説明

リチウムイオン二次電池、組電池、ハイブリッド自動車、電池システム

【課題】低温出力特性及び寿命特性を良好としつつ、十分な充電電気量を確保することができるリチウムイオン二次電池、これを用いた組電池、これを搭載したハイブリッド自動車、電池システムを提供する。
【解決手段】本発明のリチウムイオン二次電池100は、正極活物質153と、負極活物質154と、非水電解液140とを備えている。このうち、正極活物質153は、LiFe(1-X)XPO4(Mは、Mn,Cr,Co,Cu,Ni,V,Mo,Ti,Zn,Al,Ga,Mg,B,Nbのうち少なくともいずれかであり、0≦X≦0.5)である。また、非水電解液140は、エステル系溶媒142を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池、これを用いた組電池、これを搭載したハイブリッド自動車、並びに、電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯機器の電源として、また、電気自動車やハイブリッド自動車などの電源として注目されている。現在、リチウムイオン二次電池としては、LiMO2(Mは、Co,Ni,Mn,V,Al,Mgなど)からなる正極活物質と、グラファイトからなる負極活物質と、Li塩と非水溶媒からなる非水電解液とを有するものが主流となっている(例えば、特許文献1〜3参照)。このリチウムイオン二次電池は、高い放電電圧を示し、高出力であるという利点がある。
【0003】
【特許文献1】特開2005−336000号公報
【特許文献2】特開2003−100300号公報
【特許文献3】特開2003−059489号公報
【特許文献4】特開2006−172775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、正極活物質としてLiMO2を用い、負極活物質としてグラファイトを用いたリチウムイオン二次電池は、十分な充電電気量を確保すると共に高い出力を得るために、充電上限電圧を4.2以上に設定して使用することが知られている。しかしながら、充電上限電圧を4.2以上として使用すると、電解液の酸化分解が進行して、電池の寿命特性が低下する課題があった。充電上限電圧を4.0V以下にすれば、電解液の酸化分解を抑制することはできるが、これでは、十分な充電電気量を確保することができず、出力特性も大きく低下してしまう。また、特許文献1〜3に開示されているリチウムイオン二次電池は、低温時(特に、−20℃以下)における出力特性も好ましくなかった。
【0005】
これに対し、特許文献4には、低温出力特性が良好なリチウムイオン二次電池として、例えば、エステル系溶媒を含む非水電解液を有するリチウムイオン二次電池が開示されている。しかしながら、エステル系溶媒を含む非水電解液は、特に、電池電圧の上昇に伴う酸化分解が進行し易い。特許文献4には、充電上限電圧を4.1Vとした実施例が開示されているが、充電上限電圧を4.1Vとして使用した場合でも、エステル系溶媒を含む電解液の酸化分解は進行し、電池の寿命特性が大きく低下してしまう課題があった。
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、低温出力特性及び寿命特性を良好としつつ、十分な充電電気量を確保することができるリチウムイオン二次電池、これを用いた組電池、これを搭載したハイブリッド自動車、電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
その解決手段は、正極活物質と、負極活物質と、非水電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、上記正極活物質は、LiFe(1-X)XPO4(Mは、Mn,Cr,Co,Cu,Ni,V,Mo,Ti,Zn,Al,Ga,Mg,B,Nbのうち少なくともいずれかであり、0≦X≦0.5)であり、上記非水電解液は、下記式(1)で表されるエステル系溶媒を含むリチウムイオン二次電池である。
【化4】

(式1中、R1は、水素または炭素数1〜4のアルキル基を示し、R2は、炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
【0008】
本発明のリチウムイオン二次電池では、非水電解液が、式(1)で表されるエステル系溶媒を含んでいる。このため、良好な低温出力特性(特に、−20℃以下)を得ることができる。ところで、エステル系溶媒を含む非水電解液は、特に、電池電圧(=正極電位−負極電位)の上昇に伴う酸化分解が進行し易い。具体的には、充電電圧を、正極電位(Li基準)が4.05Vを上回る値にまで高めると、酸化分解が進行し、電池寿命が大きく低下してしまう。
【0009】
ところが、従来、正極活物質として用いられていたLiMO2(Mは、Co,Ni,Mn,V,Al,Mgなど)では、充電上限電位(Li基準)を4.05V以下としては、挿入できるLiイオン量が、理論電気容量の85%以下に相当する量にまで低下してしまう。しかも、充電上限電位(Li基準)を4.05V〜3.55Vの範囲で小さくするにしたがって、挿入できるLiイオン量が大きく低下してゆく。具体的には、挿入できるLiイオン量は、充電上限電位(Li基準)を3.85Vとすると、理論電気容量の約65%に相当する量にまで低下し、充電上限電位(Li基準)を3.55Vとすると、理論電気容量の約10%に相当する量にまで低下してしまう。
【0010】
これに対し、本発明のリチウムイオン二次電池は、正極活物質として、LiFe(1-X)XPO4(Mは、Mn,Cr,Co,Cu,Ni,V,Mo,Ti,Zn,Al,Ga,Mg,B,Nbのうち少なくともいずれかであり、0≦X≦0.5)を用いている。LiFe(1-X)XPO4 で表される化合物は、充電電位(Li基準)が4.05Vになるまでに、理論電気容量の約98%に相当する量のLiイオンを挿入することができる特性を有している。
【0011】
しかも、理論電気容量の約15%〜約95%に相当する範囲では、充電電位(Li基準)がほとんど上昇しないが、約95%を超えると急激に上昇する特性を有している。具体的には、理論電気容量の96%〜98%に相当する範囲で、充電電位(Li基準)が3.55Vから4.05Vにまで上昇する。従って、本発明のリチウムイオン二次電池について、充電上限電圧を、正極電位(Li基準)が4.05V〜3.55Vとなる範囲で小さくしていっても、充電電気量の低下が極めて小さくなる。具体的には、充電上限電圧を、正極電位(Li基準)が3.85Vとなる値としても、理論電気容量の約97%の電気量を蓄えることができ、正極電位(Li基準)が3.55Vとなる値としても、理論電気容量の約96%の電気量を蓄えることができる。
【0012】
従って、本発明のリチウムイオン二次電池について、充電上限電圧を、正極電位(Li基準)が3.55V以上4.05V以下となる値に設定して使用することで、エステル系溶媒を含んだ電解液の酸化分解を抑制することができ、しかも、十分な充電電気量を確保することができる。
以上より、本発明のリチウムイオン二次電池は、低温出力特性及び寿命特性を良好としつつ、十分な充電電気量を確保することができるリチウムイオン二次電池となる。
【0013】
さらに、上記のリチウムイオン二次電池であって、前記エステル系溶媒は、ギ酸メチル、ギ酸エチル、メチルアセテート、エチルアセテート、メチルプロピネート、及びエチルプロピネートから選択した少なくとも1種類のエステル系溶媒であるリチウムイオン二次電池とすると良い。
【0014】
エステル系溶媒として、ギ酸メチル、ギ酸エチル、メチルアセテート、エチルアセテート、メチルプロピネート、及びエチルプロピネートから選択した少なくとも1種類のエステル系溶媒を用いることで、優れた低温出力特性を得ることができる。
【0015】
さらに、上記いずれかのリチウムイオン二次電池であって、前記負極活物質は、炭素系材料であるリチウムイオン二次電池とすると良い。
【0016】
炭素系材料は、極めて低い充放電電位(Li基準)で、Liイオンを挿入・放出することができる特性を有する。従って、本発明のリチウムイオン二次電池では、正極電位(Li基準)に近い電池電圧で、充放電を行うことができる。特に、正極活物質として用いるLiFe(1-X)XPO4 は、3.4付近の比較的高い電位で、理論電気容量の約80%に相当するLiイオンを挿入・放出することができる特性を有する。従って、本発明のリチウムイオン二次電池では、高い出力を安定して発揮することができる。
【0017】
なお、炭素系材料としては、天然黒鉛系材料、人造黒鉛系材料(メソカーボンマイクロビーズなど)、難黒鉛化炭素系材料などを例示できる。このうち、天然黒鉛系材料、及び人造黒鉛系材料は、難黒鉛化炭素系材料に比べて、結晶の層間距離dが小さく結晶子サイズLcが大きいので、充放電電位の変動が小さくなる。従って、負極活物質として、天然黒鉛系材料及び人造黒鉛系材料(メソカーボンマイクロビーズなど)の少なくともいずれかを用いるのが好ましい。
【0018】
このうち、天然黒鉛系材料は、0.05V付近の充放電電位(Li基準)で、理論電気容量の約100%に相当するLiイオンを挿入・放出することができる特性を有する。従って、負極活物質として天然黒鉛系材料を用いた場合は、3.35V(3.4−0.05)付近の電池電圧で、理論電気容量の約80%に相当する電気量を充放電することができる。この場合、正極電位(Li基準)が3.55V以上4.05V以下となる電池電圧は、3.5V以上4.0V以下となる。従って、充電上限電圧を、3.5V以上4.0V以下に設定して使用することで、低温出力特性及び寿命特性を良好としつつ、十分な充電電気量を確保することができる。
【0019】
また、前記いずれかのリチウムイオン二次電池であって、前記負極活物質は、Li4Ti512系材料であるリチウムイオン二次電池とするのが好ましい。
【0020】
このリチウムイオン二次電池では、LiFe(1-X)XPO4 を正極活物質として用い、Li4Ti512系材料を負極活物質として用いている。このようなリチウムイオン二次電池では、電池電圧がほとんど変動することなく、理論電気容量の約80%に相当する電気量を充放電することができる。LiFe(1-X)XPO4 を正極活物質として用いる場合には、負極活物質として、炭素系材料よりもLi4Ti512系材料を用いた方が、充放電時の電圧変動を小さくすることができる。従って、本リチウムイオン二次電池では、出力変動の小さい安定した出力特性(IV特性)を発揮することができる。
【0021】
なお、Li4Ti512は、1.5V付近の充放電電位(Li基準)で、理論電気容量の約100%に相当するLiイオンを挿入・放出することができる特性を有する。従って、負極活物質としてLi4Ti512を用いた場合は、1.9V(3.4−1.5)付近の電池電圧で、理論電気容量の約80%に相当する電気量を充放電することができる。この場合、正極電位(Li基準)が3.55V以上4.05V以下となる電池電圧は、2.05V以上2.55V以下となる。従って、充電上限電圧を、2.05V以上2.55V以下に設定して使用することで、低温出力特性及び寿命特性を良好としつつ、十分な充電電気量を確保することができる。
【0022】
他の解決手段は、上記いずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池を、複数、互いに電気的に直列に接続してなる組電池である。
【0023】
本発明の組電池は、前述のリチウムイオン二次電池を、複数、互いに電気的に直列に接続した組電池である。従って、本発明の組電池を構成するリチウムイオン二次電池の充電上限電圧を、正極電位(Li基準)が3.55V以上4.05V以下となる値に設定して使用することで、低温出力特性及び寿命特性を良好としつつ、十分な充電電気量を確保することができる。
【0024】
他の解決手段は、複数のリチウムイオン二次電池を互いに電気的に直列に接続してなる組電池を、駆動用電源として搭載してなるハイブリッド自動車であって、上記リチウムイオン二次電池は、正極活物質と、負極活物質と、非水電解液と、を備え、上記正極活物質は、LiFe(1-X)XPO4(Mは、Mn,Cr,Co,Cu,Ni,V,Mo,Ti,Zn,Al,Ga,Mg,B,Nbのうち少なくともいずれかであり、0≦X≦0.5)であり、上記非水電解液は、下記式(1)で表されるエステル系溶媒を含んでなるハイブリッド自動車である。
【化5】

(式1中、R1は、水素または炭素数1〜4のアルキル基を示し、R2は、炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
【0025】
本発明のハイブリッド自動車に搭載している組電池を構成するリチウムイオン二次電池は、正極活物質として、LiFe(1-X)XPO4を用い、非水電解液として、式(1)で表されるエステル系溶媒を含む非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池である。
前述のように、このリチウムイオン二次電池について、充電上限電圧を、正極電位(Li基準)が3.55V以上4.05V以下となる値)に設定して使用することで、低温出力特性及び寿命特性を良好としつつ、十分な充電電気量を確保することができる。
従って、本発明のハイブリッド自動車は、長期にわたり、良好な低温出力特性(特に、−20℃以下)を発揮することができる。このため、本発明のハイブリッド自動車は、寒冷地で使用する場合に好適である。
【0026】
さらに、上記のハイブリッド自動車であって、前記リチウムイオン二次電池の前記エステル系溶媒は、ギ酸メチル、ギ酸エチル、メチルアセテート、エチルアセテート、メチルプロピネート、及びエチルプロピネートから選択した少なくとも1種類のエステル系溶媒であるハイブリッド自動車とすると良い。
【0027】
前述のように、エステル系溶媒として、ギ酸メチル、ギ酸エチル、メチルアセテート、エチルアセテート、メチルプロピネート、及びエチルプロピネートから選択した少なくとも1種類のエステル系溶媒を用いたリチウムイオン二次電池は、優れた低温出力特性を得ることができる。従って、本発明のハイブリッド自動車は、長期にわたり、優れた低温出力特性(特に、−20℃以下)を発揮することができる。
【0028】
さらに、上記いずれかのハイブリッド自動車であって、前記リチウムイオン二次電池の前記負極活物質は、炭素系材料であるハイブリッド自動車とすると良い。
【0029】
本発明のハイブリッド自動車に搭載している組電池を構成するリチウムイオン二次電池は、LiFe(1-X)XPO4 を正極活物質として用い、炭素系材料を負極活物質として用いている。このリチウムイオン二次電池では、前述のように、正極電位(Li基準)に近い電池電圧で、理論電気容量の約80%に相当する電気量を充放電することができる。従って、このリチウムイオン二次電池で構成される組電池では、高い出力を安定して発揮することができる。よって、本発明のハイブリッド自動車は、大きな駆動力を安定して発揮することができる。
【0030】
他の解決手段は、正極活物質と、負極活物質と、非水電解液と、を有する1または複数のリチウムイオン二次電池と、上記1または複数のリチウムイオン二次電池の充電を開始させる充電開始手段と、上記1または複数のリチウムイオン二次電池の端子間電圧が、所定の充電上限電圧値に達したときに、上記リチウムイオン二次電池の充電を停止させる充電停止手段と、を備える電池システムであって、上記リチウムイオン二次電池は、上記正極活物質が、LiFe(1-X)XPO4(Mは、Mn,Cr,Co,Cu,Ni,V,Mo,Ti,Zn,Al,Ga,Mg,B,Nbのうち少なくともいずれかであり、0≦X≦0.5)であり、上記非水電解液が、下記式(1)で表されるエステル系溶媒を含むリチウムイオン二次電池であり、上記充電停止手段は、上記充電上限電圧値を、リチウム基準の正極電位が3.55V以上4.05V以下の範囲内となる値に設定してなる電池システムである。
【化6】

(式1中、R1は、水素または炭素数1〜4のアルキル基を示し、R2は、炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
【0031】
本発明の電池システムは、1または複数のリチウムイオン二次電池と、その充電を開始させる充電開始手段と、その端子間電圧が所定の充電上限電圧値に達したときに、リチウムイオン二次電池の充電を停止する充電停止手段とを備えている。このうち、リチウムイオン二次電池は、正極活物質として、LiFe(1-X)XPO4を用い、非水電解液として、式(1)で表されるエステル系溶媒を含む非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池である。さらに、充電停止手段では、充電上限電圧値を、リチウム基準の正極電位が3.55V以上4.05V以下の範囲内となる値に設定している。このような電池システムによれば、低温出力特性及び寿命特性を良好としつつ、十分な充電電気量を確保することができる。
【0032】
なお、本発明の電池システムが、複数のリチウムイオン二次電池(例えば、複数のリチウムイオン二次電池を互いに電気的に直列に接続した組電池)を備える場合、充電上限電圧との比較対象となる「端子間電圧」としては、例えば、全てのリチウムイオン二次電池の端子間電圧の平均値(=組電池の出力電圧/単電池の個数)を用いることができる。また、全てのリチウムイオン二次電池から選択した1個のリチウムイオン二次電池の端子間電圧や、全てのリチウムイオン二次電池から複数個選択したリチウムイオン二次電池の端子間電圧の平均値などを用いることもできる。
【0033】
さらに、上記の電池システムであって、前記充電上限電圧値を、リチウム基準の正極電位が3.55V以上3.85V以下の範囲内となる値に設定してなる電池システムとすると良い。
【0034】
充電上限電圧値を、リチウム基準の正極電位が3.55V以上3.85V以下の範囲内となる小さな値に設定することで、より一層、エステル系溶媒を含んだ電解液の酸化分解を抑制することができる。しかも、充電上限電圧値を、このように低い値に設定しても、リチウムイオン二次電池において、理論電気容量の96%以上の電気量を蓄えることができる。従って、本発明の電池システムによれば、電池の寿命特性をより一層良好とすることができ、しかも、十分な充電電気量を確保することができる。
【0035】
さらに、上記いずれかの電池システムであって、前記リチウムイオン二次電池の前記エステル系溶媒は、ギ酸メチル、ギ酸エチル、メチルアセテート、エチルアセテート、メチルプロピネート、及びエチルプロピネートから選択した少なくとも1種類のエステル系溶媒である電池システムとすると良い。
【0036】
前述のように、エステル系溶媒として、ギ酸メチル、ギ酸エチル、メチルアセテート、エチルアセテート、メチルプロピネート、及びエチルプロピネートから選択した少なくとも1種類のエステル系溶媒を用いたリチウムイオン二次電池は、優れた低温出力特性を得ることができる。従って、本発明の電池システムによれば、長期にわたり、優れた低温出力特性(特に、−20℃以下)を発揮することができる。
【0037】
さらに、上記いずれかの電池システムであって、前記リチウムイオン二次電池の前記負極活物質は、炭素系材料であり、上記充電上限電圧値を、3.5V以上4.0V以下の値に設定してなる電池システムとするのが好ましい。
【0038】
この電池システムでは、LiFe(1-X)XPO4 を正極活物質として用い、炭素系材料を負極活物質として用いたリチウムイオン二次電池を使用する。このリチウムイオン二次電池では、前述のように、3.4付近の電池電圧で、理論電気容量の約80%に相当する電気量を充放電することができる。これに対し、本電池システムでは、充電上限電圧値を、3.5V以上4.0V以下の値に設定している。これにより、リチウムイオン二次電池について、理論電気容量の約80%の容量範囲にわたって、3.4V程度の比較的高い電池電圧で放電させることができるので、安定して高い出力を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
(実施形態)
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
本実施形態にかかるハイブリッド自動車1は、図1に示すように、車体2、エンジン3、フロントモータ4、リヤモータ5、ケーブル7及び電池システム6を有し、エンジン3、フロントモータ4及びリヤモータ5との併用で駆動するハイブリッド自動車である。具体的には、このハイブリッド自動車1は、電池システム6をフロントモータ4及びリヤモータ5の駆動用電源として、公知の手段によりエンジン3、フロントモータ4及びリヤモータ5を用いて走行できるように構成されている。
【0040】
このうち、電池システム6は、ハイブリッド自動車1の車体2に取り付けられており、ケーブル7によりフロントモータ4及びリヤモータ5に接続されている。この電池システム6は、図2に示すように、複数のリチウムイオン二次電池100(単電池)を互いに電気的に直列に接続した組電池10と、電圧検知手段40と、電流検知手段50と、電池コントローラ30とを備えている。電池コントローラ30は、ROM31、CPU32、RAM33等を有している。
【0041】
電圧検知手段40は、各々のリチウムイオン二次電池100の端子間電圧Vを検知する。また、電流検知手段50は、組電池10を構成するリチウムイオン二次電池100を流れる電流値Iを検知する。
【0042】
電池コントローラ30は、電圧検知手段40で検知された端子間電圧Vに基づいて、リチウムイオン二次電池100の充放電を制御する。具体的には、所定のタイミングで、組電池10を構成するリチウムイオン二次電池100の充電を開始する制御を行う。さらに、電圧検知手段40で検知された端子間電圧Vの平均値(平均端子間電圧Va)を算出し、この平均端子間電圧Vaが所定の充電上限電圧値Vmaxに達したときに、組電池10を構成するリチウムイオン二次電池100の充電を停止する制御を行う。また、電池コントローラ30は、電流検知手段50で検知された電流値Iを積算して、リチウムイオン二次電池100の充電電気量または放電電気量を算出し、算出された充電電気量または放電電気量からリチウムイオン二次電池100に蓄えられている電気容量を推定する。
【0043】
なお、本実施形態の電池システム6では、充電上限電圧値Vmaxを、リチウム基準の正極電位が3.55V以上4.05V以下の範囲内となる値(本実施形態では、3.5V≦Vmax≦4.0V)に設定している。具体的には、充電上限電圧値Vmaxを、リチウム基準の正極電位が3.85Vとなる値(本実施形態では、Vmax=3.8V)に設定して、これを電池コントローラ30のROM31に記憶させている。
また、本実施形態では、電池コントローラ30が、充電開始手段及び充電停止手段に相当する。
【0044】
リチウムイオン二次電池100は、図3に示すように、直方体形状の電池ケース110と、正極端子120と、負極端子130とを備える、角形密閉式のリチウムイオン二次電池である。このうち、電池ケース110は、金属からなり、直方体形状の収容空間をなす角形収容部111と、金属製の蓋部112とを有している。電池ケース110(角形収容部111)の内部には、電極体150、正極集電部材122、負極集電部材132、非水電解液140などが収容されている。
【0045】
電極体150は、図4に示すように、断面長円状をなし、図5に示すように、シート状の正極板155、負極板156、及びセパレータ157を捲回してなる扁平型の捲回体である。この電極体150は、その軸線方向(図3において左右方向)の一方端部(図3において右端部)に位置し、正極板155の一部のみが渦巻状に重なる正極捲回部155bと、他方端部(図3において左端部)に位置し、負極板156の一部のみが渦巻状に重なる負極捲回部156bを有している。正極板155には、正極捲回部155bを除く部位に、正極活物質153を含む正極合材152が塗工されている(図5参照)。同様に、負極板156には、負極捲回部156bを除く部位に、負極活物質154を含む負極合材159が塗工されている(図5参照)。正極捲回部155bは、正極集電部材122を通じて、正極端子120に電気的に接続されている。負極捲回部156bは、負極集電部材132を通じて、負極端子130に電気的に接続されている。
【0046】
本実施形態のリチウムイオン二次電池100では、正極活物質153としてLiFePO4を用いている。また、負極活物質154として、天然黒鉛系の炭素材料を用いている。詳細には、平均粒子径が20μm、格子定数C0が0.67nm、結晶子サイズLcが27nm、黒鉛化度0.9以上の天然黒鉛系材料を用いている。この負極活物質154は、0.05V付近の充放電電位(Li基準)で、理論電気容量の約100%に相当するLiイオンを挿入・放出することができる特性を有する。
【0047】
また、本実施形態のリチウムイオン二次電池100では、非水電解液140として、EC(エチレンカーボネート)とDEC(ジエチルカーボネート)とメチルアセテート(エステル系溶媒142)とを、3:4:3(体積比)で混合した非水溶媒中に、六フッ化燐酸リチウム(LiPF6)を1モル溶解した非水電解液を用いている。このように、リチウムイオン二次電池100では、非水電解液にメチルアセテート(エステル系溶媒142)を含ませているため、良好な低温出力特性(特に、−20℃以下)を得ることができる。
なお、リチウムイオン二次電池100の理論電気容量は、約2.2Ahである。
【0048】
また、メチルアセテートは、下記式(2)で表されるエステル系溶媒であり、式(1)のR1及びR2をCH3としたものである。
【化7】

【0049】
次に、リチウムイオン二次電池100の充電特性図を図6に、放電特性図を図7に示す。図6には、1Cの大きさの電流でリチウムイオン二次電池100を充電したときの、正極端子120と負極端子130との間の端子間電圧の変動を、実線(実施例)で示している。また、図6には、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池100と比較して、正極活物質をLiCoO2に変更した点のみが異なるリチウムイオン二次電池(比較例)について、1Cの電流で充電したときの端子間電圧の変動を、二点鎖線(比較例)で示している。また、図7には、1Cの大きさの電流でリチウムイオン二次電池100を放電させたときの、正極端子120と負極端子130との間の端子間電圧の変動を示している。
なお、電流値1Cは、リチウムイオン二次電池100に含まれる正極活物質153(LiFePO4)が理論的に最大限蓄積できる理論電気容量を1時間で充電することができる電流値である。
【0050】
図6に示すように、リチウムイオン二次電池100では、端子間電圧が4.0Vになるまでに、理論電気容量の約98%に相当する電気量を充電することができる。ここで、正極電位(Li基準)=電池電圧+負極電位(Li基準)であるから、リチウムイオン二次電池100では、正極電位(Li基準)=電池電圧+0.05(V)となる。従って、リチウムイオン二次電池100では、図6に示すように、正極電位(Li基準)が4.05Vになるまでに、理論電気容量の約98%に相当する電気量を蓄えることができる。しかも、理論電気容量の約15%〜約95%に相当する電気容量範囲では、正極電位(Li基準)がほとんど上昇しないが、約95%を超えると急激に上昇する。具体的には、理論電気容量の96%〜98%に相当する電気容量範囲で、正極電位(Li基準)が3.55Vから4.05Vにまで上昇する。
【0051】
これは、正極活物質153であるLiFe(1-X)XPO4 が、充電電位(Li基準)が4.05Vになるまでに、理論電気容量の約98%に相当する量のLiイオンを挿入することができる特性を有しているからである。しかも、理論電気容量の約15%〜約95%に相当する範囲では、充電電位(Li基準)がほとんど上昇しないが、約95%を超えると急激に上昇する特性を有しているからである。
【0052】
従って、リチウムイオン二次電池100について、充電上限電圧を、正極電位(Li基準)が3.55V以上4.05V以下となる値に設定して、電池電圧が充電上限電圧に達するまで充電すれば、理論電気容量の約96%以上もの電気量を蓄えることができる。詳細には、充電上限電圧を、正極電位(Li基準)が4.05Vとなる値(具体的には、4.0V)とすると、理論電気容量の約98%に相当する電気量を蓄えることができる。さらに、充電上限電圧を、正極電位(Li基準)が3.85Vとなる値(具体的には、3.8V)とすると、理論電気容量の約98%に相当する電気量を蓄えることができ、充電上限電位(Li基準)を3.55Vにまで低くしても、理論電気容量の約96%に相当する電気量を蓄えることができる。
【0053】
また、リチウムイオン二次電池100では、非水電解液140がエステル系溶媒142(メチルアセテート)を含んでいるため、良好な低温出力特性(特に、−20℃以下)を得ることができる。
【0054】
ところで、エステル系溶媒を含む非水電解液は、特に、電池電圧(=正極電位−負極電位)の上昇に伴う酸化分解が進行し易い。具体的には、電池電圧を、正極電位(Li基準)が4.05Vを上回る値にまで高めると、酸化分解が進行し、電池寿命が大きく低下してしまう。
【0055】
ところが、比較例のリチウムイオン二次電池(正極活物質がLiCoO2)では、図6に二点鎖線で示すように、充電上限電圧を、正極電位(Li基準)が4.05V以下となる値(4.0V)に設定して充電した場合には、理論電気容量の85%以下に相当する電気量しか蓄えることができなくなる。しかも、充電上限電圧を、正極電位(Li基準)が4.05V〜3.55Vとなる範囲で小さくするにしたがって、蓄えられる電気容量が大きく低下してゆく。具体的には、充電上限電圧を、正極電位(Li基準)が3.85Vとなる値(3.8V)にして充電すると、理論電気容量の約65%に相当する電気量までしか蓄えることができなくなり、正極電位(Li基準)が3.55Vとなる値(3.5V)にすると、理論電気容量の約5%に相当する電気量までしか蓄えることができなくなってしまう。このため、比較例のリチウムイオン二次電池(正極活物質がLiCoO2)では、エステル系溶媒を含む非水電解液の酸化分解を抑制しようとして充電上限電圧を4.05V以下にすると、十分な充電電気量を確保することができなくなるので、現実に使用することができなかった。
【0056】
これに対し、本実施形態のリチウムイオン二次電池100では、前述のように、充電上限電圧を、正極電位(Li基準)が3.55V以上4.05V以下となる値に設定して充電しても、十分な充電電気量(理論電気容量の96%以上)を確保することができる。このように、充電上限電圧を、正極電位(Li基準)が4.05V以下となる低い値に設定することで、エステル系溶媒142を含んだ非水電解液140の酸化分解を抑制することができる。これにより、電池の寿命特性を良好にすることができる。
【0057】
従って、リチウムイオン二次電池100について、充電上限電圧を、正極電位(Li基準)が3.55V以上4.05V以下となる値に設定して使用することで、エステル系溶媒142を含んだ非水電解液140の酸化分解を抑制することができ、しかも、十分な充電電気量を確保することができる。特に、充電上限電圧を、正極電位(Li基準)が3.55V以上3.85V以下となる値に設定して使用すれば、十分な充電電気量を確保しつつ、エステル系溶媒142を含んだ非水電解液140の酸化分解をより一層抑制することができるので好ましい。
以上より、本実施形態のリチウムイオン二次電池100は、低温出力特性及び寿命特性を良好としつつ、十分な充電電気量を確保することができるリチウムイオン二次電池となる。
【0058】
また、図7に示すように、3.35V(=3.4−0.05)付近の電池電圧で、理論電気容量の約80%に相当する電気量(放電深度約5〜85%の範囲)を放電することができる。これは、正極活物質153であるLiFe(1-X)XPO4 が、3.4付近の比較的高い電位で、理論電気容量の約80%に相当するLiイオンを挿入・放出することができる特性を有し、負極活物質154である天然黒鉛系材料が、0.05V付近の充放電電位(Li基準)で、理論電気容量の約100%に相当するLiイオンを挿入・放出することができる特性を有しているからである。従って、リチウムイオン二次電池100では、理論電気容量の約80%の容量範囲にわたって、3.35V付近の比較的高い電池電圧で放電させることができるので、高い出力を安定して発揮することができる。
【0059】
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池100の製造方法について説明する。
まず、LiFePO4(正極活物質153)とアセチレンブラック(導電助剤)とポリフッ化ビニリデン(バインダ樹脂)とを、85:5:10(重量比)の割合で混合し、これにN−メチルピロリドン(分散溶媒)を混合して、正極スラリを作製した。次いで、この正極スラリを、アルミニウム箔151の表面に塗布し、乾燥させた後、プレス加工を施した。これにより、アルミニウム箔151の表面に正極合材152が塗工された正極板155を得た(図5参照)。
【0060】
また、天然黒鉛系の炭素材料(負極活物質154)と、スチレン−ブタジエン共重合体(バインダ樹脂)と、カルボキシメチルセルロース(増粘剤)とを、95:2.5:2.5(重量比)の割合で水中で混合して、負極スラリを作製した。次いで、この負極スラリを、銅箔158の表面に塗布し、乾燥させた後、プレス加工を施した。これにより、銅箔158の表面に負極合材159が塗工された負極板156を得た(図5参照)。本実施形態では、天然黒鉛系の炭素材料として、平均粒子径が20μm、格子定数C0が0.67nm、結晶子サイズLcが27nm、黒鉛化度0.9以上の天然黒鉛系材料を用いている。
なお、本実施形態では、正極の理論容量と負極の理論容量との比が1:1.5となるように、正極スラリ及び負極スラリの塗布量を調整している。
【0061】
次に、正極板155、負極板156、及びセパレータ157を積層し、これを捲回して断面長円状の電極体150を形成した(図4,図5参照)。但し、正極板155、負極板156、及びセパレータ157を積層する際には、電極体150の一端部から、正極板155のうち正極合材152を塗工していない未塗工部が突出するように、正極板155を配置しておく。さらには、負極板156のうち負極合材159を塗工していない未塗工部が、正極板155の未塗工部とは反対側から突出するように、負極板156を配置しておく。これにより、正極捲回部155b及び負極捲回部156bを有する電極体150(図3参照)が形成される。
なお、本実施形態では、セパレータ157として、ポリプロピレン/ポリエチレン複合体多孔質膜を用いている。
【0062】
次に、電極体150の正極捲回部155bと正極端子120とを、正極集電部材122を通じて接続する。さらに、電極体150の負極捲回部156bと負極端子130とを、負極集電部材132を通じて接続する。その後、これを角形収容部111内に収容し、角形収容部111と蓋体112とを溶接して、電池ケース110を封止した。次いで、蓋体112に設けられている注液口(図示しない)を通じて、非水電解液140を注液した後、注液口を封止することで、本実施形態のリチウムイオン二次電池100が完成する。
なお、本実施形態では、非水電解液140として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとメチルアセテート(エステル系溶媒142)とを、3:4:3(体積比)で混合した溶液中に、六フッ化燐酸リチウム(LiPF6)を1モル溶解した非水電解液を用いている。
【0063】
(初回容量の測定)
次に、リチウムイオン二次電池100について、実施例1〜4として、充電上限電圧Vmaxを、3.5V,3.6V,3.8V,4.0Vと異ならせて、すなわち、正極電位(Li基準)が3.55V,3.65V,3.85V,4.05Vとなる値に異ならせて、それぞれの場合の初回容量を測定した。具体的には、まず、1/5Cの電流で、端子間電圧が充電上限電圧Vmaxに達するまで、定電流充電を行った。その後、充電上限電圧Vmaxで定電圧充電を行い、充電の電流値が定電圧充電を開始したときの電流値の1/10まで低下したところで充電を終了した。次いで、1/5Cの電流で、端子間電圧が3Vに達するまで定電流放電を行い、このときの放電電気量を初回容量として得た。
また、比較例1として、充電上限電圧Vmaxを4.2Vとして、すなわち、充電上限電圧Vmaxを正極電位(Li基準)が4.25Vとなる値として、初回容量を測定した。これらの結果を図8に示す。
【0064】
なお、リチウムイオン二次電池100では、負極活物質154として用いている天然黒鉛系材料が、0.05V付近の充放電電位(Li基準)で、理論電気容量の約100%に相当するLiイオンを挿入・放出することができる特性を有している。このため、本実施形態では、検知した端子間電圧Vに0.05Vを加えた値を、正極電位(V)とみなしている(図8参照)。
また、図8では、メチルアセテートをMA、エチルアセテートをEA、メチルプロピネートをMPと表記している。
【0065】
図8に示すように、実施例1〜4として、充電上限電圧Vmaxを3.5V,3.6V,3.8V,4.0Vとしたときの初回容量は、いずれも約2.0Ahとなった。具体的には、それぞれ、1.99Ah,2.00Ah,2.02Ah,2.03Ahとなった。また、比較例1として、充電上限電圧Vmaxを4.2Vとしたときの初回容量は、2.03Ahとなり、充電上限電圧Vmaxを4.0Vとしたときの初回容量と同等であった。
この結果より、リチウムイオン二次電池100では、充電上限電圧Vmaxを4.0V以下の低い値としても、十分な充電電気量を確保することができるといえる。
【0066】
また、他の比較例として、リチウムイオン二次電池100と比較して、電解液にエステル系溶媒を含んでいない点のみが異なるリチウムイオン二次電池を作製した。具体的には、電解液として、EC(エチレンカーボネート)とDEC(ジエチルカーボネート)とを、3:7(体積比)で混合した溶液中に、六フッ化燐酸リチウム(LiPF6)を1モル溶解したものを用いた。このリチウムイオン二次電池について、比較例2,3として、充電上限電圧Vmaxを4.0Vと4.2Vに異ならせて、実施例と同様にして、初回容量を測定した。この比較例2,3の結果を、図8に示す。
【0067】
さらに、比較例4として、リチウムイオン二次電池100と比較して、正極活物質をLiCoO2に変更し、電解液を上記比較例2,3と同様に変更した点のみが異なるリチウムイオン二次電池を作製した。このリチウムイオン二次電池について、充電上限電圧Vmaxを4.2V(正極電位が4.25Vとなる値)として、実施例と同様にして、初回容量を測定した。この比較例4の結果を、図8に示す。
【0068】
実施例1〜4と比較例4との初回容量を比較すると、いずれも2.0Ah程度で、同程度の値となった。この結果より、リチウムイオン二次電池100について、充電上限電圧Vmaxを、3.5V〜4.0V以下の低い値(Li基準の正極電位が3.55V〜4.05Vとなる値)に設定して充電しても、正極活物質としてLiCoO2を用いた電池について、充電上限電圧Vmaxを、4.2V(Li基準の正極電位が4.25V以下となる値)に設定して充電した場合と、同程度の電気容量を蓄えることができるといえる。
以上より、リチウムイオン二次電池100では、充電上限電圧Vmaxを、3.5V〜4.0V以下、すなわち、正極電位(Li基準)が3.55V〜4.05Vとなる値としても、十分な充電電気量を確保することができるといえる。
【0069】
(低温出力試験)
次に、上述の実施例1〜4及び比較例1〜4の電池について、低温出力試験を行った。具体的には、25℃の温度環境下において、1/5Cの電流で、端子間電圧が各々の充電上限電圧Vmax(図8参照)に達するまで、定電流充電をした後、さらに、充電上限電圧Vmaxで定電圧充電を行い、充電の電流値が定電圧充電を開始したときの電流値の1/10まで低下したところで充電を終了した。次いで、−20℃の温度環境下において、1Cの電流で、端子間電圧が3Vに達するまで定電流放電を行った。このときの放電容量をそれぞれ測定し、これらの初回容量(25℃)に対する割合を、低温出力維持率(%)として算出した。この結果を図8に示す。
【0070】
図8に示すように、実施例1〜4及び比較例1の電池、すなわち、エステル系溶媒142(具体的には、メチルアセテート)を含む非水電解液140を用いたリチウムイオン二次電池100では、低温出力維持率が80%以上と高い値を示し、低温出力特性が良好となった。
これに対し、比較例2〜4の電池、すなわち、エステル系溶媒を含まない電解液を用いたリチウムイオン二次電池では、低温出力維持率が72%以下と低くなり、低温出力特性が好ましくなかった。
以上の結果より、エステル系溶媒(具体的には、メチルアセテート)を含む電解液を用いることで、良好な低温出力特性(特に、−20℃以下)を得ることができるといえる。
【0071】
(サイクル試験)
また、上述の実施例1〜4及び比較例1〜4の電池について、サイクル試験を行った。具体的には、25℃の温度環境下において、5Cの電流で、端子間電圧が各々の充電上限電圧Vmax(図8参照)に達するまで、定電流充電をした後、さらに、充電上限電圧Vmaxで定電圧充電を行い、充電の電流値が定電圧充電を開始したときの電流値の1/10まで低下したところで充電を終了した。次いで、5Cの電流で、端子間電圧が3Vに達するまで定電流放電を行った。この充放電を1サイクルとして、この充放電サイクルを500サイクル行った。このとき、500サイクル目の放電容量をそれぞれ測定し、これらの初回容量に対する割合を、サイクル容量維持率(%)として算出した。この結果を図8に示す。
【0072】
図8に示すように、実施例1〜4、すなわち、リチウムイオン二次電池100について充電上限電圧Vmaxを3.5V〜4.0V(Li基準の正極電位が3.55V〜4.05Vとなる値)としてサイクル試験を行った場合は、サイクル容量維持率が89%〜97%と高い値を示し、電池の寿命特性が良好となった。特に、実施例1〜3、すなわち、充電上限電圧Vmaxを、Li基準の正極電位が3.55V〜3.85Vとなる値としてサイクル試験を行った場合は、サイクル容量維持率が92%以上となり、優れた寿命特性を示した。
【0073】
これに対し、比較例1、すなわち、リチウムイオン二次電池100について充電上限電圧Vmaxを4.2V(Li基準の正極電位が4.25Vとなる値)としてサイクル試験を行った場合は、サイクル容量維持率が75%と大きく低下し、電池の寿命特性が大きく低下した。これは、充電上限電圧Vmaxを4.2V(Li基準の正極電位が4.25Vとなる値)とすることで、エステル系溶媒(具体的には、メチルアセテート)を含む電解液の酸化分解が進行したためと考えられる。
【0074】
以上の結果より、充電上限電圧Vmaxを、Li基準の正極電位が4.05V以下(好ましくは、3.85V以下)となる値として使用することで、エステル系溶媒142(具体的には、メチルアセテート)を含む非水電解液140の酸化分解を抑制し、電池の寿命特性を良好にすることができるといえる。
以上より、リチウムイオン二次電池100について、充電上限電圧Vmaxを、Li基準の正極電位が3.55V〜4.05V(好ましくは、3.55V〜3.85V)となる値に設定して使用することで、低温出力特性及び寿命特性を良好としつつ、十分な充電電気量を確保することができるといえる。
【0075】
次に、本実施形態の電池システム6による組電池10の充電制御について、図9を参照して説明する。
まず、ステップS1において、電池コントローラ30の制御により、組電池10を構成するリチウムイオン二次電池100の充電を開始する。次いで、ステップS2に進み、電圧検知手段40により、各々のリチウムイオン二次電池100にかかる端子間電圧Vを検知する。次いで、ステップS3に進み、電圧検知手段40により検知された、各々のリチウムイオン二次電池100にかかる端子間電圧Vの平均値(平均端子間電圧Va)を算出する。なお、本実施形態では、ステップS1が充電開始手段に相当する。
【0076】
次に、ステップS4に進み、平均端子間電圧Vaが、充電上限電圧値Vmaxに達したか否かを判定する。なお、充電上限電圧値Vmaxは、Li基準の正極電位が3.55V〜4.05Vの範囲内となる値(本実施形態では、3.5V〜4.0Vの範囲内の値)に設定すれば良く、例えば、3.8V(Li基準の正極電位が3.85Vとなる値)に設定することができる。ステップS4において、平均端子間電圧Vaが充電上限電圧値Vmaxに達していない(No)と判定された場合は、ステップS5に進み、リチウムイオン二次電池100の充電を継続する。その後、ステップS2に戻り、再び上述の処理を行う。
一方、ステップS4において、平均端子間電圧Vaが充電上限電圧値Vmaxに達した(Yes)と判定された場合は、ステップS6に進み、リチウムイオン二次電池100の充電を停止する。なお、本実施形態では、ステップS6が充電停止手段に相当する。
【0077】
以上のように、本実施形態の電池システム6では、充電上限電圧値Vmaxを、Li基準の正極電位が3.55V〜4.05Vの範囲内となる値に設定して、充電制御する。このように、組電池10を構成するリチウムイオン二次電池100について、正極電位(Li基準)が3.55V以上4.05V以下となるように制御して充電することで、低温出力特性及び寿命特性を良好としつつ、十分な充電電気量を確保することができる。特に、充電上限電圧値Vmaxを、Li基準の正極電位が3.55V〜3.85Vの範囲内となる値に設定して充電制御することで、すなわち、リチウムイオン二次電池100の正極電位(Li基準)が3.85Vを超えないように制御して充電することで、エステル系溶媒を含む電解液の酸化分解をより一層抑制し、電池の寿命特性をより一層良好とすることができる。
【0078】
(変形形態)
次に、上述の実施形態の変形形態(変形例1,2)について説明する。
変形例1,2のリチウムイオン二次電池200,300は、実施形態のリチウムイオン二次電池100と比較して、電解液中のエステル系溶媒のみが異なり、その他については同様である(図3参照)。
【0079】
具体的には、変形例1では、エステル系溶媒として、エチルアセテートを使用した。従って、電解液として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとエチルアセテート(エステル系溶媒242)とを、3:4:3(体積比)で混合した溶液中に、六フッ化燐酸リチウム(LiPF6)を1モル溶解した、電解液240(図3参照)を用いた。
また、変形例2では、エステル系溶媒として、メチルプロピレートを使用した。従って、電解液として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとメチルプロピレート(エステル系溶媒342)とを、3:4:3(体積比)で混合した溶液中に、六フッ化燐酸リチウム(LiPF6)を1モル溶解した、電解液340(図3参照)を用いた。
【0080】
この変形例1,2のリチウムイオン二次電池200,300について、実施例2と同様に(充電上限電圧Vmaxを、Li基準の正極電位が3.65Vとなる値として)して、初回容量、サイクル試験、低温出力試験を行った。これらの結果を図8に示す。
図8に示すように、変形例1,2の電池では、初回容量、サイクル容量維持率、及び低温出力維持率のいずれについても、実施例2と同程度の良好な結果を得ることができた。この結果より、非水電解液のエステル系溶媒として、メチルアセテートに代えて、メチルアセテートまたはエチルアセテートを用いても、低温出力特性及び寿命特性を良好としつつ、十分な充電電気量を確保することができるといえる。
【0081】
以上において、本発明を実施形態及び変形形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態等に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0082】
例えば、実施形態等では、負極活物質として、炭素系材料(具体的には、天然黒鉛系材料)を用いたが、Li4Ti512を用いるようにしても良い。具体的には、図10に示すように、実施形態のリチウムイオン二次電池100と比較して、負極板156を負極板456に変更した点のみが異なるリチウムイオン二次電池400(変形例3とする)でも、本発明の効果を得ることができる。
【0083】
本変形例3では、負極活物質454としてLi4Ti512を用い、Li4Ti512の焼結体459を銅箔158の表面に形成し、これにプレス加工を施して、負極板456を作製した(図5参照)。その後、正極板155、負極板456、及びセパレータ157を積層し、これを捲回して断面長円状の電極体450を形成した(図4,図5参照)。その他については、実施形態のリチウムイオン二次電池100と同様にして、本変形例3のリチウムイオン二次電池400を得ることができる。
【0084】
このリチウムイオン二次電池400の充電特性図を図11に、放電特性図を図12に示す。図11は、1Cの大きさの電流でリチウムイオン二次電池200を充電したときの、正極端子120と負極端子130との間の端子間電圧の変動を示している。図12は、1Cの大きさの電流でリチウムイオン二次電池200を放電させたときの、正極端子120と負極端子130との間の端子間電圧の変動を示している。なお、電流値1Cは、リチウムイオン二次電池200に含まれる正極活物質153(LiFePO4)が理論的に最大限蓄積できる理論電気容量を1時間で充電することができる電流値である。
【0085】
図11及び図12に示すように、リチウムイオン二次電池400では、電池電圧がほとんど変動することなく、1.9V(=3.4−1.5)付近の電池電圧で、理論電気容量の80%以上に相当する電気量を充放電することができる。実施形態のリチウムイオン二次電池100の充放電特性図(図6及び図7参照)と比較するとわかるように、LiFePO4 を正極活物質として用いる場合には、負極活物質として、炭素系材料よりもLi4Ti512系材料を用いた方が、充放電時の電圧変動を小さくすることができる。従って、本変形例3のリチウムイオン二次電池400では、出力変動の小さい安定した出力特性(IV特性)を発揮することができる。
【0086】
なお、Li4Ti512は、1.5V付近の充放電電位(Li基準)で、理論電気容量の約100%に相当するLiイオンを挿入・放出することができる特性を有している。従って、リチウムイオン二次電池400において、正極電位(Li基準)が3.55V以上4.05V以下となる電池電圧は、2.05V以上2.55V以下となる。図11に示すように、リチウムイオン二次電池400では、端子間電圧が2.05V〜2.55Vの範囲内の値(Li基準の正極電位が3.55V〜4.05Vの範囲内となる値)になるまで充電することで、理論電気容量の約90%〜99%に相当する電気量を蓄えることができる。
【0087】
従って、リチウムイオン二次電池400について、充電上限電圧を、正極電位(Li基準)が3.55V以上4.05V以下となる値(2.05V以上2.55V以下)に設定して、実施形態と同様にして充電制御する(図9のステップS1〜S6の処理を行う)ことで、低温出力特性及び寿命特性を良好としつつ、十分な充電電気量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】実施形態にかかるハイブリッド自動車1の概略図である。
【図2】実施形態にかかる電池システム6の概略図である。
【図3】実施形態のリチウムイオン二次電池100及び変形形態のリチウムイオン二次電池200,300の断面図である。
【図4】実施形態の電極体150及び変形例3の電極体450の断面図である。
【図5】電極体150及び電極体450の部分拡大断面図であり、図4のB部拡大図に相当する。
【図6】リチウムイオン二次電池100の充電特性図である。
【図7】リチウムイオン二次電池100の放電特性図である。
【図8】実施例、変形例、及び比較例にかかるリチウムイオン二次電池の特性を示す表である。
【図9】組電池10の充電制御の流れを示すフローチャートである。
【図10】リチウムイオン二次電池400の断面図である。
【図11】リチウムイオン二次電池400の充電特性図である。
【図12】リチウムイオン二次電池400の放電特性図である。
【符号の説明】
【0089】
1 ハイブリッド自動車
6 電池システム
10 組電池
30 電池コントローラ(充電開始手段、充電停止手段)
40 電圧検知手段
50 電流検知手段
100,200,300,400 リチウムイオン二次電池
120 正極端子
130 負極端子
140,240,340 非水電解液
142,242,342 エステル系溶媒
150,450 電極体
153 正極活物質
154,454 負極活物質
155 正極板
156 負極板
157 セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質と、負極活物質と、非水電解液と、を備える
リチウムイオン二次電池であって、
上記正極活物質は、LiFe(1-X)XPO4(Mは、Mn,Cr,Co,Cu,Ni,V,Mo,Ti,Zn,Al,Ga,Mg,B,Nbのうち少なくともいずれかであり、0≦X≦0.5)であり、
上記非水電解液は、下記式(1)で表されるエステル系溶媒を含む
リチウムイオン二次電池。
【化1】

(式1中、R1は、水素または炭素数1〜4のアルキル基を示し、R2は、炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池であって、
前記エステル系溶媒は、
ギ酸メチル、ギ酸エチル、メチルアセテート、エチルアセテート、メチルプロピネート、及びエチルプロピネートから選択した少なくとも1種類のエステル系溶媒である
リチウムイオン二次電池。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン二次電池であって、
前記負極活物質は、炭素系材料である
リチウムイオン二次電池。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池を、複数、互いに電気的に直列に接続してなる
組電池。
【請求項5】
複数のリチウムイオン二次電池を互いに電気的に直列に接続してなる組電池を、駆動用電源として搭載してなるハイブリッド自動車であって、
上記リチウムイオン二次電池は、
正極活物質と、負極活物質と、非水電解液と、を備え、
上記正極活物質は、LiFe(1-X)XPO4(Mは、Mn,Cr,Co,Cu,Ni,V,Mo,Ti,Zn,Al,Ga,Mg,B,Nbのうち少なくともいずれかであり、0≦X≦0.5)であり、
上記非水電解液は、下記式(1)で表されるエステル系溶媒を含んでなる
ハイブリッド自動車。
【化2】

(式1中、R1は、水素または炭素数1〜4のアルキル基を示し、R2は、炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
【請求項6】
請求項5に記載のハイブリッド自動車であって、
前記リチウムイオン二次電池の前記エステル系溶媒は、
ギ酸メチル、ギ酸エチル、メチルアセテート、エチルアセテート、メチルプロピネート、及びエチルプロピネートから選択した少なくとも1種類のエステル系溶媒である
ハイブリッド自動車。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載のハイブリッド自動車であって、
前記リチウムイオン二次電池の前記負極活物質は、炭素系材料である
ハイブリッド自動車。
【請求項8】
正極活物質と、負極活物質と、非水電解液と、を有する1または複数のリチウムイオン二次電池と、
上記1または複数のリチウムイオン二次電池の充電を開始させる充電開始手段と、
上記1または複数のリチウムイオン二次電池の端子間電圧が、所定の充電上限電圧値に達したときに、上記リチウムイオン二次電池の充電を停止させる充電停止手段と、を備える
電池システムであって、
上記リチウムイオン二次電池は、
上記正極活物質が、LiFe(1-X)XPO4(Mは、Mn,Cr,Co,Cu,Ni,V,Mo,Ti,Zn,Al,Ga,Mg,B,Nbのうち少なくともいずれかであり、0≦X≦0.5)であり、
上記非水電解液が、下記式(1)で表されるエステル系溶媒を含む
リチウムイオン二次電池であり、
上記充電停止手段は、
上記充電上限電圧値を、リチウム基準の正極電位が3.55V以上4.05V以下の範囲内となる値に設定してなる
電池システム。
【化3】

(式1中、R1は、水素または炭素数1〜4のアルキル基を示し、R2は、炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
【請求項9】
請求項8に記載の電池システムであって、
前記充電上限電圧値を、リチウム基準の正極電位が3.55V以上3.85V以下の範囲内となる値に設定してなる
電池システム。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の電池システムであって、
前記リチウムイオン二次電池の前記エステル系溶媒は、
ギ酸メチル、ギ酸エチル、メチルアセテート、エチルアセテート、メチルプロピネート、及びエチルプロピネートから選択した少なくとも1種類のエステル系溶媒である
電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−129719(P2009−129719A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303812(P2007−303812)
【出願日】平成19年11月23日(2007.11.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】