説明

レゾルシノール誘導体の製造方法

【課題】金属イオン含有量の低いレゾルシノール誘導体の製造方法を提供する。
【解決手段】レゾルシノール誘導体を、有機溶剤、又は有機溶剤を含む混合溶液中に溶解させて溶解液を得る工程と、得られた溶解液と、有機酸の水溶液とを、少なくとも一回接触させることにより、溶解液の金属イオン含有量を減少させる工程とを備えたレゾルシノール誘導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レゾルシノール誘導体の製造方法に関する。更に詳しくは、KrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザー、Fエキシマレーザー、シンクロトロン放射線等のX線、又は電子線等の放射線を使用する微細加工に有用な化学増幅型レジストを形成可能な感放射線性組成物に含有される金属イオン含有量の低いレゾルシノール誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感放射線性組成物の品質は、その感放射線性組成物中の汚染源としての金属イオンの含有量を実質的に低下させることによって向上させることができる。感放射線性組成物に含まれる不純物の大部分は、上述したような金属イオンである。このような金属イオンとしては、特に、鉄、ナトリウム、バリウム、カルシウム、マグネシウム、銅及びマンガンのイオンを挙げることができる。これらの不純物(金属イオン)の多くは、感放射線性組成物中に存在する樹脂成分に由来するものである。
【0003】
この不純物としての金属イオンは、主として製造工程の結果として樹脂中に取り込まれる。例えば、樹脂の代わりにレゾルシノール誘導体を用いる場合、レゾルシノール誘導体の遊離フェノール性水酸基は、プロトン交換、及び極性基上への錯体形成により金属イオンの取り込みを促進する。
【0004】
この錯体形成のために、有機溶剤に溶解した重合体を水で洗い流したとしても、不純物を除去することはできず、ほとんど精製効果が得られない。このため、レジストの調製に使用するレゾルシノール誘導体溶液中の、ほんの数ppm程度の低含有量の金属イオンを分離するためは、煩雑な作業が必要となるとともに、コストが掛かるという問題があった。
【0005】
このような金属イオンの含有量を低下させる方法として、一般的な蒸発による分離、例えば、金属イオン又はレゾルシノール誘導体の蒸発は非実用的である。同様に、このレゾルシノール誘導体溶液は、比較的に高い温度まで加熱すると化学的に不安定になるため、溶融状態の樹脂に熱的精製方法を適用することは困難である。
【0006】
また、問題となる金属イオンの濃度が極めて低い場合には、溶解性の乏しい金属塩の溶解度積が得られないため、沈澱法の適用も困難である。更に、有機媒体中の微量の金属イオンに関しては、十分に効果のある吸着剤を選択することもできないため、吸着法を用いることも困難である。
【0007】
一方、ノボラック樹脂から痕跡量の金属を除去する精製技術については、フェノール又はクレゾールとホルムアルデヒドとの縮合生成物であるノボラック樹脂を、有機溶剤又は、溶剤混合物中に溶解させ、有機酸の水溶液と一回又は繰り返し接触させることにより、前記溶液の金属イオン含有量を減少させる方法が提案されている(特許文献1)。
【0008】
【特許文献1】特許第3221492号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記したレゾルシノール誘導体については、解決策となる意見あるいは手掛りが不足しており、金属イオン含有量の低いレゾルシノール誘導体の製造方法の提案については、未だになされていないのが現状である。
【0010】
本発明は、KrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザー、Fエキシマレーザー、シンクロトロン放射線等のX線、又は電子線等の放射線を使用する微細加工に有用な化学増幅型レジストを形成可能な感放射線性組成物に含有される金属イオン含有量の低いレゾルシノール誘導体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、下記一般式(1)で表される化合物を、有機溶剤、又は有機溶剤を含む混合溶液中に溶解させ、その溶解液を有機酸の水溶液と一回又は繰り返し接触させることにより、溶解液の金属イオン含有量を減少させ、金属イオン含有量の低いレゾルシノール誘導体を製造することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明によれば、以下に示すレゾルシノール誘導体の製造方法が提供される。
【0013】
[1] 下記一般式(1)で表される化合物を、有機溶剤、又は前記有機溶剤を含む混合溶液中に溶解させて、前記化合物を溶解させた溶解液を得る工程と、得られた前記溶解液と、有機酸の水溶液とを、少なくとも一回接触させる工程と、を備えたレゾルシノール誘導体の製造方法。
【0014】
【化1】

【0015】
前記一般式(1)中、Rは、相互に独立に、水素原子又は1価の酸解離性基を示す。但し、Rはその少なくとも一つが酸解離性基である。Xは、相互に独立に、置換若しくは非置換のメチレン基、又は炭素数2〜8の置換若しくは非置換のアルキレン基を示し、Yは、相互に独立に、炭素数1〜10の置換若しくは非置換のアルキル基、炭素数2〜10の置換若しくは非置換のアルケニル基、炭素数2〜10の置換若しくは非置換のアルキニル基、炭素数7〜10の置換若しくは非置換のアラルキル基、炭素数1〜10の置換若しくは非置換のアルコキシ基、又は置換若しくは非置換のフェノキシ基を示す。qは、相互に独立に、0又は1である。
【0016】
[2] 前記有機酸として、マロン酸、グリコール酸、乳酸、酒石酸及びクエン酸からなる群より選択される少なくとも1種からなるものを用いる前記[1]に記載のレゾルシノール誘導体の製造方法。
【0017】
[3] 前記一般式(1)で表される前記化合物の、前記溶解液中の濃度が25%質量未満となるように、前記化合物を溶解させる前記[1]又は[2]に記載のレゾルシノール誘導体の製造方法。
【0018】
[4] 前記溶解液と、前記有機酸の水溶液との接触を行う際の温度が10〜40℃である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のレゾルシノール誘導体の製造方法。
【0019】
[5] 前記一般式(1)で表される前記化合物として、下記一般式(2)で表される化合物を用いる前記[1]〜[4]のいずれかに記載のレゾルシノール誘導体の製造方法。
【0020】
【化2】

【0021】
前記一般式(2)中、Rは、相互に独立に、水素原子又は1価の酸解離性基を示す。但し、Rはその少なくとも一つが酸解離性基である。
【0022】
[6] 前記一般式(1)で表される前記化合物の前記酸解離性基が、下記一般式(3−1)又は(3−2)で表される基である前記[1]〜[5]のいずれかに記載のレゾルシノール誘導体の製造方法。
【0023】
【化3】

【0024】
前記一般式(3−1)中、Rは、炭素数1〜40の、直鎖状、分岐状又は環状構造を有するアルキル基であり、このアルキル基は、ヘテロ原子を含んでもよい置換基で置換されていても、置換されていなくてもよい。nは0〜3の整数である。また、前記一般式(3−2)中、Rは、炭素数1〜40の、直鎖状、分岐状又は環状構造を有するアルキル基であり、このアルキル基は、ヘテロ原子を含んでもよい置換基で置換されていても、置換されていなくてもよい。Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である。
【発明の効果】
【0025】
本発明のレゾルシノール誘導体の製造方法は、レゾルシノール誘導体に含まれる金属イオンを効率的に除去することができ、金属イオン含有量の低いレゾルシノール誘導体を、簡便且つ安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0027】
(1)レゾルシノール誘導体の製造方法:
本発明のレゾルシノール誘導体の製造方法は、下記一般式(1)で表される化合物を、有機溶剤、又はこの有機溶剤を含む混合溶液中に溶解させて、上記化合物を溶解させた溶解液を得る工程と、得られた溶解液と、有機酸の水溶液とを、少なくとも一回接触させる工程と、を備えたものである。
【0028】
上述した有機酸の水溶液との接触によって、一般式(1)で表される化合物における金属イオン含有量を良好に低減させることができ、金属イオン含有量の低いレゾルシノール誘導体を簡便且つ安価に製造することができる。
【0029】
【化4】

【0030】
上記一般式(1)中、Rは、相互に独立に、水素原子又は1価の酸解離性基を示す。但し、Rはその少なくとも一つが酸解離性基である。Xは、相互に独立に、置換若しくは非置換のメチレン基、又は炭素数2〜8の置換若しくは非置換のアルキレン基を示し、Yは、相互に独立に、炭素数1〜10の置換若しくは非置換のアルキル基、炭素数2〜10の置換若しくは非置換のアルケニル基、炭素数2〜10の置換若しくは非置換のアルキニル基、炭素数7〜10の置換若しくは非置換のアラルキル基、炭素数1〜10の置換若しくは非置換のアルコキシ基、又は置換若しくは非置換のフェノキシ基を示す。qは、相互に独立に、0又は1である。
【0031】
(2)化合物:
本発明のレゾルシノール誘導体の製造方法に用いられる化合物は、上記一般式(1)で表される化合物(以下「(a)化合物」と記す場合がある)である。この(a)化合物は、ヒドロキシル基のうちの少なくとも一つが、置換又は非置換の環状構造を有する酸解離性基によって保護された構造を有する酸解離性基含有(修飾)化合物である。従って、(a)化合物は、その酸解離性基が酸により解離し、上記酸解離性基が脱離した後は、アルカリ可溶性となるものである。
【0032】
なお、上記一般式(1)は、下記一般式(1−1)のように示すこともできる。
【0033】
【化5】

【0034】
なお、上記一般式(1−1)において、Rは、相互に独立に、水素原子又は1価の酸解離性基を示す。但し、Rはその少なくとも一つが酸解離性基である。Xは、相互に独立に、置換若しくは非置換のメチレン基、又は炭素数2〜8の置換若しくは非置換のアルキレン基を示し、Yは、相互に独立に、炭素数1〜10の置換若しくは非置換のアルキル基、炭素数2〜10の置換若しくは非置換のアルケニル基、炭素数2〜10の置換若しくは非置換のアルキニル基、炭素数7〜10の置換若しくは非置換のアラルキル基、炭素数1〜10の置換若しくは非置換のアルコキシ基、又は置換若しくは非置換のフェノキシ基を示す。qは、相互に独立に、0又は1である。
【0035】
一般式(1)で表される(a)化合物中のYにおける炭素数1〜10の置換のアルキル基の置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピレン基、ブチレン基等を挙げることができる。これらの中でも、原料の入手容易であるという観点から、メチル基が好ましい。
【0036】
本発明のレゾルシノール誘導体の製造方法においては、上記一般式(1)で表される(a)化合物の中でも、下記一般式(2)で表される化合物を好適に用いることができる。即ち、一般式(1)において、Xがプロピレン基であり、qが0であることが好ましい。下記一般式(2)で表される化合物は、上記一般式(1)で表される化合物の中でも、金属イオンに対する低減効果が顕著である。
【0037】
【化6】

【0038】
上記一般式(2)中、Rは、相互に独立に、水素原子又は1価の酸解離性基を示す。但し、Rはその少なくとも一つが酸解離性基である。
【0039】
(2−1)酸解離性基:
上述したように、一般式(1)中のRは、相互に独立に、水素原子又は1価の酸解離性基であるが、これらのRのうちの少なくとも1つは、酸解離性基である。
【0040】
また、上記一般式(1)中のRは、その少なくとも一つが酸解離性基であることに加え、別の少なくとも一つが水素原子であることが好ましい。上記一般式(1)中のRが全て1価の酸解離性基であると、本発明のレゾルシノール誘導体の製造方法によって得られたレゾルシノール誘導体を含有する感放射線性組成物によってレジスト膜を形成し、形成したレジスト膜をパターニングした際に、レジストパターンを形成したレジスト膜の基板への密着性が低下し、解像度が低下する傾向にある。
【0041】
上記一般式(1)で表される化合物においては、その全てのRに対する、Rが酸解離性基であるものの割合が、10〜90モル%であることが好ましく、20〜80モル%であることが更に好ましい。このような酸解離性基の割合が10モル%未満であると、上述したように、感放射線性組成物によってレジスト膜を形成してパターニングした際に、その解像度が低下する傾向にある。一方、90モル%を超えると、レジストパターンを形成したレジスト膜の、基板への密着性が低下する傾向にある。ここで、一般式(1)で表される化合物中の酸解離性基の割合は、H−NMR分析の結果から算出した値である。
【0042】
このように、上記一般式(1)中のRは、その少なくとも一つが水素原子であることが好ましい。上記一般式(1)中のRとして挙げられる酸解離性基としては、酸の作用によって解離するものである限り、その構造には特に制限はないが、例えば、下記一般式(3−1)又は(3−2)で表される基であることが好ましい。
【0043】
【化7】

【0044】
上記一般式(3−1)中、Rは、炭素数1〜40の、直鎖状、分岐状又は環状構造を有するアルキル基であり、このアルキル基は、ヘテロ原子を含んでもよい置換基で置換されていても、置換されていなくてもよい。nは0〜3の整数である。また、前記一般式(3−2)中、Rは、炭素数1〜40の、直鎖状、分岐状又は環状構造を有するアルキル基であり、このアルキル基は、ヘテロ原子を含んでもよい置換基で置換されていても、置換されていなくてもよい。Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である。
【0045】
なお、上記一般式(1)中のRは「相互に独立」するものであるため、上記一般式(1)中に複数の酸解離性基が存在する場合、例えば、酸解離性基としてのRの全てが、上記一般式(3−1)で表される基、又は上記一般式(3−2)で表される基であってもよいし、酸解離性基としてのRにおいて、上記一般式(3−1)で表される基と上記一般式(3−2)で表される基がそれぞれ存在していてもよい。
【0046】
上記一般式(3−1)で表される基としては、例えば、下記一般式(4−1)〜(4−9)で表される基等を挙げることができる。
【0047】
【化8】

【0048】
【化9】

【0049】
上記一般式(4−1)〜(4−9)中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基であり、上記一般式(4−1)〜(4−8)中、nは1〜3の整数である。
【0050】
なお、上記一般式(4−1)〜(4−9)で表される基の中でも、一般式(4−1)、一般式(4−8)、又は一般式(4−9)で表される基が好ましい。
【0051】
上記一般式(4−1)〜(4−9)中のそれぞれのRは、低級アルキル基(炭素数1〜5のアルキル基)であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等の低級の直鎖状又は分岐状のアルキル基を挙げることができる。なお、Rは、メチル基又はエチル基であることが好ましく、メチル基であることが更に好ましい。
【0052】
上記一般式(3−1)中のRは、具体的には、2−メチル−2−アダマンチル基、2−エチル−2−アダマンチル基、1−エチルシクロペンチル基、1−メチルシクロペンチル基、又はtert−ブチル基であることが好ましい。
【0053】
上記一般式(3−1)で表される基としては、例えば、2−メチル−2−アダマンチルオキシカルボニルメチル基、2−エチル−2−アダマンチルオキシカルボニルメチル基、1−エチルシクロペンチルオキシカルボニルメチル基、1−メチルシクロペンチルオキシカルボニルメチル基、tert−ブトキシカルボニルメチル基、tert−ブトキシカルボニル基であることが好ましい。
【0054】
上記一般式(3−2)で表される基としては、例えば、下記一般式(5−1)〜(5−14)で表される基等を挙げることができる。
【0055】
【化10】

【0056】
【化11】

【0057】
【化12】

【0058】
上記一般式(5−1)〜(5−14)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である。また、上記一般式(5−1)〜(5−10)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、mは、0〜2の整数である。
【0059】
このR及びRの炭素数1〜5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等の低級の直鎖状又は分岐状のアルキル基を挙げることができる。
【0060】
また、上記一般式(5−1)〜(5−10)中、mは、0又は1であることが好ましい。
【0061】
このような上記一般式(3−2)で表される基としては、具体的には、2−アダマンチルオキシメチル基、又は、下記一般式(6)、下記一般式(7)、若しくは下記一般式(8)で表される基であることが好ましい。
【0062】
【化13】

【0063】
【化14】

【0064】
【化15】

【0065】
(3)有機溶剤:
(a)化合物を溶解させるための有機溶剤としては、この(a)化合物が可溶であれば、どのような溶剤でも使用することができる。例えば、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸n−ペンチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類;クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、ブロモホルム等のハロゲン化アルキル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル等のエーテル類や、石油エーテル、ベンジン等を挙げることができる。これらの有機溶剤のうち、2−ヘプタノン、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、塩化メチレン等が好ましい。また、このような有機溶剤は、単独で用いることもできるし、2種以上を混合して混合溶液として用いることもできる。
【0066】
なお、(a)化合物を有機溶剤、又は有機溶剤を含む混合溶液に溶解させて溶解液を調製する際には、(a)化合物の、溶解液中の濃度が25%質量未満となるように、(a)化合物を溶解させることが好ましい。なお、溶解液中の(a)化合物の濃度は、5〜24質量%であることが更に好ましく、10〜24質量%であることが特に好ましい。このような濃度とすることによって、有機酸の水溶液との接触により金属イオンの除去効果を良好に得ることができる。
【0067】
本発明のレゾルシノール誘導体の製造方法においては、このような有機溶剤、又はこの有機溶剤を含む混合溶液中に、上記一般式(1)で表される(a)化合物を溶解させて溶解液を得、この溶解液中の金属イオンを分離して、金属イオン含有量の低いレゾルシノール誘導体を製造する。
【0068】
(4)有機酸:
本発明の製造方法に用いる有機酸としては、水溶液として酸性を示す有機化合物であれば特に制限はないが、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の低分子量カルボン酸を挙げることができる。このような有機酸のうち、更に極性基、活性水素、又はカルボキシル基、ヒドロキシル基、オキソ基、アミノ基、若しくはエステル基等の電子供与体を含み、これにより錯体形成特性が高い多官能性の酸であることがより好ましい。このような有機酸としては、ジカルボン酸、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、不飽和酸としてマレイン酸等を好適例として挙げることができる。なお、シュウ酸及びマロン酸が特に好ましい。
【0069】
上述した低分子量カルボン酸の錯体形成作用と同様の作用は、例えば、グリコール酸や乳酸等のケトルカルボン酸やヒドロキシカルボン酸、あるいは芳香族化合物のサリチル酸も有しており、これらの有機酸を用いることも可能である。
【0070】
更に、この有機酸としては、多価アルコールの酸化生成物を用いることもできる。多価アルコールの酸化生成物としては、例えば、良好な錯体形成作用を示す酒石酸、クエン酸、メソシュウ酸又は1−アスコルビン酸を挙げることができる。
【0071】
その他、この有機酸として好適な化合物としては、キレート滴定に使用する酸性キレート化剤、例えば、ニトリロトリ酢酸、エチレンジニトリロテトラ酢酸、1,2−シクロヘキシレンジニトリロテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、及び3,6−ジオキサオクタメチレンジニトリロテトラ酢酸等を挙げることができる。
【0072】
更に、本発明の製造方法においては、上記有機酸として、リン酸、ホスホン酸、及びホスフィン酸の酸性エステルを用いることもできる。
【0073】
このように、本発明の製造方法に用いられる有機酸は、少なくとも一つの活性水素を有し、他の活性水素原子又は極性部分と更に原子価結合を形成可能な有機化合物である。このような種類の化合物は、その分子内に、カルボキシル基、ヒドロキシル基、オキソ基、アミノ基、エステル基のような錯体を形成する置換基を含んでいる。
【0074】
また、有機酸を水に溶解させる濃度は20質量%未満であることが好ましく、0.05〜3質量%であることが更に好ましい。有機酸の水溶液の濃度が20質量%未満であれば、金属イオンを除去することが十分可能である。
【0075】
(5)接触(溶解液と有機酸の水溶液との接触):
【0076】
(a)化合物を溶解させた溶解液と有機酸の水溶液との接触は、有機酸の水溶液を抽出溶媒とし、(a)化合物を溶解させた溶解液から、金属イオンを分離する操作である。
【0077】
この溶解液と有機酸の水溶液との接触は、一回混合、又はその都度新しい有機酸の水溶液を繰り返し混合する(交流抽出)ことによって一段階で、あるいは多段階の逆流抽出により行なうことができる。
【0078】
溶解液と有機酸の水溶液との接触を行う際の温度は、室温程度、例えば、10〜40℃であることが好ましい。このような温度で接触を行うことによって、レゾルシノール誘導体を高収率で製造することができる。なお、溶解液に溶解させた(a)化合物に悪影響がないのであれば、上記接触の際の温度は、室温以外の温度であってもよい。
【0079】
溶解液と有機酸の水溶液とを接触させる際には、溶解液100質量部に対して、有機酸の水溶液を50〜150質量部用いることが好ましく、70〜130質量部用いることが更に好ましい。
【0080】
このようにして、溶解液と有機酸の水溶液とを接触させた後、水層(即ち、有機酸の水溶液の層)を廃棄することによって、レゾルシノール誘導体が溶解した溶解液を得ることができる。また、有機溶剤からなる有機層を減圧留去することによって、レゾルシノール誘導体を製造することもできる。本発明のレゾルシノール誘導体の製造方法によって製造されるレゾルシノール誘導体は、上記一般式(1)で表される化合物であり、上述工程によって、化合物中の汚染源としての金属イオンが除去されており、従来の製造方法によって得られたレゾルシノール誘導体と比較して、金属イオン含有量が低減されている。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0082】
上記一般式(2)で表されるレゾルシノール誘導体を製造方法Aにて製造した化合物(2−A)を合成し、比較のために上記一般式(2)で表される化合物を製造方法Bにて製造した化合物(2−B)を合成した。
【0083】
(実施例1)化合物(2−A)の製造(製造方法A):
レゾルシノール22.0g(200ミリモル)をエタノール45mLに溶解させ塩酸15mL加えた。この溶液を撹拌しながら5℃まで氷冷し、グルタルアルデヒドの50%水溶液10.0g(50ミリモル)をゆっくりと滴下した。その後、80℃で48時間加熱して反応を行うことにより、濁った黄色の溶液(懸濁液)を得た。得られた懸濁液をメタノール中に注いだ後、ろ過し、沈殿物を得た。
【0084】
次に、得られた沈殿物をメタノールで3回洗浄した。洗浄した沈殿物を室温で24時間減圧乾燥して、粉末状の淡黄色固体(S)を得た。収量は11.2gであり、収率は79%であった。
【0085】
得られた淡黄色固体(S)の構造確認は、MALDI−TOF−MS(マトリックス支援レーザーイオン化飛行時間型質量分析装置、商品名「KOMPACT MALDI IV tDE」、型番「SHIMAZU/KRATOS」、島津製作所社製)、IR(型番「FT−IR 420型」、日本分光社製)、及びH−NMR(型番「JNM−ECA−500型」、日本電子社製)で行った。構造確認の結果を以下に示す。
【0086】
質量分析(MALDI−TOF−MS);分子量1705の化合物が得られたことが示された。
【0087】
IR(film法、cm−1):3406(νOH);2931(νC−H);1621、1505、1436(νC=C(aromatic)
【0088】
H−NMR(500MHz、溶媒DMSO−d、内部標準TMS);δ(ppm)=0.86〜2.35(b,12.0H)、3.98〜4.22(m,4.0H)、6.09〜7.42(m,8.0H)、8.65〜9.56(m,8.0H)
【0089】
次に、得られた淡黄色固体(S)3.5gを、1−メチル−2−ピロリドン40gに加えた後、テトラブチルアンモニウムブロマイド0.8gを更に加え、70℃で4時間攪拌し溶解させた。溶解後、炭酸カリウム3.3gを加え、70℃で1時間撹拌した。その後、ブロモ酢酸2−メチル−2−アダマンチル6.9gを1−メチル−2−ピロリドン20gに溶解させた溶液を徐々に加え、70℃で6時間攪拌した。その後、室温まで冷却し、水/塩化メチレンで抽出して、淡黄色固体(S)を溶解させた溶解液を得た。
【0090】
次に、得られた溶解液100mLと、3%のシュウ酸水100mLとを接触させた。なお、3%のシュウ酸水との接触は、同量のシュウ酸水を交換することによって、繰り返し3回行った。
【0091】
次に、水100mLで2回洗浄を行った後、水層を廃棄し、更に、有機層を減圧留去して化合物(2−A)を3.2g得た。
【0092】
得られた化合物(2−A)についてH−NMR分析を行ったところ、化合物(2−A)は、全てのRのうち40モル%が下記式(9)で表される基(2−メチル−2−アダマンチルオキシカルボニルメチル基)であり、残りのRが水素原子である一般式(2)で表される化合物であった。
【0093】
【化16】

【0094】
この化合物(2−A)のH−NMRの結果は次の通りである。H−NMR(500MHz、溶媒DMSO−d、内部標準TMS):δ(ppm)=0.82〜2.40(m,66.4H)、3.80〜4.52(m,10.4H)、6.08〜7.41(m,8.0H)、8.62〜9.54(m,3.2H)
【0095】
(比較例1)化合物(2−B)の製造(製造方法B):
まず、実施例1と同様の方法によって、淡黄色固体(S)を得た。次に、得られた淡黄色固体(S)3.5gを、1−メチル−2−ピロリドン40gに加えた後、テトラブチルアンモニウムブロマイド0.8gを更に加え、70℃で4時間攪拌し溶解させた。溶解後、炭酸カリウム3.3gを加え、70℃で1時間撹拌した。その後、ブロモ酢酸2−メチル−2−アダマンチル6.9gを1−メチル−2−ピロリドン20gに溶解させた溶液を徐々に加え、70℃で6時間攪拌した。その後、室温まで冷却し、水/塩化メチレンで抽出して、淡黄色固体(S)を溶解させた溶解液を得た。
【0096】
次に、得られた溶解液を、水100mLで2回洗浄を行った後、水層を廃棄し、更に、有機層を減圧留去して化合物(2−B)を3.2g得た。
【0097】
化合物(2−B)についてH−NMR分析を行ったところ、化合物(2−B)は、全てのRのうち40モル%が上記式(9)で表される基(2−メチル−2−アダマンチルオキシカルボニルメチル基)であり、残りのRが水素原子である一般式(2)で表される化合物であった。即ち、H−NMR分析結果では、化合物(2−A)と化合物(2−B)とは同じ組成の化合物であった。
【0098】
金属不純物(金属イオン)含有量の測定:
実施例1で得られた化合物(3−A)と比較例1で得られた化合物(3−B)とについて、下記の方法で、金属イオン含有量をそれぞれ測定した。測定結果を、表1に示す。
【0099】
金属イオン含有量(ppb);パーキンエルマージャパン社製のICP質量分析装置(商品名「ELAN DRCII」を用いて、ICP(Inductively Coupled Plasma)質量分析法により測定した。金属イオン含有量の測定は、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、及び鉄イオン(Fe)について行った。
【0100】
【表1】

【0101】
有機酸(シュウ酸)の水溶液との接触を行う工程を備えた実施例1のレゾルシノール誘導体の製造方法は、このような工程を備えていない比較例1のレゾルシノール誘導体の製造方法と比較して、金属イオン含有量の低いレゾルシノール誘導体を製造することができるということが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明のレゾルシノール誘導体の製造方法は、集積回路素子の製造に代表される微細加工の分野において、微細加工を安定して行うことができるリソグラフィープロセスに用いる感放射線性組成物を構成する化合物を製造するために好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を、有機溶剤、又は前記有機溶剤を含む混合溶液中に溶解させて、前記化合物を溶解させた溶解液を得る工程と、
得られた前記溶解液と、有機酸の水溶液とを、少なくとも一回接触させる工程と、を備えたレゾルシノール誘導体の製造方法。
【化1】

(前記一般式(1)中、Rは、相互に独立に、水素原子又は1価の酸解離性基を示す。但し、Rはその少なくとも一つが酸解離性基である。Xは、相互に独立に、置換若しくは非置換のメチレン基、又は炭素数2〜8の置換若しくは非置換のアルキレン基を示し、Yは、相互に独立に、炭素数1〜10の置換若しくは非置換のアルキル基、炭素数2〜10の置換若しくは非置換のアルケニル基、炭素数2〜10の置換若しくは非置換のアルキニル基、炭素数7〜10の置換若しくは非置換のアラルキル基、炭素数1〜10の置換若しくは非置換のアルコキシ基、又は置換若しくは非置換のフェノキシ基を示す。qは、相互に独立に、0又は1である。)
【請求項2】
前記有機酸として、マロン酸、グリコール酸、乳酸、酒石酸及びクエン酸からなる群より選択される少なくとも1種からなるものを用いる請求項1に記載のレゾルシノール誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される前記化合物の、前記溶解液中の濃度が25%質量未満となるように、前記化合物を溶解させる請求項1又は2に記載のレゾルシノール誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記溶解液と前記有機酸の水溶液との接触を行う際の温度が10〜40℃である請求項1〜3のいずれか一項に記載のレゾルシノール誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記一般式(1)で表される前記化合物として、下記一般式(2)で表される化合物を用いる請求項1〜4のいずれか一項に記載のレゾルシノール誘導体の製造方法。
【化2】

(前記一般式(2)中、Rは、相互に独立に、水素原子又は1価の酸解離性基を示す。但し、Rはその少なくとも一つが酸解離性基である。)
【請求項6】
前記一般式(1)で表される前記化合物の前記酸解離性基が、下記一般式(3−1)又は(3−2)で表される基である請求項1〜5のいずれか一項に記載のレゾルシノール誘導体の製造方法。
【化3】

(前記一般式(3−1)中、Rは、炭素数1〜40の、直鎖状、分岐状又は環状構造を有するアルキル基であり、このアルキル基は、ヘテロ原子を含んでもよい置換基で置換されていても、置換されていなくてもよい。nは0〜3の整数である。また、前記一般式(3−2)中、Rは、炭素数1〜40の、直鎖状、分岐状又は環状構造を有するアルキル基であり、このアルキル基は、ヘテロ原子を含んでもよい置換基で置換されていても、置換されていなくてもよい。Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である。)

【公開番号】特開2009−197094(P2009−197094A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38863(P2008−38863)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】