リチウムイオン電池用のコーティングを施した正極材料
高い比容量のリチウムリッチのリチウム金属酸化物に、金属フッ化物などの無機組成物のコーティングを施して、正極活性材料としての材料の性能を改良する。コーティングを施した得られる材料は、比容量の増加を示すことができ、この材料はまたサイクリングの改良を示すこともできる。これらの材料は、所望の比較的高い平均電圧を維持しながら形成することができ、それにより、これらの材料は市販の電池の作製に適している。市販の製品に適合させることができる、所望のコーティングを施した組成物の合成のための適切なプロセスを説明する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用のコーティングを施した正極活性材料に関し、特に、不活性コーティングを有するリチウムリッチの正極活性材料に関する。さらに、本発明は、選択された正極活性材料コーティングにより性能特性が改良された電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池は、それらの比較的高いエネルギー密度により、家庭用電化製品で広く使用されている。再充電可能な電池は二次電池とも呼ばれ、リチウムイオン二次電池は、一般に、電池が充電されるときにリチウムを取り込む負極材料を有する。いくつかの現在市販されている電池では、負極材料は黒鉛であることがあり、正極材料は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)を含むことがある。実用上は、一般に、正極活性材料の理論上の容量の一部しか使用することができない。また、現在、少なくとも2種の他のリチウムベースの正極活性材料も商業利用されている。これら2種の材料は、スピネル構造を有するLiMn2O4と、オリビン構造を有するLiFePO4である。これら他の材料は、エネルギー密度を大幅には改良していない。
【0003】
一般に、リチウムイオン電池は、それらの用途に基づいて2つのカテゴリーに分類される。第1のカテゴリーは、高出力電池に関わり、リチウムイオン電池セルが、電動工具およびハイブリッド電気自動車(HEV)などの用途のために高電流(アンペア)を供給するように設計される。しかし設計上、高電流を提供する設計は一般に、電池から供給することができる総エネルギーを減少させるので、これらの電池セルのエネルギーは比較的低い。第2の設計カテゴリーは、高エネルギー電池に関わり、リチウムイオン電池セルが、セル式電話、ラップトップコンピュータ、電気自動車(EV)、およびプラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)などの用途のための低〜中電流(アンペア)を供給するように設計され、しかもより高い総容量を供給する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の態様では、本発明は、無機コーティング組成物をコーティングした、組成式Li1+xM1−xO2によって表される活性組成物を含むリチウムイオン電池の正極活性材料であって、Mが、金属元素または金属元素の組合せであり、0.01≦x≦0.3であり、前記コーティング組成物が、金属/メタロイドフッ化物を含むリチウムイオン電池の正極活性材料に関する。
【0005】
さらなる一態様では、本発明は、正極と、リチウムを取り込む組成物を含む負極と、正極と負極の間の隔離板と、リチウムイオンを含む電解質とを備えるリチウムイオン電池に関する。一般に、正極は、活性材料と、異なる導電性粉末と、ポリマーバインダとを備え、正極活性材料は、無機コーティング組成物をコーティングした活性組成物を含む。正極活性材料は、室温で、4.6ボルトから2.0ボルトへ2Cの放電速度で、15回目の充電/放電サイクルに関して少なくとも約190mAh/gの放電比容量を有することができる。いくつかの実施形態では、活性組成物は、組成式Li1+xM1−xO2によって近似的に表すことができ、Mは、金属元素または金属元素の組合せであり、0.01≦x≦0.3であり、無機コーティング組成物でコーティングされる。
【0006】
別の態様では、本発明は、正極と、リチウムを取り込む組成物を含む負極と、正極と負極の間の隔離板とを備えるリチウムイオン電池に関し、正極が、無機組成物コーティングを施した活性組成物を有する活性材料と、異なる導電性粉末と、ポリマーバインダとを含む。正極活性材料は、少なくとも約245mAh/gの放電比容量と、少なくとも約3.55ボルトの平均電圧と、室温で、4.6ボルトから2.0ボルトへC/3の放電速度で、10サイクルでの容量の少なくとも約90%である40サイクルでの容量とを有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】容器から分離された電池構造の概略図である。
【図2】異なる倍率で示した、基準バーに関してそれぞれ(a)100ミクロンおよび(b)20ミクロンの分解能での、コーティングなしの高容量カソードリチウム酸化物材料、ならびに異なる倍率で示した、基準バーに対してそれぞれ(c)100ミクロンおよび(d)20ミクロンの分解能での、AlF3コーティングを施した高容量カソードリチウム金属酸化物材料の1組のSEM写真を示す図である。
【図3】コーティングなし(真性)の高容量カソードリチウム金属酸化物材料の試料、および様々な厚さのAlF3コーティングを施した試料のX線回折スペクトルのプロットを示す図である。
【図4】(a)初回のサイクルに関して0.1Cの充電/放電速度で、および(b)7回目のサイクルに関して1/3Cの充電/放電速度で、2.0V〜4.6Vの電圧範囲内でサイクルさせた、コーティングなしの高い比容量のカソードリチウム金属酸化物材料の比容量に対するセル電圧の1組の2つのプロットを示す図である。
【図5】最初の3回のサイクルに関して0.1C、サイクル番号4〜6に関して0.2C、およびサイクル番号7〜40に関して0.33Cでサイクルさせた、コーティングなしの高容量のカソードリチウム金属酸化物材料のサイクル数に対する比放電容量のプロットを示す図である。
【図6】(a)コーティングなしの、(b)7nmのAlF3コーティングを施した、および(c)25nmのAlF3コーティングを施した高い比容量のカソードリチウム金属酸化物材料の1組のTEM写真を示す図である。
【図7】高容量の正極活性材料に関するコーティングなしの試料およびコーティングを施した4つの試料に関する示差走査熱量測定データのプロットを示す図である。
【図8】コーティングを施した5つの材料の試料に関して、それらの正極活性材料を用いて作製した電極に関する電気化学インピーダンス分光測定結果のプロットを示す図である。
【図9】(a)初回のサイクルに関して0.1Cの充電/放電速度で、および(b)7回目のサイクルに関して1/3Cの充電/放電速度で、2.0V〜4.6Vの電圧範囲内でサイクルさせた、3nmのAlF3コーティングを施した高容量カソードリチウム金属酸化物材料の比放電容量に対するセル電圧の1組の2つのプロットを示す図である。
【図10】最初の3回のサイクルに関して0.1C、サイクル番号4〜6に関して0.2C、およびサイクル番号7〜40に関して0.33Cでサイクルさせた、3nmのAlF3コーティングを施した高い比容量のカソードリチウム金属酸化物材料のサイクル数に対する比放電容量のプロットを示す図である。
【図11】(a)初回のサイクルに関して0.1Cの放電速度で、および(b)7回目のサイクルに関して1/3Cの放電速度で、2.0V〜4.6Vの電圧範囲内でサイクルさせた、22nmのAlF3コーティングを施した高い比容量のカソードリチウム金属酸化物材料の比放電容量に対するセル電圧の1組の2つのプロットを示す図である。
【図12】最初の3回のサイクルに関して0.1C、サイクル番号4〜6に関して0.2C、およびサイクル番号7〜40に関して0.33Cでサイクルさせた、22nmのAlF3コーティングを施した高い比容量のカソードリチウム金属酸化物材料のサイクル数に対する比放電容量のプロットを示す図である。
【図13】最初の3回のサイクルに関して0.1C、サイクル番号4〜6に関して0.2C、およびサイクル番号7〜40に関して0.33Cでサイクルさせた、コーティングなし、および5つの異なるAlF3コーティング厚さを有する高い比容量のカソードリチウム金属酸化物材料に関するサイクル数に対する比放電容量の1組の比較プロットを示す図である。
【図14】高い比容量のカソード材料の(a)AlF3コーティング厚さに対するパーセンテージでの不可逆容量損失(IRCL)と、(b)AlF3コーティング厚さに対する比IRCLとの1組の2つのプロットを示す図である。
【図15】高い比容量のカソード材料の(a)AlF3コーティング厚さに対する平均電圧と、(b)AlF3コーティング厚さに対する平均電圧減少のパーセンテージとの1組の2つのプロットを示す図である。
【図16】高い比容量のカソード材料のAlF3コーティング厚さに対する、0.33Cでサイクルさせた初回のサイクルと34回目のサイクルの間のクーロン効率のプロットを示す図である。
【図17】4種の異なる金属二フッ化物コーティングの1つを用いたリチウム金属酸化物に関するX線回折図形のプロットを示す図である。
【図18】(A)平均厚さが約3nmのMgF2、および(B)平均厚さが約2nmのSrF2に関するコーティングを示す1組の透過型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図19】コーティングなしの高容量の正極活性材料を用いて作製した電池について、C/10の速度での初回の充電および放電サイクルに関する比容量に対するセル電圧のプロットを示す図である。
【図20】MgF2コーティングを施された高容量の正極活性材料を用いて作製した電池について、C/10の速度での初回の充電および放電サイクルに関する比容量に対するセル電圧のプロットを示す図である。
【図21】SrF2コーティングを施された高容量の正極活性材料を用いて作製した電池について、C/10の速度での初回の充電および放電サイクルに関する比容量に対するセル電圧のプロットを示す図である。
【図22】BaF2コーティングを施された高容量の正極活性材料を用いて作製した電池について、C/10の速度での初回の充電および放電サイクルに関する比容量に対するセル電圧のプロットを示す図である。
【図23】CaF2コーティングを施された高容量の正極活性材料を用いて作製した電池について、C/10の速度での初回の充電および放電サイクルに関する比容量に対するセル電圧のプロットを示す図である。
【図24】コーティングなしの正極活性材料、またはMgF2、SrF2、BaF2、もしくはCaF2コーティングを施した正極活性材料を用いてそれぞれ作製した5つの電池に関するサイクル数の関数としての比放電容量のプロットを示す図である。
【図25】黒鉛を含む負極と、コーティングなし、または示されている平均厚さでAlF3コーティングを施した高容量の活性材料を有する正極とを用いて作製したコインセル電池に関するサイクル番号の関数として比放電容量のプロットのグラフを示す図である。
【図26】平均厚さが約3nm(A)および約17nm(B)の第2のリチウムリッチ活性材料上のAlF3コーティングを示す1組の2つの透過型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図27】代替の正極活性材料を用いて作製した電池について、2.0Vと4.3Vの間でのサイクリングで、C/10の速度での初回の充電および放電サイクルに関する比容量に対するセル電圧のプロットを示す図である。
【図28】AlF3コーティングを有する代替の正極活性材料を用いて作製した電池について、2.0Vと4.3Vの間でのサイクリングで、C/10の速度での初回の充電および放電サイクルに関する比容量に対するセル電圧のプロットを示す図である。
【図29】代替の正極活性材料を用いて作製した電池について、2.0Vと4.5Vの間でのサイクリングで、C/10の速度での初回の充電および放電サイクルに関する比容量に対するセル電圧のプロットを示す図である。
【図30】AlF3コーティングを有する代替の正極活性材料を用いて作製した電池について、2.0Vと4.5Vの間でのサイクリングで、C/10の速度での初回の充電および放電サイクルに関する比容量に対するセル電圧のプロットを示す図である。
【図31】最初の2つのサイクルに関しては0.1Cで、サイクル3〜18に関しては0.33Cでサイクルさせた、コーティングなし、および5つの異なるAlF3コーティング厚さを有する代替の正極活性材料に関するサイクル数に対する比放電容量の1組の比較プロットを示す図である。
【図32】最初の2つのサイクルに関しては0.1Cで、サイクル3〜18に関しては0.33Cで2.0Vと4.5Vの間でサイクルさせた、コーティングなし、および5つの異なるAlF3コーティング厚さを有する代替の正極活性材料に関するサイクル数に対する比放電容量の1組の比較プロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
リチウムリッチ金属酸化物に、より小さい厚さで効果的にメタロイドフッ化物コーティングを施して、得られるリチウムイオン電池の性能を大幅に改良することができることが発見されている。リチウムリッチ金属酸化物は、高い電圧まで安定して充電することができ、得られる放電容量は、いくつかのより低い電圧の材料に比べて高い。コーティングは、得られる電池の様々な特性を改良することができる。特に、コーティングを施した材料は、高い平均電圧を示すことができ、この高い平均電圧は、広範囲の電池容量にわたってより一定の電圧を提供することができる。これらの材料は、商業生産の規模に容易に拡張できる技法を使用して効果的に合成することができる。さらに、これらの材料を高いタップ密度で合成することができ、それにより、得られる電圧は、所与の電池体積に関して高い実効容量を示すことができる。さらに、電池は、中速の充電および放電で、高い比容量および優れたサイクリングを示す。また、薄い不活性金属酸化物または金属リン酸塩コーティングも、これらの材料を用いて形成される得られる電池のための所望の性能特性を提供することができる。したがって、これらの材料は、プラグインハイブリッド電気自動車など、中速の放電速度性能に関わる商業用途に効果的に使用することができる。
【0009】
本明細書で述べるリチウムイオン電池は、高い比容量および高い全体容量を示しながら、サイクリング性能の改良を実現する。リチウムリッチ金属酸化物のための適した合成技法としては、例えば共沈手法またはゾルゲル合成がある。金属フッ化物コーティング、金属酸化物コーティング、または他の適切なコーティングの使用が、サイクリング性能を向上させる。また、正極材料が、放電サイクルにわたって高い平均電圧を示し、それにより電池は、高い比容量と共に高い電力出力を有する。また、これらの材料は、驚くほど高速で、例えば2C放電速度で、高い比容量を示すこともできる。比較的高いタップ密度および優れたサイクリング性能により、電池は、サイクルさせたときに、継続的な高い容量を示す。さらに、正極材料は、電池の初回の充電および放電サイクル中の不可逆容量損失の量の減少を示し、したがって、それに対応して、負極材料を減少させることができる。優れたサイクリング性能、高い比容量、および高い全体容量の組合せにより、これらの得られるリチウムイオン電池は、特に電気自動車やプラグインハイブリッド自動車など高エネルギー用途のための改良された電源となる。
【0010】
本明細書で述べる電池は、非水性電解質溶液がリチウムイオンを含むリチウムイオン電池である。二次リチウムイオン電池では、放電中にリチウムイオンが負極から解放され、したがって負極は放電中にアノードとして働き、電極からのリチウムの解放時、リチウムの酸化により電子が生成される。それに対応して、正極は、放電中にインターカレーションまたは同様のプロセスによってリチウムイオンを取り込み、したがって正極は、放電中に電子を消費するカソードとして働く。二次電池の再充電時、電池を通るリチウムイオンの流れは逆になり、負極がリチウムを取り込み、正極がリチウムイオンとしてリチウムを解放する。一般に、電池は、正極材料内にリチウムイオンがある状態で作製され、したがって、電池の最初の充電により、正極材料から負極材料へかなりの割合のリチウムを移動させて、放電できるように電池を準備する。
【0011】
本明細書では、用語「元素」は、従来の用法で周期表の要素を表すものとして使用し、元素は、組成物中にある場合には適切な酸化状態であり、元素形態であることが明記されているときにのみ、その元素形態M0である。したがって、金属元素は一般に、その元素形態、または金属の元素形態の対応する合金でのみ、金属状態である。すなわち、金属合金以外の金属酸化物または金属組成物は、一般に金属性ではない。
【0012】
いくつかの実施形態では、リチウムイオン電池は、基準となる均質な電気活性リチウム金属酸化物組成物に対してリチウムリッチの正極活性材料を使用することができる。いくつかの実施形態では、余剰のリチウムは、組成物LiMO2を基準とすることができ、ここで、Mは、平均酸化状態が+3の1つまたは複数の金属である。最初のカソード材料中の追加のリチウムは、充電中に負極に移動させることができる対応する追加のリチウムを提供し、これは、カソード活性材料の所与の重量に関して電池容量を増加させることができる。いくつかの実施形態では、追加のリチウムは、より高い電圧で利用可能であり、したがって、最初の充電は、より高い電圧で行われて、正極の追加のリチウムによって提供される追加の容量を利用可能にする。
【0013】
適切に生成されたリチウムリッチのリチウム金属酸化物は複合結晶構造を有し、この結晶構造内で、余剰のリチウムは、代替の結晶相の生成を支援すると考えられる。例えば、リチウムリッチ材料のいくつかの実施形態では、Li2MnO3材料を、層状LiMnO2成分と構造的に一体化させることができ、または適切な酸化状態を有する他の遷移金属カチオンでマンガンカチオンが置換された同様の複合組成物と構造的に一体化させることができる。いくつかの実施形態では、正極材料は、xLi2M’O3・(1−x)LiMO2として2成分表記で表すことができ、ここでMは、平均原子価(valance)が+3の1つまたは複数の金属カチオンであり、少なくとも1つのカチオンがMnイオンまたはNiイオンであり、M’は、平均原子価(valance)が+4の1つまたは複数の金属カチオンである。これらの組成は、例えば、参照により本明細書に援用するThackerayらの「Lithium Metal Oxide Electrodes for Lithium Cells and Batteries」という名称の米国特許第6,680,143号明細書にさらに記載されている。特に興味深い正極活性材料は、組成式Li1+xNiαMnβCoγAδO2を有し、ここで、xは約0.05〜約0.3の範囲内であり、αは約0.1〜約0.4の範囲内であり、βは約0.3〜約0.65の範囲内であり、γは約0〜約0.4の範囲内であり、δは約0〜約0.15の範囲内であり、Aは、Mg、Sr、Ba、Cd、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、Li、またはそれらの組合せである。
【0014】
さらに、参照により本明細書に援用する本願と同時係属中のLopezらの「Positive Electrode Material for High Specific Discharge Capacity Lithium Ion Batteries」という名称の米国特許出願第12/332,735号明細書(‘735出願)に記載されているように、Li[Li0.2Ni0.175Co0.10Mn0.525]O2に関して、驚くほど大きい容量が得られている。‘735出願における材料は、炭酸塩共沈プロセスを使用して合成された。また、参照により本明細書に援用するVenkatachalamらの「Positive Electrode Material for Lithium Ion Batteries Having a High Specific Discharge Capacity and Processes for the Synthesis of these Materials」という名称の米国特許出願第12/246,814号明細書(‘814出願)に記載されているように、水酸化物共沈およびゾルゲル合成手法を使用してこの組成物に関して非常に高い比容量が得られた。これらの組成物は、層状構造を有するとともに、いくつかの他の高容量のカソード材料に比べてニッケル量が少ないというそれら特有の組成により、発火の危険性が低く、安全性特性が改良される。これらの組成物は、環境保護の観点からあまり望ましくない元素の使用量が少なく、また、商業規模での生産に手頃なコストの開始材料から製造することができる。
【0015】
組成中にニッケル、コバルト、およびマンガンカチオンを有し、高い比容量性能を示す本明細書で述べる所望のリチウムリッチ金属酸化物材料に関して、炭酸塩共沈プロセスが行われている。これらの材料は、高い比容量に加えて、優れたタップ密度を示し、これは、固定体積用途において材料の全体容量を高める。以下の実施例で示されるように、炭酸塩共沈プロセスによって生成されるリチウムリッチ金属酸化物材料は、性能特性を改良する。具体的には、炭酸塩共沈プロセスによって生成される前段の特定のリチウムリッチ組成物を、コーティングを施した形態で使用して、以下の実施例での結果を生み出す。
【0016】
インターカレーションベースの正極活性材料を有する対応する電池が使用されるとき、格子へのリチウムイオンのインターカレーションおよび格子からのリチウムイオンの解放が、電気活性材料の結晶格子の変化を誘発する。これらの変化が実質的に可逆である限り、材料の容量は、サイクリングと共に大幅には変化しない。しかし、活性材料の容量は、多かれ少なかれサイクルと共に減少することが観察される。したがって、ある回数のサイクル後、電池の性能は許容値未満に低下し、電池が交換される。また、電池の初回のサイクルにおいて、一般に、後続のサイクルでの1サイクル当たりの容量損失よりもかなり大きい不可逆の容量損失が生じる。この不可逆の容量損失は、新しい電池の充電容量と初回の放電容量の差である。この初回のサイクルでの不可逆容量損失を補償するために、余剰の電気活性材料が負極に含まれ、それにより、この損失した容量は戻らないにせよ、電池の寿命の大半にわたって完全に電池を充電することができる。不可逆容量損失を補償するために追加の負極活性材料を含めることにより、負極材料は本来的に消耗される。一般に、不可逆容量損失(lose)は、電池材料の初回の充電−放電サイクル中の変化に起因することがあり、この変化は、電池の後続のサイクリング中に実質的に維持される。これらの不可逆容量損失のいくらかは、正極活性材料に起因することがあり、本明細書で述べるコーティングを施した材料が、電池の不可逆容量損失の減少をもたらす。
【0017】
適切なコーティング材料が、材料の長期サイクリング性能を改良することができ、かつ初回のサイクルでの不可逆容量損失を減少させることができる。理論に拘束されることを望まないが、コーティングは、リチウムイオンの取込みおよび解放中に正極活性材料の結晶格子を安定させることができ、それにより結晶格子の不可逆変化が大幅に減少される。特に、有効なコーティングとして金属フッ化物組成物を使用することができる。カソード活性材料用のコーティングとしての金属フッ化物組成物、具体的にはLiCoO2およびLiMn2O4の一般的な使用は、参照により本明細書に援用するSunらの「Cathode Active Material Coated with Fluorine Compound for Lithium Secondary Batteries and Method for Preparing the Same」という名称の国際公開第2006/109930A号パンフレットに記載されている。
【0018】
金属フッ化物コーティングが、リチウムリッチ層状正極活性材料をかなり改良することができることが発見されている。特に、AlF3は、材料の価格が手頃であり、またアルミニウムイオンに関連する環境への懸念が比較的小さいので、望ましいコーティング材料となり得る。しかし、他の金属フッ化物も適している。コーティング材料に関連付けられる性能改良は、長期サイクリングに関係することがあり、容量劣化の大幅な減少、初回のサイクルでの不可逆容量損失の大幅な減少、および全般的に容量の改良を伴う。セルサイクリング中にコーティング材料は不活性であると考えられているので、コーティング材料が活性材料の比容量を高めることができることは驚きである。コーティング材料の量は、観察される性能改良が顕著になるように選択することができる。リチウムリッチ正極活性材料の改良は、‘735出願および‘814出願にさらに記載されている。
【0019】
また、本明細書で述べる材料は大きいタップ密度も示す。一般に、比容量が同等であるとき、正極材料のタップ密度が大きければ大きいほど、電池の全体容量が高くなる。また、活性材料の大きなタップ密度により、より大きな比エネルギーおよび比出力を有する電池を作製することもできる。一般に、より大きな容量を有する電池は、特定の用途に関して、放電時間をより長くすることができる。したがって、これらの電池は、明確に改良された性能を示すことができる。充電/放電測定中、材料の比容量は、放電速度に応じて決まることに留意することが有用である。特定の材料の最大比容量は、非常に遅い放電速度で測定される。実用上は、放電は比較的速度が速いので、実際の比容量は最大値未満である。より現実的な比容量は、実際の使用中に生じる速度により近い妥当な放電速度を使用して測定することができる。低速〜中速の用途では、妥当な試験速度は、3時間にわたる電池の放電に関わる。慣例的な表記では、これは、C/3または0.33Cと書かれる。望みに応じて、より速いまたはより遅い放電速度を使用することができる。
【0020】
一般に、電池性能特性の改良は、同じコーティング厚さとすべてが相関するわけではない。以下で、これらの特性をより詳細に考察し、対応する結果を実施例に示す。要約すると、約10ナノメートル(nm)のコーティング厚さでの不可逆容量損失プラトーの減少である。平均電圧に関して、コーティングは、平均電圧を減少させる傾向があるが、より薄いコーティングでは、平均電圧は大幅には減少されない。比容量に関して、比容量は、コーティング厚さが増加するにつれて、始めは増加し、次いで減少する。比容量の結果は、サイクリングおよび放電速度と共に変化する。
【0021】
1組の結果を以下の実施例に示す。これらは、妥当な長期サイクリング特性を有する高電圧電池に関して、所望の電池特性に関する適切なコーティング厚さを評価するのに有用な情報を提供する。厚さが約20nm以上のより厚い金属フッ化物コーティングは、不可逆容量損失を大幅に減少させることが判明している。また、これらの厚いコーティングを有する材料は、C/3の速度で、34回の充電−放電サイクルにわたって良好なサイクリングを示す。しかし、これらの材料は、平均電圧の大幅な低下を示す。また、より厚いコーティングを有するこれらの材料は、より薄いコーティングに比べて比容量の減少を示す。より厚いコーティングを有する材料に関する比容量の低下は、より高い速度でより顕著であり、これは、より厚いコーティングが、そこを通るリチウムイオンの移動を妨げることを示唆することがある。
【0022】
約8nm〜約20nmの間の中厚の金属フッ化物コーティングでは、材料は、より大きいコーティング厚さを有する材料で観察される不可逆容量損失に比べてかなりの減少を示す。さらに、平均電圧は、より厚いコーティングを用いて得られる平均電圧よりも大きい。さらに、同様に、これらの材料の比容量は、より大きいコーティング厚さを有する同じ活性組成物に関する比容量も大きい。しかし、中厚のコーティングを有する正極活性材料は、より大きなコーティング厚さを有する材料に比べてクーロン効率がかなり低いことがある。すなわち、より大きいコーティング厚さを有する材料の比容量は、サイクリングと共に、より急速に減衰する。したがって、より多くの回数のサイクルに結果が外挿された場合、中厚の金属フッ化物コーティングを有する正極活性材料は、ほとんどの用途で、望ましくなく悪いサイクリング特性となることが予想される。
【0023】
意外にも、より薄い金属フッ化物コーティングを有する正極活性材料は、驚くほど望ましい結果を示す。すなわち、約0.5nm〜約12nmのコーティング厚さを有する金属フッ化物コーティングを有する正極活性材料は、電池に組み込まれたときに、望ましい、驚くほど優れた特性を有する。これらの材料は、不可逆容量損失の減少をあまり示さない。しかし、不可逆容量損失は、より長期のサイクリングの文脈では、最も重要な材料特性ではない。より薄い金属フッ化物コーティングを有する正極活性材料は、より大きい平均電圧を有し、これは、コーティングなしの材料の平均電圧と同等であることがある。これらの材料は、高い初期比容量を有することができ、また、望ましいクーロン効率を示すことができ、中速で少なくとも40サイクルまでは、サイクリングに伴う減衰が低い。
【0024】
再充電可能な電池には様々な用途があり、例えば、電話などの移動体通信デバイス、MP3プレーヤやテレビジョンなどのモバイルエンターテインメントデバイス、ポータブルコンピュータ、広い用途があるこれらのデバイスの組合せ、ならびに自動車やフォークリフトなどの輸送デバイスである。これらの電子デバイスで使用される電池のほとんどが固定体積を有する。したがって、これらの電池で使用される正極材料が高いタップ密度を有し、それにより、実質的により多くの充電可能な材料が正極内に存在して、より高い総電池容量を生み出すことが非常に望ましい。比容量、タップ密度、およびサイクルに関して改良された正極活性材料を組み込む本明細書で述べる電池は、特に中電流用途で、改良された性能を消費者に提供することができる。
【0025】
本明細書で述べる電池は車両用途に適している。特に、これらの電池は、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、および純電気自動車用の電池パックで使用することができる。これらの車両は、一般に、重量、体積、および容量のバランスを取るように選択された電池パックを有する。より大きな電池パックは、より広範囲の電気的動作を提供することができるが、より場所を取り、したがって他の目的では利用できず、また重量がより重く、これは性能を低下させることがある。したがって、本明細書で述べる電池の高い容量により、所望の総電力量を生み出す電池パックを妥当な体積で形成することができ、またそれに対応して、これらの電池パックは、本明細書で述べる優れたサイクル性能を実現することができる。
【0026】
電池構造
図1を参照すると、電池100が概略的に示されており、この電池100は、負極102と、正極104と、負極102と正極104の間の隔離板106とを有する。電池は、積層などの形で、適切に配置された隔離板と共に複数の正極および複数の負極を備えることができる。電極と接触する電解質は、逆極性の電極間の隔離板を通るイオン伝導性を生み出す。電池は、一般に、負極102および正極104にそれぞれ関連付けられた集電体108、110を備える。
【0027】
リチウムは、一次電池と二次電池との両方に使用されている。リチウム金属の魅力的な特徴は、それが軽量であること、および最も陽性の強い金属であることであり、有利には、これらの特徴のいくつかの側面をリチウムイオン電池にも取り入れることができる。特定の形態の金属、金属酸化物、および炭素材料が、インターカレーション、合金化、または同様のメカニズムによって、その構造内にリチウムイオンを取り込むものとして知られている。二次リチウムイオン電池における正極用の電気活性材料として機能する望ましい混合金属酸化物を本明細書でさらに説明する。リチウムイオン電池とは、負極活性材料が、充電中にリチウムを取り込み、放電中にリチウムを解放する電池を表す。リチウム金属自体がアノードとして使用される場合、得られる電池は、一般に単にリチウム電池と呼ばれる。
【0028】
得られる電池電圧はカソードとアノードでの半電池電位の差であるので、負極インターカレーション材料の性質がこの電圧に影響を及ぼす。適した負極リチウムインターカレーション組成物は、例えば黒鉛、人造黒鉛、コークス、フラーレン、五酸化ニオブ、スズ合金、シリコン、酸化チタン、酸化スズ、およびリチウムチタン酸化物、例えばLixTiO2(0.5<x≦1)やLi1+xTi2−xO4(0≦x≦1/3)を含むことができる。さらなる負極材料は、本願と同時係属中のKumarの「Composite Compositions, Negative Electrodes with Composite Compositions and Corresponding Batteries」という名称の米国特許出願公開第2010/0119942号明細書、およびKumarらの「Lithium Ion Batteries with Particular Negative Electrode Compositions」という名称の米国特許出願公開第2009/0305131号明細書に記載されており、どちらの特許出願も参照により本明細書に援用する。
【0029】
正極活性組成物と負極活性組成物は、一般に、対応する電極内にポリマーバインダによって一体に保持された粉末組成物である。バインダは、電解質と接触すると、活性粒子にイオン伝導性を与える。適したポリマーバインダとして、例えば、フッ化ポリビニリデン、ポリエチレンオキシド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリレート、ゴム、例えばエチレン−プロピレン−ジエンモノマー(EPDM)ゴム、またはスチレンブタジエンゴム(SBR)、それらの共重合体、またはそれらの混合物が挙げられる。バインダ中の粒子担持量は大きくすることができ、例えば約80重量パーセントよりも大きくすることができる。電極を作製するために、粉末を、ポリマー用の溶媒など適切な液体中でポリマーとブレンドすることができる。得られたペーストを電極構造に押し入れることができる。いくつかの実施形態では、電池は、参照により本明細書に援用する本願と同時係属中のBuckleyらの「High Energy Lithium Ion Secondary Batteries」という名称の米国特許出願公開第2009/0263707号明細書に記載されている方法に基づいて構成することができる。
【0030】
また、正極組成物、および場合によっては負極組成物は、一般に電気活性組成物とは異なる導電性粉末を含む。適した補助導電性粉末として、例えば、黒鉛、カーボンブラック、金属粉末、例えば銀粉末、金属繊維、例えばステンレス鋼繊維など、およびそれらの組合せが挙げられる。一般に、正極は、約1重量パーセント〜約25重量パーセント、さらなる実施形態では約2重量パーセント〜約15重量パーセントの別の導電性粉末を含むことができる。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲の導電性粉末量が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0031】
電極は、一般に、電極と外部回路の間の電子の流れを促進するために導電性集電体と関連付けられる。集電体は、金属箔や金属グリッドなど金属を含むことができる。いくつかの実施形態では、集電体は、ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼、銅などから形成することができる。集電体上に電極材料を薄膜として鋳造することができる。次いで、電極から溶媒を除去するために、電極材料と集電体を例えばオーブン内で乾燥させることができる。いくつかの実施形態では、集電体箔または他の構造と接触している乾燥させた電極材料に、約2〜約10kg/cm2(キログラム/平方センチメートル)の圧力をかけることができる。
【0032】
隔離板が正極と負極の間に位置される。隔離板は、電気絶縁性であると同時に、2つの電極間での少なくとも選択されたイオンの伝導を可能にする。様々な材料を隔離板として使用することができる。市販の隔離板材料は、一般に、イオン伝導を可能にする有孔シートであるポリエチレンおよび/またはポリプロピレンなどのポリマーから形成される。市販のポリマー隔離板としては、例えば、Hoechst Celanese, Charlotte, N.C.からのCelgard(登録商標)系列の隔離板材料が挙げられる。また、セラミック/ポリマー複合材料が隔離板用に開発されている。これらの複合材隔離板は、より高温で安定であることがあり、この複合材料は発火の危険を大幅に減少させることができる。隔離板材料用のポリマー/セラミック複合材は、参照により本明細書に援用するHennigeらの「Electric Separator, Method for Producing the Same and the Use Thereof」という名称の米国特許出願公開第2005/0031942A号明細書にさらに記載されている。リチウムイオン電池の隔離板用のポリマー/セラミック複合材は、Evonik Industries(ドイツ)によって商品名Separion(登録商標)の下で販売されている。
【0033】
溶媒和イオンを含む溶液を電解質として言及し、適切な液体中で溶媒和イオンを生成するために溶解するイオン組成物を、電解質塩と呼ぶ。リチウムイオン電池用の電解質は、1種または複数種の選択されたリチウム塩を含むことができる。適切なリチウム塩は、一般に不活性アニオンを有する。適したリチウム塩としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ヘキサフルオロヒ酸リチウム、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニルイミド)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、リチウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、テトラフルオロホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、テトラクロロアルミン酸リチウム、塩化リチウム、リチウムジフルオロオキサラトボレート、およびそれらの組合せが挙げられる。従来、電解質は、濃度1Mのリチウム塩を含むが、より高いまたは低い濃度を使用することもできる。
【0034】
対象のリチウムイオン電池に関して、リチウム塩を溶解するために、一般に非水性液体が使用される。溶媒は、一般に電気活性材料を溶解しない。適した溶媒としては、例えば、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、トリグライム(トリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル)、ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、DME(グライムまたは1,2−ジメチルオキシエタンまたはエチレングリコールジメチルエーテル)、ニトロメタン、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0035】
本明細書で述べる電極は、様々な市販の電池設計に組み込むことができる。例えば、カソード組成物は、プリズム形状の電池、巻型円筒形電池、コイン電池、または他の妥当な電池形状に使用することができる。実施例における試験は、コインセル電池を使用して行う。これらの電池は、単一のカソード構造、または並列および/または直列電気接続で組み立てられた複数のカソード構造を備えることができる。正極活性材料は一次電池、すなわち一回使用の電池で使用することもできるが、得られる電池は、一般に、二次電池用途において電池の複数回のサイクルにわたって望ましいサイクリング特性を有する。
【0036】
いくつかの実施形態では、正極と負極を、それらの間に隔離板を挟んで積層することができ、得られた積層構造を円筒形またはプリズム形状に丸めて電池構造を形成することができる。適切な導電性タブを集電体に溶接などで接続することができ、得られたゼリーロール構造を金属缶またはポリマーパッケージ内に配置することができ、負極タブおよび正極タブが適切な外部接点に溶接される。電解質が缶に加えられ、缶が封止されて電池が完成する。いくつかの現在使用されている再充電可能な市販の電池としては、例えば、円筒形の18650電池(直径18mm、長さ65mm)や26700電池(直径26mm、長さ70mm)が挙げられるが、他の電池サイズを使用することもできる。
【0037】
正極活性材料
正極活性材料は、リチウムインターカレーション金属酸化物組成物を含む。いくつかの実施形態では、リチウム金属酸化物組成物は、基準組成物に対してリチウムリッチの組成物を含むことができる。一般に、LiMO2を基準組成物と考えることができ、リチウムリッチ組成物は、適切な組成式Li1+xM1−yO2で表すことができ、ここで、Mは、1つまたは複数の金属を表し、yは、金属の平均原子価(valance)に基づいてxに関係付けられる。いくつかの実施形態では、リチウムリッチ組成物は、一般に層状複合結晶構造を形成すると考えられ、これらの実施形態では、xがyとほぼ等しい。いくつかの実施形態では、組成物は、Ni、Co、およびMnイオンを、任意選択で1つまたは複数の追加の金属イオンドーパントと共に含む。意外にも、ドーパントは、サイクリング後の容量に関して、得られる組成物の性能を改良することが判明している。さらに、コーティングを施した試料に関して、平均電圧をドーピングと共に高めることができ、不可逆容量損失のいくらかの減少も確認されている。所望の電極活性材料は、本明細書で述べる合成手法を使用して合成することができる。
【0038】
リチウムリッチ組成物Li1+xM1−yO2は追加のリチウムを提供し、この追加のリチウムは、電池容量に寄与するように利用可能である。充電中に余剰のリチウムが負極に装填されると、これらの電池は、より高い電圧で動作することができる。したがって、これらの材料は、より高い比容量を有する望ましい高電圧材料を提供する。
【0039】
特に興味深いいくつかの組成物では、組成を組成式Li1+xNiαMnβCoγAδO2で表すことができ、ここで、xは約0.01〜約0.3の範囲内であり、αは約0.1〜約0.4の範囲内であり、βは約0.3〜約0.65の範囲内であり、γは約0〜約0.4の範囲内であり、δは約0(またはゼロでない場合には0.001)〜約0.15の範囲内であり、Aは、Mg、Sr、Ba、Cd、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、Li、またはそれらの組合せである。いくつかの実施形態では、正極活性材料の和x+α+β+γ+δが約1.0である。少量でのAは、ドーパント元素とみなすことができる。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲のパラメータ値が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。これらの材料のためのコーティングは、以下でさらに説明する。
【0040】
本明細書で述べる材料のいくつかの実施形態に関して、Thackeryとその共同研究者らは、Li2M’O3組成物がLiMO2成分と共に層状構造内に構造的に組み込まれたいくつかのリチウムリッチ金属酸化物組成物に関する複合結晶構造を提案している。電極材料は、bLi2M’O3・(1−b)LiMO2と2成分表記で表すことができ、ここで、Mは、平均原子価(valance)が+3の1つまたは複数の金属元素であり、少なくとも1つの元素がMnまたはNiであり、M’は、平均原子価(valance)が+4の金属元素であり、0<b<1であり、いくつかの実施形態では、0.03≦b≦0.9である。例えば、Mは、Ni+2、Co+3、およびMn+4の組合せでよい。これらの組成物に関する全体の組成式は、Li1+b/(2+b)M’2b/(2+b)M2(1−b)/(2+b)O2と書くことができる。この組成式は、前段の組成式において和x+α+β+γ+δが1である場合と一致し、ここでx=b/(2+b)である。これらの材料から作製した電池は、対応するLiMO2組成物を用いて作製した電池に比べて高い電圧および高い容量でサイクルすることが観察されている。これらの材料は、一般的に、Thackeryらに付与された「Lithium Metal Oxide Electrodes for Lithium Cells and Batteries」という名称の米国特許第6,680,143号明細書、およびThackeryらに付与された「Lithium Metal Oxide Electrodes for Lithium Cells and Batteries」という名称の米国特許第6,677,082号明細書に記載されており、どちらも参照により本明細書に援用する。Thackeryは、Mn、Ti、およびZrがM’として特に興味深いものであり、MnおよびNiがMに関して特に興味深いものであると認識した。
【0041】
いくつかの具体的な層状構造の構造は、参照により本明細書に援用するThackeryらの「Comments on the structural complexity of lithium−rich Li1+xM1−xO2 electrodes (M=Mn,Ni,Co) for lithium batteries」, Electrochemistry Communications 8 (2006), 1531−1538にさらに記載されている。この論文で報告されている研究では、組成式Li1+x[Mn0.5Ni0.5]1−xO2およびLi1+x[Mn0.333Ni0.333Co0.333]1−xO2を有する組成物を調べている。この論文はまた、層状材料の構造的な複雑さを述べている。
【0042】
近頃、Kangおよびその共同研究者らが、組成式Li1+xNiαMnβCoγM’δO2−zFz(ここで、M’=Mg、Zn、Al、Ga、B、Zr、Tiであり、xは約0〜0.3の間であり、αは約0.2〜0.6の間であり、βは約0.2〜0.6の間であり、γは約0〜0.3の間であり、δは約0〜0.15の間であり、zは約0〜0.2の間である)を有する二次電池で使用するための組成物を示した。これらの金属範囲およびフッ素は、得られる層状構造の電気化学サイクル中の電池容量および安定性を改良するものとして提案された。参照により本明細書に援用するKangらの「Layered cathode materials for lithium ion rechargeable batteries」という名称の米国特許第7,205,072号明細書(‘072特許)を参照されたい。この参考文献は、室温で10サイクル後に容量が250mAh/g(ミリアンペア時間/グラム)未満であるカソード材料を報告しており、これは、指定されていない速度での値であり、性能値を高めるには低いと考えられる。Kangらが、以下の実施例で調べた組成物と同様の、Li1.2Ni0.15Mn0.55Co0.10O2を含めた様々な具体的な組成物を調べている。
【0043】
‘072特許で得られた結果は、材料の固相合成に関わっており、これは、共沈法で形成されたカソード活性材料を用いて作製した電池と同等のサイクリング容量は実現できなかった。共沈によって形成される材料の性能の改良は、上述した‘814出願および‘735出願にさらに記載されている。本明細書で述べるドープされる材料に関する共沈プロセスは、以下でさらに説明する。
【0044】
正極活性材料の性能は、多くの因子によって影響を及ぼされる。薄い金属フッ化物コーティングまたは他の無機コーティングは、多くの重要な性能パラメータを顕著に改良することができることが判明している。また、平均粒径と粒径分布が、正極活性材料を特徴付ける基本的な特性のうちの2つであり、これらの特性は、材料の速度性能およびタップ密度に影響を及ぼす。電池は固定体積を有するので、したがって、これらの電池の正極で使用される材料は、その材料の比容量を望ましく高い値で維持することができる場合には、高いタップ密度を有することが望ましい。このとき、より多くの充電可能な材料が正極に存在するため、電池の総容量をより高くすることができる。本明細書で述べる材料を形成するためのプロセスを使用して、良好なタップ密度を依然として得ながら、コーティングを追加することができる。一般に、少なくとも約1.3グラム/ミリリットル(g/mL)、さらなる実施形態では少なくとも約1.6g/mL、いくつかの実施形態では少なくとも約2.0g/mLのタップ密度を得ることができ、ここで、タップ密度は、妥当なタッピングパラメータを使用して、市販のタッピング装置を使用して得ることができる。上記の具体的な範囲に含まれるさらなる範囲のパラメータ値が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0045】
合成法
本明細書で述べる合成手法を使用して、サイクリング時の改良された比容量および高いタップ密度を有するリチウムリッチカソード活性材料を形成することができる。合成法は、組成式Li1+xNiαMnβCoγAδO2を有する組成物の合成に適合されており、ここで、xは約0.01〜約0.3の範囲内であり、αは約0.1〜約0.4の範囲内であり、βは約0.3〜約0.65の範囲内であり、γは約0〜約0.4の範囲内であり、δは約0〜約0.1の範囲内であり、ここでAは、Mg、Sr、Ba、Cd、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、Li、またはそれらの組合せである。いくつかの実施形態では、正極活性材料の和x+α+β+γ+δが約1.0であり、これらの実施形態に関しては、上述したように層状結晶構造が生じることがある。この合成手法は、商業規模への拡張にも適している。具体的には、共沈プロセスを使用して、所望の結果をもたらす所望のリチウムリッチ正極材料を合成することができる。さらに、以下に詳細に論じる溶液共沈法を使用して、材料に金属フッ化物コーティングを施すことができる。
【0046】
共沈プロセスでは、純水などの水性溶媒中に金属塩が所望のモル比で溶解される。適した金属塩としては、例えば、金属酢酸塩、金属硫酸塩、金属硝酸塩、およびそれらの組合せが挙げられる。溶液の濃度は、一般に1M〜3Mの間で選択される。金属塩の相対モル量は、生成物材料に関する所望の組成式に基づいて選択することができる。同様に、ドーパント元素は、沈殿された材料中にドーパントが混入されるように適切なモル量で、他の金属塩と共に導入することができる。次いで、例えばNa2CO3および/または水酸化アンモニウムの添加によって溶液のpHを調節することができ、所望の量の金属元素を含む金属水酸化物または金属炭酸塩を沈殿させる。一般に、pHは、約6.0〜約9.0の間の値に調節することができる。水酸化物または炭酸塩の沈殿を促進するように、溶液を加熱して撹拌することができる。次いで、沈殿された金属水酸化物または炭酸塩を溶液から分離し、洗浄し、乾燥させて、さらなる処理の前に粉末を形成することができる。例えば、乾燥は、オーブン内で約110℃で約4〜約12時間行うことができる。上で明示した範囲に含まれるさらなる範囲のプロセスパラメータが企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0047】
次いで、収集された金属水酸化物粉末または金属炭酸塩粉末に熱処理を施して、水または二酸化炭素をなくして、水酸化物または炭酸塩組成物を対応する酸化物組成物に変換することができる。一般に、熱処理は、オーブンや炉などの中で行うことができる。熱処理は、不活性雰囲気中で、または酸素が存在する雰囲気中で行うことができる。いくつかの実施形態では、少なくとも約350℃、いくつかの実施形態では約400℃〜約800℃の温度に材料を加熱して、水酸化物または炭酸塩を酸化物に変換することができる。熱処理は、一般に、少なくとも約15分間、さらなる実施形態では約30分〜24時間以上、追加の実施形態では約45分〜約15時間行うことができる。生成物材料の結晶性を改良するために、さらなる熱処理を行うことができる。結晶性生成物を形成するためのこの焼成ステップは、一般に、少なくとも約650℃、いくつかの実施形態では約700℃〜約1200℃、さらなる実施形態では約700℃〜約1100℃の温度で行う。粉末の構造的特性を改良するための焼成ステップは、一般に、少なくとも約15分、さらなる実施形態では約20分〜約30分以上、他の実施形態では約1時間〜約36時間行うことができる。所望の材料を生み出すために、加熱ステップは、望みであれば適切な温度勾配と組み合わせることができる。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲の温度および時間が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0048】
リチウム元素は、プロセス中の1つまたは複数の選択されたステップで材料に混入することができる。例えば、沈殿ステップを行う前または行った後に、水和リチウム塩の添加によって溶液中にリチウム塩を混入することができる。この手法では、他の金属と同様に、水酸化物または炭酸塩材料にリチウム種を混入する。また、リチウムの特性により、生成物組成の最終的な特性に悪影響を及ぼすことなく、固相反応でリチウム元素を材料に混入することもできる。したがって、例えば一般に、LiOH・H2O、LiOH、Li2CO3、またはそれらの組合せなど粉末としての適量のリチウム源を、沈殿された金属炭酸塩または金属水酸化物と混合することができる。次いで、粉末混合物を加熱ステップに通して酸化物を生成し、次いで結晶性の最終生成物材料を生成する。
【0049】
水酸化物共沈プロセスのさらなる詳細は、上で参照した‘814出願に記載されている。炭酸塩共沈プロセスのさらなる詳細は、上で参照した‘735出願に記載されている。
【0050】
コーティングおよびコーティングを形成するための方法
金属フッ化物コーティングなどの不活性無機コーティングが、本明細書で述べるリチウムリッチ層状正極活性材料の性能を大幅に改良することが判明している。しかし、コーティング厚さに応じて、得られる電池特性に関するトレードオフがある。本明細書で述べるように、電池性能に対するコーティングの効果は、重要な電池性能パラメータのマトリックスに関して評価される。コーティング厚さに伴う性能の評価は、比較的複雑な関係を生み出す。意外にも、全体的に見て最良の性能改良は、厚さ約8nm以下の薄いコーティングから得られることが判明している。電池特性の改良は、以下の節で詳細に説明する。
【0051】
コーティングは、リチウムイオン二次電池において、本明細書で述べる高容量リチウムリッチ組成物の性能を改良することができる。一般に、選択された金属フッ化物およびメタロイドフッ化物をコーティングに使用することができる。同様に、金属および/またはメタロイド元素の組合せを含むフッ化物コーティングを使用することもできる。金属/メタロイドフッ化物コーティングは、リチウム二次電池用の正極活性材料の性能を安定させるために提案されている。フッ化物コーティングに適した金属およびメタロイド元素としては、例えば、Al、Bi、Ga、Ge、In、Mg、Pb、Si、Sn、Ti、Tl、Zn、Zr、またはそれらの組合せが挙げられる。フッ化アルミニウムは、手頃な価格であり、環境に優しいと考えられるので、望ましいコーティング材料となり得る。金属フッ化物コーティングは、参照により本明細書に援用するSunらの「Cathode Active Materials Coated with Fluorine Compound for Lithium Secondary Batteries and Method for Preparing the Same」という名称の国際公開第2006/109930A号パンフレットに全般的に記載されている。この公開特許出願は、LiF、ZnF2、またはAlF3コーティングを施したLiCoO2に関する結果を与えている。上で参照したSunのPCT出願は、具体的には、以下のフッ化物組成物に言及している。CsF、KF、LiF、NaF、RbF、TiF、AgF、AgF2、BaF2、CaF2、CuF2、CdF2、FeF2、HgF2、Hg2F2、MnF2、MgF2、NiF2、PbF2、SnF2、SrF2、XeF2、ZnF2、AlF3、BF3、BiF3、CeF3、CrF3、DyF3、EuF3、GaF3、GdF3、FeF3、HoF3、InF3、LaF3、LuF3、MnF3、NdF3、VOF3、PrF3、SbF3、ScF3、SmF3、TbF3、TiF3、TmF3、YF3、YbF3、TlF3、CeF4、GeF4、HfF4、SiF4、SnF4、TiF4、VF4、ZrF4、NbF5、SbF5、TaF5、BiF5、MoF6、ReF6、SF6、およびWF6。
【0052】
LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2のサイクリング性能に対するAlF3コーティングの効果は、Sunらの論文「AlF3−Coating to Improve High Voltage Cycling Performance of Li[Ni1/3Co1/3Mn1/3]O2 Cathode Materials for Lithium Secondary Batteries」,J. of the Electrochemical Society, 154 (3), A168−A172 (2007)にさらに記載されている。また、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2のサイクリング性能に対するAlF3コーティングの効果は、参照により本明細書に援用するWooらの論文「Significant Improvement of Electrochemical Performance of AlF3−Coated Li[Ni0.8Co0.1Mn0.1]O2 Cathode Materials」,J. of the Electrochemical Society, 154 (11) A1005−A1009 (2007)にさらに記載されている。容量の増加および不可逆容量損失の減少は、Al2O3コーティングに関して、参照により本明細書に援用するWuらの「High Capacity, Surface−Modified Layered Li[Li(1−x)/3Mn(2−x)/3Nix/3Cox/3]O2 Cathodes with Low Irreversible Capacity Loss」,Electrochemical and Solid State Letters, 9 (5) A221−A224 (2006)に言及されている。改良された金属酸化物コーティングは、参照により本明細書に援用する本願と同時係属中のVenkatachalamらの「Metal Oxide Coated Positive Electrode Materials for Lithium Ion Batteries」という名称の米国仮特許出願第61/253,286号明細書に記載されている。改良されたサイクリング性能を得るためのLiNiPO4コーティングの使用は、参照により本明細書に援用するKangらの論文「Enhancing the rate capability of high capacity xLi2MnO3(1−x)LiMO2 (M=Mn, Ni, Co) electrodes by Li−Ni−PO4 treatment」,Electrochemistry Communications 11, 748−751 (2009)に記載されている。
【0053】
金属/メタロイドフッ化物コーティングは、リチウムイオン二次電池用のリチウムリッチ層状組成物の性能を大幅に改良することができることが判明している。例えば、上で引用した‘814出願および‘735出願を参照されたい。特に、コーティングは、電池の容量を改良することができる。しかし、コーティング自体は電気化学的に活性ではない。コーティングを追加する利益がコーティングの電気化学的不活性によって打ち消されるほどまで、試料に加えられるコーティングの量による比容量の損失が増加するとき、電池容量の減少を予想することができる。一般に、コーティングの量は、コーティングによって得られる有益な安定性と、コーティング材料の重量による比容量の損失とのバランスを取るように選択することができる。一般に、コーティング材料は、材料の高い比容量に直接は寄与しない。
【0054】
しかし、コーティング厚さの関数としての電池特性は複雑であることが判明している。特に、コーティングはまた、平均電圧、不可逆容量損失、クーロン効率、およびインピーダンスなど、活性材料の他の特性に影響を及ぼすこともある。所望のコーティング厚さの選択は、特定のコーティング厚さに関して観察される電池特性の範囲全体の評価に基づくことができる。一般に、コーティングは、厚さを約0.05nm〜約50nmにすることができる。しかし、以下にさらに説明するように、意外にも、より薄いコーティングは、多数回サイクルさせた二次リチウムイオン電池に関して最良の全体的な性能パラメータを提供することができることが判明している。特に興味深いいくつかの実施形態では、コーティングは、平均厚さが約0.5nm〜約12nm、他の実施形態では約1nm〜約10nm、さらなる実施形態では約1.25nm〜約9nm、さらなる実施形態では約1.5nm〜約8nmの範囲内でよい。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲のコーティング材料が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。AlF3コーティングを施した金属酸化物材料において、コーティングなしの材料の容量を改良するのに効果的なAlF3の量は、コーティングなしの材料の粒径および表面積に関係付けられる。一般に、コーティング材料の量は、粒子の総金属含有量に対して、約0.01モルパーセント〜約10モルパーセント、さらなる実施形態では約0.05モルパーセント〜約7モルパーセント、さらなる実施形態では約0.1モルパーセント〜約5モルパーセント、他の実施形態では約0.2モルパーセント〜約4モルパーセントの範囲内である。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲のコーティング材料が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0055】
フッ化物コーティングは、溶液ベースの沈殿手法を使用して堆積することができる。正極材料の粉末を、水性溶媒など適切な溶媒中に混合することができる。所望の金属/メタロイドの可溶性組成物を溶媒中に溶解することができる。次いで、NH4Fを分散液/溶液に徐々に添加して、金属フッ化物を沈殿させることができる。コーティング反応物の総量は、所望の量のコーティングを形成するように選択することができ、コーティング反応物の割合は、コーティング材料の化学量論に基づくことができる。特に、所望の厚さのコーティングは、適量のコーティング反応物の添加によって形成することができる。コーティング材料の量の選択は、実施例で以下に説明するように、電子顕微鏡を使用して生成物粒子を検査することによって検証することができる。コーティングプロセスを促進するために、コーティングプロセス中に、水溶液に関して例えば約60℃〜約100℃の範囲内の妥当な温度まで、約20分〜約48時間にわたってコーティング混合物を加熱することができる。コーティングを施した電気活性材料を溶液から除去した後、材料を乾燥させ、約20分〜約48時間にわたって約250℃から約600℃へ徐々に加熱して温度を上げて、コーティングを施した材料の形成を完了する。加熱は、窒素雰囲気、または実質的に酸素を含まない他の雰囲気中で行うことができる。AlF3、MgF2、CaF2、SrF2、およびBaF2の形成に関する具体的な手順は、以下の実施例で説明する。Al2O2およびLi−Ni−PO4コーティングなど不活性金属酸化物コーティングの形成は、上に引用した論文に記載されている。
【0056】
電池性能
本明細書で述べるコーティングを施した正極活性材料から作製した電池は、中電流用途のための現実的な放電条件下で優れた性能を実証している。具体的には、活性材料は、中速の放電速度での電池のサイクリング時に高い比容量を実証している。さらに、コーティングを施したいくつかの正極活性材料は、多数回のサイクルにわたって改良されたサイクリングを実証している。意外にも、より薄いコーティングは、より厚いコーティングを有する正極活性材料を用いて作製した電池よりも望ましい全体的な性能プロファイルを提供することが判明している。特に、より薄いコーティングは、改良されたサイクリング、およびより大きい平均放電電圧を有する。より薄いコーティングを有する活性材料では電池の不可逆容量損失の減少が少ないものの、薄いコーティングを使用して、いくらかは不可逆容量損失を減少させた電池を作製することができ、また、より薄いコーティングを有する材料を用いて作製された電池の他の特性の改良は、不可逆容量損失に関する相違よりもはるかに大きい。したがって、約0.5〜約8nmの平均厚さを有するコーティングは、特に、優れた性能特性を得るために所望のバランスを提供することが判明している。
【0057】
上述したように、不可逆容量損失は、初回の充電比容量と初回の放電比容量の差である。本明細書で述べる値に関して、不可逆容量損失は、正極活性材料の文脈であり、リチウム金属負極に対して評価される。最終的にはサイクルしなくなる正極活性材料のバランスを取るために追加の負極活性材料が必要ないように、不可逆容量損失を減少させることが望ましい。いくつかの実施形態では、不可逆容量損失は、約60mAh/g以下、さらなる実施形態では約55mAh/g以下、他の実施形態では約30mAh/g〜約50mAh/gである。様々な電池パラメータのバランスに関して、不可逆容量損失は、約40mAh/g〜約60mAh/gの間にすることができる。同様に、いくつかの実施形態では、不可逆容量損失は、初回のサイクルでの比充電容量の約19%以下であり、さらなる実施形態では約18%以下である。不可逆容量損失のさらなる範囲が企図され、本開示の範囲内に含まれることを当業者は理解されよう。
【0058】
いくつかの用途では、平均電圧が、電池に関する重要なパラメータであることがある。平均電圧は、特定の電圧よりも上で利用可能な容量に関係付けることができる。したがって、高い比容量を有することに加えて、正極活性材料は、高い平均電圧でサイクルすることも望ましい。4.6Vと2.0Vの間でサイクルする本明細書で述べる材料に関して、平均電圧は、少なくとも約3.475V、さらなる実施形態では少なくとも約3.5V、さらなる実施形態では少なくとも約3.525V、他の実施形態では約3.55V〜約3.65Vでよい。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲の平均電圧が企図され(are contemplates)、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0059】
一般に、電池正極材料の容量性能を評価するために様々な同様の試験手順を使用することができる。本明細書で述べる性能値の評価に関して、いくつかの具体的な試験手順を説明する。適切な試験手順を、以下の実施例でより詳細に説明する。具体的には、電池を室温で4.6ボルトと2.0ボルトの間でサイクルさせることができるが、他の範囲を使用することもでき、それに対応して異なる結果となる。また、比容量は、放電速度に非常に大きく左右される。ここでも、表記C/xは、選択された電圧最小値まで電池をx時間で十分に放電するような速度で電池が放電されることを示唆する。
【0060】
いくつかの実施形態では、正極活性材料は、放電速度C/3で10回目のサイクルにおいて、比容量が少なくとも約245mAh/g(ミリアンペア時間/グラム)、さらなる実施形態では少なくとも約250mAh/g、さらなる実施形態では約255mAh/g〜約265mAh/gである。さらに、材料の40回目のサイクルでの放電容量は、C/3の放電速度でサイクルさせたときに、7回目のサイクルでの放電容量の少なくとも約94%であり、さらなる実施形態では少なくとも約95%である。実施例でさらに説明するように、7回目のサイクルでの比容量に対して40サイクルで比容量が維持されている割合を、クーロン効率と呼ぶこともある。また、コーティングを施した材料が、驚くほど良好な速度性能を示すことができる。具体的には、材料は、室温で、4.6Vから2.0Vへ2Cの速度で放電したとき、15回目の充電/放電サイクルで少なくとも約190mAh/g、さらなる実施形態では少なくとも約195mAh/g、さらなる実施形態では少なくとも約200mAh/gの比放電を有することができる。比容量のさらなる範囲が企図され、本開示の範囲内に含まれることを当業者は理解されよう。
【0061】
一般に、本明細書における結果は、正極用の活性材料の上の薄いコーティングに関して、特に望ましい電池性能をもたらす因子のバランスを示唆する。実施例における結果は、より厚いコーティングがより大きいインピーダンスをもたらすことがあり、これが、観察される容量および電圧の性能に寄与することがあることを示唆する。適切な薄いコーティングにより、優れた比容量、クーロン効率、および平均電圧を得ることができる。
【実施例】
【0062】
実施例は、コインセルを使用して得られたデータ、および円筒形セルを用いたさらなるデータを含む。リチウム箔負極を用いたコインセルの作製は、この導入部において要約する。炭素ベースの電極を用いたコインセルの作製は、以下の実施例5で述べる。実施例1、3、および4で試験したコインセル電池は、ここで概説する手順に従って製造した。リチウム金属酸化物(LMO)粉末を、アセチレンブラック(Timcal, Ltd.(スイス))からのSuper P(商標))および黒鉛(Timcal, LtdからのKS 6(商標))と完全に混合させて、均質な粉末混合物を生成した。それとは別に、フッ化ポリビニリデンPVDF(株式会社クレハ(日本)からのKF1300(商標))をN−メチル−ピロリドンNMP(Honeywell − Riedel−de−Haen)と混合し、一晩撹拌して、PVDF−NMP溶液を生成した。次いで、均質な粉末混合物をPVDF−NMP溶液に添加して、約2時間混合して、均質なスラリを生成した。湿潤薄膜を形成するために、アルミニウム箔集電体上にスラリを塗布した。
【0063】
NMPを除去するために、湿潤薄膜を有するアルミニウム箔集電体を真空オーブン内で110℃で約2時間にわたって乾燥させることによって、正極材料を生成した。正極材料を薄板圧延機のローラの間で圧延して、所望の厚さを有する正極を得た。上記のプロセスを使用して生成された、LMO:アセチレンブラック:黒鉛:PVDFの比が80:5:5:10である正極組成物の一例を以下に示す。
【0064】
コインセル電池を作製するために、アルゴンを充填したグローブボックス内に正極を配置した。厚さ150ミクロンのリチウム箔(FMC箔)を負極として使用した。電解質は、(Ferro Corp.(米国オハイオ州)からの)エチレン炭酸塩、ジエチル炭酸塩、およびジメチル炭酸塩の1:1:1の体積比での混合物中にLiPF6塩を溶解させることによって生成したLiPF6の1M溶液であった。電解質で浸漬された3層(ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン)の微孔性隔離板(Celgard, LLC(米国ノースカロライナ州)からの2320)を正極と負極の間に配置した。電解質をさらに数滴、電極の間に加えた。次いで、クリンププロセスを使用して、電極を2032コインセルハードウェア(宝泉株式会社(日本))内部に封止し、コインセル電池を作製した。得られたコインセル電池をMaccorサイクルテスタで試験して、数サイクルにわたる充電−放電曲線およびサイクル安定性を得た。ここに含まれるすべての電気化学的データは、3つの速度でサイクルしている。すなわち、最初の3回のサイクルに関しては0.1C(C/10)、サイクル4〜6に関しては0.2C(C/5)、サイクル7以降に関しては0.33C(C/3)である。
【0065】
実施例1−炭酸塩共沈のための金属硫酸塩とNa2CO3/NH4OHの反応
この実施例は、炭酸塩共沈プロセスを使用した所望のカソード活性材料の形成を示す。化学量論量の金属硫化物(NiSO4・xH2O、CoSO4・xH2O、およびMnSO4・xH2O)を蒸留水中に溶解し、金属硫化物水性溶液を生成した。それとは別に、Na2CO3およびNH4OHを含有する水溶液を調製した。試料を生成するために、2つの溶液を反応容器に徐々に加えて、金属炭酸塩沈殿物を生成した。反応混合物を撹拌し、反応混合物の温度を、室温〜80℃の間の温度で2〜24時間保った。反応混合物のpHは、6〜9の範囲内であった。一般に、水性金属硫化物溶液は濃度1M〜3Mであり、水性Na2CO3/NH4OH溶液は、Na2CO3が濃度1M〜4M、NH4OHが濃度0.2〜2Mであった。金属炭酸塩沈殿物を濾過し、蒸留水で複数回洗浄して、110℃で約16時間乾燥させて、金属炭酸塩粉末を生成した。試料の調製に関する反応条件の具体的な範囲を表1にさらに示す。
【0066】
【表1】
【0067】
適量のLi2CO3粉末を、乾燥させた金属炭酸塩粉末と混ぜ合わせ、ジャーミル(Jar Mill)、二重遊星形混合機、または乾燥粉末回転混合機によって完全に混合して、均質な粉末混合物を生成した。均質化した粉末の一部、例えば5グラムを焼成し、その後、追加の混合ステップで、生成された粉末をさらに均質化した。さらに均質化した粉末を再び焼成して、リチウム複合酸化物を生成した。生成物組成は、Li1.2Ni0.175Co0.10Mn0.525O2と求められた。焼成条件の具体的な範囲をさらに表2に概説する。
【0068】
【表2】
【0069】
図2aおよび図2bに、リチウム複合酸化物の異なる倍率での走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示し、これは、形成された粒子が実質的に球状であり、サイズが比較的均質であることを示す。図3に、真性の複合物粉末のX線回折パターンを示し、これは、岩塩タイプの構造の特性を示す。
【0070】
この複合物を使用して、上に概説した手順に従ってコインセル電池を作製した。コインセル電池を試験した。図4(a)および図4(b)に、それぞれ、初回のサイクルに関して0.1Cの放電速度で、および7回目のサイクルに関して0.33Cの放電速度で、比容量に対する電圧のプロットを示す。0.1Cの放電速度での電池の初回のサイクルでの比容量は、約245mAh/gである。0.33Cの放電速度での電池の7回目のサイクルでの比容量は、約220mAh/gである。コインセル電池のサイクル寿命に対する比容量も試験した。その結果を図5に示す。最初の3回のサイクルは、0.1Cの放電速度で測定した。次の3回のサイクルは、0.2Cの速度で測定した。後に続くサイクルは、0.33Cの速度で測定した。電池は、40回の充電および放電サイクルを経た後に、サイクル7に対して90%超の比容量を維持した。
【0071】
実施例2−AlF3コーティングを施した金属酸化物材料の作製
上述した実施例で調製した金属酸化物粒子に、溶液法を使用してフッ化アルミニウム(AlF3)の薄層でコーティングを施した。選択した量のフッ化アルミニウムコーティングのために、適量の硝酸アルミニウムの飽和溶液を水性溶媒中で調製した。次いで、金属酸化物粒子を硝酸アルミニウム溶液中に添加して混合物を生成した。混合物を、均質になるように所定の時間にわたって良く混合した。混合の長さは、混合物の体積に応じて決まる。均質化後、均質化した混合物に化学量論量のフッ化アンモニウムを添加して、フッ化物源を維持しながらフッ化アルミニウム沈殿物を生成した。沈殿の完了後、混合物を80℃で5時間撹拌した。次いで、混合物を濾過し、得られた固体を繰り返し洗浄して、反応しなかった材料を除去した。この固体を窒素雰囲気中で400℃で5時間焼成して、AlF3コーティングを施した金属酸化物材料を生成した。図2cおよび図2dに、AlF3コーティングを施した典型的なリチウム複合酸化物の異なる倍率でのSEM写真を示し、形成された粒子が、実質的に球状であり、サイズが比較的均質であることを示す。
【0072】
実施例1で述べたのと同様に合成したリチウム金属酸化物(LMO)粒子の試料に、この実施例で述べるプロセスを使用して、様々な選択された量のフッ化アルミニウムのコーティングを施した。透過型電子顕微鏡を使用して、得られたAlF3コーティングの厚さを評価した。例えば、図6aは、コーティングなしのリチウム複合酸化物粒子の透過型電子顕微鏡写真(TEM)を示し、図6bは、厚さ約7nmのAlF3コーティングを有するLMO粒子のTEM写真を示し、図6cは、約25nmのAlF3コーティングを有するLMO粒子のTEM写真を示す。コーティングは、粒子表面にわたって厚さがほぼ一定であった。図3に、3nm、6nm、11nm、22nm、および40nmのコーティング厚さを有するフッ化アルミニウムコーティングを施したLMO試料のX線回折パターンを、真性の、すなわちコーティングなしの試料に関する回折図形と共に示す。X線回折図形はすべて、コーティングなしのLMO試料として、岩塩タイプの構造の特性を示す。次いで、フッ化アルミニウムコーティングを施したLMOを使用して、上で概説した手順に従ってコインセル電池を作製した。コインセル電池を、以下の実施例で述べるように試験した。
【0073】
示差走査熱量測定法(DSC)を使用して、カソード活性材料の安定性を調べた。図7に、DSC結果を、コーティングなしのLMO粒子、および4つの異なるコーティング厚さを有する粒子に関して示す。温度の関数としての熱流のピークは、材料の相転移または同様の変化を示す。図4から、低温活性相に対して、すべてのコーティング厚さが材料を安定させることが見て取れるが、より大きなコーティング厚さが安定性をさらに高めた。したがって、これらの材料を用いて作製する電池は、コーティングを施したLMO材料が正極で使用される場合、より高い温度で、より大きな温度安定性を示すはずであると予想される。
【0074】
実施例3−AlF3コーティングを施した試料に関する電池性能
この実施例は、ある範囲のAlF3コーティング厚さに関して、および様々な電池性能パラメータに関して、コーティング厚さに対して電池性能がどのように変化したかを示す。
【0075】
電気化学インピーダンス分光法(EIS)を使用して、正極のインピーダンスを検査した。このデータは、コーティングを施した材料の界面特性に関する情報を提供する。電極は、正弦波の形での電流によって外乱を与えられる。図8に、EIS結果のプロットを示す。これらの結果は、より大きい電荷移動抵抗が、より厚いAlF3コーティングから得られることを示す。
【0076】
上述したプロセスおよびコインセル構造を使用して、実施例2で述べたようにして合成された材料からコインセル電池を作製した。セルの性能を評価するためにセルをサイクルさせた。最初の3回のサイクルは、0.1Cの充電/放電速度で測定した。次の3回のサイクルは、0.2Cの充電/放電速度で測定した。後に続くサイクルは、0.33Cの充電/放電速度で測定した。
【0077】
3nmのフッ化アルミニウムコーティングを施したLMO材料から作製したコインセル電池の比容量に対する電圧のプロットを、0.1Cの充電/放電速度での初回のサイクルに関して図9(a)に示し、0.33Cの充電/放電速度での7回目のサイクルに関して図9(b)に示す。0.1Cの放電速度での電池の初回のサイクルでの比容量は、約265mAh/gであった。0.33Cの放電速度での電池の初回のサイクルでの比容量は、約250mAh/gである。コインセル電池のサイクルに対する比容量も試験した。その結果を図10に示す。電池の正極活性材料は、40回の充電および放電サイクルを経た後に、最初のC/3サイクルであるサイクル7に対して95%超の比容量を維持していた。
【0078】
22nmのフッ化アルミニウムコーティングを施したLMO材料から作製したコインセル電池の比容量に対する電圧のプロットを、0.1Cの放電速度での初回のサイクルに関して図11(a)に示し、C/3の放電速度での7回目のサイクルに関して図11(b)に示す。0.1Cの放電速度での電池の初回のサイクルでの比容量は、約260mAh/gであった。0.33Cの放電速度での電池の7回目のサイクルでの比容量は、約235mAh/gであった。コインセル電池のサイクルに対する比容量も試験した。その結果を図12に示す。電池は、40回の充電および放電サイクルを経た後に、7回目のサイクルの比容量に対して約98%の比容量を維持した。
【0079】
コーティングなし、ならびに3nm、6nm、11nm、22nm、および40nmのフッ化アルミニウムコーティングを施したLMO材料から作製したコインセル電池のサイクルに対する比容量を試験した。その結果を図13に示す。コーティングを施したLMO材料を用いた電池は、コーティング厚さの関数としての比容量性能の複雑な関係を示した。6nmフッ化アルミニウムコーティングを有するLMO材料を用いた電池は、低いサイクル数では最高の比容量を有し、一方、4nmフッ化アルミニウムコーティングを有するLMO材料を用いた電池は、40サイクルで最高の容量を有した。40nmのコーティングを有するLMO材料を用いた電池は、最低の比容量を有し、これは、コーティングなしの材料を用いた電池よりも低かったが、この電池は、サイクリングに伴って容量のわずかな増加を示した。
【0080】
コーティングなし、ならびに3nm、6nm、11nm、22nm、および40nmのフッ化アルミニウムコーティングを施したLMO材料を有する電池の初回のサイクルでの不可逆容量損失(IRCL)を測定した。コーティング厚さに対する全体容量のパーセンテージの結果のプロットを図14aに示し、コーティング厚さの関数としての比容量変化の結果のプロットを図14bに示す。IRCLの結果は、約10nmまでのコーティング厚さを有する電池に関して、IRCLの一定の減少を示した。IRCLは、11nm、22nm、および40nmのフッ化アルミニウムコーティングを施したLMO材料を有する電池に関してはほぼ横ばいであった。
【0081】
コーティングなし、ならびに3nm、6nm、11nm、22nm、および40nmのフッ化アルミニウムコーティングを施したLMO材料を用いた正極を有する電池に関して、電池の平均電圧を測定した。平均電圧は、4.6Vから2.0Vへの放電にわたって測定した。図15aに、コーティング厚さの関数としての平均電圧のプロットを示し、図15bに、コーティング厚さの関数として、コーティングなしの材料性能に対する電圧減少のパーセンテージのプロットを示す。一般に、平均電圧は、LMO材料上のフッ化アルミニウムコーティング厚さの増加に対して減少を示したが、平均電圧の減少は、6nm以下のコーティングに関しては小さかった。
【0082】
さらに、コーティングなし、ならびに3nm、6nm、11nm、22nm、および40nmのフッ化アルミニウムコーティングを施したLMO材料を有する電池のクーロン効率を測定した。本明細書で使用するとき、クーロン効率は、C/3の速度での最初のサイクルであるサイクル7での比容量のパーセンテージとしてのサイクル40での比容量として評価する。すなわち、クーロン効率は、100×(サイクル40での比容量)/(サイクル7での比容量)である。図16に、コーティング厚さの関数としてのクーロン効率のプロットを示す。クーロン効率は、コーティング厚さが0から3nmに増加されたとき、約2%増加した。次いで、コーティング厚さが3nmから6nmおよび11nmに増加されたとき、大幅に減少した。コーティング厚さが22nmおよび40nmのときには、正極活性材料を用いて作製した電池に関してクーロン効率は急激に増加した。
【0083】
実施例4−金属二フッ化物コーティングを有する材料、および対応する電池
この実施例は、リチウムリッチ金属酸化物上でのMgF2、CaF2、BaF2、およびSrF2のコーティングの形成を示した。対応するコインセルデータを提示し、このデータは、コーティングを施した材料に関する改良された性能を示す。
【0084】
実施例1で述べたのと同様に合成されたリチウム金属酸化物(LMO)粒子の試料に、1〜4nmのMgF2、CaF2、BaF2、およびSrF2コーティングを施した。化学量論量の選択された金属硝酸塩、例えば硝酸マンガンを水中に溶解し、対応する量のリチウム金属酸化物と、絶え間なく撹拌しながら混合した。次いで、フッ化アンモニウムを、撹拌を続けながらゆっくりと混合物に添加した。余剰のフッ化アンモニウムの添加後、混合物を約5時間にわたって約80℃に加熱した。堆積が完了した後、混合物を濾過して、窒素雰囲気中で450℃で5時間焼成した。図17に、金属二フッ化物コーティングを施したLMO試料のX線回折パターンを、対応する真性の、すなわちコーティングなしの試料に関する回折図形と共に示す。X線回折図形はすべて、コーティングなしのLMO試料として、岩塩タイプの構造の特性を示す。図18Aおよび図18Bに、透過型電子顕微鏡写真を、MgF2(A)コーティングを施した試料と、SrF2(B)コーティングを施した試料に関して示す。
【0085】
金属二フッ化物コーティングを施したLMOを使用して、上に概説した手順に従ってコインセル電池を作製した。図19に、C/10の速度でのコーティングなしの材料に関する初回のサイクルについて、比充電容量および比放電容量に対する4.6Vから2.0Vの電圧のプロットを示す。LMO材料のこのバッチは、図4aを得るために使用したコーティングなしの材料と比べて、わずかに大きい比容量を有する。図20〜図23に、C/10の速度で、比充電容量および比放電容量に対する電圧の対応するプロットを、それぞれMgF2、SrF2、BaF2、およびCaF2に関して示す。異なる金属二フッ化物コーティングを有する正の電気活性材料を用いた電池に関する初回のサイクルのこれら4つのプロットは、同様の初回サイクル性能を示し、MgF2コーティングを有する材料がいくぶん高い放電比容量を示した。これらのセルは、16サイクルにわたってサイクルさせ、サイクル1および2に関してはC/10の速度、サイクル3および4に関してはC/5の速度、サイクル5および6に関してはC/3の速度、サイクル7〜11に関しては1Cの速度、サイクル12〜16に関しては2Cの速度であった。サイクリング結果を図24に示す。コーティングを施した試料を用いて用意した電池はすべて、コーティングなしの組成物を用いて作製した電池に比べて、すべての速度で大幅に大きい放電比容量を示した。SrF2、BaF2、およびCaF2のコーティングを有する材料を用いて作製した電池は同様の性能を示したが、MgF2コーティングを施した正の電気活性材料を用いて作製した電池は、すべての速度でいくぶん高い比放電容量を示した。
【0086】
実施例5−AlF3コーティングを施した組成物を用いて作製したコインセル
この実施例は、負極活性材料として黒鉛を使用するコインセル電池に関する電池性能を調べる。
【0087】
実施例1で述べたのと同様に製造したリチウム金属酸化物(LMO)粉末を、アセチレンブラックと黒鉛の混合物など、導電性カーボンと完全に混合させて、10〜20重量パーセントの導電性カーボンを含む均質な粉末混合物を生成した。それとは別に、フッ化ポリビニリデン(PVDF)をN−メチル−ピロリドン(NMP)と混合し、一晩撹拌して、PVDF−NMP溶液を生成した。次いで、均質な粉末混合物をPVDF−NMP溶液に添加して、2〜6時間混合して、均質なスラリを生成した。市販の塗布器を使用して、アルミニウム箔集電体上にスラリを塗布して湿潤薄膜を形成した。
【0088】
NMPを除去するために、湿潤薄膜電極を設けられたアルミニウム箔集電体を乾燥させることによって、正極構造を形成した。正極と集電体を薄板圧延機のローラの間で圧延して、箔集電体と合わさって所望の厚さを有する正極を得た。
【0089】
負極として、黒鉛と、任意選択の導電性カーボンと、バインダのブレンドを使用し、これは約80〜99重量パーセントの黒鉛を有する。負極組成物を銅箔集電体上にコーティングして、乾燥させた。電解質で浸漬された3層(ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン)の微孔性隔離板(Celgard, LLC(米国ノースカロライナ州)からの2320)を正極と負極の間に配置した。電解質をさらに数滴、電極の間に加えた。正極−隔離板−負極を備える電極スタックをコインセル内部に配置した。電解質は、(Ferro Corp.(米国オハイオ州)からの)体積比1:1:1でのエチレン炭酸塩、ジエチル炭酸塩、およびジメチル炭酸塩の混合物中にLiPF6塩を溶解させることによって生成したLiPF6の1M溶液とした。電極スタックを備えるセル内に電解質を入れ、コインセルを封止した。
【0090】
得られた電池をMaccorサイクルテスタで試験して、数サイクルにわたる充電−放電曲線およびサイクル安定性を得た。初回のサイクルを、C/10の速度で行い、サイクル2〜50は、C/3の速度で行った。図25に、コーティングなし、すなわち真性の試料と、5つの異なるAlF3コーティング厚さを有する試料に関する結果を、サイクルの関数としての比容量に関してプロットする。厚さ3nmのAlF3コーティングを用いて作製した電池は、最初の数サイクルの後に、かなり大きい比容量を示した。
【0091】
実施例6−AlF3コーティングを施した代替の正の電気活性組成物、および対応する電池
この実施例は、選択された量のAlF3コーティング組成物を有する正極に関する代替の電気活性材料を用いた電池性能結果を示す。
【0092】
実施例1で述べたのと同様に正極活性材料を合成した。しかし、この実施例における電池の正極に関して使用した生成物組成は、Li1.07Ni0.31Co0.31Mn0.31O2であった。実施例2で述べたのと同様に、生成物組成物の粒子にAlF3コーティングを施した。異なる量のAlF3コーティング組成物を用いて試料を調製した。図26Aおよび図26Bに、典型的な透過型電子顕微鏡写真を示し、これらは、約3nm(A)および約17nm(B)の平均コーティング厚さを示す。
【0093】
上述したプロセスおよびコインセル構造を使用してコインセル電池を作製した。セルの性能を評価するためにセルをサイクルさせた。最初の2回のサイクルは、0.1Cの充電/放電速度で測定した。後に続くサイクル3〜18は、0.33Cの充電/放電速度で測定した。1組の試料を2.0Vと4.3Vの間でサイクルさせ、第2の組の試料は2.0Vから4.5Vでサイクルさせた。
【0094】
図27および図28に、コーティングなしの正極活性材料、およびコーティングなしの活性材料を有する正極活性材料(図27)、または厚さ約3nmのAlF3コーティングを施した正極活性材料(図28)について、2.0Vと4.3Vの間のサイクリングに関して、比容量の関数としての電圧をプロットした。コーティングを施した試料を用いて作製した電池は、より大きな放電容量と、対応する不可逆容量損失の減少とを示した。同様の結果が、2.0Vと4.5Vの間のサイクリングで得られた。図29および図30に、それぞれ、コーティングなしの正極活性材料(図29)または約3nmのAlF3コーティングを施した正極活性材料(図30)について、2.0Vと4.45Vの間のサイクリングに関し、比容量の関数としての電圧のプロットを示す。予想されるように、より高い電圧でのサイクリングに関して、充電および放電容量はより大きい。
【0095】
コーティングなし、ならびに3nm、8nm、17nm、22nm、および47nmのフッ化アルミニウムコーティングを施したLMO材料から作製したコインセル電池のサイクルに対する比容量を、2.0Vと4.3Vの間のサイクリングおよび2.0Vと4.5Vの間のサイクリングに関して試験した。図31に、2.0Vと4.3Vの間でのサイクリングに関して、サイクルの関数としての比放電容量を示し、図32に、2.0Vと4.5Vの間でのサイクリングに関して、サイクルの関数としての比放電容量を示す。図31および図32で見られるように、これらのコーティングを施したLMO材料を用いた電池は、異なるコーティング厚さを有するいくつかの材料が実質的に同一の比容量結果を示すものの、コーティング厚さの増加と共に減少する比容量性能を示した。最も厚いコーティングを有する材料は、一貫して、コーティングなしの材料よりも低い比容量を有したが、残りのコーティングを施した材料は、コーティングなしの材料に比べて大きい比容量を示した。これらの結果は、図13および図25の結果と定性的に合致する。図13および図25では、厚いコーティングが、コーティングなしの試料よりも低い比容量を有し、薄いコーティングが、サイクリング時に最良の比容量性能を実現する。
【0096】
上述した実施形態は、限定としてではなく例示として意図したものである。さらなる実施形態が特許請求の範囲内にある。さらに、特定の実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく形態および詳細に変更を加えることができることを当業者は理解されよう。上記文献の参照による援用は、本明細書における明示的な開示に反する主題は組み込まないように限定する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用のコーティングを施した正極活性材料に関し、特に、不活性コーティングを有するリチウムリッチの正極活性材料に関する。さらに、本発明は、選択された正極活性材料コーティングにより性能特性が改良された電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池は、それらの比較的高いエネルギー密度により、家庭用電化製品で広く使用されている。再充電可能な電池は二次電池とも呼ばれ、リチウムイオン二次電池は、一般に、電池が充電されるときにリチウムを取り込む負極材料を有する。いくつかの現在市販されている電池では、負極材料は黒鉛であることがあり、正極材料は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)を含むことがある。実用上は、一般に、正極活性材料の理論上の容量の一部しか使用することができない。また、現在、少なくとも2種の他のリチウムベースの正極活性材料も商業利用されている。これら2種の材料は、スピネル構造を有するLiMn2O4と、オリビン構造を有するLiFePO4である。これら他の材料は、エネルギー密度を大幅には改良していない。
【0003】
一般に、リチウムイオン電池は、それらの用途に基づいて2つのカテゴリーに分類される。第1のカテゴリーは、高出力電池に関わり、リチウムイオン電池セルが、電動工具およびハイブリッド電気自動車(HEV)などの用途のために高電流(アンペア)を供給するように設計される。しかし設計上、高電流を提供する設計は一般に、電池から供給することができる総エネルギーを減少させるので、これらの電池セルのエネルギーは比較的低い。第2の設計カテゴリーは、高エネルギー電池に関わり、リチウムイオン電池セルが、セル式電話、ラップトップコンピュータ、電気自動車(EV)、およびプラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)などの用途のための低〜中電流(アンペア)を供給するように設計され、しかもより高い総容量を供給する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の態様では、本発明は、無機コーティング組成物をコーティングした、組成式Li1+xM1−xO2によって表される活性組成物を含むリチウムイオン電池の正極活性材料であって、Mが、金属元素または金属元素の組合せであり、0.01≦x≦0.3であり、前記コーティング組成物が、金属/メタロイドフッ化物を含むリチウムイオン電池の正極活性材料に関する。
【0005】
さらなる一態様では、本発明は、正極と、リチウムを取り込む組成物を含む負極と、正極と負極の間の隔離板と、リチウムイオンを含む電解質とを備えるリチウムイオン電池に関する。一般に、正極は、活性材料と、異なる導電性粉末と、ポリマーバインダとを備え、正極活性材料は、無機コーティング組成物をコーティングした活性組成物を含む。正極活性材料は、室温で、4.6ボルトから2.0ボルトへ2Cの放電速度で、15回目の充電/放電サイクルに関して少なくとも約190mAh/gの放電比容量を有することができる。いくつかの実施形態では、活性組成物は、組成式Li1+xM1−xO2によって近似的に表すことができ、Mは、金属元素または金属元素の組合せであり、0.01≦x≦0.3であり、無機コーティング組成物でコーティングされる。
【0006】
別の態様では、本発明は、正極と、リチウムを取り込む組成物を含む負極と、正極と負極の間の隔離板とを備えるリチウムイオン電池に関し、正極が、無機組成物コーティングを施した活性組成物を有する活性材料と、異なる導電性粉末と、ポリマーバインダとを含む。正極活性材料は、少なくとも約245mAh/gの放電比容量と、少なくとも約3.55ボルトの平均電圧と、室温で、4.6ボルトから2.0ボルトへC/3の放電速度で、10サイクルでの容量の少なくとも約90%である40サイクルでの容量とを有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】容器から分離された電池構造の概略図である。
【図2】異なる倍率で示した、基準バーに関してそれぞれ(a)100ミクロンおよび(b)20ミクロンの分解能での、コーティングなしの高容量カソードリチウム酸化物材料、ならびに異なる倍率で示した、基準バーに対してそれぞれ(c)100ミクロンおよび(d)20ミクロンの分解能での、AlF3コーティングを施した高容量カソードリチウム金属酸化物材料の1組のSEM写真を示す図である。
【図3】コーティングなし(真性)の高容量カソードリチウム金属酸化物材料の試料、および様々な厚さのAlF3コーティングを施した試料のX線回折スペクトルのプロットを示す図である。
【図4】(a)初回のサイクルに関して0.1Cの充電/放電速度で、および(b)7回目のサイクルに関して1/3Cの充電/放電速度で、2.0V〜4.6Vの電圧範囲内でサイクルさせた、コーティングなしの高い比容量のカソードリチウム金属酸化物材料の比容量に対するセル電圧の1組の2つのプロットを示す図である。
【図5】最初の3回のサイクルに関して0.1C、サイクル番号4〜6に関して0.2C、およびサイクル番号7〜40に関して0.33Cでサイクルさせた、コーティングなしの高容量のカソードリチウム金属酸化物材料のサイクル数に対する比放電容量のプロットを示す図である。
【図6】(a)コーティングなしの、(b)7nmのAlF3コーティングを施した、および(c)25nmのAlF3コーティングを施した高い比容量のカソードリチウム金属酸化物材料の1組のTEM写真を示す図である。
【図7】高容量の正極活性材料に関するコーティングなしの試料およびコーティングを施した4つの試料に関する示差走査熱量測定データのプロットを示す図である。
【図8】コーティングを施した5つの材料の試料に関して、それらの正極活性材料を用いて作製した電極に関する電気化学インピーダンス分光測定結果のプロットを示す図である。
【図9】(a)初回のサイクルに関して0.1Cの充電/放電速度で、および(b)7回目のサイクルに関して1/3Cの充電/放電速度で、2.0V〜4.6Vの電圧範囲内でサイクルさせた、3nmのAlF3コーティングを施した高容量カソードリチウム金属酸化物材料の比放電容量に対するセル電圧の1組の2つのプロットを示す図である。
【図10】最初の3回のサイクルに関して0.1C、サイクル番号4〜6に関して0.2C、およびサイクル番号7〜40に関して0.33Cでサイクルさせた、3nmのAlF3コーティングを施した高い比容量のカソードリチウム金属酸化物材料のサイクル数に対する比放電容量のプロットを示す図である。
【図11】(a)初回のサイクルに関して0.1Cの放電速度で、および(b)7回目のサイクルに関して1/3Cの放電速度で、2.0V〜4.6Vの電圧範囲内でサイクルさせた、22nmのAlF3コーティングを施した高い比容量のカソードリチウム金属酸化物材料の比放電容量に対するセル電圧の1組の2つのプロットを示す図である。
【図12】最初の3回のサイクルに関して0.1C、サイクル番号4〜6に関して0.2C、およびサイクル番号7〜40に関して0.33Cでサイクルさせた、22nmのAlF3コーティングを施した高い比容量のカソードリチウム金属酸化物材料のサイクル数に対する比放電容量のプロットを示す図である。
【図13】最初の3回のサイクルに関して0.1C、サイクル番号4〜6に関して0.2C、およびサイクル番号7〜40に関して0.33Cでサイクルさせた、コーティングなし、および5つの異なるAlF3コーティング厚さを有する高い比容量のカソードリチウム金属酸化物材料に関するサイクル数に対する比放電容量の1組の比較プロットを示す図である。
【図14】高い比容量のカソード材料の(a)AlF3コーティング厚さに対するパーセンテージでの不可逆容量損失(IRCL)と、(b)AlF3コーティング厚さに対する比IRCLとの1組の2つのプロットを示す図である。
【図15】高い比容量のカソード材料の(a)AlF3コーティング厚さに対する平均電圧と、(b)AlF3コーティング厚さに対する平均電圧減少のパーセンテージとの1組の2つのプロットを示す図である。
【図16】高い比容量のカソード材料のAlF3コーティング厚さに対する、0.33Cでサイクルさせた初回のサイクルと34回目のサイクルの間のクーロン効率のプロットを示す図である。
【図17】4種の異なる金属二フッ化物コーティングの1つを用いたリチウム金属酸化物に関するX線回折図形のプロットを示す図である。
【図18】(A)平均厚さが約3nmのMgF2、および(B)平均厚さが約2nmのSrF2に関するコーティングを示す1組の透過型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図19】コーティングなしの高容量の正極活性材料を用いて作製した電池について、C/10の速度での初回の充電および放電サイクルに関する比容量に対するセル電圧のプロットを示す図である。
【図20】MgF2コーティングを施された高容量の正極活性材料を用いて作製した電池について、C/10の速度での初回の充電および放電サイクルに関する比容量に対するセル電圧のプロットを示す図である。
【図21】SrF2コーティングを施された高容量の正極活性材料を用いて作製した電池について、C/10の速度での初回の充電および放電サイクルに関する比容量に対するセル電圧のプロットを示す図である。
【図22】BaF2コーティングを施された高容量の正極活性材料を用いて作製した電池について、C/10の速度での初回の充電および放電サイクルに関する比容量に対するセル電圧のプロットを示す図である。
【図23】CaF2コーティングを施された高容量の正極活性材料を用いて作製した電池について、C/10の速度での初回の充電および放電サイクルに関する比容量に対するセル電圧のプロットを示す図である。
【図24】コーティングなしの正極活性材料、またはMgF2、SrF2、BaF2、もしくはCaF2コーティングを施した正極活性材料を用いてそれぞれ作製した5つの電池に関するサイクル数の関数としての比放電容量のプロットを示す図である。
【図25】黒鉛を含む負極と、コーティングなし、または示されている平均厚さでAlF3コーティングを施した高容量の活性材料を有する正極とを用いて作製したコインセル電池に関するサイクル番号の関数として比放電容量のプロットのグラフを示す図である。
【図26】平均厚さが約3nm(A)および約17nm(B)の第2のリチウムリッチ活性材料上のAlF3コーティングを示す1組の2つの透過型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図27】代替の正極活性材料を用いて作製した電池について、2.0Vと4.3Vの間でのサイクリングで、C/10の速度での初回の充電および放電サイクルに関する比容量に対するセル電圧のプロットを示す図である。
【図28】AlF3コーティングを有する代替の正極活性材料を用いて作製した電池について、2.0Vと4.3Vの間でのサイクリングで、C/10の速度での初回の充電および放電サイクルに関する比容量に対するセル電圧のプロットを示す図である。
【図29】代替の正極活性材料を用いて作製した電池について、2.0Vと4.5Vの間でのサイクリングで、C/10の速度での初回の充電および放電サイクルに関する比容量に対するセル電圧のプロットを示す図である。
【図30】AlF3コーティングを有する代替の正極活性材料を用いて作製した電池について、2.0Vと4.5Vの間でのサイクリングで、C/10の速度での初回の充電および放電サイクルに関する比容量に対するセル電圧のプロットを示す図である。
【図31】最初の2つのサイクルに関しては0.1Cで、サイクル3〜18に関しては0.33Cでサイクルさせた、コーティングなし、および5つの異なるAlF3コーティング厚さを有する代替の正極活性材料に関するサイクル数に対する比放電容量の1組の比較プロットを示す図である。
【図32】最初の2つのサイクルに関しては0.1Cで、サイクル3〜18に関しては0.33Cで2.0Vと4.5Vの間でサイクルさせた、コーティングなし、および5つの異なるAlF3コーティング厚さを有する代替の正極活性材料に関するサイクル数に対する比放電容量の1組の比較プロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
リチウムリッチ金属酸化物に、より小さい厚さで効果的にメタロイドフッ化物コーティングを施して、得られるリチウムイオン電池の性能を大幅に改良することができることが発見されている。リチウムリッチ金属酸化物は、高い電圧まで安定して充電することができ、得られる放電容量は、いくつかのより低い電圧の材料に比べて高い。コーティングは、得られる電池の様々な特性を改良することができる。特に、コーティングを施した材料は、高い平均電圧を示すことができ、この高い平均電圧は、広範囲の電池容量にわたってより一定の電圧を提供することができる。これらの材料は、商業生産の規模に容易に拡張できる技法を使用して効果的に合成することができる。さらに、これらの材料を高いタップ密度で合成することができ、それにより、得られる電圧は、所与の電池体積に関して高い実効容量を示すことができる。さらに、電池は、中速の充電および放電で、高い比容量および優れたサイクリングを示す。また、薄い不活性金属酸化物または金属リン酸塩コーティングも、これらの材料を用いて形成される得られる電池のための所望の性能特性を提供することができる。したがって、これらの材料は、プラグインハイブリッド電気自動車など、中速の放電速度性能に関わる商業用途に効果的に使用することができる。
【0009】
本明細書で述べるリチウムイオン電池は、高い比容量および高い全体容量を示しながら、サイクリング性能の改良を実現する。リチウムリッチ金属酸化物のための適した合成技法としては、例えば共沈手法またはゾルゲル合成がある。金属フッ化物コーティング、金属酸化物コーティング、または他の適切なコーティングの使用が、サイクリング性能を向上させる。また、正極材料が、放電サイクルにわたって高い平均電圧を示し、それにより電池は、高い比容量と共に高い電力出力を有する。また、これらの材料は、驚くほど高速で、例えば2C放電速度で、高い比容量を示すこともできる。比較的高いタップ密度および優れたサイクリング性能により、電池は、サイクルさせたときに、継続的な高い容量を示す。さらに、正極材料は、電池の初回の充電および放電サイクル中の不可逆容量損失の量の減少を示し、したがって、それに対応して、負極材料を減少させることができる。優れたサイクリング性能、高い比容量、および高い全体容量の組合せにより、これらの得られるリチウムイオン電池は、特に電気自動車やプラグインハイブリッド自動車など高エネルギー用途のための改良された電源となる。
【0010】
本明細書で述べる電池は、非水性電解質溶液がリチウムイオンを含むリチウムイオン電池である。二次リチウムイオン電池では、放電中にリチウムイオンが負極から解放され、したがって負極は放電中にアノードとして働き、電極からのリチウムの解放時、リチウムの酸化により電子が生成される。それに対応して、正極は、放電中にインターカレーションまたは同様のプロセスによってリチウムイオンを取り込み、したがって正極は、放電中に電子を消費するカソードとして働く。二次電池の再充電時、電池を通るリチウムイオンの流れは逆になり、負極がリチウムを取り込み、正極がリチウムイオンとしてリチウムを解放する。一般に、電池は、正極材料内にリチウムイオンがある状態で作製され、したがって、電池の最初の充電により、正極材料から負極材料へかなりの割合のリチウムを移動させて、放電できるように電池を準備する。
【0011】
本明細書では、用語「元素」は、従来の用法で周期表の要素を表すものとして使用し、元素は、組成物中にある場合には適切な酸化状態であり、元素形態であることが明記されているときにのみ、その元素形態M0である。したがって、金属元素は一般に、その元素形態、または金属の元素形態の対応する合金でのみ、金属状態である。すなわち、金属合金以外の金属酸化物または金属組成物は、一般に金属性ではない。
【0012】
いくつかの実施形態では、リチウムイオン電池は、基準となる均質な電気活性リチウム金属酸化物組成物に対してリチウムリッチの正極活性材料を使用することができる。いくつかの実施形態では、余剰のリチウムは、組成物LiMO2を基準とすることができ、ここで、Mは、平均酸化状態が+3の1つまたは複数の金属である。最初のカソード材料中の追加のリチウムは、充電中に負極に移動させることができる対応する追加のリチウムを提供し、これは、カソード活性材料の所与の重量に関して電池容量を増加させることができる。いくつかの実施形態では、追加のリチウムは、より高い電圧で利用可能であり、したがって、最初の充電は、より高い電圧で行われて、正極の追加のリチウムによって提供される追加の容量を利用可能にする。
【0013】
適切に生成されたリチウムリッチのリチウム金属酸化物は複合結晶構造を有し、この結晶構造内で、余剰のリチウムは、代替の結晶相の生成を支援すると考えられる。例えば、リチウムリッチ材料のいくつかの実施形態では、Li2MnO3材料を、層状LiMnO2成分と構造的に一体化させることができ、または適切な酸化状態を有する他の遷移金属カチオンでマンガンカチオンが置換された同様の複合組成物と構造的に一体化させることができる。いくつかの実施形態では、正極材料は、xLi2M’O3・(1−x)LiMO2として2成分表記で表すことができ、ここでMは、平均原子価(valance)が+3の1つまたは複数の金属カチオンであり、少なくとも1つのカチオンがMnイオンまたはNiイオンであり、M’は、平均原子価(valance)が+4の1つまたは複数の金属カチオンである。これらの組成は、例えば、参照により本明細書に援用するThackerayらの「Lithium Metal Oxide Electrodes for Lithium Cells and Batteries」という名称の米国特許第6,680,143号明細書にさらに記載されている。特に興味深い正極活性材料は、組成式Li1+xNiαMnβCoγAδO2を有し、ここで、xは約0.05〜約0.3の範囲内であり、αは約0.1〜約0.4の範囲内であり、βは約0.3〜約0.65の範囲内であり、γは約0〜約0.4の範囲内であり、δは約0〜約0.15の範囲内であり、Aは、Mg、Sr、Ba、Cd、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、Li、またはそれらの組合せである。
【0014】
さらに、参照により本明細書に援用する本願と同時係属中のLopezらの「Positive Electrode Material for High Specific Discharge Capacity Lithium Ion Batteries」という名称の米国特許出願第12/332,735号明細書(‘735出願)に記載されているように、Li[Li0.2Ni0.175Co0.10Mn0.525]O2に関して、驚くほど大きい容量が得られている。‘735出願における材料は、炭酸塩共沈プロセスを使用して合成された。また、参照により本明細書に援用するVenkatachalamらの「Positive Electrode Material for Lithium Ion Batteries Having a High Specific Discharge Capacity and Processes for the Synthesis of these Materials」という名称の米国特許出願第12/246,814号明細書(‘814出願)に記載されているように、水酸化物共沈およびゾルゲル合成手法を使用してこの組成物に関して非常に高い比容量が得られた。これらの組成物は、層状構造を有するとともに、いくつかの他の高容量のカソード材料に比べてニッケル量が少ないというそれら特有の組成により、発火の危険性が低く、安全性特性が改良される。これらの組成物は、環境保護の観点からあまり望ましくない元素の使用量が少なく、また、商業規模での生産に手頃なコストの開始材料から製造することができる。
【0015】
組成中にニッケル、コバルト、およびマンガンカチオンを有し、高い比容量性能を示す本明細書で述べる所望のリチウムリッチ金属酸化物材料に関して、炭酸塩共沈プロセスが行われている。これらの材料は、高い比容量に加えて、優れたタップ密度を示し、これは、固定体積用途において材料の全体容量を高める。以下の実施例で示されるように、炭酸塩共沈プロセスによって生成されるリチウムリッチ金属酸化物材料は、性能特性を改良する。具体的には、炭酸塩共沈プロセスによって生成される前段の特定のリチウムリッチ組成物を、コーティングを施した形態で使用して、以下の実施例での結果を生み出す。
【0016】
インターカレーションベースの正極活性材料を有する対応する電池が使用されるとき、格子へのリチウムイオンのインターカレーションおよび格子からのリチウムイオンの解放が、電気活性材料の結晶格子の変化を誘発する。これらの変化が実質的に可逆である限り、材料の容量は、サイクリングと共に大幅には変化しない。しかし、活性材料の容量は、多かれ少なかれサイクルと共に減少することが観察される。したがって、ある回数のサイクル後、電池の性能は許容値未満に低下し、電池が交換される。また、電池の初回のサイクルにおいて、一般に、後続のサイクルでの1サイクル当たりの容量損失よりもかなり大きい不可逆の容量損失が生じる。この不可逆の容量損失は、新しい電池の充電容量と初回の放電容量の差である。この初回のサイクルでの不可逆容量損失を補償するために、余剰の電気活性材料が負極に含まれ、それにより、この損失した容量は戻らないにせよ、電池の寿命の大半にわたって完全に電池を充電することができる。不可逆容量損失を補償するために追加の負極活性材料を含めることにより、負極材料は本来的に消耗される。一般に、不可逆容量損失(lose)は、電池材料の初回の充電−放電サイクル中の変化に起因することがあり、この変化は、電池の後続のサイクリング中に実質的に維持される。これらの不可逆容量損失のいくらかは、正極活性材料に起因することがあり、本明細書で述べるコーティングを施した材料が、電池の不可逆容量損失の減少をもたらす。
【0017】
適切なコーティング材料が、材料の長期サイクリング性能を改良することができ、かつ初回のサイクルでの不可逆容量損失を減少させることができる。理論に拘束されることを望まないが、コーティングは、リチウムイオンの取込みおよび解放中に正極活性材料の結晶格子を安定させることができ、それにより結晶格子の不可逆変化が大幅に減少される。特に、有効なコーティングとして金属フッ化物組成物を使用することができる。カソード活性材料用のコーティングとしての金属フッ化物組成物、具体的にはLiCoO2およびLiMn2O4の一般的な使用は、参照により本明細書に援用するSunらの「Cathode Active Material Coated with Fluorine Compound for Lithium Secondary Batteries and Method for Preparing the Same」という名称の国際公開第2006/109930A号パンフレットに記載されている。
【0018】
金属フッ化物コーティングが、リチウムリッチ層状正極活性材料をかなり改良することができることが発見されている。特に、AlF3は、材料の価格が手頃であり、またアルミニウムイオンに関連する環境への懸念が比較的小さいので、望ましいコーティング材料となり得る。しかし、他の金属フッ化物も適している。コーティング材料に関連付けられる性能改良は、長期サイクリングに関係することがあり、容量劣化の大幅な減少、初回のサイクルでの不可逆容量損失の大幅な減少、および全般的に容量の改良を伴う。セルサイクリング中にコーティング材料は不活性であると考えられているので、コーティング材料が活性材料の比容量を高めることができることは驚きである。コーティング材料の量は、観察される性能改良が顕著になるように選択することができる。リチウムリッチ正極活性材料の改良は、‘735出願および‘814出願にさらに記載されている。
【0019】
また、本明細書で述べる材料は大きいタップ密度も示す。一般に、比容量が同等であるとき、正極材料のタップ密度が大きければ大きいほど、電池の全体容量が高くなる。また、活性材料の大きなタップ密度により、より大きな比エネルギーおよび比出力を有する電池を作製することもできる。一般に、より大きな容量を有する電池は、特定の用途に関して、放電時間をより長くすることができる。したがって、これらの電池は、明確に改良された性能を示すことができる。充電/放電測定中、材料の比容量は、放電速度に応じて決まることに留意することが有用である。特定の材料の最大比容量は、非常に遅い放電速度で測定される。実用上は、放電は比較的速度が速いので、実際の比容量は最大値未満である。より現実的な比容量は、実際の使用中に生じる速度により近い妥当な放電速度を使用して測定することができる。低速〜中速の用途では、妥当な試験速度は、3時間にわたる電池の放電に関わる。慣例的な表記では、これは、C/3または0.33Cと書かれる。望みに応じて、より速いまたはより遅い放電速度を使用することができる。
【0020】
一般に、電池性能特性の改良は、同じコーティング厚さとすべてが相関するわけではない。以下で、これらの特性をより詳細に考察し、対応する結果を実施例に示す。要約すると、約10ナノメートル(nm)のコーティング厚さでの不可逆容量損失プラトーの減少である。平均電圧に関して、コーティングは、平均電圧を減少させる傾向があるが、より薄いコーティングでは、平均電圧は大幅には減少されない。比容量に関して、比容量は、コーティング厚さが増加するにつれて、始めは増加し、次いで減少する。比容量の結果は、サイクリングおよび放電速度と共に変化する。
【0021】
1組の結果を以下の実施例に示す。これらは、妥当な長期サイクリング特性を有する高電圧電池に関して、所望の電池特性に関する適切なコーティング厚さを評価するのに有用な情報を提供する。厚さが約20nm以上のより厚い金属フッ化物コーティングは、不可逆容量損失を大幅に減少させることが判明している。また、これらの厚いコーティングを有する材料は、C/3の速度で、34回の充電−放電サイクルにわたって良好なサイクリングを示す。しかし、これらの材料は、平均電圧の大幅な低下を示す。また、より厚いコーティングを有するこれらの材料は、より薄いコーティングに比べて比容量の減少を示す。より厚いコーティングを有する材料に関する比容量の低下は、より高い速度でより顕著であり、これは、より厚いコーティングが、そこを通るリチウムイオンの移動を妨げることを示唆することがある。
【0022】
約8nm〜約20nmの間の中厚の金属フッ化物コーティングでは、材料は、より大きいコーティング厚さを有する材料で観察される不可逆容量損失に比べてかなりの減少を示す。さらに、平均電圧は、より厚いコーティングを用いて得られる平均電圧よりも大きい。さらに、同様に、これらの材料の比容量は、より大きいコーティング厚さを有する同じ活性組成物に関する比容量も大きい。しかし、中厚のコーティングを有する正極活性材料は、より大きなコーティング厚さを有する材料に比べてクーロン効率がかなり低いことがある。すなわち、より大きいコーティング厚さを有する材料の比容量は、サイクリングと共に、より急速に減衰する。したがって、より多くの回数のサイクルに結果が外挿された場合、中厚の金属フッ化物コーティングを有する正極活性材料は、ほとんどの用途で、望ましくなく悪いサイクリング特性となることが予想される。
【0023】
意外にも、より薄い金属フッ化物コーティングを有する正極活性材料は、驚くほど望ましい結果を示す。すなわち、約0.5nm〜約12nmのコーティング厚さを有する金属フッ化物コーティングを有する正極活性材料は、電池に組み込まれたときに、望ましい、驚くほど優れた特性を有する。これらの材料は、不可逆容量損失の減少をあまり示さない。しかし、不可逆容量損失は、より長期のサイクリングの文脈では、最も重要な材料特性ではない。より薄い金属フッ化物コーティングを有する正極活性材料は、より大きい平均電圧を有し、これは、コーティングなしの材料の平均電圧と同等であることがある。これらの材料は、高い初期比容量を有することができ、また、望ましいクーロン効率を示すことができ、中速で少なくとも40サイクルまでは、サイクリングに伴う減衰が低い。
【0024】
再充電可能な電池には様々な用途があり、例えば、電話などの移動体通信デバイス、MP3プレーヤやテレビジョンなどのモバイルエンターテインメントデバイス、ポータブルコンピュータ、広い用途があるこれらのデバイスの組合せ、ならびに自動車やフォークリフトなどの輸送デバイスである。これらの電子デバイスで使用される電池のほとんどが固定体積を有する。したがって、これらの電池で使用される正極材料が高いタップ密度を有し、それにより、実質的により多くの充電可能な材料が正極内に存在して、より高い総電池容量を生み出すことが非常に望ましい。比容量、タップ密度、およびサイクルに関して改良された正極活性材料を組み込む本明細書で述べる電池は、特に中電流用途で、改良された性能を消費者に提供することができる。
【0025】
本明細書で述べる電池は車両用途に適している。特に、これらの電池は、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、および純電気自動車用の電池パックで使用することができる。これらの車両は、一般に、重量、体積、および容量のバランスを取るように選択された電池パックを有する。より大きな電池パックは、より広範囲の電気的動作を提供することができるが、より場所を取り、したがって他の目的では利用できず、また重量がより重く、これは性能を低下させることがある。したがって、本明細書で述べる電池の高い容量により、所望の総電力量を生み出す電池パックを妥当な体積で形成することができ、またそれに対応して、これらの電池パックは、本明細書で述べる優れたサイクル性能を実現することができる。
【0026】
電池構造
図1を参照すると、電池100が概略的に示されており、この電池100は、負極102と、正極104と、負極102と正極104の間の隔離板106とを有する。電池は、積層などの形で、適切に配置された隔離板と共に複数の正極および複数の負極を備えることができる。電極と接触する電解質は、逆極性の電極間の隔離板を通るイオン伝導性を生み出す。電池は、一般に、負極102および正極104にそれぞれ関連付けられた集電体108、110を備える。
【0027】
リチウムは、一次電池と二次電池との両方に使用されている。リチウム金属の魅力的な特徴は、それが軽量であること、および最も陽性の強い金属であることであり、有利には、これらの特徴のいくつかの側面をリチウムイオン電池にも取り入れることができる。特定の形態の金属、金属酸化物、および炭素材料が、インターカレーション、合金化、または同様のメカニズムによって、その構造内にリチウムイオンを取り込むものとして知られている。二次リチウムイオン電池における正極用の電気活性材料として機能する望ましい混合金属酸化物を本明細書でさらに説明する。リチウムイオン電池とは、負極活性材料が、充電中にリチウムを取り込み、放電中にリチウムを解放する電池を表す。リチウム金属自体がアノードとして使用される場合、得られる電池は、一般に単にリチウム電池と呼ばれる。
【0028】
得られる電池電圧はカソードとアノードでの半電池電位の差であるので、負極インターカレーション材料の性質がこの電圧に影響を及ぼす。適した負極リチウムインターカレーション組成物は、例えば黒鉛、人造黒鉛、コークス、フラーレン、五酸化ニオブ、スズ合金、シリコン、酸化チタン、酸化スズ、およびリチウムチタン酸化物、例えばLixTiO2(0.5<x≦1)やLi1+xTi2−xO4(0≦x≦1/3)を含むことができる。さらなる負極材料は、本願と同時係属中のKumarの「Composite Compositions, Negative Electrodes with Composite Compositions and Corresponding Batteries」という名称の米国特許出願公開第2010/0119942号明細書、およびKumarらの「Lithium Ion Batteries with Particular Negative Electrode Compositions」という名称の米国特許出願公開第2009/0305131号明細書に記載されており、どちらの特許出願も参照により本明細書に援用する。
【0029】
正極活性組成物と負極活性組成物は、一般に、対応する電極内にポリマーバインダによって一体に保持された粉末組成物である。バインダは、電解質と接触すると、活性粒子にイオン伝導性を与える。適したポリマーバインダとして、例えば、フッ化ポリビニリデン、ポリエチレンオキシド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリレート、ゴム、例えばエチレン−プロピレン−ジエンモノマー(EPDM)ゴム、またはスチレンブタジエンゴム(SBR)、それらの共重合体、またはそれらの混合物が挙げられる。バインダ中の粒子担持量は大きくすることができ、例えば約80重量パーセントよりも大きくすることができる。電極を作製するために、粉末を、ポリマー用の溶媒など適切な液体中でポリマーとブレンドすることができる。得られたペーストを電極構造に押し入れることができる。いくつかの実施形態では、電池は、参照により本明細書に援用する本願と同時係属中のBuckleyらの「High Energy Lithium Ion Secondary Batteries」という名称の米国特許出願公開第2009/0263707号明細書に記載されている方法に基づいて構成することができる。
【0030】
また、正極組成物、および場合によっては負極組成物は、一般に電気活性組成物とは異なる導電性粉末を含む。適した補助導電性粉末として、例えば、黒鉛、カーボンブラック、金属粉末、例えば銀粉末、金属繊維、例えばステンレス鋼繊維など、およびそれらの組合せが挙げられる。一般に、正極は、約1重量パーセント〜約25重量パーセント、さらなる実施形態では約2重量パーセント〜約15重量パーセントの別の導電性粉末を含むことができる。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲の導電性粉末量が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0031】
電極は、一般に、電極と外部回路の間の電子の流れを促進するために導電性集電体と関連付けられる。集電体は、金属箔や金属グリッドなど金属を含むことができる。いくつかの実施形態では、集電体は、ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼、銅などから形成することができる。集電体上に電極材料を薄膜として鋳造することができる。次いで、電極から溶媒を除去するために、電極材料と集電体を例えばオーブン内で乾燥させることができる。いくつかの実施形態では、集電体箔または他の構造と接触している乾燥させた電極材料に、約2〜約10kg/cm2(キログラム/平方センチメートル)の圧力をかけることができる。
【0032】
隔離板が正極と負極の間に位置される。隔離板は、電気絶縁性であると同時に、2つの電極間での少なくとも選択されたイオンの伝導を可能にする。様々な材料を隔離板として使用することができる。市販の隔離板材料は、一般に、イオン伝導を可能にする有孔シートであるポリエチレンおよび/またはポリプロピレンなどのポリマーから形成される。市販のポリマー隔離板としては、例えば、Hoechst Celanese, Charlotte, N.C.からのCelgard(登録商標)系列の隔離板材料が挙げられる。また、セラミック/ポリマー複合材料が隔離板用に開発されている。これらの複合材隔離板は、より高温で安定であることがあり、この複合材料は発火の危険を大幅に減少させることができる。隔離板材料用のポリマー/セラミック複合材は、参照により本明細書に援用するHennigeらの「Electric Separator, Method for Producing the Same and the Use Thereof」という名称の米国特許出願公開第2005/0031942A号明細書にさらに記載されている。リチウムイオン電池の隔離板用のポリマー/セラミック複合材は、Evonik Industries(ドイツ)によって商品名Separion(登録商標)の下で販売されている。
【0033】
溶媒和イオンを含む溶液を電解質として言及し、適切な液体中で溶媒和イオンを生成するために溶解するイオン組成物を、電解質塩と呼ぶ。リチウムイオン電池用の電解質は、1種または複数種の選択されたリチウム塩を含むことができる。適切なリチウム塩は、一般に不活性アニオンを有する。適したリチウム塩としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ヘキサフルオロヒ酸リチウム、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニルイミド)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、リチウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、テトラフルオロホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、テトラクロロアルミン酸リチウム、塩化リチウム、リチウムジフルオロオキサラトボレート、およびそれらの組合せが挙げられる。従来、電解質は、濃度1Mのリチウム塩を含むが、より高いまたは低い濃度を使用することもできる。
【0034】
対象のリチウムイオン電池に関して、リチウム塩を溶解するために、一般に非水性液体が使用される。溶媒は、一般に電気活性材料を溶解しない。適した溶媒としては、例えば、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、トリグライム(トリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル)、ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、DME(グライムまたは1,2−ジメチルオキシエタンまたはエチレングリコールジメチルエーテル)、ニトロメタン、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0035】
本明細書で述べる電極は、様々な市販の電池設計に組み込むことができる。例えば、カソード組成物は、プリズム形状の電池、巻型円筒形電池、コイン電池、または他の妥当な電池形状に使用することができる。実施例における試験は、コインセル電池を使用して行う。これらの電池は、単一のカソード構造、または並列および/または直列電気接続で組み立てられた複数のカソード構造を備えることができる。正極活性材料は一次電池、すなわち一回使用の電池で使用することもできるが、得られる電池は、一般に、二次電池用途において電池の複数回のサイクルにわたって望ましいサイクリング特性を有する。
【0036】
いくつかの実施形態では、正極と負極を、それらの間に隔離板を挟んで積層することができ、得られた積層構造を円筒形またはプリズム形状に丸めて電池構造を形成することができる。適切な導電性タブを集電体に溶接などで接続することができ、得られたゼリーロール構造を金属缶またはポリマーパッケージ内に配置することができ、負極タブおよび正極タブが適切な外部接点に溶接される。電解質が缶に加えられ、缶が封止されて電池が完成する。いくつかの現在使用されている再充電可能な市販の電池としては、例えば、円筒形の18650電池(直径18mm、長さ65mm)や26700電池(直径26mm、長さ70mm)が挙げられるが、他の電池サイズを使用することもできる。
【0037】
正極活性材料
正極活性材料は、リチウムインターカレーション金属酸化物組成物を含む。いくつかの実施形態では、リチウム金属酸化物組成物は、基準組成物に対してリチウムリッチの組成物を含むことができる。一般に、LiMO2を基準組成物と考えることができ、リチウムリッチ組成物は、適切な組成式Li1+xM1−yO2で表すことができ、ここで、Mは、1つまたは複数の金属を表し、yは、金属の平均原子価(valance)に基づいてxに関係付けられる。いくつかの実施形態では、リチウムリッチ組成物は、一般に層状複合結晶構造を形成すると考えられ、これらの実施形態では、xがyとほぼ等しい。いくつかの実施形態では、組成物は、Ni、Co、およびMnイオンを、任意選択で1つまたは複数の追加の金属イオンドーパントと共に含む。意外にも、ドーパントは、サイクリング後の容量に関して、得られる組成物の性能を改良することが判明している。さらに、コーティングを施した試料に関して、平均電圧をドーピングと共に高めることができ、不可逆容量損失のいくらかの減少も確認されている。所望の電極活性材料は、本明細書で述べる合成手法を使用して合成することができる。
【0038】
リチウムリッチ組成物Li1+xM1−yO2は追加のリチウムを提供し、この追加のリチウムは、電池容量に寄与するように利用可能である。充電中に余剰のリチウムが負極に装填されると、これらの電池は、より高い電圧で動作することができる。したがって、これらの材料は、より高い比容量を有する望ましい高電圧材料を提供する。
【0039】
特に興味深いいくつかの組成物では、組成を組成式Li1+xNiαMnβCoγAδO2で表すことができ、ここで、xは約0.01〜約0.3の範囲内であり、αは約0.1〜約0.4の範囲内であり、βは約0.3〜約0.65の範囲内であり、γは約0〜約0.4の範囲内であり、δは約0(またはゼロでない場合には0.001)〜約0.15の範囲内であり、Aは、Mg、Sr、Ba、Cd、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、Li、またはそれらの組合せである。いくつかの実施形態では、正極活性材料の和x+α+β+γ+δが約1.0である。少量でのAは、ドーパント元素とみなすことができる。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲のパラメータ値が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。これらの材料のためのコーティングは、以下でさらに説明する。
【0040】
本明細書で述べる材料のいくつかの実施形態に関して、Thackeryとその共同研究者らは、Li2M’O3組成物がLiMO2成分と共に層状構造内に構造的に組み込まれたいくつかのリチウムリッチ金属酸化物組成物に関する複合結晶構造を提案している。電極材料は、bLi2M’O3・(1−b)LiMO2と2成分表記で表すことができ、ここで、Mは、平均原子価(valance)が+3の1つまたは複数の金属元素であり、少なくとも1つの元素がMnまたはNiであり、M’は、平均原子価(valance)が+4の金属元素であり、0<b<1であり、いくつかの実施形態では、0.03≦b≦0.9である。例えば、Mは、Ni+2、Co+3、およびMn+4の組合せでよい。これらの組成物に関する全体の組成式は、Li1+b/(2+b)M’2b/(2+b)M2(1−b)/(2+b)O2と書くことができる。この組成式は、前段の組成式において和x+α+β+γ+δが1である場合と一致し、ここでx=b/(2+b)である。これらの材料から作製した電池は、対応するLiMO2組成物を用いて作製した電池に比べて高い電圧および高い容量でサイクルすることが観察されている。これらの材料は、一般的に、Thackeryらに付与された「Lithium Metal Oxide Electrodes for Lithium Cells and Batteries」という名称の米国特許第6,680,143号明細書、およびThackeryらに付与された「Lithium Metal Oxide Electrodes for Lithium Cells and Batteries」という名称の米国特許第6,677,082号明細書に記載されており、どちらも参照により本明細書に援用する。Thackeryは、Mn、Ti、およびZrがM’として特に興味深いものであり、MnおよびNiがMに関して特に興味深いものであると認識した。
【0041】
いくつかの具体的な層状構造の構造は、参照により本明細書に援用するThackeryらの「Comments on the structural complexity of lithium−rich Li1+xM1−xO2 electrodes (M=Mn,Ni,Co) for lithium batteries」, Electrochemistry Communications 8 (2006), 1531−1538にさらに記載されている。この論文で報告されている研究では、組成式Li1+x[Mn0.5Ni0.5]1−xO2およびLi1+x[Mn0.333Ni0.333Co0.333]1−xO2を有する組成物を調べている。この論文はまた、層状材料の構造的な複雑さを述べている。
【0042】
近頃、Kangおよびその共同研究者らが、組成式Li1+xNiαMnβCoγM’δO2−zFz(ここで、M’=Mg、Zn、Al、Ga、B、Zr、Tiであり、xは約0〜0.3の間であり、αは約0.2〜0.6の間であり、βは約0.2〜0.6の間であり、γは約0〜0.3の間であり、δは約0〜0.15の間であり、zは約0〜0.2の間である)を有する二次電池で使用するための組成物を示した。これらの金属範囲およびフッ素は、得られる層状構造の電気化学サイクル中の電池容量および安定性を改良するものとして提案された。参照により本明細書に援用するKangらの「Layered cathode materials for lithium ion rechargeable batteries」という名称の米国特許第7,205,072号明細書(‘072特許)を参照されたい。この参考文献は、室温で10サイクル後に容量が250mAh/g(ミリアンペア時間/グラム)未満であるカソード材料を報告しており、これは、指定されていない速度での値であり、性能値を高めるには低いと考えられる。Kangらが、以下の実施例で調べた組成物と同様の、Li1.2Ni0.15Mn0.55Co0.10O2を含めた様々な具体的な組成物を調べている。
【0043】
‘072特許で得られた結果は、材料の固相合成に関わっており、これは、共沈法で形成されたカソード活性材料を用いて作製した電池と同等のサイクリング容量は実現できなかった。共沈によって形成される材料の性能の改良は、上述した‘814出願および‘735出願にさらに記載されている。本明細書で述べるドープされる材料に関する共沈プロセスは、以下でさらに説明する。
【0044】
正極活性材料の性能は、多くの因子によって影響を及ぼされる。薄い金属フッ化物コーティングまたは他の無機コーティングは、多くの重要な性能パラメータを顕著に改良することができることが判明している。また、平均粒径と粒径分布が、正極活性材料を特徴付ける基本的な特性のうちの2つであり、これらの特性は、材料の速度性能およびタップ密度に影響を及ぼす。電池は固定体積を有するので、したがって、これらの電池の正極で使用される材料は、その材料の比容量を望ましく高い値で維持することができる場合には、高いタップ密度を有することが望ましい。このとき、より多くの充電可能な材料が正極に存在するため、電池の総容量をより高くすることができる。本明細書で述べる材料を形成するためのプロセスを使用して、良好なタップ密度を依然として得ながら、コーティングを追加することができる。一般に、少なくとも約1.3グラム/ミリリットル(g/mL)、さらなる実施形態では少なくとも約1.6g/mL、いくつかの実施形態では少なくとも約2.0g/mLのタップ密度を得ることができ、ここで、タップ密度は、妥当なタッピングパラメータを使用して、市販のタッピング装置を使用して得ることができる。上記の具体的な範囲に含まれるさらなる範囲のパラメータ値が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0045】
合成法
本明細書で述べる合成手法を使用して、サイクリング時の改良された比容量および高いタップ密度を有するリチウムリッチカソード活性材料を形成することができる。合成法は、組成式Li1+xNiαMnβCoγAδO2を有する組成物の合成に適合されており、ここで、xは約0.01〜約0.3の範囲内であり、αは約0.1〜約0.4の範囲内であり、βは約0.3〜約0.65の範囲内であり、γは約0〜約0.4の範囲内であり、δは約0〜約0.1の範囲内であり、ここでAは、Mg、Sr、Ba、Cd、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、Li、またはそれらの組合せである。いくつかの実施形態では、正極活性材料の和x+α+β+γ+δが約1.0であり、これらの実施形態に関しては、上述したように層状結晶構造が生じることがある。この合成手法は、商業規模への拡張にも適している。具体的には、共沈プロセスを使用して、所望の結果をもたらす所望のリチウムリッチ正極材料を合成することができる。さらに、以下に詳細に論じる溶液共沈法を使用して、材料に金属フッ化物コーティングを施すことができる。
【0046】
共沈プロセスでは、純水などの水性溶媒中に金属塩が所望のモル比で溶解される。適した金属塩としては、例えば、金属酢酸塩、金属硫酸塩、金属硝酸塩、およびそれらの組合せが挙げられる。溶液の濃度は、一般に1M〜3Mの間で選択される。金属塩の相対モル量は、生成物材料に関する所望の組成式に基づいて選択することができる。同様に、ドーパント元素は、沈殿された材料中にドーパントが混入されるように適切なモル量で、他の金属塩と共に導入することができる。次いで、例えばNa2CO3および/または水酸化アンモニウムの添加によって溶液のpHを調節することができ、所望の量の金属元素を含む金属水酸化物または金属炭酸塩を沈殿させる。一般に、pHは、約6.0〜約9.0の間の値に調節することができる。水酸化物または炭酸塩の沈殿を促進するように、溶液を加熱して撹拌することができる。次いで、沈殿された金属水酸化物または炭酸塩を溶液から分離し、洗浄し、乾燥させて、さらなる処理の前に粉末を形成することができる。例えば、乾燥は、オーブン内で約110℃で約4〜約12時間行うことができる。上で明示した範囲に含まれるさらなる範囲のプロセスパラメータが企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0047】
次いで、収集された金属水酸化物粉末または金属炭酸塩粉末に熱処理を施して、水または二酸化炭素をなくして、水酸化物または炭酸塩組成物を対応する酸化物組成物に変換することができる。一般に、熱処理は、オーブンや炉などの中で行うことができる。熱処理は、不活性雰囲気中で、または酸素が存在する雰囲気中で行うことができる。いくつかの実施形態では、少なくとも約350℃、いくつかの実施形態では約400℃〜約800℃の温度に材料を加熱して、水酸化物または炭酸塩を酸化物に変換することができる。熱処理は、一般に、少なくとも約15分間、さらなる実施形態では約30分〜24時間以上、追加の実施形態では約45分〜約15時間行うことができる。生成物材料の結晶性を改良するために、さらなる熱処理を行うことができる。結晶性生成物を形成するためのこの焼成ステップは、一般に、少なくとも約650℃、いくつかの実施形態では約700℃〜約1200℃、さらなる実施形態では約700℃〜約1100℃の温度で行う。粉末の構造的特性を改良するための焼成ステップは、一般に、少なくとも約15分、さらなる実施形態では約20分〜約30分以上、他の実施形態では約1時間〜約36時間行うことができる。所望の材料を生み出すために、加熱ステップは、望みであれば適切な温度勾配と組み合わせることができる。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲の温度および時間が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0048】
リチウム元素は、プロセス中の1つまたは複数の選択されたステップで材料に混入することができる。例えば、沈殿ステップを行う前または行った後に、水和リチウム塩の添加によって溶液中にリチウム塩を混入することができる。この手法では、他の金属と同様に、水酸化物または炭酸塩材料にリチウム種を混入する。また、リチウムの特性により、生成物組成の最終的な特性に悪影響を及ぼすことなく、固相反応でリチウム元素を材料に混入することもできる。したがって、例えば一般に、LiOH・H2O、LiOH、Li2CO3、またはそれらの組合せなど粉末としての適量のリチウム源を、沈殿された金属炭酸塩または金属水酸化物と混合することができる。次いで、粉末混合物を加熱ステップに通して酸化物を生成し、次いで結晶性の最終生成物材料を生成する。
【0049】
水酸化物共沈プロセスのさらなる詳細は、上で参照した‘814出願に記載されている。炭酸塩共沈プロセスのさらなる詳細は、上で参照した‘735出願に記載されている。
【0050】
コーティングおよびコーティングを形成するための方法
金属フッ化物コーティングなどの不活性無機コーティングが、本明細書で述べるリチウムリッチ層状正極活性材料の性能を大幅に改良することが判明している。しかし、コーティング厚さに応じて、得られる電池特性に関するトレードオフがある。本明細書で述べるように、電池性能に対するコーティングの効果は、重要な電池性能パラメータのマトリックスに関して評価される。コーティング厚さに伴う性能の評価は、比較的複雑な関係を生み出す。意外にも、全体的に見て最良の性能改良は、厚さ約8nm以下の薄いコーティングから得られることが判明している。電池特性の改良は、以下の節で詳細に説明する。
【0051】
コーティングは、リチウムイオン二次電池において、本明細書で述べる高容量リチウムリッチ組成物の性能を改良することができる。一般に、選択された金属フッ化物およびメタロイドフッ化物をコーティングに使用することができる。同様に、金属および/またはメタロイド元素の組合せを含むフッ化物コーティングを使用することもできる。金属/メタロイドフッ化物コーティングは、リチウム二次電池用の正極活性材料の性能を安定させるために提案されている。フッ化物コーティングに適した金属およびメタロイド元素としては、例えば、Al、Bi、Ga、Ge、In、Mg、Pb、Si、Sn、Ti、Tl、Zn、Zr、またはそれらの組合せが挙げられる。フッ化アルミニウムは、手頃な価格であり、環境に優しいと考えられるので、望ましいコーティング材料となり得る。金属フッ化物コーティングは、参照により本明細書に援用するSunらの「Cathode Active Materials Coated with Fluorine Compound for Lithium Secondary Batteries and Method for Preparing the Same」という名称の国際公開第2006/109930A号パンフレットに全般的に記載されている。この公開特許出願は、LiF、ZnF2、またはAlF3コーティングを施したLiCoO2に関する結果を与えている。上で参照したSunのPCT出願は、具体的には、以下のフッ化物組成物に言及している。CsF、KF、LiF、NaF、RbF、TiF、AgF、AgF2、BaF2、CaF2、CuF2、CdF2、FeF2、HgF2、Hg2F2、MnF2、MgF2、NiF2、PbF2、SnF2、SrF2、XeF2、ZnF2、AlF3、BF3、BiF3、CeF3、CrF3、DyF3、EuF3、GaF3、GdF3、FeF3、HoF3、InF3、LaF3、LuF3、MnF3、NdF3、VOF3、PrF3、SbF3、ScF3、SmF3、TbF3、TiF3、TmF3、YF3、YbF3、TlF3、CeF4、GeF4、HfF4、SiF4、SnF4、TiF4、VF4、ZrF4、NbF5、SbF5、TaF5、BiF5、MoF6、ReF6、SF6、およびWF6。
【0052】
LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2のサイクリング性能に対するAlF3コーティングの効果は、Sunらの論文「AlF3−Coating to Improve High Voltage Cycling Performance of Li[Ni1/3Co1/3Mn1/3]O2 Cathode Materials for Lithium Secondary Batteries」,J. of the Electrochemical Society, 154 (3), A168−A172 (2007)にさらに記載されている。また、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2のサイクリング性能に対するAlF3コーティングの効果は、参照により本明細書に援用するWooらの論文「Significant Improvement of Electrochemical Performance of AlF3−Coated Li[Ni0.8Co0.1Mn0.1]O2 Cathode Materials」,J. of the Electrochemical Society, 154 (11) A1005−A1009 (2007)にさらに記載されている。容量の増加および不可逆容量損失の減少は、Al2O3コーティングに関して、参照により本明細書に援用するWuらの「High Capacity, Surface−Modified Layered Li[Li(1−x)/3Mn(2−x)/3Nix/3Cox/3]O2 Cathodes with Low Irreversible Capacity Loss」,Electrochemical and Solid State Letters, 9 (5) A221−A224 (2006)に言及されている。改良された金属酸化物コーティングは、参照により本明細書に援用する本願と同時係属中のVenkatachalamらの「Metal Oxide Coated Positive Electrode Materials for Lithium Ion Batteries」という名称の米国仮特許出願第61/253,286号明細書に記載されている。改良されたサイクリング性能を得るためのLiNiPO4コーティングの使用は、参照により本明細書に援用するKangらの論文「Enhancing the rate capability of high capacity xLi2MnO3(1−x)LiMO2 (M=Mn, Ni, Co) electrodes by Li−Ni−PO4 treatment」,Electrochemistry Communications 11, 748−751 (2009)に記載されている。
【0053】
金属/メタロイドフッ化物コーティングは、リチウムイオン二次電池用のリチウムリッチ層状組成物の性能を大幅に改良することができることが判明している。例えば、上で引用した‘814出願および‘735出願を参照されたい。特に、コーティングは、電池の容量を改良することができる。しかし、コーティング自体は電気化学的に活性ではない。コーティングを追加する利益がコーティングの電気化学的不活性によって打ち消されるほどまで、試料に加えられるコーティングの量による比容量の損失が増加するとき、電池容量の減少を予想することができる。一般に、コーティングの量は、コーティングによって得られる有益な安定性と、コーティング材料の重量による比容量の損失とのバランスを取るように選択することができる。一般に、コーティング材料は、材料の高い比容量に直接は寄与しない。
【0054】
しかし、コーティング厚さの関数としての電池特性は複雑であることが判明している。特に、コーティングはまた、平均電圧、不可逆容量損失、クーロン効率、およびインピーダンスなど、活性材料の他の特性に影響を及ぼすこともある。所望のコーティング厚さの選択は、特定のコーティング厚さに関して観察される電池特性の範囲全体の評価に基づくことができる。一般に、コーティングは、厚さを約0.05nm〜約50nmにすることができる。しかし、以下にさらに説明するように、意外にも、より薄いコーティングは、多数回サイクルさせた二次リチウムイオン電池に関して最良の全体的な性能パラメータを提供することができることが判明している。特に興味深いいくつかの実施形態では、コーティングは、平均厚さが約0.5nm〜約12nm、他の実施形態では約1nm〜約10nm、さらなる実施形態では約1.25nm〜約9nm、さらなる実施形態では約1.5nm〜約8nmの範囲内でよい。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲のコーティング材料が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。AlF3コーティングを施した金属酸化物材料において、コーティングなしの材料の容量を改良するのに効果的なAlF3の量は、コーティングなしの材料の粒径および表面積に関係付けられる。一般に、コーティング材料の量は、粒子の総金属含有量に対して、約0.01モルパーセント〜約10モルパーセント、さらなる実施形態では約0.05モルパーセント〜約7モルパーセント、さらなる実施形態では約0.1モルパーセント〜約5モルパーセント、他の実施形態では約0.2モルパーセント〜約4モルパーセントの範囲内である。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲のコーティング材料が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0055】
フッ化物コーティングは、溶液ベースの沈殿手法を使用して堆積することができる。正極材料の粉末を、水性溶媒など適切な溶媒中に混合することができる。所望の金属/メタロイドの可溶性組成物を溶媒中に溶解することができる。次いで、NH4Fを分散液/溶液に徐々に添加して、金属フッ化物を沈殿させることができる。コーティング反応物の総量は、所望の量のコーティングを形成するように選択することができ、コーティング反応物の割合は、コーティング材料の化学量論に基づくことができる。特に、所望の厚さのコーティングは、適量のコーティング反応物の添加によって形成することができる。コーティング材料の量の選択は、実施例で以下に説明するように、電子顕微鏡を使用して生成物粒子を検査することによって検証することができる。コーティングプロセスを促進するために、コーティングプロセス中に、水溶液に関して例えば約60℃〜約100℃の範囲内の妥当な温度まで、約20分〜約48時間にわたってコーティング混合物を加熱することができる。コーティングを施した電気活性材料を溶液から除去した後、材料を乾燥させ、約20分〜約48時間にわたって約250℃から約600℃へ徐々に加熱して温度を上げて、コーティングを施した材料の形成を完了する。加熱は、窒素雰囲気、または実質的に酸素を含まない他の雰囲気中で行うことができる。AlF3、MgF2、CaF2、SrF2、およびBaF2の形成に関する具体的な手順は、以下の実施例で説明する。Al2O2およびLi−Ni−PO4コーティングなど不活性金属酸化物コーティングの形成は、上に引用した論文に記載されている。
【0056】
電池性能
本明細書で述べるコーティングを施した正極活性材料から作製した電池は、中電流用途のための現実的な放電条件下で優れた性能を実証している。具体的には、活性材料は、中速の放電速度での電池のサイクリング時に高い比容量を実証している。さらに、コーティングを施したいくつかの正極活性材料は、多数回のサイクルにわたって改良されたサイクリングを実証している。意外にも、より薄いコーティングは、より厚いコーティングを有する正極活性材料を用いて作製した電池よりも望ましい全体的な性能プロファイルを提供することが判明している。特に、より薄いコーティングは、改良されたサイクリング、およびより大きい平均放電電圧を有する。より薄いコーティングを有する活性材料では電池の不可逆容量損失の減少が少ないものの、薄いコーティングを使用して、いくらかは不可逆容量損失を減少させた電池を作製することができ、また、より薄いコーティングを有する材料を用いて作製された電池の他の特性の改良は、不可逆容量損失に関する相違よりもはるかに大きい。したがって、約0.5〜約8nmの平均厚さを有するコーティングは、特に、優れた性能特性を得るために所望のバランスを提供することが判明している。
【0057】
上述したように、不可逆容量損失は、初回の充電比容量と初回の放電比容量の差である。本明細書で述べる値に関して、不可逆容量損失は、正極活性材料の文脈であり、リチウム金属負極に対して評価される。最終的にはサイクルしなくなる正極活性材料のバランスを取るために追加の負極活性材料が必要ないように、不可逆容量損失を減少させることが望ましい。いくつかの実施形態では、不可逆容量損失は、約60mAh/g以下、さらなる実施形態では約55mAh/g以下、他の実施形態では約30mAh/g〜約50mAh/gである。様々な電池パラメータのバランスに関して、不可逆容量損失は、約40mAh/g〜約60mAh/gの間にすることができる。同様に、いくつかの実施形態では、不可逆容量損失は、初回のサイクルでの比充電容量の約19%以下であり、さらなる実施形態では約18%以下である。不可逆容量損失のさらなる範囲が企図され、本開示の範囲内に含まれることを当業者は理解されよう。
【0058】
いくつかの用途では、平均電圧が、電池に関する重要なパラメータであることがある。平均電圧は、特定の電圧よりも上で利用可能な容量に関係付けることができる。したがって、高い比容量を有することに加えて、正極活性材料は、高い平均電圧でサイクルすることも望ましい。4.6Vと2.0Vの間でサイクルする本明細書で述べる材料に関して、平均電圧は、少なくとも約3.475V、さらなる実施形態では少なくとも約3.5V、さらなる実施形態では少なくとも約3.525V、他の実施形態では約3.55V〜約3.65Vでよい。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲の平均電圧が企図され(are contemplates)、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0059】
一般に、電池正極材料の容量性能を評価するために様々な同様の試験手順を使用することができる。本明細書で述べる性能値の評価に関して、いくつかの具体的な試験手順を説明する。適切な試験手順を、以下の実施例でより詳細に説明する。具体的には、電池を室温で4.6ボルトと2.0ボルトの間でサイクルさせることができるが、他の範囲を使用することもでき、それに対応して異なる結果となる。また、比容量は、放電速度に非常に大きく左右される。ここでも、表記C/xは、選択された電圧最小値まで電池をx時間で十分に放電するような速度で電池が放電されることを示唆する。
【0060】
いくつかの実施形態では、正極活性材料は、放電速度C/3で10回目のサイクルにおいて、比容量が少なくとも約245mAh/g(ミリアンペア時間/グラム)、さらなる実施形態では少なくとも約250mAh/g、さらなる実施形態では約255mAh/g〜約265mAh/gである。さらに、材料の40回目のサイクルでの放電容量は、C/3の放電速度でサイクルさせたときに、7回目のサイクルでの放電容量の少なくとも約94%であり、さらなる実施形態では少なくとも約95%である。実施例でさらに説明するように、7回目のサイクルでの比容量に対して40サイクルで比容量が維持されている割合を、クーロン効率と呼ぶこともある。また、コーティングを施した材料が、驚くほど良好な速度性能を示すことができる。具体的には、材料は、室温で、4.6Vから2.0Vへ2Cの速度で放電したとき、15回目の充電/放電サイクルで少なくとも約190mAh/g、さらなる実施形態では少なくとも約195mAh/g、さらなる実施形態では少なくとも約200mAh/gの比放電を有することができる。比容量のさらなる範囲が企図され、本開示の範囲内に含まれることを当業者は理解されよう。
【0061】
一般に、本明細書における結果は、正極用の活性材料の上の薄いコーティングに関して、特に望ましい電池性能をもたらす因子のバランスを示唆する。実施例における結果は、より厚いコーティングがより大きいインピーダンスをもたらすことがあり、これが、観察される容量および電圧の性能に寄与することがあることを示唆する。適切な薄いコーティングにより、優れた比容量、クーロン効率、および平均電圧を得ることができる。
【実施例】
【0062】
実施例は、コインセルを使用して得られたデータ、および円筒形セルを用いたさらなるデータを含む。リチウム箔負極を用いたコインセルの作製は、この導入部において要約する。炭素ベースの電極を用いたコインセルの作製は、以下の実施例5で述べる。実施例1、3、および4で試験したコインセル電池は、ここで概説する手順に従って製造した。リチウム金属酸化物(LMO)粉末を、アセチレンブラック(Timcal, Ltd.(スイス))からのSuper P(商標))および黒鉛(Timcal, LtdからのKS 6(商標))と完全に混合させて、均質な粉末混合物を生成した。それとは別に、フッ化ポリビニリデンPVDF(株式会社クレハ(日本)からのKF1300(商標))をN−メチル−ピロリドンNMP(Honeywell − Riedel−de−Haen)と混合し、一晩撹拌して、PVDF−NMP溶液を生成した。次いで、均質な粉末混合物をPVDF−NMP溶液に添加して、約2時間混合して、均質なスラリを生成した。湿潤薄膜を形成するために、アルミニウム箔集電体上にスラリを塗布した。
【0063】
NMPを除去するために、湿潤薄膜を有するアルミニウム箔集電体を真空オーブン内で110℃で約2時間にわたって乾燥させることによって、正極材料を生成した。正極材料を薄板圧延機のローラの間で圧延して、所望の厚さを有する正極を得た。上記のプロセスを使用して生成された、LMO:アセチレンブラック:黒鉛:PVDFの比が80:5:5:10である正極組成物の一例を以下に示す。
【0064】
コインセル電池を作製するために、アルゴンを充填したグローブボックス内に正極を配置した。厚さ150ミクロンのリチウム箔(FMC箔)を負極として使用した。電解質は、(Ferro Corp.(米国オハイオ州)からの)エチレン炭酸塩、ジエチル炭酸塩、およびジメチル炭酸塩の1:1:1の体積比での混合物中にLiPF6塩を溶解させることによって生成したLiPF6の1M溶液であった。電解質で浸漬された3層(ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン)の微孔性隔離板(Celgard, LLC(米国ノースカロライナ州)からの2320)を正極と負極の間に配置した。電解質をさらに数滴、電極の間に加えた。次いで、クリンププロセスを使用して、電極を2032コインセルハードウェア(宝泉株式会社(日本))内部に封止し、コインセル電池を作製した。得られたコインセル電池をMaccorサイクルテスタで試験して、数サイクルにわたる充電−放電曲線およびサイクル安定性を得た。ここに含まれるすべての電気化学的データは、3つの速度でサイクルしている。すなわち、最初の3回のサイクルに関しては0.1C(C/10)、サイクル4〜6に関しては0.2C(C/5)、サイクル7以降に関しては0.33C(C/3)である。
【0065】
実施例1−炭酸塩共沈のための金属硫酸塩とNa2CO3/NH4OHの反応
この実施例は、炭酸塩共沈プロセスを使用した所望のカソード活性材料の形成を示す。化学量論量の金属硫化物(NiSO4・xH2O、CoSO4・xH2O、およびMnSO4・xH2O)を蒸留水中に溶解し、金属硫化物水性溶液を生成した。それとは別に、Na2CO3およびNH4OHを含有する水溶液を調製した。試料を生成するために、2つの溶液を反応容器に徐々に加えて、金属炭酸塩沈殿物を生成した。反応混合物を撹拌し、反応混合物の温度を、室温〜80℃の間の温度で2〜24時間保った。反応混合物のpHは、6〜9の範囲内であった。一般に、水性金属硫化物溶液は濃度1M〜3Mであり、水性Na2CO3/NH4OH溶液は、Na2CO3が濃度1M〜4M、NH4OHが濃度0.2〜2Mであった。金属炭酸塩沈殿物を濾過し、蒸留水で複数回洗浄して、110℃で約16時間乾燥させて、金属炭酸塩粉末を生成した。試料の調製に関する反応条件の具体的な範囲を表1にさらに示す。
【0066】
【表1】
【0067】
適量のLi2CO3粉末を、乾燥させた金属炭酸塩粉末と混ぜ合わせ、ジャーミル(Jar Mill)、二重遊星形混合機、または乾燥粉末回転混合機によって完全に混合して、均質な粉末混合物を生成した。均質化した粉末の一部、例えば5グラムを焼成し、その後、追加の混合ステップで、生成された粉末をさらに均質化した。さらに均質化した粉末を再び焼成して、リチウム複合酸化物を生成した。生成物組成は、Li1.2Ni0.175Co0.10Mn0.525O2と求められた。焼成条件の具体的な範囲をさらに表2に概説する。
【0068】
【表2】
【0069】
図2aおよび図2bに、リチウム複合酸化物の異なる倍率での走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示し、これは、形成された粒子が実質的に球状であり、サイズが比較的均質であることを示す。図3に、真性の複合物粉末のX線回折パターンを示し、これは、岩塩タイプの構造の特性を示す。
【0070】
この複合物を使用して、上に概説した手順に従ってコインセル電池を作製した。コインセル電池を試験した。図4(a)および図4(b)に、それぞれ、初回のサイクルに関して0.1Cの放電速度で、および7回目のサイクルに関して0.33Cの放電速度で、比容量に対する電圧のプロットを示す。0.1Cの放電速度での電池の初回のサイクルでの比容量は、約245mAh/gである。0.33Cの放電速度での電池の7回目のサイクルでの比容量は、約220mAh/gである。コインセル電池のサイクル寿命に対する比容量も試験した。その結果を図5に示す。最初の3回のサイクルは、0.1Cの放電速度で測定した。次の3回のサイクルは、0.2Cの速度で測定した。後に続くサイクルは、0.33Cの速度で測定した。電池は、40回の充電および放電サイクルを経た後に、サイクル7に対して90%超の比容量を維持した。
【0071】
実施例2−AlF3コーティングを施した金属酸化物材料の作製
上述した実施例で調製した金属酸化物粒子に、溶液法を使用してフッ化アルミニウム(AlF3)の薄層でコーティングを施した。選択した量のフッ化アルミニウムコーティングのために、適量の硝酸アルミニウムの飽和溶液を水性溶媒中で調製した。次いで、金属酸化物粒子を硝酸アルミニウム溶液中に添加して混合物を生成した。混合物を、均質になるように所定の時間にわたって良く混合した。混合の長さは、混合物の体積に応じて決まる。均質化後、均質化した混合物に化学量論量のフッ化アンモニウムを添加して、フッ化物源を維持しながらフッ化アルミニウム沈殿物を生成した。沈殿の完了後、混合物を80℃で5時間撹拌した。次いで、混合物を濾過し、得られた固体を繰り返し洗浄して、反応しなかった材料を除去した。この固体を窒素雰囲気中で400℃で5時間焼成して、AlF3コーティングを施した金属酸化物材料を生成した。図2cおよび図2dに、AlF3コーティングを施した典型的なリチウム複合酸化物の異なる倍率でのSEM写真を示し、形成された粒子が、実質的に球状であり、サイズが比較的均質であることを示す。
【0072】
実施例1で述べたのと同様に合成したリチウム金属酸化物(LMO)粒子の試料に、この実施例で述べるプロセスを使用して、様々な選択された量のフッ化アルミニウムのコーティングを施した。透過型電子顕微鏡を使用して、得られたAlF3コーティングの厚さを評価した。例えば、図6aは、コーティングなしのリチウム複合酸化物粒子の透過型電子顕微鏡写真(TEM)を示し、図6bは、厚さ約7nmのAlF3コーティングを有するLMO粒子のTEM写真を示し、図6cは、約25nmのAlF3コーティングを有するLMO粒子のTEM写真を示す。コーティングは、粒子表面にわたって厚さがほぼ一定であった。図3に、3nm、6nm、11nm、22nm、および40nmのコーティング厚さを有するフッ化アルミニウムコーティングを施したLMO試料のX線回折パターンを、真性の、すなわちコーティングなしの試料に関する回折図形と共に示す。X線回折図形はすべて、コーティングなしのLMO試料として、岩塩タイプの構造の特性を示す。次いで、フッ化アルミニウムコーティングを施したLMOを使用して、上で概説した手順に従ってコインセル電池を作製した。コインセル電池を、以下の実施例で述べるように試験した。
【0073】
示差走査熱量測定法(DSC)を使用して、カソード活性材料の安定性を調べた。図7に、DSC結果を、コーティングなしのLMO粒子、および4つの異なるコーティング厚さを有する粒子に関して示す。温度の関数としての熱流のピークは、材料の相転移または同様の変化を示す。図4から、低温活性相に対して、すべてのコーティング厚さが材料を安定させることが見て取れるが、より大きなコーティング厚さが安定性をさらに高めた。したがって、これらの材料を用いて作製する電池は、コーティングを施したLMO材料が正極で使用される場合、より高い温度で、より大きな温度安定性を示すはずであると予想される。
【0074】
実施例3−AlF3コーティングを施した試料に関する電池性能
この実施例は、ある範囲のAlF3コーティング厚さに関して、および様々な電池性能パラメータに関して、コーティング厚さに対して電池性能がどのように変化したかを示す。
【0075】
電気化学インピーダンス分光法(EIS)を使用して、正極のインピーダンスを検査した。このデータは、コーティングを施した材料の界面特性に関する情報を提供する。電極は、正弦波の形での電流によって外乱を与えられる。図8に、EIS結果のプロットを示す。これらの結果は、より大きい電荷移動抵抗が、より厚いAlF3コーティングから得られることを示す。
【0076】
上述したプロセスおよびコインセル構造を使用して、実施例2で述べたようにして合成された材料からコインセル電池を作製した。セルの性能を評価するためにセルをサイクルさせた。最初の3回のサイクルは、0.1Cの充電/放電速度で測定した。次の3回のサイクルは、0.2Cの充電/放電速度で測定した。後に続くサイクルは、0.33Cの充電/放電速度で測定した。
【0077】
3nmのフッ化アルミニウムコーティングを施したLMO材料から作製したコインセル電池の比容量に対する電圧のプロットを、0.1Cの充電/放電速度での初回のサイクルに関して図9(a)に示し、0.33Cの充電/放電速度での7回目のサイクルに関して図9(b)に示す。0.1Cの放電速度での電池の初回のサイクルでの比容量は、約265mAh/gであった。0.33Cの放電速度での電池の初回のサイクルでの比容量は、約250mAh/gである。コインセル電池のサイクルに対する比容量も試験した。その結果を図10に示す。電池の正極活性材料は、40回の充電および放電サイクルを経た後に、最初のC/3サイクルであるサイクル7に対して95%超の比容量を維持していた。
【0078】
22nmのフッ化アルミニウムコーティングを施したLMO材料から作製したコインセル電池の比容量に対する電圧のプロットを、0.1Cの放電速度での初回のサイクルに関して図11(a)に示し、C/3の放電速度での7回目のサイクルに関して図11(b)に示す。0.1Cの放電速度での電池の初回のサイクルでの比容量は、約260mAh/gであった。0.33Cの放電速度での電池の7回目のサイクルでの比容量は、約235mAh/gであった。コインセル電池のサイクルに対する比容量も試験した。その結果を図12に示す。電池は、40回の充電および放電サイクルを経た後に、7回目のサイクルの比容量に対して約98%の比容量を維持した。
【0079】
コーティングなし、ならびに3nm、6nm、11nm、22nm、および40nmのフッ化アルミニウムコーティングを施したLMO材料から作製したコインセル電池のサイクルに対する比容量を試験した。その結果を図13に示す。コーティングを施したLMO材料を用いた電池は、コーティング厚さの関数としての比容量性能の複雑な関係を示した。6nmフッ化アルミニウムコーティングを有するLMO材料を用いた電池は、低いサイクル数では最高の比容量を有し、一方、4nmフッ化アルミニウムコーティングを有するLMO材料を用いた電池は、40サイクルで最高の容量を有した。40nmのコーティングを有するLMO材料を用いた電池は、最低の比容量を有し、これは、コーティングなしの材料を用いた電池よりも低かったが、この電池は、サイクリングに伴って容量のわずかな増加を示した。
【0080】
コーティングなし、ならびに3nm、6nm、11nm、22nm、および40nmのフッ化アルミニウムコーティングを施したLMO材料を有する電池の初回のサイクルでの不可逆容量損失(IRCL)を測定した。コーティング厚さに対する全体容量のパーセンテージの結果のプロットを図14aに示し、コーティング厚さの関数としての比容量変化の結果のプロットを図14bに示す。IRCLの結果は、約10nmまでのコーティング厚さを有する電池に関して、IRCLの一定の減少を示した。IRCLは、11nm、22nm、および40nmのフッ化アルミニウムコーティングを施したLMO材料を有する電池に関してはほぼ横ばいであった。
【0081】
コーティングなし、ならびに3nm、6nm、11nm、22nm、および40nmのフッ化アルミニウムコーティングを施したLMO材料を用いた正極を有する電池に関して、電池の平均電圧を測定した。平均電圧は、4.6Vから2.0Vへの放電にわたって測定した。図15aに、コーティング厚さの関数としての平均電圧のプロットを示し、図15bに、コーティング厚さの関数として、コーティングなしの材料性能に対する電圧減少のパーセンテージのプロットを示す。一般に、平均電圧は、LMO材料上のフッ化アルミニウムコーティング厚さの増加に対して減少を示したが、平均電圧の減少は、6nm以下のコーティングに関しては小さかった。
【0082】
さらに、コーティングなし、ならびに3nm、6nm、11nm、22nm、および40nmのフッ化アルミニウムコーティングを施したLMO材料を有する電池のクーロン効率を測定した。本明細書で使用するとき、クーロン効率は、C/3の速度での最初のサイクルであるサイクル7での比容量のパーセンテージとしてのサイクル40での比容量として評価する。すなわち、クーロン効率は、100×(サイクル40での比容量)/(サイクル7での比容量)である。図16に、コーティング厚さの関数としてのクーロン効率のプロットを示す。クーロン効率は、コーティング厚さが0から3nmに増加されたとき、約2%増加した。次いで、コーティング厚さが3nmから6nmおよび11nmに増加されたとき、大幅に減少した。コーティング厚さが22nmおよび40nmのときには、正極活性材料を用いて作製した電池に関してクーロン効率は急激に増加した。
【0083】
実施例4−金属二フッ化物コーティングを有する材料、および対応する電池
この実施例は、リチウムリッチ金属酸化物上でのMgF2、CaF2、BaF2、およびSrF2のコーティングの形成を示した。対応するコインセルデータを提示し、このデータは、コーティングを施した材料に関する改良された性能を示す。
【0084】
実施例1で述べたのと同様に合成されたリチウム金属酸化物(LMO)粒子の試料に、1〜4nmのMgF2、CaF2、BaF2、およびSrF2コーティングを施した。化学量論量の選択された金属硝酸塩、例えば硝酸マンガンを水中に溶解し、対応する量のリチウム金属酸化物と、絶え間なく撹拌しながら混合した。次いで、フッ化アンモニウムを、撹拌を続けながらゆっくりと混合物に添加した。余剰のフッ化アンモニウムの添加後、混合物を約5時間にわたって約80℃に加熱した。堆積が完了した後、混合物を濾過して、窒素雰囲気中で450℃で5時間焼成した。図17に、金属二フッ化物コーティングを施したLMO試料のX線回折パターンを、対応する真性の、すなわちコーティングなしの試料に関する回折図形と共に示す。X線回折図形はすべて、コーティングなしのLMO試料として、岩塩タイプの構造の特性を示す。図18Aおよび図18Bに、透過型電子顕微鏡写真を、MgF2(A)コーティングを施した試料と、SrF2(B)コーティングを施した試料に関して示す。
【0085】
金属二フッ化物コーティングを施したLMOを使用して、上に概説した手順に従ってコインセル電池を作製した。図19に、C/10の速度でのコーティングなしの材料に関する初回のサイクルについて、比充電容量および比放電容量に対する4.6Vから2.0Vの電圧のプロットを示す。LMO材料のこのバッチは、図4aを得るために使用したコーティングなしの材料と比べて、わずかに大きい比容量を有する。図20〜図23に、C/10の速度で、比充電容量および比放電容量に対する電圧の対応するプロットを、それぞれMgF2、SrF2、BaF2、およびCaF2に関して示す。異なる金属二フッ化物コーティングを有する正の電気活性材料を用いた電池に関する初回のサイクルのこれら4つのプロットは、同様の初回サイクル性能を示し、MgF2コーティングを有する材料がいくぶん高い放電比容量を示した。これらのセルは、16サイクルにわたってサイクルさせ、サイクル1および2に関してはC/10の速度、サイクル3および4に関してはC/5の速度、サイクル5および6に関してはC/3の速度、サイクル7〜11に関しては1Cの速度、サイクル12〜16に関しては2Cの速度であった。サイクリング結果を図24に示す。コーティングを施した試料を用いて用意した電池はすべて、コーティングなしの組成物を用いて作製した電池に比べて、すべての速度で大幅に大きい放電比容量を示した。SrF2、BaF2、およびCaF2のコーティングを有する材料を用いて作製した電池は同様の性能を示したが、MgF2コーティングを施した正の電気活性材料を用いて作製した電池は、すべての速度でいくぶん高い比放電容量を示した。
【0086】
実施例5−AlF3コーティングを施した組成物を用いて作製したコインセル
この実施例は、負極活性材料として黒鉛を使用するコインセル電池に関する電池性能を調べる。
【0087】
実施例1で述べたのと同様に製造したリチウム金属酸化物(LMO)粉末を、アセチレンブラックと黒鉛の混合物など、導電性カーボンと完全に混合させて、10〜20重量パーセントの導電性カーボンを含む均質な粉末混合物を生成した。それとは別に、フッ化ポリビニリデン(PVDF)をN−メチル−ピロリドン(NMP)と混合し、一晩撹拌して、PVDF−NMP溶液を生成した。次いで、均質な粉末混合物をPVDF−NMP溶液に添加して、2〜6時間混合して、均質なスラリを生成した。市販の塗布器を使用して、アルミニウム箔集電体上にスラリを塗布して湿潤薄膜を形成した。
【0088】
NMPを除去するために、湿潤薄膜電極を設けられたアルミニウム箔集電体を乾燥させることによって、正極構造を形成した。正極と集電体を薄板圧延機のローラの間で圧延して、箔集電体と合わさって所望の厚さを有する正極を得た。
【0089】
負極として、黒鉛と、任意選択の導電性カーボンと、バインダのブレンドを使用し、これは約80〜99重量パーセントの黒鉛を有する。負極組成物を銅箔集電体上にコーティングして、乾燥させた。電解質で浸漬された3層(ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン)の微孔性隔離板(Celgard, LLC(米国ノースカロライナ州)からの2320)を正極と負極の間に配置した。電解質をさらに数滴、電極の間に加えた。正極−隔離板−負極を備える電極スタックをコインセル内部に配置した。電解質は、(Ferro Corp.(米国オハイオ州)からの)体積比1:1:1でのエチレン炭酸塩、ジエチル炭酸塩、およびジメチル炭酸塩の混合物中にLiPF6塩を溶解させることによって生成したLiPF6の1M溶液とした。電極スタックを備えるセル内に電解質を入れ、コインセルを封止した。
【0090】
得られた電池をMaccorサイクルテスタで試験して、数サイクルにわたる充電−放電曲線およびサイクル安定性を得た。初回のサイクルを、C/10の速度で行い、サイクル2〜50は、C/3の速度で行った。図25に、コーティングなし、すなわち真性の試料と、5つの異なるAlF3コーティング厚さを有する試料に関する結果を、サイクルの関数としての比容量に関してプロットする。厚さ3nmのAlF3コーティングを用いて作製した電池は、最初の数サイクルの後に、かなり大きい比容量を示した。
【0091】
実施例6−AlF3コーティングを施した代替の正の電気活性組成物、および対応する電池
この実施例は、選択された量のAlF3コーティング組成物を有する正極に関する代替の電気活性材料を用いた電池性能結果を示す。
【0092】
実施例1で述べたのと同様に正極活性材料を合成した。しかし、この実施例における電池の正極に関して使用した生成物組成は、Li1.07Ni0.31Co0.31Mn0.31O2であった。実施例2で述べたのと同様に、生成物組成物の粒子にAlF3コーティングを施した。異なる量のAlF3コーティング組成物を用いて試料を調製した。図26Aおよび図26Bに、典型的な透過型電子顕微鏡写真を示し、これらは、約3nm(A)および約17nm(B)の平均コーティング厚さを示す。
【0093】
上述したプロセスおよびコインセル構造を使用してコインセル電池を作製した。セルの性能を評価するためにセルをサイクルさせた。最初の2回のサイクルは、0.1Cの充電/放電速度で測定した。後に続くサイクル3〜18は、0.33Cの充電/放電速度で測定した。1組の試料を2.0Vと4.3Vの間でサイクルさせ、第2の組の試料は2.0Vから4.5Vでサイクルさせた。
【0094】
図27および図28に、コーティングなしの正極活性材料、およびコーティングなしの活性材料を有する正極活性材料(図27)、または厚さ約3nmのAlF3コーティングを施した正極活性材料(図28)について、2.0Vと4.3Vの間のサイクリングに関して、比容量の関数としての電圧をプロットした。コーティングを施した試料を用いて作製した電池は、より大きな放電容量と、対応する不可逆容量損失の減少とを示した。同様の結果が、2.0Vと4.5Vの間のサイクリングで得られた。図29および図30に、それぞれ、コーティングなしの正極活性材料(図29)または約3nmのAlF3コーティングを施した正極活性材料(図30)について、2.0Vと4.45Vの間のサイクリングに関し、比容量の関数としての電圧のプロットを示す。予想されるように、より高い電圧でのサイクリングに関して、充電および放電容量はより大きい。
【0095】
コーティングなし、ならびに3nm、8nm、17nm、22nm、および47nmのフッ化アルミニウムコーティングを施したLMO材料から作製したコインセル電池のサイクルに対する比容量を、2.0Vと4.3Vの間のサイクリングおよび2.0Vと4.5Vの間のサイクリングに関して試験した。図31に、2.0Vと4.3Vの間でのサイクリングに関して、サイクルの関数としての比放電容量を示し、図32に、2.0Vと4.5Vの間でのサイクリングに関して、サイクルの関数としての比放電容量を示す。図31および図32で見られるように、これらのコーティングを施したLMO材料を用いた電池は、異なるコーティング厚さを有するいくつかの材料が実質的に同一の比容量結果を示すものの、コーティング厚さの増加と共に減少する比容量性能を示した。最も厚いコーティングを有する材料は、一貫して、コーティングなしの材料よりも低い比容量を有したが、残りのコーティングを施した材料は、コーティングなしの材料に比べて大きい比容量を示した。これらの結果は、図13および図25の結果と定性的に合致する。図13および図25では、厚いコーティングが、コーティングなしの試料よりも低い比容量を有し、薄いコーティングが、サイクリング時に最良の比容量性能を実現する。
【0096】
上述した実施形態は、限定としてではなく例示として意図したものである。さらなる実施形態が特許請求の範囲内にある。さらに、特定の実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく形態および詳細に変更を加えることができることを当業者は理解されよう。上記文献の参照による援用は、本明細書における明示的な開示に反する主題は組み込まないように限定する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機コーティング組成物をコーティングした、組成式Li1+xM1−xO2によって表される活性組成物を含むリチウムイオン電池の正極活性材料であって、Mが、金属元素または金属元素の組合せであり、0.01≦x≦0.3であり、前記コーティング組成物が、金属/メタロイドフッ化物を含む、リチウムイオン電池の正極活性材料。
【請求項2】
前記コーティング組成物が、AlF3、MgF2、CaF2、SrF2、またはBaF2を含む、請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記コーティングが、約0.5ナノメートル(nm)〜約12nmの平均厚さを有する、請求項1に記載の正極材料。
【請求項4】
前記コーティングが、約1nm〜約8nmの平均厚さを有する、請求項1に記載の正極材料。
【請求項5】
前記活性組成物を、組成式bLiM’O2・(1−b)Li2M’’O3によって近似的に表すことができ、ここで、M’が、+3の平均原子価(valance)を有する1つまたは複数の金属イオンを表し、M’’が、+4の平均原子価(valance)を有する1つまたは複数の金属イオンを表し、0<b<1である、請求項1に記載の正極材料。
【請求項6】
前記活性組成物を、組成式Li1+xNiαMnβCoγAδO2によって近似的に表すことができ、ここで、xが約0.05〜約0.25の範囲内であり、αが約0.1〜約0.4の範囲内であり、βが約0.4〜約0.65の範囲内であり、γが約0〜約0.3の範囲内であり、δが約0〜約0.1の範囲内であり、Aが、Mg、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、Li、またはそれらの混合物である、請求項1に記載の正極材料。
【請求項7】
前記活性組成物を、組成式Li1+xNiαMnβCoγO2によって近似的に表すことができ、ここで、xが約0.05〜約0.25の範囲内であり、αが約0.1〜約0.4の範囲内であり、βが約0.3〜約0.65の範囲内であり、γが約0.05〜約0.4の範囲内である、請求項1に記載の正極材料。
【請求項8】
室温で、4.6Vから2.0VへC/3の放電速度で放電したとき、少なくとも約245mAh/gの比容量を有する、請求項1に記載の正極材料。
【請求項9】
請求項1に記載の正極材料と、リチウムイオンを含む非水性電解質とを備える、電池。
【請求項10】
正極と、リチウムを取り込む組成物を含む負極と、前記正極と前記負極の間の隔離板と、リチウムイオンを含む電解質とを備えるリチウムイオン電池であって、前記正極が、活性材料と、異なる導電性粉末と、ポリマーバインダとを含み、前記正極活性材料が、無機コーティング組成物をコーティングした活性組成物を含み、前記正極活性材料が、室温で、4.6ボルトから2.0ボルトへ2Cの放電速度で、15回目の充電/放電サイクルに関して少なくとも約190mAh/gの放電比容量を有する、リチウムイオン電池。
【請求項11】
前記負極が元素炭素を含む、請求項10に記載のリチウムイオン電池。
【請求項12】
前記不活性無機組成物が、金属/メタロイドフッ化物を含む、請求項10に記載のリチウムイオン電池。
【請求項13】
前記コーティング組成物が、約0.5nm〜約12nmの平均厚さを有する、請求項12に記載のリチウムイオン電池。
【請求項14】
前記不活性無機コーティング組成物が、金属/メタロイド酸化物を含む、請求項10に記載のリチウムイオン電池。
【請求項15】
前記活性組成物が、組成式Li1+xM1−xO2によって近似的に表され、ここで、Mが、金属元素または金属元素の組合せであり、0.01≦x≦0.3である、請求項10に記載のリチウムイオン電池。
【請求項16】
前記活性組成物を、組成式Li1+xNiαMnβCoγM’’δO2によって近似的に表すことができ、ここで、xが約0.05〜約0.25の範囲内であり、αが約0.1〜約0.4の範囲内であり、βが約0.4〜約0.65の範囲内であり、γが約0〜約0.3の範囲内であり、δが約0〜約0.1の範囲内であり、M’’が、Mg、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、Li、またはそれらの混合物である、請求項10に記載のリチウムイオン電池。
【請求項17】
前記不可逆容量損失が、コーティングなしの正極活性材料を用いて作製した等価な電池の不可逆容量損失に対して、少なくとも約10%減少される、請求項10に記載のリチウムイオン電池。
【請求項18】
前記活性組成物が、少なくとも約1.3g/mLのタップ密度を有する、請求項10に記載のリチウムイオン電池。
【請求項19】
正極と、リチウムを取り込む組成物を含む負極と、前記正極と前記負極の間の隔離板とを備えるリチウムイオン電池であって、前記正極が、無機組成物をコーティングした活性組成物を有する活性材料と、異なる導電性粉末と、ポリマーバインダとを含み、前記正極活性材料が、少なくとも約245mAh/gの放電比容量と、少なくとも約3.55ボルトの平均電圧と、室温で、4.6ボルトから2.0ボルトへC/3の放電速度で、10サイクルでの容量の少なくとも約90%である40サイクルでの容量とを有する、リチウムイオン電池。
【請求項20】
前記正極活性材料が、室温で、4.6ボルトから2.0ボルトへC/3の放電速度で、少なくとも約250mAh/gの比容量を有する、請求項19に記載のリチウムイオン電池。
【請求項21】
室温で、4.6ボルトから2.0ボルトへC/3の放電速度で、40サイクルでの容量が10サイクルでの容量の少なくとも約95%である、請求項19に記載のリチウムイオン電池。
【請求項22】
正極活性組成物をコーティングする無機組成物が、金属/メタロイドフッ化物を含む、請求項19に記載のリチウムイオン電池。
【請求項23】
前記正極活性組成物が、組成式Li1+xM1−xO2によって近似的に表される組成物を含み、ここで、Mが、1つまたは複数の金属元素であり、0.01≦x≦0.3である、請求項19に記載のリチウムイオン電池。
【請求項24】
前記正極活性組成物が、組成式Li1+xNiαMnβCoγM’’δO2によって近似的に表される組成を含み、ここで、xが約0.05〜約0.25の範囲内であり、αが約0.1〜約0.4の範囲内であり、βが約0.4〜約0.65の範囲内であり、γが約0〜約0.3の範囲内であり、δが約0〜約0.1の範囲内であり、M’’が、Mg、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、Li、またはそれらの混合物である、請求項23に記載のリチウムイオン電池。
【請求項25】
前記負極が元素炭素を含む、請求項19に記載のリチウムイオン電池。
【請求項1】
無機コーティング組成物をコーティングした、組成式Li1+xM1−xO2によって表される活性組成物を含むリチウムイオン電池の正極活性材料であって、Mが、金属元素または金属元素の組合せであり、0.01≦x≦0.3であり、前記コーティング組成物が、金属/メタロイドフッ化物を含む、リチウムイオン電池の正極活性材料。
【請求項2】
前記コーティング組成物が、AlF3、MgF2、CaF2、SrF2、またはBaF2を含む、請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記コーティングが、約0.5ナノメートル(nm)〜約12nmの平均厚さを有する、請求項1に記載の正極材料。
【請求項4】
前記コーティングが、約1nm〜約8nmの平均厚さを有する、請求項1に記載の正極材料。
【請求項5】
前記活性組成物を、組成式bLiM’O2・(1−b)Li2M’’O3によって近似的に表すことができ、ここで、M’が、+3の平均原子価(valance)を有する1つまたは複数の金属イオンを表し、M’’が、+4の平均原子価(valance)を有する1つまたは複数の金属イオンを表し、0<b<1である、請求項1に記載の正極材料。
【請求項6】
前記活性組成物を、組成式Li1+xNiαMnβCoγAδO2によって近似的に表すことができ、ここで、xが約0.05〜約0.25の範囲内であり、αが約0.1〜約0.4の範囲内であり、βが約0.4〜約0.65の範囲内であり、γが約0〜約0.3の範囲内であり、δが約0〜約0.1の範囲内であり、Aが、Mg、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、Li、またはそれらの混合物である、請求項1に記載の正極材料。
【請求項7】
前記活性組成物を、組成式Li1+xNiαMnβCoγO2によって近似的に表すことができ、ここで、xが約0.05〜約0.25の範囲内であり、αが約0.1〜約0.4の範囲内であり、βが約0.3〜約0.65の範囲内であり、γが約0.05〜約0.4の範囲内である、請求項1に記載の正極材料。
【請求項8】
室温で、4.6Vから2.0VへC/3の放電速度で放電したとき、少なくとも約245mAh/gの比容量を有する、請求項1に記載の正極材料。
【請求項9】
請求項1に記載の正極材料と、リチウムイオンを含む非水性電解質とを備える、電池。
【請求項10】
正極と、リチウムを取り込む組成物を含む負極と、前記正極と前記負極の間の隔離板と、リチウムイオンを含む電解質とを備えるリチウムイオン電池であって、前記正極が、活性材料と、異なる導電性粉末と、ポリマーバインダとを含み、前記正極活性材料が、無機コーティング組成物をコーティングした活性組成物を含み、前記正極活性材料が、室温で、4.6ボルトから2.0ボルトへ2Cの放電速度で、15回目の充電/放電サイクルに関して少なくとも約190mAh/gの放電比容量を有する、リチウムイオン電池。
【請求項11】
前記負極が元素炭素を含む、請求項10に記載のリチウムイオン電池。
【請求項12】
前記不活性無機組成物が、金属/メタロイドフッ化物を含む、請求項10に記載のリチウムイオン電池。
【請求項13】
前記コーティング組成物が、約0.5nm〜約12nmの平均厚さを有する、請求項12に記載のリチウムイオン電池。
【請求項14】
前記不活性無機コーティング組成物が、金属/メタロイド酸化物を含む、請求項10に記載のリチウムイオン電池。
【請求項15】
前記活性組成物が、組成式Li1+xM1−xO2によって近似的に表され、ここで、Mが、金属元素または金属元素の組合せであり、0.01≦x≦0.3である、請求項10に記載のリチウムイオン電池。
【請求項16】
前記活性組成物を、組成式Li1+xNiαMnβCoγM’’δO2によって近似的に表すことができ、ここで、xが約0.05〜約0.25の範囲内であり、αが約0.1〜約0.4の範囲内であり、βが約0.4〜約0.65の範囲内であり、γが約0〜約0.3の範囲内であり、δが約0〜約0.1の範囲内であり、M’’が、Mg、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、Li、またはそれらの混合物である、請求項10に記載のリチウムイオン電池。
【請求項17】
前記不可逆容量損失が、コーティングなしの正極活性材料を用いて作製した等価な電池の不可逆容量損失に対して、少なくとも約10%減少される、請求項10に記載のリチウムイオン電池。
【請求項18】
前記活性組成物が、少なくとも約1.3g/mLのタップ密度を有する、請求項10に記載のリチウムイオン電池。
【請求項19】
正極と、リチウムを取り込む組成物を含む負極と、前記正極と前記負極の間の隔離板とを備えるリチウムイオン電池であって、前記正極が、無機組成物をコーティングした活性組成物を有する活性材料と、異なる導電性粉末と、ポリマーバインダとを含み、前記正極活性材料が、少なくとも約245mAh/gの放電比容量と、少なくとも約3.55ボルトの平均電圧と、室温で、4.6ボルトから2.0ボルトへC/3の放電速度で、10サイクルでの容量の少なくとも約90%である40サイクルでの容量とを有する、リチウムイオン電池。
【請求項20】
前記正極活性材料が、室温で、4.6ボルトから2.0ボルトへC/3の放電速度で、少なくとも約250mAh/gの比容量を有する、請求項19に記載のリチウムイオン電池。
【請求項21】
室温で、4.6ボルトから2.0ボルトへC/3の放電速度で、40サイクルでの容量が10サイクルでの容量の少なくとも約95%である、請求項19に記載のリチウムイオン電池。
【請求項22】
正極活性組成物をコーティングする無機組成物が、金属/メタロイドフッ化物を含む、請求項19に記載のリチウムイオン電池。
【請求項23】
前記正極活性組成物が、組成式Li1+xM1−xO2によって近似的に表される組成物を含み、ここで、Mが、1つまたは複数の金属元素であり、0.01≦x≦0.3である、請求項19に記載のリチウムイオン電池。
【請求項24】
前記正極活性組成物が、組成式Li1+xNiαMnβCoγM’’δO2によって近似的に表される組成を含み、ここで、xが約0.05〜約0.25の範囲内であり、αが約0.1〜約0.4の範囲内であり、βが約0.4〜約0.65の範囲内であり、γが約0〜約0.3の範囲内であり、δが約0〜約0.1の範囲内であり、M’’が、Mg、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、Li、またはそれらの混合物である、請求項23に記載のリチウムイオン電池。
【請求項25】
前記負極が元素炭素を含む、請求項19に記載のリチウムイオン電池。
【図1】
【図2(a)】
【図2(b)】
【図2(c)】
【図2(d)】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図2(a)】
【図2(b)】
【図2(c)】
【図2(d)】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【公表番号】特表2013−511129(P2013−511129A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538837(P2012−538837)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/054119
【国際公開番号】WO2011/059693
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(510275367)エンビア・システムズ・インコーポレイテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】ENVIA SYSTEMS, INC.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/054119
【国際公開番号】WO2011/059693
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(510275367)エンビア・システムズ・インコーポレイテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】ENVIA SYSTEMS, INC.
【Fターム(参考)】
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