説明

ランタニド系金属含有薄膜製造に用いるCVD用原料溶液及びこれを用いた薄膜の製造方法

【課題】 所望の組成を有する多成分系のランタニド系複合酸化物薄膜を安定して得る。
【解決手段】 ランタニド系金属及び他の金属を含む薄膜製造用CVD原料であり、Ln(β−dik)3・L・・・(I)で示される化合物(但し、Lnはランタニド系金属原子、β−dikはジピバロイルメタン(DPM)、ジイソブチリルメタン、イソブチリルピバロイルメタン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−オクタンジオン(TMOD)、アセチルアセトン、6−エチル−2,2−ジメチル−3,5−オクタンジオン、5−メチル−2,4−ヘキサンジオン及び5,5−ジメチル−2,4−ヘキサンジオン等のβ−ジケトン類、Lは1,10−フェナントロリン、2,2'−ビピリジル及びそれらの誘導体等の中性配位子。)並びに他の金属を含む有機金属化合物を溶媒に溶解して得られ、式(I)の化合物を熱重量天秤分析(TG)にかけて得られるΔTGグラフは1つの気化点ピークのみを有するCVD原料及びこれを用いた薄膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランタニド系金属を含む薄膜を化学的気相成長(CVD)法により製造する際に用いられる薄膜用CVD原料及びそれを用いて得られる薄膜に関する。詳しくは、本発明は、溶液気化CVD法において、少ない使用量で安価にランタニド系金属含有薄膜を安定して得ることができる薄膜用CVD原料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にCVD法での薄膜作製における原料蒸気供給方法としては、トリメチルガリウム(GaAs薄膜原料)やテトラエトキシシラン(SiO2薄膜原料)のように常温で液体の原料の場合、原料にキャリアガスをバブリングさせて原料蒸気を成膜室まで同伴させて行うバブリング法が行なわれている。バブリングの場合、原料蒸気は飽和蒸気圧(温度のみに依存する)で発生するので、温度を制御することにより原料蒸気の供給を安定に行うことができる。
一方、原料が固体の場合は;昇華によって原料蒸気を発生させる昇華法;原料をテトラヒドロフラン、酢酸ブチル、トルエン等の有機溶媒に一定濃度で溶解し、得られた溶液を流量制御しながら高温の気化室内に送り込み、全量を気化させることによって一定の原料蒸発量を得ることのできる溶液気化法;が通常使用されている。
【0003】
薄膜原料として、β−ジケトン系のジピバロイルメタン(DPM)等の金属錯体を代表とする特定の金属化合物は、(1)一般に熱安定性が高く、酸素存在化においてもある程度の温度までは分解しにくく反応しない;(2)酸化物の超伝導体や強誘電体(YBa2Cu3y、Bi2Sr2Ca2Cu3y、SrBi2Ta29等)にはアルカリ土類金属(化、Sr、Ba等)が含まれており、アルカリ土類金属を含むものとしてこれら化合物がCVD法で求められる気化性、熱安定性、酸素存在下での安定性を満たす;ことから現在広く使用されている。しかし、これら金属化合物は一般に融点が高いためにバブリング法による原料気化を行うことができず、昇華法の場合、(1)飽和蒸気を得ることが難しく、(2)これら金属化合物は加熱され続けられるため劣化して気化特性が不良となり、(3)蒸気の発生量は原料容器内の充填量又は使用中の原料残量の変化によって変化しやすく、一定の原料蒸発量の維持及び得られる薄膜の組成制御が困難である欠点があった。又、特に気化性がわるいアルカリ土類金属の錯体については、(4)気化効率を上げるために高い温度で加熱すると、原料が熱分解しながら輸送されてしまい、膜の結晶性が不良となるか組成が不均一となり、(5)気化速度を抑えて蒸着時間を長くすると、原料が経時的に劣化して気化性が低下するため、形成された膜の厚さ方向の組成が不均質になってしまう問題があった。そのために、多成分系の複合酸化物薄膜の作製は溶液気化法が現在の主流になっている。
【0004】
近年盛んに研究されている多成分系の複合酸化物薄膜として、例えば強誘電体メモリ(FeRAM)のキャパシタ膜用としてのチタン酸ビスマスランタン(BLT)及びチタン酸ビスマスネオジム(BNT)並びに電極膜としてのニッケル酸ランタン(LNO)等が挙げられる。そして、CVD溶液気化法によるBLT,BNT薄膜やLNO薄膜製造用のCVD原料に使用されるランタニド系金属を含む化合物として、これまで実際に使用が検討されたのは、ジピバロイルメタナト(DPM)錯体、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−オクタンジオナト(TMOD)錯体、ジイソブチリルメタナト(DIBM)錯体等のβ−ジケトン系金属錯体であった。
【0005】
一般に、原料化合物が分解して金属、酸化物等に変化するための活性化エネルギーは、原料化合物によって異なるため、各原料の供給比率がそのまま膜の組成比率と一致することは少ない。ランタニド系金属の場合にはこの傾向は著しく顕著となり、前記β−ジケトン系ランタニド錯体を用いて溶液気化CVD法によりBLT,BNT膜やLNO膜のようにランタニド系金属とランタニド系金属以外の金属を含有する多成分系の複合酸化物薄膜を製造すると、目的となる膜の金属組成と同じ比率で各原料を供給しても膜中にランタニド系金属がほとんど導入されなかった。例えばBLT膜の製造においてβ−ジケトン系ランタン錯体であるLa(DPM)3を用いた場合、所望の膜組成と同じ比率(例えばBi:La:Ti=3.25:0.75:3)の混合溶液を使用すると、得られた膜中にランタンは所望膜組成の1/10以下しか存在しない。
【0006】
このような場合に所望の膜組成を得るためには、通常2通りの方法が考えられる。第1は、膜に導入されにくい金属化合物(BLTの場合はランタン化合物)の原料溶液中の割合を高くすることであり、第2は、膜に導入されにくい金属の原料化合物を分解しやすい物質に取り替えることである。
しかしながら、第1の方法でBLT膜を製造した場合、原料溶液中のランタン錯体の割合を所望膜組成の10倍にしても実際に膜に導入されるランタニド系金属は所望膜組成の1/3以下であった。また、第2の方法としてLa(DPM)3の代わりにLa(DPM)3より分解しやすいLa(TMOD)3を使用しても、得られた膜の中のランタンは、La(DPM)3を用いた場合と同様に所望膜組成の1/10以下であった。
以上のように、β−ジケトン系ランタニド錯体は膜への変換効率(原料供給量に対する膜への堆積量の割合)がきわめて低いため、ランタニド系金属を含有する多成分系の複合酸化物薄膜を製造すると、薄膜中にランタニド系金属を導入することが困難であった。
【0007】
一方、中心金属を中性配位子により遮蔽したCVD原料化合物は、これまで特許文献1〜5等で多数開示されている。しかし、それらは異種の原料化合物同士が配位子交換等の反応を起こして溶液中での沈殿生成、もしくは気相中での固体析出による配管閉塞が発生することを防いだり、原料化合物の重合を防いで蒸気圧の増加または安定化を図ったり、溶液中の水分等の他の物質との反応を抑えることで原料溶液の経時劣化を防ぐことを目的としており、金属化合物の安定化を目的として中性配位子を添加していた。
そして、膜への変換効率の向上のためには、分解しやすい材料を選択するのが一般的であり、あえて分解しにくい安定化された金属化合物を選択することは通常想起されない。さらにβ−ジケトン系ランタニド錯体は中性配位子を付加させなくても経時変化がおきにくい安定な材料であり、また中性配位子を付加させると蒸気圧が低下することから、これまでCVD材料として膜への変換効率を向上させるために積極的に利用されたことは皆無であった。
【特許文献1】特表平11−507629号公報
【特許文献2】特開2001−355070号公報
【特許文献3】特開平5−98444号公報
【特許文献4】特表平7−500318号公報
【特許文献5】特開平7−188271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、所望の組成を有する多成分系のランタニド系複合酸化物薄膜を安定して得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、斯かる問題を解決すべく鋭意研究したところ、β−ジケトン系ランタニド錯体のランタニド系金属原子に中性配位子を配位させることによって遮蔽し、ランタニド系金属以外の原料化合物との反応性を下げることでランタニド系金属の膜への変換効率が著しく引き上げられることを見いだした。
本発明は、請求項の内容記載予定に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の式(I)の化合物を用いて薄膜製造用CVD原料溶液を調製し、ランタニド系金属とランタニド系金属以外の金属を含有する薄膜を製造したところ、ランタニド系金属への膜への変換効率が3〜100倍以上に飛躍的に向上した。そのため、ランタニド系金属原料の使用量を大幅に減らすことができた。また使用する溶媒の総量が減ったことでランタニド錯体以外の金属も膜への変換効率が向上した。これは、成膜反応に必要なエネルギーを奪っていた溶媒の使用総量が減少することによって、成膜反応に使用されるエネルギー量が増えたためと考えられる。従って、本発明は、目的の組成を有する品質の高いランタニド系金属含有薄膜を安定して製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を以下に詳細に説明する。
本発明の式(I)の化合物(β−ジケトン系ランタニド錯体中性配位子付加体)は、ランタニド系金属の正3価のイオンが3つのβ−ジケトンと金属錯体を形成し、それに中性配位子が付加したものである。
上記ランタニド系金属は、元素の周期律表に記載されたランタン系列元素であり、原子番号57のランタンから原子番号71のルテチウムまでである。好ましくはランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)及びイッテルビウム(Yb)が挙げられる。
【0012】
本発明のβ−ジケトン類としては、ジピバロイルメタン(DPM)、ジイソブチリルメタン(DIBM)、イソブチリルピバロイルメタン(IBPM)、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−オクタンジオン(TMOD)、アセチルアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、6−エチル−2,2−ジメチル−3,5−オクタンジオン、5−メチル−2,4−ヘキサンジオン、5,5−ジメチル−2,4−ヘキサンジオン、ペンタフルオロプロパノイルピバロイルメタン、2,4−オクタンジオン、及び6−エチル−2,2−ジメチル−3,5−デカンジオン等が挙げられる。好ましくはDPM,DIBM,IBPM,TMODである。
β−ジケトン系ランタニド錯体を用いてランタニド酸化物単体膜を製造する場合には、膜への変換効率はランタニド系金属以外の原料化合物と比べて大きな違いが見られない。このことから、β−ジケトン系ランタニド錯体により複合酸化物薄膜を製造する場合は、ランタニド錯体は他の金属を含む原料化合物又は溶媒との反応等により、膜に導入されにくい状態(複核錯体、反応中間体等)に変化していると考えられる。
【0013】
本発明の中性配位子は、式(I)の化合物(β−ジケトン系ランタニド錯体中性配位子付加体)の気化の際に脱離しない。気化時に中性配位子の脱離がないことを調べる方法として熱重量天秤示差熱分析(TG−DTA)がある。「気化時に中性配位子の脱離がない」とは、式(I)の化合物を熱重量天秤分析(TG)にかけて得られるΔTGグラフは1つの気化点ピークのみを有し、ピークの肩には他の気化点ピークを示す変曲点が存在しないことをいう。他の気化点ピークの存在は、気化時に中性配位子のみが先に脱離したことを示す。
図1に式(I)の化合物であるトリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−オクタンジオナト)ネオジム・1,10−フェナントロリン付加体のTG−DTAデータ(Arフロー中、常圧)を示す。図中、細線がTGカーブ、太線がΔTGカーブを表す。図1では気化の終了まで一様なTG減少曲線を描き、ΔTGは1のピークのみが表されている。又、図2及び図3にそれぞれ示すLa(TMOD)3・phen、Nb(IBPM)3・phenでも気化の終了まで一様なTG減少曲線を描き、ΔTGは1のピークのみが表れる。一方、比較例として図5に示すトリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−オクタンジオナト)ネオジム・テトラグライム付加体(Nd(TMOD)3・tetraglyme)のTG−DTAデータ(Arフロー中、常圧)では、TG減少曲線はベースラインが2つ以上存在し、ΔTGグラフは主ピーク及びその左肩の第2のピークを表す。従って、この付加体は本発明の範囲外である。
尚、気化温度は使用する他の原料や気化装置の種類によって変化するが、TG減少曲線が一様であっても、ΔTGに主ピーク以外に他のピークを示さず設定された気化温度で脱離しない中性配位子であれば本発明に使用できる。
本発明の中性配位子として、例えば1,10−フェナントロリン(phen)、2,2'−ビピリジル(bpy)及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0014】
本発明に使用されるランタニド系金属以外の有機金属化合物は、金属に配位化合物が配位した錯体、金属に有機化合物が結合した有機金属化合物等である。上記有機金属化合物に含まれる金属は、溶液CVD法に通常使用される金属であり、例えばビスマス(Bi)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、チタン(Ti)、鉛(Pb)、亜鉛(Zn)、カルシウム(Ca)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、リチウム(Li)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、ルテニウム(Ru)、ハフニウム(Hf)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、錫(Sn)、ニッケル(Ni)等が挙げられる。好ましくはBi、Sr、Ba、Ti、Pb、Ni、Ta、Nb及びZrである。
【0015】
上記有機金属化合物中の金属に配位又は結合する化合物としては、溶液CVD法に通常使用されるものが使用できる。例えば、ジピバロイルメタン(DPM)、ペンタフルオロプロパノイルピバロイルメタン、ジイソブチリルメタン(DIBM)、イソブチリルピバロイルメタン(IBPM)、アセチルアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−オクタンジオン(TMOD)、6−エチル−2,2−ジメチル−3,5−オクタンジオン(EDMOD)、2,4−オクタンジオン、6−エチル−2,2−ジメチル−3,5−デカンジオン、1,5−シクロオクタジエン、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエン、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン、トリエチレンテトラミン、トリエチルホスフィン、トリエチルビニルシラン、ビストリメチルシリルアセチレン、ジオール、ジアルキルアミド錯体等の化合物の他に、アルコキシド、グリコキシド、フェニル、オルトトリル(o−Tol)、パラトリル(p−Tol)、オルトエチルフェニル等の基が挙げられる。
【0016】
上記ジオールとして1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等が挙げられる。上記ジアルキルアミド錯体として、ジエチルアミド、ジメチルアミド、エチルメチルアミド等が挙げられる。上記アルコキシドとして、イソプロポキシド(Oi−Pr)、エトキシド、メトキシド、t−アミロキシド(Ot−Am)、t−ブトキシド(Ot−Bu)、sec−ブトキシド(Os−Bu)、1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシド、2−エトキシエトキシド等が挙げられる。好ましくはジピバロイルメタン、ペンタフルオロプロパノイルピバロイルメタン、ジイソブチリルメタン、イソブチリルピバロイルメタン、アセチルアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−オクタンジオン、アルコキシド、シクロペンタジエン又はそれらの誘導体である。上記化合物は1種以上使用でき、本発明の有機金属化合物は、例えばTi(Oi−Pr)2(DPM)2のようなアルコキシドの一部がβ−ジケトンで置換されたような化合物でもよい。
【0017】
気化の際に中性配位子が脱離しない式(I)の化合物(β−ジケトン系ランタニド錯体中性配位子付加体)としては、La(TMOD)3・phen、Nd(TMOD)3・phen、Nd(IBPM)3・phen、La(DPM)3・phen、La(DPM)3・bpy、La(DIBM)3・phen、La(DIBM)3・bpy、La(IBPM)3・phen、La(IBPM)3・bpy、La(DIBM)3・phen、La(DIBM)3・bpy、Ce(DPM)3・phen、Ce(DPM)3・bpy、Ce(DIBM)3・phen、Ce(DIBM)3・bpy、Ce(IBPM)3・phen、Ce(IBPM)3・bpy、Ce(DIBM)3・phen、Ce(DIBM)3・bpy、Pr(DPM)3・phen、Pr(DPM)3・bpy、Pr(DIBM)3・phen、Pr(DIBM)3・bpy、Pr(IBPM)3・phen、Pr(IBPM)3・bpy、Pr(DIBM)3・phen、Pr(DIBM)3・bpy、Nd(DPM)3・phen、Nd(DPM)3・bpy、Nd(DIBM)3・phen、Nd(DIBM)3・bpy、Nd(IBPM)3・phen、Nd(IBPM)3・bpy、Nd(DIBM)3・phen、Nd(DIBM)3・bpy、Sm(DPM)3・phen、Sm(DPM)3・bpy、Sm(DIBM)3・phen、Sm(DIBM)3・bpy、Sm(IBPM)3・phen、Sm(IBPM)3・bpy、Sm(DIBM)3・phen、Sm(DIBM)3・bpy、Eu(DPM)3・phen、Eu(DPM)3・bpy、Eu(DIBM)3・phen、Eu(DIBM)3・bpy、Eu(IBPM)3・phen、Eu(IBPM)3・bpy、Eu(DIBM)3・phen、Eu(DIBM)3・bpy、Gd(DPM)3・phen、Gd(DPM)3・bpy、Gd(DIBM)3・phen、Gd(DIBM)3・bpy、Gd(IBPM)3・phen、Gd(IBPM)3・bpy、Gd(DIBM)3・phen、Gd(DIBM)3・bpy、Yb(DPM)3・phen、Yb(DPM)3・bpy、Yb(DIBM)3・phen、Yb(DIBM)3・bpy、Yb(IBPM)3・phen、Yb(IBPM)3・bpy、Yb(DIBM)3・phen、Yb(DIBM)3・bpy等が挙げられるが、これらにより本発明は限定されない。
【0018】
本発明の薄膜用CVD原料中の式(I)の化合物及び有機金属化合物の濃度は、安定した溶液を提供できる範囲であれば特に制限はない。濃度は、原料の輸送量、膜製造時の成膜速度等により適宜選択されるが、室温(25℃)での飽和濃度の5〜70%程度のものが通常好ましく使用できる。溶液濃度は原料によって溶解度が異なるため一律に規定することができないが、通常0.02〜1mol/リットル、好ましくは0.05〜0.8mol/リットルである。この範囲未満であると、原料溶液の経時劣化、成膜速度低下、形成薄膜表面の劣化、及びカーボンが形成薄膜中へ取り込まれる等の問題が発生しやすい。一方、上記範囲を超えると、溶媒の気化に伴い原料が析出し、気化室に詰まりを生じやすくなる。
【0019】
本発明の溶媒としては、式(I)の化合物と反応が起こらないものが選択される。例えば、THF、酢酸n−ブチルエステル(酢酸ブチル)、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロヘキサン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、アセトン、メチルエチルケトン、1,2−ジメトキシエタン等が挙げられる。溶液濃度は、気化室が詰まらず、経時変化がおきにくい範囲内で、溶液濃度、膜製造時の成膜速度、気化室の構造や気化方式等により適宜選択される。
【0020】
本発明の有機金属化合物及び/又は溶液の安定化剤として、求核性試薬を用いてもよい。安定化剤として例えば、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエチレングリコールエーテル類、18−クラウン−6、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、24−クラウン−8、ジシクロヘキシル−24−クラウン−8、ジベンゾ−24−クラウン−8等のクラウンエーテル類、エチレンジアミン、N,N'−テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,1,4,7,7−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン等のポリアミン類、環状ポリアミン類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−2−メトキシエチル等のβ−ケトエステル類又はβ−ジケトン類が挙げられる。上記安定剤の使用量は、金属化合物1モルに対して通常0.1〜10モル、好ましくは1〜4モルである。
【0021】
また、本発明の薄膜用CVD原料を使用して得られる薄膜としては、チタン酸ビスマスランタン、チタン酸ビスマスネオジム、チタン酸ジルコン酸鉛ランタン、チタン酸ランタン、ニッケル酸ランタン、ニッケル酸サマリウム、ジルコン酸ガドリニウム、コバルト酸ランタンストロンチウム、マンガン酸プラセオジムカルシウム、マンガン酸セリウム、ネオジムバリウム銅酸化物、ジスプロシウムバリウム銅酸化物、イッテルビウムバリウム銅酸化物、セリウムバリウムイットリウム酸化物等から構成される薄膜が挙げられる。これらは多分野において非常に有用であり、超伝導体、誘電体、導電体、特に、キャパシタ用誘電体、圧電共振子や赤外線センサー等に使用できる。
【0022】
溶液気化CVD法で複数の金属成分から構成される酸化物薄膜(多成分系)を作製する場合、原料溶液は一般的に、下記(1)〜(4)いずれかの方法で混合及び気化される。
(1)目的とする金属を含む有機金属化合物を別々に溶かした複数の原料溶液を、気化室へ供給する直前に混合して混合溶液を1つの気化室へ供給する(マルチボトルA式)。
(2)上記複数の原料溶液を別々に1つの気化室へ直接供給する(マルチボトルB式)。
(3)上記複数の原料溶液を別々に複数の気化室で気化して得られた蒸気を混合する(マルチボトルC式)。
(4)複数の有機金属化合物を特定の割合で含む1の原料溶液(以下「カクテル」ともいう)を1の気化室へ直接供給する(ワンボトル式)。
上記(1)〜(3)は組成変更が容易であり、(4)は装置の設備費用、運転費用及び運転制御性に優れている。本発明の薄膜用CVD原料は、2種以上の原料溶液から構成されてもよく、2種以上の有機金属化合物を含む1の溶液(カクテル)でもよいため、上記(1)〜(4)のいずれにも適用できる。
【0023】
薄膜製造方法は当業者に公知の方法を使用でき、例えば、熱CVD、プラズマCVD、光CVD等の方法が挙げられる。熱CVDの場合は、原料を気化して蒸気とし(気化段階)、原料蒸気を基板上に導入し、次いで原料を基板上で分解させて薄膜を基板上に成長させる(成膜段階)。気化段階では原料の気化速度を向上させ、かつ分解を防止するために13330Pa以下、特に8000Pa以下の減圧下で、原料の分解温度以下で行なうことが好ましい。また、基板は予め原料の分解温度以上、好ましくは350℃以上、より好ましくは450℃以上に加熱しておくことが好ましい。また、得られた薄膜には必要に応じてアニール処理を行ってもよい。
本発明の薄膜製造に使用できる装置としては、どのようなものでも良いが、例えば図7に示されるようなMOCVD(metal-organic chemical vapor deposition)法に使用される装置等が挙げられる。
【0024】
具体的には、まず、式(I)の化合物を、有機溶媒に例えば0.05〜1mol/lの濃度で溶解させる。同様に目的膜の製造に必要なランタニド系金属以外のCVD原料の溶液も調製する。又、カクテル原料溶液を調製する場合の各CVD原料の混合比率は、目的膜の組成とは必ずしも同じではなく、成膜条件、装置構造に応じて最適なものが選択される。
【0025】
上記のようにして調製した溶液を使用してランタニド系金属含有薄膜を製造するには、例えばマルチボトルA式の場合、図7に示したような溶液気化CVD装置を用いることが出来る。原料容器に式(I)の化合物を含む原料溶液を充填して溶液気化CVD装置に取り付け、別の原料容器にランタニド系金属以外の有機金属化合物を含む原料溶液を充填して溶液気化CVD装置に取り付け、気化室温度を例えば150〜300℃に設定し、原料溶液供給流量を例えば0.1〜1ml/minとして気化室に供給する。原料溶液は供給された全量が気化し、反応室にAr等の不活性ガスをキャリアガスに用いて送り込まれる。酸化ガスとしては、例えば酸素が使用できる。反応室の圧力は0.1〜50torrに保ち、反応室内に設置した基板を400〜850℃に加熱しておくと基板上にランタニド系金属含有薄膜が形成できる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
実施例1(溶液の調製)
2.75gのNd(TMOD)3・phenをトルエン中に溶解して100mlとし、濃度0.03mol/lの溶液とした。又、4.82gのBi(o−Tol)3をトルエン中に溶解して100mlとし、5.32gのTi(Oi−Pr)2(DPM)2をトルエン中に溶解して100mlとし、それぞれ濃度0.1mol/lの溶液を調製した。
【0027】
(薄膜の製造;マルチボトルA式)
図7に示した三元の原料加熱系統を有する通常のホットウォールタイプの溶液気化CVD装置を用い、ヘリウムガスの加圧により原料容器から気化室(温度:230℃)まで原料溶液をそれぞれNd原料溶液0.25ml/min,Bi原料溶液0.35ml/min,Ti原料溶液0.3ml/minで供給した(原料供給量のモル比はTi=3の場合Bi:Nd:Ti=3.5:0.75:3)。気化室に供給された原料溶液全量を気化させ、発生した蒸気をArキャリアガス(200ml/min)により気化室(圧力;47hPa)から反応室(圧力;10.7hPa、温度;250℃)へ供給した。反応室のPt/TiO2/Si基板上(温度;550℃)で、反応ガスは酸素(流量100ml/min)で、10分間成膜を行なった。得られた膜のICP(誘導結合プラズマ発光分析)による組成分析結果は、Bi;80.1μg/cm2、Nd;9.7μg/cm2、Ti;16.2μg/cm2であり、モル比はTi=3としてBi:Nd:Ti=3.40:0.60:3であった。これは目的とするチタン酸ビスマスネオジムの組成モル比3.25:0.75:3とほとんど等しかった。得られた薄膜のキャパシタ特性として5V印加時の残留分極および直流電圧1.5V印加時のリーク電流密度は、2Pr=18μC/cm2及び1×10-8A/cm2以下であった。
【0028】
比較例1
Nd(TMOD)32.21gをトルエン中に溶解して100mlとし、濃度0.03mol/lの溶液とした。Bi,Ti原料溶液は実施例1と同じものを使用して、実施例1と同様に成膜した、得られた膜の組成分析の結果は、Bi;84.6μg/cm2、Nd;0.72μg/cm2、Ti;16.8μg/cm2であり、モル比はTi=3としてBi:Nd:Ti=3.46:0.04:3であった。これは目的とするチタン酸ビスマスネオジムの組成モル比に対してNd比が非常に低かった。得られた薄膜の残留分極およびリーク電流密度は、2Pr=1.5μC/cm2及び4×10-7A/cm2であった。
【0029】
比較例2
Nd(TMOD)3・tetraglyme2.88gをトルエン中に溶解して100mlとし、濃度0.03mol/lの溶液とした。Bi,Ti原料溶液は実施例1と同じものを使用して、実施例1と同様に成膜した、得られた膜の組成分析の結果は、Bi;83.9μg/cm2、Nd;0.88μg/cm2、Ti;16.6μg/cm2であり、モル比はTi=3としてBi:Nd:Ti=3.48:0.05:3であった。これは目的とするチタン酸ビスマスネオジムの組成モル比に対してNd比が非常に低かった。得られた薄膜の残留分極およびリーク電流密度は、2Pr=1.8μC/cm2及び3×10-7A/cm2であった。
【0030】
実施例2(混合溶液の調製)
11.24gのLa(TMOD)3・phen及び2.95gのビス[ジイソブチリルメタナト]ニッケル(Ni(DIBM)2)をトルエン中に溶解して100mlとし、カクテル溶液(濃度はそれぞれ、0.12mol/l及び0.08mol/l)を調製した。
【0031】
(薄膜の製造;ワンボトル式)
通常のホットウォールタイプのCVD装置を用い、上記で調製したカクテル溶液を0.3ml/minで気化室(温度;230℃)に導入して気化させ、発生した蒸気をArキャリアガス(200ml/min)により気化室(圧力;47hPa)から反応室(圧力;10.7hPa、温度;250℃)へ供給した。反応室のシリコン単結晶基板上で、反応ガスは酸素(流量100ml/min)で、10分間成膜を行なった。基板温度600℃で得られた薄膜の組成分析結果は、La;41.9μg/cm2、Ni;17.6μg/cm2であり、モル比はLa:Ni=1.01:1.00であった。これは目的とするニッケル酸ランタンの組成モル比1:1とほとんど等しかった。基板温度600℃で得られた薄膜の比抵抗は8×10-4Ωcm2であった。
【0032】
比較例3
8,77gのLa(TMOD)3及び2.95gの(Ni(DIBM)2)をトルエン中に溶解して100mlとし、カクテル溶液(濃度はそれぞれ、0.12mol/l及び0.08mol/l)を調製した。基板温度600℃で得られた薄膜の組成分析結果は、La;11.6μg/cm2、Ni;17.4μg/cm2であり、モル比はLa:Ni=0.28:1.00であった。これは目的とするニッケル酸ランタンの組成モル比に対してLa比が非常に低かった。又、比抵抗は2×10-2Ωcm2であった。
【0033】
以上のように、本発明の薄膜製造用CVD原料は、ランタニド系金属の膜への変換効率を飛躍的に向上させ、原料及び溶媒の低い使用量で、品質の高いランタニド系金属含有薄膜を安定して製造することが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】Nd(TMOD)3・phen(実施例1)の熱重量天秤(TG)分析グラフを示した図である。
【図2】La(TMOD)3・phen(実施例2)のTG分析グラフを示した図である。
【図3】Nd(IBPM)3・phenのTG分析グラフを示した図である。
【図4】Nd(TMOD)3(比較例1)のTG分析グラフを示した図である。
【図5】Nd(TMOD)3・tetraglyme(比較例2)のTG分析グラフを示した図である。
【図6】La(TMOD)3(比較例3)のTG分析グラフを示した図である。
【図7】溶液気化CVD装置の一例を示した図である。
【符号の説明】
【0035】
1:原料容器
2:洗浄溶媒容器
3:マスフローコントローラ(気体)
4:マスフローコントローラ(液体)
5:気化室
6:反応室
7:基板
8:トラップ
9:真空ポンプ
10:薄膜製造装置
15;キャリアガス(Ar)
16:排ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一種以上のランタニド系金属及びランタニド系金属以外の一種以上の金属を含む薄膜製造用CVD原料であり、下式(I)で示される化合物並びにランタニド系金属以外の有機金属化合物を溶媒に溶解して得られ、式(I)で示される化合物を熱重量天秤分析(TG)にかけて得られるΔTGグラフは1つの気化点ピークのみを有するCVD原料。
Ln(β−dik)3・L ・・・(I)
(但し、Lnはランタニド系金属原子、β−dikはβ−ジケトン類、Lは中性配位子を表す。)
【請求項2】
上記β−ジケトン類がジピバロイルメタン(DPM)、ジイソブチリルメタン、イソブチリルピバロイルメタン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−オクタンジオン(TMOD)、アセチルアセトン、6−エチル−2,2−ジメチル−3,5−オクタンジオン、5−メチル−2,4−ヘキサンジオン及び5,5−ジメチル−2,4−ヘキサンジオンの群から選ばれた少なくとも一種である請求項1記載の薄膜用CVD原料。
【請求項3】
上記中性配位子が1,10−フェナントロリン、2,2'−ビピリジル及びそれらの誘導体の群から選ばれた少なくとも一種である請求項1又は2記載の薄膜用CVD原料。
【請求項4】
上記ランタニド系金属以外の金属がBi、Sr、Ba、Ti、Pb、Ni、Ta、Nd及びZrの群から選ばれた少なくとも一種である請求項1〜3いずれか1項記載の薄膜用CVD原料。
【請求項5】
上記有機金属化合物が金属のジピバロイルメタナト、ペンタフルオロプロパノイルピバロイルメタナト、ジイソブチリルメタナト、イソブチリルピバロイルメタナト、アセチルアセトナト、ヘキサフルオロアセチルアセトナト、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−オクタンジオナト、ジオラート、ジアルキルアミド錯体、アルコキシド、シクロペンタジエニル又はそれらの誘導体の少なくとも1種である請求項1〜4いずれか1項記載の薄膜用CVD原料。
【請求項6】
アルコキシドがメトキシド、エトキシド、イソプロポキシド、t−ブトキシド、t−アミロキシドである請求項5記載の薄膜用CVD原料。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項記載の薄膜用CVD原料を用いる薄膜製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6いずれか1項記載の薄膜用CVD原料を用いて溶液CVD法により成膜された薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−63352(P2006−63352A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244014(P2004−244014)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(593163449)株式会社豊島製作所 (15)
【Fターム(参考)】