説明

リニアモータ

【課題】可動子全体を小型化、軽量化しつつ、表面からの放熱効果を高めた可動子を備えるリニアモータを提供する。
【解決手段】本発明に係るリニアモータは、異なる磁極の永久磁石3が交互に配列された固定子2と、固定子2に対向配置され、x軸に沿って直線運動する可動子20とを備え、可動子20が備える略直方体形状のモールド部材21において、前面22および後面23と側面24、25が交差する角部を曲面状、例えば断面円弧状に形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄心と巻線とを有するコイルを可動子として備えるリニアモータに関し、特に空冷方式のリニアモータ放熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のリニアモータは、可動子と固定子とを備え、可動子の直線運動によって、可動子に取り付けられた天板も同時に直線運動する。可動子は、鉄心にコイルを嵌合させ、コイルを含む鉄心を電気絶縁材であるエポキシ樹脂等により樹脂モールドして成るものである。樹脂モールド部は、鉄心に対するコイルの固定と通電励磁時の振動防止等のために必要なものである。反面、通電励磁時に発熱するコイルを熱伝導作用の悪い樹脂モールド部で取り囲むことになり、樹脂モールド部内に熱がこもる。そのため、コイルの冷却効果は非常に低く抑えられ、リニアモータ使用時の効率を高めることができないという課題がある。
【0003】
この課題を解決するために、例えば特許文献1において、少なくとも樹脂モールド部の表面に接して鉄心の上半分を覆う金属製ケースを設けると共に、ケースの左右両側面に放熱用フィンを一体に連設し、コイルの表面域からケースの内面域に熱を伝達するヒートパイプを樹脂モールド部に内装して成るリニアモータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−183258号公報(3頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
可動子は一般的に直方体形状をしている。この形状を有する可動子が直線運動する場合、直線運動方向に垂直な可動子の前面の中央部によどみ域が生じ、熱伝達率が減少する。そのため、特許文献1の範囲のリニアモータ構造は、熱伝達率の減少を補うために金属製ケースで覆い、さらに、金属製ケース上に放熱フィンを設置し、放熱面積を増加させている。しかし、このような構造の場合、可動子全体が大型化、および重量化する。その結果、可動子内部のコイルに負荷がかかるため、さらに発熱量が増加するという課題を有する。
【0006】
本発明の目的は、可動子全体を小型化、軽量化しつつ、表面からの放熱効果を高めた可動子を備えるリニアモータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係るリニアモータは、異なる磁極が交互に配列された固定子と、固定子に対向配置され、第1方向に沿って直線運動する可動子とを備えるリニアモータであって、可動子は、固定子に向けて磁界を発生するコイルと、コイルの周囲を覆うモールド部材とを備え、モールド部材は、第1方向に対して交差する第1面と、第1方向に沿った第2面を有し、第1面と第2面が交差する角部が、曲面状に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1面と第2面が交差する角部が、曲面状に形成されているため、可動子の直線運動時において、第1面に生じるよどみ域が減少する。そのため、第1面に係る平均熱伝達率が向上し、従来に比べ、可動子表面からの放熱効果を高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1に係るリニアモータの斜視図である。
【図2】比較例を示す斜視図である。
【図3】比較例のリニアモータの可動子がx方向に速度1.0m/sで移動した時の、前面(第1面)に生じる熱伝達率分布を示す。
【図4】比較例のリニアモータの可動子がx方向に速度1.0m/sで移動した時の、前面を+z方向から見た場合のA−A’断面の気流速度の様子を示す。
【図5】本発明の実施の形態1に係るリニアモータの可動子がx方向に速度1.0m/sで移動した時の、前面に生じる熱伝達率分布を示す。
【図6】本発明の実施の形態1に係るリニアモータの可動子がx方向に速度1.0m/sで移動した時の、前面を+z方向から見た場合のB−B’断面の気流速度の様子を示す。
【図7】本発明の実施の形態2に係るリニアモータの斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係るリニアモータの可動子に設置されたピン状フィンを示す。
【図9】本発明の実施の形態2に係るリニアモータの可動子に設置された放熱フィンの斜視図である。
【図10】図10(a)は、本発明の実施の形態3に係るリニアモータの可動子に設置された放熱フィンの斜視図であり、図10(b)は、本発明の実施の形態3に係るリニアモータの可動子に設置された放熱フィンを+x方向から−x方向に向かって見たyz面を示す。
【図11】本発明の実施の形態3に係るリニアモータの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態であるリニアモータについて、図を参照しながら以下に説明する。尚、各図において、同一又は同様の構成部分については同じ符号を付している。
【0011】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るリニアモータの斜視図である。リニアモータの可動子20は、複数のコイル13、および複数のコイル13の周囲を覆うモールド部材21を備える。コイル13は、直方体形状の鉄心11周りに巻線12を巻いた構造である。図中では6つのコイル13を図示しているが、6つに限定されない。鉄心11と巻線12との間は電気絶縁材料(不図示)によって電気絶縁されている。隣り合うコイル13どうしは非接触であり、モールド部材21により電気絶縁状態が保持される。モールド部材21は、コイル13を収容するハウジング部材として機能し、電気絶縁性のモールド樹脂で形成してもよい。
【0012】
固定子2は、x方向に沿って交互に配列された異なる磁極の直方体形状の永久磁石3を備え、例えば取付板に対してモールド樹脂で固定される。可動子20は、ガイド(不図示)を介して固定子2の上面に、例えば1.0mm以下の距離を隔てて対向配置されている。
【0013】
コイル13は、電源およびコントローラ(不図示)に接続されている。複数のコイル13を通電すると、直線運動に伴って磁極変化を繰り返す磁界が発生する。可動子20は、該磁界と永久磁石3との間に生じる吸引力および反発力により推進力を得て、x方向(第1方向)に直線運動する。可動子20は、コントローラによって運動速度を制御され、+x方向および−x方向に往復運動する。図1に複数のコイル13の1つを取り出して示すように、モールド部材21の頂面26には複数の締結棒15を介して天板16が取り付けられており、天板16は、可動子20と一体となって直線運動する。
【0014】
通電している間、巻線12にはジュール熱が発生する。また、鉄心11にも誘導加熱によるジュール熱が発生する。コイル13で発生した熱は、コイル13を覆うモールド部材21に熱伝導して、モールド部材21の表面から周囲へ放熱される。
【0015】
可動子20のモールド部材21は、略直方体形状を有し、前面22、後面23、側面24、25、頂面26、底面27を有する。可動子20は、前述のように+x方向および−x方向に往復運動する。+x方向に運動する間は、面22が前面、面23が後面であり、−x方向に運動する間は、面23が前面、面22が後面である。本実施形態において、モールド部材21の前面22および後面23と側面24、25が交差する角部31〜34が曲面状、例えば断面円弧状、断面楕円弧状、断面放物線状、または断面多角形状に形成されている。これによる放熱効果を以下で説明する。
【0016】
尚、角部31〜34の円弧の曲率半径は大きい方が好ましいが、モールド部材21と巻線12との最小距離が5.0mmである場合、曲率半径も5.0mm以上が好ましい。
【0017】
図2は、比較例を示す斜視図である。比較例のモールド部材71は、直方体形状を有する。モールド部材71の前面72と側面74、75は直交している。
【0018】
図3は、比較例のリニアモータの可動子がx方向に速度1.0m/sで移動した時の、前面(第1面)に生じる熱伝達率分布を示す。前面72の中央部分を中心として、熱伝達率の低い領域(10〜20W/mK)(以下「淀み域」)が広がっていることがわかる。また、前面72の外周部に熱伝達率が少し大きくなる領域が存在することがわかる。
【0019】
図4は、比較例のリニアモータの可動子がx方向に速度1.0m/sで移動した時の、前面を+z方向から見た場合のA−A’断面の気流速度の様子を示す。前面72の中央部分に、気流の衝突速度の小さい領域が存在することがわかる。熱伝達率は、気流の衝突速度と正の相関を有し、図4において衝突速度の小さい領域は、淀み域と対応している。図4において、モールド部材の角部31〜34において衝突速度の大きい領域が存在する。これは気流が淀み領域を避けて増速した結果であり、これにより、前述のように、前面72の外周部に熱伝達率が少し大きくなる領域が生じる。しかし、同時に側面74、75の前方で気流が大きく剥離するため、側面74、75の熱伝達率は減少することが容易に予想できる。
【0020】
図5は、本発明の実施の形態1に係るリニアモータの可動子がx方向に速度1.0m/sで移動した時の、前面に生じる熱伝達率分布を示す。可動子の前面と側面が交差する角部における円弧の効果をみるため、円弧の局率半径が前面の幅(y方向)の半分である場合について示す。図3と比較して、淀み域が大きく減少していることがわかる。
【0021】
図6は、本実施形態のリニアモータの可動子がx方向に速度1.0m/sで移動した時の、前面を+z方向から見た場合のB−B’断面の気流速度の様子を示す。図4と比較して、前面22の中央部分において、気流の衝突速度の小さい領域が減少していることがわかる。これにより、前述のように前面22において淀み域が大きく減少し、熱伝達率が向上する。また、図4と比較して、気流が側面24、25の前方で剥離していないことがわかる。これにより、側面24、25の熱伝達率は、比較例の可動子の側面74、75に比較して増加する。
【0022】
以上より、可動子の前面22および後面23と側面24、25が交差する角部31〜34を断面円弧状に形成することが、モールド部材21の熱伝達率向上に極めて有効であることがわかる。
【0023】
尚、本実施形態において、前面22および後面23と側面24、25が交差する角部31〜34のみを断面円弧状に形成しているが、それに限定されることなく、頂面26および底面27と側面24、25が交差する角部、頂面26および底面27と側面24、25が交差する角部を、曲面状、例えば断面円弧状、断面楕円弧状、断面放物線状、または断面多角形状に形成してもよい。
【0024】
実施の形態2.
図7は、本発明の実施の形態2に係るリニアモータの斜視図である。本実施形態では、角部31〜34に放熱フィン41〜43を設置した構成について説明する。
【0025】
実施の形態1において、モールド部材21の角部31〜34を断面円弧状にすることで、前面22、後面23および側面24、25の熱伝達率が向上することを示した。一方、可動子のモールド面における表面積は、図2で示した従来構造の可動子の表面積に比べて減少している。可動子の表面積の減少による放熱量の減少量が、熱伝達率の向上による放熱量の増加量よりも大きい可能性もある。本実施形態により、放熱フィン41〜43を設置することで、表面積の減少が防止され、さらには増加するため、可動子表面からの優れた放熱特性を有する可動子20を提供することができる。
【0026】
放熱フィン41〜43は、モールド部材21と同じ材料で形成されることが好ましい。この場合、放熱フィン41〜43とモールド部材21を一体成形すると、製造コストを省き、製造工程を簡素化できる。
【0027】
平板状フィン41〜43を複数設置する場合、気流がモールド部材21の表面を円滑に流れるよう、放熱フィン41〜43を第1方向と平行に設置することが好ましい。
【0028】
放熱フィン41〜43は、図8に示すように、複数のピン状フィン45でもよい。ピン状フィン45は、気流がモールド部材21の表面を円滑に流れるよう、円弧状の角部31〜34に沿って間隔を存して複数配置することが好ましい。
【0029】
図9は、本発明の実施の形態2に係るリニアモータの可動子に設置された放熱フィンの斜視図である。放熱フィン41〜43は、前面22および後面23に対して平行に延びる第1仮想面36と、側面24、25に対して平行に延びる第2仮想面37で規定される空間内に収まるようにする。
【0030】
これにより、可動子全体を小型化、軽量化しつつ、表面からの放熱効果を高めた可動子20を備えるリニアモータを提供することができる。
【0031】
実施の形態3.
図10(a)は、本発明の実施の形態3に係るリニアモータの可動子に設置された放熱フィンの斜視図である。また、図10(b)は、本発明の実施の形態3に係るリニアモータの可動子に設置された放熱フィンを+x方向から−x方向に向かって見たyz面を示す。本実施形態において、放熱フィン41〜43の厚さが、フィン根元からフィン先端に向かって単調減少する。
【0032】
これにより、放熱フィン41〜43をモールド成形する際、容易に離型可能となり、製造コストを省き、製造工程を簡素化できる。また、根元での厚さは先端での厚さより大きいため、放熱フィン全体のフィン効率も向上する。この結果、放熱フィン41〜43が、熱伝導率の小さいモールド樹脂と同じ材料で形成された場合でも放熱特性に優れた放熱フィンを提供することができる。
【0033】
実施の形態4.
図11は、本発明の実施の形態3に係るリニアモータの斜視図である。本実施形態では、可動子20のモールド部材21の角部31〜34は、金属の放熱フィン41〜44と一体成形したベース部材41a〜44aを備える構成について説明する。ベース部材41a〜44aとモールド部材21とは、例えば熱伝導性接着剤のような接合剤で接合され、または螺合されるのが好ましい。
【0034】
本実施形態を採用することにより、モールド部材21の成形後、放熱フィン41〜43を可動子20に設置するので、歩留まりを向上させることが可能である。
【0035】
本実施形態の放熱フィン41〜44およびベース部材41a〜44aにおいて、例えば銅、アルミニウム、鉄、その他熱伝導率の大きい金属材料を使用することが好ましい。前述のように、モールド部材21および放熱フィン41〜44をモールド樹脂で成形した場合、モールド樹脂は一般に熱伝導率が小さいため、大きい放熱特性が期待できない。熱伝導率の大きい金属材料で成形した放熱フィン41〜44およびベース部材41a〜44aを角部に備えることで、表面からの放熱特性に優れた可動子を有するリニアモータを提供することができる。
【0036】
放熱フィン41〜44は、図8に示すように、複数のピン状フィン45でもよい。ピン状フィン45は、気流がモールド部材21の表面を円滑に流れるよう、円弧状の角部31〜34に沿って間隔を存して複数配置することが好ましい。
【0037】
尚、本発明に係るリニアモータは、鉄心を有しないコイル、および凹形状を有する固定子を備えるいわゆるコアレスタイプのリニアモータでもよい。
【0038】
さらに、本発明に係るリニアモータは、円筒形状を有する固定子、および該固定子を取り囲むように配置される可動子を備えるいわゆるシャフト型リニアモータでもよい。
【符号の説明】
【0039】
2,52 固定子、 3 永久磁石、 11,61 鉄心、 12,62 巻線、 13,63 コイル、 15,65 締結棒、 16,66 天板、 20,70 可動子 21,71 モールド部材、 22,72 前面、 23,73 後面、 24,25,74,75 側面、 26,76 頂面、 27,77 底面、 31,32,33,34 角部、 41,42,43,44 放熱フィン、 41a,42a,43a,44a ベース、 45 ピン状フィン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる磁極が交互に配列された固定子と、固定子に対向配置され、第1方向に沿って直線運動する可動子とを備えるリニアモータであって、
可動子は、固定子に向けて磁界を発生するコイルと、コイルの周囲を覆うハウジング部材とを備え、
ハウジング部材は、第1方向に対して交差する第1面と、第1方向に沿った第2面を有し、
第1面と第2面が交差する角部が、曲面状に形成されていることを特徴とするリニアモータ。
【請求項2】
角部には、放熱フィンが設置されていることを特徴とする請求項1記載のリニアモータ。
【請求項3】
放熱フィンは、ハウジング部材と同じ材料で形成されていることを特徴とする請求項2記載のリニアモータ。
【請求項4】
放熱フィンは、第1方向と平行に設置した複数の平板状フィンであることを特徴とする請求項2または3記載のリニアモータ。
【請求項5】
放熱フィンの厚さは、フィン先端に向かって単調減少することを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のリニアモータ。
【請求項6】
放熱フィンは、複数のピン状フィンであることを特徴とする請求項2または3記載のリニアモータ。
【請求項7】
角部には、金属の放熱フィンと一体成形したベース部材を備えることを特徴とする、
請求項2または請求項4〜6のいずれかに記載のリニアモータ。
【請求項8】
放熱フィンは、第1面に対して平行に延びる第1仮想面、および第2面に対して平行に延びる第2仮想面で規定される空間内に収まることを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載のリニアモータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−21750(P2013−21750A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150695(P2011−150695)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】