説明

リチウムイオン二次電池

【課題】容量低下を抑制し長寿命化を図ることができるリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池20は、電池缶9を有している。電池缶9には、正極板4と負極板5とが、セパレータ6を介して捲回された電極群7が収容されている。電極群7の捲回中心にはPTFE製の軸芯1が用いられている。電池缶9内には非水電解液が注液されており、非水電解液が電極群7に浸潤している。非水電解液は、有機溶媒中にリチウム塩の6フッ化リン酸リチウムが溶解されている。水吸収剤、酸中和剤が軸芯1と、電極群7の外周部に巻かれた薄膜3とに含有されている。水吸収剤により微量水分が吸着除去され、酸中和剤によりリチウム塩の分解で生じるフッ化水素酸が中和される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池に係り、特に、リチウム遷移金属複酸化物を含む正極板と負極板とがセパレータを介して配置された電極群が電解液に浸潤され電池容器に収容されたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来リチウムイオン二次電池では、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵、放出可能なリチウム遷移金属複酸化物が用いられている。中でも、安全性に優れることや原料が低コストであることからスピネル系マンガン酸リチウムの使用が提案されている。このマンガン酸リチウムを使用した場合は、安全性等で利点がある反面、サイクル(充放電の繰り返し)や電池の保存、放置によりマンガン(遷移金属)イオンが溶出することで正極活物質の結晶構造の変化を生じ、リチウムイオンを吸蔵、放出する正極活物質の可逆性が低下するため、容量劣化を引き起こすことが知られている。
【0003】
また、リチウムイオン二次電池では、有機溶媒にリチウム塩等のリチウム含有電解質が溶解された非水電解液が用いられている。電池内に水分が混入した場合は、非水電解液中でリチウム含有電解質が水分との反応により分解する。このため、正極活物質から放出されたリチウムイオンの移動が阻害され、容量や出力の低下、更には寿命低下を引き起こす。非水電解液中の水分を除去するために、例えば、非水電解液に吸着剤を混入させる技術が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−262999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、リチウム含有電解質として6フッ化リン酸リチウム(LiPF)等のリチウムフッ化物や過塩素酸リチウム(LiClO)等のリチウム塩化物を使用した場合は、リチウムイオン二次電池内に含まれる水分が微量であってもリチウム含有電解質の分解が起こり、フッ化水素(HF)や過塩素酸(HClO)といった酸が発生することとなる。この酸がリチウム遷移金属複酸化物からの遷移金属イオンの溶出を促進することから、上述したように、容量劣化や寿命低下といった問題を引き起こす。特許文献1の技術では、水分除去用の吸着剤を混入させているものの、リチウム含有電解質の分解が微量の水分でも生じることから、吸着剤による水分の除去が十分とはいえない。従って、正極活物質にマンガン酸リチウム等のリチウム遷移金属複酸化物を用いた場合、リチウムイオン二次電池の長寿命化を図るためには、リチウム含有電解質の分解で発生した酸を中和する、または、酸の発生を抑制することが重要と考えられる。
【0006】
本発明は、上記事案に鑑み、容量低下を抑制し長寿命化を図ることができるリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、リチウム遷移金属複酸化物を含む正極板と負極板とがセパレータを介して配置された電極群が非水電解液に浸潤され電池容器に収容されたリチウムイオン二次電池において、前記非水電解液は有機溶媒にリチウム含有電解質が混合されたものであり、固体状で前記リチウム含有電解質の分解で生じる酸を中和する酸中和剤が前記電極群内に存在していることを特徴とする。
【0008】
本発明では、酸中和剤を固体状とすることで、液体状で非水電解液と混合形態で存在する場合と比べ非水電解液に与える影響を抑制すると共に、非水電解液中のリチウム含有電解質が水分との反応で分解し酸を生じたときに、生じた酸が酸中和剤で中和されリチウム遷移金属複酸化物の分解による遷移金属イオンの溶出が抑制されるので、容量低下を抑制し長寿命化を図ることができる。
【0009】
この場合において、酸中和剤を無機酸化物としてもよい。このとき、無機酸化物を少なくともアルミナ、シリカおよび酸化マグネシウムから選択された一種とすることができる。電極群内に、さらに、水吸収剤が存在していてもよい。このようにすれば、電池内に混入した水分が吸収され、リチウム含有電解質の分解を抑制することができる。水吸収剤を多孔性物質としてもよい。このとき、多孔性物質を少なくともゼオライト系化合物およびセルロース系化合物から選択される一種の材質とすることができる。また、酸中和剤ないし水吸収剤が、少なくとも電極群の軸芯、電極群の外周部、セパレータ、正極板および負極板のうちの1つに存在していてもよい。また、リチウム遷移金属複酸化物をスピネル系マンガン酸リチウムとすることができる。非水電解液にホスファゼン系難燃剤が含有されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸中和剤を固体状とすることで、液体状で非水電解液と混合形態で存在する場合と比べ非水電解液に与える影響を抑制すると共に、非水電解液中のリチウム含有電解質が水分との反応で分解し酸を生じたときに、生じた酸が酸中和剤で中和されリチウム遷移金属複酸化物の分解による遷移金属イオンの溶出が抑制されるので、容量低下を抑制し長寿命化を図ることができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用した実施形態の円柱型リチウムイオン二次電池を一部破断して模式的に示す断面図である。
【図2】実施形態の円柱型リチウムイオン二次電池を放置したときの放置日数に対する容量維持率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明を18650タイプの円柱型リチウムイオン二次電池に適用した実施の形態について説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施形態の円柱型リチウムイオン二次電池20は、ニッケルメッキが施されたスチール製で有底円筒状の電池缶9を有している。電池缶9には、帯状の正極板4および帯状の負極板5がセパレータ6を介して断面渦巻状に捲回された電極群7が収容されている。
【0014】
電極群7の下側には、負極板5を構成する負極集電体に一端を接合されたニッケル製タブ端子の他端が導出されている。ニッケル製タブ端子の他端は、負極外部端子を兼ねる電池缶9の内底面に溶接で接合されている。
【0015】
一方、電極群7の上側には、正極板4を構成する正極集電体に一端を接合されたアルミニウム製タブ端子の他端が導出されている。電極群7の上方には、安全弁を内蔵し正極外部端子を兼ねる円盤状の上蓋が配置されている。アルミニウム製タブ端子の他端は、上蓋の下面に溶接で接合されている。上蓋は、絶縁性のガスケットを介して電池缶9の上部にカシメ固定されている。このため、リチウムイオン二次電池20の内部は密封されている。
【0016】
電極群7は、正極板4と負極板5とが、これら両極板が直接接触しないように、リチウムイオンが通過可能なポリエチレン製微多孔膜のセパレータ6を介して捲回されている。電極群7の捲回中心には、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと略記する。)製の軸芯1が用いられている。セパレータ6は、本例では、幅(電池缶9の長手方向の長さ)が58mm、厚さが40μmに設定されている。アルミニウム製タブ端子およびニッケル製タブ端子は、それぞれ電極群7の互いに反対側の両端面に導出されている。電極群7の周面全周には、電極群7と電池缶9との電気的接触を防止するために絶縁被覆が施されている。
【0017】
電極群7を構成する正極板4は、正極集電体としてアルミニウム箔を有している。アルミニウム箔の厚さは、本例では、20μmに設定されている。アルミニウム箔の両面には、正極活物質としてリチウム遷移金属複酸化物を含む正極合剤が塗着されている。リチウム遷移金属複酸化物には、本例では、スピネル結晶構造を有するマンガン酸リチウム粉末が用いられている。正極合剤には、正極活物質以外に、導電材として炭素粉末、バインダ(結着剤)としてポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFと略記する。)が配合されている。マンガン酸リチウム粉末、炭素粉末およびPVdFの配合割合は、本例では、80:10:10(重量%)に設定されている。アルミニウム箔に正極合剤を塗着するときには、分散溶媒のN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記する。)で粘度調整されスラリが調製される。このスラリがアルミニウム箔の両面に塗布される。正極板4は、乾燥後圧延され、幅54mmに裁断され帯状に形成されている。
【0018】
一方、負極板5は、負極集電体として銅箔を有している。銅箔の厚さは、本例では、10μmに設定されている。銅箔の両面には、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵、放出可能な非晶質炭素粉末や黒鉛粉末等の炭素材料を含む負極合剤が塗着されている。負極合剤には、負極活物質以外に、バインダとしてPVdFが配合されている。炭素材料およびPVdFの配合割合は、本例では、90:10(重量%)に設定されている。銅箔に負極合剤を塗着するときには、分散溶媒のNMPで粘度調整されスラリが調製される。このスラリが銅箔の両面に塗布される。負極板5は、乾燥後、圧延され、幅56mmに裁断され帯状に形成されている。
【0019】
また、電極群7内には、水吸収剤および酸中和剤が存在している。水吸収剤、酸中和剤は、軸芯1、電極群7の外周部、セパレータ6、正極板4および負極板5のうち、少なくとも1つに含有されている。本例では、図1に示すように、水吸収剤、酸中和剤が軸芯1と、電極群7の外周部に巻かれた薄膜3とにそれぞれ含有されている。薄膜3は、電極群7の外周部に位置する正極板4または負極板5と、セパレータ6との間に配されている。すなわち、水吸収剤および酸中和剤が軸芯1と電極群7の外周部との2箇所にそれぞれ存在している。また、酸中和剤は、非水電解液中のリチウム塩の分解で生じる酸に対して中和作用を示す固体状の無機酸化物であり、本例では、アルミナ(酸化アルミニウム)が用いられている。また、水吸収剤は固体状の多孔性物質であり、本例では、モレキュラーシーブ(モレキュラーシーブス)が用いられている。
【0020】
酸中和剤のアルミナと水吸収剤のモレキュラーシーブとを含む軸芯1は、次のようにして作製されたものである。すなわち、アルミナとモレキュラーシーブとPTFEとを60:35:5(重量%)の割合で混合した後、直径3mm、長さ55mmの円柱状に成形した。その後、120℃で12時間真空乾燥させた。アルミナ、モレキュラーシーブは、使用前に、それぞれ150℃で24時間真空乾燥したものを用いた。
【0021】
また、水吸収剤、酸中和剤を電極群7の外周部に存在させるために、酸中和剤と水吸収剤とを含有する薄膜3が用いられている。薄膜3は、次のようにして作製されたものである。すなわち、アルミナとモレキュラーシーブとPTFEとを60:35:5(重量%)の割合で混合した後、厚さ100μmの薄膜状に成形した。その後、120℃で12時間真空乾燥させた。
【0022】
電池缶9内には、非水電解液が注液されている。非水電解液の注液量は、本例では、4.5mlに設定されている。このため、非水電解液が電極群7に浸潤している。非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とジエチルカーボネート(DEC)との体積比1:1:1の混合溶媒中にリチウム塩(リチウム含有電解質)としてリチウムフッ化物である6フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1.0モル/リットルで溶解したものが用いられている。また、この非水電解液には、難燃化剤として、リンおよび窒素を基本骨格とする液体状のホスファゼン化合物が含有されている。ホスファゼン化合物は、一般式(NPRまたは(NPRで表される環状化合物であり、一般式中のRはフッ素や塩素等のハロゲン元素または一価の置換基を示している。一価の置換基としては、メトキシ基やエトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基やメチルフェノキシ基等のアリールオキシ基、メチル基やエチル基等のアルキル基、フェニル基やトリル基等のアリール基、メチルアミノ基等の置換型アミノ基を含むアミノ基、メチルチオ基やエチルチオ基等のアルキルチオ基、および、フェニルチオ基等のアリールチオ基を挙げることができる。非水電解液中の難燃化剤の含有割合は、本例では、15vol(体積)%に設定されている。
【0023】
(作用等)
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池20の作用等について説明する。
【0024】
本実施形態のリチウムイオン二次電池20では、軸芯1、電極群7に巻かれた薄膜3に酸中和剤のアルミナが含有されている。このため、リチウムイオン二次電池20内に混入した微量の水分により非水電解液中の6フッ化リン酸リチウムが分解してフッ化水素酸が発生しても、アルミナとの反応によりフッ化水素酸を中和することができる。このため、フッ化水素酸による正極活物質のマンガン酸リチウムからのマンガンイオンの溶出を抑制することができる。これにより、非水電解液中でのリチウムイオンの伝導性が確保されるため、容量低下を抑制し長寿命化を図ることができる。
【0025】
また、本実施形態のリチウムイオン二次電池20では、軸芯1、薄膜3に酸中和剤のアルミナと共に水吸収剤のモレキュラーシーブが含有されている。このため、リチウムイオン二次電池20内に微量の水分が混入しても、モレキュラーシーブの作用により水分を吸着除去することができる。これにより、非水電解液中の微量の水分が除去されるため、非水電解液中の6フッ化リン酸リチウムの分解を抑制することができる。
【0026】
更に、本実施形態のリチウムイオン二次電池20では、酸中和剤および水吸収剤が電極群7の軸芯1と、電極群7の外周部に配された薄膜3との2箇所に存在している。このため、酸中和剤によるフッ化水素酸の中和、水吸収剤による水分の除去を効率よく行うことができる。また、酸中和剤や水吸収剤を液体状とした場合は、非水電解液との反応やリチウムイオンの移動性の阻害等が生じ、非水電解液に影響を及ぼすことが考えられる。本実施形態では、軸芯1、薄膜3に含有された酸中和剤および水吸収剤がいずれも固体状のため、非水電解液に与える影響を抑制することができる。
【0027】
また更に、本実施形態では、非水電解液中に難燃化剤として液体状のホスファゼン化合物が含有されている。このホスファゼン化合物が電池異常時等の高温環境下で分解し、消火作用を発揮するため、非水電解液に自己消化性が付与される。このため、リチウムイオン二次電池20が異常な高温環境下に曝されたときや電池異常が生じたときに非水電解液の分解で生じたガスの噴出や非水電解液の漏液が起こっても、噴出したガスや漏液した非水電解液に対する引火が抑制されるので、電池の安全性を確保することができる。
【0028】
なお、本実施形態では、18650タイプの円柱型リチウムイオン二次電池について例示したが、本発明は円柱型に限定されるものではなく、コイン型、ボタン型、角型等のリチウムイオン二次電池に適用することも可能である。また、電池サイズについても特に制限はない。更に、本実施形態では、正極板、負極板をセパレータ6を介して捲回した電極群7を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、矩形状に形成した正極板、負極板を積層した積層型の電極群に適用することも可能である。
【0029】
また、本実施形態では、酸中和剤としてアルミナを例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、非水電解液に溶存したリチウム塩の分解で生じる酸に対して中和作用を示す固体状のものであればよい。酸中和剤としては、例えば、ケイ素やマグネシウム等の酸化物、すなわち、シリカや酸化マグネシウムのような無機酸化物を用いることができ、少なくともアルミナ、シリカおよび酸化マグネシウムから選択される1種を用いることが好ましい。
【0030】
更に、本実施形態では、水吸収剤としてモレキュラーシーブを例示したが、本発明で用いることができる水吸収剤としては特に制限されるものではない。水吸収剤としては、例えば、ゼオライト系やセルロース系で固体状の多孔性物質を用いることができ、少なくともゼオライト系化合物およびセルロース系化合物の1種を材質としたものを用いることが好ましい。
【0031】
また更に、本実施形態では、酸中和剤および水吸収剤を軸芯1と、電極群7の外周に巻き付けられた薄膜3に含有させる例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。酸中和剤ないし水吸収剤が電極群7内に存在していればよく、少なくとも軸芯1、電極群7の外周部、セパレータ6、正極板4および負極板5のうちの1つに含有させることができる。例えば、捲回式の電極群7に代えて積層型の電極群を用いた場合は、軸芯1を用いないため、正極合剤や負極合剤に酸中和剤ないし水吸収剤を配合することで正極板4や負極板5に含有させるようにすればよい。また、酸中和剤および水吸収剤を一緒に含有させることなく、それぞれ別に含有させるようにしてもよい。例えば、軸芯1に酸中和剤を含有させ、薄膜3に水吸収剤を含有させるようにすることも可能である。
【0032】
更にまた、本実施形態では、酸中和剤と水吸収剤を含有させる軸芯1および薄膜3を形成する際に、高分子材料としてPTFEを例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。軸芯1や薄膜3を形成する高分子材料としては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ブチルゴム、ニトリルゴム、スチレン/ブタジエンゴム、多硫化ゴム、ニトロセルロース、シアノエチルセルロース、各種ラテックス、アクリロニトリル、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、フッ化プロピレン、フッ化クロロプレン等の重合体を挙げることができ、これらの混合体等を使用するようにしてもよい。
【0033】
また、本実施形態では、正極活物質としてスピネル結晶構造を有するマンガン酸リチウムを例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、コバルト酸リチウムやニッケル酸リチウム、また、これらの結晶中のリチウムやマンガンの一部をそれら以外の元素で置換またはドープした材料を用いるようにしてもよい。結晶構造についても特に制限はないが、長寿命化を図ることを考慮すれば、結晶構造の安定性からスピネル結晶構造を有するマンガン酸リチウムを用いることが好ましい。
【0034】
更に、本実施形態では、非水電解液中の難燃化剤の含有割合を15vol%に設定する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、含有割合を10vol%以上とすることで上述した効果の得られることを確認している。難燃化剤の含有割合が10vol%に満たないと非水電解液に対する難燃性や自己消化性の付与が難しくなり、反対に、25vol%を超えると充放電時のイオン伝導を妨げ、容量や出力を低下させることとなる。このため、難燃化剤の含有割合を10〜25vol%の範囲とすることが好ましい。
【0035】
また更に、本実施形態では、正極板4、負極板5を作製する際のバインダとしてPVdFを例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、PTFE、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ブチルゴム、ニトリルゴム、スチレン/ブタジエンゴム、多硫化ゴム、ニトロセルロース、シアノエチルセルロース、各種ラテックス、アクリロニトリル、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、フッ化プロピレン、フッ化クロロプレン等の重合体およびこれらの混合体などを使用するようにしてもよい。
【0036】
更にまた、本実施形態では、非水電解液の有機溶媒として、EC、DMC、DECを例示したが、本発明は用いられる有機溶媒には特に制限されない。例えば、有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル等またはこれらの2種以上の混合溶媒を用いるようにしてもよく、混合配合比についても限定されるものではない。また、有機溶媒に溶解させるリチウム塩としてリチウムフッ化物の6フッ化リン酸リチウムを例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。本実施形態以外で用いることのできるリチウム塩としては、例えば、LiClO等のリチウム塩化物、LiAsF、LiBF等のリチウムフッ化物やこれらの混合物を用いることができる。これらのリチウム塩についても、水と反応することで過塩素酸やフッ化水素といった酸を発生するため、上述したように酸中和剤や水吸収剤を含有させることで電池寿命を向上させることができる。
【実施例】
【0037】
次に、本実施形態に従い作製したリチウムイオン二次電池20の実施例について説明する。なお、比較のために作製した比較例のリチウムイオン二次電池についても併記する。
【0038】
(実施例1)
実施例1では、酸中和剤のアルミナと水吸収剤のモレキュラーシーブとを含む軸芯1を用いて電極群7を作製し、リチウムイオン二次電池20を作製した。
【0039】
(実施例2)
実施例2では、酸中和剤のアルミナと水吸収剤のモレキュラーシーブとを含む薄膜3を幅6cm、長さ6cmに切断し、電極群7の外周部に配置してリチウムイオン二次電池20を作製した。
【0040】
(実施例3)
実施例3では、実施例1で用いた軸芯1を用い、実施例2で用いた薄膜3を電極群7の外周部に配置してリチウムイオン二次電池20を作製した。
【0041】
(比較例1)
比較例1では、電池缶内に水吸収剤および酸中和剤が存在しないリチウムイオン二次電池を作製した。すなわち、水吸収剤および酸中和剤を配合せずPTFEのみで軸芯1を作製した。比較例1の電池は、従来のリチウムイオン二次電池である。
【0042】
(評価)
各実施例および比較例のリチウムイオン二次電池について、容量維持率を測定した。容量維持率の測定では、各リチウムイオン二次電池を、4.2Vまで定電流、定電圧充電を行い満充電状態とし、放電させることで初期放電容量を測定した。再度、満充電状態とした後、40℃の環境下で放置した。一ヶ月ごとに放電容量を測定し、初期放電容量に対する比率を容量維持率として算出した。
【0043】
図2に示すように、比較例1のリチウムイオン二次電池では、放置日数の増加に伴い、容量維持率が大きく低下した。これに対して、酸中和剤のアルミナと水吸収剤のモレキュラーシーブとを電池内に存在させた実施例1〜実施例3のリチウムイオン二次電池20では、容量維持率の低下が小さく抑えられることが判った。従って、リチウムイオン二次電池20の長寿命化を図ることができることが明らかとなった。また、酸中和剤および水吸収剤を軸芯1の内部に存在させた実施例1、電極群7の外周部に存在させた実施例2と比較して、軸芯1の内部と電極群7の外周部との両方に存在させた実施例3の容量維持率が高くなることが判った。このことから、酸中和剤および水吸収剤を存在させる場所は、1箇所に限らず、軸芯1の内部と電極群7の外周部との両方に存在させることが好ましいことが判った。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は容量低下を抑制し長寿命化を図ることができるリチウムイオン二次電池を提供するため、リチウムイオン二次電池の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0045】
3 薄膜
4 正極板
5 負極板
6 セパレータ
7 電極群
9 電池缶
20 円柱型リチウムイオン二次電池(リチウムイオン二次電池)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム遷移金属複酸化物を含む正極板と負極板とがセパレータを介して配置された電極群が非水電解液に浸潤され電池容器に収容されたリチウムイオン二次電池において、前記非水電解液は有機溶媒にリチウム含有電解質が混合されたものであり、固体状で前記リチウム含有電解質の分解で生じる酸を中和する酸中和剤が前記電極群内に存在していることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記酸中和剤は無機酸化物であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記無機酸化物は、少なくともアルミナ、シリカおよび酸化マグネシウムから選択された一種であることを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記電極群内には、さらに、水吸収剤が存在していることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記水吸収剤は多孔性物質であることを特徴とする請求項4に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記多孔性物質は、少なくともゼオライト系化合物およびセルロース系化合物から選択される一種を材質としたことを特徴とする請求項5に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記酸中和剤ないし前記水吸収剤は、少なくとも前記電極群の軸芯、前記電極群の外周部、前記セパレータ、前記正極板および前記負極板のうちの1つに存在していることを特徴とする請求項4に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記リチウム遷移金属複酸化物はスピネル系マンガン酸リチウムであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
前記非水電解液には、ホスファゼン系難燃剤が含有されていることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−205546(P2010−205546A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49423(P2009−49423)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(593063161)株式会社NTTファシリティーズ (475)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】