説明

リン酸含有水からリン酸を回収する方法および装置

【課題】 簡単な構成と操作により、高濃度の液状で運搬可能であり、回収物として有用な高純度のリン酸を、リン酸含有水から低コストで、かつ効率よく回収できるリン酸を回収する方法および装置を提案する。
【解決の手段】食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜4aを備えた逆浸透装置4に、pH3以下、かつリン酸濃度1〜15重量%のリン酸含有水を供給して逆浸透処理を行い、リン酸以外の酸を水とともに透過液室4c側に透過させ、リン酸を濃縮液室4b側に濃縮し、透過液を脱塩して純水7aを回収し、濃縮液から水とともに揮発性成分を除去してリン酸濃縮液9aを回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸含有水から逆浸透装置によりリン酸を回収する方法および装置に関し、特に液晶基板やウエハーその他の電子機器をエッチングした後のリン酸を含有する洗浄排水からリン酸などの有価物と処理水である純水の回収に適したリン酸を回収する方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶基板やウエハーその他の電子機器のエッチングには、リン酸を含むエッチング液が用いられている。エッチング工程で発生する高濃度の廃エッチング液は回収して再生利用されているが、エッチング後の電子機器は純水により洗浄され、低濃度の洗浄排水が大量に生成する。このような洗浄排水はエッチング液の成分であるリン酸、硝酸、酢酸、その他の酸成分等のほか、エッチングによって溶出した金属イオンその他の不純物が含まれているが、大部分は純水である。
【0003】
このようなエッチング洗浄排水は、従来は他の排水と混合して処理されている。一般的なリン酸やフッ酸を含む排水の処理技術としては、凝集沈殿処理が挙げられる。しかしリン酸やフッ酸の凝集沈澱処理を行う場合、多量の薬剤使用と多量の汚泥発生による処理コストの上昇、環境への負荷の増大などが問題となる。加えて、凝集沈殿処理で多量に添加する薬剤による水溶性イオンの増加が、水回収するに当たり、逆浸透膜プロセスの操作圧力上昇による動カコストの増大、処理水質の悪化、スケールの発生、また、イオン交換法では再生剤使用量の増加につながっている。
【0004】
特許文献1(日本国特許公開2006−75820号)には、イオン交換樹脂でリン酸、硝酸などのイオンを除去し、純水およびリン酸塩の回収が行われている。しかし、この方法ではリン酸塩(リン酸二水素ナトリウムなど)として回収しているが、リン酸塩の販路が殆どなく、リン酸のナトリウム塩は溶解度が小さいため、液状ではリン酸の含有率が低く、運搬は困難であり、カリウム塩とするには苛性カリが高価である。またリン酸二水素ナトリウムにするためにH形カチオン樹脂に通液する方法が示されているが、カチオン樹脂の再生で塩酸などの酸が消費され、アニオン樹脂の再生で使用した水酸化ナトリウムも無駄に排出されるなどの欠点があった。
【特許文献1】日本国特許公開2006−75820号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、簡単な構成と操作により、高濃度の液状で運搬可能であり、回収物として有用な高純度のリン酸を、リン酸含有水から低コストで、かつ効率よく回収できるリン酸を回収する方法および装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、次のリン酸イオン含有水からリン酸を回収する方法および装置である。
(1) リン酸含有水からリン酸を回収する方法であって、
食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜を備えた逆浸透装置に、リン酸含有水をpH3以下の条件下で供給して膜分離処理を行い、リン酸以外の酸を水とともに透過液室側に透過させて、リン酸を濃縮液室側に濃縮し、リン酸濃縮液を回収することを特徴とするリン酸の回収方法。
(2) リン酸含有水からリン酸を回収する方法であって、
食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜を備えた逆浸透装置に、リン酸含有水をpH3以下、かつリン酸濃度1〜15重量%の条件下で供給して膜分離処理を行い、リン酸以外の酸を水とともに透過液室側に透過させて、リン酸を濃縮液室側に濃縮し、リン酸濃縮液を回収することを特徴とするリン酸の回収方法。
(3) 濃縮液室の濃縮液を取出して濃縮液室へ循環する過程を有し、循環する濃縮液に被処理リン酸含有水を加えて逆浸透処理を行う上記(1)または(2)記載の方法。
(4) 逆浸透装置の透過水から酸を含む不純物を除去して純水を回収する上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法。
(5) リン酸含有水からリン酸を回収する装置であって、
食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜を備え、リン酸含有水をpH3以下の条件下で膜分離処理して、リン酸以外の酸を水とともに透過液室側に透過させ、リン酸を濃縮液室側に濃縮する逆浸透装置と、
リン酸含有水をpH3以下の条件下で逆浸透膜装置の濃縮液室側に供給する原水供給部と、
逆浸透装置の透過液室側から透過液を取出す透過液取出部と、
逆浸透装置の濃縮液室側から濃縮リン酸液を取出す濃縮リン酸液取出部と
を有することを特徴とするリン酸回収装置。
(6) リン酸含有水からリン酸を回収する装置であって、
食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜を備え、リン酸含有水をpH3以下、かつリン酸濃度1〜15重量%の条件下で膜分離処理して、リン酸以外の酸を水とともに透過液室側に透過させ、リン酸を濃縮液室側に濃縮する逆浸透装置と、
リン酸含有水をpH3以下、かつリン酸濃度1〜15重量%の条件下で逆浸透装置の濃縮液室側に供給するリン酸含有水供給部と、
逆浸透装置の透過液室側から透過液を取出す透過液取出部と、
逆浸透装置の濃縮液室側から濃縮リン酸液を取出す濃縮リン酸液取出部と
濃縮リン酸液取出部から取出した濃縮リン酸液を濃縮液室側に循環する循環経路と
を有することを特徴とするリン酸回収装置。
(7) 循環経路を循環する濃縮液に希釈水を加える希釈水供給部を有する上記(5)または(6)記載の装置。
(8) 逆浸透装置の透過水から酸を含む不純物を除去する不純物除去装置を有する上記(5)ないし(7)のいずれかに記載の装置。
【0007】
本発明において、処理の対象となるリン酸含有水は、リン酸を含有する水であれば制限なく対象とすることができるが、リン酸イオン50〜10000mg/L、特に50〜2000mg/L含有し、pHは3以下、特に2.8以下であって、いずれの場合も1以上、特に1.8以上である酸性水が処理対象として好ましく、リン酸イオンのほかに、硝酸イオン、酢酸イオン等の酸成分、その他のアニオン、ならびに金属イオン等のカチオン、その他の不純物が含まれていてもよい。本発明では特に硝酸イオン、酢酸イオン等の他の酸成分を含むリン酸含有水から、硝酸イオン、酢酸イオン等の他の酸成分を除去して、純度の高いリン酸を回収するのに適している。
【0008】
特に処理対象として好ましいリン酸含有水は、液晶基板やウエハーその他の電子機器のリン酸含有エッチング液によるエッチング後に、純水洗浄を行う際に発生する低濃度の洗浄排水がある。このようなエッチング後の洗浄排水の例としては、リン酸イオン50〜2000mg/L、硝酸イオン10〜500mg/L、酢酸イオン5〜300mg/Lを含有し、pH1.8〜2.8の酸性水がある。
【0009】
本発明において、膜分離処理を行うための逆浸透装置に用いる逆浸透膜は、食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜である。逆浸透膜は浸透圧により水を透過させ、あるいは逆に浸透圧よりも高い圧力で、塩分含有水を供給して膜分離を行い、溶媒としての水を透過液側に透過させ、塩分、有機物、その他の溶質を透過させないで濃縮液側に残留させて脱塩する膜である。通常の水処理や海水脱塩に用いられている逆浸透膜は、一般に食塩脱塩率が99%以上の高脱塩率の逆浸透膜である。食塩脱塩率が99%未満の低脱塩率膜として、例えば食塩脱塩率が70%以下のナノろ過膜があるが、これらは主として比較的高分子の有機物を分離するために使用されていて、塩分の分離用としては使用されていないが、食塩脱塩率が50〜90%のものは本発明の逆浸透膜として使用することができる。食塩脱塩率は、0.05重量%食塩水を操作圧力0.75MPaで逆浸透膜に供給し、水温25℃、回収率15%で膜分離して測定される値である。
【0010】
逆浸透膜の材質としては、上記の特性を有する限り特に制限されず、例えばポリアミド系透過膜、ポリイミド系透過膜、セルロース系透過膜などが挙げられ、非対称逆浸透膜でもよいが、微多孔性支持体上に実質的に選択分離性を有する活性なスキン層を形成した複合逆浸透膜が好ましい。逆浸透装置はこのような逆浸透膜を備えるものであればよいが、逆浸透膜と支持機構、集水機構等が一体化した膜モジュールを備えるものが好ましい。膜モジュールとしては特に制限はなく、例えば管状膜モジュール、平面膜モジュール、スパイラル膜モジュール、中空糸膜モジュールなどを挙げることができる。これらを備える逆浸透装置としては公知のものが使用でき、低圧で操作される高透過性のものが好ましい。
【0011】
本発明で用いる逆浸透膜は、食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜として市販されている膜、例えば前記ナノろ過膜(例えばDow Water Solution社製のNF−90−400など)のような食塩脱塩率が上記範囲に入る膜はそのまま使用できるが、それ以外の脱塩率の逆浸透膜を用いる場合には、公知の高脱塩率の逆浸透膜(例えば特開2006-102624号の〔0018〕から〔0030〕に記載膜など)を脱塩率調整工程によって低脱塩率にすることにより得ることができる。脱塩率に調整する方法としては、加水分解、酸化剤処理等により低脱塩率に調整する方法がある。加水分解処理としては、例えば1〜4重量%の水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリまたは酸に5〜40時間浸漬する方法があげられる。酸化剤処理としては、例えば1〜4重量%の過酸化水素水に5〜40時間浸漬する方法があげられる。
【0012】
本発明では、リン酸含有水からリン酸を回収するために、食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜を備えた逆浸透装置に、リン酸含有水をpH3以下の条件下で供給して膜分離処理を行う。この場合、pH3以下、かつリン酸濃度1〜15重量%の条件下で供給して膜分離処理を行うのが好ましい。また本発明では、リン酸含有水を逆浸透膜装置に供給する前に、前処理としてカチオンおよび/またはアニオンを含む不純物の除去を行うのが好ましい。この場合、沈殿分離、濾過等による固形物の除去、ならびにカチオン交換樹脂による金属イオン等のカチオンの除去、ならびにアニオン交換樹脂による過塩素酸やモリブデン酸、有機酸錯体等のアニオンの除去などを行うことができる。このような前処理工程に用いる前処理装置としては、上記目的に採用されている一般的な装置が用いられる。
【0013】
エッチング後の洗浄排水に含まれるインジウム、鉄、アルミニウム等の金属イオンは膜分離工程における逆浸透(RO)膜の目詰まりの原因となり、過塩素酸やモリブデン酸などは高濃度になると膜損傷の原因となるので、これらのカチオンやアニオンを除去することにより、膜の目詰まりや損傷などが防止できるので好ましい。カチオン交換樹脂としては、強酸性または弱酸性カチオン交換樹脂を用いることができるが、H形の強酸性カチオン交換樹脂を用いてこれらのカチオンを交換除去すると、処理液は酸成分が増加してpH3以下に調整することが容易になるので好ましい。カチオン交換樹脂としてはキレート樹脂でもよい。アニオン交換樹脂としては、強塩基性または弱塩基性アニオン交換樹脂を用いることができる。アニオン交換樹脂はリン酸形等の酸形で用い、リン酸、硝酸、酢酸等を素通りさせ、過塩素酸など他の不純物アニオンを除去する。
【0014】
本発明で膜分離工程における逆浸透装置(以下、RO装置と称する場合がある。)は、食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透(RO)膜により透過液室と濃縮液室とに区画され、リン酸含有水をpH3以下の条件下で、また好ましくはさらにリン酸濃度1〜15重量%の条件下で濃縮液室側に供給して逆浸透膜処理を行い、リン酸以外の酸を水とともに透過液室側に透過させるとともに、リン酸を濃縮液室側に濃縮させるように構成される。逆浸透膜装置の濃縮液室側には、リン酸含有水を供給するリン酸含有水供給部、ならびに濃縮リン酸液を取出す濃縮リン酸液取出部が形成される。逆浸透膜装置の透過液室側には、透過液を取出す透過液取出部が形成される。濃縮リン酸液取出部とリン酸含有水供給部間には、濃縮リン酸液取出部から取出した濃縮リン酸液を濃縮液室側に循環する循環経路が形成される。
【0015】
本発明では膜分離工程において、リン酸含有水をpH3以下の条件下で、また好ましくはさらにリン酸濃度1〜15重量%の条件下で、さらに好ましくは2〜10重量%の条件下で逆浸透膜装置に供給して、食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜により膜分離(逆浸透)処理を行う。リン酸含有水がpH3以下の状態で得られる場合には、そのままpH調整することなく逆浸透膜装置に供給することができるが、必要により塩酸、硝酸等のpH調整剤の添加によりpH調整してもよい。前処理においてカチオン交換樹脂により金属イオン等のカチオンの除去を行うことによりpH3以下に調整される場合も同様である。液晶基板やウエハー等のエッチング後の洗浄排水は、通常pH3以下の状態で得られるので、pH調整することなく逆浸透膜装置に供給することができ、pH調整する場合でもpH調整剤の添加量は少なくなる。
【0016】
リン酸含有水がリン酸濃度1〜15重量%で得られる場合は、そのまま膜分離処理を行って逆浸透による分離を行うことができるが、リン酸濃度1重量%未満の場合は、循環経路を通して濃縮液を循環しながら膜分離処理を行うことにより、リン酸濃度1重量%以上に濃縮することができる。あるいは別途設けたRO装置などの濃縮装置によって予め濃縮処理してもよいし、回収した高濃度リン酸液を添加しても良い。
【0017】
循環経路を通して濃縮液を循環しながら膜分離処理を行うことにより、リン酸濃度を1重量%以上に濃縮する場合、低濃度のリン酸含有水を循環しながら濃縮し、リン酸濃度1重量%以上に濃縮された時点で循環液を入れ替える回分式の処理を行ってもよいが、リン酸濃度1〜15重量%に濃縮された濃縮液を循環しながら、循環する濃縮液に低濃度の被処理リン酸含有水を加え、濃縮液を一部ずつリン酸濃縮液として取出すと、見掛け上一過式の処理が行えるので好ましい。濃縮液室の濃縮液を取出して濃縮液室へ循環する過程において、循環する濃縮液に希釈水を加えて逆浸透処理を行うことにより、リン酸以外の酸の除去率を高めることができる。希釈水としては透過水から不純物を除去した回収水を使用することができる。
【0018】
リン酸含有水をpH3以下の条件下で逆浸透装置に供給して膜分離処理を行うと、硝酸、酢酸等のリン酸以外の酸は、水とともに逆浸透膜を透過して透過液室側に移行し、透過液室側から取出される。リン酸は逆浸透膜の透過を阻止され、濃縮液室側に残留して濃縮されるので、濃縮液室側からリン酸濃縮液として回収することができる。この場合、食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜により膜分離処理を行っても、リン酸の除去率はあまり低下しないで、酢酸、硝酸の透過性は増し、分離性がよくなる。すなわち食塩脱塩率が50%以上であれば、リン酸の透過率は10%以内であり、リン酸は効率よく濃縮される。また酢酸、硝酸の透過率は食塩脱塩率が低下するほど大きくなる。このためリン酸は効率よく精製、濃縮され、精製、濃縮された濃縮リン酸は高純度で回収できる。
【0019】
濃縮液室側の濃縮液は一過式に通過させてもよく、また循環させて濃縮率を上げてもよい。濃縮液には少量のリン酸以外の酸が残留するが、リン酸濃度1〜15重量%の条件下で膜分離処理を行うと、リン酸以外の酸の阻止率が低くなり、透過率が高くなるので、高純度のリン酸濃縮液を回収することができる。リン酸含有水をpH3以下、かつリン酸濃度1〜15重量%の条件下で逆浸透装置に供給して膜分離処理を行う場合、逆浸透装置に供給するリン酸含有水の圧力は0.3〜5MPa、好ましくは0.5〜3MPaとすることができる。
【0020】
逆浸透膜の透過においてイオン性物質と非イオン性物質の透過を比較すると、逆浸透膜阻止率は、同じ程度の分子量であっても、非イオン性物質に比べてイオン性物質の方が圧倒的に阻止されやすいと言われている。しかし本発明者等が研究を重ねた結果、このような常識とは異なり、リン酸が解離しにくいpH3以下の条件下で逆浸透膜処理すると、リン酸の阻止率は硝酸や酢酸よりも圧倒的に高くなり、硝酸や酢酸等のリン酸以外の酸とリン酸とを分別して回収できることが分かった。低pH下でリン酸が逆浸透膜に強く阻止される理由は、リン酸は3価で、分子量が大きいうえ、低pH下でリン酸が重リン酸の形態となって分子量が大きくなり、阻止率がアップしたためであると推測される。また低pH下かつ高濃度でリン酸が逆浸透膜に強く阻止される理由は、これらに加え、リン酸濃度が高くなったときにリン酸が重合してより大きな分子になるためと考えられる。
【0021】
pH3以下の条件下での硝酸、酢酸等のリン酸以外の酸の阻止率は低く、通常のリン酸含有エッチング液を膜処理する場合の阻止率は1%以下であるが、リン酸濃度が高いほどリン酸以外の酸の阻止率は低くなり、リン酸濃度1重量%以上ではリン酸以外の酸の阻止率がマイナスになる。ここで阻止率とは、逆浸透膜が溶質の透過を阻止する割合であり、次の式(1)で示される。前記食塩脱塩率も同様である。
阻止率(%)=(1−C/(C・C1/2)×100・・・(1)
(式(1)中、Cは供給液入口の溶質濃度、Cは濃縮液出口の溶質濃度、Cはの透過液の溶質濃度である。)
なお、後述するステンレス鋼製平膜試験装置を用いた実施例では、濃縮液室内は攪拌されているためC=Cとして阻止率は計算される。
【0022】
式(1)において、((C・C1/2)は相乗平均を示し、(C/(C・C1/2)は濃縮液の溶質の(相乗)平均濃度に対する透過液の溶質濃度の比を示す。このため阻止率が低いほど、溶質が透過液側に透過することを示している。通常の観念では阻止率がマイナスになることはないと認識されやすいが、式(1)では式の構成から阻止率がマイナスになることがあり、この場合、濃縮液の溶質濃度よりも透過液の溶質濃度が高く、溶質が高透過率で透過することを示している。
【0023】
リン酸濃度1重量%以上でリン酸以外の酸の阻止率がマイナスになるということは、リン酸濃度1重量%以上、特に2重量%以上では濃縮液中に残留するリン酸以外の酸濃度は低くなり、純度の高いリン酸濃縮液が得られることを意味する。濃縮液のリン酸濃度が高過ぎると浸透圧の関係で膜処理が行えなくなるので、濃縮液のリン酸濃度の上限は15重量%、好ましくは10重量%とされる。このようなリン酸濃度の濃縮液を循環しながら、循環する濃縮液に被処理リン酸含有水を加え、濃縮液を一部ずつリン酸濃縮液として取出して一過式の処理を行うと、上記リン酸濃度を維持して効率よく処理を行うことができる。
【0024】
濃縮液を循環しながら膜処理を行う際、濃縮液の循環回数を多くするほど、リン酸以外の酸が逆浸透膜と接して膜を透過する機会が多くなり、濃縮液中のリン酸以外の酸の濃度をさらに低くすることができる。このときリン酸濃度が15重量%を超えると浸透圧(操作圧)が高くなりすぎ、膜処理が行えなくなるので、濃縮液に希釈水を加え希釈して循環し、逆浸透処理を行うことにより、さらにリン酸以外の酸の濃度を低くすることができ、高純度のリン酸濃縮液を回収することができる。希釈水としては透過水から不純物を除去した回収水を循環して使用することができる。
【0025】
透過液室側から取出される逆浸透膜装置の透過水は、透過したリン酸、硝酸、酢酸等の酸を含んでいるので、逆浸透膜装置の透過水からこれらの酸その他の不純物を不純物除去装置によって除去することにより、純水を回収することができる。この場合、不純物除去装置としてはイオン交換樹脂を用いるイオン交換装置を採用することができる。透過水をアニオン交換樹脂層に通水することにより、これら酸、その他のアニオンを除去し、またカチオン交換樹脂層およびアニオン交換樹脂層、またはこれらの混床に通水することにより、酢酸や硝酸等のリン酸以外の酸、その他のアニオン、ならびに残留するカチオンを除去し、純水を回収することができる。ここで用いるアニオン交換樹脂としては、OH形強塩基性あるいは弱塩基性アニオン交換樹脂が好ましく、またカチオン交換樹脂としては、H形強酸性カチオン交換樹脂が好ましい。
【0026】
一般的なイオン交換装置では、イオン交換樹脂の再生においてカチオン交換樹脂の再生には酸、アニオン交換樹脂の再生にはアルカリを再生剤として使用するが、このような再生方法では再生剤が必要な上、再生廃液が発生するなどの不利があるため、電気再生式イオン交換装置を採用するのが好ましい。電気再生式イオン交換装置は、イオン交換樹脂層をカチオン交換樹脂膜およびアニオン交換樹脂膜で区画し、両端部に陰極および陽極を配置した装置であり、電気透析装置と同様に、陰極および陽極に通電して再生しながら通液してイオン交換を行う。この場合、再生のための特別の操作および再生剤が不要で、連続して酸その他の不純物を取り出し、純水を回収することができる。電気再生式イオン交換装置に用いるイオン交換樹脂は、酸その他のアニオンの除去のみを目的とする場合は、アニオン交換樹脂のみを充填することができるが、残留する他のカチオンの除去も目的とする場合は、カチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂の混床を充填することができる。再生により排出される酸濃縮液はリン酸、硝酸、酢酸等の濃縮液となっているので、生物脱窒法により処理することができる。
【0027】
一方、濃縮液室側から取り出されるリン酸濃縮液は、硝酸や酢酸等のリン酸以外の酸の大部分は除去されているが、さらにこれらを除去して回収リン酸液の純度、濃度を高めるために後処理による精製を行うことができる。後処理による精製として、リン酸濃縮液からアニオン交換によりリン酸以外の酸を除去して精製することができる。この場合、精製装置としてアニオン交換装置を設けて、濃縮液をアニオン交換樹脂層に通水し、濃縮液から硝酸などの強酸イオンを除去し、硝酸などの強酸イオンを殆ど含まない高濃度のリン酸を回収することができる。逆浸透装置が濃縮液を循環して濃縮を行う場合、精製装置は逆浸透装置の濃縮液循環ラインに設けることができるが、循環ラインから濃縮液を抜き出すラインに設けることが好ましい。アニオン交換樹脂は、OH形またはPO形の強塩基性アニオン交換樹脂が好ましい。
【0028】
リン酸濃縮液中に酢酸が残留している場合、酢酸はアニオン交換樹脂によっても完全に除去できないので、酢酸等の揮発性成分を除去して回収リン酸液の純度、濃度を高めるためには、リン酸濃縮液を蒸発濃縮装置で蒸発濃縮して、水とともに揮発性成分を除去して濃縮し、酢酸などの揮発性成分を殆ど含まない高濃度のリン酸を回収することができる。蒸発濃縮装置としては、ロータリエバポレータ等の公知の装置が使用できる。
【0029】
上記により回収されるリン酸は、回収物として有用であり、かつ高濃度の液状で運搬可能であり、しかも高純度の濃縮リン酸として回収できる。この場合、pH3以下の条件下で逆浸透処理するが、原水としてのリン酸含有水は通常pH3以下の酸性の状態で得られるので、塩酸等のpH調整剤を注入することにより容易に調整することができる。
【0030】
また回収のための方法および装置は、簡単な構成と操作により、pH3以下、場合によってはさらにリン酸濃度1〜15重量%の条件下で、食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜により膜分離処理(逆浸透処理)することにより、リン酸濃縮液として回収することが可能である。これにより再生剤の使用量、廃棄物の生成量を少なくし、処理コストを低くして、高純度の濃縮リン酸および純水を回収することができる。
【発明の効果】
【0031】
以上の通り本発明によれば、食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜を備えた逆浸透装置に、リン酸含有水をpH3以下の条件下で供給して膜分離処理を行い、リン酸以外の酸を水とともに透過液室側に透過させて、リン酸を濃縮液室側に濃縮し、リン酸濃縮液を回収することにより、簡単な構成と操作により、高濃度の液状で運搬可能であり、回収物として有用な高純度のリン酸を、リン酸含有水から低コストで、かつ効率よく回収することができる。
【0032】
また本発明によれば、食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜を備えた逆浸透装置に、リン酸含有水をpH3以下、かつリン酸濃度1〜15重量%の条件下で供給して膜分離処理を行い、リン酸以外の酸を水とともに透過液室側に透過させて、リン酸を濃縮液室側に濃縮し、リン酸濃縮液を回収することにより、簡単な構成と操作により、高濃度の液状で運搬可能であり、回収物として有用な高純度のリン酸を、リン酸含有水からさらに低コストで、かつ効率よく回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の一実施形態を図1により説明する。図1は一実施形態におけるリン酸回収装置のフロー図である。1は原水槽で、原水1aを貯留する。2はカチオン交換塔で、カチオン交換樹脂層2aを有する。3は濃縮液槽で、濃縮液3aを貯留する。4は逆浸透装置で、食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜4aにより、透過液室4bと濃縮液室4cに区画されている。5はアニオン交換塔で、アニオン交換樹脂層5aを有する。7は回収水槽で、回収水7aを貯留する。5bは第2アニオン交換塔で、アニオン交換樹脂層5cを有する。8は蒸発濃縮装置で、蒸留により揮発性成分を水とともに蒸発させて分離し、リン酸液を濃縮する。9は回収リン酸槽で、回収リン酸液9aを貯留する。
【0034】
図1において、Pは加圧ポンプであり、原水槽1、カチオン交換塔2および濃縮液槽3とともに原水供給部を構成し、このうちカチオン交換塔2が前処理装置を構成する。アニオン交換塔5および回収水槽7は透過液取出部を構成し、このうちアニオン交換塔5は不純物除去装置を構成する。また第2アニオン交換塔5b、蒸発濃縮装置8および回収リン酸槽9は濃縮リン酸液取出部を構成し、このうち第2アニオン交換塔5bおよび蒸発濃縮装置8は精製装置を構成する。
【0035】
上記のリン酸回収装置では、前処理工程として沈殿分離、濾過等による不純物の除去を行ったpH3以下、かつリン酸濃度1〜15重量%の原水1a(リン酸イオン含有水)をラインL1から原水槽1に導入する。原水槽1の原水1aはラインL2からカチオン交換塔2に導入して通水し、カチオン交換樹脂層2aでカチオン交換して、原水に含まれるアルミニウム、インジウム、その他の金属イオン等のカチオンを交換吸着して除去する。カチオン交換樹脂層2aにはH形の強酸性カチオン交換樹脂を用いるのが好ましい。カチオン交換樹脂層2aが飽和したときは、ラインL3から塩酸等の酸を含む再生剤を通液して再生し、溶離したカチオンをラインL4から回収する。
【0036】
カチオン交換塔2の処理水である脱カチオン水をラインL5から濃縮液槽3に導入して貯留する。原水としてのリン酸含有水は通常pH3以下の酸性の状態で得られ、またpHが高い場合でも前処理としてのカチオン交換により酸が生成してpH3以下の状態になるので、pH3以下の条件で逆浸透処理するには、そのまま逆浸透装置4に供給すればよい。pHが高い原水をpH調整する場合は、リン酸含有水はpH3に近い状態で得られるので、ラインL5または濃縮液槽3に塩酸等のpH調整剤を注入することにより容易に調整することができる。
【0037】
濃縮液槽3の脱カチオン水(濃縮液3a)は加圧ポンプPで加圧してラインL6から逆浸透装置4の濃縮液室4cに導入し、食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜4aにより膜分離処理(逆浸透処理)を行って、硝酸、酢酸等のリン酸以外の酸を水とともに透過液室4b側に透過させて、リン酸を濃縮液室4c側に濃縮する。リン酸含有水を中和して中性の状態で逆浸透処理すると、硝酸、酢酸等のリン酸以外の酸の塩と、リン酸の塩のいずれも逆浸透膜4aを透過せず、濃縮液室4c側に濃縮される。これに対してリン酸含有水を中和することなく、pH3以下の条件下で逆浸透装置4に導入して逆浸透処理を行うと、リン酸は逆浸透膜4aにより透過を阻止されて濃縮液室4c側に濃縮されるが、硝酸、酢酸等のリン酸以外の酸は水とともに透過液室4b側に透過して分離される。この場合、食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜4aにより膜分離処理を行っても、リン酸の除去率はあまり低下しないで、酢酸、硝酸の透過性は増し、分離性がよくなる。逆浸透装置4に導入するリン酸含有水は脱カチオンされているため、逆浸透膜4aの目詰まりがなく、逆浸透処理の効率は高く維持される。
【0038】
逆浸透装置4の透過液室4bに透過した透過液はラインL7からアニオン交換塔5へ導入し、アニオン交換樹脂層5aに通水してアニオン交換する。これにより透過液に含まれる硝酸、酢酸等のリン酸イオン以外のアニオンを交換吸着により除去して精製を行い、処理水はラインL8から回収水槽7へ取り出し、回収水7aとして貯留する。アニオン交換塔5はOH形の強塩基性アニオン交換樹脂を充填したアニオン交換樹脂層5aを用いるが、H形カチオン交換樹脂との複層または混床式を採用し、アニオン以外の不純物を除去してもよい。アニオン交換樹脂層5aがリン酸イオン以外のアニオンで飽和したときは、ラインL9から水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の2〜10重量%のアルカリ水溶液のようなアルカリを含む再生剤を通液して再生し、溶離した塩をラインL10から排出する。カチオン交換樹脂を用いる場合は、酸を含む再生剤を通液して再生する。
【0039】
逆浸透装置4の濃縮液室4cで濃縮された濃縮液はラインL11から第2アニオン交換塔5bへ導入して通水し、アニオン交換樹脂層5cでアニオン交換して、濃縮液に残留する硝酸、酢酸等のリン酸イオン以外のアニオンを交換吸着して除去し、精製を行う。この場合、アニオン交換樹脂層5cはOH形またはPO形の強塩基性アニオン交換樹脂を用いる。硝酸等のリン酸イオン以外のアニオンのアニオン交換樹脂に対する選択性は低pH域でリン酸イオンよりも高いので、リン酸イオンとの分離は容易である。アニオン交換樹脂層5cがリン酸イオン以外のアニオンで飽和したときは、ラインL12からアルカリを含む再生剤を通液して再生し、溶離した塩をラインL13から排出する。
【0040】
第2アニオン交換塔5bでリン酸イオン以外のアニオンを除去したリン酸溶液が酢酸等の揮発性成分をなお含む場合は、ラインL14から蒸発濃縮装置8に導入して蒸留し、水とともに揮発性成分を蒸発させて分離し、ラインL15から排出する。蒸発濃縮装置8で揮発性成分を除去し濃縮したリン酸濃縮液は、ラインL16から回収リン酸槽9に導入し、回収リン酸液9aとして貯留する。蒸発濃縮装置8としてはロータリエバポレータ等の公知の蒸発濃縮装置を用いることができる。逆浸透装置4の濃縮液室4cの濃縮液はラインL17またはL18から濃縮液槽3へ循環して濃縮率を高め、濃縮液3aとして貯留することができる。
【0041】
上記の方法で回収されるリン酸液9aは、回収物として有用であり、かつ高濃度の液状で回収されるため実用上運搬可能であり、しかも高純度の濃縮リン酸として回収できる。この場合、pH3以下の条件下で逆浸透処理するが、原水としてのリン酸含有水は通常pH3以下の酸性の状態で得られ、またpHが高い場合でも前処理としてのカチオン交換によりpH3以下の状態になるので、pH3以下の条件で処理するには、そのまま供給すればよく、特にpH調整する必要がない。酸、アルカリ等の薬剤はカチオン交換塔2におけるカチオン用の再生剤、ならびにアニオン交換塔5および第2アニオン交換塔5bにおけるアニオン用の再生剤に限られ、リン酸回収用としては必要でない。また回収のための方法および装置は、簡単な構成と操作により、pH3以下の条件下で逆浸透処理することにより、リン酸濃縮液として回収することが可能である。これにより再生剤の使用量、廃棄物の生成量を少なくし、処理コストを低くして、高純度の濃縮リン酸および純水を回収することができる。
【0042】
以上の通り、リン酸含有水をpH3以下の条件下で逆浸透装置4に供給して、食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜4aにより逆浸透処理を行い、リン酸以外の酸を水とともに透過液室4b側に透過させて、リン酸を濃縮液室4c側に濃縮し、純水およびリン酸濃縮液を回収することにより、簡単な構成と操作により、高濃度の液状で運搬可能であり、回収物として有用な高純度のリン酸および純水を、リン酸含有水から低コストで、かつ効率よく回収することができる。
【0043】
次に本発明の他の実施形態を図2により説明する。図2は他の実施形態におけるリン酸回収方法および装置のフロー図である。1は原水槽で、原水1aを貯留する。2はカチオン交換塔で、カチオン交換樹脂層2aを有する。3は濃縮液槽で、濃縮液3aを貯留する。4は逆浸透装置で、食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜4aにより、透過液室4bと濃縮液室4cに区画されている。5はアニオン交換塔で、アニオン交換樹脂層5aを有する。6は電気再生式イオン交換装置で、脱塩室6aと濃縮室6bがアニオン交換膜6cで区画され、脱塩室6aの外側にカチオン交換膜6dにより陰極室6eが区画され、濃縮室6bの外側にカチオン交換膜6fにより陽極室6gが区画され、脱塩室6aと濃縮室6bに混床式イオン交換層6h、6iが設けられ、陰極室6eに陰極(−)、陽極室6gに陽極(+)が設けられている。7は回収水槽で、回収水7aを貯留する。8は蒸発濃縮装置で、蒸留により揮発性成分を水とともに蒸発させて分離し、リン酸液を濃縮する。9は回収リン酸槽で、回収リン酸液9aを貯留する。10は生物脱窒装置である。
【0044】
図2において、Pは加圧ポンプであり、原水槽1、カチオン交換塔2、アニオン交換塔5および濃縮液槽4とともに原水供給部を構成し、このうちカチオン交換塔2およびアニオン交換塔5が前処理装置を構成する。電気再生式イオン交換装置6および回収水槽7は透過液取出部を構成し、このうち電気再生式イオン交換装置6は不純物除去装置を構成する。また蒸発濃縮装置8および回収リン酸槽9は濃縮リン酸液取出部を構成し、このうち蒸発濃縮装置8は精製装置を構成する。
【0045】
上記のリン酸回収装置では、前処理工程として沈殿分離、濾過等による不純物の除去を行った原水1a(リン酸イオン含有水)をラインL21から原水槽1に導入する。原水槽1の原水1aはラインL22からカチオン交換塔2に導入して通水し、カチオン交換樹脂層2aでカチオン交換して、原水に含まれるアルミニウムやインジウム、その他の金属イオン等のカチオンを交換吸着して除去する。カチオン交換樹脂層2aにはH形の強酸性カチオン交換樹脂を用いるのが好ましい。カチオン交換樹脂層2aが飽和したときは、ラインL23から塩酸等の酸を含む再生剤を通液して再生し、溶離したカチオンをラインL24から回収する。
【0046】
カチオン交換塔2の処理水である脱カチオン水をラインL25からアニオン交換塔5に導入して通水し、アニオン交換樹脂層5aでアニオン交換して、原水に含まれる過塩素酸やモリブデン酸、有機酸錯体等のアニオンを交換吸着して除去する。アニオン交換樹脂層5aにはリン酸形の強塩基性アニオン交換樹脂を用いるのが好ましい。アニオン交換樹脂層5aが飽和したときは、ラインL26から水酸化ナトリウム等のアルカリを含む再生剤を通液して再生し、溶離したアニオンをラインL27から回収する。その後、ラインL26からリン酸などの酸を通液し、アニオン交換樹脂をリン酸形とする。
【0047】
アニオン交換塔5の処理水をラインL28から濃縮液槽3に導入する。原水としてのリン酸含有水は通常pH3以下の酸性の状態で得られpH3以下の条件で逆浸透処理するには、そのまま逆浸透装置4に供給すればよい。pHが高い原水をpH調整する場合は、リン酸含有水はpH3に近い状態で得られるので、ラインL28または濃縮液槽3に塩酸等のpH調整剤を注入することにより容易に調整することができる。
【0048】
濃縮液槽3のリン酸含有水は加圧ポンプPで加圧してラインL31から逆浸透装置4の濃縮液室4cに導入し、食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜4aにより膜分離(逆浸透処理)を行って、硝酸、酢酸等のリン酸以外の酸を水とともに透過液室4b側に透過させて、リン酸を濃縮液室4c側に濃縮する。リン酸含有水を中和して中性の状態で逆浸透処理すると、硝酸、酢酸等のリン酸以外の酸の塩と、リン酸塩のいずれも逆浸透膜4aを透過せず、濃縮液室4c側に濃縮される。これに対してリン酸含有水を中和することなく、pH3以下の条件下で逆浸透装置4に導入して逆浸透処理を行うと、リン酸は逆浸透膜4aにより透過を阻止されて濃縮液室4c側に濃縮されるが、硝酸、酢酸等のリン酸以外の酸は水とともに透過液室4b側に透過して分離される。この場合、食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜4aにより膜分離処理を行っても、リン酸の除去率はあまり低下しないで、酢酸、硝酸の透過性は増し、分離性がよくなる。逆浸透装置4に導入するリン酸含有水は脱カチオンされているため、逆浸透膜4aの目詰まりがなく、逆浸透処理の効率は高く維持される。
【0049】
ラインL28から得られる原水としてのリン酸含有水がリン酸濃度1〜15重量%で得られる場合は、そのまま膜分離処理を行って逆浸透による分離を行うことができるが、リン酸濃度1重量%未満の場合は、濃縮液室4cからラインL32を通して取出した濃縮液を、循環経路であるラインL33から濃縮液槽3に循環しながら膜分離処理を行うことにより、リン酸濃度1重量%以上に濃縮することができる。この場合、低濃度のリン酸含有水を循環しながら濃縮し、リン酸濃度1重量%以上に濃縮された時点で循環液を入れ替える回分式の処理を行ってもよいが、リン酸濃度1〜15重量%に濃縮された濃縮液を循環しながら、循環する濃縮液に低濃度の被処理リン酸含有水を加え、濃縮液を一部ずつラインL34からリン酸濃縮液として取り出すと、見掛け上一過式の処理が行えるので好ましい。
【0050】
逆浸透装置4の透過液室4bに透過した透過液はラインL35から電気再生式イオン交換装置6の脱塩室6aへ導入し、陽極(+)と陰極(−)間に電圧を印加して電気再生しながら、イオン交換により脱塩する。これにより透過液に含まれるリン酸、硝酸、酢酸等のアニオン、ならびに残留するカチオンを交換吸着により除去して精製を行い、処理水はラインL36から回収水槽7へ取り出し、回収水7aとして貯留する。脱塩室6aでは、混床式イオン交換層6hに吸着された酸等のアニオンがアニオン交換膜6cを通して濃縮室6bへ透過し、混床式イオン交換層6iに吸着されるので、ラインL37から透過液の一部を濃縮室6bへ流しながら再生により吸着されたアニオンを溶離させ、ラインL38から生物脱窒装置10へ送って生物脱窒処理する。混床式イオン交換層6hに吸着されたカチオンは陰極室6eへ透過するので、陽極室6gからラインL39を通して陰極室6eへ電極液を流し、ラインL40から排出する。
【0051】
逆浸透装置4の濃縮液室4cで濃縮され、ラインL34から取り出される濃縮液の一部は、蒸発濃縮装置8に導入して蒸留し、水とともに酢酸等の揮発性成分を蒸発させて分離し、ラインL41から排出する。蒸発濃縮装置8で揮発性成分を除去し濃縮したリン酸濃縮液は、ラインL42から回収リン酸槽9に導入し、回収リン酸液9aとして貯留する。蒸発濃縮装置8としてはロータリエバポレータ等の公知の蒸発濃縮装置を用いることができる。
【0052】
逆浸透装置4における膜分離(逆浸透処理)を、リン酸含有水がpH3以下、かつリン酸濃度1〜15重量%の条件下で行うことにより、リン酸以外の酸を高透過率で透過させ、リン酸の純度を高めることができるが、食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜4aで膜分離処理を行うことにより、濃縮液中のリン酸以外の酸の濃度をさらに低くして、高純度のリン酸を回収することができる。また濃縮液を循環して膜分離の機会を多くすることにより、これらの酸が透過する機会を多くして透過率を高めることができ、これにより水の透過も起こるため、循環液は濃縮されることになる。このため循環する濃縮液に希釈水を加えて逆浸透処理を行うことにより、リン酸以外の酸の除去率を高めて、高純度のリン酸を回収することができる。希釈水としては透過水から不純物を除去した回収水を使用することができる。
【0053】
このため図2では、希釈水として回収水槽7から回収水7aを、ポンプP2によりラインL43を通して濃縮液槽3へ供給し、循環する濃縮液3aを希釈して逆浸透処理を行うことにより、さらにリン酸以外の酸の濃度を低くすることができ、高純度のリン酸濃縮液を回収することができる。濃縮液槽3へ供給する回収水7aの量は、循環する濃縮液がリン酸濃度1〜15重量%の条件を維持する量である。これにより循環する濃縮液が高濃縮されることによるリン酸以外の酸の透過効率が低下するのを防止して、濃縮液のリン酸純度を高めることができる。
【0054】
上記の方法で回収される回収リン酸液9aは、回収物として有用であり、かつ高濃度の液状で回収されるため実用上運搬可能であり、しかも高純度の濃縮リン酸として回収できる。この場合、pH3以下の条件下で逆浸透処理するが、原水としてのリン酸含有水は通常pH3以下の酸性の状態で得られるのでそのまま供給すればよく、特にpH調整する必要がない。酸、アルカリ等の薬剤はカチオン交換塔2におけるカチオン用の再生剤、ならびにアニオン交換塔3におけるアニオン用の再生剤に限られ、リン酸回収用ならびに透過水の精製用としては必要でない。また回収のための方法および装置は、簡単な構成と操作により、pH3以下、かつリン酸濃度1〜15重量%の条件下で逆浸透処理することにより、リン酸濃縮液として回収することが可能である。これにより薬剤の使用量、廃棄物の生成量を少なくし、処理コストを低くして、高純度の濃縮リン酸および純水を回収することができる。
【0055】
図2のリン酸回収方法および装置では、リン酸含有水をpH3以下、かつリン酸濃度1〜15重量%の条件下で逆浸透装置4に供給して、食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜4aにより逆浸透処理を行い、リン酸以外の酸を水とともに透過液室4b側に透過させて、リン酸を濃縮液室4c側に濃縮し、純水およびリン酸濃縮液を回収することにより、簡単な構成と操作によって、高濃度の液状で運搬可能であり、回収物として有用な高純度のリン酸および純水を、リン酸含有水から低コストで、かつ効率よく回収することができる。
【0056】
なお、本発明の実施の形態は図1、2に限定されるものでなく、例えば、図2において回収リン酸液の純度を更に高めるために、第2のアニオン交換塔をラインL34の蒸発濃縮装置8の前段に設けることもできる。また、本実施の形態では、逆浸透装置4からの透過液を精製する電気再生式イオン交換装置6は、脱塩室6aと濃縮室6bとがアニオン交換膜6cで区画された簡易の電気再生式イオン交換装置が用いられているが、陰極室と陽極室との間に陰イオン交換膜と陽イオン交換膜とを交互に配列して脱塩室と濃縮室とを形成し、該脱塩室にイオン交換体を充填した通常の電気脱イオン装置を用いることもできる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例について説明する。各例において、%は阻止率以外、ならびに特別な指示以外は重量%を示す。
【0058】
〔実施例1〜3、比較例1〜2〕:
食塩脱塩率が異なる逆浸透膜(平膜)を直径32mmの円形に打ち抜き、図1および図2の逆浸透装置を模擬した平膜試験装置として、内径32mmφのステンレス鋼(SUS304)製小径平膜セルに、焼結多孔板により有効膜径29mmφで支持して装着し、リン酸含有水を濃縮液室へ供給し、濃縮液室内で濃縮液を攪拌、循環しながら膜分離を行った。食塩脱塩率45%の逆浸透膜としてDow Water Solution社製のNF−270−400、食塩脱塩率90%の逆浸透膜としてDow Water Solution社製のNF−90−400、食塩脱塩率99.5%の逆浸透膜として日東電工(株)製の逆浸透膜ES−20を用いた。他の食塩脱塩率の逆浸透膜として、日東電工(株)製の逆浸透膜ES−20(食塩脱塩率99.5%)を1〜4重量%の水酸化ナトリウム水溶液に、所定の食塩脱塩率となるように時間を調節して浸漬し、食塩脱塩率を調整したものを用いた。
【0059】
リン酸含有水として、リン酸2500mg/L、硝酸250mg/L、酢酸250mg/Lを含む伝導率830mS/m、pH0.5の原水を、上記平膜試験装置の濃縮液室へ水温25℃、操作圧力1.8MPa、流量1mL/分で供給し、濃縮液を攪拌、循環しながら回収率80%で膜分離を行って濃縮し、濃縮倍率が5倍となるように背圧弁で濃縮液の排出を制御し、透過液は0.8mL/分で取り出した。各逆浸透膜を用いた試験結果として、濃縮液および透過液の水質、ならびに濃縮液を5倍濃縮した回収リン酸溶液のリン酸純度およびリン酸回収率を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1より、食塩脱塩率50〜90%の逆浸透膜により膜分離処理を行っても、リン酸の除去率は食塩脱塩率99.5%の逆浸透膜よりあまり低下しないで、酢酸、硝酸の透過性が増して分離性がよくなり、リン酸の透過率は10%以内であって、リン酸は効率よく濃縮され、酢酸、硝酸の透過率は食塩脱塩率が低下するほど大きくなることが分かる。
【0062】
〔参考例1〕:
リン酸550mg/L、硝酸50mg/L、酢酸50mg/Lを含む伝導率122mS/m、pH2.4の原水を、日東電工(株)製の逆浸透膜ES−20に0.7MPaで通液して膜分離処理し、濃縮液の循環回数を上げていったときの濃縮液中のリン酸濃度の変化と、硝酸の阻止率との関係を図3に示す。
【0063】
図3より、濃縮液中のリン酸濃度が1重量%以上で硝酸の阻止率がマイナスとなって直線的に低下し、特にリン酸濃度が2重量%以下、さらにはリン酸濃度が4重量%以下で硝酸の透過が促進されることが分かる。前記表1の結果から、濃縮液のリン酸濃度と、硝酸の阻止率を算出すると、食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜についても、図3と同様の結果が得られていることが分かる。。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、リン酸含有水からリン酸および純水を回収する方法および装置、特に液晶基板やウエハーその他の電子機器をエッチングした後の洗浄排水からリン酸などの有価物と、処理水である純水の回収に適したリン酸を回収する方法および装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は一実施形態におけるリン酸回収方法および装置のフロー図である。
【図2】図2は他の実施形態におけるリン酸回収方法および装置のフロー図である。
【図3】図3は参考例1の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0066】
1 原水槽
1a 原水
2 カチオン交換塔
2a カチオン交換樹脂層
3 濃縮液槽
3a 濃縮液
4 逆浸透装置
4a 逆浸透膜
4b 透過液室
4c 濃縮液室
5 アニオン交換塔
5a アニオン交換樹脂層
6 電気再生式イオン交換装置
6a 脱塩室
6b 濃縮室
6c アニオン交換膜
6d、6f カチオン交換膜
6e 陰極室
6g 陽極室
6h、6i 混床式イオン交換層
7 回収水槽
7a 回収水
8 蒸発濃縮装置
9 回収リン酸槽
9a 回収リン酸液
10 生物脱窒装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸含有水からリン酸を回収する方法であって、
食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜を備えた逆浸透装置に、リン酸含有水をpH3以下の条件下で供給して膜分離処理を行い、リン酸以外の酸を水とともに透過液室側に透過させて、リン酸を濃縮液室側に濃縮し、リン酸濃縮液を回収することを特徴とするリン酸の回収方法。
【請求項2】
リン酸含有水からリン酸を回収する方法であって、
食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜を備えた逆浸透装置に、リン酸含有水をpH3以下、かつリン酸濃度1〜15重量%の条件下で供給して膜分離処理を行い、リン酸以外の酸を水とともに透過液室側に透過させて、リン酸を濃縮液室側に濃縮し、リン酸濃縮液を回収することを特徴とするリン酸の回収方法。
【請求項3】
濃縮液室の濃縮液を取出して濃縮液室へ循環する過程を有し、循環する濃縮液に被処理リン酸含有水を加えて逆浸透処理を行う請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
逆浸透装置の透過水から酸を含む不純物を除去して純水を回収する請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
リン酸含有水からリン酸を回収する装置であって、
食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜を備え、リン酸含有水をpH3以下の条件下で膜分離処理して、リン酸以外の酸を水とともに透過液室側に透過させ、リン酸を濃縮液室側に濃縮する逆浸透装置と、
リン酸含有水をpH3以下の条件下で逆浸透膜装置の濃縮液室側に供給する原水供給部と、
逆浸透装置の透過液室側から透過液を取出す透過液取出部と、
逆浸透装置の濃縮液室側から濃縮リン酸液を取出す濃縮リン酸液取出部と
を有することを特徴とするリン酸回収装置。
【請求項6】
リン酸含有水からリン酸を回収する装置であって、
食塩脱塩率が50〜90%の逆浸透膜を備え、リン酸含有水をpH3以下、かつリン酸濃度1〜15重量%の条件下で膜分離処理して、リン酸以外の酸を水とともに透過液室側に透過させ、リン酸を濃縮液室側に濃縮する逆浸透装置と、
リン酸含有水をpH3以下、かつリン酸濃度1〜15重量%の条件下で逆浸透装置の濃縮液室側に供給するリン酸含有水供給部と、
逆浸透装置の透過液室側から透過液を取出す透過液取出部と、
逆浸透装置の濃縮液室側から濃縮リン酸液を取出す濃縮リン酸液取出部と
濃縮リン酸液取出部から取出した濃縮リン酸液を濃縮液室側に循環する循環経路と
を有することを特徴とするリン酸回収装置。
【請求項7】
循環経路を循環する濃縮液に希釈水を加える希釈水供給部を有する請求項5または6記載の装置。
【請求項8】
逆浸透装置の透過水から酸を含む不純物を除去する不純物除去装置を有する請求項5ないし7のいずれかに記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−233607(P2009−233607A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84686(P2008−84686)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】