説明

リグニン、またはリグニンを含有する植物繊維の処理方法

【課題】マンガンペルオキシダーゼを繰り返し使用して、3価マンガンを安定した収率で効率よく得、得られた3価マンガンを用いて、リグニン、またはリグニンを含有する植物繊維を処理する方法、及び該処理方法により得られる植物繊維を提供すること。
【解決手段】3価マンガンの存在下にリグニン、またはリグニンを含有する植物繊維を処理する方法において、3価マンガンの製造方法が、
水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、マンガンペルオキシダーゼと2価マンガンと酸化剤とを反応させて2価マンガンを酸化することにより3価マンガンを生成させる第一工程と、
膜を用いた分画により、3価マンガンを含有する反応液からマンガンペルオキシダーゼを分離する第二工程と、
を有することを特徴とする、リグニン、またはリグニンを含有する植物繊維の処理方法を提供すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3価マンガンの存在下に、リグニン、またはリグニンを含有する植物繊維の処理方法において、3価マンガンの製造方法が、
水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、マンガンペルオキシダーゼと2価マンガンと酸化剤とを反応させて2価マンガンを酸化することにより3価マンガンを生成させる第一工程と、
膜を用いた分画により、3価マンガンを含有する反応液からマンガンペルオキシダーゼを分離する第二工程と、
を有することを特徴とする、リグニン、またはリグニンを含有する植物繊維の処理方法、及び該処理方法により得られる植物繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、植物繊維中に含まれるリグニンを酸化分解した後、該植物繊維を資源として再利用する試みが行われてきている。
このような方法としては、例えば、(特許文献1)には、含水木材パルプに、リグニン分解酵素を産生する担子菌を接種して培養することにより酵素原料液を得る第1培養工程と、該酵素原料液を搾汁してマンガンペルオキシダーゼを分離する搾汁分離工程と、搾汁分離後のパルプを引き続き培養して白色化パルプを得る第2培養工程とを有することを特徴とする白色化パルプとマンガンペルオキシダーゼを製造する方法が記載されている。
(特許文献2)には、植物繊維束の接着成分に含まれるリグニンを、(1)酵素により活性化された特定のメディエータを用いて選択的にリグニン分解反応を行う酵素的分解処理、(2)前記リグニン以外の接着成分を分解させない程度の温和な条件によるアルカリ抽出処理を交互に行って分解することにより、植物繊維束の靱性及び柔軟性を損なわずにその漂白を行うことを特徴とする植物繊維束の漂白方法が記載されている。さらに、前記酵素的分解処理における酵素がマンガンペルオキシダーゼであり、メディエータがマンガンイオンである植物繊維束の漂白方法が記載されている。
一方、3価マンガンの製造方法として、(特許文献3)に、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、マンガンペルオキシダーゼと2価マンガンと酸化剤とを反応させて3価マンガンを生成させる第一工程と、膜を用いた分画により、3価マンガンを含有する反応液からマンガンペルオキシダーゼを分離する第二工程とを有することを特徴とする製造方法の記載がある。
【0003】
【特許文献1】特開平8−66185号公報
【特許文献2】特開2004−27423号公報
【特許文献3】特開2007−166984号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これまでの方法では、酸化反応にマンガンペルオキシダーゼを使用して白色化パルプを製造しているため、培養条件を厳格に管理する必要があると共に、反応が長時間であるという欠点を有していたり、担体に固定化されたマンガンペルオキシダーゼを用いるため、同量の固定化していないマンガンペルオキシダーゼを用いる場合と比較すると、固定化されたマンガンペルオキシダーゼの自由度が低下する分、活性の低下が避けられず、3価マンガンを効率よく得られないという問題点があった。
また、特許文献3に記載の方法は、マンガンペルオキシダーゼを含む液を用いて、効率的に2価マンガンを3価マンガンに変換する方法について記載はあるものの、リグニン、またはリグニンを含有する植物繊維を処理する方法については、具体的な記載もそれを示唆する記載もされていないのが現状であった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、マンガンペルオキシダーゼを固定化せずに液体中で用いることで、本来有している酵素活性を低下させることなく、かつ、マンガンペルオキシダーゼを繰り返し使用して、3価マンガンを安定した収率で効率よく得、得られた3価マンガンを用いて、リグニン、またはリグニンを含有する植物繊維を処理する方法、及び該処理方法により得られる植物繊維を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題の解決のため、リグニン、またはリグニンを含有する植物繊維を処理する方法について鋭意検討を行い、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明では、植物繊維中に含まれるリグニンを分解するには、3価マンガンが極めて有用であり、3価マンガンの生成は、水溶液中に溶解しているマンガンペルオキシダーゼの作用で得られ、膜を用いた分画によりマンガンペルオキシダーゼから分離して酸化剤として用いる一方、分離されたマンガンペルオキシダーゼを、再度3価マンガンの製造に用いることで、低分子量化されたリグニンの酸化分解物を含有する植物繊維の収率を損ねることなく、3価マンガンの製造効率とマンガンペルオキシダーゼの利用効率を向上させることが可能であることを見出した。
さらに、反応液中の3価マンガンの濃度がある一定の範囲内において極めて優位にリグニンの低分子量化を行うことが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、3価マンガンの存在下にリグニン、またはリグニンを含有する植物繊維を処理する方法において、3価マンガンの製造方法が、
水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、マンガンペルオキシダーゼと2価マンガンと酸化剤とを反応させて2価マンガンを酸化することにより3価マンガンを生成させる第一工程と、
膜を用いた分画により、3価マンガンを含有する反応液からマンガンペルオキシダーゼを分離する第二工程と、
を有することを特徴とする、リグニン、またはリグニンを含有する植物繊維の処理方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の処理方法によれば、3価マンガンを効率的に生成することで、低コストで、再利用が可能な植物繊維を得るための処理方法、及びその処理方法により得られる植物繊維を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について、詳しく説明する。
なお、バッチ式反応器を用いた場合の本発明の3価マンガンの製造方法及び該製造方法で製造された3価マンガンを用いるリグニン、またはリグニンを含有する植物繊維の処理方法の一例を模式図として図1に示す。図1中に示すMnPとは、マンガンペルオキシダーゼのことである。
(リグニン、及びリグニンを含有する植物繊維)
リグニンは、高等植物の木化に関与する高分子のフェノール性化合物であって、木材中の20%〜30%を占めており、高等植物では生育に伴い、道管・仮道管・繊維などの組織で生産される。通常、生産されたリグニンはセルロースと結合した状態で存在し、完全に木化が進行すると木部の組織では強固なリグニン構造だけを残して殆どの細胞は死細胞化した状態となる。
【0011】
本発明のリグニンを含有する植物繊維は、針葉樹、広葉樹等木本類のチップ、廃材、おが屑、草本類の農産物や非食用植物及びその廃棄物であり、具体的には、例えば、針葉樹として、スギ、トドマツ、エゾマツ、クロマツ、アカマツ、ヒノキ、ツガ、イチイ、モミ、ヒバ等が挙げられ、広葉樹として、ポプラ、サクラ、カエデ、ケヤキ、チーク、ナラ、クヌギ、クルミ等が挙げられる。また、草本類の農産物として、イネ、ムギ類、トウモロコシ、サトウキビ、パイナップル、オイルパーム等が挙げられ、非食用植物としては、ケナフ、綿、アルファルファ、タケ、ササ等が挙げられる。また、これらの植物繊維の廃棄物も本発明の植物繊維に含まれる。
本発明においては、これらの植物繊維を、単独で或いは任意の植物繊維の組合せで用いることができる。
【0012】
(3価マンガンの製造方法)
本発明の3価マンガンの製造方法は、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、マンガンペルオキシダーゼと2価マンガンと酸化剤とを反応させて2価マンガンを酸化することにより3価マンガンを生成させる第一工程と、
膜を用いた分画により、3価マンガンを含有する反応液からマンガンペルオキシダーゼを分離する第二工程と、
を有することを特徴とする。
【0013】
第一工程で得られた無機イオンである3価マンガンと、タンパク質であるマンガンペルオキシダーゼは分子量が大きく異なるため、第二工程において膜を用いた分画により、3価マンガンを含有する反応液からマンガンペルオキシダーゼを分離することができる。
【0014】
◎第一工程
本発明の第一工程においては、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、マンガンペルオキシダーゼと2価マンガンと酸化剤とを反応させて2価マンガンを酸化することにより3価マンガンを生成させる。
【0015】
第一工程は、具体的には、例えば、マンガンペルオキシダーゼとマンガンの酸化数が+2であるマンガン化合物とを含む水又は水溶液中に、酸化剤を溶解あるいは分散させることによって、2価マンガンの酸化反応を行い、3価マンガンを得る工程である。
【0016】
この時、マンガンペルオキシダーゼは、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、溶解させることが好ましい。なお、第一工程で用いる水又は水溶液、あるいは水又は水溶液と有機溶媒のことを、以降、反応溶媒と略記する。
【0017】
本発明の第一工程で用いるマンガンペルオキシダーゼとしては、例えば、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、ファネロカエテ・ソルディダ(Phanerochaete sordida)、カイガラタケ(Lenzites betulinus)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、シイタケ(Lentinus edodes)等の担子菌類が生産するリグニン分解酵素を挙げることができる。これらのマンガンペルオキシダーゼは、単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0018】
マンガンペルオキシダーゼ、2価マンガン及び酸化剤を含む反応溶媒中にて、2価マンガンを3価マンガンへと酸化する際は、マンガンペルオキシダーゼの活性を最大限に引き出すために、反応温度を10〜70℃に保つことが好ましく、20〜40℃に保つことがより好ましい。
【0019】
また、反応時間は、5分以内とすることが好ましい。ここで言う反応時間とは、反応開始から、第二工程においてマンガンペルオキシダーゼが分画されるまでの時間を指す。該反応時間が5分を超えると、得られる3価マンガンの濃度が減少してしまうことがある。
【0020】
本発明の第一工程で用いる酸化剤としては、例えば、過酸化水素、メチル過酸化物、エチル過酸化物等の過酸化物等が挙げられるが、反応性、経済性の観点から過酸化水素が好ましい。
【0021】
酸化剤は、マンガンペルオキシダーゼ及び2価マンガンを含む反応溶媒と混合し、反応に用いる。反応方法は、従来公知の方法を適用することができる。例えば、バッチ式の様に、一つの反応容器中にマンガンペルオキシダーゼ、2価マンガン及び酸化剤を加えた反応溶媒を調製し、2価マンガンから3価マンガンへの酸化反応を行うことができる。また、例えば、連続式の様に、マンガンペルオキシダーゼ、2価マンガン及び酸化剤の内、少なくとも一つを、残りの成分が混合した状態の溶媒に連続的に供給しても良く、さらに、前記三つの成分を別々に含む溶媒を、それぞれ連続的に一つの容器へと供給するようにしても良い。
【0022】
また、酸化剤の配合量を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜調整することで、3価マンガンの製造を効率的に行うことができると同時に、後述の第二工程で分離するマンガンペルオキシダーゼを、複数回繰返して再利用することができる。例えば、酸化剤として過酸化水素を用いる場合、過酸化水素の終濃度は、好ましくは0.1〜10mmol/L、より好ましくは0.3〜5mmol/L、特に好ましくは0.5〜2mmol/Lの範囲である。その際、反応溶媒中のマンガンペルオキシダーゼの終濃度は、好ましくは1〜200mg/L、より好ましくは10〜100mg/L、特に好ましくは15〜60mg/Lの範囲である。また、マンガンペルオキシダーゼの繰り返し使用耐性を高める点から、反応溶媒中のマンガンペルオキシダーゼの終濃度を高くするにつれ、過酸化水素も濃度を高くして用いることが好ましい。ただし、ここで言う終濃度とは、マンガンペルオキシダーゼ、2価マンガン及び酸化剤を反応溶媒中に混合した後の濃度を指す。
【0023】
第一工程で用いる反応溶媒とは、水又は水溶液、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中のことであるが、水溶液としては、例えば、緩衝液を挙げることができる。
また、有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、トリクロロメタン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ブタノール、エタノール、メタノール、ジオキサン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ギ酸ジメチルホルムアミドメチル、アセトン、n−プロパノール、イソプロパノール及びt−ブチルアルコール等が挙げられる。
反応溶媒が水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒である場合には、混合溶媒中の有機溶媒の割合は10体積%以下とすることが好ましく、5体積%以下とすることがより好ましい。有機溶媒の割合が高くなり過ぎると、マンガンペルオキシダーゼが失活しやすくなる。
【0024】
緩衝液としては、例えば、マロン酸緩衝液、シュウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、酢酸緩衝液、コハク酸緩衝液、クエン酸緩衝液及びリン酸緩衝液等が挙げられる。
【0025】
本発明においては、2価マンガンの酸化反応に伴って生成する3価マンガンを錯体として安定化させるために、第一工程及び第二工程において反応溶媒中に有機酸を含有させることが好ましい。なかでも、効率よく錯体を形成し、3価マンガンを安定化する効果が大きいことから、用いる有機酸は、マロン酸、シュウ酸及び酒石酸のいずれかであることが好ましい。また、有機酸は単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0026】
また、用いる有機酸の量は、3価マンガンのモル数の二倍以上であることが好ましい。
【0027】
第一工程で用いる2価マンガンとしては、マンガンの酸化数が+2であるマンガン化合物を用いればよく、特に限定されない。このようなものとして、例えば、硫酸マンガンを挙げることができる。
【0028】
また、2価マンガンの配合量は、得られる3価マンガンの用途に応じて適宜調整すれば良い。例えば、得られた3価マンガンを後述の本発明の酸化反応工程で用いる場合には、2価マンガンの配合量は、酸化反応の原料の種類に応じて適宜調整すれば良い。ただし、第一工程において、反応溶媒として前記緩衝液を用いた場合等、反応溶媒中に有機酸を含有する場合には、有機酸のモル数の1/2よりも少ないことが好ましい。このような量とすることで、2価マンガンの酸化反応に伴って生成する3価マンガンが、これら有機酸と効率的に錯体を形成する。
【0029】
◎第二工程
本発明の第二工程においては、膜を用いた分画により、3価マンガンを含有する反応液からマンガンペルオキシダーゼを分離する。
【0030】
3価マンガンとマンガンペルオキシダーゼの分子量が大きく異なるため、膜を用いた分画によってこれらを分離することができる。
【0031】
第二工程で用いる膜は、マンガンペルオキシダーゼを分画することができ、反応液に対して耐性を有するものであれば特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。
第一工程終了後の反応液中には、マンガンペルオキシダーゼ、3価マンガン、未反応の2価マンガン、未反応の酸化剤および反応溶媒を構成する物質が含まれている。これらの中で、マンガンペルオキシダーゼの分子量は3〜5万程度であり、唯一分子量が1万を超える物質である。そのため、用いる膜は分画分子量が5千〜2万であることが好ましく、1万〜2万であることがより好ましい。このような膜を用いることによって、3価マンガンを含有する反応液中からマンガンペルオキシダーゼを精度良く分画することができる。膜の分画分子量が小さくなるに従い、分画精度は向上するものの、膜を通過する反応液の流速が小さくなり、単位時間当たりに得られる3価マンガンの量が減少する。一方、膜の分画分子量が大きくなるに従い、分画精度は落ちるものの、膜を通過する反応液の流速が大きくなり、単位時間当たりに得られる3価マンガンの量が増大する。どのような分画分子量の膜を用いるかは、反応液の組成に応じて適宜選定すれば良い。
【0032】
また、第二工程で用いる膜の形状は、マンガンペルオキシダーゼを分画することができ、反応液に対して耐性を有するものであれば特に限定されず、例えば、平膜形状や中空糸形状のものを用いることができる。また、分画する際、膜を通過させるための圧力を前記反応液に加える方法としては、遠心機を用いる方法とポンプを用いる方法があるが、第二工程を連続して行うことが可能になることから、ポンプを用いる方法が好ましく、工業的にこのような方法に適用することができる膜を用いることが好ましい。このような条件を満たす膜として本発明では、中空糸膜又は限外濾過膜を好適に用いることができる。
【0033】
◎第三工程
本発明の3価マンガンの製造方法は、第二工程で分離されたマンガンペルオキシダーゼを第一工程へ供給する第三工程を有することが好ましい。このように、第二工程で分離されたマンガンペルオキシダーゼを、第一工程で再利用することで、高価なマンガンペルオキシダーゼの利用効率を向上させることができ、3価マンガンを効率よく低コストで製造することができる。
【0034】
また、マンガンペルオキシダーゼを第一工程で再利用する際には、第三工程において、第一工程へのマンガンペルオキシダーゼの供給量を測定することが好ましい。このように、再利用するマンガンペルオキシダーゼの供給量を測定することで、第一工程で用いるマンガンペルオキシダーゼの量を調整することができ、3価マンガンを一層効率よく製造することができる。
【0035】
第一工程へのマンガンペルオキシダーゼの供給量を測定する方法は特に限定されないが、例えば、第一工程へ供給するマンガンペルオキシダーゼ含有液の供給量及びマンガンペルオキシダーゼの濃度を測定し、これらの値から第一工程へのマンガンペルオキシダーゼの供給量を算出する方法が挙げられる。
【0036】
マンガンペルオキシダーゼ含有液の供給量を測定する方法としては、従来公知の方法を適用すれば良く、例えば、供給する液の全量を容器に一旦貯留し、この時の貯留量を計測する方法や、第一工程で用いる反応器に配管を通じて液を供給する場合には、配管等に流速計を設けて、反応器へ供給中のマンガンペルオキシダーゼ含有液の流速と供給時間とから供給量を算出する方法が挙げられる。
【0037】
マンガンペルオキシダーゼ含有液のマンガンペルオキシダーゼの濃度を測定する方法としては、従来公知の方法を適用すれば良く、例えば、液中のマンガンペルオキシダーゼ活性を測定して検量線から濃度を算出する方法や、ブラッドフォード法のようにマンガンペルオキシダーゼ中のアミノ酸残基に結合した色素量を測定した後、検量線から濃度を算出する方法が挙げられる。
【0038】
第二工程で分離されたマンガンペルオキシダーゼを第一工程で再利用する方法は特に限定されず、第一工程で用いるマンガンペルオキシダーゼの全量を第二工程で分離されたマンガンペルオキシダーゼで賄っても良く、第二工程で分離されたマンガンペルオキシダーゼに別途新たに調製したマンガンペルオキシダーゼを混合して第一工程で用いても良い。
【0039】
第二工程で分離されたマンガンペルオキシダーゼを第一工程で再利用する際に、第一工程で用いるマンガンペルオキシダーゼの量を調整する方法は特に限定されない。
【0040】
例えば、第一工程で用いるマンガンペルオキシダーゼの全量を第二工程で分離されたマンガンペルオキシダーゼで賄う場合には、分離されたマンガンペルオキシダーゼ含有液の濃度を変えずに液量を調整する方法、液量を変えずに濃度を調整する方法及び濃度と液量の両方を調整する方法が挙げられる。
【0041】
また、例えば、第一工程で用いるマンガンペルオキシダーゼとして、第二工程で分離されたマンガンペルオキシダーゼに別途新たに調製したマンガンペルオキシダーゼを混合して用いる場合には、別途新たに調製したマンガンペルオキシダーゼの量のみを調整する方法、別途新たに調製したマンガンペルオキシダーゼの量と分離されたマンガンペルオキシダーゼ含有液の液量または濃度を調整する方法を挙げることができる。
【0042】
◎反応処理工程
続いて、本発明のリグニン、またはリグニンを含有する植物繊維の反応処理工程について説明する。
【0043】
本工程は、前記3価マンガンの製造方法により製造された3価マンガンを用いて酸化反応を行うことを特徴とする。
【0044】
本工程においては、3価マンガンによりリグニン骨格のフェノール性水酸基から水素が引き抜かれてラジカル化され、ラジカル化された原料が、未反応の原料、ラジカル化された原料、水等と反応し、リグニン酸化分解物、またはリグニン酸化分解物を含有する植物繊維となる。
この時、ラジカル化に供された3価マンガンは2価マンガンへと還元される。本工程においては、投入されたすべての3価マンガンが還元されることもあれば、一部の3価マンガンは還元されずにそのまま残る可能性もある。そのため、本工程の反応液中には2価と3価のマンガンが共存していることがある。
【0045】
本工程において、3価マンガンを原料と反応させる方法としては、従来公知の方法を適用すれば良い。例えば、反応器として連続式反応器を用いる場合は、3価マンガンを含む反応溶媒が供給される位置において原料を供給すればよい。
【0046】
また、反応器としてバッチ式反応器を用いる場合は、3価マンガンを含む反応溶媒を反応器中に一定量蓄えた後、該反応器に原料を供給すればよい。
【0047】
反応器が連続式反応器である場合、3価マンガンを含む反応溶媒および原料を供給する方法としては、従来公知の方法を適用することができる。例えば、ペリスタルティックポンプ、ダイヤフラムポンプ及びシリンジポンプ等を用いる方法が挙げられる。
【0048】
反応器がバッチ式反応器である場合、原料を供給する方法としては、反応器へ原料を一度に投入しても、分割して投入しても構わない。
【0049】
本工程で、3価マンガンを用いて原料を酸化する際の反応温度は、60℃以下であることが好ましく、25〜50℃であることがより好ましい。温度が高すぎる場合には、3価マンガンが不安定となり、リグニンを酸化させる前に失活することがあり、温度が低すぎる場合には、3価マンガンと原料との反応が進行しにくくなることがある。
【0050】
また反応時間は、3価マンガンの濃度と量、及び原料の種類と濃度等に依存することが大きく、一般的に必要となる反応時間を限定することは困難であると考えられるが、例えば、マンガンペルオキシダーゼの活性測定法として一般的に用いられている基質である2,6−ジメトキシフェノールの酸化反応では、3価マンガンの濃度が0.5mM、液量が1mLであり、原料が0.1mMの2,6−ジメトキシフェノールである場合、原料を完全に反応させるために必要な時間は1〜10分程度である。
【0051】
さらに、本発明におけるリグニン、またはリグニンを含有する植物繊維を処理する方法では、効率的にリグニンの低分子量化した酸化分解物を得るために、反応溶媒中における3価マンガンの濃度が、1〜20mmol/Lであることに特徴を有する。1mmol/L以下であると酸化分解反応が遅く好ましくなく、また20mmol/Lであると、一旦低分子量化したリグニンの酸化分解物の重合反応が起こるため好ましくない。
【0052】
本工程においては、本発明の製造方法で製造された3価マンガンの反応器への供給量を測定し、該供給量に応じて、酸化反応の原料の反応器への供給量を調整することが好ましい。このように、3価マンガン供給量に応じて原料供給量を調整することで、酸化反応を効率的に行うことができ、リグニン酸化分解物、またはリグニン酸化分解物を含有する植物繊維を低コストで製造することができる。
【0053】
3価マンガンの供給量を測定する方法は特に限定されないが、例えば、本工程へ供給する3価マンガン含有液の供給量及び3価マンガンの濃度を測定し、これらの値から酸化反応工程への3価マンガンの供給量を算出する方法が挙げられる。
【0054】
3価マンガン含有液の供給量を測定する方法としては、従来公知の方法を適用すれば良く、例えば、供給する液の全量を容器に一旦貯留し、この時の貯留量を計測する方法や、本工程で用いる反応器に配管を通じて3価マンガン含有液を供給する場合には、配管等に流速計を設けて、反応器へ供給中の3価マンガン含有液の流速と供給時間とから、3価マンガンの供給量を算出する方法が挙げられる。
【0055】
3価マンガン含有液の3価マンガンの濃度を測定する方法としては、従来公知の方法を適用すれば良く、例えば、3価マンガン含有液を分取して測定試料として用いる方法や、本工程で用いる反応器に配管を通じて3価マンガン含有液を供給する場合には、配管等に濃度測定器を設けて、反応器に供給される3価マンガン含有液そのものを測定試料として用いる方法が挙げられる。いずれの場合においても、3価マンガンの濃度の算出方法は特に限定されず、例えば、分光光度計を用いて270nmにおける吸光度を測定して、該測定値より算出することができる。また、濃度の測定に際しては、前記測定試料を適宜希釈しても良い。
【0056】
3価マンガン供給量に応じて酸化反応の原料供給量を調整する方法は、例えば、原料を液体に溶解又は分散させて供給する場合には、該原料含有液の濃度ではなく量を調整する方法、原料含有液の量ではなく濃度を調整する方法及び原料含有液の濃度と量をいずれも調整する方法を挙げることができる。一方、原料を固体で供給する場合には、固体の重量を調整すればよい。
【0057】
◎第四工程
本発明のリグニン、またはリグニンを含有する植物繊維を処理する方法では、前記工程で得られたリグニン酸化分解物、またはリグニン酸化分解物を含有する植物繊維から2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンを分離する第四工程を有することが好ましい。このようにすることで、反応液から不純物を除けるだけでなく、後で述べるように、分離した2価マンガンを第一工程に供給して再利用することで、3価マンガンの製造をより効率的に低コストで行うことができ、さらに、3価マンガンが分離された場合にはこれを回収することで、リグニン酸化分解物、またはリグニン酸化分解物を含有する植物繊維をより低コストで製造することができる。
【0058】
第四工程で2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンを分離する方法は、従来公知の方法を適用することができ、特に限定されない。例えば、濾過または遠心等の従来公知の方法により、リグニン酸化分解物、またはリグニン酸化分解物を含有する植物繊維と、2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンとを分離することができる。
【0059】
◎第五工程
さらに、本発明のリグニン、またはリグニンを含有する植物繊維を処理する方法は、前記第四工程で分離された2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンを前記第一工程へ供給する第五工程を有することが好ましい。このようにすることで、第四工程で分離された2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンを第一工程で再利用することができ、3価マンガンを効率よく低コストで製造することが可能となる。
【0060】
2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンを第一工程で再利用する際には、第五工程において、第一工程への2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンの供給量を測定することが好ましい。このように、再利用する2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンの供給量を測定することで、第一工程で用いる2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンの量を調整することができ、3価マンガンを一層効率よく低コストで製造することができ、リグニン酸化分解物、またはリグニン酸化分解物を含有する植物繊維の製造コストをより低減することができる。
【0061】
2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンの供給量を測定する方法は特に限定されない。例えば、溶液中の2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンをマンガンペルオキシダーゼにて3価マンガンに変換した後、分光光度計を用いて検出波長270nmで測定することが可能である。
【0062】
本発明により得られるリグニン酸化分解物を含有する植物繊維は、パルプ、糖類、糖アルコール類等の原料、アミノ酸、有機酸、バイオエタノール等発酵生産物の原料として利用することができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
なお、以下において、単位「M」は「mol/L」を、単位「mM」は「mmol/L」を示す。
【0064】
(実施例1)
本実施例においては、緩衝液として、マロン酸二ナトリウム(和光純薬工業株式会社製「マロン酸二ナトリウム」)を用いたマロン酸緩衝液(pH4.5)を使用し、酸化数+2のマンガンを有するマンガン化合物として硫酸マンガン(和光純薬工業株式会社製「硫酸マンガン」)を用いた。
【0065】
原料として、アルカリリグニン1.0g(東京化成工業株式会社製)を用いた。
【0066】
マンガンペルオキシダーゼとしては、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)の培養菌床から得られたマンガンペルオキシダーゼを用いた。このマンガンペルオキシダーゼの調製方法は以下の通りとした。
すなわち、白色腐朽菌ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)ATCC24725を、表1に示す組成のカーク液体培地で37℃にて培養した。なお、表1中のカークトレースエレメンツの組成を表2に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
培養は2L三角フラスコ中で前記培地1Lにて行い、37℃で3日間培養後、100%酸素をパージし、その後毎日一回酸素パージを行った。所定時間培養した後、培養液を吸引濾過して培養濾液を得て、得られた培養濾液を粗酵素溶液とした。pH7.2のリン酸緩衝液にて膨潤させた後にカラムに充填したトヨパールDEAE650M(「TOYOPEARL DEAE650M」、商品名;東ソー株式会社製)に、前記粗酵素溶液を、pHを7.2に調整後チャージした。カラム中に充填されたトヨパールDEAE650Mに吸着されたマンガンペルオキシダーゼを、pH6.0のリン酸緩衝液にて流出させて回収し、マンガンペルオキシダーゼ溶液とした。
◎第一工程
(3価マンガンの作製)
400mg/Lマンガンペルオキシダーゼを150mL、50mM硫酸マンガンを8mL、500mMマロン酸緩衝液(pH4.5)を20mL及び水2mLを混合して2価マンガン溶液を調製した。これに、酸化剤である50mM過酸化水素を20mL加えて、25℃にて2分間、2価マンガンの酸化反応を行い、3価マンガン溶液を調製した。
【0070】
◎第二工程
(マンガンペルオキシダーゼの分離)
調製した前記3価マンガン溶液を、ペリスタルティックポンプを用いて流速15mL/分にて、中空糸膜へと送液した。中空糸膜は、分画分子量が13000である「マイクローザ(ACP−0013(UF))」(商品名;旭化成株式会社製)を用いた。この中空糸膜の高分子側出口に背圧を加えることによって、高分子側の出口からはマンガンペルオキシダーゼを含む溶液が、低分子側の出口からはマンガンペルオキシダーゼ以外の分子を含む溶液が、主に排出されることとなる。
【0071】
本実施例では、高分子側の出口から5mL/分の流速でマンガンペルオキシダーゼを含む溶液を、低分子側の出口から10mL/分の流速でマンガンペルオキシダーゼ以外の分子を含む溶液を得た。
【0072】
◎第三工程
(分離したマンガンペルオキシダーゼを用いた2価マンガンの酸化)
前記第二工程において分離されたマンガンペルオキシダーゼを含む溶液を、前記第一工程で用いるマンガンペルオキシダーゼとして再利用した。再利用に際し、分離したマンガンペルオキシダーゼ溶液の濃度を、タンパク質濃度の測定法であるブラッドフォード法をベースとしたプロテインアッセイA(商品名;バイオラッド社製)を用いて測定し、2価マンガンの酸化反応を行う前の濃度とほぼ同等であることを確認した。
【0073】
濃度を確認した後、該分離したマンガンペルオキシダーゼ溶液を、5mL/分の流速で第一工程を行った容器へと注入した。またあわせて、50mMマロン酸、5mM過酸化水素水、2mM硫酸マンガンを含む緩衝液(pH4.5)からなる2価マンガン溶液を、10mL/分の流速で第一工程を行った容器へと注入した。
【0074】
このように、第一工程の容器中にて、再利用したマンガンペルオキシダーゼを用いて2価マンガンの酸化反応を連続的に行うことが可能であった。
【0075】
◎酸化反応工程
(3価マンガンの反応液への供給)
第一〜第三工程を経て得られた3価マンガン溶液のうち、1.99mLをピペットにて分取し、酸化反応工程で用いる反応器であるガラス製の蓋付試験管に供給した。
【0076】
(3価マンガン溶液の濃度の検出)
反応器へ供給する3価マンガン溶液中の3価マンガンの濃度を、270nmにおける吸光度を測定して検出した。吸光度測定は、UV−1650PC(商品名;株式会社島津製作所製)を用いて行った。測定値が分光光度計の測定限界を超える場合には、緩衝液にて3価マンガンを含む水性溶媒を適宜希釈してから測定を行った。その結果、3価マンガンの濃度は約1mMであることを確認した。
【0077】
また、反応進行中、3価マンガンの生成を制御することにより、約1.0mMに、また、反応温度は、50℃に維持した。
【0078】
◎第四工程
(2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンの分離)
前記反応後の溶液を、マイクロ冷却遠心機(モデル3740;クボタ製)を用い、15000rpmにて20分間遠心してリグニン酸化分解物を含有する植物繊維を沈殿として回収し、2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンを含む溶液を、リグニン酸化分解物を含有する植物繊維から分離した。
【0079】
◎第五工程
(分離された2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンの第一工程への供給)
前記第四工程において分離された2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンを含む溶液に、終濃度が5mMとなるように過酸化水素を加えたものを、50mMマロン酸、5mM過酸化水素水、2mM硫酸マンガンを含む緩衝液(pH4.5)からなる2価マンガン溶液中に加えた。その後、該溶液を、10mL/分の流速で第一工程を行った容器へ注入し、マンガンペルオキシダーゼと混合したところ、3価マンガンの発生が確認された。
【0080】
(リグニン酸化分解物の分析)
反応開始8時間後に、反応溶媒を100μLサンプリングし、900μLのTHF(和光純薬工業社製)で希釈した。これを0.45μmのPTFEフィルター(DISMIC−13HP;Advantec社製)でろ過したのち、ゲルろ過クロマトグラフィーに供し、得られた試料を以下記の条件で分析を行った。
【0081】
試料注入量:20μL
カラム :TSKgel−G1000HTX、
TSKgel−G2000HTX、
TSKgel−G3000HTX、
TSKgel−G4000HTXを連結
(いずれも東ソー株式会社製)
移動相 :THF
流速 :1.0mL/min.
検出器 :UV/VISディテクター(SPD−10A;島津製作所製)
検出波長 :254nm
カラム温度:40℃
【0082】
(実施例2)
3価マンガンの濃度が約5mMである他は、実施例1と同様にして処理を行い、前記条件にて分析を行った。
【0083】
(実施例3)
3価マンガンの濃度が約10mMである他は、実施例1と同様にして処理を行い、前記条件にて分析を行った。
【0084】
(実施例4)
3価マンガンの濃度が約20mMである他は、実施例1と同様にして処理を行い、前記条件にて分析を行った。
【0085】
(実施例5)
アルカリリグニンがクラフトリグニン(Mead-westvaco社製)である他は、実施例1と同様にして処理を行い、前記条件にて分析を行った。
【0086】
(実施例6)
アルカリリグニンがクラフトリグニン(Mead-westvaco社製)である他は、実施例2と同様にして処理を行い、前記条件にて分析を行った。
【0087】
(実施例7)
アルカリリグニンがクラフトリグニン(Mead-westvaco社製)である他は、実施例3と同様にして処理を行い、前記条件にて分析を行った。
【0088】
(実施例8)
アルカリリグニンがクラフトリグニン(Mead-westvaco社製)である他は、実施例4と同様にして処理を行い、前記条件にて分析を行った。
【0089】
(比較例1〜5)連続的に3価マンガンを製造しない方法(バッチ式)での反応
前記アルカリリグニンを、φ30mm×200mmの試験管に1gずつ各々4本計り取った。これに、1mM(比較例1)、5mM(比較例2)、10mM(比較例3)、及び20mM(比較例4)の3価マンガン液を各々20mLずつ分注し、リグニン溶液を作製した。また、対照として0.1Mマロン酸緩衝液20mLをリグニンに加えた系も作製した。
上記で作製したリグニン溶液を入れた試験管を、有機合成装置(EYLA PPW ChemStation;東京理科器械株式会社製)に供して50℃、800rpmにて加熱攪拌を行った。
【0090】
(比較例5)
3価マンガンの濃度が約0.1mMである他は、実施例1と同様にして処理を行い、前記条件にて分析を行った。
以上の実施例、及び比較例で得られるリグニン酸化分解物の分析を行った。
【0091】
【表1】

【0092】
(試験例)
実施例1における3価マンガン濃度と、連続的に3価マンガンを製造しない方法(バッチ式)での3価マンガン濃度の経時的な変化の比較を行った試験例を以下に示す。
<バッチ式での3価マンガンの調整方法>
実施例1において、第二工程(マンガンペルオキシダーゼの分離)、第三工程(分離したマンガンペルオキシダーゼを用いた2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンの酸化)、第四工程(2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンの分離)、及び第五工程(分離された2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンの第一工程への供給)を行わずに、第一工程(3価マンガンの作製)及び酸化反応を同一の反応容器にて行い、3価マンガンの濃度変化を測定した。
【0093】
両者の結果を図2に示す。
【0094】
本結果から、本発明による3価マンガンの製造方法では、所望する3価マンガンの濃度が一定に保たれ、効率的なリグニン分解が可能であることが明らかとなった。
これらの結果から、第一工程で得られた3価マンガン溶液から、第二工程において中空糸膜を用いてマンガンペルオキシダーゼを分離し、第二工程後の3価マンガン溶液を用いて、酸化反応を行えることが確認された。
【0095】
また、第二工程において分離されたマンガンペルオキシダーゼを再利用して、第一工程において3価マンガンを製造することが可能であり、さらに、第四工程において分離された2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンを再利用して、第一工程において3価マンガンを製造できることが確認された。
【0096】
その結果、水溶液中においてマンガンペルオキシダーゼと2価マンガンと酸化剤とを反応させて得られる3価マンガン溶液から、膜を用いた分画によりマンガンペルオキシダーゼを分離することができ、この結果得られた3価マンガンを用いて、酸化反応を行うことができた。また、分離されたマンガンペルオキシダーゼを再利用して2価マンガンの酸化反応を行っても、未使用のマンガンペルオキシダーゼを用いた場合と同等に3価マンガンを製造することができ、これにより、マンガンペルオキシダーゼを回収しながら3価マンガンの製造を連続的に行えることが確認された。
【0097】
さらに、前記方法により製造された3価マンガンを用いて酸化反応を行った後、リグニン酸化分解物から分離した2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンを再利用しても、未使用の2価マンガンを用いた場合と同等に3価マンガンを製造することができ、これにより、2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンを回収しながら3価マンガンの製造、並びに、リグニン、またはリグニンを含有する植物繊維の処理を連続的に行えることが確認された。
【0098】
また、リグニンの分解による低分子化には、特定の3価マンガンの濃度範囲において効率的に行うことが可能であり、特に1〜20mMの範囲が好ましいことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の3価マンガンの製造方法、並びに、リグニン、またはリグニンを含有する植物繊維の処理方法の一例を示す模式図である。
【図2】実施例1における3価マンガン濃度と、連続的に3価マンガンを製造しない方法(バッチ式)での3価マンガン濃度の経時的な変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価マンガンの存在下に、リグニンを含有する植物繊維を処理する方法において、3価マンガンの製造方法が、
水又は水溶液中、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、マンガンペルオキシダーゼと2価マンガンと酸化剤とを反応させて2価マンガンを酸化することにより3価マンガンを生成させる第一工程と、
膜を用いた分画により、3価マンガンを含有する反応液からマンガンペルオキシダーゼを分離する第二工程と、
を有することを特徴とする、リグニンを含有する植物繊維の処理方法。
【請求項2】
水又は水溶液中、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中における3価マンガンの濃度が、1〜20mmol/Lである請求項1に記載のリグニンを含有する植物繊維の処理方法。
【請求項3】
前記第二工程で分離されたマンガンペルオキシダーゼを第一工程へ供給する第三工程を有する請求項1または2に記載のリグニンを含有する植物繊維の処理方法。
【請求項4】
前記第三工程において、マンガンペルオキシダーゼの第一工程への供給量を測定する請求項3に記載のリグニンを含有する植物繊維の処理方法。
【請求項5】
前記膜が中空糸膜又は限外濾過膜である請求項1〜4のいずれか一項に記載のリグニンを含有する植物繊維の処理方法。
【請求項6】
前記膜の分画分子量が5千〜2万である請求項1〜5のいずれか一項に記載のリグニンを含有する植物繊維の処理方法。
【請求項7】
第一工程で用いる水又は水溶液に有機酸を含有させる請求項1〜6のいずれか一項に記載のリグニンを含有する植物繊維の処理方法。
【請求項8】
リグニンを含有する植物繊維の処理方法で得られたリグニン酸化分解物を含有する植物繊維から、2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンを分離する第四工程を有する請求項1〜7のいずれか一項に記載のリグニンを含有する植物繊維の処理方法。
【請求項9】
前記第四工程で分離された2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンを第一工程へ供給する第五工程を有する請求項8に記載のリグニンを含有する植物繊維の処理方法。
【請求項10】
前記第五工程において、2価マンガン、あるいは2価マンガン及び3価マンガンの第一工程への供給量を測定する請求項9に記載のリグニンを含有する植物繊維の処理方法。
【請求項11】
前記リグニンを含有する植物繊維が、木本類のチップ、木本類の廃材、木本類のおが屑、草本類の農産物、草本類の非食用植物、及び草本類の廃棄物からなる群から選ばれる任意の植物繊維である請求項1〜10のいずれか一項に記載のリグニンを含有する植物繊維の処理方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のリグニンを含有する植物繊維の処理方法により得られる植物繊維。
【請求項13】
3価マンガンの存在下に、リグニンを処理する方法において、3価マンガンの製造方法が、
水又は水溶液中、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、マンガンペルオキシダーゼと2価マンガンと酸化剤とを反応させて2価マンガンを酸化することにより3価マンガンを生成させる第一工程と、
膜を用いた分画により、3価マンガンを含有する反応液からマンガンペルオキシダーゼを分離する第二工程と、
を有することを特徴とする、リグニンの処理方法。
【請求項14】
水又は水溶液中、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中における3価マンガンの濃度が、1〜20mmol/Lである請求項13に記載のリグニンの処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−167542(P2009−167542A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4231(P2008−4231)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】