説明

レルカニジピンカプセル

放出調節医薬組成物は、蝋状物質中に溶解したレルカニジピンを含む。この蝋状物質はポリアルコール脂肪酸エステルを含み、溶液は薬剤として許容されるカプセルに内包される。好ましくは、ポリアルコール脂肪酸エステルが、ポリエチレングリコールエステル、ポリプロピレングリコールエステル、脂肪酸グリセリド又はこれら2つ以上の物質の混合物であるのがよい。最も好ましくは、ポリアルコール脂肪酸エステルが、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、およびポリエチレングリコールのモノエステル又はジエステルの混合物であるのがよい。放出調節医薬組成物の患者への経口投与によって、投与から24時間に亘り、レルカニジピンの平均血中濃度が0.5 ng/mlよりも高くなることが示された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レルカニジピンおよび少なくとも1つの蝋状物質を含む放出調節医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レルカニジピンは、メチル[1,1,N-トリメチル-N- (3,3-ジフェニルプロピル)-2-アミノエチル] l,4-ジヒドロ-2,6-ジメチル-4-(3-ニトロフェニル)-ピリジン-3,5- ジカルボキシラートの国際一般名称である。レルカニジピンは、高い脂肪親和性を持つジヒドロピリジン系カルシウム拮抗剤で、作用の持続期間が長く、血管への選択性が高い。レルカニジピンは、L 型カルシウムチャンネルのジヒドロピリジン結合サブユニットに高い親和性を持ち、これを拮抗的に阻害する。
【0003】
レルカニジピンは、抗高血圧剤として有用である。レルカニジピンは、動脈平滑筋のカルシウムチャンネルを遮断し、末梢血管抵抗を低下させることにより血圧を下げる。レルカニジピンは、陰性変力作用を示さず、時々軽い反射性頻脈を短時間生じさせる程度である。レルカニジピンは、高血圧治療剤として認可されており、幾つかのヨーロッパ諸国では1996年よりザニジップの商品名で販売されている。
【0004】
レルカニジピンの塩酸塩は、レコルダッチ(Recordati)社 (ミラノ、イタリア)から販売されている。塩酸レルカニジピンを調製する方法、並びにレルカニジピンを各異性体に分離する方法は、特許文献1−7に記載されている。
【0005】
単独のレルカニジピン、又は活性剤を添加されたレルカニジピンは、一日に1、2回の投与で効果を表す。レルカニジピンは、投薬量が2〜80 mgの範囲内でその効果が検証されてきた。通常レルカニジピンは、即放性錠剤の形で、約10 mg〜約20 mgの服用量を一日に1、2回投与される。レルカニジピンは、ステージ IおよびステージIIの高血圧の治療に用いられており、狭心症の緩和にもまた有用である。レルカニジピンはまた、収縮期高血圧を認める高齢者にも有用な効果を持つ。塩酸レルカニジピンの経口投与における推奨開始量は、一日に1回 10 mg で、必要ならば少なくとも2週間経過後に、一日に20 mgまで増やす。レルカニジピンの即放性製剤を経口で投与すると、投与から1〜3時間後に血中レベルが最大に達する(Tmax)。通常、レルカニジピン即放性投与製剤の摂取から24時間後にレルカニジピンの血中濃度は、1 ng/ml以下に落ちる。
【0006】
レルカニジピンおよびその塩の水に対する溶解度は約5μg/mlであり、事実上水に不溶である。酸性溶液中において、僅かにレルカニジピンの溶解度は高まる。しかし、たとえpH 5でも溶解度が20μg/ml以上になることはない。溶液のpHが5より高い場合には、レルカニジピンの溶解度は5μg/mlを下回る。従って、 pHが1〜8の胃腸内では、本来レルカニジピンは不溶である。レルカニジピンは、浸透性もまた乏しく (Caco-2培養細胞系におけるPaap は0.5 x 10-7 cm/sで、低生体利用率) 、FDAの定義による低浸透薬に分類される。加えて、レルカニジピンは、シトクロムP450 IIIA4イソ酵素の基質であるため、多くは血流に入る前に初回通過排出される。その難水溶性と低浸透性、および相当量の初回通過代謝が相まって、レルカニジピンは患者に投与されてもその生体利用率は低く安定しない。
【0007】
レルカニジピンの生体利用率を高めるために、投与の度に食事を取ってもよい。レルカニジピンを食事と共に摂取することにより、レルカニジピンの吸収は大幅に増加し、その結果効果も増強されることが分かっている。すなわち“食事の影響”である。食事 (特に脂肪分の多い食事) と共にレルカニジピンを摂取することにより、その吸収量は食事を伴わない場合に比べて3〜4倍増加する。食事を伴わずに投与されたレルカニジピンはほとんど吸収されないので、結果として低く一定しない生体利用率にとどまることになる。レルカニジピンの有効投与量と吸収量が共に摂取する食事に依存するのは、 効果が一定でなく患者に個人差があり、患者の了解やコンプライアンスが不十分になるという点で望ましくない。
【特許文献1】米国特許第4705797号明細書
【特許文献2】米国特許第5767136号明細書
【特許文献3】米国特許第4968832号明細書
【特許文献4】米国特許第5912351号明細書
【特許文献5】米国特許第5696139号明細書
【特許文献6】米国特許第2003/0069285号明細書
【特許文献7】米国特許第2003/0083355号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
単独又は他の活性剤と組み合わせた状態のレルカニジピンを患者に効果的に投与するために、レルカニジピンの経口投与製剤を改良する技術が必要である。レルカニジピンの経口投与製剤は、レルカニジピンの水溶液中での難溶性がもたらす問題を克服し、簡易な処方を実現するものであるべきである。さらにまた、レルカニジピンの経口投与製剤によって、レルカニジピンの吸収量と生体利用率が向上し、少なくとも最小限のレルカニジピン血中有効濃度が24時間以上維持されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
定義
“放出調節”という用語は、血中における活性成分レルカニジピンの治療有効濃度を再現的に長時間に渡って維持し、および/又はその他の薬物動態学的性質を調節するのに十分な時間、本発明の組成物から活性成分レルカニジピンが放出されることを指す。放出調節によって、約20〜約25時間に亘り治療効果をもつレルカニジピン血中濃度が維持されるのが好ましく、レルカニジピンの投与間隔に渡ってその平均血中濃度が0.5 ng/ml、好ましくは1 ng/mlよりも高い濃度に維持されるのがよい。
【0010】
“生体利用率” という用語は、薬剤から吸収された活性成分(レルカニジピン)が、体内で利用可能になる割合および程度を指す。
【0011】
“治療有効量”という用語は、高血圧患者の血圧を下げるのに十分な活性剤の量を指す。治療有効量の活性剤によって、最大血圧および最小血圧が各々140 および90 mm Hg以下になるくらいまで降下するのが好ましい。高血圧でない人の血圧は、治療有効量の活性剤によって下がってもよいし下がらなくてもよい。あるいは、高血圧の人全ての血圧が下がる必要はない。心不全又はアテローム性動脈硬化症といった他の病気に対する治療有効性もまた、例えば米国特許第5696139号および同5767136号により記載されている。治療有効量の活性成分は、例えば2〜6時間以内に、血圧の降下を招くのが好ましい。血圧を速やかに下げる必要がある場合は、治療有効量の活性剤によって、活性剤を投与してから約30分〜約60分以内に、最大血圧が約20-30 mm Hg、最小血圧が約10-20 mm Hg下がることが好ましい。
【0012】
“蝋状物質”という用語は、低い融点を持つ可塑性の固体を指す。場合に応じて、“蝋状物質”は、1種類の化合物又は異なる化合物の混合物を指し得る。蝋状物質は、脂肪親和性又は親水性であってもよい。好ましい蝋状物質は、ポリアルコール脂肪酸エステルであり、例えば、ポリエチレングリコールエステル、ポリプロピレングリコールエステルおよび脂肪酸グリセリド、およびこれらの組み合せ等がある。より好ましい蝋状物質は、ポリグリコール型グリセリド(polyglycolized glyceride)である。
【0013】
ここで使用する“固体”という用語は、室温で固体又は半固体状態の物質を指す。従って、ここで使用するように、“固体”の物質でも、例えば体温で液体になってもよい。
【0014】
“ポリグリコール型グリセリド”という用語は、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、およびポリエチレングリコール(PEG)のモノエステルおよびジエステルの混合物を表す。
【0015】
発明
本発明で提供される放出調節医薬組成物は、蝋状物質中に溶解又は懸濁されたレルカニジピンを含む。この蝋状物質はポリアルコール脂肪酸エステルを含み、また溶液又は懸濁液は薬剤として許容されるカプセルに内包される。
【0016】
蝋状物質は、ポリアルコール脂肪酸エステルであり、例えば、ポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールのエステル、又はグリセリド、あるいはこれらの組み合せである。
【0017】
本発明に従った放出調節製剤の処方に用いるのに適切な脂肪酸グリセリドには、中鎖(C8〜C11)と長鎖(C12〜C22)の脂肪酸グリセリドがある。1つの態様においては、本発明の医薬組成物は、1つ又は複数の長鎖脂肪酸グリセリド(グリセロールのモノエステル、ジエステルおよび/又はトリエステルを含む)を含んでもよい。本発明の使用に適切な長鎖脂肪酸グリセリドの例としては、コンプリトール(Compritol) 888 ATO(商標)およびプレシロール(Precirol) ATO 5(商標)(ニュージャージー州、パラマス、ガットフォッセ(Gattefosse)社より販売)がある。
【0018】
ここで使用するのに適切な脂肪酸エステルとして他に好ましいものに、1つ又は複数の中鎖脂肪酸グリセリドがあり、例えば、1つ又は複数のC8〜C11脂肪酸のトリグリセリドといったものである。本発明で使用するのに適切な中鎖脂肪酸トリグリセリドの例としては、ミグリオル(Miglyol) (商標) 812 (ニュージャージー州、クランフォード、コンディアケミー社(Condea Chemie GmbH)より販売)がある。
【0019】
放出調節製剤の処方に用いるのに適切なポリエチレングリコールエステルとポリプロピレンエステルには、ポリエチレングリコールのモノエステルとジエステル、およびポリプロピレングリコールのモノエステルとジエステルがある。上記で示したように、ポリエチレングリコールエステルおよびポリプロピレングリコールエステルに使用するのに好ましく適切な脂肪酸は、C12〜C22脂肪酸である。ポリエチレングリコールエステルおよびポリプロピレングリコールエステル各々に使用するのに適切なポリエチレングリコール鎖およびポリプロピレングリコール鎖は、例えば米国薬局方に記載されている。
【0020】
本発明の放出調節組成物に使用するのに好ましい脂肪酸グリセリドは、融点が40℃〜80℃、好ましくは40℃〜60℃のものであり、かつ親水性−親油性バランス(HLB) の値が1〜14、好ましくは10〜14のものであるのがよい。
【0021】
より好ましい蝋状物質は、ポリグリコール型グリセリドである。ポリグリコール型グリセリドは、ゲルシア(Gelucire)(商標)という商品名で市販されている(ニュージャージー州、パラマス、ガットフォッセ(Gattefosse)社)。本発明に有用な「ゲルシア(Gelucire)」のグレードには、特に「ゲルシア(Gelucire)」37/02、37/06、42/12、44/14、46/07、48/09、50/02、50/13、33/01、39/01、43/01および53/10、あるいはこれらの組み合せがあるが、それらに限定されない。名称において「ゲルシア(Gelucire)」に続く最初の数はその融点を表し、2番目の数はそのHLB 値を表す。例えば、「ゲルシア(Gelucire)」50/13は、約50℃の融点と約13のHLB値を持つ。「ゲルシア(Gelucire)」の特に好ましいグレードは、「ゲルシア(Gelucire)」50/13 と「ゲルシア(Gelucire)」44/14、又はこれらの組み合せである。
【0022】
本発明の放出調節医薬組成物は、レルカニジピンを含む。レルカニジピンは、例えば、結晶、非結晶、結晶多形、塩、溶媒和物およびオイルのような任意の形状であってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
1つの実施形態においては、レルカニジピンは、薬剤として許容されるレルカニジピン塩として提供される。薬剤として許容されるレルカニジピン塩には、例えば以下のような無機酸又は有機酸の塩があるが、これらに限定されない。すなわち、(i)塩酸、臭化水素酸、リン酸および硫酸といった無機酸、(ii)メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸およびナフタレン-1,5-ジスルホン酸といった硫酸、(iii)酢酸、(+)-L-乳酸、DL-乳酸、DL-マンデル酸、グルコン酸、ケイ皮酸、サリチル酸、およびゲンチシン酸といったモノカルボン酸、(iv)シュウ酸, 2-オキソ-グルタル酸、マロン酸, (-)-L-リンゴ酸、ムコン酸, (+)-L-酒石酸、フマル酸、マレイン酸、およびテレフタル酸といったジカルボン酸、(v)クエン酸のようなトリカルボン酸、および(vi) サッカリンのような芳香族スルホンイミドである。薬剤として許容される好ましいレルカニジピン塩には、塩酸塩、ベンゼンスルホン酸塩およびナフタレン- 1,5-ジスルホン酸塩があるが、これらに限定されない。特に好ましい塩は、塩酸レルカニジピンである。
【0024】
加えて、レルカニジピンは、結晶又は非結晶体、あるいはこれらの混合物の状態で存在してもよい。レルカニジピンの結晶体には、例えば、米国特許第2003/0083355号および同2003/0069285号に記載されているようなものが上げられる。好ましい塩酸レルカニジピンの結晶多形は、結晶相IおよびIIであり、結晶相IIが最も好ましい。レルカニジピンは、非結晶体、又は非結晶体と結晶体の混合物の状態でも存在し、この場合結晶体は同じ多形又は2つ以上の多形の組み合せであってもよい。
【0025】
非結晶体の塩酸レルカニジピンを調製するためには、まず約30℃〜約50℃の第一温度で結晶体の塩酸レルカニジピンを有機溶媒中に溶かして第一溶液を作り、この第一溶液を約1℃〜約20℃の水に加えて沈殿を形成させ、この沈殿を約1〜約20℃下で約4〜約24時間放置し、最後に非結晶体の塩酸レルカニジピンを回収する。
【0026】
あるいは、レルカニジピンは遊離塩基として提供される。レルカニジピンの遊離塩基は、非結晶体中、又は非結晶体と結晶体の混合物として存在し、この場合結晶体は同じ多形又は2つ以上の多形の組み合せであってもよい。非結晶体のレルカニジピン遊離塩基は、レルカニジピン塩を有機溶媒中でアルカリ化することによって調製し得る。レルカニジピン塩とは、PCT/EP05/009043で開示されているものを含む当業者に既知の塩のいずれでもよい。特に好ましいレルカニジピン塩の1つは、塩酸レルカニジピンである。
【0027】
レルカニジピン塩のアルカリ化による遊離塩基の生成は、有機溶媒中に溶解したレルカニジピン塩をpH約9 〜約14の水溶液に混ぜることによって行なわれてもよい。アルカリ化反応は、約0℃〜約25℃の温度で行なわれてもよく、好ましくは約5℃〜約20℃で行なわれるのがよい。反応成分は、約30 〜約120分間かき混ぜ、その後約1〜約12時間放置するのが好ましい。非結晶体のレルカニジピン遊離塩基は、アルカリ化の後、当業者に既知の技術のいずれかを用いて分離され得る。
本発明の放出調節組成物を患者に投与した際、治療効果をもたらすのに十分な量のレルカニジピンが存在することが好ましい。レルカニジピンは、全組成物1mgにつき約0.001〜約0.2 mgの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは全組成物1mgにつき約0.002〜約0.1 mg、最も好ましくは全組成物1mgにつき約0.005〜約0.1 mgの範囲で含まれているのがよい。
【0028】
放出調節組成物にレルカニジピンを組み込む前に、必要に応じてレルカニジピを微粒化してもよい。レルカニジピンの結晶体は、当業者に既知のいずれかの方法を用いて微粒化することができる。この方法で製造される粒子の平均サイズは、D(50%)2~8 μm、D(90%)<15μmであることが好ましい。
【0029】
カプセルは、 ゼラチン又はヒドロキシプロピルメチルセルロースから形成されてもよい。
【0030】
医薬組成物には、以下のような添加剤が必要に応じて含まれてもよい。すなわち、薬剤として許容された基剤又は希釈剤、風味剤、甘味剤、保存料、酸化防止剤、湿潤剤、緩衝剤、放出調節剤、色素、結合剤、懸濁化剤、分散剤、着色料、崩壊剤、賦形剤、被膜剤、潤滑剤、可塑剤、食用油、あるいは以上を2つ以上組み合せたものが含まれてもよい。組成物には、ハードカプセルおよびソフトカプセル、錠剤、コーティングされた錠剤、又は粉剤等の固形の医薬剤形が用いられてもよい。薬剤として許容される適切な基剤又は希釈剤には、エタノール;水;グリセロール;プロピレングリコール;グリセリン;ジエチレングリコールモノエチルエーテル;ビタミンA 油およびビタミンE油;ミネラルオイル;プロピオン酸PPG-2ミリスチル;炭酸マグネシウム;リン酸カリウム;二酸化ケイ素;植物性油脂;動物性油脂;およびソルケタール等があるが、これらに限定されない。
【0031】
適切な結合剤は、ゼラチン;アカシアゴム、トラガカントゴム、植物性ゴム、およびアルギン酸ナトリウムといった天然ゴム又は合成ゴム;カルボキシメチルセルロース;ヒドロキシプロピルメチルセルロース;ポリエチレングリコール;ポビドン;および蝋である。
【0032】
適切な酸化防止剤は、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコビル、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、モノチオグリセロール、ピロ亜硫酸カリウム、没食子酸プロピルおよびトコフェロールの賦形剤である。
【0033】
適切な湿潤剤は、ポリソルベート、ラウリル硫酸ナトリウム、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレイト、ソルビタンモノパルミテートおよびソルビタンモノステアレートである。
【0034】
放出調節剤で他に適切なものは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロースおよびヒドロキシエチルセルロースである。
【0035】
適切な潤滑剤は、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリルフマル酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムである。
【0036】
適切な懸濁化剤は、ベントナイト、エトキシル化ステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびソルビタンエステル、結晶セルロース、酸化・水酸化アルミニウム、寒天およびトラガカントゴム、あるいはこれら2つ以上の物質の混合物である。
【0037】
適切な分散剤および懸濁化剤は、植物性ゴム、トラガカントゴム、アカシアゴム、アルギナート、デキストラン、カルボキシメチルセルロースナトリウムメチルセルロース、ポリビニルピロリドンおよびゼラチンといった合成又は天然のゴムである。
【0038】
適切な被膜剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロースおよびポリメタクリレートである。
【0039】
適切な可塑剤は、分子量の異なる(例えば、200〜8000 Da)ポリエチレングリコール、プロピレングリコールおよびクエン酸トリエチルである。
【0040】
適切な着色料は、酸化鉄、二酸化チタン、および天然又は合成の深紅色顔料である。
【0041】
適切な食用油は、綿実油、ごま油、ココナッツ油およびピーナッツ油である。
【0042】
添加剤は、例えば、ソルビトール、タルク、ステアリン酸である。
【0043】
本発明の放出調節医薬組成物により長時間に渡ってレルカニジピンが放出するよう調節されるため、市販のレルカニジピン組成物と比べて、レルカニジピンの投与間隔に渡る平均血中濃度は増加する。特に、患者に本組成物を投与した場合、20 mgのレルカニジピン投与後約24時間に渡って、レルカニジピンの平均血中濃度が約0.5 ng/ml よりも高くなる。
本発明は、さらに放出調節医薬組成物を調製する方法を提供し、この方法は以下の工程を含む。すなわち、
(a)ポリアルコール脂肪酸エステル又はこの種のエステルの混合物を約40℃〜約90℃の温度で融解し、
(b)これを、融解したレルカニジピンおよび、もしあれば望ましい賦形剤と混合し、完全に溶解又は懸濁するまで撹拌し、
(c) この混合物をカプセルに充填する、工程である。
【0044】
好ましい実施形態においては、本発明の医薬組成物は、ポリグリコール型グリセリド、レルカニジピンおよびカプセルを含む固形の経口投与製剤として処方される。投与製剤の単位量には、その製剤が患者に投与された場合に治療効果をもたらすのに十分な量のレルカニジピンが含まれているのが好ましい。より好ましくは約1〜約100 mgのレルカニジピン、最も好ましくは約2〜約40 mgのレルカニジピンが、投与製剤の単位量に含まれているとよい。投与製剤の単位量には、その製剤が患者に投与された場合に治療効果をもたらすのに十分な量のレルカニジピンが含まれているのが好ましい。
【0045】
他のもう1つの好ましい実施形態においては、ここで記載の「ゲルシア(Gelucire)」に溶解又は懸濁したレルカニジピンを充填したゼラチン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース製カプセルを含む固形の経口投与製剤が本発明で提供される。なおここで用いる「ゲルシア(Gelucire)」としては、「ゲルシア(Gelucire)」50/13 又は「ゲルシア(Gelucire)」44/14又はこれらの組み合せが好ましい。レルカニジピンに対する「ゲルシア(Gelucire)」の割合は、好ましくは約1 :500〜約1 :5、より好ましくは約1 :250〜約1 :10、さらにより好ましくは約1 :200〜約1 :20であるのがよい。固形の経口投与製剤に2種以上の「ゲルシア(Gelucire)」が含まれる場合、50/13:44/14の質量比は約1 :99〜約99:1である。本発明のレルカニジピン放出調節医薬組成物を作る際に、レルカニジピンは、融解したポリグリコール型グリセリド中に溶解又は懸濁される。融解したポリグリコール型グリセリドとレルカニジピン、および/又はこの中に分散した他の賦形剤を含む混合物は、ハードゼラチン、ソフトゼラチン、又はヒドロキシプロピルメチルセルロース製カプセルに充填されてもよい。
【0046】
他のもう1つの実施形態においては、本発明の工程は、「ゲルシア(Gelucire)」の融解、および融点より約5℃〜約50℃高い温度への「ゲルシア(Gelucire)」融解物の加熱とそれに伴う撹拌を含む。「ゲルシア(Gelucire)」50/13の場合は、約55℃〜約90℃に加熱するのが好ましく、約60℃〜約85℃に加熱するのがより好ましい。「ゲルシア(Gelucire)」44/14の場合は、約50℃〜約80℃に加熱するのが好ましく、約55℃〜約75℃に加熱するのがより好ましい。加熱後、レルカニジピンが融解した「ゲルシア(Gelucire)」と混ぜられ、最初の混合物が作られる。温度は混合中および混合後も維持され、最初の混合物が十分に均一になるのを目で見て確認できるまで撹拌は続けられる。好ましくは、混合物がレルカニジピン溶解物と均一に混ざるのを目で見て確認できるまで、撹拌を続けるのがよい。
【0047】
他のもう1つの実施形態においては、本発明の工程は、融点より約5℃〜約50℃高い温度における「ゲルシア(Gelucire)」および/又は「コンプリトール(Compritol)」および/又は「プレシロール(Precirol)」の融解とそれに伴う撹拌を含む。加熱後、融解物にレルカニジピンが加えられ、最初の混合物が作られる。温度は混合中および混合後も維持され、最初の混合物が十分に均一になるのを目で見て確認できるまで撹拌は続けられる。好ましくは、混合物がレルカニジピン溶解物と均一に混ざるのを目で見て確認できるまで、撹拌を続けるのがよい。
【0048】
他のもう1つの実施形態においては、本発明の工程は、融点より約5℃〜約50℃高い温度における「ゲルシア(Gelucire)」および/又は「コンプリトール(Compritol)」および/又は「プレシロール(Precirol)」の融解とそれに伴う撹拌を含む。加熱後、融解物にレルカニジピンが加えられ、最初の混合物が作られる。温度は混合中および混合後も維持され、最初の混合物が十分に均一になるのを目で見て確認できるまで撹拌は続けられる。好ましくは、混合物がレルカニジピン溶解物と均一に混ざるのを目で見て確認できるまで、撹拌を続けるのがよい。メトセル(Methocel)(商標)K 4Mを加え、混合物が均一になるまで撹拌してもよい。融解物は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の適切なポリマーから形成されたカプセルに充填される。
【実施例】
【0049】
本発明は、以下の実施例によって説明される。
実施例1 レルカニジピン放出調節カプセルの犬への投与
この実施例においては、本発明の2つの異なる放出調節医薬組成物が、イン・ビボ(in vivo)における生体利用率に関して、1粒に20 mgのレルカニジピンを含むレコルダッチ(Recordati)社(ミラノ、イタリア)販売の即放性錠剤と比較されている。
以下に記載のように、2つの異なる放出調節医薬組成物を、単位投与剤形に調製した。2つの放出調節投与製剤の組成を表1に示す。レルカニジピン遊離塩基と「ゲルシア(Gelucire)」の混合物の調製するために、まず「ゲルシア(Gelucire)」を約70℃に加熱し、融解した。レルカニジピンを、加熱した「ゲルシア(Gelucire)」に加え、加えたレルカニジピンが全て溶解するまで混ぜ続けた。次に、レルカニジピン / 「ゲルシア(Gelucire)」の混合物を、サイズ#0 のハードゼラチンカプセルに充填した。およそ500 mg のレルカニジピン/ 「ゲルシア(Gelucire)」混合物を各カプセルに充填し、全投与量としては約20 mgのレルカニジピンが含有された。次に、レルカニジピン/「ゲルシア(Gelucire)」充填カプセルを室温に放置して硬化させた。
【表1】

【0050】
8〜10Kgの雌ビーグル犬を用いて、処方について試験を行なった。クロスオーバー試験にて、犬群に40 mgの薬剤 (本発明の組成物2カプセル、参照薬2錠)を投与した。投与から0.5時間、1時間、2時間、3時間、4時間、6時間、8時間、12時間、16時間および24時間後に、血液を採取した。結果を表2に示す。
【表2】

【0051】
イン・ビボ(in vivo)におけるS-レルカニジピン血中濃度の経時的変化を、図1Aのノーマルスケールおよび図1Bの対数スケール上に示す。-□-で表された点を結ぶ曲線は、処方薬Yl を投与した時の血中濃度であり、-◇-で表された点を結ぶ曲線は処方薬Y2 を投与した時の血中濃度であり、-○-で表された点を結ぶ曲線は参照薬(R1)を投与した時の血中濃度である。市販の即放性錠剤(参照薬)と比較すると、本発明の放出調節処方薬Y1 およびY2では、レルカニジピンの平均血中濃度が長時間に渡って上昇した。放出調節処方薬によって、レルカニジピン平均血中濃度は、その投与間隔、すなわち24時間に渡って、1 ng/mlより高い濃度に維持された。一方、市販の錠剤ではレルカニジピンの平均血中濃度が、24時間後に0.5 ng/ml を下回った。
【0052】
イン・ビトロ(in vitro)における放出調節処方薬Y1およびY2の溶出挙動を図2のグラフに示す。「ゲルシア(Gelucire)」50/13を含む処方薬Y1の溶出は、-●-で表された点を結ぶ曲線で示される。「ゲルシア(Gelucire)」44/14を含む処方薬Y2の溶出は、-□-で表された点を結ぶ曲線で示される。
【0053】
実施例2 レルカニジピンの放出調節カプセル
放出調節された固形の単位投与製剤数種類を、以下に示すように調製した。放出調節された投与製剤の組成を表3に示す。レルカニジピン遊離塩基、「ゲルシア(Gelucire)」、「コンプリトール(Compritol)」の混合物を調製するために、まず「ゲルシア(Gelucire)」と「コンプリトール(Compritol)」を約90℃まで加熱し、融解した。この加熱した融解物にレルカニジピンとBHTを加え、加えたレルカニジピンが全て溶解するまでかき混ぜた。この融解物中に「メトセル(Methocel)」K4Mを、撹拌しながら混ぜ込んだ。次に、レルカニジピン/「ゲルシア(Gelucire)」/「コンプリトール(Compritol)」/「メトセル(Methocel)」の混合物を、サイズ#0 のハードゼラチンカプセルに充填した。およそ500 mg のレルカニジピン/「ゲルシア(Gelucire)」/ 「コンプリトール(Compritol)」/「メトセル(Methocel)」混合物を各カプセルに充填し、全投与量としては約20 mgのレルカニジピンが含有された。次に、レルカニジピン/「ゲルシア(Gelucire)」/ 「コンプリトール(Compritol)」/「メトセル(Methocel)」を充填したカプセルを、室温に放置して硬化させた。
【表3】

【0054】
実施例3 さらに改良したレルカニジピンの放出調節カプセル
図3に示すフローチャートの方法に従って操作し、本発明によるさらに改良した処方薬を調製した。処方薬の組成を以下の表4に示す。
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】イン・ビボ(in vivo)におけるS-レルカニジピン血中濃度の経時的変化を、ノーマルスケール(1A)および対数スケール(1B)上に示す。
【図2】イン・ビトロ(in vitro)における放出調節処方薬Y1およびY2の溶出挙動を示す。
【図3】本発明によるさらに改良した処方薬を調製する方法をフローチャートで示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルコール脂肪酸エステルを含む蝋状物質中に溶解又は懸濁されたレルカニジピンを、薬剤として許容されるカプセル内に封入したものを含むことを特徴とする放出調節医薬組成物。
【請求項2】
前記ポリアルコール脂肪酸エステルが、ポリエチレングリコールエステル、ポリプロピレングリコールエステル、脂肪酸グリセリド又はこれら2つ以上の物質の混合物であることを特徴とする請求項1記載の放出調節医薬組成物。
【請求項3】
前記ポリアルコール脂肪酸エステルが、モノ−、ジ−およびトリ−グリセリド、ならびにポリエチレングリコールのモノ−およびジ−エステルの混合物であることを特徴とする請求項1記載の放出調節医薬組成物。
【請求項4】
前記モノ−、ジ−およびトリ−グリセリド、ならびにポリエチレングリコールのモノ−およびジ−エステルの混合物が、ゲルシア(Gelucire)(商標)37/02、37/06、42/12、44/14、46/07、48/09、50/02、50/13、33/01、39/01、43/01 、53/10、またはこれらの組み合せであることを特徴とする請求項3記載の放出調節医薬組成物。
【請求項5】
前記蝋状物質が約40℃〜約60℃の融点を持つことを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の放出調節医薬組成物。
【請求項6】
前記蝋状物質が約1〜約14のHLB値を持つことを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の放出調節医薬組成物。
【請求項7】
レルカニジピンが、遊離塩基又は薬剤として許容される塩として、結晶体又は非結晶体で存在することを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の放出調節医薬組成物。
【請求項8】
レルカニジピンが、非結晶質のレルカニジピン塩として存在することを特徴とする請求項7記載の放出調節医薬組成物。
【請求項9】
レルカニジピンが、非結晶質のレルカニジピン遊離塩基として存在することを特徴とする請求項7記載の放出調節医薬組成物。
【請求項10】
前記カプセルが、ゼラチン又はヒドロキシプロピルメチルセルロースから形成されたものであることを特徴とする請求項1から9いずれか1項記載の放出調節医薬組成物。
【請求項11】
レルカニジピンに対する蝋状物質の割合が、約1:500 〜約1:5 (w/w)であることを特徴とする請求項1から10いずれか1項記載の放出調節医薬組成物。
【請求項12】
単位投与剤形であり、1カプセル当たり1〜100 mgのレルカニジピンを含むことを特徴とする請求項1から11いずれか1項記載の放出調節医薬組成物。
【請求項13】
放出調節医薬組成物を調製する方法であって、
(a)ポリアルコール脂肪酸エステル又はその混合物を約40℃〜約90℃の温度で融解させ、
(b)それを、融解したレルカニジピンおよび必要に応じて所望の賦形剤と混合し、完全に溶解又は懸濁するまで撹拌し、
(b) 前記混合物をカプセルに充填する;工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記ポリアルコール脂肪酸エステルが、モノ−、ジ−およびトリ−グリセリド、ならびにポリエチレングリコールのモノ−およびジ−エステルの混合物であることを特徴とする請求項13記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−515839(P2008−515839A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535101(P2007−535101)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【国際出願番号】PCT/EP2005/010813
【国際公開番号】WO2006/037650
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(507061708)レコルダーティ アイルランド リミテッド (7)
【氏名又は名称原語表記】RECORDATI IRELAND LIMITED
【Fターム(参考)】