説明

レジストインキ組成物及び該レジストインキ組成物を用いたエッチング方法

【課題】従来のアルカリ可溶型あるいは溶剤可溶型レジストインキのもつマスキング性能、即ち素材に対する密着性、処理液に対する化学的抵抗性、レジスト剥離性等を損なうことなく、塗膜の厚みの均一性が良好で、パターンの精度の高いレジスト組成物を提供する。生体に有害な有機溶剤や廃水処理の問題を有するアルカリ水溶液を使用しないで除去することの可能なレジストインキ組成物を提供する。
【解決手段】水中において相転移温度を有するポリマー、有機溶剤及び無機化合物を必須成分として含有することを特徴とするレジストインキ組成物を用いることにより、素材に対する密着性、処理液に対する化学的抵抗性、レジスト剥離性等を損なうことなく、塗膜の厚みの均一性が良好で、パターンの精度の高いレジスト塗膜を形成できる。さらにこの塗膜は、水中において相転移温度を有するポリマーの相転移温度より低い温度の水で洗浄することにより容易に除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジストインキ組成物に関する。より詳細には、本発明は、全プロセスを水系で行なうことのできるレジストインキ組成物に関する。
さらに、本発明は該レジストインキ組成物を用いたエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板を作製する方法としては、従来、絶縁基板上全面に銅箔などの導電性の金属層を形成し(導電性金属層は銅以外の金属を含んでもよいが、以下、この絶縁基板上に導電性金属層を形成した基板を単に「銅張り基板」と記載する。)、配線として残したい部分にレジスト層を設け、それ以外の不要な銅箔部分をエッチングなどで取り除くことにより、必要な回路パターンだけを残す方法が主に用いられている。
このように、レジスト層は、必要な銅箔部分をエッチング液などの処理液から保護するための保護膜としての役割がある。
【0003】
この際に用いられるレジストは、その形態の違いから、ドライフィルムレジストと液状レジストに大別される。
ドライフィルムレジストとは、液状レジストをポリエチレンテレフタレート(PET)等の保護フィルムに塗布した後、溶媒を蒸発させたフィルム型のレジストであり、液状レジストとは、液状の組成物(一般的には、溶剤を含有することが多い)を直接被着体にスクリーン印刷等の印刷機を用いて塗布するタイプのレジストであり、本発明のレジスト組成物はこの液状レジスト組成物である。
【0004】
液状レジスト組成物を使用したレジストパターン層の形成方法としては、以下の方法がある。
(1)液状レジスト組成物をロールコート法やスクリーン印刷法などにより銅張り基板上一面に塗布し、揮発成分を蒸発させることによりレジスト層を形成し、所望のパターンを有するフォトマスクを介して露光を行った後、希アルカリ水で現像処理してパターン形成する方法、及び
(2)あらかじめパターン形成されている印刷版を用いて、スクリーン印刷により銅張り基板上にパターン形成されたレジスト組成物を塗布し、揮発成分を蒸発させることにより、レジスト層を形成する方法。
【0005】
上記どちらの方法においても、その後、レジストで覆われていない不要な部分の導電性金属層(銅箔)をエッチングなどにより取り除き、その後、アルカリ水溶液あるいは有機溶剤を用いてレジストを剥離することにより、所望の配線パターンを形成する。
【0006】
しかしながら、このようなアルカリ可溶型レジスト塗膜あるいは溶剤可溶型レジスト層に使用される従来のレジストインキ組成物を用いる場合、レジスト層の除去の際に用いられるアルカリ水溶液及び有機溶剤の素材に対する影響及び作業時の生体に対する安全性、さらに廃水処理などに関しての問題がある。
【0007】
上記の問題を解決する手段として、特許第2885925号公報(特許文献1)においては、水中において相転移温度を有するポリマーであるポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)またはN−イソプロピルアクリルアミドを主成分とする共重合体を含有するレジストインキが提案されている。
このポリ−N−イソプロピルアクリルアミドまたはN−イソプロピルアクリルアミドを主成分とする共重合体を必須成分として含有するレジストインキは、水溶/水不溶の変化を示す温度未満に於て水溶液の形で基板に塗布することができ、乾燥後に水溶/水不溶の変化を示す温度以上に於てエッチング、メッキ等の処理を行い、処理終了後、水溶/水不溶の変化を示す温度未満の水で洗い流すことにより基板等に悪影響を与えずに除去でき、全プロセスを水系で行なうことのできるレジストインキである。
【0008】
この発明では、銅張り基板上にパターン形成されたレジスト組成物を塗布し、乾燥させる際に、相転移温度より高い温度で乾燥させると、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)またはN−イソプロピルアクリルアミドを主成分とする共重合体が水に不溶化してしまうため、相転移温度よりも低い温度で乾燥させる必要がある。しかしながら、希釈成分が蒸発速度の遅い水のみであるために、相転移温度より低い温度で乾燥させる場合には長い時間を要する。さらに、塗布したレジスト溶液が、乾燥中にいわゆる「タレ」を生じ、レジスト層の厚みが不均一になり、結果として、パターン形状の精度が損なわれるといった欠点を有していた。
【0009】
以上の見地より、従来のアルカリ可溶型あるいは溶剤可溶型レジストインキのもつマスキング性能、即ち素材に対する密着性、処理液に対する化学的抵抗性、レジスト剥離性等を損なうことなく、層の厚みの均一性が良好で、パターン精度が高く、生体に有害な有機溶剤や廃水処理の問題を有するアルカリ水溶液を使用することなく容易に除去することの可能なレジストインキ組成物の開発が切望されている。
【0010】
【特許文献1】特許第2885925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来のアルカリ可溶型あるいは溶剤可溶型レジストインキのもつマスキング性能、即ち素材に対する密着性、処理液に対する化学的抵抗性、レジスト剥離性等を損なうことなく、層の厚みの均一性が良好で、パターン精度が高く、生体に有害な有機溶剤や廃水処理の問題を有するアルカリ水溶液を使用することなく容易に除去することの可能なレジストインキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、水中において相転移温度を有するポリマー(a)、有機溶剤(b)及び無機化合物(c)を必須成分として含有することを特徴とするレジストインキ組成物を用いることにより、素材に対する密着性、処理液に対する化学的抵抗性、レジスト剥離性等を損なうことなく、層の厚みの均一性が良好で、パターンの精度の高いレジストになり、さらに、水中において相転移温度を有するポリマーの相転移温度より低い温度の水で、容易にレジスト層を除去できることを発見し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕〜〔5〕に示されるレジストインキ組成物、〔6〕に示されるエッチング方法に関する。
1.(a)水中において相転移温度を有するポリマー、
(b)有機溶剤、及び
(c)無機化合物
を必須成分として含有することを特徴とするレジストインキ組成物。
2.(a)水中において相転移温度を有するポリマー、
(b)有機溶剤、
(c)無機化合物、及び
(d)消泡剤
を必須成分として含有することを特徴とするレジストインキ組成物。
3.水中において相転移温度を有するポリマー(a)の5質量%水溶液での相転移温度が、30〜45℃である前記1又は2に記載のレジストインキ組成物。
4.水中において相転移温度を有するポリマー(a)が、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−ビニルカプロラクタム)、ポリ(ビニルメチルエーテル)及びケン化度が40〜60%である部分ケン化ポリビニルアルコール、またはそれらの単量体成分を含む共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である前記1〜3のいずれか1項に記載のレジストインキ組成物。
5.25℃でのレジストインキ組成物において、回転数10rpmでの粘度と回転数50rpmでの粘度の比が、1.2〜4.0の範囲である前記1〜4のいずれか1項に記載のレジストインキ組成物。
6.以下の(イ)〜(ニ)の工程を含むことを特徴とするエッチング方法。
工程(イ):前記1〜5のいずれか1項に記載のレジストインキ組成物を印刷して、基板上にパターンが形成されたレジスト塗膜を形成する工程。
工程(ロ):工程(イ)で得られたレジスト塗膜中の揮発成分を蒸発させ、一部あるいは全量の揮発成分が除去されたレジスト塗膜を有する基板を得る工程。
工程(ハ):水中において相転移温度を有するポリマーの相転移温度より高い温度の塩化第二鉄水溶液あるいは塩化第二水銅溶液を用いて、工程(ロ)で得られた基板をエッチングする工程。
工程(ニ):水中において相転移温度を有するポリマーの相転移温度より低い温度の水あるいは水溶液を用いて、工程(ハ)で得られた基板からレジスト塗膜を剥離する工程。
【発明の効果】
【0014】
本発明のレジストインキ組成物は、素材に対する密着性、処理液に対する化学的抵抗性、レジスト剥離性、層の厚みの均一性が良好で、パターン精度が高いレジスト塗膜を形成できる。この塗膜は、生体に有害な有機溶剤や廃水処理の問題を有するアルカリ水溶液を使用することなく容易に除去することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を具体的に説明する。
[レジストインキ組成物]
まず、本発明のレジストインキ組成物(I)及び(II)について説明する。
本発明は、水中において相転移温度を有するポリマー(a)、有機溶剤(b)及び無機化合物(c)を必須成分として含有することを特徴とするレジストインキ組成物(I)及び水中において相転移温度を有するポリマー(a)、有機溶剤(b)、無機化合物(c)及び消泡剤(d)を必須成分として含有することを特徴とするレジストインキ組成物(II)に関するものである。
【0016】
(a)水中において相転移温度を有するポリマー
まず、初めに、本発明(I)及び本発明(II)の必須成分である、水中において相転移温度を有するポリマー(a)について説明する。
【0017】
なお、本明細書中に記載の「相転移温度」とは、以下に説明する温度を意味する。
例えば、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)は32℃未満の温度では容易に水に溶けるが、32℃以上では水に溶けなくなる。この場合、この32℃という温度がポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)の「相転移温度」となる。この相転移温度により水溶/水不溶に変化する性質は可逆的である。
【0018】
本明細書中に記載する「相転移温度」とは、熱測定装置FP81HT(メトラー・トレド(株)製)を用いて、完全溶解した5質量%ポリマー水溶液を一定スピード(例えば1℃/min)で昇温させ、溶解度低下により光の透過度が完全溶解時の光の透過度に対して4%低下した時の温度と定義する。
また、本明細書中に記載する「水中において相転移温度を有する」とは、上記の方法で相転移温度を測定した場合に、当該ポリマー水溶液の相転移温度が0℃〜100℃の範囲に存在することを意味する。
【0019】
本発明のレジストインキ組成物(I)及び(II)の必須成分である、水中において相転移温度を有するポリマー(a)の例としては、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、N−イソプロピルアクリルアミドとアクリルアミドの共重合体、N−イソプロピルアクリルアミドとN、N−ジメチルアクリルアミドの共重合体、ポリ(N−ビニルカプロラクタム)、N−ビニルカプロラクタムとN―ビニルピロリドンの共重合体、ポリビニルメチルエーテル、メチルセルロース、部分ケン化ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
【0020】
本発明のレジストインキ組成物における水中において相転移温度を有するポリマー(a)の使用量は、水中において相転移温度を有するポリマー(a)の種類、分子量、あるいは本発明(I)及び(II)の必須成分である有機溶媒(b)の種類によって異なるため一概に言及することはできないが、レジストインキ組成物の粘度(25℃、回転数50rpmで測定。)は5000〜10万mPa・sの範囲で調整することが好ましく、1万〜6万mPa・sの範囲で調整することがさらに好ましい。
なお、本明細書中において、粘度は、Broookfield社製のデジタル粘度計HBDV−E型を用いて測定している。
【0021】
また、本発明のレジストインキ組成物(I)及び(II)の必須成分である、水中において相転移温度を有するポリマー(a)の5質量%水溶液の相転移温度は30〜45℃であることが好ましい。
30℃未満においては、レジスト塗膜の除去時間を考慮して出来る限り高い温度であることが望ましい。
相転移温度が30℃未満のポリマーを使用した場合には、レジスト塗膜を除去する水の温度もそのポリマーの相転移温度未満に維持する必要があり、その結果、レジスト塗膜の除去に時間を要してしまうことになる。
一方、相転移温度が45℃より高くなると、エッチング液の温度を相転移温度より高い温度で管理する必要がある点から、エネルギー的に好ましくない。
【0022】
上記のことを考慮すると、本発明(I)及び(II)の必須成分である水中において相転移温度を有するポリマー(a)の好ましい例としては、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−ビニルカプロラクタム)、ポリ(ビニルメチルエーテル)及びケン化度が40〜60%である部分ケン化ポリビニルアルコールを挙げることができる。
【0023】
(b)有機溶媒
次に、本発明のレジストインキ組成物(I)及び(II)の必須成分である有機溶媒(b)について説明する。
本発明のレジストインキ組成物(I)及び(II)の必須成分である有機溶媒(b)は、水中において相転移温度を有するポリマー(a)を溶解できる有機溶媒であれば特に制限はなく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒、メトキシエチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶媒を挙げることができる。
【0024】
また、本明細書中では、単独で使用した場合には水中において相転移温度を有するポリマー(a)を溶解することが出来ない溶媒であっても、他の有機溶媒あるいは水と混合することによって水中において相転移温度を有するポリマー(a)を溶解することができる場合には、本発明のレジストインキ組成物(I)及び(II)の必須成分である有機溶媒(b)に含まれるものと定義する。
【0025】
これらの有機溶媒(b)の中で、好ましいものとしては、大気圧下での沸点が130〜230℃の範囲の有機溶媒が好ましい。沸点が130℃未満の有機溶媒のみを使用した場合には、スクリーン印刷を連続して行う際に溶媒が急速に蒸発してしまい、印刷性が変わってしまう場合があり好ましくこととは言えない。また、沸点230℃より高い有機溶媒を主成分で使用すると、印刷後の揮発成分である溶媒の除去工程で、溶媒を蒸発させるのに多くのエネルギーを必要とすることとなり好ましいことは言えない。
これらの好ましい有機溶媒としては、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコールモノブチルエーテル、γ―ブチルラクトン、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、2−ブトキシエタノール等を挙げることができる。
【0026】
有機溶媒(b)の使用量は、水中において相転移温度を有するポリマー(a)の種類や分子量、及び有機溶媒の種類によって異なるため一概に言及することはできないが、前述したように、レジストインキ組成物の粘度(25℃、回転数50rpmで測定)は、5000〜10万mPa・sの範囲で調整することが好ましく、1万〜6万mPa・sの範囲で調整することがさらに好ましい。
【0027】
また、廃水処理や大気汚染の原因となるVOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)の低減を考慮した場合、有機溶媒(b)に水を混合させて有機溶媒の使用量を少なくすることが可能である。この場合、当然ながら有機溶媒(b)は水に溶解するものでなければならない。
【0028】
(c)無機化合物
次に、本発明(I)及び(II)の必須成分である無機化合物(c)について説明する。
本発明のレジストインキ組成物(I)及び(II)の必須成分である無機化合物(c)は、組成物に適度のチクソトロピーを付与したり、増粘させたりする目的で使用されるもので、例えば、粉末、球状、ウイスカー状、鱗片状等の各種形状の無機物を挙げることができる。
【0029】
また、本明細書中では、前記無機化合物(c)に、有機化合物で物理的に被覆、有機化合物で化学的に表面処理した有機・無機の複合物あるいは無機層間化合物の層間に有機物を取り込んだものも本発明のレジストインキ組成物(I)及び(II)の必須成分である無機化合物(c)に含まれるものと定義する。
【0030】
無機化合物(c)の具体例としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、クレー、ガラス粉、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナやそれらの表面改質品、ベントナイト、ゼオライト、スメクタイトあるいはそれらの表面や有機物を層間に取り込んだ化合物等の改質品等の公知のものが使用され、これらを一種あるいは二種類以上組み合わせて使用することもできる。
【0031】
これらの中で、好ましいものとしては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、シリカ、ベントナイト、ゼオライト、スメクタイト及びそれらの改質品であり、さらに、好ましくは、硫酸バリウム、シリカ、ベントナイト、ゼオライト、スメクタイト及びそれらの改質品である。
【0032】
これら無機化合物(c)の含有量は、レジストインキ組成物の全質量から有機溶媒(b)の質量を除いた質量を100質量部とした場合に、0.1〜30質量部の範囲であることが好ましく、0.1〜20質量部の範囲であることがさらに好ましい。無機化合物(c)の含有量が0.1質量部未満であると添加した効果があまり見られず、また、30質量部を超えると、レジスト塗膜の素材に対する密着性が悪くなる場合があり好ましくない。
【0033】
(d)消泡剤
次に、本発明のレジストインキ組成物(II)のレジストインキ組成物の必須成分である消泡剤(d)について説明する。
本発明のレジストインキ組成物(II)の必須成分である消泡剤(d)は、文字通り、レジストインキ組成物を塗布する際に発生する気泡を消す作用を有するものであれば、特に制限はない。
【0034】
本発明のレジストインキ組成物(II)の必須成分である消泡剤(d)の具体例としては、例えば、BYK−077(ビックケミー・ジャパン(株)製)、SNデフォーマー470(サンノプコ(株)製)、TSA−750S(GE東芝シリコーン(株)製)、シリコーンオイルSH−203(東レ・シリコーン(株)製)等のシリコーン系消泡剤、ダッポーSN−348(サンノプコ(株)製)、ダッポーSN−354(サンノプコ(株)製)、ダッポーSN−368(サンノプコ(株)製)等のアクリル重合体系消泡剤、サーフィノールDF−110D(日清化学工業(株)製)、サーフィノールDF−37(日清化学工業(株)製)等のアセチレンジオール系消泡剤、FA−630等のフッ素含有シリコーン系消泡剤等を挙げることができる。
これらの中で好ましい消泡剤は、シリコーン系消泡剤やフッ素含有シリコーン系消泡剤であり、さらに好ましくは、シりコーン系消泡剤である。
【0035】
(e)その他の添加物
さらに、本発明のレジストインキ組成物(I)及び(II)のレジストインキ組成物には、必要に応じて、フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、アイオジン・グリーン、ジスアゾイエロー、クスタルバイオレット、酸化チタン、カーボンブラック、ナフタレンブラック等の公知の着色剤や、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、カテコール、ピロガロール等の重合禁止剤等を添加することができる。
【0036】
[混練方法]
本発明のレジストインキ組成物(I)及び(II)は、配合成分の一部あるいは全部をロールミル、ビーズミル等で均一に混練、混合することによって得ることができる。
【0037】
[粘度]
また、塗布する際の流動性の観点から、本発明のレジストインキ組成物(I)及び(II)の粘度について、25℃における回転数10rpmでの粘度と回転数50rpmでの粘度の比が、1.2〜3.0の範囲であることが好ましい。
25℃における回転数10rpmでの粘度と回転数50rpmでの粘度の比が1.2未満になると、レジストインキ組成物を塗布した後に、該組成物が流動してしまい、一定の膜厚にならなかったり、印刷パターンを維持できなかったりすることがある。また、25℃における回転数10rpmでの粘度と回転数50rpmでの粘度の比が3.0より大きくなると、レジスト塗膜の消泡性が悪くなることがある。
【0038】
[エッチング方法]
さらに、本発明のレジストインキ組成物(I)及び(II)を用いたのエッチング方法(III)について説明する。
本発明(III)は、以下の工程(イ)〜(ニ)を含む。
工程(イ):本発明のレジストインキ組成物(I)又は(II)を印刷して、基板上にパターンが形成されたレジスト塗膜を形成する工程。
工程(ロ):工程(イ)で得られたレジスト塗膜中の揮発成分を蒸発させ、一部あるいは全量の揮発成分が除去されたレジスト塗膜を有する基板を得る工程。
工程(ハ):水中において相転移温度を有するポリマー(a)の相転移温度より高い温度の塩化第二鉄水溶液あるいは塩化第二水銅溶液を用いて、工程(ロ)で得られた基板をエッチングする工程。
工程(ニ):水中において相転移温度を有するポリマー(a)の相転移温度より低い温度の水あるいは水溶液を用いて、工程(ハ)で得られた基板からレジスト塗膜を剥離する工程。
【0039】
工程(イ)は、本発明のレジストインキ組成物(I)又は(II)を印刷して、基板上にパターンが形成されたレジスト塗膜を形成する工程である。
本発明のレジストインキ組成物(I)又は(II)の印刷方法としては、例えば、パターン形成された印刷版を用いて、銅張り基板上にスクリーン印刷法により、パターン形成されたレジストインキ組成物を塗布することができる。
【0040】
工程(ロ)は、工程(イ)で得られたレジスト塗膜中の揮発成分を蒸発させ、一部あるいは全量の揮発成分が除去されたレジスト塗膜を有する基板を得る工程である。
揮発成分を蒸発させる時の乾燥温度には特に制限はないが、50℃〜100℃の雰囲気下で揮発成分を蒸発させるのが一般的である。また、有機溶媒は必ずしも全量除去する必要はなく、塗膜がタックを有さない程度、及び相転移温度に影響しない程度の量であれば、残っていても問題ない。
【0041】
工程(ハ)は、水中において相転移温度を有するポリマー(a)の相転移温度より高い温度の塩化第二鉄水溶液あるいは塩化第二水銅溶液を用いて、工程(ロ)で得られた基板をエッチングする工程である。
塩化第二鉄水溶液の濃度は、一般的に2.0〜4.0Mのものが使用される。
また、塩化第二銅水溶液の濃度は、一般的に1.5〜3.0Mのものを使用する。その際、塩酸の濃度は1.0〜5.0Mに調製して使用するのが一般的である。
【0042】
工程(ニ)は、水中において相転移温度を有するポリマーの相転移温度(a)より低い温度の水あるいは水溶液を用いて、工程(ハ)で得られた基板からレジスト塗膜を剥離する工程である。剥離のために使用する水又は水溶液の温度は、水中において相転移温度を有するポリマー(a)の相転移温度より低い温度でなければならない。ポリマーの相転移温度より低い温度の水又は水溶液を使用することによって、レジスト膜の剥離が可能になる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ制限されるものではない。
【0044】
合成例1
撹拌機、還流器をつけた反応容器に、N−イソプロピルアクリルアミド35g、γ−ブチロラクトン70gを入れ撹拌下、十分に窒素置換した後、アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)35mgを加え昇温し、60℃で7時間重合反応を行なった。反応終了後、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)のγ−ブチロラクトン溶液(樹脂溶液A)を得た。
得られたポリマーの5質量%水溶液の水溶/水不溶の相転移温度は32℃であった。
【0045】
合成例2
撹拌機、還流器をつけた反応容器に、N−ビニルカプロラクタム35g、γ−ブチロラクトン30g、水40gを入れ撹拌下、十分に窒素置換した後、VA―044(重合開始剤:和光純薬(株))35mgを加え昇温し、40℃で7時間重合反応を行なった。反応終了後、ポリ(N−ビニルカプロラクタム)のγ−ブチロラクトン/水の混合溶液(樹脂溶液B)を得た。
得られたポリマーの5質量%水溶液の水溶/水不溶の相転移温度は40℃であった。
【0046】
合成例3
撹拌機、還流器をつけた反応容器に、N−イソプロピルアクリルアミド31.5g、アクリルアミド3.5g、γ−ブチロラクトン70gを入れ撹拌下、十分に窒素置換した後、アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)35mgを加え昇温し、60℃で7時間重合反応を行なった。反応終了後、N−イソプロピルアクリルアミド−アクリルアミド共重合体のγ−ブチロラクトン溶液(樹脂溶液C)を得た。
得られたポリマーの5質量%水溶液の水溶/水不溶の相転移温度は41℃であった。
【0047】
合成例4
撹拌機、還流器をつけた反応容器に、N−イソプロピルアクリルアミド30g、メタノール150gを入れ撹拌下、十分に窒素置換した後、アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)9mgを加え昇温し、還流下6時間重合反応を行なった。
得られたポリマーの水溶/水不溶の相転移温度は32℃であった。
メタノールを除去後、ポリマーを10倍量の20℃の水に溶解し、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)水溶液(樹脂溶液D)を得た。
【0048】
合成例5
下記一般式(1)
【化1】

で示されるビスフェノールF型エポキシ含有化合物400g(式中のbの平均値=5.8、エポキシ当量800、軟化点79℃)をエピクロルヒドリン925gとジメチルスルホキシド462.5gの混合液に溶解させた後、撹拌下70℃で98.5質量%のNaOH81.2gを100分間かけて添加した。
【0049】
添加後、さらに70℃で3時間反応を行い、次いで過剰の未反応エピクロルヒドリンおよびジメチルスルホキシドの大半を減圧下に留去し、副生塩とジメチルスルホキシドを含む反応生成物をメチルイソブチルケトン750gに溶解させ、さらに30質量%のNaOH10gを加え70℃で1時間反応させた。
【0050】
反応終了後、水200質量部で2回水洗を行った。油水分離後、油層よりメチルイソブチルケトンを蒸留回収して、エポキシ当量290、軟化点62℃のエポキシ基含有化合物370gを得た。得られたエポキシ基含有化合物はエポキシ当量から計算すると前記一般式(1)におけるアルコール性水酸基5.8個の内、約5.2個がエポキシ化されている。次に、このエポキシ基含有化合物290g、アクリル酸72g、p−メトキシフェノール0.28g、エチルカルビトールアセテート195gを仕込み、90℃に加熱・撹拌し、反応混合物を溶解した。次いで、反応液を60℃に冷却し、トリフェニルフォスフィン1.67gを仕込み、100℃に加熱し、約32時間反応した。これにより、酸価が1.0mgKOH/gの反応物を得た。
【0051】
次に、この反応物に無水コハク酸78.6g、エチルカルビトールアセテート42.3質量部を仕込み、95℃に加熱し、約6時間反応し、冷却後、固形分酸価100mgKOH/gで固形分濃度65質量%であるカルボキシル基含有エポキシアクリレート溶液(樹脂溶液F)を得た。得られたポリマーは0〜100℃において水に不溶であった。
【0052】
混合例1
撹拌機、還流器をつけた容器に、ポリビニルメチルエーテル(三光化学工業(株)製)35g、γ−ブチロラクトン70gを入れ、均一溶液になるまで撹拌することによりポリビニルメチルエーテルのγ−ブチロラクトン溶液(樹脂溶液E)を得た。得られたポリマーの水溶/水不溶の相転移温度は38℃であった。
【0053】
実施例1〜7及び比較例1〜2
合成例1〜5、混合例1で得られた樹脂溶液A〜Fを用い、表1に示す配合組成に従って、消泡剤(d)を除く各成分を配合し、3本ロールミル(商品名:230型変速式ベンチロール BR−230V,アイメックス(株)製)を用いて混練した。その後、消泡剤(d)を加え、スパチュラを用いて均一に混合することによって、レジストインキ組成物を調整した。
なお、表1中に記載の各成分の数字の単位は「質量部」である。
【0054】
【表1】

【0055】
粘度測定(回転数10rpmのときの粘度と回転数50rpmのときの粘度の比)
デジタル粘度計HBDV−E型(Broookfield社製)を用いて、回転数10rpmのときの粘度と回転数50rpmのときの粘度を測定し、その比を求めた。その結果を表2に示す。なお、測定に使用される試料は、恒温水槽を用いて25℃にしたものを用いた。
【0056】
消泡性試験
実施例1〜7及び比較例1〜2のレジストインキ組成物を20℃に保ち、それぞれスクリーン印刷により、銅張りプリント基板(商品名:UPISEL−N B E1310:宇部興産(株)製)上にパターン印刷した。なお、印刷板は250メッシュ、印刷面積75mm×115mmのものを用いた。
印刷後1分以内に泡が消えるか否かを目視で確認した。評価は以下の基準に従い行った。
○:印刷後1分以内で完全に消泡した。
△:印刷後1分間経過しても泡は初期の完全には消えなかった。
【0057】
膜厚の均一性及び染み出しの有無の評価
実施例1〜7及び比較例1〜2のレジストインキ組成物を20℃に保ち、をそれぞれスクリーン印刷により、銅張りプリント基板(商品名:UPISEL−N BE1310:宇部興産(株)製)上にパターン印刷した。印刷板は250メッシュ、印刷面積75mm×115mmのものを用いた。
80℃で10分間乾燥後、無作為に5箇所の膜厚を測定した。
また、塗布面の端部の染み出しの有無について目視で観測した。
その結果を表2に示す。
さらに、乾燥条件を30℃で3時間に変えて同様の試験を行った。結果を表2に示す。
【0058】
25℃のイオン交換水を用いた洗浄試験
実施例1〜7及び比較例1〜2のレジストインキ組成物を20℃に保ち、それぞれスクリーン印刷により、銅張プリント基板(商品名:UPISEL−N BE1310 宇部興産(株)製)上にライン幅/スペース幅=300μm/300μmのパターンで印刷した。印刷には250メッシュの印刷板を用いた。
【0059】
このレジストインキ組成物塗布後の基板を80℃で10分間乾燥後、25℃のイオン交換水を110kPaの圧力で100秒間スプレー噴霧した。その後、レジストインキが残存しているか否かについて確認した。その結果を表2に示す。
さらに、乾燥条件を30℃で3時間に変えて同様の試験を行った。その結果も表2に示す。
評価については、以下の基準で評価した。
○:洗浄より、完全にレジスト膜が除去された。
×:洗浄後に、レジスト膜の一部あるいは全部が除去されずに残っていた。
【0060】
エッチング試験
実施例1〜7及び比較例1〜2のレジストインキ組成物を20℃に保ち、それぞれスクリーン印刷により、銅張プリント基板(商品名:UPISEL−N BE1310 宇部興産(株)製)上にライン幅/スペース幅=300μm/300μmのパターンで印刷した。印刷には250メッシュの印刷板を用いた。
このレジストインキ組成物塗布後の基板を80℃で10分間乾燥後、50℃の2.3M塩化第二銅水溶液(塩酸濃度2mol/l)に3分間浸漬し、エッチングを行なった。エッチング終了後、25℃のイオン交換水を110kPaの圧力で100秒間スプレー噴霧した。レジストインキが残存しているか否かについて確認した。
その後、形成された銅パターンの直線性を顕微鏡で測定した。その結果を表2に示す。
さらに、乾燥条件を30℃で3時間に変えて同様の試験を行った。その結果も表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
本発明のレジストインキ組成物は、素材に対する密着性、処理液に対する化学的抵抗性、レジスト剥離性、層の厚みの均一性が良好で、パターン精度が高く高いレジスト塗膜を形成できる。この塗膜は、生体に有害な有機溶剤や廃水処理の問題を有するアルカリ水溶液を使用することなく容易に除去することが可能である

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)水中において相転移温度を有するポリマー、
(b)有機溶剤、及び
(c)無機化合物
を必須成分として含有することを特徴とするレジストインキ組成物。
【請求項2】
(a)水中において相転移温度を有するポリマー、
(b)有機溶剤、
(c)無機化合物、及び
(d)消泡剤
を必須成分として含有することを特徴とするレジストインキ組成物。
【請求項3】
水中において相転移温度を有するポリマー(a)の5質量%水溶液での相転移温度が、30〜45℃である請求項1又は2に記載のレジストインキ組成物。
【請求項4】
水中において相転移温度を有するポリマー(a)が、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−ビニルカプロラクタム)、ポリ(ビニルメチルエーテル)及びケン化度が40〜60%である部分ケン化ポリビニルアルコール、またはそれらの単量体成分を含む共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載のレジストインキ組成物。
【請求項5】
25℃でのレジストインキ組成物において、回転数10rpmでの粘度と回転数50rpmでの粘度の比が、1.2〜4.0の範囲である請求項1〜4のいずれか1項に記載のレジストインキ組成物。
【請求項6】
以下の(イ)〜(ニ)の工程を含むことを特徴とするエッチング方法。
工程(イ):請求項1〜5のいずれか1項に記載のレジストインキ組成物を印刷して、基板上にパターンが形成されたレジスト塗膜を形成する工程。
工程(ロ):工程(イ)で得られたレジスト塗膜中の揮発成分を蒸発させ、一部あるいは全量の揮発成分が除去されたレジスト塗膜を有する基板を得る工程。
工程(ハ):水中において相転移温度を有するポリマーの相転移温度より高い温度の塩化第二鉄水溶液あるいは塩化第二水銅溶液を用いて、工程(ロ)で得られた基板をエッチングする工程。
工程(ニ):水中において相転移温度を有するポリマーの相転移温度より低い温度の水あるいは水溶液を用いて、工程(ハ)で得られた基板からレジスト塗膜を剥離する工程。

【公開番号】特開2007−321028(P2007−321028A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−151521(P2006−151521)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】