説明

リガンド固定化用共重合体及び該共重合体によるリガンドの固定化方法

【課題】リガンド固定化用共重合体及び該共重合体によるリガンドの固定化方法を提供すること。
【解決手段】本発明の共重合体は、反応性基(a)を有する担体の表面にリガンドを固定化するための共重合体であって、上記反応性基(a)と化学的に結合可能な反応性基(b)を有するモノマー(A)に由来する構成単位を含むセグメントを上記共重合体の鎖の一端に有するとともに、上記リガンドを有するモノマー(B)に由来する構成単位を含むセグメントを上記共重合体の鎖の他端に有するか、又は、上記モノマー(B)に由来する構成単位を含むセグメントを上記共重合体の鎖の両端に有するとともに、該両端のセグメント間に上記モノマー(A)に由来する構成単位を含むセグメントを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リガンド固定化用共重合体及び該共重合体によるリガンドの固定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、材料の表面を改質することで、その付加価値を高める試みが様々な分野において広くなされている。特に、特定の対象物質に対して特異的相互作用を示すリガンドを材料表面に固定化する技術は、医療・環境・バイオ分野において急速に進展しつつある。中でも、糖鎖の固定化技術に関しては、タンパク質や脂質と結合した糖鎖が、ガン化、免疫反応等の重要なプロセスに関与していることが明らかになってきたこともあり、バイオセンシング機材や細胞培養機材に応用する試みが多くなされている。例えば、特許文献1には、末端にガラクトースを含む糖鎖誘導体をリガンドとし、これを基板表面上に固定させたベロ毒素の検出センサーが開示されている。
【0003】
ところで、リガンドとしての機能をバイオセンシング機材等において効果的に発揮させるためには、リガンドと対象物質との相互作用を向上させることが望ましい。一般に、リガンドと対象物質との相互作用を向上させるには、材料表面へのリガンドの集積化が有効であることが知られている。そのためには、リガンドを材料表面に安定且つ高密度に固定化させる必要がある。
【0004】
リガンドを材料表面に集積化させる固定化方法としては、例えば、リガンドである糖鎖をアルカンチオールの自己集積化単分子膜(以下、SAMと称する。)により2次元的に固定化するものがある(非特許文献1参照)。これによれば、材料表面にSAMが形成されるので、リガンドを高密度に固定化することができる。また、特許文献2には、リガンドとなり得るオリゴ糖を側鎖に有するモノマーを可逆的付加開裂連鎖移動重合反応(以下、RAFTと称する。)により重合させる方法が開示されている。この方法によれば、材料表面に糖鎖を効率良く集積することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−22745号公報
【特許文献2】特表2008−515996号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Munlika Satjapipat,Raymond Sanedrin, and Feimeng Zhou; Langmuir; 2001; 17; p.7637−7644
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記非特許文献1及び特許文献2に記載された方法によれば、リガンドを材料表面に集積化させることはできるが、高い相互作用を得るまでには至らなかった。
【0008】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、材料となる担体の表面に安定にリガンドを固定することができ、且つリガンドの分子認識作用を高めることができるリガンド固定化用共重合体及び該共重合体によるリガンドの固定化方法を提供することを目的とする。また、上記リガンド固定化用共重合体が固定化された培養基材を用いた細胞培養方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を重ねたところ、リガンドと対象物質との相互作用の向上には、リガンドの集積化に加え、リガンドの運動性を高めることが有効であることを見出した。そして、更に鋭意研究を重ねたところ、特定の共重合体を材料表面に対してブラシ状に固定化することで、リガンドの集積化と運動性向上とが実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、以下のようなものを提供する。
【0010】
(1)反応性基(a)を有する担体の表面にリガンドを固定化するための共重合体であって、前記反応性基(a)と化学的に結合可能な反応性基(b)を有するモノマー(A)に由来する構成単位を含むセグメントを前記共重合体の鎖の一端に有するとともに、前記リガンドを有するモノマー(B)に由来する構成単位を含むセグメントを前記共重合体の鎖の他端に有するか、又は、前記モノマー(B)に由来する構成単位を含むセグメントを前記共重合体の鎖の両端に有するとともに、前記両端のセグメント間に前記モノマー(A)に由来する構成単位を含むセグメントを有する共重合体。
【0011】
(2)前記モノマー(A)に由来する構成単位からなるセグメントを前記共重合体の鎖の一端に有するとともに、前記モノマー(B)に由来する構成単位からなるセグメントを前記共重合体の鎖の他端に有する、上記(1)に記載の共重合体。
【0012】
(3)リビングラジカル重合により形成されている上記(1)又は(2)に記載の共重合体。
【0013】
(4)前記反応性基(a)及び前記反応性基(b)のいずれか一方がアジド基であり、他方がアルキニル基である上記(1)から(3)に記載の共重合体。
【0014】
(5)前記モノマー(A)が一般式(I)で表される上記(1)から(4)いずれかに記載の共重合体。
【化1】

(式中、R1aは、水素原子又はメチル基を表し、R2aは、−O−又は−NH−を表し、Xは、スペーサーを表し、Yは、反応性基(b)を表す。)
【0015】
(6)前記モノマー(B)が一般式(II)で表される上記(1)から(5)いずれかに記載の共重合体。
【化2】

(式中、R1bは、水素原子又はメチル基を表し、R2bは、−O−又は−NH−を表し、Xは、スペーサーを表し、Zは、リガンドを表す。)
【0016】
(7)前記リガンドが、糖、糖鎖、及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である上記(1)から(6)いずれかに記載の共重合体。
【0017】
(8)上記(1)から(7)いずれかに記載の共重合体によりリガンドが固定化されている担体。
【0018】
(9)上記(1)から(7)いずれかに記載の共重合体が有する反応性基(b)と、担体の表面にある反応性基(a)とを反応させる工程を含む、リガンドの固定化方法。
【0019】
(10)上記(1)から(7)いずれかに記載の共重合体が固定化された培養基材を用いた細胞培養方法。
【0020】
(11)無血清培地にて細胞を培養する(10)に記載の細胞培養方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の共重合体は、担体の表面にある反応性基(a)と化学的に結合可能な反応性基(b)を有するモノマー(A)に由来する構成単位を含むセグメントを共重合体の鎖の一端に有するとともに、リガンドを有するモノマー(B)に由来する構成単位を含むセグメントを上記共重合体の鎖の他端に有するか、又は、上記モノマー(B)に由来する構成単位を含むセグメントを上記共重合体の鎖の両端に有するとともに、該両端のセグメント間に上記モノマー(A)に由来する構成単位を含むセグメントを有するので、担体の表面に対してブラシ状に固定化することができる。本発明の共重合体がブラシ状に固定化されると、リガンドの運動性が向上するので、リガンドと対象物質との相互作用が高まり、リガンドの分子認識作用が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】可逆的付加開裂連鎖移動重合反応による本発明の第1の実施形態に係る共重合体の反応スキームを示す図である。
【図2】(A)本発明の第1の実施形態に係る共重合体による糖鎖の修飾、(B)従来のアルカンチオールの自己組織化単分子膜による糖鎖の修飾を示す模式図である。
【図3】本発明の共重合体の評価:RCAの特異的結合(A)、BSAの非特異的結合・RCAの特異的結合(B)の確認(Poly−Lac(OAc)−A−b−Alkyne−A)を示す図である。
【図4】本発明の共重合体の評価:RCAの特異的結合(A)、BSAの非特異的結合・RCAの特異的結合(B)の確認(Poly−[Lac(OAc)−A−co−HEA]−b−Alkyne−A)を示す図である。
【図5】本発明の共重合体の評価:ラット肝実質細胞(ヘパトサイト)の接着(Poly−[Lac(OAc)−A−co−HEA]−b−Alkyne−A)を示す写真である。
【図6】本発明の共重合体の評価:添加因子の有無によるアルブミン産生量の違いを示す図である。
【図7】本発明の共重合体の評価:上皮細胞増殖因子(EGF)の有無によるアルブミン産生量の違いを示す図である。
【図8】本発明の共重合体の評価:ゼラチン修飾基板における初代肝細胞の接着を示す写真((A)ASF有、(B)ASF無)である。
【図9】本発明の共重合体の評価:ラクトースグリコポリマー基板における初代肝細胞の接着を示す写真((A)ASF有、(B)ASF無)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、詳細に説明する。
【0024】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態に係る共重合体は、反応性基(a)を有する担体の表面にリガンドを固定化するための共重合体であって、上記反応性基(a)と化学的に結合可能な反応性基(b)を有するモノマー(A)に由来する構成単位を含むセグメントを上記共重合体の鎖の一端に有するとともに、リガンドを有するモノマー(B)に由来する構成単位を含むセグメントを上記共重合体の鎖の他端に有する。本発明の共重合体では、モノマー(A)に由来する構成単位と、モノマー(B)に由来する構成単位とが混在せず、別々のセグメントに存在することが重要である。なお、モノマー(A)に由来する構成単位を含むセグメントと、モノマー(B)に由来する構成単位を含むセグメントとの間には、その他のモノマーを有していてもよい。また、本発明の共重合体は、鎖状構造を有するが、その構造は、直鎖ポリマー又は分岐ポリマーのいずれであってもよい。
【0025】
なお、本発明の共重合体を可逆的付加開裂連鎖移動重合反応(以下、RAFTと称する。)により合成した場合には、連鎖移動剤に由来する構造を有する共重合体が得られるが、本発明における端とは、上記連鎖移動剤に由来する構造を除いた共重合体の鎖の端を意味する。また、本発明の共重合体が分岐ポリマーの場合には、モノマー(B)に由来する構成単位が幹ポリマーの端にあったとしてもよいし、幹ポリマーの端から分岐した枝ポリマー部分にあったとしてもよい。
【0026】
[モノマー(A)]
本発明のモノマー(A)は、担体表面の反応性基(a)と化学的に結合可能な反応性基(b)を有する。反応性基(b)は、反応性基(a)と化学的に結合可能であれば特に限定されないが、好ましくは反応性基(a)及び反応性基(b)のいずれか一方がアジド基であり、他方がアルキニル基であるか、一方がアミノ基又はチオール基であり、他方がカルボキシル基、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステルで活性化されたカルボン酸、イソシアナート基又はチオイソシアナート基である。本発明の共重合体は、この反応性基(b)が担体の表面にある反応性基(a)と化学的に結合することにより、担体に固定化される。
【0027】
本発明のモノマー(A)は、重合可能なモノマーであり、その構造中に重合性基を有する必要があるが、その種類は特に限定されず、例えば、ビニル基、アリル基、スチリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基等であってもよい。この重合性基を介して、モノマー(B)と重合することができる。
【0028】
本発明の共重合体では、モノマー(A)が下記一般式(I)で表されるものであることが好ましい。
【化3】

【0029】
ここで、R1aは、水素原子又はメチル基であり、R2aは、−O−又は−NH−である。また、Xは、スペーサーであり、Yは、反応性基(b)である。
【0030】
モノマー(A)では、スペーサーは、反応性基(a)と反応性基(b)との化学的結合に悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されないが、例えば、繰り返し単位数1〜200のオリゴアルキレンオキシ基、アルキル基、アルキレン基等が挙げられ、好ましくは繰り返し単位数1〜20のオリゴエチレンオキシ基又はアルキレン基である。なお、アルキレン基は、直鎖状でも分枝状でもよい。アルキレン基の炭素数は特に限定されないが、好ましくはC1〜C8である。繰り返し単位数1〜50のエチレンオキシ基やC1〜C8のアルキレン基であれば、共重合体の運動性が良好となるので、リガンドの分子認識作用も良好になる。
【0031】
本発明の第1の実施形態に係る共重合体では、該共重合体の鎖の一端にモノマー(A)に由来する構成単位を含むセグメントを有する。該セグメントには、モノマー(B)以外のその他のモノマーが含まれてもよい。その他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、メチロール(メタ)アクリルアミド、メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、ブトキシメトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、クロトン酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−フェノキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルフタレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのモノマーを、単独で有していても、2種以上を組み合わせて有していてもよい。
【0032】
上記セグメントにおけるモノマー(A)に由来する構成単位の占める割合は、特に限定されないが、好ましくは5mol%以上であり、より好ましくは30mol%以上であり、更により好ましくは100mol%である。モノマー(A)に由来する構成単位の占める割合が高いほど、反応性基(b)の占める割合が高くなるので、担体の表面にある反応性基(a)との反応確率が高くなる。なお、本発明の第1の実施形態に係る共重合体では、モノマー(A)に由来する構成単位を含むセグメントを、共重合体の鎖の端に有していることが重要であって、上記セグメントにおいて、モノマー(A)に由来する構成単位を端に有している必要はない。したがって、共重合体の鎖の端と、モノマー(A)に由来する構成単位との間に、上記その他のモノマーを含むセグメントも本発明の範囲内である。
【0033】
[モノマー(B)]
本発明のモノマー(B)は、リガンドを有することを特徴とする。
【0034】
リガンドとしては、例えば、糖鎖、糖、糖タンパク質、糖脂質、タンパク質、抗原、抗体、アミノ酸、オリゴDNA、オリゴRNA等の核酸等の特定の対象物質に対して特異的相互作用を示す分子認識素子が挙げられる。これらのリガンドを結合させることにより、共重合体に種々の機能を付加することができる。
【0035】
本発明のモノマー(B)は、重合可能なモノマーであり、その構造中に重合性基を有する必要があるが、その種類は特に限定されず、例えば、ビニル基、アリル基、スチリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基等であってもよい。この重合性基を介して、モノマー(A)等と重合することができる。
【0036】
本発明の共重合体では、モノマー(B)が下記一般式(II)で表されるものであることが好ましい。
【化4】

【0037】
ここで、R1bは、水素原子又はメチル基であり、R2bは、−O−又は−NH−である。また、Xは、スペーサーであり、Zは、リガンドである。
【0038】
モノマー(B)では、スペーサーは、上述のリガンドを導入することができれば特に限定されないが、例えば、繰り返し単位数1〜200のオリゴアルキレンオキシ基、アルキル基、アルキレン基等が挙げられ、好ましくは繰り返し単位数1〜50のオリゴエチレンオキシ基又はアルキレン基である。アルキレン基は、直鎖状でも分枝状でもよい。アルキレン基の炭素数は特に限定されないが、好ましくはC1〜C8である。繰り返し単位数1〜50のエチレンオキシ基やC1〜C8のアルキレン基であれば、共重合体の運動性が良好となるので好ましい。なお、本発明の共重合体では、このスペーサーを介して上述のリガンドが結合している。
【0039】
本発明の第1の実施形態に係る共重合体では、該共重合体の鎖の他端にモノマー(B)に由来する構成単位を含むセグメントを有する。該セグメントには、モノマー(A)以外の上述のその他のモノマーが含まれてもよい。該セグメントにおけるモノマー(B)に由来する構成単位の占める割合は、特に限定されないが、好ましくは20mol%以上であり、より好ましくは50mol%以上であり、更により好ましくは80mol%以上である。モノマー(B)に由来する構成単位の占める割合が高いほど、リガンドの占める割合が高くなり、リガンドの分子認識作用が向上するが、リガンドによっては、その他のモノマーが含まれている方が、分子認識作用が高まる場合もある。なお、本発明の第1の実施形態に係る共重合体では、モノマー(B)に由来する構成単位を含むセグメントを、共重合体の鎖の端に有していることが重要であって、上記セグメントにおいて、モノマー(B)に由来する構成単位を端に有している必要はない。したがって、共重合体の鎖の端と、モノマー(B)に由来する構成単位との間に、上記その他のモノマーを含むセグメントも本発明の範囲内である。
【0040】
[共重合体の合成方法]
本発明の共重合体の重合方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができるが、RAFT、原子移動ラジカル重合(以下、ATRPと称する。)等のリビングラジカル重合法が好ましい。リビングラジカル重合法によれば、合成する共重合体の分子量や分子量分布を制御できるので好ましい。以下に、モノマー(A)に由来する構成単位からなるセグメントを前記共重合体の鎖の一端に有するとともに、該モノマー(B)に由来する構成単位からなるセグメントを前記共重合体の鎖の他端に有する本発明の共重合体の合成方法を例示する。なお、重合方法はリビングラジカル重合法による。
【0041】
RAFTによる場合、まず、モノマー(B)と、連鎖移動剤と、重合開始剤とを所定の溶媒に溶解し、溶存酸素を含む反応容器中の酸素を完全に除いた後、重合開始剤が開裂する温度以上、100℃以下で、1〜500時間加熱することにより、モノマー(B)が重合したポリマー(以下、Bブロックと称する。)の末端に連鎖移動剤が導入されたマクロ連鎖移動剤を合成する。次に、このマクロ連鎖移動剤と、モノマー(A)とを所定の溶媒に溶解し、重合開始剤を加え、重合開始剤が開裂する温度以上、200℃以下で、1〜500時間加熱することにより、Bブロックと、モノマーAが重合したポリマー(以下、Aブロックと称する。)とが直列に結合した、本発明の共重合体を合成する。反応スキームの略図を図1に示す。
【0042】
ATRPによる場合、まず、モノマー(B)と、ハロゲン化アルキル開始剤と、メタル化剤と、リガンドとを所定の溶媒に溶解し、反応させることにより、Bブロックの末端にハロゲン化アルキル開始剤が導入されたマクロハロゲン化アルキル開始剤を合成する。次に、マクロハロゲン化アルキル開始剤と、モノマー(A)とを所定の溶媒に溶解し、更にメタル化剤と、リガンドとを加え、室温以上、200℃以下で、1〜500時間加熱することにより、BブロックとAブロックとが直列に結合した、本発明の共重合体を合成する。
【0043】
重合反応に用いる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、t−ブタノール、ベンゼン、トルエン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、クロロホルム、1,4−ジオキサン、ジメチルスルホキシド又はこれらの混合液が挙げられる。
【0044】
重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジイソプロピルペルオキシカーボネート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオキシジイソブチレート、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等を用いることができる。重合開始剤の好適な使用量は、モノマーに対して、0.001〜1質量%、連鎖移動剤に対して、1〜33質量%である。
【0045】
RAFTに用いられる連鎖移動剤としては、特に限定されないが、例えば、ブチルベンジルトリチオカルボナート、クミルジチオベンゾエート、4−シアノペンタン酸ジチオベンゾエート、酢酸ジチオベンゾエート、ブタン酸ジチオベンゾエート、4−トルイル酸ジチオベンゾエート等が挙げられる。
【0046】
ATRPに用いられるハロゲン化アルキル開始剤としては、特に限定されないが、例えば、2−ブロモイソブチリルブロミド、2−クロロイソブチリルクロリド、ブロモアセチルブロミド、ブロモアセチクロリド、ベンジルブロミド等が挙げられる。
【0047】
遷移金属錯体としては、特に限定されないが、1価の銅、2価のルテニウム等の錯体を用いることができる。
【0048】
本発明の共重合体の質量平均分子量(ポリスチレンを標準物質としたGPCによる測定)は、2000〜100000であることが好ましく、2000〜20000であることがより好ましい。上記範囲とすることで、担体の表面に対して安定に固定化することができる。
【0049】
本発明の共重合体では、該共重合体の鎖の一端にモノマー(A)に由来する構成単位を含むセグメントを有するとともに、該共重合体の鎖の他端にモノマー(B)に由来する構成単位を含むセグメントを有していれば、モノマー(A)に由来する構成単位を含むセグメントと、モノマー(B)に由来する構成単位を含むセグメントとの間にその他のモノマーを有していてもよい。
【0050】
本発明の共重合体では、該共重合体におけるモノマー(A)に由来する構成単位の占める割合は、特に限定されないが、好ましくは5〜80mol%であり、より好ましくは5〜20mol%である。上記範囲であれば、本発明の共重合体を担体の表面に対してブラシ状に固定化することができる。また、本発明の共重合体におけるモノマー(B)に由来する構成単位の占める割合は、特に限定されないが、好ましくは20〜80mol%であり、より好ましくは50〜80mol%である。上記範囲であれば、リガンドの分子認識作用が良好である。
【0051】
本発明の共重合体は、担体の表面にある反応性基(a)と化学的に結合可能な反応性基(b)を有するモノマー(A)に由来する構成単位を含むセグメントを共重合体の鎖の一端に有するとともに、リガンドを有するモノマー(B)に由来する構成単位を含むセグメントを共重合体の鎖の他端に有する。図2(A)は、モノマー(A)に由来する構成単位からなるセグメントと、モノマー(B)に由来する構成単位からなるセグメントとを両端に有する、本発明の共重合体による糖鎖の修飾を示す模式図である。図2(B)は、従来法であるアルカンチオールの自己集積化単分子膜(以下、SAMと称する。)による糖鎖の修飾を示す模式図である。本発明の共重合体では、図2(A)に示すように、複数の反応性基(b)を有するので、担体の表面にある反応性基(a)との反応確率が高くなる。また、共重合体が多点的に固定化するので、共重合体を担体の表面から延伸したブラシ状に固定化することができ、共重合体の運動性が向上し、ひいては、リガンドの運動性が向上する。更に、一方の末端にリガンドが集積化されているので、リガンドを有する共重合体の運動性の向上と、リガンドの集積化とが実現することにより、リガンドと対象物質との相互作用が高まるので、リガンドの分子認識作用も高まると考えられる。
これに対して、リガンドをアルカンチオールのSAMにより2次元的に固定化する従来法では、図2(B)に示すように、材料表面にSAMが形成されるので、リガンドを高密度に固定化することができるが、分子同士の相互作用により、運動性は低くなる。
【0052】
<第2の実施形態>
以下、本発明の第2の実施形態に係る共重合体について説明する。なお、上述した第1の実施形態に係る共重合体と共通する部分についての説明は、省略する。
本発明の第2の実施形態に係る共重合体は、反応性基(a)を有する担体の表面にリガンドを固定化するための共重合体であって、モノマー(B)に由来する構成単位を含むセグメントを上記共重合体の鎖の両端に有するとともに、該両端のセグメント間にモノマー(A)に由来する構成単位を含むセグメントを有する。なお、上記共重合体の鎖の両端にあるモノマー(B)に由来する構成単位を含むセグメントと、上記両端のセグメント間にあるモノマー(A)に由来する構成単位を含むセグメントとの間に、上述のその他のモノマーを有していてもよい。また、本発明の共重合体は、鎖状構造を有するが、その構造は、直鎖ポリマー又は分岐ポリマーのいずれであってもよい。
【0053】
本発明の共重合体では、モノマー(A)に由来する構成単位と、モノマー(B)に由来する構成単位とが混在せず、別々のセグメントに存在することが重要である。したがって、モノマー(A)に由来する構成単位を含むセグメントは、モノマー(B)以外の上述のその他のモノマーを含んでいてもよく、モノマー(B)に由来する構成単位を含むセグメントは、モノマー(A)以外の上述のその他のモノマーを含んでいてもよい。また、本発明の第2の実施形態に係る共重合体では、モノマー(B)に由来する構成単位を含むセグメントを、共重合体の鎖の端に有していることが重要であって、上記セグメントにおいて、モノマー(B)に由来する構成単位を端に有している必要はない。したがって、共重合体の鎖の端と、モノマー(B)に由来する構成単位との間に、上述のその他のモノマーを含むセグメントも本発明の範囲内である。
【0054】
本発明の第2の実施形態に係る共重合体では、該共重合体におけるモノマー(A)に由来する構成単位の占める割合は、特に限定されないが、好ましくは5〜80mol%であり、より好ましくは5〜20mol%である。上記範囲であれば、本発明の第2の実施形態に係る共重合体を、担体の表面に対してブラシ状に固定化することができる。また、モノマー(B)に由来する構成単位の占める割合は、特に限定されないが、好ましくは20〜80mol%であり、より好ましくは50〜80mol%である。上記範囲であれば、リガンドの分子認識作用が良好である。
【0055】
[共重合体の固定化]
本発明の共重合体は、該共重合体が有する反応性基(b)と、担体の表面にある反応性基(a)とを反応させることにより、リガンドを担体の表面に固定化する。この反応により、反応性基(b)と反応性基(a)とが化学的に結合するので、担体の表面に安定に固定化することができる。反応性基(a)は、反応性基(b)と化学的に結合可能であれば特に限定されないが、好ましくは反応性基(a)及び反応性基(b)のいずれか一方がアジド基であり、他方がアルキニル基であるか、一方がアミノ基であり、他方がカルボキシル基であるか、一方がアミノ基又はチオール基であり、他方がカルボキシル基、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステルで活性化されたカルボン酸、イソシアナート基又はチオイソシアナート基であることが好ましい。
【0056】
反応性基(a)及び反応性基(b)のいずれか一方がアジド基であり、他方がアルキニル基である場合、反応性基(a)と反応性基(b)との反応は、クリック反応により行うことが好ましい。クリック反応では、トリアゾール環が形成されるように、溶媒中において、アジド基とアルキニル基とを反応させる。反応混合液に銅等の触媒及びアスコルビン酸塩等の還元剤を添加することにより、水性溶媒中でも室温でトリアゾール環を形成することができる。クリック反応は、水混合溶媒中でも反応が進行するという点のほか、固体表面に対する高分子の末端反応等、通常の有機化学反応では反応率が低くなりやすい条件であっても、他のカップリング反応と比較して高い効率で反応が進行するという点においても好ましい。
【0057】
固定化対象である担体を構成する材料の種類や形態は、特に限定されない。担体は、固体であっても、半固体であってもよい。材料の種類としては、例えば、ガラス、シリコン、プラスチック、セラミックス、金属等が挙げられ、目的に応じて用いることができる。金属としては、例えば、金、銀、鉄、銅、白金等が挙げられる。形態としては、例えば、プレート状、フィルム状、繊維状、粒子状、ゲル状等が挙げられる。
【0058】
反応性基(a)を上記担体の表面に修飾する方法は、特に限定されないが、例えば、担体が金の場合には、金とチオール基との結合を利用したり、担体がガラス等の水酸基を有する場合には、シランカップリング剤を利用したりすることができる。
【0059】
本発明の共重合体は、上記のように担体の表面に安定に固定化することができる。したがって、例えば、特定の細胞、ウイルス、細菌、毒素、ペプチド等を特異的に認識する糖鎖や抗体をリガンドとして結合させた共重合体は、診断用のセンシングプローブやアクティブ・ターゲティング・ドラックデリバリーシステム(能動的・標的指向性DDS)に好適に利用することができる。
【0060】
[細胞培養方法]
リガンドを結合させた本発明の共重合体によって表面を修飾した培養基材によれば、細胞培養が可能となる。特に、特定の細胞に対して特異的に結合するリガンドを用いた場合には、当該細胞の選択培養に利用することができる。例えば、肝実質細胞にのみ認識される性質を有するラクトースをリガンドとして用いることで、肝実質細胞と、その他の肝臓を構成する非実質細胞(類洞内皮細胞、星細胞、クッパー細胞等)との混合物から、肝実質細胞のみを容易に分離することが可能となる。また、ラクトースをリガンドとして結合させた本発明の共重合体によって表面を修飾した培養基材によれば、ラクトースと細胞とがアシアロ糖タンパク受容体を介して良好に接着するので、無血清培地でも細胞を培養することができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
本実施例では、まず、1,2の工程を経て、反応性基(a)を担体表面に修飾するための分子を製造した。反応性基(a)は、モノマーAの反応性基(b)に対応する。
【0063】
[担体表面修飾用分子の製造]
<工程1:3−アジドプロピルトリエトキシシランの合成>
既知の方法(Eur.J.Org.Chem.,2006,2934−2941)に従い、式(1)で表される3−クロロプロピルトリエトキシシラン3.0g(12.5mmol)から、式(2)で表される3−アジドプロピルトリエトキシシランを得た(収量:2.12g(8.60mmol),収率:69%)。反応スキームを以下に示す。
【0064】
【化5】

【0065】
<工程2:1−アジドウンデカン−11−チオールの合成>
既知の方法(Langmuir.,2004,20(4),1051−1053)を参考に、式(3)で表される1−ブロモウンデカン−11−オールから、式(7)で表される1−アジドウンデカン−11−チオールを合成した。
具体的には、アルゴン雰囲気下、式(3)で表される1−ブロモウンデカン−11オール2.51g(10.0mmol)とアジ化ナトリウム1.95g(30.0mmol)をDMF 45mlに懸濁し、70℃で3時間加熱攪拌した。過剰なアジ化ナトリウムをろ過で取り除いた後、反応溶液を減圧濃縮した。残渣にイソプロピルエーテルを加え、水で2回洗浄した後、有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水、減圧濃縮して、式(4)で表される1−アジドウンデカノールを得た(収量:2.13g(10.0mmol),収率:100%)。
次に、式(4)で表される1−アジドウンデカン−11−チオール2.07g(9.70mol)とメタンスルホニルクロリド2.29g(20.0mmol)の脱水THF 60ml溶液に、アルゴン雰囲気下、トリエチルアミン2.02g(20.0mmol)の脱水THF20ml溶液を滴下し、そのまま室温で3時間攪拌した。反応溶液をろ過し、生成した塩を除いた後、減圧濃縮した。残渣にイソプロピルエーテルを加え、1M塩酸、水、NaHCO水溶液で洗浄した後、有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水、減圧濃縮して、式(5)で表される1−アジドウンデカン−11−メチルスルホナートを得た(収量:2.70g(9.27mmol),収率:96%)。
続いて、式(5)で表される1−アジドウンデカン−11−メチルスルホナート2.70g(9.27mmol)とカリウムチオアセテート2.10g(18.6mmol)をメタノール80mlに溶解し、アルゴン雰囲気下、2.5時間加熱還流した。反応溶液を減圧濃縮し、残差に水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を更に水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで脱水、減圧濃縮して、式(6)で表される1−アジドウンデカン−11−チオアセテートを得た。(収量:2.27g(8.36mmol),収率:90%)
最後に、式(6)で表される1−アジドウンデカン−11−チオアセテート2.27g(8.36mmol)をメタノール150mlに溶解した後、濃塩酸8mlを添加し、アルゴン雰囲気下、5時間加熱還流した。反応溶液に水を加えた後、メタノールを減圧で除き、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を更にNaHCO水溶液、水、ブラインで洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで脱水、減圧濃縮して、式(7)で表される1−アジドウンデカン−11−チオールを得た(収量:1.92g(8.38mmol),収率:100%)。反応スキームを以下に示す。
【0066】
【化6】

【0067】
3の工程を経て、本発明に用いる可逆的付加開裂連鎖移動剤(以下、連鎖移動剤と称する。)であるブチルベンジルトリチオカルボナートを製造した。
【0068】
[連鎖移動剤の製造]
<工程3:ブチルベンジルトリチオカルボナートの合成>
既知の文献(日本化学会誌,1987,7,1408−1413)を参考に、式(8)で表されるベンジルメルカプタンから、式(10)で表されるブチルベンジルトリチオカルボナートを合成した。
具体的には、式(8)で表されるベンジルメルカプタン1.24g(10.0mmol)と1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク―7−エン(DBU)1.52g(20.0mmol)を脱水ベンゼン10mlに溶解し、アルゴン雰囲気下、二硫化炭素1.52g(20.0mmol)をゆっくり滴下し、室温で30分攪拌した。この反応溶液に1−ブロモブタン1.37g(10.0mmol)の脱水ベンゼン5ml溶液を滴下し、室温で18時間攪拌した。反応溶液をベンゼンで希釈し、セライトでろ過した。ろ液を1M塩酸、水、ブラインで洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで脱水、減圧濃縮して、式(10)で表されるブチルベンジルトリチオカルボナートを得た(収量:2.48g(9.67mmol),収率:97%)。反応スキームを以下に示す。
【0069】
【化7】

【0070】
4の工程を経て、本発明のモノマー(A)を製造した。
【0071】
[モノマー(A)の製造]
<工程4:アクリル酸−4−ペンチニルエステルの合成>
式(11)で表される4−ペンチン−1−オールとアクリル酸クロリドから、式(13)で表されるアクリル酸−4−ペンチニルエステルを合成した。
具体的には、式(11)で表される4−ペンチン−1−オール2.83g(40.0mmol)とトリエチルアミン4.45g(44.0mmol)を脱水THF 40mlに溶解し、氷浴で冷却しながら、表(12)で表されるアクリル酸クロリド3.98g(44.0mmol)の脱水THF 40ml溶液を滴下した。その後、氷浴を外し、室温で5時間攪拌した。反応溶液をろ過し、生成した塩を除去した後、減圧濃縮した。残渣にイソプロピルエーテルを加え、NaHCO水溶液、塩化アンモニウム水溶液、ブラインで洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで脱水、減圧濃縮して粗生成物得た。得られた粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:n−ヘキサン=1:10)で精製し、式(13)で表されるアクリル酸−4−ペンチニルエステルを得た(収量:1.90g(13.8mmol),収率:35%)。反応スキームを以下に示す。
【0072】
【化8】

【0073】
5又は6の工程を経て、本発明のモノマー(B)を製造した。
【0074】
[モノマー(B)の製造]
<工程5:β−アクリル酸エチルオキシ−D−ラクトース−ヘプタアセテートの合成>
既知の方法(Biomacromolecule,2004,5(1),224−231)を参考に、式(14)で表されるβ体リッチのD−ラクトース−オクタアセテートと、式(15)で表されるヒドロキシエチルアクリレートとから、式(16)で表されるβ−アクリル酸エチルオキシ−D−ラクトース−ヘプタアセテートを合成した。
具体的には、式(14)で表されるβ体リッチのD−ラクトース−オクタアセテート10.0g(14.7mmol)と、式(15)で表されるアクリル酸ヒドロキシエチルエステル2.06g(17.7mmol)とを、アルゴン雰囲気下、脱水ジクロロメタンに溶解し、氷浴で冷却しながら、三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体(46〜49%)6mlを滴下した。そのまま2時間攪拌した後、氷浴を外し、更に室温で18時間攪拌した。反応溶液をクロロホルムで希釈し、NaHCO水溶液、水で洗浄、有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水、減圧濃縮して粗生成物得た。得られた粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(アセトン:ジクロロメタン=1:30→1:25)で精製した後、メタノール/水で再沈澱を行い、式(16)で表されるβ−アクリル酸エチルオキシ−D−ラクトース−ヘプタアセテートを得た(収量:5.36g(7.30mmol),収率:50%)。反応スキームを以下に示す。
【0075】
【化9】

【0076】
<工程6:β−アクリルアミジルエチルオキシ−D−ラクトース−ヘプタアセテートの合成>
既知の方法(Aust.J.Chem.,1998,51,31−35)に従い、式(17)で表される1−アミノエタノールと、式(18)で表されるアクリル酸クロリドとから、式(19)で表される2−ヒドロキシエチルアクリルアミドを合成した。次に、既知の方法(Biomacromolecule,2004,5(1),224−231)を参考に、式(14)で表されるβ体リッチのD−ラクトース−オクタアセテートと、式(19)で表される2−ヒドロキシエチルアクリルアミドとから、式(20)で表されるβ−アクリルアミジルエチルオキシ−D−ラクトース−ヘプタアセテートを合成した。
具体的には、式(17)で表される1−アミノエタノール30ml(0.50mol)を脱水ジクロロメタン300mlに溶解し、氷浴で冷却しながら式(18)で表されるアクリル酸クロリド20ml(0.25mol)の脱水ジクロロメタン100ml溶液を滴下した。そのまま氷浴で冷却しながら3時間攪拌した後、生成した塩をろ過で除き、ろ液を減圧濃縮し、式(19)で表される2−ヒドロキシエチルアクリルアミドを合成した(収量:15g(0.13mol),収率:52%)。
次に、式(14)で表されるβ体リッチのD−ラクトース−オクタアセテート10.0g(14.7mmol)と式(19)で表される2−ヒドロキシエチルアクリルアミド2.03g(17.7mmol)をアルゴン雰囲気下、脱水ジクロロメタンに溶解し、氷浴で冷却しながら、三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体(46〜49%)6mlを滴下した。そのまま2時間攪拌した後、氷浴を外し、更に室温で18時間攪拌した。反応溶液をクロロホルムで希釈し、NaHCO水溶液、水で洗浄、有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水、減圧濃縮して粗生成物得た。得られた粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:n−ヘキサン=1:1→酢酸エチル)で精製し、式(20)で表されるβ−アクリル酸エチルオキシ−D−ラクトース−ヘプタアセテートを得た(収量:6.22g(8.48mmol),収率:58%)。反応スキームを以下に示す。
【0077】
【化10】

【0078】
7,8,9,又は10の工程を経て、糖鎖ポリマーを製造した。
【0079】
[糖鎖ポリマーの製造:ホモポリマータイプ(1)]
<工程7:Poly−Lac(OAc)−Aの合成>
式(16)で表されるβ−アクリル酸エチルオキシ−D−ラクトース−ヘプタアセテート1.47g(2.0mmol)と、式(10)で表されるブチルベンジルトリチオカルボナート26mg(0.10mmol)と、AIBN 1.6mg(10μmol)とを脱水DMF 10mlに溶解し、シュレンク管で3回凍結脱気を行った後、アルゴン雰囲気下、70℃で4日間加熱攪拌した。反応溶液をイソプロピルエーテルに滴下して再沈澱を行い、更に得られた沈澱を少量のクロロホルムに溶解し、イソプロパノール/イソプロピルエーテルに滴下して再沈澱による精製を行い、式(21)で表されるPoly−Lac(OAc)−Aを得た(収量:445mg,回収率:30%)。反応スキームを以下に示す。
反応溶液の一部を減圧濃縮した粗生成物のHNMR(CDCl)を測定し、積分比から算出したモノマーの転化率は43%であった。また、精製後のポリマーをGPC(ポリスチレンスタンダード)で測定した数平均分子量(Mncal)は3842、分子量分布(Mw/Mn)は1.20、Mncalから算出した平均重合度(ncal)は4.9であった。なお、分子量分布が狭いことから、この重合反応はRAFT機構で進行したと考えられる。よって、モノマーの転化率から算出した理論的な平均分子量(Mnth)は6574、平均重合度(nth)は8.6であった。
【0080】
【化11】

【0081】
[糖鎖ポリマーの製造:ホモポリマータイプ(2)]
<工程8:Poly−Lac(OAc)−AAの合成>
式(20)で表されるβ−アクリルアミジルエチルオキシ−D−ラクトース−ヘプタアセテート1.10g(1.5mmol)と、式(10)で表されるブチルベンジルトリチオカルボナート13mg(0.050mmol)と、AIBN 1.6mg(10μmol)とを脱水DMF 8mlに溶解し、シュレンク管で3回凍結脱気を行った後、アルゴン雰囲気下、70℃で4日間加熱攪拌した。反応溶液をイソプロピルエーテルに滴下して再沈澱を行い、更に得られた沈澱を少量のクロロホルムに溶解し、イソプロパノール/イソプロピルエーテルに滴下して再沈澱による精製を行い、式(22)で表されるPoly−Lac(OAc)−AAを得た(収量:555mg,回収率:50%)。反応スキームを以下に示す。
なお、工程7と同様の方法にて測定し、算出したモノマーの転化率は60%、Mncalは4785、Mw/Mnは1.20、ncalは6.2、Mnthは13463、nthは18であった。
【0082】
【化12】

【0083】
[糖鎖ポリマーの製造:コポリマータイプ(1)]
<工程9:Poly−Lac(OAc)−A−co−HEAの合成>
式(16)で表されるβ−アクリル酸エチルオキシ−D−ラクトース−ヘプタアセテート1.47g(2.0mmol)と、式(15)で表されるアクリル酸ヒドロキエチルエステル232mg(2.0mol)と、式(10)で表されるブチルベンジルトリチオカルボナート26mg(0.10mol)と、AIBN 3.3mg(20μmol)とを脱水DMF 10mlに溶解し、シュレンク管で3回凍結脱気を行った後、アルゴン雰囲気下、70℃で4日間加熱攪拌した。反応溶液をイソプロピルエーテルに滴下して再沈澱を行い、更に得られた沈澱を少量のクロロホルムに溶解し、イソプロパノール/イソプロピルエーテルに滴下して再沈澱による精製を行い、式(23)で表されるPoly−Lac(OAc)−A−co−HEAを得た(収量:1.04g,回収率:53%)。反応スキームを以下に示す。
なお、工程7と同様の方法にて測定し、算出したモノマーの転化率は70%(2種類のモノマー全体として)、Mncalは5186、Mw/Mnは1.28であった。
【0084】
【化13】

【0085】
[糖鎖ポリマーの製造:コポリマータイプ(2)]
<工程10:Poly−Lac(OAc)−AA−co−HEAAの合成>
式(20)で表されるβ−アクリルアミジルエチルオキシ−D−ラクトース−ヘプタアセテート1.46g(2.0mmol)と、式(19)で表される2−ヒドロキシエチルアクリルアミド230mg(2.0mmol)と、式(10)で表されるブチルベンジルトリチオカルボナート26mg(0.10mmol)と、AIBN 1.6mg(10μmol)とを脱水DMF 10mlに溶解し、シュレンク管で3回凍結脱気を行った後、アルゴン雰囲気下、70℃で4日間加熱攪拌した。反応溶液をイソプロピルエーテルに滴下して再沈澱を行い、更に得られた沈澱を少量のクロロホルムに溶解し、イソプロパノール/イソプロピルエーテルに滴下して再沈澱による精製を行い、式(24)で表されるPoly−Lac(OAc)−AA−co−HEAAを得た(収量:770mg,回収率:39%)。反応スキームを以下に示す。
なお、工程7と同様の方法にて測定し、算出したモノマーの転化率は45%(2種類のモノマー全体として)、Mncalは4930、Mw/Mnは1.18であった。
【0086】
【化14】

【0087】
11,12,13又は14の工程を経て、本発明の共重合体を製造した。
【0088】
[本発明の共重合体の製造:糖鎖ポリマーがホモポリマータイプ(1)]
<工程11:Poly−Lac(OAc)−A−b−Alkyne−Aの合成>
式(21)で表されるPoly−Lac(OAc)−A 384mg(Mncal=3842、Mnth=6574)と、式(13)で表されるアクリル酸−4−ペンチニルエステル69mg(0.50mol)と、AIBN 5.0mg(30μmol)とを脱水DMF 3mlに溶解し、シュレンク管で3回凍結脱気を行った後、アルゴン雰囲気下、70℃で6日間加熱攪拌した。反応溶液をイソプロピルエーテルに滴下して再沈澱による精製を行い、式(25)で表されるPoly−Lac(OAc)−A−b−Alkyne−Aを得た(収量:341mg,回収率:75%)。反応スキームを以下に示す。
反応溶液の一部を減圧濃縮した粗生成物のHNMR(CDCl)を測定し、積分比から算出したモノマーの転化率は100%であった。また、精製後のポリマーをGPC(ポリスチレンスタンダード)で測定した数平均分子量(Mncal)は3712、分子量分布(Mw/Mn)は1.19であった。なお、分子量分布が狭いことから、この重合反応は、RAFT機構で進行したと考えられる。よって、マクロ連鎖移動剤のMnthとモノマーの転化率とから算出した理論的な平均分子量(Mnth)は7757、平均重合度はnthが8.6、mthが8.6であった。
【0089】
【化15】

【0090】
[本発明の共重合体の製造:糖鎖ポリマーがホモポリマータイプ(2)]
<工程12:Poly−Lac(OAc)−AA−b−Alkyne−Aの合成>
式(22)で表されるPoly−Lac(OAc)−AA 540mg(Mncal=4785、Mnth=13463)と、式(13)で表されるアクリル酸−4−ペンチニルエステル55mg(0.40mol)と、AIBN 3.3mg(20mmol)とを脱水DMF 4mlに溶解し、シュレンク管で3回凍結脱気を行った後、アルゴン雰囲気下、70℃で6日間加熱攪拌した。反応溶液をイソプロピルエーテルに滴下して再沈澱による精製を行い、式(26)で表されるPoly−Lac(OAc)−AA−b−Alkyne−Aを得た(収量:526mg,回収率:88%)。反応スキームを以下に示す。
なお、工程11と同様の方法にて測定し、算出したモノマーの転化率は100%、Mncalは4452、Mw/Mnは1.23、Mnthは14840、平均重合度はnthが18、mthが10であった。
【0091】
【化16】

【0092】
[本発明の共重合体の製造:糖鎖ポリマーがコポリマータイプ(1)]
<工程13:Poly−[Lac(OAc)−A−co−HEA]−b−Alkyne−Aの合成>
式(23)で表されるPoly−Lac(OAc)−A−co−HEA 1.04g(Mncal=5186)と、式(13)で表されるアクリル酸−4−ペンチニルエステル83mg(0.60mmol)と、AIBN 4.9mg(30μmol)とを脱水DMF 10mlに溶解し、シュレンク管で3回凍結脱気を行った後、アルゴン雰囲気下、70℃で6日間加熱攪拌した。反応溶液をイソプロピルエーテルに滴下して再沈澱による精製を行い、式(27)で表されるPoly−[Lac(OAc)−A−co−HEA]−b−Alkyne−Aを得た(収量:807mg,回収率:72%)。反応スキームを以下に示す。
なお、工程11と同様の方法にて測定し、算出したモノマーの転化率は100%、Mncalは3502、Mw/Mnは1.32であった。
【0093】
【化17】

【0094】
[本発明の共重合体の製造:糖鎖ポリマーがコポリマータイプ(2)]
<工程14:Poly−[Lac(OAc)−AA−co−HEAA]−b−Alkyne−Aの合成>
式(24)で表されるPoly−Lac(OAc)−AA−co−HEAA 742mg(Mncal=4930)と、式(13)で表されるアクリル酸−4−ペンチニルエステル207mg(1.50mmol)と、AIBN 4.9mg(30μmol)とを脱水DMF 5mlに溶解し、シュレンク管で3回凍結脱気を行った後、アルゴン雰囲気下、70℃で6日間加熱攪拌した。反応溶液をイソプロピルエーテルに滴下して再沈澱による精製を行い、式(28)で表されるPoly−[Lac(OAc)−AA−co−HEAA]−b−Alkyne−Aを得た(収量:718mg,回収率:76%)。反応スキームを以下に示す。
なお、工程11と同様の方法にて測定し、算出したモノマーの転化率は78%、Mncalは5594、Mw/Mnは1.23であった。
【0095】
【化18】

【0096】
[担体表面への糖鎖ポリマーブラシの形成]
糖鎖ポリマーブラシを担体表面に形成する方法は、担体表面にアジド基を修飾する第1の工程、合成した本発明の共重合体の末端アルキン部分と第1の工程において担体表面に修飾したアジド基とのクリック反応を行う第2の工程、及び糖鎖の保護基を外す脱保護反応を行う第3の工程で行う。なお、共重合体の状態で脱保護を行っておくことで、第3の工程は省略することができる。各工程における反応進行度は、水滴の接触角の変化で確認した。
【0097】
(1)第1の工程:担体表面へのアジド基の修飾
アジド基を修飾する担体には、ガラス基板(スライドガラス)と金蒸着ガラス基板を用いた。これら担体表面に付着した有機物等の汚れは、表面反応の促進を阻害する可能性がある。そこで、オゾン洗浄機で15分間処理した後、メタノールをかけ流して洗浄し、乾燥させた担体を用いた。
【0098】
(1−1)ガラス基板表面の修飾
ガラス基板表面へのアジド基の修飾は、シランカップリング反応により行った。シランカップリング剤には、工程1にて合成した式(2)で表される3−アジドプロピルトリエトキシシランを用いた。3−アジドプロピルトリエトキシシランの1vol%トルエン溶液を調製し、脱脂綿でガラス基板表面に薄く塗布し、ヘアドライアーで数秒間加熱と乾燥を3回繰り返した。
【0099】
(1−2)金蒸着ガラス基板表面の修飾
金蒸着ガラス基板表面へのアジド基の修飾は、金とチオール基の反応により行った。アルカンチオールは、金表面上に自己組織化単分子膜(SAM)を形成することが知られていることから、金蒸着ガラス基板を、工程2にて合成した式(7)で表される1−アジドウンデカン−11−チオールの0.2vol%トルエン溶液に浸漬し、18時間放置した。
【0100】
(2)第2の工程:クリック反応
第1の工程においてアジド基を修飾した担体表面上に、工程14にて合成した式(28)で表されるPoly−[Lac(OAc)−AA−co−HEAA]−b−Alkyne−Aの粉末を少量(1cm当たり1mg未満)ふりかけた後、クリック反応溶液を塗布し、18時間放置した。クリック反応溶液には、硫酸銅(II)・5水和物10mgとアスコルビン酸ナトリウム15mgとを、THF/ミリQ水(20ml/5ml)溶液に溶解したものを用いた。反応終了後は、担体表面をアセトン、メタノール、ミリQ水の順でよく洗浄し、乾燥した。
【0101】
(3)第3の工程:糖鎖の脱保護反応
糖鎖の脱保護反応は、既知の方法(Biomacromolecule,2004,5,224−231)を参考に行った。第2の工程においてクリック反応させた担体を、ヒドラジン一水和物の3vol% DMSO溶液に浸漬し、密閉状態で5時間放置した。反応終了後は、担体表面をアセトン、メタノール、ミリQ水の順でよく洗浄し、乾燥した。
【0102】
[反応進行度の確認:接触角の測定]
担体表面における糖鎖ポリマーブラシの形成は、担体表面の接触角を測定することにより確認した。糖鎖ポリマーブラシが担体表面に形成されていれば、担体表面における水酸基の密度が高まり、親水性が高くなると考えられるからである。
ガラス基板については、第3の工程の脱保護を部分的に行い、脱保護されている部分と脱保護されていない部分の接触角を比較した。なお、接触角はガラス基板2枚(1枚当たり4ヶ所測定)の平均値を求めた。
金蒸着ガラス基板については、第2の工程のクリック反応を部分的に行い、更に第3の工程の脱保護を部分的に行い、各工程後の接触角を比較した。なお、接触角は金蒸着ガラス基板1枚(1枚当たり10ヶ所測定)の平均値を求めた。
室温(約23℃)下、空気中で担体表面にイオン交換水(ミリQ水)2μlを滴下し、担体表面と水滴との接触角を測定した。測定装置には、表面張力計(協和界面科学社製DropMaster−500,解析ソフトウエアーFAMAS使用)を用いた。
【0103】
ガラス基板については、脱保護していない部分の接触角が67.6°であるのに対し、脱保護した部分の接触角は41.8°であり、脱保護した部分の方が26°程度小さな値を示した。
金蒸着ガラス基板については、第1の工程後(アジド基の修飾後)の接触角が67.1°であり、第2の工程後(クリック反応後)の接触角が65.8°であるのに対し、第3の工程後(脱保護反応後)の接触角は51.8°であり、脱保護した部分の接触角が最も小さな値を示した。
以上の結果から、ガラス基板、金蒸着ガラス基板のいずれの担体においても、各工程の反応は進行し、表面に糖鎖ポリマーブラシが形成されたことが示唆された。
【0104】
[糖鎖ポリマーブラシの評価]
1.レクチンの特異的結合とタンパク質の非特異的吸着による評価
(QCMセンサーのセンシング面への糖鎖ポリマーブラシの形成)
(1)第1の工程:センシング面へのアジド基の修飾
QCMセンサー(イニシアム社製,AFFINIX Q,27MHz)のセンサーチップのセンシング面に、ピラニア洗浄溶液(濃硫酸:過酸化水素水=3:1)を塗布し、10分間放置した後、水洗し、更に1%SDS溶液を綿棒につけて軽くこすり洗いした後、水洗し乾燥した。
センシング面は、金の薄膜でできていることから、第1の工程(アジド基の修飾)は、金とチオール基の反応により行った。センシング面を、工程2にて合成した式(7)で表される1−アジドウンデカン−11−チオールの0.2vol%トルエン溶液に浸漬し、2時間放置した。
【0105】
(2)第2の工程:クリック反応
第1の工程においてアジド基を修飾したQCMセンサーのセンシング面上に、工程11にて合成した式(25)で表されるPoly−Lac(OAc)−A−b−Alkyne−A、又は工程13にて合成した式(27)で表されるPoly−[Lac(OAc)−A−co−HEA]−b−Alkyne−Aの粉末を少量(1cm当たり1mg未満)ふりかけた後、クリック反応溶液を塗布し、18時間放置した。
クリック反応溶液には、硫酸銅(II)・5水和物10mgとアスコルビン酸ナトリウム15mgとを、t−BuOH/ミリQ水(1:1)⇒(10ml/10ml)溶液に溶解したものを用いた。反応終了後は、センシング面をアセトン、メタノール、ミリQ水の順でよく洗浄し、乾燥した。
【0106】
(3)第3の工程:糖鎖の脱保護反応
糖鎖の脱保護反応は、既知の方法(Biomacromolecule,2004,5,224−231)を参考に行った。第2の工程においてクリック反応させたQCMセンサーのセンシング面に、ヒドラジン一水和物の3vol% DMSO溶液を塗布して2時間放置することを2回繰り返し行った。反応終了後は、センシング面をアセトン、メタノール、ミリQ水の順でよく洗浄し、乾燥した。
【0107】
(レクチンの特異的結合の確認)
レクチンには、ラクトースのレクチンであるRCA120(フナコシ社製)を用いた。測定装置には、QCMセンサーを用いた。QCMセンサーの付属のガラス製セルに、予め減圧脱気したイオン交換水(ミリQ水)8mlを入れ、これに上記方法により糖鎖ポリマーブラシを表面に形成したセンサーチップを浸漬し、25℃で攪拌(850rpm)した。この状態で周波数が一定になるまで待機した後、RCA120(5mg/ml)8μlを添加し、周波数変化を記録した。
【0108】
(タンパク質の非特異的吸着の確認)
タンパク質には、BSA(シグマ社製)を用いた。QCMセンサーの付属のガラス製セルに、予め減圧脱気したイオン交換水(ミリQ水)8mlを入れ、これに上記方法により糖鎖ポリマーブラシを表面に形成したセンサーチップを浸漬し、25℃で攪拌(850rpm)した。この状態で周波数が一定になるまで待機した後、BSA(5mg/ml)8μlを添加し、周波数変化を記録した。更に続いて、周波数が一定になるまで待機した後、RCA120(5mg/ml)8μlを添加し、周波数変化を記録した。
【0109】
Poly−Lac(OAc)−A−b−Alkyne−Aを固定化して形成した糖鎖ポリマーブラシの評価結果を図3(A),(B)に、Poly−[Lac(OAc)−A−co−HEA]−b−Alkyne−Aを固定化して形成した糖鎖ポリマーブラシの評価結果を図4(A),(B)に示す。Poly−Lac(OAc)−A−b−Alkyne−A、Poly−[Lac(OAc)−A−co−HEA]−b−Alkyne−Aともに、BSAでは周波数の変化がほとんど認められなかったのに対し、RCA120では1500〜2000Hzの周波数の変化が認められた。このことから、本発明の共重合体を固定化し、糖鎖ポリマーブラシを形成したセンシング面が、レクチン(RCA120)と特異的結合を示し、タンパク質の非特異的吸着をほとんど示さないことが確認された。
【0110】
2.ラット初代肝実質細胞の接着による評価(I)
(培養基板表面への糖鎖ポリマーブラシの形成)
(1)第1の工程:ガラス基板表面へのアジド基の修飾
ガラス基板表面へのアジド基の修飾は、シランカップリング反応により行った。シランカップリング剤には、工程1にて合成した式(2)で表される3−アジドプロピルトリエトキシシランを用いた。3−アジドプロピルトリエトキシシランの1vol%トルエン溶液を調製し、脱脂綿でガラス基板表面に薄く塗布し、ヘアドライアーで数秒間加熱と乾燥を3回繰り返した。
【0111】
(2)第2の工程:クリック反応
第1の工程においてアジド基を修飾したガラス基板表面上に、工程13にて合成した式(27)で表されるPoly−[Lac(OAc)−A−co−HEA]−b−Alkyne−Aの粉末を少量(1cm当たり1mg未満)ふりかけた後、クリック反応溶液を部分的に塗布し、18時間放置した。なお、クリック反応溶液には、硫酸銅(II)・5水和物10mgとアスコルビン酸ナトリウム15mgとを、t−BuOH/ミリQ水(1:1)⇒(10ml/10ml)溶液に溶解したものを用いた。反応終了後は、ガラス基板表面をアセトン、メタノール、ミリQ水の順でよく洗浄し、乾燥した。
【0112】
(3)第3の工程:糖鎖の脱保護反応
糖鎖の脱保護反応は、既知の方法(Biomacromolecule,2004,5,224−231)を参考に行った。第2の工程においてクリック反応させたガラス基板を、ヒドラジン一水和物の3vol% DMSO溶液に浸漬し、密閉状態で5時間放置した。反応終了後、ガラス基板表面をアセトン、メタノール、ミリQ水の順でよく洗浄し、乾燥した後、これを培養基板として用いた。
【0113】
(細胞接着の確認)
細胞接着による評価には、細胞表面にラクトース認識サイトの存在が知られているラット初代肝実質細胞(ヘパトサイト)を用いた。
ラット(7週齢、オス)からコラゲナーゼ溶液により肝細胞を分離し、遠心分離(50×g,2min)を3回行い、肝細胞を精製した。この精製した肝細胞を、上記培養基板に、3.0×10cells播種し、培養した。なお、培養基板全体への細胞接着を避けるために、肝細胞の培養には無血清のWilliams’E培地(50ml FBS,10mlペニシリン−ストレプトマイシン)を用いた。
【0114】
培養結果を図5に示す。図中の矢印は、培養基板上のPoly−[Lac(OAc)−A−co−HEA]−b−Alkyne−Aを固定化した位置を示す。ヘパトサイトは、Poly−[Lac(OAc)−A−co−HEA]−b−Alkyne−Aにより糖鎖ポリマーブラシを形成した部位にのみ選択的に、球状で接着することが確認された(図5の点線より下側)。
【0115】
3.ラット初代肝実質細胞の分化機能に対する効果(I)
試験には、2.と同様にラット肝実質細胞を用いた。ラット(7週齢、オス)からコラゲナーゼ溶液により肝細胞を分離し、遠心分離(50×g,2min)を3回行い、肝細胞を精製した。この精製した肝細胞を無血清のWilliams’E培地を用いて1×10cells/mlに調整した細胞懸濁液を、12wellプレートに1×10cells/wellになるように細胞を播種し(2ml/well)、培養した。なお、基板には、ラクトースグリコポリマー(Poly−[Lac(OAc)−A−co−HEA]−b−Alkyne−A)基板とゼラチン修飾基板とを用いた。ラクトースグリコポリマー基板表面への糖鎖ポリマーブラシの形成は、上記2.(1)〜(3)と同様の方法にて行った。培養6時間後に、Williams’E培地(添加因子無し,10% FBS,2%ペニシリン−ストレプトマイシン)と、Williams’E培地(添加因子有り,10% FBS,2%ペニシリン−ストレプトマイシン,10−6M Insulin,10−7 Dexamethasone,0.3mg/ml L−glutamine)とに培地交換を行った。
【0116】
そして、1,2,3,4日目に細胞の形態を観察するとともに、MTTアッセイ及びアルブミン産生量の測定を行った。なお、MTTアッセイは常法に従った。アルブミン産生量の測定は、以下の方法により行った。
(1)培地の上澄みを1ml採取し、−80℃で保存した。
(2)96wellプレートに5000倍希釈した一次抗体(rabbit anti rat IgG)を100μlずつ加えて、1時間静置した。
(3)well内の溶液を吸い取り、洗浄液(0.02% Tween 20−PBS溶液)で3回洗浄した。
(4)0.1% BSA−PBS溶液を200μl加えて、30分間静置した。
(5)well内の溶液を吸い取り、洗浄液(0.02% Tween 20−PBS溶液)で3回洗浄した。
(6)試料溶液を100μlずつ加えて、1時間静置した。
(7)well内の溶液を吸い取り、洗浄液(0.02% Tween 20−PBS溶液)で3回洗浄した。
(8)二次抗体(goat anti rat albumin IgG)を100μlずつ加えて、1時間静置した。
(9)well内の溶液を吸い取り、洗浄液(0.02% Tween 20−PBS溶液)で3回洗浄した。
(10)発色試薬(SAT Blue)を50μlずつ加えて、well内の溶液が青色になるまで反応させた。
(11)溶液が青くなった後、反応停止液(1M HSO溶液)を50μlずつ加えた。
(12)マイクロプレートリーダーで450nmの吸光度を測定することにより、アルブミン産生量を測定した。
【0117】
培養結果を図6に示す。ラクトースグリコポリマー基板は、ゼラチン修飾基板よりも、アルブミン産生量が高かった。このことから、ラクトースグリコポリマー基板では、初代肝細胞の分化機能が活性化され、且つ、維持されることが明らかとなった。これは、ラクトースグリコポリマー基板によれば、細胞がアシアロ糖タンパク受容体を介し、且つ、球状で接着されるためであると思われる。
【0118】
4.ラット初代肝実質細胞の分化機能に対する効果(II)
試験には、上記2.と同様にラット肝実質細胞を用いた。ラット(7週齢、オス)からコラゲナーゼ溶液により肝細胞を分離し、遠心分離(50×g,2min)を3回行い、肝細胞を精製した。この精製した肝細胞を無血清のWilliams’E培地を用いて1×10cells/mlに調整した細胞懸濁液を、12wellプレートに1×10cells/wellになるように細胞を播種し(2ml/well)、培養した。なお、基板には、ラクトースグリコポリマー(Poly−[Lac(OAc)−A−co−HEA]−b−Alkyne−A)基板とゼラチン修飾基板とを用いた。ラクトースグリコポリマー基板表面への糖鎖ポリマーブラシの形成は、上記2.(1)〜(3)と同様の方法にて行った。培養6時間後に、Williams’E培地(EGF無し,10% FBS,2%ペニシリン−ストレプトマイシン,10−6M Insulin,10−7 Dexamethasone,0.3mg/ml L−glutamine)と、Williams’E培地(EGF有り,10% FBS,2%ペニシリン−ストレプトマイシン,10−6M Insulin,10−7 Dexamethasone,0.3mg/ml L−glutamine,EGF 50ng/ml)と、に培地交換を行った。
【0119】
そして、1,2,3,4日目に細胞の形態を観察するとともに、MTTアッセイ及びアルブミン産生量の測定を行った。なお、MTTアッセイは常法に従った。アルブミン産生量の測定は、上記と同様の方法により行った。
【0120】
培養結果を図7に示す。ラクトースグリコポリマー基板は、ゼラチン修飾基板よりも、アルブミン産生量が高かった。このことから、ラクトースグリコポリマー基板では、初代肝細胞の分化機能が活性化され、且つ、維持されることが明らかとなった。これは、ラクトースグリコポリマー基板によれば、細胞がアシアロ糖タンパク受容体を介し、且つ、球状で接着されるためであると思われる。
【0121】
5.ラット初代肝実質細胞の接着による評価(II)
試験には、2.と同様にラット肝実質細胞を用いた。ラット(7週齢、オス)からコラゲナーゼ溶液により肝細胞を分離し、遠心分離(50×g,2min)を3回行い、肝細胞を精製した。この精製した肝細胞を無血清のWilliams’E培地(2%ペニシリン−ストレプトマイシン)を用いて5×10cells/mlに調整した細胞懸濁液に、アシアロフェツィン(ASF)を濃度10μg/mlとなるように添加し、4℃で30分間プレインキュベートした。また、アシアロフェツィン濃度0μg/mlの細胞懸濁液も同様に、4℃で30分間プレインキュベートした。その後、12wellプレートに1×10cells/wellになるように細胞を播種し、37℃で6時間培養した。
【0122】
培養結果を図8,9に示す。図8に示すように、ゼラチン修飾基板(ASF 10μg/ml)では、接着阻害が認められなかった。これに対して、ラクトースグリコポリマー基板(ASF 10μg/ml)において、接着阻害が認められた(図9)。このことから、ラクトースグリコポリマー基板は、糖鎖特異的に初代肝細胞を接着できる表面であると思われる。
【0123】
以上の結果から、ラクトースグリコポリマーはブラシ構造を有しているので、ラクトースに特異的な肝細胞接着を容易に達成することができたものと考えられる。そして、添加因子やEGFを添加することによって、更にアルブミン産生能の有意な上昇が認められたものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性基(a)を有する担体の表面にリガンドを固定化するための共重合体であって、
前記反応性基(a)と化学的に結合可能な反応性基(b)を有するモノマー(A)に由来する構成単位を含むセグメントを前記共重合体の鎖の一端に有するとともに、前記リガンドを有するモノマー(B)に由来する構成単位を含むセグメントを前記共重合体の鎖の他端に有するか、又は、
前記モノマー(B)に由来する構成単位を含むセグメントを前記共重合体の鎖の両端に有するとともに、前記両端のセグメント間に前記モノマー(A)に由来する構成単位を含むセグメントを有する共重合体。
【請求項2】
前記モノマー(A)に由来する構成単位からなるセグメントを前記共重合体の鎖の一端に有するとともに、前記モノマー(B)に由来する構成単位からなるセグメントを前記共重合体の鎖の他端に有する、請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
リビングラジカル重合により形成されている請求項1又は2に記載の共重合体。
【請求項4】
前記反応性基(a)及び前記反応性基(b)のいずれか一方がアジド基であり、他方がアルキニル基である請求項1から3いずれかに記載の共重合体。
【請求項5】
前記モノマー(A)が一般式(I)で表される請求項1から4いずれかに記載の共重合体。
【化1】

(式中、R1aは、水素原子又はメチル基を表し、R2aは、−O−又は−NH−を表し、Xは、スペーサーを表し、Yは、反応性基(b)を表す。)
【請求項6】
前記モノマー(B)が一般式(II)で表される請求項1から5いずれかに記載の共重合体。
【化2】

(式中、R1bは、水素原子又はメチル基を表し、R2bは、−O−又は−NH−を表し、Xは、スペーサーを表し、Zは、リガンドを表す。)
【請求項7】
前記リガンドが、糖、糖鎖、及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1から6いずれかに記載の共重合体。
【請求項8】
請求項1から7いずれかに記載の共重合体によりリガンドが固定化されている担体。
【請求項9】
請求項1から7いずれかに記載の共重合体が有する反応性基(b)と、担体の表面にある反応性基(a)とを反応させる工程を含む、リガンドの固定化方法。
【請求項10】
請求項1から7いずれかに記載の共重合体が固定化された培養基材を用いた細胞培養方法。
【請求項11】
無血清培地にて細胞を培養する請求項10に記載の細胞培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−84739(P2011−84739A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210621(P2010−210621)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】