説明

リポソームにより誘導される補体活性化の減少のためのリポソーム組成物

封入された治療薬を含有するリポソーム製剤のインビボ投与の際に補体活性化を減少する方法が記述される。該方法は、ポリエチレングリコール由来の中性リポポリマーを有するリポソームを提供することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビボでリポソームにより誘導される補体活性化を減少することに使用するリポソーム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、様々な治療目的のために、特に治療薬をこれらの薬剤のリポソーム配合物の全身投与により標的細胞に運ぶために用いられる。リポソーム−薬剤配合物は、制御された薬剤放出のような改善された薬剤送達特性の可能性を与える。リポソームが注入の部位から標的領域、細胞もしくは部位に到達するためには延長された循環時間が必要とされることが多い。それ故、リポソームが全身的に投与される場合、リポソームの血液循環寿命を延長するためにリポソームを非相互作用因子、例えば、ポリエチレングリコールのような親水性ポリマーのコーティングで覆うことが望ましい。そのような表面を改変したリポソームは、「長期循環」もしくは「立体的に安定化した」リポソームと一般に呼ばれる。最も一般的な表面改変は、リポソームを構成する脂質の約5モルパーセントへの、典型的に1000〜5000の間の分子量を有する、PEG鎖の結合である。例えば、非特許文献1およびその中の参考文献を参照。そのようなリポソームにより示される薬物動態学は、血液から迅速に取り除かれそして肝臓および脾臓に蓄積する傾向がある非表面改変リポソームと比較した場合に、(単核食細胞系、すなわちMPSを介した)肝臓および脾臓によるリポソームの取り込みの用量非依存的減少および著しく長い血液循環時間を特徴とする(同文献)。
【0003】
最も一般的に使用されそして市販されているPEGで置換されたリン脂質は、極性頭部基で負に荷電しているホスファチジルエタノールアミン、通常はジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)に基づく。リポソームにおける負の表面電荷は、ある態様において、例えば細胞との相互作用において(例えば非特許文献2を参照)そして薬剤の漏出が起こり得るカチオン性薬剤の送達において(例えば非特許文献3を参照)不都合であり得る。
【0004】
ある個体におけるあるリポソーム組成物のインビボ投与に起因する1つの認識されている問題は、補体活性化の誘導である(非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6)。補体系は免疫系の体液部門の主要エフェクターであり、そしてほぼ30個の血清および膜タンパク質からなる。初期活性化の後に、様々な補体成分は非常に調節された酵素カスケードにおいて相互作用して、抗原クリアランスおよび炎症反応の生成を促進する反応生成物を生成せしめる。補体活性化の2つの経路:古典的経路および代替経路がある。これら2つの経路は、様々な細胞、細菌およびウイルスを溶解する高分子膜侵襲複合体(MAC)を生成せしめる共通終末反応順序を共有する(非特許文献7)。
【0005】
補体反応生成物は初期の抗原抗体反応を増幅し、そしてその反応をさらに効果的な防御に転化する。補体活性化の間に放出される様々な小さな拡散性反応生成物は限局性血管拡張を誘導し、そして食細胞を遊走的に集め、炎症反応をもたらす。抗原が補体反応生成物で覆われるようになるにつれて、それはこれらの補体生成物の受容体を保有する食細胞によりいっそう容易に貪食される(非特許文献7)。
【0006】
補体活性化は、クローン結腸炎のシンチグラフィー診断に使用されるPEG化(pegylated)リポソームドキソルビシンの市販されている製剤(Doxil、Caelyx)およびPEG化リポソーム製剤HYNIC−PEGのような、インビボで投与されるリポソーム製剤により引き起こされる心臓血管窮迫(cardiovascular distress)において原因的役割を有することが報告されている(非特許文献5;非特許文献6;非特許文献8)。これらの製剤の注入の際に報告される症状には、呼吸困難、頻呼吸、低血圧および/もしくは高血圧、胸痛、背痛、顔面紅潮、頭痛ならびに悪寒のような、心肺窮迫が包含される(非特許文献5)。
【0007】
リポソームにより誘導される補体活性化は多数の要因で異なり、そしてどの因子もしく
は因子の組み合わせが主要な原因因子であるかはまだ解明されていない。リポソームにより誘導される補体活性化は、脂質飽和度、コレステロール含有量、荷電したリン脂質の存在およびリポソームサイズで異なるようである(非特許文献9)。
【0008】
インビボ投与の際に補体活性化応答を減少するリポソーム製剤を提供することは望ましい。
【非特許文献1】Lasic,D.and Martin,F.,Eds.,“STEALTH LIPOSOMES”,CRC Press,Boca Raton,FL,1995,pp.108−100
【非特許文献2】Miller,C.M.et al.,Biochemistry,37:12875−12883(1998)
【非特許文献3】Webb,M.S.et al.,Biochim.Biophys.Acta,1372:272−282(1998)
【非特許文献4】Laverman,P.et al.,Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,18(6):551(2001)
【非特許文献5】Szebeni,J.et al.,Am.J.Physiol Heart Circ.Physiol.,279:H1319(2000)
【非特許文献6】Szebeni,J.et al.,Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,15(1):57(1998)
【非特許文献7】Kuby,Janis,IMMUNOLOGY,W.H.Freeman and Company,Chapter 14,1997
【非特許文献8】Szebeni,J.et al.,J.Liposome Res.,12(1&2):165(2002)
【非特許文献9】Bradley,A.J.,Archives of Biochem.and Biophys.,357(2):185(1998)
【発明の開示】
【0009】
[発明の要約]
1つの態様として、本発明には、封入された治療薬を含有するリポソームのインビボ投与の際にリポソームにより誘導される補体活性化を減少する方法が包含される。該方法は、小胞形成脂質および式:
【0010】
【化1】

【0011】
[式中、RおよびRの各々は、8〜24個の間の炭素原子を有するアルキルもしくはアルケニル鎖であり;n=10〜300、ZはC〜Cアルコキシ、C〜Cアルキルエーテル、n−メチルアミド、ジメチルアミド、メチルカーボネート、ジメチルカーボネート、カルバメート、アミド、n−メチルアセトアミド、ヒドロキシ、ベンジルオキシ、カルボン酸エステル、およびC〜Cアルキルもしくはアリールカーボネートから選択される不活性末端基であり;そしてLは(i)−X−(C=O)−Y−CH−、(ii)−X−(C=O)−および(iii)−X−CH−よりなる群から選択され、ここで、XおよびYは酸素、NHおよび直接結合から独立して選択され、ただし、Lが−X−(C=O)−である場合には、XはNHではない]
を有する1〜10モルパーセントの間、より好ましくは1〜5モルパーセントの中性リポポリマー;および残りの小胞形成脂質を含むリポソームを提供することを含んでなる。
【0012】
1つの態様として、Xは酸素であり、そしてYは窒素である。
【0013】
別の態様として、Lはカルバメート連結、エステル連結もしくはカーボネート連結である。別の態様として、Lは−O−(C=O)−NH−CH−(カルバメート連結)である。
【0014】
Zは、1つの態様として、ヒドロキシもしくはメトキシである。
【0015】
中性リポポリマーは、好ましい態様として、ジステアロイル(カルバメート連結)ポリエチレングリコールもしくはメトキシ−ポリエチレングリコール1,2ジステアロイルグリセロールである。
【0016】
別の態様として、RおよびRの各々は、8〜24個の間の炭素原子を有する非分枝状アルキルもしくはアルケニル鎖である。好ましい態様として、RおよびRの各々はC1735である。
【0017】
さらに別の態様として、nは約20〜約115の間である。
【0018】
治療薬は、1つの態様として、化学療法薬である。典型的な薬剤には、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシンおよびイダルビシンのようなアントラサイクリン系抗生物質が包含される。他の典型的な薬剤には、シスプラチンもしくはカルボプラチン、オルマプラチン、オキサリプラチン、((−)−(R)−2−アミノメチルピロリジン(1,1−シクロブタンジカルボキシラト))白金、ゼニプラチン、エンロプラチン、ロバプラチン、(SP−4−3(R)−1,1−シクロブタン−ジカルボキシラト(2−)−(2−メチル−1,4−ブタンジアミン−N,N’))白金、ネダプラチンおよびビス−アセタト−アンミン−ジクロロ−シクロヘキシルアミン−白金(IV)よりなる群から選択されるシスプラチンアナログのような白金含有化合物が包含される。
【0019】
本発明のこれらおよび他の目的および特徴は、本発明の下記の詳細な記述を添付の図面と併せて読むとさらに完全に理解される。
[発明の詳細な記述]
I.定義
本明細書において用いる場合、「中性リポポリマー」は、正味荷電を有さない、すなわち、たとえあったとしても、等しい数の正および負電荷が存在する、非荷電性のものである。
【0020】
「小胞形成脂質」は、疎水性および極性頭部基部分を有し、そしてリン脂質により例示されるように、水において二重層小胞を自発的に形成することができるか、もしくは疎水性部分は二重層膜の内側の疎水性領域と接触しそして極性頭部基部分は膜の外側の極性表面に配向して、脂質二重層に安定に組み込まれる両親媒性脂質をさす。このタイプの小胞形成脂質には、典型的に1もしくは2本の疎水性アシル炭化水素鎖もしくはステロイド基が含まれ、そして極性頭部基で、アミン、酸、エステル、アルデヒドもしくはアルコールのような、化学的に反応性の基を含有することができる。このクラスに含まれるのは、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルイノシトール(PI)およびスフィンゴミエリン(SM)のようなリン脂質であり、ここで、2本の炭化水素鎖は典型的に約14〜22個の間の炭素原子の長さであり、そして様々な程度の不飽和度を有する。他の小胞形成脂質には、セレブロシドおよびガングリオシドのような糖脂質、ならびにコレステロールのようなステロールが包含される。本明細書に記述する組成物には、PCおよびPEのようなリン脂質、コレステロール、ならびに本明細書に記述する中性リポポリマーが好ましい成分である。
【0021】
「アルキル」は、炭素および水素を含有し、そして分枝鎖もしくは直鎖であることができる完全に飽和した1価の基をさす。アルキル基の例は、メチル、エチル、n−ブチル、t−ブチル、n−ヘプチルおよびイソプロピルである。「低級アルキル」は、メチル、エチル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、イソアミル、n−ペンチルおよびイソペンチルにより例示されるような、1〜6個の炭素原子のアルキル基をさす。
【0022】
「アルケニル」は、分枝鎖もしくは直鎖であることができ、そして1個もしくはそれ以上の二重結合を含有する、炭素および水素を含有する1価の基をさす。
【0023】
略語:PEG:ポリエチレングリコール;mPEG:メトキシ末端化(methoxy−terminated)ポリエチレングリコール;Chol:コレステロール;PC:ホスファチジルコリン;PHPC:部分水素化ホスファチジルコリン;PHEPC:部分水素化卵ホスファチジルコリン;HSPC:水素化ダイズホスファチジルコリン;DSPE:ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン;DSPもしくはPEG−DS:ジステアロイル(カルバメート連結)PEG;APD:1−アミノ−2,3−プロパンジオール;DTPA:ジエチレンテトラミンペンタ酢酸;Bn:ベンジル。
II.補体活性化を減少する方法
1つの態様として、本発明は、ヒトへのリポソーム製剤のインビボ投与の際に補体活性化の誘導を減少する方法を提供する。以下に記述するように、該方法には、中性リポポリマーもしくは別の態様として中性−両性イオンリポポリマーを含むリポソーム製剤を提供することが包含される。本発明にはまた、リポソーム製剤のインビボ投与の際に補体活性化の誘導を減少することに使用する中性リポポリマーもしくは別の態様として中性−両性イオンリポポリマーを含んでなるリポソーム組成物も包含される。本発明はさらに、被験体における補体活性化を減少することに使用する薬剤の製造のためのリポソーム組成物の使用を意図する。
【0024】
A.リポソーム製剤
本発明のPEGで置換された中性リポポリマーは、以下に示す構造を有する:
【0025】
【化2】

【0026】
ここで、
およびRの各々は、8〜24個の間の炭素原子を有するアルキルもしくはアルケニル鎖であり;
nは約10〜約300の間であり、
ZはC〜Cアルコキシ、C〜Cアルキルエーテル、n−メチルアミド、ジメチルアミド、メチルカーボネート、ジメチルカーボネート、カルバメート、アミド、n−メチルアセトアミド、ヒドロキシ、ベンジルオキシ、カルボン酸エステル、およびC〜Cアルキルもしくはアリールカーボネートよりなる群から選択される不活性末端基であり;そして
Lは(i)−X−(C=O)−Y−CH−、(ii)−X−(C=O)−および(iii)−X−CH−よりなる群から選択され、ここで、XおよびYは酸素、NHおよび直接結合から独立して選択される。
【0027】
末端基Zは、補体活性化を誘導するインビボ成分との最小の相互作用に関して選択される。Zは、好ましくは、水と結合する水素結合アクセプターとして作用しそして水素結合ドナーとして働くことができない部分である。Zに適当な典型的な不活性部分には、C〜Cアルコキシ、より好ましくはC〜Cアルコキシ、C〜Cアルキルエーテル、より好ましくはC〜Cアルキルエーテル、n−メチルアミド、ジメチルアミド、メチルカーボネート、ジメチルカーボネート、カルバメート、アミド、n−メチルアセトアミド、ヒドロキシ、ベンジルオキシ、カルボン酸エステル、およびC〜Cアルキルもしくはアリールカーボネートが包含される。好ましいZ部分には、メトキシ、エトキシおよびn−メチルアセトアミドが包含される。
【0028】
該リポポリマーは、立体的に安定化したリポソームにおいて頻繁に用いられる、PEG−DSPEのような、PEG−リン脂質の荷電したリン酸連結の代わりに中性連結(L)を含む。Lは、正味電荷がゼロであるならば荷電部分を含有することができ、例えば、L
は両性イオンのものである。中性連結は、例えば、カルバメート、エステル、アミド、カーボネート、尿素、アミン、エーテル、硫黄もしくは二酸化硫黄であることができる。カーボネートおよびエステルのような、加水分解可能なもしくはそうでなければ切断可能な連結は、インビボで既定の循環時間の後にPEG鎖を取り除くことが望ましい用途において好ましい。この特徴は、リポソームがその標的に到達した後に薬剤を放出することもしくは細胞への取り込みを促進することにおいて有用であることができる(Martin,F.J.et al.,米国特許第5,891,468号(1999);Zalipsky、S.et al.,PCT出願第WO98/18813号(1998))。
【0029】
連結基に結合しているPEG基は、好ましくは、約1000〜15000の間の分子量を有し;すなわち、ここで、nは約20〜約340の間である。さらに好ましくは、分子量は、約1000〜12000の間(n=約20〜275)、そして最も好ましくは約1000〜5000の間(n=約20〜115)である。RおよびR基は、好ましくは16〜20個の間の炭素の長さであり、R=R=C1735(COORがステアリル基であるように)が特に好ましい。
【0030】
上記のように、リポソームへの非荷電性脂質の導入は、封入した両親媒性の弱塩基性もしくは酸性の薬剤の減少した漏出のような利点を与えることができる。別の利点は、標的細胞とそしてPESとリポソーム表面との相互作用を調節することにおけるより大きな柔軟性である(Miller,C.M.et al.,Biochemistry,37:12875−12883(1998))。PEGで置換された合成セラミドは、立体的に安定化したリポソームの非荷電性成分として使用されており(Webb,M.S.et al.,Biochim.Biophys.Acta,1372:272−282(1998));しかしながら、これらの分子は製造するのが複雑で且つ高価であり、そしてそれらは一般にリン脂質二重層ならびにジアシルグリセロリン脂質にパックしない。
【0031】
リポポリマーは、標準的な合成方法を用いて製造することができる。例えば、カルバメート連結化合物(L=−O−(C=O)−NH−CH−)は、mPEG(メトキシ−PEG)の末端ヒドロキシルをp−ニトロフェニルクロロホルメートと反応させてp−ニトロフェニルカーボネートを生成せしめ、それを次に1−アミノ−2,3−プロパンジオールと反応させて中間カルバメートを生成せしめることにより、図1に示すように製造される。近接ジオール部分のヒドロキシル基を次にアシル化して最終生成物を生成せしめる。カーボネート連結生成物(L=−O−(C=O)−O−CH−)を製造するために、1−アミノ−2,3−プロパンジオールの代わりにグリセロールを使用して、同様の経路を用いることができる。カルバメート連結ジステアロイルおよびジエコサノイルリポポリマーの製造は、実施例1および2に記述されている。
【0032】
図2Aに示すように、エーテル連結リポポリマー(L=−O−CH−)は、mPEG−OHの末端ヒドロキシルを塩化グリシジル(例えばエピクロロヒドリン)と反応させ、得られるエポキシドを加水分解し、そして得られるジオールをアシル化することにより容易に製造される。エステル連結リポポリマー(L=−O−(C=O)−もしくは−O−(C=O)−CH−)は、示すように、mPEG−OHをグリセリン酸アセトニドの活性化誘導体(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−カルボン酸)もしくは四炭素ホモログ、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−酢酸と反応させることにより、例えば図2Bに示すように製造することができる。次に、ジオールを脱保護し、そしてアシル化する。
【0033】
mPEG−OHの代わりに例えばZalipsky,S.et al.(Eur.Polym.J.,19:1177−1183(1983)の方法により製造されるmPEG−NHを使用する対応する反応は、アミド、尿素もしくはアミン連結を有するリポポリマー(すなわち、ここで、L=−NH−(C=O)−NH−、−NH−(C=O)−CH−、−NH−(C=O)−NH−CH−もしくは−NH−CH−)を製造するために用いることができる。
【0034】
Lが−X−(C=O)−(ここで、XはOもしくはNHである)である化合物は、それぞれ、1,2,3−プロパントリオールもしくは1−アミノ−2,3−プロパンジオール
と活性化カルボキシル末端PEG(ヒドロキシル末端PEGの酸化および例えばニトロフェニルエステルへの転化もしくはDCCとの反応によるカルボキシル基の活性化により製造する)との反応により製造することができる(図2C)。ケト連結化合物(すなわち、ここで、Xは直接結合である)は、例えば1−ブロモ−2,3−プロパンジオールアセトニドのグリニャール試薬とアルデヒド末端PEG(ヒドロキシル末端PEGの穏やかな酸化により製造する)との縮合(図2D)、続いて非酸性条件下でのケトンへの酸化、およびジオールへのアセトニドの加水分解により製造することができる。各場合において、次にジオールを従来どおりアシル化する。
【0035】
グリセロール部分に連結していないPEGオリゴマーの末端(α末端;上記の基Z)は、典型的にヒドロキシもしくはメトキシであるが、リポソームを特定の細胞もしくは組織タイプに向かわせることもしくはそうでなければ薬剤送達を促進することに使用する、中性リポポリマーへの様々な分子の結合を容易にするために、当該技術分野において既知である方法に従って官能化することができる。結合される分子には、例えば、ペプチド、糖、抗体もしくはビタミンを包含することができる。以下の実施例2〜3は、上記のものと同様の経路に従うが、分子の脂質部分の合成後にヒドロキシルに容易に転化されるt−ブチルエーテルもしくはベンジルエーテルのような基でα末端が置換される市販されているPEGオリゴマーから出発するα−官能化リポポリマーの製造における段階を記述する。次にこの末端を、この場合にはp−ニトロフェニルカーボネートへの転化により活性化する。
【0036】
別の典型的な中性リポポリマーを図5に例示する。中性−両性イオンポリマー−脂質の合成をポリマーPEGおよび脂質DSPGを用いて例示する。他の親水性ポリマーおよび他の脂質もまた使用できることが理解される;例えば、mPEGアルデヒドでのホスファチジルエタノールアミンの還元的アルキル化。簡潔に言えばそして実施例4にさらに詳細に記述されているように、DSPGを過ヨウ素酸ナトリウムで処理することにより酸化し、そして次にボラン−ピリジンの存在下でmPEG−NH2と反応させて中性−両性イオンmPEG−DSPEポリマーを生成せしめた。両性イオンリポポリマーは、生理的pHで正味の中性電荷を有する。それは中性であるリポソーム二重層を目的とし、リポソーム粒子における望ましくない電荷を除く。
【0037】
B.リポソーム薬理動態学
長期循環リポソームは、1〜10モル%、より好ましくは1〜5モル%、そしてより好ましくは3〜10モル%の中性リポポリマー、もしくは中性−両性イオンポリマーを小胞形成脂質から成るリポソームに導入することにより形成される。例示するために、3〜5モル%のmPEG2000−DSPE(ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン)もしくはカルバメート連結リポポリマーmPEG2000−DSのいずれかを含むリポソームを実施例5に記述するように製造した。脂質の残りは、1.5:1のモル比のHSPCおよびコレステロールからなった。リポソームにマーカー125I−チラミニルイヌリンを充填した。各製剤のサンプルをマウスの尾静脈に注入し、そして実施例5に記述するように、様々な時間点で組織分布を決定した。血液、肝臓および脾臓に存在するレベルを表1A〜1Cにそしてグラフで図3A〜3Cに示す。データが示すように、PEG−DSを含有するリポソームの薬理動態学は、PEG−DSPEを含有するリポソームのものと非常に類似していた。
【0038】
【表1】

【0039】
同様の研究によりPEG脂質を含有しないコントロール配合物に対する両方のPEG脂質の性能を比較した。図4は、PEG脂質を含有しない(十字)、5モル%のPEG2000−DSPE(三角)もしくは5モル%のPEG2000−DS(丸)を含有する2:1 HSPCリポソームの血液における保持を示す。
【0040】
5:55:40のモル比のmPEG2000−DS:PHPC:Cholを含有するリポソームを用いてさらなる研究を行った。リポソームをインジウム−DTPA複合体の取り込みにより標識した。注入用量のパーセントを血液においてそして24時間で様々な組織において決定した。結果を表2A〜2Cに示す。再び、リポソームは、4時間後に注入用量の>70%、そして24時間後に>30%の平均保持で、典型的な長期循環薬理動態学を示した。
【0041】
【表2】

【0042】
5モル%のmPEG2000−DSもしくはmPEG2000−DSPEおよび残りのPHEPCを含有するリポソームを投与後24時間まで血液に残留するパーセントに関して比較した。図4に示すように、薬理動態学は、24時間後に約40%の保持で、実質的に同一であった。
【0043】
C.インビトロにおける補体活性化の測定
補体活性化の誘導への中性リポポリマーを含んでなるリポソーム製剤の影響を評価するために、実施例6に記述するように、12種のリポソーム製剤および2種のミセル製剤を製造した。実施例6における表3は、これらの製剤の脂質組成を詳述する。簡潔に言えば
そして表4に関連して、製剤には下記のものが包含された:
製剤番号1、2、3:封入される薬剤、ドキソルビシン(Doxil)およびシスプラチンにおいてのみ異なる、同一の脂質組成の2種の薬剤充填リポソーム(製剤番号1および2)および同一の脂質組成のしかし封入される治療薬のない製剤、すなわち、偽薬(製剤番号3);
製剤番号4:補体活性化の誘導へのPEG2000−DSPEの量の影響は、0.6モル%のPEG2000−DSPEを有する製剤を同一であるがより高い(4.5モル%)量のPEG2000−DSPEの製剤番号3と比較することにより評価した;
製剤番号5、6、7:PEG−DSPEの負電荷の影響は、負に荷電したPEG2000−DSPEが取り除かれ(製剤番号6)2種の中性リポポリマー:PEG2000−DS(製剤番号7)およびPEG2000−DSG(製剤番号6;DSG=ジステアロイルグリセロール;mPEG−DSGの図2Aの構造を参照)で置換されたリポソーム製剤と製剤番号3(Doxilおよびシスプラチンリポソーム製剤番号1および2に対する偽薬)を比較することにより調べた;
製剤番号8,9:補体活性化の誘導へのPEG部分のサイズの影響は、350ダルトン(製剤番号8)、2000ダルトン(製剤番号3)および12,000ダルトン(製剤番号9)の異なるPEG分子量を有する負に荷電したPEG−DSPEを有するリポソームを比較することにより調べた;
製剤番号10:リポソーム形成リン脂質水素化ダイズホスファチジルグリセロール(HSPG)によって導入された負電荷を有するリポソームを、大きい頭部基を有するミセル形成リポポリマーPEG2000−DSPEによって負電荷が導入されたリポソーム(製剤番号3)との比較のために製造した;
製剤番号11、12:リポソーム陽性コントロールとして、大きい粒子サイズのそして50%(製剤番号11)および71%(製剤番号12)のコレステロールモル比を有するDMPC/chol/DMPGからなるリポソーム(これらの製剤は、ブタにおける補体依存性心肺窮迫を包含する、補体系を活性化することにおいて非常に強力であるので);
製剤番号13,14:他の脂質なしのPEG2000−DSPEが補体活性化を誘導するかどうかを決定するために、PEG2000−DSPE(製剤番号13)およびPEG2000−DS(製剤番号14)のミセルを製造した。
【0044】
リポソーム形成リン脂質HSPGによって導入された負電荷を有するリポソームは露出した負電荷を有し、一方、リポポリマーPEG2000−DSPEによって負電荷が導入されたリポソームはPEG鎖により隠された負電荷を有するので、リポソーム製剤番号10のリポソーム製剤番号3との比較は、露出した負電荷と隠された負電荷との間の違いの研究を与えた。
【0045】
表4は、リポソームおよびミセル製剤を要約し、そしてサイズ、表面電荷(Ψ)およびゼータ電位を示す。
【0046】
【表3】

【0047】
実施例6に記述するように、補体活性化のインビトロ誘導は、様々なリポソーム製剤とヒト血清とのインンキュベーションの際に補体活性化のマーカーとしてSタンパク質結合C最終複合体(S−protein−bound C terminal complex)(SC5b−9)の形成を測定することにより決定した。典型的な研究として、リポソーム製剤を血清と混合し、そして37℃で約30分間インキュベーションした。反応を止め、そしてSC5b−9の量を酵素免疫測定法により決定した。製剤番号1、3、4、5、6、8、9および10の結果を図6に示す。
【0048】
図6は、示したリポソーム製剤のSC5b−9誘導を、リン酸緩衝食塩水とインキュベーションした細胞の基準SC5b−9誘導のパーセントとして示す。リポソーム製剤5および6は、電荷に関して中性である(製剤番号6は中性リポポリマーPEG−DSを含み、そして製剤番号5は中性脂質HSPC/Cholからなる)。これらの中性製剤は、SC5b−9形成における測定可能な変化をもたらさなかった。0.6%のPEG2000−DSPEを含有する製剤番号5もまた、補体活性化をほとんど引き起こさなかった。しかしながら、他のリポソーム製剤は全て、PBSコントロールと比較してSC5b−9の有意な上昇を引き起こした。「Doxil偽薬」製剤番号3および負に荷電したHSPGを含有するリポソーム製剤番号10は、SC5b−9形成の中等度の約2倍の上昇を引き起こし、Doxil製剤番号1は、SC5b−9の非常に強い7倍の増加を引き起こした。これらのデータは、負電荷および特にDoxilにおけるドキソルビシンが補体活性化の要因であることを示唆する。この結果は、Doxilリポソーム製剤番号1の同じ脂質組成およびサイズを有するシスプラチン充填リポソーム、リポソーム製剤番号2が全くもしくはわずかにしか補体活性化を引き起こさないことにより裏付けられた(データは示さない)。製剤番号7(製剤番号6に対して)におけるようにHSPCをEPCで置換した場合、試験した血清の2/3において中等度のしかし有意な補体活性化が起こった。
【0049】
製剤番号13(PEG2000−PEミセル)の補体活性化効果は、該ミセルをヒト血清に増加する濃度で加えることにより評価した。ミセルは、Doxil(製剤番号1)
が有意な活性化を引き起こした場合の条件下でいずれの血清においてもSC5b−9の有意な上昇を引き起こさなかった(データは示さない)。実際に、ミセルは、Doxil製剤番号1が補体活性化を引き起こしたものより10倍高い濃度まで加えた。従って、二重層膜上の補体結合部位の空間的配置は、リポソームにより誘導される補体活性化におけるさらなる重要な因子であり得る。
【0050】
D.インビボにおける補体活性化の測定
上記のリポソーム製剤により誘導される補体活性化を実施例7に記述するようにブタに該製剤を投与することによりインビボで評価した。ブタにおけるリポソームにより誘導される過敏性(HSR)の根底にある多数の生理学的変化の統一された定量化のために、これらの反応をグレードIからIVまで評価する採点システムを開発した。該採点システムは実施例7において詳述されており、そしてグレードI、II、IIIおよびIVをそれぞれ反応なし、中等度、重度および致死反応の生理学的応答に指定する。異なるリポソームへのブタの心肺応答の用量依存性、頻度およびグレードを表5に要約する。
【0051】
【表4】

【0052】
製剤番号1(Doxil)ならびに負に荷電したPEを含有するリポソーム(製剤番号8、9、10)は、インビトロでヒト血清における強力な補体活性化因子であったという結果(図6)と一致して、これらの同じリポソームは、ブタにおける心肺窮迫の最も強力な誘導因子であり、3〜150nmoleのリン脂質/kgは、試験の>90%において重度〜致死反応を引き起こした。過敏性反応を引き起こす製剤番号1(Doxil
の最小用量は、2mg/mLのドキソルビシンおよび12.8mg/mLのリン脂質を含有する元のバイアルからの50μLであり、注入の最初の15〜30秒で血液にほぼ到達するヒト治療用量の1/400〜1/1000に相当する。ヒトにおけるそしてブタにおけるDoxilの反応原性(reactogenicity)の用量依存性は、実質的に同一であった。
【0053】
インビトロ補体活性化とさらに一致して、同等用量の製剤番号3(偽薬Doxil)もまた、ブタにおいて過敏性反応を引き起こしたが、より低い比率(67%)であり、一方、製剤番号4(PEG2000−DSPE)、製剤番号8(PEG350−DSPE)および製剤番号6(PEG2000−DS)ならびに製剤番号13、14(PEG2000ミセル)は、より高い用量でさえ反応なしもしくは軽度反応を引き起こした。インビトロ補体活性化とブタ過敏性反応との間の唯一の明白な相違は、ヒト血清において全くもしくはわずかにしか補体活性化を引き起こさなかった製剤番号9(PEG12000−DSPEリポソーム)に対する3回の試験のうち2回の重度反応であった。
【0054】
製剤番号6および製剤番号7は両方とも中性脂質から製造した。製剤番号6は、HSPC、コレステロールおよびPEG−DSで形成された。製剤番号7は、EPCおよびPEG−DSG、市販されている中性リポポリマーで形成された(実施例6を参照)。しかしながら、これら2つの製剤のインビボ応答は、製剤番号7が試験動物において死をもたらすのに十分に重度の補体活性化の誘導をもたらした点において異なった。それに反して、製剤番号6への応答は、4匹の試験動物のうち3匹においてグレードIすなわち最小応答であり、そして1匹の試験動物においてグレード0(反応なし)であった。この結果は、全ての中性リポポリマーが、リポソーム製剤のインビボ投与の際に引き起こされる補体活性化の誘導を減少することができるとは限らないことを示唆する。
【0055】
ブタにおいて行った別の研究において、4種のリポソーム製剤を実施例8に記述するように製造した。これら4種の製剤の脂質組成および特性を表6に示す。
【0056】
【表5】

【0057】
製剤番号16、17および19は全て、HSPCおよびコレステロールを含んだが、リポポリマーにおいて異なった。製剤番号16は、上記の製剤番号3と同様に、PEG−DSPEを含んだ。製剤番号17はPEG−DSを含み、そして製剤番号19はHSPGを含んだ。
【0058】
リポソーム製剤番号16〜19および製剤番号1(Doxil)を実施例8に記述するようにブタに投与した。肺動脈圧(PAP)の30〜300%の上昇、全身動脈血圧(SAP)の可変上昇および減少、続いて起こる徐脈性不整脈を伴うもしくは伴わない頻脈ならびにHb酸素飽和度の減少を包含する、典型的な血流力学変化を注入後約3〜6分後で生じた。ある動物ではPAPの大きな上昇のない重度の徐脈性不整脈において示される
心臓対肺(cardiac vs.pulmonary)応答の傾向が認められたが、通常、これらの変化は相互に比例した。
【0059】
表7は、試験動物における血流力学変化を要約する。P1〜P12の番号を付けた12匹のブタをこの研究に使用し、そして個々の応答を表7に示す。個々のパラメーターの変化は、注入前基準に対するパーセンテージとして定量し、そして各リポソーム製剤への全体応答は、実施例7に記述するグレード採点システムに従って適宜評価した(なし(0)、最小(I)、軽度(II)、重度(III)および致死(IV))。製剤番号1(Doxil)からの50〜100マイクロリットルの注入は、9/9のブタにおいて重度〜致死心肺反応を引き起こし、一方、製剤番号18(HSPC/Chol小胞)は、100倍高い用量でさえ、試験した全ての6匹のブタにおいて反応を引き起こさなかった。製剤番号16(HSPC/Chol/PEG−DSPE)は、製剤番号19(HSPC/Chol/HSPG)のように、4/5のブタにおいて軽度〜致死反応を引き起こした。本発明の中性リポポリマーを含んだ製剤番号17(HSPC/Chol/PEG−DS)は、最も高い用量レベルでのみ誘導される軽度反応をもたらした。
【0060】
【表6】

【0061】
本明細書に記述する研究において、ドキソルビシンもしくはシスプラチンを有するリポソーム製剤、または空の偽薬リポソームを研究のモデルとして選択した。中性リポポリマーPEG−DSは、補体活性化の減少した誘導をもたらすという結果は、任意の封入された薬剤もしくは治療薬を含有するリポソーム製剤に適用可能であることが理解される。典型的な薬剤には、化学療法薬、抗ウイルス薬、抗微生物薬などが包含される。化学療法薬のドキソルビシンは、アントラサイクリン系抗生物質であり、そしてダウノルビシン、エピルビシンおよびイダルビシンのような他のそのような化合物が意図される。シスプラチンもまた、白金含有化学療法薬であり、そしてカルボプラチン、オルマプラチン、オキサリプラチン、((−)−(R)−2−アミノメチルピロリジン(1,1−シクロブタンジカルボキシラト))白金、ゼニプラチン、エンロプラチン、ロバプラチン、(SP−4−3(R)−1,1−シクロブタン−ジカルボキシラト(2−)−(2−メチル−1,4−ブタンジアミン−N,N’))白金、ネダプラチンおよびビス−アセタト−アンミン−ジクロロ−シクロヘキシルアミン−白金(IV)が包含されるがこれらに限定されるものではない、当該技術分野において既知である様々なシスプラチンアナログのような他の白金
含有薬剤が意図される。しかしながら、本明細書における結果は、任意の薬剤もしくは治療薬に適用可能であると理解される。
【実施例】
【0062】
III.実施例
以下の実施例は、本発明を説明するが、決して限定するものではない。
実施例1A
mPEG−DS(mPEGアミノプロパンジオールジステアロイル;α−メトキシ−ω−2,3−ジ(ステアロイルオキシ)プロピルカルバメートポリ(エチレンオキシド))の合成
mPEG2000(20g、10mol)の溶液をトルエン(50mL、120℃)において共沸で乾燥させた。上記の溶液の温度が25℃に達した後に、それをクロロギ酸ニトロフェニル(3.015g、15mol)で、続いてTEA(2.01mL、15mol)で処理した。この混合物を1 1/2時間反応させた。TEA塩を濾過し、そして溶媒を除いて粗mPEG2000−ニトロフェニルクロロホルメートを生成せしめ、これにアセトニトリル(50mL)中のアミノプロパンジオール(3g、30mol)の溶液を加えた。この混合物を室温で一晩攪拌した。不溶性物質を濾過により取り除き、そして溶媒を蒸発させた。生成物をイソプロパノールから2回再結晶化させた。収量:13.7g、65%。H NMR:(300MHz、DMSO−D)δ3.23(s,OCH,3H),3.65(s,PEG,180H),4.05(t,ウレタンCH,2H),4.42(t,1OH,1H),4.57(d,2OH,1H)。
【0063】
生成物、mPEG2000アミノプロパンジオール(2.3g、1.08mol、2.17meqのOH)をトルエン(30mL)に溶解し、そして共沸で乾燥させ、約10mLの溶液を除いた。溶液を室温まで冷却させた。ピリジン(4mL、20%)をピペットにより加え、続いて塩化ステアロイル(1g、4.3mol)を加えた。すぐに白色の沈殿が形成された。反応混合物を120℃で一晩還流し、そして冷却させた。反応フラスコの温度が約40℃に達すると、ピリジン塩を濾過した。濾液を蒸発させた。生成物(PEG2000−DS)をイソプロパノール(2x30mL)から2回再結晶化させることにより精製し、そしてP上で真空中で乾燥させた。
【0064】
収量:2.26g、80%。TLC(クロロホルム:メタノール、90:10):mPEGアミノプロパンジオール R=0.266;PEG−DS R=0.533。H NMR:(300MHz、DMSO−D)δ0.89(t,CH,6H),1.26(s,CH,56H),1.50(2t,2CH,4H),2.24(t,CHCH C=O,4H),3.23(s,OCH,3H),3.50(s,PEG,180H),4.00(dd,APDのCH,1H),4.02(t、CHOC=O−N,2H),4.20(dd、APDのCH,1H),4.98(m,CHOC(O),1H),7.34(m,NH,1H)。
【0065】
分子量750、5000および12000のmPEGポリマーを用いてmPEG−DSを製造するために同様の方法を用いた。構造は、H−NMRおよび質量分析により確かめた。MALDI(マトリックス支援レーザー脱離/イオン化)により決定した場合の分子量を以下に示す。
【0066】
【表7】

【0067】
実施例1B
PEG−DE(mPEGアミノプロパンジオールジエコサノイル;α−メトキシ−ω−2
,3−ジ(エコサノイルオキシ)プロピルカルバメートポリ(エチレンオキシド))の合成
100mLの丸底フラスコにおいて、エコサン酸(ecosanoic acid)(500mg、1.6mmol)をトルエン(20mL)に溶解し、そして塩化オキサリル(147μl、1.68mmol)をピペットにより加えた。攪拌反応物に、1%のDMFを加えた。DMFの添加の際に、気体を放出した(この気体との全ての接触は、回避されるべきであるので)。10分後に、トルエンを蒸発させ、そして追加の20mLのトルエンを加え、そして蒸発させてあらゆる過剰の塩化オキサリルを除いた。残留物を10mLのトルエンに再溶解した。上記のように製造したmPEG−アミノプロパンジオール(1.19g、0.56mmol)を溶液に加え、還流冷却器を取り付け、そして混合物を一晩還流した。TLC(メタノールおよびクロロホルム、9:1)による分析は、反応が完了していることを示した。反応混合物を冷却した後、非溶解物質を濾過し、そして濾液を乾固させた(taken to dryness)。生成物をイソプロパノールから3回再結晶化させることにより精製し、そしてP上で真空中で乾燥させた。収量:1.0mg、70%。H NMR:(360MHz、DMSO−D)δ0.89(t,CH,6H),1.26(s,CH,脂質の66H),1.50(2t,2CH,4H),2.24(t,CHCH C=O,4H),3.23(s,OCH,3H),3.50(s,PEG,180H),4.00(dd,APDのCH,1H),4.05(t、CHCHC+O,4H),3.23(s,OCH,3H),3.50(s,PEG,180H),4.00(dd,APDのCH,1H),4.05(t、CHOC=O−N,2H),4.20(dd、APDのCH,1H),4.98(m,CHOC(O),1H),7.34(m,NH,1H)ppm。
実施例2
t−Bu−O−PEG−O−スクシンイミドを経たt−Bu−O−PEG−アミノプロパンジオールの製造
A.t−Bu−O−PEG−O−スクシンイミド
Polymer LabsからのtBu−O−PEG−2000(10g、5mmol)を120mLのトルエンに溶解し、そして約20mLの溶媒を除き、あらゆる水をディーン・スタークトラップに集めることにより共沸で乾燥させた。
【0068】
溶液を室温に冷却し、そしてホスゲン(15mL)を加えた。混合物を室温で一晩反応させた。反応の完了後に、溶媒をロータリーエバポレーターにより除いた。約50mLの新しいトルエンを加え、そしてロータリーエバポレーターにより除いた。残留物を乾式トルエン(30mL)および塩化メチレン(10mL)に溶解した。この溶液に、N−ヒドロキシスクシンイミド(1.7g、14.8mmol)およびトリエチルアミン(2.1mL、14.9mmol)を加え、そして混合物を室温で一晩反応させ、この期間の後にTLCにより反応は完了していた。
【0069】
【表8】

【0070】
塩を反応混合物から濾過し、溶媒を蒸発により除き、そして固体をイソプロピルアルコールから2回再結晶化させ、そしてP上で乾燥させた。収量:9.2、85%。H NMR:(CDCl、360MHz)δ1.25(s,t−Bu,9H),2.82(s,CHCH,4H),3.60(s,PEG,180H),4.45(t,CHOCONH,2H)ppm。
【0071】
B.t−Bu−O−PEG−アミノプロパンジオール
DMF(10mL)中のアミノプロパンジオール(300mg、3.2mmol)の溶液に、t−Bu−PEG−OSc(5g、2.29mmol)を加え、そして一晩反応させた。全てのNHSエステルを消費し、TLC上で1つのスポットを示す混合物を生成せ
しめた。
【0072】
【表9】

【0073】
前もって洗浄した酸性イオン交換樹脂(〜1g)を反応混合物に加え、そして30分間後に濾過により除いた。溶媒を除き、そして残留物を200mLのイソプロピルアルコールから再結晶化させた。固体を集め、そしてP上で乾燥させた。収量:4.2g、85%。H NMR:(D6−DMSO、360MHz)δ1.25(s,t−Bu,9H),3.68(s,PEG,180H),4.03(t,CHOCONH,2H),4,43(t,1OH,1H),4.55(d,2OH,1H),6.98(t,NH,1H)ppm。
実施例3
p−ニトロフェニルカーボネート−PEG−DSの製造
A.Bn−O−PEG−ニトロフェニルカーボネート(NPC)
Shearwater PolymersからのBn−O−PEG−2000(Huntsville,LA;5g、2.41mmol)を120mLのトルエンに溶解しそして約20mLの溶媒を除き、あらゆる水をディーン・スタークトラップに集めることにより共沸で乾燥させた。溶液を室温に冷却し、そして残りの溶媒を減圧下で蒸発させた。
【0074】
残留物を30mLの塩化メチレン/酢酸エチル(60:40)に溶解し、そしてp−ニトロフェニルクロロホルメート(729mg、3.6mmol)およびトリエチルアミン(1mL、7.2mmol)を加えた。反応を4℃で8〜16時間実施した。この方法は反応を減速するが、ビスPEG−カーボネートの形成をなくす。GFシリカプレート上のUV可視スポットは、反応の完了を示した。
【0075】
反応混合物を前もって洗浄した酸性および塩基性イオン交換樹脂で30分間処理し、濾過し、そして完全に乾固させた。生成物をイソプロピルアルコールから再結晶化させ、そしてP上で乾燥させた。収量:4.4g、80%。
【0076】
B.Bn−O−PEG−アミノプロパンジオール
DMF(10mL)中のアミノプロパンジオール(260mg、1.9mmol)の溶液に、上記に製造するようなBn−O−PEG−NPC(4.3g、2.9mmol)を加え、そして5時間反応させた。全てのBn−O−PEG−NPCを消費し、反応混合物はTLC(クロロホルム:メタノール:水 90:18:2)上で1つのスポットを与えた。
【0077】
反応混合物を5gの前もって洗浄した酸性イオン交換樹脂で30分間処理し、濾過し、そして完全に乾固させた。生成物をイソプロピルアルコールから再結晶化させ、そしてP上で乾燥させた。収量:3.8g、91%。
【0078】
C.Bn−O−PEG−ジステアロイル
Bn−O−PEG−アミノプロパンジオール(3g、1.36mmol)、ステアリン酸(1.94g、6.79mmol)および触媒としてDPTS(4−(ジメチルアミノ)ピリジニウム4−トルエンスルホネート)(408mg、1.36mmol)の溶液を室温で20分間攪拌した。ジイソプロピルカルボジイミド(1.28mL、8.16mmol)をピペットにより加え、そして混合物を一晩反応させた。TLC(クロロホルム:メタノール、90:10)は、ジオールの完全な反応を示した。
【0079】
塩基性イオン交換樹脂(〜5g)を反応混合物に加えた。30分の振盪後に、樹脂を濾過し、そして濾液を乾固させた。残留物をイソプロパノール(100mL)から再結晶化させ、そしてP上で乾燥させた。収量:4g、80%。
【0080】
D.HO−PEG−ジステアロイル
Bn−O−PEG−DSのベンジル基の脱保護のために2つの異なる方法をとった。
【0081】
方法1.水素化分解:炭素上パラジウムによる脱保護
5mLのメタノール中のBn−O−PEG−DS(218mg,0.08mmol)の溶液に、10%のPd/C(110mg)およびギ酸アンモニウム(107mg、0.8mmol)を加え、そして混合物を室温で一晩反応させた。
【0082】
Pd/Cをセライト上の濾過により取り除き、そして濾液を乾固させた。残留物をクロロホルムに溶解し、そして飽和NaClで3回洗浄した。クロロホルム相を集め、MgSOで乾燥させ、濾過し、そして濃縮した。固体残留物をtBuOHから凍結乾燥し、そして得られる粉末をP上で乾燥させた。収量:80%、175mg。
【0083】
方法2.四塩化チタンによる脱保護
塩化メチレン(10mL)中のBn−O−PEG−DS(1.18g、0.43mmol)の溶液を氷浴中で5分間冷却した。四塩化チタン(3mL,21.5mol、過剰)をオーブン乾燥したシリンジによって密封反応フラスコに移した。5分後に、氷浴を取り除き、そして脱保護反応を室温で一晩実施した。完全な脱保護は、GFシリカTLCプレート上の下方シフトしたスポット(出発物質に対して)により示された。
【0084】
約40mLのクロロホルムを反応混合物に加え、そして混合物を40mLの飽和NaHCOを含有する分液漏斗に移した。混合物を穏やかに振盪し(エマルジョンの形成を防ぐために)、そしてクロロホルム層を集めた。この抽出を3回繰り返し、クロロホルム相を集め、そしてTiClの完全な除去を保証するために飽和NaHCOの新しい分でもう1回抽出した。集めたクロロホルム相をMgSOで乾燥させ、濾過し、そして濃縮した。
【0085】
上記の残留物を1mLのクロロホルムに溶解し、そしてシリカゲル(200〜400メッシュ、60Å)の準備されたカラムに加えた。生成物が10%メタノール/90%クロロホルムで溶出するまでメタノールの2%増分添加により移動相(クロロホルム)の極性を増加した。生成物を集め、そして溶媒をロータリーエバポレーターにより除いた。固体をtBuOHから凍結乾燥し、そしてP上で乾燥させた。収量:70%、800mg。
【0086】
E.p−ニトロフェニルカーボネート−PEG−DS
反応フラスコ、攪拌子、シリンジおよび出発物質(上記で製造するような、HO−PEG−DS)を反応の開始前に慎重に乾燥させた。
【0087】
10mLの塩化メチレン/酢酸エチル(60:40)中のHO−PEG−DS(1.2g、0.45mmol)の溶液に、p−ニトロフェニルカーボネート(136mg、0.65mmol)およびトリエチルアミン(188μL、1.35mmol)を加えた。反応を4℃で(ビスPEG−カーボネートの形成をなくすために)8〜16時間実施し、この期間の後にGFシリカゲルTLCにより反応は完了していた。
【0088】
【表10】

【0089】
反応混合物を前もって洗浄した酸性および塩基性イオン交換樹脂で30分間処理し、そして濾過した。濾液を完全に乾固させ、そして残留物をイソプロピルアルコールから再結晶化させた。固体をP上で乾燥させた。収率:70%。H NMR:(D6−DMSO、360MHz)δ0.86(t,CH,6H),1.22(s,DS,56H),1.48(m,CHCH(CO),4H),2.26(2xt,CHOCONH,2H),4.03&4.22(2xd,脂質のCHCH,2H),4.97(M,脂質のCHCH),6.98(t、NH,1H),7.55 %8.32(2xd,芳香族、4H)ppm。
実施例4
mPEG−NHおよび過ヨウ素酸塩で酸化されたDSPGの還元的アミノ化カップリングによる中性−両性イオンmPEG−DSPEの製造
1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−rac[(1−グリセロール)]もしくはジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG、200mg、0.25mmol)を酢酸ナトリウム食塩水バッファー(1.5mL、50mM、pH=5)に懸濁し、そして懸濁液を超音波処理しながら過ヨウ素酸ナトリウム(348mg、1.6mmol)で4時間処理した。TLC(クロロホルム:メタノール:水=90:18:2)は、DSPGが消費されたことを示した。不溶性生成物を遠心分離後に溶液から分離し、そして次に水(1mL)、水/アセトニトリル、1:1(2mL、2回)で、そして次にアセトニトリルのみ(1mL、3回)で洗浄した。生成物をP上で真空中で1.5時間乾燥させた。mPEG−NH(1g、0.5mmol、2eq)を酸化されたDSPGにベンゼン(3ml)と加え、そして残留する水を除くために溶媒を回転蒸発させた。ベンゼン蒸発段階をもう2回繰り返した。乾式メタノール(6mL)および粉末分子ふるい(4Å、320mg)、続いてボラン−ピリジン(8M、1.6mL、12mmol)を混合物に加えた。反応混合物を25℃で15時間攪拌した。TLCによりリポポリマー生成物の形成が確かめられた。過剰の未反応のmPEG−NHを除くために、生成物混合物を水(3mL)で希釈し、spectropore CE透析膜(MWCO 300,000)に移し、そして4℃で食塩水溶液(〜50mM、1000mL、3回)に対して、そして次に脱イオン水(3回)に対して透析した。粗生成物(TLCにより、いくらかの酸化されたDSPGで汚染されている)を凍結乾燥し、そしてP上で真空中で乾燥させ、そして溶離剤としてクロロホルムにおけるメタノール勾配(0〜15%)を用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによりさらに精製した。純粋なリポポリマー生成物を含有する画分をプールし、そして蒸発させて141mg(20%)の固体を生成せしめた。H NMR(360MHz,CDCl)δ:0.88(t,CH,6H);1.26(s,CH,56H);1.58(m,CHCHCO,4H);2.28(2xt,CHCO,4H);3.2(br m,NHCHCH,1H);3.32(br m,NHCHCH,1H);3.6(s,PEG〜180H);4.15(dd,トランスPOCHCH,1H);4.35(dd,シスPOCHCH,1H);5.2(m、POCHCH,1H)。MALDI−TOFMSは、等しい44ダルトン間隔で配置されそして2770ダルトンに中心があるイオンの釣鐘形分布を生成した(計算分子量:2813ダルトン)。
実施例5
PEG−DSPEおよびPEG−DSを含有するリポソームの製造および生体内分布研究
以下の比率:
【0090】
【表11】

【0091】
のHSPC:Chol:PEG−脂質の混合物から、溶解および溶媒の除去により、脂質フィルムを形成した。
【0092】
フィルムを140mM NaCl、pH7.4を含有する25mMのHEPES中の新しく調製した125I−チラミニルイヌリンにおいて水和させ、そして押し出して直径が100〜105nmのリポソームを生成せしめた。リポソームを0.22μmのミリポア(MIllipore Corporation,Bedford,MA)低タンパク質結合シリンジエンドフィルターを通した濾過により滅菌した。アリコートを計数して125Iの注入総数を決定した。脂質濃度は、リポソーム製剤のホスフェート含有量をアッセイすることにより決定し、そしてリポソーム製剤を2.5μmol/mLの最終濃度に滅菌バッファーにおいて希釈した。各マウスに0.5μmolのリン脂質を与えるように、マウスに0.2mLの希釈したリポソームを尾静脈を介してi.v.注入した。様々な時間点で、マウスをハロタン麻酔およびその後の頚椎脱臼により安楽死させ、血液を心出血
によりサンプリングし、そして血液および様々な臓器を125I計数に関してアッセイした。
実施例6
インビトロにおける補体活性化の測定
材料
ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、コレステロール(Chol)および卵黄レシチン(EPC)は、Avanti Polar Lipids(Alabaster,AL)から購入し、そして完全水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)および完全水素化ダイズホスファチジルグリセロール(HSPG)は、Lipoid Inc.,Ludwigshafen,Germanyからであった。全ての脂質は、97%の純度を有した。ザイモサンは、Sigma Chem Co.(St.Louis,MO)からであった。
【0093】
市販用のDoxilは、ALZA Corp(Mountain View,CA)から入手し、そしてドキソルビシンHCl、2mg/mL(4.22mM)、リポソーム脂質、16mg/mL、硫酸アンモニウム、〜0.2mg/mL;ヒスチジン、10mM(pH6.5)およびショ糖、10%を含有した。脂質成分は、HSPC,9.58mg/mL;Chol,3.19mg/mL;PEG2000−DSPE;3.19mg/mL(総リン脂質、12.8mg/mL、13.3mM)を含んだ。
【0094】
350ダルトン、2000ダルトンおよび12,000ダルトンのPEG部分を有するN−カルバミル−ポリ(エチレングリコールメチルエーテル)−1,2−ジステアロイル−sn−グリセロール−3−ホスホエタノール−アミントリエチルアンモニウム塩(PEG−DSPE)(それぞれ、0.35K−PEG−DSPE;2.0K PEG−DSPE;12.0K PEG−DSPEとも称する、PEG350−DSPE;PEG2000−DSPEおよびPEG12000−DSPE)は、Alza Corporationから入手した。
【0095】
ポリエチレングリコール(2000DaのPEG部分)を有する3−メトキシポリエチレングリコール−オキシカルボニル3−アミノ−1,2−プロパンジオールジステアロイルエステル(2K−PEG−DSとも称する、PEG2000−DS)は、上記のように製造した。
【0096】
3−メトキシ−ポリエチレングリコール1,2−ジステアロイルグリセロール(2K−PEG−DSGとも称する、PEG2000−DSG)(Sunbright DSG−2H)は、Nippon Oil&Fat Co.,Ltd(Tokyo,Japan)から入手した。
【0097】
ヒト血清は、健康なボランティアドナーから入手した。血清は、使用するまで−70℃で保った。
方法
リン脂質濃度の決定:リン脂質濃度は、バートレット法の改変を用いて決定した。
【0098】
粒子サイズ分布の決定:粒子サイズ分布は、ALV−5000/EPP多重デジタルコレクターを有する高性能パーティクルサイザーALV−NIBS/HPPS(ALV−Laser Vertriebsgesellschaft GmbH,Langen,Germany)もしくはNicompモデル370(Pacific Scientific,Silver Spring,MD)サブミクロンパーティクルサイザーのいずれかを用いて25℃で動的光散乱により決定した。
【0099】
リポソーム表面電荷(ψ電位)の測定:リポソームの表面電位を決定するために、広範囲のpH値にわたるHCイオン化の程度を測定した。リポソームの30μLのアリコートを1.5mLのバッファーに希釈した。pHは、適切な量の濃水酸化ナトリウムおよび塩酸の添加により調整した。大型単層小胞(LUV)の内側と外側との間のpH平衡を保証するために全てのサンプルを水浴中で約5秒間超音波処理した。HCイオン化状態を測定するために、HC蛍光励起スペクトルをLS550B発光分光計(Perkin Elmer,Norwalk,CT)を用いて室温(22℃)で記録した。測定は2つの励起波
長:pH非依存性であり(等吸収点)そして脂質環境におけるHCの総量(非イオン化+イオン化)を表す330nm、およびイオン化されたHCのみを示す380nmで実施した。発光波長は、両方の励起波長で450nmであった。2.5nmの励起および発光帯域幅を用いた。各脂質組成物に対して、バルクpHの関数として励起波長380/330の比率の変化からHCの見かけのpKaを計算した。基準中性表面に対する、その見かけのプロトン結合定数を表す、HCの見かけのpKaのシフトは、HCフルオロフォアの近接環境における表面pHおよび表面電位の指標となる。表面電位(ψ)の値は式:
【0100】
【数1】

【0101】
を用いて計算した。
【0102】
ゼータ電位の決定:ゼータ電位は、Zetasizer 3000 HAS、Malvern Instruments Ltd,Malvern,UKを用いて25℃で測定した。リポソームの40μLのアリコートを20mLの10mM NaCl(pH6.7)に希釈し、そして溶液を0.2μmシリンジフィルター(Minisart,Sartorius,Germany)に通した。測定の原理は、以下のとおりである:電解質中の荷電粒子の懸濁液に電場がかけられると、異極性の電極に向かうそれらの運動の速度は、電場の強さ、誘電定数、媒質の粘度、およびゼータ電位に依存する。単位電場における粒子速度に対するゼータ電位の関係(電気泳動移動度)は、ヘンリー式:
【0103】
【数2】

【0104】
[式中、U=電気泳動移動度、z=ゼータ電位、ε=誘電定数、そしてη=粘度]
により表される。f(K)は、電気二重層厚および粒子直径の関数である。水性媒質もしくは中等度の電解質濃度(10mM NaCl)において、f(Ka)値は1.5であり、それをスモルコフスキー近似:
【0105】
【数3】

【0106】
に使用する。25℃で、ゼータ電位は:
【0107】
【数4】

【0108】
として概算することができる。
【0109】
A.リポソーム製剤
表3に示す様々な脂質組成を含んでなるリポソームを以下のように製造した。各配合物の脂質成分を第三級ブタノールに溶解した。清澄溶液を凍結乾燥した。粉末を10mLの熱い(65℃)滅菌したパイロジェンフリーの食塩水において70℃で2〜3分間ボルテックスすることにより水和させて多重層小胞(MLV)を生成せしめた。MLVを62℃でNorthern Lipis Inc.(以前はLipex,Vancouver,BC,Canada)からのTEX 020 10mLバレル押し出し機を用いて、0.4および0.1μmの細孔サイズのポリカーボネートフィルターを通して(各々10回通して)2つの押し出し段階において小型化した。リポソーム製造の全ての段階は、無菌的に行った。リポソームを0.15M NaCl/5mMヒスチジンバッファー(pH6.5)に懸濁した。全てのリポソーム製剤は無菌であり、そしてパイロジェンフリーであった。
【0110】
ミセルは、2K−PEG−DSPEもしくは2K−PEG−DSを2mg/mLで食塩水において十分にボルテックス混合し、続いて0.22μmのフィルターを通して濾過することにより製造した。
【0111】
【表12】

【0112】
B.インビトロ補体活性化測定
リポソームを振盪水浴(80サイクル/分)において希釈していないヒト血清とインキュベーションし、そして補体最終複合体SC5b−9の形成を測定することにより補体活性化を概算した。典型的な実験として、10μLのリポソームをエッペンドルフチューブにおいて40μLの血清と混合し、それを次に振盪水浴(80rpmの振盪速度)において37℃で30分間インキュベーションした。反応は、20容量の10mM EDTA、25mg/mLウシ血清アルブミン、0.05% Tween20および0.01%チメロサール(pH7.4)(すなわち、EDTAを補足したSC5b−9 ELISAキットの「サンプル希釈剤」)を加えることにより停止した。SC5b−9は、以前に記述されているように(Szebeni,J.et al.J.Natl.Cancer Inst.,90:300(1998))、酵素免疫測定法(Quidel Co.,San
Diego,CA)により決定した。
実施例7
インビボにおける補体活性化の測定
実施例6に記述するように製造したリポソームを以下のようにブタに投与した。25〜40kgの範囲の両方の性別のヨークシャーブタを入手した。動物をi.m.ケタミン(500mg)で落ち着かせ、そして麻酔器を用いて2%イソフルランで麻酔した。肺動脈楔入圧(PAP)を測定するために肺動脈カテーテルを右内頸静脈を経て右心房を通って肺動脈に進めた。全身動脈圧(SAP)は、大腿動脈において測定した。手術、器具類および血流力学分析の他の詳細は、以前に記述されているように行った(Szebeni,J.et al.,Circulation,99:2302(1999))。
【0113】
各リポソーム製剤の示した量を1mLのPBSに希釈し、そしてカテーテル導入器によって頸静脈に、もしくは肺動脈カテーテルによって直接肺動脈に注入した。これらの注入方法は、血流力学変化を誘導することにおいて同等であった。リポソームを5〜10mLのPBSで循環に流した。リポソーム反応の複合測定を与えるために、以下の生理的異常
の一つに関してモニターすることにより血流力学変化を任意の等級付けスキームにより定量した:
異常
PAPの上昇
全身動脈圧(SAP)の上昇もしくは減少
心拍出量の減少
EKG異常
吐き出されるCOの減少
心拍数の上昇もしくは減少
血漿TXB2の上昇
肺および全身血管抵抗の上昇
顔面紅潮。
【0114】
ブタにおけるリポソームにより誘導される心臓血管反応を以下のように見積もった:
グレード 症状
0(なし) ECGもしくは任意の血流力学パラメーターにおける有意な改変が
ない
I(最小) 以下のパラメーター:心拍数、ECG、SAP、PAP、Hb酸素
飽和度の1つもしくはそれ以上における一時的な(<2分)、<2
0%の明らかに識別可能な変化
II(軽度) 以下のパラメーター:心拍数、ECG、SAP、PAP、Hb酸素
飽和度の1つもしくはそれ以上における一時的な(<2分)、>2
0%しかし<50%の変化
III(重度) 上記のパラメーターの1つより多くにおけるさらに長時間の(10
分まで)、>50%の変化、+徐脈性不整脈
IV(致死) 致死反応:エピネフリンおよび/もしくは除細動を伴うCPRを必
要とする4分以内の循環虚脱。典型的にSAPは<40mmHgに
減少し、PAPは最大(約60mmHg)に上昇し、頻脈の後に不
整脈を伴う重度の徐脈が続き、心停止および死をもたらす。
実施例8
リポソーム製剤のインビボ特性化
4種のリポソーム(LUV)製剤を製造した。リポソーム組成物および特性化を表6に記載する。配合物の各々を製造することにおいて、配合物の全ての脂質成分を第三級ブタノールに溶解した。清澄溶液を凍結乾燥した。粉末を10mLの熱い(65℃)滅菌したパイロジェンフリーの食塩水において70℃で1分間ボルテックスすることにより水和させてMLVを生成せしめた。MLVを62℃でNorthern Lipis(以前はLipex),Vancouver,BC,CanadaからのTEX 020 10mLバレル押し出し機を用いて0.4および0.4ミクロン細孔サイズのポリカーボネートフィルターを通して(各々10回通して)2つの押し出し段階において小型化した。リポソーム製造の全ての段階は、無菌的に行った。
【0115】
市販用のDoxilを用いた(リン脂質濃度13.3mM、150μgのドキソルビシン/μmolリン脂質)。全ての他のリポソームは食塩水(0.9%NaCl)において製造し、そして(NHSO)勾配を欠く。使用した全てのリポソームは、サイズ範囲105nm±35nmであった(表6を参照)。
【0116】
Doxilおよび他の試験リポソームの示した量を1mLのPBSに希釈し、そして右心室に、もしくは肺動脈カテーテルによって直接ブタの肺動脈に注入した。リポソームを10mLのPBSで循環に流した。以前の結果により、小リポソームボーラスの血流力学効果は、同じ動物において非タキフィラキシー(nontachyphylactic)でありそして定量的に数回再現可能であることが示され、従って、増加する量の同じタイプのリポソームを反応が起こるまで、もしくは反応がない場合には、ある所定の最高用量が試験されるまで各ブタに注入した。結果を表7に示す。
【0117】
本発明は特定の方法および態様に関して記述されているが、様々な改変を本発明からそれることなしに行うことができると理解される。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本明細書においてPEG−DSと称する、カルバメート連結非荷電性リポポリマーの製造の合成スキームを示す。
【図2A−2D】エーテル、エステル、アミドおよびケト連結非荷電性リポポリマーの製造の合成スキームを示す。
【図3A−3C】血液、肝臓および脾臓における3モル%のPEG−DS(図3A);5モル%のPEG−DSPE(図3B);もしくは5モル%のPEG−DS(図3C)を含有するHSPC/Cholリポソームの生体内分布を示すグラフである。
【図4】PEG脂質を含有しない(十字)、5モル%のPEG−DSPE(三角)もしくは5モル%のPEG−DS(丸)を含有する水素化ダイズホスファチジルコリンリポソームの血液における保持を示すグラフである。
【図5】ホスファチジルエタノールアミンもしくはホスファチジルグリセロールのような、天然リン脂質由来の中性−両性イオンmPEG−脂質コンジュゲートの製造の合成スキームを示す。
【図6】リン酸緩衝食塩水(PBS)によるSC5b−9誘導のパーセンテージとして表される、製剤番号1、3、4、5、6、8、9および10のSC5b−9誘導により測定した場合の、インビトロでヒト血清における補体活性化の誘導を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小胞形成脂質および式:
【化1】

[式中、RおよびRの各々は、8〜24個の間の炭素原子を有するアルキルもしくはアルケニル鎖であり;
n=10〜300、
ZはC〜Cアルコキシ、C〜Cアルキルエーテル、n−メチルアミド、ジメチルアミド、メチルカーボネート、ジメチルカーボネート、カルバメート、アミド、n−メチルアセトアミド、ヒドロキシ、ベンジルオキシ、カルボン酸エステル、C〜Cアルキルカーボネートおよびアリールカーボネートよりなる群から選択され;そして
Lは(i)−X−(C=O)−Y−CH−、(ii)−X−(C=O)−および(iii)−X−CH−よりなる群から選択され、ここで、XおよびYは酸素、NHおよび直接結合から独立して選択され、ただし、Lが−X−(C=O)−である場合には、XはNHではない]
を有する1〜10モルパーセントの間の中性リポポリマー;および残りの小胞形成脂質を含んでなるリポソームを含んでなる、封入された治療薬を含有するリポソームのインビボ投与の際にリポソームにより誘導される補体活性化を減少するための薬剤の製造に使用するリポソーム組成物。
【請求項2】
Xが酸素であり、そしてYが窒素である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
Lがカルバメート連結(carbamate linkage)、エステル連結もしくはカーボネート連結である請求項1もしくは請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
Lが−O−(C=O)−NH−CH−(カルバメート連結)である請求項1〜3のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項5】
Zがヒドロキシもしくはメトキシである請求項1〜4のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項6】
該リポソームが1モルパーセント〜10モルパーセントの間の中性リポポリマージステアロイル(カルバメート連結)ポリエチレングリコールを含む請求項1〜5のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項7】
該リポソームが1モルパーセント〜10モルパーセントの間の中性リポポリマーメトキシ−ポリエチレングリコール1,2ジステアロイルグリセロールを含有する請求項1〜5のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項8】
およびRの各々が8〜24個の間の炭素原子を有する非分枝状アルキルもしくはアルケニル鎖である請求項1〜7のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項9】
およびRの各々がC1735であるいずれかの前記請求項に記載の組成物。
【請求項10】
nが約20〜約115の間である請求項1〜9のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項11】
治療薬が化学療法薬である請求項1〜10のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項12】
該化学療法薬がアントラサイクリン系抗生物質である請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
該化学療法薬がドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシンおよびイダルビシンよりなる群から選択される請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
該化学療法薬が白金含有化合物である請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
該白金含有抗生物質がシスプラチンもしくはカルボプラチン、オルマプラチン、オキサリプラチン、((−)−(R)−2−アミノメチルピロリジン(1,1−シクロブタンジカルボキシラト))白金、ゼニプラチン、エンロプラチン、ロバプラチン、(SP−4−3(R)−1,1−シクロブタン−ジカルボキシラト(2−)−(2−メチル−1,4−ブタンジアミン−N,N’))白金、ネダプラチンおよびビス−アセタト−アンミン−ジクロロ−シクロヘキシルアミン−白金(IV)よりなる群から選択されるシスプラチンアナログである請求項14に記載の組成物。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−519262(P2006−519262A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−508905(P2006−508905)
【出願日】平成16年2月26日(2004.2.26)
【国際出願番号】PCT/US2004/006039
【国際公開番号】WO2004/078121
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(503073787)アルザ・コーポレーシヨン (113)
【出願人】(503083166)イサム・リサーチ・デベロツプメント・カンパニー・オブ・ザ・ヘブルー・ユニバーシテイ・オブ・エルサレム (6)
【Fターム(参考)】