ラマン散乱基板及びそれを採用したラマンスペクトル測定システム
【課題】本発明は、表面増強ラマン散乱基板及びそれを採用したラマンスペクトル測定システムに関する。
【解決手段】本発明の表面増強ラマン散乱基板は、複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ構造体及び前記カーボンナノチューブ構造体に被覆された金属層を含む。前記カーボンナノチューブ構造体において、隣接したカーボンナノチューブは、分子間力で接続されている。前記金属層は、ナノサイズの間隔をおいて配列された複数の金属粒子を含む。
【解決手段】本発明の表面増強ラマン散乱基板は、複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ構造体及び前記カーボンナノチューブ構造体に被覆された金属層を含む。前記カーボンナノチューブ構造体において、隣接したカーボンナノチューブは、分子間力で接続されている。前記金属層は、ナノサイズの間隔をおいて配列された複数の金属粒子を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラマン散乱基板及びそれを採用したラマンスペクトル測定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
入射光が分子に当たると、その分子固有のエネルギ状態を反映した光に変調される現象を利用して、スペクトルから化学種を同定し、その散乱光強度から目的物質の定量を行うラマン分光法が知られている。しかしながら、ラマン分光法の感度は本質的に低いため、微少量の試料分析には適していない。
【0003】
そのため、金、銀等の貴金属電極やコロイドの表面に物質が吸着すると、分子単独に比べ振動スペクトルが増強されることを利用したSERS測定が行われている(特許文献1)。
【0004】
このSERS測定は、微量物質の構造解析に有用な手法である。SERS活性の高い基板を作成するためには、数十〜数百nm程度の大きさを持った銀や金等の貴金属の微粒子を基板上に蓄積する必要がある。(非特許文献1、2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−146295号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S.Nie and S.R.Emory,Science.275,1102(1997)
【非特許文献2】K.C.Grabar,P.C.Smith,M.D.Musick,J.A.Davis,D.G.Walter,M.A.Jackson,A.P.Guthrie and M.J.Natan,J.Am.Chem,Soc.,118,1148(1996)
【非特許文献3】R.M.Bright,M.D.Musick and M.H.Natan,Langmuir,14,5695(1998)
【非特許文献4】Kaili Jiang、Qunqing Li、Shoushan Fan、“Spinning continuous carbon nanotube yarns”、Nature、2002年、第419巻、p.801
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のSERS活性の高い基板は、貴金属の微粒子のコロイドを基板に塗布して乾燥することにより形成する。このように形成されたSERS活性の高い基板において、貴金属の微粒子は凝集し易いので、貴金属の微粒子が均一的に配布密集されたラマン散乱基板を得ることが難しい。従って、安定性及び鋭敏性が高いラマン散乱基板を得ることが難しい。
【0008】
従って、前記課題を解決するために、本発明は良好な安定性及び鋭敏性を有するラマン散乱基板及びそれを採用したラマンスペクトル測定システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の表面増強ラマン散乱基板は、複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ構造体と、前記カーボンナノチューブ構造体に被覆された金属層と、を含む。前記カーボンナノチューブ構造体において、隣接したカーボンナノチューブは、分子間力で接続されている。前記金属層は、ナノサイズの間隔をおいて配列された複数の金属粒子を含む。
【0010】
前記複数の金属粒子は、各々の前記カーボンナノチューブの外表面に被覆されており、前記金属粒子の間の間隔は、1nm〜15nmである。
【0011】
本発明のラマンスペクトル測定システムは、光発射器と、表面増強ラマン散乱基板と、受信器と、を含む。前記表面増強ラマン散乱基板は、複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ構造体と、前記カーボンナノチューブ構造体に被覆された金属層と、を含む。前記カーボンナノチューブ構造体において、隣接したカーボンナノチューブは、分子間力で接続されている。前記金属層は、ナノサイズの間隔をおいて配列された複数の金属粒子を含む。
【発明の効果】
【0012】
従来の技術と比べて、本発明のラマン散乱基板及びそれを採用したラマンスペクトル測定システムは、カーボンナノチューブ複合材料体を含み、前記カーボンナノチューブ複合材料体は、小さな寸法及び大きな比表面積を有する複数のカーボンナノチューブからなるので、前記カーボンナノチューブ複合材料体の複数の金属粒子は、前記複数のカーボンナノチューブの外表面に小さな粒径で、密集的に分布されることができる。従って、ラマン散乱基板の安定性及び鋭敏性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のラマンスペクトル測定システムの実施例1の構造を示す図である。
【図2】ドローン構造カーボンナノチューブフィルムの走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】図2中のカーボンナノチューブフィルムのカーボンナノチューブセグメントの構造を示す図である。
【図4】図2に示すカーボンナノチューブフィルムを引き出す見取り図である。
【図5】非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤの走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】ねじれ状カーボンナノチューブワイヤの走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】カーボンナノチューブが配向して配置されるプレシッド構造カーボンナノチューブフィルムの走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】綿毛構造カーボンナノチューブフィルムの走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】積層された複数のドローン構造カーボンナノチューブフィルムからなるカーボンナノチューブ構造体の構造を示す図である。
【図10】図9に示すカーボンナノチューブ構造体の外表面に銀層が被覆されたカーボンナノチューブ複合材料体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】図10に示すカーボンナノチューブ複合材料体の拡大走査型電子顕微鏡写真である。
【図12】図9に示すカーボンナノチューブ構造体の外表面に過渡層及び銀層が被覆されたカーボンナノチューブ複合材料体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図13】図12に示すカーボンナノチューブ複合材料体の拡大走査型電子顕微鏡写真である。
【図14】CNTグリッド、Ag−CNTグリッド、Ag−SiO2−CNTからなる表面増強ラマン散乱基板のラマンスペクトルのダイアグラムである。
【図15】CNTグリッド、Ag−CNTグリッド、Ag−SiO2−CNTからなる表面増強ラマン散乱基板に付着されたピリジン水溶液のラマンスペクトルのダイアグラムである。
【図16】CNTグリッド、Ag−CNTグリッド、Ag−SiO2−CNTからなる表面増強ラマン散乱基板に付着されたローダミン6Gエタノール溶液のラマンスペクトルのダイアグラムである。
【図17】本発明のラマンスペクトル測定システムの実施例2の構造を示す図である。
【図18】図17に示すラマンスペクトル測定システムの表面増強ラマン散乱基板の局部拡大図である。
【図19】MWCNTアレイ、Ag−MWCNTアレイからなる表面増強ラマン散乱基板に付着されたローダミン6Gエタノール溶液のラマンスペクトルのダイアグラムである。
【図20】SWCNTアレイ、Ag−SWCNTアレイa、Ag−SWCNTアレイbからなる表面増強ラマン散乱基板に付着されたローダミン6Gエタノール溶液のラマンスペクトルのダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【0015】
(実施例1)
図1を参照すると、本実施例1は、ラマンスペクトル測定システム100を提供する。前記ラマンスペクトル測定システム100は、光発射器110と、表面増強ラマン散乱(SERS)基板120と、受信器130と、を含む。前記表面増強ラマン散乱基板120に試料(図示せず)を固定させている。前記光発射器110からの光束は、前記表面増強ラマン散乱基板120に照射されると、散乱光が形成される。前記受信器130は、前記散乱光を収集して分析し、ラマン散乱光のスペクトルのダイアグラムを形成することができる。
【0016】
前記光発射器110は、アルゴン・レーザーのような光源を含む。前記光源は、狭い周波数幅を有する。前記光発射器110からの光束の波長は、450.0nm〜514.5nmである。本実施例において、前記光発射器110からの光束は波長が514.5nmの緑色光である。この場合、他の波長の光と比べて、前記表面増強ラマン散乱基板120から多くの散乱光を得ることができる。前記光発射器110からの光束において、前記表面増強ラマン散乱基板120に照射して形成された光スポットの面積が0(0は含まず)〜2μm2である。
【0017】
前記受信器130は、例えば電荷結合素子(Charge Coupled Device,CCD)などの多重チャンネル光子検出モジュール、又は、例えば光電子倍増管などの単一光子検出モジュールを含むことができる。前記受信器130は、前記試料に照射された光のラマンスペクトルのダイアグラムから、前記試料の分子又は官能基の振動形式などの情報を獲得することができる。
【0018】
前記表面増強ラマン散乱基板120に固定された試料は、固体又は液体である。前記試料は固体である場合、該試料は粉末又は試料が付着された粒子である。前記試料は液体である場合、該試料は溶液又は熔融態試料である。前記表面増強ラマン散乱基板120には、前記光発射器110からの光束が照射される場合、前記試料に照射された光束は、前記試料の分子と衝撃するので、前記光束の光子の運動量又は周波数が変わり、前記光束は、前記試料の分子構造の情報を持つ散乱光に形成される。従って、前記散乱光から、前記試料の分子構造の情報を読むことができる。
【0019】
前記表面増強ラマン散乱基板120は、支持体121及びカーボンナノチューブ複合材料体122を含む。前記カーボンナノチューブ複合材料体122は、前記支持体121に固定されて、前記支持体121によって支持される。
【0020】
前記支持体121は、透明なガラス基板、透明なプラスチック基板、格子板又はフレームである。従って、前記光発射器110からの、前記表面増強ラマン散乱基板120の試料に照射されない光束は、前記支持体121で反射されることを防止できる。前記光束が前記支持体121で反射される場合、前記試料により形成された散乱光を干渉する。前記支持体121が透明な基板である場合、前記カーボンナノチューブ複合材料体122は、前記支持体121の一つ表面に直接的に配置される。前記支持体121が格子板又はフレームである場合、前記カーボンナノチューブ複合材料体122の少なくとも一部は、前記支持体121に懸架するように配置される。前記カーボンナノチューブ複合材料体122の、前記支持体121に懸架される領域の面積は、前記光発射器110からの光束が前記表面増強ラマン散乱基板120に照射して形成される光スポットの面積より大きい。
【0021】
前記カーボンナノチューブ複合材料体122は、複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ構造体及び金属層を備える。前記カーボンナノチューブ構造体は、対向する二つの表面を有する。前記金属層は、前記カーボンナノチューブ構造体の少なくとも一つの表面に配置されている。
【0022】
前記カーボンナノチューブ構造体は、自立構造を有する薄膜である。ここで、自立構造とは、支持体材を利用せず、前記カーボンナノチューブ構造体を独立して利用することができるという形態のことである。すなわち、前記カーボンナノチューブ構造体を対向する両側から支持して、前記カーボンナノチューブ構造体の構造を変化させずに、前記カーボンナノチューブ構造体を懸架させることができることを意味する。前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、二層カーボンナノチューブ(DWCNT)又は多層カーボンナノチューブ(MWCNT)である。前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブである場合、直径は0.5nm〜50nmに設定され、前記カーボンナノチューブが二層カーボンナノチューブである場合、直径は1nm〜50nmに設定され、前記カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブである場合、直径は1.5nm〜50nmに設定される。
【0023】
前記カーボンナノチューブ構造体には、複数のカーボンナノチューブが均一に分散されている。該複数のカーボンナノチューブは分子間力で接続されている。前記カーボンナノチューブ構造体の隣接するカーボンナノチューブの間に間隙を有する。前記カーボンナノチューブ構造体には、前記複数のカーボンナノチューブが配向し又は配向せずに配置されている。前記複数のカーボンナノチューブの配列方式により、前記カーボンナノチューブ構造体は非配向型のカーボンナノチューブ構造体及び配向型のカーボンナノチューブ構造体の二種に分類される。本実施例における非配向型のカーボンナノチューブ構造体では、カーボンナノチューブが異なる方向に沿って配置され、又は絡み合っている。配向型のカーボンナノチューブ構造体では、前記複数のカーボンナノチューブが同じ方向に沿って配列している。又は、配向型のカーボンナノチューブ構造体において、配向型のカーボンナノチューブ構造体が二つ以上の領域に分割される場合、各々の領域における複数のカーボンナノチューブが同じ方向に沿って配列されている。この場合、異なる領域におけるカーボンナノチューブの配列方向は異なる。
【0024】
本発明の前記カーボンナノチューブ構造体としては、以下の(一)〜(四)のものが挙げられる。
【0025】
(一)ドローン構造カーボンナノチューブフィルム
前記カーボンナノチューブ構造体は、超配列カーボンナノチューブアレイ(非特許文献4を参照)から引き出して得られたドローン構造カーボンナノチューブフィルム(drawn carbon nanotube film)である。単一の前記カーボンナノチューブフィルムにおいて、複数のカーボンナノチューブが同じ方向に沿って、端と端が接続されている(図4を参照)。即ち、単一の前記カーボンナノチューブフィルムは、分子間力で長さ方向端部同士が接続された複数のカーボンナノチューブを含む。また、前記複数のカーボンナノチューブは、前記カーボンナノチューブフィルムの表面に平行して配列されている。図2及び図3を参照すると、単一の前記カーボンナノチューブフィルム143aは、複数のカーボンナノチューブセグメント143bを含む。前記複数のカーボンナノチューブセグメント143bは、長さ方向に沿って分子間力で端と端が接続されている。それぞれのカーボンナノチューブセグメント143bは、相互に平行に、分子間力で結合された複数のカーボンナノチューブ145を含む。単一の前記カーボンナノチューブセグメント143bにおいて、前記複数のカーボンナノチューブ145の長さが同じである。前記カーボンナノチューブフィルム143aを有機溶剤に浸漬させることにより、前記カーボンナノチューブフィルム143aの強靭性及び機械強度を高めることができる。有機溶剤に浸漬された前記カーボンナノチューブフィルムの単位面積当たりの熱容量は低くなるので、その加熱効果を高めることができる。前記カーボンナノチューブフィルム143aの幅は100μm〜10cmに設けられ、厚さは0.5nm〜100μmに設けられる。
【0026】
前記カーボンナノチューブ構造体は、積層された複数の前記カーボンナノチューブフィルムを含むことができる。この場合、隣接する前記カーボンナノチューブフィルムは、分子間力で結合されている。隣接する前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブは、それぞれ0°〜90°の角度で交差している。隣接する前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが0°以上の角度で交差する場合、前記カーボンナノチューブ構造体に複数の微孔が形成される。又は、前記複数のカーボンナノチューブフィルムは、隙間なく並列されることもできる。
【0027】
前記カーボンナノチューブフィルムの製造方法は、カーボンナノチューブアレイを提供する第一ステップと、前記カーボンナノチューブアレイから、少なくとも、一枚のカーボンナノチューブフィルムを引き伸ばす第二ステップと、を含む。
【0028】
(二)カーボンナノチューブワイヤ
図5を参照すると、前記カーボンナノチューブワイヤは、分子間力で接続された複数のカーボンナノチューブからなる。この場合、一本のカーボンナノチューブワイヤ(非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤ)は、端と端とが接続された複数のカーボンナノチューブセグメント(図示せず)を含む。前記カーボンナノチューブセグメントは、同じ長さ及び幅を有する。さらに、各々の前記カーボンナノチューブセグメントに、同じ長さの複数のカーボンナノチューブが平行に配列されている。前記複数のカーボンナノチューブはカーボンナノチューブワイヤの中心軸に平行に配列されている。この場合、一本の前記カーボンナノチューブワイヤの直径は、1μm〜1cmである。図6を参照すると、前記カーボンナノチューブワイヤをねじり、ねじれ状カーボンナノチューブワイヤを形成することができる。ここで、前記複数のカーボンナノチューブは前記カーボンナノチューブワイヤの中心軸を軸に、螺旋状に配列されている。この場合、一本の前記カーボンナノチューブワイヤの直径は、1μm〜1cmである。前記カーボンナノチューブ構造体は、前記非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤ、ねじれ状カーボンナノチューブワイヤ、又はそれらの組み合わせのいずれか一種からなる。前記カーボンナノチューブ構造体が、複数のカーボンナノチューブワイヤからなる場合、前記複数のカーボンナノチューブワイヤは、間隔をおいて平行するように配置されることができ、又は、互いに交叉するように配置されることができ、又は、隙間なく並列されることもできる。
【0029】
前記カーボンナノチューブワイヤを形成する方法は、カーボンナノチューブアレイから引き出してなるカーボンナノチューブフィルムを利用する。前記カーボンナノチューブワイヤを形成する方法は、次の三種がある。第一種では、前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブの長手方向に沿って、前記カーボンナノチューブフィルムを所定の幅で切断し、カーボンナノチューブワイヤを形成する。第二種では、前記カーボンナノチューブフィルムを有機溶剤に浸漬させて、前記カーボンナノチューブフィルムを収縮させてカーボンナノチューブワイヤを形成することができる。第三種では、前記カーボンナノチューブフィルムを機械加工(例えば、紡糸工程)してねじれたカーボンナノチューブワイヤを形成する。詳しく説明すれば、まず、前記カーボンナノチューブフィルムを紡糸装置に固定させる。次に、前記紡糸装置を動作させて前記カーボンナノチューブフィルムを回転させ、ねじれたカーボンナノチューブワイヤを形成する。
【0030】
(三)プレシッド構造カーボンナノチューブフィルム
前記カーボンナノチューブ構造体は、少なくとも一枚のカーボンナノチューブフィルムを含む。このカーボンナノチューブフィルムは、プレシッド構造カーボンナノチューブフィルム(pressed carbon nanotube film)である。単一の前記カーボンナノチューブフィルムにおける複数のカーボンナノチューブは、等方的に配列されているか、所定の方向に沿って配列されているか、または、異なる複数の方向に沿って配列されている。前記カーボンナノチューブフィルムは、押し器具を利用することにより、所定の圧力をかけて前記カーボンナノチューブアレイを押し、該カーボンナノチューブアレイを圧力で倒すことにより形成された、シート状の自立構造を有するものである。前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブの配列方向は、前記押し器具の形状及び前記カーボンナノチューブアレイを押す方向により決められている。
【0031】
図7を参照すると、単一の前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが配向して配列される場合には、該カーボンナノチューブフィルムは、同じ方向に沿って配列された複数のカーボンナノチューブを含む。ローラー形状を有する押し器具を利用して、同じ方向に沿って前記カーボンナノチューブアレイを同時に押す場合、基本的に同じ方向に配列されるカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブフィルムが形成される。また、ローラー形状を有する押し器具を利用して、異なる方向に沿って、前記カーボンナノチューブアレイを同時に押す場合、前記異なる方向に沿って、選択的な方向に配列されるカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブフィルムが形成される。
【0032】
前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブの傾斜の程度は、前記カーボンナノチューブアレイにかけた圧力に関係する。前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブと該カーボンナノチューブフィルムの表面とは、角度αを成し、該角度αは0°以上15°以下である。好ましくは、前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが該カーボンナノチューブフィルムの表面に平行する(即ち、角度αは0°である)。前記圧力が大きくなるほど、前記傾斜の程度が大きくなる。前記カーボンナノチューブフィルムの厚さは、前記カーボンナノチューブアレイの高さ及び該カーボンナノチューブアレイにかけた圧力に関係する。即ち、前記カーボンナノチューブアレイの高さが大きくなるほど、また、該カーボンナノチューブアレイにかけた圧力が小さくなるほど、前記カーボンナノチューブフィルムの厚さが大きくなる。これとは逆に、カーボンナノチューブアレイの高さが小さくなるほど、また、該カーボンナノチューブアレイにかけた圧力が大きくなるほど、前記カーボンナノチューブフィルムの厚さが小さくなる。
【0033】
(四)綿毛構造カーボンナノチューブフィルム
前記カーボンナノチューブ構造体は、少なくとも一枚のカーボンナノチューブフィルムを含む。このカーボンナノチューブフィルムは綿毛構造カーボンナノチューブフィルム(flocculated carbon nanotube film)である。図8を参照すると、単一の前記カーボンナノチューブフィルムにおいて、複数のカーボンナノチューブは、絡み合い、等方的に配列されている。前記カーボンナノチューブ構造体においては、前記複数のカーボンナノチューブが均一に分布されている。複数のカーボンナノチューブは配向せずに配置されている。単一の前記カーボンナノチューブの長さは、100nm以上であり、100nm〜10cmであることが好ましい。前記カーボンナノチューブ構造体は、自立構造の薄膜の形状に形成されている。ここで、自立構造は、支持体材を利用せず、前記カーボンナノチューブ構造体を独立して利用することができるという形態である。前記複数のカーボンナノチューブは、分子間力で接近して、相互に絡み合って、カーボンナノチューブネット状に形成されている。前記複数のカーボンナノチューブは配向せずに配置されて、多くの微小な穴が形成されている。ここで、単一の前記微小な穴の直径が10μm以下になる。前記カーボンナノチューブ構造体におけるカーボンナノチューブは、相互に絡み合って配置されるので、該カーボンナノチューブ構造体は柔軟性に優れ、任意の形状に湾曲して形成させることができる。用途に応じて、前記カーボンナノチューブ構造体の長さ及び幅を調整することができる。前記カーボンナノチューブ構造体の厚さは、0.5nm〜1mmである。
【0034】
前記カーボンナノチューブフィルムの製造方法は、下記のステップを含む。
【0035】
第一ステップでは、カーボンナノチューブ原料(綿毛構造カーボンナノチューブフィルムの素になるカーボンナノチューブ)を提供する。
【0036】
ナイフのような工具でカーボンナノチューブを基材から剥離し、カーボンナノチューブ原料が形成される。前記カーボンナノチューブは、ある程度互いに絡み合っている。前記カーボンナノチューブの原料においては、該カーボンナノチューブの長さは、100マイクロメートル以上であり、10マイクロメートル以上であることが好ましい。
【0037】
第二ステップでは、前記カーボンナノチューブ原料を溶剤に浸漬し、該カーボンナノチューブ原料を処理して、綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体を形成する。
【0038】
前記カーボンナノチューブ原料を前記溶剤に浸漬した後、超音波式分散、又は高強度攪拌又は振動などの方法により、前記カーボンナノチューブを綿毛構造に形成させる。前記溶剤は水または揮発性有機溶剤である。超音波式分散方法の場合、カーボンナノチューブを含む溶剤に対して10〜30分間処理する。カーボンナノチューブは大きな比表面積を有し、カーボンナノチューブの間に大きな分子間力が生じるので、前記カーボンナノチューブはそれぞれもつれて、綿毛構造に形成されている。
【0039】
第三ステップでは、前記綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体を含む溶液をろ過して、最終的な綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体を取り出す。
【0040】
まず、濾紙が置かれたファネルを提供する。前記綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体を含む溶剤を濾紙が置かれたファネルにつぎ、しばらく放置して、乾燥させると、綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体が分離される。図8を参照すると、前記綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体におけるカーボンナノチューブが互いに絡み合って、不規則的な綿毛構造となる。
【0041】
分離された前記綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体を容器に置き、前記綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体を所定の形状に展開し、展開された前記綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体に所定の圧力を加え、前記綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体に残留した溶剤を加熱させるか、或いは、該溶剤を自然に蒸発させると、綿毛構造のカーボンナノチューブフィルムが形成される。
【0042】
前記綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体が展開される面積によって、綿毛構造のカーボンナノチューブフィルムの厚さと面密度を制御できる。即ち、一定の体積を有する前記綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体は、展開される面積が大きくなるほど、綿毛構造のカーボンナノチューブフィルムの厚さと面密度が小さくなる。
【0043】
また、微多孔膜とエアーポンプファネル(Air−pumping Funnel)を利用して綿毛構造のカーボンナノチューブフィルムが形成される。具体的には、微多孔膜とエアーポンプファネルを提供し、前記綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体を含む溶剤を、前記微多孔膜を通して前記エアーポンプファネルにつぎ、該エアーポンプファネルに抽気し、乾燥させると、綿毛構造のカーボンナノチューブフィルムが形成される。前記微多孔膜は、平滑な表面を有する。該微多孔膜において、単一の微小孔の直径は、0.22マイクロメートルにされている。前記微多孔膜は平滑な表面を有するので、前記カーボンナノチューブフィルムは容易に前記微多孔膜から剥落することができる。さらに、前記エアーポンプを利用することにより、前記綿毛構造のカーボンナノチューブフィルムに空気圧をかけるので、均一な綿毛構造のカーボンナノチューブフィルムを形成させることができる。
【0044】
前記カーボンナノチューブ構造体は、少なくとも一枚の前記カーボンナノチューブフィルム、少なくとも一本の前記カーボンナノチューブワイヤ、又は前記カーボンナノチューブフィルム及びカーボンナノチューブワイヤの組み合わせを含む。
【0045】
前記金属層は、電気めっき又は化学めっきなどの化学方法、又は物理気相成長、マグネトロンスパッタリング方法又は電子ビーム蒸着方法などの物理方法によって前記カーボンナノチューブ構造体に形成される。本実施例において、金属材料を電子ビーム蒸着方法で蒸着させて金属ガスに形成し、前記金属ガスを前記カーボンナノチューブ構造体に堆積させて金属層を形成する。前記カーボンナノチューブ構造体の一つの表面に前記金属ガスを堆積させる場合、前記カーボンナノチューブ構造体における各々のカーボンナノチューブの少なくとも一部の表面に金属層を形成することができる。または、前記カーボンナノチューブ構造体の対向する二つの表面に、それぞれ前記金属ガスを堆積させる場合、前記カーボンナノチューブ構造体における各々のカーボンナノチューブの全ての表面に前記金属層を形成することができる。
【0046】
前記金属層の材料は、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、金(Au)、銀(Ag)及び銅(Cu)のいずれか一種の貴金属又は遷移金属である。一つの水晶振動子によって、前記カーボンナノチューブ構造体に堆積させて金属層の厚さを制御させる。前記カーボンナノチューブ構造体の表面に配置されている前記金属層の厚さは、1nm〜50nmであるが、18nm〜22nmであることが好ましい。本実施例において、前記金属層の厚さは、3nm〜7nmであることがより好ましい。微視的に、前記金属層は、複数の金属粒子からなる。前記金属粒子は、前記カーボンナノチューブ構造体のカーボンナノチューブの外表面に付着されている。且つ、少なくとも一部の金属粒子は、前記カーボンナノチューブ構造体が位置する表面から露出されている。前記金属粒子の直径は、1nm〜50nmである。前記金属層には、前記複数の金属粒子の間に間隙がある。前記複数の金属粒子において、隣接する2つの前記金属粒子の間の距離は、1nm〜15nmである。本実施例において、隣接する2つの金属粒子の間の距離は、2nm〜5nmである。
【0047】
前記カーボンナノチューブ構造体のカーボンナノチューブの表面に少量の金属材料を付着させることにより、前記カーボンナノチューブ構造体に間隔をおいて配置する金属粒子を形成させることできる。一方で、前記カーボンナノチューブ構造体は複数の間隙又は微孔を有するので、前記カーボンナノチューブ構造体の比表面積は更に大きくなる。従って、前記カーボンナノチューブ構造体に形成された複数の金属粒子は間隔をおいて配列することができる。前記金属粒子の間の間隔が小さくなるほど、前記表面増強ラマン散乱基板120の電磁場が増強し、検出感度が更に向上してくる。
【0048】
更に、前記カーボンナノチューブ複合材料体122は、過渡層を含むことができる。前記過渡層は、前記カーボンナノチューブ構造体及び前記金属層の間に配置されている。前記金属ガスを前記カーボンナノチューブ構造体に堆積させる前に、前記過渡層を前記カーボンナノチューブ構造体に被覆させる。前記過渡層は、前記カーボンナノチューブ構造体の一部又は各々のカーボンナノチューブの全部の外表面に被覆されていることができる。前記過渡層の厚さは、10nm〜100nmであるが、15nm〜30nmであることが好ましい。
【0049】
前記金属ガスを前記カーボンナノチューブ構造体の前記過渡層に堆積する場合、前記金属ガスは、前記過渡層に堆積すると液体の金属付着体になる。ここで、前記過渡層を設置することにより、前記カーボンナノチューブ構造体のカーボンナノチューブの外表面を平坦化させることができるので、前記液体の金属付着体に作用する各々方向の力が等しくなる。従って、前記カーボンナノチューブ構造体の前記過渡層に堆積した前記金属付着体の形状の規則性が改善されて、前記カーボンナノチューブ構造体の前記過渡層に堆積された前記金属ガスは、複数の球状の金属粒子に形成することができる。この場合、前記表面増強ラマン散乱基板120の振動スペクトルを増強することができる。前記過渡層は、二酸化ケイ及び酸化マグネシウムのいずれか一種の無機の酸化物からなる。本実施例において、前記過渡層は、二酸化ケイ素からなり、その厚さは20nmである。前記過渡層により、更に前記カーボンナノチューブ構造体及び前記金属層を絶縁させて、前記カーボンナノチューブ構造体及び前記金属層の間に、電荷移動が生じることを防止できる。
【0050】
図9は、複数の前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルムを積層させて形成したカーボンナノチューブ構造体を示す図である。ここで、図9に示すカーボンナノチューブ構造体をCNTグリッドとして定義する。図10及び図11は、図9に示すカーボンナノチューブ構造体の外表面に銀層を被覆させて形成したカーボンナノチューブ複合材料体122の構造を示す図である。図10及び図11に示すカーボンナノチューブ複合材料体122の銀層の厚さは5nmである。この場合、図10及び図11に示すカーボンナノチューブ複合材料体122をAg−CNTグリッドとして定義する。ここで、Ag−CNTグリッドは、単に銀元素及び炭素元素からなる。図12及び図13は、図9に示すカーボンナノチューブ構造体の外表面に、二酸化ケイ素からなる過渡層及び銀層を、順次的に被覆させて形成したカーボンナノチューブ複合材料体122の構造を示す図である。この場合、図12及び図13に示すカーボンナノチューブ複合材料体122をAg−SiO2−CNTグリッドとして定義する。図12及び図13に示すカーボンナノチューブ複合材料体122の、二酸化ケイ素からなる過渡層の厚さは20nmであり、銀層の厚さは5nmである。
【0051】
前記表面増強ラマン散乱基板120に、それぞれ前記CNTグリッド、前記Ag−CNTグリッド、前記Ag−SiO2−CNTグリッドを利用する場合であって、試料が固定されない前記基板120のラマンスペクトルの特徴を分析し比較して得られた結果は、図14に示されている。ここで、前記CNTグリッド、前記Ag−CNTグリッド、前記Ag−SiO2−CNTグリッドにおけるカーボンナノチューブ構造体は、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)からなる。図14を参照すると、それぞれCNTグリッド、Ag−CNTグリッド、Ag−SiO2−CNTグリッドで測定されたMWCNTのラマンスペクトルのダイアグラムが示されている。Dバンドが1350cm−1であり、Gプライムバンドが1580cm−1であり、2Dバンドが2700cm−1である。
【0052】
図14に示された前記Ag−CNTグリッドのラマンスペクトルにより、銀層が被覆されたカーボンナノチューブ構造体のラマン強度が明らかに強くなる。図14に示された前記Ag−SiO2−CNTグリッドのラマンスペクトルを参照すると、前記銀層及びカーボンナノチューブ構造体の間にSiO2を設置することにより、前記表面増強ラマン散乱基板120の強度が強くなる。前記Ag−CNTグリッドの強度のGプライムバンド及びAg−SiO2−CNTグリッドの強度のGプライムバンドは、それぞれCNTグリッドの強度のGプライムバンド比べて、6.5倍及び104.8倍も高まる。
【0053】
前記CNTグリッド、Ag−CNTグリッド又はAg−SiO2−CNTグリッドのラマン増強能力を測定するために、それぞれ前記CNTグリッド、Ag−CNTグリッド及びAg−SiO2−CNTグリッドに2.5×10−3mol/Lのピリジン水溶液を付着させた。本実施例の測定システム100によって、それぞれ前記CNTグリッド、Ag−CNTグリッド及びAg−SiO2−CNTグリッドに付着されたピリジン水溶液を測定して得た結果は、図15に示されている。図15を参照すると、前記Ag−CNTグリッドでの、ピリジンのラマン散乱光の強度は、前記CNTグリッドでの、ピリジンのラマン散乱光の強度より強い。前記Ag−SiO2−CNTグリッドでの、ピリジンのラマン散乱光の強度は、前記CNTグリッドでの、ピリジンのラマン散乱光の強度より明らかに強い。
【0054】
それぞれCNTグリッド、Ag−CNTグリッド又はAg−SiO2−CNTグリッドのラマン散乱光強度の増強能力を測定するために、それぞれ前記CNTグリッド、Ag−CNTグリッド又はAg−SiO2−CNTグリッドに、1×10−6mol/Lのローダミン6G(R6G)エタノール溶液を滴らせる。それぞれ前記CNTグリッド、Ag−CNTグリッド及びAg−SiO2−CNTグリッドに付着されたR6Gを測定して得た結果は、図15に示されている。図16を参照すると、前記CNTグリッドでのR6Gのラマンスペクトルのダイアグラムでは可視の振動形式が形成されない。前記Ag−CNTグリッド及びAg−SiO2−CNTグリッドでのR6Gのラマンスペクトルのダイアグラムでは可視の振動形式が形成されている。
【0055】
前記R6Gの分子は、蛍光分子である。前記R6Gの正常なラマン散乱では、前記R6Gのラマン散乱断面積が、前記R6Gの蛍光断面積より小さいので、通常は前記R6Gからの蛍光が、そのラマン信号についての観察を妨害する。前記Ag−CNTグリッド及びAg−SiO2−CNTグリッドで、銀粒子の間に形成された小さな間隙は、前記Ag−CNTグリッド及びAg−SiO2−CNTグリッドの電磁増強の改善をもたらす。この場合、前記Ag−CNTグリッド及びAg−SiO2−CNTグリッドでは、銀粒子の間に形成されたより小さな間隙によって、前記R6Gのラマン散乱断面積及び前記R6Gの蛍光断面積の全てを増大させる。前記Ag−CNTグリッド及びAg−SiO2−CNTグリッドで、銀粒子の間の間隙が十分に小さい場合、前記R6Gのラマン散乱断面積は、明らかに増大することができ、更に前記R6Gの蛍光断面積より大きくなることができる。従って、前記Ag−CNTグリッド及びAg−SiO2−CNTグリッドでは、明らかなラマンピークを有する前記R6Gのラマンスペクトルのダイアグラムを形成することができる。
【0056】
実験的に、前記Ag−CNTグリッドでは、前記R6Gの蛍光消光現象が観測された。これは、前記Ag−CNTグリッドの銀層とCNT構造体の間に電荷移動が生じることにより、前記R6Gの蛍光消光現象が観測される。しかし、前記Ag−SiO2−CNTグリッドで、前記R6Gの蛍光消光現象が観測されない。これは、前記Ag−SiO2−CNTグリッドの過度層は、銀層とCNT構造体の間の電荷移動を妨害するからである。従って、電荷移動は、前記R6Gの蛍光消光に有利である。図16を参照すると、前記Ag−CNTグリッドでは、前記R6Gの蛍光消光現象により、前記R6Gのラマンスペクトルのダイアグラムは、低く、平穏である。しかし、前記Ag−SiO2−CNTグリッドでは、前記R6Gのラマンスペクトルのダイアグラムは、前記Ag−CNTグリッドでの前記R6Gのラマンスペクトルのダイアグラムより明らかに高い。
【0057】
(実施例2)
図17を参照すると、本実施例1は、一種の測定システム200を提供する。前記測定システム200は、光発射器210と、表面増強ラマン散乱(SERS)基板220と、受信器230と、を含む。前記表面増強ラマン散乱基板220には試料(図示せず)が固定されている。前記光発射器210からの光束は、前記表面増強ラマン散乱基板220に照射されると、ラマン散乱光が形成される。前記受信器230は、前記ラマン散乱光を収集して、分析し、ラマン散乱光のスペクトルのダイアグラムを形成することができる。
【0058】
本実施例の測定システム200の構造と実施例1の測定システム100の構造とを比べると、次の異なる点がある。前記カーボンナノチューブ複合材料体222は、透明な基板に垂直的に配列されたカーボンナノチューブアレイ及び金属層を備える。該カーボンナノチューブアレイは、相互に平行、且つ前記透明な基板に垂直な複数のカーボンナノチューブを含む。前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブである。図18を参照すると、前記金属層は、前記カーボンナノチューブアレイの前記透明な基板と接触する端部と反対する端部に形成されている。該金属層は、前記カーボンナノチューブアレイの各々のカーボンナノチューブの前記透明な基板と接触する端部と反対する端部に形成された金属粒子222aからなる。即ち、前記カーボンナノチューブアレイの各々のカーボンナノチューブの前記透明な基板と接触する端部と反対する端部に、一つの金属粒子222aが形成されている。本実施例において、前記金属粒子の垂直は、10nm〜50nmである。
【0059】
前記透明な基板に垂直的に配列された複数の多層カーボンナノチューブからなる前記カーボンナノチューブ構造体をMWCNTアレイとして定義し、前記複数の多層カーボンナノチューブの前記透明な基板と接触する端部と反対する端部に、銀層を被覆させて形成したカーボンナノチューブ複合材料体222をAg−MWCNTアレイとして定義することができる。ここで、前記銀層の厚さは、13nm〜17nmである。それぞれMWCNTアレイ及びAg−MWCNTアレイのラマン散乱光の増強能力を測定するために、それぞれ前記MWCNTアレイ及びAg−MWCNTアレイに1×10−6mol/Lのローダミン6G(R6G)エタノール溶液を固定させて、測定システム200によって、前記R6Gのラマンスペクトルのダイアグラムを形成する。図19を参照すると、前記MWCNTアレイの上のR6Gのラマンスペクトルのダイアグラムには可視の振動形式が形成されていない。前記Ag−MWCNTアレイでは、前記R6Gのラマンスペクトルのダイアグラムに明らかなラマンピークが形成されている。
【0060】
前記透明な基板に垂直的に配列された複数の単層カーボンナノチューブからなる前記カーボンナノチューブ構造体をSWCNTアレイとして定義し、前記複数の単層カーボンナノチューブの前記透明な基板と接触する端部と反対する端部に、厚さが13nm〜17nmである銀層を被覆させて形成したカーボンナノチューブ複合材料体222をAg−SWCNTアレイaとして定義し、前記複数の単層カーボンナノチューブの前記透明な基板と接触する端部と反対する端部に、厚さが28nm〜32nmである銀層を被覆させて形成したカーボンナノチューブ複合材料体222をAg−SWCNTアレイbとして定義することができる。それぞれ前記SWCNTアレイ、Ag−SWCNTアレイa及びAg−SWCNTアレイbのラマン散乱光の増強能力を測定するために、それぞれ前記SWCNTアレイ、Ag−SWCNTアレイa及びAg−SWCNTアレイbの表面に1×10−6mol/Lのローダミン6G(R6G)エタノール溶液を固定させて、測定システム200によって、前記R6Gのラマンスペクトルのダイアグラムを形成する。図20を参照すると、前記SWCNTアレイでのR6Gのラマンスペクトルのダイアグラムに、非常に低い強度の振動形式が形成されている。前記Ag−SWCNTアレイa及びAg−SWCNTアレイbでのR6Gのラマンスペクトルのダイアグラムに、明らかなラマンピークが形成されている。
【符号の説明】
【0061】
100、200 ラマンスペクトル測定システム
110、210 光発射器
120、220 表面増強ラマン散乱基板
121、221 支持体
122、222 カーボンナノチューブ複合材料体
130、230 受信器
222a 金属粒子
143a カーボンナノチューブフィルム
143b カーボンナノチューブセグメント
145 カーボンナノチューブ
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラマン散乱基板及びそれを採用したラマンスペクトル測定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
入射光が分子に当たると、その分子固有のエネルギ状態を反映した光に変調される現象を利用して、スペクトルから化学種を同定し、その散乱光強度から目的物質の定量を行うラマン分光法が知られている。しかしながら、ラマン分光法の感度は本質的に低いため、微少量の試料分析には適していない。
【0003】
そのため、金、銀等の貴金属電極やコロイドの表面に物質が吸着すると、分子単独に比べ振動スペクトルが増強されることを利用したSERS測定が行われている(特許文献1)。
【0004】
このSERS測定は、微量物質の構造解析に有用な手法である。SERS活性の高い基板を作成するためには、数十〜数百nm程度の大きさを持った銀や金等の貴金属の微粒子を基板上に蓄積する必要がある。(非特許文献1、2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−146295号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S.Nie and S.R.Emory,Science.275,1102(1997)
【非特許文献2】K.C.Grabar,P.C.Smith,M.D.Musick,J.A.Davis,D.G.Walter,M.A.Jackson,A.P.Guthrie and M.J.Natan,J.Am.Chem,Soc.,118,1148(1996)
【非特許文献3】R.M.Bright,M.D.Musick and M.H.Natan,Langmuir,14,5695(1998)
【非特許文献4】Kaili Jiang、Qunqing Li、Shoushan Fan、“Spinning continuous carbon nanotube yarns”、Nature、2002年、第419巻、p.801
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のSERS活性の高い基板は、貴金属の微粒子のコロイドを基板に塗布して乾燥することにより形成する。このように形成されたSERS活性の高い基板において、貴金属の微粒子は凝集し易いので、貴金属の微粒子が均一的に配布密集されたラマン散乱基板を得ることが難しい。従って、安定性及び鋭敏性が高いラマン散乱基板を得ることが難しい。
【0008】
従って、前記課題を解決するために、本発明は良好な安定性及び鋭敏性を有するラマン散乱基板及びそれを採用したラマンスペクトル測定システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の表面増強ラマン散乱基板は、複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ構造体と、前記カーボンナノチューブ構造体に被覆された金属層と、を含む。前記カーボンナノチューブ構造体において、隣接したカーボンナノチューブは、分子間力で接続されている。前記金属層は、ナノサイズの間隔をおいて配列された複数の金属粒子を含む。
【0010】
前記複数の金属粒子は、各々の前記カーボンナノチューブの外表面に被覆されており、前記金属粒子の間の間隔は、1nm〜15nmである。
【0011】
本発明のラマンスペクトル測定システムは、光発射器と、表面増強ラマン散乱基板と、受信器と、を含む。前記表面増強ラマン散乱基板は、複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ構造体と、前記カーボンナノチューブ構造体に被覆された金属層と、を含む。前記カーボンナノチューブ構造体において、隣接したカーボンナノチューブは、分子間力で接続されている。前記金属層は、ナノサイズの間隔をおいて配列された複数の金属粒子を含む。
【発明の効果】
【0012】
従来の技術と比べて、本発明のラマン散乱基板及びそれを採用したラマンスペクトル測定システムは、カーボンナノチューブ複合材料体を含み、前記カーボンナノチューブ複合材料体は、小さな寸法及び大きな比表面積を有する複数のカーボンナノチューブからなるので、前記カーボンナノチューブ複合材料体の複数の金属粒子は、前記複数のカーボンナノチューブの外表面に小さな粒径で、密集的に分布されることができる。従って、ラマン散乱基板の安定性及び鋭敏性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のラマンスペクトル測定システムの実施例1の構造を示す図である。
【図2】ドローン構造カーボンナノチューブフィルムの走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】図2中のカーボンナノチューブフィルムのカーボンナノチューブセグメントの構造を示す図である。
【図4】図2に示すカーボンナノチューブフィルムを引き出す見取り図である。
【図5】非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤの走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】ねじれ状カーボンナノチューブワイヤの走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】カーボンナノチューブが配向して配置されるプレシッド構造カーボンナノチューブフィルムの走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】綿毛構造カーボンナノチューブフィルムの走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】積層された複数のドローン構造カーボンナノチューブフィルムからなるカーボンナノチューブ構造体の構造を示す図である。
【図10】図9に示すカーボンナノチューブ構造体の外表面に銀層が被覆されたカーボンナノチューブ複合材料体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】図10に示すカーボンナノチューブ複合材料体の拡大走査型電子顕微鏡写真である。
【図12】図9に示すカーボンナノチューブ構造体の外表面に過渡層及び銀層が被覆されたカーボンナノチューブ複合材料体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図13】図12に示すカーボンナノチューブ複合材料体の拡大走査型電子顕微鏡写真である。
【図14】CNTグリッド、Ag−CNTグリッド、Ag−SiO2−CNTからなる表面増強ラマン散乱基板のラマンスペクトルのダイアグラムである。
【図15】CNTグリッド、Ag−CNTグリッド、Ag−SiO2−CNTからなる表面増強ラマン散乱基板に付着されたピリジン水溶液のラマンスペクトルのダイアグラムである。
【図16】CNTグリッド、Ag−CNTグリッド、Ag−SiO2−CNTからなる表面増強ラマン散乱基板に付着されたローダミン6Gエタノール溶液のラマンスペクトルのダイアグラムである。
【図17】本発明のラマンスペクトル測定システムの実施例2の構造を示す図である。
【図18】図17に示すラマンスペクトル測定システムの表面増強ラマン散乱基板の局部拡大図である。
【図19】MWCNTアレイ、Ag−MWCNTアレイからなる表面増強ラマン散乱基板に付着されたローダミン6Gエタノール溶液のラマンスペクトルのダイアグラムである。
【図20】SWCNTアレイ、Ag−SWCNTアレイa、Ag−SWCNTアレイbからなる表面増強ラマン散乱基板に付着されたローダミン6Gエタノール溶液のラマンスペクトルのダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【0015】
(実施例1)
図1を参照すると、本実施例1は、ラマンスペクトル測定システム100を提供する。前記ラマンスペクトル測定システム100は、光発射器110と、表面増強ラマン散乱(SERS)基板120と、受信器130と、を含む。前記表面増強ラマン散乱基板120に試料(図示せず)を固定させている。前記光発射器110からの光束は、前記表面増強ラマン散乱基板120に照射されると、散乱光が形成される。前記受信器130は、前記散乱光を収集して分析し、ラマン散乱光のスペクトルのダイアグラムを形成することができる。
【0016】
前記光発射器110は、アルゴン・レーザーのような光源を含む。前記光源は、狭い周波数幅を有する。前記光発射器110からの光束の波長は、450.0nm〜514.5nmである。本実施例において、前記光発射器110からの光束は波長が514.5nmの緑色光である。この場合、他の波長の光と比べて、前記表面増強ラマン散乱基板120から多くの散乱光を得ることができる。前記光発射器110からの光束において、前記表面増強ラマン散乱基板120に照射して形成された光スポットの面積が0(0は含まず)〜2μm2である。
【0017】
前記受信器130は、例えば電荷結合素子(Charge Coupled Device,CCD)などの多重チャンネル光子検出モジュール、又は、例えば光電子倍増管などの単一光子検出モジュールを含むことができる。前記受信器130は、前記試料に照射された光のラマンスペクトルのダイアグラムから、前記試料の分子又は官能基の振動形式などの情報を獲得することができる。
【0018】
前記表面増強ラマン散乱基板120に固定された試料は、固体又は液体である。前記試料は固体である場合、該試料は粉末又は試料が付着された粒子である。前記試料は液体である場合、該試料は溶液又は熔融態試料である。前記表面増強ラマン散乱基板120には、前記光発射器110からの光束が照射される場合、前記試料に照射された光束は、前記試料の分子と衝撃するので、前記光束の光子の運動量又は周波数が変わり、前記光束は、前記試料の分子構造の情報を持つ散乱光に形成される。従って、前記散乱光から、前記試料の分子構造の情報を読むことができる。
【0019】
前記表面増強ラマン散乱基板120は、支持体121及びカーボンナノチューブ複合材料体122を含む。前記カーボンナノチューブ複合材料体122は、前記支持体121に固定されて、前記支持体121によって支持される。
【0020】
前記支持体121は、透明なガラス基板、透明なプラスチック基板、格子板又はフレームである。従って、前記光発射器110からの、前記表面増強ラマン散乱基板120の試料に照射されない光束は、前記支持体121で反射されることを防止できる。前記光束が前記支持体121で反射される場合、前記試料により形成された散乱光を干渉する。前記支持体121が透明な基板である場合、前記カーボンナノチューブ複合材料体122は、前記支持体121の一つ表面に直接的に配置される。前記支持体121が格子板又はフレームである場合、前記カーボンナノチューブ複合材料体122の少なくとも一部は、前記支持体121に懸架するように配置される。前記カーボンナノチューブ複合材料体122の、前記支持体121に懸架される領域の面積は、前記光発射器110からの光束が前記表面増強ラマン散乱基板120に照射して形成される光スポットの面積より大きい。
【0021】
前記カーボンナノチューブ複合材料体122は、複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ構造体及び金属層を備える。前記カーボンナノチューブ構造体は、対向する二つの表面を有する。前記金属層は、前記カーボンナノチューブ構造体の少なくとも一つの表面に配置されている。
【0022】
前記カーボンナノチューブ構造体は、自立構造を有する薄膜である。ここで、自立構造とは、支持体材を利用せず、前記カーボンナノチューブ構造体を独立して利用することができるという形態のことである。すなわち、前記カーボンナノチューブ構造体を対向する両側から支持して、前記カーボンナノチューブ構造体の構造を変化させずに、前記カーボンナノチューブ構造体を懸架させることができることを意味する。前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、二層カーボンナノチューブ(DWCNT)又は多層カーボンナノチューブ(MWCNT)である。前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブである場合、直径は0.5nm〜50nmに設定され、前記カーボンナノチューブが二層カーボンナノチューブである場合、直径は1nm〜50nmに設定され、前記カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブである場合、直径は1.5nm〜50nmに設定される。
【0023】
前記カーボンナノチューブ構造体には、複数のカーボンナノチューブが均一に分散されている。該複数のカーボンナノチューブは分子間力で接続されている。前記カーボンナノチューブ構造体の隣接するカーボンナノチューブの間に間隙を有する。前記カーボンナノチューブ構造体には、前記複数のカーボンナノチューブが配向し又は配向せずに配置されている。前記複数のカーボンナノチューブの配列方式により、前記カーボンナノチューブ構造体は非配向型のカーボンナノチューブ構造体及び配向型のカーボンナノチューブ構造体の二種に分類される。本実施例における非配向型のカーボンナノチューブ構造体では、カーボンナノチューブが異なる方向に沿って配置され、又は絡み合っている。配向型のカーボンナノチューブ構造体では、前記複数のカーボンナノチューブが同じ方向に沿って配列している。又は、配向型のカーボンナノチューブ構造体において、配向型のカーボンナノチューブ構造体が二つ以上の領域に分割される場合、各々の領域における複数のカーボンナノチューブが同じ方向に沿って配列されている。この場合、異なる領域におけるカーボンナノチューブの配列方向は異なる。
【0024】
本発明の前記カーボンナノチューブ構造体としては、以下の(一)〜(四)のものが挙げられる。
【0025】
(一)ドローン構造カーボンナノチューブフィルム
前記カーボンナノチューブ構造体は、超配列カーボンナノチューブアレイ(非特許文献4を参照)から引き出して得られたドローン構造カーボンナノチューブフィルム(drawn carbon nanotube film)である。単一の前記カーボンナノチューブフィルムにおいて、複数のカーボンナノチューブが同じ方向に沿って、端と端が接続されている(図4を参照)。即ち、単一の前記カーボンナノチューブフィルムは、分子間力で長さ方向端部同士が接続された複数のカーボンナノチューブを含む。また、前記複数のカーボンナノチューブは、前記カーボンナノチューブフィルムの表面に平行して配列されている。図2及び図3を参照すると、単一の前記カーボンナノチューブフィルム143aは、複数のカーボンナノチューブセグメント143bを含む。前記複数のカーボンナノチューブセグメント143bは、長さ方向に沿って分子間力で端と端が接続されている。それぞれのカーボンナノチューブセグメント143bは、相互に平行に、分子間力で結合された複数のカーボンナノチューブ145を含む。単一の前記カーボンナノチューブセグメント143bにおいて、前記複数のカーボンナノチューブ145の長さが同じである。前記カーボンナノチューブフィルム143aを有機溶剤に浸漬させることにより、前記カーボンナノチューブフィルム143aの強靭性及び機械強度を高めることができる。有機溶剤に浸漬された前記カーボンナノチューブフィルムの単位面積当たりの熱容量は低くなるので、その加熱効果を高めることができる。前記カーボンナノチューブフィルム143aの幅は100μm〜10cmに設けられ、厚さは0.5nm〜100μmに設けられる。
【0026】
前記カーボンナノチューブ構造体は、積層された複数の前記カーボンナノチューブフィルムを含むことができる。この場合、隣接する前記カーボンナノチューブフィルムは、分子間力で結合されている。隣接する前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブは、それぞれ0°〜90°の角度で交差している。隣接する前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが0°以上の角度で交差する場合、前記カーボンナノチューブ構造体に複数の微孔が形成される。又は、前記複数のカーボンナノチューブフィルムは、隙間なく並列されることもできる。
【0027】
前記カーボンナノチューブフィルムの製造方法は、カーボンナノチューブアレイを提供する第一ステップと、前記カーボンナノチューブアレイから、少なくとも、一枚のカーボンナノチューブフィルムを引き伸ばす第二ステップと、を含む。
【0028】
(二)カーボンナノチューブワイヤ
図5を参照すると、前記カーボンナノチューブワイヤは、分子間力で接続された複数のカーボンナノチューブからなる。この場合、一本のカーボンナノチューブワイヤ(非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤ)は、端と端とが接続された複数のカーボンナノチューブセグメント(図示せず)を含む。前記カーボンナノチューブセグメントは、同じ長さ及び幅を有する。さらに、各々の前記カーボンナノチューブセグメントに、同じ長さの複数のカーボンナノチューブが平行に配列されている。前記複数のカーボンナノチューブはカーボンナノチューブワイヤの中心軸に平行に配列されている。この場合、一本の前記カーボンナノチューブワイヤの直径は、1μm〜1cmである。図6を参照すると、前記カーボンナノチューブワイヤをねじり、ねじれ状カーボンナノチューブワイヤを形成することができる。ここで、前記複数のカーボンナノチューブは前記カーボンナノチューブワイヤの中心軸を軸に、螺旋状に配列されている。この場合、一本の前記カーボンナノチューブワイヤの直径は、1μm〜1cmである。前記カーボンナノチューブ構造体は、前記非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤ、ねじれ状カーボンナノチューブワイヤ、又はそれらの組み合わせのいずれか一種からなる。前記カーボンナノチューブ構造体が、複数のカーボンナノチューブワイヤからなる場合、前記複数のカーボンナノチューブワイヤは、間隔をおいて平行するように配置されることができ、又は、互いに交叉するように配置されることができ、又は、隙間なく並列されることもできる。
【0029】
前記カーボンナノチューブワイヤを形成する方法は、カーボンナノチューブアレイから引き出してなるカーボンナノチューブフィルムを利用する。前記カーボンナノチューブワイヤを形成する方法は、次の三種がある。第一種では、前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブの長手方向に沿って、前記カーボンナノチューブフィルムを所定の幅で切断し、カーボンナノチューブワイヤを形成する。第二種では、前記カーボンナノチューブフィルムを有機溶剤に浸漬させて、前記カーボンナノチューブフィルムを収縮させてカーボンナノチューブワイヤを形成することができる。第三種では、前記カーボンナノチューブフィルムを機械加工(例えば、紡糸工程)してねじれたカーボンナノチューブワイヤを形成する。詳しく説明すれば、まず、前記カーボンナノチューブフィルムを紡糸装置に固定させる。次に、前記紡糸装置を動作させて前記カーボンナノチューブフィルムを回転させ、ねじれたカーボンナノチューブワイヤを形成する。
【0030】
(三)プレシッド構造カーボンナノチューブフィルム
前記カーボンナノチューブ構造体は、少なくとも一枚のカーボンナノチューブフィルムを含む。このカーボンナノチューブフィルムは、プレシッド構造カーボンナノチューブフィルム(pressed carbon nanotube film)である。単一の前記カーボンナノチューブフィルムにおける複数のカーボンナノチューブは、等方的に配列されているか、所定の方向に沿って配列されているか、または、異なる複数の方向に沿って配列されている。前記カーボンナノチューブフィルムは、押し器具を利用することにより、所定の圧力をかけて前記カーボンナノチューブアレイを押し、該カーボンナノチューブアレイを圧力で倒すことにより形成された、シート状の自立構造を有するものである。前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブの配列方向は、前記押し器具の形状及び前記カーボンナノチューブアレイを押す方向により決められている。
【0031】
図7を参照すると、単一の前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが配向して配列される場合には、該カーボンナノチューブフィルムは、同じ方向に沿って配列された複数のカーボンナノチューブを含む。ローラー形状を有する押し器具を利用して、同じ方向に沿って前記カーボンナノチューブアレイを同時に押す場合、基本的に同じ方向に配列されるカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブフィルムが形成される。また、ローラー形状を有する押し器具を利用して、異なる方向に沿って、前記カーボンナノチューブアレイを同時に押す場合、前記異なる方向に沿って、選択的な方向に配列されるカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブフィルムが形成される。
【0032】
前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブの傾斜の程度は、前記カーボンナノチューブアレイにかけた圧力に関係する。前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブと該カーボンナノチューブフィルムの表面とは、角度αを成し、該角度αは0°以上15°以下である。好ましくは、前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが該カーボンナノチューブフィルムの表面に平行する(即ち、角度αは0°である)。前記圧力が大きくなるほど、前記傾斜の程度が大きくなる。前記カーボンナノチューブフィルムの厚さは、前記カーボンナノチューブアレイの高さ及び該カーボンナノチューブアレイにかけた圧力に関係する。即ち、前記カーボンナノチューブアレイの高さが大きくなるほど、また、該カーボンナノチューブアレイにかけた圧力が小さくなるほど、前記カーボンナノチューブフィルムの厚さが大きくなる。これとは逆に、カーボンナノチューブアレイの高さが小さくなるほど、また、該カーボンナノチューブアレイにかけた圧力が大きくなるほど、前記カーボンナノチューブフィルムの厚さが小さくなる。
【0033】
(四)綿毛構造カーボンナノチューブフィルム
前記カーボンナノチューブ構造体は、少なくとも一枚のカーボンナノチューブフィルムを含む。このカーボンナノチューブフィルムは綿毛構造カーボンナノチューブフィルム(flocculated carbon nanotube film)である。図8を参照すると、単一の前記カーボンナノチューブフィルムにおいて、複数のカーボンナノチューブは、絡み合い、等方的に配列されている。前記カーボンナノチューブ構造体においては、前記複数のカーボンナノチューブが均一に分布されている。複数のカーボンナノチューブは配向せずに配置されている。単一の前記カーボンナノチューブの長さは、100nm以上であり、100nm〜10cmであることが好ましい。前記カーボンナノチューブ構造体は、自立構造の薄膜の形状に形成されている。ここで、自立構造は、支持体材を利用せず、前記カーボンナノチューブ構造体を独立して利用することができるという形態である。前記複数のカーボンナノチューブは、分子間力で接近して、相互に絡み合って、カーボンナノチューブネット状に形成されている。前記複数のカーボンナノチューブは配向せずに配置されて、多くの微小な穴が形成されている。ここで、単一の前記微小な穴の直径が10μm以下になる。前記カーボンナノチューブ構造体におけるカーボンナノチューブは、相互に絡み合って配置されるので、該カーボンナノチューブ構造体は柔軟性に優れ、任意の形状に湾曲して形成させることができる。用途に応じて、前記カーボンナノチューブ構造体の長さ及び幅を調整することができる。前記カーボンナノチューブ構造体の厚さは、0.5nm〜1mmである。
【0034】
前記カーボンナノチューブフィルムの製造方法は、下記のステップを含む。
【0035】
第一ステップでは、カーボンナノチューブ原料(綿毛構造カーボンナノチューブフィルムの素になるカーボンナノチューブ)を提供する。
【0036】
ナイフのような工具でカーボンナノチューブを基材から剥離し、カーボンナノチューブ原料が形成される。前記カーボンナノチューブは、ある程度互いに絡み合っている。前記カーボンナノチューブの原料においては、該カーボンナノチューブの長さは、100マイクロメートル以上であり、10マイクロメートル以上であることが好ましい。
【0037】
第二ステップでは、前記カーボンナノチューブ原料を溶剤に浸漬し、該カーボンナノチューブ原料を処理して、綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体を形成する。
【0038】
前記カーボンナノチューブ原料を前記溶剤に浸漬した後、超音波式分散、又は高強度攪拌又は振動などの方法により、前記カーボンナノチューブを綿毛構造に形成させる。前記溶剤は水または揮発性有機溶剤である。超音波式分散方法の場合、カーボンナノチューブを含む溶剤に対して10〜30分間処理する。カーボンナノチューブは大きな比表面積を有し、カーボンナノチューブの間に大きな分子間力が生じるので、前記カーボンナノチューブはそれぞれもつれて、綿毛構造に形成されている。
【0039】
第三ステップでは、前記綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体を含む溶液をろ過して、最終的な綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体を取り出す。
【0040】
まず、濾紙が置かれたファネルを提供する。前記綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体を含む溶剤を濾紙が置かれたファネルにつぎ、しばらく放置して、乾燥させると、綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体が分離される。図8を参照すると、前記綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体におけるカーボンナノチューブが互いに絡み合って、不規則的な綿毛構造となる。
【0041】
分離された前記綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体を容器に置き、前記綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体を所定の形状に展開し、展開された前記綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体に所定の圧力を加え、前記綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体に残留した溶剤を加熱させるか、或いは、該溶剤を自然に蒸発させると、綿毛構造のカーボンナノチューブフィルムが形成される。
【0042】
前記綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体が展開される面積によって、綿毛構造のカーボンナノチューブフィルムの厚さと面密度を制御できる。即ち、一定の体積を有する前記綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体は、展開される面積が大きくなるほど、綿毛構造のカーボンナノチューブフィルムの厚さと面密度が小さくなる。
【0043】
また、微多孔膜とエアーポンプファネル(Air−pumping Funnel)を利用して綿毛構造のカーボンナノチューブフィルムが形成される。具体的には、微多孔膜とエアーポンプファネルを提供し、前記綿毛構造のカーボンナノチューブ構造体を含む溶剤を、前記微多孔膜を通して前記エアーポンプファネルにつぎ、該エアーポンプファネルに抽気し、乾燥させると、綿毛構造のカーボンナノチューブフィルムが形成される。前記微多孔膜は、平滑な表面を有する。該微多孔膜において、単一の微小孔の直径は、0.22マイクロメートルにされている。前記微多孔膜は平滑な表面を有するので、前記カーボンナノチューブフィルムは容易に前記微多孔膜から剥落することができる。さらに、前記エアーポンプを利用することにより、前記綿毛構造のカーボンナノチューブフィルムに空気圧をかけるので、均一な綿毛構造のカーボンナノチューブフィルムを形成させることができる。
【0044】
前記カーボンナノチューブ構造体は、少なくとも一枚の前記カーボンナノチューブフィルム、少なくとも一本の前記カーボンナノチューブワイヤ、又は前記カーボンナノチューブフィルム及びカーボンナノチューブワイヤの組み合わせを含む。
【0045】
前記金属層は、電気めっき又は化学めっきなどの化学方法、又は物理気相成長、マグネトロンスパッタリング方法又は電子ビーム蒸着方法などの物理方法によって前記カーボンナノチューブ構造体に形成される。本実施例において、金属材料を電子ビーム蒸着方法で蒸着させて金属ガスに形成し、前記金属ガスを前記カーボンナノチューブ構造体に堆積させて金属層を形成する。前記カーボンナノチューブ構造体の一つの表面に前記金属ガスを堆積させる場合、前記カーボンナノチューブ構造体における各々のカーボンナノチューブの少なくとも一部の表面に金属層を形成することができる。または、前記カーボンナノチューブ構造体の対向する二つの表面に、それぞれ前記金属ガスを堆積させる場合、前記カーボンナノチューブ構造体における各々のカーボンナノチューブの全ての表面に前記金属層を形成することができる。
【0046】
前記金属層の材料は、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、金(Au)、銀(Ag)及び銅(Cu)のいずれか一種の貴金属又は遷移金属である。一つの水晶振動子によって、前記カーボンナノチューブ構造体に堆積させて金属層の厚さを制御させる。前記カーボンナノチューブ構造体の表面に配置されている前記金属層の厚さは、1nm〜50nmであるが、18nm〜22nmであることが好ましい。本実施例において、前記金属層の厚さは、3nm〜7nmであることがより好ましい。微視的に、前記金属層は、複数の金属粒子からなる。前記金属粒子は、前記カーボンナノチューブ構造体のカーボンナノチューブの外表面に付着されている。且つ、少なくとも一部の金属粒子は、前記カーボンナノチューブ構造体が位置する表面から露出されている。前記金属粒子の直径は、1nm〜50nmである。前記金属層には、前記複数の金属粒子の間に間隙がある。前記複数の金属粒子において、隣接する2つの前記金属粒子の間の距離は、1nm〜15nmである。本実施例において、隣接する2つの金属粒子の間の距離は、2nm〜5nmである。
【0047】
前記カーボンナノチューブ構造体のカーボンナノチューブの表面に少量の金属材料を付着させることにより、前記カーボンナノチューブ構造体に間隔をおいて配置する金属粒子を形成させることできる。一方で、前記カーボンナノチューブ構造体は複数の間隙又は微孔を有するので、前記カーボンナノチューブ構造体の比表面積は更に大きくなる。従って、前記カーボンナノチューブ構造体に形成された複数の金属粒子は間隔をおいて配列することができる。前記金属粒子の間の間隔が小さくなるほど、前記表面増強ラマン散乱基板120の電磁場が増強し、検出感度が更に向上してくる。
【0048】
更に、前記カーボンナノチューブ複合材料体122は、過渡層を含むことができる。前記過渡層は、前記カーボンナノチューブ構造体及び前記金属層の間に配置されている。前記金属ガスを前記カーボンナノチューブ構造体に堆積させる前に、前記過渡層を前記カーボンナノチューブ構造体に被覆させる。前記過渡層は、前記カーボンナノチューブ構造体の一部又は各々のカーボンナノチューブの全部の外表面に被覆されていることができる。前記過渡層の厚さは、10nm〜100nmであるが、15nm〜30nmであることが好ましい。
【0049】
前記金属ガスを前記カーボンナノチューブ構造体の前記過渡層に堆積する場合、前記金属ガスは、前記過渡層に堆積すると液体の金属付着体になる。ここで、前記過渡層を設置することにより、前記カーボンナノチューブ構造体のカーボンナノチューブの外表面を平坦化させることができるので、前記液体の金属付着体に作用する各々方向の力が等しくなる。従って、前記カーボンナノチューブ構造体の前記過渡層に堆積した前記金属付着体の形状の規則性が改善されて、前記カーボンナノチューブ構造体の前記過渡層に堆積された前記金属ガスは、複数の球状の金属粒子に形成することができる。この場合、前記表面増強ラマン散乱基板120の振動スペクトルを増強することができる。前記過渡層は、二酸化ケイ及び酸化マグネシウムのいずれか一種の無機の酸化物からなる。本実施例において、前記過渡層は、二酸化ケイ素からなり、その厚さは20nmである。前記過渡層により、更に前記カーボンナノチューブ構造体及び前記金属層を絶縁させて、前記カーボンナノチューブ構造体及び前記金属層の間に、電荷移動が生じることを防止できる。
【0050】
図9は、複数の前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルムを積層させて形成したカーボンナノチューブ構造体を示す図である。ここで、図9に示すカーボンナノチューブ構造体をCNTグリッドとして定義する。図10及び図11は、図9に示すカーボンナノチューブ構造体の外表面に銀層を被覆させて形成したカーボンナノチューブ複合材料体122の構造を示す図である。図10及び図11に示すカーボンナノチューブ複合材料体122の銀層の厚さは5nmである。この場合、図10及び図11に示すカーボンナノチューブ複合材料体122をAg−CNTグリッドとして定義する。ここで、Ag−CNTグリッドは、単に銀元素及び炭素元素からなる。図12及び図13は、図9に示すカーボンナノチューブ構造体の外表面に、二酸化ケイ素からなる過渡層及び銀層を、順次的に被覆させて形成したカーボンナノチューブ複合材料体122の構造を示す図である。この場合、図12及び図13に示すカーボンナノチューブ複合材料体122をAg−SiO2−CNTグリッドとして定義する。図12及び図13に示すカーボンナノチューブ複合材料体122の、二酸化ケイ素からなる過渡層の厚さは20nmであり、銀層の厚さは5nmである。
【0051】
前記表面増強ラマン散乱基板120に、それぞれ前記CNTグリッド、前記Ag−CNTグリッド、前記Ag−SiO2−CNTグリッドを利用する場合であって、試料が固定されない前記基板120のラマンスペクトルの特徴を分析し比較して得られた結果は、図14に示されている。ここで、前記CNTグリッド、前記Ag−CNTグリッド、前記Ag−SiO2−CNTグリッドにおけるカーボンナノチューブ構造体は、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)からなる。図14を参照すると、それぞれCNTグリッド、Ag−CNTグリッド、Ag−SiO2−CNTグリッドで測定されたMWCNTのラマンスペクトルのダイアグラムが示されている。Dバンドが1350cm−1であり、Gプライムバンドが1580cm−1であり、2Dバンドが2700cm−1である。
【0052】
図14に示された前記Ag−CNTグリッドのラマンスペクトルにより、銀層が被覆されたカーボンナノチューブ構造体のラマン強度が明らかに強くなる。図14に示された前記Ag−SiO2−CNTグリッドのラマンスペクトルを参照すると、前記銀層及びカーボンナノチューブ構造体の間にSiO2を設置することにより、前記表面増強ラマン散乱基板120の強度が強くなる。前記Ag−CNTグリッドの強度のGプライムバンド及びAg−SiO2−CNTグリッドの強度のGプライムバンドは、それぞれCNTグリッドの強度のGプライムバンド比べて、6.5倍及び104.8倍も高まる。
【0053】
前記CNTグリッド、Ag−CNTグリッド又はAg−SiO2−CNTグリッドのラマン増強能力を測定するために、それぞれ前記CNTグリッド、Ag−CNTグリッド及びAg−SiO2−CNTグリッドに2.5×10−3mol/Lのピリジン水溶液を付着させた。本実施例の測定システム100によって、それぞれ前記CNTグリッド、Ag−CNTグリッド及びAg−SiO2−CNTグリッドに付着されたピリジン水溶液を測定して得た結果は、図15に示されている。図15を参照すると、前記Ag−CNTグリッドでの、ピリジンのラマン散乱光の強度は、前記CNTグリッドでの、ピリジンのラマン散乱光の強度より強い。前記Ag−SiO2−CNTグリッドでの、ピリジンのラマン散乱光の強度は、前記CNTグリッドでの、ピリジンのラマン散乱光の強度より明らかに強い。
【0054】
それぞれCNTグリッド、Ag−CNTグリッド又はAg−SiO2−CNTグリッドのラマン散乱光強度の増強能力を測定するために、それぞれ前記CNTグリッド、Ag−CNTグリッド又はAg−SiO2−CNTグリッドに、1×10−6mol/Lのローダミン6G(R6G)エタノール溶液を滴らせる。それぞれ前記CNTグリッド、Ag−CNTグリッド及びAg−SiO2−CNTグリッドに付着されたR6Gを測定して得た結果は、図15に示されている。図16を参照すると、前記CNTグリッドでのR6Gのラマンスペクトルのダイアグラムでは可視の振動形式が形成されない。前記Ag−CNTグリッド及びAg−SiO2−CNTグリッドでのR6Gのラマンスペクトルのダイアグラムでは可視の振動形式が形成されている。
【0055】
前記R6Gの分子は、蛍光分子である。前記R6Gの正常なラマン散乱では、前記R6Gのラマン散乱断面積が、前記R6Gの蛍光断面積より小さいので、通常は前記R6Gからの蛍光が、そのラマン信号についての観察を妨害する。前記Ag−CNTグリッド及びAg−SiO2−CNTグリッドで、銀粒子の間に形成された小さな間隙は、前記Ag−CNTグリッド及びAg−SiO2−CNTグリッドの電磁増強の改善をもたらす。この場合、前記Ag−CNTグリッド及びAg−SiO2−CNTグリッドでは、銀粒子の間に形成されたより小さな間隙によって、前記R6Gのラマン散乱断面積及び前記R6Gの蛍光断面積の全てを増大させる。前記Ag−CNTグリッド及びAg−SiO2−CNTグリッドで、銀粒子の間の間隙が十分に小さい場合、前記R6Gのラマン散乱断面積は、明らかに増大することができ、更に前記R6Gの蛍光断面積より大きくなることができる。従って、前記Ag−CNTグリッド及びAg−SiO2−CNTグリッドでは、明らかなラマンピークを有する前記R6Gのラマンスペクトルのダイアグラムを形成することができる。
【0056】
実験的に、前記Ag−CNTグリッドでは、前記R6Gの蛍光消光現象が観測された。これは、前記Ag−CNTグリッドの銀層とCNT構造体の間に電荷移動が生じることにより、前記R6Gの蛍光消光現象が観測される。しかし、前記Ag−SiO2−CNTグリッドで、前記R6Gの蛍光消光現象が観測されない。これは、前記Ag−SiO2−CNTグリッドの過度層は、銀層とCNT構造体の間の電荷移動を妨害するからである。従って、電荷移動は、前記R6Gの蛍光消光に有利である。図16を参照すると、前記Ag−CNTグリッドでは、前記R6Gの蛍光消光現象により、前記R6Gのラマンスペクトルのダイアグラムは、低く、平穏である。しかし、前記Ag−SiO2−CNTグリッドでは、前記R6Gのラマンスペクトルのダイアグラムは、前記Ag−CNTグリッドでの前記R6Gのラマンスペクトルのダイアグラムより明らかに高い。
【0057】
(実施例2)
図17を参照すると、本実施例1は、一種の測定システム200を提供する。前記測定システム200は、光発射器210と、表面増強ラマン散乱(SERS)基板220と、受信器230と、を含む。前記表面増強ラマン散乱基板220には試料(図示せず)が固定されている。前記光発射器210からの光束は、前記表面増強ラマン散乱基板220に照射されると、ラマン散乱光が形成される。前記受信器230は、前記ラマン散乱光を収集して、分析し、ラマン散乱光のスペクトルのダイアグラムを形成することができる。
【0058】
本実施例の測定システム200の構造と実施例1の測定システム100の構造とを比べると、次の異なる点がある。前記カーボンナノチューブ複合材料体222は、透明な基板に垂直的に配列されたカーボンナノチューブアレイ及び金属層を備える。該カーボンナノチューブアレイは、相互に平行、且つ前記透明な基板に垂直な複数のカーボンナノチューブを含む。前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブである。図18を参照すると、前記金属層は、前記カーボンナノチューブアレイの前記透明な基板と接触する端部と反対する端部に形成されている。該金属層は、前記カーボンナノチューブアレイの各々のカーボンナノチューブの前記透明な基板と接触する端部と反対する端部に形成された金属粒子222aからなる。即ち、前記カーボンナノチューブアレイの各々のカーボンナノチューブの前記透明な基板と接触する端部と反対する端部に、一つの金属粒子222aが形成されている。本実施例において、前記金属粒子の垂直は、10nm〜50nmである。
【0059】
前記透明な基板に垂直的に配列された複数の多層カーボンナノチューブからなる前記カーボンナノチューブ構造体をMWCNTアレイとして定義し、前記複数の多層カーボンナノチューブの前記透明な基板と接触する端部と反対する端部に、銀層を被覆させて形成したカーボンナノチューブ複合材料体222をAg−MWCNTアレイとして定義することができる。ここで、前記銀層の厚さは、13nm〜17nmである。それぞれMWCNTアレイ及びAg−MWCNTアレイのラマン散乱光の増強能力を測定するために、それぞれ前記MWCNTアレイ及びAg−MWCNTアレイに1×10−6mol/Lのローダミン6G(R6G)エタノール溶液を固定させて、測定システム200によって、前記R6Gのラマンスペクトルのダイアグラムを形成する。図19を参照すると、前記MWCNTアレイの上のR6Gのラマンスペクトルのダイアグラムには可視の振動形式が形成されていない。前記Ag−MWCNTアレイでは、前記R6Gのラマンスペクトルのダイアグラムに明らかなラマンピークが形成されている。
【0060】
前記透明な基板に垂直的に配列された複数の単層カーボンナノチューブからなる前記カーボンナノチューブ構造体をSWCNTアレイとして定義し、前記複数の単層カーボンナノチューブの前記透明な基板と接触する端部と反対する端部に、厚さが13nm〜17nmである銀層を被覆させて形成したカーボンナノチューブ複合材料体222をAg−SWCNTアレイaとして定義し、前記複数の単層カーボンナノチューブの前記透明な基板と接触する端部と反対する端部に、厚さが28nm〜32nmである銀層を被覆させて形成したカーボンナノチューブ複合材料体222をAg−SWCNTアレイbとして定義することができる。それぞれ前記SWCNTアレイ、Ag−SWCNTアレイa及びAg−SWCNTアレイbのラマン散乱光の増強能力を測定するために、それぞれ前記SWCNTアレイ、Ag−SWCNTアレイa及びAg−SWCNTアレイbの表面に1×10−6mol/Lのローダミン6G(R6G)エタノール溶液を固定させて、測定システム200によって、前記R6Gのラマンスペクトルのダイアグラムを形成する。図20を参照すると、前記SWCNTアレイでのR6Gのラマンスペクトルのダイアグラムに、非常に低い強度の振動形式が形成されている。前記Ag−SWCNTアレイa及びAg−SWCNTアレイbでのR6Gのラマンスペクトルのダイアグラムに、明らかなラマンピークが形成されている。
【符号の説明】
【0061】
100、200 ラマンスペクトル測定システム
110、210 光発射器
120、220 表面増強ラマン散乱基板
121、221 支持体
122、222 カーボンナノチューブ複合材料体
130、230 受信器
222a 金属粒子
143a カーボンナノチューブフィルム
143b カーボンナノチューブセグメント
145 カーボンナノチューブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ構造体と、前記カーボンナノチューブ構造体に被覆された金属層と、を含む表面増強ラマン散乱基板であって、
前記カーボンナノチューブ構造体において、隣接したカーボンナノチューブは、分子間力で接続されており、
前記金属層は、ナノサイズの間隔をおいて配列された複数の金属粒子を含むことを特徴とする表面増強ラマン散乱基板。
【請求項2】
前記複数の金属粒子は、各々の前記カーボンナノチューブの外表面に被覆されており、前記金属粒子の間の間隔は、1nm〜15nmであることを特徴とする請求項1に記載の表面増強ラマン散乱基板。
【請求項3】
光発射器と、表面増強ラマン散乱基板と、受信器と、を含むラマンスペクトル測定システムであって、
前記表面増強ラマン散乱基板は、複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ構造体と、前記カーボンナノチューブ構造体に被覆された金属層と、を含み、
前記カーボンナノチューブ構造体において、隣接したカーボンナノチューブは、分子間力で接続されており、
前記金属層は、ナノサイズの間隔をおいて配列された複数の金属粒子を含むことを特徴とするラマンスペクトル測定システム。
【請求項1】
複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ構造体と、前記カーボンナノチューブ構造体に被覆された金属層と、を含む表面増強ラマン散乱基板であって、
前記カーボンナノチューブ構造体において、隣接したカーボンナノチューブは、分子間力で接続されており、
前記金属層は、ナノサイズの間隔をおいて配列された複数の金属粒子を含むことを特徴とする表面増強ラマン散乱基板。
【請求項2】
前記複数の金属粒子は、各々の前記カーボンナノチューブの外表面に被覆されており、前記金属粒子の間の間隔は、1nm〜15nmであることを特徴とする請求項1に記載の表面増強ラマン散乱基板。
【請求項3】
光発射器と、表面増強ラマン散乱基板と、受信器と、を含むラマンスペクトル測定システムであって、
前記表面増強ラマン散乱基板は、複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ構造体と、前記カーボンナノチューブ構造体に被覆された金属層と、を含み、
前記カーボンナノチューブ構造体において、隣接したカーボンナノチューブは、分子間力で接続されており、
前記金属層は、ナノサイズの間隔をおいて配列された複数の金属粒子を含むことを特徴とするラマンスペクトル測定システム。
【図1】
【図3】
【図4】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図3】
【図4】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−64684(P2011−64684A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206595(P2010−206595)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(598098331)ツィンファ ユニバーシティ (534)
【出願人】(500080546)鴻海精密工業股▲ふん▼有限公司 (1,018)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(598098331)ツィンファ ユニバーシティ (534)
【出願人】(500080546)鴻海精密工業股▲ふん▼有限公司 (1,018)
【Fターム(参考)】
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