説明

リチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラスおよびリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラス

【課題】高い電池容量を得ることが可能なリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラスおよびリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラスを提供する。
【解決手段】ガラス組成として、モル%で、Li2O 20〜50%、P25 20〜40%、Fe23 0〜40%、MnO2 0〜60%、Nb25 0.1〜2.4%を含有し、かつ、モル比で、(Fe23+MnO2/2)/P25≧0.85であることを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯型電子機器や電気自動車等に用いられるリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラスおよびリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電子端末や電気自動車に不可欠な、高容量で軽量な電源としての地位を確立している。リチウムイオン二次電池の正極材料には、これまでコバルト酸リチウム(LiCoO2)やマンガン酸リチウム(LiMnO2)等の無機金属酸化物が用いられてきている。しかし、近年の電子機器の高性能化による消費電力の増大に伴い、さらなるリチウムイオン二次電池の高容量化が要求されている。また、環境保全問題やエネルギー問題の観点から、CoやMnなどの環境負荷の大きい材料から、より環境調和型の材料への転換が求められている。さらに近年、コバルト資源の枯渇問題が注目されており、そのような観点からも、コバルト酸リチウムやマンガン酸リチウムに代わる安価な正極材料への転換が望まれている。
【0003】
近年、コストおよび資源などの面で有利なことから、鉄を含有するリチウム化合物のなかで、マンガン系スピネル型結晶、NASICON型結晶(Li3Fe2(PO4)3)およびオリビン型結晶(LiFePO4)が注目されており、種々、研究および開発が進められている(例えば、特許文献1参照)。なかでもオリビン型結晶はコバルト酸リチウムに比べて温度安定性に優れ、高温での安全な動作が期待される。また、リン酸を骨格とする構造ゆえに、充放電反応による構造劣化への耐性に優れるという特徴を有する。
【0004】
なお、マンガン系スピネル型、NASICON型およびオリビン型の各結晶における鉄サイトは、種々の遷移金属イオンで置換可能であることが知られている。例えば、鉄をマンガンまたはバナジウムで完全に置換したLi3Mn2(PO4)3、LiMnPO4、LiVPO4等、鉄をマンガンまたはバナジウムで部分置換したLi3(MnxFey1-(x+y)2(PO4)3、LiMnxFe(1-x)PO4(0<x<1、0<y<1、0<x+y<1)なども正極材料としての機能を有する。
【0005】
ところで、正極材料に炭素粉末などの導電活物質を混合させれば、電子伝導性を向上させることが知られている。ところが、リン酸鉄リチウム正極材料に導電活物質を混合させて焼成すると、リン酸鉄リチウムから生じるガスの影響により、リン酸鉄リチウム粒子表面に導電活物質を効率よく賦活できず、電子伝導度が低下するという問題があった。
【0006】
そこで、焼成時にガスの発生が少ない正極材料として結晶化ガラスからなるリン酸鉄リチウム材料が提案されている(例えば、特許文献2参照)。当該前駆体ガラスは、炭素粉末等の導電活物質と混合して焼成する際にガスがほとんど発生しない。そのため、正極材料粒子表面に効率よく導電活物質を賦活させることができ、優れた電子伝導性を達成しやすい。また、当該前駆体ガラスを焼成することにより、均質な組成を有する結晶子サイズの小さいリン酸鉄リチウム結晶またはリン酸鉄リチウム固溶体結晶を析出させた結晶化ガラス粉末を作製することができ、イオン伝導性に優れたリチウムイオン二次電池正極材料を得ることができる。このように、特許文献2に記載のリン酸鉄リチウム材料を用いれば、イオン伝導性および電子伝導性の両特性に優れた正極材料を得ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−134725号公報
【特許文献2】特願2009−87933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載の正極材料は、ガラス組成によって充放電時の電池容量が大きく変化する。しかしながら、特許文献2では、電池容量に関する最適組成についての検討が不十分であり、高い電池容量を有する正極材料は未だ提案されていないのが現状である。
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、高い電池容量を得ることが可能なリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラスおよびリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ガラス組成として、モル%で、Li2O 20〜50%、P25 20〜40%、Fe23 0〜40%、MnO2 0〜60%、Nb25 0.1〜2.4%を含有し、かつ、モル比で、(Fe23+MnO2/2)/P25≧0.85であることを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラスに関する。
【0011】
上記組成を有する前駆体ガラスを用いれば、高い電池容量を有するリチウムイオン二次電池正極材料を作製することができる。なお、「前駆体ガラス」とは、熱処理することにより結晶化し、目的とする結晶が析出するガラスをいう。
【0012】
第二に、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラスは、さらに、モル%で、SiO2+V25+B23+GeO2+Al23+Ga23+Sb23+Bi23を0〜2.4%含有することが好ましい。
【0013】
上記成分はガラス形成能を向上させる成分である。これらの成分を添加することにより、ガラス化が安定し、望まない異種結晶が析出しにくく、電池容量の高いリチウムイオン二次電池正極材料が得られやすくなる。
【0014】
第三に、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラスにおいて、モル比で、Li2O/(P25+Fe23+MnO2/2)≧0.5であることが好ましい。
【0015】
当該構成によれば、ガラス化が安定し、望まない異種結晶が析出しにくく、電池容量の高いリチウムイオン二次電池正極材料が得られやすくなる。
【0016】
第四に、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラスにおいて、モル比で、Li2O/P25≧0.85、および/または、Li2O/(Fe23+MnO2/2)≧0.85であることが好ましい。
【0017】
当該構成によれば、ガラス化が安定し、望まない異種結晶が析出しにくく、電池容量の高いリチウムイオン二次電池正極材料が得られやすくなる。
【0018】
第五に、本発明は、別の形態として、ガラス組成として、モル%で、Li2O 20〜50%、P25 20〜40%、Fe23 0〜40%、MnO2 0〜60%、Nb25 0〜2.4%を含有し、かつ、モル比で、Li2O/P25≧1.01であることを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラスに関する。
【0019】
第六に、本発明は、ガラス組成として、モル%で、Li2O 20〜50%、P25 20〜40%、Fe23 0〜40%、MnO2 0〜60%、Nb25 0.1〜2.4%を含有し、かつ(Fe23+MnO2/2)/P25≧0.85であることを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラスに関する。
【0020】
第七に、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラスは、さらに、モル%で、SiO2+V25+B23+GeO2+Al23+Ga23+Sb23+Bi23を0〜2.4%含有することが好ましい。
【0021】
第八に、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラスにおいて、モル比で、Li2O/(P25+Fe23+MnO2/2)≧0.5であることが好ましい。
【0022】
第九に、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラスにおいて、モル比で、Li2O/P25≧0.85、および/または、Li2O/(Fe23+MnO2/2)≧0.85であることが好ましい。
【0023】
第十に、本発明は、別の形態として、ガラス組成として、モル%で、Li2O 20〜50%、P25 20〜40%、Fe23 0〜40%、MnO2 0〜60%、Nb25 0〜2.4%を含有し、かつLi2O/P25≧1.01であることを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラスに関する。
【0024】
第十一に、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラスは、主結晶としてLiMnxFey1-(x+y)PO4結晶(0≦x≦1、0≦y≦1、0<x+y≦1、MはNb、Ti、V、Cr、Co、Niから選ばれる少なくとも1種)を含有することが好ましい。
【0025】
第十二に、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラスは、LiMnxFey1-(x+y)PO4結晶の含有量が50質量%以上であることが好ましい。
【0026】
第十三に、本発明は、ガラス組成として、モル%で、Li2O 20〜50%、P25 20〜40%、Fe23 0〜40%、MnO2 0〜60%、Nb25 0.1〜2.4%を含有し、かつ、モル比で、(Fe23+MnO2/2)/P25≧0.85となるように原料粉末を調整する工程、原料粉末を溶融し、溶融ガラスを得る工程、および、溶融ガラスを急冷し、前駆体ガラスを得る工程を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法に関する。
【0027】
第十四に、本発明のリチウム二次電池正極材料の製造方法は、さらに、前駆体ガラスを熱処理して結晶化ガラスを得る工程を含むことが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラスは、ガラス組成として、モル%で、Li2O 20〜50%、P25 20〜40%、Fe23 0〜40%、MnO2 0〜60%、Nb25 0.1〜2.4%を含有し、かつ、モル比で、(Fe23+MnO2/2)/P25≧0.85であることを特徴とする。ガラス組成を上記のように限定した理由を以下に説明する。
【0029】
Li2OはLiMnxFey1-(x+y)PO4結晶の主成分である。Li2Oの含有量は20〜50%、25〜45%、30〜40%、33〜37%、特に33.5〜37%であることが好ましい。Li2Oの含有量が少なすぎると、前駆体ガラスを結晶化させた際にLiMnxFey1-(x+y)PO4結晶の析出量が少なくなり、高い電池容量が得られにくい。一方、Li2Oの含有量が多すぎると、望まない異種結晶(Li3PO4、Li3(MnxFe1-x2(PO43等)が析出しやすくなる。結果として、LiMnxFey1-(x+y)PO4結晶の析出量が少なくなり、高い電池容量が得られにくい。
【0030】
25もLiMnxFey1-(x+y)PO4結晶の主成分である。P25の含有量は20〜40%、5〜35%、28〜35%、29〜33%、特に29.5〜32.5%であることが好ましい。P25の含有量が当該範囲外の場合は、前駆体ガラスを結晶化させた際に望まない異種結晶が析出しやすくなる。結果として、LiMnxFey1-(x+y)PO4結晶の析出量が少なくなり、高い電池容量が得られにくい。
【0031】
Fe23はLiMnxFey1-(x+y)PO4結晶の構成成分である。Fe23の含有量は0〜40%、10〜40%、20〜35%、特に30〜35%であることが好ましい。Fe23の含有量が多すぎると、前駆体ガラスを結晶させた際に望まない異種結晶が析出しやすくなる。結果として、LiMnxFey1-(x+y)PO4結晶の析出量が少なくなり、高い電池容量が得られにくい。なお、原料としてFeOやFe34等を用いてもよく、その場合はFe23に換算した量が前記範囲を満たせばよい。
【0032】
MnO2もFe23同様にLiMnxFey1-(x+y)PO4結晶の構成成分である。MnO2の含有量は0〜60%、20〜55%、30〜55%、40〜55%、特に45〜50%であることが好ましい。MnO2の含有量が多すぎると、前駆体ガラスを結晶させた際に望まない異種結晶が析出しやすくなる。結果として、LiMnxFey1-(x+y)PO4結晶の析出量が少なくなり、高い電池容量が得られにくい。なお、原料としてMnO等を用いてもよく、その場合はMnO2に換算した量が前記範囲を満たせばよい。
【0033】
Nb25は前駆体ガラスのガラス形成能を向上させる成分である。Nb25を積極的に添加することにより、望まない異種結晶の析出が抑制され、高い電池容量を有する正極材料が得られやすくなる。Nb25の含有量は0.1〜2.4%、0.25〜2.3%、特に0.25〜2%であることが好ましい。ただし、Nb25の含有量が多すぎても、前駆体ガラスを結晶させた際に望まない異種結晶が析出しやすくなり、高い電池容量が得られにくい。
【0034】
(Fe23+MnO2/2)/P25は、モル比で、0.85以上、0.9以上、特に0.95以上であることが好ましい。(Fe23+MnO2/2)/P25が小さすぎると、前駆体ガラスを結晶させた際に望まない異種結晶が析出しやすくなり、高い電池容量が得られにくい。なお、上限については特に限定されないが、十分な量のLiMnxFey1-(x+y)PO4結晶を析出させるため、2以下、特に1.5以下であることが好ましい。
【0035】
また、ガラス形成能を向上させる成分として、Nb25以外に、SiO2、V25、B23、GeO2、Al23、Ga23、Sb23、Bi23を合量で0〜2.4%、特に0.1〜2.3%添加することができる。これらの成分の含有量が多すぎると、前駆体ガラスを結晶させた際に望まない異種結晶が析出しやすくなり、高い電池容量が得られにくい。
【0036】
本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラスにおいて、Li2O/(P25+Fe23+MnO2/2)は、モル比で、0.5以上、特に0.52以上であることが好ましい。Li2O/(P25+Fe23+MnO2/2)が小さすぎると、前駆体ガラスを結晶させた際に望まない異種結晶が析出しやすくなり、高い電池容量が得られにくい。なお、上限については特に限定されないが、十分な量のLiMnxFey1-(x+y)PO4結晶を析出させるため、1以下、特に0.8以下であることが好ましい。
【0037】
本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラスにおいて、Li2O/P25は、モル比で、0.85以上、0.9以上、1以上、特に1.01以上であることが好ましい。Li2O/P25が小さすぎると、前駆体ガラスを結晶させた際に望まない異種結晶が析出しやすくなり、高い電池容量が得られにくい。なお、上限については特に限定されないが、十分な量のLiMnxFey1-(x+y)PO4結晶を析出させるため、2以下、特に1.5以下であることが好ましい。
【0038】
本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラスにおいて、Li2O/(Fe23+MnO2/2)は、モル比で、0.85以上、特に0.9以上であることが好ましい。Li2O/(Fe23+MnO2/2)が小さすぎると、前駆体ガラスを結晶させた際に望まない異種結晶が析出しやすくなり、高い電池容量が得られにくい。なお、上限については特に限定されないが、十分な量のLiMnxFey1-(x+y)PO4結晶を析出させるため、2以下、特に1.5以下であることが好ましい。
【0039】
本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラスは、別の形態として、ガラス組成として、モル%で、Li2O 20〜50%、P25 20〜40%、Fe23 0〜40%、MnO2 0〜60%、Nb25 0〜2.4%を含有し、かつ、モル比で、Li2O/P25≧1.01であることを特徴とする。当該形態において、各成分の含有量の好ましい範囲および限定理由等については、既述のものを適用することができる。
【0040】
本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラスは、前記リチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラスを焼成して結晶化させることにより作製することができる。
【0041】
本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラスは、ガラス組成として、モル%で、Li2O 20〜50%、P25 20〜40%、Fe23 0〜40%、MnO2 0〜60%、Nb25 0.1〜2.4%を含有し、かつ(Fe23+MnO2/2)/P25≧0.85であることを特徴とする。
【0042】
本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラスは、さらに、モル%で、SiO2+V25+B23+GeO2+Al23+Ga23+Sb23+Bi23が0〜2.4%含有することが好ましい。
【0043】
本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラスにおいて、Li2O/(P25+Fe23+MnO2/2)は、モル比で、0.5モル以上であることが好ましい。
【0044】
本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラスにおいて、Li2O/P25は0.85以上であることが好ましい。
【0045】
本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラスにおいて、Li2O/(Fe23+MnO2/2)は、モル比で、0.85以上であることが好ましい。
【0046】
本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラスに関する好ましい組成範囲およびその限定理由は、前述したリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラスの好ましい組成範囲およびその限定理由と同じものが適用される。
【0047】
本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラスは、別の形態として、ガラス組成として、モル%で、Li2O 20〜50%、P25 20〜40%、Fe23 0〜40%、MnO2 0〜60%、Nb25 0〜2.4%を含有し、かつLi2O/P25≧1.01であることを特徴とする。当該形態において、各成分の含有量の好ましい範囲および限定理由等については、既述のものを適用することができる。
【0048】
リチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラスは、主結晶としてLiMnxFey1-(x+y)PO4結晶(0≦x≦1、0≦y≦1、0<x+y≦1、MはNb、Ti、V、Cr、Co、Niから選ばれる少なくとも1種)を含有することが好ましい。
【0049】
LiMnxFey1-(x+y)PO4結晶の含有量は50質量%以上、70質量%以上、特に90質量%以上であることが好ましい。LiMnxFey1-(x+y)PO4結晶の含有量が少なすぎると、イオン導電性が不十分となって、高い電池容量が得られにくい。なお、上限については特に限定されないが、現実的には99.9質量%以下、特に99質量%以下である。
【0050】
LiMnxFey1-(x+y)PO4結晶の結晶子サイズが小さいほど、結晶化ガラスを粉末状にして使用する際の粒径を小さくすることが可能となり、電気伝導性を向上させることができる。具体的には、LiMnxFey1-(x+y)PO4結晶の結晶子サイズは100nm以下、特に80nm以下であることが好ましい。下限については特に限定されないが、現実的には1nm以上、特に10nm以上である。なお、LiMnxFey1-(x+y)PO4結晶の結晶子サイズは、結晶化ガラス粉末の粉末X線回折の解析結果から、シェラーの式に従って求められる。
【0051】
リチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラスは粉末状であることが好ましい。それにより正極材料全体としての表面積が大きくなり、イオンや電子の交換がより行いやすくなる。リチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラス粉末の平均粒径は50μm以下、30μm以下、特に20μm以下であることが好ましい。下限については特に限定されないが、現実的には0.05μm以上である。
【0052】
従来、オリビン型のLiMnxFey1-(x+y)PO4結晶の製造方法としては、固相反応法や水熱合成法が知られているが、これらの方法では不純物として金属鉄等の磁性粒子が混入しやすく、繰り返しの充放電によりデンドライドが生成し、短絡の原因となるという問題があった。一方、ガラス溶融法によれば、金属鉄等も溶解させてLiMnxFey1-(x+y)PO4結晶中に取り込むことが可能となるため、均質で緻密な正極材料が得られやすい。
【0053】
具体的には、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラスは、ガラス組成として、モル%で、Li2O 20〜50%、P25 20〜40%、Fe23 0〜40%、MnO2 0〜60%、Nb25 0.1〜2.4%を含有し、かつ、モル比で、(Fe23+MnO2/2)/P25≧0.85となるように原料粉末を調整する工程、原料粉末を溶融し、溶融ガラスを得る工程、および、溶融ガラスを急冷する工程を含む製造方法により作製することができる。
【0054】
また、さらに、リチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラスを熱処理して結晶化させることにより、リチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラスを得ることができる。
【0055】
なお、オリビン型LiMnxFey1-(x+y)PO4結晶中のFeとMnの原子価は+2価であるため、大気開放中で長時間溶融すると酸化還元平衡の関係から、それぞれ+3価および+4価に酸化されやすい。そこで、原子価状態を制御するために、前駆体ガラスを作製する際の原料にシュウ酸鉄などの+2価の試薬を添加することや、前駆体ガラス溶融中にグルコースなどの炭素を含有する還元剤を添加することが好ましい。また、還元性ガスを充満させた気密性に優れた反応容器中で溶融することも好ましい。
【0056】
前駆体ガラスを、温度および雰囲気制御が可能な電気炉中で熱処理することで結晶化ガラスを作製することができる。熱処理温度は、前駆体ガラスの組成や目的とする結晶子サイズによって異なるため特に限定されるものではないが、少なくともガラス転移温度以上、特に結晶化温度以上であることが好ましい。具体的には、熱処理温度は500℃以上、特に550℃以上であることが好ましい。熱処理温度が低すぎると、結晶の析出が不十分となり、イオン導電性に劣る傾向がある。一方、上限は特に限定されないが、熱処理温度が高すぎると、結晶が融解するおそれがあるため、1000℃以下、特に950℃以下であることが好ましい。
【0057】
なお、前駆体ガラスを転移温度近傍で一定時間熱処理した後、結晶化温度近傍でさらに熱処理を行う2段階焼成を行うことにより、均一な結晶粒経を有する結晶化ガラスが得られやすくなる。
【0058】
熱処理時間は、前駆体ガラスの結晶化が十分に進行するよう適宜調整される。具体的には、熱処理時間は10〜60分間、特に20〜40分間であることが好ましい。
【0059】
熱処理の雰囲気は、水素、アンモニア、一酸化炭素などの還元雰囲気であることが好ましい。これにより、オリビン型LiMnxFey1-(x+y)PO4結晶が得られやすくなる。
【0060】
前駆体ガラスの熱処理時に有機バインダーを添加すれば、当該有機バインダーの還元作用により、結晶化する前にガラス中の鉄の価数が+2に変化することから、LiMnxFey1-(x+y)PO4結晶を高い含有率で得ることができる。
【0061】
なお、導電性を向上させるために、結晶化ガラスに対して、電子伝導性が高く安定な導電活物質を混合することが好ましい。導電活物質としては、グラファイト、アセチレンブラック、アモルファスカーボンなどの炭素系導電活物質や金属粉末などの金属系導電活物質などが挙げられる。アモルファスカーボンとしては、FTIR分析において、正極材料の導電性低下の原因となるC−O結合ピークやC−H結合ピークが実質的に検出されないものが好ましい。
【0062】
例えば、結晶化ガラス粉末の界面に導電活物質が担持された状態で焼結させることが好ましい。結晶化ガラス粉末の界面に導電活物質を担持させる方法としては、グルコース;脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸等のカルボン酸;有機バインダーなどの有機化合物等の導電活物質を、前駆体ガラス粉末に添加して混合し、チッ素などの不活性雰囲気または水素、アンモニア、一酸化炭素などの還元雰囲気にて熱処理し、前駆体ガラス粉末を結晶化させるとともに、得られる結晶化ガラス粉末界面に導電活物質であるアモルファスカーボンなどの炭素成分を残留させる方法が挙げられる。
【0063】
ここで、脂肪族カルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸などが挙げられる。芳香族カルボン酸としては、安息香酸、フタル酸、マレイン酸などが挙げられる。有機バインダーとしては、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレングリコール、ポリエチレンカーボネート、ポリメチルスチレン、エチルセルロースなどが挙げられる。アクリル樹脂としては、ポリブチルメタアクリレート、ポリエチルメタアクリレート、ポリメチルメタアクリレートなどが挙げられる。
【0064】
前記方法によれば、結晶化ガラス粉末界面に導電活物質を均一に担持させることができる。また、有機バインダーは、正極材料の成型性と導電性の2つの特性に寄与することができる。つまり、シート形状に容易に成形することが可能となり、焼成後に再度粉砕することなく電池の正極材料として利用することも可能となる。
【0065】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料の電気伝導度は、1.0×10-8S・cm-1以上、1.0×10-6S・cm-1以上、特に1.0×10-4S・cm-1以上であることが好ましい。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
表1〜3は、本発明の実施例(試料No.1〜19)および比較例(試料No.20〜22)を示す。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
まず、表1〜3に示す各組成になるようにガラス原料を調合し、白金ルツボを用いて1100〜1400℃で1時間溶融した。溶融ガラスを一対の成形ロールに流し込み、急冷しながらフィルム状に成形することにより前駆体ガラスを作製した。
【0072】
その後、前駆体ガラスをボールミルで粉砕し、平均粒径2μmの前駆体ガラス粉末を得た。前駆体ガラス粉末100質量部に対して、フェノール樹脂5質量部(グラファイト換算12.4質量部に相当)、溶剤として15質量部のエタノールを混合することによってスラリー化し、公知のドクターブレード法によって、厚さ500μmのシート状に成形した後、80℃で約1時間乾燥させた。次いで、得られたシート状成形体を所定の大きさに切断し、窒素雰囲気中800℃にて30分間熱処理を行い結晶化させることにより、正極材料(結晶化ガラス粉末の焼結体)を得た。正極材料におけるLiMnxFey1-(x+y)PO4結晶の含有量を粉末X線回折法により測定した。
【0073】
次に、得られた正極材料について、0.1Cレートにおける放電容量を以下のようにして評価した。
【0074】
正極材料に対し、バインダーとしてフッ化ポリビニリデン、導電性物質としてケッチェンブラックを、正極材料:バインダー:導電性物質=85:10:5(質量比)となるように秤量し、これらをN−メチルピロリドン(NMP)に分散した後、自転・公転ミキサーで十分に撹拌してスラリー化した。次に、隙間150μmのドクターブレードを用いて、正極集電体である厚さ20μmのアルミ箔上に、得られたスラリーをコートし、乾燥機にて80℃で乾燥後、一対の回転ローラー間に通し、1t/cm2でプレスすることにより電極シートを得た。電極シートを電極打ち抜き機で直径11mmに打ち抜き、140℃で6時間乾燥させ、円形の作用極を得た。
【0075】
次に、コインセルの下蓋に作用極をアルミ箔面を下に向けて載置し、その上に60℃で8時間減圧乾燥した直径16mmのポリプロピレン多孔質膜(ヘキストセラニーズ社製 セルガード#2400)からなるセパレータ、および対極である金属リチウムを積層し、試験電池を作製した。電解液としては、1M LiPF6溶液/EC(エチレンカーボネート):DEC(ジエチルカーボネート)=1:1を用いた。なお、試験電池の組み立ては露点温度−60℃以下の環境で行った。
【0076】
試験電池を用いて、充電(正極材料からのリチウムイオンの放出)を2Vから4.2VまでのCC(定電流)充電により行い、さらに放電(正極材料へのリチウムイオンの吸蔵)を4.2Vから2Vまで放電させることにより行い、放電容量を測定した。結果を表1〜3に示す。
【0077】
表1〜3から明らかなように、実施例である試料No.1〜19の正極材料用ガラスは、100mwh/g以上と良好な放電容量を示していた。一方、比較例である試料No.20および22の正極材料用ガラスは所定のガラス組成を満たしておらず、放電容量は88mwh/g以下と低かった。なお、試料No.21についてはガラス化しなかったため、放電容量の測定は行わなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、モル%で、Li2O 20〜50%、P25 20〜40%、Fe23 0〜40%、MnO2 0〜60%、Nb25 0.1〜2.4%を含有し、かつ、モル比で、(Fe23+MnO2/2)/P25≧0.85であることを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラス。
【請求項2】
さらに、モル%で、SiO2+V25+B23+GeO2+Al23+Ga23+Sb23+Bi23を0〜2.4%含有することを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラス。
【請求項3】
モル比で、Li2O/(P25+Fe23+MnO2/2)≧0.5であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラス。
【請求項4】
モル比で、Li2O/P25≧0.85、および/または、Li2O/(Fe23+MnO2/2)≧0.85であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラス。
【請求項5】
ガラス組成として、モル%で、Li2O 20〜50%、P25 20〜40%、Fe23 0〜40%、MnO2 0〜60%、Nb25 0〜2.4%を含有し、かつ、モル比で、Li2O/P25≧1.01であることを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体ガラス。
【請求項6】
ガラス組成として、モル%で、Li2O 20〜50%、P25 20〜40%、Fe23 0〜40%、MnO2 0〜60%、Nb25 0.1〜2.4%を含有し、かつ(Fe23+MnO2/2)/P25≧0.85であることを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラス。
【請求項7】
さらに、モル%で、SiO2+V25+B23+GeO2+Al23+Ga23+Sb23+Bi23を0〜2.4%含有することを特徴とする請求項6に記載のリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラス。
【請求項8】
モル比で、Li2O/(P25+Fe23+MnO2/2)≧0.5であることを特徴とする請求項6または7に記載のリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラス。
【請求項9】
モル比で、Li2O/P25≧0.85、および/または、Li2O/(Fe23+MnO2/2)≧0.85であることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラス。
【請求項10】
ガラス組成として、モル%で、Li2O 20〜50%、P25 20〜40%、Fe23 0〜40%、MnO2 0〜60%、Nb25 0〜2.4%を含有し、かつLi2O/P25≧1.01であることを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラス。
【請求項11】
主結晶としてLiMnxFey1-(x+y)PO4結晶(0≦x≦1、0≦y≦1、0<x+y≦1、MはNb、Ti、V、Cr、Co、Niから選ばれる少なくとも1種)を含有することを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラス。
【請求項12】
LiMnxFey1-(x+y)PO4結晶の含有量が50質量%以上であることを特徴とする請求項11に記載のリチウムイオン二次電池正極材料用結晶化ガラス。
【請求項13】
ガラス組成として、モル%で、Li2O 20〜50%、P25 20〜40%、Fe23 0〜40%、MnO2 0〜60%、Nb25 0.1〜2.4%を含有し、かつ、モル比で、(Fe23+MnO2/2)/P25≧0.85となるように原料粉末を調整する工程、
原料粉末を溶融し、溶融ガラスを得る工程、および、
溶融ガラスを急冷し、前駆体ガラスを得る工程
を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。
【請求項14】
さらに、前駆体ガラスを熱処理して結晶化ガラスを得る工程を含むことを特徴とする請求項13に記載のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。

【公開番号】特開2012−126600(P2012−126600A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279239(P2010−279239)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】