説明

ラム波型デバイスおよびその製造方法

【課題】圧電基板の厚さを薄くしてラム波の高周波化を可能にする、ラム波型デバイスを提供する。
【解決手段】ラム波型デバイスであるラム波型共振子1は、水晶基板2と、水晶基板2の一方の面にアルミニウム(Al)で形成された櫛歯状電極3、反射器4および電極パッド5と、水晶基板2の他方の面に金(Au)で形成された金属膜6と、金属膜6に接合されたシリコン基板である支持基板7と、支持基板7に形成され水晶基板2および金属膜6を介して櫛歯状電極3、反射器4および電極パッド5と対向して位置するキャビティー部8と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電基板の内部を伝搬するラム波を用いたラム波型デバイスおよびこのラム波型デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電基板の表面と裏面との間で反射を繰り返し圧電基板内を伝搬するラム波は、圧電基板の厚さHがラム波の波長λの5波長以下の場合において、効率よく励振することが知られている。より詳細には、0<(2H/λ)≦10の条件を満たす場合において、ラム波の励振が効率的に行える、とされている。即ち、ラム波の波長λに対応して、圧電基板の厚さHを可能な限り薄くすることにより、高い周波数のラム波を励振することが可能である(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−258596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の技術では、ラム波の高周波化のために、圧電基板の厚さHを薄くすることに伴い、圧電基板の耐衝撃性が低下する、という問題が生じていた。このため、製造工程においては、衝撃等を与えないように細心の加工が必要となることによる、製造効率の低下や、圧電基板を均一厚にすることの困難さによる歩留まりの低下等が生じる、という課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例または形態として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例に係るラム波型デバイスは、ラム波を励振するためのものであって、圧電基板と、前記圧電基板の一方の面に形成された励振電極と、前記圧電基板の他方の面に形成された保持膜と、前記保持膜に接合された支持基板と、前記支持基板に設けられ前記圧電基板および前記保持膜を介して前記励振電極と対向して位置するキャビティー部と、を有することを特徴とする。
【0007】
このラム波型デバイスによれば、圧電基板は、励振電極が形成されている面と反対側の面に保持膜および支持基板を有し、支持基板には、励振電極と対向してキャビティー部である凹部が設けられている。つまり、ラム波型デバイスの圧電基板は、その厚さが薄い薄板であっても、保持膜と、キャビティー部以外の部分に設けられた支持基板と、によって、耐衝撃性の低下が抑制されている。ここで、励振電極によって励振されるラム波は、圧電基板の内部を表裏面で反射を繰り返して伝搬するため、高周波のラム波を効率的に励振するには、圧電基板の厚さをできるだけ薄く、且つ均一な厚さにする必要がある。これに対応して、ラム波型デバイスは、薄板化された圧電基板の耐衝撃性が支持基板によって低下することなく維持される構成である。また、ラム波型デバイスは、支持基板の支持を受けないキャビティー部に位置する圧電基板においても、保持膜が圧電基板の耐衝撃性の低下をほぼ防ぐ構成を有しているため、キャビティー部に位置する圧電基板の厚さも、保持膜が無い場合に比べて薄く設定することが可能である。即ち、ラム波型デバイスは、ラム波の高周波化に対応した薄板の圧電基板を有し、キャビティー部と対向する励振電極によって、高周波のラム波を効率的且つ確実に励振することが可能である。
【0008】
[適用例2]上記適用例に係るラム波型デバイスにおいて、前記保持膜は金属膜であることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、ラム波型デバイスは、保持膜として金属膜を形成している。つまり、金属膜であれば、膜厚を厚くしなくても耐衝撃性の高い保持膜が形成でき、圧電基板を薄板化しても、その耐衝撃性の低下を抑制することが可能である。さらに、ラム波型デバイスは、金属膜の形成により、圧電基板の圧電効果を利用して電気振動を機械振動に変換する場合の効率を示す値である、電気機械結合係数が増加する効果も有し、高周波のラム波をより効率的に励振することが可能である。
【0010】
[適用例3]上記適用例に係るラム波型デバイスにおいて、前記支持基板は、シリコン、水晶、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、ニオブ酸カリウムおよびガラスのいずれかであることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、これらの材料は、共晶結合、陽極結合、拡散結合等により保持膜との接合が可能であり、エッチング等の方法によりキャビティー部の加工が容易に行え、さらに支持基板としての強度も併せ持っている。これにより、保持膜に対応した、適切な支持基板の選択が可能である。
【0012】
[適用例4]上記適用例に係るラム波型デバイスにおいて、前記キャビティー部は前記励振電極と対向する領域が前記励振電極の領域と同等以上の面積であることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、圧電基板の一方の面に形成された励振電極の領域は、圧電基板の他方の面において、キャビティー部が形成されているため支持基板とは対向しておらず、保持膜のみと対向している。これにより、ラム波型デバイスは、圧電基板の内部を伝搬するラム波が、キャビティー部に位置する圧電基板の薄板部で励振されるため、支持基板の拘束を受けず、ラム波の伝搬速度にバラツキが生じにくくなる。即ち、ラム波型デバイスは、圧電基板の圧電効果をほぼ最大限に利用して、より確実に高周波のラム波を励振することが可能である。
【0014】
[適用例5]上記適用例に係るラム波型デバイスにおいて、前記励振電極は櫛歯状電極であり、前記櫛歯状電極の両側に反射器を有することが好ましい。
【0015】
この構成によれば、ラム波型デバイスは、櫛歯状電極における櫛歯部の幅および配置ピッチにより、ラム波の波長の設定が容易に行える。即ち、圧電基板に応じた波長のラム波を容易に励振することが可能である。さらに、このラム波型デバイスは、反射器を有し、反射器は、櫛歯状電極で励振されたラム波を反射して共振させる。これにより、ラム波型デバイスは、高周波のラム波を共振することが可能である。
【0016】
[適用例6]本適用例に係るラム波型デバイスの製造方法は、ラム波を励振するためのラム波型デバイスに関し、圧電基板の片側の面に保持膜を形成する膜形成ステップと、前記保持膜に支持基板を接合する接合ステップと、前記圧電基板を薄く加工する薄板化ステップと、前記圧電基板の面に励振電極を形成する電極形成ステップと、前記圧電基板および前記保持膜を介して前記励振電極と対向して位置するキャビティー部を前記支持基板に設けるキャビティー部設置ステップと、を有することを特徴とする。
【0017】
このラム波型デバイスの製造方法によれば、圧電基板に、まず、膜形成ステップによる保持膜と、接合ステップによる支持基板と、が形成され、薄板化ステップへ進む。薄板化ステップでは、圧電基板が保持膜と支持基板とによって補強された状態で加工されるため、圧電基板を所定の薄板に加工しても、その加工中において、不均一な板厚になることや、割れおよび欠け等の欠陥発生を防止することが可能である。そして、次の電極形成ステップによる励振電極の形成、およびキャビティー部設置ステップによるキャビティー部の設置も、圧電基板の欠陥発生等を防止して安定した加工が行える。このような製造方法により、ラム波型デバイスの圧電基板には、励振電極が形成されている面と反対側の面に保持膜および支持基板を有し、支持基板には、励振電極と対向してキャビティー部である凹部が設けられている。つまり、圧電基板は、その厚さが薄くても、保持膜と支持基板とによって、耐衝撃性の低下が抑制されている。ここで、励振電極によって励振されるラム波は、圧電基板の内部を表裏面で反射を繰り返して伝搬するため、高周波のラム波を効率的に励振するには、圧電基板の厚さをできるだけ薄く、且つ均一な厚さにする必要がある。これに対応して、ラム波型デバイスは、励振電極の位置する部分において、保持膜により圧電基板が補強されている構成である。即ち、保持膜が圧電基板の耐衝撃性の低下を抑制していることにより、圧電基板の厚さを、保持膜が無い場合に比べて薄くすることが可能となる。このような製造方法によるラム波型デバイスは、ラム波の高周波化に対応した薄板の圧電基板を有し、キャビティー部に位置する励振電極によって、高周波のラム波を効率的且つ確実に励振することが可能である。
【0018】
[適用例7]上記適用例に係るラム波型デバイスの製造方法において、前記膜形成ステップで形成する前記保持膜は金属膜であり、前記キャビティー部設置ステップで形成する前記キャビティー部は前記励振電極と対向する領域が前記励振電極の領域と同等以上の面積であることが好ましい。
【0019】
この方法によれば、膜形成ステップで形成する保持膜が金属膜であれば、膜厚を厚くしなくても耐衝撃性の高い保持膜が形成でき、圧電基板を薄板化しても、その耐衝撃性の低下を抑制することが可能である。さらに、この金属膜の形成により、ラム波型デバイスは、圧電基板の圧電効果を利用して電気振動を機械振動に変換する場合の効率を示す値である、電気機械結合係数が増加する効果も有し、高周波のラム波をより効率的に励振することが可能となる。また、キャビティー部設置ステップで形成したキャビティー部により、励振電極の領域は、圧電基板の保持膜側において、支持基板とは対向しておらず、保持膜のみと対向している。これにより、ラム波型デバイスは、ラム波が支持基板の拘束を受けない圧電基板の部分で励振するため、ラム波の伝搬速度にバラツキが生じにくくなる。即ち、ラム波型デバイスは、圧電基板の圧電効果をほぼ最大限に利用して、より確実に高周波のラム波を励振することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態に係るラム波型共振子の構成を示す平面図。
【図2】ラム波型共振子の構成を示す断面図。
【図3】ラム波型共振子の製造方法を示すフローチャート。
【図4】(a)膜形成ステップを示す断面図、(b)接合ステップを示す断面図、(c)薄板化ステップを示す断面図。
【図5】(d)電極形成ステップを示す断面図、(e)キャビティー部設置ステップを示す断面図。
【図6】ラム波型共振子の変形例の構成を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、ラム波型デバイスおよびその製造方法の実施形態について、図面に従って説明する。この場合、ラム波型デバイスは、水晶等の圧電材の厚みを従来より薄くすることが可能な構成であることを特徴とし、本実施形態ではラム波型共振子を具体的な一例として示す。なお、図面において、各部品の縮尺等は、理解しやすいように、適宜変更して描いてある。
(実施形態)
【0022】
図1は、本実施形態に係るラム波型共振子の構成を示す平面図であり、図2は、ラム波型共振子の構成を示す断面図である。図2は、図1に示すA−A'の断面を表している。まず、図1に示すように、ラム波型共振子(ラム波型デバイス)1は、矩形形状をなす圧電基板である水晶基板2と、水晶基板2の一方の面(片側の面)のほぼ中央に形成された櫛歯状電極(励振電極)3と、櫛歯状電極3の両側に形成された反射器4と、櫛歯状電極3から延在して形成され櫛歯状電極3へ駆動電圧を印加するための電極パッド5と、を有している。
【0023】
また、櫛歯状電極3は、櫛歯状をなす複数本の電極指31aを有する第1電極31と、同じく櫛歯状をなす複数本の電極指32aを有する第2電極32と、により構成されている。そして、電極指31aのそれぞれは、ピッチPが3μmで形成され、電極指32aも同様にピッチPが3μmで形成されている。加えて、電極指31aと電極指32aとは、それぞれが1本毎交互に間挿された配置となっている。そして、ラム波型共振子1は、第1電極31と連なり水晶基板2の一辺に沿って角部まで延在している電極パッド5aと、第2電極32と連なり水晶基板2に対し電極パッド5aと対角位置の角部まで延在している電極パッド5bと、を有している。さらに、ラム波型共振子1は、櫛歯状電極3に対して、電極指31aおよび電極指32aが交互に配置されている方向の一方の側に形成された反射器4aと、他方の側に形成された反射器4bと、を有している。反射器4aおよび反射器4bは、電極指31a,32abと同様な指を、電極指31a,32aと平行な配置で、それぞれ複数本ずつ有している。これら櫛歯状電極3、反射器4および電極パッド5は、アルミニウム(Al)を蒸着して形成されている。
【0024】
次に、図2に示すように、一方の面に櫛歯状電極3等が形成されている水晶基板2の他方の面には、保持膜としての金属膜6と、水晶基板2との間に金属膜6を挟持してラム波型共振子1を支持している支持基板7と、が形成されている。金属膜6は、化学的に安定な金(Au)膜であって、スパッタリング法により、厚さJが0.1μmに形成されていて、水晶基板2が薄板化されることによる耐衝撃性の低下を抑制する役目を果たしている。なお、ラム波型共振子1においては、水晶基板2がいわゆるATカットされた水晶であり、厚さHが15μmに薄板化されている。そして、支持基板7は、シリコン(Si)基板であって、金属膜6の金(Au)と共晶結合されていて、櫛歯状電極3および反射器4の領域より広い領域を有するキャビティー部8が形成されている。このキャビティー部8は、支持基板7のシリコン(Si)をエッチングして形成され、水晶基板2および金属膜6を介して、櫛歯状電極3および反射器4と対向して位置している。即ち、櫛歯状電極3および反射器4が形成されている位置における、水晶基板2の他方の面側には、金属膜6のみが形成されている。
【0025】
このような構成のラム波型共振子1は、電極パッド5に駆動電圧が印加されると、ATカットの水晶基板2において、櫛歯状電極3により水晶基板2の一方の面と他方の面との間で反射を繰り返して伝搬するラム波が励振される。励振されたラム波は、弾性表面波等に比べて位相速度が速いため、その周波数を高くすることができる特徴を有している。そして、このラム波は、波長λが電極指31aおよび電極指32aのピッチPに相当しており、反射器4a,4bの方向へ伝搬し、さらに、反射器4において反射する。ここで、既知のように、水晶基板2の厚さHは、(2H/λ≦10、即ちH/λ≦5)の関係から、ラム波の波長λの5波長以下の値の場合において、効率よく励振することが知見されている。ラム波型共振子1における(H/λ)を算出すると、15/3=5となり、この条件に該当する。従って、ラム波型共振子1は、櫛歯状電極3により、効率良くラム波が励振され、反射器4による反射によって共振するため、高周波信号を安定して生成することができる。
【0026】
また、ラム波型共振子1は、金属膜6を形成することにより、電気機械結合係数が増加する効果も知見されている。電気機械結合係数は、水晶基板等の圧電基板による圧電効果を利用して、電気振動を機械振動に変換する場合の効率を示す値であって、ラム波等の励振の効率に比例する係数である。この電気機械結合係数の増加効果により、ラム波型共振子1は、高周波のラム波をより効率的に励振することができる。そして、ラム波型共振子1は、金属膜6と電極パッド5との間の静電容量を利用して、周波数をコントロールすることもできる。つまり、電極パッド5の面積を変えて静電容量を変化させることができ、例えば静電容量を高くすれば、周波数をより安定させること等が可能である。
【0027】
次に、ラム波型共振子1の製造方法について説明する。図3は、ラム波型共振子の製造方法を示すフローチャートである。まず、ステップS1において、水晶基板2に金属膜(保持膜)6であるAu膜を形成する。このステップS1は、膜形成ステップに該当し、図4(a)は、膜形成ステップを示す断面図である。図4(a)に示すように、Au膜の形成は、水晶基板2の片側の面(他方の面)へスパッタリング法により、0.1μmの厚さJとなるように形成されている。Au膜は、化学的に安定した材料であり、後加工における熱や化学処理等の影響を受けにくく、且つ、長期的に腐食等の劣化の発生もほとんどない。その上、Au膜は金属膜6であって、水晶基板2の強度を補完し、耐衝撃性の低下等を抑制する効果を奏する。Au膜を形成した後、ステップS2へ進む。
【0028】
ステップS2において、水晶基板2と支持基板7とを接合する。このステップS2は、接合ステップに該当し、図4(b)は、接合ステップを示す断面図である。図4(b)に示すように、支持基板7は、水晶基板2との間にAu膜の金属膜6を挟持するようにして、Au膜に接合されている。この支持基板7は、シリコンの板であって、Au膜と共晶結合により接合されている。シリコン(Si)と金(Au)とが共晶結合する温度である共晶点は、363℃であり、この温度以上による熱処理によって、支持基板7と金属膜6のAu膜とを接合する。共晶結合されたシリコン(Si)と金(Au)とは、機械的強度が高く、剥離しにくい。そのため、支持基板7は、Au膜を介して水晶基板2を支持することにより、水晶基板2の耐衝撃性の低下等をほぼ抑制することができる。支持基板7を接合した後、ステップS3へ進む。
【0029】
ステップS3において、水晶基板2を薄板化する。このステップS3は、薄板化ステップに該当し、図4(c)は、薄板化ステップを示す断面図である。図4(c)に示すように、水晶基板2において、金属膜6および支持基板7が設けられている面と反対側の面(一方の面)を研磨して、厚さHが15μmの薄板にする。研磨加工は、研磨液を供給しつつ砥石で水晶基板2を研削する湿式研磨で行う。研磨加工では、水晶基板2が金属膜6と支持基板7とによって支持されているため、加工応力による水晶基板2の割れや欠け等がほとんど発生せず、水晶基板2をより確実に薄板化することができる。また、水晶基板2を薄板にするときに、基板曲がり等の変形が発生しないため、水晶基板2を均一な厚さHに加工することができる。なお、水晶基板2の薄板加工は、湿式研磨の他に、乾式研磨、ドライエッチング、ウエットエッチングおよびこれらを組み合わせた加工で行うことも可能である。水晶基板2の薄板加工後、ステップS4へ進む。
【0030】
ステップS4において、水晶基板2へ櫛歯状電極3、反射器4および電極パッド5を形成する。このステップS4は、電極形成ステップに該当し、図5(d)は、電極形成ステップを示す断面図である。図5(d)に示すように、ステップS3で研磨加工した水晶基板2の面へ、フォトリソグラフィーにより、櫛歯状電極3、反射器4および電極パッド5を形成する。詳細には、まず、研磨加工した水晶基板2の面へアルミニウム(Al)を全面に蒸着する。次に、蒸着したアルミニウム(Al)の全面を覆うようにレジストを塗布し露光する。このレジストの塗布は、例えば、アルミニウム(Al)の全面へネガレジスト剤をスピンコートによって塗布して、オーブン炉で焼成する。また、露光は、ネガレジスト剤を覆うようにガラスマスクをセットし、ネガレジストに対して紫外線を露光する。ガラスマスクは、櫛歯状電極3、反射器4および電極パッド5の部分に配置された透過部と、透過部以外の遮光部と、を有し、透過部では紫外線が透過し、遮光部では紫外線が遮られる。ネガレジスト剤は、紫外線の露光された透過部に対向する部分が硬化する。次に、レジストを現像液によって現像すると、紫外線の露光によって硬化した部分は、現像によって溶解されないが、紫外線の露光されなかった部分は、現像によって溶解される。従って、現像後は、櫛歯状電極3、反射器4および電極パッド5が形成される部分のみに、レジストが残った状態となっている。
【0031】
そして、レジストが形成されていない部分のアルミニウム(Al)を、エッチングにより除去する。レジストが形成されている部分は、アルミニウム(Al)がエッチングで除去されずに凸状に残る。このようなエッチングにより、レジストで覆われた状態の櫛歯状電極3、反射器4および電極パッド5を形成することができる。このエッチング後に、櫛歯状電極3、反射器4および電極パッド5を覆って残っているレジストを除去する。こうして、櫛歯状電極3、反射器4および電極パッド5が形成される。櫛歯状電極3、反射器4および電極パッド5の形成後、ステップS5へ進む。
【0032】
ステップS5において、支持基板7にキャビティー部8を設置する。このステップS5は、キャビティー部設置ステップに該当し、図5(e)は、キャビティー部設置ステップを示す断面図である。図5(e)に示すように、キャビティー部8は、水晶基板2および金属膜6を介して櫛歯状電極3および反射器4と対向する位置に設置されている。平面視すれば、図1に示すように、キャビティー部8の領域は、櫛歯状電極3および反射器4が形成されている領域より広い面積となっている。このキャビティー部8は、支持基板7のシリコン(Si)を水酸化カリウム(KOH)によりエッチングして形成される。エッチング加工は、まず、レジストによりキャビティー部8以外の部分を、櫛歯状電極3、反射器4および電極パッド5を含めて覆う。つまり、レジストに覆われていない部分は、支持基板7において、Au膜に接合した面と反対側の面に存在している。そして、エッチングにより、Au膜に達するまでシリコン(Si)を除去すると、支持基板7に凹状部が形成される。最後に、レジストを除去すれば、この凹状部がキャビティー部8として支持基板7に設置される。以上で、ラム波型共振子1が完成し、フローが終了する。
【0033】
以下、実施形態におけるラム波型共振子1およびその製造方法の効果をまとめて記載する。
【0034】
(1)ラム波型共振子1は、水晶基板2が金属膜6と支持基板7とによって補強された構成であるため、水晶基板2を所定の薄板に加工する時の薄板化ステップにおいて、水晶の割れや欠け等の欠陥発生を防止することができる。これにより、ラム波型共振子1は、均一な厚さHの水晶基板2を有することができ、高周波のラム波を励振することが可能である。
【0035】
(2)ラム波型共振子1は、キャビティー部8を有しているため、櫛歯状電極3および反射器4は、水晶基板2を介して支持基板7とは対向しておらず、金属膜6のみと対向している。つまり、キャビティー部8の領域は、櫛歯状電極3および反射器4の領域より広い同等以上の面積となっている。これにより、ラム波型共振子1は、水晶基板2の内部を伝搬するラム波が、支持基板7の拘束を受けないキャビティー部8に位置する水晶基板2の薄板部において励振されるため、ラム波の伝搬速度にバラツキが生じにくくなり、安定した高周波のラム波をより確実に励振することができる。
【0036】
(3)ラム波型共振子1は、キャビティー部8において、金属膜6が水晶基板2の耐衝撃性の低下を抑制する構成となっているため、水晶基板2をより薄板化することができる。また、ラム波型共振子1は、金属膜6の形成により、電気機械結合係数が増加する効果も有し、高周波のラム波をより効率的に励振することができる。
【0037】
(4)保持膜として、化学的に安定し後加工における熱や化学処理等の影響を受けにくいAu膜の金属膜6を用いること、および、支持基板7として、金(Au)と機械的強度の高い共晶結合をするシリコン(Si)を用いることにより、水晶基板2は、製造工程を含め、長期にわたり安定して支持され、高い信頼性を維持できる。
【0038】
(5)ラム波型共振子1は、キャビティー部8だけでなく支持基板7と水晶基板2との間にも金属膜6を有することにより、金属膜6と電極パッド5との間の静電容量を利用することができ、電極パッド5の面積を変えて静電容量を変化させ、周波数をより安定させる等のコントロールが行える。
【0039】
(6)水晶基板2は、水晶単体において、耐衝撃性と、均一な厚さHと、の双方を確保するために、100μm程度の厚さHが薄板化の限度であった。これに対し、金属膜6および支持基板7を設けることにより、本実施形態における15μm厚の水晶基板2が得られ、さらに、3μm厚も可能である旨の知見が得られている。
【0040】
また、ラム波型デバイスおよびラム波型デバイスの製造方法は、上記の実施形態に限定されるものではなく、次に挙げる変形例のような形態であっても、実施形態と同様な効果が得られる。
【0041】
(変形例1)支持基板7は、シリコン(Si)を用いているが、シリコン(Si)に限定されることなく、ガラス、水晶、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウムおよびニオブ酸カリウムを用いても良い。また、保持膜は、Au膜に限定されず、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)等であっても良い。保持膜としては、これら金属膜6の方がより好ましいが、金属以外であっても良い。さらに、圧電基板は、水晶を用いているが、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウムおよびニオブ酸カリウムを用いても良い。これらにより、圧電基板に適した保持膜および支持基板7が幅広く選定できると共に、保持膜と支持基板7との接合方法についても、共晶結合の他、イオン移動による陽極接合や、原子拡散を利用した拡散結合等、保持膜と支持基板7とに適した方法が活用できる。
【0042】
(変形例2)ステップS1の膜形成ステップは、水晶基板2の全面にAu膜を形成しているが、キャビティー部8が形成される領域部分にのみAu膜を形成しても良い。但し、Au膜の形成領域およびキャビティー部8の設置領域の位置を決めるために、高度なアライメントが必要である。また、ステップS1の膜形成ステップは、ステップS5のキャビティー部設置ステップの後に行っても良い。但し、キャビティー部8の凹部の底部にAu膜を形成するため、膜厚を均一に形成することが本実施形態に比べ困難である、という課題を有している。
【0043】
(変形例3)ラム波型共振子1は、水晶基板2の厚さHが15μm、櫛歯状電極3の電極指31a,32aのピッチPが3μm、Au膜の厚さJが0.1μmの設定であるが、これは一例であって、励振するラム波に応じて、適宜、設定を変更しても良い。
【0044】
(変形例4)電極パッド5は、図1に示すように、櫛歯状電極3から延伸し水晶基板2の角部まで延在する構成に限定されない。図6は、ラム波型共振子の変形例の構成を示す平面図である。図6に示すように、櫛歯状電極3の直近に、電極パッド50(50a,50b)を設ける構成であっても良い。これにより、金属膜6と電極パッド50との間の静電容量を、金属膜6と電極パッド5との間の静電容量に対し異なる値へ変化させて、ラム波型共振子1の周波数等の特性をコントロールすることができる。
【0045】
(変形例5)櫛歯状電極3、反射器4および電極パッド5は、蒸着したアルミニウム(Al)であるが、アルミニウム(Al)以外のクロム(Cr)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)等やこれらを積層して形成しても良い。また、櫛歯形状等に形成する方法は、エッチングに限定されず、櫛歯状電極3、反射器4および電極パッド5を形成する領域以外の部分にレジストを塗布し、レジストの塗布されていない部分へアルミニウム(Al)等を蒸着等で形成する方法を用いても良い。
【0046】
(変形例6)ラム波型共振子1は、反射器4を有する構成であるが、これら反射器4を有しない、いわゆる端面反射型の構成であっても良い。
【0047】
(変形例7)Au膜等の保持膜および支持基板7を有する構成のラム波型デバイスは、ラム波型共振子1への適用に限定されず、フィルターや、発振回路を備えた発振器等を含め、圧電基板の薄板化が好ましい各種デバイスへの適用が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1…ラム波型デバイスとしてのラム波型共振子、2…圧電基板としての水晶基板、3…励振電極としての櫛歯状電極、4…反射器、5…電極パッド、6…保持膜としての金属膜、7…支持基板、8…キャビティー部、31…第1電極、31a…電極指、32…第2電極、32a…電極指、50…電極パッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラム波を励振するためのラム波型デバイスであって、
圧電基板と、
前記圧電基板の一方の面に形成された励振電極と、
前記圧電基板の他方の面に形成された保持膜と、
前記保持膜に接合された支持基板と、
前記支持基板に設けられ前記圧電基板および前記保持膜を介して前記励振電極と対向して位置するキャビティー部と、を有することを特徴とするラム波型デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載のラム波型デバイスにおいて、
前記保持膜は、金属膜であることを特徴とするラム波型デバイス。
【請求項3】
請求項1または2に記載のラム波型デバイスにおいて、
前記支持基板は、シリコン、水晶、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、ニオブ酸カリウムおよびガラスのいずれかであることを特徴とするラム波型デバイス。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のラム波型デバイスにおいて、
前記キャビティー部は、前記励振電極と対向する領域が前記励振電極の領域と同等以上の面積であることを特徴とするラム波型デバイス。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のラム波型デバイスにおいて、
前記励振電極は、櫛歯状電極であり、前記櫛歯状電極の両側に反射器を有することを特徴とするラム波型デバイス。
【請求項6】
ラム波を励振するためのラム波型デバイスの製造方法であって、
圧電基板の片側の面に保持膜を形成する膜形成ステップと、
前記保持膜に支持基板を接合する接合ステップと、
前記圧電基板を薄く加工する薄板化ステップと、
前記圧電基板の面に励振電極を形成する電極形成ステップと、
前記圧電基板および前記保持膜を介して前記励振電極と対向して位置するキャビティー部を前記支持基板に設けるキャビティー部設置ステップと、を有することを特徴とするラム波型デバイスの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のラム波型デバイスの製造方法において、
前記膜形成ステップで形成する前記保持膜は金属膜であり、前記キャビティー部設置ステップで形成する前記キャビティー部は前記励振電極と対向する領域が前記励振電極の領域と同等以上の面積であることを特徴とするラム波型デバイスの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−66590(P2011−66590A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214151(P2009−214151)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】