説明

リジルオキシダーゼ様1(LOXL1)および弾性繊維形成

弾性繊維の欠損に関連した状態を有する対象を治療および予防する方法が記載される。そのような状態の治療において有用な薬剤をスクリーニングする方法、および弾性繊維の欠損に関連した状態の動物モデルも、本発明において提供される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
優先権主張
本願は、35USC§119(e)の下で、2004年1月23日出願の米国特許出願第60/538,962号に基づく優先権を主張し、その全内容は参照として本明細書に組み入れられる。
【0002】
背景
弾性繊維の主成分は、エラスチン(モノマー型で存在する場合はトロポエラスチンとしても既知)というポリペプチドから構成された無定形ポリマーである。弾性繊維の重合は、リジルオキシダーゼにより触媒される、リジン残基の酸化的脱アミノという第一工程を必要とする(Kagan et al.,J.Cell.Biochem.88,660-672(2003))。得られたアルデヒド基は、ペプチジル・リジンの隣接するアルデヒドまたはε-アミノ基と共に自発的に縮合し、共有結合性の架橋を形成する。リジルオキシダーゼは、繊維芽細胞および平滑筋細胞を含む繊維形成性細胞により分泌される銅依存性モノアミンオキシダーゼである。哺乳動物ゲノムは、原型LOXおよびLOX様ポリペプチド1〜4(LOXL1〜4)をコードする、最大5つの可能性のあるLOXファミリー・メンバーを有している(Kagan et al.,supra)。弾性繊維形成におけるそれらの個々の役割は、不明であった。
【0003】
弾性繊維形成は、エラスチンが沈着する足場構造も必要とする。フィブリリンおよびミクロフィブリル関連糖タンパク質からなるミクロフィブリルが、エラスチン沈着を案内する足場として働くと考えられている(Kielty et al.,J.Cell.Sci.115,2817-2828(2002))。しかしながら、フィブリリン1および2の遺伝子の個々の不活化は、各々が、弾性繊維形成にとって不可欠ではないことを示唆している(Pereira et al.,Nat.Genet.17,218-222(1997);Chaudhry et al.,Hum.Mol.Genet.10,835-843(2001))。エラスチン結合タンパク質(EBP)(Hinek et al.,J.Cell.Biol.126,563-574(1994))、フィビュリン(fibulin)-5(Yanagisawa et al.,Nature 415,168-171(2002))、および未特定のリジルオキシダーゼ(Kagan et al.,J.Cell.Biol.103,1121-1128(1986))も、弾性繊維と会合することが報告された。遺伝子ターゲティング研究は、フィビュリン-5が弾性繊維の発達に必要であることを示している(Yanagisawa et al.,Nature 415,168-171(2002);Nakamura et al.,Nature 415,171-175(2002))。Lox遺伝子の破壊は、コラーゲンおよびエラスチンの架橋の減少、ならびに周産期の致死をもたらし(Maki et al.,Circulation 106,2503-2509(2002);Hornstra et al.,J.Biol.Chem.278,14387-14393(2003))、これは、発生中の原繊維コラーゲンおよびエラスチンの両方の架橋における役割を示唆している。
【発明の開示】
【0004】
概要
本発明は、リジルオキシダーゼ様1(LOXL1)が、成体組織における弾性繊維ホメオスタシスにおいて全身性の非重複性の役割を有していることの発見に、一部、基づく。本明細書に記載されるように、LOXL1は、全ての成体組織における弾性繊維のリモデリングおよび補充にとって不可欠である。骨盤臓器の傷害および脱出は、その独特の生理学のため、産後すぐに認められる、LOXL1を欠く雌ノックアウトマウスにおける疾患表現型の突出した局面である。さらに、産後の子宮器官(uterine tract)におけるエラスチンポリマー沈着の失敗は、尿失禁の直接の原因となる。皮膚、肺、血管系、および結合組織全般のようなその他の組織において、LOXL1の不足は、重合したエラスチンの継続的な秩序正しい沈着の欠如のため、機能性の弾性繊維を徐々に枯渇させる。従って、本発明は、LOXL1活性を増加させる化合物、即ち、LOXL1エンハンサーを投与することにより、弾性繊維の欠損に関連した状態を治療および予防する方法を提供する。例えば、内因性の発現を増加させるため、転写活性化因子、またはウイルス性もしくは非ウイルス性の遺伝子導入ベクターによる遺伝子発現構築物の送達が、使用され得る。または、LOXL1ポリペプチドまたはその活性断片をインビトロで合成し、精製し、それが治療的である可能性の高い部位または組織に、薬として送達してもよい。第三に、低分子またはその他の治療用化合物が、既存のLOXL1の酵素活性を増強するために投与されてもよい。
【0005】
本発明は、さらに、弾性繊維の欠損に関連した状態の動物モデル、例えば、LOXL1トランスジェニックマウスまたはノックアウトマウスを提供する。また、そのような状態の治療および予防において有用な薬剤をスクリーニングする方法も、本発明において提供される。
【0006】
一つの局面において、本発明は、弾性繊維の欠損に関連した状態を有している対象を治療する方法を提供する。その方法は、治療的に有効な量のLOXL1エンハンサーを対象に投与することを含む。
【0007】
もう一つの局面において、本発明は、弾性繊維の欠損に関連した状態の発生または進行を予防する方法を提供する。その方法は、治療的に有効な量のLOXL1エンハンサーを対象に投与することを含む。
【0008】
いくつかの態様において、LOXL1エンハンサーは、LOXL1ポリペプチドもしくはその活性断片、またはLOXL1ポリペプチドもしくはその活性断片をコードする核酸である。いくつかの態様において、LOXL1エンハンサーは、例えば、本明細書に記載された方法により同定された、低分子またはその他の治療用化合物である。
【0009】
もう一つの局面において、本発明は、LOXL1エンハンサーを同定する方法を提供する。その方法は、機能性のLOXL1、例えば、LOXL1ポリペプチドまたは核酸を含む試料を準備すること;試料をテスト化合物と接触させ、それによりテスト試料を形成させること;およびテスト試料中のLOXL1の活性を測定することを含む。参照と比較した、テスト化合物の存在下におけるLOXL1活性の増加は、テスト化合物がLOXL1エンハンサーであることを示す。いくつかの態様において、テスト化合物は、LOXL1ポリペプチドのレベルを増加させることにより、例えば、LOXL1の転写、翻訳、もしくはプロセシングを増加させることにより、またはLOXL1の分解を減少させることにより、LOXL1活性の増加を引き起こす。
【0010】
もう一つの局面において、本発明は、少なくとも一つのLOXL1トランスジーンを含む細胞を有する非ヒトトランスジェニック哺乳動物を提供する。いくつかの態様において、動物は、少なくとも一つの機能性LOXL1対立遺伝子を欠き、例えば、少なくとも一つのLOXL1対立遺伝子が、非機能性のLOXL1ポリペプチドを産生するか、LOXL1ポリペプチドを産生しないか、または本明細書に記載されるような一つもしくは複数のLOXL1活性を欠く変異LOXL1ポリペプチドを産生する。いくつかの態様において、動物は、両方の機能性LOXL1対立遺伝子を欠く。いくつかの態様において、動物は、弾性繊維の欠損に関連した状態の一つまたは複数の症状を示す。いくつかの態様において、動物は、例えば、骨盤臓器、皮膚、目、または血管系に、弾性繊維の欠損を有している。いくつかの態様において、動物は、弾性繊維の欠損に関連した状態の少なくとも一つの症状を示す。
【0011】
もう一つの局面において、本発明は、少なくとも一つのLOXL1トランスジーンを含む細胞を有するトランスジェニック動物を含む、弾性繊維の欠損に関連した状態の非ヒト動物モデルを提供する。いくつかの態様において、動物モデルの細胞は、少なくとも一つの機能性LOXL1対立遺伝子を欠き、例えば、少なくとも一つのLOXL1対立遺伝子が、非機能性のLOXL1ポリペプチドを産生するか、LOXL1ポリペプチドを産生しないか、または本明細書に記載されるような一つもしくは複数のLOXL1活性を欠く変異LOXL1ポリペプチドを産生する。いくつかの態様において、動物モデルの細胞は、両方の機能性のLOXL1対立遺伝子を欠く。
【0012】
もう一つの局面において、本発明は、弾性繊維の欠損に関連した状態を治療するための治療用化合物の候補(例えば、LOXL1エンハンサー)を同定する方法を提供する。その方法は、少なくとも一つのLOXL1トランスジーンを含む細胞を有する、その状態の非ヒト動物モデルを準備すること;テスト化合物をモデル動物に投与すること;および状態に関連したパラメータをモニタリングすることを含む。状態に関連したパラメータに正の影響を与えるテスト化合物が、治療用化合物の候補である。パラメータに対する正の影響とは、状態に関連した一つまたは複数の症状またはその他の臨床的指標の改善である。
【0013】
いくつかの態様において、弾性繊維の欠損に関連した状態は、皮膚の弾性の欠損(例えば、正常な(例えば、非病理学的な)加齢もしくは加速された加齢、体重減少、または妊娠に関連したもののような、皮膚のしわおよび/または弛緩)、慢性閉塞性肺疾患(「COPD」;例えば、肺気腫、喘息、または慢性気管支炎)、(高齢の経産婦において一般的な)骨盤臓器脱および尿失禁、(動脈解離、動脈瘤、収縮期高血圧、例えば、高血圧、および発作を含む)血管の疾患、または加齢性黄斑変性における脈絡膜新血管新生に寄与する眼内のブルーフ(Bruch's)膜の弾性板の分解である。「弾性繊維の欠損」には、弾性繊維の部分的な欠損および/または弾性繊維の完全もしくは実質的に完全な欠損の両方が含まれる。いくつかの態様において、弾性繊維の欠損には、デスモシン含有量により測定されるようなエラスチン架橋の少なくとも約40%の減少が含まれる。いくつかの態様において、弾性繊維の欠損には、デスモシン含有量により測定されるようなエラスチン架橋の約50%、60%、70%、80%、90%、またはそれ以上の減少が含まれる。
【0014】
「ポリペプチド」とは、長さまたは翻訳後修飾に関わらず、アミノ酸の鎖を意味する。ポリペプチドには、全長、成熟型、かつ活性型のタンパク質、前駆体、およびLOXL1のアミノ酸配列と十分に同一(少なくとも80%同一)の、またはそれに由来するアミノ酸配列を含む活性断片が含まれる。本明細書において使用されるように、LOXL1またはリジルオキシダーゼ様-1ポリペプチドとは、哺乳動物LOXL1をさす。例示的なLOXL1ポリペプチド配列には、Genbankアクセッション番号AAH37999(mus musculus);AAH03973(mus musculus);NP_776808(bos taurus);AAH15090(homo sapiens)、およびそれらのホモログが含まれる。LOXL1ポリペプチドは、LOXL1核酸によりコードされたポリペプチドであってもよい。LOXL1核酸には、Genbankアクセッション番号BC037999およびBC003973(mus musculus);BC015090およびNM_002317(homo sapiens);ならびにNM_174383およびAF421185(bos taurus)、ならびにそれらのホモログが含まれる。
【0015】
LOXL1ポリペプチドの「生物学的活性を有する断片」には、全長ポリペプチドの少なくとも一つの活性を有しており、例えば、LOXL1分子と非LOXL1分子(例えば、結合パートナーである分子、例えば、フィビュリン-5もしくはトロポエラスチン)との間の相互作用に関与し、かつ/またはエラスチンの架橋を触媒することができるLOXL1ポリペプチドの断片が含まれる。LOXL1ポリペプチドの生物学的活性を有する断片には、全長LOXL1ポリペプチドより少ないアミノ酸を含んでおり、かつLOXL1ポリペプチドの少なくとも一つの活性を示す、LOXL1ポリペプチド(例えば、Genbankアクセッション番号AAH37999(mus musculus);AAH03973(mus musculus);NP_776808(bos taurus);またはAAH15090(homo sapiens))のアミノ酸配列と十分に相同(いくつかの態様において、少なくとも80%、90%、95%同一)の、またはそれに由来するアミノ酸配列を含むペプチドが含まれる。
【0016】
「対象」とは、本明細書において使用されるように、哺乳動物、例えば、ヒト、または実験動物モデル(例えば、疾患モデル)をさす。対象は、非ヒト動物、例えば、マウス、ラット、ネコ、イヌ、モルモット、ウマ、ウシ、ブタ、ヤギ、またはその他の家畜であり得る。
【0017】
「特異的に結合する」とは、試料中の特定の要素、例えば、特定のLOXL1ポリペプチドと結合するが、試料中のその他の分子、例えば、もう一つの型のリジルオキシダーゼまたは非LOXL1ポリペプチドを実質的に認識しないか、またはそれらと結合しない分子をさす。
【0018】
本明細書に記載された方法は、弾性繊維の欠損に関連した状態の外科的な治療法に対する代替的または補助的な方法を提供することができる。
【0019】
他に定義されない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語は、全て、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有している。本明細書に記載されたものに類似しているかまたは等しい方法および材料が、本発明の実施または試行において使用され得るが、適当な方法および材料が、以下に記載される。本明細書において言及された刊行物、特許出願、特許、およびその他の参照は、全て、参照により完全に組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含む本発明の明細書が優先されるであろう。さらに、材料、方法、および例は、例示的なものに過ぎず、制限的なものではない。
【0020】
本発明のその他の特色および利点は、以下の詳細な説明、および特許請求の範囲から明白になるであろう。
【0021】
詳細な説明
本明細書に提供されるデータは、リジルオキシダーゼ様1(LOXL1)が、成体組織における弾性繊維のホメオスタシスのため全身性の非重複性の役割を有していることを証明する。本明細書に記載されるように、LOXL1は、成体組織における弾性繊維形成の重要な正の調節剤である。LOXL1エンハンサーの投与(例えば、本明細書に記載された方法により同定された化合物の投与、外因性LOXL1の補充、または内因性LOXL1の合成の増強)によるLOXLl機能の増強は、弾性繊維の欠損に関連した状態において有用な治療戦略である。これらの状態には、皮膚の弾性の欠損(例えば、皮膚のしわおよび弛緩)、慢性閉塞性肺疾患(COPD;例えば、肺気腫)、(高齢の経産婦において一般的な)骨盤臓器脱および尿失禁、ならびに(動脈解離、動脈瘤、収縮期高血圧、および発作を含む)血管の疾患、ならびに加齢性黄斑変性における脈絡膜新血管新生に寄与する眼内のブルーフ膜の弾性板の分解が含まれる。
【0022】
本明細書に記載されたデータは、機能性のLOXL1を欠くマウスにおける、弾性繊維のホメオスタシスと、出産および高齢の両方と強く相関している臨床症状である骨盤脱出との間の予想外の因果関係も明らかにする(Koduri et al.,Curr.Opin.Obstet.Gynecol.12,399-404(2000);Sultan et al.,Br.J.Hosp.Med.55,575-579(1996);Snooks et al.,Br.J.Surg.77,1358-1360(1990))。エラスチンポリマーおよび可溶性エラスチン由来ペプチドは、細胞の接着、遊走、および増殖におけるシグナリングに関する役割も有している(Mochizuki et al.,J.Biol.Chem.277,44854-44863(2002);Karnik et al.,Development 130,411-423(2003))。従って、エラスチンポリマーの欠損とトロポエラスチンの蓄積との組み合わせは、LOXL1ノックアウトマウスにおいて見られる組織病理学的変化に寄与し得る。ヒトLOXL1における遺伝学的欠陥は、皮膚、肺、大動脈、およびその他の器官に影響を与える全身性エラストリシスに類似した臨床的症候群(例えば、I型弛緩性皮膚;OMIM 219100)をもたらし得る。
【0023】
肺気腫のような弾性繊維の欠損を特徴とする疾患は、通常、エラスターゼとそれらの阻害剤との間の不均衡に関して考察されている(Shapiro et al.,Proc.Assoc.Am.Physicians 107,346-352(1995);Hautamaki et al.,Science 277,2002-2004(1997);Morris et al.,Nature 422,169-173(2003))。LOXL1依存性のエラスチンポリマーの沈着が、弾性繊維のホメオスタシスにおいて積極的な役割を有しているという本発明の所見は、分解と再生との間の不均衡が、そのような障害において役割を果たしているかもしれないことを示す。従って、LOXL1は、弾性繊維の欠損を促進する因子により影響を受ける治療標的である。例えば、喫煙は、肺内の銅含有量を低下させる。銅はLOXL1機能に必要とされるため、これは、LOXL1活性を低下させ、再生を阻害し、弾性繊維の正味の欠損およびその後の病原を促進し得る。
【0024】
トランスジェニック動物
非ヒトトランスジェニック動物が本明細書に記載される。そのような動物は、弾性繊維の欠損に関連した状態のモデルとして有用である。そのような状態には、皮膚、肺、大動脈、およびその他の器官に影響を与える全身性エラストリシスに類似した臨床的症候群が含まれる。これらの状態には、皮膚の弾性の欠損(例えば、皮膚のしわおよび弛緩)、慢性閉塞性肺疾患(COPD;例えば、肺気腫)、(高齢の経産婦において一般的な)骨盤臓器脱および尿失禁、ならびに(動脈解離、動脈瘤、収縮期高血圧、および発作を含む)血管の疾患、ならびに加齢性黄斑変性における脈絡膜新血管新生に寄与する眼内のブルーフ膜の弾性板の分解が含まれる。本明細書において使用されるように、「トランスジェニック動物」とは、LOXL1トランスジーンを含む一つまたは複数の細胞を有する非ヒト動物、例えば、げっ歯類(例えば、ラットまたはマウス)のような哺乳動物である。トランスジェニック動物のその他の例には、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ヤギ、ニワトリ、両生類等が含まれる。いくつかの態様において、トランスジェニック動物は、弾性繊維の欠損を示す。
【0025】
トランスジーンは、典型的には、トランスジェニック動物の細胞のゲノムに組み込まれているか、または存在する、外因性DNA、または内因性染色体DNAの再編成、例えば、欠失である。トランスジーンは、トランスジェニック動物の一つまたは複数の細胞型または組織における、コードされたポリペプチドの発現を指図する(例えば、減少させるかまたは排除する)ことができ、その他のトランスジーン、例えば、ノックアウトは、発現を減少させる。従って、トランスジェニック動物は、例えば、動物の発生より前に、内因性遺伝子と、動物の細胞、例えば、動物の胚細胞へ導入された外因性DNA分子との間の相同的組み換えにより、内因性LOXL1遺伝子が改変させられたものであり得る。いくつかの態様において、本発明は、一つまたは複数の機能性LOXL1対立遺伝子を欠くトランスジェニック動物、例えば、一方または両方の遺伝子から機能性のLOXL1ポリペプチドを発現しないヘテロ接合性またはホモ接合性のLOXL1ノックアウト動物を含む。機能性のLOXL1ポリペプチドとは、完全なLOXL1活性を有しており、エラスチンの架橋を触媒し得るものである。
【0026】
本発明は、本明細書に記載されるようなトランスジェニック動物の作出において有用なターゲティングベクター、例えば、残りの配列が機能性のLOXL1ポリペプチドを産生しないよう、LOXL1遺伝子の対立遺伝子の全部または一部を削除するターゲティングベクターも含む。いくつかの態様において、ベクターは、コーディング領域、例えば、エキソン1の一部の欠失をもたらす置換遺伝子ノックアウト構築物を含む。いくつかの態様において、ベクターは、非構成性プロモーター、例えば、LOXL1遺伝子の制御された削除を可能にする条件的プロモーターを含む。
【0027】
イントロン配列およびポリアデニル化シグナルも、トランスジーンの発現の効率を増加させるため、トランスジーンに含まれ得る。LOXL1ポリペプチドの発現を特定の細胞へと差し向けるため、組織特異的な(一つまたは複数の)調節配列が、本発明のトランスジーンと機能的に連結されてもよい。トランスジェニックファウンダー動物(transgenic founder animal)は、そのゲノムにおけるLOXL1トランスジーンの存在、および/または動物の組織もしくは細胞におけるLOXL1 mRNAの発現に基づき同定され得る。次いで、トランスジェニックファウンダー動物は、トランスジーンを保持している付加的な動物を繁殖させるために使用され得る。さらに、LOXL1ポリペプチドをコードするトランスジーンを保持しているトランスジェニック動物は、その他のトランスジーンを保持しているその他のトランスジェニック動物とさらに交雑され得る。
【0028】
LOXL1ポリペプチドが、トランスジェニックの動物または植物において発現されてもよく、例えば、ポリペプチドをコードする核酸が、動物のゲノムへ導入され得る。いくつかの態様においては、核酸が、組織特異的プロモーター、例えば、乳または卵に特異的なプロモーターの制御下に置かれ、動物により産生された乳または卵から、LOXL1ポリペプチドが回収される。適当な動物は、マウス、ブタ、ウシ、ヤギ、およびヒツジである。
【0029】
診断の方法-LOXL1の検出
LOXL1は、当技術分野において既知の方法を使用して、例えば、抗LOXL1抗体および/または核酸プローブを使用して、細胞および組織において検出され得る。本明細書に記載されるように、LOXL1 mRNA発現の減少は、弾性繊維の欠損(およびそれに関連した状態)に関連している。従って、LOXL1の検出、およびLOXL1発現の減少の検出は、臨床的環境においても学術的環境においても診断的な価値を有している。正常組織標本および病理学的組織標本における、例えばPCRによるLOXL1 mRNAレベルの検出、または、例えば免疫検出によるポリペプチドレベルの検出は、弾性繊維の欠損を起こしているか、またはそれを起こすリスクのある組織を同定することができる。
【0030】
従って、本発明は、弾性繊維の欠損または減衰に関連した状態のための診断法を提供する。その方法は、LOXL1の存在および/またはレベルを検出することを含む。その方法は、対象由来の試料を準備すること、試料をLOXL1プローブ(例えば、抗LOXL1抗体、核酸プローブ、またはその他のLOXLl特異的結合モエティ)と接触させること;および試料中のプローブ、例えば、プローブのLOXL1 mRNAまたはポリペプチドとの結合を検出すること:を含み得る。検出は、結合の形成の位置または時間の決定を含んでいてもよいし、試料中に存在するLOXL1 mRNAまたはポリペプチドのレベルの決定を含んでいてもよい。参照試料と比べた、試料中のLOXL1 mRNAまたはポリペプチドのレベルの差、例えば、統計的に有意な変化または差は、その試料が入手された対象が、本明細書に記載されるような、減少したLOXL1レベルに関連した状態、即ち、弾性繊維の欠損または減衰に関連した状態を有しているか、またはそのリスクを有していることの指標となり得る。いくつかの態様において、参照は、対照、例えば、陽性または陰性の対照、例えば、参照試料である。いくつかの態様において、参照は、病理学的試料に由来し、例えば、疾患または状態の所定の段階において入手される結果を代表するものである。いくつかの態様において、LOXL1は、皮膚生検試料を免疫染色することにより評価され;通常、LOXL1は強い原繊維パターンで存在する。強い原繊維パターンの欠如は、LOXL1関連状態の存在の指標となる。
【0031】
LOXL1プローブは、標識、例えば、直接的または間接的に検出可能な物質を含み得る。例えば、当技術分野において既知であり、本明細書に記載されるように、適当な検出可能物質には、様々な酵素、補欠分子族、蛍光材料、発光材料、および放射性材料が含まれる。本発明のいくつかの態様において、(例えば、本明細書に記載されたような)LOXL1特異的抗体、結合モエティ、またはLOXL1、その断片、もしくはLOXL1核酸(例えば、遺伝子もしくはmRNA)と特異的に結合する核酸のような標識されたLOXL1プローブが、本明細書に記載されるようなLOXL1の検出のために使用される。例えば、LOXL1は、当技術分野において既知であり、本明細書に記載されるもののようなDNA結合アッセイを使用して、検出され得る(例えば、van Wijnen et al.,Mol.Cell.Biol.12,3273-3287(1992)、およびvan Wijnen et al.,J.Cell.Biochem.46,174-189(1991)参照)。
【0032】
治療および予防の方法
いくつかの態様において、本発明は、LOXL1の発現または活性の減少に関連した障害のリスクを有する(即ち、それに感受性である)か、またはそれを有している対象を治療する予防法および治療法の両方を含む。これは、本明細書に記載されるような弾性繊維の欠損または減少を特徴とする状態のリスクを有するか、またはそれを有している対象を含む。
【0033】
一つの局面において、本発明は、LOXL1エンハンサー、例えば、LOXL1(例えば、LOXL1ポリペプチドもしくはその活性断片、またはLOXL1ポリペプチドもしくはその活性断片をコードする核酸)、またはLOXL1の発現もしくは少なくとも一つのLOXL1活性を調整する(即ち、増加させる)他の薬剤を、対象に投与することにより、対象におけるLOXLlの発現または活性の欠損に関連した状態(即ち、本明細書に記載されるような、弾性繊維の欠損を特徴とする状態)を治療または予防する方法を含む。LOXL1の発現または活性の減少または欠損により引き起こされるか、またはそれらが原因となる状態のリスクを有する対象は、例えば、LOXL1の発現もしくは活性の測定のための本明細書に記載されたアッセイのいずれかもしくはそれらの組み合わせにより、または弾性繊維の欠損に関連した状態もしくはそのような状態の素因を診断することより、同定され得る。予防剤の投与は、状態が予防されるか、またはその進行が遅れるよう、LOXL1の減少に特徴的な症状の顕現の前に行われ得る。例えば、LOXL1異常の型によっては、LOXL1エンハンサーは、対象の治療のために使用され得る。適切な薬剤は、本明細書に記載されたスクリーニングアッセイに基づき決定され得る。
【0034】
本明細書において使用されるように、「治療」とは、疾患、状態の症状、または状態に罹る素因の消散、治癒、緩和、軽減、改変、矯正、緩解、改善、予防、または影響を目的とした、状態、状態の症状、または状態に罹る素因を有している対象(例えば、ヒト、または獣医学的もしくは実験的な動物対象)へのLOXL1エンハンサー治療剤の適用もしくは投与、またはそのような対象から単離された組織もしくは細胞系への治療剤の適用もしくは投与を意味する。LOXL1エンハンサー治療剤には、以下に制限はされないが、ペプチドミメティック(peptidomimetics)を含む低分子、ペプトイド(peptoids)、核酸(例えば、LOXL1ポリペプチドまたはその活性断片をコードする核酸)、アプタマー、炭水化物、多糖、非核酸低分子有機分子、無機分子、ポリペプチド、抗体、リボザイム、および薬物が含まれる。
【0035】
本明細書において使用されるように、LOXL1ポリペプチドの活性断片とは、エラスチンおよびコラーゲンの中のリジン残基を酸化する能力を保持しているものである。例えば、活性断片は、N末端配列の一部を失っているが、C末端酵素ドメインは保持しているかもしれない(例えば、ヒト配列、GenBankアクセッション番号AAH15090に関して、アミノ酸約145、179、326、338〜約574を含む断片)。活性断片は、ポリペプチドのC末端の28kDを含み得る。断片は、当技術分野において既知の組み換えDNA技術によって作成されてもよいし、または全長LOXL1ポリペプチド(即ち、ヒト配列のアミノ酸1〜574)の全部もしくは一部の酵素消化、例えば、骨形成タンパク質-1(BMP-1;Borel et al.,supra参照)による消化によって作製されてもよい。そのような断片は、LOX、LOXL1、LOXL2、LOXL3、およびLOXL4の間で保存されている配列のN末端部分を含むことができ、例えば、推定銅結合部位、リジン・チロシルキノリン補因子形成、および/またはサイトカイン受容体様ドメインを含むことができる(例えば、Maki,Dissertation:LYSYL OXIDASES,Cloning and Characterization of the Fourth and the Fifth Human Lysyl Oxidase Isoenzymes, and the Consequences of a Targeted Inactivation of the First Described Lysyl Oxidase Isoenzyme in Mice,Collagen Research Unit,Biocenter Oulu and Department of Medical Biochemistry and Molecular Biology,University of Oulu(2002)参照)。より少ないかまたはより大きい断片も、使用され得る。
【0036】
いくつかのLOXL1関連状態は、LOXL1ポリペプチドの有害に低いレベル、または有害な活性を示すLOXL1ポリペプチドの存在により、少なくとも一部、引き起こされ得る。そのため、そのようなポリペプチドのレベルおよび/または活性の増加は、状態に関連した症状の寛解をもたらすであろう。そのようなLOXL1関連状態の治療の成功は、LOXL1ポリペプチドの発現または活性の増加を助ける技術によりもたらされ得る。
【0037】
LOXL1関連状態またはLOXL1ポリペプチド発現の減少に関連した状態には、弾性繊維の欠損に関連した状態が含まれる。例えば、そのような状態には、皮膚、肺、大動脈、およびその他の器官に影響を与える全身性エラストリシスに類似した臨床的症候群が含まれる。これらの状態には、皮膚の弾性の欠損(すなわち、皮膚のしわおよび弛緩)、慢性閉塞性肺疾患(COPD;例えば、肺気腫、喘息、および慢性気管支炎)、(高齢の経産婦において一般的な)骨盤臓器脱および尿失禁、ならびに(動脈解離、動脈瘤、収縮期高血圧、および発作を含む)血管の疾患、ならびに加齢性黄斑変性における脈絡膜新血管新生に寄与する眼内のブルーフ膜の弾性板の分解が含まれる。
【0038】
皮膚中のLOXL1
ヒトの皮膚は、表皮および真皮を含む多数の層から構成されている。皮膚の弾性のような機械的特性は、コラーゲンおよび弾性繊維組織の構造ネットワークの密度および幾何学により制御されている。傷害を受けたコラーゲンおよびエラスチンは、収縮特性を失い、皮膚のしわおよび皮膚表面の粗さをもたらす(Pasquali-Ronchetti and Baccarani-Contri,Microsc.Res Tech.38(4),428-35(1997))。正常な加齢および加速された加齢により、皮膚は、たるみ、伸展線、隆起、挫傷、またはしわを獲得する場合があり、皮膚のきめは粗くなる。皮膚の弾性の欠損に関連した状態(即ち、皮膚のしわおよび弛緩)に関して、治療の目標は、皮膚の弾性を増加させることである。そのような増加は、多数の方法を使用して測定され得る。例えば、皮膚の弾性の増加は、肉眼、例えば、皮膚の審美的な質の増加、緻密さの増加、またはしわの減少により測定され得る。また、例えば、バリストメーター(ballistometer)(Cyberderm,Media,PA)、Cutometer(登録商標)(Courage & Khazaka Electronic GmbH,Cologne,Germany)、Corneometer(登録商標)(Courage & Khazaka Electronic GmbH,Cologne,Germany)、Skin-Visiometer(登録商標)(Courage & Khazaka Electronic GmbH,Cologne,Germany)、またはReviscometer(登録商標)(Courage & Khazaka Electronic GmbH,Cologne,Germany)を使用した、皮膚の弾性の改善を測定するためのその他の経験的な方法も、利用可能である。例えば、例えば、米国特許第5,804,594号を参照されたい。正常な加齢過程に関連した弾性の欠損は、少なくとも一部は、LOXL1活性の欠損によると考えられるため、LOXL1の発現および/または活性の減損に関連した加齢の徴候を遅延または逆転させることを望む個体は、本明細書に記載された治療または予防の方法から利益を得ることができる。さらに、早熟性もしくは異常な加齢に対して感受性であるか、またはその他の理由のため(例えば、体重減少または妊娠のため)皮膚の弛緩もしくはしわを有しているか、又は有する可能性が高いものも、皮膚の弾性を増加させ、皮膚の審美的な外観を改善させ、例えば、筋および/またはしわを予防し、緩解させ、治療し、かつ/または減少させるための本明細書に記載された方法から利益を得ることができる。
【0039】
肺疾患
肺気腫のようなある種の肺疾患においては、肺内の繊維ネットワークが進行的に破壊される。結果として、肺内の反跳圧力が減少し、肺の面積が過度に膨大し、肺機能に負の影響を与える。慢性閉塞性肺疾患(COPD;例えば、肺気腫、喘息、および慢性気管支炎)に関して、治療の目標は、気道の弾性を増加させることである。COPDを有しているか、またはCOPDを有するリスクを有している個体(即ち、喫煙者またはその他のCOPDに対して感受性のもの)は、本明細書に記載された方法から利益を得ることができる。いくつかの態様において、本明細書に記載された方法は、肺容量減少術(LVRS)の前に、それと同時に、またはその後に実施される。
【0040】
骨盤臓器脱/尿失禁
コーカサス人女性およそ9人に1人が、80歳前に骨盤臓器脱または尿失禁のための手術を受ける(Olsen et al.,Obstet.Gynecol.89(4),501-6(1997))。骨盤臓器脱は、膀胱、子宮、膣、および直腸における構造的な支持の一部を形成する弾性繊維の欠損に、一部、関連していると考えられる。この支持が失われると、器官が下がり、膣に圧力がかかるか、または膣口を通り抜けて下垂してくる場合すらある。尿失禁は一般的な結果であり、骨盤臓器脱と無関係にも起こり得る。骨盤臓器脱および/または尿失禁の治療に関して、本明細書に記載された方法は、脱出からの回復を誘導し、禁制を改善させるために使用され得る。
【0041】
高齢者における尿失禁は、性別間で病因が異なる性別特異的な状態である(Romanzi,J.Gend.Specif.Med.4,14-20(2001))。失禁は、いくつかの型に分類され得る。笑ったとき、または咳をしたときのように腹圧が増加した際の尿の漏出である腹圧性尿失禁(SUI)は、高齢の女性における失禁の最も一般的な型である(Resnick,JAMA280,2034-5(1998);Diokno et al.,J.Urol.148,1817-21(1992))。SUIは、主として、膀胱機能障害ではなく、効果的でない尿道閉鎖から生じる(Cheater and Castleden,Baillieres Best Pract.Res.Clin.Obstet.Gynaecol.14,183-205(2000);Ulmsten and Falconer,Curr Opin Obstet.Gynecol.11,509-515(1999))。効果的な尿道閉鎖は、その器官に接続されている様々な解剖学的構造の協調作用を必要とする。尿道下膣壁、尿道傍結合組織、および恥骨尿道靭帯の構造的および機能的な完全性が、禁制の維持における重要な要因であることは、広範に受け入れられている。尿道下膣壁および尿道傍結合組織のような骨盤組織への傷害は、主要な根本的原因であると考えられている(Ulmsten and Falconer,supra(1999))。
【0042】
SUIの発生に最も強く関連している二つの疫学的要因は、経膣分娩(Turan et al.,Gynecol.Obstet.Invest.41,132-4(1996);Thomas et al.,Br. Med.J.281,1243-5(1980))および高齢(Thomas et al.,supra(1980))である。経膣分娩は、禁制の維持を担う神経、筋肉、および結合組織に損傷を与える場合がある(Retzky and Rogers,Clin.Symp.47,2-32(1995))。尿道を支持している骨盤底および恥骨尿道靭帯の筋肉は、経膣分娩中に過剰に引き伸ばされ、弱まり、失禁をもたらす場合がある(Sultan et al.,Br. J Hosp.Med.55,575-9(1996))。さらに、尿道骨格筋を支配する陰部神経が、分娩中に引き伸ばされ挫滅され、外尿道括約筋(EUS)の除神経をもたらす場合がある(Snooks et al.,Int.J.Colorectal.Dis.1,20-4(1986);Allen et al.,Br. J.Obstet.Gynaecol.97,770-9(1990))。最も大きな傷害は最初の経膣分娩により起こり、失禁の有病率は初産婦において急増するが、複数回の出産または多産を介した反復的な傷害は、失禁をさらに悪化させ得る(Viktrup and Lose,Int.Urogynecol.J.Pelvic.Floor. Dysfunct.11,336-40(2000))。失禁は、初産による損傷の数年後、閉経期まで臨床的に明白にならないことが多く、従って、年齢による生化学的および生理学的な変化がSUIの発生に寄与することが示唆される(Retzky and Rogers,supra(1995);Makinen et al.,Maturitas 22,233-8(1995))。骨盤臓器脱(POP)は、複数回の出産において被った骨盤底損傷とも関連している、高齢の女性において一般的なもう一つの消耗性の状態である。POPは、尿失禁を引き起こし、かつ/または増悪化し得る。
【0043】
尿失禁の組織病理学についての研究は、歴史的に、関与している組織におけるコラーゲン繊維の変化に焦点が置かれてきた(Rechberger et al.,Eur. J.Obstet.Gynecol.Reprod.Biol.49,187-91(1993);Cheater and Castelden,supra(2000))。実際、この状態のための治療の一つの型は、注射可能コラーゲンの使用である。骨盤臓器および隣接している結合組織は、コラーゲンに加え、弾性繊維にも富んでいる。弾性繊維は、通常、伸展力および膨張力を受ける組織に、弾性および復元力を賦与する(Mecham and Davis,in Yurchenco et al.,eds.,Extracellular Matrix Assembly and Structure,281-314(Academic Press,New York,1994))。
【0044】
弾性繊維は、別々の発達期間中に構築され、安定し続ける。例外は、沈着および再吸収のサイクルを受ける子宮器官である。子宮器官は、妊娠中に莫大に膨張し、産後、急速に再吸収的に退縮する。さらに、コラーゲンおよび弾性繊維を分解し、子宮壁を軟化する子宮頸部の熟成として既知の生理学的過程を通して、子宮頚部が、出産に備えて膨張し、より柔軟になる(Leppert,Clin.Obstet.Gynecol.38,267-79(1995);Bryant-Greenwood and Schwabe,Endocr.Rev.15,5-26(1994))。従って、必要性により、子宮器官内の結合組織は、生殖周期を通して活発なリモデリングを受け;弾性繊維およびコラーゲン繊維の両方が、分解され再合成される(Woessner and Brewer,Biochem.J. 89,75-82(1963);Starcher and Percival,Connect.Tissue.Res.13,207-15(1985))。従って、子宮器官における結合組織リモデリングの欠陥は、妊娠/出産を通して被った組織傷害を増悪化する可能性が高い。
【0045】
血管の疾患
大きな血管の弾性特性は、細胞外空間における弾性繊維の存在による。大動脈壁の主要な負荷負担成分は、コラーゲン原繊維、平滑筋細胞、および弾性繊維である。コラーゲン原繊維は、円周方向で負荷を負担するが、弾性繊維は、円周方向の支持のみならず縦方向の支持も提供する。加齢および結合組織障害におけるコラーゲン原繊維と弾性繊維と平滑筋との間の界面の変化は、血管壁の粘弾性の変化をもたらすと考えられている(Silver et al.,Crit.Rev.Biomed.Eng.29(3),279-301(2001))。従って、大動脈解離、動脈瘤、収縮期高血圧、および発作を含む、弾性の欠損に関連した血管の疾患の治療に関して、本明細書に記載された方法は、血管硬化を減少させ、血管緊張度を改善させるために使用され得る。
【0046】
LOXL1の調整
いくつかの態様において、(例えば、治療目的のため)LOXL1の発現または活性を調整するため、LOXL1核酸もしくはポリペプチド(もしくはその活性断片)、または細胞に関連したLOXL1ポリペプチド活性の活性のうちの一つ以上を調整する薬剤と、細胞が接触させられる。LOXL1ポリペプチド活性を調整する薬剤は、例えば、核酸またはポリペプチド、LOXLlポリペプチドの天然に存在する結合パートナー(例えば、トロポエラスチンのようなLOXL1基質)、LOXL1抗体、LOXL1アゴニスト、LOXL1アゴニストのペプチドミメティック、またはその他の低分子のような、本明細書に記載されたような薬剤であり得る。薬剤は、合成物であってもよいし、または天然に存在するものであってもよい。細胞は、単離された細胞、例えば、対象から取り出された細胞、もしくは培養細胞であってもよいし、または対象のインサイチューの細胞であってもよい。
【0047】
LOXL1エンハンサー剤は、いくつかの態様において、一つまたは複数のLOXL1活性を刺激することができる。そのような刺激剤の例には、活性LOXL1ポリペプチドまたはその活性断片、およびLOXL1ポリペプチドまたはその活性断片をコードする核酸分子が含まれる。もう一つの態様において、薬剤は、一つまたは複数のLOXL1活性を阻害する。そのような阻害剤の例には、アンチセンスLOXL1核酸分子またはsiRNA、抗LOXLl抗体、およびLOXL1阻害剤が含まれる。これらの調整法は、インビトロで(例えば、薬剤と共に細胞を培養することにより)、またはインビボで(例えば、対象に薬剤を投与することにより)実施され得る。従って、LOXL1ポリペプチドまたは核酸の分子の異常な(即ち、減少した)発現または活性を特徴とする状態に罹患した個体は、LOXL1剤を使用して治療され得る。治療の方法は、LOXL1の発現または活性を調整する(例えば、アップレギュレートする)薬剤(例えば、本明細書に記載されたスクリーニングアッセイにより同定された薬剤)、またはそのような薬剤の組み合わせを投与することを含み得る。従って、いくつかの態様において、方法は、減少したLOXL1の発現または活性を補うための療法として、LOXL1ポリペプチドまたは核酸の分子を投与することを含む。
【0048】
LOXL1の活性または発現の刺激は、LOXL1が有害にダウンレギュレートされており、かつ/または増加したLOXL1活性が有益な効果を有する可能性が高い情況において、望ましい。同様に、LOXL1活性の阻害は、LOXL1が有害にアップレギュレートされており、かつ/または減少したLOXL1活性が有益な効果を有する可能性が高い情況において、望ましい。
【0049】
本明細書において定義されるように、LOXL1核酸またはポリペプチドの組成物の治療的に有効な量とは、それが投与される特定の状態を治療または予防するのに有効な投薬量である。用量は、選択された組成物、即ち、ポリペプチドであるか、または核酸であるかに依るであろう。組成物は、1日1回以上から1週間に1回以上;例えば、隔日に1回、投与され得る。以下に制限はされないが、状態の重度、過去の治療、全身状態、および/または対象の年齢、および存在するその他の状態を含む、ある種の要因が、対象を効果的に治療するために必要とされる投薬量およびタイミングに影響を及ぼすかもしれないことを、当業者であれば認識するであろう。さらに、本発明の治療的に有効な量の治療用LOXL1組成物による対象の治療には、単回治療または一連の治療が含まれ得、多数の(即ち、反復的な)一連の治療も含まれ得る。
【0050】
そのようなLOXL1組成物の投薬量、毒性、および治療効力は、例えば、LD50(集団の50%に対して致死的な用量)およびED50(集団の50%において治療的に有効な用量)の決定のための、細胞培養物または実験動物における当技術分野において既知の薬学的手法によって決定され得る。毒性効果と治療効果との間の用量比が、治療指数であり、それは、LD50/ED50比として表され得る。高い治療指標を示す組成物が好ましい。毒性副作用を示す組成物を使用することもできるが、未感染細胞に対する可能性のある傷害を最小限に抑え、それにより副作用を減少させるため、そのような組成物を影響を受けた組織の部位に局所的にターゲティングする送達系を設計するための処置を採らなければならない。
【0051】
細胞培養物アッセイおよび動物研究から入手されたデータは、ヒトにおいて使用するための、投薬量の範囲を規定するために使用され得る。そのような化合物の投薬量は、好ましくは、毒性がほとんどまたは全くないED50を含む循環血中濃度の範囲内にある。投薬量は、利用される剤形および活用される投与経路に依って、この範囲内で変動し得る。本発明の方法において使用される化合物のため、治療的に有効な用量は、まず、細胞培養物アッセイから推定され得る。細胞培養物において決定されるようなIC50(即ち、症状の最大の半分の阻害を達成するテスト化合物の濃度)を含む循環血漿中濃度範囲を達成するための用量が、動物モデルにおいて規定され得る。そのような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために使用され得る。血漿中のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィにより測定され得る。
【0052】
薬学的組成物および投与の方法
本発明は、弾性繊維の欠損に関連した状態の治療において使用するための、LOXL1エンハンサーを含む薬学的組成物をさらに含む。そのような組成物は、典型的には、LOXL1エンハンサーと薬学的に許容される担体とを含む。本明細書において使用されるように、LOXL1エンハンサーとは、LOXL1核酸もしくはポリペプチド(もしくはその活性断片)、またはLOXL1の活性もしくは発現のその他の正の調整剤、例えば、LOXL1の活性もしくは発現を増加させる化合物、例えば、本明細書に記載された方法により同定されたものであり得る。本明細書において使用されるように、「薬学的に許容される担体」という語には、薬学的投与と適合性の、生理食塩水、溶媒、分散媒、剤皮、抗菌剤、抗真菌剤、等張化剤、吸収遅延剤等が含まれる。補足的な活性化合物が組成物へ組み込まれてもよい。
【0053】
LOXL1エンハンサー薬学的組成物は、意図された投与経路と適合性であるよう製剤化される。投与経路の例には、非経口(例えば、静脈内、皮内、または皮下)、経口(例えば、吸入)、経皮(局所)、経粘膜、および直腸の投与が含まれる。非経口、皮内、または皮下の適用のために使用される液剤または懸濁剤は、以下の成分を含み得る:注射用水、生理食塩水溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、またはその他の合成溶媒のような無菌の希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンのような抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムのような抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸のようなキレート化剤;酢酸、クエン酸、またはリン酸のような緩衝剤、および塩化ナトリウムまたはデキストロースのような浸透圧の調整のための薬剤。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムのような、酸または塩基により調整され得る。非経口用調製物は、ガラス製またはプラスチック製の、アンプル、使い捨て注射器、または複数用量(multiple dose)バイアルに封入され得る。
【0054】
注射可能な使用に適しているLOXL1エンハンサー薬学的組成物には、無菌の水性液剤(水溶性の場合)または分散剤、および無菌の注射可能な液剤または分散剤の用時調製のための無菌の散剤が含まれる。静脈内投与のための適当な担体には、生理食塩水、静菌性水、Cremophor EL(商標)(BASF,Parsippany,NJ)、またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が含まれる。いずれの場合にも、組成物は無菌でなけれなならず、容易な注射可能性が存在する程度に流動性であるべきである。それは、製造および保管の条件の下で安定しているべきであり、細菌および真菌のような微生物の汚染作用に対して保存されていなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、およびそれらの適当な混合物を含有している溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティングの使用により、分散剤の場合であれば必要とされる粒子サイズの維持により、そして界面活性剤の使用により、維持され得る。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等によって達成され得る。多くの場合、等張化剤、例えば、糖、マンニトール、ソルビトールのような多価アルコール、塩化ナトリウムを、組成物中に含めることが好ましいであろう。注射可能組成物の長期化された吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを、組成物中に含めることにより、もたらされ得る。
【0055】
無菌の注射可能溶液は、必要に応じて、前掲の成分の一つまたは組み合わせと共に、必要量の活性LOXL1エンハンサーを適切な溶媒に組み込んだ後、濾過滅菌することにより、調製され得る。一般に、分散剤は、基本的な分散媒と、前掲のものからの必要な他の成分とを含有している無菌の媒体に、活性化合物を組み込むことにより調製される。無菌の注射可能溶液の調製のための無菌散剤の場合、典型的な調製の方法は、活性成分と付加的な所望の成分との粉末を、予め滅菌濾過されたそれらの溶液から生ずる、真空乾燥および凍結乾燥である。
【0056】
経口LOXL1エンハンサー組成物は、一般に、不活性の希釈剤または食用担体を含む。経口治療薬投与の目的のため、活性化合物は、賦形剤と共に組み込まれ、錠剤、トローチ剤、またはカプセル剤、例えば、ゼラチンカプセル剤の形態で使用され得る。経口組成物は、口内洗浄液として使用するため、液状担体を使用して調製されてもよい。薬学的に適合性の結合剤、および/または補助材料が、組成物の一部として含まれ得る。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤等は、以下の成分または類似の性質の化合物を含有し得る:微晶質セルロース、トラガカントゴム、もしくはゼラチンのような結合剤;デンプンもしくは乳糖のような賦形剤、アルギン酸、Primogel、もしくはコーンスターチのような崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムもしくはSterotesのような滑沢剤;コロイド性二酸化ケイ素のような流動性改良剤(glidant);ショ糖もしくはサッカリンのような甘味剤;またはペパーミント、サリチル酸メチル、もしくはオレンジ風味剤のような風味剤。
【0057】
吸入による投与の場合、LOXL1エンハンサーは、適当な噴霧剤、例えば、二酸化炭素のようなガスを含有している加圧された容器またはディスペンサ、または噴霧器からエアロゾル・スプレーの形態で送達され得る。そのような方法には、米国特許第6,468,798号に記載されたものが含まれる。吸入による投与は、肺に影響を与える弾性繊維の欠損に関連した状態、例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、例えば、肺気腫、喘息、または慢性気管支炎を治療する方法に、特に適しているかもしれない。
【0058】
LOXL1エンハンサーの全身投与は、経粘膜的または経皮的な手段によってもよい。経粘膜的または経皮的な投与のためには、透過すべき障壁にとって適切な透過促進剤が、製剤中に使用される。そのような透過促進剤は、当技術分野において一般に既知であり、例えば、経粘膜投与の場合には、界面活性剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体を含む。経粘膜的投与は、鼻スプレー剤または坐剤の使用を通して達成され得る。経皮投与の場合、活性化合物は、当技術分野において一般に既知であるような軟膏剤、サルブ剤(salves)、ゲル剤、またはクリーム剤へと製剤化される。LOXL1エンハンサーの経皮投与は、例えば、皮膚中の弾性繊維の欠損に関連した皮膚状態、即ち、加齢、妊娠、または体重減少に関連した皮膚の弛緩および/またはしわの治療または予防のために使用され得る。
【0059】
いくつかの態様において、経皮適用のためのLOXL1エンハンサーを含む組成物は、さらに、化粧品として許容される担体または媒体、および任意成分を含み得る。そのような化粧品として許容される担体、媒体、および任意成分は、多数、当技術分野において既知であり、皮膚への適用に適している担体および媒体を含む(例えば、日焼け止め、クリーム、ミルク、ローション、マスク、セラム等)(例えば、米国特許第6,645,512号および第6,641,824号を参照されたい)。特に、望ましいかもしれない任意成分には、以下に制限はされないが、吸着剤、抗にきびアクティブ(actives)、抗凝固剤、抗セルライト剤、抗起泡剤、抗真菌アクティブ、抗炎症アクティブ、抗微生物アクティブ、抗酸化剤、制汗/脱臭アクティブ、抗皮膚萎縮アクティブ、抗ウイルス剤、抗しわアクティブ、人工日焼け剤および加速剤、収れん剤、バリア修復剤、結合剤、緩衝剤、増量剤、キレート化剤、着色剤、色素、酵素、精油、フィルム形成剤、風味剤、香料、湿潤剤、親水コロイド、光拡散剤、ネイルエナメル、不透明化剤、蛍光増白剤、光修飾剤、微粒子、芳香剤、pH調整剤、隔離剤、スキンコンディショナー/モイスチャライザー、肌質修飾剤、皮膚保護剤、スキン・センセーツ(skin sensates)、皮膚治療剤、皮膚剥離剤、スキン・ライトニング剤、スキン・スージング(soothing)および/またはヒーリング(healing)剤、スキン・シックナー(thickeners)、日焼け止めアクティブ、局所麻酔剤、ビタミン化合物、ならびにそれらの組み合わせが含まれる。
【0060】
LOXL1エンハンサー組成物は、直腸または膣からの送達のための(例えば、カカオ脂およびその他のグリセリドのような従来の坐剤用基剤を含む)坐剤または保留浣腸剤の形態でも調製され得る。そのような坐剤は、特に、骨盤臓器に影響を与える弾性繊維の欠損に関連した状態、例えば、とりわけ骨盤臓器脱および/または尿失禁の治療のため使用され得る。
【0061】
核酸を含むLOXL1エンハンサー組成物は、DNAワクチンのような核酸薬剤の投与に適した方法によっても投与され得る。これらの方法には、遺伝子銃、バイオインジェクター(bio-injectors)、および皮膚パッチが含まれ、米国特許第6,194,389号に開示された微粒子DNAワクチン技術、および米国特許第6,168,587号に開示されたような粉末型ワクチンによる哺乳動物経皮無針予防接種のような無針法も含まれる。さらに、とりわけ、Hamajima et al.,Clin.Immunol.Immunopathol.88(2),205-10(1998)に記載されたような、鼻腔内送達が可能である。(例えば、米国特許第6,472,375号に記載されたような)リポソーム、およびマイクロカプセル化も、使用され得る。(例えば、米国特許第6,471,996号に記載されたような)生分解性のターゲティング可能な微粒子送達系も、使用され得る
【0062】
一つの態様において、LOXL1エンハンサー組成物は、インプラントおよびマイクロカプセル化送達系を含む放出制御製剤のような、身体からの迅速な排除に対して防御するであろう担体を用いて調製される。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸のような生分解性の生体適合性のポリマーが使用され得る。そのような製剤は、当技術分野において既知の技術を使用して調製され得る。材料は、例えば、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Incから商業的に入手されてもよい。(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体により感染細胞へとターゲティングされたリポソームを含む)リポソーム懸濁物も、薬学的に許容される担体として使用され得る。これらは、例えば、米国特許第4,522,811号に記載されたような、当業者に既知の方法に従い調製され得る。
【0063】
薬学的組成物は、弾性繊維の欠損に関連した状態の治療または予防のための投与のための説明書と共に、容器、パック、またはディスペンサに含まれ得る。
【0064】
スクリーニング法
本発明は、LOXL1ポリペプチドもしくは核酸と特異的に結合し、かつ/または、例えば、LOXL1発現もしくはLOXL1活性を調整する、例えば、それらに対する増強もしくは阻害効果を有している調整剤、即ち、候補化合物もしくは候補薬剤、またはテスト化合物もしくはテスト薬剤(例えば、ポリペプチド、ペプチド、ペプチドミメティック、ペプトイド、低分子、またはその他の薬物)を同定する方法(本明細書中、「スクリーニングアッセイ」とも呼ばれる)をさらに提供する。このようにして同定された化合物は、治療プロトコルにおいてLOXL1ポリペプチドの活性を調整するため、LOXL1ポリペプチドの生物学的機能を同化するため、または正常なLOXL1遺伝子相互作用を破壊する化合物を同定するため、使用され得る。LOXL1ポリペプチドの活性または発現を正に調整する(即ち、増加させる)化合物は、LOXL1エンハンサーである。いくつかの態様において、テスト化合物は、LOXL1の活性または発現を調整する能力が未知の化合物である。いくつかの態様において、候補化合物は、LOXL1の活性または発現を調整する証明された能力を有する化合物である。
【0065】
一つの態様において、本発明は、LOXL1ポリペプチドまたはその生物学的活性を有する断片の基質である候補化合物またはテスト化合物をスクリーニングするためのアッセイを提供する。もう一つの態様において、本発明は、LOXL1ポリペプチドまたはその生物学的活性を有する断片と結合するか、またはそれらの活性を調整する候補化合物またはテスト化合物をスクリーニングするためのアッセイを提供する。
【0066】
本発明のテスト化合物は、以下のものを含む、当技術分野において既知のコンビナトリアルライブラリー法において、多数のアプローチを使用して入手され得る:生物学的ライブラリー;ペプトイド(peptoid)ライブラリー(酵素分解に対して抵抗性であるが、にも関わらず生理活性を有している新規の非ペプチド骨格を含む、ペプチドの機能性を有している分子のライブラリー;例えば、Zuckermann et al.,J.Med.Chem.37,2678-2685(1994)を参照されたい);空間にアドレス可能な平行の固相または液相のライブラリー;逆重畳積分を必要とする合成ライブラリー法;「1ビーズ1化合物」ライブラリー法;およびアフィニティクロマトグラフィ選択を使用した合成ライブラリー法。生物学的ライブラリーおよびペプトイドライブラリーのアプローチは、ペプチドライブラリーに制限されるが、他の四つのアプローチは、ペプチド、非ペプチドオリゴマー、または低分子の化合物ライブラリーに適用可能である(Lam,Anticancer Drug Des.12,145(1997))。
【0067】
分子ライブラリーの合成のための方法の例は、当技術分野において、例えば、以下において見出され得る:DeWitt et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90,6909(1993);Erb et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.91,11422(1994);Zuckermann et al.,J.Med.Chem.37,2678(1994);Cho et al.,Science 261,1303(1993);Carrell et al.,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33,2059(1994);Carell et al.,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33,2061(1994);およびGallop et al.,J.Med.Chem.37,1233(1994)。
【0068】
化合物のライブラリーは、溶液中(例えば、Houghten,Biotechniques 13,412-421(1992))、またはビーズ上(Lam,Nature 354,82-84(1991))、チップ上(Fodor,Nature 364,555-556(1993))、細菌上(Ladner、米国特許第5,223,409号)、胞子上(Ladner、米国特許第5,223,409号)、プラスミド上(Cull et al.,Proc Natl Acad Sci U.S.A.89,1865-1869(1992))、またはファージ上(Scott and Smith,Science 249,386-390(1990);Devlin,Science 249,404-406(1990);Cwirla et al.,Proc.Natl.Acad.Sci U.S.A.87,6378-6382(1990);Felici,J.Mol.Biol.222,301-310(1991);Ladner,supra)に呈示され得る。
【0069】
一つの態様において、アッセイは、LOXL1ポリペプチドまたはその生物学的活性を有する断片を発現する細胞が、テスト化合物と接触させられ、テスト化合物のLOXL1活性を調整する能力が決定される、細胞に基づくアッセイである。テスト化合物のLOXL1活性を調整する能力の決定は、例えば、弾性繊維形成、またはエラスチン、トロポエラスチン、および/もしくはデスモシンのレベルをモニタリングすることにより達成され得る。いくつかの態様において、アッセイは、培養細胞の細胞外マトリックス中のデスモシンレベルを決定することを含む。細胞は、例えば、哺乳動物、例えば、ヒトに由来し得る。いくつかの態様において、アッセイは、例えば、合成ペプチド基質、例えば、1,5-ジアミノペンタン(蛍光アッセイを記載しているPalamakumbura et al.,Analyt.Biochem.300,245-251(2002)を参照されたい)、またはトロポエラスチンの全部もしくは一部(エラスチン・モノマー)(Borel et al.,J.Biol.Chem.276,48944-48949(2001)参照)を使用して、インビトロで直接、LOXL1リジルオキシダーゼ活性がアッセイされるものである。多数のLOXL1活性のアッセイが、当技術分野において既知である。例えば、Palamakumbura et al.,supra(2002)、Borel et al.,supra(2001);およびKagan and Li,supra(2003)中に引用された参考文献を参照されたい。
【0070】
テスト化合物の、(i)第二の化合物、例えば、エラスチンのようなLOXL1基質とのLOXL1の結合を調整する能力、または(ii)LOXL1と直接結合する能力も、評価され得る。これは、例えば、化合物、例えば、基質のLOXL1との結合が、複合体内の標識された化合物、例えば、基質を検出することにより決定され得るよう、化合物、例えば、基質を、放射性同位体または酵素標識とカップリングすることにより達成され得る。または、複合体内のLOXL1のLOXL1基質との結合を調整するテスト化合物の能力をモニタリングするため、LOXL1が、放射性同位体または酵素標識とカップリングされてもよい。例えば、化合物(例えば、LOXL1基質)は、125I、35S、14C、または3Hにより直接的または間接的に標識され得、放射線放射の直接計数により、またはシンチレーション計数により放射性同位体が検出され得る。または、化合物は、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、またはルシフェラーゼにより酵素的に標識され得、適切な基質の生成物への変換の決定により、酵素標識が検出され得る。
【0071】
LOXL1と相互作用するテスト化合物の能力は、反応体のうちのいずれかを標識することにより、または標識せずに評価され得る。例えば、マイクロフィジオメーター(microphysiometer)が、化合物またはLOXL1のいずれかを標識することなく、化合物のLOXL1との相互作用を検出するために使用され得る。McConnell et al.,Science 257,1906-1912(1992)。「マイクロフィジオメーター」(例えば、Cytosensor)は、光アドレス可能な電位差測定センサー(LAPS)を使用して、細胞がその環境を酸性化する速度を測定する分析装置である。この酸性化速度の変化が、化合物とLOXL1との間の相互作用の指標として使用され得る。
【0072】
さらにもう一つの態様において、LOXL1ポリペプチドまたはその生物学的活性を有する断片が、テスト化合物と接触させられ、テスト化合物のLOXL1ポリペプチドまたはその生物学的活性を有する断片と結合する能力が評価される、無細胞アッセイが提供される。いくつかの態様において、本発明のアッセイにおいて使用されるLOXL1ポリペプチドの生物学的活性を有する断片は、非LOXL1分子との相互作用に関与する断片、例えば、高い表面確率スコア(surface probability scores)を有する断片を含む。
【0073】
可溶型および/または膜会合型の単離されたポリペプチド(例えば、LOXL1ポリペプチドまたはその生物学的活性を有する断片)が、本発明の無細胞アッセイにおいて使用され得る。膜会合型のポリペプチドが使用される場合には、可溶化剤を利用することが望ましいかもしれない。そのような可溶化剤の例には、n-オクチルグルコシド、n-ドデシルグルコシド、n-ドデシルマルトシド、オクチノイル-N-メチルグルカミド、デカノイル-N-メチルグルカミド、Triton(登録商標)X-100、Triton(登録商標)X-114、Thesit(登録商標)、イソトリデシ(Isotridecy)ポリ(エチレングリコールエーテル)n、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-l-プロパンスルホネート(CHAPS)、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホネート(CHAPSO)、またはN-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネートのような非イオン性界面活性剤が含まれる。
【0074】
無細胞アッセイは、LOXL1ポリペプチドおよびテスト化合物の反応混合物を調製すること、ならびに二つの成分を相互作用させ結合させ、それにより、除去および/または検出され得る複合体を形成させるために十分な条件および時間で、反応を進行させることを含む。
【0075】
二分子間の相互作用は、例えば、蛍光エネルギー転移(FET)を使用して検出され得る(例えば、Lakowiczら、米国特許第5,631,169号;Stavrianopoulosら、米国特許第4,868,103号を参照されたい)。第一の「ドナー」分子上のフルオロフォア標識は、その放射された蛍光エネルギーが、第二の「アクセプター」分子上の蛍光標識により吸収され、次に、それが、吸収されたエネルギーによって蛍光を発することができるよう、選択される。または、「ドナー」ポリペプチド分子は、単純に、トリプトファン残基の天然の蛍光エネルギーを利用してもよい。「アクセプター」分子標識が「ドナー」のものと区別され得るよう、異なる波長の光を放射する標識が選択される。標識間のエネルギー転移の効率は、分子を隔てている距離に関係しているため、分子間の空間的な関係が査定され得る。分子間で結合が起こる場合に、アッセイ中の「アクセプター」分子標識の蛍光放射が最大になるべきである。FET結合イベントは、当技術分野において既知の蛍光測定検出手段を通して(例えば、蛍光計を使用して)、便利に測定され得る。
【0076】
もう一つの態様において、LOXL1ポリペプチドの標的分子と結合する能力の決定は、リアルタイムのBiomolecular Interaction Analysis(BIA)(例えば、Sjolander and Urbaniczky,Anal.Chem.63,2338-2345(1991)およびSzabo et al.,Curr.Opin.Struct.Biol.5,699-705(1995)を参照されたい)を使用して達成され得る。「表面プラスモン共鳴」または「BIA」は、反応体を標識することなく、リアルタイムで生体分子特異的な相互作用を検出する(例えば、BIAcore)。(結合イベントの指標となる)結合表面の量の変化によって、表面近傍の光の屈折率が改変され(表面プラスモン共鳴(SPR)の視覚的現象)、リアルタイムの生物学的分子間の反応の指標として使用され得る検出可能なシグナルが生じる。
【0077】
一つの態様において、LOXL1ポリペプチドもしくはその活性断片、またはテスト化合物のいずれかが、固相上に係留される。固相上に係留されたLOXLl/テスト化合物複合体が、反応の終了時に検出され得る。典型的には、LOXL1ポリペプチドが、固体表面に係留され、(係留されていない)テスト化合物が、当技術分野において既知であり本明細書に記述された検出可能な標識により、直接的または間接的に標識され得る。
【0078】
ポリペプチドの一方または両方の複合体化型の非複合体化型からの分離を容易にし、さらに、アッセイの自動化に適応させるため、LOXL1、抗LOXL1抗体、またはその標的分子のいずれかを固定化することが望ましいかもしれない。テスト化合物のLOXL1ポリペプチドとの結合、またはテスト化合物の存在下および非存在下におけるLOXL1ポリペプチドの標的分子との相互作用は、反応物を含有するのに適している任意の容器において達成され得る。そのような容器の例には、マイクロタイタープレート、試験管、および微量遠心管が含まれる。一つの態様において、ポリペプチドの一方または両方をマトリックスに結合させることを可能にするドメインを付加する融合ポリペプチドが提供され得る。例えば、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ/LOXLl融合ポリペプチドまたはグルタチオン-S-トランスフェラーゼ/ペプチドテスト化合物融合ポリペプチドを、グルタチオンSepharose(商標)ビーズ(Sigma Chemical,St.Louis,MO)またはグルタチオン誘導体化マイクロタイタープレートに吸着させ、次いで、それらを、テスト化合物、またはテスト化合物および未吸着の標的ポリペプチドまたはLOXL1ポリペプチドのいずれかと組み合わせ、混合物を、複合体形成にとって好都合な条件(例えば、塩およびpHに関する生理学的条件)の下でインキュベートすることができる。インキュベーションの後、ビーズまたはマイクロタイタープレートウェルが未結合成分を除去するために洗浄され、ビーズの場合、マトリックスが固定化され、複合体が、例えば、上記のようにして、直接的または間接的に決定される。または、複合体をマトリックスから解離させ、LOXL1の結合または活性のレベルを当技術分野において既知の技術を使用して決定してもよい。
【0079】
LOXL1ポリペプチドまたはテスト化合物のいずれかをマトリックス上に固定化するためのその他の技術は、ビオチンとストレプトアビジンとの接合を使用することを含む。ビオチン化されたLOXL1ポリペプチドまたはテスト化合物を、当技術分野において既知の技術(例えば、biotinylation kit,Pierce Chemicals,Rockford,IL)を使用して、ビオチン-NHS(N-ヒドロキシ-スクシンイミド)から調製し、例えば、ストレプトアビジンでコーティングされたマルチ・ウェル(例えば、96穴)プレート(Pierce Chemical)のウェルに固定化することができる。
【0080】
アッセイを実施するため、固定化されていない成分が、係留された成分を含有しているコーティングされた表面に添加される。反応が完了した後、形成された複合体が固体表面に固定化され続けるような条件の下で、未反応成分が、(例えば、洗浄により)除去される。固体表面に係留された複合体の検出は、多数の方式で達成され得る。あらかじめ固定化されていない成分が予備標識される場合、表面に固定化された標識の検出は、複合体が形成されたことを示す。あらかじめ固定化されていない成分が予備標識されない場合には、例えば、固定化された成分に特異的な標識された抗体(抗体は、直接的に標識されていてもよいし、または、例えば、標識された抗Ig抗体を用いて間接的に標識されていてもよい)を使用した間接標識が、表面に係留された複合体を検出するために使用され得る。
【0081】
一つの態様において、このアッセイは、LOXL1ポリペプチドのその標的分子との結合に干渉しない、LOXL1ポリペプチドまたはテスト化合物に特異的な抗体を利用して実施される。そのような抗体は、プレートのウェルに誘導体化され、未結合の標的またはLOXL1ポリペプチドが抗体接合によりウェルに捕捉される。そのような複合体を検出する方法には、GSTに固定化された複合体に関して上に記載されたものに加え、LOXL1ポリペプチドまたは標的分子と反応性の抗体を使用した複合体の免疫検出が含まれ、さらに、LOXL1ポリペプチドまたは標的分子に関連した酵素活性の検出に依る酵素結合アッセイが含まれる。
【0082】
または、無細胞アッセイは液相で実施され得る。そのようなアッセイにおいて、反応生成物は、これらに制限はされないが、以下のものを含む当技術分野において既知の多数の技術によって、未反応成分から分離される:分画遠心法(例えば、Rivas and Minton,Trends Biochem.Sci.18,284-287(1993)参照);クロマトグラフィ(ゲル濾過クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ);電気泳動;(例えば、Ausubel et al.,eds.,Current Protocols in Molecular Biology 1999,J.Wiley:New York.を参照されたい)、および免疫沈降(例えば、Ausubel et al.,eds.(1999)supra参照)。そのような樹脂およびクロマトグラフィ技術は、当業者に既知である(例えば、Heegaard,J.Mol.Recognit.11,141-148(1998);Hage and Tweed,J.Chromatogr.B.Biomed.Sci.Appl.699:499-525(1997) を参照されたい)。さらに、本明細書に記載されたような蛍光エネルギー転移も、溶液から複合体をさらに精製することなく、結合を検出するために便利に利用され得る。
【0083】
いくつかの態様において、アッセイは、アッセイ混合物が形成されるよう、LOXL1ポリペプチドまたはその生物学的活性を有する断片を、LOXL1と結合する既知の化合物(例えば、フィビュリン-5またはトロポエラスチン)と接触させること、アッセイ混合物をテスト化合物と接触させること、およびテスト化合物のLOXL1ポリペプチドと相互作用する能力を決定することを含み、ここで、テスト化合物のLOXL1ポリペプチドと相互作用する能力の決定は、既知の化合物と比較して優先的に、LOXL1またはその生物学的活性を有する断片と結合するテスト化合物の能力の決定を含む。
【0084】
本明細書に記載されたLOXL1ポリペプチドは、ポリペプチド、例えば、トロポエラスチンまたはフィビュリン-5のような一つまたは複数の細胞または細胞外の高分子とインビボで相互作用することができる。この考察のために、そのような細胞および細胞外の高分子は、本明細書において「結合パートナー」と呼ばれる。そのような相互作用を破壊または増強する化合物は、LOXL1ポリペプチドの活性の調節において有用であり得る。そのような化合物には、以下に制限はされないが、抗体、ペプチド、および低分子のような分子が含まれる。別の態様において、本発明は、LOXL1結合パートナーに対するLOXL1ポリペプチドの活性を調整するテスト化合物の能力を決定する方法を提供する。
【0085】
LOXL1ポリペプチドとその細胞または細胞外の(一つまたは複数の)結合パートナー(例えば、トロポエラスチンまたはフィビュリン-5)との間の相互作用を調整(例えば、破壊または増強)する化合物を同定するためには、LOXL1ポリペプチドおよび結合パートナーを含有している反応混合物が、二つの生成物が複合体を形成することを可能にするために十分な条件および時間で、調製される。可能性のある調整剤を試験するために、反応混合物は、テスト化合物の存在下および非存在下で準備される。テスト化合物は最初に反応混合物に含まれてもよいし、または、LOXL1遺伝子およびその細胞または細胞外の結合パートナーの添加より後の時点で添加されてもよい。参照として、テスト化合物を含まないか、またはプラセボを含む対照反応混合物が、インキュベートされ得る。次いで、LOXL1ポリペプチドと細胞もしくは細胞外の結合パートナーとの間の複合体の形成、またはエラスチンポリマー、例えば、エラスチン二量体の形成が検出される。複合体が対照反応においては形成され、テスト化合物を含有している反応混合物においては形成されない場合、それは、化合物が、LOXL1ポリペプチドと相互作用結合パートナーとの相互作用を破壊することを示す。参照反応と比較して、より多い複合体のテスト反応における形成、またはより迅速なテスト反応における複合体の形成は、テスト化合物が、LOXL1ポリペプチドと結合パートナーとの相互作用を増強することを示す。さらに、テスト化合物および正常LOXL1ポリペプチドを含有している反応混合物における複合体形成は、テスト化合物および変異LOXL1ポリペプチド、またはもう一つのリジルオキシダーゼ、例えば、LOX、LOXL2、LOXL3、もしくはLOXL4を含有している反応混合物における複合体形成とも比較され得る。この比較は、変異LOXL1ポリペプチドの相互作用を調整するが、正常LOXL1ポリペプチドの相互作用は調整しない化合物を同定するか、またはLOXL1に特異的に影響を与える化合物を同定することが望ましい場合に、重要であり得る。
【0086】
さらにもう一つの局面において、LOXL1ポリペプチドは、LOXL1と結合または相互作用し(「LOXLl結合ポリペプチド」または「LOXL1-bp」)、かつLOXL1活性に関与しているその他のポリペプチドを同定するための、ツーハイブリッドアッセイまたはスリーハイブリッドアッセイ(例えば、米国特許第5,283,317号;Zervos et al.,Cell 72,223-232(1993);Madura et al.,J.Biol.Chem.268,12046-12054(1993);Bartel et al.,Biotechniques 14,920-924(1993);Iwabuchi et al.,Oncogene 8,1693-1696(1993);および国際特許出願番号WO94/10300参照)において、「ベイト・タンパク質」として使用され得る。そのようなLOXL1-bpは、LOXL1ポリペプチドの活性の活性化剤または阻害剤であり得る
【0087】
ツーハイブリッド系は、分離可能なDNA結合ドメインおよび活性化ドメインからなる大部分の転写因子のモジュールの性質に基づく。簡単に説明すると、アッセイは、二つの異なるDNA構築物を利用する。一つの構築物においては、LOXL1ポリペプチドをコードする遺伝子が、既知の転写因子(例えば、GAL-4)のDNA結合ドメインをコードする遺伝子と融合される。他方の構築物においては、未同定のポリペプチド(「プレイ」または「試料」)をコードする、例えば、DNA配列ライブラリーからのDNA配列が、既知の転写因子の活性化ドメインをコードする遺伝子と融合される。(または、LOXL1ポリペプチドが活性化剤ドメインと融合されてもよい。)「ベイト」ポリペプチドと「プレイ」ポリペプチドとがインビボで相互作用し、LOXL1依存性の複合体を形成し得る場合には、転写因子のDNA結合ドメインと活性化ドメインとが密接に接近するようになる。この接近は、転写因子に対して応答性の転写調節部位と機能的に連結されたレポーター遺伝子(例えば、lacZ)の転写を可能にする。レポーター遺伝子の発現が検出され、機能性の転写因子を含有している細胞コロニーが単離され、LOXL1ポリペプチドと相互作用するポリペプチドをコードするクローニングされた遺伝子を入手するために使用され得る。
【0088】
もう一つの態様において、LOXL1発現の調整剤、例えば、転写活性化剤または翻訳エンハンサーは、本明細書に記載された方法において同定され使用され得る。例えば、細胞または無細胞の混合物が、テスト化合物または候補化合物と接触させられ、LOXL1 mRNAまたはポリペプチドの発現が、テスト化合物または候補化合物の非存在下におけるLOXL1 mRNAまたはポリペプチドの発現のレベルと比べて、評価される。LOXL1 mRNAまたはポリペプチドの発現が、テスト化合物または候補化合物の非存在下よりも存在下の方が大きい(即ち、統計的に有意に大きい)場合、そのテスト化合物または候補化合物は、LOXL1 mRNAまたはポリペプチドの発現の刺激剤として同定される。または、LOXL1 mRNAまたはポリペプチドの発現が、テスト化合物または候補化合物の非存在下よりも存在下の方が少ない(即ち、統計的に有意に少ない)場合、そのテスト化合物または候補化合物は、LOXL1 mRNAまたはポリペプチドの発現の阻害剤として同定される。LOXL1 mRNAまたはポリペプチドの発現のレベルは、LOXL1 mRNAまたはポリペプチドを検出するための本明細書に記載された方法によって決定され得る。
【0089】
もう一つの局面において、本発明は、本明細書に記載されたアッセイのうちの二つ以上の組み合わせに関する。例えば、調整剤は、細胞に基づくアッセイまたは無細胞アッセイを使用して同定され得、LOXL1ポリペプチドの活性を調整するその薬剤の能力が、インビボで、例えば、本明細書に記載されたような、弾性繊維の欠損に関連した疾患の動物モデルのような動物において、確認され得る。
【0090】
本発明は、さらに、上記スクリーニングアッセイにより同定された新規の薬剤に関する。従って、そのような薬剤による治療の効力、毒性、副作用、または作用機序を決定するために、適切な動物モデルにおいて、本明細書に記載されたようにして同定された薬剤(例えば、LOXL1調整剤、アンチセンスLOXL1核酸分子、LOXL1特異的抗体、またはLOXL1結合パートナー)をさらに使用することは、本発明の範囲内である。さらに、上記スクリーニングアッセイにより同定された新規薬剤は、本明細書に記載されたような治療のために使用され得る。
【0091】
LOXL1ポリペプチドの発現または活性に対する薬剤(例えば、薬物)の影響のモニタリングは、臨床試験において適用され得る。例えば、LOXL1遺伝子発現、ポリペプチドレベルを増加させるか、またはLOXL1活性をアップレギュレートすることが、本明細書に記載されたようなスクリーニングアッセイにより決定された薬剤の有効性は、減少したLOXL1遺伝子発現、ポリペプチドレベル、またはダウンレギュレートされたLOXL1活性を示す対象の臨床試験においてモニタリングされ得る。または、LOXL1遺伝子発現、ポリペプチドレベルを減少させるか、またはLOXL1活性をダウンレギュレートすることが、スクリーニングアッセイにより決定された薬剤の有効性は、増加したLOXL1遺伝子発現、ポリペプチドレベル、またはアップレギュレートされたLOXL1活性を示す対象の臨床試験においてモニタリングされ得る。そのような臨床試験においては、LOXL1遺伝子の発現または活性、そして、好ましくは、例えば、LOXL1関連障害に関与しているその他の遺伝子の発現または活性が、特定の細胞の表現型の「読み取り」またはマーカーとして使用され得る。
【0092】
以下の実施例において本発明をさらに説明するが、実施例は、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を制限するものではない。
【0093】
実施例
実施例1:正常マウスにおけるLOXL1発現
正常マウスにおけるLOXL1の発現パターンを調査するため、免疫局在実験を実施した。
【0094】
二つのポリクローナル抗LOXLl抗体および一つの抗LOX抗体を、(GenBankアクセッション番号AAK97375およびAAH18439に基づく)Hisタグ化組換えポリペプチドによるウサギの免疫感作により作製した。一つの抗体、(マウスLOXL1のアミノ酸残基175〜313に及ぶ)α-LOXL1Nは、LOXL1に特有であるが、その分解産物(36kDa;図1C)は認識しない。三つのLOXL1バリアントポリペプチドが図1Cに見られる:分泌シグナル・ペプチドを含まない予測された全長型と一致する64kDa、シグナル・ペプチドを含む全長型であると推定される67kDaのバンド、およびC末端の保存されたドメインを保持している分解産物と一致する36kDaのバンド(Borel et al.,J.Biol.Chem.276,48944-48949(2001))。後者の解釈は、このバンドがLOXL1N抗体により検出されなかったという観察により支持される。イムノブロッティングは、Loxl1-/-変異体における原型LOXの補償的増加を示さない。二つのLOXバリアント(24kDaおよび32kDa)が、成体大動脈に検出される。
【0095】
(残基313〜607に及ぶ)α-LOXLlC抗体および(マウスLOXの残基204〜411に及ぶ)α-LOX抗体は、LOXファミリーメンバー間で保存されているC末端領域を包含していた。単一特異的な抗体を得るため、アフィニティ精製されたα-LOXLlC抗体およびα-LOX抗体を、アガロースビーズ(AminoLink Plus,Pierce)上に固定化されたそれぞれの相同ポリペプチドを含有しているカラムに通した。
【0096】
ウサギにおいて作成されたフィビュリン-5抗体(BSYN1923)は、以前に記載された(Yanagisawa et al.,Nature 415,168-171(2002))。以下のエラスチンならびにフィブリリン-1および2の抗体は、Elastin Products Company(Owensville,MO)から入手された:PR385(ウサギ抗マウスエラスチン、エキソン6〜17);PR387(ウサギ抗マウスエラスチン、エキソン31〜36);LOXL1、LOX、またはフィビュリン-5によるエラスチンの二重標識に使用されたRT675(ヤギ抗ラットエラスチン);PR210AP(ウサギ抗フィブリリン-1);PR225(ウサギ抗フィブリリン-2)。EBP抗体(EBP2112)(Mochizuki et al.,J.Biol.Chem.277,44854-44863(2002))は、A.Hinek博士(The Hospital for Sick Children,Toronto,Canada)より譲り受けた。
【0097】
細胞外マトリックスにおけるLOXLlおよびフィビュリン-5の共局在を調査するため、細胞外マトリックス材料を沈着させることが既知のラット動脈平滑筋細胞系(PAC-1)(Rothman et al.,Circulation 86,1977-1986(1992))を培養し、LOXL1およびフィビュリン-5に関する二重標識免疫蛍光に使用した。全長のフィビュリン-5およびLOXL1のcDNA(シグナルペプチド配列なし)を、それぞれpcDNA3ベクターおよびpEGFP-C2ベクターへ挿入した。COS-7細胞における一過性トランスフェクションの後、組換えポリペプチドを、EGFPタグの補助により、フィビュリン-5抗体による染色によって可視化した。
【0098】
Alexa 488(緑)およびAlexa 594(赤)と結合した二次抗体は、Molecular Probes(Eugene,OR)からであった。LOXL1およびフィビュリン-5に関する二重標識を実施するため、LOXL1抗体を、Mini-Biotinタンパク質標識キット(Molecular Probes)を使用してビオチンでタグ化し、蛍光色素結合ストレプトアビジンにより検出した。イムノブロッティングのため、抗体PR385により探索された全組織ホモジネートを、可溶性エラスチン(モノマーおよび二量体)を検出するために使用した。特記しない限り、組織はまずPBSで抽出され、次いで6M尿素で抽出され、尿素抽出物が、LOXL1およびLOXのイムノブロッティング分析に使用された。
【0099】
野生型マウスにおいて、LOXL1は、弾性繊維と共局在する安定的な原繊維パターンで正常に存在した。変異マウスにおいては、エラスチン染色が、断片または凝集物として出現し、変性条件(例えば、6M尿素)下でのみ完全に可溶化された。
【0100】
子宮器官におけるLOXL1発現は、動物が加齢するにつれ減衰した。マウスの「閉経期」にほぼ相当する齢である18ヶ月で、LOXL1 mRNAおよびタンパク質は、ほぼ消滅した。LOXL1の減衰と共に、トロポエラスチンが蓄積し、エラスチン繊維が失われた(実施例8参照)。従って、子宮器官における弾性繊維の維持は、加齢するにつれ、野生型動物において「欠損」するようになる。
【0101】
実施例2:LOXL1ノックアウトマウス
弾性繊維形成におけるLOXL1の可能性のある役割を調査するため、マウスにおいて、遺伝子ターゲティングによりその発現を除去した(図1A〜B)。簡単に説明すると、Loxl1遺伝子(GenBankアクセッションはBC037999である)のエキソン1に隣接する6kbおよび3kbのゲノム断片を、129/SvマウスDNAからPCRにより増幅した。これらの断片を、pGT-N29ベクターのneor遺伝子の片側にクローニングした。ターゲティングベクターは、ネガティブ選択マーカーとしてジフテリア毒素発現カセット(DTA)も含有していた(図1A)。ターゲティングベクターを直鎖化し、Rl胚性幹(ES)細胞へ電気穿孔した。多数のターゲティングされたESクローンを、PCRにより同定し(図1B)、ターゲティングされたクローンをC57BL/6胚盤胞へ微量注射し、キメラをC57BL/6マウスと交雑させた。ターゲティングされた対立遺伝子に関してヘテロ接合性またはホモ接合性のマウスをPCRにより同定した(図1B)。プライマー配列は表1に示される。フィビュリン-5ホモ接合性変異マウスは以前に記載された(Yanagisawa et al.,Nature 415,168-171(2002))。
【0102】
LOXLl欠損マウスは生存可能であった。雌は、最初、繁殖性であり、生存可能な子孫を産出したが、最初の同腹仔を生んでから約2〜3日後に、約20%が骨盤脱を起こした。産後2日目および14日目のLoxl1-/-雌マウスにおいて、有意な骨盤臓器脱が見られた。脱出はPP14に退縮したが、大きな尿生殖器の膨れにより示されるように、永久の骨盤下垂が残った。WTマウスにおいては有意な脱出は見られず;全てのLoxl1-/-マウスが、二回目または三回目の同腹仔の分娩の後に脱出を発症した。脱出した組織は、時間とともに(一般に数週間)退縮したが、骨盤底に対する永久の傷害を示す顕著な骨盤下垂が残った。解剖された骨盤組織の肉眼的検査は、多くの異常を見出した。膣壁の円周は正常サイズの数倍であり、WTと比較して極めて異なる構成を有していた。尿道は、もはや、尿道下膣壁に緊密に付着しておらず、尿道は過度に可動性となっていた。子宮は、拡張し、より薄く見え(ほぼ半透明)、復元力を欠いていた。子宮頚部は、復元力の欠損と一致して、正常サイズの数倍にまで引き伸ばされていた。周囲の結合組織も、WTと比較して弛緩しているようであり、張力を欠いていた。組織学的調査によると、WTマウスの尿道は、管腔壁の密接な並置を示したが、変異体のものは、乏しい並置、尿道傍結合組織における低下した弾性繊維含有量、開いた尿道管腔、および結合組織の全般的に弛緩した組織化を示す。
【0103】
両方の性別のLoxl1-/-マウスが、肉眼的検査により変異肺において明白であった、特に、末梢に沿った、肺の拡大した気胞;野生型と比較して増加した皮膚のゆるみおよび余剰;直腸脱;ならびに腸憩室を発症した。
【0104】
(表1)プライマー配列

【0105】
実施例3:産前および産後のLOXL1ノックアウトマウスの子宮器官における弾性繊維の解剖学
LOXL1ノックアウトマウスの子宮器官における弾性繊維の解剖学を調査するために、イムノローカライゼーション(immunolocalization)実験を実施した。
【0106】
マウス組織を4%ホルムアルデヒドで固定し、それらをパラフィン包埋した。多数の組織の組織化学的染色(VerhoeffおよびHartの染色)および組織学的調査を、標準的な方法論を使用して、パラフィン包埋された切片に対して実施した。電子顕微鏡検のため、組織をカコジル酸ナトリウム緩衝液中の2.5%グルタルアルデヒド、1%ホルムアルデヒドで固定し、Epon包埋した。固定されていない凍結切片のイムノブロッティングおよび免疫蛍光染色は、記載されたようにして実施された(Hong et al.,J.Biol.Chem.276,12091-12099(2001))。
【0107】
ノックアウトマウスの子宮器官における弾性繊維は厚く、直径が3μmにもなり、Nomarskiレンズ下で顕著であった。未産のLoxl1-/-雌において、子宮の弾性繊維は、正常に見えた。しかしながら、妊娠および出産により、変異体は、結合組織リモデリングにおいて正常な弾性繊維を構築することができなくなった。産後1週間目に調査したところ、Loxl1-/-マウスは、免疫染色により示されるような断片化されたエラスチンポリマーを有していた。VerhoeffおよびHartの組織化学的染色も、弾性繊維の欠損を示した。電子顕微鏡検によって、コラーゲン原繊維は、比較可能な存在量および形態学であることが示された。
【0108】
注目すべきことに、より高齢の産後子宮組織においては、エラスチン重合の欠陥が、若齢(30日)の処女子宮組織よりもはるかに明白であり、従って、生殖周期を通したエラスチンポリマーの再沈着におけるLOXL1の高い必要性が示された。
【0109】
実施例4:LOXL1ノックアウトマウスの肺、皮膚、および大動脈における弾性繊維の解剖学
LOXL1ノックアウトマウスの肺、皮膚、および大動脈における弾性繊維の解剖学を調査するため、本明細書に記載されたようにしてイムノローカライゼーションを実施した。
【0110】
上記のようにして、組織学的検査および電子顕微鏡検査を実施した。気管および肺を一緒に除去し、20cmの水圧下で固定した。顕微鏡検査は、弾性繊維の欠陥と一致する、気腫性の変化を示す、変異肺における拡大した肺胞を見出した。皮膚の真皮下層における弾性繊維も、断片化され、減少していた。大動脈の弾性板におけるエラスチンに関する免疫染色は、散剤性で弱く見え、このことから、減少した不正確なエラスチンポリマー沈着が示唆された。これは、混乱したエラスチン・コアおよび無定形エラスチンポリマーの減少を示す超微細構造調査により支持された。イムノブロッティングは、トロポエラスチンが多数の成体組織に蓄積しており、それが、しばしば、架橋された中間体(図2A、72kDa、エラスチン・モノマー(トロポエラスチン);144kDa、エラスチン二量体)の減少を伴うことを示した。
【0111】
これらのデータは、新たなエラスチンポリマーの沈着が、野生型(WT)成体組織において継続されるが、LOXL1の欠損により阻止されることも示唆している。コラーゲン代謝ではなくエラスチン代謝におけるLOXL1の選択的な役割は、それぞれエラスチンおよびコラーゲンの架橋を表す、デスモシンおよびヒドロキシプロリンの測定により支持される(図2B〜C)。デスモシンおよびヒドロキシプロリンの分析を、以前に記載されたようして実施した(Starcher et al.,Connect.Tissue Res.31,133-140(1995))。デスモシンレベルは、多数のLoxl1-/-組織において有意に減少していたが、ヒドロキシプロリンレベルは不変であった。特に、デスモシンは、変異体の産後子宮(PPU)、肺、および皮膚において40〜53%減少していたが、処女子宮(VU)においては減少していなかった(図2B)。野生型組織と変異組織との間に、ヒドロキシプロリン含有量の有意な差は見出されなかった(図2C)。n=5〜10匹。
【0112】
実施例5:野生型マウスにおけるLOXL1のイムノローカライゼーション
LOXL1は、原型LOXと密接な関係にあり、いずれも広範に発現している。基質選択性の差違はインビトロでは検出されなかったが、LOXがLOXL1を補償し得ないこと、および遺伝子削除変異体の表現型がほとんどオーバラップしないこと(Maki et al.,Circulation 106,2503-2509(2002);Hornstra et al.,J.Biol.Chem.278,14387-14393(2003))は、インビボにおける機能的な差違を示唆する。単一特異的な抗体を使用したイムノローカライゼーションによると、LOXL1は、弾性板に密接に関連して見られ、LOXは広く分布していた。皮膚(真皮下層)および子宮(子宮筋層)において、LOXL1は、弾性繊維と完全にオーバラップし、LOXは散在性に分布していた。
【0113】
これらのデータは、LOXL1は弾性繊維形成の部位へ特異的にターゲティングされるが、LOXはそうではないことを示す。従って、LOXL1は、主として、機能性の弾性繊維の形成の先行条件である、空間的に画定された様式でエラスチン沈着を案内するために機能するようである。他方、LOXの局在パターンは、コラーゲンおよびエラスチンの両方の架橋における役割と一致しているようである(Maki et al.,Circulation 106,2503-2509(2002);Hornstra et al.,J.Biol.Chem.278,14387-14393(2003))。
【0114】
実施例6:LOXL1はフィビュリン-5と相互作用する
弾性繊維形成の足場へのLOXL1のターゲティングを説明し得る分子相互作用を決定するため、タンパク質相互作用スクリーニングを酵母ツー・ハイブリッド系を使用して実施した。Matchmaker(商標)Two-Hybrid System 3(Clontech)を、以前に記載されたような酵母ツーハイブリッドスクリーニングのために使用した(Hong et al.,J.Biol.Chem.276,12091-12099(2001))。pACT2ベクターにおける成体ラット肺ライブラリーは、Clontechからであった。一次ライブラリー・スクリーニングは、ベイトとして全長LOXL1を利用した。相互作用ドメインを決定するために、一連の欠失構築物を調製し(図3A;タンパク質概略図の下の水平線)、酵母における同時形質転換により試験した。GSTプルダウンおよび共免疫沈降実験のため、L3およびF3のコーディング配列(図3A)を、それぞれpET-28aベクターおよびpGEX-4Tlベクターへ挿入し、精製された可溶性画分を、GSTプルダウンアッセイのために使用した。Glutathione Sepharose(商標)4 Fast Flowビーズを、GSTおよびGST-L3をプルダウンするために使用し、投入液および溶出液を、イムノブロット上の抗T7タグHRPコンジュゲート(Novagen)およびニワトリ抗GST抗体により探索した。共免疫沈降のため、野生型マウス肺を4M尿素により抽出し、PBSに対して4℃で上清を一夜透析し、α-LOXL1C抗体およびプロテインGアガロースを用いた免疫沈降を実施した。
【0115】
ベイトとしてLOXL1を用いたところ、フィビュリン-5が、可能性のある相互作用パートナーであることが見出した。さらなる分析は、LOXL1の触媒ドメイン(L3)の直ぐN末端側の領域が、フィビュリン-5のC末端部分(F3)と相互作用することを示した(図3A)。インビトロの物理的相互作用を、プルダウンアッセイを使用して確認した(図3B)。組織抽出物からのフィビュリン-5とLOXL1との共免疫沈降(図3C)は、インビボの相互作用を示唆した。細胞培養物において、LOXL1およびフィビュリン-5は、一過性トランスフェクトされたCOS-7細胞において核周囲コンパートメントに共局在し、血管平滑筋細胞により産生された細胞外沈着物に共局在することが示された。培養された血管平滑筋細胞系(PAC-1)により沈着させられた細胞外マトリックスにおいて、二つのポリペプチドは、原繊維パターンおよびドットパターンで一緒に見出される。組織切片において、LOXL1およびフィビュリン-5は、原繊維パターンで完全に共局在しており、それは、エラスチン免疫染色とも完全にオーバラップしていた。興味深いことに、フィビュリン-5の欠損により、LOXL1の原繊維染色パターンが消失したが、その逆はなかった。これらの観察は、フィビュリン-5がLOXL1と無関係の弾性繊維形成の部位に局在すること、およびフィビュリン-5がこれらの部位へのLOXL1の繋留を担っているのかもしれないことを示唆している。他方、LOXL1は、LOXL1の非存在下で増加するフィビュリン-5の可溶性により示されるように、原繊維型のフィビュリン-5を安定化するようである(図3D)。図3Dに示されるように、変異体におけるフィビュリン-5およびEBPは、大部分が、不溶性画分(尿素で抽出可能)から可溶性画分(PBSで抽出可能)へとシフトした。一番右のパネルにおいて、67kDaのバンド(矢じり)はEBPを表す。より小さな(59kDa)ポリペプチドの同一性は不明であるが、それは、以前に子宮に見出されており、より小さいEBPアイソフォームであるかもしれない(Yamamoto et al.,Cell Biol.Int.26,441-449(2002))。
【0116】
フィビュリン-5の可溶性の増加は、LOXL1変異組織におけるエラスチンポリマーの破壊によるのかもしれない。LOXL1の欠損は、弾性繊維と会合することが既知のタンパク質、EBPの可溶性画分も増加させた。ミクロフィブリルの成分であるフィブリリン1および2は、全てのミクロフィブリルが弾性繊維に関連しているとは限らないという事実と一致して、LOXL1の欠損により部分的にしか影響を受けなかった(図3D)。
【0117】
上記のデータは、LOXL1/フィビュリン-5相互作用のインビボの関連性を証明する。さらなる支持は、いずれも弾性繊維形成の特異的な欠陥を示す、二つの変異マウスモデル間の類似性から得られる。一般に、フィビュリン-5変異マウスにおける弾性繊維欠陥は、LOXL1変異体よりも早く顕在化する。例えば、1日齢フィビュリン-5変異体マウスは、大動脈のねじれを示すが;これは、同一齢のLOXL1変異体においては見られない。エラスチン免疫染色により明らかにされるように、若齢(30日齢)LOXL1変異マウスは、子宮器官および皮膚に豊富な弾性繊維を有している。同じアッセイにより、若齢フィビュリン-5変異マウスは、これらの組織に弾性繊維をほとんど有していない。弾性繊維発達におけるLOXL1の役割は除外され得ないが、これらの表現型の差違は、LOXL1変異体において見られた弾性繊維欠陥が、少なくとも一部は、発達の欠陥というよりむしろ、成体組織における弾性繊維の再生の欠陥によるものであるという概念と一致している。
【0118】
実施例7:雌Loxl1-/-マウスにおける尿失禁
尿道は、通常、尿道下膣壁に緊密に付着している。ヒトにおいて、尿道傍結合組織および尿道下膣壁は、確実な閉鎖を維持する尿道の能力における重要な決定要素である(Cheater and Castleden,supra(2000);Ulmsten and Flaconer,supra(1999);Keane and O'Sullivan,Baillieres Best Pract.Res.Clin.Obstet.Gynaecol.14,207-26(2000))。ヒトの尿失禁は性別特異的な病因を有しており、女性においては、出産が主要なリスクファクターである(Romanzi,J.Gend.Specif.Med.4,14-20(2001))。マウスにおいては、脱出および骨盤組織傷害の履歴も、尿道の機能に影響を与え得る。実際、経産loxl1-/-雌は、尿保管を維持することができないようであった。全てのWTマウスおよびloxl1-/-雄マウスにおいて常に存在するであろう、安楽死時の膀胱からの排泄が存在しなかった。loxl1-/-雌の骨盤臓器の解剖は、膀胱が緩んでおり、ほとんどの場合、空であることを見出しており、従って、排泄の欠如の原因としての尿閉は除外された。尿の欠如は、尿生成をシャット・ダウンするであろう腎不全によっても引き起こされ得る。腎臓の濾過機能に関するテスト(血中尿素窒素)および組織学的調査を実施した。いずれも、正常であることが見出され、従って、明らかな腎疾患は除外された。これらの結果は、経産loxl1-/-雌マウスが、効果的でない尿道の閉鎖および尿失禁を発症したことを示す。この解釈は、骨盤底および尿道傍結合組織に対する明らかな傷害と一致している。
【0119】
この仮説をさらに調査するため、尿失禁に関する直接のアッセイを、同一齢の経産WTマウスと比較して、これらのマウスにおいて実施した。これは、長期間にわたり、特別製の排尿チャンバーで、排尿パターンおよび排泄量を記録することにより行われた。リアルタイムで尿排泄量を測定するために設計されたマウス排尿チャンバーは、Columbus Instruments(Columbus,OH)による特別製であった。このチャンバーは、Columbus Instrumentsから提供されたマウス代謝ケージから改作された。排尿チャンバーは、ワイヤーメッシュ底を有しており、それは漏斗に接続されていた。漏斗の内表面は、漏斗内の液体のトラッピングを最小限に抑えるため、融解パラフィンによりコーティングされており、数回使用した後に再コーティングされた。漏斗の直下にはスケールの上に置かれコンピュータに接続された収集チューブがあった。収集チューブの重量の変化が、リアルタイムで継続的にモニタリングされ記録された。最初のテストは、50μlもの小容量の尿滴が、その系により確実に収集され、記録され得ることを確認した。研究を開始するため、24時間、残余なしの飼料(Lactaid商標全乳)を与えた後、マウスをチャンバーの内部に置いた。これは、糞便落下が尿排泄量の測定に干渉するのを防止するためになされた。マウスは、乳を自由に摂取し続け、一匹ずつこのチャンバーでテストされた。データは、Columbus Instrumentsより提供されたMulti-Device Interfaceソフトウェアを使用して分析されプロットされた。
【0120】
データ分析は、群の平均値および標準偏差を計算する一変量統計、ならびに度数分布のプロットを含んでいた。分布の歪みが見られた場合には、(対数への)データの変換が考慮された。平均的な群の差は、正規分布データのためのt検定およびANOVA、ならびに非正規分布または小標本のためのノンパラメトリック統計(マン-ホイットニーのU検定)により評価された。測定間の関係は、パラメトリック・データのためのピアソンの積率相関、および順序データまたは統計的異常値を含む歪んだ分布のためのスピアマンの順位相関により査定された。多重線形回帰技術は、有意な共変量に関して調整される必要のある連続変数間の関係に適用された。統計分析は、JMP、バージョン3.2(SAS Institute,Cary,NC)、SAS、バージョン6.12(SAS Institute,Cary,NC)を使用して実施された。
【0121】
図6A〜Cに示されるように、平均して、変異LOXL1ノックアウトマウスは、24時間当たりの尿イベントの10倍以上の頻度を有していた(WT:1.450±0.430イベント/hr(n=7)対KO:14.1444±1.895イベント/hr(n=8);p<0.001)。はるかに高い排尿頻度と一致して、変異マウスにおける1イベント当たりの尿排泄量は、WTマウスのわずか10分の1であった(WT:0.528±0.167ml/イベント(n=7)対KO:0.049±0.034ml/イベント(n=8);p<0.001);全容量:WT:18.374±5.811ml/24時間、KO:16.633±11.542ml/24時間)。これらの差は、統計的に高度に有意である。これらの差は、これらの動物の代謝状態の大きな差によっては説明され得ない。24時間当たりの全尿排泄量および飲んだ液体の全量は、変異体とWTマウスとの間で有意に異なっていなかった。これらのデータは、loxl1変異マウスが、正常に尿を生産したが、尿失禁に罹患していたことを示す。
【0122】
逆説的に、小さな割合のマウスにおいては、尿が充填された莫大に膨満した膀胱(図7、上パネル)により証明され、低頻度で、かつ極めて高容量の尿イベント(図7、下パネル)により確認されるような、重度の尿閉も見られた。24時間後、尿閉を有する変異体は、7±2回の主要イベントを与え、主要イベントに関する平均尿量は、2.661±0.431ml/大イベントであった(n=3、p<0.05)。対照的に、WTマウスにおける平均排泄量/イベントは、0.5mlであった。従って、尿閉が起こった場合、尿イベント1回当たりの排泄量は、典型的には、3ml超に達したが、これは、WT動物においては見出したことがない値である。失禁に対して顕在化は逆であるが、病因は、実は同一である可能性が高い。これは、骨盤脱出および結合組織傷害が、尿道の過剰の可動性をもたらす場合があるためである。尿道がその長さに沿ってねじれた場合、または硬い湾曲を発生させた場合、尿道を通る尿流量は部分的または完全に閉鎖され得る。尿の流動は、膀胱および尿道の圧力が極めて高いレベルに達するか、または骨盤臓器の位置が移動の結果シフトした場合にのみ起こり得る。尿閉は、さらに、膀胱括約筋に傷害を与え、尿道が再開した後は、失禁を増悪化させ得る。そのような臨床的な合併症は、ヒト患者においてよく立証されている(Romanzi et al.,J.Urol.161,581-6(1999))。これらの所見は、このマウスモデルとヒト患者との間の尿失禁の病態生理学の共通の局面を強調する。
【0123】
これらの所見は、60歳を超えた女性の30%超が罹患するヒト尿失禁の一般的な型の理解にとって重要である(Romanzi,J.Gend.Specif.Med.4,14-20(2001))。その状態は、既に約90年前に、「多産婦において最も一般的な、中年期に発症する病気(an affection beginning in the middle life,most common in multiparae)」(Kelly & Dumm,Surg.Gynec.Obst.18,444-450(1914))として適切に記載されたが、分子レベルでの病原メカニズムは未だ解明されていない。研究および治療は、伝統的に、コラーゲン代謝に焦点が置かれてきた。このデータは、LOXL1に決定的に依存している弾性繊維のホメオスタシスが、下部尿路の構造的および機能的な完全性の維持にとって重要であることを示している。従って、内因性LOXL1の促進または外因性の補充LOXL1の提供を目標とした治療的介入は、この問題の解決のための効果的なアプローチである。
【0124】
実施例8:生殖周期および加齢におけるLOXL1発現の変化
子宮器官は、妊娠中に莫大に膨張し、産後、急速に再吸収的に退縮する。WT動物におけるLOXL1発現は、この期間を通した組織リモデリングのための重要成分であるため、生理学的な必要性の変化に応答して変動すると予想され得る。
【0125】
全RNAを、TRIzol試薬(GIBCO)を使用して単離した。ThermoScript(商標)RT-PCR System(Invitrogen)を使用して、oligo(dT)20により第一鎖cDNA合成を開始させた。LOXL1を増幅するためのPCRプライマーは、P1

および
P2

であった。エラスチンのためのPCRプライマーは、P3

および
P4

であった。定量のための内部標準として、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を、同じチューブにおいてLOXL1およびエラスチン標的と共に増幅した。GAPDHのためのPCRプライマーは、P5

および
P6

であった。これらの混合PCR反応における最適のプライマー濃度を決定するため、予備実験を行った。最終的に、Pl、P2、P3、およびP4プライマーは、0.15μMで使用された。P5およびP6プライマーは、0.1μMで使用された。PCR産物を、1.5%アガロースゲル上で分離し、画像をFluor-S(商標)MultiImagerにより捕獲した。定量は、Multi-Analystソフトウェア(Bio-Rad Laboratories)を使用して実施した。
【0126】
実際、子宮頚部におけるLOXL1 mRNAは、分娩時に基線の20%にまで落ち、産後6日目に基線に戻った(図4A〜B)。未産マウス、ならびに産後1日目(中央パネル)および12日目の経産マウスにおける、イムノブロッティングにより検出された、生殖周期を通したLOXL1タンパク質レベルを示す蛍光顕微鏡写真。LOXL1に関する免疫蛍光は、産後1日目に、子宮頚部にLOXL1繊維が存在しないことを示している。赤、LOXL1;青、核染色。LOXLlタンパク質も、産後1日目に子宮頚部に検出不可能になった。子宮頚部におけるLOXL1発現の時間的なパターンは、ホルモンにより調節された子宮頸の熟成として既知の妊娠後期の生理学的過程と同時発生する(Bryant-Greenwood and Schwabe,Endocr.Rev.15,5-26(1994))。出産に備え、子宮頸の熟成によって、コラーゲンおよび弾性繊維が分解され、子宮壁が軟化する(Leppert,Clin.Obstet.Gynecol.38,267-79(1995);Bryant-Greenwood and Schwabe,supra(1994))。分娩時のLOXL1発現の抑制は、この期間の生理学的な必要性と一致している。
【0127】
動物が加齢するにつれ、生殖活性の停止と共に、LOXL1発現は減衰した。マウスの「閉経期」にほぼ相当する齢である18ヶ月で、LOXL1 mRNA(図5A〜B)およびタンパク質(図5C)は、大きく減損した。対照的に、エラスチン(図5A〜B)mRNAは、ほとんど不変であった。LOXL1欠損マウスの研究から予想される通り、蓄積されたトロポエラスチンおよびエラスチン繊維は、LOXL1発現の減衰と同時に減少した(図5C)。LOXL1発現が生殖周期を通して高度に調節され、老齢期に消滅することの観察は、子宮器官におけるLOXL1発現がホルモン調節下にあるかもしれないことを示唆する。
【0128】
実施例9:血管系における弾性繊維ホメオスタシスにおけるLOXL1の役割
血管の正常な生理学においては弾性が重要であるため、血管系におけるLOXL1の役割を評価するために多数の実験を実施した。免疫電子顕微鏡検を使用したところ、結果は、離乳期から6ヶ月齢までの全ての齢のマウスおよびラットの大動脈の弾性板にLOXL1が高発現していることを示している。対照的に、LOX、LOXL2、LOXL3、およびLOXL4は、動脈の弾性板に沿った特異的な発現を示さなかった。この観察は、LXOL1が、LOXファミリーのタンパク質の中で唯一、血管系における弾性繊維形成に貢献していることの詳細な証拠を提供する。
【0129】
標準的なテール・カフ(tail cuff)法(Krege et al.,Hypertension 25(5),1111-1115(1995))を使用したマウスにおける血圧の直接測定によって、LOXL1を欠くマウスの収縮期圧がより高いことが証明された。WTマウス:119±8mmHg、n=12。LOXL1 KOマウス:128±6mmHg、n=10。この差は統計的に有意である(p=0.025)。
【0130】
(Hafezi-Moghadam et al.,Am.J.Physiol.Cell.Physiol.286,C876-C892.Epub 2003 Dec 10.(2004)に記載された)頚動脈の内部に直接センサーを置く、より侵襲的な方法を使用して、高血圧をさらに確認した。
【0131】
変異体マウスにおける高血圧は、より強直で、弾性が低い血管壁と一致している。これらのデータは、対立遺伝子の差違または高齢のいずれかによるLOXL1の不足が、ヒトにおける高血圧の病原において役割を果たしているという本発明者らの仮説をさらに支持する。
【0132】
実施例10:弾性繊維形成におけるLOXL1の理論モデル
図3Eは、LOXL1が弾性繊維の再生中に如何にして機能するかの一つのモデルである。理論により拘束されることは望まないが、このモデルにおいては、トロポエラスチン(Yanagisawa et al.,Nature 415,168-171(2002))およびLOXL1の両方とのフィビュリン-5の結合が、効率的な、空間的に制限されたポリマー形成のため、酵素と基質とを並置させる。LOXL1が、トロポエラスチンをリジル脱アミノ型に変換し、「活性化された」トロポエラスチンが、コアセルベーション(Vrhovski et al.,Eur.J.Biochem.258,1-18(1998))を通して、相互に会合するか、または既存のポリマーへと沈着し、その後、自発的な共有結合性架橋が起こる。これは、足場の隣の界面におけるエラスチンポリマーの付加を可能にする。インビトロではLOXL1のN末端部分の分解がその活性を活性化するため(Borel et al.,J.Biol.Chem.276,48944-48949(2001))、LOXL1のフィビュリン-5との結合は、調節性の役割も果たすかもしれないが、LOXL1はインビボでは主に全長型で存在する。
【0133】
その他の態様
本発明を、その詳細な説明と共に記載したが、上記の記載は、本発明を例示するものであって、添付の特許請求の範囲の範囲によって定義される本発明の範囲を制限するものではないことを理解されたい。その他の局面、利点、および修飾は、以下の特許請求の範囲の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】図1Aは、本明細書に記載されたような、マウスにおけるLOXL1のターゲティングされた破壊のための戦略を例示する概略図である。ターゲティングされた対立遺伝子は、翻訳開始コドンを除去するエキソン1の欠失を保持している。図1Bは、示されたプライマーを用いたPCRによる、ターゲティングされたESクローンの同定(左)およびマウス遺伝子型決定(右)の一対のゲル写真である。図1Cは、変異動物におけるLOXL1発現の完全な削除を示す、成体大動脈抽出物のイムノブロットのセットである。以下の三つのLOXL1バリアント・ポリペプチドが見られる:分泌シグナル・ペプチドを含まない予測された全長型と一致する64kDa、シグナル・ペプチドを含む全長型であると推定される67kDaのバンド、およびC末端の保存されたドメイン(Borel et al.,J.Biol.Chem.276,48944-48949(2001))を保持している分解産物と一致する36kDa。二つのLOXバリアント(24kDaおよび32kDa)が、成体大動脈に検出される。
【図2】図2Aは、エラスチン抗体により検出された、様々な組織からの全組織ホモジネートのイムノブロットのセットである。72kDa、エラスチン・モノマー(トロポエラスチン);144kDa、エラスチン二量体。全てのパネルに示されたマウスが、3〜5ヶ月齢であった。図2Bおよび図2Cは、デスモシン(2B)およびヒドロキシプロリン(2C)の発現を定量した棒グラフである。示された値は、平均値±s.d.である。アスタリスク、p<0.05;二重アスタリスク、p<0.001。
【図3】図3Aは、マウスLOXL1(Genbankアクセッション番号AAH37999)とフィビュリン-5(Genbankアクセッション番号NP_035942)との間のインビトロおよびインビボの相互作用の酵母ツー・ハイブリッド分析を使用したタンパク質相互作用スクリーニングにおいて使用された構築物の概略図である。最大相互作用ドメインは、L3領域およびF3領域に存在する。S、分泌シグナル配列。図3Bは、フィビュリン-5とLOXL1との間のインビトロの直接相互作用を例示するGSTプルダウンアッセイの結果を示すブロットのセットである。投入液:溶出液の16%。図3Cは、インビボの相互作用を示唆する、肺抽出物中のフィビュリン-5とLOXL1との共免疫沈降の結果を示すブロットのセットである。投入液:溶出液の50%。図3Dは、野生型(+/+)およびLoxl1-/-子宮組織からの弾性繊維関連ポリペプチドの分析の結果を示す四つのイムノブロットのセットである。PBS、PBSによる組織抽出物。尿素、PBS抽出後の6M尿素による組織抽出物。図3Eは、弾性繊維形成におけるLOXL1の役割に関する単純化されたモデルの概略図である。可能性のある組織特異的なバリエーションおよび部分的な機能の重複は、考慮されていない。フィビュリン-5とミクロフィブリルとの間の相互作用の性質は、未だ不明である。TE、トロポエラスチン。LOXL1のN末端の特有の領域が、フィビュリン-5と結合する。C、C末端ドメイン。
【図4】図4Aおよび図4Bは、RT-PCRによる生殖周期を通したLOXL1 mRNAの分析の結果を例示するゲル(4A)および折れ線グラフ(4B)である。図4Aは、代表的なPCR産物のアガロース・ゲル分析である。図4Bは、LOXL1発現の変化を例示する折れ線グラフである。縦軸は、非妊娠雌(N)におけるレベルを1.0に設定した、自由単位を示す。値は、三つの独立の試料の平均値である。GAPDHレベルが、内部規準化標準として使用された。エラスチンおよびLOXのmRNAは、この期間を通して不変であった。G、妊娠日数;PP、産後日数。
【図5】図5Aおよび図5Bは、RT-PCRにより検出されたような、子宮器官におけるLOXL1発現の齢依存的な低下を例示するゲル(5A)および棒グラフ(5B)である。2ヶ月齢(若齢)および18ヶ月齢(老齢)のWTマウスが調査された。左側が、代表的なPCR産物のアガロース・ゲル分析であり、右側が、LOXL1発現の変化率を表す棒グラフである。値は、三つの独立の試料の平均値である。GAPDHレベルが内部規準化標準として使用された。図5Cは、イムノブロッティングによる、若齢マウスおよび老齢マウスの子宮におけるLOXL1タンパク質レベルの比較の結果を示す、ウェスタン・ブロットの対である(左パネル)。LOXL1は、より老齢の動物において検出不可能である。より老齢の動物において、LOXL1発現の欠損は、トロポエラスチンの蓄積(右パネル)と相関している。
【図6】図6Aは、24時間にわたる尿量を示す、野生型マウス(上グラフ)および変異マウス(下グラフ)に関する例示的な尿プロファイルの対である。尿測定は、代謝ケージを使用してなされた。Loxl1 -/-経産雌(n=8)の尿挙動が、WT経産雌(n=7)を対照として、記録された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性繊維の欠損に関連した状態を有する対象を治療する方法であって、治療的に有効な量のLOXL1エンハンサーを対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
状態が皮膚状態である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
皮膚状態が皮膚の弛緩またはしわである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
状態が慢性肺閉塞性疾患(COPD)である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
COPDが肺気腫、喘息、または慢性気管支炎である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
状態が骨盤臓器脱または尿失禁である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
状態が加齢性黄斑変性である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
状態が血管障害である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
血管障害が、動脈解離、動脈瘤、収縮期高血圧、例えば、高血圧、および発作である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
LOXL1エンハンサーが、LOXL1ポリペプチドまたはその活性断片である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
LOXL1エンハンサーが、LOXL1ポリペプチドまたはその活性断片をコードする核酸である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
弾性繊維の欠損に関連した状態の発生または進行を予防する方法であって、治療的に有効な量のLOXL1エンハンサーを対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項13】
状態が皮膚状態である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
皮膚状態が皮膚の弛緩またはしわである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
状態が慢性肺閉塞性疾患(COPD)である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
COPDが肺気腫、喘息、または慢性気管支炎である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
状態が骨盤臓器脱または尿失禁である、請求項12記載の方法。
【請求項18】
状態が加齢性黄斑変性である、請求項12記載の方法。
【請求項19】
状態が血管障害である、請求項12記載の方法。
【請求項20】
血管障害が、動脈解離、動脈瘤、収縮期高血圧、例えば、高血圧、および発作である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
LOXL1エンハンサーが、LOXL1ポリペプチドまたはその活性断片である、請求項12記載の方法。
【請求項22】
LOXL1エンハンサーが、LOXL1ポリペプチドまたはその活性断片をコードする核酸である、請求項12記載の方法。
【請求項23】
LOXL1エンハンサーを同定する方法であって、
機能性のLOXL1を含む試料を準備する工程;
試料をテスト化合物と接触させ、それにより、テスト試料を形成させる工程;および
テスト試料中のLOXL1の活性を測定し、その際、参照と比較した、テスト化合物の存在下におけるLOXL1活性の増加を、テスト化合物がLOXL1エンハンサーであることの指標とする工程
を含む、方法。
【請求項24】
LOXL1活性が、エラスチンを形成するトロポエラスチン架橋の触媒であり、かつLOXL1活性の増加が、エラスチンレベルの増加をもらたす、請求項23記載の方法。
【請求項25】
テスト化合物が、ポリペプチド、核酸、ペプチド、抗体、または低分子からなる群より選択される、請求項23記載の方法。
【請求項26】
試料が、LOXL1を発現し得る細胞を含み、かつLOXL1活性の増加が、LOXL1ポリペプチドレベルの増加を含む、請求項23記載の方法。
【請求項27】
LOXL1ポリペプチドレベルの増加が、LOXL1の転写の増加、翻訳の増加、または分解の減少の結果である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
少なくとも一つのLOXL1トランスジーンを含む細胞を有する非ヒトトランスジェニック哺乳動物。
【請求項29】
少なくとも一つの機能性LOXL1対立遺伝子を欠く、請求項28記載の非ヒトトランスジェニック哺乳動物。
【請求項30】
両方の機能性LOXL1対立遺伝子を欠く、請求項29記載の非ヒトトランスジェニック哺乳動物。
【請求項31】
弾性繊維の欠損に関連した状態の少なくとも一つの症状を示す、請求項28記載の非ヒトトランスジェニック哺乳動物。
【請求項32】
少なくとも一つのLOXL1トランスジーンを含む細胞を有するトランスジェニック動物を含む、弾性繊維の欠損に関連した状態の非ヒト動物モデル。
【請求項33】
少なくとも一つの機能性LOXL1対立遺伝子を欠く細胞を有する、請求項32記載の動物モデル。
【請求項34】
両方の機能性LOXL1対立遺伝子を欠く細胞を有する、請求項32記載の動物モデル。
【請求項35】
弾性繊維の欠損に関連した状態の治療のための治療用化合物の候補を同定する方法であって、
少なくとも一つのLOXL1トランスジーンを含む細胞を有する、その状態の非ヒト動物モデルを準備する工程;
LOXL1エンハンサーを動物モデルに投与する工程;および
状態に関連したパラメータをモニタリングし、その際、状態に関連したパラメータに正の影響を与えるLOXL1エンハンサーを、弾性繊維の欠損に関連した状態の治療のための治療用化合物の候補とする工程
を含む、方法。
【請求項36】
状態が皮膚状態である、請求項34記載の方法。
【請求項37】
皮膚状態が皮膚の弛緩またはしわである、請求項35記載の方法。
【請求項38】
状態が慢性肺閉塞性疾患(COPD)である、請求項34記載の方法。
【請求項39】
COPDが肺気腫、喘息、または慢性気管支炎である、請求項37記載の方法。
【請求項40】
状態が骨盤臓器脱または尿失禁である、請求項34記載の方法。
【請求項41】
状態が加齢性黄斑変性である、請求項34記載の方法。
【請求項42】
状態が血管障害である、請求項34記載の方法。
【請求項43】
血管障害が、動脈解離、動脈瘤、収縮期高血圧、例えば、高血圧、および発作である、請求項42記載の方法。
【請求項44】
LOXL1エンハンサーが、LOXL1ポリペプチドまたはその活性断片である、請求項34記載の方法。
【請求項45】
LOXL1エンハンサーが、LOXL1ポリペプチドまたはその活性断片をコードする核酸である、請求項34記載の方法。

【図6】図6Bおよび図06Cは、尿イベント/hr(6B)および尿量(ml/イベント、6C)に関する、図6A中のデータを含むデータの統計分析の結果を例示する棒グラフである。
【図7】24時間にわたる尿量を示す、野生型マウス(上グラフ)および尿閉を有する変異マウス(下グラフ)の例示的な尿プロファイル・グラフの対である。
【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図3e】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−526247(P2007−526247A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551342(P2006−551342)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【国際出願番号】PCT/US2005/002096
【国際公開番号】WO2005/069975
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(596114853)マサチューセッツ・アイ・アンド・イア・インファーマリー (11)
【Fターム(参考)】