説明

レーザアニール装置

【課題】対象物が照射されるエネルギ分布を均一化する。
【解決手段】本発明に係るレーザアニール装置1は、対象物11が載置されるステージ2と、照射部13からの距離に応じて断面積が変化し断面積とエネルギ密度とが反比例するレーザ光12を照射するレーザ装置3と、対象物11と照射部13との相対的位置関係を変化させる移動手段4とを備え、移動手段4は、レーザ光12の対象物11への照射位置がステージ2の回転中心から離間するに従って、対象物11に照射されるレーザ光12の断面積が小さくなるように相対的位置関係を変化させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザアニール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1において、単位時間当たりに照射されるレーザ光のエネルギが小さいレーザを使用して、アニール対象物の全面に対してレーザ光を均一に照射できるようにすることを課題とし、アニール対象物が載置されるステージに対する照射手段の相対位置をステージの回転方向に対して直交する方向へ移動させる移動手段を備えることを特徴とするレーザアニール装置が開示されている。
【0003】
特許文献2において、半導体プロセス等における熱処理を目的とするレーザの照射方法等であって、照射チャンバの小型化、広面積の加熱の均一化等を課題とし、基板表面におけるレーザ照射領域を基板表面で回転移動させる回転駆動部を備えることを特徴とする構成が開示されている。
【0004】
特許文献3において、薄膜形成方法であって、ターゲットに高エネルギビームを照射し、ターゲットから放出された粒子を利用して基板上に薄膜を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−332258号公報
【特許文献2】特開2004−193490号公報
【特許文献3】特開平7−252641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図17は、一般的なレーザアニール装置101の構成及び動作を例示している。レーザアニール装置101は、アニール処理の対象となる対象物102が載置されこれを回転させるテーブル103、レーザ光105を照射するレーザ装置104、及びテーブル103を水平方向に変位させる移動機構106を有する。移動機構106は、レーザ光105が対象物102の中心部に照射された状態から、回転するテーブル103を徐々に水平方向に変位させる。これにより、対象物102の中心部から外周部に向かってアニール処理が施される。
【0007】
本例においては、レーザ光105の断面積は、照射部107からの距離が大きくなるに従い小さくなっている。即ち、レーザ光105の対象物102への照射面積108は、照射部107と対象物102との距離によって決まる。
【0008】
図18は、上記レーザアニール装置101におけるレーザ光105の照射位置と照射面積108との関係を示している。同図が示すように、本例に係るアニール装置101においては、照射部107と対象物102との距離が一定であるため、対象物102の中心部から外周部までの全照射位置に渡って照射面積108が略一定となっている。
【0009】
図19は、レーザアニール装置101における照射位置と照射時間との関係を示している。図20は、レーザアニール装置101における照射位置とレーザ光105のエネルギ密度との関係を示している。図21は、レーザアニール装置101における照射位置と対象物102の温度との関係を示している。
【0010】
図19が示すように、レーザ光105の照射時間は、対象物102の中心部に近い程長くなる。また、図20が示すように、対象物102に照射されるレーザ光105のエネルギ密度は、上述のようにレーザ光105の照射面積108が全範囲に渡って一定であることから、一定となる。従って、対象物102の中心部は、外周部よりも多くのエネルギ照射を受けることとなる。中心部での照射時間は外周部よりも長く、両部に照射されるレーザ光105のエネルギ密度は同一だからである。そのため、図21が示すように、対象物102の中心付近の温度は外周付近より高くなり、温度分布の偏りが生ずる。
【0011】
そこで、本発明は、対象物が照射されるエネルギ分布を均一化することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、対象物が載置され、前記対象物を回転させるステージと、照射部からの距離に応じて断面積が変化し前記断面積とエネルギ密度とが反比例するレーザ光を照射するレーザ装置と、前記ステージに載置された前記対象物と前記照射部との相対的位置関係を変化させる移動手段とを備え、前記移動手段は、前記レーザ光の前記対象物への照射位置が前記ステージの回転中心から離間するに従って、前記対象物に照射される前記レーザ光の断面積が小さくなるように前記相対的位置関係を変化させるレーザアニール装置である。
【0013】
また、前記ステージの載置面と前記レーザ光の光軸とが直交せず、前記移動手段は、前記ステージ又は前記レーザ装置の少なくともどちらか一方を水平方向に変位させるものであってもよい。
【0014】
また、前記ステージの載置面と前記レーザ光の光軸とが略直行し、前記移動手段は、前記ステージ又は前記レーザ装置の少なくともどちらか一方を垂直方向に変位させるものであってもよい。
【0015】
また、前記レーザ装置は、前記レーザ光の断面積を変化させる手段を備え、前記移動手段は、前記ステージ又は前記レーザ装置の少なくともどちらか一方を水平方向に変位させるものであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、対象物の中心付近では、断面積(照射面積)が大きくエネルギ密度が小さいレーザ光が長い照射時間によって照射され、対象物の外周付近では、照射面積が小さくエネルギ密度が大きいレーザ光が短い照射時間によって照射される。これにより、対象物が受けるレーザ光のエネルギ分布を全範囲に渡って均一化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1に係るレーザアニール装置の構成及び動作を示す図である。
【図2】実施の形態1に係るレーザアニール装置におけるレーザ光の照射位置と照射面積との関係を示す図である。
【図3】実施の形態1に係るレーザアニール装置における照射位置と照射時間との関係を示す図である。
【図4】実施の形態1に係るレーザアニール装置における照射位置とレーザ光のエネルギ密度との関係を示す図である。
【図5】実施の形態1に係るレーザアニール装置における照射位置と対象物の温度との関係を示す図である。
【図6】図1上段及び図2上段に示す照射位置での照射時間を示す図である。
【図7】図1上段及び図2上段に示す照射位置でのレーザ光のエネルギ密度を示す図である。
【図8】図1上段及び図2上段に示す照射位置での対象物の温度を示す図である。
【図9】図1中段及び図2中段に示す照射位置での照射時間を示す図である。
【図10】図1中段及び図2中段に示す照射位置でのレーザ光のエネルギ密度を示す図である。
【図11】図1中段及び図2中段に示す照射位置での対象物の温度を示す図である。
【図12】図1下段及び図2下段に示す照射位置での照射時間を示す図である。
【図13】図1下段及び図2下段に示す照射位置でのレーザ光のエネルギ密度を示す図である。
【図14】図1下段及び図2下段に示す照射位置での対象物の温度を示す図である。
【図15】本発明の実施の形態2に係るレーザアニール装置の構成及び動作を示す図である。
【図16】本発明の実施の形態3に係るレーザアニール装置の構成及び動作を示す図である。
【図17】一般的なレーザアニール装置の構成及び動作を例示する図である。
【図18】一般的なレーザアニール装置におけるレーザ光の照射位置と照射面積との関係を示す図である。
【図19】一般的なレーザアニール装置における照射位置と照射時間との関係を示す図である。
【図20】一般的なレーザアニール装置における照射位置とレーザ光のエネルギ密度との関係を示す図である。
【図21】一般的なレーザアニール装置における照射位置と対象物の温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態1に係るレーザアニール装置1の構成及び動作を示している。レーザアニール装置1は、テーブル2、レーザ装置3、及び移動機構4を有する。
【0019】
テーブル2は、適宜な駆動機構と連結する円盤状の部材である。テーブル2上には、アニール処理の対象となる対象物11が載置される。対象物11は、テーブル2の回転に伴い回転する。
【0020】
レーザ装置3は、レーザ光12を対象物11に向かって照射する。レーザ光12は、照射部13から照射され、照射部13からの距離が長くなるに従い、その断面積が小さくなる。レーザ光12の断面積とエネルギ密度とは、反比例の関係を有する。
【0021】
移動機構4は、適宜な駆動機構により、テーブル2の角度をレーザ光12の光軸に対して変化させると共に、テーブル2を水平方向に変位させる。
【0022】
本実施の形態においては、レーザ光12は回転する対象物11の中心部から外周部へ向って照射される。図1上段は、レーザ光12が対象物11の中心付近を照射している状態を示している。図1中段は、レーザ光12が対象物11の中間部分を照射している状態を示している。図1下段は、レーザ光12が対象物11の外周付近を照射している状態を示している。同図が示すように、移動機構4は、回転しているテーブル2を図中左方向、即ち照射部13と対象物11との距離が大きくなる方向へ徐々に移動させていく。図中15は、対象物11に照射されるレーザ光12の照射面積を示している。
【0023】
図2は、レーザ光12の照射位置と照射面積15との関係を示している。図2上段は、レーザ光12が対象物11の中心付近16を照射している時の照射面積15を示している。図2中段は、レーザ光12が対象物11の中間部分17を照射している時の照射面積15を示している。図2下段は、レーザ光12が対象物11の外周付近18を照射している時の照射面積15を示している。同図が示すように、照射面積15は、レーザ光12の照射位置が外周部へ向うに従い小さくなる。
【0024】
図3は、上記レーザアニール装置1における照射位置と照射時間との関係を示している。図4は、当該照射位置とレーザ光12のエネルギ密度との関係を示している。図5は、当該照射位置と対象物11の温度との関係を示している。図3〜図5が示すように、上記レーザアニール装置1においては、照射位置が中心部から外周部へ向うに従い、照射時間が徐々に減少していくと共にエネルギ密度が徐々に増加していくため、対象物11の温度は全体に渡って略一定となる。
【0025】
図6は、図1上段及び図2上段に示す照射位置での照射時間を示している。図7は、図1上段及び図2上段に示す照射位置でのレーザ光12のエネルギ密度を示している。図8は、図1上段及び図2上段に示す照射位置での対象物11の温度を示している。図6及び図7が示すように、この状態においては照射時間が長く、エネルギ密度が小さい。
【0026】
図9は、図1中段及び図2中段に示す照射位置での照射時間を示している。図10は、図1中段及び図2中段に示す照射位置でのレーザ光12のエネルギ密度を示している。図11は、図1中段及び図2中段に示す照射位置での対象物11の温度を示している。図9及び図10が示すように、この状態においては、図6及び図7の場合に比べて照射時間が短く、エネルギ密度が大きくなっている。また、図8及び図10が示すように、対象物11の温度は両状態に渡って略一定となっている。
【0027】
図12は、図1下段及び図2下段に示す照射位置での照射時間を示している。図13は、図1下段及び図2下段に示す照射位置でのレーザ光12のエネルギ密度を示している。図14は、図1下段及び図2下段に示す照射位置での対象物11の温度を示している。図12及び図13が示すように、この状態においては、図9及び図10の場合に比べ照射時間が更に短く、エネルギ密度が更に大きくなっている。また、図8、図10及び図14が示すように、対象物11の温度は全ての状態に渡って略一定となっている。
【0028】
上述のように、本実施の形態に係るレーザアニール装置1においては、ステージ2の載置面とレーザ光12の光軸とが直交しておらず、ステージ2は移動機構4により照射位置が外周部側に移行するに従いレーザ光12と対象物11との距離が大きくなるように水平方向に変位する。また、レーザ光12は、照射部13からの距離が大きくなるに従いその断面積が小さくなるように照射され、当該断面積とエネルギ密度とは反比例の関係を有する。これにより、対象物11の中心付近では、照射面積15が大きくエネルギ密度が小さいレーザ光12が長い照射時間によって照射され、対象物11の外周付近では、照射面積15が小さくエネルギ密度が大きいレーザ光12が短い照射時間によって照射される。これにより、対象物11が受けるレーザ光12のエネルギ分布が全範囲に渡って略均一となり、対象物11に温度の偏りが生じないようにすることができる。
【0029】
尚、本実施の形態においては、テーブル2が変位しレーザ装置3は変位しない構成を示したが、テーブル2は変位せずレーザ装置3が変位する構成、又はテーブル2及びレーザ装置3の両方が変位する構成であっても、上記と同様の作用効果を得ることができる。
【0030】
実施の形態2
図15は、本発明の実施の形態2に係るレーザアニール装置21の構成及び動作を示している。当該レーザアニール装置21と上記実施の形態1に係るレーザアニール装置1との相違点は、テーブル2を変位させる移動機構24にある。
【0031】
移動機構24は、照射位置の変化に応じて、テーブル2を水平方向に変位させると共に垂直方向に変位させる。テーブル2を上方(照射部13に近づく方向)に変位させることにより、対象物11に対するレーザ光12の照射面積15が大きくなり(エネルギ密度が小さくなる)、テーブル2を下方に変位させることにより、照射面積15が小さくなる(エネルギ密度が大きくなる)。従って、照射位置が中心部に近い時程テーブル2の位置を高くし、照射位置が外周部に近い時程テーブル2の位置を低くすることにより、上記実施の形態1と同様の作用効果を得ることができる。
【0032】
尚、本実施の形態においては、テーブル2が変位しレーザ装置3は変位しない構成を示したが、テーブル2は変位せずレーザ装置3が変位する構成、又はテーブル2及びレーザ装置3の両方が変位する構成であっても、上記と同様の作用効果を得ることができる。
【0033】
実施の形態3
図16は、本発明の実施の形態3に係るレーザアニール装置31の構成及び動作を示している。当該レーザアニール装置31と上記実施の形態2に係るレーザアニール装置21との相違点は、レーザ装置33及び移動機構34にある。
【0034】
レーザ装置33は、レーザ光12の断面積を任意に変化させることができる照射部35を備えている。また、移動機構34は、テーブル2を平行方向にのみ変位させる。そして、レーザ装置33は、照射位置が対象物11の中心部に近い時程レーザ光12の断面積(照射面積15)を大きくし、照射位置が外周部に近い時程レーザ光12の断面積を小さくする。これにより、上記実施の形態1及び2と同様の作用効果を得ることができる。
【0035】
尚、本実施の形態においては、テーブル2が変位しレーザ装置33は変位しない構成を示したが、テーブル2は変位せずレーザ装置33が変位する構成、又はテーブル2及びレーザ装置33の両方が変位する構成であっても、上記と同様の作用効果を得ることができる。
【0036】
尚、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0037】
1,21,31 レーザアニール装置
2 テーブル
3,33 レーザ装置
4,24,34 移動機構(移動手段)
11 対象物
12 レーザ光
13,35 照射部
15 照射面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物が載置され、前記対象物を回転させるステージと、
照射部からの距離に応じて断面積が変化し前記断面積とエネルギ密度とが反比例するレーザ光を照射するレーザ装置と、
前記ステージに載置された前記対象物と前記照射部との相対的位置関係を変化させる移動手段とを備え、
前記移動手段は、前記レーザ光の前記対象物への照射位置が前記ステージの回転中心から離間するに従って、前記対象物に照射される前記レーザ光の断面積が小さくなるように前記相対的位置関係を変化させる、
レーザアニール装置。
【請求項2】
前記ステージの載置面と前記レーザ光の光軸とが直交せず、
前記移動手段は、前記ステージ又は前記レーザ装置の少なくともどちらか一方を水平方向に変位させる、
請求項1に記載のレーザアニール装置。
【請求項3】
前記ステージの載置面と前記レーザ光の光軸とが略直行し、
前記移動手段は、前記ステージ又は前記レーザ装置の少なくともどちらか一方を垂直方向に変位させる、
請求項1に記載のレーザアニール装置。
【請求項4】
前記レーザ装置は、前記レーザ光の断面積を変化させる手段を備え、
前記移動手段は、前記ステージ又は前記レーザ装置の少なくともどちらか一方を水平方向に変位させる、
請求項1に記載のレーザアニール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−26433(P2013−26433A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159670(P2011−159670)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】