説明

リアクトルの温度推定装置

【課題】リアクトルの温度を、リアクトルを構成するコアとコイルとの熱干渉を踏まえて精度よく推定する。
【解決手段】制御装置100は、蓄電装置から入力される電圧を変換して出力するコンバータに含まれるリアクトルの温度を推定する。制御装置は、第1推定部110と、第2推定部120と、第3推定部130とを含む。第1推定部は、蓄電装置を流れる電流Ibなどをパラメータとして、コイル自身の発熱および放熱によるコイル温度変化量ΔTi1とコア自身の発熱および放熱によるコア温度変化量ΔTr1とを別々に推定する。第2推定部は、第1推定部の推定結果を用いて、コイルとコアとの間の互いの熱干渉によるコア温度変化量ΔTr2とおよびコイル温度変化量ΔTi2とを別々に推定する。第3推定部は、第1推定部および第2推定部の推定結果を用いてコイル温度Tiおよびコア温度Trとを別々に推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアクトルの温度を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2009−303329号公報(特許文献1)には、バッテリから入力される電圧を昇圧して出力するコンバータに備えられるリアクトルの温度を、バッテリの充放電電流と、バッテリからコンバータに入力される電圧と、コンバータが出力する電圧と、コンバータを冷却する冷却水の温度とから、推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−303329号公報
【特許文献2】再公表特許WO2002/065622号公報
【特許文献3】特開2008−99518号公報
【特許文献4】特開2000−312484号公報
【特許文献5】特開2004−77245号公報
【特許文献6】特開2004−135465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、リアクトルはコアとコイルとで構成されるが、コアとコイルとはそれぞれ別のメカニズムで発熱しており、コアとコイルとの間には互いの熱干渉(熱伝達)がある。しかしながら、特許文献1の技術ではこのような熱干渉が考慮されていないため、リアクトルの温度推定精度が低いという問題があった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、蓄電装置から入力される電圧を変換して出力するコンバータに含まれるリアクトルの温度を、リアクトルを構成するコアとコイルとの熱干渉を踏まえて精度よく推定することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る制御装置は、蓄電装置から入力される電圧を変換して出力するコンバータに含まれるリアクトルの温度推定装置である。リアクトルは、コアと、コアの外周に巻き付けられたコイルとで構成される。温度推定装置は、少なくともリアクトルの電流を用いて、コアの発熱および放熱による第1のコア温度変化量とコイルの発熱および放熱による第1のコイル温度変化量とを別々に推定する第1推定部と、第1推定部の推定結果を用いて、コイルとコアとの間の互いの熱干渉による第2のコア温度変化量および第2のコイル温度変化量を推定する第2推定部と、第1推定部および第2推定部の推定結果を用いて、コア温度とコイル温度とを別々に推定する第3推定部とを備える。
【0007】
好ましくは、第2推定部は、第1のコア温度変化量が第1のコイル温度変化量よりも大きい場合、第2のコア温度変化量を略零とするともに、第1のコア温度変化量と第1のコイル温度変化量との差から第2のコイル温度変化量を推定し、第1のコイル温度変化量が第1のコア温度変化量よりも大きい場合、第2のコイル温度変化量を略零とするともに、第1のコア温度変化量と第1のコイル温度変化量との差から第2のコア温度変化量を推定する。
【0008】
好ましくは、第2推定部は、第1のコア温度変化量が第1のコイル温度変化量よりも大きい場合、第1のコア温度変化量と第1のコイル温度変化量との差から求めた一時的な第2のコイル温度変化量にコアからの熱伝達によるコイルの熱干渉時定数に応じたフィルタ処理を施した値を、最終的な第2のコイル温度変化量とする。第2推定部は、第1のコイル温度変化量が第1のコア温度変化量よりも大きい場合、第1のコア温度変化量と第1のコイル温度変化量との差から求めた一時的な第2のコア温度変化量にコイルからの熱伝達によるコアの熱干渉時定数に応じたフィルタ処理を施した値を、最終的な第2のコア温度変化量とする。
【0009】
好ましくは、コアの熱時定数とコイルの熱時定数とは互いに異なる。コンバータは、キャリア信号を用いて生成された制御信号に応じて電圧変換を行なう。リアクトルは、リアクトルに隣接して配置された冷却器の内部を流れる冷媒によって冷却される。第1推定部は、リアクトルの電流、コンバータの入力電圧および出力電圧、冷媒の温度、キャリア信号の周波数から求めた一時的な第1のコア温度変化量にコアの熱時定数に応じたフィルタ処理を施した値を、最終的な第1のコア温度変化量とする。第1推定部は、リアクトルの電流、コンバータの入力電圧および出力電圧、冷媒の温度、キャリア信号の周波数から求めた一時的な第1のコイル温度変化量にコイルの熱時定数に応じたフィルタ処理を施した値を、最終的な第1のコイル温度変化量とする。
【0010】
好ましくは、第3推定部は、冷媒の温度に第1のコア温度変化量および第2のコア温度変化量を加えた値をコア温度とし、冷媒の温度に第1のコイル温度変化量および第2のコイル温度変化量を加えた値をコイル温度とする。
【0011】
好ましくは、温度推定装置は、コア温度がコアの許容温度を超える場合およびコイル温度がコイルの許容温度を超える場合の少なくともいずれかの場合、蓄電装置の充放電を制限する制限部をさらに備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、蓄電装置から入力される電圧を変換して出力するコンバータに含まれるリアクトルの温度を、リアクトルを構成するコアとコイルとの熱干渉を踏まえて精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】モータ駆動制御システムの全体構成図である。
【図2】リアクトルの断面を模式的に示す図である。
【図3】図2におけるリアクトルのA−A断面を示す図である。
【図4】実コア温度と実コイル温度の変化の様子を模式的に示す図である。
【図5】制御装置の機能ブロック図である。
【図6】制御装置の処理手順を示すフローチャート(その1)である。
【図7】制御装置の処理手順を示すフローチャート(その2)である。
【図8】制御装置が推定したコア温度Trおよびコイル温度Tiと、実コア温度および実コイル温度とを比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお以下図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則的に繰返さないものとする。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に従うリアクトルの温度推定装置が適用されるモータ駆動制御システム1の全体構成図である。このモータ駆動制御システム1は、蓄電装置Bと、システムメインリレーSMRと、平滑コンデンサC0,C1と、コンバータ10と、インバータ20と、モータM1と、制御装置100とを備える。
【0016】
モータM1は、電動車両(ハイブリッド自動車、電気自動車や燃料電池車等の電気エネルギによって車両駆動力を発生する自動車をいうものとする)の駆動輪を駆動するためのトルクを発生するための交流電動機である。代表的には、モータM1は、3相(U,V,W相)の3つのコイルを備えた永久磁石型同期電動機である。モータM1は、発電機の機能を持つように構成されてもよい。
【0017】
蓄電装置Bは、代表的には、ニッケル水素またはリチウムイオン等の二次電池や電気二重層キャパシタ等の蓄電装置により構成される。
【0018】
システムメインリレーSMRは、制御装置100からの制御信号により制御され、蓄電装置Bとコンバータ10との間の接続および非接続を切り替える。
【0019】
コンバータ10は、正極線6および負極線5を介して蓄電装置Bに接続される。コンバータ10は、リアクトルLと、スイッチング素子Q1,Q2と、ダイオードD1,D2とを含む。スイッチング素子Q1およびQ2は、正極線7および負極線5の間に直列に接続される。リアクトルLは、スイッチング素子Q1およびQ2の接続ノードと正極線6の間に接続される。また、平滑コンデンサC0は、正極線7および負極線5の間に接続される。平滑コンデンサC1は、正極線6および負極線5の間に接続される。
【0020】
コンバータ10の電圧変換(スイッチング素子Q1,Q2のオンオフ)は、パルス幅変調パルス幅変調(Pulse Width Modulation、以下「PWM」ともいう)制御によって制御装置100で生成されたPWM制御信号によって制御される。このPWM制御信号は、搬送波信号(キャリア信号)と電圧指令との電圧比較に基づいてスイッチング素子Q1,Q2が相補的かつ交互にオンオフするように生成される。コンバータ10は、昇圧動作時には、平滑コンデンサC1の両端電圧を昇圧して平滑コンデンサC0へ出力する。また、コンバータ10は、降圧動作時には、平滑コンデンサC0の両端電圧を降圧して平滑コンデンサC1へ出力する。以下の説明では、説明の便宜上、平滑コンデンサC1の両端電圧(蓄電装置Bからコンバータ10に入力される電圧)を「コンバータ入力電圧VL」、平滑コンデンサC0の両端電圧(コンバータ10からインバータ20に出力される電圧)を「コンバータ出力電圧VH」ともいう。
【0021】
インバータ20は、正極線7および負極線5の間に並列に設けられる、U相上下アームと、V相上下アームと、W相上下アームとから成る。各相上下アームは、正極線7および負極線5の間に直列接続されたスイッチング素子から構成される。たとえば、U相上下アームは、スイッチング素子Q3,Q4から成り、V相上下アームは、スイッチング素子Q5,Q6から成り、W相上下アームは、スイッチング素子Q7,Q8から成る。また、スイッチング素子Q3〜Q8に対して、ダイオードD3〜D8がそれぞれ逆並列に接続されている。各相上下アームのスイッチング素子の中間点には、モータM1の各相コイルの他端が接続される。
【0022】
インバータ20の電力変換(スイッチング素子Q3〜Q8のオンオフ)も、上述したPWM制御によって制御装置100で生成されたPWM制御信号によって制御される。インバータ20は、コンバータ10からの直流電圧を交流電圧に変換してモータM1に供給する。また、インバータ20は、モータM1が発電した交流電圧を直流電圧に変換してコンバータ10へ供給することも可能である。
【0023】
さらに、モータ駆動制御システム1は、電圧センサ12,13,17、電流センサ11,14、レゾルバ15、温度センサ16を備える。電圧センサ12は、コンバータ入力電圧VLを検出する。電圧センサ13は、コンバータ出力電圧VHを検出する。電圧センサ17は、蓄電装置Bの両端電圧Vbを検出する。電流センサ11は、蓄電装置Bを流れる電流Ibを検出する。なお、本実施の形態では、この電流Ibをリアクトル電流(リアクトルLを流れる電流)として扱ってリアクトル温度を推定するが、リアクトル電流を直接検出する電流センサが設けられる場合には、その電流センサの検出結果を用いればよい。電流センサ14は、モータM1に流れる電流を検出する。なお、三相電流iu,iv,iwの瞬時値の和は零であるので、図1に示すように電流センサ14は2相分のモータ電流(たとえば、V相電流ivおよびW相電流iw)を検出するように配置すれば足りる。レゾルバ15は、モータM1のロータ回転角θを検出する。温度センサ16は、コンバータ10の冷却器40(後述の図3参照)を流れる冷却水温THwを検出する。これらの各センサは、検出結果を制御装置100に出力する。
【0024】
制御装置100は、図示しないCPU(Central Processing Unit)およびメモリを内蔵した電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)により構成され、当該メモリに記憶された情報およびプログラムに基づいて所定の演算処理を実行することによって、モータ駆動制御システム1の動作を制御する。本実施の形態においては、この制御装置100がリアクトルLの温度推定装置として機能する。
【0025】
図2は、リアクトルLの断面を模式的に示す図である。図3は、図2におけるリアクトルLのA−A断面を示す図である。図2、図3を参照して、リアクトルLの構造について詳細に説明する。
【0026】
リアクトルLは、環状のコアと、コアの外周に巻き付けられたコイルとで構成される。コアは鉄を主材料とする。コイルは銅を主材料とする。なお、このコイルに流れる電流が、リアクトル電流であり、電流Ibとほぼ同じ値となる。
【0027】
リアクトルLは、ケース30の内部に樹脂性のポティング材によって固定される。ケース30の底面には冷却器40が接触するように配置される。この冷却器40を流れる冷却水によってリアクトルLは冷却される。
【0028】
図4は、リアクトルLの実コア温度と実コイル温度の変化の様子を模式的に示す図である。なお、図4においては、実コイル温度を二点鎖線で示し、実コア温度を一点鎖線で示す。参考として、従来手法で算出されたリアクトル推定温度を実線で示す。
【0029】
時刻t1に達するまでリアクトルLの通電を行なうと、実コア温度および実コイル温度はともに徐々に増加していく。そして、時刻t1でリアクトルLの通電を停止すると、実コア温度および実コイル温度はともに徐々に減少していく。ところが、コアとコイルとは別のメカニズムで発熱している。すなわち、コイルは蓄電装置Bからの電流が自己に直接流れることによって発熱するのに対し、コアはコイルの電磁誘導作用によって自己に誘電電流が流れることによって発熱する。さらに、主材料の違いや冷却器40との位置関係の違いなどによってコアの熱時定数τrとコイルの熱時定数τiとは互いに異なる。これらの理由により、図4に示すように、実コア温度および実コイル温度は互いに異なる変化率で変化する。なお、「熱時定数」とは、温度の変化率を示す指標であり、通常は、ある温度から目標温度(より詳しくは目標温度の63.2パーセント)にまで変化するのに要する時間を意味する。本実施の形態においては、コアは鉄を主材料としているのに対しコイルは鉄よりも比熱の小さい銅を主材料としており、さらにコイルがコアの外周側に配置され冷却器40により近いため、コイルの熱時定数τi(たとえば400sec程度)はコアの熱時定数τr(たとえば1000sec程度)よりも短い。そのため、実コイル温度は、実コア温度よりも急激に増減する。そのため、特に、時刻t1での通電停止後においては、コイル単独であれば実コイル温度は実コア温度よりも急激に低下するが、実際にはコアからコイルへの熱干渉(熱伝達)が生じるため実コイル温度は緩やかに低下する。
【0030】
従来の手法で算出されたリアクトル推定温度は、実コイル温度に合わせてリアクトル推定温度を算出していたが、コイルとコアとの熱干渉については考慮されていなかった。そのため、図4に示すように、時刻t1の通電停止後(実コア温度が実コイル温度よりも高くなる状態)においては、実コア温度や実コイル温度に対してリアクトル推定温度が乖離してしまうという問題があった。
【0031】
このような問題を解決すべく、本実施の形態においては、コアとコイルとの熱干渉を考慮してコア温度とコイル温度とを別々に推定することで、リアクトルの温度推定精度を飛躍的に向上させる。この点が本実施の形態の最も特徴的な点である。
【0032】
図5は、制御装置100の機能ブロック図である。図5に示した各機能ブロックは、ハードウェアによって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0033】
制御装置100は、第1推定部110と、第2推定部120と、第3推定部130と、制限部140とを含む。
【0034】
第1推定部110は、コイル自身の発熱および放熱によるコイル温度変化量ΔTi1とコア自身の発熱および放熱によるコア温度変化量ΔTr1とを別々に推定する。なお、本実施の形態において、「温度変化量」は、温度が上昇する場合にプラスの値となり、温度が低下する場合にマイナスの値となるものとする。
【0035】
第1推定部110は、コイル温度変化量ΔTi1を算出するコイル温度変化量算出部111と、コア温度変化量ΔTr1を算出するコア温度変化量算出部112とを含む。
【0036】
まず、コイル温度変化量算出部111の機能について説明する。コイル温度変化量算出部111は、電流Ib(リアクトルの電流)、コンバータ入力電圧VL、コンバータ出力電圧VH、冷却水温THw、コンバータ10のPWM制御に用いられるキャリア信号の周波数(以下「キャリア周波数f」という)をパラメータとして、一時的なコイル温度変化量ΔTi1tempを求める。そして、コイル温度変化量算出部111は、一時的なコイル温度変化量ΔTi1tempにコイルの熱時定数τiに応じたフィルタ処理を施した値を最終的なコイル温度変化量ΔTi1とする。
【0037】
より具体的には、コイル温度変化量算出部111は、まず、電流Ibをパラメータとする一次元マップなどを用いて基本コイル温度変化量ΔTi1baseを算出する。コイル温度変化量算出部111は、電流Ibが大きいほど、コイルの発熱量が大きくなる点を考慮して、基本コイル温度変化量ΔTi1baseを高い値とする。
【0038】
そして、コイル温度変化量算出部111は、コンバータ入力電圧VLおよびコンバータ出力電圧VHをパラメータとする二次元マップを用いて補正係数K1を算出する。コンバータ10の昇圧比(=コンバータ出力電圧VH/コンバータ入力電圧VL)が大きいほど、電流Ibに重畳するリプル成分の大きさ(以下「リプル幅」という)が大きくなり、コイルの発熱量が大きくなる傾向にある。この点を考慮し、コイル温度変化量算出部111は、昇圧比(=VH/VL)が大きいほど補正係数K1を大きい値とする。
【0039】
さらに、コイル温度変化量算出部111は、キャリア周波数fをパラメータとする一次元マップを用いて補正係数K2を算出する。キャリア周波数fが小さいほど、上述のリプル幅は大きくなり、コイルの発熱量が大きくなる傾向にある。この点を考慮し、コイル温度変化量算出部111は、キャリア周波数fが小さいほど補正係数K2を大きい値とする。
【0040】
さらに、コイル温度変化量算出部111は、冷却水温THwをパラメータとする一次元マップを用いて補正係数K3を算出する。冷却水温THwが高いほど、コイルの温度が上昇し易くなる傾向にある。この点を考慮し、コイル温度変化量算出部111は、冷却水温THwが高いほど補正係数K3を大きい値とする。
【0041】
そして、コイル温度変化量算出部111は、一時的なコイル温度変化量ΔTi1tempを下記の式(1)で算出する。
【0042】
ΔTi1temp=ΔTi1base×K1×K2×K3 …(1)
さらに、コイル温度変化量算出部111は、一時的なコイル温度変化量ΔTi1tempに対してコイルの熱時定数τiに応じたフィルタ処理を施した値を、最終的なコイル温度変化量ΔTi1として算出する。なお、「フィルタ処理」としては、たとえば、一次遅れ処理、二次遅れ処理、移動平均処理などを用いることができる。たとえば、一次遅れ処理を施す場合、コイルの熱時定数τiを各パラメータのサンプリング周期Tで割った値(=τi/T)を「A」、A+1を「B」とすると、コイル温度変化量算出部111は、次式(2)で最終的なコイル温度変化量ΔTi1を算出することができる。
【0043】
ΔTi1n=(A/B)×(ΔTi1n−1)+(1/B)×ΔTi1temp …(2)
なお、「ΔTi1n」は最終的なコイル温度変化量ΔTi1の今回値、「ΔTi1n−1」は最終的なコイル温度変化量ΔTi1の前回値である。
【0044】
次に、コア温度変化量算出部112の機能について説明する。コア温度変化量算出部112は、コイル温度変化量算出部111と同じように、電流Ib、コンバータ入力電圧VL、コンバータ出力電圧VH、冷却水温THw、キャリア周波数fをパラメータとして、一時的なコア温度変化量ΔTr1tempを求める。そして、コア温度変化量算出部112は、一時的なコア温度変化量ΔTr1tempにコアの熱時定数τrに応じたフィルタ処理を施した値を最終的なコア温度変化量ΔTr1とする。
【0045】
より具体的には、コア温度変化量算出部112は、まず、コンバータ入力電圧VLおよびコンバータ出力電圧VHをパラメータとする二次元マップを用いて基本コア温度変化量ΔTr1baseを算出する。
【0046】
そして、コア温度変化量算出部112は、コイル温度変化量算出部111と同様に、電流Ibをパラメータとする一次元マップを用いて補正係数K4を算出し、キャリア周波数fをパラメータとする一次元マップを用いて補正係数K5を算出し、冷却水温THwをパラメータとする一次元マップを用いて補正係数K6を算出する。そして、コア温度変化量算出部112は、一時的なコア温度変化量ΔTr1tempを下記の式(3)で算出する。
【0047】
ΔTr1temp=ΔTr1base×K4×K5×K6 …(3)
さらに、コア温度変化量算出部112は、一時的なコア温度変化量ΔTr1tempに対してコアの熱時定数τrに応じたフィルタ処理を施した値を、最終的なコア温度変化量ΔTr1として算出する。上述のように、「フィルタ処理」としては、たとえば、一次遅れ処理、二次遅れ処理、移動平均処理などを用いることができる。たとえば、一次遅れ処理を施す場合、コアの熱時定数τrを各パラメータのサンプリング周期Tで割った値(=τr/T)を「C」、C+1を「D」とすると、コア温度変化量算出部112は、次式(4)で最終的なコア温度変化量ΔTr1を算出することができる。
【0048】
ΔTr1n=(C/D)×(ΔTr1n−1)+(1/D)×ΔTr1temp …(4)
なお、「ΔTr1n」は最終的なコア温度変化量ΔTr1の今回値、「ΔTr1n−1」は最終的なコア温度変化量ΔTr1の前回値である。
【0049】
第2推定部120は、第1推定部110の推定結果を用いて、コイルとコアとの間の互いの熱干渉によるコア温度変化量ΔTr2とおよびコイル温度変化量ΔTi2とを別々に推定する。
【0050】
より具体的には、第2推定部120は、コア温度変化量ΔTr1がコイル温度変化量ΔTi1よりも大きい場合、コア温度変化量ΔTr2を略零とするともに、コイル温度変化量ΔTi2を以下の手法で推定する。第2推定部120は、コア温度変化量ΔTr1とコイル温度変化量ΔTi1との差の絶対値(=|ΔTr1−ΔTi1|)をパラメータとして一時的なコイル温度変化量ΔTi2tempを推定する。第2推定部120は、|ΔTr1−ΔTi1|が大きいほど一時的なコイル温度変化量ΔTi2tempを大きい値とする。そして、第2推定部120は、一時的なコイル温度変化量ΔTi2tempにコイルの熱干渉時定数τirに応じたフィルタ処理を施した値を、最終的なコイル温度変化量ΔTi2とする。ここで、「コイルの熱干渉時定数τri」とは、コアからコイルへの熱伝達によるコイルの温度上昇変化率を示す指標である。なお、フィルタ処理としては、上述したように、たとえば一次遅れ処理、二次遅れ処理、移動平均処理などを用いればよい。
【0051】
一方、第2推定部120は、コイル温度変化量ΔTi1がコア温度変化量ΔTr1よりも大きい場合、コイル温度変化量ΔTi2を略零とするともに、コア温度変化量ΔTr2を以下の手法で推定する。第2推定部120は、|ΔTr1−ΔTi1|をパラメータとして一時的なコア温度変化量ΔTr2tempを推定する。第2推定部120は、|ΔTr1−ΔTi1|が大きいほど一時的なコア温度変化量ΔTr2tempを大きい値とする。そして、第2推定部120は、一時的なコア温度変化量ΔTr2tempにコアの熱干渉時定数τriに応じたフィルタ処理を施した値を、最終的なコイル温度変化量ΔTi2とする。ここで、「コアの熱干渉時定数τri」とは、コイルからの熱干渉によるコアの温度上昇変化率を示す指標である。なお、フィルタ処理としては、上述したように、たとえば一次遅れ処理、二次遅れ処理、移動平均処理などを用いればよい。
【0052】
第3推定部130は、第1推定部110および第2推定部120の推定結果を用いて、コイル温度Tiおよびコア温度Trとを別々に推定する。
【0053】
第3推定部130は、コイル温度Tiを算出するコイル温度算出部131と、コア温度Trを算出するコア温度算出部132を含む。
【0054】
コイル温度算出部131は、冷却水温THwをコイルのベース温度として、このベース温度とコイル温度変化量ΔTi1,ΔTi2とを加味してコイル温度Tiを算出する。すなわち、コイル温度算出部131は、コイル温度Tiを次式(5)で算出する。
【0055】
Ti=THw+ΔTi1+ΔTi2 …(5)
なお、上述したように、コイル温度変化量ΔTi1がコア温度変化量ΔTr1よりも大きい場合は、コイル温度変化量ΔTi2は略零である。
【0056】
コア温度算出部132は、コイル温度算出部131と同様に、冷却水温THwをコアのベース温度として、このベース温度とコア温度変化量ΔTr1,ΔTr2とを加味してコア温度Trを算出する。すなわち、コア温度算出部132は、コア温度Trを次式(6)で算出する。
【0057】
Tr=THw+ΔTr1+ΔTr2 …(6)
なお、上述したように、コア温度変化量ΔTr1がコイル温度変化量ΔTi1よりも大きい場合は、コア温度変化量ΔTr2は略零である。
【0058】
制限部140は、コイル温度Tiがコイル許容温度Tilimitを超える場合およびコア温度Trがコア許容温度Trlimitを超える場合の少なくともいずれかの場合、蓄電装置Bの充電および放電の少なくともいずれかを制限する。たとえば、制限部140は、蓄電装置Bの残存容量SOCが基準値(たとえば60%)を超える場合には、蓄電装置Bの充電電力許容値Winを低下させ、そうでない場合には、蓄電装置Bの放電電力許容値Woutを低下させる。
【0059】
図6は、上述の第1推定部110、第2推定部120、第3推定部130の機能を実現するための制御装置100の処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、所定周期で繰り返し実行される。
【0060】
ステップ(以下、ステップを「S」と略す)10にて、制御装置100は、電流Ibをパラメータとして基本コイル温度変化量ΔTi1baseを算出する。S11にて、制御装置100は、コンバータ入力電圧VLおよびコンバータ出力電圧VHをパラメータとして補正係数K1を算出し、キャリア周波数fをパラメータとして補正係数K2を算出し、冷却水温THwをパラメータとして補正係数K3を算出する。S12にて、制御装置100は、一時的なコイル温度変化量ΔTi1tempを算出する(上述の式(1)参照)。S13にて、制御装置100は、一時的なコイル温度変化量ΔTi1tempに対してコイルの熱時定数τiに応じたフィルタ処理を施した値を、最終的なコイル温度変化量ΔTi1として算出する(上述の式(2)参照)。
【0061】
さらに、S20にて、制御装置100は、コンバータ入力電圧VLおよびコンバータ出力電圧VHをパラメータとして基本コア温度変化量ΔTr1baseを算出する。S21にて、制御装置100は、電流Ibをパラメータとして補正係数K4を算出し、キャリア周波数fをパラメータとして補正係数K5を算出し、冷却水温THwをパラメータとして補正係数K6を算出する。S22にて、制御装置100は、一時的なコア温度変化量ΔTr1tempを算出する(上述の式(3)参照)。S23にて、制御装置100は、一時的なコア温度変化量ΔTr1tempに対してコアの熱時定数τrに応じたフィルタ処理を施した値を、最終的なコア温度変化量ΔTr1として算出する(上述の式(4)参照)。
【0062】
S30にて、制御装置100は、コイル温度変化量ΔTi1がコア温度変化量ΔTr1よりも大きいか否かを判定する。
【0063】
ΔTi1>ΔTr1の場合(S30にてYES)、制御装置100は、S31にて|ΔTr1−ΔTi1|をパラメータとして一時的なコア温度変化量ΔTr2tempを算出し、S32にて一時的なコア温度変化量ΔTr2tempにコアの熱干渉時定数τriに応じたフィルタ処理を施した値を、最終的なコイル温度変化量ΔTi2とする。そして、制御装置100は、S33にて、コイル温度TiをTHw+ΔTi1として算出する(上述の式(5)においてΔTi2=0とする)とともに、S34にて、コア温度TrをTHw+ΔTr1+ΔTr2として算出する(上述の式(6)参照)。
【0064】
一方、ΔTi1<ΔTr1の場合(S30にてNO)、制御装置100は、S35にて|ΔTr1−ΔTi1|をパラメータとして一時的なコイル温度変化量ΔTi2tempを算出し、S36にて一時的なコイル温度変化量ΔTi2tempにコイルの熱干渉時定数τirに応じたフィルタ処理を施した値を、最終的なコイル温度変化量ΔTi2とする。そして、制御装置100は、S37にて、コイル温度TiをTHw+ΔTi1+ΔTi2として算出する(上述の式(5)参照)とともに、S38にて、コア温度TrをTHw+ΔTr1として算出する(上述の式(6)においてΔTr2=0とする)。
【0065】
図7は、上述の制限部140の機能を実現するための制御装置100の処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、所定周期で繰り返し実行される。
【0066】
S40にて、制御装置100は、コア温度Trがコア許容温度Trlimitを超えるか否かを判定する。また、制御装置100は、S41にて、コイル温度Tiがコイル許容温度Tilimitを超えるか否かを判定する。
【0067】
コイル温度Tiがコイル許容温度Tilimitを超える場合(S40にてYES)、および、コア温度Trがコア許容温度Trlimitを超える場合(S41にてYES)の少なくともいずれかの場合、制御装置100は、S42にて蓄電装置Bの充電および放電の少なくともいずれかを制限する。一方、コイル温度Tiがコイル許容温度Tilimitを超えておらず(S40にてNO)、かつ、コア温度Trがコア許容温度Trlimitを超えていない場合(S41にてNO)、制御装置100は、蓄電装置Bの充放電を制限することなく処理を終了させる。
【0068】
図8は、本実施の形態で推定したコア温度Trおよびコイル温度Tiと、実コア温度および実コイル温度とを比較した図である。図8に示すように、本実施の形態で推定したコア温度Trおよびコイル温度Tiは、蓄電装置Bの充放電を頻繁に繰り返した場合であっても、それぞれに対応する実温度にほぼ追従しており、高い推定精度が確保されていることがわかる。
【0069】
以上のように、本実施の形態に係る制御装置100は、コアとコイルとの熱干渉、さらにはコアとコイルとの熱時定数の相違を考慮してコア温度とコイル温度とを別々に推定する。そのため、リアクトル温度の推定精度を飛躍的に向上させることができる。
【0070】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
1 モータ駆動制御システム、5 負極線、6,7 正極線、10 コンバータ、11,14 電流センサ、12,13,17 電圧センサ、15 レゾルバ、16 温度センサ、20 インバータ、30 ケース、40 冷却器、100 制御装置、110 第1推定部、111 コイル温度変化量算出部、112 コア温度変化量算出部、120 第2推定部、130 第3推定部、131 コイル温度算出部、132 コア温度算出部、140 制限部、B 蓄電装置、C0,C1 平滑コンデンサ、D1〜D8 ダイオード、L リアクトル、M1 モータ、Q1〜Q8 スイッチング素子、SMR システムメインリレー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置から入力される電圧を変換して出力するコンバータに含まれるリアクトルの温度推定装置であって、前記リアクトルは、コアと、前記コアの外周に巻き付けられたコイルとで構成され、
前記温度推定装置は、
少なくとも前記リアクトルの電流を用いて、前記コアの発熱および放熱による第1のコア温度変化量と前記コイルの発熱および放熱による第1のコイル温度変化量とを別々に推定する第1推定部と、
前記第1推定部の推定結果を用いて、前記コイルと前記コアとの間の互いの熱干渉による第2のコア温度変化量および第2のコイル温度変化量を推定する第2推定部と、
前記第1推定部および前記第2推定部の推定結果を用いて、コア温度とコイル温度とを別々に推定する第3推定部とを備える、リアクトルの温度推定装置。
【請求項2】
前記第2推定部は、
前記第1のコア温度変化量が前記第1のコイル温度変化量よりも大きい場合、前記第2のコア温度変化量を略零とするともに、前記第1のコア温度変化量と前記第1のコイル温度変化量との差から前記第2のコイル温度変化量を推定し、
前記第1のコイル温度変化量が前記第1のコア温度変化量よりも大きい場合、前記第2のコイル温度変化量を略零とするともに、前記第1のコア温度変化量と前記第1のコイル温度変化量との差から前記第2のコア温度変化量を推定する、請求項1に記載のリアクトルの温度推定装置。
【請求項3】
前記第2推定部は、
前記第1のコア温度変化量が前記第1のコイル温度変化量よりも大きい場合、前記第1のコア温度変化量と前記第1のコイル温度変化量との差から求めた一時的な前記第2のコイル温度変化量に前記コアからの熱伝達による前記コイルの熱干渉時定数に応じたフィルタ処理を施した値を、最終的な前記第2のコイル温度変化量とし、
前記第1のコイル温度変化量が前記第1のコア温度変化量よりも大きい場合、前記第1のコア温度変化量と前記第1のコイル温度変化量との差から求めた一時的な前記第2のコア温度変化量に前記コイルからの熱伝達による前記コアの熱干渉時定数に応じたフィルタ処理を施した値を、最終的な前記第2のコア温度変化量とする、請求項2に記載のリアクトルの温度推定装置。
【請求項4】
前記コアの熱時定数と前記コイルの熱時定数とは互いに異なり、
前記コンバータは、キャリア信号を用いて生成された制御信号に応じて前記電圧変換を行ない、
前記リアクトルは、前記リアクトルに隣接して配置された冷却器の内部を流れる冷媒によって冷却され、
前記第1推定部は、
前記リアクトルの電流、前記コンバータの入力電圧および出力電圧、前記冷媒の温度、前記キャリア信号の周波数から求めた一時的な前記第1のコア温度変化量に前記コアの熱時定数に応じたフィルタ処理を施した値を、最終的な前記第1のコア温度変化量とし、
前記リアクトルの電流、前記コンバータの入力電圧および出力電圧、前記冷媒の温度、前記キャリア信号の周波数から求めた一時的な前記第1のコイル温度変化量に前記コイルの熱時定数に応じたフィルタ処理を施した値を、最終的な前記第1のコイル温度変化量とする、請求項1〜3のいずれかに記載のリアクトルの温度推定装置。
【請求項5】
前記第3推定部は、
前記冷媒の温度に前記第1のコア温度変化量および前記第2のコア温度変化量を加えた値を前記コア温度とし、
前記冷媒の温度に前記第1のコイル温度変化量および前記第2のコイル温度変化量を加えた値を前記コイル温度とする、請求項4に記載のリアクトルの温度推定装置。
【請求項6】
前記温度推定装置は、前記コア温度が前記コアの許容温度を超える場合および前記コイル温度が前記コイルの許容温度を超える場合の少なくともいずれかの場合、前記蓄電装置の充放電を制限する制限部をさらに備える、請求項1に記載のリアクトルの温度推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−48506(P2013−48506A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185600(P2011−185600)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】