説明

レチクル収容容器、露光装置及びデバイス製造方法

【課題】パーティクルの発生を抑制しつつレチクルを容器に位置決めするのに有利な技術を提供する。
【解決手段】容器は、レチクルを収容するインナーケースと、アウターケースとを含む。インナーケースは、ベースプレートと、インナーカバーと、レチクルの面取り部と接触してレチクルを位置決めする第1位置決め部材と、を含む。第1位置決め部材は、面取り部との接触面がベースプレートの上面に対して同一方位での仰角をもって傾斜し、第1位置決め部材が押し付け部で押されて面取り部と最初に接触する第1傾斜面122と、第1傾斜面122より上方に形成されて第1傾斜面122より後に面取り部と接触する第2傾斜面121と、を含み、第1傾斜面122と第2傾斜面121とが第1位置決め部材の外に成す角は180°未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レチクル収容容器、露光装置及びデバイス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
将来の半導体デバイスの製造に関して、極端紫外域光(EUV;extreme ultraviolet)を用いたEUVリソグラフィ技術が有力視されている。EUVリソグラフィ技術で最も鍵となる半導体製造装置として、EUV露光装置がある。一般に露光装置は、回路パターンが形成されたレチクルを照明光で照明し、投影光学系によって感光体(レジスト)が塗布されたウエハに縮小投影する構成を有する。レチクルの回路パターン面にパーティクルが付着すると、各ショットの同一位置にパーティクルの像が転写される。これにより、半導体デバイス製造の歩留まりや、半導体デバイス自体の信頼性が大幅に低下する。
【0003】
従来のg線、i線、KrFレーザ光、ArFレーザ光等を使う露光装置では、レチクルの回路パターン面から数mmの位置にペリクルという透明保護膜を配置する方法が採用されている。しかし、EUV露光装置では、EUV光に対して透明なペリクルが存在しない。レチクルに要求される透過率を満たすためには、ペリクルの厚さを数10nm程度にせざるを得ない。このような厚さでは、レチクルを搬送する際における大気圧から真空環境下、及びその逆の圧力変化に対する機械的側面、及び、EUV露光光が吸収されて温度が上昇することによる熱的側面において十分な強度が得られない。EUVリソグラフィ用のレチクルを保管・搬送する際にパーティクル付着を防ぐ方法として、レチクルを二重の収納容器で覆うという、いわゆる“二重ポッド” のレチクル収容容器が、特許文献1,2で提案されている。“二重ポッド” のレチクル収容容器では、インナーポッドと呼ばれている第1のポッドがレチクルを収納し、アウターポッドと呼ばれている第2のポッドがこのインナーポッドを収納する。
【0004】
従来の二重ポッド用いた場合のレチクルの二重ポッド内部での固定方法を図3〜5で説明する。レチクル2は、パターン面を下に向けて、ベースプレート100に設置された4つの支持ピン102a〜102dで支持されている。ベースプレート100には、レチクル2の極端な横ずれを防止するポストピン101a〜101h、ベースプレート100の下部からレチクルのIDなどを観察できるようにするためのガラス窓106a,bが設置されている。レチクルのチャック面を保護するインナーカバー104には、レチクル2がインナーポッド内部に保持された時、インナーポッドの内外の圧力差を0にするためのクリーンフィルター105a,105bが設けられている。固定ピン103a〜103dは、鉛直方向にスライド可能で、レチクル2のチャック面のチャムファー(以後C面と称す)を押しつけ、レチクルを固定する。この固定ピン103a〜103dは、アウターポッドが標準機構インターフェース(SMIF)により閉じる際に、アウターポッドの内側に設けられたばね等の弾性体を介して、所定の力で鉛直下方にレチクル2を押す。このことでレチクル2は機械的なガタつきの無いように固定される。レチクル2のC面は傾斜角が45°となっている。固定ピン103a〜103dのレチクル接触部の水平面に対する傾斜角は、レチクル2のC面の傾斜角と補角をなす135°を有する。
【0005】
従来技術では、レチクル2のC面と固定ピン103a〜103dのレチクル接触部とが接触することによって、レチクル2がベースプレート100に対して水平方向に移動され位置決めされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−184442号公報
【特許文献2】特表2009−5105252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、固定ピン103a〜103dがレチクル2のC面を押し、レチクル2がベースプレート100に対し水平方向に移動することは接触、摩擦を伴う現象である。そのため、周囲の環境、固定ピン103a〜103dのレチクル接触部の状態により再現性よく位置決めされない場合がある。また、レチクル2は、厚さの寸法公差内の範囲内で厚さにばらつきがある。このような場合、固定ピン103a〜103dは通常より高い位置でC面に接触するため、アウターポッドが閉じる際、固定ピン103a〜103dの押される力が大きくなりレチクル2との接触部近傍に大きな圧力が加わる。固定ピン103a〜103dは、真空内の脱ガスを減らすために、メタルで製作されることが多い。この場合、ガラスと金属の硬度、剛性に大きな差が生じる。
【0008】
例えば、レチクル2がベースプレート100のセンタ位置に対して、Δxだけ位置ずれしてした場合、固定ピン103a〜103dに接続される弾性体の剛性をkとすると、傾斜角が45°であるため、k・Δxの力が余分にレチクル2のC面に加わる。弾性体の伸縮のストロークが短いため、剛性kは非線形になり易く、発生する力を見積もることができない。設計値よりも圧縮された場合、接触部に想定以上の圧力が加わり、摩擦、擦れが大きくなりガラス由来のパーティクルが発生する原因となる。
【0009】
本発明は、パーティクルの発生を抑制しつつレチクルを容器に位置決めするのに有利な技術を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの側面は、 レチクルを収容するインナーケースと該インナーケースを収容するアウターケースとを含む容器であって、前記レチクルは、その縁部に面取り部が形成され、前記アウターケースは、蓋部材と該蓋部材の下方に配置されるベース部材とを含み、前記インナーケースは、前記レチクルの下面を保護するベースプレートと、前記ベースプレートの上方に配置されて前記レチクルの上面を保護するインナーカバーと、前記インナーカバーに設置され、前記インナーケースを収容した前記アウターケースを前記蓋部材により閉鎖することによって前記蓋部材の下面に構成された押し付け部で下方に押されて前記面取り部と接触して前記レチクルを位置決めする第1位置決め部材と、を含み、前記第1位置決め部材は、前記面取り部との接触面が前記ベースプレートの上面に対して同一方位での仰角をもって傾斜し、前記第1位置決め部材が前記押し付け部で押されたて前記面取り部と最初に接触する第1傾斜面と、該第1傾斜面より上方に形成されて前記第1傾斜面より後に前記面取り部と接触する第2傾斜面と、を含み、前記第1傾斜面と前記第2傾斜面とが前記第1位置決め部材の外に成す角は180°未満である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば、パーティクルの発生を抑制しつつレチクルを容器に位置決めするのに有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態の容器を示す図である。
【図2】EUV露光装置の概略構成を示す図である。
【図3】従来技術のインナーケースの構成を示す図である。
【図4】従来技術のインナーケースのベースプレート及びインナーカバーを示す図である。
【図5】従来技術において、レチクルをインナーケースに固定している状態を示す図である。
【図6】第1実施形態の固定ピンの断面図である。
【図7】第1実施形態の固定ピンの斜視図である。
【図8】第1実施形態の固定ピンを用いてレチクルを位置決めする様子を示す図である。
【図9】露光装置のレチクル搬出フローを示す図である。
【図10】第2実施形態の固定ピンの断面図である。
【図11】第3実施形態のポストピンを表す図である。
【図12】第3実施形態のポストピンを用いてレチクルを位置決め様子を示す図である。
【図13】第3実施形態のポストピンを用いて、レチクルをインナーケースに位置決めする様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[露光装置]
図2を用いて露光装置の一例としてのEUV露光装置を説明する。回路パターンが形成された反射型のレチクル(原版)2は、レチクルチャック7によって保持される。レチクル2を保持したレチクルチャック7は、スキャン方向に粗動、微動が可能なステージ(レチクルステージ)3に搭載されている。レチクルステージ3の位置及び姿勢は、不図示のレーザ干渉計によって常にモニターされる。投影光学系5は、レチクル2から反射されたEUV露光光をウエハ(基板)1に投影しウエハ1を露光する。ウエハ1は、ウエハチャック6上に保持される。ウエハチャック6は、6軸方向に粗動、微動が可能なウエハステージ27上に搭載されている。ウエハステージ27の位置及び姿勢は、不図示のレーザ干渉計によって常にモニターされる。
【0014】
投影光学系5の縮小倍率を1/β、レチクルステージ3の走査速度をVr、ウエハステージ27の走査速度をVwとする。レチクルステージ3とウエハステージ27のスキャン動作は、Vr/Vw=βの関係が成立するように同期制御される。レチクルステージ3はレチクルステージ空間4a、投影光学系5は投影光学系空間4b、ウエハステージ27はウエハステージ空間4cに配置されている。空間4a、4b、4cは、それぞれ独立して圧力制御されうる。
【0015】
次に、二重ポッド31(単に容器ともいう)を用いたレチクル搬送方法の一例を説明する。EFEM(Equipment Front−End Module)19で、大気中においてレチクル2を収容する二重ポッド31からインナーケース10を取り出し、ロボット18を用いてインナーケース10をロードロックチャンバー23に搬送する。搬送されたインナーケース10はロードロックチャンバー23で真空引きがなされる。ロードロックチャンバー23内が所定圧力に達すると、露光装置側のゲートバルブ12aが開き、ロボット22により、インナーケース10が露光装置内に搬送される。インナーケース10は、ロボット22によりインナーケースライブラリ25に搬送され、その後、インナーケース10からインナーカバーを取り除くオープナー24に搬送され、インナーカバーが取り外される。その後、ゲートバルブ12cが開き、レチクル2は、レチクルプリアライメントステージ20に載置され、概略のレチクル位置が計測された後、レチクルステージ3に搬送される。レチクル2の搬出動作は、後述するようにこの逆のステップにて行われる。ここで、ロボット22およびオープナー24は、二重ポッド31にレチクルを収納する収納機構を構成する。
【0016】
同様に、ウエハ搬送方法の一例を説明する。EFEM(Equipment Front−End Module)14で、大気中においてウエハ1をキャリアから取り出し、ロボット13を用いてウエハ1をロードロックチャンバー15に搬送する。ロードロックチャンバー15で搬送されたウエハ1の真空引きがなされる。ロードロックチャンバー15が所定圧力に達すると、露光装置側のゲートバルブ11aが開き、ウエハ1は、ロボット8により露光装置内に搬送される。ロボット8により、ウエハ1は一旦、ウエハストッカ26に搬送される。その後、ゲートバルブ11cが開き、ウエハ1は、ウエハプリアライメントステージ30に載置され、概略のレチクル位置が計測された後、ウエハステージ27に搬送される。ウエハ1の搬出は、この逆のステップにて行われる。ロボット18,22等は、二重ポッド31に収容されたレチクル2をレチクルステージ3に搬送し、レチクルステージ3に保持されたレチクル2を二重ポッド31に搬送する搬送機構を構成している。
【0017】
[レチクル収容容器]
(第1実施形態)
第1実施形態のレチクルを収容する二重ポッド31は、図1に示されるように、レチクル2を収容するインナーケース10と、インナーケース10を収容するアウターケース200とを含む。アウターケース200は、蓋部材202とその下方に配置されるベース部材201を含む。蓋部材202の下面には押し付け部202aが構成されている。レチクル2は、パターンが形成された面とレチクルチャック7によって保持される面とを有する。レチクル2の前記2つの面の縁部には面取り部(チャムファー、C面ともいう)が形成されている。インナーケース10は、ベースプレート100と、ベースプレート100の上方に配置されるインナーカバー104と、インナーカバー104に設置され、レチクル2を位置決めし固定する固定ピン(第1位置決め部材)103とを含む。ベースプレート100は、パターンが形成されたレチクル2の下面側を保護し、インナーカバー104は、レチクルチャック7によって保持されるレチクル2の上面側を保護する。インナーケース10を収容したアウターケース200を蓋部材202により閉鎖する閉鎖動作を行うと、固定ピン103が押し付け部202aによって下方に押されてC面と接触する。第1実施形態の二重ポッド31は、レチクル2を位置決めする固定ピン103がレチクル2のC面と接触する部分が、互いに傾斜角の異なる2つの傾斜面を有していることを特徴とする。
【0018】
図6は、第1実施形態における固定ピン103の断面を示している。固定ピン103は、第1傾斜面122とその上方に形成された第2傾斜面121とを有する。固定ピン103が押し付け部202aによって下方に押されるとき、第1傾斜面122がC面と最初に接触し、その後に、第2傾斜面121がC面と接触する。第2傾斜面121は、ベースプレート100の上面に対する仰角(第2傾斜角)θ2(=45°)と長さL2を有している。この第2傾斜角はレチクルの6025基板の規格になっているC面の角度と略同一角度である。第2傾斜面の長さL2はC面の幅とほぼ同等がそれ以上の長さを有す。また、第1傾斜面122は、第2傾斜角θ2より大きな第1傾斜角θ1と長さL1を有している。固定ピン103における傾斜面の傾斜角は、ベースプレート100の上面(通常水平面)に対する同一方位での仰角として定義する。傾斜面の長さは、図示した断面において当該傾斜面に沿う方向における傾斜面の長さである。第1傾斜角θ1は第2傾斜角θ2より大きいので、第1傾斜面122と第2傾斜面121とが固定ピン103の外に(外側において)成す角は、180°未満である。
【0019】
図8は、この固定ピン103を用いてレチクル2をベースプレート100に対して位置決めする様子を示している。状態Aは、レチクル2がベースプレート100に対して位置決めされずにベースプレート100に置かれた状態を示す。このときの位置ずれの量を、レチクル2が位置決めされた位置を基準にしてΔxとする。状態Bは、アウターケース200の閉鎖動作が開始されて固定ピン103がレチクル2のC面120との接触を開始した状態を示している。この状態でアウターケース200の閉鎖動作を続行すると、固定ピン103が押し付け部202aにより押されてさらに下方に下りてくる。状態Bでは、レチクル2は、固定ピン103の第1傾斜面122と、C面120のエッジで接触している。第1傾斜面122の傾斜角θ1が45°よりも大きいので、レチクル2が固定ピン103からC面120においてその垂直方向に受ける力Nが従来技術よりも低減される。従って、レチクル2と固定ピン103との間の静止摩擦係数μが一定であっても、C面120と固定ピン103との間の摩擦力(μ×N)が低減される。さらに、固定ピン103がレチクル2に作用する力の大部分は水平方向の分力となる。その結果、レチクル2は位置決め位置に容易に移動することが可能になる。つまり、この第1傾斜面122は、レチクル2を位置決め位置に誘導するガイドの役割を果たす。
【0020】
状態Cは、レチクル2がベースプレート100上の位置決め位置に到達した状態である。状態Cでは、傾斜角がともに45°である、第2傾斜面121とレチクル2のC面120とが接触するので、レチクル2は、固定ピン103と十分な接触面積を有した状態で固定ピン103により固定される。レチクル2が位置決め位置からΔxずれている場合、第1傾斜面122の長さL1は少なくとも(Δx/cosθ1)の長さを必要とする。いま、レチクル2をベースプレート100に支持させるときにレチクル2のベースプレート100に対する許容可能な位置ずれ量をΔxとする。そうすると、第1傾斜面122の長さL1および第1傾斜角θ1は、L1×cosθ1≧Δxを満たす必要がある。
【0021】
第1実施形態における固定ピン103は、2つの傾斜面を有し、45°より大きい傾斜角θ1を有する下方側の第1傾斜面122によりレチクル2の位置決めを行い、略45°の傾斜角θ2を有する上方側の第2傾斜面121によりレチクル2を固定する。したがって、固定ピン103は、断面が上述したようになっていれば良く、例えば、図7に示すように四角柱を組み合わせた形状でも、円錐形の組み合わせた形状であってもよい。固定ピン103のレチクル2と接する部分は、レチクル2をベースプレート100上で位置決めし、固定するという機能を果たすために、耐摩耗性、低摩擦、低発塵性に優れた材料を使用することができる。このような材料としてはポリエーテルエーテルケトン(PRRK)樹脂、又は、登録商標Vespel(Dupon社製)、登録商標UPIMOL(UBE社製)等のポリイミド樹脂からなるプラスチックが挙げられる。また、固定ピン103は、2つの材料で構成することも可能である。例えば、位置決め機能を担う第1傾斜面122は、低摩耗・低摩擦・導電性のプラスチックを使用し、レチクル2を固定する機能を担う第2傾斜面121は、真空内の脱ガスを極力少なくするために金属を用いることができる。
【0022】
第1実施形態においてレチクル2がベースプレート100に位置決めされて固定された状態のレチクル2、インナーカバー104、ベースプレート100の相対的な配置を図1に示す。ベースプレート100には、レチクル2を支持する支持ピン102a、レチクル2の極端な位置ずれを防ぐためのポストピン101bが配置されている。
【0023】
次に、図9を用いて、第1実施形態のレチクル2を収納する二重ポッド31を、EUV露光装置のレチクル搬送系に適用した場合の動作を説明する。この例では、露光処理が終了し、レチクル2がインナーケース10内に搬送され、最終的にアウターケース200に収納される工程の動作である。S200で、露光動作が完了し、レチクル2の搬出動作が開始される。S201で、レチクル2は、レチクルステージ3によりプリアライメントステージ20に移動され、レチクルチャック7から離脱される。S201の離脱工程は、レチクル2がレチクルチャック7に密着している状態から開放される工程のため、本質的に非線形現象であり、レチクル2の位置ずれが生じやすい。
【0024】
S202で、離脱されたレチクル2は、ベースプレート100に置かれる。S201の離脱工程で位置ずれが発生しやすいため、レチクル2はベースプレート100上で位置決めされていない状態である。S203で、インナーカバー104が、オープナー24によって、レチクル2が載置されたベースプレート100に結合され、レチクル2はインナーケース10内に保護された状態となる。この段階ではまだ、レチクル2はベースプレート100に対して位置決めされていない。S204で、インナーケース10は、ロードロックチャンバー23に搬送される。S205で、ロードロックチャンバー23はベントされ、大気圧にされる。
【0025】
S206で、インナーケース10はEFEM19に搬送され、アウターケース200に収納される。このとき、固定ピン103がレチクル2の位置決め、固定に有効に作用する。インナーケース10がEFEM19に搬送された時点では、レチクル2はベースプレート100に対して位置決めされた状態ではない。しかし、EFEM19でアウターケース200の閉鎖動作を行う際に、まず、レチクル2のチャック面のC面120のエッジが、固定ピン103の傾斜角が45°を超える第1傾斜面122と最初に接触する。この第1傾斜面122のガイド作用で、レチクル2は所定の位置決め位置に移動する。この位置決め動作が終了した後に、傾斜角が概略45°の第2傾斜面121とC面120が接触することで、レチクル2は位置決め位置に固定される。S207で一連のレチクル搬送動作が終了する。
【0026】
本実施形態によれば、二重ポッド31内にレチクル2を収納する際、固定ピン103を用いることで、レチクル2をベースプレート100に対して位置決めし、固定することが可能になる。この場合、レチクル2のチャック面のC面120に余分な力が加わることはないため、C面120と固定ピン103の接触部との間の摩擦・擦れによるパーティクルは発生しない。
【0027】
(第2実施形態)
第1実施形態では、固定ピン103が傾斜角の異なる2つの傾斜面を有していた。しかし、固定ピンは、傾斜面を3つ以上有していてもよい。図10で、第2実施形態の固定ピン103’は、レチクルを固定するための第2傾斜面121(長さL2,傾斜角θ2=45°)とレチクル2を位置決めするための第1傾斜面122(長さL1,傾斜角θ1)を有する。第2実施形態の固定ピン103’は、これら第1及び第2傾斜面122,121を接続する第3傾斜面123(長さL3,傾斜角θ3)をさらに有する。この場合、それぞれの傾斜角は、θ1>θ3>θ2の関係を満たしている。したがって、第3傾斜面123と第1傾斜面122とが固定ピン103’の外に成す角、及び、第3傾斜面123と第2傾斜面121とが固定ピン103’の外に成す角は、ともに180°未満である。図10では1つの第3傾斜面123しか示されていないが、第3傾斜面123の数は2以上でもよく、少なくとも1つであればよい。
【0028】
第3傾斜面123を形成することで、アウターケース200の閉鎖動作の中で、固定ピン103’が下方に動きながらレチクル2を位置決めし、その後レチクル2を固定する動作に移る際に、固定ピン103’の滑らかな動作が期待できる。第3傾斜面123は、平面である必要がなく、例えば曲率を持たせた曲面とすることで、第1傾斜面122と第2傾斜面121を滑らかに補間することも可能である。
【0029】
固定ピン103’に、第3傾斜面123を設けることにより、レチクル2の位置決め動作からレチクル2の固定動作へ移る際に、固定ピン103’が滑らかに動くので、パーティクルの発生をさらに低減することが可能になる。また、第3傾斜面123に曲率を持たせることで、固定ピン103’の動きがさらに滑らかになり、パーティクルの発生をより一層低減可能である。
【0030】
(第3実施形態)
第1及び第2実施形態では、固定ピン103のレチクル2と接触する部分に2つ以上の傾斜面を設けることにより、アウターケース200の閉鎖動作中に、レチクル2をベースプレート100に対し位置決めし、固定する。これに対して第3実施形態では、レチクル2を位置決めする機能を、インナーカバー104に設置された固定ピン103ではなく、ポストピン101のレチクル2と接触する部分に2つ以上の傾斜面を形成することで発揮させることを特徴とする。すなわち、従来、ベースプレート100上でレチクル2の極端な横ずれを阻止する目的で設けられていたポストピン(図4の101a〜101h)に、レチクル2を位置決めする機能を持たせる。
【0031】
図11は、第3実施形態のポストピン(第2位置決め部材)101の断面を示している。ポストピン101は、レチクル2のC面と最初に接触する第1傾斜面142と、第1傾斜面142より下方に形成されて第1傾斜面142より後にC面と接触する第2傾斜面141とを含む。第2傾斜面141は、ベースプレート100の上面に対する仰角としての第2傾斜角θ2(=45°)と長さL2を有している。ポストピン101における傾斜面の傾斜角は、ベースプレート100の上面(通常水平面)に対する同一方位での仰角として定義する。傾斜面の長さは、第1、第2実施形態と同様である。第2傾斜面141の傾斜角θ2はレチクル2の6025基板の規格になっているレチクル2のC面の角度と略同一である。第2傾斜面141の長さL2はC面の幅とほぼ同等がそれ以上の長さを有す。また、第1傾斜面142は第2傾斜角θ2(=45°)よりも大きい第1傾斜角θ1および長さL1を有する。したがって、第1傾斜面142と第2傾斜面141とがポストピン101の外に成す角は180°未満である。
【0032】
図12は、このポストピン101を用いてレチクル2をベースプレート100に対して位置決めする方法を示している。状態Aで、レチクル2がベースプレート100に置かれる直前でレチクル2がベースプレート100に対して位置決めされていない状態を示す。このときの位置ずれ量を、レチクル2が位置決めされる位置を基準にしてΔxとする。状態Bは、ポストピン101の第1傾斜面142とレチクル2の下面縁部のC面140とが接触している状態を示している。この状態からレチクル2が不図示のレチクル支持機構により下方に下りてくる。この時レチクル2は、ポストピン101の第1傾斜面142と、レチクル2の下部のC面140のエッジで接触する。第1傾斜面142の傾斜角θ1が45°よりも大きいので、ポストピン101が受けるレチクル2の重力の反作用による力の大部分は水平方向の分力となる。したがって、レチクル2は不図示のレチクル支持機構上で水平方向(図では左方向)に容易に移動することできる。つまり、この第1傾斜面142は、レチクル2を位置決めするためのガイドの役割を果たす。
【0033】
状態Cでは、レチクル2のベースプレート100上での位置決めが完了している。略同じ傾斜角45°を有する第2傾斜面141とレチクル2のC面140とは十分な接触面積を有するので、レチクル2は位置決め位置で横ずれがしにくい状態となる。その後インナーカバー104に設置された固定ピン103aがレチクル2を上方から押すのでレチクル2は位置決め位置に固定される。レチクル2が位置決め位置からΔxずれている場合、第1傾斜面142の長さL1は(Δx/cosθ1)以上であることが必要とされる。
【0034】
本実施形態では、図11の断面形状を有したポストピン101を説明したが、ポストピン101は、レチクル2のマスク面側のC面140と接する接触部に、傾斜角が互いに異なる2つ以上の傾斜面を有していれば、これに限定されるものではない。ポストピン101のレチクル2と接する部分は、レチクル2をベースプレート100上に置く際に、位置決めするという機能を果たすために、前述の実施形態と同様、耐摩耗性、低摩擦、低発塵性に優れた材料としうる。図11のポストピン101を用いて位置決めされたレチクル2、インナーカバー104、ベースプレート100の相対的な配置状態を図13に示す。本実施形態では、前述のようにレチクル2がベースプレート100に置かれることによってレチクル2の自重により位置決めされるので固定ピン103aは従来と同様の構成で構わない。
【0035】
本実施形態によれば、二重ポッド31内にレチクル2を収納する際、ポストピン101を用いることで、レチクル2をベースプレート100上で容易に位置決めしうる。本実施形態では、位置決めの際にレチクル2のチャック面のC面に余分な力が加わることはないため、C面と固定ピン103aの接触部との間の摩擦・擦れによるパーティクルが発生しない。
【0036】
本実施形態では、第1傾斜面142は第2傾斜面141に直接接続されている。しかし、第1傾斜面142と第2傾斜面141とを、少なくとも1つの第3傾斜面によって接続してもよい。その場合、第3傾斜面を含む平面と第1傾斜面を含む平面とがポストピン101の外に成す角、及び、第3傾斜面を含む平面と第2傾斜面を含む平面とがポストピン101の外に成す角は180°未満である。また、第1傾斜面と第2傾斜面とを曲面によって接続してもよい。
【0037】
[デバイス製造方法]
次に、デバイス(半導体デバイス、液晶表示デバイス等)の製造方法について説明する。半導体デバイスは、ウエハに集積回路を作る前工程と、前工程で作られたウエハ上の集積回路チップを製品として完成させる後工程とを経ることにより製造される。前工程は、前述の露光装置を使用して感光剤が塗布されたウエハを露光する工程と、ウエハを現像する工程とを含む。また、前工程は、レチクルを検査する工程をも含む。後工程は、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)と、パッケージング工程(封入)とを含む。液晶表示デバイスは、透明電極を形成する工程を経ることにより製造される。透明電極を形成する工程は、透明導電膜が蒸着されたガラス基板に感光剤を塗布する工程と、前述の露光装置を使用して感光剤が塗布されたガラス基板を露光する工程と、ガラス基板を現像する工程とを含む。本実施形態のデバイス製造方法は、従来の方法に比べて、デバイスの性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0038】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。例えば、以上では、露光装置を例に本発明の実施形態を説明したが、デバイス製造工程においてレチクルを取り扱うデバイス製造装置一般に本発明は適用できる。その場合、当該デバイス製造装置は、上述した露光装置のように、本発明の容器にレチクルを収納する収納機構を備えていればよい。当該デバイス製造装置は、例えば、レチクルを洗浄または検査する装置であってもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レチクルを収容するインナーケースと該インナーケースを収容するアウターケースとを含む容器であって、
前記レチクルは、その縁部に面取り部が形成され、
前記アウターケースは、蓋部材と該蓋部材の下方に配置されるベース部材とを含み、
前記インナーケースは、前記レチクルの下面を保護するベースプレートと、前記ベースプレートの上方に配置されて前記レチクルの上面を保護するインナーカバーと、前記インナーカバーに設置され、前記インナーケースを収容した前記アウターケースを前記蓋部材により閉鎖することによって前記蓋部材の下面に構成された押し付け部で下方に押されて前記面取り部と接触して前記レチクルを位置決めする第1位置決め部材と、
を含み、
前記第1位置決め部材は、前記面取り部との接触面が前記ベースプレートの上面に対して同一方位での仰角をもって傾斜し、前記第1位置決め部材が前記押し付け部で押されたて前記面取り部と最初に接触する第1傾斜面と、該第1傾斜面より上方に形成されて前記第1傾斜面より後に前記面取り部と接触する第2傾斜面と、を含み、前記第1傾斜面と前記第2傾斜面とが前記第1位置決め部材の外に成す角は180°未満である、
ことを特徴とする容器。
【請求項2】
前記第1傾斜面と前記第2傾斜面とは、第3傾斜面によって接続されており、前記第3傾斜面と前記第1傾斜面とが前記第1位置決め部材の外に成す角、及び、前記第3傾斜面と前記第2傾斜面とが前記第1位置決め部材の外に成す角は180°未満である、ことを特徴とする請求項1に記載の容器。
【請求項3】
前記第1傾斜面、前記第2傾斜面、および、それらの間にある面の少なくとも一つは、曲面をなす、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の容器。
【請求項4】
前記ベースプレートに対する前記レチクルの許容可能な位置ずれ量をΔxとし、前記第1傾斜面の長さをL1とし、前記第1傾斜面の前記仰角をθ1とするとき、L1およびθ1は、
L1×cosθ1≧Δx
を満たす、ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の容器。
【請求項5】
レチクルを収容するインナーケースと該インナーケースを収容するアウターケースとを含む容器であって、
前記レチクルは、その縁部に面取り部が形成され、
前記アウターケースは、蓋部材と該蓋部材の下方に配置されるベース部材とを含み、
前記インナーケースは、前記レチクルの下面を保護するベースプレートと、前記ベースプレートの上方に配置されて前記レチクルの上面を保護するインナーカバーと、前記ベースプレートに設置され、前記面取り部と接触して前記レチクルを位置決めするする第2位置決め部材と、
を含み、
前記第2位置決め部材は、前記面取り部との接触面が前記ベースプレートの上面に対して同一方位での仰角をもって傾斜し、前記インナーケースに置かれる前記レチクルの前記面取り部と最初に接触する第1傾斜面と、該第1傾斜面より下方に形成されて前記第1傾斜面より後に前記面取り部と接触する第2傾斜面とを含み、前記第1傾斜面と前記第2傾斜面とが前記第2位置決め部材の外に成す角は180°未満である、
ことを特徴とする容器。
【請求項6】
前記第1傾斜面と前記第2傾斜面とは、第3傾斜面によって接続されており、前記第3傾斜面と前記第1傾斜面とが前記第2位置決め部材の外に成す角、及び、前記第3傾斜面と前記第2傾斜面とが前記第2位置決め部材の外に成す角は180°未満である、ことを特徴とする請求項5に記載の容器。
【請求項7】
前記第1傾斜面、前記第2傾斜面、および、それらの間にある面の少なくとも一つは、曲面をなす、ことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の容器。
【請求項8】
前記ベースプレートに対する前記レチクルの許容可能な位置ずれ量をΔxとし、前記第1傾斜面の長さをL1とし、前記第1傾斜面の前記仰角をθ1とするとき、L1およびθ1は、
L1×cosθ1≧Δx
を満たす、ことを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の容器。
【請求項9】
レチクルを介して基板を露光する露光装置であって、
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の容器に前記レチクルを収納する収納機構を備える、ことを特徴とする露光装置。
【請求項10】
請求項9に記載の露光装置を用いて基板を露光する工程と、
前記工程で露光された基板を現像する工程と、
を含むことを特徴とするデバイス製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の容器に前記レチクルを収納する収納機構を備える、ことを特徴とするデバイス製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−186391(P2012−186391A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49609(P2011−49609)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発気候「次世代半導体材料・プロセス基盤(MIRAI)プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】