説明

ランキンサイクルシステム

【課題】低温時にも速やかに稼動できるランキンサイクルシステムを提供する。
【解決手段】ランキンサイクルシステム100は、エンジン1の内部に形成され、水と水の沸点よりも沸点が高いLLCとを混合した混合冷媒が内部を通過するウォータジャケットと、エンジン1の廃熱により気相状態となった水からエネルギを回収する膨張器10と、膨張器10を通過した後の純粋を凝縮し液相状態とするコンデンサ12と、混合冷媒が流通し、気相状態又は液相状態の水が通過する回路内に存在する水と混合冷媒とが熱交換を行うように配設された混合冷媒通路19と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランキンサイクルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の稼動に伴う廃熱を回収するランキンサイクルが知られている。このようなランキンサイクルには、例えば、エンジンの水冷冷却系統を密閉構造として沸騰冷却を行うようにし、エンジンにおける廃熱によって気化した冷媒、すなわち蒸気によって蒸気タービンのような膨張器を駆動して、その蒸気の持つ熱エネルギを電気エネルギ等に変換して回収するものがある。このようなランキンサイクルシステムを改良するものとして、例えば特許文献1及び2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−101283号公報
【特許文献2】特開2002−115505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
潜熱が高く、物質的に安定している水は、ランキンサイクルシステムにおいて、冷媒として多く用いられている。しかしながら、外気温によっては水が凍結し、エンジン等の破損につながるおそれがある。そこで、上記特許文献1のランキンサイクルシステムにおいて、冷媒としてLLC(Long
Life Coolant:例えば、エチレングリコール)と水との混合液を用いる場合がある。LLCと水との混合液は、凝固点が水よりも低くなるため、低温(例えば、−30℃)でも冷媒が凍結せず、ランキンサイクルシステムを搭載したエンジンを低温から始動させることが可能となる。
【0005】
しかしながら、LLCと水との混合液を用いた場合でも、低温時には、気相状態又は液相状態の水のみが流通する回路において水が凍結してしまう場合がある。この場合、凍結した水が解凍するまでは、ランキンサイクルが稼動できない。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、低温時にも速やかに稼動できるランキンサイクルシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するために、本明細書開示のランキンサイクルシステムは、内燃機関の内部に形成され、第1の冷媒と前記第1の冷媒の沸点よりも沸点が高い第2の冷媒とを含む混合冷媒が内部を通過する冷却媒体通路と、前記内燃機関の廃熱により気相状態となった前記第1の冷媒からエネルギを回収する廃熱回収手段と、前記廃熱回収手段を通過した後の第1の冷媒を凝縮し液相状態とする凝縮器と、前記混合冷媒が流通し、気相状態又は液相状態の前記第1の冷媒が通過する回路内に存在する第1の冷媒と前記混合冷媒とが熱交換を行うように配設された混合冷媒通路と、を備える。
【0008】
上記構成によれば、回路内の第1の冷媒が凍結した場合でも混合冷媒は凍結しないため、内燃機関の始動が可能となり、内燃機関の暖機が進むにつれて、混合冷媒通路を通過する混合冷媒との熱交換により、凍結していた第1の冷媒を解凍できる。この結果、低温時にも速やかにランキンサイクルを稼動させることができる。
【0009】
また、上記ランキンサイクルシステムは、前記内燃機関の廃熱により気相状態となった前記第1の冷媒を過熱する過熱器と、前記凝縮器によって凝縮され液相状態となった第1の冷媒を前記過熱器に供給する液化冷媒通路と、前記凝縮器によって凝縮され液相状態となった第1の冷媒を前記冷却媒体通路へと回収する冷媒回収通路と、を備え、前記混合冷媒通路は、前記液化冷媒通路及び/又は前記冷媒回収通路内に存在する第1の冷却媒体と、前記混合冷媒とが熱交換を行うように配設される構成としてもよい。
【0010】
上記構成によれば、混合冷媒の濃度を保つために第1の冷媒を冷却媒体通路へと回収する冷媒回収通路、及び、蒸気発生量を増大させ廃熱回収効率を高めるために過熱器に第1の冷媒を供給する冷媒供給通路内に存在する第1の冷媒が解凍される。これにより、ランキンサイクルの稼動に必要となる第1の冷媒を確保できるため、速やかなランキンサイクルの稼動が可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本明細書開示のランキンサイクルシステムによれば、低温時にも速やかに稼動できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施例に係るランキンサイクルシステムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例】
【0014】
本実施例に係るランキンサイクルシステム100の構成について図1を参照しつつ説明する。図1は、ランキンサイクルシステム100の概略構成図である。ランキンサイクルシステム100は、内部で冷媒が沸騰することにより冷却されるエンジン1を備えている。エンジン1は、内燃機関の一例である。エンジン1は、シリンダブロック1aとシリンダヘッド1bを備える。シリンダブロック1a及びシリンダヘッド1b内にはウォータジャケット(冷却媒体通路)が形成されており、このウォータジャケット内の冷媒が沸騰することによってエンジン1の冷却が行われる。このときエンジン1は、蒸気を発生させる。
【0015】
本実施例において、ウォータジャケット内の冷媒は、水(第1の冷媒)とLLC(第2の冷媒)とを混合した混合冷媒である。混合冷媒の沸騰時には、沸点の低い水が蒸気となる。図1においては、混合冷媒を斜線で示し、水を網掛けで示している。なお、水の代わりに純水を用いてもよい。
【0016】
エンジン1は、さらに、排気管2を備える。エンジン1のシリンダヘッド1bには、蒸気通路3の一端が接続されている。
【0017】
蒸気通路3には、気液分離器4が配設されている。エンジン1側から気液混合状態で気液分離器4に流入した混合冷媒は、気液分離器4内で気相(蒸気)と液相(液化混合冷媒)とに分離される。気液分離器4の下端部には、冷媒循環路5の一端が接続されている。この冷媒循環路5の他端はシリンダブロック1aに接続されている。また、冷媒循環路5には、エンジン1内に液化冷媒を圧送する第1ウォーターポンプ6が配設されている。この第1ウォーターポンプ6は、いわゆるメカ式であり、エンジン1が備えるクランクシャフトを駆動源としている。この第1ウォーターポンプ6により、液化混合冷媒が、エンジン1と気液分離器4との間を循環する。
【0018】
また、気液分離器4の内部側壁には液面スイッチ20が備えられている。液面スイッチ20は、水が気化することによって気液分離器4内の混合冷媒の水位が下がり、液面スイッチ20が設置されている水位となった場合に、不図示のECU(Electronic
Control Unit)に信号を出力する。すなわち、水が気化することによって混合冷媒のLLC濃度が高まり予め定めた濃度に達する場合に、液面スイッチ20からECUに信号が出力される。
【0019】
蒸気通路3には、過熱器8が設けられている。下側に蒸発部8aを備え、その上側に過熱部8bを備えている。過熱器8には、排気管2が引き込まれている。排気管2の内部には、エンジン1で発生した排気ガスが流通する。排気管2は、排気ガスが過熱部8b、蒸発部8aの順に通過するように過熱器8を貫通している。排気ガスは、気液分離器4を通過した蒸気と熱交換をする。また、蒸発部8aには、液化冷媒通路7の一端が接続されている。液化冷媒通路7の他端は、後述する第2ウォータポンプ17を介して凝縮水タンク14に接続されている。液化冷媒通路7は、第2ウォータポンプ17が圧送する水を、蒸発部8aに供給する。
【0020】
液化冷媒通路7には電磁バルブ7aが設けられている。この電磁バルブ7aの開閉状態によって、凝縮水タンク14から蒸発部8aへの液相状態の水の供給量が決定される。蒸発部8aに供給された水は、過熱部8bで蒸気を過熱した後の排気ガスの熱によって、蒸気化することができる。これにより、蒸気発生量が増大すると共に、蒸気の過熱度が向上し、廃熱回収効率が向上する。また、エンジン1が暖機されていない場合でも、排気ガスの熱により蒸発部8aに供給された水は蒸気化される。したがって、エンジン1が暖機されず気液分離器4から過熱器8に蒸気が供給されない場合でも、後述する膨張器10に蒸気を供給してランキンサイクルを稼動させることができる。過熱器8の上端部には、蒸気排出管3aが設けられている。蒸気排出管3aの先端部には、ノズル9が設けられている。
【0021】
過熱器8の下流側には、膨張器(廃熱回収手段)10が配設されている。膨張器10は、過熱器8から供給された気化冷媒、すなわち蒸気によって駆動されてエネルギ回収を行う。膨張器10は、ケース10aと、このケース10aに設けられたタービン翼10bとを備えた蒸気タービンである。ノズル9は、蒸気通路3を通じて供給された蒸気がタービン翼10bに向かって噴射されるようにケース10aに取り付けられている。これにより、タービン翼10bは、蒸気通路3を通じて供給された蒸気により回転駆動される。タービン翼10bの回転力は、エンジン1が備えるクランクシャフトの回転を補助したり、発電機を駆動したりする。これにより、廃熱の回収が行われる。
【0022】
膨張器10の下流側には、エネルギを回収された後の冷媒を排出する排出通路11が設けられている。排出通路11の一端は、膨張器10に接続されている。排出通路11の他端は、他端はコンデンサ(凝縮器)12に接続されている。排出通路11は、膨張器10から蒸気を排出し、排出した蒸気をコンデンサ12に導入する。コンデンサ12は、蒸気を冷却することによって凝縮して水を生成する。コンデンサ12は、ファン13による送風を受けて、効率よく蒸気を冷却、凝縮することができる。コンデンサ12の下部にはコンデンサ12において生成された水を貯留する凝縮水タンク14が設置されている。
【0023】
凝縮水タンク14の下流側には、凝縮水タンク14内に一旦貯留された水をエンジン1側へ再循環させる冷媒回収路16が設けられている。冷媒回収路16は、冷媒循環路5の第1ウォーターポンプ6の上流側に接続されている。冷媒回収路16には第2ウォータポンプ17が配設されている。この第2ウォータポンプ17は、電気式のベーンポンプとなっている。第2ウォータポンプ17が稼動状態となると、凝縮水タンク14内の水が冷媒回収路16を経て冷媒循環路5へ供給される。
【0024】
また、第2ウォータポンプ17の下流には、冷媒循環路5へと供給される水の量を調整するための電磁バルブ18が配設されている。不図示のECUの制御によって、電磁バルブ18の開閉は制御される。ECUは、前述した液面スイッチ20から信号を受信すると、第2ウォータポンプ17を稼働させ、ウォータジャケット内の混合冷媒のLLC濃度が所定の範囲内となるように、冷媒循環路5内に水を移送する。これにより、水が蒸気化することによって高まった、ウォータジャケット内の混合冷媒のLLC濃度が、所定の範囲内に維持される。以上のように、ランキンサイクルシステム100は、水が循環する経路を備えている。
【0025】
さらに、本実施例に係るランキンサイクルシステム100は、混合冷媒通路19を備える。エンジン1で暖められた混合冷媒は、混合冷媒通路19の内部を図1の矢印方向に循環する。混合冷媒通路19は、図1に示すように、液化冷媒通路7及び冷媒回収路16内に存在する水と、混合冷媒通路19を通過する混合冷媒とが熱交換を行うように配設されている。外気温が低温(例えば、―30℃)の場合、液化冷媒通路7及び冷媒回収路16内の水は凍結する。しかしながら、ウォータジャケット内の混合冷媒は凍結しないため、エンジン1の始動が可能である。エンジンの暖機が進むと、混合冷媒通路19を流れる混合冷媒(エンジン1によって暖められている)によって、液化冷媒通路7及び冷媒回収路16内で凍結している水が暖められ解凍される。水が解凍されると、ランキンサイクルを稼動させることができる。
【0026】
なお、図1では、混合冷媒通路19は、液化冷媒通路7及び冷媒回収路16内に存在する水と、混合冷媒通路19を通過する混合冷媒とが熱交換を行うように配設されている。しかしながら、混合冷媒通路19は、気相状態又は液相状態の前記第1の冷媒が通過する回路内に存在する第1の冷媒と前記混合冷媒とが熱交換を行うように配設されればよい。ここで、気相状態又は液相状態の前記第1の冷媒が通過する回路とは、図1では、気液分離器4、過熱器8、ノズル9、膨張器10、排出通路11、コンデンサ12、凝縮水タンク14、冷媒回収路16、液化冷媒通路7を含む回路である。
【0027】
以上説明したように、本明細書開示のランキンサイクルシステム100によれば、気相状態又は液相状態の水が通過する回路内に存在する水と混合冷媒とが熱交換を行うように、混合冷媒通路19が設けられる。これにより、回路内の水が凍結した場合でも混合冷媒は凍結しないため、エンジン1の始動が可能となり、エンジンの暖機が進むにつれて、混合冷媒通路19を通過する混合冷媒との熱交換により凍結していた水が解凍される。この結果、低温時にも速やかにランキンサイクル100を稼動させることができる。なお、エンジン始動時に回路内の凍結した水をヒータによって解凍することも考えられるが、ヒータでの解凍には大きな電力が必要となり、コストもかかるため現実的ではない。しかしながら、本実施例によれば、エンジン1によって温められた混合冷媒を凍結した水の解凍に用いることで、低コストで効率的に水の解凍を行うことができる。
【0028】
なお、上述の実施例では、水とLLCとを混合した混合冷媒を用いたランキンサイクルシステムについて説明したが、2つの冷媒の沸点が異なれば、水及びLLC以外の冷媒を混合した混合冷媒を用いてもよい。この場合、凝縮水タンク14には、沸点が低い方の冷媒が貯留される。
【0029】
上記実施例は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらの実施例を種々変形することは本発明の範囲内であり、更に本発明の範囲内において、他の様々な実施例が可能であることは上記記載から自明である。
【符号の説明】
【0030】
1…エンジン
2…排気管
3…蒸気通路
3a…蒸気排出管
4…気液分離器
5…冷媒循環路
6…第1ウォータポンプ(W/P)
7…液化冷媒通路
7a…電磁バルブ
8…過熱器
9…ノズル
10…膨張器
10a…タービンケース
10b…タービン翼
11…排出通路
12…コンデンサ
13…ファン
14…凝縮水タンク
16…冷媒回収路
17…第2ウォータポンプ(W/P)
18…電磁バルブ
19…混合冷媒通路
20…液面スイッチ
100…ランキンサイクルシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の内部に形成され、第1の冷媒と前記第1の冷媒の沸点よりも沸点が高い第2の冷媒とを含む混合冷媒が内部を通過する冷却媒体通路と、
前記内燃機関の廃熱により気相状態となった前記第1の冷媒からエネルギを回収する廃熱回収手段と、
前記廃熱回収手段を通過した後の第1の冷媒を凝縮し液相状態とする凝縮器と、
前記混合冷媒が流通し、気相状態又は液相状態の前記第1の冷媒が通過する回路内に存在する第1の冷媒と前記混合冷媒とが熱交換を行うように配設された混合冷媒通路と、
を備えることを特徴とするランキンサイクルシステム。
【請求項2】
前記内燃機関の廃熱により気相状態となった前記第1の冷媒を過熱する過熱器と、
前記凝縮器によって凝縮され液相状態となった第1の冷媒を前記過熱器に供給する液化冷媒通路と、
前記凝縮器によって凝縮され液相状態となった第1の冷媒を前記冷却媒体通路へと回収する冷媒回収通路と、を備え、
前記混合冷媒通路は、前記液化冷媒通路及び/又は前記冷媒回収通路内に存在する第1の冷却媒体と、前記混合冷媒とが熱交換を行うように配設されることを特徴とする請求項1に記載のランキンサイクルシステム。
【請求項3】
内燃機関の内部に形成され、第1の冷媒と前記第1の冷媒の沸点よりも沸点が高い第2の冷媒とを混合した混合冷媒が内部を通過する冷却媒体通路と、
前記内燃機関の廃熱により気相状態となった前記第1の冷媒を過熱する過熱器と、
前記過熱器を通過した前記第1の冷媒からエネルギを回収する廃熱回収手段と、
前記膨張器を通過した後の第1の冷媒を凝縮し液相状態とする凝縮器と、
前記凝縮器によって液相状態となった前記第1の冷媒を、前記過熱器へと供給する供給手段と、
を備えることを特徴とするランキンサイクルシステム。

【図1】
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【公開番号】特開2012−102646(P2012−102646A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250592(P2010−250592)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】