説明

リンモリブデン化合物、その製造方法、該化合物を含有する潤滑油添加剤及び潤滑油組成物

【課題】本発明の目的は、潤滑油組成物のロングドレイン化と金属分やリン原子のような特定の成分の削減を同時に達成できる酸化防止剤を提供できる潤滑油添加剤、及びそれを含有する潤滑油組成物を提供することにある。
【解決手段】本発明は、下記の一般式(1)


(式中、R、R及びRは、それぞれ独立した炭素数1〜20の炭化水素基を表す)で表されるリンモリブデン化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化防止性能の高いリンモリブデン化合物及びリンモリブデンアミン化合物を含有した潤滑油添加剤、及びそれらを含有する潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題等により潤滑油組成物には様々な課題が課せられているが、その中に、潤滑油組成物の使用期間の長期化(ロングドレイン化)や、潤滑油組成物中の特定の成分(主にリン原子)を削減するという課題がある。ロングドレイン化は資源を有効に使う観点から、また、特定の成分の削減は潤滑油の廃棄を安全にかつ経済的に行うために、更にエンジン油として使用する場合は排ガス触媒を保護すること等を目的とするものであり、潤滑油組成物のロングドレイン化と特定の成分の削減が推進されている。
【0003】
ロングドレイン化と特定の成分の削減に関し、最も重要となるのが潤滑油の酸化防止性能の向上である。特にエンジン油等の潤滑油は、熱や水分、酸化窒素ガス等によって劣化を受けるため、潤滑油のロングドレイン化を達成するためには、酸化防止性能を向上させるのが不可欠である。そのため、既存の酸化防止剤で対応するには、酸化防止剤の添加量を増量する必要があった。しかし、潤滑油の酸化防止剤として最も使用される化合物は亜鉛ジチオホスフェートである。亜鉛ジチオホスフェートは、金属分として亜鉛原子とリン原子を含有しており、酸化防止剤(亜鉛ジチオホスフェート)を増量すると金属分やリン原子を削減することはできなかった。また、酸化防止剤にはフェノール系やアミン系など、金属分やリン原子を含有しないものもあるが、これらの酸化防止剤の添加量を増すと、スラッジ等が発生してしまうため一定量以上増やすことができず、現在までロングドレイン化と金属分やリン原子のような特定の成分の削減の二つを同時に達成することはできていなかった。
【0004】
そこで様々な酸化防止剤が検討されている。例えば、特許文献1には、
【化1】

で示される化合物を、合計で60重量%以上含むスチレン化ジフェニルアミン系化合物からなる潤滑剤酸化防止剤が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノールを30〜90重量%および式(I)
【化2】

(式中、RおよびRは、同一又は異なって、炭素数1〜18の炭化水素基、Xは、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ハロゲン原子の少なくとも一種を含有していてもよい炭素数1〜22の炭化水素基、エステル結合、アミド結合およびスルフィド結合含有基からなる群より選択される少なくとも一種の結合部又は置換基を表し、mおよびm’は、同一又は異なって、1又は2、nおよびn’は、同一又は異なって、0又は1〜5の整数、s、tおよびuは、同一又は異なって、0又は1〜5の整数であるが、それらの2以上が同時に0となることはない数である。)で表されるアルキルフェノールを10〜70重量%含有する0℃で少なくとも1週間液状を保つ酸化防止剤組成物が開示されている。
【0006】
更に、特許文献3には、三酸化モリブデン、モリブデン酸またはそのアルカリ塩から選ばれた1種または2種以上の6価のモリブデン化合物を、モノ又はジリン酸エステルと反応させて得られる油溶性モリブデン化合物と、硫黄を含有する化合物とを必須の構成成分とする潤滑組成物が開示されている。
【0007】
また、特許文献4には、三酸化モリブデン、モリブデン酸またはそのアルカリ塩から選ばれた1種または2種以上の化合物を還元剤と反応させた後、モノ又はジリン酸エステルと反応させて得られる油溶性モリブデン化合物と、硫黄を含有する化合物とを必須の構成成分とする潤滑組成物が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開平9−53087号公報 特許請求の範囲
【特許文献2】特開2004−83868号公報 特許請求の範囲
【特許文献3】特開昭62−43491号公報 特許請求の範囲
【特許文献4】特開昭62−39696号公報 特許請求の範囲
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1及び2に記載されているような酸化防止剤を使用しても、潤滑油のロングドレイン化と金属分やリン原子のような特定の成分の削減を同時に達成することはできなかった。また、特許文献3及び4に記載されているようなモリブデン化合物とリン化合物とを反応させた化合物は、酸化防止剤としての性能が不十分で、近年の潤滑油組成物の要求性能を満足させるものではなかった。
【0010】
従って、本発明の目的は、潤滑油組成物のロングドレイン化と金属分やリン原子のような特定の成分の削減を同時に達成できる酸化防止剤を提供できる潤滑油添加剤、及びそれを含有する潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明者らは、近年の潤滑油組成物に要求される酸化防止性能を持つ化合物について鋭意検討し、特定のリンモリブデン化合物の優れた酸化防止性能があることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、下記の一般式(1)
【化3】

(式中、R、R及びRは、それぞれ独立した炭素数1〜20の炭化水素基を表す)で表されるリンモリブデン化合物である。
【0012】
また、本発明は、上記のリンモリブデン化合物の製造方法において、6価の無機モリブデン化合物と、酸性モノリン酸エステル及び酸性ジリン酸エステルとを反応させることを特徴とするリンモリブデン化合物の製造方法である。
【0013】
更に、本発明は、上記のリンモリブデン化合物を含有することを特徴とする潤滑油添加剤である
【0014】
また、本発明は、上記のリンモリブデン化合物とアミン化合物とを反応させることによって得られるリンモリブデンアミン化合物を含有することを特徴とする潤滑油添加剤である。
【0015】
更に、本発明は、潤滑基油に、上記の潤滑油添加剤を配合してなることを特徴とする潤滑油組成物である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果は、ロングドレイン化に対応した酸化防止性能を有し、且つ金属分やリン原子のような特定の成分を削除した潤滑油組成物を提供したことにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、潤滑油のロングドレイン化と金属分やリン原子のような特定の成分の削減を同時に行うことを目的としている。そのために、高性能の酸化防止剤を潤滑油に含有させるものである。ここで、本発明の潤滑油添加剤に使用できるリンモリブデン化合物やリンモリブデンアミン化合物にはモリブデン原子とリン原子が含まれるが、これらの化合物を少量添加することにより、その他の金属含有添加剤の添加量を減少させることができるので、従来の潤滑剤と比較して金属分やリン原子のような特定の成分を大幅に削減することができる。
【0018】
本発明のリンモリブデン化合物は、下記の一般式(1)で表される化合物である:
【化4】

【0019】
一般式(1)において、R、R及びRは、それぞれ独立した炭素数1〜20の炭化水素基を表す。こうした炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基等の脂肪族炭化水素基や、アリール基が挙げられる。
【0020】
脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ターシャリブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、ドデシル(ラウリル)基、トリデシル基、テトラデシル(ミリスチル)基、ペンタデシル基、ヘキサデシル(パルミチル)基、ヘプタデシル基、オクタデシル(ステアリル)基等のアルキル基;ビニル基、1−メチルエテニル基、2−メチルウテニル基、プロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、デセニル基、ペンタデセニル基、オクタデセニル基等のアルケニル基;シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、メチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、メチルシクロペンテニル基、メチルシクロヘキセニル基、メチルシクロヘプテニル基等のシクロアルキル基等が挙げられる。
【0021】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−ビニルフェニル基、3−イソプロピルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、4−ブチルフェニル基、4−イソブチルフェニル基、4−ターシャリブチルフェニル基、4−ヘキシルフェニル基、4−シクロヘキシルフェニル基、4−オクチルフェニル基、4−(2−エチルヘキシル)フェニル基、4−ドデシルフェニル基等のアリール基が挙げられる。
【0022】
これらの炭化水素基の中でも、油への溶解性と性能のバランスから、炭素数6〜18の脂肪族炭化水素基及びアリール基が好ましく、炭素数6〜18の脂肪族炭化水素基がより好ましい。
【0023】
一般式(1)で表されるリンモリブデン化合物は、公知の方法であればいずれの方法で製造してもよいが、製造方法が容易で不純物も少ないことから、6価の無機モリブデン化合物と酸性モノリン酸エステル及び酸性ジリン酸エステルとを反応させるのが好ましい。
【0024】
一般式(1)で表されるリンモリブデン化合物を製造する際に使用できる6価の無機モリブデン化合物としては、例えば、三酸化モリブデン又はその水和物(MoO・nHO)、モリブデン酸(HMoO)、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム等のモリブデン酸金属塩(MMoO;Mは金属原子)、モリブデン酸アンモニウム[(NHMoO又は(NH(Mo24)・4HO]、MoOCl、MoOCl、MoOBr、MoCl等が挙げられるが、入手し易い三酸化モリブデン又はその水和物、モリブデン酸金属塩、モリブデン酸アンモニウム等が好ましい。
【0025】
一般式(1)で表されるリンモリブデン化合物を製造する際に使用できる酸性モノリン酸エステルと酸性ジリン酸エステルとしては、下記一般式(2)で表される酸性リン酸エステルのm=1、n=2の酸性モノリン酸エステルと、m=2、n=1の酸性ジリン酸エステルである:
【化5】

【0026】
上記一般式(2)中、Rは炭素数1〜20の炭化水素基を表し、m及びnは1又は2の数を表し、且つm+n=3である。上記Rとしては、一般式(1)で例示した炭化水素基が挙げられる。なお、mが2の場合のRは、同一でも異なっていてもよい。
【0027】
これらの炭化水素基の中でも、油への溶解性と性能のバランスから、炭素数6〜18の脂肪族炭化水素基及びアリール基が好ましく、炭素数6〜18の脂肪族炭化水素基がより好ましい。また、酸性モノリン酸エステルと酸性ジリン酸エステルのモル比は1/9〜9/1であることが好ましく、2/8〜8/2がより好ましく、4/6〜6/4が更に好ましい。酸性モノリン酸エステルの含有量が10モル%未満、又は酸性ジリン酸エステルの含有量が10モル%未満であると、潤滑油に適した酸化防止効果に劣る場合があるために好ましくない。
【0028】
これらの酸性モノリン酸エステル及び酸性ジリン酸エステルの製造方法は、ROHで表されるアルコールと、リン酸や五酸化二リン、ポリリン酸等を反応させる等の、公知の方法のいずれを使用してもよく、酸性モノリン酸エステルや酸性ジリン酸エステルの混合物が得られた場合は、そのまま6価の無機モリブデンとの反応に使用できる。また、酸性モノリン酸エステルや酸性ジリン酸エステルの単品が得られた場合には、新たに酸性モノリン酸エステル若しくは酸性ジリン酸エステルを混合して6価の無機モリブデン化合物と反応させるか、酸性モノリン酸エステルと酸性ジリン酸エステルを交互に6価の無機モリブデン化合物と反応させればよいが、一般式(1)で表される化合物を多く生成することから、酸性モノリン酸エステルと酸性ジリン酸エステルを混合して6価の無機モリブデン化合物と反応させることが好ましい。
【0029】
ここで、酸性モノリン酸エステル及び酸性ジリン酸エステルを使用する理由について説明する。酸化防止剤としての機能とは、例えば、系内に発生したラジカルやパーオキサイド等の劣化因子と酸化防止剤が反応して劣化因子を取り除き、劣化の進行を遅らせるものであるが、6価の無機モリブデン化合物と酸性モノリン酸エステルを反応させたもの[主に一般式(3)の化合物が生成する]は、劣化因子との反応性が良すぎるため系内で直ぐに消費されてしまい、酸化防止効果の持続性に劣る。一方、6価の無機モリブデン化合物と酸性ジリン酸エステルを反応させたもの[主として一般式(4)の化合物が生成する]は、系内での消費は遅いものの、劣化因子との反応性が悪く、良好な酸化防止効果が得られない。しかし、酸性モノリン酸エステル及び酸性ジリン酸エステルの混合物を使用すると、主として一般式(1)で表される化合物が生成し、良好な持続性及び良好な酸化防止効果の両方を実現することができる。酸性モノリン酸エステルと酸性ジリン酸エステルのモル比は、1/9〜9/1であることが好ましく、2/8〜8/2がより好ましく、4/6〜6/4が更に好ましいが、その理由はモル比が1対1に近付く程、一般式(1)で表される化合物の生成量が多くなるためである。また、一般式(3)及び(4)の化合物の含量は、全体の50モル%未満であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましい:
【0030】
【化6】

(R及びRはそれぞれ独立した炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)
【0031】
【化7】

(R〜Rはそれぞれ独立した炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)
【0032】
次に、一般式(1)で表されるリンモリブデン化合物の製造方法について詳しく説明する。反応工程には次の2つの方法が挙げられる。6価の無機モリブデン化合物を水に溶解又は分散させ、鉱酸で中和し、その後酸性モノリン酸エステル及び酸性ジリン酸エステルと反応させる方法、若しくは6価の無機モリブデン化合物を水に溶解又は分散させ、酸性モノリン酸エステル及び酸性ジリン酸エステルと反応させ、その後鉱酸で中和する方法である。鉱酸での中和は、酸性モノリン酸エステル及び酸性ジリン酸エステルを反応させる前でも後でもよい。
【0033】
原料となる6価の無機モリブデン化合物はいずれも固体であり、酸性モノリン酸エステル及び酸性ジリン酸エステルと反応させるためには水に溶解又は分散させる必要がある。モリブデン酸ナトリウム等のモリブデン酸金属塩やモリブデン酸アンモニウムは水溶性であり、このまま水に溶解させることができるが、三酸化モリブデン等の水に不溶なモリブデン化合物を使用する場合は、アルカリ剤を添加して溶解させればよい。アルカリ剤としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属や、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の塩基性窒素化合物が挙げられる。これらの中でも、取り扱いが容易で安価なことから、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアが好ましい。アルカリ剤の添加量は、6価の無機モリブデン化合物が水に溶解又は分散すればいずれの量でもよいが、三酸化モリブデン等の非水溶性モリブデン化合物の場合は、系内のモリブデン1モルに対して、0.5〜1.5モル添加するのが好ましい。溶解させる水の量は、6価の無機モリブデン化合物が溶解又は分散すればいずれの量でもよく、好ましくは固形分が10〜90質量%になるように調整すればよい。また、溶解させる際の温度は、10〜80℃、好ましくは20〜60℃、より好ましくは20〜40℃である。
【0034】
6価の無機モリブデン化合物を水に溶解又は分散させた後、中和工程を入れない場合は酸性モノリン酸エステル及び酸性ジリン酸エステルを添加して反応させる。酸性モノリン酸エステル及び酸性ジリン酸エステルの添加量は、系内のモリブデン原子1モルに対して、リン原子として1〜3モル、好ましくは1.2〜2.8モル、より好ましくは1.5〜2.5モルである。酸性モノリン酸エステル及び酸性ジリン酸エステルの添加量が少なすぎると、6価の無機モリブデン化合物が残留し、多すぎると未反応の酸性モノリン酸エステル及び酸性ジリン酸エステルが残留する場合がある。また、酸性モノリン酸エステル及び酸性ジリン酸エステルを添加するときの系内の温度は30〜90℃であることが好ましく、30〜70℃がより好ましい。酸性モノリン酸エステル及び酸性ジリン酸エステルを添加する場合、0.1〜3時間かけてゆっくり添加することが好ましく、0.5〜2時間かけて添加するのがより好ましい。更に、添加後は30〜90℃、好ましくは30〜70℃で、1〜20時間熟成することが好ましく、3〜10時間熟成するのがより好ましい。なお、酸性モノリン酸エステル及び酸性ジリン酸エステルを反応させる前に中和工程を入れた場合でも、酸性モノリン酸エステル及び酸性ジリン酸エステルの反応は上記と同様である。
【0035】
中和工程は上記したとおり、6価の無機モリブデン化合物と酸性モノリン酸エステル及び酸性ジリン酸エステルを反応させる前でも、反応させた後でもよい。中和工程で使用できる鉱酸としては、一塩基酸、二塩基酸、三塩基酸あるいはそれらの部分中和物等のいずれであってもよいが、リン酸等のリン原子を含有する鉱酸は使用できない。これら使用できる鉱酸としては、例えば、塩酸、硝酸、亜硝酸、硫酸、亜硫酸、過塩素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸等が挙げられるが、反応効率および高純度で生成物が得られる点から塩酸、硝酸、硫酸が好ましく、更に、不揮発性のものが取り扱い容易であるため好ましく、特に、硫酸の使用が好ましい。
【0036】
鉱酸の添加量は、水溶液中のモリブデン1モルに対して1価の酸であるなら1〜6モル、好ましくは2〜5モル、より好ましくは3〜5モルである。また、2価の酸であるなら1価の酸の1/2モル量、3価の酸であるなら1価の酸の1/3モル量でよく、例えば、水溶液中のモリブデン1モルに対して硫酸等の2価の酸は0.5〜3モル、好ましくは1〜2.5モル、より好ましくは1.5〜2.5モルである。鉱酸の添加量が少なすぎると、一般式(1)で表されるリンモリブデン化合物が生成せず、多すぎると添加量に見合った効果が現れず、更に鉱酸の後処理が困難になる場合があるために好ましくない。
【0037】
また、鉱酸を添加するときの系内の温度は、上記2つの工程いずれも30〜90℃であることが好ましく、40〜80℃がより好ましい。更に、鉱酸を添加すると、中和熱によって発熱するので、安全のために0.1〜3時間かけてゆっくり添加することが好ましく、0.5〜2時間かけて添加するのがより好ましい。更に、添加後は、30〜90℃で0.1〜5時間熟成することが好ましく、0.5〜3時間熟成するのがより好ましい。
【0038】
以上の反応によって、一般式(1)で表されるリンモリブデン化合物は生成するが、純度の高いものを得るためには精製する必要がある。精製の方法は公知の方法のいずれを使用してもよく、例えば、水を蒸留等によって除去した後に副生した固形物をろ過によって取り除く方法、水を除去した後に、一般式(1)で表されるリンモリブデン化合物を蒸留して得る方法、有機溶媒によって一般式(1)で表されるリンモリブデン化合物を抽出する方法等が挙げられる。これらの精製方法の中でも、精製工程が容易で純度の高いものが得られることから、有機溶媒を使用して精製する方法が好ましい。
【0039】
有機溶媒を使用して精製する具体的な方法としては、例えば、水と分離する有機溶媒を反応の終わった系内に入れ、撹拌した後静置して2層に分離させる。水層が上層になる場合と下層になる場合があるが、いずれの場合でも水層を除去した後、得られた有機溶媒層の有機溶媒を減圧等で除去することによって、一般式(1)で表されるリンモリブデン化合物を得ることができる。また、副生物や不純物を減らすために、得られた有機溶媒層に更に水を添加して洗浄することが好ましい。
【0040】
使用できる有機溶媒としては、水と分離する有機溶媒であればいずれを使用してもよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘミメリテン、プソイドクメン、メシチレン、クメン等の芳香族系溶媒;ペンタン、ヘキサン、オクタン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素系溶媒;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;メチルエチルケトン、メチルブチルケトン等のケトン系溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒の中でも、水層と有機層との分離が容易なことから、芳香族系溶媒の使用が好ましく、ベンゼン、トルエン、キシレンの使用がより好ましい。これらの有機溶媒の使用量は、系内の固形分100質量部に対して、20〜400質量部、好ましくは50〜200質量部であるが、反応中に溶媒を使用した場合には、その使用量を考慮する必要がある。
【0041】
本発明の潤滑油添加剤に使用できるリンモリブデンアミン化合物は、上記一般式(1)で表されるリンモリブデン化合物にアミン化合物を反応させたものである。こうしたアミン化合物としては、塩基性の窒素原子を持つ化合物であればいずれでもよく、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、アルカノールアミン、ポリアミン、脂肪酸とポリアミンとの反応物等が挙げられる。
【0042】
脂肪酸アミンとしては、例えば、(モノ、ジ、トリ)メチルアミン、(モノ、ジ、トリ)エチルアミン、(モノ、ジ、トリ)プロピルアミン、(モノ、ジ、トリ)イソプロピルアミン、(モノ、ジ、トリ)ブチルアミン、(モノ、ジ、トリ)2級ブチルアミン、(モノ、ジ、トリ)ターシャリブチルアミン、(モノ、ジ、トリ)ペンチルアミン、(モノ、ジ、トリ)イソペンチルアミン、(モノ、ジ、トリ)2級ペンチルアミン、(モノ、ジ、トリ)ターシャリペンチルアミン、(モノ、ジ、トリ)ヘキシルアミン、(モノ、ジ、トリ)2級ヘキシルアミン、(モノ、ジ、トリ)ヘプチルアミン、(モノ、ジ、トリ)2級ヘプチルアミン、(モノ、ジ、トリ)オクチルアミン、(モノ、ジ、トリ)2−エチルヘキシルアミン、(モノ、ジ、トリ)オクチルアミン、(モノ、ジ、トリ)2級オクチルアミン、(モノ、ジ、トリ)ノニルアミン、(モノ、ジ、トリ)2級ノニルアミン、(モノ、ジ、トリ)デシルアミン、(モノ、ジ、トリ)2級デシルアミン、(モノ、ジ、トリ)ウンデシルアミン、(モノ、ジ、トリ)2級ウンデシルアミン、(モノ、ジ、トリ)ドデシルアミン、(モノ、ジ、トリ)2級ドデシルアミン、(モノ、ジ、トリ)トリデシルアミン、(モノ、ジ、トリ)2級トリデシルアミン、(モノ、ジ、トリ)テトラデシルアミン、(モノ、ジ、トリ)2級テトラデシルアミン、(モノ、ジ、トリ)ヘキサデシルアミン、(モノ、ジ、トリ)2級ヘキサデシルアミン、(モノ、ジ、トリ)ステアリルアミン、(モノ、ジ、トリ)エイコシルアミン、(モノ、ジ、トリ)ドコシルアミン等のアルキルアミン;ビニルアミン、(モノ、ジ、トリ)アリルアミン、(モノ、ジ、トリ)プロペニルアミン、(モノ、ジ、トリ)イソプロペニルアミン、(モノ、ジ、トリ)ブテニルアミン、(モノ、ジ、トリ)イソブテニルアミン、(モノ、ジ、トリ)ペンテニルアミン、(モノ、ジ、トリ)イソペンテニルアミン、(モノ、ジ、トリ)ヘキセニルアミン、(モノ、ジ、トリ)ヘプテニルアミン、(モノ、ジ、トリ)オクテニルアミン、(モノ、ジ、トリ)ノネニルアミン、(モノ、ジ、トリ)デセニルアミン、(モノ、ジ、トリ)ウンデセニルアミン、(モノ、ジ、トリ)ドデセニルアミン、(モノ、ジ、トリ)テトラデセニルアミン、(モノ、ジ、トリ)オレイルアミン等のアルケニルアミンが挙げられる。
【0043】
芳香族アミンとしては、例えば、(モノ、ジ、トリ)フェニルアミン、(モノ、ジ、トリ)トルイルアミン、(モノ、ジ、トリ)キシリルアミン、(モノ、ジ、トリ)クメニルアミン、(モノ、ジ、トリ)ベンジルアミン、(モノ、ジ、トリ)フェネチルアミン、(モノ、ジ、トリ)スチリルアミン、(モノ、ジ、トリ)トリチルアミン、(モノ、ジ、トリ)エチルフェニルアミン、(モノ、ジ、トリ)プロピルフェニルアミン、(モノ、ジ、トリ)ブチルフェニルアミン、(モノ、ジ、トリ)ペンチルフェニルアミン、(モノ、ジ、トリ)ヘキシルフェニルアミン、(モノ、ジ、トリ)ヘプチルフェニルアミン、(モノ、ジ、トリ)オクチルフェニルアミン、(モノ、ジ、トリ)ノニルフェニルアミン、(モノ、ジ、トリ)デシルフェニルアミン、(モノ、ジ、トリ)ドデシルフェニルアミン、(モノ、ジ、トリ)オクタデシルフェニルアミン、(モノ、ジ、トリ)スチレン化フェニルアミン、(モノ、ジ、トリ)p−クミルフェニルアミン、(モノ、ジ、トリ)フェニルフェニルアミン、(モノ、ジ、トリ)ベンジルフェニルアミン、(モノ、ジ、トリ)α−ナフチルアミン、(モノ、ジ、トリ)β−ナフチルアミン等が挙げられる。
【0044】
アルカノールアミンとしては、例えば、(モノ、ジ、トリ)エタノールアミン、(モノ、ジ、トリ)プロパノールアミン、(モノ、ジ、トリ)イソプロパノールアミン、(モノ、ジ、トリ)ブタノールアミン、(モノ、ジ、トリ)ペンタノールアミン、(モノ、ジ、トリ)ヘキサノールアミン、(モノ、ジ、トリ)オクタノールアミン、(モノ、ジ、トリ)ノナノールアミン、(モノ、ジ、トリ)デカノールアミン、(モノ、ジ、トリ)ドデカノールアミン、(モノ、ジ、トリ)トリデカノールアミン、(モノ、ジ、トリ)オクタデカノールアミン等が挙げられる。
【0045】
ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペタンエチレンヘキサミン、プロピレンジアミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン、テトラプロピレンペンタミン、ペンタプロピレンヘキサミン等が挙げられる。
【0046】
脂肪族とポリアミンとの反応物における脂肪酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸(酪酸)、ペンタン酸(吉草酸)、イソペンタン酸(イソ吉草酸)、ヘキサン酸(カプロン酸)、ヘプタン酸、イソヘプタン酸、オクタン酸(カプリル酸)、2−エチルヘキサン酸、イソオクタン酸、ノナン酸(ペラルゴン酸)、イソノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、イソデカン酸、ウンデカン酸、イソウンデカン酸、ドデカン酸(ラウリン酸)、イソドデカン酸、トリデカン酸、イソトリデカン酸、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、イソステアリン酸、エイコサン酸(アラキン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラコサン酸(リグノセリン酸)、ヘキサコサン酸(セロチン酸)、オクタコサン酸(モンタン酸)、10−ウンデセン酸、ゾーマリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ガドレン酸、エルカ酸、セラコレイン酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸等が挙げられる。これらの脂肪酸と上記ポリアミンとを反応させることによって、脂肪酸とポリアミンとの反応物を得ることができる。これらの反応物は、アミノ基を持ったアミド化合物や、アミノ基を持ったイミド化合物となる。
【0047】
これらのアミン化合物の中でも、脂肪族アミンとアミノ基を持ったイミド化合物が好ましく、炭素数4〜18のアルキル基又はアルケニル基を持つ脂肪族アミンとN置換アルケニルコハク酸イミドがより好ましい。
【0048】
上記のN置換アルケニルコハク酸イミドは、ポリアミンの末端にある1級アミノ基がイミド基の窒素原子となったものであり、イミド基が1つであるモノコハク酸イミドと、イミド基が2つであるジコハク酸イミドの2つの構造がある。これらのN置換アルケニルコハク酸イミドは、重量平均500〜3000のアルケニル基が付加されたものが好ましく、製造が容易なことから、重量平均500〜3000のポリプロペニル基やポリブテニル基等のアルケニル基が付加されたものがより好ましい。
【0049】
上記一般式(1)で表されるリンモリブデン化合物とアミン化合物との反応は、両化合物を50〜100℃で1〜10時間撹拌混合し、同温度にて減圧で30分〜3時間脱水することで得ることができる。
【0050】
本発明の潤滑油組成物に使用できる潤滑基油に特に制約はなく、従来潤滑基油として慣用されている一般的な潤滑基油、例えば、鉱油、合成油及びこれらの混合物が挙げられる。より具体的には、ポリ−α−オレフィン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリブデン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、アルキル置換ジフェニルエーテル、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、炭酸エステル、シリコーン油、フッ素化油、GTL(Gas to Liquids)等の合成油、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油あるいはこれらを精製した精製鉱油類等を用いることができる。これらの基油はそれぞれ単独で用いてもよく、混合物で用いてもよい。これらの潤滑基油の中でも、粘度指数が100以上の基油を使用するのが好ましく、粘度指数が100以上のポリ−α−オレフィン、GTL、精製鉱油の使用がより好ましい。
【0051】
本発明の潤滑油組成物は、上記のリンモリブデン化合物及び/又はリンモリブデンアミン化合物を含有するものであるが、二つの化合物を併用してもよい。本発明の潤滑油組成物全量に対するリンモリブデン化合物及び/又はリンモリブデンアミン化合物の含量は、リン含量(二つの化合物を併用する場合にはトータルのリン含量)として、10〜200質量ppm、好ましくは20〜100質量ppm、より好ましくは30〜80質量ppmである。10質量ppm未満となると、酸化防止剤としての効果が現れない場合があり、また、200質量ppmを超ると、添加量に見合った効果が得られない場合や、スラッジを発生させる場合があるために好ましくない。
【0052】
また、本発明の潤滑油組成物には、更に下記一般式(5)で表される亜鉛ジチオホスフェートを含有させることにより、酸化防止性能を更に向上させることができる:
【化8】

【0053】
一般式(5)において、R10及びR11は炭化水素基を表わす。炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられる。
【0054】
アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、2級ブチル、ターシャリブチル、ペンチル、イソペンチル、2級ペンチル、ネオペンチル、ターシャリペンチル、ヘキシル、2級ヘキシル、ヘプチル、2級ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、2級オクチル、ノニル、2級ノニル、デシル、2級デシル、ウンデシル、2級ウンデシル、ドデシル、2級ドデシル、トリデシル、イソトリデシル、2級トリデシル、テトラデシル、2級テトラデシル、ヘキサデシル、2級ヘキサデシル、ステアリル、エイコシル、ドコシル、テトラコシル、トリアコンチル、2−ブチルオクチル、2−ブチルデシル、2−ヘキシルオクチル、2−ヘキシルデシル、2−オクチルデシル、2−ヘキシルドデシル、2−オクチルドデシル、2−デシルテトラデシル、2−ドデシルヘキサデシル、2−ヘキサデシルオクタデシル、2−チトラデシルオクタデシル、モノメチル分枝−イソステアリル等が挙げられる。
【0055】
アルケニル基としては、例えば、ビニル、アリル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、イソブテニル、ペンテニル、イソペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、テトラデセニル、オレイル等が挙げられる。
【0056】
アリール基としては、例えば、フェニル、トルイル、キシリル、クメニル、メシチル、ベンジル、フェネチル、スチリル、シンナミル、ベンズヒドリル、トリチル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル、ペンチルフェニル、ヘキシルフェニル、ヘプチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、デシルフェニル、ウンデシルフェニル、ドデシルフェニル、スチレン化フェニル、p−クミルフェニル、フェニルフェニル、ベンジルフェニル、α−ナフチル、β−ナフチル基等が挙げられる。
【0057】
シクロアルキル基、シクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、メチルシクロペンチル、メチルシクロヘキシル、メチルシクロヘプチル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、メチルシクロペンテニル、メチルシクロヘキセニル、メチルシクロヘプテニル等が挙げられる。
【0058】
これらの炭化水素基の中で、R10及びR11としては、アルキル基が好ましく、2級アルキル基が更に好ましい。炭素数は、3〜14であることが好ましく、3〜10であることが更に好ましく、3〜8であることが最も好ましい。又、R10及びR11は、同一の炭化水素基でも異なる炭化水素基でもよい。
【0059】
また、一般式(5)において、a=0の場合、中性亜鉛ジチオホスフェート(中性塩)と呼ばれ、aが1/3の場合は、塩基性亜鉛ジチオホスフェート(塩基性塩)と呼ばれている。亜鉛ジチオホスフェートは、これら中性塩と塩基性塩の混合物であるため、aは0〜1/3の数で表わされる。aの数は亜鉛ジチオホスフェートの製法によって異なるが、0.08〜0.3が好ましく、0.15〜0.3が更に好ましく、0.18〜0.3が最も好ましい。aの値が大きくなると加水分解安定性が悪くなる傾向にあり、aの値が小さくなると配合した潤滑油の耐摩耗性が悪くなる傾向にあるため、亜鉛ジチオホスフェートは用途に応じて適宜選択することができる。
【0060】
亜鉛ジチオホスフェートの添加量は、リンモリブデン化合物及び/又はリンモリブデンアミン化合物の添加量を考慮して決定する必要がある。亜鉛ジチオホスフェートは、本発明の潤滑油組成物中の総リン含量が800質量ppm以下になるように添加するのが好ましく、600質量ppm以下になるように添加するのがより好ましく、500質量ppm以下になるように添加するのが更に好ましい。800質量ppmを超えるとスラッジを発生させる場合や、ガソリンエンジンオイルに用いる場合は排ガス触媒に悪影響を与える場合がある。また、本発明の潤滑油組成物中の総リン含量が100質量ppm以下になると、酸化防止性能が足らなくなる場合がある。
【0061】
本発明の潤滑油組成物は、更にフェノール系酸化防止剤及び/又はアミン系酸化防止剤を含有することにより酸化防止性能が向上する。フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−ターシャリブチルフェノール(以下、ターシャリブチルをt−ブチルと略記する。)、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,6−ビス(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、3−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸オクチル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸ステアリル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸オレイル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸ドデシル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸デシル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸オクチル、テトラキス{3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオニルオキシメチル}メタン、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸グリセリンモノエステル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸とグリセリンモノオレイルエーテルとのエステル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸ブチレングリコールジエステル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸チオジグリコールジエステル、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)サルファイド、トリス{(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル−オキシエチル}イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、ビス{2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル}サルファイド、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、テトラフタロイル−ジ(2,6−ジメチル−4−t−ブチル−3−ヒドロキシベンジルサルファイド)、6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−{ジエチル−ビス−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)}プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシナミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジル−リン酸ジエステル、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルベンジル)サルファイド、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス{3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド}グリコールエステル等が挙げられる。
【0062】
フェノール系酸化防止剤の含量は、本発明の潤滑油組成物全量に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.05〜4質量%がより好ましく、0.1〜3質量%が更に好ましい。0.01質量%未満となると、フェノール系酸化防止剤の効果が現れない場合があり、5質量%を超えると、添加量に見合った効果が得られない場合やスラッジを発生させる場合がある。
【0063】
アミン系酸化防止剤としては、例えば、1−ナフチルアミン、フェニル−1−ナフチルアミン、p−オクチルフェニル−1−ナフチルアミン、p−ノニルフェニル−1−ナフチルアミン、p−ドデシルフェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン等のナフチルアミン系酸化防止剤;N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジイソブチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−シクロヘキシル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、ジオクチル−p−フェニレンジアミン、フェニルヘキシル−p−フェニレンジアミン、フェニルオクチル−p−フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系酸化防止剤;ジピリジルアミン、ジフェニルアミン、p,p’−ジ−n−ブチルジフェニルアミン、p,p’−ジ−t−ブチルフェニレンジアミン、p,p’−ジ−t−ペンチルジフェニルアミン、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、p,p’−ジノニルフェニルアミン、p,p’−ジデシルジフェニルアミン、p,p’−ジドデシルジフェニルアミン、p,p’−ジスチリルジフェニルアミン、p,p’−ジメトキシジフェニルアミン、4,4’−ビス(4−α,α−ジメチルベンゾイル)ジフェニルアミン、p−イソプロポキシジフェニルアミン、ジピリジルアミン等のジフェニルアミン系酸化防止剤;フェノチアジン、N−メチルフェノチアジン、N−エチルフェノチアジン、3,7−ジオクチルフェノチアジン、フェノチアジンカルボン酸エステル、フェノセレナジン等のフェノチアジン系酸化防止剤が挙げられる。
【0064】
アミン系酸化防止剤の含量は、本発明の潤滑油組成物全量に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.05〜4質量%がより好ましく、0.1〜3質量%が更に好ましい。0.01質量%未満となると、アミン系酸化防止剤の効果が現れない場合があり、5質量%を超えると、添加量に見合った効果が得られない場合やスラッジを発生させる場合があるために好ましくない。
【0065】
更に、本発明の潤滑油組成物は、公知の潤滑油添加剤の添加を拒むものではなく、使用目的に応じて、摩擦低減剤、極圧剤、油性向上剤、清浄剤、分散剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、腐食防止剤、消泡剤などを本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。但し、これらの中でリン系の添加剤を使用する場合は、エンジン油中の総リン含量が増えるので、本発明で規定した範囲を超えないようにする必要がある。
【0066】
摩擦低減剤としては、例えば、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジチオフォスフェート等の有機モリブデン化合物が挙げられる。これら摩擦低減剤の好ましい配合量は、潤滑基油に対してモリブデン含量で30〜2000質量ppm、より好ましくは50〜1000質量ppmである。ただし、リン原子を含有している硫化オキシモリブデンジチオフォスフエートより、硫化オキシモリブデンジチオカルバメートの使用が好ましく、炭素数8〜13のアルキル基を持つ硫化オキシモリブデンジチオカルバメートの使用がより好ましい。
【0067】
極圧剤としては、例えば、硫化油脂、オレフィンポリスルフィド、ジベンジルスルフィド等の硫黄系添加剤;モノオクチルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリフェニルフォスファイト、トリブチルフォスファイト、チオリン酸エステル等のリン系化合物;チオリン酸金属塩、チオカルバミン酸金属塩、酸性リン酸エステル金属塩等の有機金属化合物などが挙げられる。これら極圧剤の好ましい配合量は、潤滑基油に対して0.01〜2質量%、より好ましくは0.05〜1質量%である。ただし、リン原子を含有している化合物の使用はできるだけ避けるのが好ましい。
【0068】
油性向上剤としては、例えば、オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類;オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸類;オレイルグリセリンエステル、ステリルグリセリンエステル、ラウリルグリセリンエステル等のエステル類;ラウリルアミド、オレイルアミド、ステアリルアミド等のアミド類;ラウリルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミン等のアミン類;ラウリルグリセリンエーテル、オレイルグリセリンエーテル等のエーテル類が挙げられる。これら油性向上剤の好ましい配合量は、潤滑基油に対して0.1〜5質量%、より好ましくは0.2〜3質量%である。
【0069】
清浄剤としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどのスルフォネート、フェネート、サリシレート、フォスフェート及びこれらの過塩基性塩が挙げられる。これらの中でも過塩基性塩が好ましく、過塩基性塩の中でもTBN(トータルベーシックナンバー)が30〜500mgKOH/gのものがより好ましい。更に、リン及び硫黄原子のないサリシレート系の清浄剤が好ましい。これらの清浄剤の好ましい配合量は、潤滑基油に対して0.5〜10質量%、より好ましくは1〜8質量%である。
【0070】
分散剤としては、例えば、重量平均分子量約500〜3000のアルキル基またはアルケニル基が付加されたコハク酸イミド、コハク酸エステル、ベンジルアミン又はこれらのホウ素変性物等が挙げられる。これらの分散剤の好ましい配合量は、潤滑基油に対して0.5〜10質量%、より好ましくは1〜8質量%である。
【0071】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリ(C1〜18)アルキルメタクリレート、(C1〜18)アルキルアクリレート/(C1〜18)アルキルメタクリレート共重合体、ジエチルアミノエチルメタクリレート/(C1〜18)アルキルメタクリレート共重合体、エチレン/(C1〜18)アルキルメタクリレート共重合体、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、エチレン/プロピレン共重合体、スチレン/マレイン酸エステル共重合体、スチレン/イソプレン水素化共重合体等が挙げられる。あるいは、分散性能を付与した分散型もしくは多機能型粘度指数向上剤を用いてもよい。平均分子量は10,000〜1,500,000程度である。これらの粘度指数向上剤の好ましい配合量は、潤滑基油に対して0.1〜20質量%。より好ましくは0.3〜15質量%である。
【0072】
流動点降下剤としては、例えば、ポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリビニルアセテート等が挙げられ、重量平均分子量は1000〜100,000である。これらの流動点降下剤の好ましい配合量は、潤滑基油に対して0.005〜3質量%、より好ましくは0.01〜2質量%である。
【0073】
防錆剤としては、例えば、亜硝酸ナトリウム、酸化パラフィンワックスカルシウム塩、酸化パラフィンワックスマグネシウム塩、牛脂脂肪酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアミン塩、アルケニルコハク酸又はアルケニルコハク酸ハーフエステル(アルケニル基の分子量は100〜300程度)、ソルビタンモノエステル、ノニルフェノールエトキシレート、ラノリン脂肪酸カルシウム塩等が挙げられる。これらの防錆剤の好ましい配合量は、潤滑基油に対して0.01〜3質量%、より好ましくは0.02〜2質量%である。
【0074】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、テトラアルキルチウラムジサルファイド等が挙げられる。これら腐食防止剤の好ましい配合量は、潤滑基油に対して0.01〜3質量%、より好ましくは0.02〜2質量%である。
【0075】
消泡剤としては、例えば、ポリジメチルシリコーン、トリフルオロプロピルメチルシリコーン、コロイダルシリカ、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルメタクリレート、アルコールエトキシ/プロポキシレート、脂肪酸エトキシ/プロポキシレート、ソルビタン部分脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの消泡剤の好ましい配合量は、潤滑基油に対して0.001〜0.1質量%、より好ましくは0.001〜0.01質量%である。
【0076】
本発明の潤滑油組成物は、様々な悪影響を及ぼすリン原子の含有量を抑えながら、同時に酸化防止性能を高めている。リン原子の含有量は使用用途、使用環境によって変化させ、潤滑油組成物全量に対して800質量ppm以下であることが好ましい。
【実施例】
【0077】
以下本発明を実施例により、具体的に説明する。尚、以下の実施例等において「%」及び「ppm」は、特に記載が無い限り質量基準である。
化合物1(リンモリブデン化合物)
窒素導入管、還流管、撹拌装置及び温度計を備えた3000mlフラスコに、三酸化モリブデン1モル(144g)に水144gを加え、窒素気流下で50〜60℃に昇温し、1モルの20%苛性ソーダ(200g)を1時間で滴下し、1時間熟成させた。次いで2モルの20%硫酸(980g)を1時間で滴下し、さらに2時間熟成させた。40〜50℃に冷却し、1モルのモノ2−エチルヘキシルリン酸エステル(210g)と1モルのジ2−エチルヘキシルリン酸エステル(322g)との混合物を1時間で滴下し、10時間反応させた。n−ヘキサン300mlを加えて30分撹拌し、その後1時間放置して水層と油層の2層に分離させて水層を除去した。最後に得られた油層を減圧下で脱溶媒を行い、淡青色オイル状生成物630gを得た。モリブデン含有量は13.9%であり、リン含量は9.3%であった。モリブデンについての収率は95%であった。
【0078】
化合物1の構造の特定
化合物1は、モリブデン収率が95%であり、不純物を除去するために精製を行った。なお、不純物の多くは、リン酸エステルの分解により生じるアルコールであった。分解したリン酸エステルは、アルコールとリン酸になるが、不純物としてのリン酸は既に取り除かれており、化合物1中には不純物としてアルコールが残存していた。化合物1中のアルコール(2−エチルヘキサノール)を除去するため撹拌下150℃に加熱して1kPaの減圧度で3時間減圧除去を行った。
得られた化合物の元素分析値は次の通りであった:Mo=14.5%(理論値14.6%)、P=9.4%(理論値9.4%)、C=43.7%(理論値43.8%)、H=7.9%(理論値7.9%)。
次に、得られた化合物を液体クロマト分析により分析した。分析条件は下記の通り:
使用機器:GL−7400(GLサイエンス社)
流量:1.0ml/分
カラム:Wakopac 充填剤Wakosil 5SIL φ4.0mm×250mm
注入量:1.0μl
検出器:RI
液体クロマト分析のチャートを図1に示す。
【0079】
以上の元素分析から化合物1はリン酸モノエステルとリン酸ジエステルが反応したモリブデン化合物と元素の割合が同じであり、且つ液体クロマト分析から化合物1は1成分であることが判る。よって、化合物1は一般式(1)のR〜Rが2−エチルヘキシル基であるものと推定される。
【0080】
化合物2(リンモリブデン化合物)
化合物1と同様の反応装置を使用し、モリブデン酸ソーダ2水和物1モル(242g)に水206gを加えて溶解させた後、2モルの20%硫酸(980g)を1時間で滴下し、さらに2時間熟成させた。熟成後30〜40℃に冷却し、1モルのモノオレイルリン酸エステル(348g)と1モルのジオレイルリン酸エステル(598g)とを1時間で滴下し、更に10時間反応させた。得られた反応物にn−ヘキサン300mlを加えて30分撹拌し、その後1時間放置して水層と油層の2層に分離させて水層を除去した。最後に得られた油層を減圧下で脱溶媒し、淡青色オイル状生成物1027gを得た。得られた淡青色オイル状生成物を分析した結果、モリブデン含量は8.3%であり、リン含量は5.7%であった。モリブデンについての収率は92%であった。
なお、化合物1と同様に測定した結果、化合物2は一般式(1)のR〜Rがオレイル基であるものと推定される。
【0081】
化合物3(リンモリブデン化合物)
化合物1と同様の反応で、1モルのモノオクチルリン酸エステルと1モルのジオクチルリン酸エステルの代わりに、1モルのモノデシルリン酸エステル(238g)と1モルのジオレイルリン酸エステル(598g)を使用し、淡青色オイル状生成物922gを得た。モリブデン含有量は9.5%であり、リン含量は6.3%であった。モリブデンについての収率は95%であった。
なお、化合物1と同様に測定した結果、化合物3は一般式(1)のRはデシル基、R及びRがオレイル基であるものと推定される。
【0082】
化合物4(リンモリブデン化合物)
化合物1と同様の反応で、1モルのモノオクチルリン酸エステルと1モルのジオクチルリン酸エステルの代わりに、1モルのモノドデシルリン酸エステル(266g)と1モルのジドデシルリン酸エステル(434g)を使用し、淡青色オイル状生成物791gを得た。モリブデン含有量は11.0%であり、リン含量は7.4%であった。モリブデンについての収率は94%であった。
なお、化合物1と同様に測定した結果、化合物4は一般式(1)のR〜Rがドデシル基であるものと推定される。
【0083】
化合物5(リンモリブデン化合物)
化合物1と同様の反応で、1モルのモノオクチルリン酸エステルと1モルのジオクチルリン酸エステルの代わりに、0.6モルのモノオクチルリン酸エステル(126g)と1.4モルのジオクチルリン酸エステル(451g)を使用し、淡青色オイル状生成物673gを得た。モリブデン含有量は12.6%であり、リン含量は8.7%であった。モリブデンについての収率は92%であった。
なお、化合物1と同様に測定した結果、化合物5には、一般式(1)の化合物には、副産物として一般式(4)の化合物が40モル%混入しており、一般式(1)のR〜Rがオクチル基であるものと推定される。
【0084】
化合物6(リンモリブデン化合物)
化合物1と同様の反応で、1モルのモノオクチルリン酸エステルと1モルのジオクチルリン酸エステルの代わりに、1.4モルのモノオクチルリン酸エステル(294g)と0.6モルのジオクチルリン酸エステル(193g)を使用し、淡青色オイル状生成物587gを得た。モリブデン含有量は14.8%であり、リン含量は9.9%であった。モリブデンについての収率は94%であった。
なお、化合物1と同様に測定した結果、化合物6には、一般式(1)の化合物には、副産物として一般式(3)の化合物が40モル%混入しており、一般式(1)のR〜Rがオクチル基であるものと推定される。
【0085】
化合物7(リンモリブデン化合物)
化合物1と同様の反応で、1モルのモノオクチルリン酸エステルと1モルのジオクチルリン酸エステルの代わりに、1モルのモノフェニルリン酸エステル(174g)と1モルのジフェニルリン酸エステル(250g)を使用し、淡青色オイル状生成物526gを得た。モリブデン含有量は15.8%であり、リン含量は11.1%であった。モリブデンについての収率は90%であった。
なお、化合物1と同様に測定した結果、化合物7は一般式(1)のR〜Rがフェニル基であるものと推定される。
【0086】
化合物8(リンモリブデンアミン化合物)
化合物1(589g)と1モルのジオクチルアミン(482g)を60〜70℃で6時間反応させた。更に2.3〜1.3kPaの減圧下で1時間攪拌し、濃青色オイル状生成物1006gを得た。モリブデン含量は8.5%であり、リン含量は5.4%であった。
【0087】
化合物9
化合物3(556g)と1.2モルのアルケニルモノコハク酸ポリイミド(737g)を60〜70℃で8時間反応させた。更に2.3〜1.3kPaの減圧下で2時間攪拌し、濃青色オイル状生成物1228gを得た。モリブデン含量は6.5%であり、リン含量は4.2%であった。
【0088】
化合物10(リンモリブデン化合物)
化合物1と同様の反応で、1モルのモノオクチルリン酸エステルと1モルのジオクチルリン酸エステルの代わりに、2モルのモノオクチルルリン酸エステル(420g)を使用し、淡青色オイル状生成物522gを得た。モリブデン含有量は16.8%であり、リン含量は11.2%であった。モリブデンについての収率は95%であった。
なお、化合物1と同様に測定した結果、化合物10は一般式(3)のR及びRがオクチル基であるものと推定される。
【0089】
化合物11
化合物1と同様の反応で、1モルのモノオクチルリン酸エステルと1モルのジオクチルリン酸エステルの代わりに、2モルのジオクチルリン酸エステル(644g)を使用し、淡青色オイル状生成物737gを得た。モリブデン含有量は11.4%であり、リン含量は7.9%であった。モリブデンについての収率は91%であった。
なお、化合物1と同様に測定した結果、化合物11は一般式(4)のR〜Rがオクチル基であるものと推定される。
【0090】
化合物12
化合物1と同様の反応で、1モルのモノオクチルリン酸エステルと1モルのジオクチルリン酸エステルの代わりに、1.85モルのモノオクチルリン酸エステル(389g)と0.15モルのジオクチルリン酸エステル(48g)を使用し、淡青色オイル状生成物538gを得た。モリブデン含有量は16.1%であり、リン含量は10.8%であった。モリブデンについての収率は94%であった。
なお、化合物1と同様に測定した結果、化合物12は一般式(3)のR及びRがオクチル基であるものと推定される。
【0091】
化合物13
化合物1と同様の反応で、1モルのモノオクチルリン酸エステルと1モルのジオクチルリン酸エステルの代わりに、0.15モルのモノオクチルリン酸エステル(32g)と1.85モルのジオクチルリン酸エステル(596g)を使用し、淡青色オイル状生成物721gを得た。モリブデン含有量は11.8%であり、リン含量は8.1%であった。モリブデンについての収率は92%であった。
なお、化合物1と同様に測定した結果、化合物13は一般式(4)のR〜Rがオクチル基であるものと推定される。
【0092】
化合物14
亜鉛ジチオホスフェート
一般式(5)においてR10=直鎖ブチル基、R11=直鎖オクチル基、a=0.2、リン含量8.2%
【0093】
化合物15
フェノール系酸化防止剤(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール)
化合物16
アミン系酸化防止剤(p、p'−ジオクチルジフェニルアミン)
【0094】
酸化劣化試験1
ガラス製内筒管に基油5gに対して、上記化合物1〜14を表1及び表2に記載した組み合わせ及び量で配合し、攪拌して分散・溶解させた後、100mlのオートクレーブにセットし、圧力センサー及び排気管の取り付けてある蓋で密閉した。真空ポンプを利用してオートクレーブ内の空気を排気管から排出し、代わりに酸素を入れ、オートクレーブ内を100%酸素雰囲気下にし、同時に圧力を101kPaにした。このオートクレーブを160℃の恒温槽に入れて1時間おきに圧力をチェックし、圧力が80kPaを切るまでの時間を酸化誘導期間として測定した。酸化劣化が進むと酸素が消費されて圧力が減少するので、酸化誘導期間が長いほど良好な酸化防止性能を持つと判断できる。結果を表2に示した。なお、0時間が147kPaになっているのは、160℃に昇温することにより、室温で101kPaに調整したオートクレーブ内の圧力が上がったためである。結果を表3に示した。
なお、使用した潤滑基油は、動粘度4.24mm/秒(100℃)、19.65mm/秒(40℃)、粘度指数=126の鉱物油系高度VI油である。
【0095】
【表1】

*化合物1〜9及び14〜16の配合量の単位はmgである
【0096】
【表2】

*化合物10〜16の配合量の単位はmgである
【0097】
【表3】

【0098】
酸化劣化試験2
動粘度4.24mm/秒(100℃)、19.65mm/秒(40℃)、粘度指数=126の鉱物油系高度VI油(基油)を使用して、表4に示した割合で各種添加剤を配合してエンジン油組成物を得た。このエンジン油組成物100質量部に対して、本発明の化合物及び比較の化合物を0.5質量部配合し、JIS K 2514−1993「潤滑油−酸化安定度試験方法」の4.に規定するISOT試験に準拠して、試験油を劣化させた。試験の概要は、触媒として銅板と鉄板を入れたガラス容器に試験油を250ml入れ、1300rpmで空気を巻き込むよう攪拌しながら、165.5℃で168時間加熱して試験油を酸化劣化させるものである。試験終了後、劣化油の全酸価の増加(劣化油の全酸価から劣化前の試験油の全酸価を引いた値)を求めた。全酸価の増加が少ないものほど酸化安定性が高いことを示し、本試験で全酸価の増加が10mgKOH/gを超えると、通常のエンジン油としての使用は困難である。結果を表5に示した。
【0099】
【表4】

【0100】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の潤滑油組成物は、潤滑の用途であればいずれにも使用することができ、例えば、エンジン油、ギヤー油、タービン油、作動油、難燃性作動液、冷凍機油、コンプレッサー油、真空ポンプ油、軸受油、絶縁油、しゅう動面油、ロックドリル油、金属加工油、塑性加工油、熱処理油、グリース等の潤滑油に使用することができる。これらの中でも、使用環境が厳しく、酸化防止性能が要求されるエンジン油やタービン油で好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】化合物1の液体クロマト分析のチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)
【化1】

(式中、R、R及びRは、それぞれ独立した炭素数1〜20の炭化水素基を表す)で表されるリンモリブデン化合物。
【請求項2】
請求項1記載のリンモリブデン化合物の製造方法において、6価の無機モリブデン化合物と、酸性モノリン酸エステル及び酸性ジリン酸エステルとを反応させることを特徴とするリンモリブデン化合物の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のリンモリブデン化合物を含有することを特徴とする潤滑油添加剤。
【請求項4】
請求項1に記載のリンモリブデン化合物と、アミン化合物とを反応させることによって得られるリンモリブデンアミン化合物を含有することを特徴とする潤滑油添加剤。
【請求項5】
潤滑基油に、請求項3記載の潤滑油添加剤及び/又は請求項4記載の潤滑油添加剤を配合してなることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項6】
更に、亜鉛ジチオホスフェートを含有する、請求項5記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
更に、フェノール系及び/又はアミン系酸化防止剤を含有する、請求項5又は6記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
更に、摩擦低減剤、極圧剤、油性向上剤、清浄剤、分散剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、腐食防止剤及び消泡剤からなる群から選択される1種または2種以上の添加剤を含有する、請求項5ないし7のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
リン含量が800質量ppm以下である、請求項5ないし8のいずれか1項記載の潤滑油組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−110932(P2008−110932A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294455(P2006−294455)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】