびmTORβまたは誘導体をコードするDNAを用いて同時形質転換されてもよい。野生型DHFR遺伝子が用いられる場合、DHFRが欠損しており、したがって、ヒポキサンチン、グリシン、およびチミジンを欠くhgt培地中でのトランスフェクションの成功に関するマーカーとしてのDHFRコード配列の使用を可能にする宿主細胞を選択することが好ましい。
【0084】
本発明のベクターとして使用されるまたは本発明のrDNA分子を構築するために使用される真核細胞発現ベクターは、真核細胞中で有効な選択可能なマーカー(好ましくは、薬剤抵抗性選択マーカー)をさらに含んでいてもよい。好ましい薬剤抵抗性マーカーは、その発現がネオマイシン抵抗性をもたらす遺伝子、つまり、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)遺伝子である(Southernら(1982)J.Mol.Anal.Genet.1、327〜341ページ)。代替的には、選択可能なマーカーは、別個のプラスミド上に存在することができ、それらの2つのベクターは、宿主細胞の同時トランスフェクションによって導入され、選択可能なマーカーについて、適切な薬剤中で培養することによって選択される。
【0085】
発現ベクター中のコントロール配列は、転写プロモーター、適したリボソーム結合部位をコードする配列、ならびに転写および翻訳の終結をコントロールする配列などの転写コントロール配列ならびに翻訳コントロール配列を含んでいてもよい。一実施形態において、発現ベクターは、mTORβ遺伝子の安定した発現を促進するためのおよび/または形質転換細胞を同定するための選択遺伝子を含んでいてもよい。しかしながら、発現を維持するための選択遺伝子は、真核生物の宿主細胞を使用して、同時形質転換系における別個のベクターによって供給することができる。
【0086】
適したベクターは、一般に、意図される発現宿主と適合性の種に由来するレプリコン(非組込みベクターにおける使用のための複製開始点)およびコントロール配列を含有する。本明細書において使用される場合、「複製可能な」ベクターという用語によって、そのようなレプリコンを含有するベクターおよび宿主ゲノム中への組込みによって複製されるベクターを包含することが意図される。
【0087】
宿主細胞のための発現ベクターは、たいてい、複製開始点、リボソーム結合部位と共に、mTORベータポリペプチドコード配列から上流に位置するプロモーター、ポリアデニル化部位、および転写終結配列を含む。発現ベクターは、転写コントロール配列および翻訳コントロール配列を含んでいてもよい。これらは、宿主細胞中でのコード配列の発現を提供するプロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、ターミネーター、およびその他同種のものなどのDNA調節配列である。当業者らは、ある種のこれらの配列は、ある種の宿主における発現に必要とされないことを十分に理解するであろう。微生物を用いる使用のための発現ベクターは、宿主によって認識される複製開始点、宿主中で機能するプロモーター、および選択遺伝子を含有する必要があるのみである。
【0088】
本明細書において使用される場合、「プロモーター配列」は、細胞中でRNAポリメラーゼに結合することができ、下流の(3’方向)コード配列の転写を開始することができるDNA調節領域である。本発明を定義する目的のために、プロモーター配列は、その3’末端で転写開始部位と境を接しており(包括的に)、バックグラウンドを超える検出可能なレベルで転写を開始するのに必要な最小数の塩基または要素を含むように上流に(5’方向)伸長する。転写開始部位およびRNAポリメラーゼの結合を担うタンパク質結合ドメインは、プロモーター配列内に見つけられる。真核生物のプロモーターは、常にではないが、「TATA」ボックスおよび「CAT」ボックスを含有することが多い。
【0089】
一般に使用されるプロモーターは、ポリオーマウイルス、ウシパピローマウイルス、CMV(サイトメガロウイルス、マウスまたはヒトのいずれか)、ラウス肉腫ウイルス、アデノウイルス、およびシミアンウイルス40(SV40)に由来する。他のコントロール配列(例えばターミネーター、polyA、エンハンサー、または増幅配列)もまた使用することができる。
【0090】
発現ベクターは、mTORβコード配列または誘導体ポリペプチドコード配列が適切な調節配列を有するベクター中に位置するように構築される。コントロール配列に関してのコード配列の位置付けおよび向きは、コード配列が、コントロール配列の「コントロール」下で転写され、翻訳される、つまり、コントロール配列でDNA分子に結合するRNAポリメラーゼが、コード配列をmRNAに転写するようなものとする。コントロール配列は、以前に記載したクローニングベクターなどのベクターの中への挿入に先立って、コード配列にライゲーションすることができる。代替的には、コード配列は、コントロール配列および適切な制限部位をすでに含有している発現ベクターの中に直接クローニングすることができる。選択される宿主細胞が哺乳動物細胞である場合、コントロール配列は、mTORβコード配列または誘導体ポリペプチドコード配列に対して異種のものであってもよく、または相同(homologous)のものであってもよく、コード配列は、イントロンを含有するゲノムDNAまたはcDNAのいずれかとすることができる。
【0091】
「シグナル配列」は、コード配列の前に含むことができる。この配列は、細胞表面にポリペプチドを向けるまたは細胞外のスペースにポリペプチドを分泌するように宿主細胞に指示するポリペプチドに対して、N末端のシグナルペプチドをコードする。このシグナルペプチドは、タンパク質が細胞を出る前に、宿主細胞によって切り取られる。シグナル配列は、原核生物および真核生物に固有の多種多様のタンパク質と関連することが分かり得る。例えば、固有の酵母タンパク質であるアルファ因子は、酵母から分泌され、そのシグナル配列は、異種タンパク質に付着して、培地の中に分泌させることができる(米国特許第4,546,082号を参照されたい)。さらに、アルファ因子およびその類似体は、サッカロミセス(Saccharomyces)およびクリベロミセス(Kluyveromyces)などの多種多様の酵母から異種タンパク質を分泌することが分かった(例えば、EP 88312306.9、EP 0324274、およびEP 0301669を参照されたい)。哺乳動物細胞における使用のための例は、VIIIc因子軽鎖を発現させるために使用されるtPAシグナルである。
【0092】
核酸構築物の「異種」領域は、自然界においてより大きな核酸分子と関連して見つけられないそのより大きな分子内の核酸の同定可能なセグメントである。したがって、異種領域が、哺乳動物遺伝子をコードする場合、その遺伝子は、通常、生物源のゲノムにおいて哺乳動物ゲノムDNAの側面に位置しないDNAが側面に位置するであろう。異種のコード配列の他の例は、コード配列それ自体が自然界において見出されない構築物(例えばゲノムコード配列がイントロンを含有するcDNAまたは固有の遺伝子と異なるコドンを有する合成配列)である。
【0093】
本発明のベクターおよび発現カセットは、宿主細胞ゲノムに相同なフランキング配列を好ましくはさらに含む「裸の核酸構築物(naked nucleic acid construct)」として直接投与することができる。本明細書において使用される場合、「裸のDNA」という用語は、その産生をコントロールするための短いプロモーター領域と共に本発明のポリヌクレオチドを含むプラスミドなどのベクターを指す。それは、ベクターがいかなる送達媒体中でも運ばれるものではないので、「裸の」DNAと呼ばれる。そのようなベクターが、真核細胞などの宿主細胞に入る場合、それがコードするタンパク質は、細胞内で転写され、翻訳される。
【0094】
本発明のベクターは、したがって、プラスミドベクター、すなわち、自律的に複製する、染色体外の環状DNA分子または線状DNA分子であってもよい。代替的には、本発明のベクターは、例えば、レトロウイルス、単純ヘルペスウイルス、およびアデノウイルスなどの組換えウイルスベクターを用いる感染などの当該分野において知られている多種多様のウイルス技術を使用して、適した宿主細胞の中に導入されてもよい。ウイルスベクターの代わりとして、リポソーム調製物は、本発明の核酸分子を送達するために代替的に使用することができ、または本発明の核酸分子は、カプセルに包んでもよく、微粒子担体に吸着させてもよく、または微粒子担体と結合させてもよい。
【0095】
本発明は、本発明のポリペプチドをコードする核酸分子を用いて形質転換された宿主細胞など、本発明のポリペプチドを発現するように改変された細胞をさらに提供する。宿主細胞は、原核生物であってもよく、または真核生物であってもよい。本発明のタンパク質の発現に有用な真核細胞は、細胞株が、細胞培養法と適合性であり、発現ベクターの増殖および遺伝子産物の発現と適合性である限り、限定されない。そのような細胞は、一過性または好ましくは安定した、哺乳動物細胞もしくは昆虫細胞などの高等真核細胞株および酵母細胞などの下等真核細胞を含む。好ましい真核生物の宿主細胞は、酵母細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞、好ましくは、マウス細胞株、ラット細胞株、サル細胞株、またはヒト細胞株からの細胞などの脊椎動物細胞を含むが、これらに限定されない。好ましい真核生物の宿主細胞は、CCL61としてATCCから入手可能なチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、CRL 1658としてATCCから入手可能なNIHスイスマウス胚細胞(NIH−3T3)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、および同様な真核生物組織培養細胞株を含む。好ましくは、選択される細胞株は、安定しているだけではなく、ポリペプチドの成熟グリコシル化および細胞表面発現を可能にする細胞株であろう。発現は、形質転換卵母細胞中で達成されてもよい。適したペプチドは、トランスジェニック非ヒト動物、好ましくはマウスの細胞中で発現させることができる。本発明のペプチドを発現するトランスジェニック非ヒト動物は、本発明の範囲内に含まれる。本発明のペプチドはまた、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)卵母細胞またはメラニン保有細胞中で発現させることができる。
【0096】
任意の原核生物宿主は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ベクター、またはrDNA分子を発現させるために使用することができる。一実施形態において、好ましい原核生物宿主は、大腸菌(E. coli)である。
【0097】
本発明のポリヌクレオチド、ベクター、またはrDNA分子による適切な細胞宿主の形質転換は、使用されるベクターおよび用いられる宿主系のタイプに典型的に依存する、周知の方法によって達成される。原核生物宿主細胞の形質転換に関して、エレクトロポレーション法および塩処理法が典型的に用いられる。例えば、Cohenら(1972)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 69、2110ページ;およびSambrookら(1989)Molecular Cloning-A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい。rDNAを含有するベクターによる脊椎動物細胞の形質転換に関して、エレクトロポレーション法、カチオン性脂質法、または塩処理法が典型的に用いられる。例えば、Grahamら(1973)Virol.52、456ページ;Wiglerら(1979)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 76、1373〜1376ページを参照されたい。
【0098】
形質転換に成功した細胞、つまり本発明のポリヌクレオチド、ベクター、またはrDNA分子を含有する細胞は、選択可能なマーカーの選択を含む、周知の技術によって同定することができる。例えば、本発明のrDNAの導入から結果として生じる細胞は、単一コロニーを産生するためにクローニングすることができる。それらのコロニーからの細胞は、採取し、溶解することができ、それらのDNA内容物は、Southern((1975)J.Mol.Biol.98、503〜504ページ)もしくはBerentら((1985)Biotech.3、208〜209ページ)によって記載される方法などの方法を使用してrDNAの存在について検査することができ、または細胞から産生されたタンパク質は、免疫学的方法によってアッセイすることができる。
【0099】
本発明のそのような細胞株は、本発明のポリペプチドを産生するために日常的な方法を使用して培養することができ、または本発明のポリペプチドを被験体に送達するために治療的にもしくは予防で使用することができる。例えば、本発明のポリペプチドを分泌することができる細胞株を、被験体に投与することができる。代替的には、本発明のポリヌクレオチド、発現カセット、またはベクターを、ex vivoで被験体由来の細胞に投与することもでき、次いで、その細胞は、被験体の体に戻すこともできる。例えば、形質転換細胞の被験体へのex vivo送達および再移植の方法は、公知である(例えば、デキストラン媒介性のトランスフェクション、リン酸カルシウム沈降、エレクトロポレーション、および核の中への直接的なマイクロインジェクション)。
【0100】
選択される発現系および宿主に応じて、目的のペプチド(mTORβまたはその変異体もしくは誘導体など)は、ポリペプチドが発現する条件下で、上記に記載される発現ベクターなどの外来性DNA構築物または異種DNA構築物によって形質転換された宿主細胞を増殖させることによって産生することができる。mTORβまたはその誘導体ポリペプチドなどの目的のペプチドは、次いで、宿主細胞から単離され、精製される。発現系が、増殖培地の中にタンパク質またはペプチドを分泌する場合、そのタンパク質は、無細胞培地から直接精製することができる。適切な増殖条件および最初の粗製回収方法の選択は、当該分野の技術の範囲内である。
【0101】
形質転換宿主細胞は、核酸をコードするmTORβまたはmTORβ誘導体ポリペプチドを含有するベクターのいずれかを用いて形質転換またはトランスフェクトされた細胞である。発現ポリペプチドは、発現ペプチド中の適したプロセシングシグナル(例えば相同的または異種のシグナル配列)のコントロール下で培養上清の中に分泌されることができる。
【0102】
細胞は、外来性または異種の核酸が細胞の内部に導入されている場合、そのような核酸によって「形質転換されている(transformed)」。形質転換核酸は、細胞のゲノムを構成する染色体DNAの中に組み込まれ(共有結合)てもよく、または組み込まれなくてもよい。原核生物において、例えば、形質転換核酸は、プラスミドまたはウイルスベクターなどのエピソームエレメント上に維持されてもよい。真核細胞に関して、安定して形質転換された細胞は、染色体複製を通して娘細胞によって遺伝されるように形質転換DNAが染色体の中に組み込まれる細胞である。この安定性は、真核細胞が、形質転換核酸を含有する娘細胞の集団から構成される細胞株またはクローンを確立する能力によって実証される。
【0103】
本明細書において使用される場合、「細胞株」は、何世代もの間、in vitroでの安定した増殖が可能な初代細胞のクローンである。本明細書において使用される場合、核酸配列は、少なくとも約85パーセント(好ましくは、少なくとも約90パーセント、より好ましくは、少なくとも約95パーセント、より好ましくは、少なくとも約97パーセント、最も好ましくは、少なくとも約99パーセント)の、ヌクレオチド配列の定義された長さにわたってヌクレオチドがマッチする場合、「実質的な同一性」を示す。実質的に同一の配列は、例えば、特定のその系について定義されるようなストリンジェントな条件下で、サザンハイブリダイゼーション実験において同定することができる。適切なハイブリダイゼーション条件の定義は、当該分野の技術の範囲内である。
【0104】
高等真核細胞培養物は、脊椎動物細胞由来であっても昆虫を含む無脊椎動物細胞由来であっても、本発明のタンパク質を発現させるために使用することができ、その増殖の手順は公知である。
【0105】
[rDNA分子を使用する組換えタンパク質の産生]
本発明は、本明細書において記載される核酸分子を使用して、本発明のタンパク質を産生するための方法をさらに提供する。大まかに言えば、タンパク質の組換え形態の産生は以下のステップを典型的に伴う。第1に、配列番号2のアミノ酸またはその誘導体をコードする核酸配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなる核酸分子などの本発明のタンパク質をコードする核酸分子が得られる。第2に、その核酸分子は、次いで、上記に記載されるように、適したコントロール配列を有する作動可能な連結中に好ましくは配置されて、タンパク質オープンリーディングフレームを含有する発現ユニットを形成する。
【0106】
発現ユニットは、適した宿主を形質転換するために使用され、形質転換宿主は、組換えタンパク質の産生を可能にする条件下で培養される。必要に応じて、組換えタンパク質は培地または細胞から単離され、タンパク質の回収および精製は、いくつかの不純物が許容されてもよいある場合において、必要ではないことがある。
【0107】
それぞれの先のステップは、多種多様の方法において行うことができる。例えば、所望のコード配列は、ゲノム断片から得られ、適切な宿主中で直接使用することができる。多種多様の宿主中で作動可能な発現ベクターの構築は、上記に記載されるように、適切なレプリコンおよびコントロール配列を使用して達成される。コントロール配列、発現ベクター、および形質転換方法は、遺伝子を発現させるために使用される宿主細胞のタイプに応じ、またこれらは、前に詳細に論じられた。適した制限部位は、通常で入手可能ではない場合、これらのベクターの中に挿入するための切り取ることができる遺伝子を提供するために、コード配列の末端に追加することができる。当業者は、組換えタンパク質を産生するために、当該分野において公知の任意の宿主/発現系を本発明の核酸分子を用いる使用に容易に適応させることができる。
【0108】
[抗体]
本発明の他のクラスの作用物質は、mTORベータ(mTORβ)と免疫反応性の抗体である。好ましい実施形態において、抗体は、mTORアルファとではなく、mTORベータ(mTORβ)と免疫反応性である。抗体作用物質は、抗体によって標的とされるように意図されるタンパク質のそれらの部分を抗原性領域として含有するペプチドを用いて適した哺乳動物被験体を免疫化することによって得られる。抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナルであってもよい。
【0109】
mTORベータの活性部位に結合する抗体は、本発明において包含される。本発明の一実施形態において、抗体は、4E−BP1をリン酸化するmTORベータの活性部位に結合する。本発明の他の実施形態において、抗体は、S6K1をリン酸化するmTORベータの活性部位に結合する。代替の実施形態において、抗体は、cMyc発現の誘発を導くmTORベータ中の部位に結合する。
【0110】
このタンパク質の活性を阻害することができる抗体もまた、本発明において包含される。
【0111】
抗体は、十分な長さである場合、mTORベータ(mTORβ)、変異体、および単離結合パートナーなど、本発明のペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質、または所望の場合もしくは免疫原性を増強することが必要とされる場合、適した担体にコンジュゲートしたそれらを使用して、適切な免疫化プロトコールにおいて、適した哺乳動物宿主を免疫することによって調製される。ウシ血清アルブミン(BSA)、キーホールリンペットヘモシニアン(KLH)、または他の担体タンパク質などの担体との免疫原性コンジュゲートを調製するための方法は、当該分野においてよく知られている。ある状況において、例えば、カルボジイミド試薬を使用する直接的な抱合は、有効である可能性があり、他の場合において、当該分野においてよく知られている連結試薬は、ハプテンへの到達性を提供するのに望ましい可能性がある。ハプテンペプチドは、例えば担体への連結を促進するために、システイン残基を用いてアミノ末端もしくはカルボキシ末端のいずれかで伸長させることができるまたはシステイン残基を散在させることができる。免疫原の投与は、当該分野において一般に理解されるように、適した期間にわたる注射によって、適したアジュバントを使用して一般に行われる。免疫化スケジュールの間に、抗体の力価は、抗体形成の妥当性を決定するために得られる。
【0112】
抗ペプチド抗体は、例えば、mTORベータ(mTORβ)のカルボキシ末端15アミノ酸に対応する合成ペプチドを使用して生成することができる。キナーゼ上のリン酸化部位に結合する抗体もまた生成することができ、これらは、mTORベータ(mTORβ)タンパク質上のリン酸化部位に結合する抗体を含む。合成ペプチドは、1〜3アミノ酸長ほどの小さいものとすることができるが、好ましくは、少なくとも4またはそれ以上のアミノ酸残基長とする。ペプチドは、標準的な方法を使用してKLHに連結させ、ウサギなどの動物の中に免疫することができる。ポリクローナル抗mTORベータ(mTORβ)抗体は、次いで、例えば、共有結合ペプチドを含有するActigelビーズを使用することによって精製することができる。
【0113】
このように産生されたポリクローナル抗血清は、医薬組成物のための、いくつかの適用に満足のいくようなものであってもよいが、モノクローナル調製物の使用が好ましい。所望のモノクローナル抗体を分泌する不死化細胞株は、一般に知られているように、リンパ球または脾臓細胞の不死化をもたらすKohlerおよびMilsteinの標準的な方法または改良版を使用して調製することができる。所望の抗体を分泌する不死化細胞株は、抗原がペプチドハプテンであるイムノアッセイによってスクリーニングされる。ポリペプチドまたはタンパク質。所望の抗体を分泌する適切な不死化細胞培養物が、同定される場合、細胞は、in vitroでまたは腹水中での生産によって培養することができる。特に興味があるのは、FK506/ラパマイシンドメイン、キナーゼドメイン、または調節性ドメインを認識するモノクローナル抗体である。
【0114】
次いで、所望のモノクローナル抗体は、培養上清または腹水上清から回収される。免疫学的に有意な部分を含有するモノクローナルまたはポリクローナル抗血清の断片は、アンタゴニストおよび完全抗体(intact antibody)として使用することができる。Fav断片、scFV断片、Fab断片、Fab’断片、またはF(ab’)2断片などの免疫学的に反応性の断片の使用は、これらの断片が、一般に、全免疫グロブリンほど免疫原性ではないので、特に治療的状況において好ましいことが多い。
【0115】
F(ab)2断片、Fab断片、およびFv断片などの抗原結合性断片、つまり、抗原結合部位を含む、抗体の「可変」領域からの抗体断片を使用することができる。抗体は、ヒト変異体、ヒト化変異体、または先のもののキメラ変異体であってもよい。そのような抗体は、被験体に投与される場合、それほど免疫原性とならない可能性がある。ヒト化抗体またはキメラ抗体を生産するための方法は、当該分野においてよく知られている。企図される抗体はまた、異なるアイソタイプおよびアイソタイプサブクラス(例えばIgG1、IgG2、およびIgM)を含む。これらの抗体は、脊椎動物において、ハイブリドーマ細胞株中で、もしくは他の細胞株中で、それらを産生させることによって、または組換え手段によって調製することができる。これらの抗体を調製する方法に対する言及については、Harlow & Lane(1988)、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Pressを参照されたい。
【0116】
抗体または断片はまた組換え手段によって、現在の技術を使用して産生することができる。受容体の所望の領域に特異的に結合する領域もまた、多数の種起源を有するキメラとの関連において産生することができる。
【0117】
[治療方法]
本発明はまた、mTORベータの異常な発現と関連する疾患の治療のための方法であって、mTORベータの活性および/または発現を調整することができる作用物質の有効量をその必要のある被験体に投与するステップを含む方法に関する。そのような作用物質は、そのため、そのような疾患の治療(治療的なものであってもよいおよび/もしくは予防的なものであってもよい)、診断、または予防において使用することができる。異常な発現は、例えば、mTORベータの発現の増加またはmTORベータの発現の減少であってもよい。適した作用物質は、mTORベータのレベルを補足することになっているかまたは低下させることになっているかに応じて選択することができる。
【0118】
一実施形態において、作用物質は、mTORベータの阻害剤である。そのような阻害剤は、例えば、mTORベータ遺伝子の発現もしくはタンパク質産生を阻害またはそれを妨げることによって、あるいはmTORベータのmRNAもしくはタンパク質を除去または分解するように作用することによって、存在するmTORベータの量を低下させるように作用することができる。そのような阻害剤は、mTORベータの活性、例えば上記に論じられるようなmTORベータの任意の活性または機能を低下させるように作用することができる。適した阻害剤は、mTORベータに結合し、その機能を妨げる分子であってもよい。例えば、適した阻害剤は、mTORベータに結合する抗体であってもよい。他の実施形態において、作用物質は、mTORベータアンタゴニストである。
【0119】
他の実施形態において、作用物質は、mTORベータのプロモーターまたはアクチベーターである。そのような作用物質は、存在するmTORベータタンパク質の量を増加させるように作用することができる。例えば、作用物質は、本明細書に記載されているポリヌクレオチド、ベクター、rDNA、ポリペプチド、または宿主細胞であってもよい。作用物質は、例えば、細胞または生物内での分解プロセスに対するmRNAまたはポリペプチドの抵抗性を増加させることによって、mTORベータのmRNAまたはポリペプチドのライフスパンを増加させるように作用することができる。そのような作用物質は、mTORベータの活性または機能、例えば、上記に論じられるようなmTORベータの任意の活性または機能を増加させるように作用することができる。
【0120】
mTORベータの活性および/または発現を調整することができる有効量は、本明細書に記載されている、適した効果を発揮する量であってもよい。例えば、適した量のmTORベータ阻害剤は、mTORベータの活性に対して阻害効果を発揮するのに十分な量であってもよい。有効量はまた、異常なmTORベータ発現を示す細胞の増殖を阻害するのに有効な量であってもよい。
【0121】
この方法のいくつかの実施形態において、mTORベータの異常な発現と関連する疾患は、前立腺癌、乳癌、多発性骨髄腫、肺癌、非小細胞肺癌、骨癌、肝臓癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚黒色腫もしくは眼球内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部癌、胃癌、結腸癌、子宮癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頚癌、膣癌、外陰癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、慢性白血病もしくは急性白血病、リンパ球性リンパ腫、膀胱癌、腎臓癌もしくは尿管癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)新生物、神経外胚葉性癌、脊髄軸腫瘍、神経膠腫、髄膜腫、下垂体腺腫、または先の癌の1つ以上の組合せを含むが、これらに限定されない癌である。前記方法の他の実施形態において、前記異常細胞増殖は、乾癬、良性前立腺肥大症、肥大、または再狭窄(restinosis)を含むが、これらに限定されない良性増殖疾患である。
【0122】
本発明の一実施形態において、作用物質は、キナーゼ阻害剤である。本発明の方法において使用することができる例示的なタイプのキナーゼ阻害剤は、ラパマイシン、例えばRAD001(Lane(2003)Mol.Targets Cancer Therapeut.259〜260ページ)、CCI−779、およびAP23573などのラパマイシン誘導体を含むが、これらに限定されない。
【0123】
本発明の方法を実施する際に、これらの作用物質は、単独でまたは他の活性成分もしくは非活性成分と組み合わせて使用することができる。そのため、本発明の方法は、癌を含む異常細胞増殖と関連する疾患の治療のために、細胞傷害剤に連結された作用物質を含むポリペプチドの投与を含む。細胞傷害剤の例は、ゲロニン、リシン、サポニン、シュードモナス外毒素、ヨウシュヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、ジフテリア毒素、補体タンパク質、または細胞との接触に際してその細胞を死滅させることができる当該分野において知られている任意の他の作用物質を含むが、これらに限定されない。
【0124】
本発明はまた、本明細書に記載されている分子および作用物質を含む医薬組成物などの組成物に及ぶ。上記に記載したポリヌクレオチド、発現カセット、ベクター、ポリペプチド、細胞、または抗体などの本発明の分子を含む組成物の製剤は、すべて、当業者に容易に入手可能な、標準的な医薬製剤化学および方法論を使用して実行することができる。例えば、本発明の1以上の分子を含有する組成物は、1以上の薬学的に許容できる賦形剤またはビヒクルと組み合わせることができる。湿潤剤または乳化剤、pH緩衝物質、およびその他同種のものなどの補助物質は、賦形剤またはビヒクル中に存在していてもよい。これらの賦形剤、ビヒクル、および補助物質は、一般に、組成物を受ける個体において免疫応答を誘発せず、過度の毒性を伴うことなく投与することができる医薬品である。薬学的に許容できる賦形剤は、水、生理食塩水、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、グリセロール、およびエタノールなどの液体を含むが、これらに限定されない。例えば、薬学的に許容できる塩、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、およびその他同種のものなどの鉱酸塩、ならびに酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩、およびその他同種のものなどの有機酸の塩もまた、その中に含むことができる。薬学的に許容できる賦形剤、ビヒクル、および補助物質の詳細な論述は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Pub.Co.、N.J.1991)において入手可能である。
【0125】
したがって、本発明は、本発明のポリペプチド(例えば、mTORベータまたはその変異体もしくは誘導体)などの本明細書に記載されている分子および希釈剤を含む組成物をさらに提供する。適した希釈剤は、水性もしくは非水性の溶剤またはその組合せとすることができ、追加の構成成分、例えば、タンパク質またはポリペプチドの安定性、可溶性、活性、および/または貯蔵に寄与する水溶性の塩またはグリセロールを含むことができる。
【0126】
医薬組成物はまた、mTORベータの活性および/または発現を調整することができる1以上の作用物質ならびに薬学的に許容できる担体を含んでいてもよく、それらから本質的になってもよく、またはそれらからなってもよい。そのような組成物は、上記に記載した本発明の治療法の一部として投与されることになっている作用物質を含んでいてもよい。本発明の医薬組成物は、作用部位へ送達するために薬学的に使用することができる調製物への活性化合物のプロセシングを促進する、賦形剤および助剤を含む、適した薬学的に許容できる担体を含有し得る。非経口投与に適した製剤は、水溶性の形態(例えば、水溶性の塩)の活性化合物の水溶液を含む。そのうえ、適切な油性注射懸濁剤としての活性化合物の懸濁剤を投与することができる。適した脂肪親和性の溶媒またはビヒクルは、脂肪油、例えばゴマ油または合成脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチルまたはトリグリセリドを含む。水性の注射懸濁剤は、懸濁剤の粘性を増加させる物質を含有し得る。そのような粘性を増加させる物質の例は、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、およびデキストランを含む。必要に応じて、懸濁剤はまた、安定剤を含有し得る。リポソームもまた、細胞の中への送達のために作用物質をカプセルに包むために使用することができる。
【0127】
mTORベータの活性および/または発現を調整することができる1以上の作用物質を含む医薬組成物などの本発明の医薬組成物は、非経口、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、鞘内、頭蓋内、もしくは経皮または頬側の経路を介して投与することができる。例えば、作用物質は、マイクロインフュージョンを介して腫瘍または異常なmTORベータ発現の部位に局所的に投与することができる。代替的にまたは同時に、投与は、経口経路によるものとしてもよい。投与される投薬量は、レシピエントの年齢、健康状態、および体重、もしあれば併用の治療の種類、治療の頻度、ならびに所望の効果の性質に依存するであろう。
【0128】
個々の必要量は変わるが、それぞれの構成成分の有効量の最適な範囲の決定は、当該分野の技術の範囲内である。本発明のmTORベータの活性および/または発現を調整することができる作用物質の投薬量は、典型的に、約1.0ng/体重kg〜約0.13mg/体重kgを含む。一実施形態において、mTORベータの活性および/または発現を調整することができる作用物質の投薬量は、約1.0ng/体重kg〜約0.1mg/体重kgを含む。好ましい実施形態において、全身投与のための投薬量は、約0.01μg/体重kg〜約0.1mg/体重kgを含む。他の実施形態において、mTORベータの活性および/または発現を調整することができる作用物質の投薬量は、約0.1mg/体重kg未満を含む。全身投与のためのより好ましい投薬量は、約0.1μg/体重kg〜約0.05mg/体重kgを含む。他の好ましい実施形態において、mTORベータの活性および/または発現を調整することができる作用物質の投薬量は、約0.05mg/体重kg未満を含む。全身投与のための最も好ましい投薬量は、約1.0μg/体重kg〜約0.01mg/体重kgの間で含まれる。他の実施形態において、投与される、mTORベータの活性および/または発現を調整することができる作用物質の量は、血清中の、mTORベータの活性および/または発現を調整することができる作用物質の濃度を、約20.0、10.0、5.0、2.50、1.25、0.625、0.3125、0.156、0.078、0.039、0.020、0.010、0.005、0.003、0.0015、0.0008、0.0003、または0.0001nMの濃度に至らせるのに有効な量である。マイクロインフュージョンを介しての部位への直接投与のための好ましい投薬量は、1ng/体重kg〜1mg/体重kgを含む。
【0129】
本発明による全身投与のための医薬製剤は、腸内投与、非経口投与、または局所投与用に製剤することができる。実際に、3つのタイプすべての製剤は、有効成分の全身投与を達成するために同時に使用することができる。
【0130】
本発明のいくつかの方法について上記に言及されるように、局所投与を使用することができる。液剤、懸濁剤、ゲル、軟膏剤、または硬膏およびその他同種のものなどの任意の一般の局所製剤が用いられてもよい。そのような局所製剤の調製物は、例えば、Gennaroら(2000)Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishingによって例示されるように、医薬製剤の技術分野において記載される。局所適用については、組成物はまた、特にエアロゾル形態の散剤または噴霧剤として投与することもできる。いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、吸入によって投与することができる。吸入療法については、有効成分は、計量吸入器による投与に有用な液剤中のものとしてもよく、または乾燥散剤吸入器に適した形態であってもよい。他の実施形態において、組成物は、気管支洗浄による投与に適している。
【0131】
経口投与に適した製剤は、硬質ゼラチンカプセル剤もしくは軟質ゼラチンカプセル剤、丸剤、コーティング錠を含む錠剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、または吸入剤およびその徐放性形態を含む。
【0132】
治療目的の本発明の組成物および方法は、例えば、ヒト、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、ラット、およびマウスなどの哺乳動物においてin vivoでまたはex vivoで通常利用することができる。本発明は、ヒト被験体の治療において特に有用である。
【0133】
[mTORベータの発現および/または活性を調整する作用物質を同定するための方法]
本発明はまた、mTORベータの発現および/または活性を調整する作用物質を同定する(すなわち、スクリーニングする)ための方法を提供する。本発明の一実施形態において、作用物質は、mTORベータの発現を調整する。他の実施形態において、作用物質は、mTORベータの活性を調整する。mTORの発現および/または活性の減少は、mTORベータを阻害する作用物質を示す。mTORの発現および/または活性の増加は、mTORベータを刺激する作用物質を示す。
【0134】
本発明の他の実施形態は、配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質などのmTORベータ(mTORβ)タンパク質をコードする核酸の発現を調整する作用物質を同定するための方法を提供する。そのようなアッセイは、本発明の核酸の発現レベルの変化をモニターする任意の入手可能な手段を利用してもよい。本明細書において使用される場合、作用物質は、その作用物質が、細胞中の核酸の発現をアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることができる場合、本発明の核酸(例えば、配列番号2の配列を有するタンパク質をコードする核酸または配列番号1を有する核酸)の発現を調整すると表現される。
【0135】
したがって、本発明は、mTORベータの活性および/または発現を調整する作用物質をスクリーニングするための、またはそれらの同定のための方法を提供する。
【0136】
本発明の方法は、
(a)本発明のポリペプチド(本発明のポリペプチドまたは本発明のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドなど)を提供するステップと、
(b)前記ポリペプチドを試験作用物質と接触させるステップと、
(c)前記ポリペプチドの活性の任意の変化を検出するステップと
を含むことができ、活性の変化は、mTORベータ活性を調整することができる作用物質を示す。
【0137】
等価な方法もまた、例えば、遺伝子発現を調整することができる作用物質またはmTORベータmRNAのレベルもしくはその転写を調整することができる作用物質を同定するために、本発明のポリヌクレオチドを使用して実行することができる。
【0138】
本発明の方法は、in vitroでまたはin vivoで実行することができる。本発明の方法は、単離(もしくは実質的に単離された)ポリペプチドまたは精製(もしくは実質的に精製された)ポリペプチドを使用して実行することができる。
【0139】
代替的には、ポリペプチドを含む細胞中で方法を実行することができる。例えば、そのような方法は、
(a)本発明のポリペプチド(本発明のポリペプチドまたは本発明のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドなど)を含むまたは発現する宿主細胞などの本発明の宿主細胞を提供するステップと、
(b)前記宿主細胞を試験作用物質と接触させるステップと、
(c)前記ポリペプチドの発現および/または活性の任意の変化を検出するステップと
を含むことができ、発現および/または活性の変化は、mTORベータの発現および/または活性を調整することができる作用物質を示す。
【0140】
特定の方法は、
(a)本発明のポリペプチドを発現する細胞を作用物質に曝露するステップと、
(b)前記ポリペプチドの発現および/または活性の変化を検出するステップと
を含むことができ、発現および/または活性の変化は、mTORベータの発現および/または活性を調整することができる作用物質を示す。
【0141】
1つのアッセイフォーマットにおいて、mTORベータ(例えば配列番号1)のオープンリーディングフレームと任意のアッセイすることができる融合パートナーの間にレポーター遺伝子融合物を含有する細胞株を調製することができる。多数のアッセイすることができる融合パートナーは、知られており、容易に入手可能であり、ホタルルシフェラーゼ遺伝子およびクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を含む(Alamら、1990 Anal.Biochem.188、245〜254ページ)。次いで、レポーター遺伝子融合物を含有する細胞株は、作用物質またはコントロールに曝露されて、適切な条件および時間下で試験される。作用物質に曝露されたサンプルとコントロールサンプルの間のレポーター遺伝子の差異のある発現により、mTORベータをコードする核酸の発現を調整する作用物質を同定する。
【0142】
他のアッセイフォーマットにおいて、作用物質がmTORベータ発現を調整する能力は、例えば、mTORベータ発現の調整の結果として発現が調整されるc−Mycなどのタンパク質の発現の測定に基づくものである。
【0143】
追加のアッセイフォーマットは、作用物質が、mTORベータなどの本発明のタンパク質をコードする核酸の発現を調整する能力をモニターするために使用することができる。例えば、mRNA発現は、本発明の核酸へのハイブリダイゼーションによって直接モニターされてもよい。細胞株は、作用物質および/またはmTORベータを含むポリペプチドに曝露されて、適切な条件および時間下で試験され、全RNAまたはmRNAは、Sambrookら(2001)Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Pressにおいて開示されている手順などの標準的な手順によって単離される。
【0144】
作用物質に曝露された細胞とコントロール細胞の間のRNA発現レベルの差異を検出するためのプローブは、本発明の核酸から調製することができる。必ずしもではないが、ハイストリンジェンシーの条件下で標的核酸とのみハイブリダイズするプローブを設計することが好ましい。ハイストリンジェンシーの条件下では、高度に相補的な核酸ハイブリッドのみ形成される。したがって、アッセイ条件のストリンジェンシーは、ハイブリッドを形成するための、2つの核酸鎖の間に存在するべき相補性の程度を決定する。ストリンジェンシーは、プローブ:標的ハイブリッドおよび潜在的なプローブ:非標的ハイブリッドの間の安定性の差異を最大限にするように選ぶべきである。
【0145】
プローブは、当該分野において知られている方法を通して本発明の核酸から設計されてもよい。例えば、プローブのG+C含有量およびプローブ長は、その標的配列へのプローブ結合に影響を与え得る。プローブ特異性を最適化するための方法は、一般に、Sambrookら(2001)またはAusubelら(1995)Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing Company)において入手可能である。
【0146】
ハイブリダイゼーション条件は、それぞれのプローブに必要とされるように、Sambrookら(2001)およびAusubelら(1995)によって記載される方法などの知られている方法を使用して改良される。全細胞RNAまたはpolyA RNAに富んだRNAのハイブリダイゼーションは、任意の入手可能なフォーマットにおいて達成することができる。例えば、全細胞RNAまたはpolyA RNAに富んだRNAは、固体支持体に付けることができ、固体支持体は、プローブが、特異的にハイブリダイズであろう条件下で、本発明の配列の少なくとも1つまたはその1つの一部分を含む少なくとも1つのプローブに曝露させることができる。代替的には、本発明の配列の少なくとも1つまたはその1つの一部分を含む核酸断片は、多孔質ガラスウエハーなどの固体支持体に付けることができる。ガラスウエハーは、次いで、付けられた配列が特異的にハイブリダイズであろう条件下でサンプルからの全細胞RNAまたはpolyA RNAに曝露することができる。そのようなガラスウエハーおよびハイブリダイゼーション法、例えばBeattie(国際公開第95/11755号)によって開示されているものは、広く入手可能である。未処理細胞集団および作用物質に曝露された細胞集団のRNAサンプルに所与のプローブが特異的にハイブリダイズする能力について検査することによって、mTORベータタンパク質をコードする核酸の発現をアップレギュレートするまたはダウンレギュレートする作用物質。
【0147】
本発明はまた、配列番号2のポリペプチドなどのmTORベータポリペプチドの少なくとも1つの活性を調整する作用物質を同定するための方法を提供する。そのような方法またはアッセイは、所望の活性をモニターまたは検出する任意の手段を利用してもよい。これらのアッセイは、mTORベータのリン酸化の検出、S6K1のリン酸化の検出、4E−BP1のリン酸化の検出、cMyc発現の誘発をモニターすること、またはS6K1および/もしくは4E−BP1が第2のタンパク質をリン酸化する能力をモニターすることを含んでいてもよい。本発明の一実施形態において、mTORベータの活性は、PKB/Aktのリン酸化の検出に基づいて検出される。
【0148】
1つのフォーマットにおいて、非曝露コントロール細胞集団と比較して、試験されることとなる作用物質に曝露された細胞集団の間の標準単位に標準化された本発明のタンパク質の比活性が、アッセイされてもよい。細胞株または細胞集団は、適切な条件および時間下で試験されることとなる作用物質に曝露される。細胞溶解物は、曝露された細胞株または細胞集団およびコントロールの非曝露細胞株または集団から調製することができる。次いで、細胞溶解物はプローブを用いて分析される。
【0149】
抗体プローブは、本発明のタンパク質またはその抗原含有断片を使用し、適切な免疫化プロトコールを利用する、適した哺乳動物宿主の免疫によって調製することができる。免疫原性を増強するために、これらのタンパク質または断片は、適した担体に抱合してもよい。BSA、KLH、または他の担体タンパク質などの担体との免疫原性コンジュゲートを調製するための方法は、当該分野においてよく知られている。ある状況において、例えば、カルボジイミド試薬を使用する直接的な抱合は、有効である可能性があり、他の場合において、Pierce Chemical Co.によって供給される連結試薬などの連結試薬は、ハプテンへの到達性を提供するのに望ましい可能性がある。ハプテンペプチドは、担体への連結を促進するために、例えばシステイン残基を用いてアミノ末端もしくはカルボキシ末端のいずれかで伸長させることができるまたはシステイン残基を散在させることができる。免疫原の投与は、当該分野において一般に理解されるように、適した期間にわたる注射によって、適したアジュバントを使用して一般に行われる。免疫化スケジュールの間に、抗体の力価は、抗体形成の妥当性を決定するために得られる。
【0150】
このように産生されたポリクローナル抗血清は、医薬組成物のための、いくつかの適用に満足のいくようなものである可能性があるが、モノクローナル調製物の使用が好ましい。所望のモノクローナル抗体を分泌する不死化細胞株は、標準的な方法を使用して調製することができる。例えば、一般に知られているように、リンパ球または脾臓細胞の不死化をもたらすKohler & Milstein(1992) Biotechnology 24、524〜526ページまたは改良版を参照されたい。所望の抗体を分泌する不死化細胞株は、抗原がペプチドハプテン、ポリペプチド、またはタンパク質であるイムノアッセイによってスクリーニングすることができる。所望の抗体を分泌する適切な不死化細胞培養物が、同定される場合、細胞は、in vitroでまたは腹水中での産生によって培養することができる。
【0151】
所望のモノクローナル抗体は、培養上清または腹水上清から回収することができる。免疫学的に有意な部分を含有するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗血清の断片は、アンタゴニストおよび完全抗体として使用することができる。Fab断片またはFab’断片などの免疫学的に反応性の断片の使用は、これらの断片が、一般に、全免疫グロブリンほど免疫原性ではないので、特に治療的状況において好ましいことが多い。
【0152】
抗体または断片はまた、組換え手段によって、現在の技術を使用して産生することができる。タンパク質の所望の領域に特異的に結合する抗体領域もまた、多数の種起源を有するキメラとの関連において産生することができる。タンパク質の所望の領域に特異的に結合する抗体領域もまた、多数の種起源を有するキメラ、例えばヒト化抗体との関連において産生することができる。抗体は、そのため、米国特許第5,585,089号またはRiechmannら(1988)Nature 332、323〜327ページにおいて記載されるように、ヒト化抗体またはヒト抗体とすることができる。
【0153】
上記の方法においてアッセイされる作用物質は、無作為に選択することができ、または合理的に選択もしくは設計することができる。本明細書において使用される場合、作用物質は、その作用物質が、本発明のタンパク質の結合に、単独でまたはその関連する基質、結合パートナーなどと共に関連する特異的配列を考慮せずに無作為に選ばれる場合、無作為に選択されると表現される。無作為に選択される作用物質の例は、化学ライブラリーもしくはペプチドコンビナトリアルライブラリーまたは生物の増殖ブロスの使用である。
【0154】
本明細書において使用される場合、作用物質は、その作用物質が、作用物質の作用に関連する標的部位の配列またはそのコンホメーションを考慮に入れる、無作為ではない基準で選ばれる場合、合理的に選択または設計されると表現される。作用物質は、これらの部位を構成するペプチド配列を利用することによって合理的に選択または合理的に設計することができる。例えば、合理的に選択されるペプチド作用物質は、アミノ酸配列が任意の機能性のコンセンサス部位と同一であるまたはその誘導体であるペプチドとすることができる。
【0155】
本発明の作用物質は、例として、ペプチド、ペプチドミメティック、抗体、抗体断片、小分子、ビタミン誘導体、および炭水化物とすることができる。本発明のペプチド作用物質は、当該分野において知られているように、標準的な固相(または液相)ペプチド合成法を使用して調製することができる。そのうえ、これらのペプチドをコードするDNAは、市販で入手可能なオリゴヌクレオチド合成装置を使用して合成されてもよく、標準的な組換え産生システムを使用して組換えで産生してもよい。非遺伝子コードアミノ酸が含まれることとなる場合、固相ペプチド合成を使用する産生が必要とされる。
【0156】
[結合パートナーを同定するための方法]
本発明の他の実施形態は、mTORベータまたは誘導体の結合パートナーの単離および同定における使用のための方法を提供する。一般に、本発明のタンパク質は、潜在的な結合パートナーの本発明のタンパク質との結合を可能にする条件下で、潜在的な結合パートナーまたは細胞の抽出物もしくは画分と混合される。混合の後に、本発明のタンパク質と結合するようになったペプチド、ポリペプチド、タンパク質、または他の分子は、混合物から分離される。本発明のタンパク質に結合した結合パートナーは、次いで、取り出し、さらに分析することができる。結合パートナーを同定し、かつ単離するために、全タンパク質、例えば配列番号2の全アミノ酸配列を含むタンパク質または配列番号1のヌクレオチドによってコードされるタンパク質を使用することができる。代替的には、タンパク質の断片を使用してもよい。
【0157】
本明細書において使用される場合、細胞抽出物は、溶解または破壊された細胞から作製される調製物または画分を指す。細胞抽出物の好ましい供給源は、アレルギー性過敏症を有する患者におけるヒト皮膚組織もしくはヒト気道に由来する細胞またはヒト肺組織の生検サンプルに由来する細胞であろう。代替的には、細胞抽出物は、正常組織または入手可能な細胞株、特に顆粒球細胞株から調製することができる。
【0158】
多種多様の方法を、細胞の抽出物を得るために使用することができる。細胞は、物理的または化学的な破壊方法を使用して破壊することができる。物理的な破壊方法の例は、超音波処理および機械的分断を含むが、これらに限定されない。化学的な溶解方法の例は、界面活性剤による溶解および酵素による溶解を含むが、これらに限定されない。当業者は、本方法における使用のための抽出物を得るために、細胞抽出物を調製するための方法を容易に適応させることができる。
【0159】
細胞の抽出物が調製されたら、抽出物は、タンパク質の結合パートナーとの結合が生じ得る条件下で本発明のタンパク質と混合される。多種多様の条件を使用することができ、最も好ましいのは、ヒト細胞の細胞質において見つけられる条件に非常によく類似している条件である。オスモル濃度、pH、温度、および使用される細胞抽出物の濃度などの特徴は、タンパク質の結合パートナーとの結合を最適化するために変えることができる。
【0160】
適切な条件下で混合した後に、結合した複合体は、混合物から分離される。多種多様の技術は、混合物を分離するために利用することができる。例えば、本発明のタンパク質に特異的な抗体は、結合パートナー複合体を免疫沈降させるために使用することができる。代替的には、クロマトグラフィーおよび密度/沈降遠心分離などの標準的な化学的な分離技術を使用することができる。
【0161】
抽出物中に見つけられる非結合細胞性成分の除去の後に、結合パートナーは、従来の方法を使用して、複合体から解離させることができる。例えば、解離は、混合物の塩濃度またはpHを変化させることによって達成することができる。混合された抽出物から結合している結合パートナーペアを分離することを支援するために、本発明のタンパク質は、固体支持体上に固定することができる。例えば、タンパク質は、ニトロセルロースマトリックスまたはアクリル酸ビーズに付着させることができる。固体支持体へのタンパク質の付着は、抽出物中に見つけられる他の成分からペプチド/結合パートナーペアを分離することを支援する。同定された結合パートナーは、単一タンパク質または2つ以上のタンパク質から構成される複合体のいずれかとすることができる。代替的には、結合パートナーは、Takayamaら(1997)Methods Mol.Biol.69、171〜184ページもしくはSauderら(1996)J.Gen.Virol.77、991〜996ページの手順に従って、ファーウェスタンアッセイを使用して同定することができる。またはエピトープタグ付きタンパク質もしくはGST融合タンパク質を使用して同定することができる。
【0162】
代替的には、本発明の核酸分子は、酵母2ハイブリッド系において使用することができる。酵母2ハイブリッド系は、他のタンパク質パートナーペアを同定するために使用され、本明細書において記載される核酸分子を用いるために容易に適応させることができる。
【0163】
さらなる説明を伴うことなく、当業者は、先の説明および以下の例示的な実施例を使用して、本発明の作用物質(例えば核酸およびポリペプチド)を作製し、利用し、特許請求の範囲に係る方法を実施することができると考えられる。以下の実際の実施例(working example)は、本発明の実施形態を記載し、残りの開示を限定するものと決して解釈されないものとする。
【実施例】
【0164】
[実施例1:mTOR抗体のC末端を用いたラット組織のウェスタンブロット分析]
2つのTOR遺伝子を有する酵母とは対照的に、哺乳動物は、分子量およそ280kDaの単一のポリペプチドをコードすることが公知の遺伝子を1つだけ保有する。mTORの調節および下流シグナル伝達をさらに解明するために、モノクローナル抗体(F11)を作製した。この抗体(F11)は、ウェスタンブロット法、免疫沈降法および免疫蛍光法においてmTORを特異的に認識する(データ非掲載)。HEATドメインに対応するmTOR(350アミノ酸長)の断片を、GST−融合タンパク質として細菌の中で発現させ、免疫化および特異的ハイブリドーマクローンのスクリーニングに使用した。この作製抗体を使用し、ラット組織および様々な細胞株に由来する全細胞溶解物を、ウェスタンブロットで分析した場合、およそ280kDaの優勢な免疫反応性の1つのバンドが観察された(図1、下のパネルを参照されたい)。しかし、C末端ペプチドに対して作製された市販のmTOR抗体(Cell Signalling)を使用した場合、いくつかの強い免疫反応性のバンドが検出された(図1、上のパネル)。ラットの脳に非常に豊富な280−kDaのバンドに加えて、およそ80kDaおよび95kDaの強い免疫反応性の2つのバンドが存在した。80kDaのバンドは、肝臓、血液、腎臓、小腸および大腸において高度に発現しており、一方、肺、胃、脾臓、精巣および脂肪においては、中/低レベルの発現である。興味深いことには、95kDaのバンドは、肝臓においてのみ非常に高いレベルで検出されているので、臓器特異的であるように思われる(図1、上のパネルを参照されたい)。さらに、肝臓および血液は、およそ135kDaの、比較的弱いが、独特なバンドを保有する。抗アクチン抗体を用いて、メンブランをリプローブすることは、タンパク質の添加コントロールとして機能する。低分子量のmTOR免疫反応性のバンドの検出は、mTORのスプライシング形態の存在によって、または完全長タンパク質のタンパク質分解によって説明できる。
【0165】
[プラスミド構築、siRNAおよび発現研究の実験手順]
哺乳動物細胞における発現のために、mTORβのための完全長cDNAを、タグを付けた真核発現ベクターであるpcDNA3.1/FLAG(Invitrogen)の中にクローン化した。Asp514をGluに置換した、mTORβのキナーゼ不活性点変異体(TORαでAsp2357がGluになったアナログ)を、部位特異的変異導入キット(Stratagene)を使用して、製造業者の推奨に従って作製した。細胞の一過性形質移入を、ExGene500試薬(Fermentas)を使用して、製造業者の推奨する条件下で実施した。mTORのsiRNAを、MWG Biotechから入手した(21ヌクレオチド長、ヒトmTORの2241〜2261の領域に対応する(Kimら、2002))。siRNAを、Lipofectamine2000(Invitrogen)を使用して、製造業者の推奨通りに、Hek293細胞に形質移入した。S6K1のC末端領域(His−S6K1C、アミノ酸332〜502)を、6His−タグ配列を付けたpET24aプラスミド(Novagene)に、インフレームでクローン化した。His−S6K1Cの発現および親和性精製を、それぞれBL21 DE3細胞においてNTA−アガロース(Qiagene)を使用して実施した。pCMV FLAG mTORαプラスミドは、Prof.K.Yonezawa、神戸、日本のご厚意により提供いただいた。
【0166】
[試薬、抗体および細胞培養]
抗FLAGタグ、抗HAタグおよび抗βアクチン抗体は、Sigmaより購入した。N末端抗mTOR抗体はSantaCruzより入手した。他のすべての抗体は、Cell Signalingより購入した。ヒト胎児腎臓HEK293細胞、ヒト乳房MCF7およびヒト肝臓HepG2細胞を、37℃、5%CO2で、10%ウシ胎児血清(FBS;Hyclone)、2mMのL−グルタミン、50単位/mlのペニシリンおよび50μg/mlのストレプトマイシンを添加したダルベッコ変法イーグル培地において維持した。
【0167】
[RNA精製およびRT−PCRの実験手順]
全RNAを、HEK293、MCF7およびHepG2細胞株から、SV Total RNA Isolation System(Promega)を使用して精製した。ReverAid H Minus First Strand cDNA Synthesis Kit(Fermentas)を使用して、70℃で5分間、10μgの全RNAおよび5μgのオリゴdTプライマーをアニーリングすることによって、第1鎖cDNAを合成した。その後、RTミックス(最終 1×反応バッファー、40UのRiboLockリボヌクレアーゼ阻害剤(Fermentas)および1mMのdNTP)を溶液に加え、5分間、25℃においてインキュベートした。RevertAid H Minus Reverse Transcriptase(Fermentas)を加えた後、25μlの反応混合物を、10分間、25℃および1時間、37℃でインキュベートした。逆転写酵素反応を、10分間70℃でインキュベートすることによって停止させた。反応混合物を、−20℃で保存し、1μlをそれぞれPCRに使用した。RT−PCRを、mTORのための特異的プライマーのパネルを使用して実施した。グリセルアルデヒド−3リン酸デヒドロゲナーゼ(GADPH)の特異的断片およびβアクチンを増幅させ、第1鎖cDNAの添加コントロールおよび品質コントロールとして使用した。
【0168】
[実施例2:ヒト組織のmTORのノーザンブロット分析]
これらの可能性、すなわちmTORのスプライシング形態または完全長タンパク質のタンパク質分解の存在を調査するために、ヒト組織のパネル(OriGene)から精製した全RNA試料のノーザンブロット分析を、まず実施した。メンブランを、そのC末端コード領域に対応するDIG標識mTORプローブ(750bp)を用いてプローブした。この分析において、mTORプローブと特異的にハイブリダイズするいくつかのバンド(図2)の存在を観察した。予想通りに、広範に発現する、完全長mTORの転写産物に対応すると思われる、およそ8.6Kbのバンドもまた観察された。さらに、1.5から3.5Kbの領域にいくつかの独特なバンドがあり、これらは、肝臓および心臓において非常に豊富であることが示された。最も強いシグナルは、2.7Kbおよび3.2Kbのバンドに対応した。ウェスタンブロット分析およびノーザンブロット分析において得られた結果は、mTORスプライシング形態の存在を強く示唆した。ノーザンブロット分析はさらに、mTORβが心臓および肝臓において高度に発現し、一方、腎臓、肝臓、血液、小腸および大腸は、mTORβのタンパク質レベルが最も高いことを示している。
【0169】
[ノーザンブロット分析の実験手順]
様々なヒト組織由来のポリ(A)+RNA試料を含むメンブランを、OriGeneから購入した。ノーザンブロット分析を、DIG Northern Starter kit(Roche Diagnostics)を使用して、製造業者の推奨通りに実施した。mTOR DIG標識RNAプローブを、mTORのC末端コード領域に対応する750bpのPCR産物を、ジオキシゲニン−11−UTPを用いたin vitro転写反応の鋳型として使用して、作製した。アクチンのプローブは、製造業者により提供された。
【0170】
[実施例3:mTORベータの免疫沈降]
観察された免疫反応性のバンドの性質をさらに調べるために、mTORを、Hek293、MCF7およびHep2G細胞から、C末端ポリクローナル抗体(Cell Signalling)を使用して免疫沈降させ、N末端mTOR抗体を用いたウェスタンブロットにおいて免疫複合体をプローブした。図3に示すように、280kDaおよび80kDaの範囲に2つの免疫反応性のバンドが、これら3種の細胞株すべてからの免疫沈降においてはっきりと検出された。しかし、mTORを、これらの3種の細胞株から、F11Mabを使用して免疫沈降させると、280kDaの免疫反応性のバンドは1つのみ観察された(データ非掲載)。得られた結果は、N末端およびC末端の両方の配列を保有し、およそ700アミノ酸長のタンパク質をコードする、潜在的mTORスプライス形態の存在を強く示唆している。したがって、mTORノーザンブロットにおいて検出された、2.7Kbおよび3.2Kbの最も豊富な転写産物は、80kDaのスプライス変異体をコードする能力を有する。
【0171】
[免疫沈降の実験手順]
HEK293細胞を、氷冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、50mMのHEPES(pH7.5)、150mMのNaCl、1%(v/v)のTriton X100、2mMのEDTA、50mMのフッ化ナトリウム、10mMのピロリン酸ナトリウム、1mMのオルトバナジウム酸ナトリウムおよびプロテアーゼ阻害剤の混合物(Roche Applied Science)を含む溶解バッファーを用いて抽出した。全細胞抽出物を、10,000×gで30分間、4℃で遠心分離器にかけた。内因性または一過性に発現したタンパク質を、タンパク質A−Sepharoseビーズ(Amersham Biosciences)に固定した対応する抗体を用いて、3時間、4℃で免疫沈降させた。その後、免疫複合体を、0.05%のTween20を含むTris−緩衝生理食塩水、1%のTritonX−100を含む洗浄バッファー1(50mMのHEPES[pH7.5]、40mMのNaClおよび2mMのEDTA)、500mMのLiClおよび0.5%TritonX−100を含む洗浄バッファー1、500mMのLiClを含む洗浄バッファー1ならびに洗浄バッファー2(50mMのHEPES[pH7.5]および150mMのNaCl)で1回度洗浄した。RaptorまたはRictorの免疫沈降研究のために、細胞を、氷冷バッファーB(TritonX−100の代わりに0.3%CHAPSを含むバッファーA)に溶解した。mTOR免疫沈降を、バッファーBで4回洗浄し、洗浄バッファー2で2回洗浄した。免疫複合体を、免疫ブロットのために、またはin vitroのキナーゼ反応のために使用した。
【0172】
[実施例4:mTORベータの特定]
1以上のmTORスプライス形態の存在を証明するために、mTOR特異的オリゴヌクレオチドおよびいくつかのヒト細胞株のパネルを用いることによって、対応するcDNAのPCRに基づく調査を実施した。この分析において、Hek293およびMCF7系を、潜在的スプライス変異体が観察された場所で使用した。さらに、肝臓がいくつかの潜在的mTORスプライス変異体を保有することを、ノーザンブロットおよびウェスタンブロットにおいて発見したので、肝癌細胞株Hep2Gもまた試験した。まず、全RNAを、対数増殖期細胞から、SV Total RNA Isolation System(Promega)を使用して精製した。その後、各細胞株から精製された、等量のRNAを、ReverAid H Minus First Strand cDNA Synthesis Kit(Fermentas)を使用することによって、第1鎖cDNAに転換した。作製した第1鎖cDNAの品質を、アクチンおよびGADPH断片のPCR増幅によって試験した。図4は、GADPH(570bp)およびβ−アクチン(350bp)の、ほぼ等量のPCR産物を、全細胞株のcDNA調製物からPCR増幅させたことを示す。mTOR特異的プライマーの様々なセットを用いて作製した第1鎖cDNAの広範囲なPCR分析により、増幅断片のパネルを作製した。最も顕著なバンドを、ゲルから切り取り、配列決定した。得られたmTOR配列の中で、潜在的スプライス変異体を含む1つのmTOR配列を同定した。およそ100bpのこのPCR断片を、N末端プライマー(Nl、ATGCTTGGAACCGGACCTGCCG(配列番号5))およびFATNドメイン(C3、TTTGGACAGATCCTCAGTGACCT(配列番号6))の終わりに位置する2次プライマーを用いて増幅した。このPCR産物を、3種すべての細胞株から特異的に増幅したことに留意することが重要である(図4Aを参照されたい)。図4Bに示すように、増幅断片は、mTORのN末端領域およびFATNドメインに対応する配列を含む。作製した配列の翻訳により、スプライス部位の点におけるリーディングフレームの連続が明らかに示唆される(図4Cを参照されたい)。mTOR(mTORベータ)のこのスプライス形態は、最もN末端の23アミノ酸、およびmTORのC末端の683アミノ酸伸長からなる、706アミノ酸長のタンパク質をコードする能力を有する。
【0173】
この潜在的mTORスプライス形態の配列をコードする完全長を得るために、作製した第1鎖cDNAから、末端の(extreme)N1(ATGCTTGGAACCGGACCTGCCG(配列番号7))およびC1(TTACCAGAAAGGGCACCA(配列番号8))のmTOR特異的プライマーを使用して、PCR増幅を実施した。このアプローチによって、Hek293の第1鎖cDNAから、およそ2.3Kbまでのバンドを増幅した。N末端およびC末端の終わりから増幅したバンドの、初回配列分析により、mTORの予測スプライス変異体の存在が確認された。
【0174】
その後、増幅PCR産物を完全に配列決定し、そのヌクレオチド配列(配列番号1)が、mTORβ特異的イントロン/エクソンをヌクレオチドの68から72に有することを見出した。得られた配列は、706アミノ残基(配列番号1)のタンパク質をコードできるオープンリーディングフレームを有する。mTORαのN末端(1〜23aa)およびC末端(1867〜2549aa)の間のスプライス融合の位置を矢印により示す。
【0175】
同定されたmTORのスプライス形態を「mTORベータ(mTORβ)」および完全長タンパク質(mTORアルファ(mTORα))と名付けた。完全長mTORαと対照的に、mTORβのスプライス形態は、全HEATドメインおよびFATNドメインの主要な部分を欠失している(図5を参照されたい)。HEATドメインは、タンパク質間の相互作用の媒介に関係している。mTORにおいて、HEATドメインに対応する配列は、RaptorおよびRictorと相互に作用することが見出されており、これらはmTORシグナル伝達においてカギとなる物質である。さらに、HEATドメイン領域内の配列は、mTORを小胞体およびゴルジ体に局在化させることが示された。最近の研究により、FATドメインはHEAT様構造を有し、タンパク質間の相互作用にも関与できることが示された。mTORβは、インタクトなFRB(FKBP12/ラパマイシン結合)、キナーゼおよびFATCドメインを有する。これらのドメインの存在が、mTORβがタンパク質キナーゼとして働き、その機能はラパマイシンおよびそのアナログによって調節され得ることを示唆する。さらに、mTORβは、最N末端から、機能未知の23のアミノ酸およびFATNドメインのC末端部分を含む。FATNのC末端領域のバイオインフォマティック分析により、HEAT様ドメインの存在が指摘され、これは、RictorおよびRaptorなどの調節タンパク質との相互作用を容易にできる。
【0176】
[実施例5:mTORβの調節および細胞機能]
mTORβの同定およびクローン化の次に、その調節および細胞機能の調査についての研究を始めた。まず、完全長のmTORβを、pcDNA3.1発現ベクターの中に、インフレームで、N末端FLAG−タグ−エピトープを付けてクローン化した。発現レベル、分子量およびFLAG−mTORβの調節を調べるために、Hek293細胞に、pcDNA3.1またはpcDNA3.1/FLAG−mTORβを、一過性に形質移入した。形質移入の1日後、細胞を、36時間血清飢餓状態にし、ラパマイシンの存在下または不在下で30分間インキュベートした。1時間の血清刺激後、細胞を溶解し、溶解物をウェスタンブロットまたは免疫沈降に使用した。溶解細胞の上清を、抗mTORポリクローナル抗体(Cell Signalling)を用いて免疫ブロットした場合、pcDNA3.1/FLAG−mTORβプラスミドが、およそ80kDaの分子量を有するタンパク質の発現を指示していることは明らかであった(図6A、下のパネルを参照されたい)。内因性mTORβの発現が、pcDNA3.1またはpcDNA3.1/FLAG−mTORβを形質移入したHek293細胞において明らかに観察された。FLAGエピトープの存在によって、内因性mTORβの移動性と比較してFLAG−mTORβの移動性はわずかに遅くなる。この分析はさらに、血清による細胞の飢餓/刺激は、内因性mTORβおよび過剰発現されたmTORβの両方のレベルまたはゲル移動性に影響を与えないことを示した。ラパマイシン処理の後も、有意な変化は観察されなかった。
【0177】
血清またはIGF1などの増殖因子による細胞の刺激は、S2448におけるmTORαのリン酸化を誘導することが公知である。もともとは、S2448におけるmTORαのリン酸化は、PKB/Aktにより媒介されることが見出された。しかし、最近の研究により、S2448のリン酸化にS6Kが関与する強い証拠が提供されている。mTORβが、血清刺激に反応して、全mTORαのアミノ酸のS2448に対応するセリン残基においてリン酸化されるかどうかを見出すために、上記の実験から得られた溶解物をS2448リン酸化特異的抗体を用いてプローブした。図6A(上のパネル)に示すように、内因性mTORβおよび過剰発現されたmTORβの、全mTORαのアミノ酸配列のS2448に対応するセリン残基におけるリン酸化は、血清刺激により、強く誘導される。さらに、このリン酸化事象は、ラパマイシンに感受性である。得られたデータは、mTORαと同様に、全mTORαのアミノ酸配列のS2448に対応するセリン残基におけるmTORβのリン酸化は、血清刺激に反応して誘導され、ラパマイシンに対して感受性であることを実証している。
【0178】
mTORβは、mTORαの主要な生理学的基質である、S6Kおよび4E−BP1をリン酸化できるか?この問題に答えるために、FLAG−mTORβまたはFLAG−TORαを、一過性形質移入Hek293細胞から、免疫沈降させた。その後、免疫複合体を、冷ATPおよび組換え4E−BP1またはHis−S6K1Cを含む、mTORキナーゼ反応に使用した。キナーゼ反応をSDS−PAGEにより解析し、リン酸化特異的抗体のpT389−S6KlおよびpS65−4E−BP1を用いて免疫ブロットした。図6Bは、mTORβが、S6K1および4E−BP1の両方をin vitroでリン酸化できるが、mTORαより程度が低いことを、疑いの余地なく実証している。
【0179】
様々な研究室の実験により、mTORが、その下流基質:S6K、4E−BP1およびPKB/Aktのリン酸化のために、結合パートナーであるRaptorおよびRictorを必要とすることが示された。このことを考慮に入れて、mTORβと、公知のmTORの結合パートナーとの相互作用を試験した。この研究において、HEK293細胞に、pcDNA3.1/FLAG−mTORβおよびpRK−Raptor−HAまたはpcDNA3.1/FLAG−mTORβおよびpRK/Rictor−MycまたはpcDNA3.1/FLAG−mTORβおよびpcRK−GβLを、一過性に形質移入した。溶解細胞の上清を、抗FLAGモノクローナル抗体またはコントロールの非特異的抗体を用いて、免疫沈降させた。形質移入細胞由来の免疫複合体または全細胞溶解物をSDS−PAGEにより解析し、様々な抗体を用いて免疫ブロットした。図7は、外因性発現のRaptor、RictorおよびGβLが、in vivoでmTORβと特異的複合体を形成することを明らかに示している。相互作用の特異性を、関係のない抗体を使用して、免疫沈降アッセイにおいて試験した。このように、完全長mTORαと同様に、スプライス形態もまた、Raptor、RictorおよびGβLと結合できる。スプライス形態はさらに、S6K1および4E−BP1をin vitroでリン酸化できる。
【0180】
上述のように、mTORβは、インタクトなFRBドメインを保有する。したがって、ラパマイシンに対するmTORαおよびmTORβの感受性を比較することは興味深い。この研究において、HEK293細胞に、pcDNA3.1/FLAG−mTORβ、pcDNA3.1/FLAG−mTORαまたはpcDNA3.1を一過性に形質移入した。1日後、細胞を24時間飢餓状態にし、10%FCSで一(1)時間刺激した。様々な濃度のラパマイシン(1nM、5nMおよび10nM)を、血清刺激の30分前に加えた。細胞溶解物の上清をSDS−PAGEにより解析し、様々な抗体を用いて免疫ブロットした。mTORαおよびmTORβの発現を、C末端ポリクローナルmTOR抗体を用いて免疫ブロットすることにより確認した(図8を参照されたい)。メンブランを、S6K1(pT389)および4E−BP1(pS70、pS37/46)において、公知のmTORリン酸化部位に対するリン酸化特異的抗体のパネルでプローブすることにより、mTORβを発現する細胞が、ベクター単独またはpcDNA31/mTORαを形質移入した細胞と比較した場合、ラパマイシンに対して感受性が低いことが示された。特に、感受性は、1nM程度の低い用量のラパマイシンで処理した細胞においてより明らかであった。
【0181】
過去の研究は、主に小胞体およびゴルジ体の膜分画においてmTORαを見出した。さらに、mTORは、ミトコンドリア外膜および核内で観察された。完全長mTORのHEATドメイン領域(HEATドメイン18および19)に位置する配列は、その膜局在化の媒介に関係している。HEATおよびFATNドメインが、mTORβに存在しないことを考慮に入れて、分画化によって、その細胞内局在化を調べることは興味深い。対数増殖期のHEK293細胞を、ProteoExstract Extraction kit(Calbiochem)を使用して、分画化した。mTORαおよびmTORβの両方を、抗mTOR C末端抗体を使用して全分画から免疫沈降させた。免疫複合体をSDS−PAGEにより解析し、抗mTOR N末端抗体を用いて免疫ブロットした。予想通り、mTORαが、得られた細胞質、核およびメンブラン分画において検出された。それとは対照的に、mTORβは、細胞質に優勢に局在化した(図9を参照されたい)。調製された細胞内分画の質を、抗4E−BPl、HSP60およびc−Jun抗体を用いて免疫ブロットすることにより分析した。現在の免疫蛍光分析を用いて、(飢餓/刺激および細胞ストレスに反応した)一過性形質移入Hek293細胞におけるMyc−mTORαおよびmTORβの細胞内局在化を研究する。
【0182】
細胞過程の調節におけるmTORβの役割をさらに調査するために、mTORβ野生型またはmTORα野生型を過剰発現するHek293安定細胞株を作製した。さらに、EGFP(高感度緑色蛍光タンパク質(Enhanced Green Fluorescent Protein))を過剰発現する、mTORβの研究においてコントロールとして使用できる細胞株も開発した。作製した細胞株の初回試験により、mTORαまたはGFPを発現する細胞と比較した場合、野生型mTORβを発現する細胞株がより早く増殖することが示された。このことを考慮に入れて、作製した安定細胞株の増殖率を、Promegaの細胞増殖アッセイを使用して調査した。mTORβ wt、mTORα wtまたはEGFPを過剰発現する安定細胞株を、96ウェルプレートに様々な濃度で播種し、標準的条件下で7日間増殖させた。その後、各ウェルの細胞数を、Resosurinに基づくアッセイにより測定した。6つの独立した研究において、mTORβ発現細胞は、コントロール細胞と比較してより速く増殖することが見出された(図10を参照されたい)。対照的に、mTORα wt発現細胞は、コントロール細胞と比較して増殖における差は示さなかった。このことにより、細胞増殖の調製におけるmTORβの役割が確認されたが、mTORαに関しては確認されなかった。
【0183】
mTORβキナーゼ活性が、細胞増殖の調節において役割を有するかどうかを調査するために、同様の実験を、mTORβ野生型、mTORβキナーゼ不活性型(KD)変異体またはEGFPを過剰発現するHek293細胞株において実施した。細胞を、96ウェルプレートに様々な濃度で播種し、標準的条件下で5日間増殖させた。その後、各ウェルの細胞数を、Resazurinに基づくアッセイにより測定した。6つの独立した研究において、mTORβ発現細胞は、コントロール細胞と比較しておよそ1.6倍の速さで増殖することが見出された(図11を参照されたい)。得られたデータはさらに、mTORβ KD変異体が、Hek293細胞において発現させた場合、細胞増殖に関するドミナントネガティブ効果を有していないことを示している。mTORβ KD過剰発現細胞は、EGFP細胞と比較した場合、ある程度速く増殖したので、わずかに反対の効果を示している。
【0184】
mTORβによる細胞増殖の誘導は、様々なシグナル伝達経路により、形質導入できるということが、さらに考えられる。それらの経路の1つである、プロトオンコジーンMycを介したシグナル伝達を調べた。プロトオンコジーンMycは、数多くの遺伝子の転写を調節するその能力を介して、細胞の成長、増殖、分化およびアポトーシスに影響を与えることが公知である。cMycは、遺伝的安定性、遊走および血管形成を含む、腫瘍進行の調節にも関係がある。したがって、cMycタンパク質の発現および機能は、厳密に制御されている。実際、多くの様々な経路および因子は、転写および翻訳のレベルにおけるcMycの発現および翻訳後修飾を介したそのタンパク質機能を調整することが特定されている。細胞増殖の調節において、cMycは、細胞周期のG1/S移行に関与する遺伝子の発現を制御する。mTOR経路を介したシグナル伝達は、G1/S期における細胞周期進行に、深く寄与する。さらに、ラパマイシンは、細胞周期のG1/S移行の公知の阻害剤である。
【0185】
cMycがmTORβ誘導性増殖に関与するかどうかを試験するために、HEK293細胞に、pEGFP、pcDNA3.1/mTORβ wt、pcDNA3.1/mTORβ不活性型変異体またはpcDNA3.1/mTORα wtを一過性に形質移入した。形質移入2日後、細胞を溶解し、SDS−PAGEにより分離し、c−mycおよびその転写標的に対する抗体(例えば、抗Myc(9E10)モノクローナル抗体)を用いて免疫ブロットした。図10Bに提示した結果は、mTORβの過剰発現がc−Mycタンパク質のレベルを有意に増加させるが、mTORαは増加させないことを明らかに実証している。mTORβのキナーゼ不活性型変異体はc−Mycの発現を刺激しないので(図11B)、c−Myc翻訳の誘導は、mTORβキナーゼ活性に依存性である。mTORα、mTORβ wtおよびKD変異体の一過性発現の発現レベルを、C末端mTOR抗体を用いた免疫ブロットによりモニターした。mTORβ wtの過剰発現により、Myc発現のレベルが増加することが見出された。さらに、mTORβを過剰発現するHek293細胞が、mTORαを過剰発現する細胞よりも非常に早くソルビトール誘導性ストレスから回復することが見出された。
【0186】
細胞周期におけるmTORβの役割をさらに調査するために、mTORβ、mTORαまたはEGFPを過剰発現するHek293細胞を、BrdUを用いて30分間パルス標識し、2時間ごとに24時間追跡した。細胞に組み込まれたBrdUを、FACS分析により測定した。各細胞株に関して観察された細胞周期のGl、SおよびG2期の存続期間を決定した(図12を参照されたい)。SおよびG2期の存続期間は3種の細胞群すべてにおいて同様であった。しかし、G1期の存続期間は、mTORβ過剰発現細胞において、mTORα細胞またはコントロール細胞より短かった。このことは、mTORβが細胞周期のG1進行に関して重要であることを示唆している。
【0187】
血清飢餓細胞におけるmTORβの効果も評価した。mTORβ wt、mTORα wt、mTORβキナーゼ不活性型またはEGFPを過剰発現するHek293安定細胞株を、60時間血清飢餓状態にした。細胞の生存を、Trypan Blue色素排除アッセイにより評価した。mTORβ wtの過剰発現により、細胞が飢餓誘導性細胞死から保護され(図13Aを参照されたい)、mTORβキナーゼ活性がこの効果の媒介にとって必要であることが見出された(図13Bを参照されたい)。
【0188】
細胞の発癌性についてのmTORβ発現の効果をさらに調査するために、mTORβ、mTORαまたはEGFPを安定して過剰発現するHek293細胞を、培養培地中のアガロースの薄層にプレーティングした。14日後、コロニーを、MTTを使用して染色した(図14を参照されたい)。コロニーを、quantity 1 software (Bio-Rad)を使用して計測し、倍率をプロットした(図14Bを参照されたい)。mTORβの過剰発現は、mTORαを過剰発現する細胞およびコントロール細胞と比較して、細胞発癌性の増加をもたらすことが見出された。
【0189】
[in vitroキナーゼアッセイの実験手順]
mTOR in vitroキナーゼアッセイを、すでに公開されているように実施した(Kimら、2002)。簡潔に言うと、キナーゼアッセイを30μlで、30℃において40分間実施し、5×106のHEK293細胞に由来する、洗浄したmTOR免疫沈降物の約1/4、1μgの4E−BP1(Calbiochem)または0.5μgの組換えHis−S6K1C、25mMのHEPES−KOH(pH7.4)、50mMのKCl、20%グリセロール、10mMのMgCl2、4mMのMnCl2、1mMのDTTおよび50μMのATPを含んだ。反応を、5×サンプルバッファーを加えることによって停止させ、SDS−PAGEによって解析し、免疫ブロットによって分析した。
【0190】
[免疫ブロット分析の実験手順]
免疫複合体または全細胞溶解物をSDS−PAGEによって分離し、ポリ二フッ化ビニリデンメンブラン(PVDF)上に転写し、ブロッキング溶液(5%ミルク、Tris−緩衝生理食塩水/Tween0.1%)と共に1時間インキュベートした。その後、ブロックしたメンブランを、一次抗体を用いて4℃において一晩プローブした。0.1%のTweenを含むTris−緩衝生理食塩水で徹底的に洗浄した後、メンブランを、ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識二次抗体を用いて、室温で1時間インキュベートした。抗原−抗体複合体を、ECL system(Millipore)を使用して検出した。免疫ブロットをリプローブしなければならない場合、メンブランをまずストリップし(Restore Western Stripping Reagent、Pierce)、別の型の一次抗体と共にインキュベートした。
【0191】
[細胞内分画(subcellular fractionation)の実験手順]
HEK293細胞の細胞内分画を、ProteoExstract Extraction kit(Calbiochem)を使用して、製造業者の推奨通りに実施した。mTORαおよびmTORβを、抗mTOR C末端抗体を使用して、すべての分画から免疫沈降させた。免疫複合体を、SDS−PAGEにより解析し、抗mTOR N末端抗体を用いて免疫ブロットした。抗4E−BPl、HSP60およびc−Jun抗体を、それぞれ細胞質、メンブランおよび核の分画に対するコントロールとして使用した。
【0192】
[安定細胞株の作製および細胞増殖アッセイの実験手順]
野生型およびキナーゼ不活性型のmTORβを過剰発現する安定細胞株を、直鎖状のpcDNA 3.1/FLAG−Tまたはβ wtまたはpcDNA3.1 FLAG Tまたはβ不活性型ベクターを、HEK293細胞に形質移入することによって作製した。細胞株を、500μg/mlのジェネティシン(genetecin)で10日間、製造業者(Invitrogen)の推奨通りに選択した。細胞増殖アッセイのために、mTORβ wt、mTORβキナーゼ不活性型およびEGFPを過剰発現するHek293安定細胞株を、96ウェルプレートに様々な濃度(250、500、1000および2000細胞/ウェル)で播種し、標準的条件下で5日間増殖させた。その後、各ウェルの細胞数を、Resosurinに基づくアッセイ(Cell Titer Blue Promega)により、製造業者の推奨通りに測定した。各細胞株に関する正規化増殖曲線を、少なくとも6つの独立した実験からのデータを使用して計算した。
【0193】
本発明は、様々な特定の材料、手順および実施例を参照することによって、本明細書に記載および例示しているが、その目的のために選択された材料および手順の特定の組合せに本発明が限定されるものではないことが理解されるべきである。当業者には理解されるであろうが、このような詳細の多くの変形が含まれることを意味する。本明細書および実施例は、後述の特許請求の範囲によって示される本発明の真の範囲および趣旨の、単なる例示と見なされることが目的である。本出願において述べられた、すべての参考文献、特許、特許出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)タンパク質の切断型変異体に関する。
【背景技術】
【0002】
[発明の背景]
ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)は、セリン/トレオニンキナーゼであり、これは、PI3K関連キナーゼの大きなファミリーに属し、これは、さらに、DNA依存性プロテインキナーゼ、ATMおよびATRを含む。生化学的研究および遺伝学的研究から、mTORが、増殖因子刺激、エネルギー、および栄養素利用能を統合して、細胞増殖、大きさ、および細胞周期進行を担う生合成プロセスを調節することが実証された。様々な細胞外のキューに応じたmTORキナーゼ活性の調節は、最近の10年間で広範囲に研究されてきた。プロテインキナーゼPKB/AktおよびAMPK、腫瘍抑制因子PTENおよび結節性硬化症複合体TSC1/2、低分子量GTP結合タンパク質Rheb、足場タンパク質RaptorおよびRictorを含む、様々な酵素活性、足場、およびアダプター機能を有する広範囲の細胞タンパク質は、mTORへのシグナル伝達およびmTORの活性の調節に関係している。活性化状態において、mTORは、S6K、4E−BP1、およびPKB/Aktなどの主な下流の標的のリン酸化によって、シグナル伝達および代謝情報を伝達する。様々な研究所の研究により、mTORが、mTOR複合体1(mTORC1)およびmTORC2と称される、2つの機能的に異なる複合体で存在することが示された。mTORC1は、基本的な構成成分mTOR、raptor、およびmLST8/GβLを含み、ラパマイシンに対して感受性である。mTORC2は、ラパマイシン非感受性であると考えられており、mTOR、Rictor、およびmLST8/GβLを含む。ラパマイシンおよびその類似体は、多くの臨床治験において抗癌剤として目下評価されている。そのうえ、それらは、現在、冠動脈形成術の後の、ステント留置後の再狭窄を低下させるステントのコーティングに広く使用されている。2つのTOR遺伝子を有する酵母とは対照的に、哺乳動物は、約280kDaの分子量を有する単一ポリペプチドをコードすることが知られている、たった1つの遺伝子を有する。
【0003】
mTORのうちで1つの重要な下流の標的は、S6Kである。S6キナーゼ(p70 S6キナーゼ(p70S6k))は、真核生物のリボソームの40Sサブユニットの構成成分であるリボソームS6タンパク質のS6リン酸化を担う(つまり、mRNAの翻訳およびタンパク質合成を担う細胞性機構)。それはまた、哺乳動物細胞における主な生理学的S6キナーゼとも考えられている(Proud、1996 Trends Biochem.Sci.21:181〜185ページ)。40Sリボソームタンパク質S6は、真核生物のリボソームの40Sサブユニットの構成成分である。S6タンパク質は、ホルモンまたは増殖因子誘発性の細胞増殖などのある種の細胞シグナル伝達イベントに応じてリン酸化される。
【0004】
S6キナーゼは、多種多様の、インスリンなどの増殖因子およびマイトジェンによって活性化される(Alessiら、1998 Curr.Biol.8:69〜81ページ)。S6キナーゼ活性を調節するある種の薬剤が、同定されており、これには、S6キナーゼの最も強力な阻害剤であるラパマイシンが含まれる(Pullenら、1997 FEBS Letters 410:78〜82ページ)。S6キナーゼアルファおよびS6キナーゼベータの構造およびいくつかの機能は、その全体が参照によって本明細書において組み込まれる米国特許第6,830,909号において開示されている。
【0005】
S6キナーゼは、リン酸化される上に、アセチル化されることが示された。S6キナーゼタンパク質は、p300アセチルトランスフェラーゼおよびP/CAFアセチルトランスフェラーゼによってin vivoでもin vitroでもアセチル化されることが分かった。S6Kアセチル化が増加する条件(つまり、HDAC阻害剤の存在/p300の過剰発現)において、S6キナーゼ活性および412リン酸化が低下すると表現するのがより正確である。Pループリシン(P-loop lysine)(p300によってin vitroでアセチル化される)のグルタミンへの変異は、これはアセチル化に似ているが、S6Kの完全な不活性化および412リン酸化の減少(loss)をもたらす。S6K2(S6Kベータ)は、さらに、ATフックDNA結合モチーフを有することが示された。したがって、S6キナーゼ2タンパク質は、DNAに結合し、それによって活性化され、これは、引き続いて、そのキナーゼ活性を刺激する。そのため、S6K2は、マイトジェンおよび栄養素に応じて増殖促進効果を伝達すると考えられる。これは、S6K2が、DNAと複合体を形成し、この相互作用によって活性化される場合に、リン酸化による転写因子および/またはクロマチンリモデリングタンパク質の調節を伴う可能性がある。S6キナーゼタンパク質活性の調節および関連する方法は、その全体が参照によって本明細書において組み込まれる国際公開第2007/019421号において開示されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
[発明の要旨]
本発明は、mTORベータ(mTORβ)と呼ばれるmTORの新規に見出されたスプライス形態に関する。特に、本発明は、
(a)配列番号2のアミノ酸配列を含む単離ポリペプチド、
(b)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む単離ポリペプチド、および
(c)配列番号1によってコードされるアミノ酸配列を含む単離ポリペプチド
からなる群から選択される、S6K1および/または4E−BP1をリン酸化する単離ポリペプチドを提供する。
【0007】
本発明はまた、以下のものも提供する:
(a)本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(b)配列番号1のヌクレオチド配列またはその相補体を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号1の連続した配列全体にわたって少なくとも80%の配列同一性を有する核酸配列を含み、S6K1および/または4E−BP1をリン酸化するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、ならびに
(d)配列番号1のヌクレオチド配列またはその相補体に、68℃で0.1×SSCを用いる条件下でハイブリダイズし、S6K1および/または4E−BP1をリン酸化するタンパク質をコードする単離核酸分子
からなる群から選択される単離ポリヌクレオチド。
本発明のポリヌクレオチドを含むベクター。
本発明のポリペプチド、本発明のポリヌクレオチド、または本発明のベクターを含む宿主細胞。
本発明のポリペプチドに特異的に結合する単離抗体。
本発明のポリペプチド、または本発明のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが発現する条件下で、本発明の宿主細胞を培養するステップを含む、ポリペプチドを産生するための方法。
mTORベータ活性を調整する作用物質をスクリーニングするための方法であって、
(a)本発明のポリペプチドを試験作用物質と接触させるステップと、
(b)前記ポリペプチドの活性の任意の変化を検出するステップと
を含み、活性の変化が、mTORベータ活性を調整することができる作用物質を示す方法。
mTORベータの発現および/または活性を調整する作用物質をスクリーニングするための方法であって、
(a)本発明のポリペプチド、または本発明のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドを含むまたは発現する、請求項5に記載の宿主細胞を提供するステップと、
(b)前記宿主細胞を試験作用物質と接触させるステップと、
(c)前記ポリペプチドの発現および/または活性の任意の変化を検出するステップと
を含み、発現および/または活性の変化が、mTORベータの発現および/または活性を調整することができる作用物質を示す方法。
本発明のポリペプチドの異常な発現と関連する疾患を治療するための方法であって、その必要のある対象へ有効量の作用物質を投与するステップを含み、前記作用物質が、前記ポリペプチドの活性および/または発現を変化させる方法。
前記ポリペプチドの異常な発現と関連する疾患の治療における使用のための、本発明のポリペプチドの活性および/または発現を変化させる作用物質。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】C末端抗mTOR抗体およびF11抗mTOR抗体を使用した、ラット組織におけるmTORの発現のウェスタンブロット分析を示した図である。ラット組織のタンパク質抽出物(30μg)をSDS−PAGEにより解析し、PVDFメンブランに転写し、Cell Signalingより入手したC末端mTORポリクローナル抗体を用いてプローブした(上のパネル)。その後、メンブランをストリップし(strip)、抗アクチン抗体を用いてリプローブした(下のパネル)。
【図2】ヒト組織におけるmTOR発現のノーザンブロット分析を示した図である。ブロットをストリップし、β−アクチン発現に関してリプローブした(下のパネル)。
【図3】C末端抗mTOR抗体を用いた、Hep2G、Hek293およびMCF7細胞からの、mTORβの免疫沈降を示した図である。Hep2G、Hek293およびMCF7細胞の溶解物をC末端抗mTOR抗体(Cell Signaling)を用いて免疫沈降させ、免疫複合体を、N末端抗mTOR抗体(Santa Cruz)を用いてウェスタンブロットにおいてプローブした。
【図4】PCRによる、ヒト細胞株における潜在的mTORスプライス変異体の同定を示した図である。図4Aは、Hep2G、HEK293およびMCF7に由来する全RNAおよびmTORベータRNAについてのアガロースゲルを示す。全RNAを、Hep2G、HEK293およびMCF7細胞株から精製し、第1鎖DNAに転換した。一連のmTOR特異的プライマーをPCR反応に使用し、潜在的スプライス変異体を探索した。増幅断片を、2%アガロースゲルにおいて電気泳動により解析した。最も顕著なバンドをゲルから切り取り、配列を分析した。一組のプライマー(N1およびC3)は、3種の細胞株から、常に100bpの断片を増幅した。グリセルアルデヒド−3リン酸デヒドロゲナーゼ(GADPH)およびβアクチンの特異的断片を増幅し、第1鎖DNAの添加コントロールおよび質的コントロールとして使用した。図4Bは、N1およびC3のmTOR特異的プライマーを用いて増幅された、100bpのPCR断片の配列アラインメントを示す図である。増幅断片を配列決定し、Clustal Wのプログラムを用いてアラインメントを行った。潜在的スプライス融合の位置を、矢印で示してある。図4Cは、N1およびC3のmTOR特異的プライマーを用いて増幅させた100bpのPCR産物のアミノ酸配列を示す図である。潜在的スプライス融合の位置を、矢印で示してある。mTORの、N末端領域およびFATNドメインに対応する配列にアンダーラインを引いてある。
【図5】完全長mTORαおよびmTORβのスプライシングアイソフォームのドメイン構成を示す図である。各ドメインの位置を、そのアミノ酸の位置を含めて示す。抗mTOR抗体に対応するエピトープの局在化を示す。公知のmTORの結合パートナーの相互作用を媒介する領域にアンダーラインを引いてある。それぞれがタンパク質間の相互作用にかかわる、37〜43のアミノ酸の20のHEATモチーフ(Huntingtin、EF3、PP2AのサブユニットおよびTor)が存在する。HEAT18および19は、mTORをERまたはゴルジ体の標的とするために十分である。mTORは、これらのHEAT領域を介して二量化する。FATドメイン=FRAP/ATM/TRAPP;FATN=N末端のFATドメイン;FATC=C末端のFATドメイン。FATCドメインは、mTORキナーゼの活性および機能にとって必要であることが見出された。FRB(FKBP12−ラパマイシン結合)ドメインは、FKBP12−ラパマイシン結合に必要かつ十分な、11kDaの保存領域である。KD=キナーゼドメイン、PI3K−関連ドメインと考えられている。RD=調節ドメイン。
【図6】mTORβが、血清刺激に反応して、全mTORαのアミノ酸配列のSer2448に対応するセリン残基においてリン酸化され、in vitroのキナーゼアッセイにおいて、S6K1および4E−BP1をリン酸化することを示す図である。図6Aは、pcDNA3.1 mTORβの形質移入により、mTORβを発現する細胞のゲルを示す図である。HEK293細胞に、pcDNA3.1またはpcDNA3.1 mTORβを形質移入した。1日後、細胞を24時間飢餓状態にし、その後、10%ウシ胎児血清を用いて1時間刺激した。ラパマイシン(10nM)を、刺激する30分前に加えた。細胞を溶解し、SDS−PAGEで解析し、C末端抗mTORおよびpS2448 mTOR抗体を用いて免疫ブロットを行った。図6Bは、mTORのin vitroキナーゼアッセイの結果を示す図である。HEK293細胞に、pcDNA3.1、pcDNA3.1/FLAG−mTORβまたはpcDNA3.1/FLAG−mTORaを形質移入した。2日後、細胞を溶解し、抗FLAG抗体を用いて免疫沈降させた。His−4E−BPlおよびHis−S6K1Cを基質として用いて、免疫複合体をmTOR in vitroキナーゼアッセイに使用した。キナーゼ反応をSDS−PAGEで解析し、4E−BP1 p65およびS6K1 p389に対するリン酸化特異的抗体を用いて免疫ブロットを行った。免疫沈降したFLAG−mTORαおよびFLAG−mTORβのレベルを、抗FLAGを用いてウェスタンブロットを行うことによって測定した。
【図7】mTORβと、Raptor、RictorおよびGβLとの特異的相互作用を示す図である。HEK293細胞に、pcDNA3.1−mTORβ−FLAGおよびpRK−Raptor−HAまたはpcDNA3.1−mTORβ−FLAGおよびpRK−Rictor−MycまたはpcDNA3.1−mTORβ−FLAGおよびpcRK−GβLを形質移入した。溶解細胞の上清を、抗FLAG抗体またはコントロールの非特異的抗体を用いて、免疫沈降させた。形質移入細胞(15μg)由来の免疫複合体または全細胞溶解物をSDS−PAGEによって解析し、抗HA、抗Rictorまたは抗GβL抗体を用いたウェスタンブロットにおいてプローブした。
【図8】mTORβが、mTORαと比較して、ラパマイシンに対する感受性が低いことを示す図である。HEK293細胞に、pcDNA3.1、pcDNA3.1 mTORβまたはpcDNA3.1 mTORαを形質移入した。1日後、細胞を24時間飢餓状態にし、その後、10%血清を用いて1時間刺激した。様々な濃度のラパマイシンを、刺激する30分前に加えた。細胞を溶解し、SDS−PAGEにより解析し、C末端mTOR抗体、抗アクチンおよび様々なリン酸化特異的抗体を用いて免疫ブロットした。
【図9】mTORβの細胞内局在化を示す図である。対数増殖期のHEK293細胞を、ProteoExstract Extraction kit(Calbiochem)を使用して分画化した。mTORαおよびmTORβを、抗mTOR C末端抗体を使用して、全分画から免疫沈降させ、免疫複合体を、SDS−PAGEにより解析し、抗mTOR N末端抗体を用いて免疫ブロットした。抗4EBP1、HSP60およびc−Jun抗体を、それぞれ細胞質、メンブランおよび核の分画のコントロールとして使用した。
【図10】mTORβの過剰発現は細胞増殖を誘導するが、mTORαは誘導しないことを示す図である。mTORβwt、mTORαwtまたはEGFPを過剰発現するHek293安定細胞株を、様々な濃度(250、500、1000および2000細胞/ウェル)で96ウェルプレートに播種し、標準条件下で7日間増殖させた。その後、細胞数を、Resosurinに基づくアッセイにより各ウェルにおいて測定した。各細胞株に関する正規化増殖曲線を、6つの独立した実験からのデータを使用して計算した(A)。c−mycおよびその転写標的に対する抗体を用いた、安定細胞株の全細胞溶解物のウェスタンブロット分析(B)。タンパク質のレベルを濃度測定し、アクチンを正規化し、倍率をEGFP発現安定細胞株に対して計算した(C)。
【図11】mTORβキナーゼ活性が、増殖の導入に必要であることを示す図である。mTORβwt、mTORβキナーゼ不活性型(mTORβ kinase dead)またはEGFPを過剰発現するHEK293安定細胞株を、様々な濃度(1000、2000、4000および8000細胞/ウェル)で96ウェルプレートに播種し、標準条件下で5日間増殖させた。その後、細胞数を、Resazurinに基づくアッセイにより各ウェルにおいて測定した。各細胞株に関する正規化増殖曲線を、6つの独立した実験からのデータを使用して計算した(A)。c−mycおよびその転写標的に対する抗体を用いた、安定細胞株の全細胞溶解物のウェスタンブロット分析。タンパク質のレベルを、濃度測定し、アクチンを正規化し、倍率をEGFP発現安定細胞株に対して計算した(B)。
【図12】mTORβが、細胞周期のG1期進行にとって重要であることを示す図である。mTORβ、mTORαまたはEGFPを安定して過剰発現するHEK293細胞を、BrdUを用いて30分間パルス標識し、2時間ごとに、24時間追跡した。BrdUの組込みを、FACS分析により測定した。各細胞株に関して観察された細胞周期のGl期、S期およびG2期の存続期間をグラフに表した。SD、p=0.05。
【図13】mTORβの過剰発現が、細胞を、飢餓誘導性細胞死から保護することを示す図である(A)。mTORβキナーゼ活性は、生存促進作用(pro-survival effect)の媒介に必要である(B)。mTORβwt、mTORαwt、mTORβキナーゼ不活性型またはEGFPを過剰発現する、Hek293安定細胞株を、60時間血清飢餓状態にした。細胞の生存を、Trypan Blue色素排除アッセイにより評価した。データは、5つの実験の平均±SEである。*P値≦0.01。
【図14】mTORβの過剰発現が、細胞発癌性の増加をもたらすことを示す図である。mTORβ、mTORαまたはEGFPを安定して過剰発現するHEK293細胞を培養培地中のアガロースの薄層にプレーティングした。14日後、MTTを使用してコロニーを染色した(A)。コロニーを、Quantity One Software(Bio−Rad)を使用して計測し、倍率をプロットした(B)。データは、4つの実験の平均±SEである。*P値≦0.01。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[配列表の簡単な説明]
配列番号1は、ヒトmTORベータスプライス変異体をコードするポリヌクレオチド配列であり、配列番号2は、ヒトmTORベータタンパク質のアミノ酸配列である。
配列番号3は、完全長ヒトmTORアルファタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列であり、配列番号4は、ヒトmTORアルファタンパク質のアミノ酸配列である。
配列番号5〜8は、実施例4において使用したプライマーである。
配列番号9は、ヒトMCF7、Keh293およびHEP2G細胞株から、PCRにより作製された増幅断片であり、配列番号10は、配列番号9によりコードされたアミノ酸配列である。
【0010】
[発明の詳細な説明]
本発明は、ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)タンパク質の新規のスプライス形態の同定および特徴付けに基づくものである。mTORの新規のスプライス形態(以後mTORベータまたはmTORβと称される)の存在が示されたのはこれが最初である。本発明は、mTORベータタンパク質のアッセイおよびその活性の研究に基づくものである。
【0011】
mTORベータは、目下知られているmTOR(以後mTORα)のN末端アミノ酸1〜23およびのC末端アミノ酸1867〜2549のスプライス融合物であり、これは、706アミノ酸長の融合タンパク質をもたらす(配列番号2)ことが決定された。融合タンパク質において、調節性のHEATドメインおよびFATドメインは失われている。mTORβに対応するmRNAの転写物は、心臓および肝臓において高度に発現するが、腎臓、肝臓、血液、小腸、および大腸は、mTORβのタンパク質レベルが最も高いこともまた示された。さらに、完全長mTORαと同様に、スプライス形態もまた、基質提示分子Raptor、Rictor、およびGβLと結合することができる。mTORβはまた、in vitroで、S6K1および4E−BP1をリン酸化することができる。そのうえ、mTORβは、血清刺激に応じて、全mTORαアミノ酸配列のSer2448(S2448)に対応するセリン残基(mTORβのSer605)でリン酸化されることが示された。全mTORαアミノ酸配列のSer2448に対応するセリン残基でのmTORβのリン酸化は、ラパマイシンに対して感受性である。さらに、mTORαと比較した場合に、mTORβは、ラパマイシンに対してそれほど感受性ではないことが示された。
【0012】
本明細書において使用される場合、「mTORベータ」(mTORβ)という用語は、mTORのスプライス形態を指す。例えば、発明者らは、配列番号2のポリペプチドが、天然に存在するヒトmTORベータポリペプチドであることを見出した。このタンパク質は、706アミノ酸長であると考えられ、約2121ヌクレオチド長である配列番号1の核酸によってコードされる。本明細書において使用される場合、「mTORアルファ」(mTORα)という用語は、完全長の、ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)タンパク質を指す。例えば、ヒトmTORアルファポリペプチドは、約2549アミノ酸長であるタンパク質であると考えられ(配列番号4)、配列番号3のヌクレオチドによってコードされると考えられる。
【0013】
[ポリペプチド]
本発明は、mTORベータポリペプチドを提供する。
【0014】
「ポリペプチド」は、2つ以上のサブユニットのアミノ酸、アミノ酸類似体、または他のペプチドミメティック(peptidomimetic)の化合物を指すのに、その最も広い意味で、本明細書において使用される。「ポリペプチド」という用語は、したがって、短いペプチド配列ならびにさらに、より長いポリペプチドおよびタンパク質を含む。本明細書において使用される場合、「アミノ酸」という用語は、グリシンを含む天然アミノ酸および/または非天然アミノ酸もしくは合成アミノ酸のいずれか、ならびにD光学異性体またはL光学異性体の両方、ならびにアミノ酸類似体およびペプチドミメティック(peptidomimetic)を指す。
【0015】
本発明のポリペプチドは、好ましくは単離形態で提供される。本明細書において使用される場合、物理的な方法、力学的な方法、または化学的な方法が、タンパク質と通常に結合している細胞性成分からタンパク質を取り出すために用いられる場合に、タンパク質は、単離されると表現される。当業者は、単離タンパク質を得るために、標準的な精製法を容易に用いることができる。
【0016】
本発明は、mTORベータ(mTORβ)ポリペプチドを含む。本発明によるmTORベータポリペプチドは、本明細書において記載される場合、天然に存在するmTORベータポリペプチドであってもよく、またはその変異体、誘導体、もしくは断片であってもよい。本発明の一実施形態において、mTORベータポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列からなる、またはそれから本質的になる、またはそれを含む。本発明の一実施形態において、mTORベータポリペプチドは、配列番号4のmTORαポリペプチドにおけるそれらのアミノ酸などのmTORαのN末端アミノ酸1〜23とC末端アミノ酸1867〜2549の間のスプライス融合物である。本発明の他の実施形態において、mTORベータポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも75%または少なくとも95%の配列同一性を有する配列からなり、またはそれから本質的になり、またはそれを含み、S6K1および/または4E−BP1をリン酸化する。
【0017】
本発明のポリペプチドは、配列番号1のヌクレオチド配列によってまたは配列番号1を含むポリヌクレオチドなど、本明細書に記載されている本発明のポリヌクレオチドによってコードされ得る。本発明のポリペプチドは、配列番号1の連続した配列全体にわたって少なくとも80%もしくは少なくとも95%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによって、または配列番号1のポリヌクレオチドに、68℃で0.1×SSCを用いる条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ得る。そのようなポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドは、S6K1および/または4E−BP1をリン酸化することができるであろう。
【0018】
mTORベータポリペプチドは、天然に存在するmTORベータポリペプチドまたはその変異体、誘導体、もしくは断片であってもよい。天然に存在するmTORベータポリペプチドは、任意の種、好ましくは哺乳動物種において天然に発現されるmTORベータポリペプチドであってもよい。例えば、適した天然に存在するmTORベータポリペプチドは、ヒト、非ヒト霊長動物、げっ歯動物(例えばラットもしくはマウス)、ウサギ、ウマ、または家畜動物(例えばヤギ、ヒツジ、ブタ、もしくはウシ)からの哺乳動物mTORベータポリペプチドであってもよい。mTORベータポリペプチドは、ウサギ、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ヒト、または非ヒト霊長動物のmTORβポリペプチドであってもよい。好ましくは、mTORベータポリペプチドは、ヒトmTORベータポリペプチドである。例えば、ヒトmTORベータポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号2において提供される。ヒトmTORベータポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は、配列番号1において提供される。本発明によるmTORベータポリペプチドは、ヒトポリペプチドなどの任意のそのような天然に存在するmTORベータポリペプチドであってもよく、またはその対立遺伝子変異体であってもよい。対立遺伝子変異体は、上記に記載されるアミノ酸配列とはわずかに異なるアミノ酸配列を有するが、開示されているタンパク質と関連する同じまたは類似した生物学的機能をなお有するであろう。
【0019】
mTORベータポリペプチドは、天然に存在するmTORベータペプチドの誘導体、類似体、ポリペプチド断片、またはミメティックなどの変異ポリペプチドであってもよい。そのような変異ポリペプチドは、好ましくは、天然に存在するmTORベータペプチドと同じ生物学的機能または活性を保持する。活性は、天然に存在するmTORベータポリペプチドが有する任意の活性であってもよい。mTORベータの多くの活性は、本明細書において開示されている。適した変異ポリペプチドは、任意の1以上のこれらの活性を有し得る。例えば、変異ポリペプチドは、アセチル化される能力および/または第2のタンパク質をリン酸化する能力および/またはDNAに結合する能力を保持することができる。例えば、適した変異ポリペプチドは、cMycに対する影響を誘発することができる。適した変異ポリペプチドは、配列番号4の全mTORαアミノ酸配列のS2448(配列番号2のmTORβポリペプチドのSer605)に対応するセリン残基でリン酸化することができる。適した変異ポリペプチドは、S6K1をリン酸化する能力を有し得る。適した変異ポリペプチドは、4E−BP1をリン酸化する能力を有し得る。適した変異ポリペプチドは、S6K1および4E−BP1をリン酸化する能力を有し得る。適した変異ポリペプチドは、Raptor、Rictor、およびGβLの1つ、2つ、または3つすべてと相互作用することができる。適した変異ポリペプチドは、細胞増殖を誘発することができる。適した変異ポリペプチドは、飢餓誘発性の細胞死から細胞を保護することができる。適した変異ポリペプチドは、細胞の発癌能を増加させることができる。適した変異ポリペプチドは、細胞周期のG1期の期間を減少させることができる。これらの活性を評価するための方法は、本明細書において記載され、当業者によって容易に理解されると思われる。実施例は、どのようにそのような活性が評価され得るか、および例としての配列番号2のポリペプチドの使用を示す。これらの方法は、本明細書において記載される、他のポリペプチドを用いる使用に容易に適応させることができる。
【0020】
本発明のmTORβポリペプチドは、完全長mTORαポリペプチドの1以上の機能を保持することができる。これらの機能は、キナーゼ活性;配列番号4のmTORαアミノ酸配列のS2448(配列番号2のmTORβポリペプチドのSer605)に対応するセリン残基のリン酸化による活性化;S6K1をリン酸化する能力および/または4E−BP1をリン酸化する能力などの他のタンパク質をリン酸化する能力;Raptor、Rictor、およびGβLのうちの1つ、2つ、または3つすべてと相互作用するまたは結合する能力のうちの1以上を含んでいてもよい。
【0021】
本発明のmTORベータポリペプチドは、完全長mTORアルファポリペプチドの活性とは異なる、天然に存在するmTORベータの少なくとも1つの活性を保持することができる。例えば、本明細書において記載されるように、mTORβを発現する細胞は、mTORαを発現する細胞よりも速く増殖し、mTORαではなくmTORβの発現は、c−Mycタンパク質発現の誘発を導き、mTORβを発現する細胞は、mTORαを発現する細胞よりもG1期の期間が短く、mTORαではなくmTORβの発現は、血清飢餓の影響から細胞を保護し、mTORβの発現は、mTORαを発現する細胞と比較して、細胞発癌能の増加を導く。本発明のmTORβポリペプチドは、mTORαポリペプチドと比較した場合に、任意の1以上のこれらの差異を保持することができる。
【0022】
ポリペプチド変異体は、配列番号2のポリペプチドなどの天然に存在するmTORβポリペプチドの欠失変異体、追加変異体、または置換変異体を含むが、これらに限定されない。例えば、適した変異体は、そのような配列の置換変異体、欠失変異体、もしくは追加変異体であってもよく、または任意のそのような配列の断片であってもよい。変異ポリペプチドは、配列番号2など、天然に存在するmTORβポリペプチド配列から、1、2、3、4、5、10までの、20までの、30までの、40までの、50までの、もしくは75までのまたはそれ以上のアミノ酸置換および/またはアミノ酸欠失を含んでいてもよい。
【0023】
「置換」変異体は、好ましくは、1以上のアミノ酸の同数のアミノ酸との交換および保存的アミノ酸置換を行うことを伴う。ポリペプチドは、1以上のアミノ酸の1以上の他のアミノ酸との保存的置換を有し得る。当業者は、様々なアミノ酸が、類似した特徴を有することを認識している。ポリペプチドの1以上のそのようなアミノ酸は、そのポリペプチドの所望の特性(アセチルトランスフェラーゼ活性など)を排除することなく、1以上の他のそのようなアミノ酸によって置換することができることが多い。例えば、アミノ酸は、類似した特性を有する代替アミノ酸(例えば、他の塩基性アミノ酸、他の酸性アミノ酸、他の中性アミノ酸、他の荷電アミノ酸、他の親水性アミノ酸、他の疎水性アミノ酸、他の極性アミノ酸、他の芳香族アミノ酸、または他の脂肪族アミノ酸)と置換されてもよい。適した置換基を選択するために使用することができる20の主要なアミノ酸のいくつかの特性は、以下の通りである。
【表1】
【0024】
例えば、アミノ酸のグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンは、互いに置換することができることが多い(脂肪族側鎖を有するアミノ酸)。これらの起こり得る置換のうちで、グリシンおよびアラニンが互いに置換するために使用される(それらは相対的に短い側鎖を有するので)こと、ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシンが互いに置換するために使用される(それらは疎水性である、より大きな脂肪族側鎖を有するので)ことが好ましい。互いに置換することができることが多い他のアミノ酸は、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン(芳香族側鎖を有するアミノ酸)、リシン、アルギニン、およびヒスチジン(塩基性側鎖を有するアミノ酸);アスパラギン酸およびグルタミン酸(酸性側鎖を有するアミノ酸);アスパラギンおよびグルタミン(アミド側鎖を有するアミノ酸);ならびにシステインおよびメチオニン(硫黄含有側鎖を有するアミノ酸)を含む。
【0025】
本明細書において使用される場合、保存的変異体は、上記に記載した機能/活性などのタンパク質の生物学的機能または生物学的活性に不利に影響を与えない、アミノ酸配列の変化を指す。例えば、保存的変異体は、アセチル化されるためのそれらの能力、第2のタンパク質をリン酸化する能力、およびDNAに結合する能力を保持することができる。置換、挿入、または欠失は、変化した配列が、タンパク質と関連する生物学的機能または生物学的活性を妨げるまたは妨害する場合に、タンパク質に影響を与えると表現される。例えば、タンパク質の全体的な荷電、構造、または疎水性/親水性の特性は、生物学的活性に不利に影響を与えることなく変化させることができる。したがって、アミノ酸配列は、タンパク質の生物学的活性に不利に影響を与えることなく、例えばポリペプチドをより疎水性または親水性にするために変化させることができる。
【0026】
変異ポリペプチドは、配列番号2において記載される全配列など、天然に存在するmTORβポリペプチド配列と少なくとも約75%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、および最も好ましくは、少なくとも約99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し得る。例えば、ヒトTOR、マウスTOR、およびラットTORは、タンパク質レベルで95%の同一性を共有する。これらのレベルのアミノ酸同一性のどれでも、完全長の天然に存在するmTORβポリペプチド配列にわたって存在していてもよく、またはその50、100、150、200、もしくはそれ以上のアミノ酸など、完全長配列の一部にわたって存在していてもよい。これらのレベルのアミノ酸同一性のどれでも、完全な連続mTORβポリペプチド配列にわたって存在していてもよい。配列同一性のレベルは、mTORβ配列の異なる領域において変動してもよい。例えば、変異体mTORβは、完全長の天然に存在するmTORβポリペプチドにわたって少なくとも75%のアミノ酸同一性を有し得るが、いくつかの領域内でより高いレベルの配列同一性を有し得る。例えば、そのような変異ポリペプチドは、天然に存在する配列からの1以上の保存ドメインを保持することができる。
【0027】
そのような配列に関しての同一性または相同性は、あらゆる保存的置換を配列同一性の一部として考慮せずに、最大のパーセント相同性を達成するために配列を整列し、必要であればギャップを導入した後に、知られているペプチドと同一である、候補配列におけるアミノ酸残基の割合として本明細書において定義される。融合タンパク質またはポリペプチド配列へのN末端、C末端、もしくは内部の伸長、欠失、もしくは挿入は、相同性に影響を与えるとして解釈されないものとする。
【0028】
アミノ酸配列に関連して、「配列同一性」は、以下のパラメーターを用いて、ClustalWを使用して評価した場合に確定される値を有する配列を指す(Thompsonら、1994、前掲):ペアワイズアラインメントパラメーター−メソッド:アキュレート、マトリックス:PAM、ギャップ開始ペナルティー:10.00、ギャップ伸長ペナルティー:0.10;マルチプルアラインメントパラメーター−マトリックス:PAM、ギャップ開始ペナルティー:10.00、ディレイに対する%同一性:30、ペナライズエンドギャップ:オン、ギャップ分離距離:0、ネガティブマトリックス:ノー、ギャップ伸長ペナルティー:0.20、残基特異的ギャップペナルティー:オン、親水性ギャップペナルティー:オン、親水性残基:GPSNDQEKR。特定の残基での配列同一性は、単に誘導体化された同一の残基を含むことが意図される。
【0029】
好ましい「誘導体」または「変異体」は、天然に存在するアミノ酸の代わりに、配列において現われるアミノ酸がその構造的な類似体であるものを含む。配列において使用されるアミノ酸はまた、ペプチドの機能が著しく不利に影響を与えられないという条件で、誘導体化または改変、例えば標識することもできる。
【0030】
上記に記載した誘導体および変異体は、ペプチドの合成の間にまたは産生後の改変によってまたはペプチドが組換え形態である場合に、部位特異的突然変異誘発、ランダム突然変異誘発、または核酸の酵素による切断および/もしくはライゲーションの公知の技術を使用して調製することができる。
【0031】
ポリペプチドの欠失変異体および挿入変異体は本発明の範囲内である。アミノ酸欠失は、所望の活性を保持しながら、ポリペプチドの全長および分子量を低下させることができるので、有利となり得る。これは、特定の目的に必要とされるポリペプチドの量を低下させることを可能にすることができる。「欠失」変異体は、個々のアミノ酸の欠失、2つ、3つ、4つ、もしくは5つのアミノ酸などのアミノ酸の小さなグループの欠失、または特異的なアミノ酸ドメインもしくは他の特徴の欠失などのより大きなアミノ酸領域の欠失を含んでいてもよい。ポリペプチドに関するアミノ酸挿入もまた行うことができる。これは、ポリペプチドの性質を変化させるために(例えば同定、精製、または発現を補助するために)行われてもよい。上記に定義されるようなポリペプチドの配列に関するアミノ酸変化を組み込むポリペプチド(置換、欠失、または挿入のいずれにせよ)は、任意の適した技術を使用して提供することができる。例えば、所望の配列変化を組み込む核酸配列は、部位特異的突然変異誘発によって提供することができる。次いで、これは、そのアミノ酸配列における対応する変化を有するポリペプチドの発現を可能にするために使用することができる。
【0032】
本発明のポリペプチドは、配列番号2において開示されているアミノ酸配列を有するポリヌクレオチドなどの天然に存在するmTORβ分子およびそのいずれかのアミノ酸配列変異体を含み、1以上のアミノ酸残基は、開示されているコード配列のN末端もしくはC末端にまたはその配列内に挿入されている。上記に説明されるように、配列番号2のmTORβポリペプチドは、完全長mTORαポリペプチドからの2つの断片を共にスプライスすることによって形成される。配列番号2は、したがって、配列番号4のアミノ酸1〜23および1867〜1549を含む。変異体mTORβは、他の天然に存在するmTORαポリペプチド由来など、他のmTORαポリペプチド由来の等価な断片を含んでいてもよい。関連するポリペプチドにおける等価なアミノ酸は、例えば配列のアラインメントおよび比較によって容易に同定することができる。変異体mTORβは、したがって、天然に存在するmTORαポリペプチドからのN末端断片およびC末端断片を組み合わせることによって形成されてもよい。変異体mTORβポリペプチドはまた、そのようなN末端断片およびC末端断片から配列が変わってもよい。例えば、変異体mTORβポリペプチドは、任意の天然に存在するmTORαポリペプチドからの関係のあるN末端断片およびC末端断片と比較した場合に、上記に論じられるアミノ酸配列同一性の程度のいずれかを有し得る。
【0033】
変異体mTORβは、上記に定義されるようなmTORβ活性を有するポリペプチドを形成するために、共にスプライスすることができるmTORαポリペプチドと異なる断片を含んでいてもよい。
【0034】
例として配列番号4のmTORαポリペプチドを使用して、本発明のmTORβポリペプチドは、配列番号4のアミノ酸1〜23を含んでいてもよく、またはmTORαのN末端からのより多いもしくはより少ないアミノ酸を含んでいてもよい。mTORαの適した断片は、配列番号4の残基1から開始してもよく、またはアミノ酸2、3、4、5、6、またはより後のアミノ酸などの後の残基から開始してもよい。mTORαの適した断片は、配列番号4の残基23で終了してもよく、またはアミノ酸18、19、20、21、22、24、25、26、27、もしくは28またはより前もしくはより後のアミノ酸残基などの異なる残基で終了してもよい。これらの開始点および終了点の任意の組合せもまた、適した断片を形成するために使用することができる。mTORαのN末端からの適した断片は、例えば15、17、18、20、21、22、23、24、25、27、30、35、またはそれ以上のアミノ酸長であってもよい。
【0035】
同様に、mTORβポリペプチドは、配列番号4のアミノ酸1867〜2549を含んでいてもよく、またはmTORαのC末端からのより多いもしくはより少ないアミノ酸を含んでいてもよい。mTORαの適した断片は、配列番号4の残基1867から開始してもよく、またはアミノ酸1860、1861、1862、1863、1864、1865、1866、1868、1869、1870、1871、1872、1873、またはより前もしくはより後のアミノ酸などの異なる残基から開始してもよい。mTORαの適した断片は、配列番号4の残基2549で終了してもよく、またはアミノ酸2548、2547、2546、2545、2544、またはより前のアミノ酸残基などのより前の残基で終了してもよい。しかしながら、mTORαのC末端断片が、配列番号4のアミノ酸2517〜2549に位置するFATCドメインを含むことが好ましい。これらの開始点および終了点の任意の組合せもまた、適した断片を形成するために使用することができる。mTORαのC末端からの適した断片は、例えば680、681、682、683、684、685、686、690、695、700まで、またはそれ以上のアミノ酸長であってもよい。
【0036】
mTORβポリペプチドは、mTORαポリペプチドからのそのようなN末端断片およびC末端断片の任意の組合せを含んでいてもよい。そのような断片は、本明細書に記載されている置換、追加、または欠失によって、天然に存在する配列からさらに改変することができる。
【0037】
上記に記載されるように、mTORβポリペプチドは、mTORαの少なくとも1つの機能/活性などのmTORβの少なくとも1つの機能/活性を保持するであろう。図5において示されるように、配列番号2のmTORβは、mTORαからのある種のドメインを保持するが、他のものを欠く。例えば、配列番号2のmTORβは、mTORαからの調節性のHEATドメインおよびFATNドメインを欠く。そのため、これらのドメインは、mTORβの機能にとって不必要であるように思われる。そのため、mTORβポリペプチドは、mTORαポリペプチドからの1つ、それ以上、またはすべてのHEATドメインを欠いていてもよい。mTORβは、機能性のHEATドメインを完全に欠いてもよい。mTORβポリペプチドは、mTORαポリペプチドからのFATNドメインを欠いてもよい。mTORβポリペプチドは、機能性のFATドメインを欠いてもよい。
【0038】
しかしながら、配列番号2のmTORβポリペプチドは、mTORαからの他のドメインを保持する。これらのドメインからのアミノ酸または構造的な特徴は、mTORβの様々な活性を担っていてもよい。そのため、mTORβポリペプチドは、FRBドメインおよび/またはキナーゼドメイン(KD)および/または調節性ドメインおよび/またはFATCドメインを保持することができる。FRBドメインは、FKBP12−ラパマイシン結合に必要であり、かつ十分である。mTORβポリペプチドは、FRBドメインを保持することができる。mTORβポリペプチドは、FKBP12−ラパマイシン結合能力を付与する代替ドメインまたは変異ドメインを保持することができる。キナーゼドメインは、P13キナーゼ関連ドメインである。mTORβポリペプチドは、キナーゼドメインを保持することができる。mTORβポリペプチドは、P13キナーゼ能力を付与する代替ドメインまたは変異ドメインを保持することができる。FATCドメインは、mTORキナーゼの活性および機能に必要である。mTORβポリペプチドは、FATCドメインを保持することができる。mTORβポリペプチドは、そのようなmTORβキナーゼの活性および機能を付与する代替ドメインまたは変異ドメインを保持することができる。mTORβポリペプチドは、キナーゼドメインおよびFATCドメインの両方などのmTORαからの2つ以上のこれらのドメインを保持することができる。mTORβポリペプチドはまた、Raptorおよび/またはRictorおよび/またはGβLに対する機能性の結合部位を保持することができる。
【0039】
本発明のポリペプチドはまた、少なくとも1つの残基によって置換された、配列番号2において開示されているアミノ酸配列および開示されている配列のアミノ酸配列変異体を有するポリヌクレオチドなどの天然に存在するmTORβ分子または上記に定義されるようなそれらの断片を含む。そのような断片は、ペプチドまたはポリペプチドとも称されるが、ATフックドメインなどの知られているタンパク質ドメインに対応する、アミノ酸配列の領域として同定されるタンパク質の機能性の領域および強い親水性の領域を含有し得る。領域は、すべて、MacVector(Oxford Molecular)などの一般に入手可能なタンパク質配列分析ソフトウェアを使用することによって容易に同定可能である。
【0040】
本発明によるポリペプチド「断片」は、切断によって、例えばポリペプチドのN末端および/またはC末端からの1以上のアミノ酸の除去によって作製することができる。10まで、20まで、30まで、40まで、50まで、60まで、75まで、またはそれ以上のアミノ酸は、N末端および/またはC末端からこのように除去することができる。断片はまた、1以上の内部の欠失によって生成することができる。
【0041】
本発明のポリペプチドは、さらなる追加の配列、例えば下記に記載されるポリヌクレオチドおよびベクターによってコードされる配列を含んでいてもよい。ポリペプチドは、リーダー配列、つまり、ポリペプチドのターゲティングまたは調節において機能するポリペプチドのアミノ末端のまたはその近くの配列を含んでいてもよい。例えば、ポリペプチドを体内の特定の組織に向ける配列、または発現に際してポリペプチドのプロセシングもしくはフォールディングを助ける配列が、ポリペプチド中に含まれていてもよい。様々なそのような配列は、当該分野において周知であり、例えばポリペプチドの所望の特性および産生方法に応じて当業者によって選択することができる。
【0042】
ポリペプチドは、ポリペプチドまたはポリペプチドの発現を同定もしくはスクリーニングするためにタグまたは標識をさらに含んでいてもよい。適した標識は、125I、32P、もしくは35Sなどの放射性同位元素、蛍光標識、酵素標識、またはビオチンなどの他のタンパク質標識を含む。適したタグは、日常的なスクリーニング法によって同定することができる短いアミノ酸配列であってもよい。例えば、特定のモノクローナル抗体によって認識される短いアミノ酸配列が含まれていてもよい。
【0043】
本発明のポリペプチドは、本明細書において定義されるように、化学的に改変し、例えば翻訳後に改変することができる。例えば、それらは、グリコシル化することもでき、または改変アミノ酸残基を含んでいてもよい。それらは、アミドおよびポリペプチドとのコンジュゲートを含む、ポリペプチド誘導体の多種多様の形態とすることができる。
【0044】
化学的に改変されたペプチドはまた、機能性の側鎖の反応によって化学的に誘導体化される1以上の残基を有するペプチドをも含む。そのような誘導体化された側鎖は、アミン塩酸塩、p−トルエンスルホニル基、カルボベンゾキシ基、t−ブチルオキシカルボニル基、クロロアセチル基、およびホルミル基を形成するために誘導体化された側鎖を含む。遊離カルボキシル基は、塩、メチルエステルおよびエチルエステルもしくは他のタイプのエステル、またはヒドラジドを形成するために誘導体化することができる。遊離水酸基は、Oアシル誘導体またはOアルキル誘導体を形成するために誘導体化することができる。ヒスチジンのイミダゾール窒素は、N−イム−ベンジルヒスチジンを形成するために誘導体化することができる。ペプチドはまた、リン酸化(例えば、3アミノリン酸化)によって、およびグリコシル化(例えば、マンノシル化)によって改変することができる。
【0045】
20の標準的なアミノ酸の1以上の天然に存在するアミノ酸誘導体を含有するものもまた、化学的に修飾されたペプチドとして含まれていてもよい。例えば、4−ヒドロキシプロリンは、プロリンの代わりに用いられてもよく、またはホモセリンは、セリンの代わりに用いられてもよい。
【0046】
企図されるポリペプチドの変異体および/または誘導体は、例えば相同組換え、部位特異的突然変異誘発、またはPCR突然変異誘発による所定の変異を含有するものならびにウサギ、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、および非ヒト霊長動物種を含むが、これらに限定されない他の動物種の対応するタンパク質ならびにタンパク質のファミリーの対立遺伝子または他の天然に存在する変異体;ならびにタンパク質が、天然に存在するアミノ酸以外の部分(例えば、酵素または放射性同位元素などの検出可能な部分)を用いて、置換による手段、化学的な手段、酵素による手段、または他の適切な手段によって共有結合で改変された誘導体をさらに含む。
【0047】
[mTORベータペプチドミミック]
mTORβの三次元構造に似たペプチドミメティックを産生することができる。そのようなペプチドミメティックは、例えば、より経済的な生産、より高い化学的安定性、薬理学的特性の増強(半減期、吸収、効力、効能など)、特異性の変化(例えば生物学的活性の広域スペクトル)、抗原性の低下などを含む、天然に存在するペプチドに対して有意な利点を有し得る。
【0048】
そのようなミメティックは、任意の1以上の上記に論じられるmTORβの機能または活性を有し得る。一形態において、ミメティックは、mTORβ二次構造の要素に似たペプチド含有分子である。他の実施形態において、ミメティックは、cMycに結合することができる。代替の実施形態において、ミメティックは、Raptor、Rictor、およびGβLのいずれか1つと結合することができる。他の実施形態において、ミメティックは、S6K1および/または4E−BP1をリン酸化することができる。
【0049】
ペプチドミメティックの使用の背景にある根本的な理論的根拠は、タンパク質のペプチドバックボーンが、主として、抗体および抗原の相互作用に類似する、分子の相互作用を促進するようにアミノ酸側鎖を方向付けるために存在するということである。ペプチドミメティックは、天然分子に類似した、分子の相互作用を可能にすることが予想される。他の形態において、ペプチド類似体は、鋳型ペプチドの特性と類似性の特性を有する非ペプチド薬剤として医薬品産業において一般に生産される。これらのタイプの非ペプチド化合物はまた、ペプチドミメティックまたはペプチドミメティック(peptidomimetic)とも称され(参照によって本明細書において組み込まれるFauchere(1986)Adv.Drug Res.15、29〜69ページ;Veber & Freidinger(1985)Trends Neurosci.8、392〜396ページ;Evansら(1987)J.Med.Chem、30、1229〜1239ページ)、コンピュータ化された分子モデリングの支援によって通常開発される。
【0050】
治療的に有用なペプチドに構造的に類似したペプチドミメティックは、等価な治療効果または予防効果をもたらすために使用することができる。一般に、ペプチドミメティックは、パラダイムポリペプチド(つまり、生化学的特性または薬理学的活性を有するポリペプチド)に構造的に類似しているが、当該分野において知られている方法による、ペプチド中に通常で見つけられない化学的連結によって必要に応じて交換される1以上のペプチド連結を有する。ペプチドミメティックの標識は、定量的構造−活性データおよび分子モデリングによって予測される、ペプチドミメティック上の非干渉位置へ、直接またはスペーサー(例えばアミド基)を通して、1以上の標識を共有結合することを通常伴う。そのような非干渉位置は、一般に、ペプチドミメティックが結合して、治療効果をもたらす高分子と直接接触しない位置である。ペプチドミメティックの誘導体化(例えば標識)は、ペプチドミメティックの所望の生物学的活性または薬理学的活性に実質的に干渉しないはずである。
【0051】
ペプチドミメティックの使用は、コンビナトリアルケミストリーを使用して増強して、薬剤ライブラリーを作り出すことができる。ペプチドミメティックの設計は、例えば腫瘍細胞へのペプチドの結合を増加または減少させるアミノ酸変異を同定することによって支援することができる。使用することができるアプローチは、酵母2ハイブリッド法(Chienら(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88、9578〜9582ページを参照されたい)およびファージディスプレイ法の使用を含む。2ハイブリッド法は、酵母におけるタンパク質−タンパク質相互作用を検出する(Fieldsら(1989)Nature 340、245〜246ページ)。ファージディスプレイ法は、固定されたタンパク質ならびにラムダおよびM13などのファージの表面上に発現したタンパク質の間の相互作用を検出する(Ambergら(1993)Strategies 6、2〜4ページ;Hogrefeら(1993)Gene 128、119〜126ページ)。これらの方法は、ペプチド−タンパク質相互作用の正の選択および負の選択、ならびにこれらの相互作用を決定する配列の同定を可能にする。
【0052】
[核酸分子]
本発明は、mTORベータポリペプチドをコードする核酸分子を提供する。
【0053】
本明細書において使用される場合、「核酸」および「ポリヌクレオチド」という用語は、区別なく使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態、デオキシリボヌクレオチド(アデニン、グアニン、チミン、および/もしくはシトシン)またはリボヌクレオチド、またはその類似体のいずれかを指す。そのようなポリヌクレオチドは、一本鎖形態または二本鎖ヘリックスであってもよい。この用語は、分子の一次構造および二次構造のみを指し、あらゆる特定の三次形態に限定されない。ポリヌクレオチドの非限定的な例は、遺伝子、遺伝子断片、DNA、メッセンジャーRNA(mRNA)、cDNA、一本鎖RNAまたは一本鎖DNA、線状のDNA分子(例えば制限断片)中に見つけられる二本鎖DNA、ウイルス、染色体、組換えポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離DNA、任意の配列の単離RNA、核酸プローブ、およびプライマーを含む。二本鎖DNA分子の配列などのポリヌクレオチド配列は、DNAの非転写鎖(例えばmRNAに相同性の配列を有する鎖)に沿って5’から3’方向の配列のみを提供する通常の慣習に従って、本明細書において記載することができる。
【0054】
本発明のポリヌクレオチドは、単離形態または精製形態で提供することができる。本明細書において使用される場合、核酸分子は、核酸分子が、他のポリペプチドをコードする混在物質(contaminant)である核酸分子から実質的に分離される場合に、「単離される」と表現される。
【0055】
本発明のポリヌクレオチドは、上記に定義されるような本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(例えばRNAまたはDNA)であってもよい。本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドをコードする核酸配列に相補的なポリヌクレオチドであってもよい。本発明のポリヌクレオチドは、適切なストリンジェンシー条件下で、オープンリーディングフレームにわたって、本発明のポリペプチドをコードする核酸にハイブリダイズするポリヌクレオチドであってもよい。本発明のポリヌクレオチドは、配列番号2の連続したアミノ酸配列全体と少なくとも約75%または少なくとも約95%の同一性を共有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであってもよい。特に企図されるのは、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、およびアンチセンス分子ならびに天然源に由来するにせよ、合成されるにせよ代替バックボーンに基づくまたは代替塩基を含む核酸である。しかしながら、本発明によるタンパク質をコードする核酸をコードする、それに適切なストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする、またはそれに相補的であるものを含むそのような核酸は、あらゆる先行技術の核酸に対して新しくかつ自明でないとしてさらに定義される。
【0056】
本発明のポリヌクレオチドは、上記に記載されるように、ポリペプチドをコードする任意のポリヌクレオチドであってもよい。本発明のポリヌクレオチドは、mTORβポリペプチドをコードする任意のポリヌクレオチドであってもよい。本発明のポリヌクレオチドは、配列番号2のmTORβポリペプチドをコードする配列、配列番号2のmTORβポリペプチドを含むもしくはそれから本質的になるポリペプチド、または上記に記載したそのいずれかの変異体もしくは断片を含んでいてもよい。本発明のポリヌクレオチドは、配列番号1の核酸配列または遺伝子コードにおける重複性を通してのみ配列番号1から変わった核酸配列、つまり、配列番号1と同じポリペプチドをコードする他の核酸配列を含んでいてもよく、それから本質的になってもよく、またはそれからなってもよい。
【0057】
核酸「コード配列」または選択されるポリペプチドを「コードする」核酸配列は、適切な調節配列のコントロール下に配置された場合に、in vivoで転写され(DNAの場合)、ポリペプチドに翻訳される(mRNAの場合)核酸分子(例えばDNAまたはRNA)である。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドンおよび3’(カルボキシ)末端の翻訳終止コドンによって決定される。ポリアデニル化シグナルおよび転写終結配列は、通常、コード配列に対して3’に位置するであろう。本発明の目的のために、そのような核酸配列は、ウイルス、原核生物、または真核生物のmRNAからのcDNA、ウイルスもしくは原核生物のDNAまたはRNAからのゲノム配列、および合成DNAを含むことができるが、これらに限定されない。
【0058】
本発明のポリヌクレオチドは、mTORβポリペプチドをコードする天然に存在する核酸であってもよい。例えば、配列番号1のポリヌクレオチドは、配列番号2のmTORβポリペプチドをコードする。本発明のポリヌクレオチドは、そのようなポリペプチドの変異体であってもよく、または上記に記載した天然に存在するmTORβポリペプチドの変異体をコードしてもよい。
【0059】
本発明のポリヌクレオチドは、配列番号2の連続したアミノ酸配列全体など、天然に存在するmTORβポリペプチドと少なくとも約75%の配列同一性、好ましくは、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%もしくはそれ以上、少なくとも約97%、または最も好ましくは、少なくとも約99%もしくはそれ以上の同一性を有するポリペプチドをコードしてもよい。本発明のポリヌクレオチドは、特にオープンリーディングフレームにわたって、配列番号1のヌクレオチド配列など、天然に存在するmTORβポリヌクレオチド配列または配列番号2のポリペプチドをコードする他のポリヌクレオチドと少なくとも80%、好ましくは、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%もしくはそれ以上、少なくとも約97%もしくはそれ以上、最も好ましくは、99%の配列同一性を共有してもよい。
【0060】
相同性または同一性を測定するための方法は、当該分野において周知であり、本文脈において、相同性は、核酸同一性に基づいて計算されることが当業者らによって理解されるであろう。そのような相同性は、少なくとも15、好ましくは、少なくとも30、例えば少なくとも40、60、100、200、またはそれ以上の連続ヌクレオチドの領域にわたって存在してもよい。そのような相同性は、無改変mTORβポリヌクレオチドまたは無改変mTORβポリペプチド配列の全長にわたって存在してもよい。例えば、UWGCGパッケージは、相同性を計算するために使用することができるBESTFITプログラムを提供する(例えばそのデフォルト設定で使用)(Devereuxら(1984)Nucleic Acids Research 12、387〜395ページ)。PILEUPアルゴリズムおよびBLASTアルゴリズムもまた、例えばAltschul S.F.(1993)J Mol Evol 36:290〜300ページ;Altschul,S,Fら(1990)J Mol Biol 215:403〜10ページにおいて記載されるように、相同性を計算するまたは配列を並べるために使用することができる(典型的にそれらのデフォルト設定で)。
【0061】
ヌクレオチド配列レベルまたはアミノ酸配列レベルでの相同性または配列同一性は、配列類似性検索に調整される、プログラムblastp、blastn、blastx、tblastn、およびtblastxによって用いられるアルゴリズムを使用するBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)分析によって好ましくは決定される(Altschulら(1997)Nucleic Acids Res.25、3389〜3402ページおよびKarlinら(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87、2264〜2268ページ、両者とも参照によって完全に組み込まれる)。BLASTプログラムによって使用されるアプローチは、最初に、クエリー配列およびデータベース配列の間で、ギャップを用いて(不連続)およびギャップを用いずに(連続)、類似したセグメントを考慮すること、次いで、同定された、すべてのマッチの統計的有意性を評価すること、ならびに最後に、あらかじめ選択された有意性の閾値を満たす、それらのマッチのみを集計することである。配列データベースの類似性検索における基本的な問題の論述については、参照によって完全に組み込まれるAltschulら(1994)Nature Genetics 6、119〜129ページを参照されたい。ヒストグラム、ディスクリプション、アラインメント、エクスペクト(つまり、データベース配列に対してマッチを報告するための統計的有意性閾値)、カットオフ、マトリックス、およびフィルター(低複雑性)についての検索パラメーターは、デフォルト設定とする。blastp、blastx、tblastn、およびtblastxによって使用されるデフォルトのスコア化マトリックスは、85のヌクレオチド長またはアミノ酸長にわたるクエリー配列に対して推奨されるBLOSUM62マトリックスとする(参照によって完全に組み込まれるHenikoffら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89、10915〜10919ページ)。
【0062】
blastnについては、スコア化マトリックスは、N(つまり、ミスマッチ残基に対するペナルティースコア)に対する、M(つまり、マッチ残基のペアに対するリワードスコア)の比によって設定され、MおよびNについてのデフォルト値は、それぞれ、+5および−4とする。4つのblastnパラメーターは、以下のように設定した:Q=10(ギャップ生成ペナルティー);R=10(ギャップ伸長ペナルティー);ウィンク=1(クエリーに沿ってすべてのwinkth位置でワードヒットを生成する);およびgapw=16(ギャップアラインメントが生成されるウィンドウ幅を設定する)。等価なBlastpパラメーター設定はQ=9;R=2;ウィンク=1;およびgapw=32とした。GCGパッケージバージョン10.0において入手可能な配列の間のBestfit比較は、DNAパラメーターGAP=50(ギャップクリエーションペナルティー)およびLEN=3(ギャップ伸長ペナルティー)を使用し、タンパク質比較において等価な設定はGAP=8およびLEN=2とする。
【0063】
変異ポリヌクレオチドは、3まで、5まで、10まで、15まで、20まで、30まで、50まで、100まで、またはそれ以上の変異(これらはそれぞれ、置換、欠失、または挿入であってもよい)によって、関係のあるポリヌクレオチドにおける配列と異なっていてもよい。これらの変異は、少なくとも30、例えば少なくとも40、60、もしくは100、またはそれ以上の、変異体の連続ヌクレオチドの領域にわたって、または完全長の変異体もしくはそれが由来するポリヌクレオチドにわたって測定されてもよい。
【0064】
本発明の変異ポリヌクレオチドは、配列番号1のポリヌクレオチドなどの天然に存在するmTORβポリヌクレオチドなどのmTORβポリヌクレオチドまたはそのいずれかの相補体とバックグラウンドを有意に超えるレベルでハイブリダイズすることができる。変異体および元のポリヌクレオチドの間の相互作用によって生成されるシグナルレベルは、典型的に、「バックグラウンドハイブリダイゼーション」の少なくとも10倍、好ましくは、少なくとも100倍強い。相互作用の強度は、例えば32Pを用いてプローブを放射標識することによって測定されてもよい。そのような変異体は、本発明のポリペプチドをコードしてもよく、またはコードしなくてもよい。好ましい分子は、配列番号1の相補体にハイブリダイズし、上記に定義されるようなmTORβポリペプチドなどの機能性のタンパク質をコードするものである。より好ましいハイブリダイズ分子は、配列番号1のオープンリーディングフレームの相補体鎖に上記の条件下でハイブリダイズするものである。
【0065】
そのようなハイブリダイゼーションは、好ましくは、ストリンジェントな条件下で生じる。「ストリンジェントな条件」は、(1)洗浄のために低イオン強度および高温、例えば、少なくとも50℃の温度の、0.015M NaCl/0.0015Mクエン酸ナトリウム/0.1%SDSを用いる条件または(2)ハイブリダイゼーションの間にホルムアミドなどの変性剤、例えば、42℃の、0.1%ウシ血清アルブミン/0.1% Ficoll/0.1%ポリビニルピロリドン/750mMl NaCl、75mMクエン酸ナトリウムを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)を含む50%(容量/容量)ホルムアミドを用いる条件とする。他の例は、少なくとも42℃の温度での、50%ホルムアミド、5×SSC(0.75M NaCl、0.075Mクエン酸ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%ピロリン酸ナトリウム、5×デンハート溶液、超音波処理サケ精子DNA(50μg/ml)、0.1%SDS、および10%硫酸デキストラン中でのハイブリダイゼーション、0.2×SSCおよび0.1%SDS中での42℃での洗浄とする。当業者は、明瞭で検出可能なハイブリダイゼーションシグナルを適切に得るために、ストリンジェンシー条件を容易に決定し、変えることができる。
【0066】
本発明は、コード核酸分子の断片をさらに提供する。本発明のポリヌクレオチドは、したがって、本明細書において記載されるポリヌクレオチドのいずれかの断片であってもよく、または上記に記載した断片ポリペプチドをコードしてもよい。本明細書において使用される場合、コード核酸分子の断片は、全タンパク質コード配列の小さな部分を指す。断片の大きさは、意図される使用によって決定される。例えば、断片が、タンパク質の活性部分をコードするように選ばれる場合、断片は、タンパク質の機能性の領域をコードすることができるほど十分に大きい必要がある。断片が、核酸プローブまたはPCRプライマーとして使用されることになっている場合、次いで、断片長は、プロ−ビング/プライミングの間に相対的に少数の偽陽性しか得られないように選ばれる。
【0067】
本発明によるポリヌクレオチド「断片」は、切断によって、例えば、ポリヌクレオチドの一端または両端からの1以上のヌクレオチドの除去によって作製することができる。10まで、20まで、30まで、40まで、50まで、75まで、100まで、200まで、またはそれ以上の核酸は、このように、ポリヌクレオチドの3’端末および/または5’端末から除去することができる。断片はまた、1以上の内部の欠失によって生成することができる。
【0068】
本発明の核酸分子の断片(つまり、合成オリゴヌクレオチド)は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のためにプローブもしくは特異的プライマーとして、または本発明のタンパク質をコードする遺伝子配列を合成するために使用することができる。そのような分子は、化学的な技術、例えばMatteucciら(1981)J.Am.Chem.Soc.103、3185〜3191ページのリン酸トリエステル法または自動合成法を使用することによって容易に合成することができる。そのうえ、より大きなDNAセグメントは、遺伝子の様々なモジュールセグメントを定義する一群のオリゴヌクレオチドの合成、その後に続く、完全な修飾遺伝子を構築するためのオリゴヌクレオチドのライゲーションなどのよく知られている方法によって、容易に調製することができる。好ましい実施形態において、本発明の核酸分子は、少なくとも約2121ヌクレオチドの連続したオープンリーディングフレームを含む。
【0069】
本発明のポリペプチドは、したがって、それをコードし、発現することができるポリヌクレオチドから産生することもでき、またはその形態で送達することもできる。本発明のポリヌクレオチドは、例としてSambrookら(1989、Molecular Cloning-a laboratory manual;Cold Spring Harbor Press)において記載されるように、当該分野において周知の方法によって合成することができる。すなわち、上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は、cDNAおよびゲノムライブラリーのスクリーニングまたはコード配列を含むことが知られているベクターからポリペプチドのコード配列を得ることなどによって、組換え法を使用して得ることができる。さらに、所望の配列は、フェノール抽出およびcDNAまたはゲノムDNAのPCRなどの標準的な技術を使用して、所望の配列を含有する細胞および組織から直接単離することができる。ポリヌクレオチド配列はまた、クローニングするのではなく、合成により産生することもできる。
【0070】
本発明の核酸分子は、診断上の目的およびプローブのための目的のために、検出可能な標識を含有するようにさらに改変することができる。多種多様のそのような標識は、当該分野において知られており、本明細書において記載されるコード分子とともに容易に用いることができる。適した標識は、ビオチン、放射標識ヌクレオチド、およびその他同種のものを含むが、これらに限定されない。当業者は、本発明の核酸分子の標識変異体を得るために任意のそのような標識を容易に用いることができる。翻訳の間にタンパク質配列の中に組み込まれるアミノ酸の欠失、追加、または変化による一次構造自体に対する改変は、タンパク質の活性を破壊することなく行うことができる。そのような置換または他の変化は、本発明の企図される範囲内にある核酸によってコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質をもたらす。
【0071】
[ベクターおよび宿主細胞]
本発明のポリヌクレオチドは、発現ベクターなどのベクター中に提供することができる。本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、およびベクターは宿主細胞中に提供することができる。
【0072】
本発明は、コード配列を含有する組換えDNA分子(rDNA)をさらに提供する。本明細書において使用される場合、rDNA分子は、in situで分子操作に供されるDNA分子である。rDNA分子を生成するための方法は、当該分野においてよく知られており、例えばSambrookら(2001)、Molecular Cloning-A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい。好ましいrDNA分子において、コードDNA配列は、発現コントロール配列および/またはベクター配列に作動可能に連結されている。本発明の一実施形態において、コード配列は、配列番号1またはその断片を含有する。代替の実施形態において、コード配列は、配列番号2のポリペプチドまたはその断片をコードする。
【0073】
本発明の核酸分子は、挿入配列に作動可能に連結されたコントロール配列を含み、したがって、標的被験体種におけるin vivoでの本発明のポリペプチドの発現を可能にする発現カセットの形態で提供することができる。これらの発現カセットは、引き続いて、ベクター内に典型的に提供される。適したベクターは、十分な量の遺伝情報を運ぶことができ、本発明のポリペプチドの発現を可能にすることができる任意のベクターであってもよい。
【0074】
ベクターは、さらなるプロセシングのための大量の核酸の調製のために(クローニングベクター)またはポリペプチドの発現のために(発現ベクター)、本発明の核酸の操作を単純化するために使用することができる。そのようなタンパク質は、mTORβ、配列番号2の任意のアミノ酸残基で1以上の変異を含むタンパク質、およびその誘導体ポリペプチドを含む。ベクターは、プラスミド、ウイルス(ファージを含む)、および組み込まれたDNA断片(つまり、組換えによって宿主ゲノムの中に組み込まれる断片)を含む。
【0075】
本発明のmTORβポリペプチドのコード配列が、一旦調製または単離されると、それは、任意の適したベクターの中にクローニングすることができ、それによって、mTORβコード配列を全く含まない細胞が実質的に存在しないように細胞を維持することができる。本明細書において記載されるように、多数のクローニングベクターが当業者らに知られている。クローニングベクターは、発現コントロール配列を含有する必要はない。
【0076】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチド配列またはrDNA分子を含む発現ベクターをも含む。そのような発現ベクターは、分子生物学の技術分野において日常的に構築され、例えば、プラスミドDNAならびに適切なイニシエーター、プロモーター、エンハンサー、および例えば、本発明のペプチドの発現を可能にするために必要である可能性がある、正しい向きで位置するポリアデニル化シグナルなどの他の要素の使用を伴っていてもよい。他の適したベクターは、当業者に明白であろう。さらなる例として、この点に関して、発明者らはSambrookらに言及する。したがって、本発明のポリペプチドは、そのようなベクターを細胞に送達し、ベクターから転写が生じることを可能にすることによって提供することができる。好ましくは、本発明のまたはベクター中での本発明における使用のためのポリヌクレオチドは、宿主細胞によるコード配列の発現を提供することができるコントロール配列に作動可能に連結され、つまり、ベクターは発現ベクターである。
【0077】
「作動可能に連結された」とは、そのように記載される構成成分が、それらの通常の機能を実行するように構成されている要素の配置をさす。したがって、核酸配列に作動可能に連結された、プロモーターなどの所与の調節配列は、ふさわしい酵素が存在する場合に、その配列の発現をもたらすことができる。プロモーターは、プロモーターが配列の発現を指示するように機能する限り、その配列と連続している必要はない。したがって、例えば、介在性の、翻訳されていないが、転写された配列は、プロモーター配列および核酸配列の間に存在することができ、プロモーター配列はなお、コード配列に「作動可能に連結された」と見なすことができる。
【0078】
本発明の配列をコードするタンパク質ファミリーのうちの1つが、作動可能に連結されるベクターおよび/または発現コントロール配列の選考は、当該分野においてよく知られているように、所望の機能特性、例えば、タンパク質発現および形質転換されることになっている宿主細胞に直接依存する。本発明によって企図されるベクターは、本発明のポリヌクレオチドの(例えば、rDNA分子中に含まれる構造遺伝子の)宿主染色体の中への複製または挿入を少なくとも指示することができ、そして好ましくはその発現もまた指示することができる。
【0079】
配列をコードする、作動可能に連結されたタンパク質の発現を調節するために使用される発現コントロールエレメントは、当該分野において知られており、誘発性プロモーター、構成的プロモーター、分泌シグナル、および他の調節性の要素を含むが、これらに限定されない。好ましくは、誘発性プロモーターは、宿主細胞の培地中で栄養素に応答性であるなどのように、容易にコントロールされる。
【0080】
一実施形態において、コード核酸分子を含有するベクターは、原核生物レプリコン(つまり、それを用いて形質転換された細菌宿主細胞などの原核生物宿主細胞中で、染色体外で、自律複製および組換えDNA分子の維持を指示する能力を有するDNA配列)を含むであろう。そのようなレプリコンは、当該分野においてよく知られている。そのうえ、原核生物レプリコンを含むベクターはまた、その発現が薬剤抵抗性などの検出可能なマーカーを付与する遺伝子を含んでいてもよい。典型的な細菌の薬剤抵抗性遺伝子は、アンピシリンまたはテトラサイクリンに対する抵抗性を付与する遺伝子である。
【0081】
原核生物レプリコンを含むベクターは、大腸菌(E. coli)などの細菌宿主細胞中でのコード遺伝子配列の発現(転写および翻訳)を指示することができる原核生物プロモーターまたはバクテリオファージプロモーターをさらに含むことができる。プロモーターは、RNAポリメラーゼの結合および転写が生じることを可能にするDNA配列によって形成される発現コントロールエレメントである。細菌宿主と適合性のプロモーター配列は、本発明のDNAセグメントの挿入のための好都合な制限部位を含有するプラスミドベクター中に典型的に提供される。典型的なそのようなベクタープラスミドは、pUC8、pUC9、pBR322、およびpBR329(BioRad)、pPLおよびpKK223(Pharmacia)である。
【0082】
真核細胞と適合性の発現ベクター、好ましくは脊椎動物細胞と適合性の発現ベクターもまた、コード配列を含有するベクターまたはrDNA分子を形成するために使用することができる。ウイルスベクターを含む真核細胞発現ベクターは、当該分野で周知であり、いくつかの商業的供給源から入手可能である。典型的に、そのようなベクターは、所望のDNAセグメントの挿入に好都合な制限部位を含有して提供される。典型的なそのようなベクターは、pSVLおよびpKSV−10(Pharmacia)、pBPV−1/pML2d(International Biotechnologies,Inc.)、pTDT1(ATCC)、本明細書において記載されるベクターpCDM8、ならびに同様な真核生物発現ベクターである。
【0083】
例示的な真核生物発現系は、当該分野において周知のワクシニアウイルスを用いる発現系である(例えば国際公開第86/07593号を参照されたい)。酵母発現ベクターは、当該分野において公知である(例えば米国特許第4,446,235号および同第4,430,428号を参照されたい)。他の発現系は、ベクターpHSIであり、これは、チャイニーズハムスター卵巣細胞を形質転換する(国際公開第87/02062号を参照されたい)。哺乳動物組織は、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)またはチミジンキナーゼなどの選択可能なマーカーをコードするDNA、およびmTORβまたは誘導体をコードするDNAを用いて同時形質転換されてもよい。野生型DHFR遺伝子が用いられる場合、DHFRが欠損しており、したがって、ヒポキサンチン、グリシン、およびチミジンを欠くhgt培地中でのトランスフェクションの成功に関するマーカーとしてのDHFRコード配列の使用を可能にする宿主細胞を選択することが好ましい。
【0084】
本発明のベクターとして使用されるまたは本発明のrDNA分子を構築するために使用される真核細胞発現ベクターは、真核細胞中で有効な選択可能なマーカー(好ましくは、薬剤抵抗性選択マーカー)をさらに含んでいてもよい。好ましい薬剤抵抗性マーカーは、その発現がネオマイシン抵抗性をもたらす遺伝子、つまり、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)遺伝子である(Southernら(1982)J.Mol.Anal.Genet.1、327〜341ページ)。代替的には、選択可能なマーカーは、別個のプラスミド上に存在することができ、それらの2つのベクターは、宿主細胞の同時トランスフェクションによって導入され、選択可能なマーカーについて、適切な薬剤中で培養することによって選択される。
【0085】
発現ベクター中のコントロール配列は、転写プロモーター、適したリボソーム結合部位をコードする配列、ならびに転写および翻訳の終結をコントロールする配列などの転写コントロール配列ならびに翻訳コントロール配列を含んでいてもよい。一実施形態において、発現ベクターは、mTORβ遺伝子の安定した発現を促進するためのおよび/または形質転換細胞を同定するための選択遺伝子を含んでいてもよい。しかしながら、発現を維持するための選択遺伝子は、真核生物の宿主細胞を使用して、同時形質転換系における別個のベクターによって供給することができる。
【0086】
適したベクターは、一般に、意図される発現宿主と適合性の種に由来するレプリコン(非組込みベクターにおける使用のための複製開始点)およびコントロール配列を含有する。本明細書において使用される場合、「複製可能な」ベクターという用語によって、そのようなレプリコンを含有するベクターおよび宿主ゲノム中への組込みによって複製されるベクターを包含することが意図される。
【0087】
宿主細胞のための発現ベクターは、たいてい、複製開始点、リボソーム結合部位と共に、mTORベータポリペプチドコード配列から上流に位置するプロモーター、ポリアデニル化部位、および転写終結配列を含む。発現ベクターは、転写コントロール配列および翻訳コントロール配列を含んでいてもよい。これらは、宿主細胞中でのコード配列の発現を提供するプロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、ターミネーター、およびその他同種のものなどのDNA調節配列である。当業者らは、ある種のこれらの配列は、ある種の宿主における発現に必要とされないことを十分に理解するであろう。微生物を用いる使用のための発現ベクターは、宿主によって認識される複製開始点、宿主中で機能するプロモーター、および選択遺伝子を含有する必要があるのみである。
【0088】
本明細書において使用される場合、「プロモーター配列」は、細胞中でRNAポリメラーゼに結合することができ、下流の(3’方向)コード配列の転写を開始することができるDNA調節領域である。本発明を定義する目的のために、プロモーター配列は、その3’末端で転写開始部位と境を接しており(包括的に)、バックグラウンドを超える検出可能なレベルで転写を開始するのに必要な最小数の塩基または要素を含むように上流に(5’方向)伸長する。転写開始部位およびRNAポリメラーゼの結合を担うタンパク質結合ドメインは、プロモーター配列内に見つけられる。真核生物のプロモーターは、常にではないが、「TATA」ボックスおよび「CAT」ボックスを含有することが多い。
【0089】
一般に使用されるプロモーターは、ポリオーマウイルス、ウシパピローマウイルス、CMV(サイトメガロウイルス、マウスまたはヒトのいずれか)、ラウス肉腫ウイルス、アデノウイルス、およびシミアンウイルス40(SV40)に由来する。他のコントロール配列(例えばターミネーター、polyA、エンハンサー、または増幅配列)もまた使用することができる。
【0090】
発現ベクターは、mTORβコード配列または誘導体ポリペプチドコード配列が適切な調節配列を有するベクター中に位置するように構築される。コントロール配列に関してのコード配列の位置付けおよび向きは、コード配列が、コントロール配列の「コントロール」下で転写され、翻訳される、つまり、コントロール配列でDNA分子に結合するRNAポリメラーゼが、コード配列をmRNAに転写するようなものとする。コントロール配列は、以前に記載したクローニングベクターなどのベクターの中への挿入に先立って、コード配列にライゲーションすることができる。代替的には、コード配列は、コントロール配列および適切な制限部位をすでに含有している発現ベクターの中に直接クローニングすることができる。選択される宿主細胞が哺乳動物細胞である場合、コントロール配列は、mTORβコード配列または誘導体ポリペプチドコード配列に対して異種のものであってもよく、または相同(homologous)のものであってもよく、コード配列は、イントロンを含有するゲノムDNAまたはcDNAのいずれかとすることができる。
【0091】
「シグナル配列」は、コード配列の前に含むことができる。この配列は、細胞表面にポリペプチドを向けるまたは細胞外のスペースにポリペプチドを分泌するように宿主細胞に指示するポリペプチドに対して、N末端のシグナルペプチドをコードする。このシグナルペプチドは、タンパク質が細胞を出る前に、宿主細胞によって切り取られる。シグナル配列は、原核生物および真核生物に固有の多種多様のタンパク質と関連することが分かり得る。例えば、固有の酵母タンパク質であるアルファ因子は、酵母から分泌され、そのシグナル配列は、異種タンパク質に付着して、培地の中に分泌させることができる(米国特許第4,546,082号を参照されたい)。さらに、アルファ因子およびその類似体は、サッカロミセス(Saccharomyces)およびクリベロミセス(Kluyveromyces)などの多種多様の酵母から異種タンパク質を分泌することが分かった(例えば、EP 88312306.9、EP 0324274、およびEP 0301669を参照されたい)。哺乳動物細胞における使用のための例は、VIIIc因子軽鎖を発現させるために使用されるtPAシグナルである。
【0092】
核酸構築物の「異種」領域は、自然界においてより大きな核酸分子と関連して見つけられないそのより大きな分子内の核酸の同定可能なセグメントである。したがって、異種領域が、哺乳動物遺伝子をコードする場合、その遺伝子は、通常、生物源のゲノムにおいて哺乳動物ゲノムDNAの側面に位置しないDNAが側面に位置するであろう。異種のコード配列の他の例は、コード配列それ自体が自然界において見出されない構築物(例えばゲノムコード配列がイントロンを含有するcDNAまたは固有の遺伝子と異なるコドンを有する合成配列)である。
【0093】
本発明のベクターおよび発現カセットは、宿主細胞ゲノムに相同なフランキング配列を好ましくはさらに含む「裸の核酸構築物(naked nucleic acid construct)」として直接投与することができる。本明細書において使用される場合、「裸のDNA」という用語は、その産生をコントロールするための短いプロモーター領域と共に本発明のポリヌクレオチドを含むプラスミドなどのベクターを指す。それは、ベクターがいかなる送達媒体中でも運ばれるものではないので、「裸の」DNAと呼ばれる。そのようなベクターが、真核細胞などの宿主細胞に入る場合、それがコードするタンパク質は、細胞内で転写され、翻訳される。
【0094】
本発明のベクターは、したがって、プラスミドベクター、すなわち、自律的に複製する、染色体外の環状DNA分子または線状DNA分子であってもよい。代替的には、本発明のベクターは、例えば、レトロウイルス、単純ヘルペスウイルス、およびアデノウイルスなどの組換えウイルスベクターを用いる感染などの当該分野において知られている多種多様のウイルス技術を使用して、適した宿主細胞の中に導入されてもよい。ウイルスベクターの代わりとして、リポソーム調製物は、本発明の核酸分子を送達するために代替的に使用することができ、または本発明の核酸分子は、カプセルに包んでもよく、微粒子担体に吸着させてもよく、または微粒子担体と結合させてもよい。
【0095】
本発明は、本発明のポリペプチドをコードする核酸分子を用いて形質転換された宿主細胞など、本発明のポリペプチドを発現するように改変された細胞をさらに提供する。宿主細胞は、原核生物であってもよく、または真核生物であってもよい。本発明のタンパク質の発現に有用な真核細胞は、細胞株が、細胞培養法と適合性であり、発現ベクターの増殖および遺伝子産物の発現と適合性である限り、限定されない。そのような細胞は、一過性または好ましくは安定した、哺乳動物細胞もしくは昆虫細胞などの高等真核細胞株および酵母細胞などの下等真核細胞を含む。好ましい真核生物の宿主細胞は、酵母細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞、好ましくは、マウス細胞株、ラット細胞株、サル細胞株、またはヒト細胞株からの細胞などの脊椎動物細胞を含むが、これらに限定されない。好ましい真核生物の宿主細胞は、CCL61としてATCCから入手可能なチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、CRL 1658としてATCCから入手可能なNIHスイスマウス胚細胞(NIH−3T3)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、および同様な真核生物組織培養細胞株を含む。好ましくは、選択される細胞株は、安定しているだけではなく、ポリペプチドの成熟グリコシル化および細胞表面発現を可能にする細胞株であろう。発現は、形質転換卵母細胞中で達成されてもよい。適したペプチドは、トランスジェニック非ヒト動物、好ましくはマウスの細胞中で発現させることができる。本発明のペプチドを発現するトランスジェニック非ヒト動物は、本発明の範囲内に含まれる。本発明のペプチドはまた、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)卵母細胞またはメラニン保有細胞中で発現させることができる。
【0096】
任意の原核生物宿主は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ベクター、またはrDNA分子を発現させるために使用することができる。一実施形態において、好ましい原核生物宿主は、大腸菌(E. coli)である。
【0097】
本発明のポリヌクレオチド、ベクター、またはrDNA分子による適切な細胞宿主の形質転換は、使用されるベクターおよび用いられる宿主系のタイプに典型的に依存する、周知の方法によって達成される。原核生物宿主細胞の形質転換に関して、エレクトロポレーション法および塩処理法が典型的に用いられる。例えば、Cohenら(1972)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 69、2110ページ;およびSambrookら(1989)Molecular Cloning-A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい。rDNAを含有するベクターによる脊椎動物細胞の形質転換に関して、エレクトロポレーション法、カチオン性脂質法、または塩処理法が典型的に用いられる。例えば、Grahamら(1973)Virol.52、456ページ;Wiglerら(1979)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 76、1373〜1376ページを参照されたい。
【0098】
形質転換に成功した細胞、つまり本発明のポリヌクレオチド、ベクター、またはrDNA分子を含有する細胞は、選択可能なマーカーの選択を含む、周知の技術によって同定することができる。例えば、本発明のrDNAの導入から結果として生じる細胞は、単一コロニーを産生するためにクローニングすることができる。それらのコロニーからの細胞は、採取し、溶解することができ、それらのDNA内容物は、Southern((1975)J.Mol.Biol.98、503〜504ページ)もしくはBerentら((1985)Biotech.3、208〜209ページ)によって記載される方法などの方法を使用してrDNAの存在について検査することができ、または細胞から産生されたタンパク質は、免疫学的方法によってアッセイすることができる。
【0099】
本発明のそのような細胞株は、本発明のポリペプチドを産生するために日常的な方法を使用して培養することができ、または本発明のポリペプチドを被験体に送達するために治療的にもしくは予防で使用することができる。例えば、本発明のポリペプチドを分泌することができる細胞株を、被験体に投与することができる。代替的には、本発明のポリヌクレオチド、発現カセット、またはベクターを、ex vivoで被験体由来の細胞に投与することもでき、次いで、その細胞は、被験体の体に戻すこともできる。例えば、形質転換細胞の被験体へのex vivo送達および再移植の方法は、公知である(例えば、デキストラン媒介性のトランスフェクション、リン酸カルシウム沈降、エレクトロポレーション、および核の中への直接的なマイクロインジェクション)。
【0100】
選択される発現系および宿主に応じて、目的のペプチド(mTORβまたはその変異体もしくは誘導体など)は、ポリペプチドが発現する条件下で、上記に記載される発現ベクターなどの外来性DNA構築物または異種DNA構築物によって形質転換された宿主細胞を増殖させることによって産生することができる。mTORβまたはその誘導体ポリペプチドなどの目的のペプチドは、次いで、宿主細胞から単離され、精製される。発現系が、増殖培地の中にタンパク質またはペプチドを分泌する場合、そのタンパク質は、無細胞培地から直接精製することができる。適切な増殖条件および最初の粗製回収方法の選択は、当該分野の技術の範囲内である。
【0101】
形質転換宿主細胞は、核酸をコードするmTORβまたはmTORβ誘導体ポリペプチドを含有するベクターのいずれかを用いて形質転換またはトランスフェクトされた細胞である。発現ポリペプチドは、発現ペプチド中の適したプロセシングシグナル(例えば相同的または異種のシグナル配列)のコントロール下で培養上清の中に分泌されることができる。
【0102】
細胞は、外来性または異種の核酸が細胞の内部に導入されている場合、そのような核酸によって「形質転換されている(transformed)」。形質転換核酸は、細胞のゲノムを構成する染色体DNAの中に組み込まれ(共有結合)てもよく、または組み込まれなくてもよい。原核生物において、例えば、形質転換核酸は、プラスミドまたはウイルスベクターなどのエピソームエレメント上に維持されてもよい。真核細胞に関して、安定して形質転換された細胞は、染色体複製を通して娘細胞によって遺伝されるように形質転換DNAが染色体の中に組み込まれる細胞である。この安定性は、真核細胞が、形質転換核酸を含有する娘細胞の集団から構成される細胞株またはクローンを確立する能力によって実証される。
【0103】
本明細書において使用される場合、「細胞株」は、何世代もの間、in vitroでの安定した増殖が可能な初代細胞のクローンである。本明細書において使用される場合、核酸配列は、少なくとも約85パーセント(好ましくは、少なくとも約90パーセント、より好ましくは、少なくとも約95パーセント、より好ましくは、少なくとも約97パーセント、最も好ましくは、少なくとも約99パーセント)の、ヌクレオチド配列の定義された長さにわたってヌクレオチドがマッチする場合、「実質的な同一性」を示す。実質的に同一の配列は、例えば、特定のその系について定義されるようなストリンジェントな条件下で、サザンハイブリダイゼーション実験において同定することができる。適切なハイブリダイゼーション条件の定義は、当該分野の技術の範囲内である。
【0104】
高等真核細胞培養物は、脊椎動物細胞由来であっても昆虫を含む無脊椎動物細胞由来であっても、本発明のタンパク質を発現させるために使用することができ、その増殖の手順は公知である。
【0105】
[rDNA分子を使用する組換えタンパク質の産生]
本発明は、本明細書において記載される核酸分子を使用して、本発明のタンパク質を産生するための方法をさらに提供する。大まかに言えば、タンパク質の組換え形態の産生は以下のステップを典型的に伴う。第1に、配列番号2のアミノ酸またはその誘導体をコードする核酸配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなる核酸分子などの本発明のタンパク質をコードする核酸分子が得られる。第2に、その核酸分子は、次いで、上記に記載されるように、適したコントロール配列を有する作動可能な連結中に好ましくは配置されて、タンパク質オープンリーディングフレームを含有する発現ユニットを形成する。
【0106】
発現ユニットは、適した宿主を形質転換するために使用され、形質転換宿主は、組換えタンパク質の産生を可能にする条件下で培養される。必要に応じて、組換えタンパク質は培地または細胞から単離され、タンパク質の回収および精製は、いくつかの不純物が許容されてもよいある場合において、必要ではないことがある。
【0107】
それぞれの先のステップは、多種多様の方法において行うことができる。例えば、所望のコード配列は、ゲノム断片から得られ、適切な宿主中で直接使用することができる。多種多様の宿主中で作動可能な発現ベクターの構築は、上記に記載されるように、適切なレプリコンおよびコントロール配列を使用して達成される。コントロール配列、発現ベクター、および形質転換方法は、遺伝子を発現させるために使用される宿主細胞のタイプに応じ、またこれらは、前に詳細に論じられた。適した制限部位は、通常で入手可能ではない場合、これらのベクターの中に挿入するための切り取ることができる遺伝子を提供するために、コード配列の末端に追加することができる。当業者は、組換えタンパク質を産生するために、当該分野において公知の任意の宿主/発現系を本発明の核酸分子を用いる使用に容易に適応させることができる。
【0108】
[抗体]
本発明の他のクラスの作用物質は、mTORベータ(mTORβ)と免疫反応性の抗体である。好ましい実施形態において、抗体は、mTORアルファとではなく、mTORベータ(mTORβ)と免疫反応性である。抗体作用物質は、抗体によって標的とされるように意図されるタンパク質のそれらの部分を抗原性領域として含有するペプチドを用いて適した哺乳動物被験体を免疫化することによって得られる。抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナルであってもよい。
【0109】
mTORベータの活性部位に結合する抗体は、本発明において包含される。本発明の一実施形態において、抗体は、4E−BP1をリン酸化するmTORベータの活性部位に結合する。本発明の他の実施形態において、抗体は、S6K1をリン酸化するmTORベータの活性部位に結合する。代替の実施形態において、抗体は、cMyc発現の誘発を導くmTORベータ中の部位に結合する。
【0110】
このタンパク質の活性を阻害することができる抗体もまた、本発明において包含される。
【0111】
抗体は、十分な長さである場合、mTORベータ(mTORβ)、変異体、および単離結合パートナーなど、本発明のペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質、または所望の場合もしくは免疫原性を増強することが必要とされる場合、適した担体にコンジュゲートしたそれらを使用して、適切な免疫化プロトコールにおいて、適した哺乳動物宿主を免疫することによって調製される。ウシ血清アルブミン(BSA)、キーホールリンペットヘモシニアン(KLH)、または他の担体タンパク質などの担体との免疫原性コンジュゲートを調製するための方法は、当該分野においてよく知られている。ある状況において、例えば、カルボジイミド試薬を使用する直接的な抱合は、有効である可能性があり、他の場合において、当該分野においてよく知られている連結試薬は、ハプテンへの到達性を提供するのに望ましい可能性がある。ハプテンペプチドは、例えば担体への連結を促進するために、システイン残基を用いてアミノ末端もしくはカルボキシ末端のいずれかで伸長させることができるまたはシステイン残基を散在させることができる。免疫原の投与は、当該分野において一般に理解されるように、適した期間にわたる注射によって、適したアジュバントを使用して一般に行われる。免疫化スケジュールの間に、抗体の力価は、抗体形成の妥当性を決定するために得られる。
【0112】
抗ペプチド抗体は、例えば、mTORベータ(mTORβ)のカルボキシ末端15アミノ酸に対応する合成ペプチドを使用して生成することができる。キナーゼ上のリン酸化部位に結合する抗体もまた生成することができ、これらは、mTORベータ(mTORβ)タンパク質上のリン酸化部位に結合する抗体を含む。合成ペプチドは、1〜3アミノ酸長ほどの小さいものとすることができるが、好ましくは、少なくとも4またはそれ以上のアミノ酸残基長とする。ペプチドは、標準的な方法を使用してKLHに連結させ、ウサギなどの動物の中に免疫することができる。ポリクローナル抗mTORベータ(mTORβ)抗体は、次いで、例えば、共有結合ペプチドを含有するActigelビーズを使用することによって精製することができる。
【0113】
このように産生されたポリクローナル抗血清は、医薬組成物のための、いくつかの適用に満足のいくようなものであってもよいが、モノクローナル調製物の使用が好ましい。所望のモノクローナル抗体を分泌する不死化細胞株は、一般に知られているように、リンパ球または脾臓細胞の不死化をもたらすKohlerおよびMilsteinの標準的な方法または改良版を使用して調製することができる。所望の抗体を分泌する不死化細胞株は、抗原がペプチドハプテンであるイムノアッセイによってスクリーニングされる。ポリペプチドまたはタンパク質。所望の抗体を分泌する適切な不死化細胞培養物が、同定される場合、細胞は、in vitroでまたは腹水中での生産によって培養することができる。特に興味があるのは、FK506/ラパマイシンドメイン、キナーゼドメイン、または調節性ドメインを認識するモノクローナル抗体である。
【0114】
次いで、所望のモノクローナル抗体は、培養上清または腹水上清から回収される。免疫学的に有意な部分を含有するモノクローナルまたはポリクローナル抗血清の断片は、アンタゴニストおよび完全抗体(intact antibody)として使用することができる。Fav断片、scFV断片、Fab断片、Fab’断片、またはF(ab’)2断片などの免疫学的に反応性の断片の使用は、これらの断片が、一般に、全免疫グロブリンほど免疫原性ではないので、特に治療的状況において好ましいことが多い。
【0115】
F(ab)2断片、Fab断片、およびFv断片などの抗原結合性断片、つまり、抗原結合部位を含む、抗体の「可変」領域からの抗体断片を使用することができる。抗体は、ヒト変異体、ヒト化変異体、または先のもののキメラ変異体であってもよい。そのような抗体は、被験体に投与される場合、それほど免疫原性とならない可能性がある。ヒト化抗体またはキメラ抗体を生産するための方法は、当該分野においてよく知られている。企図される抗体はまた、異なるアイソタイプおよびアイソタイプサブクラス(例えばIgG1、IgG2、およびIgM)を含む。これらの抗体は、脊椎動物において、ハイブリドーマ細胞株中で、もしくは他の細胞株中で、それらを産生させることによって、または組換え手段によって調製することができる。これらの抗体を調製する方法に対する言及については、Harlow & Lane(1988)、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Pressを参照されたい。
【0116】
抗体または断片はまた組換え手段によって、現在の技術を使用して産生することができる。受容体の所望の領域に特異的に結合する領域もまた、多数の種起源を有するキメラとの関連において産生することができる。
【0117】
[治療方法]
本発明はまた、mTORベータの異常な発現と関連する疾患の治療のための方法であって、mTORベータの活性および/または発現を調整することができる作用物質の有効量をその必要のある被験体に投与するステップを含む方法に関する。そのような作用物質は、そのため、そのような疾患の治療(治療的なものであってもよいおよび/もしくは予防的なものであってもよい)、診断、または予防において使用することができる。異常な発現は、例えば、mTORベータの発現の増加またはmTORベータの発現の減少であってもよい。適した作用物質は、mTORベータのレベルを補足することになっているかまたは低下させることになっているかに応じて選択することができる。
【0118】
一実施形態において、作用物質は、mTORベータの阻害剤である。そのような阻害剤は、例えば、mTORベータ遺伝子の発現もしくはタンパク質産生を阻害またはそれを妨げることによって、あるいはmTORベータのmRNAもしくはタンパク質を除去または分解するように作用することによって、存在するmTORベータの量を低下させるように作用することができる。そのような阻害剤は、mTORベータの活性、例えば上記に論じられるようなmTORベータの任意の活性または機能を低下させるように作用することができる。適した阻害剤は、mTORベータに結合し、その機能を妨げる分子であってもよい。例えば、適した阻害剤は、mTORベータに結合する抗体であってもよい。他の実施形態において、作用物質は、mTORベータアンタゴニストである。
【0119】
他の実施形態において、作用物質は、mTORベータのプロモーターまたはアクチベーターである。そのような作用物質は、存在するmTORベータタンパク質の量を増加させるように作用することができる。例えば、作用物質は、本明細書に記載されているポリヌクレオチド、ベクター、rDNA、ポリペプチド、または宿主細胞であってもよい。作用物質は、例えば、細胞または生物内での分解プロセスに対するmRNAまたはポリペプチドの抵抗性を増加させることによって、mTORベータのmRNAまたはポリペプチドのライフスパンを増加させるように作用することができる。そのような作用物質は、mTORベータの活性または機能、例えば、上記に論じられるようなmTORベータの任意の活性または機能を増加させるように作用することができる。
【0120】
mTORベータの活性および/または発現を調整することができる有効量は、本明細書に記載されている、適した効果を発揮する量であってもよい。例えば、適した量のmTORベータ阻害剤は、mTORベータの活性に対して阻害効果を発揮するのに十分な量であってもよい。有効量はまた、異常なmTORベータ発現を示す細胞の増殖を阻害するのに有効な量であってもよい。
【0121】
この方法のいくつかの実施形態において、mTORベータの異常な発現と関連する疾患は、前立腺癌、乳癌、多発性骨髄腫、肺癌、非小細胞肺癌、骨癌、肝臓癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚黒色腫もしくは眼球内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部癌、胃癌、結腸癌、子宮癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頚癌、膣癌、外陰癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、慢性白血病もしくは急性白血病、リンパ球性リンパ腫、膀胱癌、腎臓癌もしくは尿管癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)新生物、神経外胚葉性癌、脊髄軸腫瘍、神経膠腫、髄膜腫、下垂体腺腫、または先の癌の1つ以上の組合せを含むが、これらに限定されない癌である。前記方法の他の実施形態において、前記異常細胞増殖は、乾癬、良性前立腺肥大症、肥大、または再狭窄(restinosis)を含むが、これらに限定されない良性増殖疾患である。
【0122】
本発明の一実施形態において、作用物質は、キナーゼ阻害剤である。本発明の方法において使用することができる例示的なタイプのキナーゼ阻害剤は、ラパマイシン、例えばRAD001(Lane(2003)Mol.Targets Cancer Therapeut.259〜260ページ)、CCI−779、およびAP23573などのラパマイシン誘導体を含むが、これらに限定されない。
【0123】
本発明の方法を実施する際に、これらの作用物質は、単独でまたは他の活性成分もしくは非活性成分と組み合わせて使用することができる。そのため、本発明の方法は、癌を含む異常細胞増殖と関連する疾患の治療のために、細胞傷害剤に連結された作用物質を含むポリペプチドの投与を含む。細胞傷害剤の例は、ゲロニン、リシン、サポニン、シュードモナス外毒素、ヨウシュヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、ジフテリア毒素、補体タンパク質、または細胞との接触に際してその細胞を死滅させることができる当該分野において知られている任意の他の作用物質を含むが、これらに限定されない。
【0124】
本発明はまた、本明細書に記載されている分子および作用物質を含む医薬組成物などの組成物に及ぶ。上記に記載したポリヌクレオチド、発現カセット、ベクター、ポリペプチド、細胞、または抗体などの本発明の分子を含む組成物の製剤は、すべて、当業者に容易に入手可能な、標準的な医薬製剤化学および方法論を使用して実行することができる。例えば、本発明の1以上の分子を含有する組成物は、1以上の薬学的に許容できる賦形剤またはビヒクルと組み合わせることができる。湿潤剤または乳化剤、pH緩衝物質、およびその他同種のものなどの補助物質は、賦形剤またはビヒクル中に存在していてもよい。これらの賦形剤、ビヒクル、および補助物質は、一般に、組成物を受ける個体において免疫応答を誘発せず、過度の毒性を伴うことなく投与することができる医薬品である。薬学的に許容できる賦形剤は、水、生理食塩水、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、グリセロール、およびエタノールなどの液体を含むが、これらに限定されない。例えば、薬学的に許容できる塩、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、およびその他同種のものなどの鉱酸塩、ならびに酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩、およびその他同種のものなどの有機酸の塩もまた、その中に含むことができる。薬学的に許容できる賦形剤、ビヒクル、および補助物質の詳細な論述は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Pub.Co.、N.J.1991)において入手可能である。
【0125】
したがって、本発明は、本発明のポリペプチド(例えば、mTORベータまたはその変異体もしくは誘導体)などの本明細書に記載されている分子および希釈剤を含む組成物をさらに提供する。適した希釈剤は、水性もしくは非水性の溶剤またはその組合せとすることができ、追加の構成成分、例えば、タンパク質またはポリペプチドの安定性、可溶性、活性、および/または貯蔵に寄与する水溶性の塩またはグリセロールを含むことができる。
【0126】
医薬組成物はまた、mTORベータの活性および/または発現を調整することができる1以上の作用物質ならびに薬学的に許容できる担体を含んでいてもよく、それらから本質的になってもよく、またはそれらからなってもよい。そのような組成物は、上記に記載した本発明の治療法の一部として投与されることになっている作用物質を含んでいてもよい。本発明の医薬組成物は、作用部位へ送達するために薬学的に使用することができる調製物への活性化合物のプロセシングを促進する、賦形剤および助剤を含む、適した薬学的に許容できる担体を含有し得る。非経口投与に適した製剤は、水溶性の形態(例えば、水溶性の塩)の活性化合物の水溶液を含む。そのうえ、適切な油性注射懸濁剤としての活性化合物の懸濁剤を投与することができる。適した脂肪親和性の溶媒またはビヒクルは、脂肪油、例えばゴマ油または合成脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチルまたはトリグリセリドを含む。水性の注射懸濁剤は、懸濁剤の粘性を増加させる物質を含有し得る。そのような粘性を増加させる物質の例は、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、およびデキストランを含む。必要に応じて、懸濁剤はまた、安定剤を含有し得る。リポソームもまた、細胞の中への送達のために作用物質をカプセルに包むために使用することができる。
【0127】
mTORベータの活性および/または発現を調整することができる1以上の作用物質を含む医薬組成物などの本発明の医薬組成物は、非経口、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、鞘内、頭蓋内、もしくは経皮または頬側の経路を介して投与することができる。例えば、作用物質は、マイクロインフュージョンを介して腫瘍または異常なmTORベータ発現の部位に局所的に投与することができる。代替的にまたは同時に、投与は、経口経路によるものとしてもよい。投与される投薬量は、レシピエントの年齢、健康状態、および体重、もしあれば併用の治療の種類、治療の頻度、ならびに所望の効果の性質に依存するであろう。
【0128】
個々の必要量は変わるが、それぞれの構成成分の有効量の最適な範囲の決定は、当該分野の技術の範囲内である。本発明のmTORベータの活性および/または発現を調整することができる作用物質の投薬量は、典型的に、約1.0ng/体重kg〜約0.13mg/体重kgを含む。一実施形態において、mTORベータの活性および/または発現を調整することができる作用物質の投薬量は、約1.0ng/体重kg〜約0.1mg/体重kgを含む。好ましい実施形態において、全身投与のための投薬量は、約0.01μg/体重kg〜約0.1mg/体重kgを含む。他の実施形態において、mTORベータの活性および/または発現を調整することができる作用物質の投薬量は、約0.1mg/体重kg未満を含む。全身投与のためのより好ましい投薬量は、約0.1μg/体重kg〜約0.05mg/体重kgを含む。他の好ましい実施形態において、mTORベータの活性および/または発現を調整することができる作用物質の投薬量は、約0.05mg/体重kg未満を含む。全身投与のための最も好ましい投薬量は、約1.0μg/体重kg〜約0.01mg/体重kgの間で含まれる。他の実施形態において、投与される、mTORベータの活性および/または発現を調整することができる作用物質の量は、血清中の、mTORベータの活性および/または発現を調整することができる作用物質の濃度を、約20.0、10.0、5.0、2.50、1.25、0.625、0.3125、0.156、0.078、0.039、0.020、0.010、0.005、0.003、0.0015、0.0008、0.0003、または0.0001nMの濃度に至らせるのに有効な量である。マイクロインフュージョンを介しての部位への直接投与のための好ましい投薬量は、1ng/体重kg〜1mg/体重kgを含む。
【0129】
本発明による全身投与のための医薬製剤は、腸内投与、非経口投与、または局所投与用に製剤することができる。実際に、3つのタイプすべての製剤は、有効成分の全身投与を達成するために同時に使用することができる。
【0130】
本発明のいくつかの方法について上記に言及されるように、局所投与を使用することができる。液剤、懸濁剤、ゲル、軟膏剤、または硬膏およびその他同種のものなどの任意の一般の局所製剤が用いられてもよい。そのような局所製剤の調製物は、例えば、Gennaroら(2000)Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishingによって例示されるように、医薬製剤の技術分野において記載される。局所適用については、組成物はまた、特にエアロゾル形態の散剤または噴霧剤として投与することもできる。いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、吸入によって投与することができる。吸入療法については、有効成分は、計量吸入器による投与に有用な液剤中のものとしてもよく、または乾燥散剤吸入器に適した形態であってもよい。他の実施形態において、組成物は、気管支洗浄による投与に適している。
【0131】
経口投与に適した製剤は、硬質ゼラチンカプセル剤もしくは軟質ゼラチンカプセル剤、丸剤、コーティング錠を含む錠剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、または吸入剤およびその徐放性形態を含む。
【0132】
治療目的の本発明の組成物および方法は、例えば、ヒト、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、ラット、およびマウスなどの哺乳動物においてin vivoでまたはex vivoで通常利用することができる。本発明は、ヒト被験体の治療において特に有用である。
【0133】
[mTORベータの発現および/または活性を調整する作用物質を同定するための方法]
本発明はまた、mTORベータの発現および/または活性を調整する作用物質を同定する(すなわち、スクリーニングする)ための方法を提供する。本発明の一実施形態において、作用物質は、mTORベータの発現を調整する。他の実施形態において、作用物質は、mTORベータの活性を調整する。mTORの発現および/または活性の減少は、mTORベータを阻害する作用物質を示す。mTORの発現および/または活性の増加は、mTORベータを刺激する作用物質を示す。
【0134】
本発明の他の実施形態は、配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質などのmTORベータ(mTORβ)タンパク質をコードする核酸の発現を調整する作用物質を同定するための方法を提供する。そのようなアッセイは、本発明の核酸の発現レベルの変化をモニターする任意の入手可能な手段を利用してもよい。本明細書において使用される場合、作用物質は、その作用物質が、細胞中の核酸の発現をアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることができる場合、本発明の核酸(例えば、配列番号2の配列を有するタンパク質をコードする核酸または配列番号1を有する核酸)の発現を調整すると表現される。
【0135】
したがって、本発明は、mTORベータの活性および/または発現を調整する作用物質をスクリーニングするための、またはそれらの同定のための方法を提供する。
【0136】
本発明の方法は、
(a)本発明のポリペプチド(本発明のポリペプチドまたは本発明のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドなど)を提供するステップと、
(b)前記ポリペプチドを試験作用物質と接触させるステップと、
(c)前記ポリペプチドの活性の任意の変化を検出するステップと
を含むことができ、活性の変化は、mTORベータ活性を調整することができる作用物質を示す。
【0137】
等価な方法もまた、例えば、遺伝子発現を調整することができる作用物質またはmTORベータmRNAのレベルもしくはその転写を調整することができる作用物質を同定するために、本発明のポリヌクレオチドを使用して実行することができる。
【0138】
本発明の方法は、in vitroでまたはin vivoで実行することができる。本発明の方法は、単離(もしくは実質的に単離された)ポリペプチドまたは精製(もしくは実質的に精製された)ポリペプチドを使用して実行することができる。
【0139】
代替的には、ポリペプチドを含む細胞中で方法を実行することができる。例えば、そのような方法は、
(a)本発明のポリペプチド(本発明のポリペプチドまたは本発明のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドなど)を含むまたは発現する宿主細胞などの本発明の宿主細胞を提供するステップと、
(b)前記宿主細胞を試験作用物質と接触させるステップと、
(c)前記ポリペプチドの発現および/または活性の任意の変化を検出するステップと
を含むことができ、発現および/または活性の変化は、mTORベータの発現および/または活性を調整することができる作用物質を示す。
【0140】
特定の方法は、
(a)本発明のポリペプチドを発現する細胞を作用物質に曝露するステップと、
(b)前記ポリペプチドの発現および/または活性の変化を検出するステップと
を含むことができ、発現および/または活性の変化は、mTORベータの発現および/または活性を調整することができる作用物質を示す。
【0141】
1つのアッセイフォーマットにおいて、mTORベータ(例えば配列番号1)のオープンリーディングフレームと任意のアッセイすることができる融合パートナーの間にレポーター遺伝子融合物を含有する細胞株を調製することができる。多数のアッセイすることができる融合パートナーは、知られており、容易に入手可能であり、ホタルルシフェラーゼ遺伝子およびクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を含む(Alamら、1990 Anal.Biochem.188、245〜254ページ)。次いで、レポーター遺伝子融合物を含有する細胞株は、作用物質またはコントロールに曝露されて、適切な条件および時間下で試験される。作用物質に曝露されたサンプルとコントロールサンプルの間のレポーター遺伝子の差異のある発現により、mTORベータをコードする核酸の発現を調整する作用物質を同定する。
【0142】
他のアッセイフォーマットにおいて、作用物質がmTORベータ発現を調整する能力は、例えば、mTORベータ発現の調整の結果として発現が調整されるc−Mycなどのタンパク質の発現の測定に基づくものである。
【0143】
追加のアッセイフォーマットは、作用物質が、mTORベータなどの本発明のタンパク質をコードする核酸の発現を調整する能力をモニターするために使用することができる。例えば、mRNA発現は、本発明の核酸へのハイブリダイゼーションによって直接モニターされてもよい。細胞株は、作用物質および/またはmTORベータを含むポリペプチドに曝露されて、適切な条件および時間下で試験され、全RNAまたはmRNAは、Sambrookら(2001)Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Pressにおいて開示されている手順などの標準的な手順によって単離される。
【0144】
作用物質に曝露された細胞とコントロール細胞の間のRNA発現レベルの差異を検出するためのプローブは、本発明の核酸から調製することができる。必ずしもではないが、ハイストリンジェンシーの条件下で標的核酸とのみハイブリダイズするプローブを設計することが好ましい。ハイストリンジェンシーの条件下では、高度に相補的な核酸ハイブリッドのみ形成される。したがって、アッセイ条件のストリンジェンシーは、ハイブリッドを形成するための、2つの核酸鎖の間に存在するべき相補性の程度を決定する。ストリンジェンシーは、プローブ:標的ハイブリッドおよび潜在的なプローブ:非標的ハイブリッドの間の安定性の差異を最大限にするように選ぶべきである。
【0145】
プローブは、当該分野において知られている方法を通して本発明の核酸から設計されてもよい。例えば、プローブのG+C含有量およびプローブ長は、その標的配列へのプローブ結合に影響を与え得る。プローブ特異性を最適化するための方法は、一般に、Sambrookら(2001)またはAusubelら(1995)Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing Company)において入手可能である。
【0146】
ハイブリダイゼーション条件は、それぞれのプローブに必要とされるように、Sambrookら(2001)およびAusubelら(1995)によって記載される方法などの知られている方法を使用して改良される。全細胞RNAまたはpolyA RNAに富んだRNAのハイブリダイゼーションは、任意の入手可能なフォーマットにおいて達成することができる。例えば、全細胞RNAまたはpolyA RNAに富んだRNAは、固体支持体に付けることができ、固体支持体は、プローブが、特異的にハイブリダイズであろう条件下で、本発明の配列の少なくとも1つまたはその1つの一部分を含む少なくとも1つのプローブに曝露させることができる。代替的には、本発明の配列の少なくとも1つまたはその1つの一部分を含む核酸断片は、多孔質ガラスウエハーなどの固体支持体に付けることができる。ガラスウエハーは、次いで、付けられた配列が特異的にハイブリダイズであろう条件下でサンプルからの全細胞RNAまたはpolyA RNAに曝露することができる。そのようなガラスウエハーおよびハイブリダイゼーション法、例えばBeattie(国際公開第95/11755号)によって開示されているものは、広く入手可能である。未処理細胞集団および作用物質に曝露された細胞集団のRNAサンプルに所与のプローブが特異的にハイブリダイズする能力について検査することによって、mTORベータタンパク質をコードする核酸の発現をアップレギュレートするまたはダウンレギュレートする作用物質。
【0147】
本発明はまた、配列番号2のポリペプチドなどのmTORベータポリペプチドの少なくとも1つの活性を調整する作用物質を同定するための方法を提供する。そのような方法またはアッセイは、所望の活性をモニターまたは検出する任意の手段を利用してもよい。これらのアッセイは、mTORベータのリン酸化の検出、S6K1のリン酸化の検出、4E−BP1のリン酸化の検出、cMyc発現の誘発をモニターすること、またはS6K1および/もしくは4E−BP1が第2のタンパク質をリン酸化する能力をモニターすることを含んでいてもよい。本発明の一実施形態において、mTORベータの活性は、PKB/Aktのリン酸化の検出に基づいて検出される。
【0148】
1つのフォーマットにおいて、非曝露コントロール細胞集団と比較して、試験されることとなる作用物質に曝露された細胞集団の間の標準単位に標準化された本発明のタンパク質の比活性が、アッセイされてもよい。細胞株または細胞集団は、適切な条件および時間下で試験されることとなる作用物質に曝露される。細胞溶解物は、曝露された細胞株または細胞集団およびコントロールの非曝露細胞株または集団から調製することができる。次いで、細胞溶解物はプローブを用いて分析される。
【0149】
抗体プローブは、本発明のタンパク質またはその抗原含有断片を使用し、適切な免疫化プロトコールを利用する、適した哺乳動物宿主の免疫によって調製することができる。免疫原性を増強するために、これらのタンパク質または断片は、適した担体に抱合してもよい。BSA、KLH、または他の担体タンパク質などの担体との免疫原性コンジュゲートを調製するための方法は、当該分野においてよく知られている。ある状況において、例えば、カルボジイミド試薬を使用する直接的な抱合は、有効である可能性があり、他の場合において、Pierce Chemical Co.によって供給される連結試薬などの連結試薬は、ハプテンへの到達性を提供するのに望ましい可能性がある。ハプテンペプチドは、担体への連結を促進するために、例えばシステイン残基を用いてアミノ末端もしくはカルボキシ末端のいずれかで伸長させることができるまたはシステイン残基を散在させることができる。免疫原の投与は、当該分野において一般に理解されるように、適した期間にわたる注射によって、適したアジュバントを使用して一般に行われる。免疫化スケジュールの間に、抗体の力価は、抗体形成の妥当性を決定するために得られる。
【0150】
このように産生されたポリクローナル抗血清は、医薬組成物のための、いくつかの適用に満足のいくようなものである可能性があるが、モノクローナル調製物の使用が好ましい。所望のモノクローナル抗体を分泌する不死化細胞株は、標準的な方法を使用して調製することができる。例えば、一般に知られているように、リンパ球または脾臓細胞の不死化をもたらすKohler & Milstein(1992) Biotechnology 24、524〜526ページまたは改良版を参照されたい。所望の抗体を分泌する不死化細胞株は、抗原がペプチドハプテン、ポリペプチド、またはタンパク質であるイムノアッセイによってスクリーニングすることができる。所望の抗体を分泌する適切な不死化細胞培養物が、同定される場合、細胞は、in vitroでまたは腹水中での産生によって培養することができる。
【0151】
所望のモノクローナル抗体は、培養上清または腹水上清から回収することができる。免疫学的に有意な部分を含有するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗血清の断片は、アンタゴニストおよび完全抗体として使用することができる。Fab断片またはFab’断片などの免疫学的に反応性の断片の使用は、これらの断片が、一般に、全免疫グロブリンほど免疫原性ではないので、特に治療的状況において好ましいことが多い。
【0152】
抗体または断片はまた、組換え手段によって、現在の技術を使用して産生することができる。タンパク質の所望の領域に特異的に結合する抗体領域もまた、多数の種起源を有するキメラとの関連において産生することができる。タンパク質の所望の領域に特異的に結合する抗体領域もまた、多数の種起源を有するキメラ、例えばヒト化抗体との関連において産生することができる。抗体は、そのため、米国特許第5,585,089号またはRiechmannら(1988)Nature 332、323〜327ページにおいて記載されるように、ヒト化抗体またはヒト抗体とすることができる。
【0153】
上記の方法においてアッセイされる作用物質は、無作為に選択することができ、または合理的に選択もしくは設計することができる。本明細書において使用される場合、作用物質は、その作用物質が、本発明のタンパク質の結合に、単独でまたはその関連する基質、結合パートナーなどと共に関連する特異的配列を考慮せずに無作為に選ばれる場合、無作為に選択されると表現される。無作為に選択される作用物質の例は、化学ライブラリーもしくはペプチドコンビナトリアルライブラリーまたは生物の増殖ブロスの使用である。
【0154】
本明細書において使用される場合、作用物質は、その作用物質が、作用物質の作用に関連する標的部位の配列またはそのコンホメーションを考慮に入れる、無作為ではない基準で選ばれる場合、合理的に選択または設計されると表現される。作用物質は、これらの部位を構成するペプチド配列を利用することによって合理的に選択または合理的に設計することができる。例えば、合理的に選択されるペプチド作用物質は、アミノ酸配列が任意の機能性のコンセンサス部位と同一であるまたはその誘導体であるペプチドとすることができる。
【0155】
本発明の作用物質は、例として、ペプチド、ペプチドミメティック、抗体、抗体断片、小分子、ビタミン誘導体、および炭水化物とすることができる。本発明のペプチド作用物質は、当該分野において知られているように、標準的な固相(または液相)ペプチド合成法を使用して調製することができる。そのうえ、これらのペプチドをコードするDNAは、市販で入手可能なオリゴヌクレオチド合成装置を使用して合成されてもよく、標準的な組換え産生システムを使用して組換えで産生してもよい。非遺伝子コードアミノ酸が含まれることとなる場合、固相ペプチド合成を使用する産生が必要とされる。
【0156】
[結合パートナーを同定するための方法]
本発明の他の実施形態は、mTORベータまたは誘導体の結合パートナーの単離および同定における使用のための方法を提供する。一般に、本発明のタンパク質は、潜在的な結合パートナーの本発明のタンパク質との結合を可能にする条件下で、潜在的な結合パートナーまたは細胞の抽出物もしくは画分と混合される。混合の後に、本発明のタンパク質と結合するようになったペプチド、ポリペプチド、タンパク質、または他の分子は、混合物から分離される。本発明のタンパク質に結合した結合パートナーは、次いで、取り出し、さらに分析することができる。結合パートナーを同定し、かつ単離するために、全タンパク質、例えば配列番号2の全アミノ酸配列を含むタンパク質または配列番号1のヌクレオチドによってコードされるタンパク質を使用することができる。代替的には、タンパク質の断片を使用してもよい。
【0157】
本明細書において使用される場合、細胞抽出物は、溶解または破壊された細胞から作製される調製物または画分を指す。細胞抽出物の好ましい供給源は、アレルギー性過敏症を有する患者におけるヒト皮膚組織もしくはヒト気道に由来する細胞またはヒト肺組織の生検サンプルに由来する細胞であろう。代替的には、細胞抽出物は、正常組織または入手可能な細胞株、特に顆粒球細胞株から調製することができる。
【0158】
多種多様の方法を、細胞の抽出物を得るために使用することができる。細胞は、物理的または化学的な破壊方法を使用して破壊することができる。物理的な破壊方法の例は、超音波処理および機械的分断を含むが、これらに限定されない。化学的な溶解方法の例は、界面活性剤による溶解および酵素による溶解を含むが、これらに限定されない。当業者は、本方法における使用のための抽出物を得るために、細胞抽出物を調製するための方法を容易に適応させることができる。
【0159】
細胞の抽出物が調製されたら、抽出物は、タンパク質の結合パートナーとの結合が生じ得る条件下で本発明のタンパク質と混合される。多種多様の条件を使用することができ、最も好ましいのは、ヒト細胞の細胞質において見つけられる条件に非常によく類似している条件である。オスモル濃度、pH、温度、および使用される細胞抽出物の濃度などの特徴は、タンパク質の結合パートナーとの結合を最適化するために変えることができる。
【0160】
適切な条件下で混合した後に、結合した複合体は、混合物から分離される。多種多様の技術は、混合物を分離するために利用することができる。例えば、本発明のタンパク質に特異的な抗体は、結合パートナー複合体を免疫沈降させるために使用することができる。代替的には、クロマトグラフィーおよび密度/沈降遠心分離などの標準的な化学的な分離技術を使用することができる。
【0161】
抽出物中に見つけられる非結合細胞性成分の除去の後に、結合パートナーは、従来の方法を使用して、複合体から解離させることができる。例えば、解離は、混合物の塩濃度またはpHを変化させることによって達成することができる。混合された抽出物から結合している結合パートナーペアを分離することを支援するために、本発明のタンパク質は、固体支持体上に固定することができる。例えば、タンパク質は、ニトロセルロースマトリックスまたはアクリル酸ビーズに付着させることができる。固体支持体へのタンパク質の付着は、抽出物中に見つけられる他の成分からペプチド/結合パートナーペアを分離することを支援する。同定された結合パートナーは、単一タンパク質または2つ以上のタンパク質から構成される複合体のいずれかとすることができる。代替的には、結合パートナーは、Takayamaら(1997)Methods Mol.Biol.69、171〜184ページもしくはSauderら(1996)J.Gen.Virol.77、991〜996ページの手順に従って、ファーウェスタンアッセイを使用して同定することができる。またはエピトープタグ付きタンパク質もしくはGST融合タンパク質を使用して同定することができる。
【0162】
代替的には、本発明の核酸分子は、酵母2ハイブリッド系において使用することができる。酵母2ハイブリッド系は、他のタンパク質パートナーペアを同定するために使用され、本明細書において記載される核酸分子を用いるために容易に適応させることができる。
【0163】
さらなる説明を伴うことなく、当業者は、先の説明および以下の例示的な実施例を使用して、本発明の作用物質(例えば核酸およびポリペプチド)を作製し、利用し、特許請求の範囲に係る方法を実施することができると考えられる。以下の実際の実施例(working example)は、本発明の実施形態を記載し、残りの開示を限定するものと決して解釈されないものとする。
【実施例】
【0164】
[実施例1:mTOR抗体のC末端を用いたラット組織のウェスタンブロット分析]
2つのTOR遺伝子を有する酵母とは対照的に、哺乳動物は、分子量およそ280kDaの単一のポリペプチドをコードすることが公知の遺伝子を1つだけ保有する。mTORの調節および下流シグナル伝達をさらに解明するために、モノクローナル抗体(F11)を作製した。この抗体(F11)は、ウェスタンブロット法、免疫沈降法および免疫蛍光法においてmTORを特異的に認識する(データ非掲載)。HEATドメインに対応するmTOR(350アミノ酸長)の断片を、GST−融合タンパク質として細菌の中で発現させ、免疫化および特異的ハイブリドーマクローンのスクリーニングに使用した。この作製抗体を使用し、ラット組織および様々な細胞株に由来する全細胞溶解物を、ウェスタンブロットで分析した場合、およそ280kDaの優勢な免疫反応性の1つのバンドが観察された(図1、下のパネルを参照されたい)。しかし、C末端ペプチドに対して作製された市販のmTOR抗体(Cell Signalling)を使用した場合、いくつかの強い免疫反応性のバンドが検出された(図1、上のパネル)。ラットの脳に非常に豊富な280−kDaのバンドに加えて、およそ80kDaおよび95kDaの強い免疫反応性の2つのバンドが存在した。80kDaのバンドは、肝臓、血液、腎臓、小腸および大腸において高度に発現しており、一方、肺、胃、脾臓、精巣および脂肪においては、中/低レベルの発現である。興味深いことには、95kDaのバンドは、肝臓においてのみ非常に高いレベルで検出されているので、臓器特異的であるように思われる(図1、上のパネルを参照されたい)。さらに、肝臓および血液は、およそ135kDaの、比較的弱いが、独特なバンドを保有する。抗アクチン抗体を用いて、メンブランをリプローブすることは、タンパク質の添加コントロールとして機能する。低分子量のmTOR免疫反応性のバンドの検出は、mTORのスプライシング形態の存在によって、または完全長タンパク質のタンパク質分解によって説明できる。
【0165】
[プラスミド構築、siRNAおよび発現研究の実験手順]
哺乳動物細胞における発現のために、mTORβのための完全長cDNAを、タグを付けた真核発現ベクターであるpcDNA3.1/FLAG(Invitrogen)の中にクローン化した。Asp514をGluに置換した、mTORβのキナーゼ不活性点変異体(TORαでAsp2357がGluになったアナログ)を、部位特異的変異導入キット(Stratagene)を使用して、製造業者の推奨に従って作製した。細胞の一過性形質移入を、ExGene500試薬(Fermentas)を使用して、製造業者の推奨する条件下で実施した。mTORのsiRNAを、MWG Biotechから入手した(21ヌクレオチド長、ヒトmTORの2241〜2261の領域に対応する(Kimら、2002))。siRNAを、Lipofectamine2000(Invitrogen)を使用して、製造業者の推奨通りに、Hek293細胞に形質移入した。S6K1のC末端領域(His−S6K1C、アミノ酸332〜502)を、6His−タグ配列を付けたpET24aプラスミド(Novagene)に、インフレームでクローン化した。His−S6K1Cの発現および親和性精製を、それぞれBL21 DE3細胞においてNTA−アガロース(Qiagene)を使用して実施した。pCMV FLAG mTORαプラスミドは、Prof.K.Yonezawa、神戸、日本のご厚意により提供いただいた。
【0166】
[試薬、抗体および細胞培養]
抗FLAGタグ、抗HAタグおよび抗βアクチン抗体は、Sigmaより購入した。N末端抗mTOR抗体はSantaCruzより入手した。他のすべての抗体は、Cell Signalingより購入した。ヒト胎児腎臓HEK293細胞、ヒト乳房MCF7およびヒト肝臓HepG2細胞を、37℃、5%CO2で、10%ウシ胎児血清(FBS;Hyclone)、2mMのL−グルタミン、50単位/mlのペニシリンおよび50μg/mlのストレプトマイシンを添加したダルベッコ変法イーグル培地において維持した。
【0167】
[RNA精製およびRT−PCRの実験手順]
全RNAを、HEK293、MCF7およびHepG2細胞株から、SV Total RNA Isolation System(Promega)を使用して精製した。ReverAid H Minus First Strand cDNA Synthesis Kit(Fermentas)を使用して、70℃で5分間、10μgの全RNAおよび5μgのオリゴdTプライマーをアニーリングすることによって、第1鎖cDNAを合成した。その後、RTミックス(最終 1×反応バッファー、40UのRiboLockリボヌクレアーゼ阻害剤(Fermentas)および1mMのdNTP)を溶液に加え、5分間、25℃においてインキュベートした。RevertAid H Minus Reverse Transcriptase(Fermentas)を加えた後、25μlの反応混合物を、10分間、25℃および1時間、37℃でインキュベートした。逆転写酵素反応を、10分間70℃でインキュベートすることによって停止させた。反応混合物を、−20℃で保存し、1μlをそれぞれPCRに使用した。RT−PCRを、mTORのための特異的プライマーのパネルを使用して実施した。グリセルアルデヒド−3リン酸デヒドロゲナーゼ(GADPH)の特異的断片およびβアクチンを増幅させ、第1鎖cDNAの添加コントロールおよび品質コントロールとして使用した。
【0168】
[実施例2:ヒト組織のmTORのノーザンブロット分析]
これらの可能性、すなわちmTORのスプライシング形態または完全長タンパク質のタンパク質分解の存在を調査するために、ヒト組織のパネル(OriGene)から精製した全RNA試料のノーザンブロット分析を、まず実施した。メンブランを、そのC末端コード領域に対応するDIG標識mTORプローブ(750bp)を用いてプローブした。この分析において、mTORプローブと特異的にハイブリダイズするいくつかのバンド(図2)の存在を観察した。予想通りに、広範に発現する、完全長mTORの転写産物に対応すると思われる、およそ8.6Kbのバンドもまた観察された。さらに、1.5から3.5Kbの領域にいくつかの独特なバンドがあり、これらは、肝臓および心臓において非常に豊富であることが示された。最も強いシグナルは、2.7Kbおよび3.2Kbのバンドに対応した。ウェスタンブロット分析およびノーザンブロット分析において得られた結果は、mTORスプライシング形態の存在を強く示唆した。ノーザンブロット分析はさらに、mTORβが心臓および肝臓において高度に発現し、一方、腎臓、肝臓、血液、小腸および大腸は、mTORβのタンパク質レベルが最も高いことを示している。
【0169】
[ノーザンブロット分析の実験手順]
様々なヒト組織由来のポリ(A)+RNA試料を含むメンブランを、OriGeneから購入した。ノーザンブロット分析を、DIG Northern Starter kit(Roche Diagnostics)を使用して、製造業者の推奨通りに実施した。mTOR DIG標識RNAプローブを、mTORのC末端コード領域に対応する750bpのPCR産物を、ジオキシゲニン−11−UTPを用いたin vitro転写反応の鋳型として使用して、作製した。アクチンのプローブは、製造業者により提供された。
【0170】
[実施例3:mTORベータの免疫沈降]
観察された免疫反応性のバンドの性質をさらに調べるために、mTORを、Hek293、MCF7およびHep2G細胞から、C末端ポリクローナル抗体(Cell Signalling)を使用して免疫沈降させ、N末端mTOR抗体を用いたウェスタンブロットにおいて免疫複合体をプローブした。図3に示すように、280kDaおよび80kDaの範囲に2つの免疫反応性のバンドが、これら3種の細胞株すべてからの免疫沈降においてはっきりと検出された。しかし、mTORを、これらの3種の細胞株から、F11Mabを使用して免疫沈降させると、280kDaの免疫反応性のバンドは1つのみ観察された(データ非掲載)。得られた結果は、N末端およびC末端の両方の配列を保有し、およそ700アミノ酸長のタンパク質をコードする、潜在的mTORスプライス形態の存在を強く示唆している。したがって、mTORノーザンブロットにおいて検出された、2.7Kbおよび3.2Kbの最も豊富な転写産物は、80kDaのスプライス変異体をコードする能力を有する。
【0171】
[免疫沈降の実験手順]
HEK293細胞を、氷冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、50mMのHEPES(pH7.5)、150mMのNaCl、1%(v/v)のTriton X100、2mMのEDTA、50mMのフッ化ナトリウム、10mMのピロリン酸ナトリウム、1mMのオルトバナジウム酸ナトリウムおよびプロテアーゼ阻害剤の混合物(Roche Applied Science)を含む溶解バッファーを用いて抽出した。全細胞抽出物を、10,000×gで30分間、4℃で遠心分離器にかけた。内因性または一過性に発現したタンパク質を、タンパク質A−Sepharoseビーズ(Amersham Biosciences)に固定した対応する抗体を用いて、3時間、4℃で免疫沈降させた。その後、免疫複合体を、0.05%のTween20を含むTris−緩衝生理食塩水、1%のTritonX−100を含む洗浄バッファー1(50mMのHEPES[pH7.5]、40mMのNaClおよび2mMのEDTA)、500mMのLiClおよび0.5%TritonX−100を含む洗浄バッファー1、500mMのLiClを含む洗浄バッファー1ならびに洗浄バッファー2(50mMのHEPES[pH7.5]および150mMのNaCl)で1回度洗浄した。RaptorまたはRictorの免疫沈降研究のために、細胞を、氷冷バッファーB(TritonX−100の代わりに0.3%CHAPSを含むバッファーA)に溶解した。mTOR免疫沈降を、バッファーBで4回洗浄し、洗浄バッファー2で2回洗浄した。免疫複合体を、免疫ブロットのために、またはin vitroのキナーゼ反応のために使用した。
【0172】
[実施例4:mTORベータの特定]
1以上のmTORスプライス形態の存在を証明するために、mTOR特異的オリゴヌクレオチドおよびいくつかのヒト細胞株のパネルを用いることによって、対応するcDNAのPCRに基づく調査を実施した。この分析において、Hek293およびMCF7系を、潜在的スプライス変異体が観察された場所で使用した。さらに、肝臓がいくつかの潜在的mTORスプライス変異体を保有することを、ノーザンブロットおよびウェスタンブロットにおいて発見したので、肝癌細胞株Hep2Gもまた試験した。まず、全RNAを、対数増殖期細胞から、SV Total RNA Isolation System(Promega)を使用して精製した。その後、各細胞株から精製された、等量のRNAを、ReverAid H Minus First Strand cDNA Synthesis Kit(Fermentas)を使用することによって、第1鎖cDNAに転換した。作製した第1鎖cDNAの品質を、アクチンおよびGADPH断片のPCR増幅によって試験した。図4は、GADPH(570bp)およびβ−アクチン(350bp)の、ほぼ等量のPCR産物を、全細胞株のcDNA調製物からPCR増幅させたことを示す。mTOR特異的プライマーの様々なセットを用いて作製した第1鎖cDNAの広範囲なPCR分析により、増幅断片のパネルを作製した。最も顕著なバンドを、ゲルから切り取り、配列決定した。得られたmTOR配列の中で、潜在的スプライス変異体を含む1つのmTOR配列を同定した。およそ100bpのこのPCR断片を、N末端プライマー(Nl、ATGCTTGGAACCGGACCTGCCG(配列番号5))およびFATNドメイン(C3、TTTGGACAGATCCTCAGTGACCT(配列番号6))の終わりに位置する2次プライマーを用いて増幅した。このPCR産物を、3種すべての細胞株から特異的に増幅したことに留意することが重要である(図4Aを参照されたい)。図4Bに示すように、増幅断片は、mTORのN末端領域およびFATNドメインに対応する配列を含む。作製した配列の翻訳により、スプライス部位の点におけるリーディングフレームの連続が明らかに示唆される(図4Cを参照されたい)。mTOR(mTORベータ)のこのスプライス形態は、最もN末端の23アミノ酸、およびmTORのC末端の683アミノ酸伸長からなる、706アミノ酸長のタンパク質をコードする能力を有する。
【0173】
この潜在的mTORスプライス形態の配列をコードする完全長を得るために、作製した第1鎖cDNAから、末端の(extreme)N1(ATGCTTGGAACCGGACCTGCCG(配列番号7))およびC1(TTACCAGAAAGGGCACCA(配列番号8))のmTOR特異的プライマーを使用して、PCR増幅を実施した。このアプローチによって、Hek293の第1鎖cDNAから、およそ2.3Kbまでのバンドを増幅した。N末端およびC末端の終わりから増幅したバンドの、初回配列分析により、mTORの予測スプライス変異体の存在が確認された。
【0174】
その後、増幅PCR産物を完全に配列決定し、そのヌクレオチド配列(配列番号1)が、mTORβ特異的イントロン/エクソンをヌクレオチドの68から72に有することを見出した。得られた配列は、706アミノ残基(配列番号1)のタンパク質をコードできるオープンリーディングフレームを有する。mTORαのN末端(1〜23aa)およびC末端(1867〜2549aa)の間のスプライス融合の位置を矢印により示す。
【0175】
同定されたmTORのスプライス形態を「mTORベータ(mTORβ)」および完全長タンパク質(mTORアルファ(mTORα))と名付けた。完全長mTORαと対照的に、mTORβのスプライス形態は、全HEATドメインおよびFATNドメインの主要な部分を欠失している(図5を参照されたい)。HEATドメインは、タンパク質間の相互作用の媒介に関係している。mTORにおいて、HEATドメインに対応する配列は、RaptorおよびRictorと相互に作用することが見出されており、これらはmTORシグナル伝達においてカギとなる物質である。さらに、HEATドメイン領域内の配列は、mTORを小胞体およびゴルジ体に局在化させることが示された。最近の研究により、FATドメインはHEAT様構造を有し、タンパク質間の相互作用にも関与できることが示された。mTORβは、インタクトなFRB(FKBP12/ラパマイシン結合)、キナーゼおよびFATCドメインを有する。これらのドメインの存在が、mTORβがタンパク質キナーゼとして働き、その機能はラパマイシンおよびそのアナログによって調節され得ることを示唆する。さらに、mTORβは、最N末端から、機能未知の23のアミノ酸およびFATNドメインのC末端部分を含む。FATNのC末端領域のバイオインフォマティック分析により、HEAT様ドメインの存在が指摘され、これは、RictorおよびRaptorなどの調節タンパク質との相互作用を容易にできる。
【0176】
[実施例5:mTORβの調節および細胞機能]
mTORβの同定およびクローン化の次に、その調節および細胞機能の調査についての研究を始めた。まず、完全長のmTORβを、pcDNA3.1発現ベクターの中に、インフレームで、N末端FLAG−タグ−エピトープを付けてクローン化した。発現レベル、分子量およびFLAG−mTORβの調節を調べるために、Hek293細胞に、pcDNA3.1またはpcDNA3.1/FLAG−mTORβを、一過性に形質移入した。形質移入の1日後、細胞を、36時間血清飢餓状態にし、ラパマイシンの存在下または不在下で30分間インキュベートした。1時間の血清刺激後、細胞を溶解し、溶解物をウェスタンブロットまたは免疫沈降に使用した。溶解細胞の上清を、抗mTORポリクローナル抗体(Cell Signalling)を用いて免疫ブロットした場合、pcDNA3.1/FLAG−mTORβプラスミドが、およそ80kDaの分子量を有するタンパク質の発現を指示していることは明らかであった(図6A、下のパネルを参照されたい)。内因性mTORβの発現が、pcDNA3.1またはpcDNA3.1/FLAG−mTORβを形質移入したHek293細胞において明らかに観察された。FLAGエピトープの存在によって、内因性mTORβの移動性と比較してFLAG−mTORβの移動性はわずかに遅くなる。この分析はさらに、血清による細胞の飢餓/刺激は、内因性mTORβおよび過剰発現されたmTORβの両方のレベルまたはゲル移動性に影響を与えないことを示した。ラパマイシン処理の後も、有意な変化は観察されなかった。
【0177】
血清またはIGF1などの増殖因子による細胞の刺激は、S2448におけるmTORαのリン酸化を誘導することが公知である。もともとは、S2448におけるmTORαのリン酸化は、PKB/Aktにより媒介されることが見出された。しかし、最近の研究により、S2448のリン酸化にS6Kが関与する強い証拠が提供されている。mTORβが、血清刺激に反応して、全mTORαのアミノ酸のS2448に対応するセリン残基においてリン酸化されるかどうかを見出すために、上記の実験から得られた溶解物をS2448リン酸化特異的抗体を用いてプローブした。図6A(上のパネル)に示すように、内因性mTORβおよび過剰発現されたmTORβの、全mTORαのアミノ酸配列のS2448に対応するセリン残基におけるリン酸化は、血清刺激により、強く誘導される。さらに、このリン酸化事象は、ラパマイシンに感受性である。得られたデータは、mTORαと同様に、全mTORαのアミノ酸配列のS2448に対応するセリン残基におけるmTORβのリン酸化は、血清刺激に反応して誘導され、ラパマイシンに対して感受性であることを実証している。
【0178】
mTORβは、mTORαの主要な生理学的基質である、S6Kおよび4E−BP1をリン酸化できるか?この問題に答えるために、FLAG−mTORβまたはFLAG−TORαを、一過性形質移入Hek293細胞から、免疫沈降させた。その後、免疫複合体を、冷ATPおよび組換え4E−BP1またはHis−S6K1Cを含む、mTORキナーゼ反応に使用した。キナーゼ反応をSDS−PAGEにより解析し、リン酸化特異的抗体のpT389−S6KlおよびpS65−4E−BP1を用いて免疫ブロットした。図6Bは、mTORβが、S6K1および4E−BP1の両方をin vitroでリン酸化できるが、mTORαより程度が低いことを、疑いの余地なく実証している。
【0179】
様々な研究室の実験により、mTORが、その下流基質:S6K、4E−BP1およびPKB/Aktのリン酸化のために、結合パートナーであるRaptorおよびRictorを必要とすることが示された。このことを考慮に入れて、mTORβと、公知のmTORの結合パートナーとの相互作用を試験した。この研究において、HEK293細胞に、pcDNA3.1/FLAG−mTORβおよびpRK−Raptor−HAまたはpcDNA3.1/FLAG−mTORβおよびpRK/Rictor−MycまたはpcDNA3.1/FLAG−mTORβおよびpcRK−GβLを、一過性に形質移入した。溶解細胞の上清を、抗FLAGモノクローナル抗体またはコントロールの非特異的抗体を用いて、免疫沈降させた。形質移入細胞由来の免疫複合体または全細胞溶解物をSDS−PAGEにより解析し、様々な抗体を用いて免疫ブロットした。図7は、外因性発現のRaptor、RictorおよびGβLが、in vivoでmTORβと特異的複合体を形成することを明らかに示している。相互作用の特異性を、関係のない抗体を使用して、免疫沈降アッセイにおいて試験した。このように、完全長mTORαと同様に、スプライス形態もまた、Raptor、RictorおよびGβLと結合できる。スプライス形態はさらに、S6K1および4E−BP1をin vitroでリン酸化できる。
【0180】
上述のように、mTORβは、インタクトなFRBドメインを保有する。したがって、ラパマイシンに対するmTORαおよびmTORβの感受性を比較することは興味深い。この研究において、HEK293細胞に、pcDNA3.1/FLAG−mTORβ、pcDNA3.1/FLAG−mTORαまたはpcDNA3.1を一過性に形質移入した。1日後、細胞を24時間飢餓状態にし、10%FCSで一(1)時間刺激した。様々な濃度のラパマイシン(1nM、5nMおよび10nM)を、血清刺激の30分前に加えた。細胞溶解物の上清をSDS−PAGEにより解析し、様々な抗体を用いて免疫ブロットした。mTORαおよびmTORβの発現を、C末端ポリクローナルmTOR抗体を用いて免疫ブロットすることにより確認した(図8を参照されたい)。メンブランを、S6K1(pT389)および4E−BP1(pS70、pS37/46)において、公知のmTORリン酸化部位に対するリン酸化特異的抗体のパネルでプローブすることにより、mTORβを発現する細胞が、ベクター単独またはpcDNA31/mTORαを形質移入した細胞と比較した場合、ラパマイシンに対して感受性が低いことが示された。特に、感受性は、1nM程度の低い用量のラパマイシンで処理した細胞においてより明らかであった。
【0181】
過去の研究は、主に小胞体およびゴルジ体の膜分画においてmTORαを見出した。さらに、mTORは、ミトコンドリア外膜および核内で観察された。完全長mTORのHEATドメイン領域(HEATドメイン18および19)に位置する配列は、その膜局在化の媒介に関係している。HEATおよびFATNドメインが、mTORβに存在しないことを考慮に入れて、分画化によって、その細胞内局在化を調べることは興味深い。対数増殖期のHEK293細胞を、ProteoExstract Extraction kit(Calbiochem)を使用して、分画化した。mTORαおよびmTORβの両方を、抗mTOR C末端抗体を使用して全分画から免疫沈降させた。免疫複合体をSDS−PAGEにより解析し、抗mTOR N末端抗体を用いて免疫ブロットした。予想通り、mTORαが、得られた細胞質、核およびメンブラン分画において検出された。それとは対照的に、mTORβは、細胞質に優勢に局在化した(図9を参照されたい)。調製された細胞内分画の質を、抗4E−BPl、HSP60およびc−Jun抗体を用いて免疫ブロットすることにより分析した。現在の免疫蛍光分析を用いて、(飢餓/刺激および細胞ストレスに反応した)一過性形質移入Hek293細胞におけるMyc−mTORαおよびmTORβの細胞内局在化を研究する。
【0182】
細胞過程の調節におけるmTORβの役割をさらに調査するために、mTORβ野生型またはmTORα野生型を過剰発現するHek293安定細胞株を作製した。さらに、EGFP(高感度緑色蛍光タンパク質(Enhanced Green Fluorescent Protein))を過剰発現する、mTORβの研究においてコントロールとして使用できる細胞株も開発した。作製した細胞株の初回試験により、mTORαまたはGFPを発現する細胞と比較した場合、野生型mTORβを発現する細胞株がより早く増殖することが示された。このことを考慮に入れて、作製した安定細胞株の増殖率を、Promegaの細胞増殖アッセイを使用して調査した。mTORβ wt、mTORα wtまたはEGFPを過剰発現する安定細胞株を、96ウェルプレートに様々な濃度で播種し、標準的条件下で7日間増殖させた。その後、各ウェルの細胞数を、Resosurinに基づくアッセイにより測定した。6つの独立した研究において、mTORβ発現細胞は、コントロール細胞と比較してより速く増殖することが見出された(図10を参照されたい)。対照的に、mTORα wt発現細胞は、コントロール細胞と比較して増殖における差は示さなかった。このことにより、細胞増殖の調製におけるmTORβの役割が確認されたが、mTORαに関しては確認されなかった。
【0183】
mTORβキナーゼ活性が、細胞増殖の調節において役割を有するかどうかを調査するために、同様の実験を、mTORβ野生型、mTORβキナーゼ不活性型(KD)変異体またはEGFPを過剰発現するHek293細胞株において実施した。細胞を、96ウェルプレートに様々な濃度で播種し、標準的条件下で5日間増殖させた。その後、各ウェルの細胞数を、Resazurinに基づくアッセイにより測定した。6つの独立した研究において、mTORβ発現細胞は、コントロール細胞と比較しておよそ1.6倍の速さで増殖することが見出された(図11を参照されたい)。得られたデータはさらに、mTORβ KD変異体が、Hek293細胞において発現させた場合、細胞増殖に関するドミナントネガティブ効果を有していないことを示している。mTORβ KD過剰発現細胞は、EGFP細胞と比較した場合、ある程度速く増殖したので、わずかに反対の効果を示している。
【0184】
mTORβによる細胞増殖の誘導は、様々なシグナル伝達経路により、形質導入できるということが、さらに考えられる。それらの経路の1つである、プロトオンコジーンMycを介したシグナル伝達を調べた。プロトオンコジーンMycは、数多くの遺伝子の転写を調節するその能力を介して、細胞の成長、増殖、分化およびアポトーシスに影響を与えることが公知である。cMycは、遺伝的安定性、遊走および血管形成を含む、腫瘍進行の調節にも関係がある。したがって、cMycタンパク質の発現および機能は、厳密に制御されている。実際、多くの様々な経路および因子は、転写および翻訳のレベルにおけるcMycの発現および翻訳後修飾を介したそのタンパク質機能を調整することが特定されている。細胞増殖の調節において、cMycは、細胞周期のG1/S移行に関与する遺伝子の発現を制御する。mTOR経路を介したシグナル伝達は、G1/S期における細胞周期進行に、深く寄与する。さらに、ラパマイシンは、細胞周期のG1/S移行の公知の阻害剤である。
【0185】
cMycがmTORβ誘導性増殖に関与するかどうかを試験するために、HEK293細胞に、pEGFP、pcDNA3.1/mTORβ wt、pcDNA3.1/mTORβ不活性型変異体またはpcDNA3.1/mTORα wtを一過性に形質移入した。形質移入2日後、細胞を溶解し、SDS−PAGEにより分離し、c−mycおよびその転写標的に対する抗体(例えば、抗Myc(9E10)モノクローナル抗体)を用いて免疫ブロットした。図10Bに提示した結果は、mTORβの過剰発現がc−Mycタンパク質のレベルを有意に増加させるが、mTORαは増加させないことを明らかに実証している。mTORβのキナーゼ不活性型変異体はc−Mycの発現を刺激しないので(図11B)、c−Myc翻訳の誘導は、mTORβキナーゼ活性に依存性である。mTORα、mTORβ wtおよびKD変異体の一過性発現の発現レベルを、C末端mTOR抗体を用いた免疫ブロットによりモニターした。mTORβ wtの過剰発現により、Myc発現のレベルが増加することが見出された。さらに、mTORβを過剰発現するHek293細胞が、mTORαを過剰発現する細胞よりも非常に早くソルビトール誘導性ストレスから回復することが見出された。
【0186】
細胞周期におけるmTORβの役割をさらに調査するために、mTORβ、mTORαまたはEGFPを過剰発現するHek293細胞を、BrdUを用いて30分間パルス標識し、2時間ごとに24時間追跡した。細胞に組み込まれたBrdUを、FACS分析により測定した。各細胞株に関して観察された細胞周期のGl、SおよびG2期の存続期間を決定した(図12を参照されたい)。SおよびG2期の存続期間は3種の細胞群すべてにおいて同様であった。しかし、G1期の存続期間は、mTORβ過剰発現細胞において、mTORα細胞またはコントロール細胞より短かった。このことは、mTORβが細胞周期のG1進行に関して重要であることを示唆している。
【0187】
血清飢餓細胞におけるmTORβの効果も評価した。mTORβ wt、mTORα wt、mTORβキナーゼ不活性型またはEGFPを過剰発現するHek293安定細胞株を、60時間血清飢餓状態にした。細胞の生存を、Trypan Blue色素排除アッセイにより評価した。mTORβ wtの過剰発現により、細胞が飢餓誘導性細胞死から保護され(図13Aを参照されたい)、mTORβキナーゼ活性がこの効果の媒介にとって必要であることが見出された(図13Bを参照されたい)。
【0188】
細胞の発癌性についてのmTORβ発現の効果をさらに調査するために、mTORβ、mTORαまたはEGFPを安定して過剰発現するHek293細胞を、培養培地中のアガロースの薄層にプレーティングした。14日後、コロニーを、MTTを使用して染色した(図14を参照されたい)。コロニーを、quantity 1 software (Bio-Rad)を使用して計測し、倍率をプロットした(図14Bを参照されたい)。mTORβの過剰発現は、mTORαを過剰発現する細胞およびコントロール細胞と比較して、細胞発癌性の増加をもたらすことが見出された。
【0189】
[in vitroキナーゼアッセイの実験手順]
mTOR in vitroキナーゼアッセイを、すでに公開されているように実施した(Kimら、2002)。簡潔に言うと、キナーゼアッセイを30μlで、30℃において40分間実施し、5×106のHEK293細胞に由来する、洗浄したmTOR免疫沈降物の約1/4、1μgの4E−BP1(Calbiochem)または0.5μgの組換えHis−S6K1C、25mMのHEPES−KOH(pH7.4)、50mMのKCl、20%グリセロール、10mMのMgCl2、4mMのMnCl2、1mMのDTTおよび50μMのATPを含んだ。反応を、5×サンプルバッファーを加えることによって停止させ、SDS−PAGEによって解析し、免疫ブロットによって分析した。
【0190】
[免疫ブロット分析の実験手順]
免疫複合体または全細胞溶解物をSDS−PAGEによって分離し、ポリ二フッ化ビニリデンメンブラン(PVDF)上に転写し、ブロッキング溶液(5%ミルク、Tris−緩衝生理食塩水/Tween0.1%)と共に1時間インキュベートした。その後、ブロックしたメンブランを、一次抗体を用いて4℃において一晩プローブした。0.1%のTweenを含むTris−緩衝生理食塩水で徹底的に洗浄した後、メンブランを、ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識二次抗体を用いて、室温で1時間インキュベートした。抗原−抗体複合体を、ECL system(Millipore)を使用して検出した。免疫ブロットをリプローブしなければならない場合、メンブランをまずストリップし(Restore Western Stripping Reagent、Pierce)、別の型の一次抗体と共にインキュベートした。
【0191】
[細胞内分画(subcellular fractionation)の実験手順]
HEK293細胞の細胞内分画を、ProteoExstract Extraction kit(Calbiochem)を使用して、製造業者の推奨通りに実施した。mTORαおよびmTORβを、抗mTOR C末端抗体を使用して、すべての分画から免疫沈降させた。免疫複合体を、SDS−PAGEにより解析し、抗mTOR N末端抗体を用いて免疫ブロットした。抗4E−BPl、HSP60およびc−Jun抗体を、それぞれ細胞質、メンブランおよび核の分画に対するコントロールとして使用した。
【0192】
[安定細胞株の作製および細胞増殖アッセイの実験手順]
野生型およびキナーゼ不活性型のmTORβを過剰発現する安定細胞株を、直鎖状のpcDNA 3.1/FLAG−Tまたはβ wtまたはpcDNA3.1 FLAG Tまたはβ不活性型ベクターを、HEK293細胞に形質移入することによって作製した。細胞株を、500μg/mlのジェネティシン(genetecin)で10日間、製造業者(Invitrogen)の推奨通りに選択した。細胞増殖アッセイのために、mTORβ wt、mTORβキナーゼ不活性型およびEGFPを過剰発現するHek293安定細胞株を、96ウェルプレートに様々な濃度(250、500、1000および2000細胞/ウェル)で播種し、標準的条件下で5日間増殖させた。その後、各ウェルの細胞数を、Resosurinに基づくアッセイ(Cell Titer Blue Promega)により、製造業者の推奨通りに測定した。各細胞株に関する正規化増殖曲線を、少なくとも6つの独立した実験からのデータを使用して計算した。
【0193】
本発明は、様々な特定の材料、手順および実施例を参照することによって、本明細書に記載および例示しているが、その目的のために選択された材料および手順の特定の組合せに本発明が限定されるものではないことが理解されるべきである。当業者には理解されるであろうが、このような詳細の多くの変形が含まれることを意味する。本明細書および実施例は、後述の特許請求の範囲によって示される本発明の真の範囲および趣旨の、単なる例示と見なされることが目的である。本出願において述べられた、すべての参考文献、特許、特許出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号2のアミノ酸配列を含む単離ポリペプチド、
(b)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む単離ポリペプチド、および
(c)配列番号1によってコードされるアミノ酸配列を含む単離ポリペプチド
からなる群から選択される、S6K1および/または4E−BP1をリン酸化する単離ポリペプチド。
【請求項2】
(a)請求項1に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(b)配列番号1のヌクレオチド配列またはその相補体を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号1の連続した配列全体にわたって少なくとも80%の配列同一性を有する核酸配列を含み、S6K1および/または4E−BP1をリン酸化するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、ならびに
(d)配列番号1のヌクレオチド配列またはその相補体に、68℃で0.1×SSCを用いる条件下でハイブリダイズし、S6K1および/または4E−BP1をリン酸化するタンパク質をコードする単離核酸分子
からなる群から選択される単離ポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドが、1以上の発現コントロールエレメントに作動可能に連結している、請求項2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項2または3に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項5】
請求項1に記載のポリペプチド、請求項2もしくは3に記載のポリヌクレオチド、または請求項4に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項6】
請求項1に記載のポリペプチドに特異的に結合する単離抗体。
【請求項7】
前記抗体がモノクローナルである、請求項6に記載の抗体。
【請求項8】
抗体がヒト化されている、請求項6または7に記載の抗体。
【請求項9】
請求項1に記載のポリペプチド、または請求項2に記載のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが発現する条件下で、請求項5に記載の宿主細胞を培養するステップを含む、ポリペプチドを産生するための方法。
【請求項10】
mTORベータ活性を調整する作用物質をスクリーニングするための方法であって、
(a)請求項1に記載のポリペプチドを試験作用物質と接触させるステップと、
(b)前記ポリペプチドの活性の任意の変化を検出するステップと
を含み、活性の変化が、mTORベータ活性を調整することができる作用物質を示す、前記方法。
【請求項11】
mTORベータの発現および/または活性を調整する作用物質をスクリーニングするための方法であって、
(a)請求項1に記載のポリペプチド、または請求項2に記載のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドを含む、またはこれを発現する、請求項5に記載の宿主細胞を提供するステップと、
(b)前記宿主細胞を試験作用物質と接触させるステップと、
(c)前記ポリペプチドの発現および/または活性の任意の変化を検出するステップと
を含み、発現および/または活性の変化が、mTORベータの発現および/または活性を調整することができる作用物質を示す、前記方法。
【請求項12】
前記活性が、S6K1および/または4E−BP−1のリン酸化を測定することによって検出される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記活性が、c−Mycタンパク質の発現を測定することによって検出される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項14】
前記発現が、配列番号1を含む核酸のレベルを測定することによって検出される、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
請求項1に記載のポリペプチドの異常な発現と関連する疾患を治療するための方法であって、その必要のある対象へ有効量の作用物質を投与するステップを含み、前記作用物質が、前記ポリペプチドの活性および/または発現を変化させる、前記方法。
【請求項16】
前記ポリペプチドの異常な発現と関連する疾患の治療における使用のための、請求項1に記載のポリペプチドの活性および/または発現を変化させる作用物質。
【請求項17】
前記作用物質が、請求項7から9のいずれか一項に記載の抗体である、請求項15に記載の方法または請求項16に記載の作用物質。
【請求項1】
(a)配列番号2のアミノ酸配列を含む単離ポリペプチド、
(b)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む単離ポリペプチド、および
(c)配列番号1によってコードされるアミノ酸配列を含む単離ポリペプチド
からなる群から選択される、S6K1および/または4E−BP1をリン酸化する単離ポリペプチド。
【請求項2】
(a)請求項1に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(b)配列番号1のヌクレオチド配列またはその相補体を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号1の連続した配列全体にわたって少なくとも80%の配列同一性を有する核酸配列を含み、S6K1および/または4E−BP1をリン酸化するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、ならびに
(d)配列番号1のヌクレオチド配列またはその相補体に、68℃で0.1×SSCを用いる条件下でハイブリダイズし、S6K1および/または4E−BP1をリン酸化するタンパク質をコードする単離核酸分子
からなる群から選択される単離ポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドが、1以上の発現コントロールエレメントに作動可能に連結している、請求項2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項2または3に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項5】
請求項1に記載のポリペプチド、請求項2もしくは3に記載のポリヌクレオチド、または請求項4に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項6】
請求項1に記載のポリペプチドに特異的に結合する単離抗体。
【請求項7】
前記抗体がモノクローナルである、請求項6に記載の抗体。
【請求項8】
抗体がヒト化されている、請求項6または7に記載の抗体。
【請求項9】
請求項1に記載のポリペプチド、または請求項2に記載のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが発現する条件下で、請求項5に記載の宿主細胞を培養するステップを含む、ポリペプチドを産生するための方法。
【請求項10】
mTORベータ活性を調整する作用物質をスクリーニングするための方法であって、
(a)請求項1に記載のポリペプチドを試験作用物質と接触させるステップと、
(b)前記ポリペプチドの活性の任意の変化を検出するステップと
を含み、活性の変化が、mTORベータ活性を調整することができる作用物質を示す、前記方法。
【請求項11】
mTORベータの発現および/または活性を調整する作用物質をスクリーニングするための方法であって、
(a)請求項1に記載のポリペプチド、または請求項2に記載のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドを含む、またはこれを発現する、請求項5に記載の宿主細胞を提供するステップと、
(b)前記宿主細胞を試験作用物質と接触させるステップと、
(c)前記ポリペプチドの発現および/または活性の任意の変化を検出するステップと
を含み、発現および/または活性の変化が、mTORベータの発現および/または活性を調整することができる作用物質を示す、前記方法。
【請求項12】
前記活性が、S6K1および/または4E−BP−1のリン酸化を測定することによって検出される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記活性が、c−Mycタンパク質の発現を測定することによって検出される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項14】
前記発現が、配列番号1を含む核酸のレベルを測定することによって検出される、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
請求項1に記載のポリペプチドの異常な発現と関連する疾患を治療するための方法であって、その必要のある対象へ有効量の作用物質を投与するステップを含み、前記作用物質が、前記ポリペプチドの活性および/または発現を変化させる、前記方法。
【請求項16】
前記ポリペプチドの異常な発現と関連する疾患の治療における使用のための、請求項1に記載のポリペプチドの活性および/または発現を変化させる作用物質。
【請求項17】
前記作用物質が、請求項7から9のいずれか一項に記載の抗体である、請求項15に記載の方法または請求項16に記載の作用物質。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2010−525804(P2010−525804A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504855(P2010−504855)
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際出願番号】PCT/GB2008/001548
【国際公開番号】WO2008/132494
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(509301596)ルードウィク インスティテュート オブ キャンサー リサーチ (1)
【出願人】(505367464)ユーシーエル ビジネス ピーエルシー (20)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際出願番号】PCT/GB2008/001548
【国際公開番号】WO2008/132494
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(509301596)ルードウィク インスティテュート オブ キャンサー リサーチ (1)
【出願人】(505367464)ユーシーエル ビジネス ピーエルシー (20)
【Fターム(参考)】
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