説明

レトルト加工用トウモロコシ、及びレトルト加工トウモロコシの製造方法

【課題】 レトルト殺菌を行う時間が短時間で済むとともに、複雑なブランチング処理が不要で、確実に殺菌を行うことを可能とするレトルト加工用トウモロコシ、及びレトルト加工トウモロコシの製造方法を提供する。
【解決手段】 トウモロコシの茎の部分を一部抜去することにより、トウモロコシの長手方向に沿って中空孔14を形成する。これによって、トウモロコシ全体への伝熱効率が向上し、ブランチング処理時の加熱時間、並びにレトルト殺菌時における処理時間を短縮することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト加工用トウモロコシ、及びその製造方法に係り、特にレトルト加工に適した形を有するレトルト加工用トウモロコシ、並びに、このレトルト加工用トウモロコシを、レトルト釜にて加圧及び加熱処理することにより、レトルト加工トウモロコシを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レトルト加工食品は、缶詰と同様に、便利さや調理の手軽さを有し、カレーやスープを初めとする様々な食品に利用されている。このようなレトルト加工食品は、いわゆるレトルト釜と呼ばれる加圧加熱装置を使用して、レトルトパウチと呼ばれるポリプロピレンやアルミ箔等からなる包装容器に収容された食品に圧力をかけ、通常120°C以上で殺菌処理を行うことによって製造される。レトルト加工食品は、缶詰同様に長期間の保存が可能となるとともに、暖めるだけですぐに出来立ての食品として食用に供することが出来る等の便利さを有し、生産者は勿論のこと消費者にも様々な恩恵をもたらすものである。
レトルト関連の技術には、レトルト釜に関する技術、レトルトパウチ(包装容器)に関する技術、残存空気の処理・方法等に関する技術など多彩であるが、特に、特定の個々の食品に対する対応技術には、依然として様々な技術的課題が存在する。
【0003】
特開2000-83581号公報には、「包装レトルトコーン及びその製造方法」の発明について開示され、同発明はコーン(トウモロコシ)が、褐色に変化することの防止を主たる目的としている。このうち、包装レトルトコーンの製造方法は、軸付コーンに、所定濃度のクエン酸や食塩を浸漬させることによって前処理を行う工程、その後、レトルトパウチに真空包装し、該真空包装したコーンを所定温度でレトルト殺菌する工程等からなることを特徴とした発明であり、所定濃度のクエン酸等に浸漬させる前処理をレトルト殺菌の前に施すことによってレトルトコーンの褐変を防止することができるとされている。
【特許文献1】特開2000-83581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した特開2000-83581号公報に開示されている「包装レトルトコーン及びその製造方法」の発明は、レトルトコーンの製造時に行われるブランチング処理時(いわゆる湯通し)に、所定濃度のクエン酸や食塩の水溶液にトウモロコシを浸漬させる工程が付加されるために、製造工程の複雑化を招き、結果的に製造コストの高騰を招来すると言う問題点がある。
【0005】
レトルト包装容器に収容されたトウモロコシが腐敗等する原因は、ブランチング処理時並びにレトルト殺菌時に、トウモロコシの中心部である芯(茎)に対する加熱が不十分となりがちであることが大きな原因である。つまり、芯まで十分に加熱を行うには、加熱時間を長くすればよいが、ブランチング処理時並びにレトルト殺菌時の加熱時間を長くすると、いわゆる茹ですぎの状態となり、食用に供する粒の食感の悪化を招くため、できるだけ食感を悪化させない加熱時間を選択する必要がある。
【0006】
一方で、加熱時間を短縮するには下記の理由により、限界がある。つまり、食品中の細菌は芽胞と言う状態を生成し、100°Cで加熱した場合でも細菌が完全に死滅せず、殺菌が不十分な事態が生じることが知られており、芽胞を完全に死滅させるには加熱温度を120°C以上としつつ十分な加熱時間を確保する必要がある。このため、レトルト加工食品の場合には殺菌後、常温に戻したものを、細菌の繁殖がないことを確認してから出荷すると言った品質管理を行う必要も生じ、生産者にとって商品の出荷が遅れるため、生産コストを高騰させる原因ともなる。
【0007】
本特許出願の発明者は、様々なレトルトに関する技術のうち、レトルト加工食品としてのトウモロコシの保存性について鋭意研究を重ねた結果、レトルト加工されるトウモロコシの前述した褐変の他、腐敗等の課題に関し、当該課題の解決方法として、前述した特開2000-83581号公報記載の発明とは別の角度から本発明に至ったものである。すなわち、本発明は、前述した諸事情に対処するために提案されたものであって、特にレトルト加工トウモロコシを製造する際に、レトルト殺菌を行う時間が短時間で済むとともに、クエン酸や食塩の水溶液にトウモロコシを浸漬させる等の複雑なブランチング処理が不要で、確実に殺菌を行うことが可能なレトルト加工用トウモロコシ、及びレトルト加工トウモロコシの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、トウモロコシの茎の部分を一部抜去することにより、トウモロコシの長手方向に沿って中空孔を形成したことを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、トウモロコシの茎の一部を抜去して前記請求項1に記載のレトルト加工用トウモロコシを製造する工程と、前記茎の一部が抜去されたレトルト加工用トウモロコシを包装用袋に密封して真空包装する工程と、前記包装用袋に収納されたレトルト加工用トウモロコシを加圧式加熱器によってレトルト殺菌を行う工程と、を具備することを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、トウモロコシの茎の部分を一部抜去して前記請求項1に記載のレトルト加工用トウモロコシを製造する工程と、前記茎の一部が抜去されたレトルト加工用トウモロコシをブランチング処理する工程と、前記芯が抜去されたレトルト加工用トウモロコシを包装用袋に密封して真空包装する工程と、前記包装用袋に収納されたレトルト加工用トウモロコシを加圧式加熱器によってレトルト殺菌を行う工程と、を具備することを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、トウモロコシの茎の一部を抜去して前記請求項1に記載のレトルト加工用トウモロコシを製造する工程と、前記芯が抜去されたレトルト加工用トウモロコシをブランチング処理する工程と、前記芯が抜去されたレトルト加工用トウモロコシの中空孔の部分に、ウエットテッシュ等の清浄布又は清浄紙を挿入する工程と、前記レトルト加工用トウモロコシを包装用袋に密封して真空包装する工程と、前記包装用袋に収納されたレトルト加工用トウモロコシを加圧式加熱器によってレトルト殺菌を行う工程と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上述のように、請求項1及び2記載の発明によれば、トウモロコシの茎の部分を一部抜去することにより、トウモロコシの長手方向に沿って中空孔を形成しているので、トウモロコシを加熱する場合の伝熱面積が広くなる。このため、トウモロコシの芯の深い部分まで確実に加熱することができ、レトルト殺菌を行う時間が短時間で済む。また、伝熱効率が向上する結果、殺菌を短時間でより確実に行うことが可能となり、レトルト加工トウモロコシの製造コストの低減を図ることができる。
【0013】
特に、請求項3に記載の発明によれば、トウモロコシの茎の一部を抜去した後、トウモロコシにブランチング処理を行うようにしているため、ブランチング処理時におけるトウモロコシへの伝熱効率が向上し、短時間でのブランチング処理が可能となる。このため、クエン酸や食塩の水溶液にトウモロコシを浸漬させる等の複雑なブランチング処理を行わなくてもトウモロコシの変色、腐敗等を防止することができるため、製造工程を簡略化することができ、結果的にレトルト加工トウモロコシの製造コストの低減に寄与する。また、加熱時間が短時間で済むため、粒の食感を悪化させることがない利点を有する。
【0014】
特に、請求項4記載の発明によれば、芯が抜去されたレトルト加工用トウモロコシの中空孔の部分に、ウエットテッシュ等の清浄布又は清浄紙を挿入するようにしている。このため、行楽時の出先などで、トウモロコシを食する際の利便性が向上している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係るレトルト加工用トウモロコシ、及びレトルト加工トウモロコシの製造方法の好適な実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一つの実施形態に係るレトルト加工用トウモロコシの外観を示した正面図である。また、図2はレトルト加工用トウモロコシの製造に使用される製造装置の概略斜視図、図3は製造装置の要部断面図である。
【0016】
図1に示されるように、本実施形態のレトルト加工用トウモロコシ10は、中央部に、茎の一部である芯部12を有している。この芯部12を図2に示される製造装置20によって抜去する。
図2に示されるレトルト加工用トウモロコシ製造装置20は、トウモロコシが載置され、芯の抜去作業時にトウモロコシを上下から挟圧することによって固定するトウモロコシ固定手段22と、茎の芯を抜去する抜去手段24を備えている。
図3に示されるように、トウモロコシ固定手段22は、トウモロコシが水平に載置される半円弧状に形成された支持部22Aと、この支持部22A上に載置されたトウモロコシを上方から押し付けることによって固定する半円弧状の押圧部22Bとを備え、押圧部22Bと連結されたアーム22C及びシリンダ22Dから押圧部22Bへ、固定のための押圧力が伝達される。支持部22A及び押圧部22Bの内側には、緩衝材26が貼り付けられ、押圧時にトウモロコシの表面を傷つけることがないようになっている。
【0017】
図2に示される抜去手段24は、トウモロコシの中央部をくり抜く切削刃24Aと、前後送り手段24Bと、回転モータ24Cとを備え、回転モータ24Cの回転力が内蔵されているギアを介して切削刃24Aに伝達される。トウモロコシ固定手段22に固定されたトウモロコシは、切削刃24Aによって茎の芯部12がくり貫かれ、図4に示される中央にトウモロコシの長手方向に沿って中空孔14が形成されたレトルト加工用トウモロコシ10となる。
【0018】
次に、前述したレトルト加工用トウモロコシ10を利用してレトルト加工されたトウモロコシの製造方法について説明する。
まず、レトルト加工用トウモロコシ10をブランチング処理するが、このブランチング処理とは、変色を防止したり、栄養価を維持するために行われる前処理のことである。具体的には、トウモロコシを所定時間、湯に通すことにより、変色や腐敗に関与している酵素の働きを失活させるのと、トウモロコシの粒を食用に供するために行われる処理のことである。トウモロコシの場合、ブランチング処理時に粒に塩分を付着させるとともに、粒を食用に供することができるように茹でるために行われる。このブランチング処理の時間は、後述するレトルト殺菌工程における処理時間を勘案して、最適な時間が決定され、包装用袋であるレトルトパウチに収納されたレトルト加工トウモロコシの粒が、最適な食感となるようにする。
【0019】
なお、ブランチング処理に要する時間は、前述した図4で示されるように、中央にトウモロコシの長手方向に沿って中空孔14が形成されているため、トウモロコシの全体への加熱時間がすむ。具体的には、中空孔14が形成されていないトウモロコシの場合、伝熱面積は、トウモロコシ全体の表面積S1である。S1は、
R(茎の直径)×3.14(円周率)×L=S1
となる。
一方、中空孔14が形成されている本実施形態のレトルト加工用トウモロコシ10の場合は、上記S1に以下の中空孔14の表面積S2が加算される。
D(中空孔14の内径)×3.14(円周率)×L=S2
即ち、表面積S2分だけトウモロコシ全体に対する伝熱面積が増加しているため、特にトウモロコシの茎の部分を十分に加熱することができ、ブランチング処理における加熱時間を短縮することができる。
【0020】
そして、ブランチング処理されたレトルト加工用トウモロコシ10を、図5に示されるように、包装用袋であるレトルトパウチ16に密封して真空包装する。ここで、レトルトパウチとは例えばポリプロピレン層、アルミニウム層、ポリエチレンテレフタレート層などの複層構造からなる包装容器であり、空気や光を通さない構造となっており、缶詰に比較して物流面、暖めやすさなどの点で優れた性質を持っている。
【0021】
密封後、レトルトパウチ16に収納されたレトルト加工用トウモロコシ10をレトルトパウチ16ごと、不図示の加圧式加熱器に入れて圧力を掛けながら所定時間、レトルト殺菌を行う。このときの加熱時間は120°C以上で行うことが、芽胞の形成防止のためには好ましい。なお、レトルト殺菌の際にも、レトルト加工用トウモロコシ10は、中央に中空孔14が形成されているため、茎の殺菌時に伝熱面積が大幅に増加しており、短時間で効率的にレトルト殺菌を行うことができる。
【0022】
図6は、図5で示したレトルト加工トウモロコシの変形例を示している。図6の実施例は、レトルト加工用トウモロコシ10の中空孔14を利用し、袋に入ったウエットテッシュ等の清浄布又は清浄紙18を予め挿入している点が相違する。清浄布または清浄紙18の挿入は、レトルトパウチ16へレトルト加工用トウモロコシ10を真空包装する工程の前に行われ、清浄布または清浄紙18を挿入した後にレトルト加工用トウモロコシ10をレトルト殺菌する。このように、トウモロコシ10の中空孔14に清浄布または清浄紙18を入れておくことにより、消費者がトウモロコシを食する際には、指先などを拭くことができ、外出先では非常に利便性が高まる。
【0023】
以上、説明したように、本実施形態のレトルト加工用トウモロコシによれば、トウモロコシの茎の部分を一部抜去することによって、トウモロコシの長手方向に沿って中空孔14を形成している。このため、ブランチング処理の際の加熱時、レトルト殺菌時における伝熱面積が増加し、加熱及び殺菌に要する時間を短縮することができる。このため、加熱及び殺菌に要するエネルギーを低減させることが可能であるとともに、製造時間の短縮による製造コストの低減を図ることができる。
【0024】
なお、本実施形態では、トウモロコシの茎の部分を一部抜去する装置として、図2に示されるレトルト加工用トウモロコシ製造装置20を一つの例として記載したが、茎の一部を抜去することができれば、どのような装置を使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、トウモロコシの中央部に中空孔を形成しているので、トウモロコシ全体への伝熱効率が向上し、加熱時間の短縮、並びにレトルト殺菌時における殺菌処理を短時間で行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一つの実施形態に係るレトルト加工用トウモロコシの外観を示した正面図である。
【図2】レトルト加工用トウモロコシの製造に使用される製造装置の概略斜視図である。
【図3】同じく、レトルト加工用トウモロコシの製造に使用される製造装置の要部断面図である。
【図4】本発明の一つの実施形態に係るレトルト加工用トウモロコシの縦断面図である。
【図5】レトルトパウチに収容されたレトルト加工用トウモロコシの縦断面図である。
【図6】同じく、レトルトパウチに収容されたレトルト加工用トウモロコシの変形例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0027】
10 レトルト加工用トウモロコシ
12 芯部
14 中空孔
16 レトルトパウチ
18 清浄布又は清浄紙
20 レトルト加工用トウモロコシ製造装置
22 トウモロコシ固定手段
22A 支持部
22B 押圧部
22C アーム
22D シリンダ
24 抜去手段
24A 切削刃
24B 前後送り手段
24C 回転モータ
26 緩衝材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トウモロコシの茎の部分を一部抜去することにより、トウモロコシの長手方向に沿って中空孔を形成したことを特徴とするレトルト加工用トウモロコシ。
【請求項2】
トウモロコシの茎の一部を抜去して前記請求項1に記載のレトルト加工用トウモロコシを製造する工程と、
前記芯が抜去されたレトルト加工用トウモロコシを包装用袋に密封して真空包装する工程と、
前記包装用袋に収納されたレトルト加工用トウモロコシを加圧式加熱器によってレトルト殺菌を行う工程と、を具備することを特徴とするレトルト加工トウモロコシの製造方法。
【請求項3】
トウモロコシの茎の一部を抜去して前記請求項1に記載のレトルト加工用トウモロコシを製造する工程と、
前記芯が抜去されたレトルト加工用トウモロコシをブランチング処理する工程と、
前記芯が抜去されたレトルト加工用トウモロコシを包装用袋に密封して真空包装する工程と、
前記包装用袋に収納されたレトルト加工用トウモロコシを加圧式加熱器によってレトルト殺菌を行う工程と、を具備することを特徴とするレトルト加工トウモロコシの製造方法。
【請求項4】
トウモロコシの茎の一部を抜去して前記請求項1に記載のレトルト加工用トウモロコシを製造する工程と、
前記芯が抜去されたレトルト加工用トウモロコシをブランチング処理する工程と、
前記芯が抜去されたレトルト加工用トウモロコシの中空孔の部分に、ウエットテッシュ等の清浄布又は清浄紙を挿入する工程と、
前記レトルト加工用トウモロコシを包装用袋に密封して真空包装する工程と、
前記包装用袋に収納されたレトルト加工用トウモロコシを加圧式加熱器によってレトルト殺菌を行う工程と、を具備することを特徴とするレトルト加工トウモロコシの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−110975(P2007−110975A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306243(P2005−306243)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(594088248)株式会社南華園 (4)
【Fターム(参考)】