説明

リアクトル、コンバータ、及び電力変換装置

【課題】リアクトルの物理量(温度など)を測定するセンサを適切な位置に維持可能なリアクトル、このリアクトルを具えるコンバータ、電力変換装置を提供する。
【解決手段】リアクトル1は、コイル2と、コイル2が配置される磁性コア3と、コイル2と磁性コア3との組合体10を収納するケース4とを具える。ケース4は、底板部と、組合体10の周囲を囲む側壁部41Aとを具え、側壁部41Aは絶縁性樹脂により構成されている。側壁部41Aには、温度センサなどのリアクトル1の物理量を測定するセンサ7に連結される配線71を掛止する掛止部43aが側壁部41Aの構成樹脂により一体に成形されている。掛止部43aに配線71を掛止して固定することで、配線71が引っ張られるなどしてセンサ7の位置がずれたり、脱落したりすることを防止でき、センサ7を適切な位置に維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車などの車両に搭載される車載用DC-DCコンバータといった電力変換装置の構成部品などに利用されるリアクトル、このリアクトルを具えるコンバータ、及びこのコンバータを具える電力変換装置に関するものである。特に、リアクトルの物理量(温度や電流値など)を測定するセンサを適切な位置に維持可能なリアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
電圧の昇圧動作や降圧動作を行う回路の部品の一つに、リアクトルがある。特許文献1,2は、ハイブリッド自動車などの車両に載置されるコンバータに利用されるリアクトルとして、例えば、一対のコイル素子を有するコイルと、コイルが配置され、閉磁路を構成する環状の磁性コアと、コイルと磁性コアとの組合体を収納するケースと、ケース内に充填される封止樹脂(二次樹脂部、ポッティング樹脂)とを具えるものを開示している。
【0003】
通電に伴いコイルが発熱すると、この発熱によりリアクトルの損失が大きくなる。そのため、上記リアクトルは、一般に、コイルを冷却できるように冷却ベースといった設置対象に固定されて利用される。また、使用時、温度や電流などの物理量を測定するセンサをリアクトルの近傍に配置して、例えば、測定した温度や電流に応じてコイルへの電流などを制御することが検討されている。特許文献1は、電流センサを磁性コアに配置することを開示している。特許文献2は、温度センサをコイル素子間に配置することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-267360号公報
【特許文献2】特開2010-245458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記物理量を適切に測定するためにセンサを所定の位置に配置した後、その配置位置を維持することが望まれる。しかし、従来、センサの位置を維持するための構成が十分に検討されていない。
【0006】
上記センサには、測定した情報を制御装置といった外部装置に伝達するための配線(特許文献1参照)が取り付けられる。封止樹脂を具える形態では、センサの位置や配線においてセンサ近傍を封止樹脂により固定することができる。しかし、リアクトルの設置時にこの配線が過度に引っ張られるなどして、センサに過度な力が加わってセンサを損傷する恐れがある。センサを損傷した場合、物理量を適切に測定することができない。特に、配線が余長を有する場合、配線を引っ張る恐れが高い。
【0007】
また、封止樹脂を具える場合でも、封止樹脂の充填前に配線が引っ張られることでセンサの位置がずれたり、最悪の場合、センサが脱落することがあり、センサが不適切な位置に配置された状態で固定される恐れがある。
【0008】
一方、封止樹脂を有しないリアクトルとする場合、センサや配線を固定できず、リアクトルの製造時や設置時に、上述のような配線の引き回しによるセンサの位置ずれや脱落を招き易い。例えば、接着テープや適宜な治具でケースに上記配線を固定することが考えられる。しかし、この場合、部品点数の増加を招く。
【0009】
上記事情から、封止樹脂の有無に係わらず、配線の引き回しによるセンサの位置ずれや脱落を防止して、センサを適切な位置に配置した状態を維持するために、配線の移動を規制可能な構成の開発が望まれる。
【0010】
そこで、本発明の目的は、リアクトルの物理量を測定するセンサを適切な位置に維持可能なリアクトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ケースの一部を特定の材質とすると共に、センサの配線を掛止する掛止部がこの特定の材質によりケースに一体に成形された構成とすることで、上記目的を達成する。
【0012】
本発明のリアクトルは、コイルと、上記コイルが配置される磁性コアと、上記コイルと上記磁性コアとの組合体を収納するケースとを具えるリアクトルに係るものである。上記ケースは、上記組合体が載置される底板部と、上記組合体の周囲を囲む側壁部とを具える。上記側壁部の開口側の少なくとも一部が樹脂により構成されている。そして、上記リアクトルの物理量を測定するセンサに連結される配線を掛止する掛止部が上記側壁部を構成する樹脂により当該側壁部に一体に成形されている。
【0013】
本発明リアクトルは、側壁部に具える掛止部にセンサの配線を掛止することで、配線をケースに固定でき、配線の移動を規制することができる。従って、本発明リアクトルは、その製造時や設置時などで配線の過度な引き回しによるセンサの位置ずれや脱落、センサの損傷の恐れを低減できる、或いは位置ずれや損傷が生じない。そのため、本発明リアクトルは、センサを所定の位置に配置した状態を長期に亘り維持することができ、所定の位置に配置されたセンサにより、所望の物理量を適切に測定できる。
【0014】
また、上記掛止部は、側壁部に一体成形されることで、部品点数の増加を招くこともない。更に、この掛止部は、樹脂により構成されることから、複雑な形状であっても射出成形などにより側壁部の少なくとも一部を形成する際に容易に一体成形可能であり、金属材料により構成される場合に比較して容易に形成できる。その上、上記掛止部は、側壁部の開口側に設けられることから、配線の一端をケースの外部に容易に引き出せるため、制御装置などの外部装置に容易に接続することができる。更に、本発明リアクトルが封止樹脂を具える場合には配線を掛止部に掛止しておくことで、封止樹脂の充填時に配線が邪魔になり難く、充填作業を行い易い。これらの点から、本発明リアクトルは、生産性にも優れる。
【0015】
その他、本発明リアクトルは、ケースを具えることで、上記組合体に対して外部環境からの保護、及び機械的保護を図ることができる。
【0016】
特に、本発明リアクトルが封止樹脂を具える形態の場合、封止前、センサを所定の位置に配置し、配線を掛止部に掛止することで、センサが所定の位置に維持され、この状態を当該封止樹脂により固定できる。従って、この形態は、センサの配置位置をより確実に維持することができる。
【0017】
上記センサは、例えば、コイルの温度を測定する温度センサ、コイルに流れる電流を測定する電流センサが挙げられる。温度センサは、サーミスタ、熱電対、焦電素子といった感熱素子を具えるもの、電流センサは、ホール素子、磁気抵抗素子(MR素子)、磁気インピーダンス素子(MI素子)、サーチコイルなどの磁界に基づく物理量により電流を測定可能な素子を具えるものが挙げられる。
【0018】
本発明の一形態として、上記側壁部は、その全体が絶縁性樹脂により構成されており、かつ上記底板部とは独立した部材であり、固定材により当該底板部と一体化される形態が挙げられる。また、本発明の一形態として、上記底板部が金属材料により構成された形態が挙げられる。
【0019】
上記形態は、側壁部の全体が絶縁性樹脂により構成されていることで、コイルと側壁部とを絶縁できるため、両者を近接配置することにより小型なリアクトルとすることができる。また、底板部と側壁部とが別部材であることから、それぞれを別個に製造でき、上記形態は、製造形態の自由度、構成材料の選択の幅が大きい。代表的には、両者の材質を異ならせることができる。特に、ケースにおいて上記組合体が接触又は近接される底板部がアルミニウムなどの金属材料により構成された形態とすると、当該底板部を放熱経路として利用でき、放熱性に優れたリアクトルとすることができる。また、この場合、側壁部が一般に金属材料よりも軽い樹脂で構成されることから、従来のアルミニウムケースよりも軽量なケースとすることができるため、軽量なリアクトルとすることができる。更に、上記形態は、上記組合体を底板部に配置してから側壁部と底板部とを一体にできるため、リアクトルの組立作業性にも優れる。
【0020】
本発明の一形態として、上記組合体が上記コイルと上記磁性コアとの間に介在されるインシュレータを具え、このインシュレータは、一対の分割片を組み合わせて一体に構成され、これら両分割片を組み合わせることで構成される空間を上記センサの収納部として具える形態が挙げられる。
【0021】
インシュレータを具えることで、この形態は、コイルと磁性コアとの間の絶縁性を高められる。また、このインシュレータは、分割片、特に、コイルの軸方向に分割可能な分割片により構成されることで、磁性コアなどに容易に配置することができ、この形態は、リアクトルの組立作業性にも優れる。かつ、上記形態は、インシュレータにセンサの収納部を具えることで、センサを所定の位置により確実に配置できる上に、収納部を具えることによる部品点数の増加を招くこともない。また、収納部によりセンサが保持されることで、上記形態は、センサの位置ずれも防止し易い。上記形態では、両分割片を組み合わせたとき、分割片同士が対向する箇所に接触箇所と非接触箇所とが設けられるように分割片を構成する。そして、この非接触箇所の空間を収納部とするとよい。
【0022】
上記インシュレータが分割片を具える形態として、上記コイルが一対のコイル素子を具え、これら両コイル素子は、各コイル素子の軸が平行するように並列に配置された形態である場合に、上記インシュレータの各分割片に上記両コイル素子間に配置される仕切り部が一体に成形され、上記センサの収納部が、上記両分割片を組み合わせたとき、両分割片の仕切り部により形成される空間である形態が挙げられる。
【0023】
上記形態は、両コイル素子間に、インシュレータを構成する絶縁性材料(代表的には絶縁性樹脂)からなる仕切り部が介在されることで、両コイル素子間の絶縁を確保することができる。かつ、上記形態は、インシュレータに一体成形された仕切り部によりセンサの収納部を構成することで、収納部を具えることによる部品点数の増加を招くこともなく、当該収納部によりセンサを保持できて、センサの位置ずれを防止し易い。また、両コイル素子間に仕切り部が配置されることから、センサも両コイル素子間に配置される。ここで、上記センサが温度センサである場合、高温になり易いコイル素子間に当該センサを配置できることから、上記形態は、コイルの温度を適切に測定することができる。
【0024】
上記インシュレータが分割片を具える形態として、上記分割片が互いに係合する係合部を有する形態が挙げられる。
【0025】
上記形態は、両分割片を組み合わせるときに、上記係合部により各分割片を相互に位置決めでき、リアクトルの組立作業性に優れる。かつ、両分割片が相互に適切な位置に組み合わされることから、上記形態は、センサの収納部を適切に形成することができ、この収納部にセンサを配置することで、センサを所定の位置に配置できる。
【0026】
本発明の一形態として、上記センサの収納部が上記側壁部を構成する樹脂により当該側壁部に一体に成形された形態が挙げられる。
【0027】
上記形態も収納部を具えることで、センサを所定の位置に保持し易い。特に、上記形態は、収納部が側壁部に一体成形されていることから、射出成形などにより側壁部を成形する際に同時に収納部を形成することができ、リアクトルの生産性に優れる。また、上記形態も、収納部を具えることによる部品点数の増加を招くこともない。
【0028】
その他、本発明の一形態として、上記底板部の一面に形成されて、当該底板部に上記コイルを固定する接合層を具える形態が挙げられる。
【0029】
上記形態は、コイルと底板部との間に接合層が介するだけであるため、ケース底面とコイルとの間隔が短く、小型なリアクトルとすることができる。また、上記形態は、接合層によりコイルが底板部に固定されることで、封止樹脂の有無を問わず、ケースに対する所定の位置にコイルを固定できる。特に、この形態では、上述した底板部と側壁部とが別部材である形態とすると、側壁部を取り外した状態で接合層の形成が可能であり、接合層の形成作業が行い易く、作業性に優れる。
【0030】
上記接合層を具える形態として、上記接合層が放熱層と、絶縁性接着剤により構成された接着層とを具える多層構造であり、上記底板部が導電性材料により構成された形態が挙げられる。上記接着層は、上記コイルに接する側に配置され、上記放熱層は、上記底板部に接する側に配置される。
【0031】
上記形態では、底板部が導電性材料(一般に熱伝導性に優れるアルミニウムなどの金属材料)で構成されている上に、この底板部に接着層によりコイルを十分に固定でき、かつ、放熱層を有することから、放熱層及び底板部を介してコイルの熱を冷却ベースといった設置対象に効率よく伝えられる。従って、上記形態は、封止樹脂の有無、封止樹脂の材質によらず、放熱性に優れる。また、コイルと接触する接着層が絶縁性材料により構成されることで、放熱層や底板部が導電性材料から構成されていても、コイルと底板部との間を絶縁できる。従って、放熱層を含めた接合層を薄くすることができ、この点からも、上記形態は、放熱性に優れる上に小型である。
【0032】
上記接合層が上記接着層と上記放熱層とを具える多層構造の形態として、上記放熱層の少なくとも一部は、熱伝導率が2W/m・K超の材料により構成された形態が挙げられる。
【0033】
このような高熱伝導率の材料で放熱層の少なくとも一部が形成されていることで、上記形態は、より一層放熱特性に優れたリアクトルとすることができる。
【0034】
上記接合層が上記接着層と上記放熱層とを具える多層構造の形態において、上記放熱層がアルミナのフィラーを含有するエポキシ系接着剤により構成され、上記底板部がアルミニウム又はアルミニウム合金により構成された形態が挙げられる。
【0035】
上記形態は、放熱層及び底板部からなる放熱経路を具えることで、放熱性に優れる。また、上記形態は、放熱層が絶縁性接着剤により構成されることで、底板部とコイルとの間の絶縁性にも優れることから放熱層を薄くできるため、放熱性の向上、絶縁性の向上、及び小型化を図ることができる。
【0036】
上記側壁部と底板部とが独立部材である形態において、上記底板部の熱伝導率が、上記側壁部の熱伝導率と同等以上である形態が挙げられる。
【0037】
コイルが配置される底板部が放熱性に優れることで、この底板部を介して、コイルの熱を効率よく設置対象に伝達でき、上記形態は、放熱性に優れる。より具体的な形態は、底板部が金属材料で構成され、側壁部が絶縁性樹脂などの樹脂で構成された形態が挙げられる。
【0038】
本発明リアクトルは、コンバータの構成部品に好適に利用することができる。本発明のコンバータは、スイッチング素子と、上記スイッチング素子の動作を制御する駆動回路と、スイッチング動作を平滑にするリアクトルとを具え、上記スイッチング素子の動作により、入力電圧を変換するものであり、上記リアクトルが本発明リアクトルである形態が挙げられる。この本発明コンバータは、電力変換装置の構成部品に好適に利用することができる。本発明の電力変換装置は、入力電圧を変換するコンバータと、上記コンバータに接続されて、直流と交流とを相互に変換するインバータとを具え、このインバータで変換された電力により負荷を駆動するための電力変換装置であって、上記コンバータが本発明コンバータである形態が挙げられる。
【0039】
本発明コンバータや本発明電力変換装置は、センサによる物理量の測定を安定して行える本発明リアクトルを具えることで、測定した物理量に応じた制御などを良好に行うことができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明リアクトルは、温度などの物理量を測定するセンサを適切な位置に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施形態1のリアクトルを示す概略斜視図である。
【図2】実施形態1のリアクトルの概略を示す分解斜視図である。
【図3】実施形態1のリアクトルに具えるコイルと磁性コアとの組合体の概略を示す分解斜視図である。
【図4】実施形態1のリアクトルに具えるインシュレータを示し、(A)は斜視図、(B)は、(A)のB-B断面図である。
【図5】ケースに具える側壁部の別の形態を示す斜視図であり、掛止部を具える開口部近傍を示す。
【図6】ケースに具える側壁部の別の形態を示し、(A)は、掛止部を具える開口部近傍の斜視図、(B)は、(A)のB-B断面図であって、センサを収納する収納部近傍を示す。
【図7】インシュレータの別の形態を示し、(A)は斜視図、(B)は、(A)のB-B断面図である。
【図8】インシュレータの別の形態を示す斜視図である。
【図9】ハイブリッド自動車の電源系統を模式的に示す概略構成図である。
【図10】本発明コンバータを具える本発明電力変換装置の一例を示す概略回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
{実施形態1}
以下、図1〜図4を参照して、実施形態1のリアクトルを説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。なお、以下の説明では、リアクトルを設置したときに設置側を下側、その対向側を上側として説明する。
【0043】
≪リアクトルの全体構成≫
リアクトル1は、コイル2と、コイル2が配置される磁性コア3と、コイル2と磁性コア3との組合体10を収納するケース4とを具える。ケース4は、底板部40(図2)と、底板部40から立設する側壁部41Aとを具え、底板部40と対向する側が開口した箱体である。リアクトル1の最も特徴とするところは、ケース4の側壁部41Aが樹脂により構成されている点、及びリアクトル1の物理量を測定するセンサ7に連結される配線71を掛止する掛止部43aが、側壁部41Aの構成樹脂により側壁部41Aに一体に成形されている点にある。以下、各構成をより詳細に説明する。
【0044】
[センサ]
ここでは、センサ7は温度センサであり、図4(B)に示すようにサーミスタといった感熱素子7aと、感熱素子7aを保護する保護部7bとを具えた棒状体が挙げられる。保護部7bは、樹脂などのチューブなどが挙げられる。センサ7には、感知した情報を制御装置といった外部装置に伝達するための配線71(図1,図4(B))が連結される。
【0045】
[コイル]
コイル2は、図2,図3を主に参照して説明する。コイル2は、接合部の無い1本の連続する巻線2wを螺旋状に巻回してなる一対のコイル素子2a,2bと、両コイル素子2a,2bを連結するコイル連結部2rとを具える。各コイル素子2a,2bは、互いに同一の巻数の中空の筒状体であり、各軸方向が平行するように並列(横並び)され、コイル2の他端側(図3では右側)において巻線2wの一部がU字状に屈曲されてコイル連結部2rが形成されている。この構成により、両コイル素子2a,2bの巻回方向は同一となっている。
【0046】
なお、各コイル素子を別々の巻線により作製し、各コイル素子の巻線の一端部同士を溶接や半田付け、圧着などにより接合されたコイルとすることができる。
【0047】
巻線2wは、銅やアルミニウム、その合金といった導電性材料からなる導体の外周に、絶縁性材料からなる絶縁被覆を具える被覆線を好適に利用できる。絶縁被覆の厚さは、20μm以上100μm以下が好ましく、厚いほどピンホールを低減できて電気絶縁性を高められる。導体は、平角線が代表的であり、その他、横断面が円形状、楕円形状、多角形状などの種々の形状のものを利用できる。平角線は、(1)断面が円形状の丸線を用いた場合よりも占積率が高いコイルを形成し易い、(2)後述するケース4に具える接合層42との接触面積を広く確保し易い、(3)後述する端子金具8との接触面積を広く確保し易い、といった利点がある。ここでは、導体が銅製の平角線からなり、絶縁被覆がエナメル(代表的にはポリアミドイミド)からなる被覆平角線を利用し、各コイル素子2a,2bは、この被覆平角線をエッジワイズ巻きにしたエッジワイズコイルである。また、ここでは、各コイル素子2a,2bの端面形状は、長方形の角部を丸めた形状であるが、円形状などとすることができる。
【0048】
コイル2を形成する巻線2wの両端部2eは、コイル2の一端側(図3では左側)においてターン形成部分から適宜引き延ばされて、代表的にはケース4の外部に引き出される(図1)。巻線の両端部2eは、絶縁被覆が剥がされて露出された導体部分に、導電材料からなる端子金具8が接続される。この端子金具8を介して、コイル2に電力供給を行う電源などの外部装置(図示せず)が接続される。
【0049】
[磁性コア]
磁性コア3の説明は、図3を参照して行う。磁性コア3は、各コイル素子2a,2bに覆われる一対の内側コア部31と、コイル2が配置されず、コイル2から露出されている一対の外側コア部32とを有する。各内側コア部31はそれぞれ、各コイル素子2a,2bの内周形状に沿った外形を有する柱状体(ここでは、直方体の角部を丸めた形状)であり、各外側コア部32はそれぞれ、一対の台形状面を有する柱状体である。磁性コア3は、離間して配置される内側コア部31を挟むように外側コア部32が配置され、各内側コア部31の端面31eと外側コア部32の内端面32eとを接触させて環状に形成される。これら内側コア部31及び外側コア部32により、コイル2を励磁したとき、閉磁路を形成する。
【0050】
内側コア部31は、磁性材料からなるコア片31mと、代表的には非磁性材料からなるギャップ材31gとを交互に積層して構成された積層体であり、外側コア部32は、磁性材料からなるコア片である。
【0051】
各コア片は、磁性粉末を用いた成形体や、絶縁被膜を有する磁性薄板(例えば、電磁鋼板)を複数積層した積層体を利用できる。上記成形体は、例えば、Fe,Co,Niといった鉄族金属、Fe-Si,Fe-Ni,Fe-Al,Fe-Co,Fe-Cr,Fe-Si-AlなどのFe基合金、希土類金属やアモルファス磁性体といった軟磁性材料からなる粉末を用いた圧粉成形体、上記粉末をプレス成形後に焼結した焼結体、上記粉末と樹脂との混合体を射出成形や注型成形などした硬化成形体が挙げられる。その他、コア片は、金属酸化物の焼結体であるフェライトコアなどが挙げられる。成形体は、複雑な立体形状のコア片や磁性コアでも容易に形成できる。
【0052】
圧粉成形体の原料には、上記軟磁性材料からなる粒子の表面に絶縁被膜を具える被覆粒子からなる被覆粉末を好適に利用できる。被覆粉末を成形後、上記絶縁被膜の耐熱温度以下で熱処理を施すことで圧粉成形体が得られる。絶縁被膜は、代表的には、シリコーン樹脂やリン酸塩からなるものが挙げられる。
【0053】
内側コア部31と外側コア部32とが異なる材質からなる形態とすることができる。例えば、内側コア部31を上述の圧粉成形体や積層体とし、外側コア部32を硬化成形体とすると、内側コア部31の飽和磁束密度を外側コア部32よりも高め易い。或いは、内側コア部31を硬化成形体とし、外側コア部32を上述の圧粉成形体や積層体とすると、漏れ磁束を低減し易い。ここでは、各コア片は、鉄や鋼などの鉄を含有する軟磁性粉末の圧粉成形体としている。
【0054】
ギャップ材31gは、インダクタンスの調整のためにコア片間に設けられる隙間に配置される板状材である。ギャップ材31gの構成材料は、アルミナやガラスエポキシ樹脂、不飽和ポリエステルなど、コア片よりも透磁率が低い材料、代表的には非磁性材料が挙げられる。或いは、ギャップ材31gとして、セラミックスやフェノール樹脂などの非磁性材料に磁性粉末(例えば、フェライト、Fe,Fe-Si,センダストなど)が分散した混合材料からなるものを用いると、ギャップ部分の漏れ磁束を低減できる。エアギャップとすることもできる。
【0055】
コア片やギャップ材の個数は、リアクトル1が所望のインダクタンスとなるように適宜選択することができる。また、コア片やギャップ材の形状は適宜選択することができる。ここでは、内側コア部31は複数のコア片31m及び複数のギャップ材31gから構成される形態を示すが、ギャップ材を一つ具える形態や、コア片の材質によってはギャップ材を具えていない形態とすることができる。また、外側コア部32は、一つのコア片から構成される形態、複数のコア片から構成される形態のいずれも取り得る。コア片を圧粉成形体で構成する場合、複数のコア片で内側コア部や外側コア部を構成する形態とすると、各コア片を小さくできるため、成形性に優れる。
【0056】
上記コア片同士の一体化やコア片31mとギャップ材31gとの一体化には、例えば、接着剤や接着テープなどを利用できる。内側コア部31の形成に接着剤を用い、内側コア部31と外側コア部32との接合に接着剤を用いない形態としてもよい。
【0057】
或いは、絶縁性材料からなる熱収縮チューブや常温収縮チューブを利用して、内側コア部31を一体化してもよい。この場合、上述の絶縁性チューブは、コイル素子2a,2bと内側コア部31との間の絶縁材としても機能する。
【0058】
或いは、環状に保持可能な帯状締付材を利用して磁性コア3を環状に一体化することができる。具体的には、環状に組み立てた磁性コア3の外周や組合体10の外周を帯状締付材で囲むことで磁性コア3を環状に保持できる。上記帯状締付材は、非磁性で、耐熱性に優れる材料からなるもの、例えば、市販の結束材(タイラップ(トーマスアンドベッツインターナショナルインクの登録商標)、ピークタイ(ヘラマンタイトン株式会社製結束バンド)、ステンレススチールバンド(パンドウイットコーポレーション製)など)を利用することができる。磁性コア3やコイル2と帯状締付材との間に緩衝材(例えば、ABS樹脂、PPS樹脂、PBT樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂やシリコーンゴムなどのゴムからなるもの)を介在させると、帯状締付材の締付力による磁性コア3やコイル2の損傷を防止できる。
【0059】
その他、この例に示す磁性コア3は、内側コア部31の設置側の面と外側コア部32の設置側の面とが面一になっておらず、外側コア部32の設置側の面が内側コア部31よりも突出し、かつコイル2の設置側の面と面一である。従って、コイル2と磁性コア3との組合体10の設置側の面は、両コイル素子2a,2b及び外側コア部32で構成され、コイル2及び磁性コア3の双方が後述する接合層42(図2)に接触できるため、リアクトル1は、放熱性に優れる。また、組合体10の設置側の面がコイル2及び磁性コア3の双方で構成されることで底板部40(図2)との接触面積が十分に大きく、リアクトル1は、設置したときの安定性にも優れる。更に、コア片を圧粉成形体で構成することで、外側コア部32において内側コア部31よりも突出した箇所は磁束の通路に利用できる。
【0060】
[インシュレータ]
この例に示すリアクトル1は、コイル2と磁性コア3との間に介在されるインシュレータ5Aを更に具える。インシュレータ5Aの説明は、図3,図4を参照して行う。インシュレータ5Aは、コイル2の軸方向に分割可能な一対の分割片50a,50bを組み合わせて一体にされる形態であり、内側コア部31を収納する筒状部51と、各コイル素子2a,2bの端面と外側コア部32の内端面32eとの間に介在される一対の枠板部52とを具える。筒状部51は、コイル素子2a,2bと内側コア部31とを絶縁し、枠板部52は、コイル素子2a,2bの端面と外側コア部32の内端面32eとを絶縁する。このインシュレータ5Aは、センサ7の収納部を具えることを特徴の一つとする。
【0061】
各分割片50a,50bは、内側コア部31の軸方向に沿って、内側コア部31の各角部に配置される複数の棒状の支持部51a,51bを有する。支持部51a,51bはそれぞれ、枠板部52に立設され、分割片50a,50bを組み合わせることで、支持部51a,51bにより筒状部51を形成する。
【0062】
インシュレータ5Aを構成する各分割片50a,50bは、互いに係合する係合部を有する。具体的には、支持部51a,51bの両端部は凹凸形状となっており、この凹凸は、分割片50a,50bを組み合わせたとき、図4(A)に示すように互いに係合する係合部として機能する。係合部は、分割片50a,50bの相互の位置決めができれば、特にその形状は問わない。ここでは、角張った段差形状としているが、波型のような曲線形状としてもよいし、ジグザグ形状などとしてもよい。係合部を有することで両分割片50a,50bを容易に位置決めでき、組立作業性に優れる。この例では、両分割片50a,50bを適切に位置決めできることで後述するセンサ7の収納部も適切に形成できることから、センサ7を所定の位置に配置できる。
【0063】
また、この例では、内側コア部31の一部(主として角部)のみが筒状部51に覆われ、他部が露出されるように支持部51a,51bを構成している。そのため、例えば、封止樹脂を具える形態とする場合、内側コア部31と封止樹脂との接触面積を大きくできる上に、封止樹脂を流し込むときに気泡が抜け易く、リアクトル1の製造性に優れる。
【0064】
また、この例では、内側コア部31の全長に亘り筒状部51が存在するように、支持部51a,51bの長さ(内側コア部31の軸方向に沿った長さ)を調整しているが、更に短くしてもよい。この場合、内側コア部31の外周に絶縁性材料からなる絶縁被覆層を形成すると、コイル素子2a,2bと内側コア部31との絶縁性を高められる。絶縁被覆層は、例えば、上述した熱収縮チューブなどの絶縁性チューブ、絶縁テープや絶縁紙などにより形成することができる。
【0065】
また、この例では、各分割片50a,50bはそれぞれ、四本ずつ支持部51a,51bを具えるが、内側コア部31とコイル素子2a,2bとの間を絶縁できれば、3本以下(例えば、多角線上に配置される2本のみ)としてもよい。その他、筒状部は、例えば、コイル素子の2a,2bの軸方向と直交方向に分割された断面]状の部材が各枠板部にそれぞれ一体に形成され、両分割片を組み合わせて筒状となる形態とすることができる。
【0066】
各枠板部52はそれぞれ、各内側コア部31がそれぞれ挿通可能な一対の開口部(貫通孔)を有するB字状の平板部分である。
【0067】
各枠板部52はそれぞれ、支持部51a,51bに加えて仕切り部53a,53bも具える。仕切り部53a,53bは、両分割片50a,50bをコイル2に組み付けたとき、両コイル素子2a,2b間に介在されるように配置され、枠板部52からコイル側に向かって突設されている。この仕切り部53a,53bにより、両コイル素子2a,2bは互いに接触せず、両コイル素子2a,2bを確実に絶縁できる。また、ここでは、両分割片50a,50bを組み合わせたとき、両分割片50a,50bの仕切り部53a,53bの対向箇所に接触箇所と非接触箇所とが設けられ、この非接触箇所に形成される空間をセンサ7の収納部として利用する。
【0068】
一方の分割片50aに設けられた仕切り部53aは、図4(B)に示すように台形状板であり、図4(B)において上下方向(コイル2にインシュレータ5Aを組み付けたとき、コイル素子の軸方向及び横並び方向の双方に直交する方向)の中央部から、上方に向かって傾斜した端面:収納形成部54aと、傾斜した端面に連続し、上下方向に平行な直線的な端面(以下、直線端面と呼ぶ)とを具える。
【0069】
他方の分割片50bに設けられた仕切り部53bは、図4(B)に示すようにL字状板であり、両分割片50a,50bを組み合わせたときに一方の分割片50aの直線端面と対向する直線端面と、収納形成部54aに沿って傾斜した端面:収納形成部54bとを具える。両収納形成部54a,54bは、両分割片50a,50bを組み合わせたとき、上述の傾斜した端面間に所定の間隔をあけて配置されるように設けられている。両収納形成部54a,54bによって斜めの空間(上下方向に対して、上記傾斜した端面の傾斜角に応じた角度を有する空間=上述の非接触箇所)が構成される。両収納形成部54a,54bにより構成される空間をセンサ7の収納部とする(図4(B))。
【0070】
上記収納部にセンサ7を収納すると、他方の分割片50bの収納形成部54bにより、センサ7は、一方の分割片50aの収納形成部54a側に押さえられた状態になる。ここでは、センサ7の長さの半分以上を保持できるように、収納形成部54bのL字の突出長さを調整している。また、ここでは、両コイル素子2a,2b間において、コイル2の軸方向の中心を含む中心領域(ここでは、上記中心からコイル2の軸方向の長さの30%までの領域、即ち、上記中心を含んでコイル2の軸方向の長さの60%の領域)にセンサ7(感熱素子7a)が配置されるように収納形成部54a,54bを構成している。
【0071】
仕切り部53a,53bの大きさは、適宜選択することができる。この例では、仕切り部53a,53bをコイル素子2a,2bの軸方向のほぼ全域、かつ上下方向の略全域に配置される構成としているが、両コイル素子2a,2b間に仕切り部が存在しない領域が設けられるように仕切り部を形成してもよい。例えば、図4(B)に示す仕切り部53a,53bにおいて収納形成部54a,54bよりも下方側の領域を省略してもよい。仕切り部53a,53bの形状も、適宜選択することができる。仕切り部の形状を変更することで、収納部の形状(センサ7の収納状態)も種々の形態を採りうる(例えば、後述する実施形態7,8参照)。
【0072】
更に、この例では、他方の分割片50bにセンサ7に連結される配線71を掛止する掛止部55を具える。この掛止部55は、上記傾斜した収納部にセンサ7を収納した状態において、配線71が連結されるセンサ7の根元側とは反対側(センサ7の先端側、図4(B)では右方側)に位置しており、収納部に収納されたセンサ7の根元側から配線71をヘアピン状に折り返し、この折り返した配線71を掛止部55により支持できるように設けられている。このように配線71を折り返した状態で支持することで、配線71が引っ張られても、センサ7が収納部から抜け難い。
【0073】
掛止部55の形状は、特に問わない。ここでは、仕切り部53bに対して直交方向に突出した帯状片としている。帯状片におけるコイルの軸方向に沿った長さは特に問わない。帯状片が短いと、収納部へのセンサ7の挿入に際して邪魔にならず、センサ7の挿入性に優れ、長いと、配線71をより確実に支持し易い。その他の掛止部として、例えば、以下が挙げられる。仕切り部53bから上下方向の上方に延びる突起を設け、この突起を配線71の掛止部に利用することが挙げられる。この突起に配線71を巻回することで、配線71を固定できる。或いは、仕切り部53bに、貫通孔(例えば、コイルの軸方向に沿った孔)を設け、この貫通孔を配線71の掛止部に利用することが挙げられる。この貫通孔に配線71を挿通することで配線71の移動をある程度規制できる。或いは、仕切り部53bに配線71を挟持可能な切欠や複数の突起を設け、これらの切欠や突起を配線71の掛止部に利用することが挙げられる。これらの切欠や突起に配線71を挟み込むことで配線71を固定できる。或いは、仕切り部53aや枠板部52の一部に貫通孔、突起、切欠などを設けてこれらを配線71の掛止部に利用してもよい。掛止部55の位置は、適宜選択することができる。また、掛止部を複数具えるインシュレータとしてもよい。本発明では、ケース4に掛止部43aを具えることから、掛止部を具えていないインシュレータとしてもよい。
【0074】
その他、他方の分割片50bは、コイル連結部2rが載置され、コイル連結部2rと外側コア部32との間を絶縁するための台座52pも具える。台座52pは、分割片50bの枠板部52において、上記仕切り部53bとは逆の方向(図4(B)では右方側)に突出している。即ち、分割片50bの枠板部52は、一方(図4(B)では左方側)に仕切り部53bが突出し、他方に台座52pが突出している。
【0075】
その他、この例では、両分割片50a,50bの枠板部52において、外側コア部32と接する側の面に外側コア部32の位置決めをする位置決め突起(図示せず)が設けられており、組立作業性に優れる。位置決め突起を省略してもよい。
【0076】
インシュレータ5Aの構成材料には、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、液晶ポリマー(LCP)などの絶縁性材料が利用できる。インシュレータ5Aは、射出成形などにより、複雑な形状であっても容易に成形することができる。
【0077】
[ケース]
ケース4の説明は、図2を参照して行う。ケース4は、コイル2と磁性コア3との組合体10が載置される平板状の底板部40と、底板部40に立設する枠状の側壁部41Aとを具える。このケース4は、底板部40と側壁部41Aとが一体に成形されておらず、それぞれ独立した部材であり、固定材により一体化されることを特徴の一つとする。また、底板部40は、その一面(内面)に接合層42を具え、この接合層42によってコイル2を底板部40に固定する。そして、リアクトル1は、側壁部41Aが絶縁性樹脂により成形されている点、この側壁部41Aにセンサ7(図1)の配線71(図1)の掛止部43aが一体に成形されている点を最大の特徴とする。
【0078】
(底板部)
底板部40は、矩形状板であり、リアクトル1が設置対象に設置されるときに設置対象に接して固定される。図2に示す例では、底板部40が下方となる設置状態を示すが、底板部40が上方、或いは側方となる設置状態も有り得る。底板部40の外形は適宜選択することができる。ここでは、底板部40は、四隅のそれぞれから突出した取付部400を有する。後述する側壁部41Aも取付部411を有しており、底板部40と側壁部41Aとを組み合わせてケース4を形成した場合、この取付部400は、側壁部41Aの取付部411と重なる。各取付部400,411にはそれぞれ、設置対象にケース4を固定するボルト(図示せず)が挿通されるボルト孔400h,411hが設けられている。ボルト孔400hは、後述する側壁部41Aのボルト孔411hに連続するように設けられている。ボルト孔400h,411hは、ネジ加工が成されていない貫通孔、ネジ加工がされたネジ孔のいずれも利用でき、個数なども適宜選択することができる。
【0079】
或いは、側壁部41Aが取付部を具えておらず、底板部40のみが取付部400を具える形態としてもよい。この形態の場合、底板部40の取付部400が側壁部の外形から突出するように底板部40の外形を形成する。或いは、側壁部41Aのみが取付部411を有し、底板部40が取付部を有しない形態としてもよい。この形態の場合、側壁部41Aの取付部411が底板部40の外形から突出するように側壁部41Aの外形を形成する。
【0080】
底板部40は、金属材料といった導電性材料から構成されることが好ましい。金属材料は一般に熱伝導率が高いことから、放熱性に優れる底板部40とすることができ、コイル2が配置される底板部40が放熱性に優れることで、接合層42及び底板部40を介してコイル2の熱を効率よく設置対象に伝えられる。従って、放熱性に優れるリアクトルとすることができる。特に、コイル2の近傍に配置されることから、上記金属材料は、非磁性金属が好ましい。
【0081】
具体的な金属は、例えば、アルミニウム(熱伝導率:237W/m・K)やその合金、マグネシウム(156W/m・K)やその合金、銅(398W/m・K)やその合金、銀(427W/m・K)やその合金、鉄(80W/m・K)やオーステナイト系ステンレス鋼(例えば、SUS304:16.7W/m・K)が挙げられる。上記アルミニウムやマグネシウム、その合金を利用すると、軽量なケースとすることができ、リアクトルの軽量化に寄与することができる。特に、アルミニウムやアルミニウム合金は、耐食性に優れ、マグネシウムやマグネシウム合金は制振性に優れるため、車載部品に好適に利用できる。金属材料により底板部40を形成する場合、ダイキャストといった鋳造やプレス加工(代表的には打ち抜き)などにより形成することができる。
【0082】
底板部40を導電性材料により形成する場合、アルマイト処理などの陽極酸化処理を施して、その表面に極薄い絶縁被膜(厚さ:1μm〜10μm程度)を具えた形態とすると、コイル2との間の絶縁性を高められる。
【0083】
(側壁部)
側壁部41Aは、矩形枠状体であり、一方の開口部を底板部40により塞いでケース4を組み立てたとき、上記組合体10の周囲を囲むように配置され、他方の開口部が開放される。ここでは、側壁部41Aは、リアクトル1を設置対象に設置したときに設置側となる領域(底板部40側の領域)の外形が上記底板部40の外形に沿った矩形状であり、開放された開口側の領域がコイル2と磁性コア3との組合体10の外周面に沿った曲面形状である。
【0084】
また、ここでは、側壁部41Aの開口側の領域には、組合体10の一方(図2において手前側)の外側コア部32の台形状面を覆うように端子台410が設けられ、他方(図2において奥側)の外側コア部32の台形状面を覆うように庇状部が設けられている。従って、ケース4に収納された組合体10は、図1に示すようにコイル2が露出され、磁性コア3は実質的にケース4の構成材料に覆われる。上記端子台410や庇状部を具えることで、(1)耐振動性の向上、(2)ケース4(側壁部41A)の剛性の向上、(3)磁性コア3(外側コア部32)の外部環境からの保護や機械的保護、(4)組合体10の脱落防止、といった種々の効果が得られる。上記端子台410や庇状部を省略して、コイル2と、一方或いは両方の外側コア部32の台形状面との双方が露出される形態としてもよい。
【0085】
そして、側壁部41Aは、樹脂、特に絶縁性樹脂から構成される。具体的な樹脂は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ウレタン樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂などが挙げられる。側壁部41Aが絶縁性樹脂で構成されることでコイル2とケース4との間の絶縁性を高められることから、ケース4を組み立てた状態において、コイル2の外周面と側壁部41Aの内周面とを近接させることができる。ここでは、コイル2の外周面と側壁部41Aの内周面との間隔は、0mm〜1.0mm程度と非常に狭い。また、側壁部41Aを樹脂製とすることで、掛止部43aを具えるといった複雑な立体形状であっても、射出成形などにより容易に成形可能である。特に、この例では、側壁部41Aの全体を樹脂製とすることで、側壁部41Aの一部が異なる材料からなる場合と比較して、形成が容易である。更に、側壁部41Aが樹脂製であることで、リアクトル1を軽量にできる。上記樹脂に後述するセラミックスからなるフィラーを混合した形態とすると、側壁部41Aの放熱性を高められ、放熱性に優れるケースにすることができる。
【0086】
ここでは、底板部40をアルミニウム合金により構成し、側壁部41AをPBT樹脂により構成しており、底板部40の熱伝導率が側壁部41Aよりも十分に高い。
【0087】
〔掛止部〕
側壁部41Aは、一方(図2において奥側)の外側コア部32を覆う上記庇状部の縁部の中央部に、センサ7(図1)に連結される配線71(図1)を掛止する掛止部43aを具える。
【0088】
ここでは、掛止部43aは、C字状片であるが、後述する図5,図6に示すように、掛止部は種々の形状を採ることができる。掛止部の配置位置も図5,図6に示すように、種々の位置を採ることができる。掛止部43aは、ケース4の開口部をつくる周縁からコイル2の上方空間に突出するように設けられていることで、配線71がケース4の外方に突出し難く、リアクトル1を小型にできる。所望の形状の掛止部を一つ、又は複数具えることができる(図5(A)参照)。掛止部を射出成形などにより側壁部41Aに一体成形された構成とすることで、複雑な形状であっても所望の個数の掛止部を側壁部の任意の位置に、側壁部41Aの成形と同時に成形できる。配線71の掛止方法は後述する。
【0089】
〔取付箇所〕
側壁部41Aの設置側の領域は、底板部40と同様に、四隅のそれぞれから突出する取付部411を具え、各取付部411には、ボルト孔411hが設けられて、取付箇所を構成している。ボルト孔411hは、側壁部41Aの構成材料のみにより形成してもよいし、別材料からなる筒体を配置させて形成してもよい。例えば、上記筒体として、真鍮、鋼、ステンレス鋼などの金属からなる金属管を利用すると強度に優れ、樹脂のみから構成される場合に比較してクリープ変形を抑制できる。ここでは、金属管を配置してボルト孔411hを形成している。
【0090】
〔端子金具〕
上記側壁部41Aの開口側の領域において、他方(図2において手前側)の外側コア部32の上方を覆う箇所に設けられた端子台410には、巻線2wの各端部2eがそれぞれ接続される一対の端子金具8が固定される。
【0091】
各端子金具8は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金といった導電性材料からなる板材を適宜屈曲して形成されたL字状の導電部材である。各端子金具8の一端側に、巻線の端部2eが半田や溶接などにより接合される接合部81a,81bを有し、他端側に、電源などの外部装置を接続するためのボルトといった連結部材が嵌め込まれる貫通孔82hを有し、中央部分が側壁部41Aに固定される。
【0092】
ここでは、各接合部81a,81bをU字状としている。接合部81a,81bがつくるU字状の空間に巻線の端部2eを介在させて、例えば、巻線の端部2eと接合部81a,81bとの間を埋めるように半田を流し込むことで、コイル2と端子金具8とを電気的に接続できる。或いは、U字状の空間に巻線の端部2eを介在させた状態でかしめて接合部81a,81bと巻線の端部2eとを確実に接触させた状態とした後、TIG溶接などの溶接、圧着、半田付けなどを行うことでも、上記電気的な接続が行える。
【0093】
図2に示す端子金具8の形状は、例示であり、接合部と、外部装置との接続箇所と、側壁部41Aへの固定箇所とを少なくとも具えていれば、適宜変更することができる。例えば、接合部は平板状でもよい。
【0094】
〔端子台〕
端子台410は、図2に示すように端子金具8の中央部分が配置される凹溝410cが形成され、凹溝410cには、端子金具8を位置決めする位置決め突起410pが設けられている。端子金具8にはこの突起410pが嵌め込まれる位置決め孔83を具える。端子金具8が位置決め可能であれば、位置決め突起410p及び位置決め孔83の形状、個数、配置位置は特に問わない。位置決め突起410p及び位置決め孔83を有しない形態としてもよいし、端子金具に突起、端子台に孔を有する形態でもよい。
【0095】
凹溝410cに嵌め込まれた端子金具8は、その上方を端子固定部材9により覆われ、端子固定部材9をボルト91により締め付けることで、端子台410に固定される。端子固定部材9の構成材料には、側壁部41Aと同様の絶縁性樹脂を好適に利用することができる。或いは、端子金具8の中央部分を予め絶縁性樹脂により覆った成形品を形成し、この成形品を側壁部41Aに固定する形態とすることができる。
【0096】
なお、側壁部41Aを絶縁性樹脂で構成することから、端子固定部材9及びボルト91の使用に代えて、端子金具8をインサート成形することにより、側壁部、端子金具8、端子台を一体とした形態とすることができる。この形態は、部品点数及び組立工程数が少なく、リアクトルの生産性に優れる。
【0097】
(連結方法)
底板部40と側壁部41Aとを一体に接続するには、種々の固定材を利用できる。固定材は、例えば、接着剤やボルトといった締結部材が挙げられる。ここでは、底板部40及び側壁部41Aにボルト孔(図示せず)を設け、固定材にボルト(図示せず)を利用し、このボルトをねじ込むことで、両者を一体化している。
【0098】
(接合層)
底板部40は、ケース4を組み立てたとき、内側に配置される一面において、少なくともコイル2の設置側の面が接触する箇所に接合層42を具える。
【0099】
接合層42は、絶縁性材料からなる単層構造とすると容易に形成できる上に、底板部40が金属製でも、コイル2と底板部40との間を絶縁できる。接合層42を絶縁性材料からなる多層構造とすると、絶縁性をより高められる。同材質の多層構造の接合層とする場合、一層あたりの厚さを薄くできる。薄くすることでピンホールが存在しても、隣接する別の層によりピンホールを塞ぐことで絶縁を確保できる。一方、異種材質の多層構造の接合層とすると、コイル2と底板部40との絶縁性、両者の密着性、コイル2から底板部40への放熱性などの複数の特性を兼備できる。この場合、少なくとも一層の構成材料は、絶縁性材料とする。
【0100】
接合層42は、その合計厚さが厚いほど絶縁性を高められ、薄いほど放熱性を高められる傾向にある上にコイル2と底板部40との間隔が短く、小型なリアクトルとすることができる。構成材料にもよるが、例えば、接合層42の合計厚さを2mm未満、更に1mm以下、特に0.5mm以下とすることができる。或いは、後述するように熱伝導性に優れる材料により接合層42を構成する場合には、例えば、合計厚さを1mm以上としても放熱性に優れる。熱伝導率が低い材料(例えば、1W/m・K以下)によって接合層42が構成されている場合でも、上述のように合計厚さを薄くすることで(好ましくは0.5mm以下)、放熱性に優れる。なお、ここでの接合層42の厚さとは、形成直後の厚さである。組合体10を載置した後では、接合層42の厚さが薄くなる(例えば、0.1mm程度)となる場合がある。
【0101】
接合層42は、少なくともコイル2の設置側の面が十分に接触可能な面積を有していれば、特に形状は問わない。ここでは、接合層42は、図2に示すように、組合体10の設置側の面、即ち、コイル2及び外側コア部32の双方の設置側の面がつくる形状に沿った形状としている。従って、コイル2及び外側コア部32の双方が接合層42に十分に接触できる。
【0102】
特に、接合層42は、コイル2の設置側の面が接する表面側に絶縁性材料からなる接着層を具え、底板部40に接する側に熱伝導性に優れる材料からなる放熱層を具える多層構造とすると、放熱性に優れる。ここでは、接合層42は、接着層と放熱層とを具える多層構造である。
【0103】
接着層は、接着強度に優れる材料を好適に利用できる。例えば、接着層は、絶縁性接着剤、具体的には、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤などにより構成することができる。接着層の形成は、例えば、放熱層の上に塗布したり、スクリーン印刷を利用したりすることが挙げられる。接着層にシート状接着剤を利用してもよい。シート状接着剤は、単層構造、積層構造のいずれの場合も、所望の形状の接着層或いは接合層を容易に形成することができる。ここでは、接着層は、絶縁性接着剤の単層構造としている。
【0104】
放熱層は、放熱性に優れる材料、好ましくは熱伝導率が2W/m・K超の材料を好適に利用できる。放熱層は、熱伝導率が高いほど好ましく、3W/m・K以上、特に10W/m・K以上、更に20W/m・K以上、とりわけ30W/m・K以上の材料により構成されることが好ましい。
【0105】
放熱層の具体的な構成材料は、例えば、金属材料が挙げられる。金属材料は一般に熱伝導率が高いものの導電性材料であり、上記接着層の絶縁性を高めることが望まれる。また、金属材料からなる放熱層は重くなり易い。一方、放熱層の構成材料として、金属元素,B,及びSiの酸化物、炭化物、及び窒化物から選択される一種の材料といったセラミックスなどの非金属無機材料を利用すると、放熱性に優れる上に、電気絶縁性にも優れて好ましい。より具体的なセラミックスは、窒化珪素(Si3N4):20W/m・K〜150W/m・K程度、アルミナ(Al2O3):20W/m・K〜30W/m・K程度、窒化アルミニウム(AlN):200W/m・K〜250W/m・K程度、窒化ほう素(BN):50W/m・K〜65W/m・K程度、炭化珪素(SiC):50W/m・K〜130W/m・K程度などが挙げられる。上記セラミックスにより放熱層を形成するには、例えば、PVD法やCVD法といった蒸着法を利用したり、上記セラミックスの焼結板などを用意して、適宜な接着剤により、底板部40に接合したりすることが挙げられる。
【0106】
或いは、放熱層の構成材料は、上記セラミックスからなるフィラーを含有する絶縁性樹脂(例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂)が挙げられる。この材料は、放熱性及び電気絶縁性の双方に優れる放熱層が得られる。また、この場合、放熱層及び接着層の双方が絶縁性材料で構成される、即ち、接合層全体が絶縁性材料で構成されるため、この接合層は絶縁性に更に優れる。上記絶縁性樹脂が接着剤であると、放熱層と接着層との密着性に優れ、この放熱層を具える接合層は、コイル2と底板部40との間を強固に接合できる。接着層及び放熱層を構成する接着剤を異種としてもよいが、同種である場合、密着性に優れる上に接合層の形成が容易である。上記フィラー入りの絶縁性接着剤により接合層全体を形成してもよい。この場合、接合層は、単一種の材質からなる多層構造となる。
【0107】
上記フィラー入り樹脂により放熱層を形成するには、例えば、底板部40に塗布したり、スクリーン印刷したりなどすることで容易に形成できる。
【0108】
或いは、放熱層は、放熱性に優れるシート材とし、適宜な接着剤により底板部40に接合することでも形成できる。
【0109】
放熱層は、単層構造でも多層構造でもよい。多層構造とする場合、少なくとも一層の材質を異ならせてもよい。例えば、放熱層は、熱伝導率が異なる材質からなる多層構造とすることができる。
【0110】
放熱層を具える形態は、放熱層により放熱性を確保できるため、封止樹脂を具える形態とする場合、利用可能な封止樹脂の選択の自由度を高められる。例えば、フィラーを含有していない樹脂など、熱伝導性に劣る樹脂を封止樹脂に利用できる。
【0111】
ここでは、放熱層は、アルミナからなるフィラーを含有するエポキシ系接着剤により形成されている(熱伝導率:3W/m・K以上)。従って、ここでは、接合層全体が絶縁性接着剤により構成されている。また、ここでは、放熱層は、上記フィラー入り接着剤からなる二層構造で形成され、一層の厚さを0.2mm、合計0.4mmとしている(接着層との合計厚さ:0.5mm)。放熱層は、三層以上としてもよい。
【0112】
[その他のケース収納部材]
その他、一方の外側コア部32の背面をケース4の側壁部41Aに接触させ、他方の外側コア部32の背面と側壁部41Aとの間に、他方の外側コア部32を一方の外側コア部32側に押圧する部材(例えば、板ばね)を挿入した構成とすると、振動や衝撃などの外的要因によってギャップ長が変化することを防止できる。上記押圧部材を利用する形態では、ギャップ材31gとして、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどの弾性材料で構成された弾性ギャップ材とすると、ギャップ材31gが変形することでギャップ長を調整したり、ある程度の寸法誤差を吸収可能である。
【0113】
また、温度センサの他、電流センサなどの複数種の物理量測定センサをケース4に収納することができる。複数のセンサを具える場合、複数の掛止部を側壁部に設けてもよいし、一つの掛止部を複数の配線で共用してもよい。
【0114】
[封止樹脂]
ケース4内に絶縁性樹脂からなる封止樹脂(図示せず)を充填した形態とすることができる。この場合、巻線の端部2eは、封止樹脂から露出させ、巻線の端部2eと端子金具8とを溶接や半田などで接合できるようにする。或いは、上記溶接などの後、巻線の端部2eと端子金具8とを埋設するように封止樹脂を充填してもよい。封止樹脂の充填量は、適宜選択することができる。コイル2の上面の全面が封止樹脂により埋設された形態としてもよいし、上面を封止樹脂から露出させた形態としてもよい。
【0115】
上記封止樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。また、絶縁性及び熱伝導性に優れるフィラー、例えば、窒化珪素、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ほう素、ムライト、及び炭化珪素から選択される少なくとも1種のセラミックスからなるフィラーを含有する封止樹脂とすると、放熱性を更に高められる。
【0116】
ケース4内に封止樹脂を充填する場合、未硬化の樹脂が底板部40と側壁部41Aとの隙間から漏れることを防止するために、パッキン6を配置することが挙げられる。ここでは、パッキン6は、コイル2と磁性コア3との組合体10の外周に嵌合可能な大きさを有する環状体であり、合成ゴムから構成されるものを利用しているが、適宜な材質のものが利用できる。ケース4の側壁部41Aの設置面側には、パッキン6を配置するパッキン溝(図示せず)を有する。底板部40と側壁部41Aとを接着剤により一体化する場合、当該接着剤によって両者間を密閉できるため、上記封止樹脂の漏洩を防止できることから、パッキン6を省略することができる。
【0117】
≪リアクトルの製造≫
上記構成を具えるリアクトル1は、代表的には、組合体の準備,側壁部の準備,底板部の準備⇒コイルの固定⇒側壁部の配置⇒ケースの組立⇒端子金具と巻線との接合⇒センサの配置及び配線の掛止⇒封止樹脂の充填という工程により製造することができる。
【0118】
[組合体の準備]
まず、コイル2と磁性コア3との組合体10の作製手順を説明する。具体的には、図3に示すようにコア片31mやギャップ材31gを積層した内側コア部31とインシュレータ5Aの一方の分割片50aとを各コイル素子2a,2bに挿入する。ここでは、コア片31mとギャップ材31gとの積層体の外周面を接着テープにより連結して内側コア部31を柱状に作製している。次に、コイル素子2a,2bの他方の端面に、インシュレータ5Aの他方の分割片50bを挿入する。このとき、分割片50bの支持部51bをガイドとして利用することができる。なお、コア片31mとギャップ材31gとを接着テープや接着剤などで一体化せず、ばらばらの状態としてもよい。この場合、一部のコア片31m及びギャップ材31gを一方の分割片50aで支持し、他部のコア片31m及びギャップ材31gを他方の分割片50bで支持して、各コイル素子2a,2bに挿入するとよい。両分割片50a,50bの支持部51a,51bの凹凸を係合することで、両分割片50a,50bを相互に位置決めする。
【0119】
次に、インシュレータ5Aの枠板部52を挟むように外側コア部32を配置して、組合体10を形成する。このとき、内側コア部31の端面31eは、枠板部52の開口部から露出されて外側コア部32の内端面32eに接触する。両コイル素子2a,2b間には、インシュレータ5Aの仕切り部53a,53bが介在される。また、仕切り部53a,53bの収納形成部54a,54bにより、センサ7の収納部となる空間が構成される。
【0120】
[側壁部の準備]
射出成形などにより所定の形状に構成した側壁部41Aの凹溝410cに、図2に示すように、端子金具8、端子固定部材9を順に配置してボルト91を締め付け、端子金具8が固定された側壁部41Aを用意する。上述のように、端子金具8が側壁部に一体に成形されたものを用意してもよい。
【0121】
[底板部の準備、コイルの固定]
図2に示すようにアルミニウム合金板を所定の形状に打ち抜いて底板部40を形成し、一面に所定の形状の接合層42をスクリーン印刷により形成して、接合層42を具える底板部40を用意する。そして、この接合層42の上に、組み立てた組合体10を載置し、その後、接合層42を適宜硬化して組合体10を底板部40に固定する。
【0122】
接合層42により、コイル2を底板部40に密着できると共に、コイル2と外側コア部32との位置が固定され、ひいては一対の外側コア部32に挟まれた内側コア部31も位置が固定される。従って、内側コア部31と外側コア部32とを接着剤で接合したり、コア片31mやギャップ材31gを接着剤や接着テープなどで接合して一体化していなくても、接合層42により、内側コア部31及び外側コア部32を具える磁性コア3を環状に一体化できる。また、接合層42が接着剤により構成されることで、組合体10は、接合層42に強固に固定される。
【0123】
接合層42は、組合体10の配置の直前に形成してもよいが、予め接合層42を形成しておいた底板部40を利用してもよい。後者の場合、組合体10を配置するまでの間に接合層42に異物などが付着しないように離型紙を配置しておくとよい。放熱層のみ予め形成しておき、組合体10の配置の直前に接着層のみを形成してもよい。
【0124】
[側壁部の配置]
端子金具8を具える側壁部41Aを、上記組合体10の外周面を囲むように組合体10の上方から被せ、底板部40の上に配置する。このとき、巻線の端部2eがU字状の接合部81a,81bに介在されるように側壁部41Aを配置する。こうすることで、端子金具8の接合部81a,81bをガイドとして利用できる。上述のように側壁部41Aを組合体10の上方から被せると、側壁部41Aの端子台410及び上述した庇状部は、組合体10の各外側コア部32において上方側に配置された台形状面をそれぞれ覆う。これら端子台410や庇状部は、外側コア部32を覆うことで当たり止めとなる。即ち、端子台410や上記庇状部は、組合体10に対する側壁部41Aの位置決めとして機能する。側壁部41Aを組合体10の周囲に配置してから、端子金具8を側壁部41Aに固定してもよい。
【0125】
[ケースの組立]
ここでは、別途用意したボルト(図示せず)により、底板部40と側壁部41Aとを一体化する。この工程により、図1に示すように箱状のケース4が組み立てられると共に、ケース4内に組合体10が収納された状態とすることができる。また、端子金具8の接合部81a,81bに巻線の端部2eが介在された状態とすることができる。更に、コイル素子2a,2b間の上方に側壁部41Aに具える掛止部43a、インシュレータ5Aの掛止部55が配置された状態にすることができる。上記工程により、センサ7を具えていないリアクトル1が形成される。
【0126】
[端子金具と巻線との接合]
巻線の端部2eと端子金具8の接合部81a,81bとを溶接や半田、圧着などにより接合して、両者を電気的に接続する。なお、端子金具8と巻線2wとの接合と、後述するセンサ7の配置及び配線の掛止とは、いずれを先に行ってもよい。
【0127】
[センサの配置及び配線の掛止]
センサ7をインシュレータ5Aの両分割片50a,50bの収納形成部54a,54b(図4)がつくる空間(収納部)に挿入配置する。このとき、図4(B)に示すようにインシュレータ5Aの他方の分割片50bの仕切り部53bの端面を当て止めとしてセンサ7を差し入れる。収納部に挿入されたセンサ7は、上述のように両コイル素子2a,2bの横並び方向、及び軸方向の双方に直交する方向(図4において上下方向)に対して、仕切り部53a,53bの収納形成部54a,54bの傾斜に応じた傾斜を持って配置される。
【0128】
そして、センサ7に連結される配線71をインシュレータ5Aの掛止部55及びケース4の側壁部41Aの掛止部43aに掛止する。ここでは、図1に示すようにセンサ7の挿入方向(図1において右斜め下に向かう方向)から配線71を折り返して掛止部55の下方⇒掛止部43aの下方から上方に配線71を取り回して掛止している。このように複数の掛止部55,43aに配線71を掛止することで、配線71をより確実に固定できる。また、上述のようにセンサ7の挿入方向から折り返して配線71を取り回して掛止する構成とすることで、センサ7が抜ける方向に配線71が引っ張られた場合でも、インシュレータ5Aの他方の分割片50bの仕切り部53bが押さえとなって、センサ7が収納部から抜け落ちることを防止できる。上記工程により、封止樹脂を有しないリアクトル1が形成される。なお、配線71を掛止してからセンサ7を所定の位置に配置してもよいが、センサ7の配置を先に行った方が、配線71に過度の余長が生じ難く、センサ7が収納部から脱落し難い。
【0129】
[封止樹脂の充填]
ケース4内に封止樹脂(図示せず)を充填して硬化することで、封止樹脂を具えるリアクトル1を形成することができる。この形態では、センサ7や配線71も封止樹脂で固定できる。このとき、配線71は上述のように掛止部55,43aに掛止されているため、樹脂の充填の際に配線71が邪魔になることがない。なお、この形態では、接合部81a,81bと巻線の端部2eとの接合を封止樹脂の充填後に行ってもよい。
【0130】
≪用途≫
上記構成を具えるリアクトル1は、通電条件が、例えば、最大電流(直流):100A〜1000A程度、平均電圧:100V〜1000V程度、使用周波数:5kHz〜100kHz程度である用途、代表的には電気自動車やハイブリッド自動車などの車載用電力変換装置の構成部品に好適に利用することができる。
【0131】
≪効果≫
上記構成を具えるリアクトル1は、センサ7の配線71をケース4の側壁部41Aに具える掛止部43aに掛止することで、配線71の移動を規制でき、配線71の引き回しによるセンサ7の位置ずれや脱落、損傷などを防止することができる。また、配線71が余長を有する場合でも配線71自体が乱雑に引き回されて絡まる恐れも低減できる。特に、リアクトル1は、ケース4だけでなく、インシュレータ5Aにも掛止部55を具えることで、複数の掛止部43a,55により配線71の移動を規制できることからも、センサ7の位置ずれや脱落を防止できる。従って、リアクトル1は、長期に亘りセンサ7を所定の位置に維持することができる。また、リアクトル1は、所定の位置に配置されたセンサ7により所望の物理量(ここではコイル2の温度)を適切に測定可能であり、測定した物理量に基づき、フィードバック制御などを良好に行うことができる。
【0132】
特に、リアクトル1では、インシュレータ5Aにセンサ7の収納部を具えることで、センサ7を所定の位置に容易に位置決めすることができる。従って、リアクトル1は、センサ7を所定の位置に適切に配置できる上に、上記掛止部43aによりその配置位置を長期に亘り維持することができる。
【0133】
また、掛止部43a,55はケース4の側壁部41Aやインシュレータ5A自体に一体に成形されていることで、掛止部が別部材である場合と比較して部品点数が少ない上に、樹脂の射出成形などにより容易に成形可能であるため、リアクトル1は、生産性に優れる。
【0134】
更に、リアクトル1は、ケース4を具えることから、組合体10に対して外部環境からの保護及び機械的保護を図ることができる。かつ、ケース4を具えていながらも、リアクトル1は、側壁部41Aを樹脂(特に絶縁性樹脂)により構成していることで軽量である上に、コイル2の外周面と側壁部41Aの内周面との間隔を、導電性材料からなる側壁部を用いた場合に比較して狭められるため、小型にできる。また、リアクトル1は、インシュレータ5Aを具えることで、コイル2と磁性コア3との間の絶縁性を高められる。
【0135】
その他、リアクトル1は、熱伝導率が2W/m・K超といった熱伝導性に優れる放熱層を含む接合層42が、金属材料からなる底板部40とコイル2との間に介在されることで、使用時、コイル2及び磁性コア3の熱を、底板部40及び放熱層を介して、冷却ベースといった設置対象に効率よく伝えられる。従って、リアクトル1は、放熱性に優れる。接合層42の全体を熱伝導率が2W/m・K超の絶縁性材料で構成すると、放熱性により優れるリアクトルとすることができる。
【0136】
また、リアクトル1では、コイル2が接する底板部40がアルミニウムなどの熱伝導性に優れる材料により構成されているため、放熱性に更に優れる。更に、リアクトル1では、底板部40が金属材料(導電性材料)により構成されているものの、接合層42の少なくともコイル2との接触箇所が絶縁性材料により構成されていることから、接合層42が例えば0.1mm程度と非常に薄くてもコイル2と底板部40との間の絶縁性を確保することができる。特に、この例では、接合層42の全体を絶縁性材料により構成していることで、接合層42の厚さが薄くても、コイル2と底板部40との間を十分に絶縁できる。また、接合層42が薄いことからも、コイル2などの熱を底板部40を介して設置対象に伝え易く、リアクトル1は放熱性に優れる。更に、この例では、接合層42の全体が絶縁性接着剤により構成されることで、コイル2や磁性コア3と接合層42との密着性に優れることからも、コイル2などの熱を接合層42に伝え易く、リアクトル1は放熱性に優れる。加えて、この例では、巻線2wとして、被覆平角線を利用することで、コイル2と接合層42との接触面積が十分に広いことからも、リアクトル1は放熱性に優れる。また、上述のように接合層42が薄いことからも、コイル2と底板部40との間隔を狭められるため、リアクトル1は、小型である。
【0137】
加えて、リアクトル1では、底板部40と側壁部41Aとを独立した別部材とし、組み合わせて固定材により一体とする構成であることから、掛止部43aを具えていても、組合体10を容易にケース4に収納することができる。また、側壁部41Aを取り外した状態で底板部40に接合層42を形成できることから、接合層42を容易に形成でき、リアクトル1は、生産性に優れる。
【0138】
以下、図5を参照して側壁部の掛止部について、他の実施形態を説明する。ここでは、側壁部の掛止部のみを説明し、その他の構成は説明を省略する。なお、図5及び後述する図6では、分かり易いように側壁部の開口部近傍のみを示すと共に、端子台に関する構成を省略している。また、図5,図6に示すいずれの形態も、掛止部の配置位置は例示であり、コイルの軸方向に沿った位置、コイル素子の横並び方向における位置を適宜変更できる。
【0139】
{実施形態2}
上記実施形態1では、側壁部41Aに掛止部43aを一つ具える形態を説明した。その他、図5(A)に示す側壁部41αのように複数の掛止部43a,43b,43cを設けることができる。複数の掛止部43a,43b,43cを設けることで、例えば、掛止部43a,43bを温度センサの配線の掛止に利用し、掛止部43cを電流センサの配線の掛止に利用することができる。このようにケースに収納するセンサ数に応じて、掛止部の個数を変更することができる。また、一つのセンサの配線を掛止するに当たり、複数の掛止部を利用することで、配線を移動し難くすることができる。例えば、インシュレータによるセンサの収納部を有していない形態としても、複数の掛止部を具える側壁部とすることで、センサを所定の位置に配置した状態を維持することができる。また、側壁部41αのように複数の掛止部43a,43bにおいてC字やL字の開口方向を異ならせることでも、配線の掛止方法によって配線を移動し難くできる。例えば、インシュレータ5A(図1)の掛止部55(図1)の下方⇒掛止部43aの下方から上方⇒掛止部43bの下方から上方に配線を取り回して掛止することで、配線を強固に固定できる。
【0140】
なお、掛止部43a,43b,43cの形状は例示である。掛止部43b,43cは、L字状片としているが、掛止部43aと同様にC字状片としても勿論よい。また、ここでは、掛止部43a,43b,43cはいずれも側壁部の庇状部や端子台と面一になるように、また、開口部の内側となるように設けているが、少なくとも一つの掛止部を側壁部41αの開口部から上方に、或いは開口部の外方(左右方向)に突出するように設けてもよい。全ての掛止部を上述のように開口部の内側で、かつ側壁部41αの庇状部や端子台などと面一とすることで、リアクトルの上下方向及び左右方向の大きさを小さくでき、上方或いは左右方向に突出させた掛止部とすると、配線の掛止作業が行い易い。
【0141】
{実施形態3}
上記実施形態1,2では、側壁部41A,41αの庇状部の縁部や端子台の縁部に掛止部43a,43b,43cを具える形態を説明した。その他、図5(B)に示す側壁部41Bのように、開口部を構成する矩形状の周縁のうち、コイルの軸方向に平行な縁に掛止部43aを設けることができる。このように側壁部に設ける掛止部の配置位置もセンサの配置位置に応じて適宜変更することができる。
【0142】
{実施形態4}
上記実施形態1〜3では、C字状やL字状といった帯片からなる掛止部を説明した。その他、図5(C)に示す側壁部41Cのように、側壁部41Cの適宜な位置に設けた貫通孔をセンサの配線の掛止部44a,44bに利用することができる。ここでは、掛止部44aは、側壁部41Cの庇状部自体に設けられた貫通孔、掛止部44bは、側壁部41Cの開口部を構成する周縁に、開口部から上方に向かって突出した舌片に設けられた貫通孔により構成されている。ケースの上方空間に突出する舌片を設けることで、配線の掛止作業が行い易い上に、封止樹脂を具える形態であっても、封止樹脂が貫通孔から漏れるといった不具合が生じない。
【0143】
掛止部44a,44bのように貫通孔により掛止部を構成することで、配線が抜け落ち難い。従って、この形態は、配線の保持を確実に行えて、配線の移動を規制し易く、ひいてはセンサの位置ずれや脱落を防止し易い。また、掛止部として複数の貫通孔を設ける場合、各貫通孔の向きを異ならせると、これらの貫通孔に挿通させた配線を蛇行させて掛止することができ、配線を移動し難くできる。
【0144】
{実施形態5}
或いは、図5(D)に示す側壁部41Dのように、側壁部41Dの開口部から上方に突出した少なくとも一対の突起を掛止部45に利用することができる。突起間の大きさは、配線の太さに応じて選択すると良く、例えば、配線よりも若干小さく(細く)すると、配線を挟持することができて好ましい。三つ以上の突起を例えば並列させて設けることで、配線を蛇行させて掛止することができ、配線を強固に固定できる。また、ケースの上方空間に突出するように掛止部(上記突起)を設けることで、上述のように配線の掛止作業が行い易い。
【0145】
その他、上述した実施形態1〜実施形態5の種々の形状の掛止部を組み合わせて、複数の異なる形状の掛止部を具える形態とすることができる。
【0146】
{実施形態6}
上記実施形態1では、インシュレータ5Aにセンサ7の収納部を具える構成を説明した。その他、図6に示す側壁部41Eのように、側壁部41Eにセンサ7の収納部47を具える構成とすることができる。
【0147】
側壁部41Eは、その開口部を構成する矩形状の周縁のうち、対向する周縁間を渡るように十字状の渡り部48が側壁部41Eと一体に成形されている。この十字の交差部分には、側壁部41Eをコイル2の周囲に配置したとき、コイル素子2a,2b間に挿入するように、上下方向の下方に向かって延びる有底筒体が設けられており、この筒体を収納部47とする。収納部47は、センサ7を挿入可能な直径を有する縦穴46が設けられている。なお、この例では、十字状の渡り部48を設けたが、収納部47を支持できれば、十字状でなくても良く、例えば、一直線状の渡り部としてもよい。また、収納部47は、センサ7を支持できればセンサ7の一部が露出された形態とすることができる。例えば、収納部を窓を具える筒体や、有底ではなく貫通する筒体とすることができる。センサ7の一部を露出することで、コイル2の熱を感知し易い。
【0148】
縦穴46にセンサ7を挿入することで、センサ7をコイル素子2a,2b間の所定の位置に配置することができる。そして、センサ7に繋がる配線71を側壁部41Eの掛止部43bや掛止部43cに掛止することで、配線71の移動を規制することができる。また、絶縁性樹脂により収納部47を構成することで、収納部47はコイル素子2a,2b間に介在されて両コイル素子2a,2b間を絶縁する仕切り部としても機能することができる。従って、この形態は、インシュレータとして仕切り部を有していないものを利用することができ、インシュレータの形状を簡単にすることができる。その他、縦穴46の開口部を若干狭くするなどして、配線71の移動を規制可能にすると、縦穴46自体が掛止部の機能を有することができる。この場合、掛止部43b,43cを省略してもよいし、掛止部として機能する縦穴46に加えて、掛止部43b,43cを併設した形態としてもよい。
【0149】
{実施形態7}
上記実施形態1では、インシュレータ5Aにセンサ7の収納部を具え、センサ7がコイル2の軸方向に対して斜め(鋭角又は鈍角)に配置される構成を説明した。その他、図7に示すインシュレータ5Bのように、仕切り部53a,53bの形状を異ならせて、センサ7がコイルの軸方向及びコイル素子の横並び方向の双方に直交するように(ここでは、上下方向に沿って)配置される収納部としてもよい。
【0150】
この例では、図7(B)に示すように、一方の分割片50aの仕切り部53aをL字状とし、L字に配される二端面を収納形成部54aとし、他方の分割片50bの仕切り部53bを矩形板状とし、その端面を収納形成部54bとしている。両分割片50a,50bを組み合わせると、仕切り部53aの収納形成部54aと仕切り部53bの収納形成部54bとにより、上下方向に延びる断面矩形状の空間が設けられる。この空間に、図7(B)に示すようにセンサ7を収納することができる。このインシュレータ5Bでは、一方の分割片50aの収納形成部54aをつくる一端面(ここではコイルの軸方向に平行な面(図7では上向きの端面))をセンサ7の当て止めとして利用でき、この一端面の位置を調整することで、コイル素子2a,2b(図2など)の上下方向における所定の位置にセンサ7を配置することができる。
【0151】
実施形態7に示すインシュレータ5Bを利用することで、実施形態1と同様にセンサ7の収納部によりセンサ7を保持できる上に、センサ7の収納部への配置を容易に行える。
【0152】
{実施形態8}
上記実施形態1では、センサ7がコイル2の軸方向に対して斜め(鋭角又は鈍角)に配置される構成、上記実施形態7では、センサ7がコイル2の軸方向に直交して配置される構成を説明した。その他、図8に示すインシュレータ5Cのように、仕切り部53a,53bの形状を異ならせて、センサ7がコイルの軸方向に沿って配置されるようにすることができる。
【0153】
また、図8に示すインシュレータ5Cは、各内側コア部に配置される一対の筒状部51と、筒状部51を挟むように配置される一対の枠板部52とが別部材である形態である。
【0154】
図8に示す筒状部51は、コイルの軸方向と直交方向(上下方向)に分割可能な一対の断面]状の分割筒片511,512を組み合わせて筒状にする。この構成により、分割筒片511,512を各内側コア部の外周に容易に配置でき、組立作業性に優れる。各分割筒片511,512は係合せず、内側コア部の一部(主として対向する一対の面)のみが分割筒片511,512に覆われ、他部が露出される。また、分割筒片511,512は、表裏に貫通する孔を有しており、この孔からも内側コア部の一部が露出される。従って、インシュレータ5Cと封止樹脂とを具える形態では、実施形態1と同様に、内側コア部と封止樹脂との接触面積を増大できる上に、容易に脱気できる。なお、筒状部は、コイル素子と内側コア部との間に所定の距離を維持できれば、分割筒片511,512が必ずしも一体化されなくてもよいが、係合部を具えて一体化する形態とすると、分割筒片の相互の位置決めを容易にできる。或いは、筒状部は、上述のように絶縁性チューブなどにより構成してもよい。
【0155】
インシュレータ5Cに具える枠板部52は、実施形態1と同様に、一対の開口部を有するB字状の平板である。この枠板部52には、コイルが配置される側に短い筒部が突設され、インシュレータ5Cを組み立てたとき、この筒部の端面と上述の分割筒片511,512の端面とが接する。従って、各内側コア部は、その全長に亘ってインシュレータ5Cが存在する。一方(図8では左方)の枠板部52における上記短い筒部の間にL字状の仕切り部53aが設けられ、L字の一片がコイルの軸方向に沿って配置されるように設けられている。L字の一片の一部は、図8に示すようにセンサ7を覆うように配置されて、センサ押さえ57として機能する。他方(図8では右方)の枠板部52には、帯状の仕切り部53b及び台座52pが設けられている。帯状の仕切り部53bにおける軸方向の長さは短く、インシュレータ5Cを組み立てたとき、仕切り部53a,53b同士は接しない。そして、帯状の仕切り部53bと平板状の台座52pとがつくる角部が切り欠かれており、この切欠52nにセンサ7の端部(配線71との連結端部)が配置され、収納部として機能する。
【0156】
インシュレータ5Cを具える形態では、コイル素子2a,2b(図2など)間につくられる空間に配置されたセンサ7は、その一端側領域が、一方の枠板部52の仕切り部53aの端面に当接して支持され、その他端側領域(配線71との連結端側領域)が、切欠52nに嵌め込まれると共に仕切り部53bの端面に支持される。また、センサ7の一端側領域は、センサ押さえ57によってコイル側に押し付けられる。
【0157】
実施形態8に示すインシュレータ5Cを利用すると、センサ7を所定の位置に容易に配置できる。また、配線71をケースの掛止部に掛止することで、センサ7の配置位置を維持し易い。
【0158】
{実施形態9}
実施形態1〜8のリアクトルは、例えば、車両などに載置されるコンバータの構成部品や、このコンバータを具える電力変換装置の構成部品に利用することができる。
【0159】
例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車といった車両1200は、図9に示すようにメインバッテリ1210と、メインバッテリ1210に接続される電力変換装置1100と、メインバッテリ1210からの供給電力により駆動して走行に利用されるモータ(負荷)1220とを具える。モータ1220は、代表的には、3相交流モータであり、走行時、車輪1250を駆動し、回生時、発電機として機能する。ハイブリッド自動車の場合、車両1200は、モータ1220に加えてエンジンを具える。なお、図9では、車両1200の充電箇所としてインレットを示すが、プラグを具える形態とすることができる。
【0160】
電力変換装置1100は、メインバッテリ1210に接続されるコンバータ1110と、コンバータ1110に接続されて、直流と交流との相互変換を行うインバータ1120とを有する。この例に示すコンバータ1110は、車両1200の走行時、200V〜300V程度のメインバッテリ1210の直流電圧(入力電圧)を400V〜700V程度にまで昇圧して、インバータ1120に給電する。また、コンバータ1110は、回生時、モータ1220からインバータ1120を介して出力される直流電圧(入力電圧)をメインバッテリ1210に適合した直流電圧に降圧して、メインバッテリ1210に充電させている。インバータ1120は、車両1200の走行時、コンバータ1110で昇圧された直流を所定の交流に変換してモータ1220に給電し、回生時、モータ1220からの交流出力を直流に変換してコンバータ1110に出力している。
【0161】
コンバータ1110は、図10に示すように複数のスイッチング素子1111と、スイッチング素子1111の動作を制御する駆動回路1112と、リアクトルLとを具え、ON/OFFの繰り返し(スイッチング動作)により入力電圧の変換(ここでは昇降圧)を行う。スイッチング素子1111には、FET,IGBTなどのパワーデバイスが利用される。リアクトルLは、回路に流れようとする電流の変化を妨げようとするコイルの性質を利用し、スイッチング動作によって電流が増減しようとしたとき、その変化を滑らかにする機能を有する。このリアクトルLとして、上記実施形態1〜8のリアクトルを具える。リアクトル1などを具えることで、電力変換装置1100やコンバータ1110も、センサ7によって物理量を適切に測定して、測定した物理量を利用できる。
【0162】
なお、車両1200は、コンバータ1110の他、メインバッテリ1210に接続された給電装置用コンバータ1150や、補機類1240の電力源となるサブバッテリ1230とメインバッテリ1210とに接続され、メインバッテリ1210の高圧を低圧に変換する補機電源用コンバータ1160を具える。コンバータ1110は、代表的には、DC-DC変換を行うが、給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160は、AC-DC変換を行う。給電装置用コンバータ1150のなかには、DC-DC変換を行うものもある。給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160のリアクトルに、上記実施形態1〜8のリアクトル1などと同様の構成を具え、適宜、大きさや形状などを変更したリアクトルを利用することができる。また、入力電力の変換を行うコンバータであって、昇圧のみを行うコンバータや降圧のみを行うコンバータに、上記実施形態1〜8のリアクトル1などを利用することもできる。
【0163】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明リアクトルは、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド自動車などの車両に搭載される車載用コンバータ(代表的にはDC-DCコンバータ)や空調機のコンバータといった電力変換装置の構成部品に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0165】
1 リアクトル 10 組合体
2 コイル 2a,2b コイル素子 2r コイル連結部 2w 巻線
2e 巻線の端部
3 磁性コア 31 内側コア部 31e 端面 31m コア片 31g ギャップ材
32 外側コア部 32e 内端面
4 ケース 40 底板部 41A,41B,41C,41D,41E,41α 側壁部 42 接合層
43a,43b,43c,44a,44b,45 掛止部 46 縦穴 47 収納部 48 渡り部
400,411 取付部 400h,411h ボルト孔 410 端子台 410c 凹溝
410p 位置決め突起
5A,5B,5C インシュレータ 50a,50b 分割片 51 筒状部 51a,51b 支持部
52 枠板部 52p 台座 52n 切欠 53a,53b 仕切り部
54a,54b 収納形成部 55 掛止部 57 センサ押さえ 511,512 分割筒片
6 パッキン
7 センサ 7a 感熱素子 7b 保護部 71 配線
8 端子金具 81a,81b 接合部 82h 貫通孔 83 位置決め孔
9 端子固定部材 91 ボルト
1100 電力変換装置 1110 コンバータ 1111 スイッチング素子
1112 駆動回路 L リアクトル 1120 インバータ
1150 給電装置用コンバータ 1160 補機電源用コンバータ
1200 車両 1210 メインバッテリ 1220 モータ 1230 サブバッテリ
1240 補機類 1250 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルと、前記コイルが配置される磁性コアと、前記コイルと前記磁性コアとの組合体を収納するケースとを具えるリアクトルであって、
前記ケースは、前記組合体が載置される底板部と、前記組合体の周囲を囲む側壁部とを具え、
前記側壁部の開口側の少なくとも一部が樹脂により構成されており、
前記リアクトルの物理量を測定するセンサに連結される配線を掛止する掛止部が前記樹脂により前記側壁部に一体に成形されているリアクトル。
【請求項2】
前記側壁部は、その全体が絶縁性樹脂により構成されており、かつ前記底板部とは独立した部材であり、固定材により当該底板部と一体化される請求項1に記載のリアクトル。
【請求項3】
前記組合体は、前記コイルと前記磁性コアとの間に介在されるインシュレータを具え、
前記インシュレータは、一対の分割片を組み合わせて一体に構成され、これら両分割片を組み合わせることで構成される空間を前記センサの収納部として具える請求項1又は2に記載のリアクトル。
【請求項4】
前記コイルは、一対のコイル素子を具え、
これらの両コイル素子は、各コイル素子の軸が平行するように並列に配置されており、
前記インシュレータの各分割片には、前記両コイル素子間に配置される仕切り部が一体に成形されており、
前記センサの収納部は、前記両分割片を組み合わせたとき、両分割片の仕切り部により形成される空間である請求項3に記載のリアクトル。
【請求項5】
前記分割片は、互いに係合する係合部を有する請求項3又は4に記載のリアクトル。
【請求項6】
前記センサの収納部が前記側壁部を構成する樹脂により当該側壁部に一体に成形されている請求項1又は2に記載のリアクトル。
【請求項7】
前記底板部は、金属材料により構成されている請求項1〜6のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項8】
スイッチング素子と、前記スイッチング素子の動作を制御する駆動回路と、スイッチング動作を平滑にするリアクトルとを具え、前記スイッチング素子の動作により、入力電圧を変換するコンバータであって、
前記リアクトルは、請求項1〜7のいずれか1項に記載のリアクトルであるコンバータ。
【請求項9】
入力電圧を変換するコンバータと、前記コンバータに接続されて、直流と交流とを相互に変換するインバータとを具え、このインバータで変換された電力により負荷を駆動するための電力変換装置であって、
前記コンバータは、請求項8に記載のコンバータである電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−253384(P2012−253384A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−193755(P2012−193755)
【出願日】平成24年9月4日(2012.9.4)
【分割の表示】特願2012−42247(P2012−42247)の分割
【原出願日】平成24年2月28日(2012.2.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】