説明

レビー小体型認知症における分子診断法および治療

本発明は、ユビキチンカルボキシ末端ヒドロラーゼ L1(UCH−L1)のレベルまたはそのユビキチン−リガーゼ活性の変化に関連した、α−シヌクレイン症、詳しくはレビー小体型認知症(DLB)の分子診断法に関する。本発明はまた、UCH−L1レベルまたはUCH−L1の酵素活性を変更することができる化合物の使用にも関する。本発明は、DLBに罹患している患者の診断および治療において適用される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の目的
本発明は、レビー小体型認知症として知られる疾患、その純粋型および通常型の両方の分子診断法および治療に関し、それらは前記認知症の診断基準としてだけでなく、それらの予防および治療においても使用することができる。
【0002】
発明の背景
先進諸国では、人口の高齢化により認知症に罹患している患者の数が増加している。これらの患者の多くは、アルツハイマー病(AD)を患っている。非AD性認知症の中でも、レビー小体型認知症(DLB)は罹患率(prevelance)が高い。DLBとは、皮質および皮質下にレビー小体が様々な度合いで存在することと関連した認知症の臨床病理症候群(びまん性レビー小体病、レビー小体型老年性認知症、さらにアルツハイマー病のレビー小体変異など)を表す。レビー小体型認知症(DLB)と呼ばれるこの機能障害の臨床病理分類(McKeith IG, Galasko D, Kosaka K, et al. レビー小体型認知症(DLB)の臨床病理診断の総合指針(Consensus guidelines for the clinical and pathological diagnosis of Dementia with Lewy bodies (DLB)):DLB国際ワークショップコンソーシアム(Consortium on DLB International Workshop)での報告 Neurology 1996; 47: 1113-24. 2000; 54: 1050-8)では、ADやパーキンソン病(PD)の特徴との共通項も考慮に入れられる。全体として、疾患の臨床データによりびまん性レビー小体病と診断されるが、この疾患についての確定的な診断学的検査はない。神経病理学的検査では、特徴、局在性および疾患に固有の分布により特徴的な変化が示されることから、この神経病理学的検査が、現在のところ、唯一の診断形式である。
【0003】
診断での神経学的判定基準では、症状または核の徴候を考慮に入れる。よって、レビー小体型認知症の評価においては、注意、実行機能および視覚空間の欠陥が最も重症であり、短期記憶はADの場合より比較的重症度は低いと見なされることが多い。認知変動(fluctuating cognition)の評価においては、注意および意識水準の変化や日没症候群の欠如についての様々なの時間的進行に遭遇する。別の重要な症状には、反復性幻視や精巧な幻視がある。一般に、このような幻視には、様々な侵攻度の「動きのある実体(animated subjets)」などがある。DLBにおいて、自発的錐体外路徴候は、硬直、運動緩徐(bradikynesia)および運動異常であり、安静時の震えはまれである。日ごとまたは週ごと(特に、初めに)起こる臨床変動がDLBの診断を補足する様相である。診断感度を向上させるかもしれない1つの様相が、錐体外路運動徴候や幻視の中心の特徴の閾値および規模を定義するための判定基準となる。現行の判定基準のさらなる制限は、DLBの考えられるかまたは推定される性質を決定するのに利用されるアルゴリズムに、診断において示唆的な特徴が明確には含まれないということである。DLBの診断の精度をより高いものとするには、鑑別診断において示唆的な特徴の有用性と、睡眠の変化が及ぼすと考えられる影響度とを調査することが必要であろう(Kaufer DI. Dementia and Lewy bodies. Rev Neurol. 2003 JuI 16-31 ;37(2): 127-30. Review.)。
【0004】
症例によっては、レビー神経突起、皮質の老人斑、タウ病変の徴候または海綿状変性が検出されるが、組織病理学的観点からのDLBの診断における示唆的な徴候は、皮質および脳幹におけるレビー小体の存在にある(K.A. Jellinger, Morphological substrates of mental dysfunction in Lewy body disease. An update. J Neurol Transm Suppl 59 (2000), pp. 185-21)。上述のように、病変の特徴(レビー小体および神経突起)、その局在性(ニューロン神経突起内)およびその分布(脳幹、扁桃体、マイネルト基底核および大脳皮質に拡散する)はその疾患に特異的である。
最近の研究では、DLBの臨床発生率が年間100,000件に26件であり、80〜84年に及んでは最高率の年間100,000件に68.6件であると示している。この割合は、これまでの研究で年間100,000件に93件確認されたADより低いが、年間100,000件に14件と推定される前頭側頭認知症(FTD)の割合よりも高い。同研究で、文献に記載されているDLBが男性優位であることを検出した。DLBとADを有する男性の割合は63.2%と23.1%であった。この研究は患者の臨床サンプルに関する研究であり、一般集団のものではないことから、この研究ではいくつかの方法論的制限を考慮しなくてはならない。さらに、現行の臨床的判定基準の感度が足りないために実際の割合を過小評価する可能性があるということも考慮しなければならない。一般集団における発生率はわずかに高いかもしれない(S. Lopez-Pousa, J. Garre-Olmo, A. Turon-Estrada, E. Gelada-Batlle, M. Lozano-Gallego, M. Hernandez-Ferrandiz, V. Morante-Munoz, J. Peralta-Rodriguez, M. M. Cruz-Reina. Incidencia clinica de la demencia por cuerpos de Lewy. REV NEUROL 2003; 36 (8): 715-720)。
【0005】
疾患の病因とその進行の分子機構はまだ解明されていない。しかし、この疾患の主要な組織病理学的特徴となるレビー小体の蓄積が最初の手掛かり、すなわち徴候の一部となった。レビー小体は、不溶性タンパク質沈着物によって主としてなるタンパク質沈着物であり、この不溶性タンパク質沈着物の主成分は、α−シヌクレイン、ユビキチンおよびユビキチン化タンパク質である。これらの総ては、欠陥があるかまたは過剰な細胞質タンパク質の生理学的分解を担うUPS系(ユビキチン−プロテアソーム)と呼ばれる細胞内系のメンバーである(Herschko A, Ciechanover A (1998) The ubiquitin system. Annu Rev Biochem 67: 425-479)。この系の機能低下は、AD、PD、ハンチントン病(HD)または筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの特定の神経変性疾患の発症または進行に関わる原因の1つとして記載されている(Petrucelli L & Dawson TM. Mechanism of neurodegenerative disease: role of the ubiquitin proteasome system. Ann Med. 2004; 36(4): 315-20)。(Tran PB, Miller RJ. Aggregates in neurodegenerative disease: crowds and power? Trends Neurosci 1999 May; 22(5): 194-7)。
【0006】
欠陥のある細胞質タンパク質の生理学的分解を担うUPS系(ユビキチン−プロテアソーム)の構成要素の1つがUCH−L1(ユビキチンカルボキシ末端ヒドロラーゼ L1)、すなわち、ユビキチンのカルボキシ末端グリシンと結合したタンパク質複合体のペプチド結合の加水分解に関与するチオール−プロテアーゼである。このUCH−L1は、細胞質において過剰なタンパク質の破壊を調節し、排除すべき新たなタンパク質との結合に利用できる状態にあるユビキチンを放出させる。UCH−L1とパーキンソン病との相関関係については、PDの病歴を有する同父母の兄弟姉妹における優性突然変異の検出に関して記載されている(Leroy E, Boyer R, Auburger G, Leube B, Ulm G, Mezey E, Harta G, Brownstein MJ, Jonnalagada S, Chernova T, Dehejia A, Lavedan C, Gasser T, Steinbach PJ, Wilkinson KD, Polymeropoulos MH (1998) The ubiquitin pathway in Parkinson's disease. Nature 395: 451-452)。UCH−L1欠損マウスは、野生型対応物よりも低いin vivo 神経細胞のユビキチンレベルを示す。培養細胞では、UCH−L1の過剰発現によって遊離ユビキチンレベルの増加がもたらされる(Osaka H, Wang YL, Takada K, Takizawa S, Setsuie R, Li H, Sato Y, Nishikawa K, Sun YJ, Sakurai M, Harada T, Hara Y, Kimura I, Chiba S, Namikawa K, Kiyama H, Noda M, Aoki S, Wada K (2003) Ubiquitin carboxy-terminal hydrolase L1 binds to and stabilizes monoubiquitin in neurons (Hum Mol Genet 12: 1945-1958)。UCH−L1が、UPS系の他のタンパク質、例えば、ユビキチン化タンパク質、HSP70、γ−チュブリン、より少ない程度には、20SプロテアソームやBiPシャペロン、と共に局在化することが実証されている(Ardley HC, Scott GB, Rose SA, Tan NG, Robinson PA. UCH-L1 aggresome formation in response to proteasome impairment indicates a role in inclusion formation in Parkinson's disease. J Neurochem. 2004 Jul; 90(2): 379-91)。最近になって、散発性ADおよびPDにおけるUCH−L1の酸化状態の変化についても記載された(Choi J, Levey AI Weintraub ST, Rees HD, Gearing M, Chin LS, Li L (2004) Oxidation and down-regulation of ubiquitin carboxyl-terminal hydrolase L1 associated with idiopatic Parkinson's and Alzheimer's disease. J Biol. Chem 279: 13256-13264.)。
【0007】
UPS系とそれに関与する異なるタンパク質のような、分解と細胞内タンパク質ホメオスタシスの経路にも関わらず、PDまたはADなどの疾患の進行における中心的存在として提示されている。これらの疾患は、DLBと数多くの症状を共有する。この認知症、すなわち、ADに次いで2番目に最も多い認知症の進行の原因および様式はまだ解明されていない。
【0008】
DLB患者が利用できる治療法の選択肢は、残念なことに、ごく限られており、多くの場合、精神科的およびパーキンソン病様症状を抑える対症療法しかない。しかし、震えおよび運動喪失を回復(amelloration)させる抗パーキンソン病薬は、幻覚症状や精神病傾向を急性に著しく悪化させ、症例によっては致命的な結末を生むことが多い。また、精神科的症状に処方される神経弛緩薬療法も運動傾向を著しく悪化させる。患者が示す傾向によっては、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬、ドーパミン作動薬、短時間作用型および中時間作用型ベンゾジアゼピンならびに抗鬱薬はあまり役に立たないかもしれない(Rampello L, Cerasa S, Alvano A, Butta V V, Raffaele R, Vecchio I, Cavallaro T, Cimino E, Incognito T, Nicoletti F. Dementia with lewy bodies: a review. Arch Gerontol Geriatr. 2004 Jul-Aug; 39(1): 1-14.)
【0009】
よって、レビー小体型認知症に関与する新たな遺伝子ならびに/またはレビー小体型認知症に関わる突然変異および/もしくはマーカーの同定が必要である。
【0010】
遺伝子を同定することによって、他の認知症に対する選択的分子診断が可能になるだろうし、一般的な臨床実践にその診断を含めることが可能にもなるであろう。
【0011】
同時に、重度に活動不能にするこのような種類の認知症に関連した補償費および医療費のかなりの節約にもなるであろう。
【0012】
また、疾患のパーキンソン病様の特徴が確立されている患者へのより厳しいおよび/または個別の療法の適用が許されるため、陽性患者における予後および治療方針の新たな判定基準の採用も可能になるであろう。
【0013】
最後に、この/これらの遺伝子と、その/それらの遺伝子の発現を変更して、疾患の進行を遅延または停止するかもしれない候補化合物を同定することによって、他の認知症に対する選択的分子診断が可能になるだけでなく、それらの遺伝子を不活化することを目的とする選択療法の設計も可能になるであろう。
【0014】
発明の説明
本発明は、認知症の発症が疑われる患者におけるレビー小体型認知症(DLB)の診断法であって、患者から得られたサンプルを解析して、ユビキチンカルボキシ末端ヒドロラーゼ L1(UCH−L1)遺伝子の発現レベルまたはこの遺伝子によってコードされるタンパク質の酵素活性を決定することを含む診断法に関する。
【0015】
特に、このサンプルは、RNAまたはタンパク質であってよく、神経組織の生検もしくはその他の抽出法、または他の組織のその他の抽出法によって得られた細胞から、あるいは体液(脳脊髄液、血清または尿など)から単離することができる。
【0016】
本発明の診断法は、UCH−L1転写レベルの定量を可能にするDNAのPCR増幅、SDA増幅またはその他の増幅法による検出をさらに含む。
【0017】
場合により、検出は、いずれかの機構に寄託されているオリゴヌクレオチドを用いて作製したDNAバイオチップ、フォトリソグラフィーまたはいずれかの他の機構によりin situ合成されたオリゴヌクレオチドを用いて作製したDNAバイオチップ、により実施してもよい。
【0018】
検出は、ウエスタンブロットによって示されるタンパク質の量の解析、UCH−L1に対して特異的な抗体を用いる「タンパク質チップ」、または質量分析によるか、もしくはUCH−L1タンパク質レベルの定量を可能にするいずれかの他の機構により得られるタンパク質プロフィール、による検出によっても実施することができる。
【0019】
場合により、検出を、UCH−L1のin vitroまたはin vivoでの酵素活性(ユビキチンのエステルおよびアミドの加水分解活性、ならびにユビキチン−リガーゼ活性を含む)の直接または間接解析により実施してもよい。
【0020】
検出は、前記遺伝子によってコードされるタンパク質またはその断片の直接解析および定量によっても実施することができる。
場合により、検出を、UCH−L1リガーゼ活性による産物、すなわち、二量体または多量体型のポリユビキチンの存在についての直接または間接解析によって実施することができる。
一方で、本発明のさらなる目的は、このような種類の認知症の進行を停止または逆行させるためにUCH−L1レベルを増加させる化合物の能力に基づいて治療薬を同定するための化合物の解析方法を提供することである。化合物は、UCH−L1遺伝子転写の特異的プロモーターまたはそのUCH−L1遺伝子によってコードされるタンパク質の分解の特異的阻害剤であり得る。
【0021】
本発明のさらなる目的は、このような種類の認知症の進行を停止または逆行させるための、UCH−L1酵素の加水分解活性を増加または増進させる化合物の使用である。これらの化合物は、UCH−L1の最大率またはペプチジル−ユビキチンエステルまたはアミドに対する親和性に作用し得る。
【0022】
本発明のさらなる目的は、このような種類の認知症の進行を停止または逆行させるための、酵素UCH−L1のリガーゼ活性を消失または低減させる化合物の使用である。そのような化合物は、遺伝子によってコードされるタンパク質のユビキチン−リガーゼ活性の特異的阻害剤として競合的または非競合的に作用し得る。
【0023】
もう一方で、本発明のさらなる目的は、細胞培養物などのようなin vitro系におけるUCH−L1の加水分解活性の変化の解析に基づいて、レビー小体型認知症の治療的可能性を有する化合物を解析する方法を提供することである。
【0024】
本発明のさらなる目的は、細胞培養物などのようなin vitro系におけるUCH−L1のユビキチン−リガーゼ活性の変化の解析に基づいて、レビー小体型認知症の治療的可能性を有する化合物を解析する方法を提供することである。
【0025】
本発明のさらなる目的は、アンチセンスもしくはRNA干渉オリゴヌクレオチド、またはmRNAもしくはリガーゼ活性は与えるがタンパク質には翻訳されない対立遺伝子によって生じるmRNAの、不安定化および消失に基づく他のもの、などの配列情報に基づく医薬品を提供することである。
【0026】
本発明のさらなる目的は、UCH−L1遺伝子またはタンパク質配列(タンパク質と結合する際の親和性または最大率という意味においてその酵素活性を増加させる特異的抗体など)についての情報、あるいはアンチセンスもしくはRNA干渉オリゴヌクレオチド、またはmRNAもしくは正常な加水分解活性を有するその対立遺伝子に対して途中で干渉するかまたは減少させるがタンパク質には翻訳されない対立遺伝子によって生じるmRNAの、不安定化および消失に基づく他のもの、についての情報に基づく医薬品を提供することである。
【0027】
本発明は、レビー小体型認知症(DLB)に罹患している一連の患者の大脳皮質組織において関心の高まっている627個の遺伝子についての、特異的オリゴヌクレオチドDNAチップを用いたゲノム規模の遺伝子発現解析に端を発する。アルツハイマー病に見られるいくつかの症状も示すDLB(その純粋型または通常のものとして知られる型)に罹患している患者のサンプルを分析した。UCH−L1遺伝子のmRNAレベルは、対照と比べて低いだけでなく、アルツハイマー病(AD)またはパーキンソン病(PD)に罹患している患者群と比べても低いものであった。データは、リアルタイムPCRによるmRNAの定量などの独立した技術により確認した。こうしたmRNAレベルの低下の意義を、死後組織において種々のmRNA種が関与する一般的かつ特異的な分解プロセスに関しても確認した。同じ死後サンプルを処理し、異なる時間の間、室温にしてあった組織からRNAを得た試験では、UCH−L1レベルが構成的、すなわち比較的不変の転写物(β−アクチンなど)と比べても依然として変わらないままであることが分かった。
【0028】
抗UCH−L1特異的抗体を用いたウエスタンブロットによる解析では、DLBの大脳皮質においてタンパク質レベルが低下するが、PDの場合には低下しないということも確認された。
【0029】
UCH−L1 mRNAおよびタンパク質レベルの低下は、対照と比べて統計的に有意であり、純粋型DLBの場合の信頼水準は0.99、通常型の場合には0.95であった。
【0030】
レビー小体型認知症(DLB)は、アルツハイマー病(AD)に次いで2番目に最も多い認知症である。組織病理学的には、大脳路、脊髄および自律神経節の特定の核におけるヒアリン体(レビー小体)の蓄積によって特徴付けられる。レビー小体はPDで生成されるが、レビー小体にこのα−シヌクレインタンパク質が蓄積することから、両方とも(PDおよびDLB)α−シヌクレイン症と考えられている。DLBはPDといくつか類似症状を示すが、これらの2つの疾患は全く異なる神経学的傾向を示し、脳病変(cerebral affectation)も異なる。よって、例えば、DLBは、PDでは見られない皮質の病変(affectation)を示す。PDでは神経学的傾向として幻覚は見られない。DLB患者における抗PD症状の治療により、これらの患者の神経系疾患傾向が非常に重く悪化する。これらの2つの疾患が明らかに異なるという十分に確立された臨床的かつ神経学的コンセンサスがある。
【0031】
UCH−L1は、欠陥があるか、突然変異したか、または過剰な細胞質タンパク質の生理学的分解を担うUPS系(ユビキチン−プロテアソーム)に関与する酵素である。UCH−L1は、ユビキチンのカルボキシ末端グリシンと結合したタンパク質複合体のペプチド結合の加水分解を触媒するチオール−プロテアーゼである。これは、標的タンパク質の分解を調節し、さらなるタンパク質標的と結合することができるユビキチンを放出させる。
【0032】
DBLと共通するいくつかの症状を示すが、DBLとは違って皮質には少しも影響を与えないPDでは、ユビキチン系について考えられる重要性がすでに指摘されている。遺伝性PDの一部の症例では、ユビキチンと相互に作用することが分かっているタンパク質であるパーキンが突然変異を受けている(McNaught KS, Olanow CW (2003) Proteolytic stress: a unifying concept for the etiopathogenesis of Parkinson's disease. Ann Neurol 53: S73.-84)。UCH−L1は、ある程度の優性度で、疾患感受性を与える点突然変異(I93M)が存在するということが判明した場合にPDとも関係があった(Leroy E, Boyer R, Auburger G, Leube B, UIm G, Mezey E, Harta G, Brownstein MJ, Jonnalagada S, Chernova T, Dehejia A, Lavedan C, Gasser T, Steinbach PJ, Wilkinson KD, Polymeropoulos MH (1998) The ubiquitin pathway in Parkinson's disease. Nature 395: 451-452)。共同研究では、当時、PD1970症例と、関連のない対照2224例で実施した11の研究を解析し、S18Y対立遺伝子とパーキンソン病との間に統計的に有意な逆相関があることが分かり(オッズ比(OR)0.84(95%信頼区間[CI],0.73〜0.95)、対立遺伝子多型のホモ接合体(Y/YとS/Sに加えてY/S)はOR 0.71(95%CI,0.57〜0.88)を示した。これによりUCH−L1がPDについての感受性遺伝子であることが確認された。(Maraganore, D. M.; Lesnick, T. G.; Elbaz, A.; Chartier-Harlin, M. -C; Gasser, T.; Kruger, R.; Hattori, N.; Mellick, G. D.; Quattrone, A.; Satoh, J.; Toda, T.; Wang, J.; loannidis, J. P. A.; of Andrade, M.; Rocca, W. A.; UCH-L1 Global Genetics Consortium: UCH-L1 is a Parkinson's disease susceptibility gene. Ann. Neurol. 55: 512-521, 2004)。最近になって、アルツハイマー病と特発性パーキンソン病ではUCH−L1レベルが低下し、特定の酸化修飾が存在するということも記載された(Choi J, Levey Al, Weintraub ST, Rees HD, Gearing M, Chin LS, Li L (2004) Oxidative modifications and down-regulation of ubiquitin carboxyl-terminal hydrolase L1 associated with idiopathic Parkinson's and Alzheimer's disease. J Biol Chem 279: 13256-13264)。
【0033】
しかし、UCH−L1レベルとレビー小体型認知症との間に考えられる関連については、これまでのところ記載されていない。本発明は、対照との比較により、DLB患者における大脳皮質のUCH−L1 mRNAおよびタンパク質レベルの低下との間にある明らかな相関関係を示す。さらに、本発明の試験は、DLBに罹患している患者におけるUCH−L1タンパク質レベルの低下と、ユビキチン−プロテアソーム複合体の他の重要なタンパク質(20SXおよび20SYサブユニット、19S複合体ならびにPA28アクチベーターの11Sαサブユニットなど)の低減は同時に起こらないということを非常に明確に示している。これにより、大脳皮質内のDLB病理的傾向におけるUCH−L1レベル抑制の特異的かつ選択的な役割が示される。
【0034】
現在、DLBが疑われる患者は、神経学的基本技術により評価され、問題解決困難および視空間障害、ならびに認知機能の変動およびはっきりとした幻覚の出現などの初期症状により精神機能の低下を検出している。後には、運動症状の出現が他の認知症に対するDLBの鑑別診断における主要な特徴となる(McKeith IG, Galasko D, Kosaka K, Perry EK, Dickson DW, Hansen LA, Salmon DP, Lowe J, Mirra SS, Byrne EJ, Lennox G, Quinn NP, Edwardson JA, Ince PG, Bergeron C, Burns A, Miller BL, Lovestone S, Collerton D, Jansen EN, Ballard C, of Vos RA, Wilcock GK, Jellinger KA, Perry RH (1996) レビー小体型認知症(DLB)の臨床病理診断の総合指針(Consensus guidelines for the clinical and pathological diagnosis of dementia with Lewy bodies (DLB)):DLB国際ワークショップコンソーシアム(consortium on DLB international workshop)での報告. Neurology 47: 1113-1124およびMcKeith IG, Ballard CG, Perry RH, Ince PG, O'Brien JT, Neill D, Lowery K, Jaros E, Barber R, Thompson P, Swann A, Fairbairn AF, Perry EK. Prospective validation of consensus criteria for the diagnosis of dementia with Lewy bodies. Neurology. 2000 Mar 14; 54(5): 1050-8)。早期に決定的な診断を下すと、疾患の進行を低減または停止させるには治療限界があるであろう。
【0035】
本発明の診断法に従い、DLBの解析は以下のとおりである:認知症の発症が疑われる、家族に関する臨床評価を非確定的に受けている患者を微量生検とUCH−L1レベルの定量により診断する。
【0036】
本発明のもう1つの実施形態は、特に、UCH−L1 mRNAもしくはタンパク質レベルの増加を通じて、またはUCH−L1の1以上の酵素活性の修飾を通じて、細胞内遊離ユビキチンプールを再生する能力を変更するための抗DLB療法の利用である。
【0037】
UCH−L1の酵素活性、すなわち、ユビキチンを放出するヒドロラーゼ活性(Larsen CN, Krantz BA, Wilkinson KD. Substrate specificity of deubiquitinating enzymes: ubiquitin C-terminal hydrolases. Biochemistry. 1998; 37: 3358-68.およびLarsen CN, Price JS, Wilkinson KD. Substrate binding and catalysis by ubiquitin C-terminal hydrolases: identification of two active site residues. Biochemistry. 1996; 35: 6735-44)とユビキチン−リガーゼ活性(Liu Y, Fallon L, Lashuel HA, Liu Z, Lansbury PT (2002) The UCH-L1 gene encodes two opposing enzymatic activities that affect α-synuclein degradation and Parkinson's disease susceptibility. Cell 111 : 209-218)を知ることにより、化合物の解析のための方法を設計することが可能になり、所望のようにUCH−L1活性を抑制する分子の有効性を測定することが可能になる。
【0038】
抗DLB療法は、神経組織または脳脊髄液もしくは末梢液においてUCH−L1レベルが低下していることを見出すことから始まる。UCH−L1欠損マウスでは、ニューロンにおける遊離ユビキチンレベルが低下していた。UCH−LIを過剰発現している培養細胞およびトランスジェニックマウスモデルでは、ユビキチンレベルの増加が示される(Osaka .H, Wang YL, Takada K, Takizawa S, Setsuie R, Li H, Sato Y, Nishikawa K, Sun YJ, Sakurai M, Harada T, ,Hara Y, Kimura I, Chiba S, Namikawa K, Kiyama H, Noda M, Aoki S, Wada K (2003) Ubiquitin carboxy-terminal hydrolase L1 binds to and stabilizes monoubiquitin in neuron. Hum Mol Genet 5 12: 1945-1958)。さらに、レビー小体およびレビー神経突起においてα-シヌクレインとユビキチンとが共に局在化すること(McNaught KS, Olanow CW (2003) Proteolytic stress: a unifying concept for the etiopathogenesis of Parkinson's disease. Ann Neurol 53: S73-84; McNaught KS, Mytilineou C, Jnobaptiste R, Yabut J, Shashidharan P, Jennert P, Olanow CW (2002) Impairment of the ubiquitin-proteasome system causes dopaminergic cell death and inclusion body formation in ventral mesencephalic cultures. J Neurochem 81: 301-306)、加えて、DLBでは、主としてUCH−L1活性の低下に起因して起こる、UPS複合体の重要な成分の減少はないということを示す証拠から、ユビキチン−プロテアソーム系がPDおよびDLBの発症機序に関与しているという極めて有望な仮説が成り立つ。
【0039】
よって、UCH−L1レベルとDLB疾患との間に明らかな相関関係が確立されることにより、活性酵素レベルを増加させ、ユビキチン−リガーゼ活性を不活化させ、またはヒドロラーゼ活性を活性化させるための技術および化合物の新規用途を考えることが可能になる。技術および/または活性化合物のこのような用途では、技術および/または活性化合物によって細胞質プール中の利用可能な遊離ユビキチンが増加することから、ニューロンでは排除すべきタンパク質が正確に異化されるため、疾患を遅らせ、かつ/または疾患を緩解させることができる。これにより、α−シヌクレインや、レビー小体に関与するその他のタンパク質の濃度が低下することになる。
【0040】
UCH−L1の過剰発現アプローチの一例は、ユビキチン−リガーゼ能力の低いS18Y型UCH−L1をコードするカセットの、アデノウイルスまたはレトロウイルス発現ベクターもしくはその他の種類の発現ベクターへの挿入である。このベクターは、移植により発現ベクターを有する胚または成体起源(脳室下帯またはその他由来)の神経幹細胞に導入してもよい。同様のアプローチには、転写因子をコードする幹細胞の移植がある。最近になって、細胞周期のG1/S期遷移を調整する鳥類レトロウイルス癌遺伝子である、転写因子B−Myb(v−Mybとの類似性により同定された)(N. Nomura, M. Takahashi, M. Matsui et al., Isolation of human cDNA clones of myb-related genes, a-myb and b-myb. Nucleic Acids Res. 16 (1988), pp. 11075-11089(Nucleic Acids Res. 1989 February 11; 17(3): 1282に訂正を掲載))が、ラット肺におけるUCH−L1のin vitroおよびin vivo両方での発現を刺激する(Long EM, Long MA, Tsirigotis M, Gray DA. Stimulation of the murine UCH-L1 gene promoter by the B-Myb transcription factor. Lung Cancer. 2003 Oct; 42(1):9-21)ことが証明された。
【0041】
この点についてのもう1つの例には、加水分解活性の高い突然変異型UCH−L1の導入がある。
【0042】
この効果の具体例は、ラット腹側中脳(ventral mesencephal)の神経細胞系統を用いて主張することができる。この神経細胞系統では、UCH−L1を阻害することによってα-シヌクレイン凝集体が生成し、過剰発現させることによって遊離ユビキチンの量の増加が生じる。
【0043】
もう1つの試験例がSH−SY5Y神経芽腫細胞系統で得られた。このSH−SY5Y神経芽腫細胞系統では、5〜100μMのMPP+(MPTPの活性代謝物である)で処置することで、処置後4日内にSH−SY5Y細胞でアポトーシスが起こり、さらにDLBに特有のレビー凝集体を形成するα−シヌクレインを過剰発現させることが分かった(Gomez-Santos C, Ferrer I, Reiriz J, Vinals F, Barrachina M, Ambrosio S. MPP+ increases alpha-synuclein expression, and ERK/MAP-kinase phosphorylation in human neuroblastoma SH-SY5Y cells. Brain Res. 2002 May 10; 935 (1-2): 32-9.)
【0044】
UCH−L1突然変異(german突然変異 I93M)が加水分解活性の50%低下を引き起こしているPDの一症例によって記載されているように、認知症のごく一部のもので、家系特有の性質をもつものもある(Lansbury PT, Brice A (2002) Genetics of Parkinson's disease and biochemical studies of implicated gene products. Curr Opin Genet Dev 13: 299-306.)。いくつかのDLBのサブタイプは、ある程度に常染色体優性を示すように思われる(Harding AJ, Das A, Kril JJ, Brooks WS, Duffy D, Halliday GM. Identification of families with cortical Lewy body disease. Am J Med Genet. 2004 Jul 1; 128B(1): 118-22)。UCH−L1の突然変異I93Mは、その浸透度は完全ではないが、特定の優性度も示し、途中での対立遺伝子の補償現象が想定される(Liu Y, Fallon L, Lashuel HA, Liu Z, Lansbury PT (2002) The UCH-L1 gene encodes two opposing enzymatic activities that affect α-synuclein degradation and Parkinson's disease susceptibility. Cell 111: 209-218)
【0045】
酵素活性の化学的および免疫学的阻害は、例えば、腫瘍学において、例えば、結腸直腸癌におけるβ−カテニンや慢性骨髄性白血病におけるBCR−ABLに対する適用が見られる。これらの観察から、特定の癌遺伝子が破壊を受けやすく、その破壊により腫瘍表現型となるか、または標準的な併用治療の有効性をもたらす可能性があることを示唆する。遺伝子破壊に利用可能な機構のうち、最も期待できるアプローチの1つが短い干渉RNA(RNAi)である。ペチュニアで最初に見つかり(Napoli C, Lemieux C, and Jorgensen R. (1990) Introduction of a chalcone synthase gene into Petunia results in reversible cosuppression of homologous genes in trans. Plant Cell 2: 279-289)、その分子作用機構については記載されており(Hammond SM, Caudy AA, Hannon GJ. (2001) Post-transcriptional Gene Silencing by Double-stranded ARN. Nature Rev Gen 2: 110-119)、制癌目的でのその利用に大きな期待を与えた(Kittler R, Buchholz F. RNA interference: gene silencing in the fast lane. Semin Cancer Biol. 2003 Aug; 13(4): 259-65; Deveraux QL, Aza-Blanc P, Wagner KW, Bauerschlag D, Cooke MP, Hampton GM. Exposing oncogenic dependencies for cancer drug target discovery and validation using RNAi. Semin Cancer Biol. 2003 Aug; 13(4): 293-300; Bedford JS, Liber HL Applications of RNA interference for studies in DNA damage processing, genome stability, mutagenesis, and cancer. Semin Cancer Biol. 2003 Aug; 13(4): 301-8)。同様に、アンチセンスアプローチによっても、I93M対立遺伝子または加水分解活性を低下させるその他のものによって生じるメッセンジャーのレベルが低下する可能性がある。
【0046】
短い干渉RNA(19量体〜22量体)による標的治療では、抗対立遺伝子I93Mまたは同様の標的として使用するためにcDNAの特定の配列を選択しなければならない。Oryzon社によって開発されたオリゴヌクレオチド設計ソフトウェアTethysにより、事前評価を実施して、ゲノムに存在する配列を発現する他のものと交差ハイブリダイゼーションする可能性がより低くいために、他の遺伝子の発現に影響を及ぼす可能性が低くなるオリゴヌクレオチドを同定した。また、Tethysを使用して、所望の対立遺伝子の発現を低下させる効果を最大にする、オリゴにおける特異的塩基の最も有利な位置も決定することができる。後に、Tethysを使用して、図6に示されるような標的配列に応じて最も有利なオリゴヌクレオチド長を評価する。
【0047】
下表では、UCH−L1 I93MまたはI93M 突然変異を含まないUCH−L1対立遺伝子の発現を低下させるための、cDNAにおける標的候補のいくつかを例として示す。
【0048】
【表1】

【0049】
また、それも、レビー凝集体によって起こる神経損傷を予防することができる治療化合物および/または医薬組成物の解析にin vitro系を使用する本発明の一部である。SH−SY5Y神経芽腫細胞系統などの細胞系統では、5〜100μMのMPP+(MPTPの活性代謝物)で処置することによって、SH−SY5Y細胞でアポトーシスが起こり、さらにDLBに特有のレビー凝集体を形成するα−シヌクレインを過剰発現する(Gomez-Santos C, Ferrer I, Reiriz J, Vinals F, Barrachina M, Ambrosio S. MPP+ increases alpha-synuclein expression and ERK/MAP-kinase phosphorylation in human neuroblastoma SH-SY5Y cells. Brain Res. 2002 May 10; 935 (1-2): 32-9)。これらの細胞系統では、UCH−L1レベル、その酵素活性、α−シヌクレイン沈着物および細胞のアポトーシスをモニタリングすることにより化合物の有効性を確認することができる。これらの治療化合物および/または医薬組成物は、UCH−L1タンパク質と結合し、非競合的にユビキチン−リガーゼ活性を阻害し、通常のユビキチンを放出するその能力を回復させることができる。あるいは、これらの治療化合物および/または医薬組成物は、UPS系の変化の影響によるタンパク質の過剰蓄積により、細胞シグナル伝達経路の発現を変更することができる。
【0050】
好ましい実施形態の説明
以下、好ましい実施形態について記載するが、本発明を限定するものではない。
下表では、本シリーズで研究する症例を、対応する神経病理学的データとともにまとめる:パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症純粋型(DLBp)および通常型(DLBc)、ならびに対照。M:男性、F:女性。NFT:神経原線維変化。ブラーク病期は、Braak および Braak (Braak H, Braak E (1999) Temporal sequence of Alzheimer's disease related pathology. In: Cerebral cortex, vol 14, Neurodegenerative and age-related changes in structure and function of cerebral cortex (Peters A, Morrison JH, eds), pp 475-512. New York, Boston, Dordrecht, London, Moscow: Kluwer Academic/Plenum Publishers.)が記載している、DDLBを伴うアルツハイマー病(AD)の変化を示している。
【0051】
【表2】

【0052】
RNAおよびタンパク質サンプルは下記のような倫理的許諾を得た患者から単離した。
種々の患者および対照に由来する皮質領域8のサンプルからのmRNAの単離
mRNAを二工程で単離した。TRizol試薬(Life Technologies)を用いて全RNAを得、次に、RNeasy Protect Mini Kit (Qiagen)を用い、トランスファーRNAと5Sおよび5.8SリボソームRNAを含まないmRNAを得た。冷凍ヒト脳組織をそのまま、組織100mg当たり1mlのTRizol中でホモジナイズし、製造業者のプロトコールに従って全RNAを抽出した。精製した全RNAを100μlのRNアーゼフリー水に再懸濁し、RNeasy Protect Mini Kitに示されている明細に軽微な変更を加え(ゲノムDNAはTRizolによる抽出の際に除去されたことから、DNアーゼI処理は行わなかった)、mRNAの精製を行った。各サンプルの濃度を260nmでの吸光度により測定し、RNAの完全性をアガロース−ホルムアルデヒドゲル電気泳動により確認した。
【0053】
DNAアレイ
トランスクリプトミクス分析のため、RNAサンプルを、断片サイズおよびサンプル濃度ならびに16Sと28SRNAの間のシグナル比を算出するAgilent 2100 BioAnalyzerを用いてさらに分析した。総てのサンプルをKit MessageAmp RNA (Ambion)で標識した。第一鎖のcDNA合成は、オリゴ−dTプライマーを用いてプライミングした。標識RNAのサンプルを、特に着目する627個の遺伝子を表す(各々はDNA−チップの表面に無作為に分布した5つのオリゴ2組で表される)オリゴDNA−チップで分析した。これらのオリゴは、1つの機器内に総ての機能を組み込んだマイクロアレイプラットフォームである、FEBIT製のGeniom IベンチトップDNA−チップ合成装置を用いて合成した(Baum M, Bielau S, Rittner N, Schmid K, Eggelbusch K, Dahms M, Schlauersbach A, Tahedl H, Beier M, Guimil R, Scheffler M, Hermann C, Funk JM, Wixmerten A, Rebscher H, Honig M, Andreae C, Buchner D, Moschel E, Glathe A, Jager E, Thom M, Greil A, Bestvater F, Obermeier F, Burgmaier J, Thome K, Weichert S, Hein S, Binnewies T, Foitzik V, Muller M, Stahler CF, Stahler PF. Validation of a novel, fully integrated and flexible microarray benchtop facility for gene expression profiling. Nucleic Acids Res 2003;31:e151)。生データをLowessの非線形法を用いてノーマライズした(Workman C, Jensen LJ, Jarmer H, Berka R, Gautier L, Nielser HB, Saxild HH, Nielsen C, Brunak S, Knudsen S. A new non-linear normalization method for reducing variability in DNA microarray experiments. Genome Biol 2002;3:9)。
【0054】
これらの試験において、本発明者らは、対照に対するDBLのカットオフ変化倍率を、抑制遺伝子に関しては0.75、過剰発現遺伝子には1.5に設定した。本発明者らは、1つの過剰発現遺伝子と16の抑制遺伝子を得たが、それらのうちいくつかはUPS分解経路に関与するものであり、有意な程度でUCH−L1に関与するものであった。このバリエーションを確認するために相補的技術を用いた。
【0055】
cDNAの合成とPCR Taqman
各10μlの逆転写反応液中、200ngのヒトRNA(水3.85μl中)と、2.5μMのオリゴ−dTプライマー、1×RT TaqManバッファー、5.5mM MgCl、各500μMのdATP、dTTP、dCTPおよびdGTP、0.08UのRNアーゼ阻害剤ならびに0.31Uの逆転写酵素MultiScribe (Applied Biosystems)とを混合した。プライマー−RNA鋳型の結合を最大とするために25℃で10分間反応を行った後、48℃で30分間インキュベーションし、95℃で5分間逆転写酵素を不活化した。ゲノムDNAの混入がないことを確認するために、逆転写物酵素MultiScribeの不在下で並行反応を行った。TaqManプローブ(Applied Biosystems)は、フォワードPCRプライマーとリバースPCRプライマーの間の鋳型DNA鎖の1つにアニーリングする。TaqManプローブは、Taqポリメラーゼがハイブリダイズする蛍光団を含み、遊離した蛍光団の量が、そのPCR反応において生じた産物の量に比例する。プライマーとヒトUCH−L1およびβ−アクチン遺伝子に特異的なプローブは、Applied Biosystemsからオンデマンドアッセイとして入手した。ヒトβ−アクチンを内部標準として用いた。
【0056】
UCH−L1および内部標準β−アクチンに対するTaqMan PCRアッセイは、サーモサイクラーABI Prism 7700配列検出システム(PE Applied Biosystems)を用い、96ウェルオプティカルプレート中のcDNAサンプルで3回行った。このプレートをオプティカルストリップ(Applied Biosystems)でカバーした。各20μlのTaqMan反応液中、9μlのcDNA(1/50希釈、RNA4ngから得られたcDNAにほぼ相当する)と、1μlの20×TaqManプローブおよび10μlの2xTaqMan Universal PCR Master Mix (Applied Biosystems)を混合した。対照およびノーマライゼーション目的で、各サンプルに関して、β−アクチンプライマーとプローブを用いて並行アッセイを行った。反応は次のようなインキュベーションにより行った:50℃2分、95℃10分、および95℃15秒を40サイクル、60℃1分。UCH−L1およびβ−アクチンに関する標準曲線は、対照ヒト脳由来RNAの一連の希釈物をcDNAに変換したものを用いて作製した。最後に、TaqMan PCRからのデータは総て、Sequence Detector Software (SDS version 1.9; Applied Biosystems)を用いて採取した。
【0057】
電気泳動およびウエスタンブロット法
UCH−L1タンパク質レベルが低下したかどうかを確認するため、冷凍前頭皮質(100mg)のサンプルをそのまま、1mlの溶解バッファー(20mM Hepes、10mM KCl、1.5mM MgCl、1mM EDTA、1mM EGTA、1mM DDT、2mM PMSF、1μg/mlアプロチニン、ロイペプチンおよびペプスタチン)中でホモジナイズし、音波処理を施した。溶解液を4℃にて5,000rpmで10分遠心分離し、タンパク質濃度をBCA法(Pierce)によって測定した。50μgの全タンパク質を95℃で3分加熱し、SDS−ポリアクリルアミドゲル上にTris−グリシンバッファーを用いてロードした。mini-protean system (Bio-Rad)を用いたゲル電気泳動によりタンパク質を分離し、Trans-Blot SD Semi-Dry Transfer Cell (Bio-Rad)を用い、40mAで45分、ニトロセルロースメンブレン(Bio-Rad)に移した。ニトロセルロースメンブレンを、5%脱脂乳を含有するTween 20 TBS (TBST)で30分ブロッキングした。その後、メンブレンを、3%BSAを含有するTBSTバッファーで調製した対応する一次抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。使用した抗体は、抗UCH−L1(AB5937, Chemicon)、抗UCH−L1(MCA−2084, Serotec)、抗β−アクチン(クローンAC−74, Sigma)、抗19S 1βプロテオソーム(PA1−973, Affinity BioReagents)、抗11Sαプロテオソームアクチベーター(PA1−960, Affinity BioReagents)、抗20SXプロテオソーム(PA1−977, Affinity BioReagents)および抗20SYプロテオソーム(PA1−978, Affinity BioReagents)であった。抗体は1:500希釈で用いた。一次抗体とともにインキュベートした後、メンブレンを室温にて5分、TBSTバッファーで3回洗浄し、その後、対応する二次抗体、すなわち、ペルオキシダーゼで標識されたIgG(Dako)の1:1,000(β−アクチンの場合は1:5,000)希釈液とともに室温で1時間インキュベートした。次に、メンブレンを室温にて5分、TBSTバッファーで4回洗浄し、化学発光ECLウエスタンブロッティングシステム(Amersham/Pharmacia)で現像した後、オートラジオグラフィーフィルム(Hyperfilm ECL, Amersham)に露光した。UCH−L1レベルの定量は、血清または脳脊髄液などの末梢組織で行ってもよい。図4に示されるように、内在UCH−L1レベルはこれらの体液において検出することができる。
【0058】
データの定量分析
ウエスタンブロットバンドの濃度測定的定量は、TotalLab v2.01ソフトウェアを用いて行った。統計分析には、Statgraphics Plus v5ソフトウェアを用いた。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】A)ヒト脳の皮質領域8由来RNAの一連の希釈物によるUCH−L1増幅のグラフ。横線は、手動調整した指数増殖期の閾値を表す。蛍光強度はPCRサイクルとともに増す。蛍光強度が閾値ラインを越えるサイクル数を閾値CTと定義し、定量はそれに基づいて行われる。B)異なる濃度の対照ヒト脳由来RNAから作成した、β−アクチンおよびUCH−L1に関する典型的な標準曲線。CT値(y軸)は対照サンプルRNAの異なる濃度の対数(x軸)に対して逆線形相関を示す。
【図2】対照(C,n=6)、パーキンソン病(PD,n=6)、びまん性レビー小体病、レビー小体型認知症,純粋型(DLBp,n=7)および通常型(DLBc,n=6)の前頭皮質におけるUCH−L1遺伝子の相対的発現レベルを示す図である。(A)β−アクチンを用いてノーマライズしたUCH−L1 mRNAのレベル(平均±SEM)。B)前頭皮質(領域8)の全ホモジネートのウエスタンブロットによって検出されたUCH−L1タンパク質のレベル(約25KDaの2つのバンド)。β−アクチン(45kDa)をタンパク質ロードの対照として検出した。画像は、調査した、表1に示した総てのサンプルのものである。C)TotalLab v2.01ソフトウェアを用いたUCH−L1タンパク質レベルの濃度測定解析(平均±SEM)。UCH−L1のタンパク質レベルは、β−アクチンのものを用いてノーマライズした。対照サンプルとの比較により、値はp<0.05および**p<0.01で統計的に有意であった(ANOVAと事後検定LSD)。
【図3】個体サンプル(死後3時間)の前頭皮質の全ホモジネートのウエスタンブロットによって検出されたUCH−L1タンパク質のレベル(約25KDaの2つのバンド)の死後の安定性を示す図である。サンプルは、すぐに液体窒素(0時間)で凍結するか、または室温にて3時間、6時間もしくは22時間放置した後に、液体窒素で凍結した。22時間まで目立ったUCH−L1の分解は見られない。
【図4】対照被験体の血清でのウエスタンブロットによって検出されたUCH−L1タンパク質レベルを示す図である。画像は、UCH−L1の見かけの分子量に相当するバンドを示している。
【図5】対照(C,n=6)、パーキンソン病(PD,n=6)、びまん性レビー小体病、レビー小体型認知症、純粋型(DLBp,n=7)および通常型(DLBc,n=6)の前頭皮質におけるプロテオソームサブユニット:20S複合体のサブユニットβ、20SXおよび20SY、19S複合体、ならびに11Sαアクチベーターのタンパク質レベルを示す図である。β−アクチンを対照として用いた。画像は、表1に示した総てのサンプルのものである。TotalLab v2.01ソフトウェアを用いたプロテオソームサブユニットのタンパク質レベルの濃度測定解析(平均±SEM)。UCH−L1タンパク質値は、β−アクチンのものを用いてノーマライズした。対照と病的状態にある患者との間には統計的に有意な差は認められなかった。
【図6】特異的なUCH−L1対立遺伝子I93Mを増幅するように特別設計されたオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション温度と交差ハイブリダイゼーション温度を、正常な対立遺伝子に相補的なオリゴの値との比較により示す図である。Tm:UCH−L1 I93M遺伝子に特異的なオリゴとその相補的オリゴとのハイブリダイゼーション温度。Tm交差:UCH−L1 I93M遺伝子に特異的なオリゴと野生型UCH−L1遺伝子に対して相補的なオリゴとのハイブリダイゼーション温度。デルタTm:Tm−Tm交差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者から得られたサンプルを解析して、ユビキチンカルボキシ末端ヒドロラーゼ L1(UCH−L1)遺伝子の発現レベルまたはこの遺伝子によってコードされるタンパク質の酵素活性を決定することを含んでなる、認知症の発症が疑われる患者におけるレビー小体型認知症(DLB)の診断法。
【請求項2】
解析された前記サンプルが、RNAまたはタンパク質である、請求項1に記載の診断法。
【請求項3】
解析および定量された前記サンプルが、UCH−L1遺伝子によってコードされるタンパク質またはその断片である、請求項1または2に記載の診断法。
【請求項4】
前記サンプルが、生検またはその他の抽出法によって得られた神経組織の細胞から単離される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の診断法。
【請求項5】
前記サンプルが、生検またはその他の抽出法によって得られた末梢神経内分泌細胞などのその他の組織の細胞から単離される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の診断法。
【請求項6】
前記サンプルが、脳脊髄液、血清、または尿などの体液から単離される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の診断法。
【請求項7】
検出が、UCH−L1転写産物レベルの定量を可能にするcDNAのPCR増幅、SDA増幅、またはその他の増幅法によって実施される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の診断法。
【請求項8】
検出が、いずれかの機構に寄託されているオリゴヌクレオチドを用いて作製されたDNAバイオチップにより実施される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の診断法。
【請求項9】
検出が、フォトリソグラフィーまたはその他の機構によりin situ合成されたオリゴヌクレオチドを用いて作製されたDNAバイオチップにより実施される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の診断法。
【請求項10】
検出が、ウエスタンブロットによる存在するタンパク質の量の解析、UCH−L1に対して特異的な抗体を用いる「タンパク質チップ」、または質量分析によるか、もしくはUCH−L1タンパク質レベルの定量を可能にするその他の機構により得られるタンパク質プロフィールにより、実施される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の診断法。
【請求項11】
検出が、UCH−L1のin vitroまたはin vivoでの酵素活性(ユビキチンのエステルおよびアミドの加水分解活性、ならびにユビキチン−リガーゼ活性を含む)の直接または間接解析により実施される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の診断法。
【請求項12】
解析および定量された前記サンプルが、UCH−L1リガーゼ活性による産物である二量体または多量体型のポリユビキチニンである、請求項11に記載の診断法。
【請求項13】
解析および定量された前記サンプルが、UCH−L1ヒドロラーゼ活性による産物である遊離型のモノユビキチニンである、請求項11に記載の診断法。
【請求項14】
UCH−L1タンパク質レベルを増大させるレビー小体型認知症の進行を停止または逆行させるための、化合物の使用。
【請求項15】
前記化合物が、UCH−L1遺伝子転写の特異的プロモーターである、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記化合物が、UCH−L1遺伝子によってコードされるタンパク質の分解の特異的阻害剤である、請求項14に記載の使用。
【請求項17】
レビー小体型認知症の進行を停止または逆行させるための、酵素UCH−L1のリガーゼ活性を消失または低減させる化合物の使用。
【請求項18】
前記化合物が、UCH−L1遺伝子によってコードされるタンパク質のユビキチン−リガーゼ活性の競合的または非競合的な特異的阻害剤である、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
細胞培養物などのようなin vitro系におけるUCH−L1のユビキチン−リガーゼ活性の変化の解析に基づいて、レビー小体型認知症の治療的可能性を有する化合物を解析する方法。
【請求項20】
前記化合物が、アンチセンスもしくはRNA干渉オリゴヌクレオチド、またはmRNAもしくは、リガーゼ活性は与えるがタンパク質には翻訳されない対立遺伝子によって生じるmRNAの、不安定化および消失に基づく他のもの、などの配列情報に従って作製される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
レビー小体型認知症の進行を停止または逆行させるための、UCH−L1酵素の加水分解活性を増加させる化合物の使用。
【請求項22】
前記化合物が、ウィルス発現ベクターまたは他のタイプの発現ベクターに挿入され、適当なプロモーターの制御下で、UCH−L1酵素に加水分解活性を付与してレビー小体型認知症の進行を停止かまたは逆行させるmRNAの過剰発現または過剰安定化を引き起こす、遺伝子または機能のコード単位等の配列情報に従って作製される、請求項21に記載の化合物の使用。
【請求項23】
前記化合物が、UCH−L1遺伝子によってコードされるタンパク質の加水分解活性を増加または増進させるのに特異的である、請求項21に記載の使用。
【請求項24】
細胞培養物などのようなin vitro系におけるUCH−L1の加水分解活性の変化の解析に基づいて、レビー小体型認知症の治療的可能性を有する化合物を解析する方法。
【請求項25】
前記化合物が、タンパク質と結合する際の親和性または最大率という意味においてその酵素活性を増加させる特異的抗体などについての配列情報に従って作製される、請求項23記載の使用。
【請求項26】
前記化合物が、アンチセンスもしくはRNA干渉オリゴヌクレオチド、またはmRNAもしくは、正常な加水分解活性を有するその対立遺伝子に対して途中で干渉するかまたは減少させるが、タンパク質には翻訳されない対立遺伝子によって生じるmRNAの、不安定化および消失に基づく他のもの、についての配列情報に従って作製される、請求項22記載の使用。

【図1】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−506406(P2008−506406A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−521880(P2007−521880)
【出願日】平成17年7月18日(2005.7.18)
【国際出願番号】PCT/EP2005/007813
【国際公開番号】WO2006/008124
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(506346923)オリソン、ヘノミクス、ソシエダッド、アノニマ (5)
【氏名又は名称原語表記】ORYZON GENOMICS, S.A.
【Fターム(参考)】