説明

ラマンスペクトル分光器

【課題】光損失を減少させ、測定用試料が熱の影響を受けにくくし、測定精度を向上させることが可能なラマンスペクトル分光器を提供する。
【解決手段】この発明のラマンスペクトル分光器を構成するセル管100は、セル管先端部101とセル管本体102とから構成される。セル管先端部101およびセル管本体102は、たとえば石英ガラス(合成石英硝子)からなっている。セル管先端部101とセル管本体102との接合には、次の二通りの方法を採用している。第一は従来のように有機系の接着剤を使う方法である。第二は、セル管先端部101とセル管本体102とを接着剤を使うことなく接合する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光損出を抑え、正確な測定データが得られるラマンスペクトル分光器に関する。
【背景技術】
【0002】
蛋白質は、酵素や生体組織の構造因子として機能しているのみならず、DNA(deoxyribonucleic acid)に保存されている遺伝情報の発現調節にも関与しているとされている。そこで、生体内で起こる反応機構を分子レベルで理解し、創薬事業へと展開するためには、蛋白質の構造と機能を知ることが最重要課題となっている。
【0003】
蛋白質の立体構造を決定する方法には、蛋白質単結晶を用いるX線結晶構造解析法がある。近年、軌道放射光によるX線源の進歩や、イメージングプレートに代表される検出手法の著しい改善、極低温下での回折データの収集などのX線構造解析技術の進歩があり、良質の結晶さえ得ることができれば、比較的簡単に立体構造が決定できるようになってきている。
【0004】
また、溶液中での構造変化を調べ、蛋白質の時々刻々の構造変化に関する情報を得ることは、蛋白質分子内での構造変化のみならず、蛋白質分子間あるいは蛋白質基質間の時間的推移に関する重要な知見が得られ、ドラッグデザインや臨床検査に役立つ。溶液中での蛋白質の構造決定および構造変化を観察する方法としては、NMR(Nuclear Magnetic Resonance)法が優れているが、扱える蛋白質の分子量や溶液の状態に制約がある。
【0005】
このため、近時、溶液中での蛋白質の構造決定および構造変化を観察する方法として、振動分光法の一種である微弱散乱光を検出するラマンスペクトル分光法が用いられるようになった。ラマンスペクトル分光法は、分子量の制約がなく、固体、液体および気体のいずれの状態であっても分析可能である。加えて、サンプル性状の制約を受けず、ピコ秒の極短時間の構造変化に追従でき、秒、分、時間、さらに日にわたる蛋白質の構造変化を詳細に検討できる利点がある。
【0006】
サンプル性状に制約がないということは、細胞中の生体分子の構造を生きたまま調べることが可能となる。さらに、ラマンスペクトル分光法は、蛋白質の単結晶を使っても解析が行えるため、溶液中の蛋白質が結晶化する過程での構造と機能の理解を深める重要な役割を果たすことができる。
【0007】
図3は、このラマンスペクトル分光法の原理を説明するための概略図である。レーザ発光装置301から発光された紫外線レーザ光は、反射ミラー302で集光レンズ系303へ導入される。反射ミラー302により導入された紫外線レーザは、集光レンズ系303によりセル管304中の蛋白質溶液の測定点305に集光される。測定点305から散乱した紫外光の一部は、接眼レンズ系306で取り出され、分光器307に結像される。
【0008】
そして、分光器307で光を波長(スペクトラム)ごとに分解した後に、CCD(Charge Coupled Device:電荷結合素子)308で電気信号に変換する。この波長ごとのエネルギー強度をもとに、セル管304中の蛋白質の構造および機能を解析することとなる。
【0009】
ここで、計測用の蛋白質溶液の入ったセル管304は、1000〜1800rpmで回転されており、蛋白質溶液はセル管304の底面に固定されたままでなく、一部分はセル管304の内側面に沿って上昇している。この内側面に沿って上昇している溶液の部分を測定点としている。なお、図3では、回転用モータ、およびこの回転用モータとセル管304とを接続するブラケットは省略してある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、図3に示した測定系で得られるラマンスペクトル光は、非常に微弱なものである。この原因としては、測定系中での光損失の大きさにある。
【0011】
測定系で光損失を生じる要因は多々あるが、最も大きな光損失を発生させている原因には、図3に示した測定系では、紫外線レーザの光軸に対する入射角とセル管304の面との関係にある。すなわち、紫外線レーザの光軸に対する入射角とセル管304の面が直角を保っていない場合には、入射するレーザ光はガラス管面で多く反射して、大きな光損失を生じることになる。
【0012】
さらに、測定点305で生じる散乱光と分光器307との位置関係も重要である。分光器307は、散乱光が最も多く得られる位置(すなわち接眼レンズ系306の焦点位置)に正確に配置しなければならない。また、セル管304と回転モータ軸との嵌合の精密性も重要である。
【0013】
一方、最近の先端光学測定技術を駆使すれば、入射レーザ光、分光器307および接眼レンズ系306については、正確な位置出しをすることが可能となっている。また、回転用のモータについても厳密に選択すれば、芯ぶれ等を防止でき、かなりの精度を保証できる。
【0014】
図4は、従来のラマンスペクトル分光器の構成を示す説明図である。まず、蛋白質溶液を含むセル管本体401をゴム製のOリング402に挿入し、アルミ合金を削り出した第1ブラケット403に固定している。また、第1ブラケット403は、同様にアルミ合金を削り出した第2ブラケット404に対してネジ405で固定されている(図4では1点のネジ405のみ示されているが、実際には互いに120゜の角度をもって3箇所でネジ止めされている)。さらに、第2ブラケット404は、回転用モータ406の軸406aに対してネジ407で固定されている。
【0015】
このラマンスペクトル分光器において、測定用試料の交換を行う場合は、まず、第1ブラケット403を第2ブラケット404からとりはずす。次に、第1ブラケット403からセル管本体401を抜き出して、セル管本体401を洗浄した後、新試料に詰め替える。そして、セル管本体401にOリング402を通して第1ブラケット403に装着し、第1ブラケット403と第2ブラケット404をネジ405で固定し、新試料の測定を開始する。第2ブラケット404と回転用モータ406とをはずすことはない。
【0016】
ここで問題となるのは、セル管本体401をゴム製のOリング402を介して第1ブラケット403に装着していることである。すなわち、ゴム製のOリング402は力のかけ具合によって自由に変形し、第1ブラケット403の中心(仮想のモータ軸)に合わせ込むのはかなり難しい。
【0017】
また、ゴムの弾性力から、一度位置決めしても時間が経過すると変化して、再調整が必要になる。また、ゴムは劣化しやすく、長期間の使用には耐えられない。さらに、異物やゴミをOリング402と第1ブラケット403との間に混入させないように十分な注意が必要である。なお、仮想のモータ軸とは、本来第1ブラケット403と第2ブラケット404の中心がモータの軸と合致したと仮定した場合の軸のことである。
【0018】
また、第1ブラケット403と第2ブラケット404とを3点でネジ止めしている(これは固定と位置合わせを兼用するための常套手段である)が、マイクロメートル単位の位置決め精度が要求される場合には、熟練者による調整が必要となり、かつ多大の時間を要することになりかねない。さらに、第2ブラケット404と回転用モータ406の軸406aとをネジ407で固定しているが、軸406aと第2ブラケット404の中心を合わせ込むのは困難を極める。
【0019】
従来のラマンスペクトル分光器の欠点として、さらに熱の問題もある。すなわち、回転用モータ406と第1ブラケット403、第2ブラケット404は熱的に繋がっているため、測定用試料が回転用モータ406の発する熱の影響を受けやすい。特に、第1ブラケット403は、測定用試料である蛋白質溶液を入れるセル管本体401と近い。この場合、セル管本体401の筒部を長く取れば、熱源が蛋白質溶液から遠くなり、熱的な問題は解消されるが、セル管本体401の芯ぶれが大きくなりやすく、現実的ではない。
【0020】
このため、回転用モータ406で発生した熱が蛋白質溶液に悪影響を与えないように、何らかの手段で冷却する必要があった。試料によっては、わずかな温度上昇も避けなければならず、問題となっていた。
【0021】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、光損失を減少させ、測定用試料が熱の影響を受けにくくし、測定精度を向上させることが可能なラマンスペクトル分光器を提供することを目的とする。また、調整作業が容易なラマンスペクトル分光器を提供することも、この発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この発明の請求項1にかかるラマンスペクトル分光器は、測定用試料を保持し、計測用レーザ光を透過する部材からなる平坦な底面を有する精密な円柱状のセル管先端部と、前記セル管先端部と回転用モータとを接続し、筒部が比較的長く形成された円柱状のセル管本体とからなり、前記セル管先端部と前記セル管本体とが一体的構造であるセル管を備えて構成されていることを特徴とする。
【0023】
この請求項1に記載の発明によれば、光損失を減少させ、測定試料が熱の影響を受けにくくし、測定精度を向上させることが可能なラマンスペクトル分光器を提供することができる。
【0024】
また、請求項2にかかるラマンスペクトル分光器は、請求項1に記載の発明において、前記セル管が光学ガラス材からなっていることを特徴とする。
【0025】
この請求項2に記載の発明によれば、可視光を用いた測定に最適になる。
【0026】
また、請求項3にかかるラマンスペクトル分光器は、請求項1に記載の発明において、前記セル管が石英ガラス材からなっていることを特徴とする。
【0027】
この請求項3に記載の発明によれば、紫外光や遠紫外光を用いた測定に最適になる。
【0028】
また、請求項4にかかるラマンスペクトル分光器は、請求項1に記載の発明において、前記セル管がCaF2材からなっていることを特徴とする。
【0029】
この請求項4に記載の発明によれば、赤外光や遠赤外光を用いた測定に最適になる。
【0030】
また、請求項5にかかるラマンスペクトル分光器は、請求項1〜4のいずれか一つに記載の発明において、前記セル管先端部と前記セル管本体とは、接着剤を介することなく、直接部材どうしで接合されていることを特徴とする。
【0031】
この請求項5に記載の発明によれば、有機系の接着剤と反応する測定用試料であっても良好な測定結果が得られる。
【0032】
また、請求項6にかかるラマンスペクトル分光器は、請求項1〜4のいずれか一つに記載の発明において、前記セル管先端部と前記セル管本体とは、有機系の接着剤で接着されていることを特徴とする。
【0033】
この請求項6に記載の発明によれば、ラマンスペクトル分光器の製造コストの低減化が可能になる。
【0034】
また、請求項7にかかるラマンスペクトル分光器は、請求項1〜6のいずれか一つに記載の発明において、前記セル管本体は、回転用モータとコレットチャックで連結されることを特徴とする。
【0035】
この請求項7に記載の発明によれば、セル管と回転用モータとをワンタッチで着脱できるため、測定用試料の交換が容易となる。また、ラマンスペクトル分光器の位置精度が出しやすく、再現性も得やすい。
【発明の効果】
【0036】
以上説明したように、請求項1に記載の発明によれば、測定用試料を保持し、計測用レーザ光を透過する部材からなる平坦な底面を有する精密な円柱状のセル管先端部と、前記セル管先端部と回転用モータとを接続し、筒部が比較的長く形成された円柱状のセル管本体とからなり、前記セル管先端部と前記セル管本体とが一体的構造であるセル管を備えて構成されているため、光損失を減少させ、測定試料が熱の影響を受けにくくし、測定精度を向上させることが可能なラマンスペクトル分光器を提供することができるという効果を奏する。
【0037】
また、請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明において、前記セル管が光学ガラス材からなっているため、可視光を用いた測定に最適になるという効果を奏する。
【0038】
また、請求項3に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明において、前記セル管が石英ガラス材からなっているため、紫外光や遠紫外光を用いた測定に最適になるという効果を奏する。
【0039】
また、請求項4に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明において、前記セル管がCaF2材からなっているため、赤外光や遠赤外光を用いた測定に最適になるという効果を奏する。
【0040】
また、請求項5に記載の発明によれば、請求項1〜4のいずれか一つに記載の発明において、前記セル管先端部と前記セル管本体とが、接着剤を介することなく、直接部材どうしで接合されているため、有機系の接着剤と反応する測定用試料であっても良好な測定結果が得られるという効果を奏する。
【0041】
また、請求項6に記載の発明によれば、請求項1〜4のいずれか一つに記載の発明において、前記セル管先端部と前記セル管本体とが、有機系の接着剤で接着されているため、ラマンスペクトル分光器の製造コストの低減化が可能になるという効果を奏する。
【0042】
また、請求項7に記載の発明によれば、請求項1〜6のいずれか一つに記載の発明において、前記セル管本体は、回転用モータとコレットチャックで連結されるため、前記セル管と回転用モータとをワンタッチで着脱でき、測定用試料の交換が容易となるという効果を奏する。また、ラマンスペクトル分光器の位置精度が出しやすく、再現性も得やすいという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかるラマンスペクトル分光器の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0044】
まず、光損失を減少させ、ラマンスペクトル分光法により正確な情報を得るためには、ラマンスペクトル分光器のセル管が、
(1)底面の平坦度および粗さ
(2)底面と側面の直角度
(3)真円度
(4)セル管とモータ軸の嵌合の精密性
を十分に満足することが必要である。
【0045】
すなわち、セル管底面の平坦度、粗さおよび直角度の精度を向上させることは、入射するレーザ光のセル管底面における反射光量が減少することにつながる。また、セル管の真円度とモータ軸の嵌合の精度を向上させることは、ラマンスペクトル分光器を回転させ試料の測定した場合に生じる芯ぶれによる、散乱光の焦点位置の変動を減少させることができる。加えて、分光器のセンサー位置に常に散乱光の焦点位置を導くことができる。
【0046】
図1は、この発明にかかるラマンスペクトル分光器のセル管の構成を示す説明図である。このセル管100は、円柱状のセル管先端部101とセル管本体102とから構成される。セル管先端部101およびセル管本体102は、たとえば石英ガラス(合成石英硝子)からなっている。セル管先端部101とセル管本体102との接合には、次の二通りの方法を採用している。
【0047】
第一は従来のように有機系の接着剤を使う方法である。この場合、セル管先端部101およびセル管本体102をそれぞれ個別に加工して、十分に精度を出した後に紫外線接着剤で接着する。
【0048】
第二は、セル管先端部101とセル管本体102とを接着剤を使うことなく接合する方法である。この場合、セル管先端部101およびセル管本体102をそれぞれ加熱した状態で加圧して、接着剤を使うことなく部材どうしを直接接合する。
【0049】
セル管先端部101とセル管本体102との接合方法は、測定用試料が有機系の接着剤と反応するか否かで使い分ける。反応しない場合にはコストの安い接着剤を用いる方法で十分である。また、接着剤として無機系の接着剤を使うこともできる。
【0050】
また、従来では、セル管は、アルミ合金を削り出したブラケットにゴム製のOリングを介して嵌合されていた。この欠点は前述した通りである。そこで、この発明の特徴は、調整に時間がかかり、経時劣化を生じるOリングを廃し、従来3点の部品で構成した部分を、ガラスの精密加工技術を駆使して成型したセル管先端部101およびセル管本体102で構成している点にある。
【0051】
加えて、セル管100と回転用モータの軸との嵌合を、工作機械で通常使われるコレットチャック(図示を書略)を適用することで、調整精度を向上させている。すなわち、コレットチャックの嵌合基部に回転用モータの軸(図示を省略)を固定し、把持部にセル管100を挿入する。このようにコレットチャックを用いることで、従来のようなネジ止めによる固定と位置出しを兼用することなく、容易にセル管100とモータ軸が合わせられ、かつ強固に固定できる。
【0052】
さらに、ワンタッチでセル管100の着脱でき、試料の交換が容易となる。また、位置精度が出しやすく、再現性も得やすい。なお、コレットチャックはセル管100に適合するように十分吟味して使用する必要がある。また、回転用モータは、市販の工業用モータを用いることができる。
【0053】
また、このラマンスペクトル分光器は、次の点で一層の優位性が出せる。すなわち、精度よく仕上がった、ガラス一体加工品、コレットチャックおよび回転用モータをそれぞれ単品で選択した後に嵌合し、実使用時の回転数にあわせて回転させながら、二次加工できることである。また、三次元測定器を併用し、計測しながら加工することも可能である。以上のようにすることで、この発明にかかるラマンスペクトル分光器では、前述の4条件を達成することができる。
【0054】
また、熱的にも、セル管100をガラス一体加工品とすることで、芯ぶれを大きくすることなく、セル管本体102の筒部を長くできて、蛋白質溶液部を熱源から遠ざけ、蛋白質溶液が熱の影響を受けることを防止できる。
【0055】
以上のように、この発明によれば、微弱光ラマンスペクトル分光法を実施するための、最適なラマンスペクトル分光器を得ることができた。なお、上記では、光源として、紫外線レーザ光を用いる場合を想定して説明してきたが、可視光、赤外光、遠赤外光および遠紫外光を用いることもできる。この場合、セル管100の素材としては、素材のもつ光の透過率から、可視光の場合には通常の光学ガラス(BK7等)が、赤外光および遠赤外光では光学単結晶CaF2(フッ化カルシウム)が適しており、また紫外光および遠紫外光では石英ガラスや、光学単結晶CaF2が好ましい。なお、光学単結晶としては水晶やMgF2(フッ化マグネシウム)があるが、これらは複屈折性があって光損失の面からは好ましくない。
【0056】
(比較例)
以下、この発明のラマンスペクトル分光器の優位性を示すため、この発明のラマンスペクトル分光器と従来のラマンスペクトル分光器との比較例を示す。図2は、この発明のラマンスペクトル分光器と従来のラマンスペクトル分光器との比較例を示す図表である。図2における比較例では、いずれも3次元測定(ミツトヨ BH−V707)した結果を示している。
【0057】
図2において、比較した項目は、
(1)セル先端部に対するセル本体の直角度
(2)セル本体の真円度
である。
【0058】
この発明にかかるラマンスペクトル分光器を構成するセル管については、サンプル1〜3についての測定値を示している。また、従来品については、第1ブラケット、第2ブラケットにおける測定値も示した。
【0059】
図2から分かるように、従来品はセル管先端部に対する真円度が極めて悪い。これは、ゴム製のOリングが介在しているために不都合を生じていると考えられる。また、セル管本体と先端部は直角度も悪いが、これは接着作業またはセル管端部のガラス加工が不十分のためであろうと考えられる。第1ブラケット、第2ブラケットの真円度は比較的良好であるが、これはアルミの削り出しであるため、それなりに真円度がでているものと考えられる。
【0060】
一方、この発明に関しては、セル管は作りっぱなしでの測定値であるが、前述したように、コレットチャックおよび回転用モータを取り付けた後に、さらに二次加工が可能であり、一層精度が向上する。以上の結果から、この発明の優位性は十分実証されたものと考える。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上のように、この発明にかかるラマンスペクトル分光器は、試料のラマンスペクトル分光法による測定に有用であり、特に、高い精度が要求される測定に適している。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】この発明にかかるラマンスペクトル分光器のセル管の構成を示す説明図である。
【図2】この発明のラマンスペクトル分光器と従来のラマンスペクトル分光器との比較例を示す図表である。
【図3】ラマンスペクトル分光法の原理を説明するための概略図である。
【図4】従来のラマンスペクトル分光器の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0063】
100,304 セル管
101 セル管先端部
102 セル管本体
301 レーザ発光装置
302 反射ミラー
303 集光レンズ系
305 測定点
306 接眼レンズ系
307 分光器
308 CCD
402 Oリング
403 第1ブラケット
404 第2ブラケット
405,407 ネジ
406 回転用モータ
406a 軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定用試料を保持し、計測用レーザ光を透過する部材からなる平坦な底面を有する精密な円柱状のセル管先端部と、
前記セル管先端部と回転用モータとを接続し、筒部が比較的長く形成された円柱状のセル管本体とからなり、
前記セル管先端部と前記セル管本体とが一体的構造であるセル管を備えて構成されていることを特徴とするラマンスペクトル分光器。
【請求項2】
前記セル管は、光学ガラス材からなっていることを特徴とする請求項1に記載のラマンスペクトル分光器。
【請求項3】
前記セル管は、石英ガラス材からなっていることを特徴とする請求項1に記載のラマンスペクトル分光器。
【請求項4】
前記セル管は、CaF2(フッ化カルシウム)材からなっていることを特徴とする請求項1に記載のラマンスペクトル分光器。
【請求項5】
前記セル管先端部と前記セル管本体とは、接着剤を介することなく、直接部材どうしで接合されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のラマンスペクトル分光器。
【請求項6】
前記セル管先端部と前記セル管本体とは、有機系の接着剤で接着されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のラマンスペクトル分光器。
【請求項7】
前記セル管本体は、回転用モータとコレットチャックで連結されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載のラマンスペクトル分光器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−30122(P2006−30122A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212874(P2004−212874)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(596034953)株式会社アトック (3)
【Fターム(参考)】