説明

ループ式ATC/TDシステム

【課題】ループ式ATC/TDシステムの1ループ線内に複数の列車同時在線を可能とし移動閉そくによる列車制御を実現する。
【解決手段】列車31の走行する軌道沿いに設置されたループ線12と、ループ線に流れる電文を送受信する地上送受信器22と、ループ線に流れる電文を送受信する車上送受信器32とループ線と車上送受信器との通信を実現する車上アンテナ33から成る構成とし、地上装置から列車制御電文としてのATC電文Aを送信し、車上装置から列車検知電文としてのTD電文Tを送信しこれらの電文の送受信により地上側で各ループ毎に保持している列車ID管理テーブルを更新し、ループ線毎の列車在線を管理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノレール等において列車の走行する軌道に沿って設置されたループ線により地上システムから車上システムへ、又は車上システムから地上システムへデジタル電文の送受信が可能なループ式ATC/TDシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
1つのループ線上に複数の列車の同時在線を許容した場合のループ線と複数の車両との同時通信を実現する方法としては、FDMA(Frequency Division Multiple Access)方式、TDMA(Time Division Multiple Access)方式、CDMA(Coded Division Multiple Access)方式がある。
【0003】
FDMAは、車両毎に地上から車上への通信及び車上から地上への通信で用いるデジタル電文の周波数を変えて同時通信を実現する方式である。しかし、使用する周波数の数は、1ループ当たりの最大在線許容列車数の2倍必要になるが、車上にはノイズ源があり、使用できる周波数帯域に制限があるため、本方式を列車制御用に用いることは適当ではない。
【0004】
TDMAは、列車数分の時分割スロットを予め予約するため、通常時は全ての列車が1ループ上に在線することはないため空きスロットが生じ伝送効率が悪くなる。また空き時間時は地上より電文の送信はしないため、この場合ループ線の断検知ができない。よって本方式を列車制御用に用いることは適当ではない。
【0005】
CDMAは、複数の送信者が同一の周波数を共有し、それぞれの送信者が異なった符号を乗算して送信するが、電波の弱い列車が存在すると受信側で情報を受信できないという問題が発生し、列車不在と誤認識されて危険である。よって、本方式を列車制御に用いることは適当ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の様な複雑な同時通信論理を実装することなく、簡単な通信プロトコルで1つのループ線上で複数の列車の同時在線を許容し、各列車の在線位置を検知するための手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるループ式ATC/TDシステムは、軌道を走行する列車に備わる車上装置と、前記軌道に沿って設置されたループ線と、前記列車への走行制御情報を含む制御電文を前記ループ線に送信し且つ前記車上装置から前記ループ線に送信された列車検知電文を受信する送受信器を有する地上装置とを備え、前記地上装置は前記列車検知電文に基づいて前記ループ線上に存在する列車の検知を行うループ式ATC/TDシステムであって、1ループ線上に複数の前記列車の同時在線を許容したことを特徴としている。
【0008】
このループ式ATC/TDシステムによれば、1ループ線上に複数の列車が同時に在線するのを許容した列車制御方式が可能となる。地上装置は、1ループ線上に在線する列車については、列車検知電文に含まれる列車IDに基づいて認識することができる。ループ線に対する電文の送受信は、地上装置側からと車上装置側からとで異なる固定周波数を用いることによって実現される。また、列車の在線位置検知については、特に、地上装置から送信する制御電文に応じて返信される車上装置からの列車検知電文に列車位置情報を含めることで実現することができる。
【0009】
このループ式ATC/TDシステムにおいて、地上装置は前記各ループ線上に在線する前記列車の列車IDを記録するID管理テーブルを備えており、地上装置は、ID管理テーブルに記録されている列車IDを含めた制御電文をループ線に送信し、制御電文を受信した列車からの当該列車IDを含む列車検知電文を受信することで、当該ループ線上に在線する列車の位置を把握することができる。また、新規に在線することになった列車については、地上装置がID管理テーブルに記録されている列車IDを含めた在線列車応答不可制御電文をループ線に送信し、在線列車応答不可制御電文に含まれていない列車IDを有する列車の当該車上装置がループ線に当該列車の列車IDを含む列車検知電文を送信し、地上装置が当該列車検知電文を受信することで認識することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明した様な伝送手順を用いることで、複雑な同時通信論理を実装することなく、1ループに複数列車の同時在線を実現することができる。1ループに複数列車の同時在線が可能となり、更には、車上装置からの列車の位置を受信することで、移動閉塞による列車制御を実現することが可能となる。1ループに複数列車の同時在線が可能となることから、1ループ当りのループ長を長くすることができる。その結果、地上送受信器等の設備数を減らすことができるメリットがある。また、伝送に使用する周波数については、車上から地上への送信用と地上から車上への送信用の2種類で良く、車上にあるノイズ源を避けた周波数帯域を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態であるループ式ATC/TDシステムの概略システム構成を示す図である。
【図2】地上装置の処理フローチャートを示す図である。
【図3】車上装置の処理フローチャートを示す図である。
【図4】車上装置の処理フローチャートを示す図である。
【図5】本発明に用いられる電文の構成を示す説明図である。
【図6】地上装置に備わるID管理テーブルの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明によるループ式ATC/TDシステムの実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施形態に係るATC/TDシステムの概略構成図である。ループ線11,12,13は列車の走行する軌道に沿って車上装置と地上装置間の制御電文の送受信を行うために所定の長さを持って敷設されている。1ループ上には複数の列車の同時在線が許容される。
【0013】
地上装置は、送受信器21,22を備えており、列車31,34に対してATC電文Aを送付して列車の制御を実施する。また、図示の状況では、車上送受信器32,35からループ線12上に送信された列車検知電文であるTD電文Tが送受信器22において受信される。
【0014】
列車31,34は送受信器32、35を備えており、地上より送信されたATC電文Aを受信することができる。また、TD電文Tを車上送受信器より地上へ送信することができる。TD電文Tには自列車の位置及び列車IDを付加する。列車31,34は、車上送受信器32,35とループ線12(11,13)との送受信を行うために、車上アンテナ33、36を備えている。
【0015】
上記構成において、1ループ上に複数列車の同時在線を可能にするための列車制御方式を説明する。地上装置は各ループ線毎に在線列車を管理するID管理テーブルを保持する。車上装置より列車の位置情報及び列車IDを含むTD電文Tを受信した地上装置は、該当ループのID管理テーブルにTD電文T中の列車IDを挿入する。従って、地上装置は、ID管理テーブルを参照することでループ線上に在線している列車IDを確認できる。
【0016】
次に図2〜図4のフローチャートを用いて列車検知の動作を具体的に説明する。
【0017】
まず、図2のS1では該当ループ線上に列車が在線しているかどうかをID管理テーブルを参照することで地上装置にて確認する。該当ループ線上に列車が在線中の場合、即ちID管理テーブルに列車IDが存在する場合はS2に進む。列車が在線中でない場合はS5に進む。
【0018】
図2のS2では、ID管理テーブル中に存在する1列車の列車IDを付加しATC電文としてループ線上に送信する。
【0019】
図3のS11からS12では、ATC電文を受信した車上装置の動作を説明する。該当ループ線上に在線している列車は、地上装置より送信されたATC電文を受信するが、その受信したATC電文中の列車IDを参照し、自列車宛てのIDである場合のみ自列車位置、列車IDをTD電文に付加してループ線上に送信する。
【0020】
図2のS3では、S2にて送信したATC電文に対し、該当する列車IDを持つ車上装置よりTD電文を受信しなかった場合の動作を規定する。車上からTD電文を受信しない場合は、(1)該当列車が既に他ループへ進出している場合、と(2)ループ上に該当する列車は存在するが、何らかの理由により通信断が発生し、地上側でTD電文を受信できなかった場合の2通りが考えられる。
【0021】
前記(1)の場合は、他ループへ進出している場合であるので、他ループのID管理テーブルを検索し、該当列車IDが他ループのID管理テーブル内に存在することを確認することで他ループでの在線判定を実施することが可能となる。前記(2)の場合は、ループ上に該当列車が在線している状態であるので、ID管理テーブルから該当列車IDを削除する必要はない。
【0022】
従って、S2にて送信したATC電文に対し、地上装置が該当する列車IDを持つ車上装置よりTD電文を受信しなかった場合で、他ループのID管理テーブルに該当列車IDが存在する場合、地上装置は該当する列車IDをID管理テーブルから削除する。図2のS4では、上記S2〜S3の動作をID管理テーブルに保持されている全ての列車に対して実施されたかをチェックし、全ての列車に対し送信した場合はS5に進む。未送信の列車が存在する場合は、S2に戻りその列車に対しATC電文を送信する。このS2からS3の処理をID管理テーブル内に存在する全ての列車に送信し終わるまで実施する。
【0023】
図2のS5では、地上送受信器は在線列車応答不可ATC電文をループ線上に送信する。本電文送信の目的は、新たに本ループ線上に在線した列車を地上装置にて検知することにある。在線列車応答不可ATC電文は、新たに本ループ線に在線した列車に対するポーリング電文の役割を果たす。当該ATC電文には、ID管理テーブル中に存在する全ての列車IDを付加してループ線上に送信する。
【0024】
図4のS21からS22では、S5で送信した在線列車応答不可ATC電文を受信した車上装置の動作を規定している。当該在線列車応答不可ATC電文を受信した車上装置は当該電文中の列車IDを参照し、当該電文中の列車IDに自列車の列車IDが含まれている場合はTD電文の送信は行わない。逆に自列車の列車IDが含まれていない場合は、本ループ線上で初めてATC電文を受信することを意味するので、自列車IDと自列車位置を付加してTD電文としてループ線上に送信する。
【0025】
図2のS6では、S5にて送信した在線列車応答不可ATC電文に対し、地上装置が該当するTD電文を受信した場合、本列車は新たにループ線上に在線したことを意味するので、地上装置はTD電文中の列車IDをID管理テーブルに追加する。なお、ループ線上に複数の列車が同時に新規在線することは物理上有り得ないので、このステップ6はID管理テーブルに存在する全てのループ在線列車に対しATC電文を送信後、一度実行するだけで良い。
【0026】
図5は、本ループ式ATC/TDシステムで用いられる電文の構成の概略を示す説明図である。電文を構成するデータ部には、(1)ATC電文、(2)TD電文及び(3)在線列車応答不可ATC電文のそれぞれの場合に、図示のデータ要素が記述されている。また、図6には、地上装置におけるID管理テーブルの一例が示されている。テーブルには、在線する列車毎にIDが区別して記憶されており、ATC電文やTD電文の送受信の際、或いは列車の進入・進出等のイベントに応じて、適宜更新される。
【符号の説明】
【0027】
11,12,13 ループ線
21,22 地上信号送受信部
31,34 列車
32,35 車上信号送受信部
33,36 ATC/TD車上アンテナ
A ATC電文(列車制御電文)
T TD電文(列車検知電文)
f1 TD電文送信周波数
f2 ATC電文送信周波数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道を走行する列車に備わる車上装置と、前記軌道に沿って設置されたループ線と、前記列車への走行制御情報を含む制御電文を前記ループ線に送信し且つ前記車上装置から前記ループ線に送信された列車検知電文を受信する送受信器を有する地上装置とを備え、前記地上装置は前記列車検知電文に基づいて前記ループ線上に存在する列車の検知を行うループ式ATC/TDシステムにおいて、
1ループ線上に複数の前記列車の同時在線を許容したことを特徴とするループ式ATC/TDシステム。
【請求項2】
請求項1記載のループ式ATC/TDシステムにおいて、
前記地上装置は前記各ループ線上に在線する前記列車の列車IDを記録するID管理テーブルを備えており、前記地上装置は、前記ID管理テーブルに記録されている前記列車IDを含めた前記制御電文を前記ループ線に送信し、前記制御電文を受信した前記列車からの当該列車IDを含む前記列車検知電文を受信することで、当該ループ線上に在線する列車を把握することを特徴とするループ式ATC/TDシステム。
【請求項3】
請求項1記載のループ式ATC/TDシステムにおいて、
前記地上装置は、前記各ループ線上に在線する前記列車の列車IDを記録するID管理テーブルを備えており、前記地上装置は、前記ID管理テーブルに記録されている前記列車IDを含めた在線列車応答不可制御電文を前記ループ線に送信し、前記在線列車応答不可制御電文に含まれていない列車IDを有する前記列車の当該車上装置が前記ループ線に当該列車の列車IDを含む列車検知電文を送信し、当該列車検知電文を受信した前記地上装置は当該列車検知電文を送信した当該列車を新規進入した列車として把握することを特徴とするループ式ATC/TDシステム。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のループ式ATC/TDシステムにおいて、
前記地上装置から前記車上装置への前記制御電文の伝送にはある固定周波数を使用し、前記車上装置から前記地上装置への前記列車検知電文の伝送には前記固定周波数とは異なる別の固定周波数を用いることを特徴とするループ式ATC/TDシステム。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載のループ式ATC/TDシステムにおいて、
前記列車検知電文には当該列車検知電文を送信する前記列車の列車IDが含まれており、前記列車検知電文を受信した前記地上装置は前記列車IDによって前記ループ線に在線する前記列車を認識することを特徴とするループ式ATC/TDシステム。
【請求項6】
請求項4に記載のループ式ATC/TDシステムにおいて、
前記列車検知電文には当該列車の前記ループ線上における列車位置情報が含まれており、前記列車検知電文を受信した前記地上装置は前記列車位置情報によって当該列車の前記ループ線内での位置を把握することを特徴とするループ式ATC/TDシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−252458(P2010−252458A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97274(P2009−97274)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】