説明

リゾチーム−キトサンフィルム

本明細書における開示の一つの局面は、キトサンポリマーマトリックス内に組み込まれているリゾチームを含む複合フィルムを検討する。別の局面では、キトサンと、キトサンの重量に基づいた約10〜約200重量%のリゾチームとを包含するフィルムが開示されている。また、キトサンとリゾチームを水性媒質に溶解または分散して被膜形成溶液または分散体を得る段階;被膜形成溶液または分散体を基材表面に適用する段階;および被膜形成溶液または分散体をフィルムに変換する段階、を包含するフィルムの作製方法が開示されている。特に有用な適用において、フィルムは、食品の抗菌保護剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本明細書において開示されているものは、食料品を保護するのに特に有用である抗菌フィルムである。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許仮出願第60/554,623号(2004年3月18日出願)の恩典を主張し、これは参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
背景
固体又は半固体の食料品では、微生物の増殖は主に表面で起こる。熱処理および化学防腐剤は、微生物学的安全性および食物品質を維持するための最も広く使用されてきた方法である。抗菌増強包装フィルムは、担体フィルム構造から食物表面への抗菌物質の徐放により、食品表面の微生物学的安全性を保証する大きな可能性を有する。加えて、合成化学食品保存料に対する消費者の懸念は、代替的な、より「消費者にやさしい」食用保護フィルムへの関心の高まりをもたらしている。
【0004】
リゾチームは、多くの天然系で見出される、よく研究された溶菌酵素である。これは、よく研究された次元構造および配列をもつ、小型で安定した酵素である。食品保存におけるリゾチームの使用は、広範囲のpHおよび温度条件にわたるその安定性のために可能性を有する。しかし、グラム陰性菌に対する限定されたその抗菌効果が、食品産業におけるその適用を制限してきた。キトサンは、抗菌活性も示す公知の被膜形成バイオポリマーである。
【0005】
物理学的特性が著しく損なわれることなく増強された抗菌活性をもつフイルムの必要性が、存在し続けている。
【発明の開示】
【0006】
概要
本明細書における開示の一つの局面は、キトサンポリマーマトリックス内に組み込まれているリゾチームを含む複合フィルムを検討する。別の局面では、キトサンと、キトサンの重量に基づいた約10〜約200重量%のリゾチームとを包含するフィルムが開示されている。
【0007】
また、開示されているものは、キトサンとリゾチームを水性媒質に溶解または分散して被膜形成溶液または分散体を得る段階;被膜形成溶液または分散体を基材表面に適用する段階;および被膜形成溶液または分散体をフィルムに変換する段階、を包含するフィルムの作製方法である。
【0008】
特に有用な適用において、フィルムは、食品の抗菌保護剤である。
【0009】
詳細な説明
理解を容易にするために、本明細書において使用される以下の用語が下記でより詳細に記載される。
【0010】
「周囲室条件(ambient room condition)」は、約10℃〜約40℃、典型的には約20℃〜約25℃の室温、約1気圧の圧力、および一定量の水分を含有する雰囲気を意味する。
【0011】
「類似体」は、親化合物と化学構造が異なる分子であり、例えば、同族体(アルキル鎖の長さの違いのような化学構造における増加により異なる)、分子フラグメント、1つまたは複数の官能基により異なる構造、又はイオン化の変化である。
【0012】
「抗菌有効量」は、抗菌成分のない対照試料と比較して、試料中の少なくとも1種の微生物の増殖を統計的に有意な程度、好ましくは少なくとも約25%、より好ましくは少なくとも約50%阻害する、最も好ましくは微生物の増殖を完全に阻害するのに十分な、抗菌成分又は成分の混合物の量である。
【0013】
「キトサン」(ポリ-(1→4)-β-D-グルコサミンとも呼ばれる)は、下記でより詳細に記載されている、脱アセチル化キチン(キチンは、β-(1-4)-ポリ-N-アセチル-D-グルコサミンとも呼ばれる)およびその塩を含む。貝類および甲殻類の殻が、キトサンが由来するキチンの通常の供給源である。
【0014】
「フィルム」は、被覆を含み、フィルムは、それが適用されているか又はそれが形成されている食品の表面にわたって、非連続的または実質的に連続的であってもよい。例えば、「フィルム」は、食品を包むことができる独立型のフィルムと、噴霧、滴下、浸漬または同様の技術を介して食品上に形成されている被覆の両方を含む。
【0015】
「阻害する」は、本明細書において開示されているフィルムが、特定の微生物の増殖または繁殖を特定の時間遅くするか、または止めることを意味する。
【0016】
「リゾチーム」は、細菌細胞壁の特定のムコ多糖類の、具体的には、N-アセチルムラミン酸とN-アセチルグルコサミンとのβ(1-4)グリコシド結合の加水分解を触媒し、細菌溶解を引き起こす、酵素のファミリーを示す。本明細書において使用できるリゾチームは、下記でより詳細に記載される、天然に存在するリゾチームと、合成リゾチームと、組換え型リゾチームとを包含する。
【0017】
「微生物」または「微生物の」は、ヒトまたは動物に感染することができる、および/あるいは食品の腐敗または他の望ましくない食品の分解もしくは変化を引き起こすことができる、真菌性および細菌性の生物を包含する微視的な生物または物質を言及するために使用される。したがって「抗菌性」という用語は、真菌性および/または細菌性生物を殺すか、そうでなければその増殖を阻害する物質または作用薬を言及するために、本明細書において使用される。
【0018】
上記の用語の説明は、ただ単に読み手を助けるために提供されており、当業者によって理解されるものよりも少ない範囲を有する、または添付された請求項の範囲を限定するものと考慮されるべきではない。
【0019】
単数形の用語「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈が特に明示しない限り、複数形の対象を包含する。同様に、「または」という語は、文脈が特に明示しない限り、「および」を包含することが意図される。「含む(comprises)」という語は「包含する(includes)」を示す。特記のない限り、化学命名法による成分の記載は、記載で特定されている任意の組み合わせに添加される場合の成分を言及するが、一旦混合された混合物の成分の間での化学相互作用を必ずしも除外しない。
【0020】
本明細書において開示されているフィルムは、少なくとも1つのキトサンと少なくとも1つのリゾチームとを包含し、その両方は、再生可能な物質として豊富に入手できる。キトサンを用いたフィルムマトリックスは、高濃度のリゾチームを有効に保持することができ、リゾチーム-キトサン複合フィルムをもたらすことが見出された。リゾチームは、ポリマーキトサンフィルムマトリックスから制御された方法で放出されることができ、細菌細胞壁基質に対するその溶解活性を保持する。例えば、抗菌成分リゾチーム(および特定の場合ではキトサン)は、フィルムから放出され、食品構造の中へ移動することができる。そのような複合フィルムは、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方に対して、キトサン単独またはリゾチーム単独と対比して、フィルムの防湿性が損なわれることなく、増強された、相乗作用の抗菌活性を有する。フィルムの特定の例では、全ての成分がヒトまたは動物の消費にとって安全な食用であり、再生可能な供給源から入手可能である。加えて、フィルムは生分解性である。
【0021】
リゾチームは、キトサン分子により形成されるポリマー網状構造の全体を通して、実質的に均一に分布されている。リゾチームは、キトサン網状構造内に分布されている微粒子の形態で存在してもよく、そこでは、リゾチーム分子は水素結合している、および/またはキトサン分子とファンデルワールス相互作用している。
【0022】
キトサンは、多くの他の物質と生体適合性のある、豊富で、再生可能な、非毒性のポリマーである。キトサンの任意の形態または等級(例えば、食品または医療用)がフィルムを作製するのに使用されてもよい。例えば、キトサンの粘度平均分子量は、約20〜約2,000kDaの範囲であることができ、脱アセチル化度は、約70〜約90%の範囲であることができる。フィルムを製造する一つの例示的方法に従って、キトサン成分(または異なるキトサンの混合物)は、最初に酸水溶液に溶解されて、キトサン塩の形成をもたらす。フィルムに存在する得られるキトサン塩の例は、キトサンアセテート、キトサンソルベート、キトサンプロピオネート、キトサンラクテート、キトサングルタメート、キトサンベンゾエート、キトサンシトレート、キトサンマレエート、キトサングルコレート、キトサンアクリレート、キトサンスクシネート、キトサンオキサレート、キトサンアスコルベート、キトサンタータレート、およびこれらの混合物を包含する。フィルム中のキトサンの量は、所望のフィルム特性に応じて変わる場合がある。例えば、フィルムは、フィルムの全固体重量に基づいた約25重量%〜90重量%、より詳細には約35重量%〜約65重量%のキトサンを含有することができる。
【0023】
リゾチームは、ウイルス、鳥類、哺乳類、および植物を包含する多様な生物で生じる、天然の抗菌性ポリペプチドである。ヒトでは、リゾチームは、脾臓、肺、腎臓、白血球細胞、血漿、唾液、乳、涙、および軟骨で見出される。したがって、リゾチームは、ヒトの乳、涙液、唾液、および鼻汁から単離できる。これはウシの乳および初乳で見出される。リゾチームをカリフラワー液から単離することも可能である。しかし、リゾチームを産業規模で抽出することができる最も重要な供給源は、ニワトリの卵白である。リゾチームは、ムラミダーゼまたはN-アセチルムラミルヒドロラーゼとしても知られている。ヒト型は、組換えにより製造することもできる。本明細書において開示されているフィルムでは、リゾチームの有効量は、リゾチームの供給源に応じて変わる場合がある。あるものは他のものよりも強力であり、ニワトリリゾチームは、ヒトリゾチームよりも活性が低い。フィルム中のリゾチームの抗菌有効量も、また、所望のフィルム特性に応じて変わる場合がある。特に、リゾチームの最小量は、抗菌活性を提供するために十分であるべきである。リゾチームの最大量は、フィルムの物理学的特性または透湿性を著しく劣化するほど多いべきではない。例えば、リゾチームは、キトサンの重量の約10重量%〜約200重量%、より詳細には約10重量%〜約100重量%、最も詳細には約30重量%〜約90重量%の量でフィルム中に存在することができる。換言すると、フィルムはキトサンの2倍までの量のリゾチームを包含することができる。リゾチームの量がキトサンの200重量%を超える場合、フィルムは極めて脆性になり、物理学的に弱くなる。
【0024】
フィルムの任意成分は、少なくとも1つの可塑剤であり、これは再生可能な物質であっても、またはなくてもよい。可塑剤は、フィルムの脆性を低減し、フィルムの柔軟性を増加し、耐性を与えることができる。例示的な可塑剤は、グリセロール、ソルビトール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(例えば、PEG300およびPEG400)、酒石酸ジブチル、プロパンジオール、ブタンジオール、アセチル化モノグリセリド、およびこれらの混合物を包含する。フィルム中の可塑剤の量は、所望のフィルム特性に応じて変わる場合がある。特に、可塑剤の量は、リゾチームの弱い被膜形成性のため、リゾチームの濃度が増加すると、増加しなければならない。例えば、フィルムは、キトサンの重量の約1重量%〜50重量%、より詳細には約20重量%〜約30重量%の可塑剤を含有することができる。
【0025】
フィルムの別の任意成分は、少なくとも1つの架橋剤であり、これは再生可能な物質であっても、またはなくてもよい。架橋剤は、フィルムの防湿性を改善し、フィルムの水溶性を低減することができる。例示的な架橋剤は、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、グリオキサール、ジアルデヒドデンプン、多価イオン(例えば、カルシウムおよびマグネシウムカチオン)を含有する物質、ならびにこれらの混合物を包含する。フィルム中の架橋剤の量は、所望のフィルム特性に応じて変わる場合がある。例えば、フィルムは、キトサンの重量の約1重量%〜20重量%、より詳細には約5重量%〜約10重量%の架橋剤を含有することができる。
【0026】
他の任意成分は、酸化防止剤、他の抗菌剤、香料/着色剤、疎水剤、栄養補助食品、および同様の添加剤を包含する。防水性(water barrier property)を改善するため、脂肪酸(すなわち、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、およびステアリン酸)、アセチル化グリセリド、ろう(すなわち、カルナウバろう、蜜蝋、およびパラフィンろう)、ならびに油(すなわち鉱油および植物油)のような疎水性添加剤が、キトサンの約20重量%〜約100重量%の濃度範囲でフィルム組成物に組み込まれてもよい。ミネラルおよびビタミンのような栄養補助食品が、包まれた、または被覆された製品の栄養価を高めるために、フィルムマトリックスに組み込まれてもよい。例えば、カルシウム、亜鉛およびビタミンEが、包まれた、または被覆された製品の健康恩典を高めるために組み込まれてもよい(Park, S.-I. and Zhao, Y. 2004. Incorporation of High Concentration of Mineral or Vitamin into Chitosan-Based Films. Journal of Agricultural and Food Chemistry. 2004, vol. 52, pp. 1933-1939を参照すること)。
【0027】
フィルムは、流延(すなわち、独立型フィルム形成)、浸漬、噴霧、はけ塗り、流下膜式、および同様の方法を包含する、任意の被膜形成技術により作製することができる。一つの変形態様によると、フィルムの全ての成分が液体混合物(すなわち、被膜形成混合物)中で一緒に混合され、次にそれがフィルムに形成される。例えば、液体混合物が、基材表面にわたって実質的に均一に分布され、続いて乾燥されて、フィルムを形成することができる。具体的な例では、フィルムの成分は水溶性もしくは分散性であるか、または水溶性若しくは分散性となるように変性されている(すなわち、可溶化されている)。成分が水溶液中で一緒に混合され(すなわち、水が担体溶媒または媒質である)、次にそれが周囲の室温および湿度下で風乾されて、フィルムを形成する。または、フィルムの成分は、有機溶媒担体中で可溶性であることができる。フィルムの成分は任意の順番で一緒に混合することができる。
【0028】
被膜形成混合物は、比較的容易に製造および使用されるべきである。被膜形成混合物の粘度は、任意の高出力適用技術または装置を必要とすることなく、基材への混合物の適用および塗布を可能にするために、十分に低いべきである。例えば、被膜形成混合物の粘度は、約10cps〜約200cpsの範囲であることができる。
【0029】
キトサンは、水性有機又は無機酸で可溶性である。適切な水性有機酸は、酢酸、ソルビン酸、プロピオン酸、乳酸、グルタミン酸、安息香酸、クエン酸、マレイン酸、グリコール酸、アクリル酸、コハク酸、シュウ酸、アスコルビン酸、酒石酸、およびこれらの混合物を包含する。典型的には、有機酸は、酸の特定の種類に応じて、例えば約0.5重量%〜約5重量%、より詳細には約1重量%〜約2重量%の濃度のように非常に希薄である。
【0030】
一般に、キトサンの所定の量が周囲室温下で水性有機酸に溶解されて、キトサン塩溶液を生じる。混合物のpHは、約2.5〜約6.3、より詳細には約5.0〜約6.0であることができる。水性酸に溶解されたキトサンの量は、水の重量に基づき、かつフィルム最終製品中のキトサンの所望の量に応じて、約1重量%〜約5重量%の範囲、より詳細には約2重量%であることができる。キトサン塩溶液は、また、可塑剤のような上記で記載された任意成分のいずれかを包含してもよい。
【0031】
次にリゾチームがキトサン塩溶液に添加されうる。リゾチームは、種々の商業供給者から入手可能な、希釈されていない、産業用等級、食品用等級または薬学的等級溶液の形態で添加されてもよい。または、リゾチーム保存液は、リゾチームの所定の量を蒸留水に溶解することによって、調製されてもよい。水に溶解されたリゾチームの量は、水の重量に基づき、かつフィルム最終製品中のリゾチームの所望の量に応じて、約5重量%〜約20重量%、より詳細には約10重量%〜15重量%の範囲であることができる。リゾチームの量が多すぎる場合、被膜形成溶液は、許容できないほど希薄になることがあり、これはフィルム特性に悪影響を与えることがある。リゾチーム保存液は、また、可塑剤のような上記で記載された任意成分のいずれかを包含してもよい。
【0032】
キトサン塩溶液およびリゾチーム保存液は、周囲室条件下で一緒に混合され、被膜形成溶液をもたらす。または、被膜形成溶液は、溶解を向上させるために、約50℃までの温度で、または約50℃まで加熱されてもよい。リゾチーム保存液の量に対するキトサン塩溶液の量は、リゾチームの所望の濃度を提供するように選択される。得られる被膜形成水溶液のpHは、低酸性条件を提供することにより食品を保護するために、約5〜約6の範囲に調整されてもよい。
【0033】
フィルムは、任意の方法によって食品に適用できる。フィルムは、被膜形成溶液を基材に適用することによって、被膜形成溶液から形成される。例えば、被膜形成溶液が表面に噴霧されるか、もしくははけ塗りされて、保護被覆を形成することができるか、または食品が被膜形成溶液中に浸漬されてもよい。または、流延フィルムが、包み込み、または同様の方法を介して食品の表面に適用できる。溶液被覆基材は、フィルムを形成するために、約25℃〜約65℃で2時間〜48時間加熱されてもよい。食品を直接被覆することを含む変形態様では、乾燥時間は、典型的にはより短い(例えば、強制空気を用いて約5〜60分)。
【0034】
フィルムの抗菌活性の持続時間は、環境条件により左右される。高水分条件では、被覆成分の、食品への移動速度が増加し、したがって、抗菌活性の有効性の持続時間が減少する。特定の例では、フィルムは周囲室条件下で約4か月間までそのままで維持することができる(すなわち、フィルムはその色、寸法、および物理学的強度を保持する)。別の例では、抗菌活性は約3週間まで維持できる。
【0035】
食品の表面に適用される被覆の量は、実質的に連続したフィルムを表面に形成するのに十分であるべきである。この量は、食品の種類、適用方法、および所望の特性を包含する種々の要因に応じて変わるが、約2mg/cm2〜約30mg/cm2、より詳細には約5mg/cm2〜約10mg/cm2の基質表面積の範囲であることができる。特定の例によると、独立型フィルムは、少なくとも約20μm、より詳細には約30〜約80μmの厚さを有するべきである。20μm未満の厚さは、食品表面に直接形成された(例えば、浸漬により)被覆の例示である。
【0036】
本明細書において開示されているフィルムの設計は、特に、食物表面の病原性および腐敗性の細菌、ならびに真菌類の阻害を対象とする。例示的な細菌は、ラクトバシルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、大腸菌(Escherichia coli)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、サルモネラ菌種(Salmonella spp.)およびシュードモナス属種(Pseudomonas spp.)を包含する。例示的な真菌類は、黒色コウジ菌(Aspergillus niger)、モモ灰星病菌(Monilinia fructicola)、灰色カビ病菌(Botrytis cinerea)、およびクモノスカビ属種(Rhizopus spp.)を包含する。
【0037】
本明細書で記載されているように保護できる食品は、一般に、微生物の増殖、脱水(水の損失)、および/または呼吸による熟成によって引き起こされる品質の劣化に対して脆弱でありうるものである。典型的には、チーズ(薄く切ったか、または四角い塊のもの)および食肉加工品(ハム、ホットドッグ、ソーセージなど)は、高度なフィルムを使用して包まれるか、または被膜形成溶液を使用して被覆されてもよい。ベリー、サクランボ、ブドウ、リンゴ、ナシ、ネクタリン、プラム、およびアプリコットのような腐敗しやすい果実および野菜の商品は、微生物に対する安全性を向上させ、生産物の保存寿命を延ばすために、被覆されてもよい。
【0038】
フィルムは望ましい透湿性を示す。例えば、フィルムの透湿度は、約1〜約300、より詳細には約10〜約100g mm/m2 d kPaの範囲であることができる。フィルムの透湿性および物理学的特性は、水がキトサンフィルムで可塑剤として作用することがあるので、膜形成の際の相対湿度(RH)により左右されうる。低RH条件(例えば、40%未満)では、フィルムは、改善された防水性をもつ相対的に良好な気体遮断材である。50%のRHでは、フィルムは、市販の低密度ポリエチレン(LDPE)フィルムと比較して、中程度の物理学的特性(例えば、10〜100Mpaの引張り強さ、および10〜50%の破断伸び)を示すことができる。フィルムの防水性は、脂肪性物質を添加することによって改善できる。
【0039】
実施例
下記で記載されている具体例は、説明の目的のためであり、添付されている特許請求項の範囲を限定するものとして考慮されるべきではない。
【0040】
実施例1
材料
Vanson Inc.(Redmond, WA)からのエビキトサンを更に精製することなく使用した。エビキトサンを25℃で1%w/wの酢酸水溶液の11cps粘度および89.9%脱アセチル化で特徴づけした。メンドリの卵白リゾチームを、Eiprodukte GmbH und Co.(Germany)から得た。USP(United States Pharmacopeia)等級のグリセロールを、EM Science(Darmstadt, Germany)から得た。試薬等級の氷酢酸を、J.T. Baker(Phillipsburg, NJ)から得た。
【0041】
グラム陽性大便レンサ球菌(Streptococcus faecalis)ATCC14508、およびグラム陰性大腸菌(Escherichia. coli)B型を試験用生物として使用した。Sigma Chem. Co.(St. Louis, MO)から得た凍結乾燥したマイクロコッカス・リゾディクティクス(Micrococcus lysodeikticus)をリゾチーム放出パターン測定に使用した。ブレインハートインフュージョン(BHI)ブロス、MRSブロスおよび寒天培地を、Difco of Becton, Dickinson and Company(Sparks, MD)から購入した。
【0042】
被膜形成溶液の調製
被膜形成溶液(FFS)は、キトサン溶液をリゾチーム溶液と混合して調製した。キトサン溶液は、2重量%のキトサンを、25%のグリセロール(キトサンのw/w)の添加によって1重量%の酢酸溶液に溶解することにより調製した。リゾチーム溶液は、10重量%のリゾチームを、25%のグリセロール(リゾチームのw/w)の添加によって蒸留水に溶解することにより調製した。次にリゾチーム溶液を、0%、20%、60%または100%(キトサンの乾燥重量当たりの乾燥重量%)の濃度でキトサン溶液と混合した。得られた混合物を、Model PT 10-35(Kinematica AG, Switzerland)により3,000rpmで60秒間均質化した。FFSのpHを5N水酸化ナトリウムで5.2に調整した。全ての試料溶液をナイロンメッシュを通して濾過し、不溶性残渣を除去して、真空下で脱気した(Model 0211-P204, Gast Mfg. Corp., Benton Harbor, MI)。
【0043】
被膜形成
各脱気FFSの計算された量を、平滑テフロン被覆ガラスプレート上で260×260mmの領域に流延して、約70μmの厚さの均一フィルムを得た。室温(24±2℃および40±5%相対湿度)で2日間乾燥した後、乾燥フィルムをプレートから剥がして、分析用の切片に切断した。25×25mmの寸法のフィルムセグメントを、密度および含水量の分析に使用した。25×86mmの寸法のフィルムセグメントを、物理学的試験に使用した。70×70mmの寸法のフィルムセグメントを、透湿度試験に使用した。全ての測定の前に、フィルム切片を、25℃および50%の相対湿度に設定した環境室(Model T10RS, Tenney Environmental, Williamsport, PA)で少なくとも2日間条件づけした。
【0044】
フィルムの厚さ、密度、および含水量の測定
2日間、25℃及び50%の状態にした後、フィルムの厚さを、カリパスマイクロメータ293-766-30型(Mytutoyo Manufacturing Co. Ltd., Japan)を使用して、フィルムの各試験片の無作為の5か所で測定した。フィルムの密度は、フィルム重量をフィルム容量で割って計算した。フィルムの含水量は、フィルム試験片を強制空気乾燥器(Precision Scientific Inc., Chicago, IL)により105℃で18時間乾燥して、重量測定で決定した。含水量の割合は湿量基準で計算した。
【0045】
リゾチームの放出アッセイ法
リゾチーム-キトサンフィルム試験片の約0.03gの試料を、バイアル中の0.15Mリン酸緩衝液(pH6.2)20mlに沈め、振とう機(New Brunswick Scientific Co. Inc., New Brunswick, NJ)を室温で使用して50rpmで振とうした。凍結乾燥したマイクロコッカス・リゾディクティクスの保存用基質溶液を、0.15Mリン酸緩衝溶液(450nmでの吸光度0.65)で調製した。混合物1μmの試料を0時間、0.25時間、1時間、4時間、12時間、24時間、及び48時間の間隔で採取した。これらの試料をキュベット中でマイクロコッカス・リゾディクティクス基質2.5mlと混合し、次に、直ちにShimadzu UV-Vis 2100 分光光度計(Shimadzu Co., Japan)を使用して、25℃で40秒間読み取った。リゾチームの活性率を、細胞壁基質の加水分解を反映する、450nmでの溶液吸光度の低下を測定することにより決定した。低下する光学密度は、毎分のミレ(Mille)吸光度単位の変化(M吸光度/分)として表わした。活性単位を、0.15Mリン酸緩衝液中の標準化リゾチーム濃度の回帰直線に基づき、mg/lのソチームに変換し、次に乾燥フィルム1g当たり放出されるソチームのgに変換した。
【0046】
抗菌活性
大腸菌および大便レンサ球菌を、ブレインハートインフュージョン(BHI)ブロスおよびMRSブロスのそれぞれにおいて、37℃で一晩増殖させた。これらの微生物の1mlの試料を同じブロス99mlで希釈して、約107 CFU/ml接種材料を得た。フィルムの各試験片約0.03gをペトリ皿(直径85mm)の中に置き、次にその中に接種材料10mlを注いだ。フィルムに曝露しない接種材料を対照として使用した。ペトリ皿を室温、50RPMで振とうした。試料を0時間、6時間、12時間、および24時間で取り、希釈バイアル(Dilu-Lock II(商標) Butterfield's Buffer, Hardy Diagnostics, Santa Maria, CA)で希釈し、二回通り平板培養した。平板培養には、BHIおよびMRS寒天培地を大腸菌および大便レンサ球菌にそれぞれ使用した。コロニーの数を数える前に、各プレートを37℃で48時間インキュベートした。
【0047】
透湿度の測定
透湿度(WVP)は、ASTM E96(ASTM2000a)に従って、25℃および100/50%RH勾配でカップ法を使用して決定した。蒸留水11mlを、内径57mmおよび内部深さ15mmの、Plexiglas(登録商標)製の各試験カップの中に入れた。水とフィルムとの間隔は、10.7mmであり、フィルムの有効面積は25.5cm2であった。カップアセンブリを温度および湿度制御チャンバ(25℃および50%RH)の中に置いた。各カップアセンブリを、電子はかり(精度0.0001g)を使用して毎時に6時間計量して、湿度の損失を時間の経過とともに記録した。次に、WVP補正法(Gennadios and others 1994)を使用して、フィルムと水の表面との間の停滞した空気の空隙の抵抗について、WVPを補正した。
【0048】
物理学的特性
フィルムの物理学的特性を、組織分析機(TA.XT2i, Texture Technologies Corp., Scarsdale, NY)を使用して決定した。全ての特性測定は、水分の変化を最小限にするため、フィルム試験片をチャンバから取り出した直後に実施した。引張り強さ(TS)および破断伸び率(EL)を測定するために、ASTM D882法(ASTM2000b)を使用した。フィルムの各試験片を組織分析機のグリップ(TA96)の間に載せ、初期グリップ分離50mmおよびクロスヘッド速度1mm/sで試験した。TS値は、測定した最大積載量(N)をフィルムの断面積(mm2)で割ったものを、Mpaの単位で報告した。EL値は、記録した破断伸びを試験片の最初の長さで割って、100を掛けることで得た。
【0049】
微細構造
フィルムの表面および内部構造は、Scanning Electron Microscopy(AmRay 3300FE field emission SEM, AmRay, Bedford, MA)を使用して評価した。フィルム切片をアルミニウムのスタブに載せ、スパッター塗布機(Edwards model S150B Sputter Coater; BOC Edwards Vacuum, Ltd, UK)を使用して金-パラジウム合金を被覆した。各被覆試料を、試料に垂直に向けられた5kVの電圧の電子ビームを使用して試験した。
【0050】
統計的分析
全ての実験は3回反復した。各反復において、リゾチーム放出および抗菌活性測定に2個のフィルム試験片を使用し、密度、含水量、およびWVP測定に5個のフィルム試料を使用し、物理学的特性の測定に10個のフィルム試料を使用した。一般線形モデル(GLM)手順を、SAS(Statistical Analysis System Institute Inc., Cary, NC)を使用して異なるフィルムの差を試験するのに適用した。分散の分析ためのPROC GLM(ANOVA)を全ての処理で実施した。測定された反応に適合する回帰モデルを見つけるために、PROC REGを実施した。多重平均比較のためにDuncanの多重範囲試験を使用した。有意な差はp<0.05と定義した。
【0051】
結果-被膜形成および基本的な物理的性質
リゾチームをキトサン溶液と一つにまとめると、いずれのFFSにおいても沈殿が観察されなかった。このことは、酢酸溶解キトサン溶液が、水溶性リゾチームと良好な相溶性を有することを実証した。全ての乾燥フィルムは、流延プレートから剥ぎ取ることが容易であった。全ての種類のフィルムの厚さは、FFSの計算された量を流延することによって、72±11μmの範囲に注意深く制御した。これにより、確実にフィルム厚において統計的な差が観察されなかった(p<0.05)。
【0052】
下記の表1は、各試験フィルム(n=15)の密度および含水量を示す。純粋なキトサンフィルム(L0)は、密度と含水量の両方で最高値を有した。密度は、全てのフィルムで統計的な差がなかった。含水量は、リゾチーム濃度が増加すると、減少する傾向があった。理論に束縛されるものではないが、これは、キトサンとリゾチームの両方が多数のOHおよび-NH2基を含有するために起こる可能性がある。水素結合がこれらの基の間の主な引力である。リゾチーム分子のキトサン鎖への添加が、水素結合およびファンデルワールス相互作用のような、キトサン分子とリゾチーム分子との相互作用を増加することによって、キトサン分子の構造的立体配置を変えることができる。リゾチームは、親水性と疎水性の両方のアミノ酸を含有する。被膜形成時に、リゾチーム疎水性コアが、リゾチームを折りたたむのに重要な役割を果たす同じ疎水性相互作用によって、水性FFSに向かって突き出す親水性アミノ酸側鎖により形成されることができる。フィルムマトリックス中のこれらの疎水性側鎖は、リゾチーム-キトサン複合フィルムの含水量に影響を与えることができる。
【0053】
(表1)リゾチーム-キトサン複合フィルムの組成および物理的性質

1 フィルム厚=72.6±8.2μm;L0=リゾチーム0%(キトサンのw/w);L20=リゾチーム20%(キトサンのw/w);L60=リゾチーム60%(キトサンのw/w);L100=リゾチーム100%(キトサンのw/w)
2 FFS中のキトサン重量とリゾチーム重量の総計に基づくグリセロールの重量%
【0054】
結果-リゾチームの放出
フィルムマトリックスから放出されるリゾチームの量を図1で示す。リゾチームのないキトサンフィルム(L0)は、凍結乾燥されたマイクロコッカス・リゾディクティクスに対してあらゆる溶解活性を示さなかったが、これらの活性は、フィルムマトリックスに組み込まれたリゾチームの濃度の増加に比例して増大した。リゾチーム-キトサン複合フィルムをリン酸緩衝溶液の中に入れた場合、フィルムは、水分子のポリマーフィルム構造内への分散によって膨張し、組み込まれたリゾチームの、フィルムマトリックスから水性環境への放出をもたらした。リゾチームは、時間の経過とともにフィルムマトリックスから対数的に放出した。フィルムマトリックスからのリゾチームの放出は、ポリマーマトリックス中の初期リゾチーム濃度と直線的に相関した。48時間後の各フィルム試験片からのリゾチームの放出量の割合は、L20、L60、およびL100フィルムでそれぞれ約65%、79%、および76%であった。24時間後の各フィルム試験片からのリゾチームの放出量の割合は、L20、L60、およびL100フィルムでそれぞれ約48%、75%、および71%であった。12時間後の各フィルム試験片からのリゾチームの放出量の割合は、L20、L60、およびL100フィルムでそれぞれ約43%、60%、および56%であった。1時間後の各フィルム試験片からのリゾチームの放出量の割合は、L20、L60、およびL100フィルムでそれぞれ約14%、26%、および25%であった。
【0055】
やや湿った食物では、微生物の増殖は主に食物の表面で起こる。したがって、制御され、かつ遅延された分散によって、食物の表面に抗菌剤の所望のレベルを保持することは、食物の保存寿命を延ばすために有益でありうる。これらの結果は、細菌細胞壁基質に対する溶解活性を保持しながら、キトサンフィルムに組み込まれたリゾチームを制御された方法でフィルムマトリックスから放出できることを示す。例えば、約24時間後では、約30%までのリゾチームがフィルムから放出されなかった。約48時間後では、約20%までのリゾチームがフィルムから放出されなかった。
【0056】
結果-抗菌活性
図2Aおよび2Bは、リゾチーム-キトサンフィルムで処理されたブロス中の大腸菌および大便レンサ球菌の生存を示す。大腸菌に対するリゾチーム-キトサン複合フィルムの抗菌効果は、L100フィルムを除いて、リゾチーム濃度が増加すると増大した。インキュベーションの24時間後、細胞数は、L0、L20、またはL60フィルムのBHIブロスそれぞれで約1.8ログサイクル、2.3ログサイクルおよび2.7ログサイクルで低減した。同時に細胞数は、L100フィルムおよび対照でそれぞれ約0.1ログサイクルおよび2.3ログサイクルで増加した。L100フィルムは、細胞集団が回復した後、6時間まで増殖を阻害した。
【0057】
大便レンサ球菌の増殖は、低濃度のリゾチームを含有するリゾチーム-キトサン複合フィルム(L0およびL20フィルム)によって有効に阻害されなかった。L0およびL20フィルムでは、大腸レンサ球菌集団は曝露の24時間の間に僅かに増加した。対照的に、大腸レンサ球菌の3.3ログ低減および3.8ログ低減が、L60およびL100フィルムを含有するブロスでそれぞれ観察された。24時間後、対照試料で約1.1ログサイクルの増加が起こった。リゾチーム濃度の増加に伴うグラム陽性大腸レンサ球菌に対する抗菌活性の増大は、リゾチームがこの効果の主な原因であることを示すこと可能性がある。
【0058】
大腸菌に対するキトサンの抗菌活性が、Shahidi(1999)により検討されている。純粋なキトサンフィルム(L0)は、グラム陰性大腸菌に対して殺菌作用を示したが、グラム陽性大腸レンサ球菌の増殖に対しては、ほとんど阻害効果を示さなかった。両方の細菌に対する最も安定した阻害傾向がL60フィルムで観察された。L100フィルムでの大腸菌集団の回復は疑わしく、これは、増加したリゾチーム-キトサン相互作用によって説明することができる。フィルムマトリックスから放出されたキトサン分子は、細胞の表面に積み重なるか、またはリゾチームと相互作用して、リゾチーム-キトサン複合体を形成することができる。リゾチームの過剰量が細胞懸濁液に曝露される場合、リゾチーム-キトサン相互作用の可能性が大きくなることがある。これらの相互作用の増加は、キトサンと細胞表面の反応を妨げる可能性がある。
【0059】
大腸レンサ球菌に対する最強の抗菌活性は、最高のリゾチーム濃度を含有するキトサンフィルム(L100)で示されたが、大腸菌では、リゾチーム60%濃度(キトサンのw/w)のフィルムで示された。これらの結果は、キトサンの抗菌活性が、リゾチームをキトサンフィルムマトリックスに組み込むことによって増強されうることを示す。更に、リゾチーム分子とキトサン分子の比は、リゾチーム-キトサン複合フィルムの抗菌挙動に影響を与える重要な要因である。
【0060】
結果-透湿度
フィルムの透湿度(WVP)は、試験濃度レベル(p<0.05)でのリゾチームの組み込みによって、有意に影響を受けなかった(下記の表2を参照すること)。理論に束縛されるものではないが、この結果は、2つの相反する要因の効果によって説明できる。キトサンフィルムは、他の多くのタンパク質または多糖類食用フィルムと同様に、その親水性の性質のため、比較的低い防水性を示す。キトサンフィルムの防水性は、脂肪酸のような疎水性物質の添加により改善できる。リゾチームが疎水性アミノ酸側鎖を含有するので、リゾチーム-キトサン複合フィルムの親水性は、リゾチームの添加によって低下する可能性がある。しかし、キトサンの密な構造、特にその結晶部分が、リゾチーム分子により破壊され、フィルムマトリックスを通る増大したWVPをもたらす可能性がある。これらの2つの相反する要因は、様々なリゾチーム濃度によるリゾチーム-キトサン複合フィルムのWVP特性の変動を相殺するか、または最小限にすることができる。
【0061】
(表2)リゾチーム-キトサン複合フィルムの透湿度

1 L0=リゾチーム0%(キトサンのw/w);L20=リゾチーム20%(キトサンのw/w);L60=リゾチーム60%(キトサンのw/w);L100=リゾチーム100%(キトサンのw/w)
【0062】
結果-物理学的特性
フィルムの引張り強さ(TS)および破断伸び率(EL)は、リゾチームの添加により有意に低下した(p>0.05)(下記の表3を参照すること)。増加したリゾチーム濃度によるTSとELの両方の低下は、以下の一次方程式により説明できる。
TS=-0.10C1+16.70,R2=0.96
EL=-0.32C1+59.89,R2=0.99
式中、C1は、リゾチーム-キトサンフィルムマトリック中のリゾチームの濃度率(%、キトサンのw/w)である。加えて、ELとTSに直線関係があることが見出された。
EL=3.07TS+8.30,R2=0.98
1:1のキトサンとリゾチームの比(L100)では、TSおよびELの値でそれぞれ43%および48%の低下があった。しかし、そのような低下は、フィルムの食品保護剤としての使用を妨げるのに十分なほど有意なものではない。
【0063】
キトサンは、硬質な主鎖構造をもつ優れた被膜形成直鎖状ポリマーであるが、リゾチームは、膜形成能の乏しい正電荷酵素である。TSとELの両方の低下は、リゾチームの組み込みがフィルム構造および完全性を弱めたことを示す。リゾチーム分子の、キトサンフィルムマトリックスへの導入は、結晶構造形状を破壊し、キトサン分子間の水素結合を弱める可能性がある。フィルムマトリックス中のキトサン分子とリゾチーム分子の相互作用の増加は、リゾチーム-キトサン複合フィルムのTSおよびELの変化の原因となる可能性がある。TSおよびEL値の低下は、また、キチン分解酵素であるリゾチームによるキトサン分子の分解が、原因である可能性がある。リゾチームによるキトサン分子の分解は、高度に脱アセチル化されたキトサン(例えば、少なくとも約95%の脱アセチル化度)を使用することにより低減できる。加えて、リゾチーム-キトサン複合フィルムの物理学的特性および防水性は、フィルムマトリックス中でのグルタルアルデヒドのような架橋剤の使用により改善することができる。
【0064】
(表3)リゾチーム-キトサン複合フィルムの物理学的特性

1 L0=リゾチーム0%(キトサンのw/w);L20=リゾチーム20%(キトサンのw/w);L60=リゾチーム60%(キトサンのw/w);L100=リゾチーム100%(キトサンのw/w)
【0065】
結果-微細構造
キトサンとリゾチームとの優れた生体適合性、およびキトサンマトリックスの全体を通したリゾチームの均質な分布が、SEM顕微鏡写真により確認された。図3A〜3Dは、被膜形成時に空気に曝露されたリゾチーム-キトサン複合フィルムの外面を、1000×の倍率で示す。SEMマクロ写真で示されているように、フィルムの表面構造は、密であり、かつ均質であった。全てのフィルムは均質な外観を有し、マトリックスにいかなる孔または割れ目もない連続構造を示した。L60(3C)およびL100(3D)フィルムの顕微鏡写真は、フィルム表面に輝く大理石模様を示す。この大理石模様は、均一に分布され、リゾチームの濃度が増加すると増大する。白色の領域は、キトサンマトリックス中のリゾチーム微粒子の付着を表わすことができる。
【0066】
図4A〜4Dは、リゾチーム-キトサン複合フィルムの横断面の顕微鏡写真を示す。鋭角は、フィルムを液体窒素で凍結し、次にそれらを破壊することによって得た。図4A〜4Dで示されているように、キトサンとリゾチームの間に垂直方向の割れ目、または相の分離がなかった。横断面構造は、フィルムが壊された場合に形成された可能性のある、表面に平行に幾つかの裂け目がある以外は、密であり、かつ連続していた。フィルムマトリックスの全体を通したリゾチームの均一な分布は、高濃度のリゾチームをもつフィルムの均質な様相により示される(4Cおよび4D)。L20フィルムの顕微鏡写真(4B)は、乾燥時にフィルムの上に落下した可能性のある異物を示す。この種の汚染は、溶媒蒸発被膜形成法、特にフィルムが開放大気環境で流延かつ乾燥された場合の欠点となりうる。
【0067】
予測的(prophetic)実施例2
代替的なFFSは、2重量%のキトサンを、50重量%のラウリン酸、25重量%のグリセロール、および100重量%のリゾチーム(キトサンのw/w)の65℃での添加によって、1重量%の酢酸溶液に溶解することより調製できる。次にフィルムを実施例1で記載されているように調製する。脂肪酸(すなわち、ラウリン酸)の、被膜形成溶液への添加は、フィルムの防水性を、その抗菌活性に有意に影響を与えることなく改善することができる。
【0068】
実施例3
被覆溶液は、キトサン溶液をリゾチーム溶液と混合することにより調製した。キトサン溶液は、3%のキトサンを、25%のグリセロール(キトサンのw/w)の添加によって1%の酢酸溶液に溶解することにより調製した。リゾチーム溶液は、10%のリゾチームを、25%のグリセロール(リゾチームのw/w)の添加によって蒸留水に溶解することにより調製した。リゾチーム溶液を60%(キトサンの乾燥重量当たりのリゾチームの乾燥重量%)の濃度でキトサン溶液と混合した。得られた混合物を、ホモジナイザー(PT 10-35, Kinematica, Switzerland)を3,000rpmで60秒間使用して、均質化した。リステリア・モノサイトゲネスATCC15313およびラクトバシルス・プランタラムを試験微生物として使用して、食物表面の被覆処理の抗菌効果を評価した。リステリア・モノサイトゲネスおよびラクトバシルス・プランタラムを、ブレインハートインフュージョン(BHI)ブロスおよびMRSブロスのそれぞれにおいて、37℃で一晩増殖させた。
【0069】
商業的に製造されたビーフ・フランク(Bun-Length, Oscar Mayer Foods Corp., Madison, WI)を得て、無菌条件下で26mmの長さ(約10g)に切断した。薄く切ったビーフフランクを被覆溶液に30秒間浸漬し、垂直ラミナーエアフローベンチ(100-plus, Envirco Corp., Albuquerque, New Mexico)で30分間乾燥した。非被覆対照および被覆試料を、リステリア・モノサイトゲネスまたはラクトバシルス・プランタラム(約2×103CFU/ml)100μlで接種し、200 mm×150 mmの真空プラスチックバッグ(FoodSaver Rolls, Tilia, Inc., San Francisco, CA)の中に入れ、ヒートシーラー(FoodSaver Vac 1075, Tilia, Inc., San Francisco, CA)で真空包装した。
【0070】
22.5±1℃で4日間保存した後、各ビーフ・フランク試料を滅菌ストマッカーバッグの中に入れた。真空プラスチックバッグを0.1%ペプトン水90mlですすぎ、同じストマッカーバッグの中に移した。試料を、Stomacher 型微粉砕機(Stomacher 400 Circulator, Seward, London, UK)により230RPMで2分間浸軟した。懸濁液では微生物の個体群を二回通り列挙した。BHI寒天培地およびMRS寒天培地をリステリア・モノサイトゲネスおよびラクトバシルス・プランタラムのためにそれぞれ使用した。微生物コロニーの数を数える前に、微生物培地を含有するプラスチックのペトリ皿を37℃で48時間インキュベートした。
【0071】
被覆および非被覆ビーフ・フランクの表面に接種されたリステリア・モノサイトゲネスまたはラクトバシルス・プランタラムの増殖に対する被覆処理の効果を、表4に示す。リゾチーム-キトサン複合被覆処理は、ビーフ・フランク表面でのリステリア・モノサイトゲネスの増殖阻害をもたらした。しかし、ラクトバシルス・プランタラムの細胞数の僅かな増加が、同じ条件下で観察された。
【0072】
(表4)リステリア・モノサイトゲネスまたはラクトバシルス・プランタラムが接種されたビーフ・フランクの微生物増殖に対する被覆の効果

【0073】
実施例4
商業的に製造されたミディアム・チェダー・チーズ(Tillamook County Creamery Association, Tillamook, OR)を、リゾチーム-キトサン複合被覆適用の抗菌特性を実証するために他の食物系として使用した。チーズの四角い塊を60mm×26mm×5mmの寸法(約10g)に無菌的に切断して、実施例3で記載された被覆溶液を被覆した。全ての手順は、実施例3と同じであった。表5で示されるように、チーズの薄切りの表面のリステリア・モノサイトゲネスおよびラクトバシルス・プランタラムの増殖は、両方とも阻害された。
【0074】
(表5)リステリア・モノサイトゲネスまたはラクトバシルス・プランタラムが接種された薄く切ったチェダー・チーズの微生物増殖に対する被覆の効果

【0075】
実施例5
リゾチーム-キトサン溶液は、キトサン2%をキトサン3%の代わりに使用する以外は、実施例1で記載されている方法に従って調製した。被膜形成溶液を、平滑テフロン被覆ガラスプレート上で260mm×260mmの領域に流延して、周囲条件下(22.5±1℃および相対湿度{RH}40±5%)で2日間乾燥した。乾燥フィルムをプレートから取り出し、65×30mmの寸法の切片に切断した。製造されたフィルムの厚さは85±9μmであった。フィルム切片を、25℃および50%RHに設定した環境室(T10RS, Tenney Environmental, Williamsport, PA)で2日間保存した。
【0076】
チェダー・チーズ(Tillamook County Creamery Association, Tillamook, OR)を、60mm×26mm×5mmの長方形の寸法に無菌的に切断して、リステリア・モノサイトゲネスまたはラクトバシルス・プランタラム(約2×103CFU/ml)100μlを接種した。各接種チーズの薄切りを2個の同等の処理フィルム切片で挟んだ。商業的に製造されたビーフ・フランク(Bun-Length, Oscar Mayer Foodscorp., Madison, WI)を得て、無菌条件下で26mmの長さ(約10g)に切断し、200mm×150mmの真空プラスチックバッグ(FoodSaver Rolls, Tilia, Inc., San Francisco, CA)の中に真空包装した。保存条件および微生物列挙は、実施例3で記載されたものと同様の手順であった。
【0077】
表6で示されているように、リゾチーム-キトサン複合フィルムは、チーズの表面での微生物の増殖を低減した。ラクトバシルス・プランタラムがリステリア・モノサイトゲネスよりもフィルムに対して感受性があった。チーズ表面の実施例では、フィルム処理が被覆処理よりも強い抗菌活性を示した。
【0078】
(表6)リステリア・モノサイトゲネスまたはラクトバシルス・プランタラムが接種された薄く切ったチェダー・チーズの微生物増殖に対するフィルム適用の効果

【0079】
開示された方法、フィルム、および食品の原理を、幾つかの例を参照して例示し、説明してきたが、これらの方法、フィルム、および食品を、そのような原理から逸脱することなく詳細に改変できることが明白であるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】リゾチーム-キトサン複合フィルムのマトリックスから0.15Mリン酸緩衝溶液へのリゾチームの放出パターンを時間の関数として示すグラフである。N=6;L0=リゾチーム0%(キトサンのw/w);L20=リゾチーム20%(キトサンのw/w);L60=リゾチーム60%(キトサンのw/w);L100=リゾチーム100%(キトサンのw/w)。フィルム厚は72.6±8.2μmであった。
【図2】BHIブロス中の大腸菌(2A)およびMRSブロス中の大腸レンサ球菌(2B)に対するリゾチーム-キトサン複合フィルムの効果を示すグラフである。N=6;対照=フィルムなし;L0=リゾチーム0%(キトサンのw/w);L20=リゾチーム20%(キトサンのw/w);L60=リゾチーム60%(キトサンのw/w);L100=リゾチーム100%(キトサンのw/w)。
【図3】1,000×倍率で観察したリゾチーム-キトサン複合フィルムの表面の走査型電子顕微鏡写真である;L0(3A)、L20(3B)、L60(3C)、L100(3D)。L0=リゾチーム0%(キトサンのw/w);L20=リゾチーム20%(キトサンのw/w);L60=リゾチーム60%(キトサンのw/w);L100=リゾチーム100%(キトサンのw/w)。
【図4】1,000×倍率で観察したリゾチーム-キトサン複合フィルムの横断面の走査型電子顕微鏡写真である;L0(4A)、L20(4B)、L60(4C)、L100(4D)。L0=リゾチーム0%(キトサンのw/w);L20=リゾチーム20%(キトサンのw/w);L60=リゾチーム60%(キトサンのw/w);L100=リゾチーム100%(キトサンのw/w)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサンポリマーマトリックス内に組み込まれているリゾチームを含む複合フィルム。
【請求項2】
フィルムの全ての成分が食用かつ再生可能である、請求項1記載のフィルム。
【請求項3】
キトサンが少なくとも約70%の脱アセチル化度を有する、請求項1記載のフィルム。
【請求項4】
可塑剤または架橋剤から選択される少なくとも1つの追加的な成分を更に含む、請求項1記載のフィルム。
【請求項5】
少なくとも1つの可塑剤および少なくとも1つの架橋剤を更に含む、請求項4記載のフィルム。
【請求項6】
少なくとも1つの架橋剤を更に含む、請求項3記載のフィルム。
【請求項7】
キトサンが、キトサンアセテート、キトサンソルベート、キトサンプロピオネート、キトサンラクテート、キトサングルタメート、キトサンベンゾエート、キトサンシトレート、キトサンマレエート、キトサングルコレート、キトサンアクリレート、キトサンスクシネート、キトサンオキサレート、キトサンアスコルベート、キトサンタータレート、またはこれらの混合物を含む、請求項1記載のフィルム。
【請求項8】
リゾチームが抗菌有効量で存在する、請求項1記載のフィルム。
【請求項9】
フィルムが約1〜約300g mm/m2 d kPaの透湿度を有する、請求項1記載のフィルム。
【請求項10】
フィルムの基材への適用の約24時間後、約30%までのリゾチームがフィルムから放出されないように、ならびに約48時間後、約20%までのリゾチームがフィルムから放出されないように、リゾチームの量が十分である、請求項1記載のフィルム。
【請求項11】
(a)キトサンと、
(b)キトサンの重量に基づいた約10〜約200重量%のリゾチームとを含むフィルム。
【請求項12】
約10〜約100重量%のリゾチームを含む、請求項11記載のフィルム。
【請求項13】
可塑剤または架橋剤から選択される少なくとも1つの追加的な成分を更に含む、請求項11記載のフィルム。
【請求項14】
可塑剤がキトサンの重量に基づいた約1〜約50重量%の量で存在する、請求項13記載のフィルム。
【請求項15】
フィルムを作製する方法であって、以下の段階を含む方法:
キトサンおよびリゾチームを水性媒質に溶解または分散して、被膜形成溶液または分散体を得る段階;
被膜形成溶液または分散体を基材の表面に適用する段階;および
被膜形成溶液または分散体をフィルムに変換する段階。
【請求項16】
キトサンが水性有機酸に溶解される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
水性有機酸が、酢酸、ソルビン酸、プロピオン酸、乳酸、グルタミン酸、安息香酸、クエン酸、マレイン酸、グリコール酸、アクリル酸、コハク酸、シュウ酸、アスコルビン酸、酒石酸、またはこれらの混合物から選択される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
リゾチームが水に溶解されてリゾチーム溶液をもたらし、次にリゾチーム溶液がキトサン溶液と混合される、請求項16記載の方法。
【請求項19】
リゾチーム溶液とキトサン溶液の混合が周囲室条件(ambient room condition)下で起こる、請求項18記載の方法。
【請求項20】
リゾチーム溶液が約5〜約20重量%のリゾチームを包含する、請求項18記載の方法。
【請求項21】
被膜形成溶液または分散体のフィルムへの変換が乾燥を介して起こる、請求項15記載の方法。
【請求項22】
基材表面が食料品の表面を含む、請求項15記載の方法。
【請求項23】
フィルムがリゾチームの抗菌有効量を含み、フィルムの抗菌活性が少なくとも3週間持続する、請求項22記載の方法。
【請求項24】
少なくとも1つの他の添加剤を水性媒質中に溶解または分散する段階を更に含む、請求項15記載の方法。
【請求項25】
フィルムを食料品の表面に配置させる段階を更に含む、請求項15記載の方法。
【請求項26】
被膜形成溶液または分散体が噴霧、はけ塗り、滴下又は浸漬を介して食料品の表面に適用される、請求項22記載の方法。
【請求項27】
請求項15の方法により製造されるフィルム。
【請求項28】
リゾチームが抗菌有効量でフィルムに存在する、請求項27記載のフィルム。
【請求項29】
キトサンポリマーマトリックス内に組み込まれたリゾチームを包含する抗菌フィルムを食料品の少なくとも一部の表面に包含する食料品。
【請求項30】
リゾチームがキトサンの重量に基づいた約10〜約200重量%の量でフィルムに存在する、請求項29記載の食料品。
【請求項31】
フィルムが約1〜約300g mm/m2 d kPaの透湿度を有する、請求項29記載の食料品。
【請求項32】
フィルムが、
キトサンおよびリゾチームを水性媒質に溶解または分散して、被膜形成溶液または分散体を得る段階と、
被膜形成溶液または分散体を基材の表面に適用する段階と、
被膜形成溶液または分散体をフィルムに変換する段階とを含む方法により作製される、請求項29記載の食料品。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−529614(P2007−529614A)
【公表日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504092(P2007−504092)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【国際出願番号】PCT/US2005/008855
【国際公開番号】WO2005/089416
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(506253388)ステイト オブ オレゴン アクティング バイ アンド スルー ザ ステイト ボード オブ ハイヤー エデュケーション オン ビハーフ オブ オレゴン ステイト ユニバーシティー (9)
【Fターム(参考)】