説明

ランス吊り込み作業用装置およびその装置を用いたランスの吊り込み作業方法

【課題】狭隘な空間での、長尺なランスの吊り下げ作業に好適な、ランスを、クレーンなどで吊り込む際に支持する装置およびその装置を用いたランスの吊り込み作業方法を提供する。
【解決手段】軌道10上を移動する走行台車2と、前記走行台車上に移動可能に設けられたランス支持手段3とを有し、前記走行台車は前記軌道上を移動するための駆動手段11と前記軌道からの浮き上がりを防止する浮き上がり防止手段12と前記ランス支持手段を移動するための駆動手段7を備え、前記ランス支持手段は、前記走行台車の走行方向と直角方向に移動可能とする。ランスの吊り込み方向と略直角方向に敷設した軌道上に、ランス吊り込み作業用装置1を配置し、前記ランス頭部の吊り上げ量に応じて前記ランス吊り込み作業用装置における前記ランスの先端部の位置を移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランスを、クレーンなどで吊り込む際に支持する装置およびその装置を用いたランスの吊り込み作業方法に関し、狭隘な空間での、長尺なランスの吊り下げ作業に好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉は、炉窯口からランスを挿入して保守点検され、炭化室の炉壁補修の場合は、先端に溶射装置を取り付け、炉壁面を観察する場合は、先端に撮像装置や非接触式距離計等が取り付けられる(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0003】
これらの作業に用いられるランスは鋼製パイプのため、大型のコークス炉を保守点検する場合、作業者が人力で操作することは困難で幾つかの提案がなされている。
【0004】
特許文献3は、溶射ランス等を取り付ける作業台の振れおよび転倒を防止する作業台昇降装置に関し、ランスを炉内に挿入するための伸縮ロッドの先端にコークス炉のバックステーのフランジを挟持する挟持ローラを取り付け、作業時に作業台を安定させる機構が開示されている。
【0005】
特許文献4は、特許文献3記載の作業台昇降装置が大型の自動化装置で、強度の弱い作業通路では使用が困難などのために開発されたランス旋回作業台車で、走行台車に回転台を設置し、回転台上にその上部にランスを支持する支持部材を備えたパンタグラフ式のランス昇降装置を備える管機構が開示されている。
【特許文献1】特開2005−330385号公報
【特許文献2】特許第3336192号公報
【特許文献3】特開平8−270206号公報
【特許文献4】特開2005−24234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、真空脱ガス設備の上吹き送酸装置で使用する酸素ランスや、純酸素転炉作業で酸素を吹き込むために使用するランスは、15〜20m程度と長尺であり、その頭部に取り付けた吊り下げ部をクレーンなどで吊って起倒作業を行う。
【0007】
長尺ランスの起倒作業は、作業空間が広い場合は、クレーンなどで吊り下げた頭部の動きを監視すればよいが、作業空間が狭い場合は、周囲の設備と接触破損しないように後先端部の動きも監視しなければならない。作業能率を向上させるためには、作業毎の頭部、先端部の描く軌跡を一定に保つことが有効であるが、特許文献1〜4は短尺のランスを対象とするもので、長尺ランスの起倒作業に関する記載はない。
【0008】
そこで、本発明は長尺ランスの起倒作業(吊り込み)において、当該ランスの頭部および後先端部の描く軌跡が作業毎に同じ軌跡を描くことを可能とする、ランス吊り込み作業用装置およびその装置を用いたランスの吊り込み作業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題は以下の手段で達成可能である。
1.軌道上を移動する走行台車と、前記走行台車上に移動可能に設けられたランス支持手段とを有し、前記走行台車は前記軌道上を移動するための駆動手段と前記軌道からの浮き上がりを防止する浮き上がり防止手段と前記ランス支持手段を移動するための駆動手段を備え、前記ランス支持手段は、前記走行台車の長手方向に移動可能であることを特徴とするランス吊り込み作業用装置。
2.クレーンでランス頭部を吊り下げて起倒作業を行うランスの吊り込み作業方法であって、ランスの吊り込み方向と略直角方向に敷設した軌道上に、1記載のランス吊り込み作業用装置を配置し、前記ランス頭部の吊り上げ量に応じて前記ランス吊り込み作業用装置における前記ランスの先端部の位置を移動させることを特徴とするランスの吊り込み作業方法。
3.ランスの吊り込み方向と略直角方向に敷設した軌道上に、1記載のランス吊り込み作業用装置を配置し、クレーンでランス頭部を吊り下げて起倒作業を行うランスの吊り込み作業方法であって、予め、建屋とランスが接触しないように吊り下げ作業を行い、以下の工程毎の走行台車上でのランス支持台の移動量を求め、次回からの作業は、前記工程毎のランス支持台の移動量が前記移動量となるように天井クレーンでランス頭部を吊り上げることを特徴とするランスの吊り込み作業方法。
1.フック掛け位置で、ランス頭部を吊り上げる工程
2.ランス吊り上げ限界線で、ランス先端を移動させながらランス頭部を吊り上げる工程
但し、ランス先端とは転炉吹錬時の噴出口を言い、ランス頭部とはランス先端の反対面の端面を言う。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長尺ランスの起倒作業における吊り上げ作業において、長尺ランスの頭部、先端の描く軌跡が定まり、作業毎に同じ軌跡を描くので、予め、長尺ランスと建屋が接触しない条件を求めておけば、作業能率が向上され、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を用いて本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例に係るランス吊り込み作業用装置の構成を説明する模式図で、図において、1はランス吊り込み作業用装置、2は走行台車、2aは走行台車2の先端部、3はランス支持手段であるランス支持台、4、5は歯車、6はアタッチメント付きローラーチェーン、7は歯車5を回転させるランス支持台用駆動装置、8は走行台車2を軌道上で走行させるための走行用駆動装置、9はランスを支えるシフト装置、10は軌道、11は走行台車2の車輪、12は走行台車2の軌道10からの浮き上がりを防止する浮き上がり防止手段としての浮き上がり防止部材、73は駆動装置7の駆動力を歯車5に伝達するローラーチェーン、13はランス、13aはランス頭部、14は吊り上げの際、クレーンのフック等をかけるフック用部材、31、32はランス支持台3の走行用車輪、34はランス13をランス支持台3に固定する固定具を示す。
【0012】
図2は図1に示したランス吊り込み作業用装置1の上面図で、図において15はランス支持台用駆動装置7の駆動力を歯車5に伝達する歯車、16は走行用駆動装置8からの駆動力を走行用車輪10に伝達するシャフト、21,22は走行台車2の側方を形成する長尺部材を示す。
【0013】
本発明に係るランス吊り込み作業用装置1は、軌道10上を移動する走行台車2と、走行台車2内を移動するランス支持台3を有する。走行台車2はコの字状断面を有する長尺部材21、22を、開放部をむき合わせて平行に配置して基本的な骨組み構造とし、長尺部材21、22はランス13より長尺とする。
【0014】
長尺部材21、22の先端部は折り曲げ可能な構造とし、狭隘な作業空間で、走行台車2の先端部2aと建屋などとの接触を防止する。また、長尺部材21、22には、ランス13の長さ方向の中間部を支持し、吊り下げなどの際、ランス13をシフトさせるシフト装置9を掛け渡す。シフト装置9は上端部にロールを取り付け、ランス13が前後に移動可能な構造とする。
【0015】
走行台車2は、走行用車輪11と、ランスの吊り下げなどで重心移動が生じた際に軌道10から走行用車輪11が浮き上がり、脱輪が発生することを防止する浮き上がり防止部材12を備える。浮き上がり防止部材12は軌道10の断面形状における凹部にその先端部が入り込むような、例えば、L字型断面形状とする。
【0016】
走行用車輪11は、走行台車2の長手方向に、略等分の間隔で複数配置し、走行用駆動装置8の駆動力がシャフト16で伝達されて回転する。
【0017】
図3は、ランス吊り込み作業用装置1の走行用駆動系の構成を説明する図で、長尺部材21、22の部材軸と直角方向からの側面図を示す。走行用駆動装置8の走行手動ハンドル81を手動で回転させて発生させた駆動力は歯車82、ローラチェーン83で駆動されるシャフトに取り付けた走行用車輪11に伝達される。
【0018】
走行用車輪11と浮き上がり防止部材12は走行台車2の走行方向となる前後に配置され、長尺部材21、22の下方に取り付けられる。浮き上がり防止部材12を走行用車輪11の軸受けも兼ねる構造とする走行系が簡略な構造となり好ましい。
【0019】
走行台車2は、ランス13を搭載するランス支持台3を備え、ランス支持台3は走行台車2の長尺部材21、22の其々の前後端に取り付けた歯車4、5に巻きかけられる2条のアタッチメント付きローラチェーン6のアタッチメント(図示しない)に取り付けられる。尚、歯車4、5は、アタッチメント付きローラチェーン6が長尺部材21、22の部材軸に沿って回転可能なように取り付ける。
【0020】
ランス支持台3には長尺部材21、22のコの字の内部に接するように走行用車輪31,32を取り付ける。以上の構成とすることにより、アタッチメント付きローラチェーン6の回転に伴い、ランス支持台3は走行台車2上を長尺部材21、22の部材軸に沿って移動する。
【0021】
アタッチメント付きローラチェーン6は、駆動装置7から歯車72、ローラチェーン73で歯車15に伝達される駆動力によって回転する。
【0022】
図4はランス支持台3の駆動系の構成を説明する図で、ランス支持台用駆動装置7の前後進手動ハンドル71を手動で回転させて発生した駆動力は駆動用歯車72、ローラーチェーン73によりアタッチメント付きローラーチェーン6の駆動用歯車15(図では省略)に伝達される。駆動用歯車15と歯車5を連結する歯車軸17は左右の歯車5の歯車軸と同軸とする。
【0023】
尚、ランス支持台用駆動装置7にはウオーム減速機を組み込み、作業者がランス支持台3の位置を観察しながら容易に前後進手動ハンドル71を操作可能とすることが好ましい。
【0024】
ランス13を走行台車2に載せる場合は、ランス支持台3にその先端部を載せた後、固定具34でランス支持台3に固定する。ランス13の長手方向の中間部は、シフト装置9に前後進可能に支えられる。固定具34はランス支持台3に脱着可能に取り付けられる構造とし、ランス13を吊り下げる場合は取り外す。
【0025】
次に、本発明に係るランスの吊り下げ方法で長尺なランスを吊り下げる場合について図5を用いて説明する。説明は建屋18の内部空間18a,b内において,ランス13を、内部空間18b内の天井クレーン(図示しない)で吊り下げる場合について行う。
【0026】
天井高さは内部空間18aが内部空間18bより低く、内部空間18bの高さは軌道10が敷設される敷設面fから天井までの高さとする。ランス13の全長は内部空間18bの高さと略等しいものとする。
【0027】
尚、軌道10はランス13を吊り上げる際、走行台車2上でランス支持台3が円滑に移動可能なように敷設されていれば良く本発明では特に規定しないが、吊り上げ方向と略直角方向に敷設されていると、吊り上げ作業時におけるランス13の動きが複雑とならずに望ましい。
【0028】
まず、頭部13aにフック用部材14を取り付けたランス13の先端部をランス吊り込み作業用装置1の走行台車2上のランス支持台3(図示しない)に、載置する。
【0029】
ランス支持台(図示しない)3を走行台車2上で移動させて、ランス頭部13aをフック掛け位置d1まで前進させる(矢印a)。フック用部材14にフックを取り付け後、同位置において、天井クレーン(図示しない)でランス頭部13aが内部空間18aの許容高さh1に達するまでフックを巻き上げる(矢印b)。
【0030】
次に、巻き上げた状態で、ランス頭部13aを、内部空間18bにおける天井クレーン(図示しない)の吊り下げ限界点d2まで、ランス支持台3(図示しない)を走行台車2上で移動させて前進させ(矢印c),更に、吊り上げ限界高さh2まで吊り上げる(矢印d)。本時点で、ランス13の先端部は走行台車2から離れる。
【0031】
最後にランス頭部13aを、所定の吊り下げ位置d1、本説明ではフック掛け位置d1と同位置、まで天井クレーン(図示しない)で移動させる(矢印e)。以上の一連の作業において、天井クレーンでランス頭部13aを吊り上げる場合の作業での、吊り上げ量とランス支持台の移動量を記録し、次回からのランスの吊り上げ作業では、ランス支持台の移動量が当該移動量となるように天井クレーンを操作する。
【0032】
本発明に係るランスの吊り下げ方法では、予め、建屋とランスが接触しないように吊り上げ作業を行い、走行台車上でのランス支持台の移動量を求めておくので、作業毎のランス支持台の移動量を当該移動量とすることによりランスの頭部、先端部の軌跡が再現され、作業能率が向上する。また、ランスを引き倒す場合は引き起こす場合の逆の手順で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明例
【図2】図1に示した本発明例の上面図
【図3】本発明例
【図4】本発明例
【図5】図1に示した本発明例を用いたランスの吊り上げ作業におけるランス頭部の動きを説明する図。
【符号の説明】
【0034】
1 ランス吊り込み作業用装置
2 走行台車
2a 先端部
3 ランス支持台
4、5 歯車
6 アタッチメント付きローラーチェーン
7 ランス支持台用駆動装置
8 走行用駆動装置
9 シフト装置
10 軌道
11 車輪
12 浮き上がり防止部材
13 ランス
13a ランス頭部
14 フック用部材
15 駆動用歯車
16 シャフト
17 歯車軸
18 建屋
18a,18b 内部空間
31、32 走行用車輪
34 固定具
21,22 長尺部材
71 前後進手動ハンドル
72、82 駆動用歯車
73、83 ローラーチェーン
81 走行手動ハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道上を移動する走行台車と、前記走行台車上に移動可能に設けられたランス支持手段とを有し、前記走行台車は前記軌道上を移動するための駆動手段と前記軌道からの浮き上がりを防止する浮き上がり防止手段と前記ランス支持手段を移動するための駆動手段を備え、前記ランス支持手段は、前記走行台車の長手方向に移動可能であることを特徴とするランス吊り込み作業用装置。
【請求項2】
クレーンでランス頭部を吊り下げて起倒作業を行うランスの吊り込み作業方法であって、ランスの吊り込み方向と略直角方向に敷設した軌道上に、請求項1記載のランス吊り込み作業用装置を配置し、前記ランス頭部の吊り上げ量に応じて前記ランス吊り込み作業用装置における前記ランスの先端部の位置を移動させることを特徴とするランスの吊り込み作業方法。
【請求項3】
ランスの吊り込み方向と略直角方向に敷設した軌道上に、請求項1記載のランス吊り込み作業用装置を配置し、クレーンでランス頭部を吊り下げて起倒作業を行うランスの吊り込み作業方法であって、予め、建屋とランスが接触しないように吊り下げ作業を行い、以下の工程毎の走行台車上でのランス支持台の移動量を求め、次回からの作業は、前記工程毎のランス支持台の移動量が前記移動量となるように天井クレーンでランス頭部を吊り上げることを特徴とするランスの吊り込み作業方法。
1.フック掛け位置で、ランス頭部を吊り上げる工程
2.ランス吊り上げ限界線で、ランス先端を移動しながらランス頭部吊り上げる工程

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−31524(P2008−31524A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−206480(P2006−206480)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】