説明

リニアービーコン(LinearBeacons)に関する方法、キットおよび組成物

【課題】本発明は、リニアビーコンに関する方法、キットおよび組成物に関する。
【解決手段】標的配列の非存在下では、リニアビーコンは、プローブの反対の端に結合したドナーとアクセプター残基間の効率的なエネルギー移動を促進する。プローブが標的配列にハイブリダイズすると、プローブの少なくとも1つのドナーまたはアクセプター残基の少なくとも1つの性質の測定可能な変化があり、これは、試料中の標的配列を検出、同定または定量するのに使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プローブに基づく核酸配列検出、分析および定量の分野に関する。さらに具体的には、本発明は、リニアービーコン(Linear Beacons)に関する新規な方法、キットおよび組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光シグナルの消光は、蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence Resonance Energy Transfer)「FRET」(非放射性エネルギー移動としても知られている;ヤロン(Yaron)ら, Analytical Biochemistry 95: 228-235 (1979) p.232, 第1欄, 32-39行を参照)または非FRET相互作用(無放射エネルギー移動としても知られている;ヤロン(Yaron)ら, Analytical Biochemistry 95: p.229, 第2欄, 7-13行を参照)のいずれかにより起こりうる。FRETと非FRET消光の間の決定的に重要な識別因子は、非FRET消光が、「衝突」または「接触」による短距離相互作用を必要とし、このためドナーとアクセプター対の残基の間にスペクトルの重複を必要としないことである(ヤロン(Yaron)ら, Analytical Biochemistry 95: p.229, 第1欄, 22-42行を参照)。逆に、FRET消光は、ドナーとアクセプター残基間のスペクトルの重複を必要とし、消光の効率は、FRET対のドナーとアクセプター残基間の距離に比例する(ヤロン(Yaron)ら, Analytical Biochemistry 95: p.232, 第1欄, 46行から第2欄, 29行を参照)。FRET現象の詳細な総説は、クレッグ,アール・エム(Clegg, R.M.), Methods Enzymol., 221: 353-388 (1992)およびセルビン、ピー・アール(Selvin, P.R.), Methods Enzymol., 246: 300-334 (1995)に記載されている。ヤロン(Yaron)らもまた、そこに記載される原理が、オリゴヌクレオチドの加水分解にも適用されることを示唆した(ヤロン(Yaron)ら, Analytical Biochemistry 95: p.234, 第2欄, 14-18行を参照)。
【0003】
FRET現象は、検出前に標識核酸ハイブリダイゼーションプローブまたはプライマーをハイブリダイゼーション複合体から分離する必要のない、核酸標的配列の直接検出に利用されてきた(リバック(Livak)ら, US 5,538,848参照)。閉管形式のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅核酸を分析するためのFRETを利用する1つの方法は、パーキン・エルマー(Perkin Elmer)から市販されている。タックマン(TaqMan)(登録商標)測定法は、完全なプローブ内の蛍光の消光を引き起こす配置で、蛍光レポーターと消光物質残基により標識されている核酸ハイブリダイゼーションプローブを利用する。PCR増幅中、プローブ配列は増幅核酸に特異的にハイブリダイズする。ハイブリダイズすると、Taqポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性が、プローブを分解し、これによって完全なプローブにより維持された分子内消光が排除される。プローブは増幅核酸に特異的にハイブリダイズするように設計されるため、プローブの酵素分解により引き起こされる試料の蛍光強度の上昇は、増幅プロセスの活性と相関しうる。
【0004】
それにもかかわらず、本方法は好ましくは、蛍光物質と消光物質残基のそれぞれが、最適なシグナル対ノイズ比が達成されるように、プローブの3’および5’末端に位置することを必要とする(ナザレンコ(Nazarenko)ら, Nucl. Acids Res. 25: 2516-2521 (1997) p.2516, 第2欄, 27-35行を参照)。しかし、蛍光物質と消光物質残基が空間で分離しており、エネルギーの移動はこれらが接近しているときに最も効率的であるため、この配向では必然的に最適な蛍光消光には至らない。従って、非ハイブリダイズプローブからのバックグラウンド蛍光は、タックマン(TaqMan)(登録商標)測定法ではかなり高いものになりうる(ナザレンコ(Nazarenko)ら, Nucl. Acids Res. 25: p.2516, 第2欄, 36-40行を参照)。
【0005】
核酸分子ビーコン(Molecular Beacon)は、標的核酸配列を検出するためにFRET現象を利用する別の作製体である(ティアギ(Tyagi)ら, Nature Biotechnology, 14: 303-308 (1996)を参照)。核酸分子ビーコンは、2つの相補的アーム配列中に埋め込まれたプローブ用配列を含んでなる(ティアギ(Tyagi)ら, Nature Biotechnology, 14: p.303, 第1欄, 22-30行を参照)。プローブ用配列の各末端に、蛍光物質または消光物質残基のいずれかの1つを結合させる。核酸標的の非存在下では、アーム配列は、相互にアニーリングすることにより、蛍光物質と消光物質を結合させるループとヘアピンステム構造を形成する(ティアギ(Tyagi)ら, Nature Biotechnology, 14: p.304, 第2欄, 14-25行を参照)。標的核酸と接触すると、相補的プローブ用配列と標的配列はハイブリダイズする。ヘアピンステムは、ハイブリダイゼーションにより形成される強固な二重らせんと共存しえないため、生じるコンホメーション変化が、アーム配列を分離させ、蛍光物質と消光物質の分離を引き起こす(ティアギ(Tyagi)ら, Nature Biotechnology, 14: p.303, 第2欄, 1-17行を参照)。蛍光物質と消光物質が分離されると、ドナー蛍光物質のエネルギーは、アクセプター残基に移動せず、そして蛍光シグナルが検出可能になる。非ハイブリダイズ「分子ビーコン」は、非蛍光性であるため、測定系から過剰プローブをすべて除去する必要がない。従って、ティアギ(Tyagi)らは、分子ビーコンが、均一測定系および生存細胞における標的核酸の検出のために使用できることを述べている。(ティアギ(Tyagi)ら, Nature Biotechnology, 14: p.303, 第2欄, 15-77行を参照)。
【0006】
開示された核酸分子ビーコン作製体のアーム配列は、プローブ用配列に関係しない(ティアギ(Tyagi)ら, Nature Biotechnology, 14: p.303, 第1欄, 30行を参照)。ティアギ(Tyagi)らの分子ビーコンは核酸分子を含むため、適正なステム形成および安定性は、ステムの長さ、アーム配列のG:C含量、溶解される塩の濃度、およびプローブが溶解されるマグネシウムの有無に依存する(ティアギ(Tyagi)ら, Nature Biotechnology, 14: p.305, 第1欄, 1-16行を参照)。さらに、ティアギ(Tyagi)らの核酸分子ビーコンは、エンドヌクレアーゼとエキソヌクレアーゼによる分解に感受性である。
【0007】
ドナーとアクセプター残基が接近してもはや保持されないため、プローブ分解によりバックグラウンド蛍光シグナルは上昇する。従って、ヌクレアーゼ活性を有することが知られている酵素を利用する測定法は、核酸分子ビーコンが分解されるにつれてバックグラウンド蛍光の連続的上昇を示す(ティアギ(Tyagi)らの図7を参照:(○)と(□)と関連したデータは、プローブ分解により引き起こされたと考えられる蛍光バックグラウンドが、各増幅サイクルと共に上昇することを証明している)。さらに分子ビーコンはまた、少なくとも部分的には、細胞がヌクレアーゼ活性を含有するため、生存細胞中で分解される。
【0008】
ティアギ(Tyagi)らにより報告された作製体は、WO 95/13399(本明細書では以後「ティアギ2(Tyagi2)ら」と呼ぶ)により広く開示されているが、ティアギ2(Tyagi2)らはまた、核酸分子ビーコンが二分子{ここで彼らは、二分子とは、2つの分子(例えば、オリゴヌクレオチド)を含む本発明の単一プローブと定義している}であってもよいことも開示している(ここで、標的相補配列の半分またはおよそ半分、親和性対の1つのメンバーおよび標識対の1つのメンバーが各分子に存在する)(ティアギ2(Tyagi2)ら, p.8, 25行からp.9, 3行を参照)。しかしティアギ2(Tyagi2)らは、PCR反応において使用するための単一プローブを設計する際に、PCRプライマーの1つに相補的でない標的相補配列を当然ながら選択するであろうことを特に述べている(ティアギ2(Tyagi2)ら, p.41, 27行を参照)。本発明の測定法は、核酸合成反応の特異的な1本鎖または二本鎖産物の即時および終点の検出を含むが、もし単一プローブが融解または他の変性に付されるならば、このプローブは単分子である必要がある(ティアギ2(Tyagi2)ら, p.37, 1-9行を参照)。さらにティアギ2(Tyagi2)らは、本発明の単一プローブは、増幅または他の核酸合成反応と共に使用することができるが、二分子プローブ(ティアギ2(Tyagi2)らに定義されるようなもの)は、親和性対が標的に独立に分離されるような任意の反応(例えばPCR)において使用するのに適していないことを明記している(ティアギ2(Tyagi2)ら, p.13, 9-12行)。また、ティアギ(Tyagi)らもティアギ2(Tyagi2)らも、PNAに関しては何も開示、示唆または教示していない。
【0009】
さらに最近の開示において、ティアギ(Tyagi)らの核酸分子ビーコンに類似しているが、ポリメラーゼ伸長用のプライマーとして適している、修飾ヘアピン作製体が開示されている(ナザレンコ(Nazarenko)ら, Nucleic Acids Res. 25: 2516-2521 (1997)を参照)。閉鎖系でのPCR増幅DNAの直接検出に適した方法もまた開示されている。この方法により、ナザレンコ(Nazarenko)らのプライマー作製体は、PCR法の操作により、増幅産物に組み込まれる。PCR増幅産物への組み込みによって、ドナーとアクセプター残基を分離する配置に変化が生じる。従って、この測定法における蛍光シグナルの強度の上昇は、PCR増幅産物に組み込まれるプライマーの量に直接相関しうる。著者らは、この方法が、閉管形式中のPCR増幅核酸の分析に特に適していると結論する。
【0010】
ナザレンコ(Nazarenko)らのプライマー作製体は核酸であるため、実際ヌクレアーゼ消化を受けやすく、そのためPCR法のバックグラウンドシグナルの上昇を引き起こす(ナザレンコ(Nazarenko)ら, Nucleic Acids Res. 25: p.2519, 第1欄, 28-39行を参照)。この方法のさらなる欠点は、プライマー作製体のような分子ビーコンは、増幅中に線状化する必要があることである(ナザレンコ(Nazarenko)ら, Nucleic Acids Res. 25: p.2519, 第1欄, 7-8行を参照)。従って、蛍光シグナルを生成しようとすれば、ポリメラーゼは、プライマー作製体のようなヘアピン修飾分子ビーコンのステムを読んで、これを解離させる必要がある。ナザレンコ(Nazarenko)らは、PNAに関して何も示唆、教示または開示していない。
【0011】
標的核酸配列検出へのFRETのさらに別の適用では、エキソヌクレアーゼ消化に対して抵抗性にした二重に標識した蛍光オリゴヌクレオチドプローブもまた、PCR反応およびイン・サイツPCRにおいて標的核酸を検出するために使用されている(メイランド(Mayrand), US 5,691,146を参照)。メイランド(Mayrand)のオリゴヌクレオチドプローブは、オリゴヌクレオチドの第1末端に結合した蛍光物質(レポーター)分子およびオリゴヌクレオチドの反対側末端に結合した消光物質分子を含む(メイランド(Mayrand)、要約(Abstract)を参照)。メイランド(Mayrand)は、先行技術が、蛍光物質と消光物質の間の距離が重要な特性であり、これを最小化する必要があり、従ってDNAプローブのレポーターと消光物質残基間の好適な間隔は、6〜16ヌクレオチドであるはずであることを教示していると示唆している(第7欄, 8-24行を参照)。しかしメイランド(Mayrand)は、レポーター分子と消光物質残基が、最適なシグナル対ノイズ比を達成するために、好ましくは18ヌクレオチド(第3欄, 35-36行を参照)または20塩基(第7欄, 25-46行を参照)の距離に位置することを教示している。従って、メイランド(Mayrand)とそこに引用されている先行技術は、蛍光物質と消光物質を含む核酸プローブ(DNAまたはRNA)の検出可能な性質は、プローブの長さに強く依存することを教示している。
【0012】
ヌクレアーゼ消化に対する抵抗もまた、本発明の重要な側面であり(US5,691,146, 第6欄, 42-64行を参照)、このためメイランド(Mayrand)は、オリゴヌクレオチドの5’末端が、オリゴヌクレオチドプローブの5’末端へ1つまたはそれ以上の修飾ヌクレオチド間結合を含めることにより、ヌクレアーゼ消化に抵抗性になると示唆している(US 5,691,146, 第6欄, 45-50行を参照)。さらにメイランド(Mayrand)は、ポリアミド核酸(PNA)またはペプチドをヌクレアーゼ抵抗性結合として使用し、それによって本発明のオリゴヌクレオチドプローブの5’末端を修飾し、ヌクレアーゼ消化に抵抗性にすることができることを示唆している(US 5,691,146, 第6欄, 53-64行を参照)。しかしメイランド(Mayrand)は、その存在を明らかに知っていたにもかかわらず、PNAプローブ作製体が、本発明の実施のための適切な代用品であることは、開示、示唆または教示していない。さらにメイランド(Mayrand)は、蛍光物質または消光物質残基によりどのようにPNAを調製および/または標識するかを当業者に教示していない。
【0013】
オリゴヌクレオチドの長さ(距離)により影響されるドナーとアクセプター残基間のエネルギー移動の効率は、さらに検討され、特に蛍光核酸配列決定に適用されている(マシーズ(Mathies)ら, US 5,707,804を参照)。マシーズ(Mathies)らは、2つの蛍光物質が、2つの蛍光物質の距の離が変化しうる基本骨格または鎖により結合されることを述べている(US 5,707,804, 第4欄, 1-3行を参照)。すなわち、この距離は、周知のフォアスター(Foerster)機作によるドナーからアクセプターへのエネルギー移動を提供するように選択する必要がある(US 5,707,804, 第4欄, 7-9行を参照)。好ましくは約3〜10ヌクレオチドが、1本鎖核酸の蛍光物質を分離する(US 5,707,804, 第7欄, 21-25行を参照)。マシーズ(Mathies)らは、PNAに関して何も示唆、教示または開示していない。
【0014】
2本鎖DNAの分析から、1:FET(または本明細書で定義されるFRET)の効率は、オリゴヌクレオチドの核塩基配列に幾らか依存すると考えられること;2:ドナーの蛍光は、色素−DNA相互作用がFETの効率に影響することを示唆するように変化すること;および3:フォースター(Forster)式は、観察されるエネルギー移動を定量的に説明せず、このためオリゴヌクレオチドに結合したドナーとアクセプター残基間の長さは、定性的には使用できるが、定量できないことが観察されている(プロミセル(Promisel)ら, Biochemistry, 29: 9261-9268 (1990)を参照)。プロミセル(Promisel)らは、非フォースター(non-Forster)効果が、観察されたが本来は説明不能な結果の一部を説明しうることを示唆している(プロミセル(Promisel)ら, Biochemistry, 29: p.9267, 第1欄, 43行からp.9268, 第1欄, 13行を参照)。プロミセル(Promisel)らの結果は、FRET現象は、核酸において利用するとき完全には予測できず、また充分に理解もされてないことを示唆している。プロミセル(Promisel)らは、PNAに関して何も示唆、教示または開示しておらず、実際その書類はPNAの発明より先である。
【0015】
これまで考察したバックグラウンドは、ドナーとアクセプター残基の対が直接結合しているPNAオリゴマーに関して何も開示、示唆または教示していない。実際、核酸の検出に適用されるFRET現象は、標的核酸配列に相補的なプローブの一部が、それ自体単に核酸からなる作製体の調製に限定されていると考えられる。
【0016】
FRETはまたペプチドの分野においても利用されている。(ヤロン(Yaron)ら, Analytical Biochemistry 95, p.232, 第2欄, 30行からp.234, 第1欄, 30行を参照)。確かに酵素基質として適切に標識したペプチドは、ドナーとアクセプター対で標識されたペプチドの主要な利用法であると考えられる(ツィンマーマン(Zimmerman)ら, Analytical Biochemistry, 70: 258-262 (1976)、カーメル(Carmel)ら, Eur. J. Biochem., 73: 617-625 (1977)、ウング(Ng)ら, Analytical Biochemistry, 183: 50-56 (1989)、ワン(Wang)ら, Tett. Lett., 31: 6493-6496 (1990)、およびメルダル(Meldal)ら, Analytical Biochemistry, 195: 141-147 (1991)を参照)。初期の研究は、ドナーとアクセプター対の消光効率が、ペプチドの長さに依存することを示唆した(ヤロン(Yaron)ら, Analytical Biochemistry 95, p.233, 第2欄, 36-40行)。しかし後の研究では、効率的な消光はペプチドの長さに依存しないことを示唆した(ウング(Ng)ら, Analytical Biochemistry, 183: p. 54, 第2欄23行からp. 55, 第1欄12行;ワン(Wang)ら, Tett. Lett., 31(ここで、ペプチドは長さが8アミノ酸である);およびメルダル(Meldal)ら, Analytical Biochemistry, 195, p.144, 第1欄, 33-37行を参照)。ウング(Ng)らにより、長いペプチドにおいて観察された消光が、未だ決定されていない機作により起こることが示唆された(ウング(Ng)ら, Analytical Biochemistry 183, p.55, 第1欄, 13行から第2欄, 7行を参照)。
【0017】
その名称にもかかわらず、ペプチド核酸(PNA)は、ペプチドでも核酸でもなく、さらに酸でさえない。ペプチド核酸(PNA)は、配列特異的に核酸(DNAおよびRNA)にハイブリダイズしうる非天然のポリアミド(偽ペプチド)である(米国特許第5,539,082号およびエグホルム(Egholm)ら, Nature 365: 566-568 (1993)を参照)。PNAは、現在市販されている形式で標準的ペプチド合成法の適応して合成される。(PNAモノマーおよびオリゴマーの調製の総説については、デュエホルム(Dueholm)ら, New J. Chem., 21: 19-31 (1997)またはハイラップ(Hyrup)ら, Bioorganic & Med. Chem. 4: 5-23 (1996)を参照)。あるいは、標識および非標識PNAオリゴマーは購入することができる(パーセプティブ・バイオシステムズの宣伝用文献(PerSeptive Biosystems Promotional Literature):BioConcepts, Publication No.NL612, Practical PNA, Review and Practical PNA, Vol.1, Iss.2を参照)。
【0018】
非天然の分子であるため、PNAは、ペプチドまたは核酸を分解することが知られている酵素の基質であることは知られていない。従って、PNAは生物学的試料中で安定であり、さらに長い貯蔵寿命を持つ。イオン強度に非常に依存性である核酸ハイブリダイゼーションとは異なり、PNAと核酸とのハイブリダイゼーションは、イオン強度からはかなり独立性であり、かつ核酸に対する核酸のハイブリダイゼーションにはまるで適さない低イオン強度条件でも好都合である(エグホルム(Egholm)ら, Nature, p.567)。PNA複合体の安定性とコンホメーションに及ぼすイオン強度の効果は、多数研究されている(トマック(Tomac)ら, J. Am. Chem. Soc. 118: 5544-5552 (1996))。配列の識別は、DNAがDNAを認識するよりもPNAがDNAを認識する方がより効率的である(エグホルム(Egholm)ら, Nature, p.566)。しかし、ハイブリダイゼーション測定法において、DNAプローブと比較したとき、PNAプローブによる点変異識別における利点は、多少配列依存性であると考えられる(ニールセン(Nielsen)ら, Anti-Cancer Drug Design 8: 53-65, (1993))。さらなる利点として、PNAは、平行と逆平行の向きの両方で核酸にハイブリダイズするが、逆平行の向きが好ましい(エグホルム(Egholm)ら, Nature, p.566を参照)。
【0019】
配列特異的に核酸にハイブリダイズする能力にもかかわらず、PNAプローブと標準的な核酸プローブの間には多くの相違点がある。これらの相違点は、便宜上、生物学的、構造的、および物理化学的相違点に分類することができる。以下でさらに詳細に考察するように、これらの生物学的、構造的、および物理化学的相違点によって、典型的には核酸が利用される応用においてPNAプローブの使用を試みると、予測不能な結果を招きうる。異なる組成のこの不等性は、化学においてしばしば観察される。
【0020】
生物学的相違点に関して、核酸は、遺伝子の伝達と発現の物質として生存種の生命において中心的役割を担う生物学的物質である。これらのインビボの性質は、充分に理解されている。これに反してPNAは、最近になって開発された全く人工の分子であり、化学者の頭で理解されるものであり、そして合成有機化学を用いて作られるものである。既知の生物学的機能を持たない(すなわち、未変性(未修飾)PNAは、どのポリメラーゼ、リガーゼ、ヌクレアーゼまたはプロテアーゼの基質であるとも知られていない)。
【0021】
構造的には、PNAはまた、核酸とは劇的に異なる。両方とも普通の核塩基(A、C、G、T、およびU)を利用しうるが、これらの分子の基本骨格は構造的に別種である。RNAとDNAの基本骨格は、反復ホスホジエステルリボースおよび2−デオキシリボース単位から構成される。これに対して、最も普通のPNAの基本骨格は、N−[2−(アミノエチル)]グリシンサブユニットに基づいて構成される。さらにPNAにおいて核塩基は、追加のメチレンカルボニル残基により基本骨格に結合される。
【0022】
PNAは酸ではなく、このためDNAやRNAに存在するような荷電酸性基を含まない。PNAは形式電荷を欠いているため、一般にこれらの同等な核酸分子よりも疎水性が高い。PNAの疎水性によって、核酸では観察されない非特異的(疎水性/疎水性相互作用)相互作用の可能性が生じる。さらに、PNAはアキラルであることによって、同等なものがRNA/DNA領域には存在しない、構造的コンホメーションをとる能力が与えられる。
【0023】
PNAのユニークな構造的特色によって、溶液中で高度に組織化されたポリマー、特に高プリンポリマーが生じる(デュエホルム(Dueholm)ら, New J. Chem., 21: 19-31 (1997) p.27, 第2欄, 6-30行を参照)。逆に、1本鎖核酸は、二次構造をほとんど示さないランダムコイルである。PNAは高度に組織化されているため、代替の二次構造(例えば、ヘアピンステムおよび/またはループ)をとることには抵抗が高いはずである。
【0024】
PNAとDNAまたはRNAとの間の物理/化学的相違点もまた大きい。PNAは、その相補的核酸に、核酸プローブが同じ標的配列に結合するよりも、より迅速に結合する。この作用は、少なくとも部分的には、PNAがその基本骨格に電荷を欠いているという事実によるものと考えられる。さらに、最近の刊行物は、PNAへの正に荷電した基の組み込みが、ハイブリダイゼーションの速度論を改善することを証明している(アイヤー(Iyer)ら, J. Biol. Chem. 270: 14712-14717 (1995)を参照)。PNAは基本骨格に電荷を欠いているため、PNA/核酸複合体の安定性は、類似したDNA/DNAまたはRNA/DNA複合体のそれよりも高い。ある状況では、PNAは、「鎖置換」と呼ばれるプロセスにより非常に安定な三重らせん複合体を形成する。同等な鎖置換プロセスまたは構造は、DNA/RNA世界では知られていない。
【0025】
最近、「ペプチド核酸(PNA)オリゴマーアレイ上のスクリーニングに基づくハイブリダイゼーション」が、報告されているが、ここでは、個々の配列の数千個のPNAオリゴマーのアレイがポリマー膜上で合成された(ワイラー(Weiler)ら, Nucl. Acids Res. 25: 2792-2799 (1997)を参照)。アレイは、明確な組成の多くのプローブに対する、特異的配列または試料に関する親和性結合(ハイブリダイゼーション)情報を作成するために、一般に単一測定法で使用する。すなわち、PNAアレイは、診断応用において、または治療上有用性を示すリード化合物のライブラリーをスクリーニングするために、有用であろう。しかしワイラー(Weiler)らは、固定化PNAオリゴマーへのDNAハイブリダイゼーションの親和性と特異性が、予測される以上にハイブリダイゼーション条件に依存したことに注目している。さらに、低いイオン強度では非特異的結合に向かう傾向が見られた。さらに、より厳密な洗浄条件により排除することができない、ある種の非常に強力な結合ミスマッチが同定された。これらの予想外の結果は、これら新しく発見された分子(すなわちPNA)の完全な理解の欠如していることを例示している。
【0026】
要約すると、PNAは、配列特異的に核酸にハイブリダイズするため、プローブに基づくハイブリダイズ測定法を開発するとき、代用プローブとして、研究のための有用な候補である。しかしPNAプローブは、構造または機能の両方において核酸プローブの同等物ではない。その結果、PNAのユニークな生物学的、構造的、および物理化学的性質によって、普通は核酸プローブが利用される応用において、PNAが適しているかどうかを検討するためには、実験を行うことが必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
1.要約
PNA分子ビーコンを調製するために、多くのPNAポリマーを検討した。本出願人らは、ポリマーの反対側末端に位置するドナーとアクセプター残基を含有する検討した全てのPNAオリゴマーが、低い固有バックグラウンドと、標的配列へのプローブの結合によるシグナルの検出可能な上昇を示すことを測定した。非常に驚くべきことに、核酸分子ビーコンのこれらの特性は、PNAオリゴマーが、核塩基配列の設計と釣り合って、ヘアピンステムおよびループ構造をとるのに適しているかどうかにかかわらず観察された。例えば、ハイブリダイゼーション測定分析において、ヘアピンを作るのに適した任意のアームセグメントを持たないPNAオリゴマー(元々対照オリゴマーとして設計された)は、自己相補的核塩基配列を含むPNAについて観察される比の約半分のシグナル(標的配列に結合したPNAオリゴマー)対ノイズ(標的配列が存在しない)比を示した。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、リニアービーコンに関する。リニアービーコンは、自己相補的核塩基配列を含るか含まないように設計しても、標的配列の非存在下でプローブに結合したドナーとアクセプター残基の間で、効率的にエネルギーを移動させる。標的配列へのハイブリダイゼーションにより、リニアービーコンのドナーとアクセプター残基間のエネルギー移動の効率は、少なくとも1つの残基からの検出可能なシグナルが、ハイブリダイゼーション事象の発生を追跡または定量するのに使用できるように改変される。我々は、核酸分子ビーコンに典型的に関連するヘアピン構造からこれらを識別するために、これらのプローブをリニアービーコンと呼ぶ。それにもかかわらず、文献では、PNAは溶液中で高度に組織化しうることが教示されているため、出願人らは、これらのプローブが二次構造を欠いていることを暗示しようというものではない(デュエホルム(Dueholm)ら, New J. Chem., 21: 19-31 (1997) p.27, 第2欄, 6-30行を参照)。
【0029】
本願発明のリニアービーコンは、新規であり、属性として断定できない幾つかの性質を有する。例えば、出願人は、同じノイズ(本明細書の例17を参照)とシグナル対ノイズ比(本明細書の例18を参照)が必然的に、長さで11−17サブユニットのオリゴマーとして観察されたことから、リニアービーコンのドナーとアクセプター残基間のエネルギー移動の効率が、本質的に長さに依存していないことを実証する。この事実は、安定に標識された核酸オリゴマーの分子内消光がプローブの長さにかなり依存していることから(本明細書の背景および例17に表されるデータを参照)、非常に驚くべきことであった。
【0030】
さらに出願人らは、リニアービーコンの消光の効率が、配列依存性でも、またドナーとアクセプター残基のスペクトル重複に実質的に依存性でもないことを証明した(本明細書の例17、18および21を参照)。具体的には、調製したPNAプローブの大部分は、フルオレセインドナー残基とダブシル(dabcyl)消光物質(アクセプター)残基を含む。このドナー/アクセプターの組合せは、ドナーフルオレセイン残基の発光が、アクセプターのダブシル残基の吸収との高度のスペクトル重複を持たないため、理想的FRET対ではないが、それにもかかわらず本出願人らが観察した消光は全ての作製体において大きい。さらに、それぞれCy3/ダブシルのドナー/アクセプター対を含むリニアービーコンは、Cy3とダブシルの間で実質的にスペクトル重複が小さいにもかかわらず、フルオレセイン/ダブシル系で見られるのと同様な、ノイズとシグナル対ノイズ比の両方を示すことが観察された(本明細書の例17、18および21を参照)。従って本出願人らにより集められたデータは驚くべきことに、リニアービーコンが機能するためには、最適なFRET対を含む必要がないことを証明している。従ってデータは、スペクトル重複が、FRETには必要条件であるが非FRETエネルギー移動には必要でないため、直接接触が、本来の様式ではあるが、エネルギー移動の唯一の様式ではなさそうであることを示唆している。さらにデータは、プローブの長さにかかわらず、リニアービーコンの蛍光物質と消光物質残基は、これによってプローブの長さまたは核塩基配列これはかなり独立している程度の消光を達成するために同様な立場にあることを示唆している。
【0031】
出願人らは同様に、イオン強度を変化させる効果、そして特にマグネシウムの存在または非存在がプローブのノイズとシグナル対ノイズ比に及ぼす効果を調査した。再度、PNAはイオン強度またはマグネシウムの存在もしくは非存在における相違点これは実質的に独立な、ノイズとシグナル対ノイズ比を示すことが見い出されたが、一方同様な長さと標識配置のDNAプローブの性質は、イオン強度の変化に依存性であり、かつ/またはマグネシウムの存在もしくは非存在に非常に依存性であった。
【0032】
要約すると、本出願人らはまた、リニアービーコンのノイズとシグナル対ノイズ比が、ドナーとアクセプター残基を分離するサブユニットの長さ、周囲環境のイオン強度またはマグネシウムの存在もしくは非存在からは実質的に独立していることを観察した。全体として考えると、これらの結果は、先行技術の教示するところに照らして非常に予想外であった。従って本出願人らのデータは、同様な長さと標識配置の核酸とPNAプローブの間の、構造と機能性の明白な非同等性を証明している。従って本発明の新規な方法、キットおよび組成物は、ユニークかつ驚くべき性質を有するリニアービーコンを含む。
【0033】
1つの実施態様において、本発明はリニアービーコンに関する。一般に、リニアービーコンは、最低限少なくとも1つの結合ドナー残基と少なくとも1つの結合アクセプター残基を含んでなるポリマーであり、ここで、該ドナーおよびアクセプター残基は、少なくとも一部のプローブ用核塩基配列により分離されており、このプローブ用核塩基配列は、適切なハイブリダイゼーション条件下で、相補的または実質的に相補的な標的配列へのハイブリダイゼーションに適している。設計によりリニアービーコンはヘアピンステムを形成しない。リニアービーコンはさらに、該ドナーとアクセプター残基間のエネルギー移動の効率が、このポリマーが水溶液に溶媒和するときに、ドナーとアクセプター残基を分離するサブユニットの長さ、ドナー残基とアクセプター残基のスペクトル重複、水溶液中のマグネシウムの存在または非存在および水溶液のイオン強度よりなる群から選択される少なくとも2つの可変要素から実質的に独立していることを特徴とする。好ましくはリニアービーコンはさらに、該ドナーとアクセプター残基間のエネルギー移動の効率が、少なくとも3つの可変要素に実質的に独立であり、そして最も好ましくは4つ全ての可変要素から実質的に独立していることを特徴とする。
【0034】
好適な実施態様において、リニアービーコンは、少なくとも第1および第2の末端を有するプローブ用核塩基配列からなる、PNAサブユニットを含むポリマーである。プローブ用核塩基配列は、目的の標的配列に相補的または実質的に相補的である。少なくとも1つのドナー残基は、プローブ用核塩基配列の第1または第2の末端の一方に結合し;そして少なくとも1つのアクセプター残基は、プローブ用核塩基配列の第1または第2の末端のもう一方に結合している。1つまたはそれ以上のスペーサーまたはリンカー残基を使用して、ドナーとアクセプター残基をプローブ用核塩基配列のそれぞれの末端に結合させることができる。
【0035】
別の実施態様において、本発明は、試料中の標的配列の検出、同定または定量のための方法に関する。本方法は、試料をリニアービーコンに接触させ、次にプローブの少なくとも1つのドナーまたはアクセプター残基に関連する検出可能なシグナルの変化を検出、同定または定量することを含んでなるが、これによって検出可能なシグナルの変化は、目的の試料中に存在する標的配列の存在、非存在または量を測定するために使用される。出願人らが、ドナーとアクセプター残基間のエネルギー移動の効率は、適切なハイブリダイゼーション条件下で目的とする標的配列へのリニアービーコンのハイブリダイゼーションにより改変されることを証明したため、プローブの少なくとも1つのドナーまたはアクセプター残基の検出可能なシグナルの測定可能な変化を、目的の試料中に存在する標的配列の存在、非存在または量を測定するために使用することができる。正確な定量は、任意のハイブリダイズしないリニアービーコンにより生成されるシグナルに対する補正によって達成することができる。従って、本発明のリニアービーコンは、閉管測定法、そして特に非対象PCR測定法における標的配列の検出、同定または定量に特に適している(本明細書の例19を参照)。リニアービーコンは酵素により分解されることが知られていないため、リニアービーコンはまた、生存しているか否かにかかわらず、細胞、組織または生体中の標的配列の検出、同定または定量に特に適している(本明細書の例20を参照)。
【0036】
さらに別の実施態様において、本発明は、試料中の標的配列の存在、非存在または数を検出する測定法を実施するのに適したキットに関する。本発明のキットは、1つまたはそれ以上のリニアービーコンと、測定法を実施するために、またはそうでなければ測定法の実施を単純にするために選択される、他の試薬または組成物を含む。
【0037】
また別の実施態様において、本発明はまた、目的の標的配列を検出、同定または定量するのに適した、リニアービーコンに結合した2つまたはそれ以上の支持体を含むアレイに関する。リニアービーコンのアレイは、二次検出系を使用することなく、即時に目的の1つまたはそれ以上の標的配列の存在に関して、多くの試料を迅速に調べる手段を提供するため便利である。
【0038】
本発明の方法、キットおよび組成物は、食物、飲料、水、医薬品、個人の健康管理製品、乳製品または環境試料中に見いだしうる生物の標的配列の検出に特に有用である。好適な飲料の分析は、ソーダ水、瓶詰めの水、フルーツジュース、ビール、ワインまたは酒類を含む。さらに本方法、キットおよび組成物は、食物、飲料、水、医薬品、個人の健康管理製品、乳製品または環境試料の製造または貯蔵に使用される原材料、器具、製品または製造法の分析に特に有用であろう。
【0039】
支持体に結合していようと溶液中であろうと、本発明の方法、キットおよび組成物は、臨床的環境において見い出されうる生物に特異的な標的配列の、迅速で、高感度で、信頼性の高い、用途の広い検出のために特に有用である。従って、本発明の方法、キットおよび組成物は、臨床的検体またはヒトもしくは動物を治療するために使用される、器具、備品および製品の分析に特に有用であろう。例えば、本測定法は、遺伝に基づく疾患に特異的な、または遺伝に基づく疾患の素因に特異的な標的配列を検出するために使用することができる。疾患の非限定例としては、βサラセミア、鎌状赤血球貧血、第V因子ライデン(Leiden)、嚢胞性線維症および癌関連標的(p53、p10、BRC−1およびBRC−2など)を含む。
【0040】
さらに別の実施態様において、標的配列は、染色体DNAに関するものであり、ここで標的配列の検出、同定または定量は、出生前スクリーニング、実父確定検査、身元確認または犯罪捜査のような法医学的手法に関して使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
2.好適な実施態様の説明:
I.定義:
a.本明細書において使用されるとき、「核塩基」という用語は、核酸技術を利用するかまたはペプチド核酸技術を利用することにより、核酸に配列特異的に結合しうるポリマーを作成する当業者には一般に知られている、天然のおよび非天然の複素環残基を含む。
【0042】
b.本明細書において使用されるとき、「核塩基配列」という用語は、核塩基含有サブユニットを含むポリマーの任意のセグメントである。適切なポリマーまたはポリマーセグメントの非限定例として、オリゴヌクレオチド、オリゴリボヌクレオチド、ペプチド核酸およびこれらの類似体またはキメラを含む。
【0043】
c.本明細書において使用されるとき、「標的配列」という用語は、検出しようと探索されるポリマーにおける核塩基の任意の配列である。「標的配列」は、ポリマー全体を含むか、または目的のポリマーにユニークな核塩基配列のサブ配列であってもよい。限定はしないが、「標的配列」を含むポリマーは、本発明のリニアービーコンが配列特異的に結合しうる、核酸、ペプチド核酸、キメラ、結合ポリマー、結合体または置換基を含む任意の他のポリマー(例えば、核塩基)であってよい。
【0044】
d.本明細書において使用されるとき、「ペプチド核酸」または「PNA」という用語は、米国特許第5,539,082号、5,527,675号、5,623,049号、5,714,331号、5,736,336号、5,773,571号または5,786,571号(これら全ては、参照することより本明細書の一部とする)にペプチド核酸として参照されているかまたは特許請求されている任意の化合物を含む、2つまたはそれ以上のPNAサブユニット(残基)を含む、任意のオリゴマー、結合ポリマーまたはキメラオリゴマーとして定義される。「ペプチド核酸」または「PNA」という用語はまた、以下の刊行物に記載される核酸擬似物にも適用される:ディダリッシェン(Diderichsen)ら, Tett. Lett. 37: 475-478 (1996);フジイ(Fujii)ら, Bioorg. Med. Chem. Lett. 7: 637-627 (1997);ジョーダン(Jordan)ら, Bioorg. Med. Chem. Lett. 7: 687-690 (1997);クロッツ(Krotz)ら, Tett. Lett. 36: 6941-6944 (1995);ラグリフォウル(Lagriffoul)ら, Bioorg. Med. Chem. Lett. 4: 1081-1082 (1994);ロウ(Lowe)ら, J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, (1997) 1: 539-546;ロウ(Lowe)ら, J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1 1: 547-554 (1997);ロウ(Lowe)ら, J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1 1: 555-560 (1997);およびピーターセン(Petersen)ら, Bioorg. Med. Chem. Lett. 6: 793-796 (1996)。
【0045】
好適な実施態様において、PNAは、式:
【化1】


[式中、各Jは、同一であるかまたは異なって、H、R1、OR1、SR1、NHR1、NR12、F、Cl、BrおよびIよりなる群から選択される。各Kは、同一であるかまたは異なって、O、S、NHおよびNR1よりなる群から選択される。各R1は、同一であるかまたは異なって、場合によりヘテロ原子または置換もしくは非置換アリール基を含有してもよい、1〜5個の炭素原子を有するアルキル基である。各Aは、単結合、式:−(CJ2s−の基および式:−(CJ2sC(O)−の基よりなる群から選択される(ここで、Jは、上記と同義であり、そして各sは、1〜5の整数である)。整数tは、1または2であり、そして整数uは、1または2である。各Lは、同一であるかまたは異なって、J、アデニン、シトシン、グアニン、チミン、ウリジン、5−メチルシトシン、2−アミノプリン、2−アミノ−6−クロロプリン、2,6−ジアミノプリン、ヒポキサンチン、シュードイソシトシン、2−チオウラシル、2−チオチミジン、他の天然の核塩基類似体、他の非天然の核塩基、置換および非置換芳香族残基、ビオチンおよびフルオレセインよりなる群から独立に選択される。]の2つまたはそれ以上のPNAサブユニットを含むポリマーである。最も好適な実施態様において、PNAサブユニットは、メチレンカルボニル結合により、N−[2−(アミノエチル)]グリシン基本骨格のアザ窒素に結合している天然のまたは非天然の核塩基よりなる。
【0046】
II.詳細な説明
A.総論:
PNA合成:
PNAの化学的組立のための方法は周知である(米国特許第5,539,082号、5,527,675号、5,623,049号、5,714,331号、5,736,336号、5,773,571号または5,786,571号(これら全ては、参照することより本明細書の一部とする)を参照)。ペプチド核酸(Peptide Nucleic Acids)の支持体結合の自動化された化学的組立のための化学物質および器具類は現在市販されている。PNAの化学的組立は、固相ペプチド合成に類似しており、ここで、組立の各サイクルでオリゴマーは、反応性アルキルアミノ末端を有し、これが、成長するポリマーに付加すべき次のシントン(synthon)と縮合する。標準的ペプチド化学が利用されるため、天然のおよび非天然のアミノ酸がごく普通にPNAオリゴマー中に取り込まれる。PNAは、ポリアミドであるため、C末端(カルボキシル末端)とN末端(アミノ末端)を有する。標的配列への逆平行の結合(好適な向き)に適したハイブリダイゼーションプローブの設計のためには、PNAプローブのプローブ用核塩基配列のN末端が、同等なDNAまたはRNAオリゴヌクレオチドの5’−ヒドロキシル末端の同等物である。
【0047】
標識:
本発明のリニアービーコンに結合する標識物は、少なくとも1つのエネルギードナーと少なくとも1つのエネルギーアクセプター残基を含む1セット(本明細書において以後「ビーコンセット」)のエネルギー移動残基を含む。典型的には、ビーコンセットは、単一のドナー残基と単一のアクセプター残基を含む。それにもかかわらず、ビーコンセットは、1個を超えるドナー残基および/または1個を超えるアクセプター残基を含有してもよい。ドナーとアクセプター残基は、1つまたはそれ以上のアクセプター残基が、1つまたはそれ以上のドナー残基から移動したエネルギーを受け入れるか、そうでなければドナー残基からのシグナルを消滅させるように作用する。
【0048】
好ましくはドナー残基は、蛍光物質である。好適な蛍光物質は、フルオレセインの誘導体、ボディピー(bodipy)の誘導体、5−(2’−アミノエチル)−アミノナフタレン−1−スルホン酸(EDANS)、ローダミンの誘導体、Cy2、Cy3,Cy3.5、Cy5、Cy5.5、テキサスレッドおよびその誘導体である。前に列挙した蛍光物質はまたアクセプターとしても作用するが、好ましくはアクセプター残基は、消光物質残基である。好ましくは、消光物質残基は、非蛍光芳香族またはヘテロ芳香族残基である。好適な消光物質残基は、4−((4−(ジメチルアミノ)フェニル)アゾ)安息香酸(ダブシル(dabcyl))である。
【0049】
エネルギーの移動は、ビーコンセットの密接に結合した残基の衝突により、または蛍光共鳴エネルギー移動(fluorescence resonance energy transfer)(FRET)のような非放射性プロセスにより、起こりうる。FRETが起こるには、ビーコンセットのドナーとアクセプター残基間のエネルギーの移動は、残基が距離的に接近しており、かつドナーの発光スペクトルがアクセプターの吸収スペクトルとかなり重複していることを必要とする(ヤロン(Yaron)ら, Analytical Biochemistry 95: 228-235 (1979)、そして特にp.232, 第1欄からp.234, 第1欄を参照)。あるいは、衝突介在性(発光を欠く)エネルギー移動は、ドナー残基の発光スペクトルが、アクセプター残基の吸収スペクトルと大きく重複していようといまいと、非常に密接に結合したドナーとアクセプター残基の間に起こりうる(ヤロン(Yaron)ら, Analytical Biochemistry 95: 228-235 (1979)そして特にp.229, 第1欄からp.232, 第1欄を参照)。このプロセスは、消光が、ドナーとアクセプター残基の直接接触により引き起こされると考えられるため、分子内衝突と呼ばれる(ヤロン(Yaron)らを参照)。出願人らが証明したように、本発明のリニアービーコンに結合したドナーとアクセプター残基は、ドナー残基の発光とアクセプター残基の吸収の間に実質的な重複を必要としない。この仮説に拘泥するわけではないが、このデータは、リニアービーコンでは消光の主な様式として衝突または接触が作用することを示唆している。
【0050】
エネルギー移動の検出:
ビーコンセットのドナーとアクセプター残基間のエネルギーの衝突介在性および非発光性移動の両方の効率は、ドナーとアクセプター残基が近接するかどうかに直接依存しているため、リニアービーコンと標的配列とのハイブリッド形成の検出は、ビーコンセットの少なくとも1つのメンバーの少なくとも1つの物理的性質(標的配列の非存在下でリニアービーコンが存在するときに比較して、ハイブリダイゼーション複合体が形成される時に異なって検出される)を測定することにより監視することができる。我々は、この現象をリニアービーコンの自己指示性と呼ぶ。検出可能なシグナルのこの変化は、リニアービーコンのハイブリダイゼーションによる生じるドナーとアクセプターの間のエネルギー移動の効率の変化から生じる。好ましくは検出の手段は、ビーコンセットのドナーまたはアクセプター蛍光物質の蛍光の測定を伴う。最も好ましくは、ドナー蛍光物質の蛍光が、ハイブリダイゼーションを検出、同定または定量するために使用されるように、ビーコンセットは少なくとも1つのドナー蛍光物質と少なくとも1つのアクセプター消光物質を含む。
【0051】
PNA標識:
PNAの化学標識は、ペプチド標識に類似している。組立の合成化学は、本質的に同一であるため、ペプチドを標識するために一般に使用される任意の方法をPNAを標識するために使用することができる。典型的には、ポリマーのN末端は、カルボン酸基または活性化カルボン酸基を有する残基との反応により標識される。1つまたはそれ以上のスペーサー残基は、標識残基とオリゴマーのプローブ用核塩基配列の間に、随時導入してもよい。一般に、スペーサー残基は、標識反応を実施する前に組み込まれる。しかしスペーサーは、標識内に埋め込み、そして標識反応中に組み込んでもよい。
【0052】
典型的にはプローブ用核塩基配列のC末端は、最初に標識化残基を、PNAがその上で組立られる支持体と縮合することにより標識される。次に、プローブ用核塩基配列の最初のシントンを標識化残基と縮合することができる。あるいは、1つまたはそれ以上のスペーサー残基を、標識化残基とオリゴマーの間に導入することができる(例えば、8−アミノ−3,6−ジオキサオクタン酸)。一旦リニアービーコンが完全に組立および標識されると、支持体から切断され、脱保護されて、標準的方法を使用して精製される。
【0053】
標識化残基は、ε−アミノ基がドナーまたはアクセプター残基で修飾されているリジン誘導体であってよい。例えば標識物は、5(6)−カルボキシフルオレセインのような蛍光物質、または4−((4−(ジメチルアミノ)フェニル)アゾ)安息香酸(ダブシル(dabcyl))のような消光物質残基であってよい。リジン誘導体と合成支持体との縮合は、標準的縮合(ペプチド)化学を使用して達成される。次にリジン誘導体のα−アミノ基を脱保護して、プローブ用核塩基配列組立は、最初のPNAシントンとリジンアミノ酸のα−アミノ基との縮合により開始されるであろう。前記したように、プローブ用核塩基配列の最初のPNAシントンの縮合の前に、適切なスペーサー(例えば、Fmoc−8−アミノ−3,6−ジオキサオクタン酸)をリジンアミノ酸と縮合することにより、スペーサー残基を、リジンアミノ酸と最初のPNAシントンとの間に、随時挿入することができる。
【0054】
あるいは、組立られたまたは部分的に組立られたポリマー上の官能基は、なお支持体に結合したままドナーまたはアクセプター残基で標識される。本方法は、適切な保護基がオリゴマー中に組み込むことにより、ドナーまたはアクセプター残基が結合している反応性官能基を得ることが必要とするが、標識物(例えば、ダブシル(dabcyl)または蛍光物質)を、プローブ用核塩基配列中を含むポリマー中の任意の位置に結合させることができるという利点を有する。例えば、リジンのε−アミノ基は、4−メチル−トリフェニルメチル(Mtt)、4−メトキシ−トリフェニルメチル(MMT)または4,4’−ジメトキシトリフェニルメチル(DMT)保護基で保護することができる。Mtt、MMTまたはDMT基は、穏やかな酸性条件下で樹脂で処理して、PNA(市販のFmoc PNAモノマーとPALリンカーを有するポリスチレン支持体を使用して組立られる;パーセプティブ・バイオシステムズ社(PerSeptive Biosystems, Inc.)、フレーミングハム、マサチューセッツ州)から脱離することができる。従って、次にドナーまたはアクセプター残基は、リジンアミノ酸のε−アミノ基と縮合することができる。完全な組立および標識後、次にポリマーは支持体から切断し、脱保護して、周知の方法を使用して精製される。
【0055】
さらに別の方法により、ドナーまたはアクセプター残基は、完全に組立てられて支持体から切断された後に、ポリマーに結合される。この方法は、標識物が、オリゴマーを製造するために一般に使用される切断、脱保護または精製法と両立しない場合に好ましい。この方法により、ポリマー上の官能基と標識上の官能基との反応により、PNAは一般に溶液中で標識される。結合溶液の組成は、オリゴマーおよびドナーまたはアクセプター残基の性質に依存することを、認識するであろう。溶液は、有機溶媒、水またはこれらの任意の組合せを含んでよい。一般に、有機溶媒は、極性非求核性溶媒であろう。適切な有機溶媒の非限定例として、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチルスルホキシドおよびN,N’−ジメチルホルムアミドを含む。
【0056】
一般に標識すべきポリマー上の官能基はアミンであり、標識物上の官能基はカルボン酸または活性化カルボン酸である。活性化カルボン酸官能基の非限定例として、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステルを含む。水溶液中で、PNAまたは標識物のいずれか(選択される成分の性質に依存する)のカルボン酸基は、水溶性カルボジイミドで活性化することができる。試薬、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)は、水性アミド形成縮合反応用に特定して販売されている市販試薬である。
【0057】
一般に、水溶液のpHは、縮合反応中の緩衝液で調節される。好ましくは、縮合中のpHは、4〜10の範囲にある。アリールアミンをカルボン酸と縮合するとき、好ましくはpHは4〜7の範囲にある。アルキルアミンをカルボン酸と縮合するとき、好ましくはpHは7〜10の範囲にある。一般に非水性反応の塩基性は、非求核性有機塩基の添加により調節される。適切な塩基の非限定例として、N−メチルモルホリン、トリエチルアミンおよびN,N−ジイソプロピルエチルアミンを含む。あるいは、pHは、(N−[2−ヒドロキシエチル]ピペラジン−N’−[2−エタンスルホン酸)(HEPES)または4−モルホリンエタン−スルホン酸(MES)のような生物学的緩衝液、または重炭酸ナトリウムのような無機緩衝液を使用して調節される。
【0058】
スペーサー/リンカー残基:
一般に、スペーサーは、かさ高い標識試薬が、リニアービーコンのハイブリダイゼーション性に及ぼす有害作用をできるだけ小さくするために使用される。リンカーは典型的には、リニアービーコンに柔軟性と無作為性を誘導するか、さもなければプローブの2つまたはそれ以上の核塩基配列を結合させる。本発明のプローブのための好適なスペーサー/リンカー残基は、1つまたはそれ以上のアミノアルキルカルボン酸(例えば、アミノカプロン酸)、アミノ酸の側鎖(例えば、リジンまたはオルニチンの側鎖)、天然のアミノ酸(例えば、グリシン)、アミノオキシアルキル酸(例えば、8−アミノ−3,6−ジオキサオクタン酸)、アルキル二酸(例えば、コハク酸)またはアルキルオキシ二酸(例えば、ジグリコール酸)からなる。スペーサー/リンカー残基はまた、リニアービーコンの溶解度を増強するように設計してもよい。
【0059】
好ましくは、スペーサー/リンカー残基は、式:−Y−(Om−(CW2no−Z−を有する1つまたはそれ以上の結合化合物を含む。Y基は、式:単結合、−(CW2p−、−C(O)(CW2p−、−C(S)(CW2p−および−S(O2)(CW2pを有する。Z基は、式:NH、NR2、SまたはOを有する。各Wは、独立にH、R2、−OR2、F、Cl、BrまたはIである(ここで、各R2は、−CX3、−CX2CX3、−CX2CX2CX3、−CX2CX(CX32、および−C(CX33よりなる群から独立に選択される)。各Xは、独立にH、F、Cl、BrまたはIである。各mは、独立に0または1である。各n、oおよびpは、独立に0〜10の整数である。
【0060】
キメラオリゴマー:
キメラオリゴマーは、異なる分類のサブユニットから選択される2つまたはそれ以上のサブユニットを含む。例えば、PNA/DNAキメラは、少なくとも1つの2’−デオキシリボ核酸サブユニットに結合した少なくとも2つのPNAサブユニットを含む(PNA/DNAキメラ調製に関連する方法と組成物についてはWO 96/40709を参照)。キメラオリゴマーの成分サブユニットは、PNAサブユニット、DNAサブユニット、RNAサブユニットおよびこれらの類似体よりなる群から選択される。
【0061】
結合ポリマー:
結合ポリマーは、リンカーにより結合されている2つまたはそれ以上の核塩基配列を含む。結合することにより結合ポリマーを形成する核塩基配列は、オリゴデオキシヌクレオチド、オリゴリボヌクレオチド、ペプチド核酸およびキメラオリゴマーよりなる群から選択される。本発明のPNAプローブは、プローブ用核塩基配列が、1つまたはそれ以上の追加のオリゴデオキシヌクレオチド、オリゴリボヌクレオチド、ペプチド核酸またはキメラオリゴマーに結合している、結合ポリマーを含む。
【0062】
ハイブリダイゼーション条件/厳密性:
核酸ハイブリダイゼーション分野の当業者であれば、ハイブリダイゼーションの厳密性を負荷または制御するのに一般に使用される因子には、ホルムアミド濃度(または他の化学変性試薬)、塩濃度(すなわち、イオン強度)、ハイブリダイゼーション温度、界面活性剤濃度、pHおよびカオトロープ(chaotropes)の存在または非存在があることを認識するであろう。プローブ用核塩基配列/標的配列の組合せに最適な厳密性はしばしば、上述の厳密性因子の幾つかを固定して、次に単一の厳密性因子の変化の効果を測定する周知の方法により、見い出される。PNAのハイブリダイゼーションがイオン強度からはかなり独立していることを除いて、同じ厳密性因子を調節して標的配列へのリニアービーコンのハイブリダイゼーションの厳密性を制御することができる。測定法のための最適な厳密性は、所望の程度に識別できるまで、各厳密性因子を検討して実験的に求めることができる。
【0063】
プローブ用核塩基配列:
リニアービーコンのプローブ用核塩基配列は、作製体の配列認識部分である。従って、プローブ用核塩基配列は、少なくとも標的配列の一部にハイブリダイズするように設計される。好ましくはプローブ用核塩基配列は、標的配列全体にハイブリダイズする。プローブ用核塩基配列は非ポリヌクレオチドであり、かつ好ましくはプローブ用核塩基配列はPNAサブユニットのみからなる。よってプローブ用核塩基配列のサブユニットの長さは一般に、適切なハイブリダイゼーション条件下で、リニアービーコンと検出すべき標的配列との間に安定な複合体が形成されるように選択される。本発明の実施に適したPNAオリゴマーのプローブ用核塩基配列は、一般に5〜30個の間のPNAサブユニットの長さを有する。好ましくはプローブ用核塩基配列は、長さが8〜18サブユニットであろう。最も好ましくはプローブ用核塩基配列は、長さが11〜17サブユニットであろう。
【0064】
リニアービーコンのプローブ核塩基配列は、一般に標的配列に相補的な核塩基配列を有する。あるいは、プローブ用核塩基配列と標的配列の間に単一の点変異(塩基ミスマッチ)が存在するプローブを利用するとき、より大きな配列識別力が得られることが証明されているため、実質的に相補的なプローブ用配列を使用してもよい(グオ(Guo)ら, Nature Biotechnology 15: 331-335 (1997)、グオ(Guo)ら, WO 97/46711;およびグオ(Guo)ら, US 5,780,233を参照、参照することにより本明細書の一部とする)。
【0065】
ブロッキングプローブ:
ブロッキングプローブは、プローブのプローブ用核塩基配列が、標的配列に無関係かまたは密接に関係しているハイブリダイゼーション部位に結合することを抑制するのに使用することができるPNAまたは核酸プローブである(コウル(Coull)ら, PCT/US97/21845(別名WO 98/24933)を参照)。一般に、ブロッキングプローブは非標的配列にハイブリダイズすることにより、プローブ用核塩基配列と非標的配列の間のハイブリダイゼーションにより形成される複合体よりも熱力学的に安定な複合体を形成するため、ブロッキングプローブは、プローブ用核塩基配列の、密接に関係する非標的配列への結合を抑制する。すなわち、ブロッキングプローブは、典型的にはある測定法において使用されて非特異的シグナルを抑制する非標識プローブである。これらは、通常密接に関係する非標的配列配列にハイブリダイズするように設計されるため、典型的には2つまたはそれ以上のブロッキングプローブのセットが測定法において使用され、それによって、存在して測定法の性能を妨害しうる非標的配列からの非特異的シグナルを抑制する。
【0066】
B.発明の好適な実施態様:
リニアービーコンプローブ:
プローブがその標的配列にハイブリダイズしないときドナーとアクセプター残基間のエネルギー移動を促進するのに適した、リニアービーコンが開示される。しかし、その標的配列へのプローブのハイブリダイゼーションは、ドナーとアクセプター残基間のエネルギー移動の効率を変化させ、そのためビーコンセットの少なくとも1つのメンバーに関連したシグナルの測定可能な変化が生じる。
【0067】
一般に、リニアービーコンは、最低限少なくとも1つの結合ドナー残基と少なくとも1つの結合アクセプター残基を含むポリマーであり、該ドナーおよびアクセプター残基は、少なくとも一部のプローブ用核塩基配列により分離されており、このプローブ用核塩基配列は、適切なハイブリダイゼーション条件下で、相補的または実質的に相補的な標的配列へのハイブリダイゼーションに適している。リニアービーコンはヘアピンステムを形成しないように設計される。好ましくはドナーとアクセプター残基は、プローブ用核塩基配列の反対の末端で結合されている。リニアービーコンはさらに、該ドナーとアクセプター残基間のエネルギー移動の効率が、このポリマーが水溶液に溶媒和するときに、ドナーとアクセプター残基を分離するサブユニットの長さ、ドナー残基とアクセプター残基のスペクトル重複、水溶液中のマグネシウムの存在または非存在および水溶液のイオン強度よりなる群から選択される少なくとも2つの可変要素から実質的に独立していることを特徴とする。好ましくはリニアービーコンはさらに、該ドナーとアクセプター残基間のエネルギー移動の効率が、少なくとも3つの可変要素に実質的に独立であり、そして最も好ましくは4つ全ての可変要素から実質的に独立していることを特徴とする。
【0068】
好適な実施態様において、リニアービーコンは、少なくとも第1および第2の末端を有するプローブ用核塩基配列からなるポリマーである。プローブ用核塩基配列は、目的の標的配列に相補的または実質的に相補的である。少なくとも1つのドナー残基は、プローブ用核塩基配列の第1または第2の末端の一方に結合し;そして少なくとも1つのアクセプター残基は、プローブ用核塩基配列の第1または第2の末端のもう一方に結合している。1つまたはそれ以上のスペーサーまたはリンカー残基を使用して、ドナーとアクセプター残基をプローブ用核塩基配列のそれぞれの末端に結合させることができる。最も好適な実施態様において、リニアービーコンは、PNAオリゴマーである。
【0069】
リニアービーコンは、(本明細書で前記したように)プローブ用核塩基配列とビーコンセットの結合したドナーとアクセプター残基のみからなるか、または場合により追加の結合残基を含んでもよい。追加の結合残基の非限定例として、他の標識物、リンカー、スペーサー、天然のまたは非天然のアミノ酸、ペプチド、タンパク質、核酸、酵素および/またはPNA、DNAまたはRNAの1つまたはそれ以上の他のサブユニットを含む。追加の残基は、測定法において機能性であってもまたは非機能性であってもよい。しかし一般には、追加の残基は、リニアービーコンが使用される測定法の設計内で機能性であるように選択される。本発明のリニアービーコンは、場合により表面に固定化される。
【0070】
非限定的な一例として、本発明のリニアービーコンは、プローブ用核塩基配列に結合した核酸を含んでよく、ここで、核酸は第2の標的配列にハイブリダイズしうる。第2の非限定例として、リニアービーコンは、プローブ用核塩基配列に結合した酵素を含んでよく、ここで、酵素は、第2の検出スキームにおいて使用しうる。リニアービーコンの第3の非限定例は、プローブ用核塩基配列に結合した抗体を含んでよく、ここで、抗体は第2の検出スキームにおいて使用しうる。さらに第4の非限定例として、リニアービーコンは、プローブ用核塩基配列に結合した1つまたはそれ以上のスペーサー残基を含んでよく、ここで、1つまたはそれ以上のスペーサー残基は、リニアービーコンを支持体につなぐのに使用される。
【0071】
リニアービーコンのユニークな特色:
先行技術の核酸作製体と本発明のリニアービーコンとの間には多くの相違点がある。例えば、核酸作製体は、ポリヌクレオチド基本骨格を含むが、一方本発明のリニアービーコンは、ポリヌクレオチドではないプローブ用核塩基配列を含む。好適な実施態様において、PNAからなるリニアービーコンは、ヌクレアーゼ分解に対する抵抗、相補的核酸への塩独立配列のハイブリダイゼーション、および極めて迅速なハイブリダイゼーション速度のような、PNAの好ましい性質の全てを示す。
【0072】
さらには、リニアービーコン中のドナーとアクセプター残基間のエネルギーの移動は、マグネシウムの存在または非存在、プローブ環境のイオン強度およびプローブの核塩基配列から実質的に独立している(本明細書の例17、18および21を参照)。さらに驚くべきことに、ビーコンセットのドナーとアクセプター残基間のエネルギー移動の効率は、ドナーとアクセプター残基を分離するサブユニットの長さから実質的に独立しているのに対して、同じ核塩基配列と標識配置を有する核酸内の残基間のエネルギー移動は、プローブの長さに実質的に依存している(本明細書の例17および18を参照)。
【0073】
最も驚くべきことに、リニアービーコンは、ドナーとアクセプター残基が、ドナー残基の発光スペクトルとアクセプター残基の吸収スペクトルの実質的な重複を示すかどうかにかかわらず作用する(本明細書の例17、18および21を参照)。この仮説に拘泥するわけではないが、このデータは、FRETがドナーとアクセプター残基間のエネルギー移動の主な起源として報告されている核酸と比較すると、リニアービーコンではエネルギー移動の主な様式として衝突または接触が作用することを示唆している。
【0074】
リニアービーコンのさらなる利点は、アームセグメントを形成するために追加のサブユニットを含む作製体と比較したときの合成の容易さである。さらに出願人らにより集められたデータは、リニアービーコンが、アームセグメントを形成するために追加のサブユニットを含む作製体よりも速くハイブリダイズすることを証明している(本明細書の例15および16を参照)。
【0075】
プローブセット:
別の実施態様において本発明は、試料中に存在しうる2つまたはそれ以上の異なる標的配列の存在、非存在または量を検出または同定するのに適したリニアービーコンのセットに関する。標的配列の検出、同定または定量に適したリニアービーコンの特徴は、本明細書で前述した。2つまたはそれ以上の標的配列の特異的検出に特徴的なセット内のリニアービーコンの分類は、本発明の好適な実施態様である。
【0076】
本発明のプローブセットは、少なくとも1つのリニアービーコンを含むが、リニアービーコンだけを含む必要はない。例えば、本発明のプローブセットは、リニアービーコン、他のPNAプローブおよび/または核酸プローブの混合物を含んでよい(但し、セットは、少なくとも1つの本明細書に記載されるリニアービーコンを含む)。好適な実施態様において、セットの少なくとも1つのプローブは、本明細書に定義されるブロッキングプローブである。
【0077】
表面へのリニアービーコンの固定化:
1つまたはそれ以上のリニアービーコンは、場合により表面に固定化してもよい。1つの実施態様において、プローブは、UV架橋の周知のプロセスを使用して表面に固定化することができる。あるいはPNAオリゴマーは、脱保護に適しているが合成支持体からの切断には適さない方法で、表面上で合成される。
【0078】
好ましくはプローブは、プローブと支持体上の適切な官能基との反応により、表面に共有結合される。アミノ基、カルボン酸およびチオールのような官能基は、適切な保護基(例えば、リジン、グルタミン酸およびシスチン)を用いて一方の末端を伸長して、リニアービーコンに組み込むことができる。末端を伸長するとき、リジンのような分岐アミノ酸の1つの官能基を使用して、ポリマー中の適切な位置にドナーまたはアクセプター標識を組み込むことができる(「PNA標識」という標題の項を参照)が、一方場合によりさらに分岐のもう一方の官能基が使用してポリマーを伸長し、これを表面に固定化する。
【0079】
表面へのプローブの結合のための方法は、一般に固定化すべきプローブの求核基(例えば、アミンまたはチオール)と、修飾すべき支持体上の求電子基との反応を伴う。あるいは求核物質は支持体上に、そして求電子物質(例えば、活性化カルボン酸)はリニアービーコン上に存在してもよい。未変性PNAは、アミノ末端を有するため、PNAは表面に固定化するために必ずしも修飾する必要はない(レスター(Lester)ら、「PNAアレイテクノロジー」という標題のポスターを参照)。
【0080】
表面へのPNAの固定化に適した条件は、一般にPNAの標識に適した条件と同様であろう(「PNA標識」という小見出しを参照)。固定化反応は本質的にPNAの標識と同等であり、そこで標識物は、PNAプローブが共有結合で固定化される表面と置換される。
【0081】
アミノ基、カルボン酸基、イソシアナート、イソチオシアナートおよびマレイミド基で誘導体化した多くのタイプの表面が市販されている。適切な表面の非限定例として、膜、ガラス、調節多孔ガラス、ポリスチレン粒子(ビーズ)、シリカおよび金ナノ粒子を含む。
【0082】
表面に固定化されると、ビーコンセットの残基間のエネルギー移動がリニアービーコンで起こる。適切なハイブリダイゼーション条件下での標的配列へのハイブリダイゼーションにより、(既知配列の)リニアービーコンが結合している表面上の位置が、固定化リニアービーコンのビーコンセットの少なくとも1つのメンバーのシグナルの測定可能な変化に基づく検出可能なシグナルを生成する。従って、表面上のシグナルの強度は、リニアービーコンが固定化されている表面に接触する試料中の標的配列の存在または量を検出、同定または定量するために使用することができる。好適な実施態様において、標的配列へのハイブリダイゼーションを検出するために、表面蛍光の検出が使用される。
【0083】
検出可能および独立に検出可能な残基/多重分析:
本発明の好適な実施態様において、多重ハイブリダイゼーション測定法(multiplex hybridization assay)が実施される。多重測定法では、目的の多くの条件が同時に試験される。多重分析は、測定中または測定が完了した後に、試料成分またはこれらに伴うデータを分類する能力に基づいている。本発明の好適な実施態様では、あるセットの異なるリニアービーコンを標識するために、明確な独立に検出可能な残基が使用される。標的配列へ明確に(独立に)標識されたリニアービーコンのそれぞれのハイブリダイゼーションに相関するデータは、試料中の検出するために探索される標的配列の存在、非存在または量と相関させることができるため、独立に検出可能な残基を区別する能力および/または残基のそれぞれを定量する能力によって、ハイブリダイゼーション測定法を多重化する手段が得られる。従って本発明の多重測定法は、同一測定法で同一試料内に存在しうる1つまたはそれ以上の標的配列の存在、非存在または量を同時に検出するために使用することができる。好ましくは、独立に検出可能な蛍光物質が、リニアービーコンを使用する多重測定法の独立に検出可能な残基として使用される。例えば、2つのリニアービーコンを使用して2つの異なる標的配列のそれぞれを検出することができるが、ここで、フルオレセイン(緑色)で標識したプローブが、2つの標的配列の第1のものを検出するために使用され、ローダミンまたはCy3(赤色)で標識したプローブが、2つの標的配列の第2のものを検出するために使用される。従って、測定法における緑色、赤色、または緑色と赤色のシグナルは、それぞれ第1、第2、および第1と第2の標的配列の存在を意味する。
【0084】
リニアービーコンのアレイ:
アレイは、目的の2つまたはそれ以上のプローブが所定の位置に固定化されている表面である。核酸とPNAプローブの両方を含むアレイが文献に記載されている。アレイに固定化されるプローブ配列は、目的の1つまたはそれ以上の標的配列を含有するかもしれない試料に応答を要求するように注意深く選択される。各プローブの位置と配列がわかっているため、アレイは、一般に試料中の1つまたはそれ以上の標的配列の存在または量を同時に検出、同定または定量するために使用される。すなわち、PNAアレイは、診断応用または治療上の有用性を示しうるリード化合物のスクリーニングにおいて有用であろう。
【0085】
例えば、診断測定法において標的配列は、アレイ表面上の相補的プローブにより捕捉され、次に二次検出系を使用してプローブ/標的配列複合体が検出される。1つの実施態様において、プローブ/標的配列複合体は、目的の標的分子の別の配列にハイブリダイズする第2のプローブを使用して検出される。別の実施態様において、プローブ/標的配列複合体の存在を検出、同定または定量するために、標識抗体が使用される。
【0086】
リニアービーコンの組成はアレイの表面上の位置でわかっている(PNAが、アレイ中のこの位置に合成または結合されたため)ため、アレイに生成される検出可能なシグナルの位置を測定することにより、標的配列の組成を直接検出、同定または定量することができる。リニアービーコンの標的配列へのハイブリダイゼーションは自己指示性であるため、リニアービーコンと標的配列との間のハイブリダイゼーションについてアレイを分析するために、二次検出系は必要ではない。
【0087】
PNAを含むアレイは、PNAが非常に安定でありかつ核酸を分解する酵素により分解されることがないというさらなる利点を有する。従って1つの試料からの核酸を第2の試料の導入の前にアレイから除去できれば、PNAアレイは再使用可能なはずである。ハイブリダイズした標的配列の除去により、リニアービーコンのアレイ上のシグナルは、再びバックグラウンドまで減少するはずである。PNAは、加熱またはエンドヌクレアーゼおよびエキソヌクレアーゼ活性によって分解されないため、リニアービーコンのアレイは、加熱、ヌクレアーゼ、またはホルムアミド、尿素および/または水酸化ナトリウムを含有する水溶液のような化学変性物質を用いる処理による簡便かつ迅速な再生に適しているはずである。
【0088】
方法:
さらに別の実施態様において、本発明は試料中の標的配列の検出、同定または定量のための方法に関する。本方法は、試料をリニアービーコンに接触させ、次にビーコンセットの少なくとも1つの残基に関連する検出可能なシグナルの変化を検出、同定または定量すること(ここで、リニアービーコンが自己指示性であるため、検出可能なシグナルとハイブリダイゼーションの間の相関が可能である)を含む。リニアービーコンは自己指示性であるため、本方法は、閉管測定法(別名「均一測定法」)で行われる分析に特に適している。閉管測定法とは、測定法の成分が一旦合わせられると、管を開ける必要がないかまたは結果を求めるために測定法の内容物を除去する必要がないことを意味する。管は結果を求めるために開ける必要がなくかつ好ましくは開けられないため、管を開けることなく、または測定法の内容物を除去することなく、発生しかつ観察または定量することができるある種の検出可能なまたは測定可能な変化が必要とされる。すなわち、多くの閉管測定法は、目で観察することができるか、または試料ホルダーとしてこの管を使用する蛍光装置で検出および/または定量することができる蛍光の変化に依存する。このような装置の例としては、アイダホテクノロジーズ(Idaho Technologies)のライトサイクラー(Light Cycler)およびパーキンエルマー(Perkin Elmer)のプリズム(Prism)7700がある。
【0089】
本発明の好適な閉管測定法は、測定法の操作により合成または増幅された核酸標的配列の検出を含む。好適な核酸合成または核酸増幅反応の非限定例としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、鎖置換増幅(Strand Displacement Amplification)(SDA)、転写介在性増幅(Transcription-Mediated Amplification)(TMA)、回転環増幅(Rolling Circle Amplification)(RCA)およびQ−ベータ(Q-beta)レプリカーゼがある。閉管測定法に存在するリニアービーコンは、閉管測定法で起きる核酸合成または核酸増幅反応からの標的配列産生に応じて検出可能なシグナルを生成する。最も好適な実施態様において、本測定法は、非対象PCR反応である(本明細書の例19を参照)。
【0090】
本発明のリニアービーコンは、細胞中に見い出される酵素に対して安定であるように設計することができるため、本方法は、生存しているか否かにかかわらず細胞、組織または生体中の標的配列を検出するのに特に適している。すなわち、好適な実施態様において、標的生物を検出、同定または定量するための測定法形式として、イン・サイツハイブリダイゼーションが使用される(本明細書の例20を参照)。最も好ましくは蛍光イン・サイツハイブリダイゼーション(FISHまたはPNA−FISH)が、測定法形式である。PNA−FISHを実施するための典型的な方法は、システッド(Thisted)ら, Cell Vision, 3: 358-363 (1996)またはWIPO特許出願WO 97/18325(参照することにより本明細書の一部とする)に見いだすことができる。
【0091】
本発明のリニアービーコンで処理した生物は、幾つかの典型的な方法により検出することができる。細胞は、スライドに固定して、次に顕微鏡またはレーザー走査装置で可視化することができる。あるいは、細胞を固定し、次にフローサイトメーターで分析することができる(例えば、ランスドープ(Lansdorp)ら;WIPO特許出願;WO 97/14026を参照)スライドスキャナーとフローサイトメーターは、目的の試料中に存在する標的生物の数を迅速に定量するのに特に有用である。
【0092】
本発明の方法は、プローブに基づくハイブリダイゼーション測定法において使用されるため、本方法は、生物またはウイルスに関連する標的配列の検出により、試料中の生物またはウイルスの存在または量を検出、同定または定量するために使用される測定法を改良するのに有用であろう。(「生物およびウイルスを検出、同定および定量するための方法」という標題の米国特許第5,641,631号を参照)。同様に、本発明はまた、試料中の生物の1つまたはそれ以上の種の検出、同定または定量において使用される測定法においても有用であろう(「生物およびウイルスを検出、同定および定量するための方法」という標題の米国特許第5,288,611号を参照、これは参照することにより本明細書の一部とする)。本発明はまた、試料中の1つまたはそれ以上の微生物の増殖に及ぼす抗菌薬の効果を測定するために使用される測定法においても有用であろう(「リボソーム核酸サブユニット配列特異的プローブを使用する、増殖に及ぼす抗菌薬の効果を測定するための方法」という標題の米国特許第5,612,183号を参照、これは参照することにより本明細書の一部とする)。本発明はまた、試料中の生物の分類群の存在または量を測定するために使用される測定法においても有用であろう(「特異的r−RNAサブ配列をプローブとして使用する、生物の分類群の存在または量を検出するための方法」という標題の米国特許第5,601,984号を参照、これは参照することにより本明細書の一部とする)。
【0093】
本発明の方法を実施するときは、測定において1つまたはそれ以上の非標識または独立に検出可能なプロモーターを使用して、非標的配列へのリニアービーコンの結合を抑制することが好ましい。「ブロッキングプローブ」が存在すると測定法の識別力が上昇し、それにより信頼性と感度(シグナル対ノイズ比)を改善させられる。
【0094】
本発明のある実施態様において、1つの標的配列は、試料の適切な処理により表面に固定化される。核酸の固定化は、試料を膜に適用し次にUV架橋することにより、容易に達成できる。例えば、アレイが1つまたはそれ以上のリニアービーコンに順に応答を求め、それによって各試料が目的の1つまたはそれ以上の標的配列を含有するかどうかを決定できるように、試料をアレイに配置することができる。
【0095】
さらに別の実施態様において、リニアービーコンは支持体に固定化され、試料は順に応答を求められ、それによって各試料が目的の標的配列を含有するかどうかを決定する。好適な実施態様においてリニアービーコンは、目的の試料と接触するアレイ上に固定化される。従って試料は、目的の多くの標的配列の存在と量について同時に分析することができるが、ここでリニアービーコンの組成は周囲深く選択され、特定の標的配列の存在、非存在または量が明白に決定できるように、表面上の所定の位置に配置される。リニアービーコンのアレイは第2の検出系を必要としないため、特に有用である。その結果本発明はまた、目的の標的配列を検出、同定または定量するのに適した、2つまたはそれ以上の支持体に結合したリニアービーコンを含むアレイに関する。
【0096】
キット:
さらに別の実施態様において、本発明は、試料中に存在するかもしれない1つまたはそれ以上の標的配列の存在、非存在または量を検出する測定法を実施するのに適したキットに関する。1つまたはそれ以上の標的配列の検出、同定または量の定量に適したリニアービーコンの特徴は、本明細書に前述されている。さらに、試料中に存在するかもしれない1つまたはそれ以上の標的配列を検出、同定または定量するために、キットのリニアービーコン成分を使用するのに適した方法もまた、本明細書に前述されている。
【0097】
本発明のキットは、1つまたはそれ以上のリニアービーコンと、測定法を実施するためまたはそうでなければ測定法の実施を簡便にするために選択される他の試薬または組成物を含む。好適なキットは、リニアービーコンのセットを含有し、ここでセットの少なくとも2つのリニアービーコンのそれぞれは、試料中に存在するかもしれない2つまたはそれ以上の異なる標的配列を明瞭に検出し、かつこれらを区別するために使用される。すなわち、セットのリニアービーコンは、好ましくは、2つまたはそれ以上の異なる標的配列のそれぞれが、個別に検出、同定または定量できるように、独立に検出可能な残基で標識される(多重測定法)。
【0098】
本発明を使用するための典型的な応用:
支持体に結合していようと溶液中であろうと、本発明の方法、キットおよび組成物は、食物、飲料、水、医薬品、個人の健康管理製品、乳製品または環境試料中に見いだしうる生物に特異的な標的配列の迅速で、高感度で、信頼性の高い、用途の広い検出のために特に有用である。好適な飲料の分析は、ソーダ水、瓶詰めの水、フルーツジュース、ビール、ワインまたは酒類を含む。従って、本発明の方法、キットおよび組成物は、食物、飲料、水、医薬品、個人の健康管理製品、乳製品または環境試料の製造または貯蔵に使用される原材料、器具、製品または製造法の分析に特に有用であろう。
【0099】
支持体に結合していようと溶液中であろうと、本発明の方法、キットおよび組成物は、臨床的環境において見い出されうる生物に特異的な標的配列の、迅速で、高感度で、信頼性の高い、用途の広い検出のために特に有用である。従って、本発明の方法、キットおよび組成物は、臨床的検体またはヒトもしくは動物を治療するために使用される、器具、備品または製品の分析に特に有用であろう。例えば、本測定法は、遺伝に基づく疾患に特異的な、または遺伝に基づく疾患の素因に特異的な標的配列を検出するために使用することができる。疾患の非限定例としては、βサラセミア、鎌状赤血球貧血、第V因子ライデン(Leiden)、嚢胞性線維症および癌関連標的(p53、p10、BRC−1およびBRC−2など)を含む。
【0100】
さらに別の実施態様において標的配列は、染色体DNAに関するものであり、ここで標的配列の検出、同定または定量は、出生前スクリーニング、実父確定検査、身元確認または犯罪捜査のような法医学的手法に関して使用することができる。
【実施例】
【0101】
(本発明を実施するための方法)
本発明を以下の例により説明するが、これらは決して本発明を限定するものではない。
【0102】
例1.N−α−(Fmoc)−N−ε−(NH2)−L−リジン−OHの合成
20mmolのN−α−(Fmoc)−N−ε−(t−boc)−L−リジン−OHに60mlの2/1ジクロロメタン(DCM)/トリフルオロ酢酸(TFA)を加えた。N−α−(Fmoc)−N−ε−(t−boc)−L−リジン−OHから、tert−ブチルオキシカルボニル(t−boc)基が完全に除去されるまで、この溶液を攪拌する。次に溶液を蒸発乾固し、残渣を15mlのDCMで再溶解する。次に、溶液を350mlのエチルエーテルに滴下して、生成物の沈殿を試みる。生成物が溶解したため、エチルエーテルをデカントし、油状物を高真空に入れると白色の泡状物が得られた。白色の泡状物を250mlの水に溶解し、飽和リン酸ナトリウム(二塩基性)で溶液をpH4に中和した。白色の固形分が生成し、真空ろ過により集めた。生成物を35〜40℃の真空オーブン中で一晩乾燥した。収量17.6mmol、88%。
【0103】
例2.N−α−(Fmoc)−N−ε−(ダバシル)−L−リジン−OHの合成
1mmolのN−α−(Fmoc)−N−ε−(NH2)−L−リジン−OH(例1)に、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)5mlと1.1mmolのTFAを加えた。アミノ酸が完全に溶解するまでこの溶液を攪拌した。
【0104】
1.1mmolの4−((4−ジメチルアミノ)フェニル)アゾ)安息香酸、スクシンイミジルエステル(ダバシル−NHS;モレキュラープローブズ(Molecular Probes)、P/N D−2245)に、4mlのDMFと5mmolのジイソプロピルエチルアミン(DIEA)を加えた。この攪拌溶液に、上記のように調製したN−α−(Fmoc)−N−ε−(NH2)−L−リジン−OH溶液を滴下して加えた。反応物を一晩攪拌し、次に処理した。
【0105】
溶媒を真空で留去し、残渣を50mlのDCMと50mlの10%クエン酸水溶液に分配した。層を分離し、有機層を重炭酸ナトリウム水溶液で洗浄し、再度10%クエン酸水溶液で洗浄した。次に有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、溶媒を留去して橙色の泡状物を得た。泡状物をアセトニトリル(ACN)から結晶化し、結晶を真空ろ過により集めた。収量0.52mmol、52%。
【0106】
例3.N−α−(Fmoc)−N−ε−(ダバシル)−L−リジン−PAL−Peg/PS合成支持体の合成
N−α−(Fmoc)−N−ε−(ダバシル)−L−リジン−OH(例2)を使用して、C末端ダバシル化PNAの調製に有用な合成支持体を調製する。フロースルー容器中でDCM中20%ピペリジンで30分処理して、市販のFmoc−PAL−Peg−PS合成支持体(パーセプティブバイオシステムズ社(PerSeptive Biosystems, Inc.);P/N GEN913384)0.824gのフルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基を除去した。次に支持体をDCMで洗浄した。最後に支持体をDMFで洗浄し、アルゴンのフラッシング流で乾燥した。
【0107】
試薬を順に混合して、0.302gのN−α−(Fmoc)−N−ε−(ダバシル)−L−リジン−OH、3.25mlのDMF、0.173gの[O−(7−アザベンゾトリアオール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)、0.101mlのDIEA、および0.068mlの2,6−ルチジン(lutidine)を含有する溶液を調製した。次に、洗浄した合成支持体にこの溶液を加え、2時間反応させた。次に容器にアルゴン流で溶液をフラッシュし、支持体を順にDMF、DCMおよびDMFで洗浄した。次に樹脂を、アルゴン流で乾燥した。
【0108】
支持体を、標準的な市販のPNAキャッピング試薬(パーセプティブバイオシステムズ社(PerSeptive Biosystems, Inc.);P/N GEN063102)5mlで処理した。次にキャッピング試薬を容器からフラッシュし、支持体をDMFとDCMで洗浄した。次に支持体をアルゴン流で乾燥した。最後に合成支持体を高真空で乾燥した。
【0109】
約6〜8mgの3つの試料のFmoc添加を分析して、支持体の最後の添加量を測定した。分析により、添加量は約0.145mmol/gであった。
【0110】
必要に応じてこの合成支持体を空のPNA合成カラムに充填し、これを使用して、C末端L−リジンアミノ酸のε−アミノ基を介してPNAオリゴマーに結合したC末端ダバシル消光残基を有するPNAオリゴマーを調製した。
【0111】
例4.PNAの合成
パーセプティブバイオシステムズ社(PerSeptive Biosystems, Inc.)から得られる市販の試薬と装置を使用して、PNAを合成した。粗生成物が許容できる純度であることを確実にするために、しばしば2重カプリングを行った。例3のように調製したダバシル−リジン修飾合成支持体を使用して合成することにより、または例10に記載のようにPNAを支持体に結合したままC末端リジン残基のN−ε−アミノ基を標識することにより、C末端ダバシル残基を有するPNAを調製した。N末端フルオレセイン残基ならびにC末端ダバシル残基の両方を有するすべてのPNAを、適当な標識試薬とリンカー(必要に応じて)で処理した後、合成支持体から切断した。N末端Cy3標識(アマシャム(Amersham))を含むPNAを、合成支持体から切断し、HPLC精製した後Cy3標識した(例12を参照)。
【0112】
例5.Fmoc保護基の好適な除去方法
合成支持体をDMF中の25%ピペリジン溶液で室温で5〜15分処理した。処理後、合成支持体を洗浄し、高真空で乾燥した。次に支持体を適当な標識試薬で処理するか、および/または合成支持体から切断した。
【0113】
例6.フルオレセイン−O−リンカーの合成
10mlのDCM中で攪拌している7.5mmolのN−(tert−ブチルオキシカルボニル)−8−アミノ−3,6−ジオキサオクタン酸に、50mmolのTFAを加えた。t−boc基が完全に除去されるまで、溶液を室温で攪拌した。次に真空で溶媒を留去し、生成物を10mlのDCMで溶解した。
【0114】
この攪拌溶液に、7.5mmolのジ−O−ピバロイル−5(6)−カルボキシフルオレセイン−NHSエステル、30mmolのN−メチルモルホリン(NMM)および20mlのDCMを含有する溶液を加えた。反応を一晩行い、翌朝分液ロートに移した。
【0115】
この有機溶液を10%クエン酸水溶液で2回洗浄し、次に硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、溶媒を留去して褐色の泡状物を得た。生成物をシリカゲルで精製した。DCM移動相と段階的メタノール勾配を使用して、固定相から生成物を溶出した。最小量のDCMに溶解しこの溶液にヘキサンを滴下して加えて収量2.8gの泡状物。収量2.32g白色の粉末。生成物の純度は標識には適さず、従ってこの物質の試料についてさらなる逆相クロマトグラフィー分離を行った。
【0116】
沈殿生成物1gを、40%アセトニトリルを含有する50mM酢酸トリエチルアンモニウム水溶液(pH7)30mlに溶解した。次にこの溶液を、10.3mlのアリコートで、あらかじめ平衡化した2gのウォーターズセプパックバック(Waters Sep-Pak Vac)12cctC18カートリッジ(P/N WAT043380)に加えた。すべての充填溶媒の添加後、40%アセトニトリルを含有する50mM酢酸トリエチルアンモニウム水溶液(pH7)3mlの2つのアリコートを、第1の洗浄液として充填した。60%アセトニトリルを含有する50mM酢酸トリエチルアンモニウム水溶液(pH7)3mlの2つのアリコートを、第2の洗浄液として充填した。最後に3mlのアリコートのアセトニトリルを使用して、カラムに残る物質を溶出した。各アリコートの溶出液を個別に集め、HPLCで純度を分析した。アリコートを真空蒸発し、それぞれの質量を測定した。適当な純度の画分をDCMに再溶解し、画分を一緒にし、ヘキサンで沈殿させた。収量0.232g。
【0117】
例7.フルオレセイン−O−リンカーによる支持体に結合したPNAのN末端標識のための一般的方法
N末端フルオレセイン標識のために、完全に組み立てたPNAオリゴマーの数種類のアミノ末端フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基をピペリジン処理により除去し、樹脂を洗浄し、真空下で乾燥した。次に、0.07Mフルオレセイン−O−リンカー、0.06M(HATU)、0.067M DIEAおよび0.1M 2,6−ルチジンを含有する溶液約300μlで、樹脂を20〜30分処理した。処理後樹脂を洗浄し、高真空で乾燥した。次にPNAオリゴマーを切断し、脱保護し、下記のように精製した。
【0118】
例8.5(6)カルボキシフルオレセイン−NHSによる支持体に結合したPNAのN末端標識ための一般的方法
この方法は、5(6)−カルボキシフルオレセインでPNAを標識するために、例7に記載の方法の代替法として使用した。この方法は、PNAオリゴマーのN末端をFmoc−8−アミノ−3,6−ジオキサオクタン酸と反応させた後、標識反応を行って、当量のPNA作製体を調製することを必要とする。完全に組み立てたPNAオリゴマーのアミノ末端フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基をピペリジン処理で除去し、合成支持体を洗浄し、真空下で乾燥した。次に合成支持体を、0.1M 5(6)カルボキシフルオレセイン−NHS(モレキュラープローブズ(Molecular Probes)、P/N C−1311)、0.3M DIEAおよび0.3M 2,6−ルチジンを含有する溶液約300μlで、37℃で4〜5時間処理した。処理後、合成支持体を洗浄し、高真空で乾燥させた。次にPNAオリゴマーを切断し、脱保護し、下記のように精製した。
【0119】
さらに好ましくは、次に合成支持体を0.08M 5(6)カルボキシフルオレセイン−NHS、0.24M DIEAおよび0.24M 2,6−ルチジンを含有する溶液約250μlで、30〜37℃で2〜5時間処理した。
【0120】
例9.支持体に結合したPNAの5(6)カルボキシフルオレセインによる標識ための一般的方法
リンカーと正しく反応させ、末端アミン保護基を除去した後、樹脂を、DMF中の0.5M 5(6)カルボキシフルオレセイン、0.5M N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、0.5M 1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)を含有する250μlの溶液で処理した(ウェーバー(Weber)ら、Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 8: 597-600 (1998))を参照)。処理後合成支持体を洗浄し、高真空で乾燥させた。次にPNAオリゴマーを切断し、脱保護し、下記のように精製した。
【0121】
フルオレセイン標識についての注意:本明細書に記載のフルオレセイン標識PNAを、数種類の異なる方法を使用して調製した。異なる方法を発展させて、フルオレセイン標識条件を最適化した。この時点で、ほとんどのフルオレセイン標識操作についてウェーバー(Weber)らの方法を使用することが好ましい。
【0122】
例10.支持体に結合したL−リジンのN−ε−アミノ基のダバシル標識のための一般的方法
この方法は、ダバシル化PNAを調製する時に、あらかじめ誘導体化した支持体を使用する代わりに使用した。この方法は、リジン残基(および、従って結合したダバシル残基)を、プローブ結合用核塩基配列内を含むポリマー内の位置に置いてもよいという利点を有する。
【0123】
ジクロロメタン中で1%トリフルオロ酢酸、5%トリイソプロピルシラン(TIS)を含有する溶液10mlを用いて、約15分間カラムに溶液を通過させて、樹脂(まだ合成カラム中にある)を処理した。処理後、合成支持体をDMFで洗浄した。標識試薬で処理する前に、支持体を、DMF中に5%ジイソプロピルエチルアミンを含有する溶液約10mlで処理して中和した。処理後、支持体を、基本的に例8に記載のようにダバシル−NHS(方法の5(6)カルボキシフルオレセイン−NHSの代替物として)で処理した。
【0124】
注意:この方法は、Fmoc−PAL−PEG/PS(パーセプティブ(PerSeptive)、P/N GEN913384)を使用して調製したPNA上で行った。これは、より酸不安定性のFmoc−XAL−PEG/PS(パーセプティブ(PerSeptive)、P/N GEN913394)では行わなかった。
【0125】
例11:切断、脱保護および精製の一般的方法
合成支持体(Fmoc−PAL−PEG/PS;P/N、GEN913384)を、合成カートリッジから除去し、ウルトラフリー(Ultrafree)スピンカートリッジ(ミリポア社(Millipore Corp.)、P/N SE3P230J3)に移し、TFA/m−クレゾール溶液(7/3または8/2(好ましい))で1〜3時間処理した。再度溶液を、支持体ベッドを通して遠心分離し、支持体をTFA/m−クレゾール溶液で1〜3時間処理した。再度溶液を、支持体ベッドを通して遠心分離した。次に、一緒にした溶出液(TFA/m−クレゾール)を、約1mlのエチルエーテルを加えて沈殿させた。沈殿物を遠心分離によりペレット化した。次にペレットをエチルエーテルに再懸濁し、さらに2回ペレット化した。次に、乾燥したペレットを、0.1%TFAを含有する20%アセトニトリル(ACN)水溶液に再懸濁した(ペレットを溶解するために、必要に応じてさらにACNを加えた)。生成物を分析し、逆相クロマトグラフィー法を使用して精製した。
【0126】
注意:パーセプティブバイオシステムズ社(PerSeptive Biosystems, Inc.)から入手できる新しい製品Fmoc−XAL−PEG/PS合成支持体(P/N GEN913394)を使用して、数種類のPNAを調製した。この支持体は、より迅速にかつより穏和な酸性条件下でPNAを除去することができるという利点を有する。Fmoc−XAL−PEG/PSを用いて調製したPNAについて、支持体は前記したように処理したが、一般にTFA/m−クレゾール9/1の溶液を10〜15分間使用した(2×)。
【0127】
例12:PNAのCy3標識
PNAを含有する精製アミンを1/1 DMF/水中に0.05OD/μlの濃度で溶解して、ストックPNA溶液を調製した。ストックから、約30nmoleのPNAを試験管に加えた。この試験管に125μlの0.1Mヘペス(pH8.5)と充分量の1/1 DMF/水を加えて、総量を250μlにした。この溶液を完全に混合した。Cy3色素(アマシャム(Amersham))のあらかじめパッケージした試験管に、上記のように調製した250μlの溶液すべてを加えた。試験管をよく混合し、周囲温度で1時間反応させた。
【0128】
反応後、スピード−バック(speed-vac)中で溶媒を留去した。次にペレットを、3:1の1%TFA水溶液/ACNを含有する溶液400μlに溶解した。次に随時溶液を5000MWのウルトラフリー(Ultrafree)(ミリポア社(Millipore Corp.)、P/N UFC3LCC25)または3000MW(アミコン(Amicon)、P/N42404)フィルターに移して、過剰の色素を除去した。次に、回収した生成物を逆相クロマトグラフィー法を使用して再精製した。
【0129】
例13:PNAオリゴマーの分析と精製
すべてのPNAプローブを分析し、逆相HPLCで精製した。プローブ組成は、理論的計算量と比較して確認した。
【0130】
HPLC法:
一般的に、2つの異なる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)勾配を使用して、PNAオリゴマーを分析し精製した(勾配AとB)。分取的精製は、勾配AとBに記載の分析条件に基づいて行った。勾配Bは、標準的勾配(勾配A)が満足できるものではなかったため、開発した。実験条件は、下記の通りであるが、一部の精製の間に流出緩衝液に20%ホルムアミドを添加して精製を改良することを試みた。この方法は、有益な結果を与えないようであるため、やめた。しかし興味深いことに、データを注意深く吟味すると、あるプローブの構造と相関すると従来考えられていたHPLCアーチファクトが、精製中のホルムアミドのそれぞれと相関することも見いだされた(1997年10月27日出願の仮特許出願第60/063,283号を参照)。従いPNAプローブの構造と精製したオリゴマーについて観察されるHPLCプロフィールの間には、現在は相関はないと考えられている。
【0131】
勾配AとB
緩衝液A=水中の0.1%TFA
緩衝液B=アセトニトリル中の0.1%TFA
流速=0.2ml/分
カラム温度:60℃
装置:ウォーターズ2690アライアンス(Waters 2690 Alliance):ウォーターズミレニアム(Waters Millennium)ソフトウェアにより制御
固定相:ウォーターズデルタパック(Waters Delta Pak)C18、300オングストローム、5μm、2×150mm(P/N WAT023650)
260nmで検出
【0132】
勾配プロフィールA
【表1】

【0133】
勾配プロフィールB
【表2】

【0134】
質量分析:
線形ボイジャーディレイドエクストラクションマトリックスアシスティッドレーザーデソープションイオニゼーション−タイムオブフライト(Voyager Delayed Extraction Matrix Assisted Laser Desorption Ionization-Time Of Flight)(DE MALDI−TOF)質量スペクトル装置(パーセプティブバイオシステムズ社(PerSeptive Biosystems, Inc.))を使用して、試料を分析した。シニピン酸(sinipinic acid)を試料マトリックスとして使用して、質量軸の較正ための1点としても使用した。ウシインスリンを、質量軸の第2の較正点の内部較正標準物質として使用した。
【0135】
一般的に、アセトニトリルと0.1%トリフルオロ酢酸水溶液の1:1混合液中で10mg/mlの濃度のシニピン酸(sinipinic acid)の溶液をまず調製して、分析ための試料を調製した。次に、1mgのウシインスリン(シグマ(Sigma))を0.1%トリフルオロ酢酸水溶液に溶解して、インスリン溶液を調製した。最後に、9部のシニピン酸(sinipinic acid)溶液と1部のウシインスリン溶液を混合して、インスリン/マトリックス溶液を調製した。1μlのインスリン/マトリックス溶液をスポットし、次に1μlの希釈試料(約0.1〜1 OD/ml)を質量スペクトル装置標的上にスポットして、分析ための試料を調製した。装置標的を乾燥してから、質量スペクトル装置に挿入した。
【0136】
【表3】

【0137】
1.CODEは、PNAポリマーのアミンおよびカルボキシル末端の相補的な核塩基の長さ、および8−アミノ−3,6−ジオキサオクタン酸フレキシブルリンカー単位の数と位置を測定するための簡便な手段である。プローブ結合用核塩基配列は、表に記載したすべてのプローブについて同じである。CODEの第1の桁は、C末端アームセグメントに相補的なN末端アームセグメントの長さである。CODE中の第2の桁は、N末端アームをプローブ結合用核塩基配列に結合するフレキシブルリンカー単位の数である。CODE中の第3の桁は、C末端アームをプローブ結合用核塩基配列に結合するフレキシブルリンカー単位の数である。CODE中の第4の桁は、N末端アームセグメントに相補的なC末端アームセグメントの長さである。従って、CODEを使用して、表1に記載した異なるPNAオリゴマーの一般的構造を視覚的に比較することができる。
【0138】
2.この作製体では直接比較可能な3塩基対重複の代わりに、アミンおよびカルボキシル末端の核塩基の間に同時に4塩基対の重複が存在する。
【0139】
【表4】

【0140】
【表5】

【0141】
表1A、1Bおよび1Cについて、すべてのPNA配列は、アミンからカルボキシル末端に書かれている。略語は:Flu=5(6)−カルボキシフルオレセイン、dabcyl=4−(4−(ジメチルアミノ)フェニル)アゾ)安息香酸、O=8−アミノ−3,6−ジオキサオクタン酸;K=アミノ酸L−リジン、およびCy3は、アマシャム(Amersham)から入手できるシアニン3色素である。
【0142】
例14.試験ためのDNAオリゴヌクレオチドの合成
この試験のために、k−rasPNAプローブのPNAプローブ結合配列に相補的な標的配列を含む核酸として適したビオチン標識DNAオリゴヌクレオチドを、市販の試薬および装置を使用して合成したか、または販売業者から入手した。さらに、数種類のリニアビーコンと比較して同等の核塩基長さと標識構造のDNAオリゴマーを、グレンリサーチ(Glen Research)(P/N 20−5911)から入手できるdabcyl合成支持体および他の市販のDNA試薬と装置を使用して調製した。すべてのDNAの5(6)カルボキシフルオレセイン標識は、フルオレダイトホスホラミダイト(パーセプティブバイオシステムズ社(PerSeptive Biosystems, Inc.)、P/N GEN080110)を使用して得た。すべてのDNAは、従来法により精製した。調製したDNAオリゴヌクレオチドの配列を、表2Aと2Bに示す。合成DNAの合成と精製ための方法および組成物は、当業者に公知である。
【0143】
【表6】

【0144】
核酸標的は、5’から3’末端に示す。
【0145】
【表7】

【0146】
PNA分子ビーコン試験のために調製したPNAオリゴマーの詳細な構造分析
【0147】
例15:蛍光熱プロフィールの解析
一般的実験法:
蛍光測定は、水ジャケットセルホルダー(P/N206−15439、シマズ(Shimadzu))を取り付けたRF−5000分光蛍光光度計(シマズ(Shimadzu))を使用して、1.6mlの10mm光路長のキュベット(スタルナセルズインク(Starna Cells, Inc.))を使用して行った。循環水浴(ネスラブ(Neslab))を使用して、キュベット温度を調節した。キュベット内容物の温度は、プローブの先端をキュベット(カスタム製造)上のキャップを通して液体レベルより下に挿入した熱伝対プローブ(バーナント(Barnant);モデルNo.600−0000)を直接使用して監視した。
【0148】
PNAを50%N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)水溶液に溶解して、HPLC精製したPNAオリゴマーのストック溶液を調製した。精製したPNAストックをHyb.緩衝液(50mMトリス−塩酸、pH8.3と100mM NaCl)で連続的に希釈して、各PNAストックから、それぞれ1.6mlのHyb.緩衝液中に10mmolの濃度で調製した。
【0149】
試料を493nmで励起し、521nmで蛍光を測定した。キュベットを加熱し次にキュベットが冷却する時に、多くの温度でデータ点を採取した。一般的に浴温度は連続的に5℃ずつ増加させ、次に平衡化させてから各データ点を記録した。同様に冷却プロフィールを作成するするために、浴温度を連続的に5℃ずつ低下させ平衡化させてから、各データ点を記録した。
【0150】
データの考察:
ヘアピン構造を形成する核酸分子ビーコンは、ヘアピンステムの融解とらせんからランダムコイルへのプローブステムの物理的移行に一致して、加熱すると蛍光強度の増加を示すことが推測される。任意の核酸融解イベントに一致して、このプロセスは可逆的であると予測され、こうしてらせん構造の再形成により引き起こされる試料の冷却により、蛍光が低下する。期待される融解現象は、ティアギ(Tyagi)らが記載した核酸である分子ビーコンについて記録されている(ティアギ(Tyagi)ら、Nature Bioctechnology, 14: 303-308(1996、図3)。
【0151】
【表8】

【0152】
PNAオリゴマーの蛍光熱融解分析の結果を、表3に示したデータに要約し、図1A、1B1、1B2、1B3、および1Cにグラフで示す。表3に関して、異なる作製体でかつ試験した条件下で観察される3つの異なる一般的熱プロフィールがある。これらを、タイプA、BおよびCとして表3に示す。
【0153】
蛍光熱プロフィールタイプAは、加熱(融解)による蛍光強度の上昇と冷却(再アニーリング)による蛍光強度の対応する低下が特徴である。これらの結果は、ループとヘアピンステム構造を形成する核酸分子ビーコンについて公表されたものと同様である。すなわち、タイプA蛍光熱プロフィールは、安定なヘアピンステムとループ構造の形成に一致する。従ってこの現象は、PNA分子ビーコン中のステムおよびループ構造の融解と再アニーリングに引き起こされると考えられる。しかし他の構造が、観察された現象に関与しているかも知れないため、出願人は、タイプA蛍光熱プロフィールは非常に可逆性の蛍光消光を示すとだけ主張する。
【0154】
タイプA蛍光熱プロフィールの代表を図1Aに示す。図に示すデータは、PNAオリゴマー.001、.007および.002についてである。融解(白抜き)と再アニーリング(塗りつぶし)の両方のデータを示す。シグモイド転移は、2本鎖の融解と再アニーリングに一致する。
【0155】
蛍光熱プロフィールタイプBは、加熱(融解)による蛍光強度の上昇が特徴であるが、試料の冷却による対応する蛍光強度の大きな低下はない。すなわち調べた条件下では、最初、蛍光の消光を引き起こす相互作用は、容易に可逆的ではないようである。従ってデータは、タイプB蛍光熱プロフィールを示すPNAオリゴマーは、真の分子ビーコンのすべての特徴を示すわけではないことを示唆する。しかしハイブリダイゼーション測定データから明らかなように、タイプB蛍光熱プロフィールは、PNAオリゴマーがPNAビーコンとして機能することを妨害しない。
【0156】
タイプB蛍光熱プロフィールを、図1B1、1B2、および1B3に示す。各トレースがより明瞭に見えるように、データを3つのセットで示す。図に示すデータは、PNAオリゴマー.010、.008、.009(図1B1)、.018、.011A、.017(図1B2)、および.003と.004(図1B3)についてのものである。融解(白抜き)と再アニーリング(塗りつぶし)の両方のデータを示す。
【0157】
蛍光熱プロフィールタイプCは、初期の高い蛍光強度が特徴が特徴であり、これは加熱とともに低下し、試料をさらに冷却すると再度低下する。高い初期の蛍光強度は、この作製体が、調べた他のPNA作製体のほとんどで観察された初期蛍光消光を示さないことを示唆する。冷却による蛍光強度の一定の低下は、周知である。しかしハイブリダイゼーション測定データにより明らかなように、タイプC蛍光熱プロフィールは、PNAオリゴマーがPNAビーコンとして機能することを妨害しない。
【0158】
タイプC熱プロフィールの代表を、図1Cに示す。図1Cに示すデータは、PNAオリゴマー.005と.006についてのものである。融解(白抜き)と再アニーリング(塗りつぶし)の両方のデータを示す。
【0159】
例16:ハイブリダイゼーション測定データの解析
一般的実験操作:
すべてのハイブリダイゼーション測定データは、F485CWランプフィルターとF535蛍光フィルターを取り付けたワラック1420ビクター(Wallac 1420 VICTOR)を使用して集めた。ヌンクマキシソープ(NUNC MaxiSorp)(分離型マイクロタイタープレート)を、反応容器として使用した。各マイクロタイタープレートは、あらかじめHyb.緩衝液で室温で15分洗浄し、次に反応成分を加えた。総反応容量は、Hyb.緩衝液中100μlであった。
【0160】
PNAを50%N,N’− ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解して、精製PNAプローブのストック溶液を調製した。このPNAストックから、50%DMF水溶液でPNAストックを連続希釈して各25pmole/1μlの濃度のPNAの溶液を調製した。
【0161】
精製したDNAをTE(10mMトリス−塩酸、pH8.0;1.0mM EDTA、シグマケミカル(Sigma Chemical))に溶解して、精製したwt k−ras 2DNAのストック溶液を調製した。このDNAストックから、Hyb.緩衝液でDNAを連続希釈して、100pmol/99μlの濃度のwt k−ras 2DNAの溶液を調製した。
【0162】
分析に使用した各反応試料は、1μlの適当なPNAオリゴマー(25pmole/μl)に99μlのwt k−ras 2DNAのストックまたは99μlのHyb.緩衝液(対照)を必要に応じて組合せて、100μlの試料を調製した。
【0163】
試料を混合し、ワラックビクター(Wallac VICTOR)装置を使用して、蛍光強度を経時的に追跡した。試料は三重測定を行って再現性のある結果を確保した。反応物を混合後20〜25分間データを採取し、次にウェルをシールしプレートをインキュベーター中で30〜40分間42〜50℃に加熱した。周囲温度に冷却後ウェルのシールを取り、次に約5分間かけてさらに10個のデータ点を取った。
【0164】
データの考察
ヘアピンステムおよびループ構造を形成する核酸分子ビーコンは、プローブ結合配列を相補的な核酸にハイブリダイズさせると、蛍光強度の上昇を示すことが推測される。推測される蛍光強度上昇は、ティアギ(Tyagi)らが記載したDNA分子ビーコンについて記録されている(ティアギ(Tyagi)ら、Nature Bioctechnology, 14: 303-308(1996))。
【0165】
PNAオリゴマーのハイブリダイゼーション分析の結果を、表3に要約し、グラフを図2A1、2A2、2A3、2B、および2Cに示す。表3に関して、試験した異なる作製体で観察される3つの異なる一般的ハイブリダイゼーションプロフィールがある。これらを、タイプA、BおよびCとして表3に示す。図8に、試験したすべてのプローブについてシグナル対ノイズ比(加熱の前および後)をグラフで示し、図の下に絶対値も示す。
【0166】
ハイブリダイゼーションプロフィールタイプAは、PNAオリゴマーのみを含有する試料と比較して、相補的な標的DNAを含有する試料中の蛍光強度の上昇が特徴である。加熱後、標的配列を含有する試料の蛍光強度は上昇するが、対照試料のバックグランド蛍光は大きくは変化しない。PNAは、固有の蛍光は非常に小さいため、タイプAハイブリダイゼーションプロフィールを示すプローブは一般に、最も高いシグナル対ノイズ比を有する。タイプAハイブリダイゼーションプロフィールの代表を図2A1、2A2、および2A3に示す。図に示すデータは、PNAオリゴマー.001、.007および.010(図2A1)、.002、.008、.009(図2A2)、および.011A、017、および.018(図2A3)についてである。
【0167】
ハイブリダイゼーションプロフィールタイプBは、PNAオリゴマーのみを含有する試料と比較して、相補的な標的DNAを含有する試料中の蛍光強度の急速な上昇が特徴である。蛍光強度は急速にプラトーに達し、これは加熱後大きくは変化(たとえ変化しても)しない。対照試料のバックグランド蛍光は、加熱後でも大きくは変化しない。これは、ハイブリダイゼーションイベントが迅速に進み、抵抗無く、加熱の必要無く結合平衡に達することを示唆する。タイプBハイブリダイゼーションプロフィールを図2Bに示す。図2Bに示すデータは、PNAオリゴマー.018、.003、および.004についてのものであるが、PNAオリゴマー.018は、タイプBハイブリダイゼーションプロフィールのすべてを示すわけではない。具体的には、プローブ.018のシグナルは、加熱後(タイプB)上昇しないようであるが、ハイブリダイゼーション速度は、タイプAハイブリダイゼーションプロフィールにより似ている。
【0168】
対照プローブ.003と.004(本明細書においてリニアビーコンと呼ぶ)は、タイプBハイブリダイゼーションプロフィールを示す。すなわち、タイプBハイブリダイゼーションプロフィールの急速なハイブリダイゼーション速度は、おそらくヘアピンステムがないことまたは何か別の強い力の結果であり、これは非蛍光性ポリマー型を安定化することができる。しかしこれらのプローブのハイブリダイゼーション測定で観察されるダイナミックレンジ(シグナル対ノイズ比)は典型的には非常に大きく、アームセグメントの相補的な核酸塩基の水素結合以外の力が、ドナーとアクセプター残基間の相互作用を安定化することができることを示唆している。本出願人は、標識物/標識物相互作用が、非常に強く、この驚くべき結果の重要な要因かも知れないことを観察した。
【0169】
.001、.002、.007、.009、および.010プローブと比較して、.003および.004プローブではバックグランド(ノイズ)が高いが、ハイブリダイゼーション後の蛍光強度は、調べたプローブで観察されたものより高い。バックグランドが高いことの結果として、PNAオリゴマー.003と.004は、非常に好ましいシグナル対ノイズ比を有する。このS/N比は、アームセグメントを有するかどうかに関係なく、調べた他のPNAオリゴマーの任意のものと同様に好ましい。データは、初期の低い蛍光強度と、プローブが標的配列に結合することにより対応する蛍光シグナルの対応する上昇を示すプローブを作成するために、アーム形成セグメントを有する必要がないことを証明している。
【0170】
ハイブリダイゼーションプロフィールCは、PNAオリゴマーのみを含有する試料と比較して標的DNAを含有する試料で蛍光強度がわずかに上昇していることが特徴である。蛍光強度は急速にプラトーに達し、これは加熱後大きくは変化(たとえ変化しても)しない。対照試料のバックグランド蛍光は、加熱後でも大きくは変化しない。標的核酸を含有しない対照試料中のバックグランド蛍光は、ハイブリダイゼーションプロフィールタイプCでは劇的に高いことが主な原因で、ハイブリダイゼーションプロフィールBとCは異なる。相補的な核酸を含有する試料について得られたハイブリダイゼーションデータは、ハイブリダイゼーションイベントが迅速に進み、抵抗無く、加熱の必要無く結合平衡に達することを示唆する。しかし、非常に高いバックグランドシグナルは、これらの作製体ではドナーとアクセプター残基を近傍に維持する力が、蛍光シグナルを効果的に消光させるのに充分強くないことを示唆する。標的配列に結合した時の蛍光のわずかな上昇と通常より高い固有の蛍光に従って、タイプCハイブリダイゼーションプロフィールを示すPNA分子ビーコンは、非常に低いシグナル対ノイズ比を有する。タイプCハイブリダイゼーションプロフィールの代表を図2Cに示す。図2Cに示すデータは、それぞれPNAオリゴマー.006、および.005についてのものである。
【0171】
例15〜16に示すデータの要約
本出願人が実施したすべての実験の最も驚くべき結果は、アーム形成セグメントを持たない対照プローブ.003と.004を含む調べたすべてのPNAオリゴマーでは、蛍光強度の上昇と標的配列へのプローブの結合との間に相関があることである。すなわち、非常に低い固有の蛍光を有する作製体を得るためにアーム形成セグメントを有するPNAを設計することは決定的に重要ではなく、これは標的配列にハイブリダイズすると蛍光が強くなる。核酸分子ビーコンに関連する教示の点から、これは非常に驚くべき結果である。従って本発明のリニアビーコンは、検出の前にプローブ/標的配列から過剰のプローブを分離する必要無しで、標的配列を検出、同定または定量するのに使用することができる。
【0172】
例17:リニアビーコンの長さとノイズ(バックグランド蛍光)の相関
この例のために、未変性のプローブのノイズ(ベースラインまたはバックグランド蛍光)に及ぼす長さの変化の影響を測定するために、DNAとPNAプローブの両方を比較した。比較は、イオン強度(およびpHの小さな変化)、ドナー/アクセプター対の性質の変化、およびマグネシウムの有無について行った。
【0173】
材料と方法
前記したように、PNAプローブPNA003−11、PNA003−13、PNA003−15、PNA003−17およびCy3PNA003−.15(表1Bを参照)とDNAプローブDNA003−11、DNA003−13,DNA003−15およびDNA003−17(表2Bを参照)を調製した。精製したプローブをTE緩衝液(10mMトリス−塩酸、pH8.3、1mM EDTA)で25pmole/μlの濃度に希釈し、次に緩衝液A、BまたはCのうちの1つで25pmole/1.6mlに希釈した。プローブの試料を三重測定で調製し、各1.6ml試料を、シマズ(Shimadzu)RF−5000分光蛍光高度計および10mmの光路長を使用して分析した。フルオレセイン標識オリゴマーについて、励起波長は493nmとし、蛍光520nmで記録した。Cy3標識オリゴマーについて、励起波長は545nmとし、データは560nmの蛍光で記録した。採取したすべてのデータは、相対的光単位(RLU)で記録した。
【0174】
各プローブのバックグランドを、緩衝液A、BおよびCのそれぞれについて試験した。三重測定の結果を平均し、得られたデータを図3に、各棒の上に示す平均RLUの絶対値とともにグラフで示す。図3に関して、データは、試験した各プローブについて緩衝液A、BおよびCに分類される。Cy3PNA003−15の場合を除いて、すべてPNAはN末端を5(6)カルボキシフルオレセインでC末端をダブシル(dabcyl)で標識した。Cy3PNA003−15プローブは、5(6)カルボキシフルオレセインの代わりにCy3を使用したという点で、PNA003−15とは異なる。すべてDNAを、5’末端を5(6)カルボキシフルオレセインで3’末端をダブシル(dabcyl)で標識した。市販の化学物質を使用して、DNAおよびPNAプローブの標識タイプと標識スペースは、妥当であることを確認する試みを行った。
【0175】
緩衝液組成:
緩衝液A:10mMリン酸ナトリウム、pH7.0、5mM MgCl2
緩衝液B:10mMリン酸ナトリウム、pH7.0。
緩衝液C:50mMトリス−塩酸、pH8.3、100mM NaCl。
【0176】
結果と考察:
図3に関して、長さが11、13、15および17サブユニットのフルオレセイン/ダブシル(dabcyl)標識DNAプローブについてのデータを、左に示す。データを簡単にながめると、DNAオリゴヌクレオチドの長さとノイズ(バックグランド)の量の間に明瞭な相関がある。具体的にかつ緩衝液の本質に無関係に、DNAオリゴマーの2つのサブユニットがそれぞれ増加する毎にノイズは大幅に上昇した。この観察結果は、メイランド(Mayrand)ら(US 5,691,146
、第7欄、8〜24行を参照)、マシーズ(Mathies)ら(US 5,707,804、第7欄、21〜25行を参照)、およびナザレンコ(Nazarenko)ら(Nucl. Acids Res. 25: p.2516, 第2欄、36〜40行を参照)の報告と一致する。
【0177】
すべてのDNAオリゴマーについて具体的な緩衝液の作用に関して、緩衝液Aで観察されたノイズは、プローブが緩衝液BまたはC中にある時に観察されたものより実質的に低い。緩衝液AとBは、同等のイオン強度のため、緩衝液A中のマグネシウムの存在がすべてのプローブのノイズを実質的に低下させたことは明らかである。緩衝液BとCはイオン強度が大きく異なりpHがわずかに異なるが、緩衝液Bから緩衝液Cに変えてもノイズの増加はほんのわずかであった。フルオレセインはより高いpHで量子収率が高いため、この変化は、pHの上昇の結果である可能性が高い。従って緩衝液BとCの間で観察されたノイズの上昇がほとんどないことは、イオン強度が上昇したためかも知れない。
【0178】
要約すると、マグネシウム含量とオリゴマーの長さが、DNAプローブのノイズ(バックグランド蛍光)に対して大きな作用を及ぼし、プローブ環境のイオン強度の変化は、ノイズに対してより小さな影響を及ぼすようである。
【0179】
図3に関して、長さが11、13、15および17サブユニットの標識PNAプローブについてのデータを右に示す。データを簡単にながめると、異なる長さのプローブについて観察されたノイズ(バックグランド)の間の差はほとんどない。さらにDNAと異なり、プローブの長さとノイズ強度の間にも明確な相関は無い。
【0180】
具体的な緩衝液作用に関して、最も劇的なのは、緩衝液の性質にもかかわらず、バックグランドが一貫していることである。小さな差はあったが、各3つの緩衝液で測定したノイズ(バックグランド蛍光)の絶対的な差は、DNAプローブと比較して顕著に小さかった。従ってPNAプローブのノイズは、プローブの長さ、マグネシウムの有無、および緩衝液のイオン強度にはあまり依存しないようであった。再度、緩衝液BとCの間のノイズの小さな上昇は、pHの作用であるようである。
【0181】
ドナー蛍光物質(フルオレセインからCy3へ)が異なるのみであるため、PNAプローブCy3PNA003−15についてのデータは、PNAプローブPNA003−15のデータと最もよく一致する。フルオレセインとCy3色素を調べるのに使用された蛍光波長および励起波長は大きく異なるため、ノイズ(バックグランド)の強度は直接相関させることができないが、このリニアビーコンについて調べた3つの緩衝液のそれぞれにノイズの相対的な差はほとんど無い。緩衝液BとCの間に実質的の差が無いことが顕著である。これは、Cy3の量子収率は、pHの小さな差にあまり影響されないはずなので、フルオレセインプローブについて観察されるノイズの上昇はpHの作用である可能性が最も高い。さらにフルオレセインとCy3蛍光物質の両方についての最適な励起および蛍光波長を試験に使用しているため、蛍光物質最適化条件下でのリニアビーコンの比較的低いバックグランドは、両方のプローブについてドナー蛍光物質およびアクセプター消光物質の分光特性に無関係に、蛍光の実質的な消光が起きることを意味する。まとめると、このデータは、PNAプローブのノイズは、プローブの長さ、イオン強度、マグネシウムの有無、およびビーコンセットの分光特性にはあまり依存しないことを示している。
【0182】
要約するとPNAプローブについて、ノイズは、同様の長さと標識位置を有するDNAプローブと比較して、マグネシウムの有無、リガンド長さおよびイオン強度にあまり依存しない。リニアビーコンはまた、ビーコンのセットの分光特性に無関係にエネルギー移動が起きるという特異な性質も有し、従ってエネルギー移動は主に接触によって起きFRETを介するのではないことを示している。それにもかかわらず、このデータは、調べたPNAプローブとDNAプローブの間で構造と機能に明瞭な差があることを証明している。
【0183】
例18:ハイブリダイゼーション測定におけるリニアビーコンの長さとシグナル対ノイズとの相関
本例について、長さの変化が未変性のプローブのシグナル対ノイズ比(シグナル対ノイズ比が標的配列の存在下で発生するシグナルに由来する)にどんな作用を及ぼすかを調べるために、DNAプローブとPNAプローブを比較した。比較は、プローブの長さの変化、イオン強度、ドナー/アクセプター対の性質の変化、およびマグネシウムの有無について行った。このデータは、ハイブリダイゼーション測定法におけるプローブの相対的性能を比較しているため、現実的なレベルで、例17に示すデータとは異なる。簡単化するために、11量体と15量体のDNAとPNAについてのデータのみを示してある。
【0184】
材料と方法:
PNAプローブPNA003−11、PNA003−15、Cy3PNA003−15(表1Bを参照)とDNAプローブDNA003−11およびDNA003−15(表2Bを参照)を、前記したように調製した。精製したプローブをTE緩衝液(10mMトリス−塩酸、pH8.3,1mM EDTA)で25pmole/μlに希釈し、次に緩衝液A、BまたはCのうちの1つで25pmole/50μlに希釈した。緩衝液A、B、およびCの組成は、例17に示した通りである。適当な緩衝液中の各プローブの50μlの試料を、マイクロタイタープレートの6つのウェルのそれぞれに入れ、各プローブについて、3つのハイブリダイゼーション反応と3つの陰性対照反応(ノイズまたはバックグランド蛍光を測定するために使用した)を行った。各ハイブリダイゼーション反応について、TE緩衝液で標的DNAを100pmole/μlになるように希釈し、次にこのストックを各緩衝液A、BまたはCで25pmole/μlに希釈して調製した標的DNA(wt k−ras、表2A)50μlを、各反応物に加えた。各対照について、50μlの緩衝液A、BまたはCを加えた。ウェルの内容物をピペッティングし混合するのに必要な時間のために、すべての試薬は、最初の蛍光を読む前に約1分間混合した。すべてのハイブリダイゼーション反応は、周囲温度で行った。
【0185】
ハイブリダイゼーションデータは、ワラック1420ビクター(Wallac 1420 VICTOR)マルチラベルカウンターを使用して採取した。各ウェルの蛍光強度は、0.1秒について測定した。すべての試料について、約30分の間に40回測定した。従って、30分間に採取されたデータから、シグナル対ノイズ比の時間依存性が得られた。対照反応と比較して、3つのハイブリダイゼーション反応の平均から得られたシグナル対ノイズ比を、1)図4Aと4BのDNAとPNAの11量体、2)図4Cと4DのDNAとPNAの15量体、および3)図4Eの15量体プローブCy3PNA003−15について、示す。
【0186】
結果と考察:
図4Aに関して、緩衝液A、BおよびCのそれぞれのDNA 11量体について採取したデータの30分間のシグナル対ノイズ比を示す。シグナル対ノイズ比が1であることはシグナルが無いことを意味するため、最も顕著な結果は、緩衝液Bを使用する時のシグナルの欠如である。マグネシウムの添加(緩衝液A)またはイオン強度およびpHの上昇(緩衝液C)を比較すると、シグナル対ノイズが実質的に改良される。さらにシグナル対ノイズの経時的上昇速度はきわめて顕著であり、ハイブリダイゼーション速度を追跡するのに使用することができる。
【0187】
すべての緩衝液でPNA 11量体についてのシグナル対ノイズ比を、図4Bに図示する。DNA 11量体と比較すると、試験したすべての条件下で1より大きいシグナル対ノイズ比が得られた。さらに試験した3つの緩衝液のそれぞれについて、シグナル対ノイズ比のダイナミックレンジは小さかった(30分でのDNA 11量体のS/Nの範囲は約1〜14であり、30分でのPNA 11量体のS/Nの範囲は約3〜6であった)。従ってDNA 11量体と比較すると、PNA 11量体のシグナル対ノイズ比は、環境のイオン強度にはほとんど依存しないが、緩衝液BとCの間の変化に帰因する少なくともある程度の上昇がある。さらに、緩衝液AとBのデータは基本的に同じであるため、PNA 11量体のシグナル対ノイズ比は、マグネシウムの有無には全く依存しないようである。
【0188】
さらにPNA 11量体についてシグナル対ノイズ比はほとんど経時的上昇を示さない。従ってこのデータは、リニアビーコンPNA003.11のハイブリダイゼーション速度は、調べたすべての緩衝液できわめて迅速であり、ハイブリダイゼーションは最初の数分の反応の間にほとんど平衡に達したことを示唆している。
【0189】
図4Cと4Dに関して、DNA 15量体とPNA 15量体のそれぞれについてのデータをグラフで示す。一般に15量体について得られたすべてのデータは、11量体で観察されたものに近似している。具体的には、緩衝液B中のDNA 15量体のシグナル対ノイズ比は1であり、従って実験の範囲内でハイブリダイゼーションが検出されないことを意味する。緩衝液AとCでは、DNA 15量体は、ハイブリダイゼーションの速度はデータの分析により決定できるように、経時的に上昇するシグナル対ノイズ比を与える。さらに緩衝液AとCでのDNA 15量体についてシグナル対ノイズ比のダイナミックレンジは6〜11であり、これと比較するとPNA 15量体ではシグナル対ノイズ比は約7〜13である。
【0190】
要約すると、緩衝液AとBのデータは基本的に同じであるため、PNA 15量体のシグナル対ノイズ比は、マグネシウムの有無には全く依存しないようである。さらにPNA 15量体についてシグナル対ノイズ比は、DNA 15量体と比較して、環境のイオン強度にほとんど依存しないようであるが、緩衝液BとCの間の変化に帰因する少なくともある程度の上昇がある。最後にこのデータは、リニアビーコンPNA003−15のハイブリダイゼーション速度は、調べたすべての緩衝液できわめて迅速であり、ハイブリダイゼーションは最初の数分の反応の間に、ほとんど平衡に達しており、これと比較してDNA 15量体のハイブリダイゼーション速度は非常に遅いことを示唆している。
【0191】
図4Eを参照して、Cy3標識PNA 15量体Cy3PNA003−15のシグナル対ノイズデータを示す。ドナー蛍光物質(フルオレセイン〜Cy3)のみが変化したため、このプローブのデータはPNAプローブのデータと最も有効に比較することができる。データを簡単にながめると、再度すべての3つの緩衝液で陽性のシグナル対ノイズ比が得られることを示している。シグナル対ノイズ比のダイナミックレンジは約6〜11であり、これはPNA003−15のデータとよく一致し、マグネシウムの有無への依存またはイオン強度への依存はほとんど無いことを示している。さらにデータは、ドナー/アクセプター対(ビーコンセット)のフルオレセインまたはCy3ドナー残基の非常に異なるスペクトル特性にもかかわらず、PNA003−15とCy3PNA003−15の両方のシグナル対ノイズ比は基本的に同じであるため、ドナー残基の蛍光とアクセプター残基の吸光度の間に大きな重複が無いことが必要であることを示している。
【0192】
しかし興味深いことに、PNAプローブCy3PNA003−15について、緩衝液AとBは緩衝液Cより優れている。この結果は、フルオレセイン標識プローブ(DNAまたはPNA)で得られたものとは大きく異なる。従ってこのデータは、標識物または標識対(ビーコンセット)の性質は、異なる緩衝液中の単一のプローブについて観察されたシグナル対ノイズ比のダイナミックレンジに影響を与える最も重要な因子であることを示唆している。このデータは、シグナル対ノイズのダイナミックレンジのほとんどは、標識物の性質に関連し、従って、異なる緩衝液で観察されたダイナミックレンジのほとんどは標識物の性質に帰因し、リニアビーコンの構造または機能には帰因しないため、リニアビーコンの構造と機能は、DNAプローブと比較してマグネシウムの有無および環境のイオン強度にほとんど依存しないという議論を支持している。比較して、DNAプローブで観察されたノイズ(例17を参照)の広いダイナミックレンジおよび長さ依存性およびシグナル対ノイズ比は、環境の組成が、DNAプローブの構造と機能に大きな影響を与えることを示している。
【0193】
例19:リニアビーコンを使用するPCRアンプリコンの検出
本例について、非対象PCRは大過剰の1本鎖核酸を与えるため、非対象PCRを伝統的PCRと比較して評価した。5’プライマーと3’プライマーの比を注意深く調整することにより、アンプリコンのどの鎖が優先的に増幅されるかを選択することができるため、リニアビーコンがハイブリダイズする標的配列が、非対象PCR測定法の過剰に産生された1本鎖核酸内に含有されるように、測定法を設計することができた。
【0194】
従ってリニアビーコンを設計して、増幅すべきdsDNAの領域の鎖の1つにハイブリダイズさせた。リニアビーコンをPCRカクテルに加えてから熱サイクリングを行った。熱サイクリングの間にリニアビーコンは標的配列にハイブリダイズするかも知れないが、増幅プロセスの顕著な阻害は観察されなかった。従って、PCR反応の活性に応答して生成されたリニアビーコンの検出可能な蛍光シグナルを使用して、PCR増幅をうまく追跡することができた。示したデータは、伝統的または非対象PCRが使用されたかどうかに無関係に、閉鎖管(均一)測定法で増幅核酸の検出のために、リニアビーコンを使用する現実性を結論的に証明している。
【0195】
材料と方法
パーキン・エルマー(Perkin-Elmer)2400サーマルサイクラーでミニエッペンドルフ試験管中で、PCR反応を行った。PCRプロトコールは、94℃まで5秒加熱(最初のサイクルのみ)、次に94℃で5秒変性、55℃で30秒アニーリング、そして74℃で30秒伸長である。変性−アニーリング−伸長サイクルを45サイクル繰り返した。サイクル30、35、40および45の30秒の伸長工程の最後に、各PCR反応物から10μlの試料を採取した。10μlの試料すべてを96ウェルの円錐底のマイクロタイタープレートに入れ、ワラック1420ビクター(Wallac 1420 VICTOR)(登録商標)マルチラベルプレートリーダーを使用して蛍光を追跡した。平均蛍光強度を、1.0秒間の相対的光単位(RLU)で記録した(励起フィルター波長485nm;蛍光フィルター波長535nm)。
【0196】
すべてのPCR反応物は、プラスミド(陽性反応用)またはプラスミド緩衝液(陰性反応用)を加えた単一の「マスターミックス」から得られた。総量50μl中に、1μlのプラスミドDNAまたは対照としてプラスミド緩衝液(10mMトリス−塩酸、pH8.0、1mM EDTA)、50pmoleの5’プライマー、後述の3’プライマーの可変量、10pmole/μlリニアビーコン1μl、50%N,N’−ジメチルホルムアミド水溶液中のPNA003.MU(表1B)、3mM MgCl2、250μM ATP、250μM CTP、250μM GTP、250μM TTP、2.85単位のアンプリタック(AmpliTaq)DNAポリメラーゼ、50mM KCl、および10mMトリス−塩酸、pH8.3を含有するPCR反応物を調製した。5’プライマーと3’プライマーの比は、1:1(50pmole 3’プライマー)、10:1(5pmole 3’プライマー)、または100:1(0.5pmole 3’プライマー))である。
【0197】
ヒトDNAのPCRアンプリコンをpCR2.1プラスミド(インビトロゲン(InVitrogen))中にクローン化して、プラスミドpKRASMUを作成した。ヒトDNAは細胞株Calu−1から調製し、これはK−ras遺伝子の塩基129で点突然変異を有する。制限断片分析によりクローンをスクリーニングし、配列決定した。プラスミドの大きな調製物を作成し、標準的方法を使用して定量した。増幅した領域はK−ras突然変異の両側に位置し、111基対の長さであった。熱サイクルしなかったPCR反応物を、蛍光対照として使用した。
【0198】
プローブとプライマーと標的:
5’プライマー 5'ATGACTGAATATAAACTTGT3' 配列ID No.7
3’プライマー 5'CTCTATTGTTGGATCATATT3' 配列ID No.8
【0199】
dsDNA鋳型(増幅した領域のみ)
<3’プライマーhyb.部位>
5’ GAGATAACAACCTAGTATAAGCAGGTGTTTTACTAAGACTTA...
3’ CTCTATTGTTGGATCATATTCGTCCACAAAATGATTCTGAATT...
<リニアビーコンHyb.部位>
...ATCGACTTAGCAGTTCCGTGAGAACGGATGCGGTGTTCGAGGT
...AGCTGTATCGTCAAGGCACTCTTGCCTACGCCACAAGCTCCAAC

TGATGGTGTTCAAATATAAGTCAGTA 3' 配列ID No.9
TACCACAAGTTTATATTCAGTCAT 5' 配列ID No.10
<5’プライマーhyb.部位>
【0200】
上記したように、リニアビーコンPNA003.MUを、プライマー領域と重複しないように設計した。
【0201】
結果と考察:
表4は、サイクル30、35、40、および45でPCR反応について記録された蛍光データを示す。考察の便宜上、表の行に番号1〜6を付け、列に追跡A〜Gを割り振る。熱サイクリングを受けなかった対照からの平均バックグランドを、表に示したデータから引いた。
【0202】
【表9】

【0203】
表4に関して、各測定法で使用した5’プライマーと3’プライマーの比をそれぞれ行1に示す。表の行2の記号は、各測定法における1fmoleのpKRASMUプラスミド(PCR鋳型)の存在(+)または欠失(−)を示すのに使用された。列Aの3〜6行は、示したデータを作成するために行ったPCRの総サイクルを示す。
【0204】
鋳型を含まない反応物のデータ(列B、DおよびF)は、−280〜636の範囲であり、鋳型を含む反応物のデータ(列C、E、およびG)は、行3列Gを除くすべての場合に有意に高い。さらに鋳型を含む試料の蛍光強度は、プライマーの比とPCRサイクル数の間に相関を示す。例えば、等量の5’プライマーと3’プライマーを使用した標準的PCR反応のデータ(列C)は、データを記録したすべてのサイクルで一貫した蛍光強度を示した。これに対して、5’プライマーと3’プライマーの比が10:1である非対象PCR(列E)の蛍光は、実質的により強かった。このデータは、5’プライマー対3’プライマーの10:1の比が、強固な増幅を促進し、これが、標的配列を含有する1本鎖核酸を有意に過剰発現することを示唆する。
【0205】
5’プライマー対3’プライマーの比が100:1である非対象PCRの蛍光(列G)は、列Gのデータと比較するとそれほど強くなかった。しかし非対象PCRは、PCRサイクル数の増加と蛍光強度との間に明瞭な相関を示した。プライマー比100:1で観察される低い蛍光は、おそらく列Eにそのデータを示す試料と比較して、PCR増幅反応の最初のサイクルで3’プライマーが10倍少ないことにより引き起こされる1本鎖核酸を含有する標的配列の総量が少ないことの結果であろう。
【0206】
図5は、45サイクルのPCR後に試験管3と4に残っている試料(〜10μl)のデジタル画像である。試験管3(左)は、行6列Dに示すデータに対応し、試験管4(右)は、行6列Eに示すデータに対応する。写真は、UVトランスイルミネーターを使用して撮った。鋳型を含有する試験管4は、視覚的に見て蛍光を有するが、鋳型を含有しない対照である試験管3は、視覚的に見て蛍光を有さず、従って視覚的判定のみでは陰性の結果であった。
【0207】
まとめると、本例に示したデータは、リニアビーコンを使用して、閉鎖管(均一)測定法で増幅されている核酸を検出することができることを証明している。非対象PCR反応について、蛍光シグナルの強度は実質的に高いのみではなく、非対象PCRは、行ったサイクル数とシグナル強度との間で相関を示すことが証明された。すなわち、この方法を使用して、増幅した核酸の定量が可能であった。
【0208】
例20:リニアビーコンを用いるPNA−FISH
各3mlの細菌培養物を、トリプチックソイブロス(Tryptic Soy Broth)(TSB)中で30℃で一晩増殖させた。各試料のOD600を測定し、各培養物を新鮮なTSBにOD600が0.5になるように希釈した。培養物を3〜4回倍加させた後採取した。20mlの培養物からの細胞を、8000rpmで5分遠心分離してペレットにし、20mlのPBS(7mM Na2HPO4;3mM NaH2PO4;130mM NaCl)に再懸濁し、再度ペレットにし、固定緩衝液(PBS中3%パラホルムアルデヒド)に再懸濁した。細菌を室温で30〜60分インキュベート後、再度ペレット(8000rpmで5分)にし、固定溶液を除去した後、20mlの50%エタノール水溶液中に再懸濁した。固定細菌は、周囲温度で30分インキュベート後使用するか、または−20℃で数週間保存後使用した。
【0209】
各測定について、50%エタノール水溶液中の100μlの固定細胞を、1.5mlの微量遠心分離管に移し、8000rpmで5分遠心分離した。次に、エタノール水溶液を除去し、ペレットを100μlの無菌PBS 100μlに再懸濁し、再度8000rpmで5分遠心分離してペレットにした。ペレットからPBSを除去し、適当なリニアビーコンを約30pmol/mlの濃度で含有する100μlのハイブリダイゼーション緩衝液(25mMトリス−塩酸、pH9.0;100mM NaCl;0.5%SDS)に細胞を再懸濁した。50℃で30分ハイブリダイゼーション反応を行った。リニアビーコンとその標的生物を表1Cのリストに示す。シュードモナス(Pseudomonas)プローブは、各ハイブリダイゼーションについて1対1混合物で使用し、ここで各プローブの濃度は各ハイブリダイゼーション反応で30pmol/mlであった。
【0210】
次に、試料を8000rpmで5分遠心分離した。ハイブリダイゼーション緩衝液を除去し、細胞を100μlの無菌TE−9.0(10mMトリス−塩酸、pH9.0;1mM EDTA)に再懸濁した。細胞のこの懸濁物2μlのアリコートをガラススライド上に置き、広げ、乾燥させた。最後に2μlのベクタシールド(Vectashield(ベクターラボラトリーズ(Vector Laboratories,P/N H−1000)を、乾燥した細胞の上にのせ、カバーグラスをのせ、数滴のマニキュア液を使用してその位置を固定した。
【0211】
60×油浸対物レンズ、10×接眼レンズ(総拡大率は600倍)およびオメタオプティカル(Omega Optical)から得た光フィルター(XF22(緑色)とXF34(赤色))を取り付けたニコン蛍光顕微鏡を使用して、スライドを観察した。スポットCCDカメラとディアグノスティック・インストルメンツ・インク(Diagnostic Instruments, Inc.)(スターリングハイツ(Sterling Heights)、ミズーリ州、アメリカ合衆国)から得たソフトウェアを使用して、スライドの部分の電子的デジタル画像を作成した。
【0212】
得られたデジタル画像を、図6Aと6Bに示す。固定した大腸菌(E. coli)、緑膿菌(P. aeruginosa)、および枯草菌(B. subtilis)細胞のすべてを、前述の緑膿菌(P. aeruginosa)(図6A)または枯草菌(B. subtilis)(図6B)リニアビーコンとハイブリダイズさせた。図6Aと6Bの両方で、パネルI、IIIおよびVに示す赤色の画像はヨウ化プロピジウムで染色したものであり、これは赤色の顕微鏡フィルターを使用して見ることができる。図6Aと6Bの両方で、パネルII、IVおよびVIに示す緑色の画像は、フルオレセイン標識リニアビーコンをrRNA標的配列にハイブリダイズさせて得られる緑色の蛍光であり、これは緑色の顕微鏡フィルターを使用して見ることができる。比較のために、調べた各プローブの赤色と緑色の画像を各スライドの同じセクションにかつ1つずつ図に示す。
【0213】
図6Aに関して、大腸菌(E. coli)、緑膿菌(P. aeruginosa)および枯草菌(B. subtilis)の細胞は、それぞれパネルI、IIIおよびVで赤色の画像で見ることができる。ヨウ化プロピジウムは存在するすべての細菌を染色するため、細胞は赤色である。図6AのパネルII、IVおよびVIに関して、パネルIVでのみ緑色の細胞が最も強く見られ、リニアビーコンは標的生物緑膿菌(P. aeruginosa)の存在を特異的に同定するのに使用することができることを確認している。
【0214】
図6Bに関して、再度大腸菌(E. coli)、緑膿菌(P. aeruginosa)および枯草菌(B. subtilis)の細胞は、それぞれパネルI、IIIおよびVで赤色の画像で見られる。図6BのパネルII、IVおよびVIに関して、パネルIVでのみ緑色の細胞が最も強く見られ、リニアビーコンは標的生物枯草菌(B. subtilis)の存在を特異的に同定するのに使用することができることを確認している。
【0215】
要約すると、このプロトコールはハイブリダイゼーション反応後に洗浄工程を含まないが、緑膿菌(P. aeruginosa)と枯草菌(B. subtilis)に対するリニアビーコンは、標的生物の確実な検出を可能にする。
【0216】
例21:ノイズおよびシグナル対ノイズと核塩基配列との相関
本例は、本出願人が観察した現象が配列依存性であるかどうかを調べるために行った。従ってPNAプローブCy3PNA003−15(表1Bを参照)の核塩基配列を再編成して、プローブCy3SCBL03−15(表1Bを参照)を産生した。
【0217】
材料と方法
PNAオリゴマーの調製、標識および精製を記載した。DNA標的SCBL−DNA(表2Aを参照)を使用して実質的に本明細書の例18に記載のように、緩衝液BとC中でプローブCy3SCBL03−15を調べた。得られたデータを、図7Aと7Bにグラフで示す。
【0218】
結果と考察
図7Aに関して、調べた2つの緩衝液について生のシグナルとノイズデータを示す。プローブCy3PNA003−15について観察されたように、プローブCy3SCBL03−15の結果は、実質的に緩衝液に依存せず、従ってイオン強度と最小のpHの変化が結果に影響を与えないことを確認している。図7Bに関して、標的配列にハイブリダイズするとシグナル対ノイズ比は約6〜8である。これは、プローブCy3PNA003−15について図4Eで示したデータとよく相関する。従ってこのデータは、本出願人により観察された現象は、リニアビーコンの核塩基配列から実質的に独立していることを示している。
【0219】
同等物
特に好適な実施態様を参照して本発明を証明かつ説明したが、添付の請求の範囲に規定される本発明の精神と範囲を逸脱することなく、本明細書の形式および詳細を種々変更することができることは、当業者は容易に理解するであろう。通常の実験を使用して、本明細書に記載の本発明の具体的な実施態様の多くの同等物が可能であることを、当業者は理解するであろう。このような同等物は、請求の範囲に包含されると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0220】
【図1A】タイプA蛍光熱プロフィールを示すPNAプローブの蛍光対温度データのグラフ表示である。
【図1B】図1B1、1B2、および1B3は、タイプB蛍光熱プロフィールを示すPNAプローブの蛍光対温度データのグラフ表示である。
【図1C】タイプC蛍光熱プロフィールを示すPNAプローブの蛍光対温度データのグラフ表示である。
【図2A−1】図2A1と2A2は、タイプAハイブリダイゼーションプロフィールを示すPNAプローブの蛍光対時間データのグラフ表示である。
【図2A−2】図2A1と2A2は、タイプAハイブリダイゼーションプロフィールを示すPNAプローブの蛍光対時間データのグラフ表示である。
【図2A−3】図2A1と2A2は、タイプAハイブリダイゼーションプロフィールを示すPNAプローブの蛍光対時間データのグラフ表示である。
【図2B】タイプBハイブリダイゼーションプロフィールを示すPNAプローブの蛍光対時間データのグラフ表示である。
【図2C】タイプCハイブリダイゼーションプロフィールを示すPNAプローブの蛍光対時間データのグラフ表示である。
【図3】異なる長さと標識位置を示すDNAとPNAプローブのノイズ(バックグランド蛍光)データのグラフ表示である。
【図4−1】図4A、4B、4C、および4Eは、長さが11〜15サブユニットのPNAおよびDNAプローブのシグナル対ノイズデータのグラフ表示である。
【図4−2】図4A、4B、4C、および4Eは、長さが11〜15サブユニットのPNAおよびDNAプローブのシグナル対ノイズデータのグラフ表示である。
【図4−3】図4A、4B、4C、および4Eは、長さが11〜15サブユニットのPNAおよびDNAプローブのシグナル対ノイズデータのグラフ表示である。
【図5】各々が45サイクルのPCRを行った反応の内容物とリニアビーコンを含有する2つのエッペンドルフ試験管のデジタル画像である。
【図6A−1】図6Aと6Bは、リニアビーコンとヨウ化プロピジウムで処理した大腸菌(E. coli)、緑膿菌(P. aeruginosa)、枯草菌(B. subtilis)を含有する試料スライドのデジタル画像である(ここで、リニアビーコンは、緑膿菌(P. aeruginosa)(図6A)又は枯草菌(B. subtilis)(図6B)に特異的な核酸塩基配列へのプローブ用核塩基配列を含む)。画像は、それぞれ蛍光顕微鏡と、顕微鏡に取り付けた市販の光フィルターとカメラを使用して得られた。両方の図で、パネルI、IIIおよびIVは、赤色の顕微鏡とカメラフィルターを使用して得られる赤色の画像であり、ヨウ化プロピジウムで染色した細胞が見られる。両方の図で、パネルII、IVおよびVIは、緑色の顕微鏡とカメラフィルターを使用して得られる赤色の画像である。
【図6A−2】図6Aと6Bは、リニアビーコンとヨウ化プロピジウムで処理した大腸菌(E. coli)、緑膿菌(P. aeruginosa)、枯草菌(B. subtilis)を含有する試料スライドのデジタル画像である(ここで、リニアビーコンは、緑膿菌(P. aeruginosa)(図6A)又は枯草菌(B. subtilis)(図6B)に特異的な核酸塩基配列へのプローブ用核塩基配列を含む)。画像は、それぞれ蛍光顕微鏡と、顕微鏡に取り付けた市販の光フィルターとカメラを使用して得られた。両方の図で、パネルI、IIIおよびIVは、赤色の顕微鏡とカメラフィルターを使用して得られる赤色の画像であり、ヨウ化プロピジウムで染色した細胞が見られる。両方の図で、パネルII、IVおよびVIは、緑色の顕微鏡とカメラフィルターを使用して得られる赤色の画像である。
【図6B−1】図6Aと6Bは、リニアビーコンとヨウ化プロピジウムで処理した大腸菌(E. coli)、緑膿菌(P. aeruginosa)、枯草菌(B. subtilis)を含有する試料スライドのデジタル画像である(ここで、リニアビーコンは、緑膿菌(P. aeruginosa)(図6A)又は枯草菌(B. subtilis)(図6B)に特異的な核酸塩基配列へのプローブ用核塩基配列を含む)。画像は、それぞれ蛍光顕微鏡と、顕微鏡に取り付けた市販の光フィルターとカメラを使用して得られた。両方の図で、パネルI、IIIおよびIVは、赤色の顕微鏡とカメラフィルターを使用して得られる赤色の画像であり、ヨウ化プロピジウムで染色した細胞が見られる。両方の図で、パネルII、IVおよびVIは、緑色の顕微鏡とカメラフィルターを使用して得られる赤色の画像である。
【図6B−2】図6Aと6Bは、リニアビーコンとヨウ化プロピジウムで処理した大腸菌(E. coli)、緑膿菌(P. aeruginosa)、枯草菌(B. subtilis)を含有する試料スライドのデジタル画像である(ここで、リニアビーコンは、緑膿菌(P. aeruginosa)(図6A)又は枯草菌(B. subtilis)(図6B)に特異的な核酸塩基配列へのプローブ用核塩基配列を含む)。画像は、それぞれ蛍光顕微鏡と、顕微鏡に取り付けた市販の光フィルターとカメラを使用して得られた。両方の図で、パネルI、IIIおよびIVは、赤色の顕微鏡とカメラフィルターを使用して得られる赤色の画像であり、ヨウ化プロピジウムで染色した細胞が見られる。両方の図で、パネルII、IVおよびVIは、緑色の顕微鏡とカメラフィルターを使用して得られる赤色の画像である。
【図7】図7Aと7Bは、ランダムに混合した核塩基配列を有するCy3標識した15量体PNAプローブのノイズとシグナル対ノイズ比をまとめたデータのグラフ表示である。
【図8】表1Aに示したプローブのハイブリダイゼーション測定法シグナル対ノイズ比のグラフ表示である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの結合ドナー残基、少なくとも1つの結合アクセプター残基を含んでなるポリマーであって、該ドナーおよびアクセプター残基は、核塩基配列により分離されており、かつ該ポリマーは、ステム(stem)およびループヘアピンを形成せず、かつポリマーが水溶液中で溶媒和するときに該ドナーとアクセプター残基間のエネルギー移動の効率が、
a.核塩基配列の長さ;
b.ドナー残基とアクセプター残基のスペクトルの重複
c.水溶液中のマグネシウムの存在または非存在;および
d.水溶液のイオン強度
よりなる群から選択される少なくとも2つの変数から実質的に独立していることをさらに特徴とする、上記ポリマー。
【請求項2】
核塩基配列は、プローブ用核塩基配列である、請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
ポリマーはPNAである、請求項1に記載のポリマー。
【請求項4】
a.標的配列に相補的であるかまたは実質的に相補的である、第1および第2の末端を有するプローブ用核塩基配列;
b.プローブ用核塩基配列の第1または第2の末端の一方に結合している、少なくとも1つのドナー残基;および
c.プローブ用核塩基配列の第1または第2の末端のもう一方に結合している、少なくとも1つのアクセプター残基
を含んでなるポリマー。
【請求項5】
プローブ用核塩基配列は、長さが5〜30サブユニットである、請求項4に記載のポリマー。
【請求項6】
プローブ用核塩基配列のPNAサブユニットのそれぞれは、式:
【化1】


[式中、
各Jは、同一であるかまたは異なり、かつH、R1、OR1、SR1、NHR1、NR12、F、Cl、BrおよびIよりなる群から選択され;
各Kは、同一であるかまたは異なり、かつO、S、NHおよびNR1よりなる群から選択され;
各R1は、同一であるかまたは異なり、かつ場合によりヘテロ原子または置換もしくは非置換アリール基を含有してもよい、1〜5個の炭素原子を有するアルキル基であり;
各Aは、単結合、式:−(CJ2s−の基、および式(CJ2sC(O)−の基(ここで、Jは、上記と同義であり、そして各sは、1〜5の整数である)よりなる群から選択され;
各tは、1または2であり;
各uは、1または2であり;そして
各Lは、同一であるかまたは異なり、かつJ、アデニン、シトシン、グアニン、チミン、ウリジン、5−メチルシトシン、2−アミノプリン、2−アミノ−6−クロロプリン、2,6−ジアミノプリン、ヒポキサンチン、シュードイソシトシン(pseudoisocytosine)、2−チオウラシル、2−チオチミジン、他の天然の核塩基類似体、他の非天然の核塩基、置換および非置換芳香族残基、ビオチンおよびフルオレセインよりなる群から独立に選択される]を有する、請求項4に記載のポリマー。
【請求項7】
各PNAサブユニットは、メチレンカルボニル結合によりN−[2−(アミノエチル)]グリシン基本骨格のアザ窒素に結合している天然のまたは非天然の核塩基からなる、請求項4に記載のポリマー。
【請求項8】
ドナー残基は、5(6)−カルボキシフルオレセインおよびその誘導体、5−(2’−アミノエチル)−アミノナフタレン−1−スルホン酸(EDANS)、ボディピー(bodipy)およびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、Cy2、Cy3,Cy3.5、Cy5、Cy5.5、テキサスレッドおよびその誘導体よりなる群から選択される蛍光物質である、請求項4に記載のポリマー。
【請求項9】
アクセプター残基は、4−((4−(ジメチルアミノ)フェニル)アゾ)安息香酸(ダブシル(dabcyl))である、請求項4に記載のポリマー。
【請求項10】
少なくとも1つのスペーサー残基が、結合しているプローブ用核塩基配列の末端から、ドナーとアクセプター残基の一方または両方を分離する、請求項4に記載のポリマー。
【請求項11】
プローブ用核塩基配列は、標的配列に完全に相補的である、請求項4に記載のポリマー。
【請求項12】
ポリマーは、支持体に固定化されている、請求項1に記載のポリマー。
【請求項13】
ポリマーは、アレイの1成分ポリマーである、請求項1に記載のポリマー。
【請求項14】
試料中の標的配列の検出、同定または定量のための方法であって、
a.試料を、少なくとも1つの結合ドナー残基、少なくとも1つの結合アクセプター残基を含んでなるポリマーに接触させ、ここで、該ドナーおよびアクセプター残基は核塩基配列により分離されており、該ポリマーは、ステム(stem)およびループヘアピンを形成せず、かつポリマーが水溶液に溶媒和するときに該ドナーとアクセプター残基間のエネルギー移動の効率が、
i.核塩基配列の長さ;
ii.ドナー残基とアクセプター残基のスペクトルの重複
iii.水溶液中のマグネシウムの存在または非存在;および
iv.水溶液のイオン強度
よりなる群から選択される少なくとも2つの変数から実質的に独立していることをさらに特徴とすること、および
b.適切なハイブリダイゼーション条件下で、標的配列へのポリマーのハイブリダイゼーションを検出、同定または定量し、ここで、試料中に存在する標的配列の存在、非存在または量は、ポリマーの少なくとも1つのドナーまたはアクセプター残基に関連する検出可能なシグナルの変化と相関しうること
を含んでなる、上記方法。
【請求項15】
ポリマーの核塩基配列は、プローブ用核塩基配列である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ポリマーはPNAである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
試料中の標的配列の検出、同定または定量のための方法であって、
a.試料を、
(i)第1および第2の末端を有するプローブ用核塩基配列であって、標的配列に相補的であるかまたは実質的に相補的であるプローブ用核塩基配列;
(ii)プローブ用核塩基配列の第1または第2の末端の一方に結合している、少なくとも1つのドナー残基;および
(iii)プローブ用核塩基配列の第1または第2の末端のもう一方に結合している、少なくとも1つのアクセプター残基
を含んでなるポリマーと接触させること;および
b.適切なハイブリダイゼーション条件下で、標的配列へのポリマーのハイブリダイゼーションを検出、同定または定量し、ここで、試料中に存在する標的配列の存在、非存在または量は、ポリマーの少なくとも1つのドナーまたはアクセプター残基に関連する検出可能なシグナルの変化と相関しうること
を含んでなる、上記方法。
【請求項18】
方法は、閉鎖管(均一)測定法で標的配列を検出するために使用される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
方法は、閉鎖管(均一)測定法において起こる反応で合成または増幅される標的配列を含んでなる核酸を検出するために使用される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
好適な核酸合成または核酸増幅反応は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、鎖置換増幅(Strand Displacement Amplification)(SDA)、転写介在性増幅(Transcription-Mediated Amplification)(TMA)、回転環増幅(Rolling Circle Amplification)(RCA)およびQ−ベータ(Q-beta)レプリカーゼよりなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
PCR反応は、非対象PCR反応である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
方法は、生存しているか否かにかかわらず細胞または組織中の標的配列を検出するために使用される、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
細胞または組織の標的配列を検出するために、イン・サイツ(in situ)ハイブリダイゼーションが使用される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
試料は、該ポリマーおよび1つまたはそれ以上のブロッキングプローブと接触させられる、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
方法は、試料中の生物またはウイルスの存在または量を検出、同定、または定量するために使用される、請求項17に記載の方法。
【請求項26】
方法は、試料中の生物の1つまたはそれ以上の種の存在または量を検出、同定、または定量するために使用される、請求項17に記載の方法。
【請求項27】
方法は、試料中の1つまたはそれ以上の微生物の増殖に及ぼす抗菌性物質の効果を測定するために使用される、請求項17に記載の方法。
【請求項28】
方法は、試料中のある分類の生物の存在または量を測定するために使用される、請求項17に記載の方法。
【請求項29】
方法は、医学的状態を診断するために使用される、請求項17に記載の方法。
【請求項30】
標的配列は、表面に固定化されている、請求項17に記載の方法。
【請求項31】
ポリマーは、表面に固定化されている、請求項17に記載の方法。
【請求項32】
ポリマーは、アレイの1成分ポリマーである、請求項17に記載の方法。
【請求項33】
2つまたはそれ以上の支持体結合ポリマーを含んでなるアレイであって、アレイの少なくとも1つのポリマーは、核塩基配列により分離されている、少なくとも1つの結合ドナー残基、少なくとも1つの結合アクセプター残基を含んでなり、かつ該ポリマーは、ステム(stem)およびループヘアピンを形成せず、かつポリマーが水溶液に溶媒和するときに該ドナーとアクセプター残基間のエネルギー移動の効率が、
i.核塩基配列の長さ;
ii.ドナー残基とアクセプター残基のスペクトルの重複
iii.水溶液中のマグネシウムの存在または非存在;および
iv.水溶液のイオン強度
よりなる群から選択される少なくとも2つの変数から実質的に独立していることをさらに特徴とし、かつ該ポリマーは、試料中に存在する標的配列を検出、同定または定量するのに適している、上記アレイ。
【請求項34】
アレイは、加熱、ヌクレアーゼ酵素および化学変性物質(例えば、ホルムアミド、尿素および/または水酸化ナトリウムを含有する水溶液)よりなる群から選択される1つまたはそれ以上の再生触媒を用いる処理による再生に適している、請求項33に記載のアレイ。
【請求項35】
試料中の標的配列の存在、非存在または量を検出する測定法を実施するのに適切なキットであって、
a.核塩基配列により分離されている少なくとも1つの結合ドナー残基および少なくとも1つの結合アクセプター残基を有する少なくとも1つのポリマーであって、ステム(stem)およびループヘアピンを形成せず、かつポリマーが水溶液に溶媒和するときに該ドナーとアクセプター残基間のエネルギー移動の効率が、
i.核塩基配列の長さ;
ii.ドナー残基とアクセプター残基のスペクトルの重複
iii.水溶液中のマグネシウムの存在または非存在;および
iv.水溶液のイオン強度
よりなる群から選択される少なくとも2つの変数から実質的に独立していることをさらに特徴とする該ポリマー;および
b.測定法を実施するのに必要な他の試薬または組成物
を含んでなる、上記キット。
【請求項36】
キットの1つまたはそれ以上のポリマーは、長さが11〜16サブユニットのプローブ用核塩基配列を有する、請求項35に記載のキット。
【請求項37】
2つまたはそれ以上のポリマーは、独立に検出可能な残基で標識されている、請求項35に記載のキット。
【請求項38】
独立に検出可能な残基は、同一試料中に存在するかもしれない少なくとも2つの異なる標的配列を、独立に検出、同定または定量するために使用される、請求項37に記載のキット。
【請求項39】
キットは、イン・サイツ(in situ)ハイブリダイゼーション測定法において使用される、請求項35に記載のキット。
【請求項40】
キットは、食物、飲料、水、医薬品、個人の健康管理製品、乳製品または環境試料中の生物を検出するために使用される、請求項35に記載のキット。
【請求項41】
キットは、原材料、製品または製法を試験するために使用される、請求項35に記載のキット。
【請求項42】
キットは、臨床検体のような臨床試料、またはヒトもしくは動物を治療するために使用される器具、備品および製品を検査するために使用される、請求項35に記載のキット。
【請求項43】
キットは、遺伝子に基づく疾患に特異的であるか、または遺伝子に基づく疾患への素因に特異的である、標的配列を検出するために使用される、請求項35に記載のキット。
【請求項44】
キットは、βサラセミア(Thalassemia)、鎌状赤血球貧血、第V因子ライデン(Leiden)、嚢胞性線維症および癌関連標的(p53、p10、BRC−1およびBRC−2など)よりなる群から選択される疾患に関連する標的配列を検出するために使用される、請求項43に記載のキット。
【請求項45】
キットは、出生前スクリーニング、実父確定検査、身元確認または犯罪捜査のような法医学的手法において、標的配列を検出するために使用される、請求項35に記載のキット。


【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A−1】
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【図2A−2】
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【図2A−3】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【図6A−1】
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【図6A−2】
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【図6B−1】
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【図6B−2】
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【公開番号】特開2009−82137(P2009−82137A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299911(P2008−299911)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【分割の表示】特願2000−517989(P2000−517989)の分割
【原出願日】平成10年10月27日(1998.10.27)
【出願人】(500176023)ボストン プロビス、インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】