説明

リチウムイオン電池のカソード材料で使用するためのリチウム−ニッケル−コバルト−マンガン混合金属酸化物の固相合成

コバルト、マンガンおよびニッケルを含有する単相リチウム−遷移金属酸化物化合物は、コバルト含有酸化物又は酸化物前駆体、マンガン含有酸化物又は酸化物前駆体、ニッケル含有酸化物又は酸化物前駆体、およびリチウム含有酸化物または酸化物前駆体を湿式粉砕して、十分に分配されたコバルト、マンガン、ニッケルおよびリチウムを含有する微粉化されたスラリーを形成し、該スラリーを加熱して、コバルト、マンガンおよびニッケルを含有すると共に実質的に単相O3結晶構造を有するリチウム−遷移金属酸化物化合物を提供することによって調製することができる。湿式粉砕は乾式粉砕よりもかなり短い粉砕時間を提供し、単相リチウム−遷移金属酸化物化合物の形成を促進すると思われる。湿式粉砕ステップにおける時間の節約は、加熱ステップ中にスラリーを乾燥させるのに必要とされ得る時間を相殺して余りある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池のカソードとして有用な化合物の調製に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、通常、アノードと、電解質と、リチウム−遷移金属酸化物の形態でリチウムを含有するカソードとを含む。使用されている遷移金属酸化物は、二酸化コバルト、二酸化ニッケルおよび二酸化マンガンを含む。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
コバルト、マンガンおよびニッケルが結晶格子内にそれぞれ存在するリチウム−遷移金属酸化物化合物は、4金属または4元カソード化合物と呼ぶことができる。適切な量のこれらの金属を含有する単相格子は、特に望ましいリチウムイオン電池用カソードを提供することができる。例えば、4元化合物
LiNi0.1Mn0.1Co0.82 (I)、
Li(Co(1/3)Mn(1/3)Ni(1/3))O2 (II)、および
Li(Li0.08Co0.15Mn0.375Ni0.375)O2 (III)
は、単相としてうまく形成されれば重要である(多相が存在すれば、電池性能が悪くなる)。これらの3つの化合物において等モルのマンガンおよびニッケル含量は特に望ましく、より安定な結晶格子の形成に寄与すると確信される。
【0004】
残念なことに、リチウム−含有結晶格子中に遷移金属のコバルト、マンガンおよびニッケルを含有する単相4元化合物を形成するのは困難であり得る。遷移金属のマンガンまたはニッケルのうちの1つまたは複数を排除する(例えば、LiNi0.8Co0.22などの3金属または3元系、もしくはLiCoO2などの2金属または2元系を製造する)ことによって、単相の達成はより容易に行うことができるが、これは、電池性能の低下またはその他の問題の導入も起こし得る。単相4元化合物の達成は、「リチウム化酸化物材料および製造方法(LITHIATED OXIDE MATERIALS AND METHODS OF MANUFACTURE)」という表題の米国特許出願公開第2003/0022063A1号明細書(ポールセン(Paulsen)ら)において推奨および使用されるような、そして「リチウムイオン電池のためのカソード組成物(CATHODE COMPOSITIONS FOR LITHIUM−ION BATTERIES)」という表題の米国特許出願公開第2003/0027048A1号明細書(ルー(Lu)ら)の実施例19および20において使用されるような混合水酸化物の共沈によって行うこともできる。しかしながら、共沈は、ろ過、繰り返される洗浄および乾燥を必要とし、従って比較的限られた処理量および高い製造コストを示す。
【0005】
また、ポールセンらは、その実施例6において、式
Li(LixCoy(MnzNi1-z1-x-y)O2 (IV)
(式中、0.4≦z≦0.65、0<x≦0.16および0.1≦y≦0.3)を有する特定のリチウム−遷移金属酸化物化合物を製造するための高エネルギーのボール粉砕および焼結方法についても記載および使用している。「リチウム二次電池(LITHIUM SECONDARY BATTER)」という表題の米国特許第6,333,128B1号明細書(スナガワ(Sunagawa)ら)は、その実施例A1〜A9において、粉体混合、焼付けおよびジェット粉砕方法を用いて、式
LiaCobMncNi1-b-c2 (V)
(式中、0≦a≦1.2、0.01≦b≦0.4、0.01≦c≦0.4かつ0.02≦b+c≦0.5)を有する特定のリチウム−遷移金属酸化物化合物を製造する。これらのポールセンらおよびスナガワらの方法は固相反応を伴い、共沈に基づく方法よりも高い処理量および低い製造コストを潜在的に提供する。しかしながら、記載される方法を用いてポールセンらおよびスナガワらの化合物のいくつかを再現しようとしたら、所望の単相構造ではなく多相化合物が得られた。また、固相反応を用いて上記の式I〜IIIの化合物(式IVおよびVの範囲に入らない)を調製しようとしたら、所望の単相構造ではなく多相化合物が得られた。約15重量%過剰のリチウムを用いて、固相反応によりLiCoO2およびLi2MnO3の間の固溶体の化合物を製造することができた。過剰のリチウムは単相材料の形成を助けたが、得られた生成物は、電気化学的性能が悪かった。
【0006】
本発明者らは今、
a)コバルト含有酸化物または酸化物前駆体、マンガン含有酸化物または酸化物前駆体、ニッケル含有酸化物または酸化物前駆体、およびリチウム含有酸化物または酸化物前駆体を湿式粉砕して、十分に分配されたコバルト、マンガン、ニッケルおよびリチウムを含有する微粉化されたスラリーを形成し、
b)該スラリーを加熱して、コバルト、マンガンおよびニッケルを含有すると共に実質的に単相O3結晶構造を有するリチウム−遷移金属酸化物化合物を提供する
ことによって、コバルト、マンガンおよびニッケルを含有する単相リチウム−遷移金属酸化物化合物を調製可能であることを発見した。湿式粉砕は乾式粉砕よりもかなり短い粉砕時間を提供し、単相リチウム−遷移金属酸化物化合物の形成を促進すると思われる。湿式粉砕ステップにおける時間の節約は、加熱ステップ中にスラリーを乾燥させるのに必要とされ得る時間を相殺して余りある。
【0007】
本発明は、もう1つの態様において、上記のリチウム−遷移金属酸化物化合物の粒子と、導電性炭素およびバインダとを混合し、得られた混合物を支持基材上にコーティングする更なるステップを含む、リチウムイオン電池用カソードの製造方法を提供する。
【0008】
本発明は、更にもう1つの態様において、上記のカソードと、電気的に適合しているアノードと、セパレータと、電解質とを容器内に配置することを含むリチウムイオン電池の製造方法を提供する。
【0009】
本発明は、更にもう1つの態様において、式
LiaCobMncNi1-b-c2 (VI)
(式中、0≦a≦1.2、0.52<b≦0.98、0.01≦c≦0.47かつ0.53<b+c≦0.99)を有するリチウム−遷移金属酸化物化合物(および少なくとも1つの化合物を含むリチウムイオン電池)を提供する。
【0010】
本発明は、更にもう1つの態様において、単相化合物
LiNi0.1Mn0.1Co0.82 (I)、
Li(Co(1/3)Mn(1/3)Ni(1/3))O2 (II)、および
Li(Li0.08Co0.15Mn0.375Ni0.375)O2 (III)
からなる群から選択される化合物から本質的になるリチウム−遷移金属酸化物組成物(および少なくとも1つの組成物を含むリチウムイオン電池)を提供する。
【0011】
本発明のこれらおよびその他の態様は、以下の詳細な説明から明らかであろう。しかしながら、いかなる場合も、上記の概要は、請求される主題に対する限定と解釈されてはならならず、主題は、手続処理中に補正され得る特許請求の範囲によってのみ定義される。
【0012】
様々な図面における同様の参照記号は同様の要素を示す。図面中の要素は、原寸に比例していない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
開示されるリチウム−遷移金属酸化物化合物は、リチウムイオン電池のカソードを製造するために特定の有用性を有する。該化合物の形成は、粉砕される原料に十分なエネルギーを与えながら、コバルト−、マンガン−、ニッケル−およびリチウム−含有酸化物または酸化物前駆体を一緒に湿式粉砕して、これらを、十分に分配されたコバルト、マンガン、ニッケルおよびリチウムを含有する微粉化されたスラリーに形成することによって行われる。酸化物または酸化物前駆体は、同時に全てが一緒に混合される必要はない。まず、より小さい表面積またはより大きい粒子直径の材料を一緒に粉砕して、その表面積を増大させるかあるいはその粒径を低下させ、後で添加される成分の表面積または粒径と適合させることにより、より短い粉砕時間を用いてより均質で微粉化された最終混合物を生成できることが発見された。粉砕容器内で凝集する傾向のある非常に高い表面積の成分(水酸化物など)は、同様の高表面積に既に粉砕されているその他の成分と、より均質的にブレンドすることができる。均質で微粉化された最終の粉砕された混合物は、単相の焼成生成物の形成を促進するのに役立つことができる。例えば、「最初がマンガンおよびニッケル、最後がリチウム」とも呼ぶことができる粉砕スキームでは、マンガン−およびニッケル−含有酸化物または酸化物前駆体を一緒に湿式粉砕して、十分に分配されたマンガンおよびニッケルを含有する微粉化された第1のスラリーに形成した後、コバルト−含有酸化物または酸化物前駆体を添加して、十分に分配されたコバルト、マンガンおよびニッケルを含有する微粉化された第2のスラリーを形成し、その後リチウム−含有酸化物または酸化物前駆体を添加して、十分に分配されたコバルト、マンガン、ニッケルおよびリチウムを含有する微粉化された第3のスラリーを形成する。「最初がコバルト、マンガンおよびニッケル、最後がリチウム」として説明することができる粉砕スキームは、リチウムの添加の前に、十分に分配されたコバルト、マンガンおよびニッケルを含有するスラリーの形成を促進するために使用することができる。「最初がマンガンおよびニッケル、最後がコバルトおよびリチウム」、「最初がマンガンおよびニッケル、最後がコバルト」(マンガンおよびニッケルの後、そしてコバルトの前にリチウムが添加される)、「最初がニッケルおよびコバルト、最後がマンガンおよびリチウム」、「最初がリチウムおよびコバルト、最後がマンガンおよびニッケル」、ならびに当業者には明らかであろうその他の順列のような粉砕スキームが用いられてもよい。
【0014】
適切なコバルト含有酸化物または酸化物前駆体、マンガン含有酸化物または酸化物前駆体、およびニッケル含有酸化物または酸化物前駆体としては、水酸化コバルト(Co(OH)2)、酸化コバルト(例えば、Co34およびCoO)、炭酸マンガン(Mn2CO3)、酸化マンガン(MnO)、四酸化マンガン(Mn34)、水酸化マンガン(Mn(OH)2)、塩基性炭酸マンガン(Mn2CO3*xMn(OH)2)、炭酸ニッケル(Ni2CO3)、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)、および塩基性炭酸ニッケル(Ni2CO3*xNi(OH)2)があげられる。好ましくは、マンガンまたはニッケル前駆体のうちの少なくとも1つは炭酸塩である。
【0015】
適切なリチウム含有酸化物および酸化物前駆体としては、炭酸リチウム(Li2CO3)および水酸化リチウム(LiOH)がある。所望されるなら、前駆体の水和物を使用することができる。
【0016】
各酸化物または酸化物前駆体の量は、通常、目標とされる最終化合物の組成に基づいて選択される。様々な種類の目標とされる最終化合物を調製することができる。図1および図2に示されるプロットは、標的の選択を助けることができる。図1は三角形のピラミッド型プロットであり、その頂点A、B、CおよびDはそれぞれ、組成物LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2およびLi(Li1/3Mn2/3)O2を表す。従って、頂点A、BおよびCはそれぞれ、これらの遷移金属を指示された化学量論で含有する二元リチウム−遷移金属酸化物化合物のための最大のコバルト、マンガンおよびニッケル含量を表す。縁BCに沿って中間に位置する点Eは、組成物LiMn1/2Ni1/22を表す。底面ABCよりも上に位置するプロット内の点は、リチウム層間化合物を表す。図2は、点A、DおよびEで画定される平面を表す三角形のプロットである。図2の台形領域AEFG(しかし、頂点AおよびDに最も近い点、例えば、遷移金属モル単位が約0.01以内の点は除く)は、等モル量のマンガンおよびニッケルを含有する組成物の特に好ましい集合を示す。この好ましい組成物の集合は、式Lia[Cox(Ni1/2Mn1/21-x]O2(式中、0≦a≦1.2かつ0.1≦x≦0.98)によって表すことができる。式I、IIおよびIIIの化合物は、領域AEFG内の点として示される。
【0017】
媒体粉砕(例えば、ボール粉砕、磨砕機粉砕、水平粉砕または鉛直粉砕)、媒体レス粉砕(例えば、ハンマー粉砕、ジェット粉砕または高圧分散粉砕)、ならびにコバルト−、マンガン−およびニッケル−含有酸化物または酸化物前駆体を適切に微粉状にして一緒に混合するその他の技法を含む様々な湿式粉砕技法を用いることができる。媒体粉砕が用いられる場合、適切な媒体としては、セラミック媒体(例えば、セラミックロッドまたはボール)がある。水が好ましい湿式粉砕用液体であるが、所望されるなら、低沸点アルコール、トルエンおよびアセトンなどのその他の物質を用いることができる。ボール粉砕は、最終スラリーが十分に分配されたコバルト、マンガン、ニッケルおよびリチウムを含有するように十分な時間および十分な勢いで実行されなければならない。好ましくは、スラリーは、比較的小さい粒子、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による画像形成を用いて測定した場合に約0.3μm未満、好ましくは約0.1μm未満の平均粒子直径を有する粒子を含有するまで粉砕される。好ましくは、スラリー全体にわたって均等な金属の分布および最小平均粒子直径は必要とされない。しかしながら、0.5μmよりも大きい所与の単一金属成分の粒子は回避されるのが好ましい。粉砕が実行される程度は、単に、加熱ステップの最後に所望の単相リチウム−遷移金属酸化物化合物を提供するのに十分であることだけが必要であろう。適切な混合時間(および使用される場合には媒体)は、通常、使用される出発材料および混合装置などの因子にある程度依存し得る。多くの場合、ある程度の実験は、所望の単相リチウム−遷移金属酸化物化合物が得られるように、適切な粉砕時間または媒体を決定するための所与の生産設定に有用であり得る。
【0018】
所望されるなら、最終のリチウム−遷移金属酸化物化合物を提供するために焼成される前に、その他の遷移金属酸化物または酸化物前駆体が、リチウム−遷移金属酸化物組成物中に含有されてもよい。代表的な例としては、鉄、バナジウム、アルミニウム、銅、亜鉛、ジルコニウム、モリブデン、ニオブ、およびこれらの組み合わせがあげられる。これらのその他の遷移金属酸化物または酸化物前駆体は、スラリーを形成するために使用されるその他の原料と一緒に添加することもできるし、スラリーが形成された後に添加することもできる。
【0019】
スラリーと媒体(使用される場合)とを分離し、所望の単相化合物を形成するために十分な時間および十分な温度でスラリーを焼成、焼付け、焼結、あるいは別の方法で加熱することによって、スラリーはリチウム−遷移金属酸化物化合物に変えられる。加熱サイクルは、好ましくは、速い加熱速度、例えば1時間あたり10℃以上を用いる。好ましい加熱サイクルは、少なくとも900℃の温度まで、少なくとも10℃/分である。空気が好ましい加熱雰囲気であるが、所望されるなら、酸素や、二酸化炭素、一酸化炭素および水素の混合物などのその他の気体を用いることもできる。約1050℃よりも高い温度が用いられると、セラミック炉およびより長い冷却時間が必要とされ得る。このようなより高い温度は、単相リチウム−遷移金属酸化物化合物を得るのに役立つことができるが、資本コストを増大させ、処理量を減少させ得る。1100℃もの高温が使用されると、リチウム−遷移金属酸化物化合物を用いて製造されるリチウムイオン電池は、不可逆的な最初のサイクルの容量損失のわずかな増大を示し得る。好ましくは、最高加熱温度は1050℃未満、より好ましくは1000℃未満、そして最も好ましくは900℃以下である。
【0020】
得られるリチウム−遷移金属酸化物化合物は、好ましくは、所望の平均粒子直系を有する微粉化された粒子として形成されるか、あるいはそれに変えられる。例えば、リチウム−遷移金属酸化物化合物はフィードバックメカニズムを用いて調製することができ、酸化物は、回転式焼結機またはその他の適切な焼成装置を用いて焼成され、サイズによって分類されて、所望されるよりも大きい粒子は更に湿式粉砕(あるいは、所望されるなら、乾式粉砕)され、そして所望されるよりも小さい粒子は、焼結機内で更に焼成される。このやり方では、適切な粒径分布を得ることができる。
【0021】
リチウム−遷移金属酸化物化合物は、カソードにおいて単独で使用されてもよいし、あるいは、リチウムの酸化物、硫化物、ハロゲン化物などの他のカソード材料と組み合わせてカソード添加剤として使用されてもよい。例えば、リチウム−遷移金属酸化物化合物は、リチウムコバルト二酸化物などの従来のカソード材料、あるいはLiMn24スピネルおよびLiFePO4などの化合物と併用されてもよい。添加される他のカソード材料の量は、他のカソード材料から使用可能なリチウムのモル数が、アノードで不可逆的に消費されるリチウムのモル数と一致するように選択される。不可逆的に消費されるリチウムのモル数は、次に、個々のアノードの特性の関数である。
【0022】
カソードをアノードおよび電解質と組み合わせて、リチウムイオン電池を形成することができる。適切なアノードの例としては、リチウム金属、黒鉛、硬炭素、およびリチウム合金組成物、例えば、「リチウム電池用電極(ELECTRODE FOR A LITHIUM BATTERY)」という表題の米国特許第6,203,944号明細書(ターナー(Turner)、944号)および「電極材料および組成物(ELECTRODE MATERIAL AND COMPOSITIONS)」という表題のPCT公開特許出願国際公開第00103444号パンフレット(ターナー(Turner)PCT)に記載されるタイプのものがあげられる。電解質は、液体、固体、またはゲルでよい。固体電解質の例としては、ポリエチレンオキシド、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素含有コポリマー、およびこれらの組み合わせなどの高分子電解質がある。液体電解質の例としては、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、およびこれらの組み合わせがある。電解質は、通常、リチウム電解質塩と共に提供される。適切な塩の例としては、LiPF6、LiBF4、およびLiClO4がある。好ましくは、電池を75mA/gの放電率において4.4ボルトと2.5ボルトとの間で少なくとも100サイクル充電および放電させた後で、電池容量は実質的に低下していない。
【0023】
本発明は以下の実例となる実施例において更に説明され、全ての部および百分率は、他に指示されない限りは重量による。
【実施例】
【0024】
X線回折
銅ターゲットX線管および回折ビームモノクロメータを備えたシーメンス(Siemens)D500回折計を用いて各サンプルの粉体のX線回折(XRD)パターンを収集した。十分に厚く幅広である平らで矩形の粉体床としてサンプルを調製し、X線ビームにより照射される粉体の体積は一定であった。A.C.ラーソン(Larson)およびR.B.ボンドリール(Von Dreele)の「一般構造分析システム(General Structure Analysis System)(GSAS)」、ロスアラモス国立研究所レポート(Los Alamos National Laboratory Report)LAUR 86−748(2000)に記載されるようにリートベルト(Rietveld)精密化プログラムのGSASバージョンを用いてデータを分析した。GSASプログラムで計算した2つの統計データRpおよびChi2を用いて、データに対する意図される単相結晶構造のモデルのための適合の質(quality of fit)(Rpの場合には適合における残留誤差として、Chi2の場合には適合度として表される)を決定した。Rpの値が低いほど、データに対するモデルの適合がよくなる。Chi2が1(1.000)に近いほど、データに対するモデルの適合がよくなる。RpおよびChi2は一般に、説明されていない相が存在する場合に高くなる。単位格子の格子定数または寸法も、GSASプログラムを用いて計算した。
【0025】
電気化学電池の作製
2.0部の酸化物粉体と、2.3部のN−メチルピロリジノンと、1.1部の10重量%のキナール(KYNAR(登録商標))461ポリフッ化ビニリデン(エルフ・アトケム(Elf Atochem)から入手可能)のN−メチルピロリジノン溶液と、0.11部のスーパー(SUPER)−P(登録商標)導電性炭素(ベルギーのMMMカーボン(MMM Carbon,Belgium)から入手可能)とを一緒にブレンドすることによって粉体を調合した。懸濁液を高せん断で1時間よりも長く攪拌し、次にノッチバーでアルミニウム箔上にコーティングして、90%の活性、5%のポリフッ化ビニリデン、5%の導電性炭素のコーティングを提供した。コーティングを150℃の真空下で4時間乾燥させ、次に、金属製の厚さ380マイクロメートル、直径17mmのLi箔アノードと、2層の厚さ50マイクロメートルのセルガード(CELLGARD(登録商標))2400セパレータ(ヘキスト・セラニーズ(Hoechst−Celanese)から市販されている)と、電解質としてエチレンカーボネートおよびジエチルカーボネートの1:2の体積比の混合物中の1重量モル濃度のLiPF6とを用いて、2325コイン電池(半電池)に加工した。
【0026】
カソードを評価するために使用した電気化学電池10の分解斜視図は図3に示される。ステンレス鋼キャップ24および特別の耐酸化性ケース26は電池を含有し、それぞれ、負および正の端子としての機能を果たす。上記のようにカソード12を作製した。リチウム箔アノード14は、参照電極としても作用した。電池は、カソード後方のアルミニウムスペーサプレート16と、アノード後方の銅スペーサプレート18とを備えた2325コイン電池ハードウェアを特徴とした。スペーサ16および18は、電池を圧着して閉鎖したときに強固に押圧された積層体が形成されるように選択した。セパレータ20は、エチレンカーボネートおよびジエチルカーボネートの1:2の体積比の混合物中に溶解した1MのLiPF溶液で湿潤させた。シールとして、そして2つの端子を隔てるためにガスケット27を用いた。定電流サイクラーを用いて、室温および「C/5」(5時間充電および5時間放電)の率で電池を循環させた。
【0027】
実施例1
金属含有前駆体を、最終の酸化物組成物LiNi0.1Mn0.1Co0.82を生成するような割合で合わせた。正確なバッチングは、前駆体を検定して達成した。一定分量の前駆体を600℃で一晩焼付けて、完全に無水の単相酸化物を生成させることによって検定を実施した。加熱の前後の重量の測定値と、最終相組成の知識とを組み合わせて用いて、各前駆体中の金属1モルあたりの質量を計算した。この方法によって、少なくとも±0.1重量パーセントの精度のバッチングが可能であった。1リットルの高密度ポリエチレンのスウェコ(SWECO(登録商標))粉砕ジャー(スウェコ(Sweco)から入手可能)内に、333部のジルコア(ZIRCOA(登録商標))、半径12.7mm末端シリンダー酸化ジルコニウム媒体(ジルコア社(Zircoa,Inc.)から入手可能)および1000部の同様の6.35mmジルコア(ZIRCOA)酸化ジルコニウム媒体と共に、前駆体NiCO3(22.44部、スペクトラム・ケミカル(Spectrum Chemical)から入手可能)およびMnCO3(21.48部、スペクトラム・ケミカル)を入れた。200部の脱イオン(DI)水を粉砕ジャーに添加し、ニッケルおよびマンガンの炭酸塩をスウェコ(SWECO)M18−5粉砕機(スウェコから入手可能)内で24時間湿式粉砕した。Li2CO3(68.12部、ペンシルベニア州フィラデルフィアのFMC(FMC,Philadelphia,PA)から入手可能)と、Co(OH)2(137.97部、アルファ・エイサー(Alfa Aesar)から入手可能)と、100部の更なるDI水とを粉砕ジャーに添加してから、更に4時間粉砕した。得られた湿式粉砕スラリーをパイレックス(登録商標)(PYREX(登録商標))ケークパン(コーニング社(Corning,Inc.)から入手可能)内に注ぎ、70℃で一晩空気乾燥させた。乾燥したケークをパンから擦り取り、媒体から分離し、25メッシュ(707μm)スクリーンにより粒状にした。得られたスクリーニング粉体を清浄なポリエチレンボトル内に入れ、テープで蓋を密封した。
【0028】
15部のスクリーニング粉体をアルミナるつぼ内に入れ、酸素中で1時間かけて室温から900℃まで加熱し、900℃で3時間保持して、冷却した。得られた焼成粉体に、リートベルト精密化を用いるXRD分析を受けさせた。観察されたXRDパターンは、焼成粉体が単相を有することを示した。
【0029】
焼成粉体を用いて、上記のように電気化学電池におけるカソードを形成した。電気化学電池は、146mAh/gの容量を有した。電池を4.3ボルトに充電および放電させた後、不可逆的な最初のサイクルの容量損失は5%であった。
【0030】
実施例2
実施例1からの15部の湿式粉砕スラリーを、次のような「ランプ−ソーク」サイクルを用いて酸素中で加熱した。スラリーをアルミナるつぼ内に入れてオーブン内で加熱し、オーブンの温度は、室温から250℃まで20分かけて上昇させ、250℃で1時間保持し、750℃まで20分かけて上昇させ、750℃でもう1時間保持し、900℃まで20分かけて上昇させてから、900℃で3時間保持した。焼成サンプルを炉内で一晩冷却させてから、リートベルト精密化を用いるXRD分析を受けさせた。LiNi0.1Mn0.1Co0.82の観察されたXRDパターンは、サンプルが単相を有することを示した。
【0031】
比較例1
約100mlの容積を有し、実施例2で使用したものと同様のジルコン粉砕媒体の1つの15mmボールおよび7つの6mmボールを含有する炭化タングステン粉砕ジャー内で、Co(OH)2(7.63部、アルファ・エイサーから入手可能)と、NiCO3(1.27部、スペクトラム・ケミカルから入手可能)と、MnCO3(1.17部、スペクトラム・ケミカルから入手可能)との粉体を合わせた。スペックス(SPEX)モデル8000−Dデュアル・シェーカー・ミキサー(Dual Shaker Mixer)(スペックス・サーティプレプ社(SPEX CertiPrep Inc.)から入手可能)で成分を30分間乾式粉砕した。リチウムをLi2CO3(3.79部、FMCから入手可能)の形態で遷移金属混合物に添加した。リチウムの添加後、更なる乾式粉砕を15分間行った。
【0032】
粉砕後、混合物をアルミナるつぼに移し、900℃の温度へ焼成し、その温度で1時間保持した。これにより、式LiNi0.1Mn0.1Co0.82の化合物が生成され、XRD分析によって、少なくとも2つの相を有することがわかった。
【0033】
比較例2
ニッケル、マンガン、およびコバルトの硝酸塩の水溶液を、1:8:1のNi:Co:Mnモル比で合わせた。Ni0.1Mn0.1Co0.8(OH)2の生成のために20%過剰に存在させた1.6MのLiOH水溶液を激しく攪拌した中に、混合物を滴下させた。得られたスラリーを、ウェットケーク中の残余Liが存在する金属の0.2原子パーセント未満になるまでバスケット型遠心分離機内で連続的にろ過および洗浄した。次に、洗浄した水酸化物材料のケークを、500ミクロンのふるいを通過するように脆くなりそして実質的に粉砕されるまで120℃未満で乾燥させた。この粉体を金属含量について検定した。100mlの炭化タングステン粉砕機(フリッチュ社(Fritsch GmbH)から入手可能)内で、粉体およびLi2CO3を10:1:8:1のLi:Ni:Co:Mnモル比で合わせた。実施例2で使用したものと同様のジルコン粉砕媒体の10個の小さい5mmボールを容器に添加した。スペックス・サーティプレプ(SPEX(登録商標)CertiPrep(登録商標))ミキサー/粉砕機(スペックス・サーティプレプ社から入手可能)内で容器を10分間振とうさせた。得られた混合物をアルミナるつぼに移し、480℃で1時間、750℃で1時間、最後に900℃で1時間、加熱処理した。得られた粉体を乳鉢および乳棒で粉にし、リートベルト精密化を用いるXRD分析により試験した。観察されたXRDパターンは、式Iの単相化合物LiNi0.1Mn0.1Co0.82が得られたことを示した。これは、実施例1および実施例2で得られたものと同じ生成物であったが、実施例1および実施例2では必要でない非常に長い洗浄および乾燥ステップを必要とした。
【0034】
本発明の多数の実施形態が説明された。それにもかかわらず、本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な修正が成され得ることは理解されるであろう。従って、他の実施形態は、特許請求の範囲の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】様々なリチウム−遷移金属酸化物組成物を示す三角形のピラミッド型プロットである。
【図2】図1からの特定のリチウム−遷移金属酸化物組成物を示す三角形のプロットである。
【図3】電気化学電池の分解斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)コバルト含有酸化物または酸化物前駆体、マンガン含有酸化物または酸化物前駆体、ニッケル含有酸化物または酸化物前駆体、およびリチウム含有酸化物または酸化物前駆体を湿式粉砕して、十分に分配されたコバルト、マンガン、ニッケルおよびリチウムを含有する微粉化されたスラリーを形成すること、および
b)前記スラリーを加熱して、コバルト、マンガンおよびニッケルを含有すると共に実質的に単相O3結晶構造を有するリチウム−遷移金属酸化物化合物を提供すること、
を含む、コバルト、マンガンおよびニッケルを含有する単相リチウム−遷移金属酸化物化合物の製造方法。
【請求項2】
湿式粉砕のために水を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記スラリーを、前記スラリーが約0.3μm未満の平均粒子直径を有する粒子を含有するまで粉砕することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記スラリーを、前記スラリーが約0.1μm未満の平均粒子直径を有する粒子を含有するまで粉砕することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
セラミック媒体を用いて粉体を粉砕することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記前駆体が、1つまたは複数の炭酸塩を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記前駆体の少なくとも1つが、炭酸マンガンまたは炭酸ニッケルを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
等モル量の、マンガン含有酸化物または酸化物前駆体、およびニッケル含有酸化物または酸化物前駆体を、一緒に粉砕することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記スラリーを、少なくとも10℃/分の速度で、少なくとも800℃の温度まで加熱することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記スラリーを、1050℃以下の温度まで加熱することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記リチウム−遷移金属酸化物化合物が、式Lia[Cox(Ni1/2Mn1/21-x]O2(式中、0≦a≦1.2かつ0.1≦x≦0.98)で表されるものから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記リチウム−遷移金属酸化物化合物が、近似式Li(Co(0.8)Mn0.1Ni0.1)O2を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記リチウム−遷移金属酸化物化合物が、近似式Li(Co(1/3)Mn(1/3)Ni(1/3))O2を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記リチウム−遷移金属酸化物化合物が、近似式Li(Li0.08Co0.15Mn0.375Ni0.375)O2を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記リチウム−遷移金属酸化物化合物の粒子と、導電性炭素およびバインダとを混合し、得られた混合物を支持基材上にコーティングしてリチウム−遷移金属酸化物カソードを形成することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記カソードと、電気的に適合しているアノードと、セパレータと、電解質とを容器内に配置して、リチウムイオン電池を形成することを更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記電池が、75mA/gの放電率において4.4ボルトと2.5ボルトとの間で少なくとも100サイクル充電および放電された後で、前記電池の容量が実質的に低下していない、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
下記の式を有するリチウム−遷移金属酸化物化合物:
LiaCobMncNi1-b-c2
(式中、0≦a≦1.2、0.52<b≦0.98、0.01≦c≦0.47かつ0.53<b+c≦0.99)。
【請求項19】
単相化合物LiNi0.1Mn0.1Co0.82、Li(Co(1/3)Mn(1/3)Ni(1/3))O2、およびLi(Li0.08Co0.15Mn0.375Ni0.375)O2からなる群から選択される化合物から本質的になる、リチウム−遷移金属酸化物組成物。
【請求項20】
請求項18に記載の少なくとも1つのリチウム−遷移金属酸化物化合物を含む、リチウムイオン電池。
【請求項21】
請求項19に記載の少なくとも1つのリチウム−遷移金属酸化物組成物を含む、リチウムイオン電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−515366(P2007−515366A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541171(P2006−541171)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【国際出願番号】PCT/US2004/034750
【国際公開番号】WO2005/056480
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】