説明

レジスト剥離剤

【課題】 銅上にすずめっき被膜を形成した後に、銅上へのすず再析出を生じさせることなくレジストを剥離することが可能なレジスト剥離剤を提供する。
【解決手段】 レジスト剥離剤を、少なくとも2−ベンズイミダゾールチオールを10〜50000ppmの範囲内で含有するアルカリ性水溶液とすることにより、レジスト剥離剤中に溶出した銅イオンが引き起こす銅上へのすず再析出を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジスト剥離剤に係り、特に銅上に所定のパターンで形成されたレジストをマスクとしてすずめっき被膜を形成し、その後、銅上からレジストを剥離するためのレジスト剥離剤に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、パネルパターン二次銅はんだ剥離法によるPWB(Printed Wiring Board)製造工程において、はんだめっき被膜を形成した後のレジスト剥離には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の水溶液が用いられている。このようなアルカリ性水溶液からなるレジスト剥離剤としては、1,10フェナントロリン等を含有させることにより、はんだめっき被膜の溶解や鉛の析出を防止したレジスト剥離剤(特許文献1)、所定の水溶性アミン、アンモニウム水酸化物、ベンゾトリアゾール類等を含有させることにより、剥離時間が短縮され、高密度、高精細化を可能としたレジスト剥離剤(特許文献2)等が開発されている。
【特許文献1】特開平6−250401号公報
【特許文献2】特開2001−5201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、昨今の鉛フリー化の影響を受けて、はんだめっき被膜からすずめっき被膜への転換が進んでいる。これに伴って、パネルパターン二次銅はんだ剥離法に使用されている従来のレジスト剥離剤を用いたレジスト剥離工程において、すずめっき被膜がアルカリ金属水酸化物水溶液に溶出し、さらに、溶出したすずが金属銅の上に再析出するという問題が顕在化している。このように金属銅の上に再析出したすず被膜は、レジスト剥離後の銅のエッチング工程においてエッチングレジストとして作用するため、均一なエッチングが困難となり、回路形成不良等の原因となる。
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたものであり、銅上にすずめっき被膜を形成した後に、銅上へのすず再析出を生じさせることなくレジストを剥離することが可能なレジスト剥離剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、銅上へのすずの再析出の原因について種々検討を加えた結果、レジスト剥離剤中への銅の溶解を抑制することが有効な手段であると考え本発明をなした。すなわち、本発明は、少なくとも2−ベンズイミダゾールチオールを10〜50000ppmの範囲内で含有するアルカリ性水溶液であるような構成とした。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、レジスト剥離剤を、少なくとも2−ベンズイミダゾールチオールを10〜50000ppmの範囲内で含有するアルカリ性水溶液とすることにより、複素環化合物である2−ベンズイミダゾールチオールが銅表面上に吸着して不溶性の被膜を生じ、レジスト剥離剤中への銅の溶解(酸化)を抑制するため、すずの再析出(Sn2+の還元)を防止しながらレジスト剥離が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の最適な実施形態について説明する。
本発明のレジスト剥離剤は、下記式(1)で示される構造を分子内に有する複素環化合物を少なくとも含有するアルカリ性水溶液である。
【化1】

このような本発明のレジスト剥離剤では、複素環化合物が銅表面上に吸着して不溶性の被膜を生じ、レジスト剥離剤中への銅の溶解(酸化)を抑制するため、すずの再析出(Sn2+の還元)を防止しながらレジスト剥離が可能となる。
【0007】
上記式(1)で示される構造を分子内に有する複素環化合物としては、具体的には、下記構造式(A)で示される2−ベンズイミダゾールチオール、下記構造式(B)で示される2−メルカプト−1−メチルイミダゾール、下記構造式(C)で示される2−チオウラシル、下記構造式(D)で示される2,4−ジチオピリミジン、下記構造式(E)で示される2−メルカプト−4−メチルピリミジン塩酸塩等が挙げられる。
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【0008】
上記式(1)で示される構造を分子内に有する複素環化合物のレジスト剥離剤中における含有量は、使用する複素環化合物の種類、レジスト剥離剤中への銅の溶出量(例えば、30〜50ppm程度)等に応じて適宜設定することができる。例えば、複素環化合物として上記の2−ベンズイミダゾールチオールを含有する場合は10ppm以上、上記の2−メルカプト−1−メチルイミダゾールを含有する場合は20ppm以上、上記の2−チオウラシルを含有する場合は500ppm以上、上記の2,4−ジチオピリミジンを含有する場合は200ppm以上、また、上記の2−メルカプト−4−メチルピリミジン塩酸塩を含有する場合は2000ppm以上の含有量とすることができる。レジスト剥離剤中に含有される複素環化合物量が不足すると本発明の効果が充分に発現されない。一方、レジスト剥離剤中の複素環化合物の含有量の上限には特に制限はないが、50000ppmを超える場合、更なる効果は得られず、複素環化合物添加によるレジスト剥離速度の低下、基板銅箔の変色等の弊害が生じるので、50000ppm以下の含有量とすることが好ましい。
【0009】
本発明のレジスト剥離剤のpHは、11〜14、好ましくは12.8〜13.4とすることができ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン等の水溶性アミンを溶解させて所望のpHを得ることができる。
また、本発明のレジスト剥離剤には、他の添加剤としてポリエーテル系の非イオン界面活性剤からなる消泡剤等を必要に応じて添加することができる。このような添加剤の含有量は1g/L以下とすることが好ましい。
本発明のレジスト剥離剤を用いてレジスト剥離を行う場合、レジスト剥離剤の温度には特に制限はないが、例えば、40〜50℃の範囲で設定することが好ましい。レジスト剥離剤とレジストとの接触は、浸漬法、噴射法等いずれであってもよい。
【実施例】
【0010】
次に、実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
【0011】
[実施例1]
<試験片の作製>
両面樹脂付き銅箔(銅厚18μm、ガラスエポキシ基材)上に、ドライフィルムレジスト(日立化成工業(株)製 PHOTEC HN240)を用いてパターンを形成した後、膜厚5μmのすずめっき被膜を銅箔上に形成し、次いで、5cm×5cmの大きさに切り出して試験片を作製した。
【0012】
<レジスト剥離剤の調製>
上記式(1)で示される構造を分子内に有する複素環化合物として、上記構造式(A)〜(E)で示される2−ベンズイミダゾールチオール、2−メルカプト−1−メチルイミダゾール、2−チオウラシル、2,4−ジチオピリミジン、2−メルカプト−4−メチルピリミジン塩酸塩を、それぞれ3%水酸化ナトリウム水溶液(液量200mL、液温45℃)に2000ppm添加して5種のレジスト剥離剤(試料1〜5)を調製した。また、これらのレジスト剥離剤(試料1〜5)に銅−アンミン錯体水溶液を微量添加して下記の表1に示す濃度で銅イオンを含有させた。
【0013】
さらに、3%水酸化ナトリウム水溶液(液量200mL、液温45℃)のみからなるレジスト剥離剤(比較試料1)、および、複素環化合物として、下記構造式(I)で示されるベンゾトリアゾール、下記構造式(II)で示される2−ベンゾチアゾールチオール、下記構造式(III)で示される2−メルカプト−5−メチル−1,3,4−チアジアゾール、下記構造式(IV)で示される2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、下記構造式(V)で示される2−チアゾリン−2−チオール、下記構造式(VI)で示される2−イミダゾリンチオンを、それぞれ3%水酸化ナトリウム水溶液(液量200mL、液温45℃)に2000ppm添加して6種のレジスト剥離剤(比較試料2〜7)を調製した。
【0014】
【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

また、これらのレジスト剥離剤(比較試料1〜7)に銅−アンミン錯体水溶液を微量添加して下記の表1に示す濃度で銅イオンを含有させた。
【0015】
<レジスト剥離と銅箔エッチング>
試験片を各レジスト剥離剤(試料1〜5、比較試料1〜7)に5分間浸漬してレジスト剥離を行った。
その後、液温50℃のアンモニア性アルカリエッチャント(銅濃度=138g/L、塩素濃度=160g/L、アンモニア濃度=8.7N、pH=8.4)をスプレー圧1.5kg/cm2にて約30秒間噴射して試験片の銅箔のエッチング処理を行った。
【0016】
<評 価>
エッチング処理後の試験片を目視で観察し、下記の基準で評価して結果を下記表1に示した。
(評価基準)
○ : 残銅が見られず均一に銅箔が除去されている
× : 銅箔の除去が不均一であり、すずの置換析出に基づく局部的な残銅
が見られる
【0017】
【表1】

【0018】
表1に示されるように、上記式(1)で示される構造を分子内に有する複素環化合物を含有した本発明のレジスト剥離剤(試料1〜5)は、銅イオンが存在しない場合は勿論のこと、銅イオンが存在する場合であっても、銅上へのすず再析出を生じさせることなくレジストを剥離することが可能であった。但し、試料2(複素環化合物として、2−メルカプト−1−メチルイミダゾールを含有する)では、銅濃度が200ppm以上で銅上へのすず再析出が見られたが、PWB製造工程でのレジスト剥離剤中に溶解する銅濃度は概ね30〜50ppm程度であるため、試料2のレジスト剥離剤は充分に実用レベルにあるものと判断される。
【0019】
これに対して、上記式(1)で示される構造を分子内に有する複素環化合物を含有しないレジスト剥離剤(比較試料1〜7)は、銅イオンが存在しない場合、銅上へのすず再析出を生じさせることなくレジストを剥離することが可能であった。しかし、銅イオンが存在することにより銅上へのすず再析出が見られ、実用に供し得ないものであった。
【0020】
[実施例2]
<試験片の作製>
実施例1と同様にして試験片を作製した。
<レジスト剥離剤の調製>
上記式(1)で示される構造を分子内に有する複素環化合物として、上記構造式(A)〜(E)で示される2−ベンズイミダゾールチオール、2−メルカプト−1−メチルイミダゾール、2−チオウラシル、2,4−ジチオピリミジン、2−メルカプト−4−メチルピリミジン塩酸塩を、下記表2に示される濃度(10〜2000ppmの8段階)となるように、それぞれ3%水酸化ナトリウム水溶液(液量200mL、液温45℃)に添加して40種のレジスト剥離剤を調製した。また、これらのレジスト剥離剤に銅−アンミン錯体水溶液を微量添加することにより、50ppmで銅イオンを含有させた。
【0021】
<レジスト剥離と銅箔エッチング>
実施例1と同様にして、試験片のレジスト剥離を行い、その後、銅箔のエッチング処理を行った。
<評 価>
エッチング処理後の試験片を実施例1と同様の基準で評価して結果を下記表2に示した。
【0022】
【表2】

【0023】
表2に示されるように、上記式(1)で示される構造を分子内に有する複素環化合物を含有した本発明のレジスト剥離剤は、含有する複素環化合物の種類に応じて含有量下限値が存在し、その含有量下限値以上の含有量において、銅上へのすず再析出を生じさせることなくレジストを剥離することが可能であった。
【0024】
[実施例3]
<試験片の作製>
実施例1と同様にして試験片を作製した。
<レジスト剥離剤の調製>
上記式(1)で示される構造を分子内に有する複素環化合物として、上記構造式(D)で示される2,4−ジチオピリミジンを準備した。また、3%モノエタノールアミン+0.5%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(液量200mL、液温45℃)を準備した。この水溶液に上記の2,4−ジチオピリミジンを2000ppm添加してレジスト剥離剤(試料6)を調製した。また、このレジスト剥離剤に銅−アンミン錯体水溶液を微量添加して下記の表3に示す濃度で銅イオンを含有させた。
【0025】
さらに、3%モノエタノールアミン+0.5%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(液量200mL、液温45℃)のみからなるレジスト剥離剤(比較試料8)、および、複素環化合物として、実施例1において構造式(I)で示されるベンゾトリアゾール、構造式(II)で示される2−ベンゾチアゾールチオールを、それぞれ3%モノエタノールアミン+0.5%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(液量200mL、液温45℃)に2000ppm添加して2種のレジスト剥離剤(比較試料9、10)を調製した。また、これらのレジスト剥離剤(比較試料8〜10)に銅−アンミン錯体水溶液を微量添加して下記の表3に示す濃度で銅イオンを含有させた。
【0026】
<レジスト剥離と銅箔エッチング>
実施例1と同様にして、試験片のレジスト剥離を行い、その後、銅箔のエッチング処理を行った。
<評 価>
エッチング処理後の試験片を実施例1と同様の基準で評価して結果を下記表3に示した。
【0027】
【表3】

【0028】
表3に示されるように、上記式(1)で示される構造を分子内に有する2,4−ジチオピリミジンを含有した本発明のレジスト剥離剤(試料6)は、銅イオンが存在しない場合は勿論のこと、銅イオンが存在する場合であっても、銅上へのすず再析出を生じさせることなくレジストを剥離することが可能であった。
これに対して、上記式(1)で示される構造を分子内に有する複素環化合物を含有しないレジスト剥離剤(比較試料8〜10)は、銅イオンが存在しない場合、銅上へのすず再析出を生じさせることなくレジストを剥離することが可能であった。しかし、銅イオンが存在することにより銅上へのすず再析出が見られ、実用に供し得ないものであった。
【0029】
[実施例4]
<試験片の作製>
実施例1と同様にして試験片を作製した。
<レジスト剥離剤の調製>
上記式(1)で示される構造を分子内に有する複素環化合物として、上記構造式(D)で示される2,4−ジチオピリミジンを、下記表4に示される濃度(10〜2000ppmの8段階)となるように、それぞれ3%モノエタノールアミン+0.5%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(液量200mL、液温45℃)に添加して8種のレジスト剥離剤を調製した。また、これらのレジスト剥離剤に銅−アンミン錯体水溶液を微量添加することにより、50ppmで銅イオンを含有させた。
【0030】
<レジスト剥離と銅箔エッチング>
実施例1と同様にして、試験片のレジスト剥離を行い、その後、銅箔のエッチング処理を行った。
<評 価>
エッチング処理後の試験片を実施例1と同様の基準で評価して結果を下記表4に示した。
【0031】
【表4】

【0032】
表4に示されるように、上記式(1)で示される構造を分子内に有する2,4−ジチオピリミジンを含有した本発明のレジスト剥離剤は、2,4−ジチオピリミジンの含有量が200ppm以上において、銅上へのすず再析出を生じさせることなくレジストを剥離することが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、銅上への所定のパターンでのすずめっき被膜の形成等において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2−ベンズイミダゾールチオールを10〜50000ppmの範囲内で含有するアルカリ性水溶液であることを特徴とするレジスト剥離剤。

【公開番号】特開2006−276885(P2006−276885A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167100(P2006−167100)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【分割の表示】特願2002−94056(P2002−94056)の分割
【原出願日】平成14年3月29日(2002.3.29)
【出願人】(593174641)メルテックス株式会社 (28)
【Fターム(参考)】