説明

ルテニウム錯体の製造方法

【課題】 光電変換材料の原料として有用なシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)を収率よく製造できる方法を提供すること。
【解決手段】シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジアルコキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)等をエステル加水分解反応せしめることを特徴とするシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)の製造方法、並びにこのようにして得られたシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)をチオシアン酸塩と反応せしめることを特徴とするシス−ジ(イソチオシアナート)−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウム錯体の製造方法に関し、更に詳しくは、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)は、例えば、色素増感型湿式太陽電池等の光電変換素子用色素の原料として有用である。従来、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)の製造法としては、N,N−ジメチルホルムアミド溶媒中で、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを塩化ルテニウムと反応せしめる方法が知られている(例えば、特許文献1又は非特許文献1参照)。従来法では収率90%程度でシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)が得られているが、より高収率でシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)を得る製造法が求められている。
【特許文献1】特開2001−139587号
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,110,3686(1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、高収率でシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、式(1):
【0005】
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基、アルキルオキシアルキル基又はアラルキル基を示し、R、R及びRは水素原子又はRを示す。)で表されるルテニウム錯体(以下、ルテニウム錯体(1)という。)をエステル加水分解反応せしめることを特徴とするシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)の製造方法、並びにこのようにして得られたシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)をチオシアン酸塩と反応せしめることを特徴とするシス−ジ(イソチオシアナート)−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、従来法に比べてシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)をより高収率で製造することができ、また、得られたシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)からシス−ジ(イソチオシアナート)−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)を収率よく製造することができるので、本発明の製造方法は工業的利用価値大なるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
式(1)中、Rは炭素数1〜12のアルキル基、アルキルオキシアルキル基又はアラルキル基を示し、R、R及びRは互いに同じか或いは異なって、水素原子又は前記のRを示す。
【0008】
炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ネオヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチル−1−ヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が挙げられ、好ましくはプロピル基及びブチル基である。アルキルオキシアルキル基としては、2−メチルオキシエチル基、2−エチルオキシエチル基、2−プロピルオキシエチル基、2−ブチルオキシエチル基、2−イソプロピルオキシエチル基、2−イソブチルオキシエチル基、3−メチルオキシ−1−プロピル基、3−エチルオキシ−1−プロピル基、3−プロピルオキシ−1−プロピル基、3−ブチルオキシ−1−プロピル基、1−メチルオキシ−2−プロピル基、1−エチルオキシ−2−プロピル基、1−プロピルオキシ−2−プロピル基、1−ブチルオキシ−2−プロピル基、1−tert−ブチルオキシ−2−プロピル基、1−メチルオキシ−2−メチル−2−プロピル基、4−メチルオキシ−1−ブチル基、4−エチルオキシ−1−ブチル基、4−プロピルオキシ−1−ブチル基、4−ブチルオキシ−1−ブチル基、1−メチルオキシ−2−ブチル基、3−メチルオキシ−1−ブチル基、3−メチルオキシ−3−メチル−1−ブチル基、2−(2−メチルオキシエチルオキシ)エチル基、2−(2−エチルオキシエチルオキシ)エチル基、2−(2−プロピルオキシエチルオキシ)エチル基、2−(2−ブチルオキシエチルオキシ)エチル基等が挙げられる。アラルキル基としては、それぞれベンゼン環にメチル基、エチル基等の低級アルキル基を1個以上有していてもよいベンジル基、1−フェネチル基、2−フェネチル基等が挙げられる。
【0009】
本発明のルテニウム錯体(1)は次の化合物である。1)モノエステル体[式(1)中、R〜Rの全てが水素原子]、2)ジエステル体[式(1)中、R〜Rのいずれか二つが水素原子]、3)トリエステル体[式(1)中、R〜Rのいずれか一つが水素原子]及び4)テトラエステル体[式(1)中、R〜Rの全てがR]である。モノエステル体、ジエステル体、トリエステル体及びテトラエステル体はそれぞれ単独で用いてもよいし、混合物として用いてもよい。特に、テトラエステル体を単独又は主成分とするルテニウム錯体(1)を用いるのがより好ましい。
【0010】
ルテニウム錯体(1)の具体例として、モノエステル体としては、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−メチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−エチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−プロピルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−イソプロピルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−ブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−イソブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−sec−ブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−tert−ブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−ペンチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−ヘキシルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−ヘプチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−オクチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−[4−カルボキシ−4’−(2−メチルオキシエチルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン](4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−[4−カルボキシ−4’−(2−エチルオキシエチルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン](4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−[4−カルボキシ−4’−(3−メチルオキシ−1−プロピルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン](4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−[4−カルボキシ−4’−(1−メチルオキシ−2−プロピルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン](4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−[4−カルボキシ−4’−(4−メチルオキシ−1−ブチルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン](4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)等、
【0011】
ジエステル体としては、シス−ジクロロ−(4,4’−ジメチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4,4’−ジエチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4,4’−ジプロピルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4,4’−ジイソプロピルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4,4’−ジブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4,4’−ジイソブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4,4’−ジ−sec−ブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4,4’−ジ−tert−ブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4,4’−ジペンチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4,4’−ジヘプチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4,4’−ジオクチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−[4,4’−ジ(2−メチルオキシエチルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン](4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−[4,4’−ジ(2−エチルオキシエチルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン](4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−[4,4’−ジ(3−メチルオキシ−1−プロピルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン](4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−[4,4’−ジ(1−メチルオキシ−2−プロピルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン](4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−[4,4’−ジ(4−メチルオキシ−1−ブチルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン](4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4−カルボキシ−4’−メチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4−カルボキシ−4’−エチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4−カルボキシ−4’−プロピルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4−カルボキシ−4’−イソプロピルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4−カルボキシ−4’−ブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4−カルボキシ−4’−イソブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4−カルボキシ−4’−sec−ブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4−カルボキシ−4’−tert−ブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4−カルボキシ−4’−ペンチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4−カルボキシ−4’−ヘキシルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4−カルボキシ−4’−ヘプチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4−カルボキシ−4’−オクチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス[4−カルボキシ−4’−(2−メチルオキシエチルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン]ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス[4−カルボキシ−4’−(2−エチルオキシエチルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン]ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス[4−カルボキシ−4’−(3−メチルオキシ−1−プロピルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン]ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス[4−カルボキシ−4’−(1−メチルオキシ−2−プロピルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン]ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス[4−カルボキシ−4’−(4−メチルオキシ−1−ブチルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン]ルテニウム(II)等、
【0012】
トリエステル体としては、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−メチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジメチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−エチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジエチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−プロピルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジプロピルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−イソプロピルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジイソプロピルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−ブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−イソブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジイソブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−sec−ブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジ−sec−ブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−tert−ブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジ−tert−ブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−ペンチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジペンチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−ヘキシルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジヘキシルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−ヘプチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジヘプチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−(4−カルボキシ−4’−オクチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジオクチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−[4−カルボキシ−4’−(2−メチルオキシエチルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン][4,4’−ジ(2−メチルオキシエチルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン]ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−[4−カルボキシ−4’−(2−エチルオキシエチルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン][4,4’−ジ(2−エチルオキシエチルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン]ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−[4−カルボキシ−4’−(3−メチルオキシ−1−プロピルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン][4,4’−ジ(3−メチルオキシ−1−プロピルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン]ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−[4−カルボキシ−4’−(1−メチルオキシ−2−プロピルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン][4,4’−ジ(1−メチルオキシ−2−プロピルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン]ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−[4−カルボキシ−4’−(4−メチルオキシ−1−ブチルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン][4,4’−ジ(4−メチルオキシ−1−ブチルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン]ルテニウム(II)等、
【0013】
テトラエステル体としては、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジメチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジエチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジプロピルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジイソプロピルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジイソブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジ−sec−ブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジ−tert−ブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジペンチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジヘキシルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジヘプチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジオクチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス[4,4’−ジ(2−メチルオキシエチルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン]ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス[4,4’−ジ(2−エチルオキシエチルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン]ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス[4,4’−ジ(3−メチルオキシ−1−プロピルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン]ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス[4,4’−ジ(1−メチルオキシ−2−プロピルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン]ルテニウム(II)、シス−ジクロロ−ビス[4,4’−ジ(4−メチルオキシ−1−ブチルオキシカルボニル)−2,2’−ビピリジン]ルテニウム(II)等が挙げられる。
【0014】
ルテニウム錯体(1)は、例えば、A)Chem.Mater.,9,430(1997)に記載の公知の製造方法、具体的には4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンと飽和脂肪族アルコールとをエステル化反応させて4,4’−ジアルキルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジンを得た後、得られた4,4’−ジアルキルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジンを塩化ルテニウムとアルコール溶媒中で反応せしめる方法、B)4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン、塩化ルテニウム及び式(2):
R−OH (2)
(式中、Rは前記に同じ。)で表されるアルコール(以下、アルコール(2)という。)を少なくとも75℃以上、好ましくは85℃以上で反応せしめる方法等により得ることができる。本発明に用いられるルテニウム錯体(1)の製造方法は特に限定されないが、B)の方法が、工業的に一工程で収率よくルテニウム錯体(1)を得ることができるので、より好ましい。
【0015】
そこで、まずB)のルテニウム錯体(1)の製造方法について説明する。かかるルテニウム錯体(1)の製造方法においては、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン、塩化ルテニウム及びアルコール(2)を少なくとも75℃以上、好ましくは85℃以上で反応させればよい。このようにすれば錯体形成反応とエステル化反応が同時に進行し、容易にルテニウム錯体(1)を製造することができる。
【0016】
特許文献1に記載の従来法、即ち4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを塩化ルテニウムと反応せしめる方法では、使用する塩化ルテニウムの品質によって収率が大きく左右される。そのため、高収率でシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)を得る為には、市販の塩化ルテニウム(通常、3価の塩化ルテニウムと4価の塩化ルテニウムの混合物である。)を3価の塩化ルテニウムに精製して用いる必要があるが、本発明ではアルコール(2)が還元剤として働き、4価の塩化ルテニウムを3価の塩化ルテニウムに還元すると推察され、本発明に用いる塩化ルテニウムは事前に特別な精製をする必要はなく、市販されているものをそのまま用いることができる。もちろん事前に3価の塩化ルテニウムに精製したものを用いても特に問題ない。塩化ルテニウムは、一般に水和物として市販されており、本発明方法においても水和物が好んで用いられる。
【0017】
4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンの使用量は、塩化ルテニウム中のルテニウム原子1モルに対して通常1.7モル倍以上、好ましくは1.8〜3.0モル倍、より好ましくは1.9〜2.1モル倍である。
【0018】
かかるルテニウム錯体(1)の製造方法において、アルコール(2)は還元剤及びエステル化剤として用いられ、過剰に用いた場合は反応溶媒ともなる。なお、使用するアルコール(2)の種類によって、エステル化の進行具合が異なってくるので、使用するアルコール(2)の種類によって適宜反応温度を設定する必要がある。この際、使用するアルコール(2)の沸点よりも低い温度で反応を行う時は常圧で行うことができるが、沸点よりも高い温度で反応を行う時は耐圧容器を用いて行う必要がある。
【0019】
アルコール(2)としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ネオペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、ネオヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、2−メチルオキシエタノール、2−エチルオキシエタノール、2−プロピルオキシエタノール、2−ブチルオキシエタノール、2−イソプロピルオキシエタノール、2−イソブチルオキシエタノール、3−メチルオキシ−1−プロパノール、3−エチルオキシ−1−プロパノール、3−プロピルオキシ−1−プロパノール、3−ブチルオキシ−1−プロパノール、1−メチルオキシ−2−プロパノール、1−エチルオキシ−2−プロパノール、1−プロピルオキシ−2−プロパノール、1−ブチルオキシ−2−プロパノール、1−tert−ブチルオキシ−2−プロパノール、1−メチルオキシ−2−メチル−2−プロパノール、4−メチルオキシ−1−ブタノール、4−エチルオキシ−1−ブタノール、4−プロピルオキシ−1−ブタノール、4−ブチルオキシ−1−ブタノール、1−メチルオキシ−2−ブタノール、3−メチルオキシ−1−ブタノール、3−メチルオキシ−3−メチル−1−ブタノール、2−(2−メチルオキシエチルオキシ)エタノール、2−(2−エチルオキシエチルオキシ)エタノール、2−(2−プロピルオキシエチルオキシ)エタノール、2−(2−ブチルオキシエチルオキシ)エタノール、ベンジルアルコール、1−フェネチルアルコール、2−フェネチルアルコール等が挙げられ、好ましくはプロパノール及びブタノールである。
【0020】
かかるアルコール(2)は単独で用いればよいが、ニ種類以上を混合して用いてもよい。また、反応を阻害しなければ、アルコール(2)以外の有機溶媒を添加して反応を行うこともできる。かかるアルコール(2)の使用量は、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン1重量部に対して通常5〜100重量部であり、好ましくは10〜60重量部である。
【0021】
原料の混合順序は特に限定されず、例えば反応器にまず塩化ルテニウム及びアルコール(2)を仕込み、撹拌下に4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを投入する方法、或いは塩化ルテニウム、アルコール(2)及び4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを同時に反応器に仕込む方法等が挙げられる。
【0022】
本発明の製造方法においては、遮光下で反応を行うのが好ましい。遮光せずに反応を行うと、トランス配座の錯体が副生する。遮光方法については、蛍光灯又は太陽等の光が反応器内の反応混合物に照射されなければ、特に限定されない。また、通常窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことができる。
【0023】
反応温度は通常75℃以上、好ましくは85℃以上、より好ましくは90〜160℃である。
【0024】
反応終了後、反応混合物から濾過、濃縮、抽出、洗浄、乾燥等の所望の分離操作を行うことでルテニウム錯体(1)を得ることができる。
【0025】
かくして得られるルテニウム錯体(1)は、一般に、モノエステル体、ジエステル体、トリエステル体及びテトラエステル体の混合物として得られるが、エステル化の度合いに応じていずれかの目的物質が主生成物となり得る。エステル化の度合いはアルコール(2)の種類、原料モル比、反応温度、反応時間などによって影響される。
【0026】
次に、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)の製造方法について説明する。
ルテニウム錯体(1)を、遮光下、塩基の存在下にエステル加水分解反応せしめればシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)を製造することができる。ルテニウム錯体(1)のエステル加水分解反応は、ルテニウム錯体(1)と塩基及び水を接触、混合することで実施され、その混合順序は特に制限されない。
【0027】
塩基としては、例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩等の無機塩基が挙げられ、中でもアルカリ金属水酸化物が好ましい。アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリ金属炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等が挙げられる。アルカリ金属炭酸水素塩としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。かかる塩基は単独で用いてもよいし、二種類以上を混合して用いてもよい。かかる塩基の使用量は、ルテニウム錯体(1)1モルに対して、通常4.0〜8.0モル倍、好ましくは4.4〜6.0モル倍である。
【0028】
溶媒としては、通常水が用いられる。かかる溶媒の使用量は特に限定されないが、ルテニウム錯体(1)1重量部に対して、通常1重量部以上、好ましくは1〜40重量部、より好ましくは1〜20重量部である。
【0029】
また、ルテニウム錯体(1)の種類によっては疎水性のものもあるので、必要に応じて有機溶媒を用いてもよい。かかる有機溶媒としては、ルテニウム錯体(1)を溶解し反応を阻害しない有機溶媒であれば特に制限はないが、水溶性の有機溶媒がよく、例えば、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒等が挙げられる。かかる有機溶媒の使用量は特に限定されないが、ルテニウム錯体(1)1重量部に対して、通常1重量部以上、好ましくは1〜40重量部、より好ましくは1〜20重量部である。かかる有機溶媒は、単独で用いてもよいし、二種類以上を混合して用いてもよい。また、有機溶媒を用いる場合は通常、前述の水との混合溶媒として用いられる。
【0030】
本発明の製造方法においては、遮光下で操作を行うのが好ましい。遮光しないと、トランス配座の錯体が副生する。遮光方法については、蛍光灯又は太陽等の光が反応器内の反応混合物に照射されなければ、特に限定されない。また、空気雰囲気下で行っても問題ないが、通常窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行われる。
【0031】
反応温度は通常5〜100℃、好ましくは10〜80℃、より好ましくは15〜60℃である。
【0032】
エステル加水分解反応後、反応液を濃縮し、得られる濃縮残渣に室温(10℃〜40℃)程度を維持しながら塩酸水溶液を加える。かかる操作は発熱を伴う為、必要に応じて水浴槽、氷浴槽等中で行ってもよい。塩酸水溶液の使用量は、「加水分解反応に使用した塩基と同モル量+ルテニウム錯体(1)に対して6モル倍量」が必要量であり、これ以上であればよいが、反応を確実なものとするために、通常必要量に対して1.1〜20モル倍量、好ましくは1.2〜10モル倍量用いられる。塩酸水溶液の濃度は、通常0.1〜30重量%、好ましくは1〜20重量%、より好ましくは3〜10重量%である。塩酸水溶液を添加後、析出した固体を濾過し、水洗、乾燥等をすることでシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)を得ることができる。かかるシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)は通常水和物で得られる。
【0033】
このようにして製造されたシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)は、色素増感型湿式太陽電池等の光電変換素子用色素であるシス−ジ(イソチオシアナート)−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)の原料として用いることができる。そこで、シス−ジ(イソチオシアナート)−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)の製造法について説明する。
【0034】
前述の製法により得られたシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)を、溶剤中に、不活性ガス雰囲気下及び遮光下で、チオシアン酸塩と反応せしめればシス−ジ(イソチオシアナート)−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)を製造することができる。原料として用いるシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)は、精製したものを用いてもよいし、前述の製法により得られる反応液又は濃縮残渣をそのまま用いてもよい。反応液又は濃縮残渣を用いる場合では、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)は用いた塩基との塩として存在しているが、本発明の製造方法においては、特に問題無く用いることができる。また、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)は、水和物であってもなくてもよい。
【0035】
チオシアン酸塩としては、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸リチウム等が挙げられ、中でもチオシアン酸アンモニウムが好ましい。かかるチオシアン酸塩の使用量は、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)1モルに対して通常2〜100モル倍であり、好ましくは2〜40モル倍である。
【0036】
溶剤としては、有機溶剤若しくは有機溶剤と水の混合溶剤が挙げられ、好ましくは有機溶剤と水の混合溶剤である。有機溶剤としては、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)とチオシアン酸塩を溶解し、反応に不活性なものであれば特に制限はないが、N,N−ジメチルホルムアミドが好ましい。かかる有機溶剤の使用量は特に制限はないが、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)1重量部に対して通常1〜100重量部であり、好ましくは5〜20重量部である。
【0037】
また、有機溶剤と水の混合溶剤を用いる場合、水の使用量は特に制限はないが、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)1重量部に対して通常1〜100重量部であり、好ましくは5〜20重量部である。
【0038】
反応は通常窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で、常圧下又は加圧下で撹拌しながら行われる。反応温度は、通常50〜160℃、好ましくは90℃〜130℃である。
【0039】
本発明の製造方法における好ましい原料と溶剤の混合順序としては、例えば、1)反応器にまずチオシアン酸塩及び水を仕込み、撹拌下に有機溶剤を滴下し、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)をそのまま又は有機溶剤に溶解して添加する方法、2)先にシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)及び有機溶剤を仕込み、撹拌下に水を滴下し、チオシアン酸塩をそのまま又は水に溶解して添加する方法等が挙げられる。遮光方法については、蛍光灯又は太陽等の光が反応器内の反応混合物に照射されなければ、特に限定されない。
【0040】
反応終了後、反応混合物を遮光下で濃縮して溶剤を除去し、得られる濃縮物に水を添加した後、酸を添加し、得られるシス−ジ(イソチオシアナート)−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)の固体を濾別する。使用する酸としては、特に制限はないが、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸又は過塩素酸等の鉱酸や、酢酸又はトリフルオロメタンスルホン酸等の有機酸が挙げられ、好ましくは硝酸、過塩素酸及びトリフルオロメタンスルホン酸である。酸を添加後のpHは、通常pH3.6以下、好ましくはpH2.0〜3.3である。
【0041】
かかる固体を乾燥することで、シス−ジ(イソチオシアナート)−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)を得ることができる。かかるシス−ジ(イソチオシアナート)−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)は通常水和物で得られる。得られたシス−ジ(イソチオシアナート)−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)は通常シス−ジ(イソチオシアナート)−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)とシス−ジ(チオシアナート)−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)との混合物で得られ、その混合物中に含まれるシス−ジ(チオシアナート)−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)の比率は通常0.1%〜15%である。この混合物は、そのまま光電変換素子用材料として用いることもできるが、カラムクロマトグラフィー、ゲル濾過、再結晶などの操作により精製するほうがより好ましい。
【0042】
本発明の製造方法によって製造されたシス−ジ(イソチオシアナート)−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)は、例えばテトラブチルアンモニウムヒドロキシド等の四級アンモニウム塩と反応して、対応する塩を形成する。このようにして製造された塩も、色素増感型湿式太陽電池等の光電変換素子用色素として使用することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。また、ルテニウム錯体(1)のエステル化率はH−NMR分析の積分曲線から下記の式を用いて算出した。
【0044】
【数1】

【0045】
実施例1
アルゴン雰囲気下で、アルミホイルで被覆して遮光された反応器に、塩化ルテニウム水和物(ヘレウス株式会社製、ロット番号11204、ルテニウム含量40.70%)0.50g(2.0mmol)及びブタノール9.62gを仕込み、室温で攪拌した。その後、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン0.95g(3.9mmol)を添加し、反応温度111℃で12時間反応した。反応終了後、反応混合物を85℃で濾過し、濾残をブタノール12gで洗浄した。濾洗液を濃縮した後、7.3%塩酸44.3gで洗浄し、乾燥して、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)1.70gを得た[黒緑色結晶、エステル化率100%、収率99%(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン基準)]。以下に、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)のH−NMRデータを示す。
【0046】
H−NMR(DMSO−d) δ:0.89(t,6H)、0.98(t,6H)、1.37(sextet,4H)、1.50(sextet,4H)、1.66(quintet,4H)、1.81(quintet,4H)、4.29(t,4H)、4.46(t,4H)、7.48(dd,2H)、7.76(d,2H)、8.26(dd,2H)、8.90(s,2H)、9.09(s,2H)、10.10(d,2H)
【0047】
アルゴン雰囲気下で、アルミホイルで被覆して遮光された反応器に、得られたシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)1.24g(1.4mmol)、水酸化リチウム一水和物0.28g(6.7mmol)、イオン交換水24.8g及びテトラヒドロフラン12.4gを仕込み、室温で16時間撹拌した。反応終了後、反応混合物を濃縮乾固した。濃縮残渣に7.3%塩酸30.1gを加え室温で13時間撹拌した後濾過した。濾残をイオン交換水で洗浄後、乾燥して、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)0.88gを得た(黒緑色結晶、収率95%)。
【0048】
実施例2〜3
実施例1の塩化ルテニウム水和物に代えて、表1に記載した塩化ルテニウム水和物を用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った。その結果、得られたシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)及びシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)の収率を表1に示す。
【0049】
比較例1
アルゴン雰囲気下、アルミホイルで被覆して遮光された反応器に、塩化ルテニウム水和物(ヘレウス株式会社製、ロット番号11204、ルテニウム含量40.70%)0.50g(2.0mmol)及びN,N−ジメチルホルムアミド9.62gを仕込み、室温で攪拌した。その後、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン0.95g(3.9mmol)を添加し、反応温度120℃で12時間反応した。反応終了後、反応混合物を85℃で濾過し、濾残をN,N−ジメチルホルムアミド5gで洗浄した。濾洗液を濃縮した後、濃縮残渣を7.3%塩酸25.8gで洗浄し、乾燥して、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)0.44gを得た。また、濾残にN,N−ジメチルホルムアミドを加え抽出することでシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)0.14gを得た。即ち、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)の収率は45%(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン基準)であった。
【0050】
比較例2〜3
比較例1の塩化ルテニウム水和物に変えて、表1に記載した塩化ルテニウム水和物を用いた以外は比較例1と同様にして反応を行った。その結果、得られたシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)の収率を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示すとおり、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンと塩化ルテニウム水和物をN,N−ジメチルホルムアミド溶媒中反応させてシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)を得る公知の製造方法では、使用する塩化ルテニウム水和物の品質によって収率が大きく異なり、低収率である。一方、本発明の製造方法においては、使用する塩化ルテニウム水和物の品質に依らず高収率でシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)を製造することができる。
【0053】
実施例4
アルゴン雰囲気下で、アルミホイルで被覆して遮光された反応器に、チオシアン酸アンモニウム0.56g(7.4mmol)及び蒸留水4.0gを仕込み、室温で攪拌した。その後、N,N−ジメチルホルムアミド4.3gを滴下し、次いで実施例1で得たシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)0.40g(0.6mmol)を添加し、反応温度103℃で5時間反応した。反応終了後、放冷し、濾過を行い、濾液を濃縮乾固した。得られた濃縮物をイオン交換水9.5gに溶解させ、69%硝酸を添加し、pH2.0とした。濾過後、濾残を、硝酸でpH2.9に調整した水1.8gで洗浄し、乾燥することにより、濃赤紫色の結晶0.39gを得た。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析(面積百分率法)の結果、シス−ジ(イソチオシアナート)−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)の純度は96.4%であり、異性体であるシス−ジ(チオシアナート)−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)を1.4%含んでいた[シス−ジ(イソチオシアナート)−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)の収率89%]。
【0054】
実施例5
アルミホイルで被覆して遮光された反応器に、実施例1と同様にして得たシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジブチルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)0.96g(1.1mmol)、水酸化リチウム一水和物0.22g(5.2mmol)、イオン交換水9.6g及びテトラヒドロフラン4.8gを仕込み、反応温度26℃で16時間反応した。反応終了後、反応液を濃縮乾固して、濃縮残渣を得た。次いで、アルゴン雰囲気下、アルミホイルで被覆して遮光された反応器に、チオシアン酸アンモニウム1.00g(13.1mmol)及びイオン交換水7.2gを仕込み、攪拌下N,N−ジメチルホルムアミド7.2gを滴下した後、上述の濃縮残渣を全量添加した。反応温度102℃で5時間反応した後、放冷し、濾過を行い、濾液を濃縮乾固した。得られた濃縮物をイオン交換水14.5gに溶解させ、69%硝酸を添加し、pH2.0とした。濾過後、濾残を、硝酸でpH2.6に調整した水3.2gで洗浄し、乾燥することにより、濃赤紫色の結晶0.73gを得た。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析(面積百分率法)の結果、シス−ジ(イソチオシアナート)−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)の純度は86.2%であり、異性体であるシス−ジ(チオシアナート)−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)を7.8%含んでいた[シス−ジ(イソチオシアナート)−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)の収率81%]。
【0055】
実施例6
アルゴン雰囲気下で、アルミホイルで被覆して遮光された反応器に、塩化ルテニウム水和物(ヘレウス株式会社製、ロット番号11204、ルテニウム含量40.70%)0.50g(2.0mmol)及びプロパノール9.74gを仕込み、室温で攪拌した。その後、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン0.95g(3.9mmol)を添加し、反応温度93℃で12時間反応した。反応終了後、反応混合物を75℃で濾過し、濾残をプロパノールで洗浄し、乾燥して、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジプロピルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)1.36g(黒緑色結晶、エステル化率100%)を得た。また、濾洗液を濃縮した後、7.3%塩酸で洗浄し、乾燥して、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジプロピルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)0.22g(黒緑色結晶、エステル化率100%)を得た。即ち、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジプロピルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)の収率は98%(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン基準)であった。以下に、シス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジプロピルオキシカルボニル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)のH−NMRデータを示す。
【0056】
H−NMR(DMSO−d) δ:0.94(t,6H)、1.07(t,6H)、1.71(sextet,4H)、1.86(sextet,4H)、4.27(t,4H)、4.44(t,4H)、7.51(d,2H)、7.77(d,2H)、8.28(d,2H)、8.93(s,2H)、9.12(s,2H)、10.11(d,2H)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基、アルキルオキシアルキル基又はアラルキル基を示し、R、R及びRは水素原子又はRを示す。)で表されるルテニウム錯体をエステル加水分解反応せしめることを特徴とするシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)の製造方法。
【請求項2】
塩基の存在下でエステル加水分解反応を行うことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
塩基が、アルカリ金属水酸化物である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
式(1)で表されるルテニウム錯体として、
4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンを塩化ルテニウム及び式(2):
R−OH (2)
(式中、Rは前記に同じ。)で表されるアルコールと反応せしめて得られるルテニウム錯体を用いることを特徴とする請求項1〜3に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の製造方法で得られるシス−ジクロロ−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)をチオシアン酸塩と反応せしめることを特徴とするシス−ジ(イソチオシアナート)−ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)の製造方法。
【請求項6】
式(3)で表されるルテニウム錯体。式(3):
【化2】

(式中、R’はプロピル基又はブチル基を示し、R、R及びRは水素原子又はR’を示す。)


【公開番号】特開2007−99678(P2007−99678A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291582(P2005−291582)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(000167646)広栄化学工業株式会社 (114)
【Fターム(参考)】