説明

リチウムイオン伝導性向上材

【課題】本発明は、リチウムイオン伝導性を向上させるリチウムイオン伝導性向上材を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、リチウムイオン電池に用いられるリチウムイオン伝導性向上材であって、金属酸化物担体と、上記金属酸化物担体上に担持され、上記金属酸化物担体よりも酸性度の高い、リチウムイオン伝導性基またはリチウムイオン伝導性金属酸化物と、を有することを特徴とするリチウムイオン伝導性向上材を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池におけるリチウムイオン伝導性を向上させることができるリチウムイオン伝導性向上材、およびそれを用いたリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコン、ビデオカメラ、携帯電話等の小型化に伴い、情報関連機器、通信機器の分野では、これらの機器に用いる電源として、高エネルギー密度であるという理由から、リチウム二次電池が実用化され広く普及するに至っている。また一方で、自動車の分野においても、環境問題、資源問題から電気自動車の開発が急がれており、この電気自動車用の電源としても、リチウム二次電池が検討されている。特に、電気自動車用電源としてリチウム二次電池を用いて実用化を図る場合、現状のリチウム二次電池では出力が低いため、リチウム二次電池の高出力化が必要とされている。
【0003】
ところで、特許文献1においては、表面が電解液中でマイナスまたはプラスのどちらかに帯電していることを特徴とするセパレータが開示されている。これは、セパレータ表面に表面電位を持たせることにより、セパレータ近傍の電解液の電離を大きくし、リチウムイオン伝導性を向上させるものである。また、高い表面電位を有するセパレータを得る方法として、具体的には、無機酸化物微粒子をセパレータにコーティングする方法が開示されている。しかしながら、このような無機酸化物微粒子を添加しても、充分にリチウムイオン伝導性を向上させることは困難であった。
【0004】
特許文献2においては、スピネル型リチウムマンガン複合酸化物の表面に、タングステンを含む酸化物を修飾してなるリチウムマンガン複合酸化物が開示されている。これは、正極活物質の表面を酸化タングステン等で被覆することにより、リチウム二次電池の大電流放電特性を向上させるものである。また、特許文献3においては、電池中にアルカリ金属、アルカリ土類金属、硫酸イオン等を含有させることで、高温容量維持率を向上させたリチウム二次電池が開示されている。特許文献4においては、正極活物質を酸処理することで、集電体腐蝕やガス発生を抑制できる非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法等が開示されている。特許文献5においては、正極活物質に遷移金属酸化物を添加することにより、高温保存時の性能低下を抑制したリチウム二次電池が開示されている。
【特許文献1】特開平11−339754号公報
【特許文献2】特開2005−320184号公報
【特許文献3】特開2002−15740号公報
【特許文献4】特開2003−123755号公報
【特許文献5】特開平9−330719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、リチウムイオン電池におけるリチウムイオン伝導性を向上させることができるリチウムイオン伝導性向上材を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明においては、リチウムイオン電池に用いられるリチウムイオン伝導性向上材であって、金属酸化物担体と、上記金属酸化物担体上に担持され、上記金属酸化物担体よりも酸性度の高い、リチウムイオン伝導性基またはリチウムイオン伝導性金属酸化物と、を有することを特徴とするリチウムイオン伝導性向上材を提供する。
【0007】
本発明によれば、金属酸化物担体上に、その金属酸化物担体よりも酸性度の高いリチウムイオン伝導性基またはリチウムイオン伝導性金属酸化物を担持させることにより、効果的にリチウムイオン伝導性を向上させることができる。
【0008】
上記発明においては、上記リチウムイオン伝導性基が、スルホン酸基(−SOH)であることが好ましい。酸性度が高く、リチウムイオン伝導性に優れているからである。
【0009】
上記発明においては、上記リチウムイオン伝導性金属酸化物が、酸化タングステンであることが好ましい。表面酸性度が高く、リチウムイオン伝導性に優れているからである。
【0010】
上記発明においては、上記金属酸化物担体が、酸化ジルコニウムであることが好ましい。表面酸性度が高く、化学的安定性が高いからである。
【0011】
また本発明においては、正極活物質を含有する正極層と、負極活物質を含有する負極層と、上記正極層および上記負極層の間に配置されたセパレータと、を有するリチウム二次電池であって、上記正極層、上記負極層および上記セパレータの少なくとも一つが、上述したリチウムイオン伝導性向上材を含有することを特徴とするリチウム二次電池を提供する。
【0012】
本発明によれば、上記リチウムイオン伝導性向上材を用いることにより、内部抵抗が低く、高出力なリチウム二次電池とすることができる。
【0013】
上記発明においては、上記正極活物質および上記負極活物質の少なくとも一方の表面に、上記リチウムイオン伝導性向上材が被覆されていることが好ましい。リチウムイオン伝導性を向上させると共に、活物質と電解液との接触により生じる電解液の分解を抑制することができるからである。
【0014】
上記発明においては、上記セパレータが、上記リチウムイオン伝導性向上材と、バインダ樹脂と、から構成されていることが好ましい。リチウムイオン伝導性に優れたセパレータとすることができるからである。
【0015】
上記発明においては、上記バインダ樹脂が、オレフィン系樹脂またはフッ素系樹脂であることが好ましい。オレフィン系樹脂およびフッ素系樹脂は汎用性に優れているからである。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、内部抵抗が小さく、高出力なリチウムイオン電池を得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のリチウムイオン伝導性向上材およびリチウム二次電池について詳細に説明する。
【0018】
A.リチウムイオン伝導性向上材
まず、本発明のリチウムイオン伝導性向上材について説明する。本発明のリチウムイオン伝導性向上材は、リチウムイオン電池に用いられるリチウムイオン伝導性向上材であって、金属酸化物担体と、上記金属酸化物担体上に担持され、上記金属酸化物担体よりも酸性度の高い、リチウムイオン伝導性基またはリチウムイオン伝導性金属酸化物と、を有することを特徴とするものである。
【0019】
本発明によれば、金属酸化物担体上に、その金属酸化物担体よりも酸性度の高いリチウムイオン伝導性基またはリチウムイオン伝導性金属酸化物を担持させることにより、効果的にリチウムイオン伝導性を向上させることができる。また、本発明のリチウムイオン伝導性向上材は、リチウムイオン伝導性向上に寄与する表面部分に、酸性度の高い官能基または金属酸化物を表面に有している。そのため、例えば、用いられるリチウムイオン伝導性金属酸化物が高価である場合に、その使用量を低減することができ、コスト低減を図ることができる。さらに、金属酸化物担体上に、酸性度の高い官能基または金属酸化物を担持させることで、電解液中に存在するリチウムイオンとの接触面積を大きくすることができ、リチウムイオン伝導性を効率良く向上させることができる。
【0020】
図1は、本発明のリチウムイオン伝導性向上材の一例を示す説明図である。図1(a)に示されるリチウムイオン伝導性向上材は、金属酸化物担体である酸化ジルコニウム(ZrO)と、酸化ジルコニウム上に担持され、酸化ジルコニウムよりも酸性度の高いリチウムイオン伝導性基であるスルホン酸基(SOH)と、を有するものである。一方、図1(b)に示されるリチウムイオン伝導性向上材は、金属酸化物担体である酸化ジルコニウム(ZrO)と、酸化ジルコニウム上に担持され、酸化ジルコニウムよりも酸性度の高いリチウムイオン伝導性金属酸化物である酸化タングステン(V)(化学式:W)と、を有するものである。
【0021】
本発明は、酸性度の高い物質表面でリチウムイオンの伝導性が高くなる現象を利用したものである。すなわち、金属酸化物担体と、その金属酸化物担体よりも酸性度の高い、リチウムイオン伝導性基またはリチウムイオン伝導性金属酸化物と、を有するリチウムイオン伝導性向上材を、正極層、負極層およびセパレータのいずれかに添加することにより、リチウムイオン伝導性の向上を図るものである。
【0022】
リチウムイオン伝導性基がリチウムイオン伝導性を向上させる理由は、明確には解明されていないが、スルホン酸基等のプロトン供与能力を持つブレンステッド酸が多数存在することにより、例えば水系溶媒下で水分子やスルホン酸基を介してGrotthus機構によりプロトンがホッピング伝導するのと同様の現象が、非水溶媒とリチウムイオン伝導性基との近傍において起こっていると推測される。一方、(表面)酸性度の高い金属酸化物がリチウムイオン伝導性を向上させる理由は、明確には解明されていない。
【0023】
本発明において、リチウムイオン伝導性基またはリチウムイオン伝導性金属酸化物は、金属酸化物担体よりも高い酸性度を有する。この酸性度の差としては、特に限定されるものではないが、PZC値で、例えば0.1以上、中でも0.5以上、特に1.0以上であることが好ましい。本発明において、リチウムイオン伝導性基、リチウムイオン伝導性金属酸化物および金属酸化物担体の酸性度は、ゼータ電位測定による等電点(PZC)の測定により決定する。PZC値が小さいほど、酸性度が高いということができる。
以下、本発明のリチウムイオン伝導性向上材について、構成ごとに説明する。
【0024】
1.金属酸化物担体
まず、本発明に用いられる金属酸化物担体について説明する。本発明に用いられる金属酸化物担体は、後述するリチウムイオン伝導性基またはリチウムイオン伝導性金属酸化物を担持するものである。
【0025】
上記金属酸化物担体としては、後述するリチウムイオン伝導性基およびリチウムイオン伝導性金属酸化物よりも酸性度の低いものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、遷移金属酸化物を挙げることができる。上記遷移金属酸化物としては、例えば二酸化ジルコニウム(化学式:ZrO)等の酸化ジルコニウム;酸化タングステン(IV)(化学式:WO)、酸化タングステン(V)(化学式:W)および酸化タングステン(VI)(化学式:WO)等の酸化タングステン等を挙げることができる。中でも、本発明においては、上記金属酸化物担体が、酸化ジルコニウムであることが好ましい。表面酸性度が高く、化学的安定性が高いからである。上記金属酸化物単体は、価数が異なり、同一の金属元素を有する複数の金属酸化物の混合物であっても良く、異なる金属酸化物の混合物であっても良い。
【0026】
上記金属酸化物担体の平均粒径としては、特に限定されるものではないが、例えば0.01μm〜20μmの範囲内、中でも0.05μm〜15μmの範囲内、特に0.1μm〜10μmの範囲内であることが好ましい。
【0027】
2.リチウムイオン伝導性基およびリチウムイオン伝導性金属酸化物
本発明に用いられるリチウムイオン伝導性基およびリチウムイオン伝導性金属酸化物は、上記金属酸化物担体上に担持されるものである。
【0028】
上記リチウムイオン伝導性基としては、上述した金属酸化物担体よりも高い酸性度を有するものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、スルホン酸基(−SOH)、カルボン酸基(−COOH)および水酸基(−OH)等を挙げることができ、中でもスルホン酸基およびカルボン酸基、特にスルホン酸基が好ましい。酸性度が高く、リチウムイオン伝導性に優れているからである。
【0029】
上記リチウムイオン伝導性金属酸化物としては、上述した金属酸化物担体よりも高い酸性度を有するものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、遷移金属酸化物を挙げることができる。上記遷移金属酸化物の具体例については、上述した金属酸化物担体に用いられる遷移金属酸化物と同様であるので、ここでの説明は省略する。中でも、本発明においては、上記リチウムイオン伝導性金属酸化物が、酸化タングステンであることが好ましい。表面酸性度が高く、リチウムイオン伝導性に優れているからである。
【0030】
リチウムイオン伝導性向上材におけるリチウムイオン伝導性金属酸化物の含有率としては、特に限定されるものではないが、例えば0.01重量%〜20重量%の範囲内、中でも0.05重量%〜10重量%の範囲内、特に0.1重量%〜5重量%の範囲内であることが好ましい。
【0031】
金属酸化物担体の表面におけるリチウムイオン伝導性金属酸化物の被覆率としては、特に限定されるものではないが、例えば0.01%〜20%の範囲内、中でも0.05%〜10%の範囲内、特に0.1%〜5%の範囲内であることが好ましい。
【0032】
3.リチウムイオン伝導性向上材
本発明のリチウムイオン伝導性向上材は、上述した金属酸化物担体と、上述したリチウムイオン伝導性基またはリチウムイオン伝導性金属酸化物とを有するものである。本発明のリチウムイオン伝導性向上材は、リチウムイオン電池に用いられるものであり、リチウム一次電池に用いることもでき、リチウム二次電池に用いることもできる。さらに、本発明のリチウムイオン伝導性向上材は、通常、粉末状である。
【0033】
本発明のリチウムイオン伝導性向上材は、リチウムイオン伝導性向上材の金属酸化物担体が、正極活物質または負極活物質の表面を被覆してなるものであっても良い。すなわち、本発明においては、活物質と、上記活物質上を被覆する金属酸化物担体と、上記金属酸化物担体上に担持され、上記金属酸化物担体よりも酸性度の高い、リチウムイオン伝導性基またはリチウムイオン伝導性金属酸化物と、を有するリチウムイオン伝導性向上材付活物質を提供することができる。
【0034】
具体的には、図2に示すように、正極活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO)と、コバルト酸リチウム上を被覆する酸化ジルコニウム(ZrO)と、酸化ジルコニウム上に担持され、酸化ジルコニウムよりも酸性度の高いスルホン酸基(SOH)と、を有するリチウムイオン伝導性向上材付活物質を挙げることができる。
【0035】
上記活物質の表面を被覆する金属酸化物担体の被覆率としては、活物質表面でリチウムイオンが移動可能であれば特に限定されるものではないが、例えば0.01%〜20%の範囲内、中でも0.05%〜10%の範囲内、特に0.1〜5%の範囲内であることが好ましい。被覆率が小さすぎると、リチウムイオン伝導性を充分に向上させることができない可能性が有り、被覆率が大きすぎると、活物質がリチウムイオンを吸蔵放出し難くなるからである。
【0036】
次に、本発明のリチウムイオン伝導性向上材の製造方法について説明する。本発明のリチウムイオン伝導性向上材の製造方法としては、上述したリチウムイオン伝導性向上材を得ることができる方法であれば特に限定されるものではない。例えば、スルホン酸基を担持する酸化ジルコニウムを得る場合には、アモルファスジルコニアと、硫酸アンモニウムとを用意し、これらと蒸留水を混合した後、乾固処理、焼成処理を行う方法等を挙げることができる。また例えば、酸化タングステンを担持する酸化ジルコニウムを得る場合には、タングステン酸ナトリウム2水和物と、酸化ジルコニウムとを混合した後、乾固処理、ナトリウムイオン除去処理および焼成処理を行う方法を挙げることができる。
【0037】
また、上述したリチウムイオン伝導性向上材付活物質の製造方法としては、まずリチウムイオン伝導性向上材を用意し、それを活物質上に被覆する方法、およびまず活物質上に金属酸化物担体を被覆し、その金属酸化物担体上にリチウムイオン伝導性基またはリチウムイオン伝導性金属酸化物を担持させる方法等を挙げることができる。
【0038】
B.リチウム二次電池
次に、本発明のリチウム二次電池について説明する。本発明のリチウム二次電池は、正極活物質を含有する正極層と、負極活物質を含有する負極層と、上記正極層および上記負極層の間に配置されたセパレータと、を有するリチウム二次電池であって、上記正極層、上記負極層および上記セパレータの少なくとも一つが、上述したリチウムイオン伝導性向上材を含有することを特徴とするものである。
【0039】
本発明によれば、上記リチウムイオン伝導性向上材を用いることにより、内部抵抗が低く、高出力なリチウム二次電池とすることができる。
【0040】
図3は、本発明のリチウム二次電池の一例を示す概略断面図である。図3に示されるリチウム二次電池は、正極活物質1を含有する正極層2と、正極層2の集電を行う正極集電体3と、負極活物質4を含有する負極層5と、負極層5の集電を行う負極集電体6と、正極層2および負極層5の間に配置されたセパレータ7とを有し、正極層2、負極層5およびセパレータ7が、上述したリチウムイオン伝導性向上材8を含有するものである。
【0041】
本発明においては、正極層、負極層およびセパレータの少なくとも一つが、リチウムイオン伝導性向上材を含有すれば良い。中でも、本発明においては、少なくともセパレータがリチウムイオン伝導性向上材を含有していることが好ましい。正極層や負極層と比較してリチウムイオン伝導性が悪く、セパレータにおけるリチウムイオン伝導性の向上が、リチウム二次電池全体の性能向上に有効だからである。特に、本発明においては、正極層、負極層およびセパレータの全てが、リチウムイオン伝導性向上材を含有することが好ましい。リチウムイオン伝導性をさらに向上させることができるからである。
【0042】
なお、正極層または負極層がリチウムイオン伝導性向上材を含有している場合には、電解液が活物質に触れる面積を相対的に低減することができ、電解液の分解を抑制することができるという利点を有する。また、本発明に用いられるリチウムイオン伝導性向上材については、上記「A.リチウムイオン伝導性向上材」に記載した内容と同様であるので、ここでの説明は省略する。
以下、本発明のリチウム二次電池について、構成ごとに説明する。
【0043】
1.正極層および負極層
まず、本発明に用いられる正極層および負極層について説明する。
本発明に用いられる正極層は、少なくとも正極活物質を含有するものである。上記正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、LiCoO、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiFePO等を挙げることができ、中でもLiCoOが好ましい。
【0044】
上記正極層は、通常、導電化材および結着材を含有する。上記導電化材としては、例えばカーボンブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。上記結着材としては、一般的なリチウム二次電池に用いられるものであれば特に限定されるものではないが、例えばポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)等のフッ素系樹脂等を挙げることができる。また、本発明のリチウム二次電池は、通常正極層の集電を行う正極集電体を有する。上記正極集電体の材料としては、例えばアルミニウム、ステンレス、ニッケル、鉄、チタン等を挙げることができる。
【0045】
一方、本発明に用いられる負極層は、少なくとも負極活物質を含有するものである。上記負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば金属リチウム、リチウム合金、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、およびグラファイト等の炭素材料等を挙げることができ、中でもグラファイトが好ましい。
【0046】
上記負極層は、必要に応じて、導電化材および結着材を含有していても良い。導電化材および結着材については、上記正極層と同様のものを用いることができる。また、本発明のリチウム二次電池は、通常負極層の集電を行う負極集電体を有する。上記負極集電体の材料としては、例えば銅、ステンレス、ニッケル等を挙げることができる。
【0047】
正極層または負極層が、上述したリチウムイオン伝導性向上材を含有する場合、その含有率としては、特に限定されるものではないが、例えば0.01重量%〜20重量%の範囲内、中でも0.05重量%〜10重量%の範囲内、特に0.1重量%〜5重量%の範囲内であることが好ましい。リチウムイオン伝導性向上材の含有率が低すぎると、リチウムイオン伝導性を充分に向上させることができない可能性があり、リチウムイオン伝導性向上材の含有率が高すぎると、電池容量の低下を起こす可能性があるからである。
【0048】
正極層または負極層にリチウムイオン伝導性向上材を導入する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、結着材を用いる方法、および活物質の表面に被覆する方法を挙げることができる。
【0049】
結着材を用いる場合は、結着材を含む電極層形成用ペーストに、リチウムイオン伝導性向上材の粉末を添加することで、正極層または負極層にリチウムイオン伝導性向上材を導入することができる。例えば、活物質、導電化材、結着材、リチウムイオン伝導性向上材および溶媒を含有するペーストを作製し、そのペーストを集電体に塗布することにより、リチウムイオン伝導性向上材を含有する正極層または負極層を得ることができる。
【0050】
活物質の表面に被覆する場合は、まず活物質の表面に、リチウムイオン伝導性向上材の金属酸化物担体(例えば酸化ジルコニウム)を被覆し、その金属酸化物担体に対して、リチウムイオン伝導性基(例えばスルホン酸基)またはリチウムイオン伝導性金属酸化物(例えば酸化タングステン)を担持させることで、正極層または負極層にリチウムイオン伝導性向上材を導入することができる。活物質を被覆するリチウムイオン伝導性向上材の被覆率については、上記「A.リチウムイオン伝導性向上材」に記載した、「リチウムイオン伝導性向上材付活物質」の内容と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0051】
本発明においては、正極活物質および負極活物質の少なくとも一方の表面に、リチウムイオン伝導性向上材が被覆されていることが好ましい。リチウムイオン伝導性を向上させると共に、活物質と電解液との接触により生じる電解液の分解を抑制することができるからである。中でも、本発明においては、正極活物質および負極活物質の両方の表面に、リチウムイオン伝導性向上材が被覆されていることが好ましい。さらに効果的に電解液の分解を抑制することができるからである。
【0052】
2.セパレータ
次に、本発明に用いられるセパレータについて説明する。本発明に用いられるセパレータは、正極層および負極層の間に配置され、電解液を保持する機能を有するものである。
【0053】
本発明において、セパレータにリチウムイオン伝導性向上材を導入する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、結着材を用いてセパレータ基材の多孔質表面にリチウムイオン伝導性向上材を固定する方法、およびリチウムイオン伝導性樹脂とバインダ樹脂とを用いてセパレータを形成する方法等を挙げることができる。
【0054】
結着材を用いてセパレータ基材の多孔質表面にリチウムイオン伝導性向上材を固定する方法においては、通常リチウムイオン伝導性向上材および結着材を含有する溶液を、セパレータ基材に塗布することにより、リチウムイオン伝導性向上材を導入する。これにより、セパレータ基材と、上記セパレータ基材の多孔質表面上に担持されたリチウムイオン伝導性向上材と、を有するセパレータを得ることができる。なお、用いられるリチウムイオン伝導性向上材および結着材については、上記「1.正極層および負極層」に記載した内容と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0055】
上記セパレータ基材としては、一般的なリチウム二次電池に用いられるセパレータ基材と同様のものを用いることができ、特に限定されるものではないが、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロースおよびポリアミド等の樹脂を挙げることができ、中でもポリエチレンおよびポリプロピレンが好ましい。また、上記セパレータ基材は、単層構造であっても良く、複層構造であっても良い。複層構造のセパレータ基材としては、例えばPE/PPの2層構造のセパレータ基材、PP/PE/PPの3層構造のセパレータ基材等を挙げることができる。さらに、本発明においては、上記セパレータ基材が、樹脂不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等であっても良い。
【0056】
上記セパレータ基材に、リチウムイオン伝導性向上材を含有するペーストを塗布する方法としては、例えば、スプレー法、ディスペンス法、浸漬法、ブレードコート法等を挙げることができる。
【0057】
結着材を用いてセパレータ基材の多孔質表面に固定する方法においては、セパレータに含まれるリチウムイオン伝導性向上材の含有率としては、例えば10重量%〜90重量%の範囲内、中でも20重量%〜80重量%の範囲内、特に30重量%〜70重量%の範囲内であることが好ましい。
【0058】
リチウムイオン伝導性樹脂とバインダ樹脂とを用いてセパレータを形成する方法においては、通常、リチウムイオン伝導性樹脂をバインダ樹脂で固定化しセパレータとすることにより、リチウムイオン伝導性向上材を導入する。これにより、リチウムイオン伝導性向上材と、バインダ樹脂と、から構成されるセパレータが得られる。
【0059】
上記バインダ樹脂としては、リチウムイオン伝導性樹脂を固定化することができるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、セパレータを形成するために用いられる樹脂、および結着材として用いられる樹脂等を挙げることができる。
【0060】
セパレータを形成するために用いられる樹脂としては、具体的には、上述したセパレータ基材の材料と同様の材料を挙げることができるが、中でも本発明においては、上記樹脂が、ポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)等のオレフィン系樹脂であることが好ましい。このような樹脂を用いた場合は、例えばリチウムイオン伝導性向上材およびバインダ樹脂を混練・加熱溶融して、押出し成形することによりセパレータを得ることができる。さらに、得られたセパレータに含まれるリチウムイオン伝導性向上材の含有率としては、所望の空隙を有するセパレータを得ることができれば特に限定されるものではないが、例えば10重量%〜90重量%の範囲内、中でも20重量%〜80重量%の範囲内、特に30重量%〜70重量%の範囲内であることが好ましい。なお、得られたセパレータは、無延伸膜、一軸延伸膜および二軸延伸膜のいずれであっても良い。
【0061】
一方、結着材として用いられる樹脂としては、具体的には、上述した結着材の材料と同様の材料を挙げることができるが、中でも本発明においては、ポリビニリデンフロライド(PVDF)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系材料であることが好ましい。このような樹脂を用いた場合は、例えばリチウムイオン伝導性向上材と、バインダ樹脂と、溶媒とを含む溶液を用意し、その溶液を負極層上または正極層上に塗布し、乾燥させることにより、セパレータを得ることができる。さらに、得られたセパレータに含まれるリチウムイオン伝導性向上材の含有率としては、所望の空隙を有するセパレータを得ることができれば特に限定されるものではないが、例えば10重量%〜90重量%の範囲内、中でも20重量%〜80重量%の範囲内、特に30重量%〜70重量%の範囲内であることが好ましい。
【0062】
3.その他の部材
本発明に用いられる電解液は、通常、支持塩および溶媒を含有する。上記支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiN(CFSO、LiCFSO、LiCSO、LiC(CFSOおよびLiClO等のリチウム塩等を挙げることができる。上記溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。本発明においては、これらの溶媒を一種のみ用いても良く、二種以上を混合して用いても良い。また、上記電解液として、常温溶融塩を用いることもできる。
【0063】
本発明に用いられる電池ケースの形状としては、上述したセパレータ、正極層および負極層を収納できるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等を挙げることができる。また、本発明のリチウム二次電池は、正極層、セパレータおよび負極層から構成される電極体を有する。上記電極体の形状としては、特に限定されるものではないが、具体的には、平板型および捲回型等を挙げることができる。
【0064】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【0066】
[実施例1−1]
(1)硫酸イオン担持酸化ジルコニウムの調製
硝酸ジルコニル10gを蒸留水250mlに溶かし、80℃に加熱した。次に、ゆっくりアンモニア25mlを滴下し、水酸化ジルコニウムの沈殿を生成させた。ろ過洗浄後、100℃で一晩乾燥し(5.72g)、さらに300℃で3時間焼成した(5.04g、BET表面積=252.8m/g)。得られたアモルファスジルコニアのうち1.2gを取り、硫酸アンモニウム0.091g(硫酸根換算で5.5wt%)および蒸留水250mlと混合し、80℃で3時間撹拌した。蒸留水を蒸発乾固し100℃で一晩放置後、500℃で3時間焼成し、1.11gの硫酸イオン担持酸化ジルコニウムを得た。なお、粉体の酸性度は、各種pHの水中に粉体を分散させ、ゼータ電位が0になるpH(等電点、PZC)を求めることにより決定した。PZCの値が小さいほど、酸性度が高いということができる。
【0067】
(2)正極作製
結着材であるポリビニリデンフルオライド(PVDF)を5g溶解した溶剤n−メチルピロリドン溶液125ml中に、正極活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO)粉末84.16gと、(1)で調製した硫酸イオン担持酸化ジルコニウム0.84gと、導電化材であるカーボンブラック10gとを導入し、均一に混合するまで混練しペーストを作製した。次に、このペーストを厚さ15μmのAl集電体上に片面塗布し、乾燥させた。電極目付量は6mg/cmであった。次に、得られた部材をプレスすることにより、Al集電体上に、厚さ45μm、密度1.6g/cmの正極層を得た。最後に、φ16mmとなるように切り出すことで、正極を得た。
【0068】
(3)負極作製
結着材であるポリビニリデンフルオライド(PVDF)を7.5g溶解した溶剤n−メチルピロリドン溶液125ml中に、負極活物質であるグラファイト粉末89.81gと、(1)で調製した硫酸イオン担持酸化ジルコニウム2.96gとを導入し、均一に混合するまで混練しペーストを作製した。次に、このペーストを厚さ15μmのCu集電体上に片面塗布し、乾燥させた。電極目付量は4mg/cmであった。次に、得られた部材をプレスすることにより、Cu集電体上に、厚さ20μm、密度1.2g/cmの負極層を得た。最後に、φ19mmとなるように切り出すことで、負極を得た。
【0069】
(4)コインセル作製
得られた正極および負極を用いて、CR2032型コインセルを得た。なお、セパレータには、ポリプロピレン(PP)製多孔質セパレータを用いた。電解液には、エチレンカーボネート(EC)およびジメチルカーボネート(DMC)を体積比率3:7で混合した混合溶媒に、支持塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を濃度1mol/Lで溶解したものを用いた。
【0070】
[実施例1−2]
(1)セパレータ調製
実施例1−1で調製した硫酸イオン担持酸化ジルコニウムとPVDFとを重量比2:1で混合した混合物を、溶剤n−メチルピロリドン溶液中に濃度20wt%となるように混合し、撹拌した。次に、ポリプロピレン不織布(空隙率80%、膜厚30μm)に対して、上記溶液をドクターブレード法により塗布した。その後、60℃で一晩真空乾燥することにより、セパレータを得た。得られたセパレータにおける硫酸イオン担持酸化ジルコニウムの含有率は、50wt%であった。
【0071】
(2)コインセル作製
得られたセパレータを用いたこと以外は、実施例1−1と同様にしてコインセルを得た。
【0072】
[実施例1−3]
(1)酸化タングステン担持酸化ジルコニウムの調製
タングステン酸ナトリウム2水和物NaWO・2HOを3g溶解した蒸留水300mlに、酸化ジルコニウムZrOを11g、0.1規定硝酸水溶液150mlを加えた混合溶液を常に撹拌しながら80℃まで加熱し、100ml/時の蒸発速度で水を除去した。この後さらに100℃の乾燥器内で12時間保持して粉末を得た。この粉末を0.1規定硝酸水溶液100mlに分散し、吸引ろ過を行って不要なナトリウムイオンを除去した。ろ過後の固形分は100℃の乾燥器内で6時間保持して水分を除去した後、メノウ乳鉢で粉砕して粉末状とし、アルミナ坩堝内において昇温速度100℃/時で700℃まで加熱し、さらに700℃で4時間保持することにより、酸化タングステンのタングステン元素(X)と酸化ジルコニウムのジルコニウム元素(Y)との元素比X/Yが0.1である酸化タングステン担持酸化ジルコニウムを得た。
【0073】
(2)コインセル作製
得られた酸化タングステン担持酸化ジルコニウムを、硫酸イオン担持酸化ジルコニウムの代わりに用いたこと以外は、実施例1−1と同様にしてコインセルを得た。
【0074】
[実施例1−4]
実施例1−3で調製した酸化タングステン担持酸化ジルコニウムを、硫酸イオン担持酸化ジルコニウムの代わりに用いたこと以外は、実施例1−2と同様にしてコインセルを得た。
【0075】
[比較例1−1]
硫酸イオン担持酸化ジルコニウムの代わりに、酸化ジルコニウムを用いたこと以外は、実施例1−1と同様にしてコインセルを得た。
【0076】
[評価]
実施例1−1〜実施例1−4および比較例1−1で得られたコインセルのLiイオン抵抗を測定した。Liイオン抵抗は、3.0V〜4.1Vでコンディショニング後、SOC(state of charge)60%に調整し、25℃で周波数10mHz〜100kHzにて交流インピーダンス法により測定した。
また、Liイオン抵抗を測定した後、3.0V〜4.1V、2C、60℃の500サイクルで放電容量維持率を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1から明らかなように、本発明のリチウムイオン伝導性向上材を用いることにより、Liイオン抵抗は低下し、サイクル特性が向上することが確認された。
【0079】
[実施例2−1]
(1)正極活物質調製
エタノール30gにジルコニウムブトキシド8gを入れ、室温で12時間撹拌した。この混合液に、コバルト酸リチウム(LiCoO)粉末82gを入れ、室温で12時間撹拌した。さらに、50℃で撹拌しながら液体分が無くなるまでエージングを行った。その後、400℃で10時間焼成することにより、酸化ジルコニウムで被覆されたコバルト酸リチウムを得た。
その後、得られた粉末のうち40gを取り、硫酸アンモニウム3gおよび蒸留水1000mlと混合し、80℃で3時間撹拌した。その後、蒸留水を蒸発乾固し100℃で一晩放置後、500℃で3時間焼成することにより、コバルト酸リチウムを被覆する酸化ジルコニウムの表面に、硫酸イオンを担持させた。このようにして正極活物質を得た。
【0080】
(2)正極作製
結着材であるポリビニリデンフルオライド(PVDF)を5g溶解した溶剤n−メチルピロリドン溶液125ml中に、(1)で調製した正極活物質粉末85gと、導電化材であるカーボンブラック10gを導入し、均一に混合するまで混練しペーストを作製した。次に、このペーストを厚さ15μmのAl集電体上に片面塗布し、乾燥させた。電極目付量は6mg/cmであった。次に、得られた部材をプレスすることにより、Al集電体上に、厚さ45μm、密度1.6g/cmの正極層を得た。最後に、φ16mmとなるように切り出すことで、正極を得た。
【0081】
(3)負極活物質調製
エタノール30gにジルコニウムブトキシド8gを入れ、室温で12時間撹拌した。この混合液に、グラファイト粉末40gを入れ、室温で12時間撹拌した。さらに、50℃で撹拌しながら液体分が無くなるまでエージングを行った。その後、400℃で10時間焼成することにより、酸化ジルコニウムで被覆されたグラファイトを得た。
その後、得られた粉末のうち20gを取り、硫酸アンモニウム3gおよび蒸留水1000mlと混合し、80℃で3時間撹拌した。その後、蒸留水を蒸発乾固し100℃で一晩放置後、500℃で3時間焼成することにより、グラファイトを被覆する酸化ジルコニウムの表面に、硫酸イオンを担持させた。このようにして負極活物質を得た。
【0082】
(4)負極作製
結着材であるポリビニリデンフルオライド(PVDF)を7.5g溶解した溶剤n−メチルピロリドン溶液125ml中に、(3)で調製した負極活物質粉末92.5gを導入し、均一に混合するまで混練しペーストを作製した。次に、このペーストを厚さ15μmのCu集電体上に片面塗布し、乾燥させた。電極目付量は4mg/cmであった。次に、得られた部材をプレスすることにより、Cu集電体上に、厚さ20μm、密度1.2g/cmの負極層を得た。最後に、φ19mmとなるように切り出すことで、負極を得た。
【0083】
(5)コインセル作製
得られた正極および負極を用いて、CR2032型コインセルを得た。なお、セパレータには、ポリプロピレン(PP)製多孔質セパレータを用いた。電解液には、エチレンカーボネート(EC)およびジメチルカーボネート(DMC)を体積比率3:7で混合した混合溶媒に、支持塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を濃度1mol/Lで溶解したものを用いた。
【0084】
[実施例2−2]
(1)正極活物質調製
タングステン酸ナトリウム2水和物NaWO・2HOを10g溶解した蒸留水300mlに、実施例2−1で調製した、酸化ジルコニウムで被覆されたコバルト酸リチウム36g、0.1規定硝酸水溶液150mlを加えた混合溶液を常に撹拌しながら80℃まで加熱し、100ml/時の蒸発速度で水を除去した。その後、100℃の乾燥器内で12時間保持した。次に、得られた粉末を0.1規定硝酸水溶液1000mlに分散し、吸引ろ過を行って不要なナトリウムイオンを除去した。ろ過後の固形分は100℃の乾燥器内で6時間保持して水分を除去した後、メノウ乳鉢で粉砕して粉末状とし、アルミナ坩堝内において昇温速度100℃/時で700℃まで加熱し、さらに700℃で4時間保持した。このようにして正極活物質を得た。
【0085】
(2)負極活物質調製
タングステン酸ナトリウム2水和物NaWO・2HOを10g溶解した蒸留水300mlに、実施例2−1で調製した、酸化ジルコニウムで被覆されたグラファイト18g、0.1規定硝酸水溶液150mlを加えた混合溶液を常に撹拌しながら80℃まで加熱し、100ml/時の蒸発速度で水を除去した。その後、100℃の乾燥器内で12時間保持した。次に、得られた粉末を0.1規定硝酸水溶液100mlに分散し、吸引ろ過を行って不要なナトリウムイオンを除去した。ろ過後の固形分は100℃の乾燥器内で6時間保持して水分を除去した後、メノウ乳鉢で粉砕して粉末状し、アルミナ坩堝内において昇温速度100℃/時で700℃まで加熱し、さらに700℃で4時間保持した。このようにして負極活物質を得た。
【0086】
(3)コインセル作製
得られた正極活物質および負極活物質を用いたこと以外は、実施例2−1と同様にしてコインセルを得た。
【0087】
[比較例2−1]
正極活物質として、酸化ジルコニウムで被覆されたコバルト酸リチウムを用いたこと、および負極活物質として、酸化ジルコニウムで被覆されたグラファイトを用いたこと以外は実施例2−1と同様にしてコインセルを得た。
【0088】
[評価]
実施例2−1〜実施例2−2および比較例2−1で得られたコインセルのLiイオン抵抗およびサイクル特性を評価した。Liイオン抵抗およびサイクル特性の評価方法は、上述した実施例1−1等の場合と同様の方法である。結果を表2に示す。
【0089】
【表2】

【0090】
表2から明らかなように、活物質を、リチウムイオン伝導性向上材で被覆することにより、Liイオン抵抗は低下し、サイクル特性が向上することが確認された。
【0091】
[実施例3−1]
(1)セパレータ作製
実施例1−1で調製した硫酸イオン担持酸化ジルコニウム50重量部と、重量平均分子量140万の高密度ポリエチレン15重量部と、鉱物オイル35重量部との混合物を混練・加熱溶融して2軸押出機により0.1mmの膜状に成形した。次に、得られた膜を140℃に加熱したテンター式延伸機により縦方向、横方向にそれぞれ延伸し、さらに145℃の雰囲気中15秒間の空間熱処理を行い、この膜をトリクロロエチレン溶剤に浸漬して膜中の鉱物オイルを抽出除去して乾燥し、セパレータを得た。得られたセパレータは、膜厚25μm、高密度ポリエチレン含有率20wt%、硫酸イオン担持酸化ジルコニウム含有率80w%であった。
【0092】
(2)正極作製
結着材であるポリビニリデンフルオライド(PVDF)を5g溶解した溶剤n−メチルピロリドン溶液125ml中に、正極活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO)粉末85gと、導電化材であるカーボンブラック10gを導入し、均一に混合するまで混練しペーストを作製した。次に、このペーストを厚さ15μmのAl集電体上に片面塗布し、乾燥させた。電極目付量は6mg/cmであった。次に、得られた部材をプレスすることにより、Al集電体上に、厚さ45μm、密度1.6g/cmの正極層を得た。最後に、φ16mmとなるように切り出すことで、正極を得た。
【0093】
(3)負極作製
結着材であるポリビニリデンフルオライド(PVDF)を7.5g溶解した溶剤n−メチルピロリドン溶液125ml中に、負極活物質であるグラファイト粉末92.5gを導入し、均一に混合するまで混練しペーストを作製した。次に、このペーストを厚さ15μmのCu集電体上に片面塗布し、乾燥させた。電極目付量は4mg/cmであった。次に、得られた部材をプレスすることにより、Cu集電体上に、厚さ20μm、密度1.2g/cmの負極層を得た。最後に、φ19mmとなるように切り出すことで、負極を得た。
【0094】
(4)コインセル作製
得られたセパレータ、正極および負極を用いて、CR2032型コインセルを得た。なお、電解液には、エチレンカーボネート(EC)およびジメチルカーボネート(DMC)を体積比率3:7で混合した混合溶媒に、支持塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を濃度1mol/Lで溶解したものを用いた。
【0095】
[実施例3−2]
実施例1−3で調製した酸化タングステン担持酸化ジルコニウムを、硫酸イオン担持酸化ジルコニウムの代わりに用いたこと以外は、実施例3−1と同様にしてコインセルを得た。
【0096】
[比較例3−1]
硫酸イオン担持酸化ジルコニウムの代わりに、酸化ジルコニウムを用いたこと以外は、実施例3−1と同様にしてコインセルを得た。
【0097】
[評価]
実施例3−1〜実施例3−2および比較例3−1で得られたコインセルのLiイオン抵抗を測定した。Liイオン抵抗の測定方法は、上述した実施例1−1等の場合と同様の方法である。結果を表3に示す。
【0098】
【表3】

【0099】
表3から明らかなように、本発明のリチウムイオン伝導性向上材と、ポリエチレンと、から構成されるセパレータを用いることにより、Liイオン抵抗が低下することが確認された。
【0100】
[実施例4−1]
(1)セパレータおよび負極の作製
結着材であるポリビニリデンフルオライド(PVDF)を7.5g溶解した溶剤n−メチルピロリドン溶液125ml中に、負極活物質であるグラファイト粉末92.5gを導入し、均一に混合するまで混練しペーストを作製した。次に、このペーストを厚さ15μmのCu集電体上に片面塗布し、乾燥させた。電極目付量は4mg/cmであった。次に、得られた部材をプレスすることにより、Cu集電体上に、厚さ20μm、密度1.2g/cmの負極層を得た。
次に、実施例1−1で調製した硫酸イオン担持酸化ジルコニウム80gと、12wt%PVDF溶液(KFポリマー#1120、クレハ社製)167gとを均一に混合するまで混練しペーストを作製した。次に、このペーストを、上記の負極層上に片面塗布し、乾燥させた。次に、得られた部材をプレスすることにより、負極層上に、厚さ30μmのセパレータを得た。最後に、φ19mmとなるように切り出すことで、セパレータ付の負極を得た。
【0101】
(2)正極作製
結着材であるポリビニリデンフルオライド(PVDF)を5g溶解した溶剤n−メチルピロリドン溶液125ml中に、正極活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO)粉末85gと、導電化材であるカーボンブラック10gを導入し、均一に混合するまで混練しペーストを作製した。次に、このペーストを厚さ15μmのAl集電体上に片面塗布し、乾燥させた。電極目付量は6mg/cmであった。次に、得られた部材をプレスすることにより、Al集電体上に、厚さ45μm、密度1.6g/cmの正極層を得た。最後に、φ16mmとなるように切り出すことで、正極を得た。
【0102】
(3)コインセル作製
得られたセパレータ、正極および負極を用いて、CR2032型コインセルを得た。なお、電解液には、エチレンカーボネート(EC)およびジメチルカーボネート(DMC)を体積比率3:7で混合した混合溶媒に、支持塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を濃度1mol/Lで溶解したものを用いた。
【0103】
[実施例4−2]
実施例1−3で調製した酸化タングステン担持酸化ジルコニウムを、硫酸イオン担持酸化ジルコニウムの代わりに用いたこと以外は、実施例4−1と同様にしてコインセルを得た。
【0104】
[比較例4−1]
硫酸イオン担持酸化ジルコニウムの代わりに、酸化ジルコニウムを用いたこと以外は、実施例4−1と同様にしてコインセルを得た。
【0105】
[評価]
実施例4−1〜実施例4−2および比較例4−1で得られたコインセルのLiイオン抵抗を測定した。Liイオン抵抗の測定方法は、上述した実施例1−1等の場合と同様の方法である。結果を表4に示す。
【0106】
【表4】

【0107】
表4から明らかなように、本発明のリチウムイオン伝導性向上材と、PVDFと、から構成されるセパレータを用いることにより、Liイオン抵抗が低下することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明のリチウムイオン伝導性向上材を説明する説明図である。
【図2】本発明のリチウムイオン伝導性向上材付活物質を説明する説明図である。
【図3】本発明のリチウム二次電池の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0109】
1 … 正極活物質
2 … 正極層
3 … 正極集電体
4 … 負極活物質
5 … 負極層
6 … 負極集電体
7 … セパレータ
8 … リチウムイオン伝導性向上材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池に用いられるリチウムイオン伝導性向上材であって、
金属酸化物担体と、前記金属酸化物担体上に担持され、前記金属酸化物担体よりも酸性度の高い、リチウムイオン伝導性基またはリチウムイオン伝導性金属酸化物と、を有することを特徴とするリチウムイオン伝導性向上材。
【請求項2】
前記リチウムイオン伝導性基が、スルホン酸基(−SOH)であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン伝導性向上材。
【請求項3】
前記リチウムイオン伝導性金属酸化物が、酸化タングステンであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン伝導性向上材。
【請求項4】
前記金属酸化物担体が、酸化ジルコニウムであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載のリチウムイオン伝導性向上材。
【請求項5】
正極活物質を含有する正極層と、負極活物質を含有する負極層と、前記正極層および前記負極層の間に配置されたセパレータと、を有するリチウム二次電池であって、
前記正極層、前記負極層および前記セパレータの少なくとも一つが、請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載のリチウムイオン伝導性向上材を含有することを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項6】
前記正極活物質および前記負極活物質の少なくとも一方の表面に、前記リチウムイオン伝導性向上材が被覆されていることを特徴とする請求項5に記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
前記セパレータが、前記リチウムイオン伝導性向上材と、バインダ樹脂と、から構成されていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のリチウム二次電池。
【請求項8】
前記バインダ樹脂が、オレフィン系樹脂またはフッ素系樹脂であることを特徴とする請求項7に記載のリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−285388(P2008−285388A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134331(P2007−134331)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】