説明

リチウムイオン二次電池とその製造方法

【課題】リチウムイオン二次電池の充放電の際に負極からの電解液の流出を防止して内部抵抗の増加を抑制し得るリチウムイオン二次電池を提供すること。
【解決手段】本発明によって提供されるリチウムイオン二次電池は、正極シート及び負極シート84を含む捲回電極体を備えており、捲回電極体の捲回軸方向における負極合材層88の両端部分86A,86Aにおいて、該負極合材層中の黒鉛粒子85の垂直度は1以上である。ここで、垂直度は、負極合材層の単位面積当たりの黒鉛粒子の数のうち、負極集電体82の表面に対する傾きθnが60°≦θn≦90°である該黒鉛粒子の数をm1とし、負極集電体の表面に対する傾きθnが0°≦θn≦30°である該黒鉛粒子の数をm2としたときのm1/m2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、正極及び負極と、それら両電極間に介在された電解液とを備えており、リチウムイオンがリチウム塩等を含む電解液を介して正極と負極との間を行き来することにより充放電を行う。この種のリチウムイオン二次電池の典型的な負極は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出し得る負極活物質を含んでいる。かかる負極活物質としては、主として種々の炭素材料が挙げられ、例えば、黒鉛材料(黒鉛粒子)が用いられる。黒鉛粒子は、層状の結晶構造を有し、その層と層との間(層間)へのリチウムイオンの吸蔵および該層間からのリチウムイオンの放出により充放電が実現される。負極に関する従来技術として特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−231316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、負極活物質としての黒鉛粒子を含むペースト状に調製された組成物(ペースト状組成物にはスラリー状組成物及びインク状組成物が包含される。以下、ペースト状組成物を単に「組成物」という。)を集電体(導電性部材)に塗布して負極を形成する際、黒鉛粒子は、該黒鉛粒子の層面((002)面)が集電体の表面(幅広面)に対して平行に配置しやすい性質を有している。このため、該負極を含む捲回電極体を備えるリチウムイオン二次電池の充放電時における黒鉛粒子の膨張・収縮の際に、該黒鉛粒子内のリチウム塩等を含む電解液が捲回電極体の捲回軸方向(負極の幅方向)に流動して負極(即ち捲回電極体)の外へと流出してしまい、負極内の電解液の減少(電解液の濃度ムラ)によって該負極(即ち捲回電極体)の内部抵抗が高くなる虞がある。
そこで、本発明は、上述した従来の課題を解決すべく創出されたものであり、その目的は、リチウムイオン二次電池の充放電の際に負極からの電解液の流出を防止して内部抵抗の増加を抑制し得るリチウムイオン二次電池を提供することであり、該二次電池を好適に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を実現すべく、本発明により、正極シート及び負極シートを含む捲回電極体と、電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池が提供される。即ちここで開示されるリチウムイオン二次電池において、上記負極シートは、長尺状の負極集電体と、該負極集電体の表面上に形成された少なくとも黒鉛粒子を含む負極合材層と、を備えている。上記捲回電極体の捲回軸方向における上記負極合材層の両端部分において、該負極合材層中の上記黒鉛粒子の垂直度は1以上である。ここで、上記垂直度は、上記負極合材層の単位面積当たりの上記黒鉛粒子の数のうち、上記負極集電体の表面に対する傾きθnが60°≦θn≦90°である該黒鉛粒子の数をm1とし、上記負極集電体の表面に対する傾きθnが0°≦θn≦30°である該黒鉛粒子の数をm2としたときのm1/m2であることを特徴とする。
【0006】
本発明によって提供されるリチウムイオン二次電池は、上記捲回電極体の捲回軸方向における上記負極合材層の両端部分において、該負極合材層中の上記黒鉛粒子の垂直度は1以上である。
このように、上記負極合材層の捲回軸方向(幅方向)の両端部分に含まれる黒鉛粒子の垂直度が1以上、即ち、単位面積当たりの黒鉛粒子の半数以上が負極集電体の表面に対して60°以上90°以下の角度(典型的には黒鉛粒子の(002)面と負極集電体の表面とのなす角度)に傾いている(配向している)ことにより、リチウムイオン二次電池の放電の際に、負極合材層の上記両端部分を除いた中央部分に含まれる黒鉛粒子が収縮して該黒鉛粒子内に存在する電解液が負極合材層の捲回軸方向(幅方向)に移動しても、負極合材層の両端部分において該両端部分に含まれる上記黒鉛粒子が電解液の捲回軸方向(幅方向)への移動を抑制するため、電解液が負極(捲回電極体)の外部へと流出することを効果的に防止することができる。この結果、リチウム塩等を含む電解液の外部への流出による負極(即ち捲回電極体)の内部抵抗の増加を抑制することができる。
なお、本明細書において、「黒鉛粒子の(002)面」とは、層状構造の黒鉛粒子(黒鉛結晶)の層面(黒鉛層と水平な面)であって該黒鉛粒子を構成するグラフェンシートの炭素ネットワークと水平な面をいう。
【0007】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の好適な一態様では、上記負極合材層の捲回軸方向における上記両端部分を除いた残りの中央部分の垂直度は、0.6以下であることを特徴とする。
かかる構成によると、負極合材層の捲回軸方向(幅方向)の中央部分(負極合材層の捲回軸方向の少なくとも中心を含む)において、負極集電体の表面に対して0°以上30°以下の角度(典型的には黒鉛粒子の(002)面と負極集電体の表面とのなす角度)に傾いている(配向している)黒鉛粒子の割合が多いため、該中央部分においてリチウムイオンの吸蔵及び放出が良好に行われる。この結果、短時間での入力サイクル時の容量維持率の高いリチウムイオン二次電池となり得る。
【0008】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の好適な他の一態様では、上記正極シートは、長尺状の正極集電体と該正極集電体の表面上に形成された少なくとも正極活物質を含む正極合材層とを備えており、上記正極合材層の捲回軸方向の長さをAとし、上記負極合材層の捲回軸方向の両端部分の合計長さをBとしたときのB/Aの値が0.3以下であることを特徴とする。
かかる構成によると、負極合材層の捲回軸方向(幅方向)の両端部分において電解液の流出を良好に防止すると共に、負極合材層の捲回軸方向(幅方向)の中央部分においてリチウムイオンの吸蔵及び放出を十分に確保するため高い容量維持率を実現することができる。
【0009】
また、本発明によると、上記目的を実現する他の側面として、正極集電体上に正極合材層が形成された正極シート及び負極集電体上に負極合材層が形成された負極シートを含む捲回電極体と、電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池を製造する方法が提供される。即ち、ここで開示されるリチウムイオン二次電池の製造方法は、少なくとも黒鉛粒子と所定の溶媒とが混練されて得られたペースト状の組成物を用意すること、上記用意した組成物を長尺状の負極集電体の表面に塗布すること、上記負極集電体のうち上記組成物が塗布された部位において、上記負極集電体の一の長辺から他の一の長辺に向かう方向として規定される幅方向における上記組成物の中心を含む中央部分を除いた上記組成物の両端部分に対して上記負極集電体の表面と直交する方向の磁場を印加すること、上記磁場の印加後に、上記塗布された組成物を乾燥して負極合材層を形成すること、を包含することを特徴とする。
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法では、上記負極集電体のうち組成物が塗布された部位において、組成物の幅方向の中央部分(組成物の幅方向の中心を含む)を除く両端部分の組成物に対して負極集電体の表面と直交する方向の磁場を印加している。
このように、上記組成物の幅方向の両端部分に磁場を印加することにより、該両端部分に含まれる黒鉛粒子は、該黒鉛粒子の(002)面が負極集電体から立ち上がるように配向する。そして、上記磁場を印加した後に組成物を乾燥することによって、負極合材層の幅方向の両端部分において黒鉛粒子が負極集電体から立ち上がるように配向している負極を製造することができる。かかる負極を備えるリチウムイオン二次電池は、放電の際に負極合材層の幅方向の両端部分に含まれる配向された黒鉛粒子が電解液の幅方向(捲回軸方向)への移動を抑制するため、負極合材層(負極)に含まれている電解液が負極(捲回電極体)の外部へと流出することを効果的に防止することができる。
【0011】
ここで開示される製造方法の好適な一態様では、上記形成された負極合材層の上記幅方向の両端部分において、該負極合材層中の上記黒鉛粒子の垂直度が1以上となるように上記組成物に対して磁場を印加することを包含する。ここで、上記垂直度は、上記負極合材層の単位面積当たりの上記黒鉛粒子の数のうち上記負極集電体の表面に対する傾きθnが60°≦θn≦90°である該黒鉛粒子の数をm1とし、上記負極集電体の表面に対する傾きθnが0°≦θn≦30°である該黒鉛粒子の数をm2としたときのm1/m2であることを特徴とする。
かかる構成によると、負極合材層の幅方向(捲回軸方向)の両端部分に含まれる単位面積当たりの黒鉛粒子の半数以上を負極集電体の表面に対して60°以上90°以下の角度に配向させることができるため、該両端部分において電解液の幅方向(捲回軸方向)への移動抑制性能を向上させることができる。
【0012】
ここで開示される製造方法の好適な他の一態様では、上記正極合材層の一の長辺から他の一の長辺に向かう方向として規定される幅方向の長さをAとし、上記負極集電体の表面に塗布された組成物の上記幅方向の両端部分の合計長さをBとしたときのB/Aの値が0.3以下となるように上記組成物に対して磁場を印加することを特徴とする。
かかる構成によると、形成された負極合材層の幅方向の両端部分において電解液の流出を良好に防止すると共に、磁場が印加されていない負極合材層の幅方向の中央部分においてリチウムイオンの吸蔵及び放出を十分に確保することができるため、高い容量維持率を有するリチウムイオン二次電池が得られる。
【0013】
上述のように、ここで開示されるいずれかのリチウムイオン二次電池或いはいずれかの製造方法により得られたリチウムイオン二次電池は、特にハイレート(例えば、5C〜50C、好ましくは10C〜30C)充放電時における負極(捲回電極体)外部への電解液の流出を防止する性能に優れており、結果、好適な電池性能を維持し得るリチウムイオン二次電池となり得る。このため、車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)の駆動電源として用いることができる。また、本発明の他の側面として、ここで開示されるいずれかのリチウムイオン二次電池(複数個の電池が典型的には直列に接続された組電池の形態であり得る。)を駆動電源として備える車両を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の外形を模式的に示す斜視図である。
【図2】図2は、図1中のII‐II線に沿う断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の捲回電極体の構造を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の負極の構造を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図6】本発明の一実施形態に係る負極の製造装置の概略構成を模式的に示す説明図である。
【図7A】本発明の一実施形態に係る負極の製造方法における磁場印加部分を示す平面図である。
【図7B】図6中の7B‐7B線に沿う断面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る負極合材層の断面SEM画像を得る際の断面の取り方を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る負極合材層に含まれる黒鉛粒子を模式的に示す断面図である。
【図10】B/Aと抵抗比との関係及びB/Aと容量維持率との関係を示すグラフである。
【図11】本発明に係るリチウムイオン二次電池を備えた車両(自動車)を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事項は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0016】
まず、ここで開示されるリチウムイオン二次電池の製造方法の好ましい一態様について説明する。
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の製造方法は、図5に示すように、組成物準備工程(ステップS10)と、組成物塗布工程(ステップS20)と、磁場印加工程(ステップS30)と、乾燥工程(ステップS40)とを包含する。図6は、かかるリチウムイオン二次電池に用いられる負極の製造方法を具現化した製造装置を示す図である。図6に示すように、本実施形態に係る負極製造装置200は、大まかにいって、供給ロール205と、組成物塗布部220と、磁場印加部230と、乾燥炉250と回収ロール210とを備えている。負極集電体82は、供給ロール205から供給され所定の経路に沿って走行し得るガイド240に案内されて上記各工程を経て回収ロール210で回収される。
【0017】
まず、組成物準備工程(S10)について説明する。組成物準備工程には、少なくとも黒鉛粒子と所定の溶媒とが混練されて得られたペースト状の負極合材層形成用組成物(以下、単に「組成物」という場合もある。)を用意することが含まれている。本工程において、例えば、黒鉛粒子と、結着材(バインダ)とを所定の溶媒に分散させてなる組成物を調製する。
【0018】
上記黒鉛粒子(負極活物質)としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出可能な粒子状の天然黒鉛(例えば鱗状黒鉛)、粒子状の人造黒鉛(人工黒鉛)等が挙げられる。上記黒鉛粒子のレーザー回折散乱法に基づいて測定される粒度分布におけるメジアン径(D50)は、5μm〜20μ程度であることが好ましい。メジアン径が20μmよりも大きすぎる場合には、黒鉛粒子中心部へのリチウムイオンの拡散に時間がかかること等により、負極の実行容量が低下する虞がある。メジアン径が5μmよりも小さすぎる場合には、黒鉛粒子表面での副反応速度が上昇し、リチウムイオン二次電池の不可逆容量が増加する虞がある。
【0019】
上記結着材としては、一般的なリチウムイオン二次電池の負極に使用される結着材と同様のものを適宜採用することができる。例えば、水系の組成物を調製する場合には、上記結着材として水に溶解又は分散するポリマー材料を好ましく採用し得る。水に溶解する(水溶性の)ポリマー材料としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のセルロース系ポリマー;ポリビニルアルコール(PVA);等が例示される。また、水に分散する(水分散性の)ポリマー材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂;酢酸ビニル共重合体;スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム類;が例示される。上記で例示したポリマー材料は、バインダとしての機能の他に、上記組成物の増粘材その他の添加材としての機能を発揮する目的で使用することができる。
ここで、「水系の組成物」とは、上記所定の溶媒(分散媒)として水または水を主体とする混合溶媒(水系溶媒)を用いた組成物を指す概念である。該混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール、低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。
【0020】
上記黒鉛粒子及び結着材等を溶媒中で混ぜ合わせる(混練)操作は、例えば、適当な混練機(プラネタリーミキサー、ホモディスパー、クレアミックス、フィルミックス等)を用いて行うことができる。上記ペースト状の組成物を調製するにあたっては、先ず、黒鉛粒子(例えば天然黒鉛粒子)と結着材とを少量の溶媒で固練りし、その後、得られた混練物を適量の溶媒で希釈してもよい。
【0021】
上記ペースト状組成物の固形分率(不揮発性分、即ち負極合材層形成成分の割合)は、凡そ30質量%〜65質量%であり、凡そ40質量%〜55質量%であることが好ましい。また、該組成物の固形分全体に占める黒鉛粒子の割合は、凡そ80質量%〜100質量%であり、凡そ95質量%〜100質量%であることが好ましい。また、上記組成物の固形分全体に占める結着材の割合は、例えば凡そ0.1質量%〜5質量%とすることができ、通常は凡そ0.1質量%〜3質量%とすることが好ましい。増粘材を使用する組成では、上記組成物の固形分全体に占める増粘材の割合を例えば凡そ0.1質量%〜5質量%とすることができ、通常は凡そ0.1質量%〜3質量%とすることが好ましい。
【0022】
次に、組成物塗布工程(S20)について説明する。組成物塗布工程には、上記用意した組成物を長尺状の負極集電体の表面に塗布することが含まれている。
図6に示すように、本実施形態に係る組成物塗布部220はダイコーターである。該組成物塗布部220のダイ222に上記用意した組成物86が供給されて、供給ロール205から送り出された長尺状の負極集電体82の表面に該組成物86を塗布する。このとき、図7A及び図7Bに示すように、負極集電体82の幅方向の端部(幅方向の一の端部或いは両端部)は、組成物86が塗布されず負極集電体82が露出した負極合材層非形成部分83である。
【0023】
上記負極集電体82としては、従来のリチウムイオン二次電池の負極に用いられている集電体と同様、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、銅材やニッケル材或いはそれらを主体とする長尺なシート形状の合金材を用いることができる。シート形状の負極集電体82の厚さは、凡そ10μm〜30μm程度である。
なお、本実施形態の負極製造装置200の組成物塗布部220はダイコーターであるが、これに限定されず、上記組成物86を負極集電体82に塗布することは、従来の一般的なリチウムイオン二次電池用の電極(負極)を作製する場合と同様にして行うことができる。例えば、従来公知の適当な塗布装置、例えば、スリットコーター、コンマコーター、グラビアコーターなどを代わりに用いることができる。
【0024】
次に、磁場印加工程(S30)について説明する。磁場印加工程には、上記負極集電体の表面に塗布された組成物(溶媒が残っており乾燥していない状態の組成物)に磁場を印加することが含まれている。ここで、磁場の印加は、図7A及び図7Bに示すように、負極集電体82のうち組成物86が塗布された部位において、負極集電体82の一の長辺から他の一の長辺に向かう方向として規定される幅方向(図7A及び図7Bの矢印Yの方向)における組成物86の中央部分86B(組成物86の幅方向の中心を含む)を除いた組成物86の両端部分86A,86A(典型的には、端部分86A,86Aの幅方向の長さは実質的に同じ長さである。)に対して負極集電体82の表面と直交する方向(図7Bの矢印Zの方向)の磁場を印加することにより行われる。
上記磁場を印加する領域は、図3に示すように正極集電体62の表面上に形成された正極合材層66の幅方向(捲回軸方向)の長さをAとし、図7Aに示すように負極集電体82の表面に塗布された組成物86の上記幅方向(捲回軸方向)の両端部分86A,86Aの合計長さをB(B=B1+B2)としたときの磁場印加範囲B/Aの値が0.3以下となる領域(通常はB/Aの値が0より大きく0.3以下となる領域。例えばB/Aの値が0.1以上0.3以下となる領域。)である。上記範囲に磁場を印加することによって形成された負極合材層を備えるリチウムイオン二次電池では、高い容量維持率を実現することができる。なお、端部分86Aとは、典型的には、正極合材層66の幅方向(捲回軸方向)の両端部分に対向する領域を言うが、これに限定されず、例えば、上記正極合材層66の幅方向(捲回軸方向)の両端部分に対向する領域よりも幅方向(捲回軸方向)の外方(即ち負極合材層66の中央部分86Bから離れる方向)にはみ出した領域であってもよい。
【0025】
図7Bに示すように、本実施形態に係る負極製造装置200における磁場印加部230は、図6の矢印Xの方向に移送される負極集電体82(及び組成物86)を挟むように対向して配置された一対の磁場発生体235,235を二組備えている。磁場発生体235としては、磁場を発生することができるものであれば特に限定されないが、例えば、永久磁石や電磁コイル等が挙げられる。
本実施形態に係る負極製造装置200の磁場印加部230では、図7Bに示すように、磁力線の向きが負極集電体82の表面と直交する方向(図7Bの矢印Zの方向)となるように、一対の磁場発生体235,235が二組配置されている。より具体的には、図7Bに示すように、一対の磁場発生体235,235は、負極集電体82の表面に塗布された組成物86の幅方向の両端部分86A,86Aと重なる位置であって、磁場発生体235の幅広面と上記両端部分86Aに対応する負極集電体82の幅広面とが平行となるように負極集電体82の長手方向に沿って配置されている。このように一対の磁場発生体235,235が二組配置されることで、負極集電体82の表面に塗布された組成物86のうち該組成物86の両端部分86A,86Aに含まれる黒鉛粒子85に対して、長尺状の負極集電体82の表面と直交する方向に磁力線が発生する磁場を印加することができる。
【0026】
負極集電体82に塗布された組成物86中の黒鉛粒子85は、該黒鉛粒子85の(002)面85Aと負極集電体82の表面(幅広面)とが凡そ平行となるように配向(例えば黒鉛粒子85の(002)面85Aと負極集電体82の表面とのなす角度θnが0°≦θn≦30°となるように配向)される傾向にある。図6及び図7Bに示すように、かかる組成物86が塗布された負極集電体82は、磁場印加部230に移送されて、該負極集電体82の表面と直交する方向に磁力線が発生する磁場が組成物86の両端部分86A,86Aに印加される。この結果、図7Bに示すように、組成物86の両端部分86A,86Aに含まれる黒鉛粒子85の(002)面85Aを負極集電体82に対して立ち上がるように配向(例えば黒鉛粒子85の(002)面85Aと負極集電体82の表面とのなす角度θnが60°≦θn≦90°となるように配向)させることができる。
【0027】
上記磁場印加工程において、負極集電体82の表面に塗布された組成物86の両端部分86Aに対して作用させる磁場の強さは、例えば、凡そ0.08T〜1T程度であり、通常は凡そ0.4T〜0.6T程度である。また、磁場印加部230において組成物86に対して磁場を印加する時間は、凡そ1秒〜120秒程度である。該磁場を印加する時間は、本実施形態のように負極集電体82が上流側から下流側(図6の矢印Xの方向)へと移動する場合には、磁場印加部230(磁場発生体235)を通過する時間となる。
【0028】
次に、乾燥工程(ステップS40)について説明する。乾燥工程では、上記磁場を印加した後に、負極集電体上に塗布された組成物を乾燥して負極合材層を形成することが含まれている。
図6に示すように、両端部分86A,86A(図7A参照)に磁場が印加された組成物86が乾燥炉250内を通過することによって、負極集電体82に塗布された組成物86を乾燥することができる。このときの乾燥温度は、例えば、100℃〜180℃程度(例えば150℃)であり、乾燥時間は、例えば、10秒〜120秒程度(例えば90秒)である。組成物86から溶媒(典型的には水)を除去することによって負極集電体82の表面に負極合材層88が形成される(図4参照)。なお、負極合材層88が形成された後に、必要に応じてプレス(圧縮)してもよい。圧縮方法としては、従来公知のロールプレス法、平板プレス法等の圧縮方法を採用することができる。
【0029】
上記工程を経て作製された負極シート(負極)84は、図4に示すように、負極集電体82と、該負極集電体82の表面上に形成された負極合材層88とを備えており、負極合材層88の全体に亘って黒鉛粒子85と結着材89とが分散している。負極合材層88の捲回軸方向(幅方向)の両端部分86A,86A(典型的には、端部分86A,86Aの幅方向の長さは実質的に同じ長さである。)において、該負極合材層88中の黒鉛粒子85の垂直度は1以上(例えば1以上2以下)である。このように黒鉛粒子85の垂直度が1以上であることにより、リチウムイオン二次電池の充放電の際に負極合材層88の両端部分86A,86Aに含まれる黒鉛粒子85が電解液の捲回軸方向(幅方向)への移動を抑制し、電解液が負極84の外部へと流出することを効果的に防止することができる。なお、図4において、通常は負極合材層88は負極集電体82の両面(両幅広面)に形成されるが図示を省略している。
また、好ましくは負極合材層88の捲回軸方向(幅方向)の上記両端部分86A,86Aを除いた残りの中央部分86B(負極合材層88の捲回軸方向(幅方向)の中心を含む)において、該負極合材層88中の黒鉛粒子85の垂直度は0.6以下(例えば0.3以上0.6以下)である。このように黒鉛粒子85の垂直度が0.6以下であることにより、リチウムイオン二次電池の充放電の際に中央部分86Bにおいてリチウムイオンの吸蔵及び放出が良好に行われる結果、短時間での入力サイクル時の容量維持率の高いリチウムイオン二次電池となり得る。なお、組成物86に上記磁場を印加することなく形成した負極合材層中の黒鉛粒子の垂直度は、典型的には0.6以下の値になり得る。
【0030】
以下、負極合材層88の捲回軸方向(幅方向)の両端部分86A,86A及び中央部分86Bにおける、黒鉛粒子85の垂直度Nxを求める方法について説明する。なお、両端部分86A,86Aにおける黒鉛粒子85の垂直度Nxを求める方法と中央部分86Bにおける黒鉛粒子85の垂直度Nxを求める方法とは、同様の方法を取り得るため以下では両端部分86A,86Aを例にして説明する。
【0031】
まず、負極集電体82の表面上に形成された負極合材層88の捲回軸方向(幅方向)の端部分86Aについて、単位面積当たりの黒鉛粒子の数を測定するために複数の断面の断面SEM画像を用意する。次に、当該複数の断面SEM画像において、見かけの断面積が大きい方から予め定められた数(例えば30個程度)の黒鉛粒子86を抽出する。次に、当該抽出された黒鉛粒子85の断面における最長径(当該抽出された黒鉛粒子85の断面における最も長い距離)に沿った直線に基づいて、それぞれ負極集電体82の表面に対する傾きθn(θnは典型的には黒鉛粒子85の(002)面85Aと負極集電体82の表面とのなす角度)を特定する(図9参照)。そして、傾きθnが60°≦θn≦90°である単位面積当たりの黒鉛粒子85の数をm1とし、傾きθnが0°≦θn≦30°である単位面積当たりの黒鉛粒子85の数をm2とする。そして、黒鉛粒子85の垂直度Nxを(m1/m2)とした。
「黒鉛粒子85の垂直度Nx」=(m1/m2)
【0032】
ここで、m1は、負極集電体82の表面に対する傾きθnが60°≦θn≦90°であり、負極集電体82の表面に対して黒鉛粒子85の(002)面が比較的立っている黒鉛粒子85の単位面積当たりの数である。また、m2は、負極集電体82の表面に対する傾きθnが0°≦θn≦30°であり、負極集電体82の表面に対して黒鉛粒子85の(002)面が比較的寝ている黒鉛粒子85の単位面積当たりの数である。
【0033】
このように、黒鉛粒子85の垂直度Nxは、(負極集電体82に対して比較的立っている黒鉛粒子85の単位面積当たりの数)/(負極集電体82に対して比較的寝ている黒鉛粒子85の単位面積当たりの数)で評価している。このため、黒鉛粒子85の垂直度Nxは、負極合材層88中で、負極集電体82に対して、黒鉛粒子85がどの程度立っているかを評価する指標となり得る。すなわち、垂直度Nxが1であると、負極集電体82に対して比較的立っている黒鉛粒子85の単位面積当たりの数と、比較的寝ている黒鉛粒子85の単位面積当たりの数とが、同数であることを示している。これに対して、垂直度が1よりも大きくなればなるほど、負極集電体82に対して立っている黒鉛粒子85の割合が多いと評価できる。また、これに対して、垂直度が1よりも小さくなればなるほど、負極集電体82に対して寝ている黒鉛粒子の割合が多いと評価できる。
【0034】
ここで、上記断面SEM画像の用意に関して説明する。負極合材層88の上記両端部分86A,86Aにおける黒鉛粒子85の垂直度Nxを求める際、例えば、平面視において負極合材層88の両端部分86A,86Aにおける負極集電体82に概ね均等に配置した複数の断面を設定し、当該複数の断面(例えば当該複数の断面の断面積は実質的に同一である)の断面SEM画像を用意するとよい。このように複数の断面における断面SEM画像を用意することによって、黒鉛粒子85が一様に一定の方向を向いている場合でも、適当に垂直度を評価することができる。なお、複数の断面SEM画像において合計100個以上の黒鉛粒子85が確認できるように断面SEM画像を用意することが好ましい。
【0035】
複数の断面を設定する際、例えば、負極集電体82の表面上に形成された負極合材層88について、平面視において負極集電体82に任意に設定された0°、45°、90°、135°の4つの断面を設定し(図8参照)、該断面における断面SEM画像を用意する。ここで、0°、45°、90°、135°の4つの断面は、それぞれ負極合材層88の端部分86Aを概ね所定の角度で切断した断面の断面SEM画像が得られるとよい。
【0036】
図8では、各断面の交点が一致しているが、各断面の交点は一致している必要はない。また、ここでは、45°で均等に配置した4つの断面を考慮しているが、例えば、概ね30°で均等に配置した6つの断面を考慮してもよい。このように平面視において負極集電体82に概ね均等に配置した複数の断面を設定し、当該複数の断面の断面SEM画像を用意するとよい。
【0037】
次に、当該複数の断面SEM画像において、見かけの断面積が大きい方から予め定められた数(例えば複数の断面SEM画像で確認される黒鉛粒子の合計数の3割程度。例えば30個程度)の黒鉛粒子85を抽出する。黒鉛粒子85の形状が鱗片状の場合、断面SEM画像中、見かけの断面積が大きい黒鉛粒子85は、黒鉛粒子85の最も長い距離に沿った断面である可能性が高い。このため、見かけの断面積が大きい方から3割程度の黒鉛粒子85を抽出することによって、最も長い距離に沿った断面に近い黒鉛粒子85を抽出することができる。
【0038】
図9は、当該抽出された黒鉛粒子85の断面を模式的に示す図である。当該抽出された黒鉛粒子85の最も長い距離に沿った直線Lを基に、当該黒鉛粒子85の負極集電体82の表面に対する傾きθn(θnは典型的には黒鉛粒子85の(002)面85Aと負極集電体82の表面とのなす角度)を特定する。そして、傾きθnが60°≦θn≦90°である黒鉛粒子85の単位面積当たりの数をm1とし、傾きθnが0°≦θn≦30°である黒鉛粒子85の単位面積当たりの数をm2とし、黒鉛粒子85の垂直度Nxを、Nx=(m1/m2)とした。なお、かかる垂直度Nxは、組成物86に印加する磁場の強さや方向等によって調整することができる。
【0039】
上記製造方法により作製した負極シート(負極)82では、負極合材層88の捲回軸方向(幅方向)の両端部分86A,86Aにおいて、該負極合材層88中の黒鉛粒子の垂直度は1以上であるため(即ち負極集電体82に対して比較的立っている黒鉛粒子85の単位面積当たりの数が多い)、リチウムイオン二次電池の充放電の際に負極合材層88の両端部分86A,86Aに含まれる黒鉛粒子85が電解液の捲回軸方向(幅方向)への移動を抑制し、電解液が負極84の外部へと流出することを効果的に防止することができる。この結果、電解液の減少(電解液の濃度ムラ)による負極82の内部抵抗の増加を未然に防止することができる。
【0040】
次に、正極集電体上に正極合材層が形成された正極シート(正極)を形成する工程について説明する。まず、正極活物質と、導電材と結着材等とを所定の溶媒に分散させてなるペースト状の正極合材層形成用組成物を調製する。
上記正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な材料であって、リチウム元素と一種または二種以上の遷移金属元素を含むリチウム含有化合物(例えばリチウム遷移金属複合酸化物)が挙げられる。例えば、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLiNiO)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLiCoO)、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLiMn)、或いは、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3)のような三元系リチウム含有複合酸化物が挙げられる。
また、一般式がLiMPO或いはLiMVO或いはLiMSiO(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種以上の元素)等で表記されるようなポリアニオン系化合物(例えばLiFePO、LiMnPO、LiFeVO、LiMnVO、LiFeSiO、LiMnSiO、LiCoSiO)を上記正極活物質として用いてもよい。
【0041】
上記結着材としては、一般的なリチウムイオン二次電池の正極に使用される結着材と同様のものを適宜採用することができる。水系の組成物を調製する場合には、上記負極に使用される結着材と同様の物を適宜採用することができる。また、溶剤系の組成物を調製する場合には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等の有機溶媒(非水溶媒)に溶解するポリマー材料を用いることができる。
ここで、「溶剤系の組成物」とは、正極活物質の分散媒が主として有機溶媒である組成物を指す概念である。有機溶媒としては、例えば、N‐メチルピロリドン(NMP)等を用いることができる。
【0042】
また、上記導電材としては、従来この種のリチウムイオン二次電池で用いられているものであればよく、特定の導電材に限定されない。例えば、カーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料を用いることができる。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック等)、グラファイト粉末等のカーボン粉末を用いることができる。これらのうち一種又は二種以上を併用してもよい。
【0043】
そして、上記調製した正極合材層形成用組成物を正極集電体の表面に塗布し、乾燥させて正極合材層を形成した後、必要に応じて圧縮(プレス)する。これにより、正極集電体と、該正極集電体の表面上に形成された少なくとも正極活物質を含む正極合材層を備える正極を作製することができる。
上記正極集電体としては、従来のリチウムイオン二次電池の正極に用いられている集電体と同様、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、アルミニウム材又はアルミニウム材を主体とする合金材を用いることができる。正極集電体の形状は、負極集電体の形状と同様であり得る。
【0044】
次に、上述した方法を適用して製造された負極シート(負極)及び上記作製された正極シート(正極)を電解液とともに電池ケースに収容してリチウムイオン二次電池を作製する工程について説明する。上記負極シート及び正極シートを計二枚のセパレータシートとともに積層して捲回して捲回電極体を作製する。次いで、電池ケース(例えば扁平な直方体状のケース)に該捲回電極体を収容すると共に、電解液を電池ケース内に収容する。そして、電池ケースの開口部を蓋体で封止することにより、リチウムイオン二次電池を作製することができる。ここで、上記電解液としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等から選択される一種又は二種以上を用いることができる。また、上記支持塩(支持電解質)としては、例えば、LiPF,LiBF等のリチウム塩を用いることができる。さらに上記非水電解液に、ジフルオロリン酸塩(LiPO)やリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)を溶解させてもよい。
また、上記セパレータシートとしては、従来公知のものを特に制限なく使用することができる。例えば、樹脂からなる多孔性シート(微多孔質樹脂シート)を好ましく用いることができる。ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)等の多孔質ポリオレフィン系樹脂シートが好ましい。
【0045】
以下、上記製造方法により作製された負極シート及び正極シートを用いて作製されるリチウムイオン二次電池の一形態を図面を参照しつつ説明するが、本発明をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。即ち、上記製造方法により作製された負極シート及び正極シートが採用される限りにおいて、作製されるリチウムイオン二次電池の形状(外形やサイズ)には特に制限はない。以下の実施形態では、捲回電極体および電解液を角型形状の電池ケースに収容した構成のリチウムイオン二次電池を例にして説明する。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は、必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。
【0046】
図1は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池(二次電池)10を模式的に示す斜視図である。図2は、図1中のII−II線に沿う縦断面図である。図3は、本実施形態に係る捲回電極体50の構造を模式的に示す断面図である。なお、図3において、通常、正極合材層66及び負極合材層88は、それぞれ正極集電体62及び負極集電体82の両面(両幅広面)に形成されるが図示を省略している。
図1に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10は、金属製(樹脂製又はラミネートフィルム製も好適である。)の電池ケース15を備える。このケース(外容器)15は、上端が開放された扁平な直方体状のケース本体30と、その開口部20を塞ぐ蓋体25とを備える。溶接等により蓋体25は、ケース本体30の開口部20を封止している。ケース15の上面(すなわち蓋体25)には、捲回電極体50の正極シート(正極)64と電気的に接続する正極端子60および該電極体の負極シート84と電気的に接続する負極端子80が設けられている。また、蓋体25には、従来のリチウムイオン二次電池のケースと同様に、電池異常の際にケース15内部で発生したガスをケース15の外部に排出するための安全弁40が設けられている。ケース15の内部には、正極シート64および負極シート84を計二枚のセパレータシート90とともに積層して捲回し、次いで得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって作製される扁平形状の捲回電極体50及び電解液が収容されている。
【0047】
上記積層の際には、図2及び図3に示すように、正極シート64の正極合材層非形成部分63(即ち正極合材層66が形成されずに正極集電体62が露出した部分)と負極シート84の負極合材層非形成部分83(即ち負極合材層88が形成されずに負極集電体82が露出した部分。)とがセパレータシート90の幅方向の両側からそれぞれはみ出すように、正極シート64と負極シート84とを幅方向にややずらして重ね合わせる。その結果、捲回電極体50の捲回方向に対する横方向において、正極シート64および負極シート84の電極合材層非形成部分63,83がそれぞれ捲回コア部分(すなわち正極シート64の正極合材層形成部分と負極シート84の負極合材層形成部分と二枚のセパレータシート90とが密に捲回された部分)から外方にはみ出ている。かかる正極側はみ出し部分(正極合材層非形成部分63)に正極端子60を接合して、上記扁平形状に形成された捲回電極体50の正極シート64と正極端子60とを電気的に接続する。同様に負極側はみ出し部分(負極合材層非形成部分83)に負極端子80を接合して、負極シート84と負極端子80とを電気的に接続する。なお、正負極端子60,80と正負極集電体62,82とは、例えば、超音波溶接、抵抗溶接等によりそれぞれ接合することができる。
【0048】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0049】
<例1>
天然黒鉛粒子(負極活物質)と、結着材としてのSBRと、増粘材としてのCMCとの質量比が98:1:1となるように秤量し、これら材料をイオン交換水に分散させてペースト状の負極合材層形成用組成物を調製した。該組成物を厚さ10μm、幅128mmの長尺状の銅箔(負極集電体)上に片面当たり塗布量4mg/cmで塗布し、該塗布された組成物に対して磁場を印加した。磁場印加後に組成物を乾燥することで銅箔上に負極合材層を備える例1に係る負極シートを作製した。ここで、組成物に対する磁場の印加は、負極集電体のうち組成物が塗布された部位において、該負極集電体の幅方向(捲回軸方向)の中央部分を除く両端部分(それぞれの縁部から5mmの幅領域。即ち両端部分の合計長さBは10mm。)の組成物に対して負極集電体の表面と直交する方向に行った。このときの磁場の強さは0.6Tであった。また、負極合材層の幅方向の両端部分(磁場を印加した部分)に含まれる黒鉛粒子の垂直度は1.2であり、負極合材層の幅方向の中央部分(磁場を印加していない部分)に含まれる黒鉛粒子の垂直度は0.4であった。
【0050】
一方、正極活物質としてのLiNi1/3Mn1/3Co1/3と、導電材としてのアセチレンブラックと、結着材としてのPVDFとの質量比が90:8:2となるように秤量し、これら材料をNMPに分散させてペースト状の正極合材層形成用組成物を調製した。該組成物を厚さ15μm、幅123mmのアルミニウム箔(正極集電体)上に片面当たり塗布量6mg/cmで塗布し、乾燥することでアルミニウム箔上に正極合材層を備える例1に係る正極シートを作製した。このときの正極合材層の幅方向(捲回軸方向)の長さAは105mmであり、B/Aの値は0.095であった。
そして、上記作製した例1に係る負極シート及び正極シートをセパレータシート(ポリプロピレン/ポリエチレン複合体多孔質膜)を介して捲回し捲回電極体を作製した。該電極体を電解液と共に角型のケースに収容することにより例1に係るリチウムイオン二次電池を作製した。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との体積比1:1:1の混合溶媒に1mol/LのLiPFを溶解させたものを使用した。
【0051】
<例2>
組成物に対する磁場の印加部分である上記両端部分を、それぞれの縁部から10mmの幅領域(即ち両端部分の合計長さBは20mm)とした他は例1と同様にして、例2に係るリチウムイオン二次電池を作製した。このときのB/Aの値は0.19であった。
<例3>
組成物に対する磁場の印加部分である上記両端部分を、それぞれの縁部から15mmの幅領域(即ち両端部分の合計長さBは30mm)とした他は例1と同様にして、例3に係るリチウムイオン二次電池を作製した。このときのB/Aの値は0.286であった。
<例4>
組成物に対する磁場の印加部分である上記両端部分を、それぞれの縁部から20mmの幅領域(即ち両端部分の合計長さBは40mm)とした他は例1と同様にして、例4に係るリチウムイオン二次電池を作製した。このときのB/Aの値は0.38であった。
<例5>
組成物に対する磁場の印加部分である上記両端部分を、それぞれの縁部から30mmの幅領域(即ち両端部分の合計長さBは60mm)とした他は例1と同様にして、例5に係るリチウムイオン二次電池を作製した。このときのB/Aの値は0.57であった。
<例6>
天然黒鉛粒子(負極活物質)と、結着材としてのSBRと、増粘材としてのCMCとの質量比が98:1:1となるように秤量し、これら材料をイオン交換水に分散させてペースト状の負極合材層形成用組成物を調製した。該組成物を厚さ10μm、幅128mmの長尺状の銅箔(負極集電体)上に片面当たり塗布量4mg/cmで塗布し、乾燥することで銅箔上に負極合材層を備える例6に係る負極シートを作製した。なお、組成物に磁場を印加していないためB/Aの値は0であった。
【0052】
[抵抗比の測定]
まず、上記作製した各例に係るリチウムイオン二次電池に適当なコンディショニング処理(例えば、正極理論容量の1/3Cの充電レートで3時間の定電流(CC)充電を行い、さらに1/3Cの充電レートで4.1Vまで定電流で充電する操作と、1/3Cの放電レートで3.0Vまで定電流放電させる操作とを2〜3回繰り返す初期充放電処理)を行う。ここで1Cとは、正極の理論容量より予測した電池容量(Ah)を1時間で充電できる電流量を意味する。
上記コンディショニング処理後の各二次電池について、サイクル前の抵抗と4000サイクル後の抵抗との抵抗比を測定した。即ち、25℃の温度条件下、1/3Cの充電レートでSOC60%の充電状態に調整し、充放電を4000サイクル繰り返した。1サイクルの充放電条件は、25℃の温度条件下、30Cの放電レートで10秒間の定電流放電を行った後10分間休止して、次いで、5Cの充電レートで2分間の定電流充電を行った後10分間休止した。この際、500サイクル毎に、上記のようにしてSOC60%の充電状態に調整した。サイクル前と4000サイクル後の各二次電池について、25℃の温度条件下、30Cの放電レートで10秒間の定電流放電を行い、このときの電流(I)‐電圧(V)プロット値の一次近似直線の傾きからそれぞれの抵抗[Ω]を求めた。サイクル前に測定された抵抗(初期抵抗)と、4000サイクル後に測定された容量(4000サイクル後抵抗)との比{(4000サイクル後抵抗)/(初期抵抗)×100}を抵抗比とした。以上の結果を表1及び図10に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1及び図10に示すように、負極合材層の幅方向の両端部分に磁場を印加していない負極を備える二次電池(例6)では、抵抗比が大きく増加している、即ち4000サイクル後に抵抗が増大していることが確認された。一方、負極合材層の幅方向の両端部分に磁場が印加された負極を備える二次電池(例1〜例5)では、磁場を印加した部分の幅方向の合計長さに関わらず(即ちB/Aの値に関わらず)抵抗比がほとんど変化していない、即ち4000サイクル後にほとんど抵抗が増加していないことが確認された。これはハイレート充放電の際に捲回電極体の外部への電解液の流出を効果的に防止しているためと考えられる。
【0055】
[容量維持率測定]
次に、各二次電池について、充放電を5000サイクル繰り返し5000サイクル後の容量維持率[%]を測定した。即ち、−15℃の温度条件下、1/3Cの充電レートでSOC40%の充電状態に調整し、充放電を5000サイクル繰り返した。1サイクルの充放電条件は、−15℃の温度条件下、30Cの充電レートで0.1秒間充電を行った後0.3Cの放電レートで10秒間放電を行い30秒間休止した。1サイクル後に測定された容量(初期容量)と、5000サイクル後に測定された容量(5000サイクル後容量)との比{(5000サイクル後容量)/(初期容量)×100}を容量維持率[%]とした。以上の結果を表1及び図10に示す。
【0056】
表1及び図10に示すように、負極合材層の幅方向の両端部分に磁場を印加しない場合(例6)及び磁場を印加した部分の幅方向の合計長さが30mm以下(即ちB/Aの値が0.3以下)の場合(例1〜例3)には高い容量維持率を保持していることが確認された。一方、磁場を印加した部分の幅方向の合計長さが40mm以上(即ちB/Aの値が0.38以上)の場合(例4及び例5)には容量維持率が低下していることが確認された。
以上の結果より、正極合材層の捲回軸方向(幅方向)の長さをAとし、負極合材層の捲回軸方向(幅方向)の両端部分の合計長さをBとしたときのB/Aの値が0より大きく0.3以下となる部分に磁場を印加した負極合材層を有する負極を備えるリチウムイオン二次電池は、抵抗の増加を防止すると共に高い容量維持率を保持することができることが確認された。
【0057】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、充電時(特にハイレートでの充電時)における抵抗の増加が抑えられておりサイクル特性に優れることから、特に自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用電源として好適に使用し得る。従って本発明は、図11に模式的に示すように、かかるリチウムイオン二次電池10(典型的には当該電池10を複数個直列接続してなる組電池)を電源として備える車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料自動車のような電動機を備える自動車)100を提供する。
【符号の説明】
【0059】
10 リチウムイオン二次電池
15 電池ケース
20 開口部
25 蓋体
30 ケース本体
40 安全弁
50 捲回電極体
60 正極端子
62 正極集電体
63 正極合材層非形成部分
64 正極シート(正極)
66 正極合材層
80 負極端子
82 負極集電体
83 負極合材層非形成部分
84 負極シート(負極)
85 黒鉛粒子
85A (002)面
86 組成物
86A 端部分
86B 中央部分
88 負極合材層
89 結着材
90 セパレータシート
100 車両(自動車)
200 負極製造装置
205 供給ロール
210 回収ロール
220 組成物塗布部
222 ダイ
230 磁場印加部
235 磁場発生体
240 ガイド
250 乾燥炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極シート及び負極シートを含む捲回電極体と、電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記負極シートは、長尺状の負極集電体と、該負極集電体の表面上に形成された少なくとも黒鉛粒子を含む負極合材層と、を備えており、
前記捲回電極体の捲回軸方向における前記負極合材層の両端部分において、該負極合材層中の前記黒鉛粒子の垂直度は1以上であり、
ここで、前記垂直度は、前記負極合材層の単位面積当たりの前記黒鉛粒子の数のうち、前記負極集電体の表面に対する傾きθnが60°≦θn≦90°である該黒鉛粒子の数をm1とし、前記負極集電体の表面に対する傾きθnが0°≦θn≦30°である該黒鉛粒子の数をm2としたときのm1/m2であることを特徴とする、リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記負極合材層の捲回軸方向における前記両端部分を除いた残りの中央部分の垂直度は、0.6以下であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記正極シートは、長尺状の正極集電体と該正極集電体の表面上に形成された少なくとも正極活物質を含む正極合材層とを備えており、
前記正極合材層の捲回軸方向の長さをAとし、前記負極合材層の捲回軸方向の両端部分の合計長さをBとしたときのB/Aの値が0.3以下であることを特徴とする、請求項2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
正極集電体上に正極合材層が形成された正極シート及び負極集電体上に負極合材層が形成された負極シートを含む捲回電極体と、電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池を製造する方法であって、
少なくとも黒鉛粒子と所定の溶媒とが混練されて得られたペースト状の組成物を用意すること、
前記用意した組成物を長尺状の負極集電体の表面に塗布すること、
前記負極集電体のうち前記組成物が塗布された部位において、前記負極集電体の一の長辺から他の一の長辺に向かう方向として規定される幅方向における前記組成物の中心を含む中央部分を除いた前記組成物の両端部分に対して前記負極集電体の表面と直交する方向の磁場を印加すること、
前記磁場の印加後に、前記塗布された組成物を乾燥して負極合材層を形成すること、
を包含することを特徴とする、リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記形成された負極合材層の前記幅方向の両端部分において、該負極合材層中の前記黒鉛粒子の垂直度が1以上となるように前記組成物に対して磁場を印加することを包含し、
ここで、前記垂直度は、前記負極合材層の単位面積当たりの前記黒鉛粒子の数のうち、前記負極集電体の表面に対する傾きθnが60°≦θn≦90°である該黒鉛粒子の数をm1とし、前記負極集電体の表面に対する傾きθnが0°≦θn≦30°である該黒鉛粒子の数をm2としたときのm1/m2であることを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記正極合材層の一の長辺から他の一の長辺に向かう方向として規定される幅方向の長さをAとし、前記負極集電体の表面に塗布された組成物の前記幅方向の両端部分の合計長さをBとしたときのB/Aの値が0.3以下となるように前記組成物に対して磁場を印加することを特徴とする、請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
車両の駆動電源として用いられることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池或いは請求項4から6のいずれか一項に記載の製造方法により得られたリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−69579(P2013−69579A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208094(P2011−208094)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】