説明

リチウム二次電池電極用スラリー組成物及びそれを用いた電池

【課題】無機固体電解質を用いてもイオン伝導度が高く、かつ強度が高い電極層を製造することが可能なスラリーの提供。
【解決手段】活物質粒子及び/又は硫化物系固体電解質粒子、バインダー、及びニトリル溶媒を含み、m:n=50〜90:50〜10(式中、mは前記バインダー中の式(1)で示される繰返単位の全重量%、nはバインダー中の式(2)で示される繰返単位の全重量%である。)、及び0.1≦100×x/y≦20(式中、xはスラリー中のバインダーの重量、yは[スラリー中のバインダーの重量+スラリー中の硫化物系固体電解質粒子の重量+スラリー中の活物質粒子の重量]を示す。)を満たすスラリーであって、バインダーは、式(1)で示される繰返単位及び式(2)で示される繰返単位を有し、前記ニトリル溶媒は式(3)で表わされるスラリー。式(1)−(−CFCH−)−式(2)−(−CFCF(CF)−)−式(3)R−C≡N

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池及びその電池部材に用いることのできるスラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、PDA、ノートパソコン等の高機能化に伴い、長時間使用が可能であり、かつ小型・軽量で、安全性の高い二次電池が強く要望されている。
しかし、従来から使用されてきた可燃性の有機溶媒を含むリチウム二次電池は過充電時や濫用時に液漏れや発火の危険性がある。そのため、電池の高エネルギー密度化に伴い、安全性の確保が重要な課題とされてきた。
【0003】
このような課題を解決する電池として、有機電解液に比べて化学的に安定で、かつ漏液や発火の問題のない無機固体電解質を電解質として用いた全固体リチウムイオン二次電池の研究開発が鋭意行われている。
ここで、固体電解質及び活物質は無機物であるため、固体電解質粒子及び活物質粒子のみを用いて電極層を製造すると電極層が非常に脆くなるという欠点を有している。
【0004】
この欠点を解消するために、固体電解質粒子と活物質粒子にバインダーを添加したスラリーを塗布・乾燥して電極層を製造する技術が開発された(特許文献1)。
しかし、バインダーはポリマーであるため、イオン伝導度が低く、上記電極層を用いたリチウムイオン電池では高性能とすることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−212058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、無機固体電解質を用いてもイオン伝導度が高く、かつ強度が高い電極層を製造することが可能なスラリーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下のスラリー等が提供される。
1.活物質粒子及び/又は硫化物系固体電解質粒子、バインダー、及びニトリル溶媒を含み、下記式(A)及び(B)を満たすスラリーであって、
前記バインダーは、式(1)で示される繰返単位及び式(2)で示される繰返単位を有し、
前記ニトリル溶媒は式(3)で表わされるスラリー。
m:n=50〜90:50〜10・・・(A)
(式中、mは前記バインダー中の式(1)で示される繰返単位の全重量%、nは前記バインダー中の式(2)で示される繰返単位の全重量%である。)
0.1≦100×x/y≦20・・・(B)
(式中、xはスラリー中のバインダーの重量、yは[スラリー中のバインダーの重量+スラリー中の硫化物系固体電解質粒子の重量+スラリー中の活物質粒子の重量]を示す。)
【化1】

(式(3)中、Rは炭素数1〜13の炭化水素からなる主鎖及び炭素数1〜13の炭化水素からなる側鎖を有する基、又は炭素数3〜7の環状構造を有する基であり、これらは飽和でも不飽和であってもよく、官能基を含んでいてもよい。
前記官能基は、エーテル、カルボニル、カルボキシル、ヒドロキシ、チオ、チオール、チオキシ、スルホ、ニトリル、ニトロ、ニトロソ、アゾ、アミド、イミド、アミノ、イミノ又はハロゲンである。)
2.1に記載のスラリーを用いて製造した電極、及び
1に記載のスラリーを用いて製造した電解質層のうち少なくとも1つを備えるリチウムイオン電池。
3.電極及び電解質層のうち少なくとも1つが、バインダー及び硫化物系固体電解質粒子を含み、前記バインダーが式(1)で示される繰返単位及び式(2)で示される繰返単位を有するリチウムイオン電池。
【化2】

【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、無機固体電解質を用いてもイオン伝導度が高く、かつ強度が高い電極層を製造することが可能なスラリーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】密着性を測定する方法を説明するための図である。
【図2】実施例1で用いた正極活物質の粒度分布グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のスラリーは、活物質粒子及び/又は硫化物系固体電解質粒子、バインダー、及びニトリル溶媒を含む。
上記バインダーは、式(1)で示される繰返単位及び式(2)で示される繰返単位を有し、その他の成分を含んでいてもよい。
【化3】

【0011】
上記ニトリル溶媒は式(3)で表わされる。
【化4】

式(3)中、Rは炭素数1〜13の炭化水素からなる主鎖及び炭素数1〜13の炭化水素からなる側鎖を有する基、又は炭素数3〜7の環状構造を有する基であり、これらは飽和でも不飽和であってもよく、官能基を含んでいてもよい。
【0012】
上記官能基は、エーテル、カルボニル、カルボキシル、ヒドロキシ、チオ、チオール、チオキシ、スルホ、ニトリル、ニトロ、ニトロソ、アゾ、アミド、イミド、アミノ、イミノ又はハロゲンである。
【0013】
また、本発明のスラリーは下記式(A)及び(B)を満たす。
m:n=50〜90:50〜10・・・(A)
(式中、mは前記バインダー中の式(1)で示される繰返単位の全重量%、nは前記バインダー中の式(2)で示される繰返単位の全重量%である。)
【0014】
0.1≦100×x/y≦20・・・(B)
(式中、xはスラリー中のバインダーの重量、yは[スラリー中のバインダーの重量+スラリー中の硫化物系固体電解質粒子の重量+スラリー中の活物質粒子の重量]を示す。)
本発明のスラリーを用いて製造した電池部材は、密着性、耐屈曲性及び耐熱性に優れる。
【0015】
(1)活物質粒子
活物質粒子は、正極活物質又は負極活物質である。
正極活物質としては、リチウムイオンの挿入脱離が可能な金属酸化物、電池分野において正極活物質として公知のものが使用できる。
例えば、硫化物系では硫化チタン(TiS)、硫化モリブデン(MoS)、硫化鉄(FeS、FeS)、硫化銅(CuS)及び硫化ニッケル(Ni)等が使用でき、特にTiSが好適である。これらの物質は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0016】
また、酸化物系の正極活物質は好ましくは下記式(10)又は(11)で表わされる。
LiNi1−x・・・(10)
LiNiCoAl1−a−b・・・(11)
式中、xは0.1<x<0.9を満たす数であり、MはFe,Co,Mn及びAlからなる群から選ばれる元素であり、0≦a≦1、0≦b≦1である。
【0017】
また、例えば酸化ビスマス(Bi)、鉛酸ビスマス(BiPb)、酸化銅(CuO)、酸化バナジウム(V13)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)や、ニッケルーマンガン系酸化物(LiNi0.5Mn0.5)、ニッケルーアルミニウムーコバルト系酸化物(LiNi0.8Co0.15Al0.05)、ニッケルーマンガンーコバルト系酸化物(LiNi0.33Co0.33Mn0.33)等が使用でき、特にLiCoOやLiNi0.8Co0.15Al0.05が好適である。
これらの物質は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
尚、上記の硫化物系と酸化物系を混合して用いることも可能である。また、上記の他に、セレン化ニオブ(NbSe)も使用することができる。
必要に応じて、表面を酸化物や硫化物等でコート処理したものも好適に使用できる。
【0019】
負極活物質としては、リチウムイオンの挿入脱離が可能な物質、電池分野において負極活物質として公知のものが使用できる。
例えば、炭素材料、具体的には、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛及び難黒鉛化性炭素等が挙げられる。又はその混合物でもよい。好ましくは、人造黒鉛である。
また、金属リチウム、金属インジウム、金属アルミ、金属ケイ素等の金属自体や他の元素、化合物と組合わせた合金を、負極材として用いることができる。
【0020】
活物質の粒径は、0.01μm以上50μm以下であることが好ましい。0.01μm未満であるとハンドリングが困難になるおそれがある。50μmより大きいと硫化物系固体電解質との接触面積が小さくなり、イオン伝導性が低くなるおそれがある。より好ましくは、活物質の粒径は1μm以上30μm以下である。
【0021】
(2)硫化物系固体電解質粒子
硫化物系固体電解質は、好ましくはLi及びSを含む。
また、硫化物系固体電解質は、P、B、Si、Ge及びAlからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素、並びにLi元素及びS元素を含むことが好ましい。
固体電解質粒子は、好ましくはS、Li及びPを含む。
【0022】
硫化物系固体電解質は、例えば硫化リチウム(LiS)及び五硫化二燐(P);硫化リチウム、単体燐及び単体硫黄;又は硫化リチウム、五硫化二燐、単体燐及び/又は単体硫黄を原材料として製造することができる。
【0023】
硫化物系固体電解質を、硫化リチウムと、五硫化二りんから製造する場合、混合モル比は、通常50:50〜80:20、好ましくは60:40〜75:25である。特に好ましくは、LiS:P=68:32〜74:26(モル比)程度である。
【0024】
上記材料の混合物を溶融反応した後、急冷する、又はメカニカルミリング法(以下、MM法という場合がある)により処理することにより、ガラス状固体電解質が得られる。得られたガラス状固体電解質をさらに熱処理すると、結晶性固体電解質である硫化物系固体電解質が得られる。
【0025】
硫化物系固体電解質粒子の粒径は、0.01μm以上50μm以下であることが好ましい。上記粒径はレーザー回折式粒度分布測定方法によって求めることができる。
0.01μm未満であるとハンドリングが困難になるおそれがある。50μmより大きいと活物質との接触面積が小さくなり、イオン伝導性が低くなるおそれがある。より好ましくは、硫化物系固体電解質粒子の粒径は、0.05以上20μm以下である。
【0026】
レーザー回折式粒度分布測定方法は、組成物を乾燥せずに粒度分布を測定することができ、具体的には、組成物中の粒子群にレーザーを照射してその散乱光を解析して粒度分布を測定する。
具体的な測定方法は以下の通りである。測定装置として、例えばMalvern Instruments Ltd社製マスターサイザー2000を用いることができる。
まず、装置の分散槽に脱水処理されたトルエン(和光純薬製、製品名:特級)110mlを入れ、さらに分散剤として脱水処理されたターシャリーブチルアルコール(和光純薬製、特級)を6%添加する。上記混合物を十分混合した後、固体電解質含有組成物を添加して粒子径を測定する。
ここで、固体電解質含有組成物の添加量は、上記装置で規定されている操作画面で、粒子濃度に対応するレーザー散乱強度が規定の範囲内(10〜20%)に収まるように加減して加える。この範囲を超えると多重散乱が発生し、正確な粒子径分布を求めることができなくなる恐れがある。また、この範囲より少ないとSN比が悪くなり、正確な測定ができない恐れがある。
【0027】
上記装置では、固体電解質含有組成物の添加量に基づきレーザー散乱強度が表示されるので、上記レーザー散乱強度範囲に入る添加量を見つける。
上記のように、固体電解質含有組成物の添加量は組成物の濃度によって最適量は異なるが、概ね10μL〜200μL程度である。
【0028】
ここで、トルエンに分散剤を添加するのは、固体電解質含有組成物内の「凝集している固体電解質粒子」を一次粒子にする(分散させる)ためではなく、測定する固体電解質含有組成物内の固体電解質粒子が凝集しないようにするためである。
【0029】
(3)バインダー
バインダーは、式(1)で示される繰返単位及び式(2)で示される繰返単位を有する。(1)はフッ化ビニリデンに基づく重合単位(VDF)であり、(2)はヘキサフルオロプロピレンに基づく重合単位(HFP)である。
【化5】

【0030】
mを、バインダー中の式(1)で示される繰返単位の全重量%、nを、バインダー中の式(2)で示される繰返単位の全重量%としたとき、これらの比は下記式(A)を満たす。
m:n=50〜90:50〜10・・・(A)
【0031】
バインダー中の式(2)で示される全繰返単位の重量比が10%未満であると、ニトリル溶媒に溶解することができないおそれがある。バインダー中の式(2)で示される全繰返単位の重量比が50%より大きいと、VDFの特性が発揮されず、密着性が乏しくなるおそれがある。より好ましくは、m:n=80〜90:20〜10である。
【0032】
尚、n、mは以下のようにして求めることができる。
m=100×(m1×m2)/(m1×m2+n1×n2)
n=100×(n1×n2)/(m1×m2+n1×n2)
式中、m1は核磁気共鳴測定(NMR)で測定された式(1)で示されるセグメント(繰返単位)のmol%であり、n1は核磁気共鳴測定(NMR)で測定された式(2)で示されるセグメントのmol%であり、m2は式(1)で示されるセグメントの分子量であり、n2は式(2)で示されるセグメントの分子量である。
尚、NMRで測定するのは、一分子中の各セグメントのmol%ではなく、バインダー全部に対する各セグメントのmol%である。
【0033】
バインダー分子の数平均分子量は、1,000〜500,000であることが好ましく、1,000〜100,000であることがより好ましく、5,000〜500,000であることがさらに好ましい。
バインダー分子の数平均分子量が1,000〜100,000であれば、溶媒への溶解性が向上し、溶媒量を少なくすることができる。
一方、バインダー分子の数平均分子量が5,000〜500,000であれば、粘着性が増すので、本発明組成物の分散安定性や塗布性が向上し正極層を作製しやすくなる。
【0034】
(4)ニトリル溶媒
ニトリル溶媒は式(3)で示される。
【化6】

式(3)中、Rは炭素数1〜13の炭化水素からなる主鎖及び炭素数1〜13の炭化水素からなる側鎖を有する基、又は炭素数3〜7の環状構造を有する基であり、これらは飽和でも不飽和であってもよく、官能基を含んでいてもよい。
上記炭素数3〜7の環状構造を有する基の環状構造は、好ましくは芳香環構造であり、環状構造の炭素数は好ましくは5又は6である。炭素数3〜7の環状構造を有する基は、より好ましくはフェニル基である。
【0035】
官能基は、エーテル、カルボニル、カルボキシル、ヒドロキシ、チオ、チオール、チオキシ、スルホ、ニトリル、ニトロ、ニトロソ、アゾ、アミド、イミド、アミノ、イミノ又はハロゲンであり、好ましくは、チオ、チオール、ニトリルである。
上記ニトリル溶媒は上記固体電解質を劣化させず、また、上記バインダーの溶解性や固体物分散性が良好である。
【0036】
式(3)の化合物は、好ましくは分岐構造を有する炭素数3及び4の炭化水素鎖、又は六員環構造を含む化合物であり、具体的には、イソブチロニトリル、イソバレロニトリル及びベンゾニトリル等が挙げられる。
【0037】
(5)各成分の割合
本発明のスラリーは、下記式を満たす。
0.1≦100×x/y≦20
x:スラリー中のバインダーの重量
y:スラリー中のバインダーの重量+スラリー中の硫化物系固体電解質粒子の重量+スラリー中の正極活物質粒子の重量
【0038】
100×x/yが0.1未満であると、製造した電極層の強度が低くなるおそれがある。
100×x/yが20より大きいと、製造した電極中の活物質の量が少なくなり、電気容量が低くなるおそれがある。また、電極中の硫化物系固体電解質の量が少なくなり、イオン伝導性が低くなるおそれがある。
【0039】
本発明のスラリーは、より好ましくは下記式を満たす。
1≦100×x/y≦10
【0040】
本発明のスラリーは、上記の各成分を混合し粉砕することにより製造することができる。
この際、予め上記バインダーをニトリル溶媒の一部に溶解させて、これと上記スラリーの残りの成分を混合してもよい。
【0041】
本発明のリチウムイオン電池は正極、固体電解質層及び負極を含み、これらのうち少なくとも1つが上記のバインダー及び硫化物系固体電解質粒子を含む。
正極、固体電解質層及び負極の少なくとも1つは、本発明のスラリーを用いて、例えば塗布法により製造できる。
この場合、層を別々に形成し、貼り合せ、接合してもよいし、積層構造を連続的に形成してもよい。
【実施例】
【0042】
製造例1(固体電解質の製造)
[硫化リチウムの製造]
硫化リチウムは、特開平7−330312号公報における第1の態様(2工程法)の方法に従って製造した。具体的には、撹拌翼のついた10リットルオートクレーブにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)3326.4g(33.6モル)及び水酸化リチウム287.4g(12モル)を仕込み、300rpm、130℃に昇温した。昇温後、液中に硫化水素を3リットル/分の供給速度で2時間吹き込んだ。
【0043】
続いてこの反応液を窒素気流下(200cc/分)昇温し、反応した水硫化リチウムを脱硫化水素化し硫化リチウムを得た。昇温するにつれ、上記硫化水素と水酸化リチウムの反応により副生した水が蒸発を始めたが、この水はコンデンサにより凝縮し系外に抜き出した。水を系外に留去すると共に反応液の温度は上昇するが、180℃に達した時点で昇温を停止し、一定温度に保持した。水硫化リチウムの脱硫化水素反応が終了後(約80分)に反応を終了し、硫化リチウムを得た。
【0044】
[硫化リチウムの精製]
上記で得られた500mLのスラリー反応溶液(NMP−硫化リチウムスラリー)中のNMPをデカンテーションした後、脱水したNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌した。その温度のままNMPをデカンテーションした。さらにNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌し、その温度のままNMPをデカンテーションし、同様の操作を合計4回繰り返した。デカンテーション終了後、窒素気流下230℃(NMPの沸点以上の温度)で硫化リチウムを常圧下で3時間乾燥した。得られた硫化リチウム中の不純物含有量を測定した。
【0045】
亜硫酸リチウム(LiSO)、硫酸リチウム(LiSO)、チオ硫酸リチウム(Li)の各硫黄酸化物、及びN−メチルアミノ酪酸リチウム(NMAB)の含有量は、イオンクロマトグラフ法により定量した。その結果、硫黄酸化物の総含有量は0.13質量%であり、LMABは0.07質量%であった。このようにして精製したLiSを、以下の実施例で使用した。
【0046】
製造例2(電解質粒子1の製造)
製造例1により製造した平均粒径30μm程度のLiS 32.54gと平均粒径50μm程度のP(アルドリッチ社製)67.46gを10mmφアルミナボール175個が入った500mlアルミナ製容器に入れ密閉した。上記計量、密閉作業はすべてグローブボックス内で実施し、使用する器具類はすべて乾燥機で事前に水分除去したものを用いた。
【0047】
この密閉したアルミナ容器を、遊星ボールミル(レッチェ社製PM400)にて室温下、36時間メカニカルミリング処理することで白黄色の固体電解質ガラス粗粒子を得た。このときの回収率は78%であった。
得られた粗粒子のX線回折測定(CuKα:λ=1.5418Å)を行なった結果、原料LiSのピークは観測されず、固体電解質ガラスに起因するハローパターンであった。
【0048】
上記固体電解質粗粒子をグローブボックス内Ar雰囲気下でSUS製チューブに密閉し、300℃、2時間の加熱処理を施し電解質ガラスセラミック(平均粒径14.52μm)(電解質粒子1)を得た。このガラスセラミック粗粒子のX線回折測定では、2θ=17.8、18.2、19.8、21.8、23.8、25.9、29.5、30.0degにピークが観測された。
この固体電解質ガラスセラミック粗粒子の伝導度は、1.3×10−3S/cmであった。
また、リチウム・リン系硫化物ガラス固体電解質の体積基準平均粒径は、258μmであった。平均粒径は、上記測定方法により測定した。
【0049】
製造例3(電解質粒子2の製造)
製造例2において、製造例1で製造・精製した高純度硫化リチウムを0.766g(0.0166モル)とし、五硫化二リン(アルドリッチ社製)を1.22g(0.0055モル)とし、さらにアルゴン雰囲気下で、300℃、2時間の加熱をしなかった以外は製造例2と同様にして電解質粒子2を製造した。
得られた電解質粒子2について、X線回折測定によりガラス化していることを確認した。また、電解質粒子2の体積基準平均粒径は、126.4μmであり、イオン伝導度は、2.29×10−4S/cmであった。平均粒径は、上記測定方法により測定した。
【0050】
実施例1
(1)正極合材シートの作製
PVDF−HFP(バインダー:アルケマ製、KYNAR2751−00、HFP配合率(重量比)15%)2.0gをイソブチロニトリル(東京化成工業(株)製)18.0gに80℃で加熱溶解させたものをPVDF−HFPバインダー溶液1として用いた。
【0051】
遊星ボールミルのポットに、上記電解質粒子1を6.15g、上記PVDF−HFPバインダー溶液1を5.25g、及びイソブチロニトリルを9.27g投入し、370rpmで2.0時間ミリングを行なった。さらに正極活物質LNCAO(LiNi0.8Co0.15Al0.05)(戸田工業製)を14.33g添加し、150rpmで5分間ミリングを行なった。得られた正極スラリーを集電板であるアルミ箔上にドクターブレードを用いて塗布し、風乾、加熱減圧乾燥を行い、正極シートを得た。
尚、上記LNCAOの体積基準平均粒径は、5.91μmであった。LNCAOの粒度分布グラフを図2に示す。
【0052】
この正極シートを所定の大きさに切り出し、図1に示すように180°に折り曲げたところ、正極が集電体から剥がれず集電体との密着性が良好であることが分かった。また、正極シート上の正極部分の厚みは50μmであった。
【0053】
(2)固体電解質シートの作製
遊星ボールミルのポットに、上記電解質粒子1を7.76g、上記PVDF−HFPバインダー溶液1を2.40g、及びイソブチロニトリルを9.84g仕込み、370rpmで2.0時間ミリングを行なった。得られた固体電解質スラリーを、上記正極合材シート上へドクターブレードを用いて塗布し、正極・固体電解質二層シートを得た。
【0054】
この正極・固体電解質2層シートを所定の大きさに切り出し、図1に示すように180°に折り曲げたところ、正極が集電体から剥がれず集電体との密着性が良好であり、かつ電解質層が正極から剥離せず電解質層と正極との密着性が良好であることが分かった。固体電解質層の厚みは100μmであった。
【0055】
また、上記で製造した固体電解質スラリーを集電体上へドクターブレードを用いて塗布、風乾、加熱減圧乾燥を行い、固体電解質シートを得た。
この固体電解質シートを所定の大きさに切り出し、図1に示すように180°に折り曲げたところ、電解質層が集電体から剥離せず電解質層と集電体との密着性が良好であることが分かった。固体電解質層の厚みは100μmであった。
【0056】
(3)電池の作製
作製した正極・固体電解質層2層シートを直径16mmで打抜き、ダイス鋼SKD11製の16.5Φmm円筒金型に投入し、68MPa加圧してペレットを作製した。さらに正極の反対側の電解質層に接するように負極として直径16mmで打ち抜いた0.1mm厚のIn箔(レアメタリック社製)を貼り合わせ、これら3層を2032サイズのコインセルに収容し電池とした。
【0057】
(4)充放電試験
電流密度を0.1mA/cmとしたときの初期の充電量及び放電量を測定した。結果を表1に示す。
【0058】
実施例2〜5
正極、及び固体電解質のバインダー含有量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして電池部材及び電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0059】
実施例6
PVDF−HFP−TEF(バインダー:アルケマ製、KYNAR−ADS,VDF,HFP及びTEFの重量比は、それぞれ63、13、24wt%)2.0gを、イソブチロニトリル(東京化成工業(株)製)18.0gに80℃で加熱溶解させたものをPVDF−HFP−TEFバインダー溶液とした。
PVDF−HFPバインダー溶液1を上記のPVDF−HFP−TEFバインダー溶液とした以外は、実施例1と同様にして電池部材及び電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0060】
実施例7
PVDF−HFP(バインダー:アルケマ製、Kynar2500−20,VDF及びHFPの重量比は、それぞれ80、20wt%)2.0gを、イソブチロニトリル(東京化成工業(株)製)18.0gに80℃で加熱溶解させたものをPVDF−HFPバインダー溶液2とした。
PVDF−HFPバインダー溶液1を上記のPVDF−HFPバインダー溶液2とした以外は、実施例1と同様にして電池部材及び電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0061】
実施例8
PVDF−HFP(バインダー:アルケマ製、Kynar2801−00,VDF及びHFPの重量比は、それぞれ90、10wt%)2.0gを、イソブチロニトリル(東京化成工業(株)製)18.0gに80℃で加熱溶解させたものをPVDF−HFPバインダー溶液3とした。
PVDF−HFPバインダー溶液1を上記のPVDF−HFPバインダー溶液3とした以外は、実施例1と同様にして電池部材及び電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0062】
実施例9
固体電解質として電解質粒子2を用いた以外は実施例1と同様にして電池部材及び電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0063】
実施例10
固体電解質として電解質粒子2を用いた以外は実施例6と同様にして電池部材及び電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0064】
尚、表1の密着性評価結果は以下を示す。
正極密着性
○:180°の折り曲げで、破損なし
△:180°の折り曲げで、端がかける程度で電池作製に耐えうる
×:180°の折り曲げで、ほぼ全壊し、電池作製に耐えない
固体電解質層密着性
○:正極層との密着性及び集電体との密着性の両方が180°の折り曲げで、破損なし
△:正極層との密着性及び集電体との密着性のいずれか(又は両方で)が180°の折り曲げで、端がかける程度で電池作製に耐えうる
×:正極層との密着性及び集電体との密着性のいずれか(又は両方で)が180°の折り曲げでほぼ全壊し、電池作製に耐えない
【0065】
比較例1〜4
正極及び固体電解質に用いるバインダーとして、ポリエチレンオキシド(PEO)及びポリプロピレンオキシド(PPO)の共重合樹脂を用い、その含有量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして電池部材及び電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
比較例1は、正極層と電解質層が剥がれてしまい、電池を製造することができなかった。
【0066】
比較例5〜8
バインダーの種類、添加量を表1のように変更した他は実施例1と同様にして電池部材及び電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
比較例6は、正極層及び電解質層の密着性は優れていたが、充放電試験を行ったところ、充電することができなかったため、リチウムイオン電池として機能しないことが分かった。
【0067】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のスラリーは、リチウムイオン電池の部材に用いることができる。本発明のリチウムイオン電池は、携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、モーターを電力源とする自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等の電池として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質粒子及び/又は硫化物系固体電解質粒子、バインダー、及びニトリル溶媒を含み、下記式(A)及び(B)を満たすスラリーであって、
前記バインダーは、式(1)で示される繰返単位及び式(2)で示される繰返単位を有し、
前記ニトリル溶媒は式(3)で表わされるスラリー。
m:n=50〜90:50〜10・・・(A)
(式中、mは前記バインダー中の式(1)で示される繰返単位の全重量%、nは前記バインダー中の式(2)で示される繰返単位の全重量%である。)
0.1≦100×x/y≦20・・・(B)
(式中、xはスラリー中のバインダーの重量、yは[スラリー中のバインダーの重量+スラリー中の硫化物系固体電解質粒子の重量+スラリー中の活物質粒子の重量]を示す。)
【化7】

(式(3)中、Rは炭素数1〜13の炭化水素からなる主鎖及び炭素数1〜13の炭化水素からなる側鎖を有する基、又は炭素数3〜7の環状構造を有する基であり、これらは飽和でも不飽和であってもよく、官能基を含んでいてもよい。
前記官能基は、エーテル、カルボニル、カルボキシル、ヒドロキシ、チオ、チオール、チオキシ、スルホ、ニトリル、ニトロ、ニトロソ、アゾ、アミド、イミド、アミノ、イミノ又はハロゲンである。)
【請求項2】
請求項1に記載のスラリーを用いて製造した電極、及び
請求項1に記載のスラリーを用いて製造した電解質層のうち少なくとも1つを備えるリチウムイオン電池。
【請求項3】
電極及び電解質層のうち少なくとも1つが、バインダー及び硫化物系固体電解質粒子を含み、前記バインダーが式(1)で示される繰返単位及び式(2)で示される繰返単位を有するリチウムイオン電池。
【化8】


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−151096(P2012−151096A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−269584(P2011−269584)
【出願日】平成23年12月9日(2011.12.9)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】