説明

リニアソレノイドバルブの制御装置

【課題】リニアソレノイドバルブの制御装置における高応答性を実現するための初期駆動電流を正確に学習する制御を行う。
【解決手段】目標圧Paとブレーキ圧Paとの偏差δPに応じて油圧フィードバック制御器12により求めた油圧フィードバックデューティ比Dyfと、初期デューティ学習器16により、増圧用バルブ5の上下流の差圧ΔPに基づいて求めたバルブ初期特性による初期駆動量Dy0及び修正量ΔDyとにより、リニアソレノイドバルブからなる増圧用バルブ5を制御する駆動デューティ比Dyを決定する。リニアソレノイドバルブの安定動作時に初期駆動量を求め、その初期駆動量をフィードフォワード制御の指令値としてリニアソレノイドバルブを制御することができ、リニアソレノイドバルブが動き始めるための初期駆動量を確保した通電制御を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアソレノイドバルブの制御装置に関し、特に、高圧源の流体圧を被制御対象に供給するバルブの弁体を駆動するリニアソレノイドバルブの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高圧源の流体圧とその被制御対象として、例えば自動車のブレーキ装置のマスターシリンダとホイールシリンダとがあり、さらに、ホイールシリンダの油圧を増減制御するためのリニアソレノイドバルブを設けてブレーキを制御するブレーキ装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−199133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したようなリニアソレノイドバルブを用いたブレーキ装置では、ブレーキの油圧制御を、油圧フィードバック制御とリニアソレノイドバルブの電流フィードバック制御とを用いて行うことがある。電流フィードバック制御を行うのは、リニアソレノイドバルブが開弁し始めるためにはある程度以上の電流(初期駆動電流)を流す必要があり、油圧制御に遅れを生じさせないようにするために、油圧制御開始時に初期駆動電流をリニアソレノイドバルブに流すためである。なお、リニアソレノイドバルブの駆動制御にはPWM制御が行われ、電流フィードバック制御のためには電流センサが設けられている。
【0005】
上記した油圧フィードバック制御と電流フィードバック制御とを用いた場合の油圧フィードバック制御における制御出力には電流指令値が用いられることになり、電流フィードバック制御における上記初期駆動電流が流れ始めるまでの到達時間分だけ遅れが生じることになる。また、リニアソレノイドバルブにおいても、コイルの発熱や雰囲気温度の変化、固体のばらつきや経年変化等によって、初期駆動電流に対応したPWMにおける制御デューティも一定しないという問題がある。
【0006】
それに対して上記特許文献1等では、電流センサと油圧センサとの変化の相関関係等を用いた学習制御を行うようにしているが、学習が不正確な場合には初期駆動電流の誤差を油圧フィードバック制御で補うことになり、油圧制御の精度や応答性に悪影響を及ぼす虞がある。
【0007】
さらに、電気自動車やハイブリッド自動車等では回生協調制御によるブレーキ制御を行うようにしており、その場合には、運転者によるブレーキ操作量に対して回生ブレーキを主として油圧ブレーキを併用する。そのため、例えばブレーキペダルとマスターシリンダとを直結せずに、ペダルの変位センサを用いてブレーキ操作量を検出して制御するブレーキバイワイヤを用いているが、その場合には高精度かつ高応答のブレーキ制御が要求される。それに対して、上記精度や応答性の問題を解消するために初期駆動電流の正確な学習制御が要求される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決して、リニアソレノイドバルブの制御装置における高応答性を実現するための初期駆動電流を正確に学習する制御を行うために、本発明に於いては、高圧源(4)の流体圧を被制御対象(3)に制御して供給するためのリニアソレノイドバルブ(5)の通電量を制御する制御手段(2)を有するリニアソレノイドバルブの制御装置であって、前記被制御対象に対する目標圧を決める目標圧決定手段(1)と、前記被制御対象に加わる実圧力を検出する実圧力センサ(9)とを有し、前記制御手段は、前記目標圧と前記実圧力との偏差を小さくするように前記リニアソレノイドバルブの通電量を制御する通電制御手段(12・13)と、前記目標圧と実圧力との偏差が小さくなった安定状態を判定する偏差収束状態判定手段(15)と、前記偏差収束状態判定手段により前記偏差が小さい状態の継続が判定された時の前記通電量に基づいて前記リニアソレノイドバルブが動作し始めるための初期通電量を決定する初期通電量決定手段(16)と、前記通電量に前記初期通電量を含めて前記リニアソレノイドバルブを駆動するバルブ駆動手段(23)とを有するものとした。
【0009】
これによれば、例えば被制御対象に対する圧力を増圧制御する場合に、目標圧と実圧力との偏差が所定値以下の状態が継続してリニアソレノイドバルブの制御状態が安定状態にある場合には、この時のリニアソレノイドバルブの通電量を初期駆動量として学習する。この状態でのバルブの弁体は、常閉とするばね付勢力に抗して僅かに開弁し、差圧による開弁力とコイル通電による開弁電磁力とがばね付勢力に略釣り合った状態と考えられ、その状態の通電量が初期駆動量に相当し得るため、通常の油圧制御中にも随時学習可能である。なお、通電量としては、PWM制御する場合にはデューティ比とすることができる共に、電流フィードバック制御における電流センサを必要とせず、また初期駆動量がフィードフォワード的に予め指令値として与えられることから、リニアソレノイドバルブの高応答性を実現できる。
【0010】
また、目標圧の変化が小さく、かつ偏差の符号が変動しないことを条件として学習を実施することが好ましい。増圧制御する場合においては、目標圧の変化が小さく、かつ実圧力が順方向(増圧方向)に目標圧を越えることなく近付いていることを条件として学習を実行することにより、リニアソレノイドバルブの開度とデューティ比がより精度よく対応した状態で学習の実施が可能となる。
【0011】
特に、前記初期通電量決定手段(16)は、前記被制御対象の制御状態により前記目標圧の変動が小さい状態または前記実圧力の変動が小さい状態を判定することが困難であると判断した場合には前記初期通電量の決定を禁止すると良い。これによれば、例えばブレーキ装置に適用した場合にABS作動時や、他の圧力制御デバイスが作用している時等にはリニアソレノイドの作動と他の制御弁やデバイスの駆動とが干渉するため、そのような場合の学習を禁止することにより、学習した値が不正確になってしまうことを防止し得る。
【0012】
また、前記リニアソレノイドバルブの上流圧を検出する上流圧センサ(8)と、前記リニアソレノイドバルブの下流圧を検出する下流圧センサ(9)とを有し、前記初期通電量決定手段は、前記初期通電量を前記リニアソレノイドバルブの上流圧と前記下流圧との差圧に対応して決定するよう構成し、この対応関係を前記通電量に基づき修正するよう構成すると良い。これによれば、リニアソレノイドバルブの上流圧と下流圧との差圧の大きさの違いによって初期駆動量が異なるとしても差圧の大きさの違いに対して高精度な初期駆動量を求めることができ、適切な流体圧の立ち上げによるリニアソレノイドバルブの応答性を向上し得る。
【発明の効果】
【0013】
このように本発明によれば、リニアソレノイドバルブの安定動作時に初期駆動量を求め、その初期駆動量を用いてリニアソレノイドバルブを制御することができ、リニアソレノイドバルブが動き始めるための初期駆動量を確保した通電制御を行うことができる。また、電流フィードバック制御における電流センサを設ける必要が無く、制御構成をコンパクト化し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明が適用された自動車のブレーキ装置の要部を示すブロック図である。
【図2】差圧から初期駆動量を求めるマップを示す図である。
【図3】制御要領を示すタイムチャートである。
【図4】差圧から初期駆動量の修正量を求めるマップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は本発明が適用された自動車のブレーキ装置の要部を示すブロック図である。なお、対象となる自動車には4輪分のブレーキ制御系が設けられているが、基本構成は同じであって良く、代表として1輪のブレーキ系のみ示し、他を省略する。尚、本発明の実施形態はこれに限るものではなく、複数車輪に対して単一の増圧用バルブを設けた構成や、高圧源等と対応して設けられる図示しない調圧バルブ等にも適用可能である。
【0016】
図1において、ブレーキペダル(図示省略)の操作量を検出する変位センサ1の出力が、制御手段としての制御ユニット2に入力している。この変位センサ1の出力が、被制御対象としてのホイールシリンダ3の目標圧Poの指令信号となる。なお、被制御対象のブレーキはディスクブレーキとして良いが、ドラムブレーキであっても良い。
【0017】
ブレーキペダルに連動するマスタシリンダ、あるいはポンプ・モータ等の加圧源・蓄圧源等により構成される高圧源4から増圧用バルブ5・減圧用バルブ6・低圧源7とがこの順に配設され、増圧用バルブ5と減圧用バルブ6との間にホイールシリンダ3が接続されている。これらは公知のブレーキ配管材により配管されており、作動流体としてブレーキ液が用いられる。なお、高圧源4側を上流とし、低圧源7側を下流とする。
【0018】
増圧用バルブ5及び減圧用バルブ6は、常閉側にばね付勢されかつ電磁力により開弁する公知のリニアソレノイドバルブからなり、制御ユニット2から出力される駆動電流により開弁位置が制御される。また、増圧用バルブ5の上流側には上流圧Phを検出するための上流圧センサ8が接続され、増圧用バルブ5の下流側にはブレーキ圧(実圧力)Paを検出するための実圧力センサ(下流圧センサ)としてのブレーキ圧センサ9が接続されている。
【0019】
このように配管されたブレーキ装置では、制御ユニット2からの制御信号により、増圧用バルブ5が開弁することにより高圧源4からの流体圧がホイールシリンダ6に供給されてブレーキ圧が増大し、減圧用バルブ6を開弁することによりホイールシリンダ6内の圧力が低圧源7に排出されてブレーキ圧が低減する。このようにしてブレーキ圧が調整されるようになっている。
【0020】
次に、制御ユニット2について説明する。制御ユニット2には、上記した変位センサ1からの目標圧Po指令信号と、ブレーキ圧センサ9からの実圧力としてのブレーキ圧Pa検出信号とが入力する差分器11が設けられている。差分器11は、目標圧Poとブレーキ圧Paとの偏差δP(=Pa−Po)を求めて、その偏差δP信号を通電制御手段としての油圧フィードバック制御器12に出力する。油圧フィードバック制御器12は、偏差δPに応じて対象となる増圧用バルブ5または減圧用バルブ6の駆動電流をPWM制御するための基準となる油圧フィードバック制御デューティ比Dyfを下限値設定回路25を介して通電制御手段としてのPWM生成回路13に出力する。なお、信号で「Dy」と表記するものはデューティ比を意味するものとする。
【0021】
また、目標圧Po指令信号は目標圧定常状態判定手段としての目標圧判定回路14に入力し、偏差δPは偏差収束状態判定手段としての偏差収束判定回路15に入力している。目標圧判定回路14では、目標圧Poの経過時間に対する変動が一定値以上であるか否かを判別し、変動が一定値を越えていない場合には目標圧Poの変動が小さいと判定し、その判定信号を初期通電量決定手段としての初期デューティ学習器16の実行判定回路17に出力する。同様に、偏差収束判定回路15では、偏差δPの経過時間に対する変動範囲が一定以上であるか否かを判別し、変動範囲が基準を越えていない場合には偏差δPが収束状態にあると判定し、その判定信号を実行判定回路17に出力する。
【0022】
実行判定回路17は、目標圧Poの変動が小さい、あるいはABS等、他の圧力制御デバイスの作動がないと判定されかつ偏差δPが収束状態にあると判定された場合に初期デューティ学習器16の実行を許可する。なお、実行判定回路17には、初期デューティ学習器16における学習禁止条件としての種々の禁止条件信号が入力するようになっており、いずれか1つの禁止条件信号の入力で初期デューティ学習器16の実行を禁止する。禁止条件としては、例えば、各バルブ5・6の増圧または減圧しようとする方が非制御中である場合、目標圧Paが微小な所定値以下の場合、電源電圧の異常降下時、ABS(横滑り防止等の旋回制御を含む)や他の圧力制御デバイスの制御中等であって良い。
【0023】
初期デューティ学習器16には、上流圧Phと、下流圧となるブレーキ圧Paとが入力して、その差圧ΔP(Ph−Pa)を出力する差分器24と、その差圧ΔPがそれぞれ入力する初期駆動量デフォルト設定回路18と初期駆動量学習値設定回路19とが設けられている。初期駆動量デフォルト設定回路18は、差圧ΔPに応じて各バルブ5・6を開弁開始可能な初期駆動量Dy0をマップまたは演算により求めて加算器20に出力する。ここでは、初期駆動量デフォルト設定回路18で求める初期駆動量Dy0は、各バルブ5・6の初期の特性に合わせて予め設定されているものであり、リニアソレノイドバルブにおいて、常閉側ばね付勢力及び上流・下流間の差圧に抗して開弁するのに必要な電磁力を発生させるための通電量に対応するものである。一方、初期駆動量学習値設定回路19は、初期駆動量デフォルト設定回路18で求める初期駆動量を修正するためのものであり、差圧ΔPおよび収束判定時デューティDy(Dy1)に応じて修正量ΔDyを求めて加算器20に出力する。
【0024】
加算器20は、初期駆動量Dy0と修正量ΔDyとを加算した修正値Dycを差分器21に出力する。この差分器21にはデューティマージン設定器22からのデューティマージンDymが入力する。なお、このデューティマージンDymは、油圧フィードバック制御における制御下限値を後述する下限値設定回路25によって設定する際、各バルブ5・6が不必要に開弁しないようデューティマージンを持たせるものであり、例えば数%であって良い。
【0025】
差分器21は、加算器20からの修正値Dycとデューティマージン設定器22からのデューティマージンDymとの演算結果となる補正後初期駆動量Dyaを下限値設定回路25に出力する。下限値設定回路25は、油圧フィードバック制御器12からの油圧フィードバック制御デューティ比Dyfと補正後初期駆動量Dyaとを比較し、DyfがDyaを下回ることがないよう油圧フィードバック制御デューティ比Dyfの下限を規制した状態でPWM生成回路に比較結果を出力する。具体的には、油圧フィードバック制御デューティ比Dyfと補正後初期駆動量Dyaのうち、いずれか大きい方を選択するよう構成すれば良い。
【0026】
PWM生成回路13は、上記油圧フィードバック制御デューティ比Dyfと補正後初期駆動量Dyaとに基づいて決定された油圧フィードバック制御デューティ補正値Dyf’に基づき、増圧用バルブ5を駆動制御する通電量としての駆動デューティ比Dyを求め、その駆動デューティ比Dyをバルブ駆動手段としてのバルブ駆動回路23に出力する。
【0027】
バルブ駆動回路23は、駆動デューティ比Dyに応じた通電量で各バルブ5・6を駆動制御するが、各バルブ5・6に対しては排他処理によりいずれか一方のみに通電するようになっている。例えば、ブレーキ圧Paの増圧または減圧を偏差δPの正負に応じて行うことができる。ここでは、偏差δPの絶対値が所定値未満の時には増減圧いずれも行わないように構成する。
【0028】
このようにして構成されたリニアソレノイドバルブの制御装置による自動車のブレーキ装置の制御要領について以下に説明する。また、例として増圧する場合について説明する。減圧する場合はブレーキ圧の増減が異なるだけであり、その説明を省略する。
【0029】
運転者がブレーキをかけようとしてブレーキペダルを踏み込んだ操作が変位センサ1により検出されて、その検出信号が目標圧Poとして制御ユニット2に入力したら、先ず目標圧Poとブレーキ圧Paとの偏差δPに応じて、油圧フィードバック制御器12では油圧フィードバック制御デューティ比Dyfを算出する。
【0030】
上記したように増圧用バルブ5の弁体(図示省略)が常閉側付勢用ばね(図示省略)のばね力等の抵抗力に抗して開弁方向に変位し始める、すなわち増圧用バルブ5が開弁し始めるのに必要なデューティ比を初期駆動量Dy0として、初期駆動量デフォルト設定回路18にマップ化しておく。そのマップの一例を図2に示す。
【0031】
図2では横軸を差圧ΔP、縦軸を初期駆動量Dy0としており、実線は、増圧用バルブ5の初期(組立時)の特性に基づく差圧ΔPに対する開弁開始に対応する初期駆動量Dy0の値の一例を示す。
【0032】
初期駆動量Dy0を油圧フィードバック制御デューティ比Dyfの下限値として用いることにより、差圧ΔPによらず適切な初期駆動量Dy0が出力されるため、制御開始後、ただちに増圧用バルブ5を開弁させることができ、増圧用バルブ5の高い応答が可能となる。
【0033】
一方、増圧用バルブ5を構成するリニアソレノイドバルブは、上記したようにコイルの発熱や雰囲気温度の変化、固体のばらつきや経年変化等によって初期駆動量Dy0が変化する。その変化に対応するために、本装置では、初期駆動量Dy0が初期値に対して変化した場合の修正量ΔDyを随時学習し、その修正量ΔDyを反映させるようにしている。修正量ΔDyは初期駆動量学習値設定回路19により求められるようになっており、その求め方を図3及び図4を参照して説明する。
【0034】
図3の上段には目標圧Poとブレーキ圧Paとの変化が示され、図3の下段にはその場合の駆動デューティ比Dyの変化が示されている。図示例は、目標圧Poが、ブレーキ開始時には運転者の意識した踏み込み量近くまでブレーキペダルを踏み込むことから一気に上昇し、その後は所定の制動力が得られるまで緩やかに上昇する場合である。目標圧Poの時間変化が一定値以内である場合に、目標圧判定回路14により目標圧Poの変動が小さい状態であると判定する。また、図に示されるように、偏差δP(=Pa−Po)の所定時間tdでの変動範囲が基準値以内である場合に、偏差収束判定回路15により偏差δPの収束状態(フィードバック制御によるリニアソレノイドバルブの開度変動が小さくなった安定状態)であると判定する。さらにブレーキ圧Paが目標圧Poに対してt1からt2に至るまで目標圧Poを越えることなく低い値から近付いていくことを条件とすると良い。
【0035】
上記目標圧Poの変動が小さいと判定され、偏差δPの変動範囲が基準値以内である場合には、増圧用バルブ5がその時のデューティ比Dy1により僅かに開弁しているものの、ばね付勢力等による閉弁する力と電磁力による開弁する力とが略釣り合った状態である。また、偏差の符号変動がなければ、バルブの制御方向が切り替わることもないため、その釣り合った状態は、増圧用バルブ5を開弁開始可能な場合と同等とすることができ、上記t2におけるデューティ比Dy1から記憶された初期駆動量Dy0を減算した値を学習値Dyn=Dy1−Dy0として初期駆動量学習値設定回路19に取り込む。
【0036】
初期駆動量学習値設定回路19では、図4に示されるように、差圧ΔPに対する修正量ΔDyの関係をマップ化しておき、差圧ΔPに応じて修正量ΔDyを求める。また、上記したようにコイルの発熱や雰囲気温度の変化、固体のばらつきや経年変化等による増圧用バルブ5の特性の変化に対応するべく、マップを随時更新する。更新の一例としては、差圧の小さい図4のΔP1を挟んだ所定範囲A1に差圧ΔPがある場合に上記図3で学習した学習値Dyn(=Dy1−Dy0)を図4の×印で示したようにプロットする。そして、例えば最新の5個のプロット数の平均を範囲A1における基準点ΔDy1とし、同様に差圧ΔPの大きいΔP2を挟んだ所定範囲A2に対しても基準点ΔDy2を求め、両基準点ΔDy1〜ΔDy2間を直線補間し、その間の差圧ΔPに対する修正量ΔDyの関係とする。なお、差圧ΔP1より小さい側と差圧ΔP2より大きい側とはそれぞれの修正量ΔDyは一定(ΔDy1・ΔDy2)として良い。
【0037】
このようにして、初期駆動量デフォルト設定回路18の図2の実線から求められた初期駆動量Dy0と、初期駆動量学習値設定回路19の図4の実線から求められた修正量ΔDyとが加算器20で加算されることにより、初期駆動量Dy0は例えば図2の二点鎖線で示されるように修正される(Dyc)。その修正値DycからデューティマージンDymを差し引いた補正後初期駆動量Dyaが下限値設定回路25に入力される。なお、ここで出力値を制限するために制限器26を設けて設定値を規制しても良い。
【0038】
このデューティマージンDymは、修正値Dycでは増圧用バルブが過剰に開弁位置に制御される可能性があるため、不必要な開弁を防止しつつ確実に開弁開始可能にするための補正後初期駆動量Dyaを下限値として設定するものである。
【0039】
また、補正後初期駆動量Dyaは、コイルの発熱や雰囲気温度の変化、固体のばらつきや経年変化等による増圧用バルブ5の特性の変化に対応した開弁開始可能なデューティ比であり、油圧フィードバック制御における油圧フィードバック制御デューティ比Dyfが小さくて、その小さな油圧フィードバック制御デューティ比だけでは増圧用バルブ5が開弁することができない場合でも、この値を利用することで速やかに増圧用バルブ5を開弁させることができるデューティ比となる。制御開始時には補正後初期駆動量Dyaが必ず出力されるため、デューティ比制御における開弁開始時に応答性の高い制御を行うことができる。
【0040】
このように、PWM生成回路13に入力する指令信号を、油圧フィードバック制御器12からの油圧フィードバック制御デューティ比Dyfと、初期デューティ学習器16からの補正後初期駆動量Dyaとをそれぞれデューティ比として用いると共に、補正後初期駆動量Dyaを増圧バルブ5を速やかに開弁開始可能なデューティ比として油圧フィードバック制御中において常時利用可能とすることから、従来のように電流フィードバック制御における応答遅れが生じることが無く、リニアソレノイドバルブに対する応答性の高い制御を行うことができる。これにより、自動車のブレーキ装置に適し、特に電気自動車やハイブリッド自動車等では回生協調制御によるブレーキ制御を行うものに好適である。
【0041】
なお、減圧用バルブ6に適用する場合には、上流圧はブレーキ圧センサ9のブレーキ圧Paとなり、下流圧は、大気圧または減圧用バルブ6と低圧源7との間に設けられる圧力センサの検出圧とすれば良い。
【0042】
また、上記図示例では流体圧を油圧としたが、本発明は、油圧に限らず、空気圧の制御にも適用可能である。また、リニアソレノイドバルブ以外の各種電動アクチュエータに対しても応用が可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 変位センサ(目標圧決定手段)
2 制御ユニット(制御手段)
3 ホイールシリンダ(被制御対象)
4 高圧源
5 増圧用バルブ(リニアソレノイドバルブ)
8 上流圧センサ
9 ブレーキ圧センサ(実圧力センサ・下流圧センサ)
12 油圧フィードバック制御器(通電制御手段)
13 PWM生成回路(通電制御手段)
14 目標圧判定回路(目標圧定常状態判定手段)
15 偏差収束判定回路(偏差収束状態判定手段)
16 初期デューティ学習器(初期通電量決定手段)
18 初期駆動量デフォルト設定回路(マップ)
25 下限値設定回路
26 制限器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧源の流体圧を被制御対象に制御して供給するためのリニアソレノイドバルブの通電量を制御する制御手段を有するリニアソレノイドバルブの制御装置であって、
前記被制御対象に対する目標圧を決める目標圧決定手段と、前記被制御対象に加わる実圧力を検出する実圧力センサとを有し、
前記制御手段は、
前記目標圧と前記実圧力との偏差が小さくなった安定状態を判定する偏差収束状態判定手段と、
前記偏差収束状態判定手段により前記偏差が小さい安定状態が判定された時の前記通電量に基づいて前記リニアソレノイドバルブが動作し始めるための初期通電量を決定する初期通電量決定手段と、
前記通電量に前記初期通電量を含めて前記リニアソレノイドバルブを駆動するバルブ駆動手段とを有することを特徴とするリニアソレノイドバルブの制御装置。
【請求項2】
前記初期通電量決定手段は、前記目標圧の変化が小さく、かつ偏差の符号が変動しないことを条件として前記初期通電量を決定することを特徴とする請求項1に記載のリニアソレノイドバルブの制御装置。
【請求項3】
前記初期通電量決定手段は、前記被制御対象の制御状態により前記目標圧の変動が小さい状態または前記実圧力の変動が小さい状態を判定することが困難であると判断した場合には前記初期通電量の決定を禁止することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のリニアソレノイドバルブの制御装置
【請求項4】
前記リニアソレノイドバルブの上流圧を検出する上流圧センサと、前記リニアソレノイドバルブの下流圧を検出する下流圧センサとを有し、
前記初期通電量決定手段は、前記初期通電量を前記リニアソレノイドバルブの上流圧と前記下流圧との差圧に対応して決定するとともに、前記差圧と前記初期通電量との対応関係を、前記通電量に基づき修正するよう構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のリニアソレノイドバルブの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−91577(P2012−91577A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238756(P2010−238756)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】