説明

リチウムイオン二次電池

【課題】 非水電解液の注液性を高め、これにより生産性を向上させたリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】 正極、負極、非水電解液およびセパレータを有するリチウムイオン二次電池であって、前記正極は、集電体であるアルミニウム箔の少なくとも一方の面に、リチウム含有複合酸化物を正極活物質として含む正極合剤層を有しており、前記正極の集電体を構成するアルミニウム箔は、表面の濡れ性が40mN/m以上であることを特徴とするリチウムイオン二次電池により、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注液性の良好なリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器の小型化・軽量化や高性能化に伴い、電源となるリチウムイオン二次電池の高性能化および安全性向上の要請が高まっている。また、リチウムイオン二次電池では、電気自動車や電動式自転車など、大型や中型のサイズでの用途も広がりを見せている。
【0003】
このように、リチウムイオン二次電池は、その需要が高まりを見せていることから、その生産量が年々増え続けており、これに付随して低コスト化への期待も大きい。リチウムイオン二次電池における供給量の増大と低コスト化の両方のニーズに応えるには、その生産効率を改善することが求められる。
【0004】
リチウムイオン二次電池の生産性を高める要因はいくつもあるが、例えば、非水電解液の注液性を高めることは、最も重要な改善項目といえる。その理由としては、非水電解液には揮発性の高い有機溶媒が使用されているために、注液工程中に非水電解液組成が変動しないように短時間で注液を完了することが求められることや、均一かつ十分に非水電解液を電極に浸透させることが、電池性能に大きな影響を与えることなどが挙げられる。
【0005】
昨今のリチウムイオン二次電池では、例えば、集電体となる金属箔などの片面または両面に、活物質を含む電極合剤層を形成した電極が使用されているが、高容量化の観点から、電極合剤層における活物質の高充填化(電極合剤層の高密度化)が図られている。特に正極は、反応源となるリチウムを含んだ酸化物が活物質として使用されるため、より高充填にして電池内へ挿入する必要がある。電極合剤層を高密度化すると、その空孔率が必然的に減少し、それに伴って非水電解液の電極合剤層における浸透性が低下する。電極合剤層への非水電解液の浸透性が低下すると、電池製造時の非水電解液注入工程において、多大な時間と労力を払うことになり、また、非水電解液の浸透が不十分となることで、電池間での特性にばらつきが生じて、歩留まりが低下するため、電池の生産性が低下するといった問題がある。
【0006】
こうしたことから、電池製造時における非水電解液の注液性を改善して、その生産性を高める検討がなされている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−12391号公報
【特許文献2】特開2008−27879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来とは異なる手段によって非水電解液の注液性を高め、これにより生産性を向上させたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成し得た本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、非水電解液およびセパレータを有しており、前記正極は、集電体であるアルミニウム箔の少なくとも一方の面に、リチウム含有複合酸化物を正極活物質として含む正極合剤層を有しており、前記正極の集電体を構成するアルミニウム箔は、表面の濡れ性が40mN/m以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、非水電解液の注液性を高め、これにより生産性を向上させたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のリチウムイオン二次電池の一例を模式的に示す図で、(a)はその平面図、(b)はその部分縦断面図である。
【図2】図1に示すリチウムイオン二次電池の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池に係る正極は、集電体であるアルミニウム箔の片面または両面に、リチウム含有複合酸化物を正極活物質とする正極合剤層を有している。そして、正極集電体となるアルミニウム箔は、表面の濡れ性が40mN/m以上である。
【0013】
正極集電体に使用されるアルミニウム箔は、通常、圧延工程を経て製造されるが、その圧延時に使用される油が表面に残存しやすく、これにより表面の濡れ性が、例えば31〜33mN/m程度となる。このように表面の濡れ性が低いアルミニウム箔を用いて構成した正極では、正極合剤層中に非水電解液が浸透し難いため、これを用いて電池を製造すると、非水電解液を注入(以下、「注液」ともいう)し難く、その工程に時間がかかったり、正極合剤層中に非水電解液が均一かつ十分に浸透せずに、特性の低い電池の製造割合が増大したりして、生産性が損なわれる場合がある。
【0014】
そこで、本発明では、正極の集電体となるアルミニウム箔の表面の濡れ性を40mN/mとすることで、正極合剤層への非水電解液の浸透性を高めて、電池の生産性向上を達成した。すなわち、表面の濡れ性が40mN/m以上のアルミニウム箔を集電体とする正極では、集電体と正極合剤層との界面に非水電解液が効率よく且つ迅速に回り込み、その結果、正極合剤層内への非水電解液の浸透が促進されて、その浸透性が向上する。また、本発明のリチウムイオン二次電池では、正極合剤層中に非水電解液が均一かつ十分に浸透し得るため、電池の充放電特性自体も良好となる。
【0015】
正極の集電体となるアルミニウム箔の表面の濡れ性は60mN/m以上であることが好ましく、これにより、正極合剤層の密度が非常に高い場合(例えば、3.8g/cm以上)でも、非水電解液の注液性が良好な電池とすることができる。
【0016】
アルミニウム箔の表面の濡れ性は、Wilhelmy法により、市販の装置(例えば、協和界面科学社製「CBVP−Z」)を用いて測定することができる。
【0017】
アルミニウム箔の表面の濡れ性は、例えば、有機溶剤(例えば、後述する非水電解液に用いる有機溶媒、具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート;プロピオン酸メチルなどの鎖状エステル;γ−ブチロラクトンなどの環状エステル;ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3−ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、テトラグライムなどの鎖状エーテル;ジオキサン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリルなどのニトリル類;エチレングリコールサルファイトなどの亜硫酸エステル類;など)による洗浄や、アルミニウム箔の焼鈍処理、アルミニウム箔の表面処理(コロナ放電処理など)によって前記の値に調整することができる。
【0018】
アルミニウム箔の形状は、従来から知られているリチウムイオン二次電池で正極の集電体に使用されているものと同等でよく、例えば、厚みは10〜30μmであることが好ましい。また、アルミニウム箔の幅は、例えば、正極合剤含有組成物(後述する)を塗布する塗布機の仕様に合わせて、30〜100cmなどとすることができる。なお、本発明に係るアルミニウム箔は、本発明の効果を損なわない範囲で、アルミニウム以外の金属元素を含むアルミニウム(アルミニウム合金)により構成されていてもよい。
【0019】
前記のアルミニウム箔からなる集電体の表面に形成される正極合剤層は、正極活物質の他にバインダや導電助剤を含む正極合剤により構成される。
【0020】
正極活物質には、従来から知られているリチウムイオン二次電池に使用されているもの、すなわち、Li(リチウム)イオンを吸蔵放出可能なリチウム含有複合酸化物が使用される。具体的には、例えば、Li1+xMO(−0.1<x<0.1、M:Co、Ni、Mn、Al、Mgなど。なお、元素MはLi以外の他の金属元素で10原子%まで置換されていてもよい。)で表される層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物、LiMnやその元素の一部を他元素で置換したスピネル構造のリチウムマンガン酸化物、LiMPO(M:Co、Ni、Mn、Feなど)で表されるオリビン型化合物などを用いることが可能である。前記層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物の具体例としては、LiCoOやLiNi1−xCox−yAl(0.1≦x≦0.3、0.01≦y≦0.2)などのほか、少なくともCo、NiおよびMnを含む酸化物(LiMn1/3Ni1/3Co1/3、LiMn5/12Ni5/12Co1/6、LiNi3/5Mn1/5Co1/5など)などを例示することができる。特に、Niを40%以上含む活物質の場合には、電池が高容量となるので好ましく、また、O(酸素原子)はフッ素、イオウ原子で1原子%まで置換されていてもよい。
【0021】
正極合剤層に係るバインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などが好適に用いられる。また、正極合剤層に係る導電助剤としては、例えば、天然または人造の黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブなどが好適に用いられる。
【0022】
正極は、例えば、正極活物質、バインダおよび導電助剤を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの溶剤に分散させたペースト状やスラリー状の正極合剤含有組成物を調製し(ただし、バインダは溶剤に溶解していてもよい)、これを前記のアルミニウム箔からなる集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてカレンダー処理を施す工程を経て製造される。ただし、正極の製造方法は、前記の方法に制限される訳ではなく、他の製造方法で製造してもよい。
【0023】
正極合剤層の厚みは、例えば、集電体の片面あたり10〜100μmであることが好ましい。また、正極合剤層の組成としては、例えば、正極活物質の量が60〜95質量%であることが好ましく、バインダの量が1〜15質量%であることが好ましく、導電助剤の量が3〜20質量%であることが好ましい。
【0024】
本発明のリチウムイオン二次電池に係る負極には、集電体の片面または両面に、負極活物質やバインダなどを含む負極合剤層を形成したものが使用できる。負極活物質は、従来から知られているリチウムイオン二次電池に使用されているもの、すなわち、Li(リチウム)イオンを吸蔵放出可能な活物質であれば、特に制限はない。具体的には、例えば、天然黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素繊維などの炭素材料などが挙げられ、黒鉛質材料(天然黒鉛や、熱分解炭素類、MCMB、炭素繊維などの易黒鉛化炭素を2800℃以上で黒鉛化処理したもの)が特に好ましい。
【0025】
また、負極合剤層に係るバインダには、正極合剤層用のバインダとして先に例示した各種バインダと同じものが使用できる。更に、負極合剤層には、導電助剤として、アセチレンブラックなどの各種カーボンブラックやカーボンナノチューブなどを添加してもよい。
【0026】
なお、本発明のリチウムイオン二次電池においては、負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)が0.7μm以上の負極を用いることが好ましい。このような負極を用いると、負極表面のエンボス効果によって負極合剤層への非水電解液の浸透性も向上する。
【0027】
ただし、表面粗度の大きな電極を用いると、電池内において、電極の凸部がセパレータにくい込んで、これと対向する電極との距離が縮まり、電池の充放電を繰り返し行うと、容量が低下しやすくなることがあり、極端な場合には、短絡することも予想される。また、表面粗度の大きな電極を、例えば突刺強度の低いセパレータと併用した場合には、電極の凸部がトリガーとなって、落下、振動などの衝撃が電池にかかった際に、セパレータが裂けて電極間が短絡することもある。よって、負極合剤層の表面粗度をある程度抑えて、電池の信頼性低下を抑制することが好ましい。具体的には、負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)を1.2μm以下とすることが好ましく、この場合、例えば、後述する多孔質層(I)と多孔質層(II)とを有する積層型のセパレータを使用すれば、前記の理由による電池の信頼性低下を十分に抑制することができる。
【0028】
なお、本明細書でいう負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601に規定の算術平均粗さであり、具体的には、共焦点レーザー顕微鏡(レーザテック株式会社製「リアルタイム走査型レーザ顕微鏡 1LM−21D」)を用い、1mm×1mmの視野を512×512ピクセルで測定し、各点の平均線からの絶対値を算術平均することにより求められる数値である。
【0029】
負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)が0.7μm以上1.2μm以下である負極としては、例えば、表面が低結晶性の炭素材で被覆された黒鉛を負極活物質とした負極が挙げられ、更に具体的には、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm−1のピーク強度に対する1360cm−1のピーク強度比であるR値(I1360/I1580)が0.1以上0.5以下であり、002面の面間隔d002が0.338nm以下である黒鉛質炭素を負極活物質として含む負極が挙げられる。この種の黒鉛質炭素は、負荷特性に優れ、特に0℃以下の低温での充電特性に優れる特長も有していることから、負極活物質として特に好ましく使用される。
【0030】
なお、前記R値は、波長514.5nmのアルゴンレーザー〔例えば、Ramanaor社製「T−5400」(レーザーパワー:1mW)〕を用いて得られるラマンスペクトルにより求められる。
【0031】
R値およびd002が前記の値を満足する前記黒鉛質炭素は、例えばd002が0.338nm以下である天然黒鉛または人造黒鉛を球状に賦形した黒鉛を母材とし、その表面を有機化合物で被覆し、800〜1500℃で焼成した後、解砕し、篩を通して整粒することによって得ることができる。なお、前記母材を被覆する有機化合物としては、芳香族炭化水素;芳香族炭化水素を加熱加圧下で重縮合して得られるタールまたはピッチ類;芳香族炭化水素の混合物を主成分とするタール、ピッチまたはアスファルト類;などが挙げられる。前記母材を前記有機化合物で被覆するには、前記有機化合物に前記母材を含浸・混捏する方法が採用できる。また、プロパンやアセチレンなどの炭化水素ガスを熱分解により炭素化し、これをd002が0.338nm以下の黒鉛の表面に堆積させる気相法によっても、R値およびd002が前記の値を満足する黒鉛質炭素を作製することができる。
【0032】
負極は、負極活物質として、前記R値が0.1以上0.5以下であり、d002が0.338nm以下の黒鉛質炭素のみを用いてもよく、例えば負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)を前記の値に調整するために、前記例示の他の炭素材料と併用しても構わない。ただし、前記R値が0.1以上0.5以下であり、d002が0.338nm以下の黒鉛質炭素は、前記の通り、低温度(例えば0℃以下)での充電特性が良好であるなどの特長を有しているため、この黒鉛質炭素を使用する場合には、こうした効果をより良好に確保する観点から、負極活物質全量中に30質量%以上の割合で使用することが好ましく、80質量%以上の割合で使用することがより好ましい。
【0033】
負極は、例えば、負極活物質およびバインダ、更には必要に応じて導電助剤を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)や水などの溶剤に分散させた負極合剤含有組成物を調製し(ただし、バインダは溶剤に溶解していてもよい)、これを集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてカレンダー処理を施す工程を経て製造される。ただし、負極の製造方法は、前記の方法に制限される訳ではなく、他の製造方法で製造してもよい。
【0034】
負極合剤層の厚みは、集電体の片面あたり、集電体の片面あたり10〜100μmであることが好ましい。また、負極合剤層の組成としては、例えば、負極活物質の量が80〜95質量%であることが好ましく、バインダの量が1〜20質量%であることが好ましく、導電助剤を使用する場合には、その量が1〜10質量%であることが好ましい。
【0035】
負極の集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、銅箔が用いられる。この負極集電体は、高エネルギー密度の電池を得るために負極全体の厚みを薄くする場合、厚みの上限は30μmであることが好ましく、下限は5μmであることが望ましい。
【0036】
本発明のリチウムイオン二次電池に係るセパレータには、通常のリチウムイオン二次電池で使用されているセパレータ、例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン製の微多孔膜を用いることができる。セパレータを構成する微多孔膜は、例えば、PEのみを使用したものやPPのみを使用したものであってもよく、また、PE製の微多孔膜とPP製の微多孔膜との積層体であってもよい。
【0037】
なお、本発明の電池に係るセパレータには、熱可塑性樹脂を主体とする微多孔膜からなる多孔質層(I)と、耐熱温度が150℃以上の無機フィラーを主体として含む多孔質層(II)とを有する積層型のセパレータを使用することが好ましい。
【0038】
前記積層型のセパレータに係る多孔質層(I)は、主にシャットダウン機能を確保するためのものであり、リチウムイオン二次電池が多孔質層(I)の主体となる成分である熱可塑性樹脂の融点以上に達したときには、多孔質層(I)に係る熱可塑性樹脂が溶融してセパレータの空孔を塞ぎ、電気化学反応の進行を抑制するシャットダウンを生じる。
【0039】
また、前記積層型のセパレータに係る多孔質層(II)は、リチウムイオン二次電池の内部温度が上昇した際にも正極と負極との直接の接触による短絡を防止する機能を備えたものであり、耐熱温度が150℃以上の無機フィラーによって、その機能を確保している。すなわち、電池が高温となった場合には、喩え多孔質層(I)が収縮しても、収縮し難い多孔質層(II)によって、セパレータが熱収縮した場合に発生し得る正負極の直接の接触による短絡を防止することがでる。また、この耐熱性の多孔質層(II)がセパレータの骨格として作用するため、多孔質層(I)の熱収縮、すなわちセパレータ全体の熱収縮自体も抑制できる。
【0040】
更に、前記積層型のセパレータに係る多孔質層(II)は、従来のリチウムイオン二次電池のセパレータとして使用されているポリオレフィン製の微多孔膜に比べてポーラスであり、非水電解液の浸透性が良好である。よって、多孔質層(II)を正極に面するようにセパレータを配置することで、正極の集電体に使用する前記アルミニウム箔による作用と相俟って、正極合剤層への非水電解液の浸透性を更に高め、電池の注液性をより向上させることができる。
【0041】
前記積層型のセパレータに係る多孔質層(I)の主体とする熱可塑性樹脂は、電気絶縁性を有しており、電気化学的に安定で、更に後で詳述する電池の有する非水電解液や、積層型のセパレータを製造する際に使用する溶媒(詳しくは後述する)に安定な熱可塑性樹脂であれば特に制限は無いが、PE、PP、エチレン−プロピレン共重合体などのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレートや共重合ポリエステルなどのポリエステル;などが好ましい。
【0042】
なお、セパレータは、80℃以上(より好ましくは100℃以上)170℃以下(より好ましくは150℃以下)において、その孔が閉塞する性質(すなわちシャットダウン機能)を有していることが好ましい。そのため、多孔質膜(I)は、融点、すなわち、JIS K 7121の規定に準じて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される融解温度が、80℃以上(更に好ましくは100℃以上)170℃以下(更に好ましくは150℃以下)の熱可塑性樹脂を、その構成成分とするものがより好ましく、PEを主成分とする単層の微多孔膜であるか、PEとPPとを2〜5層積層した積層微多孔膜などであることが好ましい。
【0043】
例えば、PEのように融点が80℃以上150℃以下の熱可塑性樹脂と、PPなどのように、融点が150℃を超える熱可塑性樹脂とを併用して多孔質層(I)を構成する場合、例えば、PEと、PPなどのPEよりも高融点の樹脂とを混合して構成された微多孔膜を多孔質層(I)としたり、PE層と、PP層などのPEよりも高融点の樹脂で構成された層とを積層して構成された積層微多孔膜を多孔質層(I)としたりする場合には、多孔質層(I)を構成する熱可塑性樹脂中、融点が80℃以上150℃以下の樹脂(例えばPE)が、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。
【0044】
前記のような微多孔膜としては、例えば、従来から知られているリチウムイオン二次電池などで使用されている前記例示の熱可塑性樹脂で構成された微多孔膜、すなわち、溶剤抽出法、乾式または湿式延伸法などにより作製されたイオン透過性の微多孔膜を用いることができる。
【0045】
また、多孔質層(I)には、セパレータにシャットダウン機能を付与する作用を損なわない範囲で、その強度などを向上するためにフィラーなどを含有させることもできる。多孔質層(I)に使用可能なフィラーとしては、例えば、後述する多孔質層(II)に使用可能なフィラー(耐熱温度が150℃以上の無機フィラー)と同じものが挙げられる。
【0046】
フィラーの粒径は、平均粒子径で、例えば、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上であって、好ましくは10μm以下、より好ましくは1μm以下である。なお、本明細書でいうフィラーの平均粒子径は、例えば、レーザー散乱粒度分布計(例えば、HORIBA社製「LA−920」)を用い、フィラーを溶解しない媒体に、これら微粒子を分散させて測定した平均粒子径D50%である[後述する多孔質層(II)に係る無機フィラーについても同じである。]。
【0047】
前記のような構成の多孔質層(I)を備えることで、セパレータにシャットダウン機能を付与することが容易となり、電池の内部温度上昇時における安全性確保を容易に達成することが可能となる。
【0048】
多孔質層(I)における前記熱可塑性樹脂の含有量は、シャットダウンの効果をより得やすくするために、例えば、下記のようであることが好ましい。前記熱可塑性樹脂は多孔質層(I)の主体となることから、多孔質層(I)全構成成分の全体積中、50体積%以上であり、70体積%以上であることがより好ましく、100体積%であってもよい。更に、後記の方法により求められる多孔質層(II)の空孔率が20〜60%であり、かつ前記熱可塑性樹脂の体積が、多孔質層(II)の空孔体積の50%以上であることが好ましい。
【0049】
多孔質層(II)に係る無機フィラーは、耐熱温度が150℃以上で、電池の有する非水電解液に対して安定であり、更に電池の作動電圧範囲において酸化還元されにくい電気化学的に安定なものであればよいが、分散などの点から微粒子であることが好ましく、また、アルミナ、シリカ、ベーマイトが好ましい。アルミナ、シリカ、ベーマイトは、耐酸化性が高く、粒径や形状を所望の数値などに調整することが可能であるため、多孔質層(II)の空孔率を精度よく制御することが容易となる。なお、耐熱温度が150℃以上の無機フィラーは、例えば前記例示のものを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
多孔質層(II)に係る耐熱温度が150℃以上の無機フィラーの形状については特に制限はなく、略球状(真球状を含む)、略楕円体状(楕円体状を含む)、板状などの各種形状のものを使用できる。
【0051】
また、多孔質層(II)に係る耐熱温度が150℃以上の無機フィラーの平均粒子径(板状フィラーおよび他形状フィラーの平均粒子径。以下同じ。)は、小さすぎるとイオンの透過性が低下することから、0.3μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。また、耐熱温度が150℃以上の無機フィラーが大きすぎると、電気特性が劣化しやすくなることから、その平均粒子径は、5μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。
【0052】
多孔質層(II)における耐熱温度が150℃以上の無機フィラーは、多孔質層(II)に主体として含まれるものであるため、多孔質層(II)における量は、多孔質層(II)の構成成分の全体積中、50体積%以上であり、70体積%以上であることが好ましく、80体積%以上であることがより好ましく、90体積%以上であることが更に好ましい。多孔質層(II)中の無機フィラーを前記のように高含有量とすることで、リチウムイオン二次電池が高温となった際にも、セパレータ全体の熱収縮を良好に抑制することができ、正極と負極との直接の接触による短絡の発生をより良好に抑制することができる。
【0053】
また、多孔質層(II)には、耐熱温度が150℃以上の無機フィラー同士を結着したり、必要に応じて多孔質層(I)と多孔質層(II)とを結着したりするために有機バインダを含有させることが好ましく、このような観点から、多孔質層(II)における耐熱温度が150℃以上の無機フィラー量の好適上限値は、例えば、多孔質層(II)の構成成分の全体積中、99.5体積%である。なお、多孔質層(II)における耐熱温度が150℃以上の無機フィラーの量を70体積%未満とすると、例えば、多孔質層(II)中の有機バインダ量を多くする必要が生じるが、その場合には多孔質層(II)の空孔が有機バインダによって埋められやすく、セパレータとしての機能が低下する虞があり、また、開孔剤などを用いて多孔質化した場合には、前記フィラー同士の間隔が大きくなりすぎて、熱収縮を抑制する効果が低下する虞がある。
【0054】
多孔質層(II)には、セパレータの形状安定性の確保や、多孔質層(II)と多孔質層(I)との一体化などのために、有機バインダを含有させることが好ましい。有機バインダとしては、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル由来の構造単位が20〜35モル%のもの)、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのエチレン−アクリル酸共重合体、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、架橋アクリル樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂などが挙げられるが、特に、150℃以上の耐熱温度を有する耐熱性のバインダが好ましく用いられる。有機バインダは、前記例示のものを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
前記例示の有機バインダの中でも、EVA、エチレン−アクリル酸共重合体、フッ素系ゴム、SBRなどの柔軟性の高いバインダが好ましい。このような柔軟性の高い有機バインダの具体例としては、三井デュポンポリケミカル社の「エバフレックスシリーズ(EVA)」、日本ユニカー社のEVA、三井デュポンポリケミカル社の「エバフレックス−EEAシリーズ(エチレン−アクリル酸共重合体)」、日本ユニカー社のEEA、ダイキン工業社の「ダイエルラテックスシリーズ(フッ素ゴム)」、JSR社の「TRD−2001(SBR)」、日本ゼオン社の「BM−400B(SBR)」などがある。
【0056】
なお、前記の有機バインダを多孔質層(II)に使用する場合には、後述する多孔質層(II)形成用の組成物の溶媒に溶解させるか、または分散させたエマルジョンの形態で用いればよい。
【0057】
前記積層型のセパレータは、例えば、耐熱温度が150℃以上の無機フィラーなどを含有する多孔質層(II)形成用組成物(スラリーなどの液状組成物など)を、多孔質層(I)を構成するための微多孔膜の表面に塗布し、所定の温度に乾燥して多孔質層(II)を形成することにより製造することができる。
【0058】
多孔質層(II)形成用組成物は、耐熱温度が150℃以上の無機フィラーの他、必要に応じて有機バインダなどを含有し、これらを溶媒(分散媒を含む。以下同じ。)に分散させたものである。なお、有機バインダについては溶媒に溶解させることもできる。多孔質層(II)形成用組成物に用いられる溶媒は、無機フィラーなどを均一に分散でき、また、有機バインダを均一に溶解または分散できるものであればよいが、例えば、トルエンなどの芳香族炭化水素、テトラヒドロフランなどのフラン類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類など、一般的な有機溶媒が好適に用いられる。なお、これらの溶媒に、界面張力を制御する目的で、アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコールなど)、または、モノメチルアセテートなどの各種プロピレンオキサイド系グリコールエーテルなどを適宜添加してもよい。また、有機バインダが水溶性である場合、エマルジョンとして使用する場合などでは、水を溶媒としてもよく、この際にもアルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールなど)を適宜加えて界面張力を制御することもできる。
【0059】
多孔質層(II)形成用組成物は、耐熱温度が150℃以上の無機フィラー、および有機バインダなどを含む固形分含量を、例えば10〜80質量%とすることが好ましい。
【0060】
また、多孔質層(II)形成用組成物をフィルムや金属箔などの基板上に塗布し、所定の温度で乾燥した後に、必要に応じて前記基板から剥離して多孔質層(II)となる多孔質膜を形成し、この多孔質膜と、多孔質層(I)を構成するための微多孔膜とを貼り合わせて一体化することで積層型のセパレータを製造することもできる。この場合、多孔質層(I)を構成するための微多孔膜と多孔質層(II)となる多孔質膜とを一体化させるには、例えば、多孔質層(I)と多孔質層(II)とを重ね合わせ、ロールプレスなどにより両者を貼り合わせる方法などが採用できる。
【0061】
なお、前記積層型のセパレータにおいて、多孔質層(I)と多孔質層(II)とは、それぞれ1層ずつである必要はなく、複数の層がセパレータ中にあってもよい。例えば、多孔質層(II)の両面に多孔質層(I)を配置した構成としたり、多孔質層(I)の両面に多孔質層(II)を配置した構成としてもよい。ただし、層数を増やすことで、セパレータの厚みを増やして電池の内部抵抗の増加やエネルギー密度の低下を招く虞があるので、層数を多くしすぎるのは好ましくなく、前記積層型のセパレータ中の多孔質層(I)と多孔質層(II)との合計層数は5層以下であることが好ましい。
【0062】
本発明の電池に係るセパレータ(ポリオレフィン製の微多孔膜からなるセパレータや、前記積層型のセパレータ)の厚みは、例えば、10〜30μmであることが好ましい。
【0063】
また、前記積層型のセパレータにおいては、多孔質層(II)の厚み[セパレータが多孔質層(II)を複数有する場合は、その総厚み]は、多孔質層(II)による前記の各作用をより有効に発揮させる観点から、3μm以上であることが好ましい。ただし、多孔質層(II)が厚すぎると、電池のエネルギー密度の低下を引き起こすなどの虞があることから、多孔質層(II)の厚みは、8μm以下であることが好ましい。
【0064】
更に、前記積層型のセパレータにおいては、多孔質層(I)の厚み[セパレータが多孔質層(I)を複数有する場合は、その総厚み。以下同じ。]は、多孔質層(I)の使用による前記作用(特にシャットダウン作用)をより有効に発揮させる観点から、6μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。ただし、多孔質層(I)が厚すぎると、電池のエネルギー密度の低下を引き起こす虞があることに加えて、多孔質層(I)が熱収縮しようとする力が大きくなり、セパレータ全体の熱収縮を抑える作用が小さくなる虞がある。そのため、多孔質層(I)の厚みは、25μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、14μm以下であることが更に好ましい。
【0065】
セパレータ全体の空孔率としては、電解液の保液量を確保してイオン透過性を良好にするために、乾燥した状態で、30%以上であることが好ましい。一方、セパレータ強度の確保と内部短絡の防止の観点から、セパレータの空孔率は、乾燥した状態で、70%以下であることが好ましい。なお、セパレータの空孔率:P(%)は、セパレータの厚み、面積あたりの質量、構成成分の密度から、下記(1)式を用いて各成分iについての総和を求めることにより計算できる。
P = 100−(Σa/ρ)×(m/t) (1)
ここで、前記式中、a:質量%で表した成分iの比率、ρ:成分iの密度(g/cm)、m:セパレータの単位面積あたりの質量(g/cm)、t:セパレータの厚み(cm)である。
【0066】
また、前記積層型のセパレータの場合、前記(1)式において、mを多孔質層(I)の単位面積あたりの質量(g/cm)とし、tを多孔質層(I)の厚み(cm)とすることで、前記(1)式を用いて多孔質層(I)の空孔率:P(%)を求めることもできる。この方法により求められる多孔質層(I)の空孔率は、30〜70%であることが好ましい。
【0067】
更に、前記積層型のセパレータの場合、前記(1)式において、mを多孔質層(II)の単位面積あたりの質量(g/cm)とし、tを多孔質層(II)の厚み(cm)とすることで、前記(1)式を用いて多孔質層(II)の空孔率:P(%)を求めることもできる。この方法により求められる多孔質層(II)の空孔率は、20〜60%であることが好ましい。
【0068】
前記の正極と前記の負極と前記のセパレータとは、正極と負極との間にセパレータを介在させて重ねた積層電極体や、更にこれを渦巻状に巻回した巻回電極体の形態で本発明の電池に使用することができる。
【0069】
前記の積層電極体や巻回電極体においては、前記積層型のセパレータを使用した場合、前記の通り、正極合剤層への非水電解液の浸透性がより向上し、電池の注液性をより高めることが可能となることから、多孔質層(II)が少なくとも正極と面するように配置することが好ましい。なお、この場合、耐熱温度が150℃以上の無機フィラーを主体として含み、より耐酸化性に優れる多孔質層(II)が正極と面することで、正極によるセパレータの酸化をより良好に抑制できるため、電池の高温時の保存特性や充放電サイクル特性を高めることもできる。
【0070】
また、負極合剤層への非水電解液の浸透性も高める観点からは、多孔質層(I)の両面に多孔質層(II)を有するセパレータを使用し、多孔質層(II)の正極だけでなく負極にも面するようにすることが好ましい。
【0071】
他方、前記積層型のセパレータの一方の表面が多孔質層(I)である場合には、多孔質層(I)が負極に面するようにすることが好ましく、これにより、例えば、シャットダウン時に多孔質層(I)から溶融した熱可塑性樹脂が電極の合剤層に吸収されることを抑制して、効率よくセパレータの空孔の閉塞に利用することができるようになる。
【0072】
本発明のリチウムイオン二次電池に係る非水電解液には、リチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液が用いられる。リチウム塩としては、溶媒中で解離してLiイオンを形成し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こしにくいものであれば特に制限は無い。例えば、LiClO、LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbFなどの無機リチウム塩、LiCFSO、LiCFCO、Li(SO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiC2n+1SO(n≧2)、LiN(RfOSO〔ここでRfはフルオロアルキル基〕などの有機リチウム塩などを用いることができる。
【0073】
非水電解液に用いる有機溶媒としては、前記のリチウム塩を溶解し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こさないものであれば特に限定されない。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート;プロピオン酸メチルなどの鎖状エステル;γ−ブチロラクトンなどの環状エステル;ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3−ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、テトラグライムなどの鎖状エーテル;ジオキサン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリルなどのニトリル類;エチレングリコールサルファイトなどの亜硫酸エステル類;などが挙げられ、これらは2種以上混合して用いることもできる。なお、より良好な特性の電池とするためには、エチレンカーボネートと鎖状カーボネートの混合溶媒など、高い導電率を得ることができる組み合わせで用いることが望ましい。また、これらの非水電解液に充放電サイクル特性の改善、高温貯蔵性や過充電防止などの安全性を向上させる目的で、無水酸、スルホン酸エステル、ジニトリル、ビニレンカーボネート類、1,3−プロパンサルトン、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、t−ブチルベンゼンなどの添加剤(これらの誘導体も含む)を適宜加えることもできる。
【0074】
このリチウム塩の電解液中の濃度としては、0.5〜1.5mol/lとすることが好ましく、0.9〜1.25mol/lとすることがより好ましい。
【0075】
本発明のリチウムイオン二次電池の形態としては、スチール缶やアルミニウム缶などを外装缶として使用した筒形(角筒形や円筒形など)などが挙げられる。また、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージ電池とすることもできる。
【0076】
本発明のリチウムイオン二次電池は、従来から知られているリチウムイオン二次電池が適用されている各種用途と同じ用途に用いることができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。なお、本実施例におけるアルミニウム箔の表面の濡れ性は、Wilhelmy法により、協和界面科学社製「CBVP−Z」を用いて測定した値である。
【0078】
実施例1
<正極の作製>
正極活物質であるLiCoO:70質量部およびLiNi0.8Co0.2:15質量部、導電助剤であるアセチレンブラック:10質量部、並びにバインダであるPVDF:5質量部を、NMPを溶剤として均一になるように混合して、正極合剤含有ペーストを調製した。表面の濡れ性が40mN/mのアルミニウム箔(厚み15μm)の両面に、前記正極合剤含有ペーストを間欠塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って、全厚が150μmになるように正極合剤層の厚みを調整し、幅43mmになるように切断して正極を作製した。更にこの正極のアルミニウム箔の露出部にタブを溶接してリード部を形成した。
【0079】
<負極の作製>
平均粒子径D50%が16μm、d002が0.3360nmで、R値が0.05の黒鉛(黒鉛A)と、平均粒子径D50%が18μm、d002が0.3380nmで、R値が0.18であり、比表面積が3.2m/gである黒鉛質炭素(黒鉛B)とを、30:70の質量比で混合した混合物:98質量部、粘度が1500〜5000mPa・sの範囲に調整された1質量%の濃度のCMC水溶液:1.0質量部、およびSBR:1.0質量部を、比伝導度が2.0×10Ω/cm以上のイオン交換水を溶剤として混合して、水系の負極合剤含有ペーストを調製した。
【0080】
前記の負極合剤含有ペーストを、銅箔からなる厚さ10μmの集電体の両面に間欠塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って全厚が142μmになるように負極合剤層の厚みを調整し、幅45mmになるように切断して負極を作製した。更にこの負極の銅箔の露出部にタブを溶接してリード部を形成した。
【0081】
なお、共焦点レーザー顕微鏡を用いて測定した前記負極の負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、1.2μmであった。
【0082】
<セパレータの作製>
平均粒子径D50%が1μmのベーマイト5kgに、イオン交換水5kgと、分散剤(水系ポリカルボン酸アンモニウム塩、固形分濃度40質量%)0.5kgとを加え、内容積20L、転回数40回/分のボールミルで10時間解砕処理をして分散液を調製した。処理後の分散液を120℃で真空乾燥し、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、ベーマイトの形状はほぼ板状であった。
【0083】
前記分散液500gに、増粘剤としてキサンタンガムを0.5g、バインダとして樹脂バインダーディスパージョン(変性ポリブチルアクリレート、固形分含量45質量%)を17g加え、スリーワンモーターで3時間攪拌して均一なスラリー[多孔質層(II)形成用スラリー、固形分比率50質量%]を調製した。
【0084】
リチウムイオン二次電池用PE製微多孔質セパレータ[多孔質層(I):厚み16μm、空孔率40%、平均孔径0.08μm、PEの融点135℃]の片面にコロナ放電処理(放電量40W・min/m)を施し、この処理面に多孔質層(II)形成用スラリーをマイクログラビアコーターによって塗布し、乾燥して厚みが4μmの多孔質層(II)を形成して、積層型のセパレータを得た。このセパレータにおける多孔質層(II)の単位面積あたりの質量は5.5g/mで、ベーマイトの体積含有率は95体積%であり、空孔率は45%であった。
【0085】
<電池の組み立て>
前記のようにして得た正極と負極とを、セパレータの多孔質層(II)が正極に面するように介在させつつ重ね、渦巻状に巻回して巻回電極体を作製した。得られた巻回電極体を押しつぶして扁平状にし、厚み6mm、高さ50mm、幅34mmでのアルミニウム製外装缶に入れ、非水電解液(エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを体積比で1:2に混合した溶媒にLiPFを濃度1.2mol/lで溶解させ、更にシクロヘキシルベンゼンを4質量%添加したもの)を注入した。なお、外装缶へ注入する非水電解液の量は3.2gとした。そして、非水電解液の一部を溢れない量で外装缶に注入し、外装缶内を減圧し、注入した非水電解液が巻回電極体内に浸透した時点で圧を開放する一連の操作を1サイクルとして、これらの操作を繰り返し、非水電解液の注入開始から、その全量を注入し終えるまでの時間(以下、「注液時間」という)を測定した。
【0086】
非水電解液の注入後に外装缶の封止を行って、図1に示す構造で、図2に示す外観のリチウムイオン二次電池を作製した。この電池は、缶の上部に内圧が上昇した場合に圧力を下げるための開裂ベントを備えている。
【0087】
ここで図1および図2に示す電池について説明すると、図1の(a)は平面図、(b)はその部分断面図であって、図1(b)に示すように、正極1と負極2は前記のようにセパレータ3を介して渦巻状に巻回した後、扁平状になるように加圧して扁平状の巻回電極体6として、角筒形の外装缶4に電解液と共に収容されている。ただし、図1では、煩雑化を避けるため、正極1や負極2の作製にあたって使用した集電体としての金属箔や電解液などは図示していない。また、セパレータの各層も区別して示していない。
【0088】
外装缶6はアルミニウム合金製で電池の外装体を構成するものであり、この外装缶4は正極端子を兼ねている。そして、外装缶4の底部にはPEシートからなる絶縁体5が配置され、正極1、負極2およびセパレータ3からなる扁平状巻回電極体6からは、正極1および負極2のそれぞれ一端に接続された正極リード体7と負極リード体8が引き出されている。また、外装缶4の開口部を封口するアルミニウム合金製の封口用蓋板9にはPP製の絶縁パッキング10を介してステンレス鋼製の端子11が取り付けられ、この端子11には絶縁体12を介してステンレス鋼製のリード板13が取り付けられている。
【0089】
そして、この蓋板9は外装缶4の開口部に挿入され、両者の接合部を溶接することによって、外装缶4の開口部が封口され、電池内部が密閉されている。また、図1の電池では、蓋板9に非水電解液注入口14が設けられており、この非水電解液注入口14には、封止部材が挿入された状態で、例えばレーザー溶接などにより溶接封止されて、電池の密閉性が確保されている(従って、図1および図2の電池では、実際には、非水電解液注入口14は、非水電解液注入口と封止部材であるが、説明を容易にするために、非水電解液注入口14として示している)。更に、蓋板9には、電池の温度が上昇した際に内部のガスを外部に排出する機構として、開裂ベント15が設けられている。
【0090】
この実施例1の電池では、正極リード体7を蓋板9に直接溶接することによって外装缶5と蓋板9とが正極端子として機能し、負極リード体8をリード板13に溶接し、そのリード板13を介して負極リード体8と端子11とを導通させることによって端子11が負極端子として機能するようになっているが、外装缶4の材質などによっては、その正負が逆になる場合もある。
【0091】
図2は前記図1に示す電池の外観を模式的に示す斜視図であり、この図2は前記電池が角形電池であることを示すことを目的として図示されたものであって、この図1では電池を概略的に示しており、電池の構成部材のうち特定のものしか図示していない。また、図1においても、電極群の内周側の部分は断面にしていない。
【0092】
実施例2〜8
正極の集電体に用いたアルミニウム箔を、表面の濡れ性が表1に示す値のものとし、負極活物質に用いた黒鉛Aと黒鉛Bとの混合比(質量比)を表1に示すようにした以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0093】
実施例9
実施例1で積層型のセパレータに使用したものと同じPE製微多孔膜セパレータに、多孔質層(II)を形成することなくセパレータとして用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0094】
比較例1
正極の集電体に用いたアルミニウム箔を、表面の濡れ性が表1に示す値のものとし、セパレータを、実施例1で積層型のセパレータの多孔質層(I)に用いたものと同じPE製微多孔膜に変更した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0095】
<−5℃・10%充電での充電電流測定>
実施例1〜9および比較例1のリチウムイオン二次電池を−5℃の恒温槽内に5時間静置し、その後、各電池について、4.2Vまで1200mA(1.0C)の定電流で充電を行い、4.2Vに達した後は4.2Vで定電圧充電を行い、充電深度(規格容量に対する実際に充電した容量の割合)が10%に達したときの電流値を測定した。これらの結果を表1に併記する。
【0096】
【表1】

【0097】
なお、表1には、各電池の負極について、実施例1の電池に係る負極と同様にして測定した負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)を併記している。
【0098】
表1に示すように、表面の濡れ性が好適値にあるアルミニウム箔を正極集電体に用いて構成した実施例1〜9のリチウムイオン二次電池は、表面の濡れ性が低いアルミニウム箔を正極集電体に用いた比較例1の電池に比べて、製造時における非水電解液の注液時間が非常に短くなっており、高い生産性を有していることが分かる。
【符号の説明】
【0099】
1 正極
2 負極
3 セパレータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、非水電解液およびセパレータを有するリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、集電体であるアルミニウム箔の少なくとも一方の面に、リチウム含有複合酸化物を正極活物質として含む正極合剤層を有しており、
前記正極の集電体を構成するアルミニウム箔は、表面の濡れ性が40mN/m以上であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
熱可塑性樹脂を主体とする微多孔膜からなる多孔質層(I)と、耐熱温度が150℃以上の無機フィラーを主体として含む多孔質層(II)とを有するセパレータを備えている請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
多孔質層(II)が少なくとも正極と面している請求項2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
負極は、集電体の少なくとも一方の面に負極合剤層を有するものであり、前記負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)が、0.7〜1.2μmである請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオンイオン二次電池。
【請求項5】
負極合剤層が、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm−1のピーク強度に対する1360cm−1のピーク強度比であるR値が0.1〜0.5で、002面の面間隔d002が0.338nm以下である黒鉛を負極活物質として含有している請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−192543(P2011−192543A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58092(P2010−58092)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(511084555)日立マクセルエナジー株式会社 (212)
【Fターム(参考)】