説明

ルーフパネル制振ブラケット

【課題】ルーフパネルの共振周波数を制御するために、当該ルーフパネルに質量を付加するにあたり、その質量がルーフパネルの振動により落下することがない、ルーフパネル制振ブラケットを提供する。
【解決手段】ルーフパネルPに質量を付加して、ルーフパネルPの共振周波数を制御するマスダンパとして機能するルーフパネル制振ブラケット1であって、
ルーフボウRに接合される基部2と、ルーフパネルPの下面に接着剤Bにより少なくとも車両前後方向両端部の二点で接合されて該ルーフパネルに質量を付加する質量付加部3と、前記基部2と該質量付加部3を連結する車両前後方向に延びる連結部4とからなり、
前記連結部4に車幅方向に延びる一以上の屈曲部5を設けてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室の屋根を形成するルーフパネルが振動することにより発音し、車室内に不快な音が発生することを防止することができるルーフパネル制振ブラケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗用車において、エンジン等の加振源の振動によりルーフパネルが振動し、ルーフパネルの共振周波数が車体の空洞共鳴周波数に一致しているまたは、それよりも大きいと、ルーフパネルが発音し、車室内に不快な音が発生するという問題があった。
このため、ルーフパネルの振動により、車室内に不快な音が発生することを防止する方策として、例えば特許文献1に記載のごとく、ルーフパネルの下面に、制振鋼板を接着接合して、ルーフパネルに質量を付加してその共振周波数を車室内の空洞共鳴周波数からずらせることが提案されている。
【0003】
ところが、このような構成では、振幅の大きいルーフパネルの下面に直接的に制振鋼板を接着接合していたため、振動により制振鋼板がルーフパネルから剥離して、最悪の場合は落下してしまうおそれがあった。
【特許文献1】実開昭59−29366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来技術が抱える上記の問題点を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、ルーフパネルの共振周波数を制御するために、当該ルーフパネルに質量を付加するにあたり、その質量がルーフパネルの振動により落下することを防ぐ、ルーフパネル制振ブラケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るルーフパネル制振ブラケットは、ルーフパネルに質量を付加して、ルーフパネルの共振周波数を制御するマスダンパとして機能するルーフパネル制振ブラケットであって、
ルーフボウに接合される基部と、ルーフパネルの下面に接着剤により少なくとも車両前後方向両端部の二点で接合されて該ルーフパネルに質量を付加する質量付加部と、前記基部と該質量付加部を連結する車両前後方向に延びる連結部とからなり、
前記連結部に車幅方向に延びる一以上の屈曲部を設けてなる。
【発明の効果】
【0006】
このように、ルーフパネルの下面に質量付加部を接着剤により少なくとも車両前後方向両端部の二点で接合することにより、質量付加部の質量をルーフパネルに付加して、ルーフパネルの共振周波数を前記空洞共鳴周波数からずらし、かつ、それより小さくして、ルーフパネルが発音することを抑制することができるとともに、質量付加部がルーフパネルから剥離して落下することを、前記基部をルーフボウに接合して、基部と質量付加部を屈曲部を設けた連結部により連結することにより、防止することができる。
【0007】
加えて、連結部に屈曲部を設けることにより、連結部の車両前後方向および車両上下方向を含む断面内における、車両上下方向の力に対する連結部の曲げ剛性を意図的に下げることができる。これにより、質量付加部が接着剤によりルーフパネルに接合されている場合には、連結部は質量付加部をほとんど支持することなく、質量付加部の質量を効率的にルーフパネルに付加することができ、質量付加部ひいてはルーフパネル制振ブラケット全体の不要な重量の増加を抑制することができる。これとともに、質量付加部がルーフパネルから剥離した場合には、連結部は質量付加部を支持して質量付加部が脱落することを防止することができる。この効果は屈曲部を多く設けるほど高くなる。
【0008】
さらに、ルーフパネル制振ブラケットの基部をルーフボウに接合することができるため、あらかじめ当該ルーフパネル制振ブラケットをルーフボウに接合した後、ルーフボウとともに当該ルーフパネル制振ブラケットをルーフパネルに接合することができ、特許文献1に記載の考案のように、制振鋼板をルーフパネルの下面側にメルシートや接着剤を介して接合するというような困難な作業を廃することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示すところに基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態たるルーフパネル制振ブラケットとルーフパネルおよびルーフボウの接合態様を車幅方向から見て示す模式図である。
【0010】
図1に示すように、本発明の一実施例になるルーフパネル制振ブラケット1は、ルーフパネルPに質量を付加して、ルーフパネルPの共振周波数を制御するマスダンパとして機能するものであって、
ルーフパネルPに接着剤Bにて接合されたルーフボウRの車両前方端部の上面に、二重丸◎で示す位置にて、スポット溶接により接合される基部2と(請求項3に相当)、ルーフパネルPの下面の中央部(隣接するルーフボウRのほぼ中央)に接着剤Bにより少なくとも車両前後方向両端部の二点(ここでは後述するように合計四点)で接合されて該ルーフパネルPに質量を付加する質量付加部3と、前記基部2と該質量付加部3を連結する車両前後方向に延びる連結部4とからなり、
前記連結部4に車幅方向に延びる一以上の屈曲部5を設けてなることを特徴とする。(請求項1に相当)
【0011】
請求項1の作用効果は、段落番号[0006][0007][0008]の発明の効果に記載済みであるため割愛する。ここで、質量付加部2をルーフパネルPの中央部に接合することにより、ルーフパネルの膜振動の腹部中心に質量を付加することができ、ルーフパネルPの共振周波数をより効果的に低減することができる。
【0012】
さらに、前記質量付加部3の上面に、ここでは図示しない追加質量を載置可能な載置部6を設ける。(請求項2に相当)これにより、ルーフパネルに付加する質量を調整可能なものとすることができ、ルーフパネルの共振周波数の低減代を所望の値に調節することができる。
前記基部2をルーフボウRにスポット溶接により接合する(請求項3に相当)ことにより、ルーフパネル制振ブラケット1の基部2の任意の位置を不連続的にルーフボウRに溶接して接合することができ、溶接作業をより効率化することができる。なお、基部2をルーフボウRに接合するにあたっては、溶接以外の接合方法、例えばリベットやろう付け、接着剤等による接合方法を用いることも可能である。
【0013】
また、質量付加部2を接着剤BによりルーフパネルPに接合する理由は、ルーフパネルの美観が損なわれることを防止するためである。
ここでは、ルーフボウRの下面には、ルーフレインフォースFが接着剤Bにより接合されている。
【0014】
加えて、このルーフパネル制振ブラケット1を、ルームランプ用ブラケットまたはマップランプ用ブラケットとして用いる。(請求項4に相当)これによれば、車室の屋根を構成する部品に前記ルーフパネル制振ブラケットの機能を持たせることができ、新規部品を追加することなく、ルーフパネルの共振周波数を空洞共鳴周波数より小さくし、これにより、ルーフパネルの発音を抑制して、車室内に発生する騒音を低減することができる。
【0015】
図2は、本発明の一実施形態たるルーフパネル制振ブラケットとルーフパネルおよびルーフボウの接合態様を車両上方から見て示す模式図である。
図2中、二重丸◎はスポット溶接による接合箇所を、一重丸○は接着剤による接合箇所を示す。
ルーフパネル制振ブラケット1の基部2は、◎で示す二箇所にて車幅方向に延びるルーフボウRにスポット溶接にて接合され、質量付加部3は○に示す四箇所(車両前後方向両端部のそれぞれ二箇所、合計四箇所)にてルーフパネルPに接着剤にて接合される。基部2と質量付加部3は連結部4により連結され、連結部4には車幅方向に延びる屈曲部5が設けられる。質量付加部3の上面には、図に示すような凹状の、追加質量の載置部6が設けられる。(請求項1、2、3に相当)
ここで接着剤とは、いわゆるマスチック接着剤を指し、その特性としては、硬化後ルーフパネルに歪に与えないことが必要となる。
【0016】
図3は、本発明の一実施形態たるルーフパネル制振ブラケットを斜め上方から見て示す模式図である。
ルーフパネル制振ブラケット1は、ここでは図示しないルーフパネルに接合されたルーフボウにスポット溶接により接合される基部2と、これも図示しないルーフパネルの下面に接着剤により接合されて該ルーフパネルに質量を付加する質量付加部3と、前記基部2と該質量付加部3を連結する車両前後方向に延びる連結部4とからなり、
前記連結部4に車幅方向に延びる一の屈曲部5を設けてなることを特徴とする。(請求項1、2に相当)
【0017】
質量付加部3の上面には、追加質量を載置可能な凹状の載置部6が設けられる。(請求項3に相当)
ここではルーフパネル制振ブラケット1は、ルームランプブラケットとして用いられており、質量付加部3の載置部6には図示しないランプユニットが追加質量として設けられる。(請求項4に相当)もちろん、ランプユニットとは別個の追加質量を設けることも可能である。
図3中、二重丸◎はスポット溶接による接合箇所を、一重丸○は接着剤による接合箇所を示す。
【0018】
ここでは屈曲部5は一つとしたが、これを複数個設けることにより、連結部4の上下方向の曲げ剛性をさらに下げて、質量付加部3の質量をより効率的にルーフパネルに付加することができる。
なお、本発明のルーフパネル制振ブラケット1は、ルーフボウの材質に合わせて、薄厚の鋼板、アルミニウム、ステンレス鋼板、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂または複合材等殻適宜選択して構成することが可能である。
また、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。
【実施例】
【0019】
本発明に係るルーフパネル制振ブラケットの、ルーフパネルの共振周波数を下げて車室内騒音を低減する効果を評価する目的で、試験車両を用いて、以下に述べる試験を行った。
本発明に係るルーフパネル制振ブラケットを取り付けた前記試験車両のルーフパネルと、当該ルーフパネル制振ブラケットを取り付けていない前記試験車両のルーフパネルとについて、それぞれ所定の周波数にて加振して、それぞれのルーフパネルの所定の位置における膜振動加速度を測定し、それぞれの加振力で除した値(イナータンス:(mm/s)/N)を求めた。その結果を図4に示す。なお、図4では、グラフを見やすくするため、縦軸をlog表示(単位はdB)としている。
【0020】
図4中実線は、ルーフパネル制振ブラケットを取り付けていないルーフパネルのイナタンスを、破線はルーフパネル制振ブラケットを取り付けたルーフパネルのイナータンスを示し、一点鎖線は、試験車両固有の空洞共鳴周波数のうち特に問題となる、空洞共鳴前後二次周波数を示す。
【0021】
図4に実線で示すように、ルーフパネル制振ブラケットを取り付けない状態のルーフパネルでは、ルーフパネルの膜一次共振周波数が空洞共鳴前後二次周波数と一致しているが、本発明に係るルーフパネル制振ブラケットを取り付けることにより、ルーフパネルの膜一次共振周波数を下げて(140→110Hz)、空洞共鳴前後二次周波数(140Hz)よりも小さくすることができることが分かる。ここで膜振動とは、ルーフパネルの厚み方向の振動を指すものとする。
【0022】
また、試験車両の右エンジンマウントに上下方向の単位入力を与えたときの、本発明に係るルーフパネル制振ブラケットを取り付けたルーフパネルと、当該ルーフパネル制振ブラケットを取り付けていないルーフパネルとについて、単位入力当たりの耳位置での音圧(車体放射係数:Pa/N)を求めた。その結果を図5に示す。なお、図5では、グラフを見やすくするため、縦軸をlog表示(単位はdB)としている。
【0023】
図5中実線は、ルーフパネル制振ブラケットを取り付けていない場合の車体放射係数を、破線はルーフパネル制振ブラケットを取り付けた場合の車体放射係数を示し、一点鎖線は、試験車両固有の空洞共鳴前後二次周波数を示す。なお、破線は実線に対して変化している部分のみを示すものとし、70Hz以下では実線と一致している。
【0024】
図5に示すように、本発明に係るルーフパネル制振ブラケットを取り付けていない場合の車体放射係数は、前述したように、ルーフパネルの膜一次共振周波数と、空洞共鳴二次周波数とが一致しているため、実線で示すように140Hzにて大きなピークが発生しているが、本発明に係るルーフパネル制振ブラケットを取り付けて、ルーフパネルの膜一次共振周波数を下げて(140→110Hz)、空洞共鳴前後二次周波数(140Hz)よりも小さくすることにより、車体放射係数のピークを下げて、発音量を低減できていることが分かる。
【0025】
また、試験車両の右エンジンマウントに上下方向の単位入力を与えたときの、本発明に係るルーフパネル制振ブラケットを取り付けたルーフパネルと、当該ルーフパネル制振ブラケットを取り付けていないルーフパネルとについて、単位入力当りの耳位置での音圧(車体放射係数:Pa/N)を求めた。その結果を図6に示す。なお、図6では、グラフを見やすくするため縦軸をlog表示(単位はdB)としている。
【0026】
図6中、実線はルーフパネル制振ブラケットを取り付けていない場合の車体放射係数を、破線はルーフパネル制振ブラケットを取り付けた場合の車体放射係数を示し、一点鎖線は、試験車両固有の空洞共鳴前後二次周波数を示す。なお、ここでも破線は実線に対して変化している部分のみを示すものとし、90Hz以下では実線と一致している。
【0027】
図6に示すように、本発明に係るルーフパネル制振ブラケットを取り付けて、ルーフパネルの膜一次共振周波数を下げて(140→110Hz)、空洞共鳴前後二次周波数(140Hz)よりも小さくして、ルーフパネルの発音量を下げることにより、とくには100〜200Hzのこもり音を低減できていることが分かる。
ルーフパネル膜一次共振周波数が空洞共鳴周波数と重なる、または、それより大きいと、ルーフパネルが発音し車室内に不快な音が発生する。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、車室内騒音を低減することができる車室の屋根構造に適用して効果的なものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態たるルーフパネル制振ブラケットとルーフパネルおよびルーフボウの接合態様を車幅方向から見て示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態たるルーフパネル制振ブラケットとルーフパネルおよびルーフボウの接合態様を車両上方から見て示す模式図である。
【図3】本発明の一実施形態たるルーフパネル制振ブラケットを斜め上方から見て示す模式図である。
【図4】本発明のルーフパネル制振ブラケットの効果を示すグラフである。
【図5】本発明のルーフパネル制振ブラケットの効果を示すグラフである。
【図6】本発明のルーフパネル制振ブラケットの効果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1 ルーフパネル制振ブラケット
2 基部
3 質量付加部
4 連結部
5 屈曲部
6 載置部
P ルーフパネル
R ルーフボウ
B 接着剤
F ルーフレインフォース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルーフパネルに質量を付加して、ルーフパネルの共振周波数を制御するマスダンパとして機能するルーフパネル制振ブラケットであって、
ルーフボウに接合される基部と、ルーフパネルの下面に接着剤により少なくとも車両前後方向両端部の二点で接合されて該ルーフパネルに質量を付加する質量付加部と、前記基部と該質量付加部を連結する車両前後方向に延びる連結部とからなり、
前記連結部に車幅方向に延びる一以上の屈曲部を設けてなるルーフパネル制振ブラケット。
【請求項2】
前記質量付加部の上面に、追加質量を載置可能な載置部を設けてなる請求項1に記載のルーフパネル制振ブラケット。
【請求項3】
前記基部をルーフボウにスポット溶接により接合してなる請求項1もしくは2に記載のルーフパネル制振ブラケット。
【請求項4】
ルームランプ用ブラケットまたはマップランプ用ブラケットとして用いてなる請求項1〜3のいずれかに記載のルーフパネル制振ブラケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−21696(P2006−21696A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−202969(P2004−202969)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】