ラム波型高周波共振子
【課題】 高周波化を可能とし、周波数温度特性が優れ、且つ、製造コストを低減できるラム波型高周波共振子を提供する。
【解決手段】 ラム波型高周波共振子1は、水晶基板10の一方の主面にラム波を励振させるための櫛歯状のIDT電極20を備えたラム波型高周波共振子であって、前記水晶基板10の切り出し角度及び前記ラム波の伝搬方向が、オイラー角表示で(0、θ、0)になるようにIDT電極20が形成され、水晶基板10の厚みtと、波長λとの関係が、0<t/λ≦3で表される範囲内に設定され、この範囲において6つの領域が設定され、そのうちの第1領域では、角度θが132.8度≦θ≦178度、t/λが1.1≦t/λ≦3の範囲に設定されている。
【解決手段】 ラム波型高周波共振子1は、水晶基板10の一方の主面にラム波を励振させるための櫛歯状のIDT電極20を備えたラム波型高周波共振子であって、前記水晶基板10の切り出し角度及び前記ラム波の伝搬方向が、オイラー角表示で(0、θ、0)になるようにIDT電極20が形成され、水晶基板10の厚みtと、波長λとの関係が、0<t/λ≦3で表される範囲内に設定され、この範囲において6つの領域が設定され、そのうちの第1領域では、角度θが132.8度≦θ≦178度、t/λが1.1≦t/λ≦3の範囲に設定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラム波型高周波共振子に関し、詳しくは、オイラー角(0、θ、0)で表される水晶基板と伝搬方向、IDT電極から構成されるラム波型高周波共振子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高周波共振子としては、レイリー波(Rayleigh wave)、SH波を用いる弾性表面波素子や、ラム波(Lamb wave)を用いたラム波型共振子が代表される。それらの基板としては、レイリー波のSTカット水晶、SH波のSTWカット水晶が採用され、また、ラム波を用いた高周波共振子としてATカット水晶が採用されている。
【0003】
例えば、STカット水晶と呼ばれる水晶基板の表面において、Z’軸方向にIDT電極が形成されたレイリー波型弾性表面波素子が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、SH波型弾性表面波素子として、STWカット水晶、つまり、STカット水晶に対して弾性表面波の伝搬方向を90度ずらした横波を伝搬する弾性表面波素子も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
さらに、ATカット水晶基板の表面にIDT電極を形成し、水晶基板内部を伝搬するバルク波(体積波)が、水晶基板の上下面で反射を繰り返して伝搬するラム波を用いる方式の共振子において、この水晶基板の厚みHと、ラム波の波長λとが、0<2H/λ≦10で表されるラム波型高周波共振子が知られている(例えば、非特許文献2、及び特許文献2参照)。
【0006】
【非特許文献1】信学技報 TECHNIALCALREPORT OF IEICE.US99−20(199−06)37頁〜42頁、「有限要素法を用いた弾性表面波の周波数―温度特性解析」、神名重男
【非特許文献2】第33回EMシンポジウム2004、第93〜96頁、「ラム波型弾性表面波素子用基板」中川恭彦、百瀬雅之、垣尾省司
【特許文献1】特開平10−233645号公報(第3〜6頁、図1)
【特許文献2】特開2003−258596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような非特許文献1によれば、温度範囲−40℃〜90℃の範囲で、周波数温度変動量が140ppm程度であり、弾性表面波素子としては優れた周波数温度特性を示すが、高精度が要求される共振子としては十分とはいえない。また、位相速度の理論値が約3100m/s程度とされ、高周波帯域には対応が困難とされている。
【0008】
また、特許文献1によれば、この弾性表面波装置は、SH波を利用した端面反射型表面波装置であって、温度範囲−40℃〜90℃の範囲で周波数温度変動量が254ppmとなり、周波数温度特性は、前述のSTカット水晶よりも悪いということが知られている。また、電極材料としてアルミニウムに比べ密度が大きいタンタルやタングステンを用い、周波数温度特性を改善しているが、電気抵抗損が大きくなり、さらに、位相速度が減少してしまうというような課題がある。
【0009】
また、特許文献2によれば、水晶基板の厚みが弾性波の波長に対し5波長以下のATカット水晶基板を用いることにより、周波数温度特性が優れ、高周波化に適するとされているが、非特許文献2によれば、二次温度係数が、前述のSTカット水晶と同等であることを示し、温度範囲−40℃〜90℃における周波数温度特性は320ppm程度であり、STカット水晶よりも良好であるとはいえず、まだ、満足できるものとはいえない。
【0010】
本発明の目的は、前述の課題を解決することを要旨とし、高周波化を可能とし、周波数温度特性が優れ、且つ、製造コストを低減できるラム波型高周波共振子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のラム波型高周波共振子は、水晶基板の一方の主面にラム波を励振させるための櫛歯状のIDT電極を備えたラム波型高周波共振子であって、前記水晶基板の切り出し角度及び前記ラム波の伝搬方向が、オイラー角表示で(0、θ、0)になるように前記IDT電極が形成されていることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、水晶基板の上下面で反射を繰り返して伝搬するラム波を用いており、高周波化が可能であり、また、水晶基板とラム波の伝搬方向が、オイラー角(0、θ、0)で形成されるため、カット角が単純で水晶基板が製造し易く、製造コスト低減が可能である。
【0013】
また、本発明では、前記水晶基板の厚みをt、前記ラム波の波長をλとしたとき、厚みtと、波長λとの関係が、0<t/λ≦3で表される範囲に設定されていることが好ましい。
ここで、t/λは、規格化基板厚みと呼称されている。
【0014】
詳しくは後述する実施の形態において説明するが、オイラー角(0、θ、0)の水晶基板は、複数の振動モードを有している。水晶基板の厚みが増すとそれらの各モードの周波帯域が近づいてくるためモード結合が起こり易いが、ここで、規格化基板厚みt/λを3以下の適正値に設定することで、モードの結合が起こりにくくなり、単一モードを選択することができ、周波数特性が安定すると共に、高周波対応が可能になるという効果がある。
【0015】
また、角度θが、132.8度≦θ≦178度で表される範囲において、前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、1.1≦t/λ≦3で表される範囲に設定されることが望ましい。
【0016】
また、前記角度θが、4度≦θ≦57.5度で表される範囲において、前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、2.08≦t/λ≦2.82で表される範囲に設定されることが望ましい。
【0017】
また、前記角度θが、6度≦θ≦33度で表される範囲において、前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、0.975≦t/λ≦2.025で表される範囲に設定されることが望ましい。
【0018】
また、前記角度θが、35度≦θ≦47.2度で表される範囲において、前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、0.176≦t/λ≦1.925で表される範囲に設定されることが望ましい。
【0019】
また、前記角度θが、2.7度≦θ≦16度で表される範囲において、前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、2.878≦t/λ≦3で表される範囲に設定されることが望ましい。
【0020】
さらに、前記角度θが、116度≦θ≦122.1度で表される範囲において、前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、0.375≦t/λ≦1.06で表される範囲に設定されることが望ましい。
【0021】
詳しくは、後述する実施の形態で説明するが、ラム波型高周波共振子の周波数温度特性、周波数帯域、励振の安定性は、水晶基板の切り出し角と弾性波の伝搬方向、つまりオイラー角(0、θ、0)における角度θと、基板厚みtと、波長λとから律せられる。それぞれを前述のような関係式とすることで、前述した従来技術のSTWカット水晶、STカット水晶に比べ優れた周波数温度特性と、高周波帯域への対応が可能となり、また、水晶基板の励振の効率を表す電気機械結合係数(K2)を高めることができるので、励振し易く、安定した周波数特性をもつラム波型高周波共振子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1〜図3は本発明の実施形態1に係るラム波型高周波共振子を示している。図4、図5には、位相速度と規格化基板厚みt/λ及びオイラー角(0,θ,0)におけるθとの関係、図6には、周波数温度偏差と温度との関係、図7は、本発明のラム波型高周波共振子が実現可能な領域を示す説明図である。また、図8〜図11は、その第1領域の特性、図12,13は第2領域の特性、図14,15は第3領域、図16〜図23は第4領域、図24,25は第5領域、図26〜図33は第6領域の特性を示すグラフである。
(実施形態1)
【0023】
図1、図2には本発明に係る実施形態のラム波型高周波共振子が示されている。図1は、概略構造を示す斜視図、図2は、図1のA−A切断面を示す断面図である。図1、図2において、このラム波型高周波共振子1は、水晶基板10と、水晶基板10の一方の主面に形成される櫛歯形状のIDT電極20から構成されている。
【0024】
水晶基板10は、表面の切り出し角及びラム波の伝搬方向が、オイラー角(0、θ、0)で表される範囲になるように設定されている。この水晶基板10の厚みtは、伝搬されるラム波の波長をλとしたときに、規格化基板厚みt/λは、0<t/λ≦3で表される範囲に設定されている。
【0025】
櫛歯形状のIDT電極20は、アルミニウム電極からなり、水晶基板10の表面に、水晶基板のX軸方向に反射器25、入力IDT電極21とGND(グランド)IDT電極22、反射器26の順で形成、構成されている。
【0026】
入力IDT電極21とGNDIDT電極22とは、相互に電極指片が間挿するように形成され、例えば、電極指片の幅がλ/4、電極指片間の幅がλ/4となるように形成されている。従って、入力IDT電極21を例示して説明すると、電極指片21Aと電極指片21Bとのピッチはλで設定される。反射器25,26の電極指片も同様な関係で設定されている。
【0027】
入力IDT電極21に所定の周波数で入力される駆動信号によって、水晶基板10が励振されるが、この励振された弾性波は、水晶基板10のX軸方向に向かって、水晶基板10の表裏の面内を反射しながら伝搬していく。このように伝搬される弾性波をラム波と呼称している。そして、反射器25,26によって反射される。したがって、入力IDT電極21の外端の電極指片(図中、左端)と反射器25との距離、及び入力IDT電極21の外端の電極指片(図中、右端)との間隔は、(1/2)nλ(nは整数)に設定され、反射波が、所定の周波数で、駆動信号と位相が一致するように設定されている。
【0028】
図3には、水晶基板10の切り出し方位が示されている。水晶基板10は、電気軸と呼ばれるX軸、機械軸と呼ばれるY軸、光学軸と呼ばれるZ軸の面で構成される薄板であるが、本実施形態における水晶基板10の切り出し方位は、厚み方向のZ軸をZ’まで角度θだけ回転させた回転Yカット水晶であり、図中、長手方向がX軸、幅方向がY’、厚み方向がZ’となるように切り出されている。
【0029】
続いて、本実施の形態に係る主要パラメータの理論値について、それぞれ関係する要因との関係をグラフに表し説明する。
図4は、規格化基板厚みt/λと位相速度との関係の一部を示すグラフである。図4において、横軸にはt/λ、縦軸には位相速度(m/s)が示されている。ここでは、オイラー角(0,140,0)のラム波型高周波共振子を例示している。図4によれば、このラム波型高周波共振子には、複数のモードが存在していることが示され、規格化基板厚みt/λが大きくなるに従い、各モードにおける位相速度が位相速度3000(m/s)〜6000(m/s)の範囲で集約されており、特に5000(m/s)〜6000(m/s)の範囲では密集している。
【0030】
このようにモードが密集している場合には、モード結合が起こりやすく、所望のモードが得られない、または、位相速度が変動しやすいことが考えられる。そこで、t/λ≦3に設定することで、モード結合のしやすい範囲を回避することができる。
【0031】
また、このグラフによれば、t/λが小さいほど位相速度が高まる傾向が示され、t/λ≦3においては、位相速度が6000(m/s)以上のモードが多数存在している。位相速度は周波数と波長の積によって表されるため、このラム波型高周波共振子が高周波に対応可能であることを示している。
【0032】
次に、位相速度とオイラー角(0、θ、0)との関係について説明する。
図5は、位相速度と角度θと規格化基板厚みt/λとの関係を示したグラフである。図5において、横軸には角度θが、縦軸には位相速度が示されている。ここで、規格化基板厚みt/λを0.5〜4までの間を7種類のt/λに設定し、各t/λにおける位相速度の理論値を示す。
【0033】
図5によれば、t/λの値が0.8より小さい場合には、角度θが大きくなるに従い位相速度が高くなり、t/λが1.2よりも大きい場合には、角度θが大きくなるに従い位相速度が低くなる傾向を示している。
【0034】
しかし、どの規格化基板厚みにおいても、オイラー角(0、θ、0)が、グラフで示されている角度θの範囲において、STW型において限界とされている位相速度5000m/sよりも高い位相速度が得られ、また、t/λが0.8以下においては、高周波領域とされる7000m/s以上の位相速度が得られることを示している。
【0035】
次に、本実施形態のラム波型高周波共振子の周波数温度特性について図面を参照して説明する。
図6は、温度と共振周波数との関係を示すグラフである。図6において、横軸には、温度(単位:℃)、縦軸には、温度25℃のときの周波数を中心周波数とした場合の周波数温度偏差(単位:ppm)が表されている。本実施形態によるθ=140度のラム波型高周波共振子と、前述した従来技術のSTカット水晶(以降、単にST型と表す)、及びSTWカット水晶(以降、単にSTW型と表す)からなるレイリー波、SH型弾性表面波素子と、ATカット水晶(以降、単にAT型と表す)からなるラム波型共振子の−40℃〜90℃までの範囲の周波数温度偏差を比較する。
【0036】
図6から、−40℃〜90℃の温度範囲において、本実施形態によるラム波型高周波共振子(図中、ラム波(θ=140°))の周波数温度変動量が30ppmと最も小さく周波数温度特性が良いことを示している。また、ST型、STW型、本実施形態によるラム波型高周波共振子1が、周波数温度偏差の変化が表される2次曲線の最も周波数が高い位置(頂点温度)が、実使用環境における標準温度の20℃近傍にあることに対し、AT型(図中、ラム波(ATカット))では、−25℃付近にあり、周波数温度変動量が大きいということに加えて、使用しにくいということが予測される。
【0037】
本実施形態によるラム波型高周波共振子1の周波数温度偏差、位相速度(周波数帯域)は、水晶基板の切り出し角とオイラー角(0、θ、0)における角度θと、基板厚みtと、波長λとから律せられる。ここで、本発明において達成すべき位相速度、周波数温度特性を得る領域を理論的に算出した領域を示す。
図7は、本発明のラム波型高周波共振子が実現可能な特性を有する領域を表す説明図である。横軸をオイラー角、縦軸にt/λを、本発明において実現すべき特性として位相速度が5000m/s、−40℃以上+90℃以下の範囲内における周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さい250ppm以下、そして、水晶基板の励振の効率を表す電気機械結合係数(K2)が0.02%以上を得る複数の領域(第1領域〜第6領域)が得られた。
【0038】
ここで、オイラー角またはt/λの値が近接している範囲に異なる領域が存在している。例えば、図7に表す第2領域、第3領域、第4領域、第5領域である。これらの領域の境界では、振動モードの結合ができやすい領域が存在することが予測され、第2領域〜第5領域がそれぞれ独立して存在する。
続いて、上述したそれぞれの領域について図面を参照して説明する。
【0039】
図8は、第1領域のラム波型高周波共振子1の周波数温度変動量とオイラー角(0,θ,0)における角度θの関係を示すグラフである。このグラフでは、本実施形態をt/λ=2.2の場合を例示している。図8において、横軸に角度θ、縦軸に周波数温度変動量が表されている。このグラフでは、比較のためST型、STW型共の周波数温度変動量を示しているがST型の周波数温度変動量は、140ppm程度であり、また、STW型は254ppm程度であり、必ずしも満足できる水準とはいえない。
【0040】
この第1領域では、周波数温度変動量は角度θによって変動しているが、STW型よりも小さくするためには、132.8度≦θ≦178度の範囲に設定すればよく、ST型よりも小さくするためには、133.5度≦θ≦177.5度の範囲に設定すればよいことが示されている。
【0041】
続いて、−40℃〜90℃の範囲における周波数温度変動量と水晶基板の厚みとの関係について説明する。水晶基板の厚みは、前述したようにラム波の周波数との関係で律するため、規格化基板厚みt/λとして表す。
図9は、第1領域におけるラム波型高周波共振子の周波数温度変動量と規格化基板厚みt/λ(以降、単にt/λで表すことがある)の関係を示すグラフである。このグラフでは、本実施形態を角度θ=140度の場合を例示している。図9において、横軸にt/λ、縦軸に周波数温度変動量が表されている。
【0042】
周波数温度変動量は、t/λによって変動しているが、この第1領域では、STW型よりも小さくするためには、1.1≦t/λ≦3の範囲に設定すればよく、ST型よりも小さくするためには、1.1≦t/λ≦2.9の範囲に設定すればよいことが示されている。
【0043】
次に、本実施形態によるラム波型高周波共振子の電気機械結合係数K2と角度θ、t/λとの関係について説明する。
図10は、電気機械結合係数K2とオイラー角(0、θ、0)における角度θとの関係を示すグラフである。図10において、横軸にはオイラー角(0、θ、0)が、縦軸には電気機械結合係数K2(単位:%)が表されている。ここで、t/λが1〜3の範囲において、7種類のt/λの値を設定し、各厚みでの電気機械結合係数K2の理論値を示す。
【0044】
なお、電気機械結合係数K2は、水晶基板表面を電気的に開放したときの位相速度をVf、水晶基板表面を電気的に短絡したときの位相速度をVsとして、K2=2(Vf−Vs)/Vfで表され、K2の値が大きいほど励振しやすいということは周知である。
【0045】
図10によれば、まず、水晶基板の厚みtが薄いほど電気機械結合係数K2が大きくなることが示されている。また、角度θが小さくなるに従い電気機械結合係数K2が大きくなる傾向があることも示されている。ここで、前述した角度θと周波数温度変動量との関係(図8、参照)を参考にして、角度θの範囲を130度〜180度の範囲において、設定した各t/λの値において、電気機械結合係数K2が0.02%以上の値を得る角度θが得られるポイントが存在している。電気機械結合係数K2が0.02%以上において、本実施形態によるラム波型高周波共振子は十分な励振特性を得ることができる。
【0046】
次に、本実施形態によるラム波型高周波共振子の電気機械結合係数K2と規格化基板厚みt/λとの関係について説明する。
図11は、電気機械結合係数K2とt/λとの関係を示すグラフである。図11において、横軸にはt/λが、縦軸には電気機械結合係数K2(単位:%)が表されている。ここで、角度θを130度〜180度までの範囲を10度毎に分割した6種類を設定し、各角度θの電気機械結合係数K2の理論値を示す。
【0047】
図11によれば、まず、角度θが小さいほど電気機械結合係数K2が大きくなる傾向があることが示されている。また、t/λが小さくなるに従い電気機械結合係数K2が大きくなる傾向があることも示されている。ここで、前述したt/λと周波数温度変動量との関係(図9、参照)を参考にして、t/λの範囲をSTW型よりも周波数温度変動量が概ね良好な範囲1.1≦t/λ≦3の範囲を設定し、この範囲において、角度θが130度〜180度の範囲では、電気機械結合係数K2が、0.02以上となるポイントが存在していることを示している。
【0048】
続いて、第2領域について説明する。
図12,13は、第2領域における周波数温度変動量とオイラー角(0、θ、0)における角度θの関係、及び周波数温度変動量とt/λの関係を示すグラフである。ここで、STWカット水晶よりも周波数温度特性がよい(周波数温度変動量が小さい)オイラー角(0、θ、0)におけるθの範囲は4度≦θ≦57.5度であり、t/λの範囲は2.08≦t/λ≦2.82である。
【0049】
次に、第3領域について説明する。
図14,15は、第3領域における周波数温度変動量とオイラー角(0、θ、0)における角度θの関係、及び周波数温度変動量とt/λの関係を示すグラフである。第3領域では、STWカット水晶よりも周波数温度特性がよいθの範囲は6度≦θ≦33度であり、t/λの範囲は0.975≦t/λ≦2.025である。
【0050】
ここで、図示及び詳細な説明は省略するが、第2領域及び第3領域において、上述のオイラー角及びt/λの範囲においても、位相速度5000m/s以上、電気機械結合係数K2が、0.02以上となるポイントが存在する。
【0051】
次に、第4領域について図16〜図23を参照して説明する。
図16,17は、第4領域における周波数温度変動量とオイラー角(0、θ、0)における角度θの関係、及び周波数温度変動量とt/λの関係を示すグラフである。第4領域では、STWカット水晶よりも周波数温度特性がよい角度θの範囲は35度≦θ≦47.2度であり、t/λの範囲は0.176≦t/λ≦1.925である。
さらに、この第4領域における角度θ及びt/λと位相速度、周波数温度変動量、電気機械結合係数K2それぞれの関係について詳しく説明する。
【0052】
図18に、オイラー角(0、θ、0)における角度θと位相速度との関係を示す。ここで、t/λを0.2〜2.0まで6段階に設定し、それぞれのt/λにおける位相速度をグラフで示している。図18から、t/λ=2.0の場合を除いた全ての場合に、各t/λにおいて、角度θが30度〜50度の範囲で、5000m/s以上の位相速度を得ることができる。
【0053】
また、図19に、t/λと位相速度との関係を示す。オイラー角(0、θ、0)における角度θを30度〜50度まで5段階に設定し、それぞれの角度θにおける位相速度をグラフで示している。図19から、各角度θにおいて位相速度のばらつきは小さく、t/λが0.2〜2の大部分の範囲で5000m/s以上の位相速度を得ることができる。
【0054】
次に、オイラー角、t/λと、位相速度、周波数温度変動量、電気機械結合係数K2との関係について説明する。
図20に、オイラー角(0、θ、0)における角度θと位相速度と周波数温度変動量との関係を示す。ここで、t/λを1.7としている。図20から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいθの範囲は、35度≦θ≦47.2度であり(図16も参照する)、この範囲において位相速度5000m/s以上が得られることを示している。
【0055】
図21にオイラー角と電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示す。図21から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいオイラー角(0、θ、0)における角度θの範囲は、35度≦θ≦47.2度であり(図16も参照する)、この範囲において電気機械結合係数K2は、基準としている0.02を大きく上回っている。角度θの範囲が32.5度≦θ≦47.2度の場合は、電気機械結合係数K2が0.03以上となり、角度θの範囲が34.2度≦θ≦47.2度の場合は、電気機械結合係数K2が0.04以上となり、さらに、角度θの範囲が36度≦θ≦47.2度の場合は、電気機械結合係数K2が0.05以上となった。
【0056】
図22にt/λと位相速度と周波数温度変動量との関係を示す。図22から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいt/λの範囲は、0.176≦t/λ≦1.925であり(図17も参照する)、この範囲において位相速度は大部分の範囲で5000m/s以上が得られる。このt/λの範囲では、t/λが小さいほど位相速度が高くなり、高周波帯域が得られる。
次に、t/λと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係をみる。
【0057】
図23にt/λと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示す。図23から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいt/λの範囲は、0.176≦t/λ≦1.925であり(図17,22も参照する)、この範囲においては電気機械結合係数K2は大部分の範囲で0.02以上が得られる。このt/λが1に近い範囲では、電気機械結合係数K2が0.05以上の高い領域が得られる。
【0058】
続いて、第5領域について図24,25を参照して説明する。
図24,25は、第5領域における周波数温度変動量とオイラー角(0、θ、0)における角度θの関係、及び周波数温度変動量とt/λの関係を示すグラフである。第5領域では、STWカット水晶よりも周波数温度特性がよい角度θの範囲は2.7度≦θ≦16度であり、t/λの範囲は2.878≦t/λ≦3である。
【0059】
続いて、第6領域について図26〜図33を参照して説明する。
図26,27は、第6領域における周波数温度変動量とオイラー角(0、θ、0)における角度θの関係、及び周波数温度変動量とt/λの関係を示すグラフである。第6領域では、STWカット水晶よりも周波数温度特性がよい角度θの範囲は116度≦θ≦122.1度であり、t/λの範囲は0.375≦t/λ≦1.06である。
さらに、この第6領域における角度θ及びt/λと、位相速度、周波数温度変動量、電気機械結合係数K2それぞれの関係について詳しく説明する。
【0060】
図28に、オイラー角(0、θ、0)における角度θと位相速度との関係を示す。ここで、t/λを0.2〜1.2まで5段階に設定し、それぞれのt/λにおける位相速度をグラフで示している。図28から、各t/λにおいて、角度θが110度〜130度の範囲で、5000m/s以上の位相速度を得ることができる。
【0061】
また、図29に、t/λと位相速度との関係を示す。オイラー角の角度θを110度〜130度まで5段階に設定し、それぞれの角度θにおける位相速度をグラフで示している。図29から、各角度θにおいて位相速度のばらつきは小さく、t/λが0.2〜1.2の範囲で5000m/s以上の位相速度を得ることができる。t/λが0.4より小さい領域では、極めて高い位相速度が得られる。
【0062】
次に、オイラー角、t/λと、位相速度、周波数温度変動量、電気機械結合係数K2との関係について説明する。
図30に、オイラー角(0、θ、0)における角度θと位相速度と周波数温度変動量との関係を示す。図30から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さい角度θの範囲は、116度≦θ≦122.1度であり(図26も参照する)、この範囲において位相速度5000m/s以上が得られることを示している。
【0063】
図31にオイラー角と電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示す。図31から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいオイラー角(0、θ、0)における角度θの範囲は、116度≦θ≦122.1度であり、この範囲において電気機械結合係数K2は、0.05以上となり、基準としている0.02を大きく上回っており、励振しやすい領域であるといえる。
【0064】
図32にt/λと位相速度と周波数温度変動量との関係を示す。図32から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいt/λの範囲は、0.375≦t/λ≦1.06であり(図17も参照する)、この範囲において位相速度は大部分の範囲で5000m/s以上が得られる。このt/λの範囲では、t/λが小さいほど位相速度が高くなり、高周波帯域が得られる。
次に、t/λと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係をみる。
【0065】
図33にt/λと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示す。図33から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいt/λの範囲は、0.375≦t/λ≦1.06であり(図27も参照する)、この範囲においては電気機械結合係数K2の範囲で0.02以上が得られる領域を有している。0.62≦t/λ≦1.06の場合は、電気機械結合係数K2が0.03以上となり、0.67≦t/λ≦1.06の場合は、電気機械結合係数K2が0.04以上となり、0.71≦t/λ≦1.06の場合は、電気機械結合係数K2が0.05以上となった。
【0066】
従って、前述の実施形態によれば、図4において示すように、規格化基板厚みt/λを3以下の適正値に設定すれば、モードの結合が起こりにくくなり、安定した位相速度領域のラム波を選択することができるという効果がある。
また、このグラフから、規格化基板厚みt/λを3以下に設定することにより、位相速度5000m/s以上の高周波領域のモードが多数存在し、所望の位相速度(周波数)を選択的に得ることが可能である。
【0067】
また、本実施形態によれば、従前のST型のレイリー波、STW型のSH波による共振子、AT型のラム波による共振子に比べ、温度変化に対する周波数温度変動量が小さく、良好な温度特性を有するラム波型高周波共振子を提供することができる。また、周波数温度偏差の頂点温度が常温とされる20℃近傍にあるため、実使用上において、優れた温度特性を得ることができる。
【0068】
また、前述した第1領域〜第6領域において、周波数温度変動量をSTW型よりも小さくすることができ、良好な周波数温度特性を得ることができ、さらに、電気機械結合係数K2を高く設定でき励振しやすいラム波型高周波共振を提供することができる。
【0069】
また、本発明では、水晶基板が、オイラー角(0、θ、0)で形成されるため、カット角が単純であり、また、角度θ及び規格化基板厚みt/λの幅が広く設定でき、所望の周波数帯域において、所望の温度特性、周波数特性を選択的に設定することができるので、製造し易く、また、歩留まりを高めることができ、製造コストの低減が可能となるという効果がある。
【0070】
前述した6つの領域それぞれにおいて、高周波領域の位相速度、良好な周波数温度特性、高い電気機械結合係数K2を得ることができるが、特に、第1領域では、上述した条件を満たすオイラー角(0、θ、0)における角度θの範囲及びt/λの範囲を広い範囲で得ることが可能となり、製造上からの選択肢が拡がる。
【0071】
また、第4領域では、高い位相速度(高周波)領域と、高い電気機械結合係数K2を得ることができ、第6領域では、高い電気機械結合係数K2を得ることができる。
【0072】
本発明では、以上説明したように、オイラー角の角度θとt/λで各特性が律せられるが、その目標とする特性及び製造条件に対応して前述した第1領域〜第6領域の範囲で任意に選択して、所望の優れた特性を有するラム波型高周波共振子を提供することができる。
【0073】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前述の実施形態では、反射器25,26を備えているが、これらの反射器を備えない端面反射型の構成とすることができる。
【0074】
従って、前述の実施形態によれば、高周波化を可能とし、周波数温度特性が優れ、且つ、製造コストを低減できるラム波型高周波共振子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施形態に係るのラム波型高周波共振子の概略構造を示す斜視図。
【図2】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子の図1のA−A切断面を示す断面図。
【図3】本発明の実施形態に係る水晶基板の切り出し方位を示す説明図。
【図4】本発明の実施形態に係る規格化基板厚みt/λと位相速度との関係の一部を示すグラフ。
【図5】本発明の実施形態に係る位相速度と角度θと規格化基板厚みt/λとの関係を示すグラフ。
【図6】本発明の実施形態に係る温度と周波数温度偏差との関係を示すグラフ。
【図7】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子が実現可能な領域を示す説明図。
【図8】本発明の実施形態に係る第1領域のオイラー角と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図9】本発明の実施形態に係る第1領域のt/λと周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図10】本発明の実施形態に係る第1領域のオイラー角と電気機械結合係数K2との関係を示すグラフ。
【図11】本発明の実施形態に係る第1領域のt/λと電気機械結合係数K2との関係を示すグラフ。
【図12】本発明の実施形態に係る第2領域のオイラー角と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図13】本発明の実施形態に係る第2領域のt/λと周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図14】本発明の実施形態に係る第3領域のオイラー角と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図15】本発明の実施形態に係る第3領域のt/λと周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図16】本発明の実施形態に係る第4領域のオイラー角と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図17】本発明の実施形態に係る第4領域のt/λと周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図18】本発明の実施形態に係る第4領域のオイラー角と位相速度との関係を示すグラフ。
【図19】本発明の実施形態に係る第4領域のt/λと位相速度との関係を示すグラフ。
【図20】本発明の実施形態に係る第4領域のオイラー角と位相速度と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図21】本発明の実施形態に係る第4領域のオイラー角と電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図22】本発明の実施形態に係る第4領域のt/λと位相速度と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図23】本発明の実施形態に係る第4領域のt/λと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図24】本発明の実施形態に係る第5領域のオイラー角と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図25】本発明の実施形態に係る第5領域のt/λと周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図26】本発明の実施形態に係る第6領域のオイラー角と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図27】本発明の実施形態に係る第6領域のt/λと周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図28】本発明の実施形態に係る第6領域のオイラー角とt/λと位相速度との関係を示すグラフ。
【図29】本発明の実施形態に係る第6領域のt/λとオイラー角と位相速度との関係を示すグラフ。
【図30】本発明の実施形態に係る第6領域のオイラー角と位相速度と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図31】本発明の実施形態に係る第6領域のオイラー角と電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図32】本発明の実施形態に係る第6領域のt/λと位相速度と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図33】本発明の実施形態に係る第6領域のt/λと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0076】
1…ラム波型高周波共振子、10…水晶基板、20…IDT電極、21…入力IDT電極、22…GNDIDT電極、25,26…反射器。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラム波型高周波共振子に関し、詳しくは、オイラー角(0、θ、0)で表される水晶基板と伝搬方向、IDT電極から構成されるラム波型高周波共振子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高周波共振子としては、レイリー波(Rayleigh wave)、SH波を用いる弾性表面波素子や、ラム波(Lamb wave)を用いたラム波型共振子が代表される。それらの基板としては、レイリー波のSTカット水晶、SH波のSTWカット水晶が採用され、また、ラム波を用いた高周波共振子としてATカット水晶が採用されている。
【0003】
例えば、STカット水晶と呼ばれる水晶基板の表面において、Z’軸方向にIDT電極が形成されたレイリー波型弾性表面波素子が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、SH波型弾性表面波素子として、STWカット水晶、つまり、STカット水晶に対して弾性表面波の伝搬方向を90度ずらした横波を伝搬する弾性表面波素子も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
さらに、ATカット水晶基板の表面にIDT電極を形成し、水晶基板内部を伝搬するバルク波(体積波)が、水晶基板の上下面で反射を繰り返して伝搬するラム波を用いる方式の共振子において、この水晶基板の厚みHと、ラム波の波長λとが、0<2H/λ≦10で表されるラム波型高周波共振子が知られている(例えば、非特許文献2、及び特許文献2参照)。
【0006】
【非特許文献1】信学技報 TECHNIALCALREPORT OF IEICE.US99−20(199−06)37頁〜42頁、「有限要素法を用いた弾性表面波の周波数―温度特性解析」、神名重男
【非特許文献2】第33回EMシンポジウム2004、第93〜96頁、「ラム波型弾性表面波素子用基板」中川恭彦、百瀬雅之、垣尾省司
【特許文献1】特開平10−233645号公報(第3〜6頁、図1)
【特許文献2】特開2003−258596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような非特許文献1によれば、温度範囲−40℃〜90℃の範囲で、周波数温度変動量が140ppm程度であり、弾性表面波素子としては優れた周波数温度特性を示すが、高精度が要求される共振子としては十分とはいえない。また、位相速度の理論値が約3100m/s程度とされ、高周波帯域には対応が困難とされている。
【0008】
また、特許文献1によれば、この弾性表面波装置は、SH波を利用した端面反射型表面波装置であって、温度範囲−40℃〜90℃の範囲で周波数温度変動量が254ppmとなり、周波数温度特性は、前述のSTカット水晶よりも悪いということが知られている。また、電極材料としてアルミニウムに比べ密度が大きいタンタルやタングステンを用い、周波数温度特性を改善しているが、電気抵抗損が大きくなり、さらに、位相速度が減少してしまうというような課題がある。
【0009】
また、特許文献2によれば、水晶基板の厚みが弾性波の波長に対し5波長以下のATカット水晶基板を用いることにより、周波数温度特性が優れ、高周波化に適するとされているが、非特許文献2によれば、二次温度係数が、前述のSTカット水晶と同等であることを示し、温度範囲−40℃〜90℃における周波数温度特性は320ppm程度であり、STカット水晶よりも良好であるとはいえず、まだ、満足できるものとはいえない。
【0010】
本発明の目的は、前述の課題を解決することを要旨とし、高周波化を可能とし、周波数温度特性が優れ、且つ、製造コストを低減できるラム波型高周波共振子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のラム波型高周波共振子は、水晶基板の一方の主面にラム波を励振させるための櫛歯状のIDT電極を備えたラム波型高周波共振子であって、前記水晶基板の切り出し角度及び前記ラム波の伝搬方向が、オイラー角表示で(0、θ、0)になるように前記IDT電極が形成されていることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、水晶基板の上下面で反射を繰り返して伝搬するラム波を用いており、高周波化が可能であり、また、水晶基板とラム波の伝搬方向が、オイラー角(0、θ、0)で形成されるため、カット角が単純で水晶基板が製造し易く、製造コスト低減が可能である。
【0013】
また、本発明では、前記水晶基板の厚みをt、前記ラム波の波長をλとしたとき、厚みtと、波長λとの関係が、0<t/λ≦3で表される範囲に設定されていることが好ましい。
ここで、t/λは、規格化基板厚みと呼称されている。
【0014】
詳しくは後述する実施の形態において説明するが、オイラー角(0、θ、0)の水晶基板は、複数の振動モードを有している。水晶基板の厚みが増すとそれらの各モードの周波帯域が近づいてくるためモード結合が起こり易いが、ここで、規格化基板厚みt/λを3以下の適正値に設定することで、モードの結合が起こりにくくなり、単一モードを選択することができ、周波数特性が安定すると共に、高周波対応が可能になるという効果がある。
【0015】
また、角度θが、132.8度≦θ≦178度で表される範囲において、前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、1.1≦t/λ≦3で表される範囲に設定されることが望ましい。
【0016】
また、前記角度θが、4度≦θ≦57.5度で表される範囲において、前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、2.08≦t/λ≦2.82で表される範囲に設定されることが望ましい。
【0017】
また、前記角度θが、6度≦θ≦33度で表される範囲において、前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、0.975≦t/λ≦2.025で表される範囲に設定されることが望ましい。
【0018】
また、前記角度θが、35度≦θ≦47.2度で表される範囲において、前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、0.176≦t/λ≦1.925で表される範囲に設定されることが望ましい。
【0019】
また、前記角度θが、2.7度≦θ≦16度で表される範囲において、前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、2.878≦t/λ≦3で表される範囲に設定されることが望ましい。
【0020】
さらに、前記角度θが、116度≦θ≦122.1度で表される範囲において、前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、0.375≦t/λ≦1.06で表される範囲に設定されることが望ましい。
【0021】
詳しくは、後述する実施の形態で説明するが、ラム波型高周波共振子の周波数温度特性、周波数帯域、励振の安定性は、水晶基板の切り出し角と弾性波の伝搬方向、つまりオイラー角(0、θ、0)における角度θと、基板厚みtと、波長λとから律せられる。それぞれを前述のような関係式とすることで、前述した従来技術のSTWカット水晶、STカット水晶に比べ優れた周波数温度特性と、高周波帯域への対応が可能となり、また、水晶基板の励振の効率を表す電気機械結合係数(K2)を高めることができるので、励振し易く、安定した周波数特性をもつラム波型高周波共振子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1〜図3は本発明の実施形態1に係るラム波型高周波共振子を示している。図4、図5には、位相速度と規格化基板厚みt/λ及びオイラー角(0,θ,0)におけるθとの関係、図6には、周波数温度偏差と温度との関係、図7は、本発明のラム波型高周波共振子が実現可能な領域を示す説明図である。また、図8〜図11は、その第1領域の特性、図12,13は第2領域の特性、図14,15は第3領域、図16〜図23は第4領域、図24,25は第5領域、図26〜図33は第6領域の特性を示すグラフである。
(実施形態1)
【0023】
図1、図2には本発明に係る実施形態のラム波型高周波共振子が示されている。図1は、概略構造を示す斜視図、図2は、図1のA−A切断面を示す断面図である。図1、図2において、このラム波型高周波共振子1は、水晶基板10と、水晶基板10の一方の主面に形成される櫛歯形状のIDT電極20から構成されている。
【0024】
水晶基板10は、表面の切り出し角及びラム波の伝搬方向が、オイラー角(0、θ、0)で表される範囲になるように設定されている。この水晶基板10の厚みtは、伝搬されるラム波の波長をλとしたときに、規格化基板厚みt/λは、0<t/λ≦3で表される範囲に設定されている。
【0025】
櫛歯形状のIDT電極20は、アルミニウム電極からなり、水晶基板10の表面に、水晶基板のX軸方向に反射器25、入力IDT電極21とGND(グランド)IDT電極22、反射器26の順で形成、構成されている。
【0026】
入力IDT電極21とGNDIDT電極22とは、相互に電極指片が間挿するように形成され、例えば、電極指片の幅がλ/4、電極指片間の幅がλ/4となるように形成されている。従って、入力IDT電極21を例示して説明すると、電極指片21Aと電極指片21Bとのピッチはλで設定される。反射器25,26の電極指片も同様な関係で設定されている。
【0027】
入力IDT電極21に所定の周波数で入力される駆動信号によって、水晶基板10が励振されるが、この励振された弾性波は、水晶基板10のX軸方向に向かって、水晶基板10の表裏の面内を反射しながら伝搬していく。このように伝搬される弾性波をラム波と呼称している。そして、反射器25,26によって反射される。したがって、入力IDT電極21の外端の電極指片(図中、左端)と反射器25との距離、及び入力IDT電極21の外端の電極指片(図中、右端)との間隔は、(1/2)nλ(nは整数)に設定され、反射波が、所定の周波数で、駆動信号と位相が一致するように設定されている。
【0028】
図3には、水晶基板10の切り出し方位が示されている。水晶基板10は、電気軸と呼ばれるX軸、機械軸と呼ばれるY軸、光学軸と呼ばれるZ軸の面で構成される薄板であるが、本実施形態における水晶基板10の切り出し方位は、厚み方向のZ軸をZ’まで角度θだけ回転させた回転Yカット水晶であり、図中、長手方向がX軸、幅方向がY’、厚み方向がZ’となるように切り出されている。
【0029】
続いて、本実施の形態に係る主要パラメータの理論値について、それぞれ関係する要因との関係をグラフに表し説明する。
図4は、規格化基板厚みt/λと位相速度との関係の一部を示すグラフである。図4において、横軸にはt/λ、縦軸には位相速度(m/s)が示されている。ここでは、オイラー角(0,140,0)のラム波型高周波共振子を例示している。図4によれば、このラム波型高周波共振子には、複数のモードが存在していることが示され、規格化基板厚みt/λが大きくなるに従い、各モードにおける位相速度が位相速度3000(m/s)〜6000(m/s)の範囲で集約されており、特に5000(m/s)〜6000(m/s)の範囲では密集している。
【0030】
このようにモードが密集している場合には、モード結合が起こりやすく、所望のモードが得られない、または、位相速度が変動しやすいことが考えられる。そこで、t/λ≦3に設定することで、モード結合のしやすい範囲を回避することができる。
【0031】
また、このグラフによれば、t/λが小さいほど位相速度が高まる傾向が示され、t/λ≦3においては、位相速度が6000(m/s)以上のモードが多数存在している。位相速度は周波数と波長の積によって表されるため、このラム波型高周波共振子が高周波に対応可能であることを示している。
【0032】
次に、位相速度とオイラー角(0、θ、0)との関係について説明する。
図5は、位相速度と角度θと規格化基板厚みt/λとの関係を示したグラフである。図5において、横軸には角度θが、縦軸には位相速度が示されている。ここで、規格化基板厚みt/λを0.5〜4までの間を7種類のt/λに設定し、各t/λにおける位相速度の理論値を示す。
【0033】
図5によれば、t/λの値が0.8より小さい場合には、角度θが大きくなるに従い位相速度が高くなり、t/λが1.2よりも大きい場合には、角度θが大きくなるに従い位相速度が低くなる傾向を示している。
【0034】
しかし、どの規格化基板厚みにおいても、オイラー角(0、θ、0)が、グラフで示されている角度θの範囲において、STW型において限界とされている位相速度5000m/sよりも高い位相速度が得られ、また、t/λが0.8以下においては、高周波領域とされる7000m/s以上の位相速度が得られることを示している。
【0035】
次に、本実施形態のラム波型高周波共振子の周波数温度特性について図面を参照して説明する。
図6は、温度と共振周波数との関係を示すグラフである。図6において、横軸には、温度(単位:℃)、縦軸には、温度25℃のときの周波数を中心周波数とした場合の周波数温度偏差(単位:ppm)が表されている。本実施形態によるθ=140度のラム波型高周波共振子と、前述した従来技術のSTカット水晶(以降、単にST型と表す)、及びSTWカット水晶(以降、単にSTW型と表す)からなるレイリー波、SH型弾性表面波素子と、ATカット水晶(以降、単にAT型と表す)からなるラム波型共振子の−40℃〜90℃までの範囲の周波数温度偏差を比較する。
【0036】
図6から、−40℃〜90℃の温度範囲において、本実施形態によるラム波型高周波共振子(図中、ラム波(θ=140°))の周波数温度変動量が30ppmと最も小さく周波数温度特性が良いことを示している。また、ST型、STW型、本実施形態によるラム波型高周波共振子1が、周波数温度偏差の変化が表される2次曲線の最も周波数が高い位置(頂点温度)が、実使用環境における標準温度の20℃近傍にあることに対し、AT型(図中、ラム波(ATカット))では、−25℃付近にあり、周波数温度変動量が大きいということに加えて、使用しにくいということが予測される。
【0037】
本実施形態によるラム波型高周波共振子1の周波数温度偏差、位相速度(周波数帯域)は、水晶基板の切り出し角とオイラー角(0、θ、0)における角度θと、基板厚みtと、波長λとから律せられる。ここで、本発明において達成すべき位相速度、周波数温度特性を得る領域を理論的に算出した領域を示す。
図7は、本発明のラム波型高周波共振子が実現可能な特性を有する領域を表す説明図である。横軸をオイラー角、縦軸にt/λを、本発明において実現すべき特性として位相速度が5000m/s、−40℃以上+90℃以下の範囲内における周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さい250ppm以下、そして、水晶基板の励振の効率を表す電気機械結合係数(K2)が0.02%以上を得る複数の領域(第1領域〜第6領域)が得られた。
【0038】
ここで、オイラー角またはt/λの値が近接している範囲に異なる領域が存在している。例えば、図7に表す第2領域、第3領域、第4領域、第5領域である。これらの領域の境界では、振動モードの結合ができやすい領域が存在することが予測され、第2領域〜第5領域がそれぞれ独立して存在する。
続いて、上述したそれぞれの領域について図面を参照して説明する。
【0039】
図8は、第1領域のラム波型高周波共振子1の周波数温度変動量とオイラー角(0,θ,0)における角度θの関係を示すグラフである。このグラフでは、本実施形態をt/λ=2.2の場合を例示している。図8において、横軸に角度θ、縦軸に周波数温度変動量が表されている。このグラフでは、比較のためST型、STW型共の周波数温度変動量を示しているがST型の周波数温度変動量は、140ppm程度であり、また、STW型は254ppm程度であり、必ずしも満足できる水準とはいえない。
【0040】
この第1領域では、周波数温度変動量は角度θによって変動しているが、STW型よりも小さくするためには、132.8度≦θ≦178度の範囲に設定すればよく、ST型よりも小さくするためには、133.5度≦θ≦177.5度の範囲に設定すればよいことが示されている。
【0041】
続いて、−40℃〜90℃の範囲における周波数温度変動量と水晶基板の厚みとの関係について説明する。水晶基板の厚みは、前述したようにラム波の周波数との関係で律するため、規格化基板厚みt/λとして表す。
図9は、第1領域におけるラム波型高周波共振子の周波数温度変動量と規格化基板厚みt/λ(以降、単にt/λで表すことがある)の関係を示すグラフである。このグラフでは、本実施形態を角度θ=140度の場合を例示している。図9において、横軸にt/λ、縦軸に周波数温度変動量が表されている。
【0042】
周波数温度変動量は、t/λによって変動しているが、この第1領域では、STW型よりも小さくするためには、1.1≦t/λ≦3の範囲に設定すればよく、ST型よりも小さくするためには、1.1≦t/λ≦2.9の範囲に設定すればよいことが示されている。
【0043】
次に、本実施形態によるラム波型高周波共振子の電気機械結合係数K2と角度θ、t/λとの関係について説明する。
図10は、電気機械結合係数K2とオイラー角(0、θ、0)における角度θとの関係を示すグラフである。図10において、横軸にはオイラー角(0、θ、0)が、縦軸には電気機械結合係数K2(単位:%)が表されている。ここで、t/λが1〜3の範囲において、7種類のt/λの値を設定し、各厚みでの電気機械結合係数K2の理論値を示す。
【0044】
なお、電気機械結合係数K2は、水晶基板表面を電気的に開放したときの位相速度をVf、水晶基板表面を電気的に短絡したときの位相速度をVsとして、K2=2(Vf−Vs)/Vfで表され、K2の値が大きいほど励振しやすいということは周知である。
【0045】
図10によれば、まず、水晶基板の厚みtが薄いほど電気機械結合係数K2が大きくなることが示されている。また、角度θが小さくなるに従い電気機械結合係数K2が大きくなる傾向があることも示されている。ここで、前述した角度θと周波数温度変動量との関係(図8、参照)を参考にして、角度θの範囲を130度〜180度の範囲において、設定した各t/λの値において、電気機械結合係数K2が0.02%以上の値を得る角度θが得られるポイントが存在している。電気機械結合係数K2が0.02%以上において、本実施形態によるラム波型高周波共振子は十分な励振特性を得ることができる。
【0046】
次に、本実施形態によるラム波型高周波共振子の電気機械結合係数K2と規格化基板厚みt/λとの関係について説明する。
図11は、電気機械結合係数K2とt/λとの関係を示すグラフである。図11において、横軸にはt/λが、縦軸には電気機械結合係数K2(単位:%)が表されている。ここで、角度θを130度〜180度までの範囲を10度毎に分割した6種類を設定し、各角度θの電気機械結合係数K2の理論値を示す。
【0047】
図11によれば、まず、角度θが小さいほど電気機械結合係数K2が大きくなる傾向があることが示されている。また、t/λが小さくなるに従い電気機械結合係数K2が大きくなる傾向があることも示されている。ここで、前述したt/λと周波数温度変動量との関係(図9、参照)を参考にして、t/λの範囲をSTW型よりも周波数温度変動量が概ね良好な範囲1.1≦t/λ≦3の範囲を設定し、この範囲において、角度θが130度〜180度の範囲では、電気機械結合係数K2が、0.02以上となるポイントが存在していることを示している。
【0048】
続いて、第2領域について説明する。
図12,13は、第2領域における周波数温度変動量とオイラー角(0、θ、0)における角度θの関係、及び周波数温度変動量とt/λの関係を示すグラフである。ここで、STWカット水晶よりも周波数温度特性がよい(周波数温度変動量が小さい)オイラー角(0、θ、0)におけるθの範囲は4度≦θ≦57.5度であり、t/λの範囲は2.08≦t/λ≦2.82である。
【0049】
次に、第3領域について説明する。
図14,15は、第3領域における周波数温度変動量とオイラー角(0、θ、0)における角度θの関係、及び周波数温度変動量とt/λの関係を示すグラフである。第3領域では、STWカット水晶よりも周波数温度特性がよいθの範囲は6度≦θ≦33度であり、t/λの範囲は0.975≦t/λ≦2.025である。
【0050】
ここで、図示及び詳細な説明は省略するが、第2領域及び第3領域において、上述のオイラー角及びt/λの範囲においても、位相速度5000m/s以上、電気機械結合係数K2が、0.02以上となるポイントが存在する。
【0051】
次に、第4領域について図16〜図23を参照して説明する。
図16,17は、第4領域における周波数温度変動量とオイラー角(0、θ、0)における角度θの関係、及び周波数温度変動量とt/λの関係を示すグラフである。第4領域では、STWカット水晶よりも周波数温度特性がよい角度θの範囲は35度≦θ≦47.2度であり、t/λの範囲は0.176≦t/λ≦1.925である。
さらに、この第4領域における角度θ及びt/λと位相速度、周波数温度変動量、電気機械結合係数K2それぞれの関係について詳しく説明する。
【0052】
図18に、オイラー角(0、θ、0)における角度θと位相速度との関係を示す。ここで、t/λを0.2〜2.0まで6段階に設定し、それぞれのt/λにおける位相速度をグラフで示している。図18から、t/λ=2.0の場合を除いた全ての場合に、各t/λにおいて、角度θが30度〜50度の範囲で、5000m/s以上の位相速度を得ることができる。
【0053】
また、図19に、t/λと位相速度との関係を示す。オイラー角(0、θ、0)における角度θを30度〜50度まで5段階に設定し、それぞれの角度θにおける位相速度をグラフで示している。図19から、各角度θにおいて位相速度のばらつきは小さく、t/λが0.2〜2の大部分の範囲で5000m/s以上の位相速度を得ることができる。
【0054】
次に、オイラー角、t/λと、位相速度、周波数温度変動量、電気機械結合係数K2との関係について説明する。
図20に、オイラー角(0、θ、0)における角度θと位相速度と周波数温度変動量との関係を示す。ここで、t/λを1.7としている。図20から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいθの範囲は、35度≦θ≦47.2度であり(図16も参照する)、この範囲において位相速度5000m/s以上が得られることを示している。
【0055】
図21にオイラー角と電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示す。図21から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいオイラー角(0、θ、0)における角度θの範囲は、35度≦θ≦47.2度であり(図16も参照する)、この範囲において電気機械結合係数K2は、基準としている0.02を大きく上回っている。角度θの範囲が32.5度≦θ≦47.2度の場合は、電気機械結合係数K2が0.03以上となり、角度θの範囲が34.2度≦θ≦47.2度の場合は、電気機械結合係数K2が0.04以上となり、さらに、角度θの範囲が36度≦θ≦47.2度の場合は、電気機械結合係数K2が0.05以上となった。
【0056】
図22にt/λと位相速度と周波数温度変動量との関係を示す。図22から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいt/λの範囲は、0.176≦t/λ≦1.925であり(図17も参照する)、この範囲において位相速度は大部分の範囲で5000m/s以上が得られる。このt/λの範囲では、t/λが小さいほど位相速度が高くなり、高周波帯域が得られる。
次に、t/λと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係をみる。
【0057】
図23にt/λと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示す。図23から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいt/λの範囲は、0.176≦t/λ≦1.925であり(図17,22も参照する)、この範囲においては電気機械結合係数K2は大部分の範囲で0.02以上が得られる。このt/λが1に近い範囲では、電気機械結合係数K2が0.05以上の高い領域が得られる。
【0058】
続いて、第5領域について図24,25を参照して説明する。
図24,25は、第5領域における周波数温度変動量とオイラー角(0、θ、0)における角度θの関係、及び周波数温度変動量とt/λの関係を示すグラフである。第5領域では、STWカット水晶よりも周波数温度特性がよい角度θの範囲は2.7度≦θ≦16度であり、t/λの範囲は2.878≦t/λ≦3である。
【0059】
続いて、第6領域について図26〜図33を参照して説明する。
図26,27は、第6領域における周波数温度変動量とオイラー角(0、θ、0)における角度θの関係、及び周波数温度変動量とt/λの関係を示すグラフである。第6領域では、STWカット水晶よりも周波数温度特性がよい角度θの範囲は116度≦θ≦122.1度であり、t/λの範囲は0.375≦t/λ≦1.06である。
さらに、この第6領域における角度θ及びt/λと、位相速度、周波数温度変動量、電気機械結合係数K2それぞれの関係について詳しく説明する。
【0060】
図28に、オイラー角(0、θ、0)における角度θと位相速度との関係を示す。ここで、t/λを0.2〜1.2まで5段階に設定し、それぞれのt/λにおける位相速度をグラフで示している。図28から、各t/λにおいて、角度θが110度〜130度の範囲で、5000m/s以上の位相速度を得ることができる。
【0061】
また、図29に、t/λと位相速度との関係を示す。オイラー角の角度θを110度〜130度まで5段階に設定し、それぞれの角度θにおける位相速度をグラフで示している。図29から、各角度θにおいて位相速度のばらつきは小さく、t/λが0.2〜1.2の範囲で5000m/s以上の位相速度を得ることができる。t/λが0.4より小さい領域では、極めて高い位相速度が得られる。
【0062】
次に、オイラー角、t/λと、位相速度、周波数温度変動量、電気機械結合係数K2との関係について説明する。
図30に、オイラー角(0、θ、0)における角度θと位相速度と周波数温度変動量との関係を示す。図30から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さい角度θの範囲は、116度≦θ≦122.1度であり(図26も参照する)、この範囲において位相速度5000m/s以上が得られることを示している。
【0063】
図31にオイラー角と電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示す。図31から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいオイラー角(0、θ、0)における角度θの範囲は、116度≦θ≦122.1度であり、この範囲において電気機械結合係数K2は、0.05以上となり、基準としている0.02を大きく上回っており、励振しやすい領域であるといえる。
【0064】
図32にt/λと位相速度と周波数温度変動量との関係を示す。図32から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいt/λの範囲は、0.375≦t/λ≦1.06であり(図17も参照する)、この範囲において位相速度は大部分の範囲で5000m/s以上が得られる。このt/λの範囲では、t/λが小さいほど位相速度が高くなり、高周波帯域が得られる。
次に、t/λと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係をみる。
【0065】
図33にt/λと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示す。図33から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいt/λの範囲は、0.375≦t/λ≦1.06であり(図27も参照する)、この範囲においては電気機械結合係数K2の範囲で0.02以上が得られる領域を有している。0.62≦t/λ≦1.06の場合は、電気機械結合係数K2が0.03以上となり、0.67≦t/λ≦1.06の場合は、電気機械結合係数K2が0.04以上となり、0.71≦t/λ≦1.06の場合は、電気機械結合係数K2が0.05以上となった。
【0066】
従って、前述の実施形態によれば、図4において示すように、規格化基板厚みt/λを3以下の適正値に設定すれば、モードの結合が起こりにくくなり、安定した位相速度領域のラム波を選択することができるという効果がある。
また、このグラフから、規格化基板厚みt/λを3以下に設定することにより、位相速度5000m/s以上の高周波領域のモードが多数存在し、所望の位相速度(周波数)を選択的に得ることが可能である。
【0067】
また、本実施形態によれば、従前のST型のレイリー波、STW型のSH波による共振子、AT型のラム波による共振子に比べ、温度変化に対する周波数温度変動量が小さく、良好な温度特性を有するラム波型高周波共振子を提供することができる。また、周波数温度偏差の頂点温度が常温とされる20℃近傍にあるため、実使用上において、優れた温度特性を得ることができる。
【0068】
また、前述した第1領域〜第6領域において、周波数温度変動量をSTW型よりも小さくすることができ、良好な周波数温度特性を得ることができ、さらに、電気機械結合係数K2を高く設定でき励振しやすいラム波型高周波共振を提供することができる。
【0069】
また、本発明では、水晶基板が、オイラー角(0、θ、0)で形成されるため、カット角が単純であり、また、角度θ及び規格化基板厚みt/λの幅が広く設定でき、所望の周波数帯域において、所望の温度特性、周波数特性を選択的に設定することができるので、製造し易く、また、歩留まりを高めることができ、製造コストの低減が可能となるという効果がある。
【0070】
前述した6つの領域それぞれにおいて、高周波領域の位相速度、良好な周波数温度特性、高い電気機械結合係数K2を得ることができるが、特に、第1領域では、上述した条件を満たすオイラー角(0、θ、0)における角度θの範囲及びt/λの範囲を広い範囲で得ることが可能となり、製造上からの選択肢が拡がる。
【0071】
また、第4領域では、高い位相速度(高周波)領域と、高い電気機械結合係数K2を得ることができ、第6領域では、高い電気機械結合係数K2を得ることができる。
【0072】
本発明では、以上説明したように、オイラー角の角度θとt/λで各特性が律せられるが、その目標とする特性及び製造条件に対応して前述した第1領域〜第6領域の範囲で任意に選択して、所望の優れた特性を有するラム波型高周波共振子を提供することができる。
【0073】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前述の実施形態では、反射器25,26を備えているが、これらの反射器を備えない端面反射型の構成とすることができる。
【0074】
従って、前述の実施形態によれば、高周波化を可能とし、周波数温度特性が優れ、且つ、製造コストを低減できるラム波型高周波共振子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施形態に係るのラム波型高周波共振子の概略構造を示す斜視図。
【図2】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子の図1のA−A切断面を示す断面図。
【図3】本発明の実施形態に係る水晶基板の切り出し方位を示す説明図。
【図4】本発明の実施形態に係る規格化基板厚みt/λと位相速度との関係の一部を示すグラフ。
【図5】本発明の実施形態に係る位相速度と角度θと規格化基板厚みt/λとの関係を示すグラフ。
【図6】本発明の実施形態に係る温度と周波数温度偏差との関係を示すグラフ。
【図7】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子が実現可能な領域を示す説明図。
【図8】本発明の実施形態に係る第1領域のオイラー角と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図9】本発明の実施形態に係る第1領域のt/λと周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図10】本発明の実施形態に係る第1領域のオイラー角と電気機械結合係数K2との関係を示すグラフ。
【図11】本発明の実施形態に係る第1領域のt/λと電気機械結合係数K2との関係を示すグラフ。
【図12】本発明の実施形態に係る第2領域のオイラー角と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図13】本発明の実施形態に係る第2領域のt/λと周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図14】本発明の実施形態に係る第3領域のオイラー角と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図15】本発明の実施形態に係る第3領域のt/λと周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図16】本発明の実施形態に係る第4領域のオイラー角と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図17】本発明の実施形態に係る第4領域のt/λと周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図18】本発明の実施形態に係る第4領域のオイラー角と位相速度との関係を示すグラフ。
【図19】本発明の実施形態に係る第4領域のt/λと位相速度との関係を示すグラフ。
【図20】本発明の実施形態に係る第4領域のオイラー角と位相速度と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図21】本発明の実施形態に係る第4領域のオイラー角と電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図22】本発明の実施形態に係る第4領域のt/λと位相速度と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図23】本発明の実施形態に係る第4領域のt/λと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図24】本発明の実施形態に係る第5領域のオイラー角と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図25】本発明の実施形態に係る第5領域のt/λと周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図26】本発明の実施形態に係る第6領域のオイラー角と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図27】本発明の実施形態に係る第6領域のt/λと周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図28】本発明の実施形態に係る第6領域のオイラー角とt/λと位相速度との関係を示すグラフ。
【図29】本発明の実施形態に係る第6領域のt/λとオイラー角と位相速度との関係を示すグラフ。
【図30】本発明の実施形態に係る第6領域のオイラー角と位相速度と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図31】本発明の実施形態に係る第6領域のオイラー角と電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図32】本発明の実施形態に係る第6領域のt/λと位相速度と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図33】本発明の実施形態に係る第6領域のt/λと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0076】
1…ラム波型高周波共振子、10…水晶基板、20…IDT電極、21…入力IDT電極、22…GNDIDT電極、25,26…反射器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶基板の一方の主面にラム波を励振させるための櫛歯状のIDT電極を備えたラム波型高周波共振子であって、
前記水晶基板の切り出し角度及び前記ラム波の伝搬方向が、オイラー角表示で(0、θ、0)になるように前記IDT電極が形成されていることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項2】
請求項1に記載のラム波型高周波共振子において、
前記水晶基板の厚みをt、前記ラム波の波長をλとしたとき、
厚みtと、波長λとの関係が、0<t/λ≦3で表される範囲に設定されていることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項3】
請求項1に記載のラム波型高周波共振子において、
前記角度θが、132.8度≦θ≦178度で表される範囲において、
前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、1.1≦t/λ≦3で表される範囲に設定されることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のラム波型高周波共振子において、
前記角度θが、4度≦θ≦57.5度で表される範囲において、
前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、2.08≦t/λ≦2.82で表される範囲に設定されることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のラム波型高周波共振子において、
前記角度θが、6度≦θ≦33度で表される範囲において、
前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、0.975≦t/λ≦2.025で表される範囲に設定されることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のラム波型高周波共振子において、
前記角度θが、35度≦θ≦47.2度で表される範囲において、
前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、0.176≦t/λ≦1.925で表される範囲に設定されることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載のラム波型高周波共振子において、
前記角度θが、2.7度≦θ≦16度で表される範囲において、
前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、2.878≦t/λ≦3で表される範囲に設定されることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載のラム波型高周波共振子において、
前記角度θが、116度≦θ≦122.1度で表される範囲において、
前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、0.375≦t/λ≦1.06で表される範囲に設定されることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項1】
水晶基板の一方の主面にラム波を励振させるための櫛歯状のIDT電極を備えたラム波型高周波共振子であって、
前記水晶基板の切り出し角度及び前記ラム波の伝搬方向が、オイラー角表示で(0、θ、0)になるように前記IDT電極が形成されていることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項2】
請求項1に記載のラム波型高周波共振子において、
前記水晶基板の厚みをt、前記ラム波の波長をλとしたとき、
厚みtと、波長λとの関係が、0<t/λ≦3で表される範囲に設定されていることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項3】
請求項1に記載のラム波型高周波共振子において、
前記角度θが、132.8度≦θ≦178度で表される範囲において、
前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、1.1≦t/λ≦3で表される範囲に設定されることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のラム波型高周波共振子において、
前記角度θが、4度≦θ≦57.5度で表される範囲において、
前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、2.08≦t/λ≦2.82で表される範囲に設定されることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のラム波型高周波共振子において、
前記角度θが、6度≦θ≦33度で表される範囲において、
前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、0.975≦t/λ≦2.025で表される範囲に設定されることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のラム波型高周波共振子において、
前記角度θが、35度≦θ≦47.2度で表される範囲において、
前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、0.176≦t/λ≦1.925で表される範囲に設定されることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載のラム波型高周波共振子において、
前記角度θが、2.7度≦θ≦16度で表される範囲において、
前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、2.878≦t/λ≦3で表される範囲に設定されることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載のラム波型高周波共振子において、
前記角度θが、116度≦θ≦122.1度で表される範囲において、
前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、0.375≦t/λ≦1.06で表される範囲に設定されることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【公開番号】特開2006−217566(P2006−217566A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292126(P2005−292126)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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