説明

レーザダイオードの制御方法、制御回路、および光送信器

【課題】 製造時の調整が容易に行え、光信号特性を劣化させず、かつ高密度実装を可能にする光送信器のレーザダイオードの制御方法、制御回路、およびその光送信器を提供する。
【解決手段】 LD1は、電流源4によってバイアス電流が付与され、変調回路2によって変調電流が印加されることにより変調光を出力する。LD1の光出力はPD5によって監視され、光出力測定回路6を通してマイクロプロセッサ8に取り込まれる。マイクロプロセッサ8は、LD1の出力光が目標値に一致するようにAPC(自動光出力制御)によりバイアス電流を調整し、更に、LD1のスロープ効率またはその相当量に基づいて、光変調振幅OMAまたは消光比が所定の値に一致するように、スロープ効率に応じてAAC(自動光変調振幅制御)により変調電流Imを調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザダイオード(LD:Laser Diode)の制御方法、制御回路、および光送信器に関し、特に、LDの温度変化および経時変化に対応可能なレーザダイオードの制御方法、制御回路、および光送信器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信に用いられる光送信器は、バイアス電流および変調電流に応じた強度で光出力する光源と、送信信号に基づいて変調電流を生成する変調回路とを備えており、外部機器から与えられた送信信号(ここでは、論理“1”、“0”に対応する電圧を有するデジタル信号をいう。)を差動増幅および緩衝増幅し、その差動増幅信号の一方または両方を光源であるレーザダイオードに印加すると、送信信号の“1”、“0”に対応して光出力強度が“1”レベルと“0”レベルとの間で強弱変化する光送信信号が得られる。
【0003】
光送信器では良好な識別感度が得られるように、OMA(Optical Modulation Amplitude:光変調振幅)および消光比をできるだけ大きくするLD制御が求められる。OMAおよび消光比は光信号の識別感度に関する量であり、OMAは光出力の“1”レベルと“0”レベルの差、消光比は光出力の“1”レベルと“0”レベルの比である。
【0004】
しかし、光信号の伝送速度が速くなると、消光比が大き過ぎた場合、LDの発振が追随できず、波形が劣化し、光送信信号のジッタが増大する。また、既設のシングルモードファイバーを用いて高速および長距離の伝送を行う場合、消光比が大き過ぎると、LDの発振波長の過渡的変動(チャープ: chirp)を引き起こし、光ファイバの分散特性によって長距離伝送後の波形が劣化し、かえって識別感度を悪くする。したがって、高速あるいは長距離伝送を行う光送信器においては、正確な消光比制御が要求される。
【0005】
一方、LDは、温度変化および経時変化にともない、その発振閾値電流およびスロープ効率が変化する特性を持っている。発振閾値電流の変化による光出力強度の変化と、スロープ効率の変化によるOMAおよび消光比の変化を発生するため、バイアス電流および変調電流の制御が必要である。
【0006】
図6は、LDの印加電流と光出力強度の関係を示す。図6に示すように、LDに印加される直流電流(印加電流I)が、発振閾値Ithを超えるとLDが発光する。さらに、印加電流Iを大きくしていくと、光出力強度Pは印加電流Iに対して線形に増大する。この線形部分の傾きη(η=光出力強度P/印加電流I)をLDのスロープ効率という。図6に示すように、LDにバイアス電流Ibおよび変調電流Imを印加すると、変調された光出力が得られる。このIbおよびImの値は、所定の光出力とOMAまたは消光比が得られるように設定される。
【0007】
図7は、LDの温度変化および経時変化(印加電流と光出力強度の関係)を示す。図7のように、発振閾値Ithおよびスロープ効率ηは、温度変化および経時変化によって変化する。図7は、温度変化または経時変化によって、IthがIth′に増加すると共にηがη′に小さくなるように変化したとき、その変化に応じてバイアス電流IbをIb′に増大させると共に変調電流ImをIm′に増大させなければ、所定の光出力とOMAまたは消光比を得ることができないことを示している。
【0008】
LDの光出力強度の変化を避けるためのバイアス電流の制御には、光出力をモニタし、バイアス電流にフィードバックをかけるAPC(Automatic Power Control :自動光出力制御)が用いられる。OMAまたは消光比の変化を避けるための手段として、以下のものがある。
【0009】
(1)温度センサを使用してLDの周囲温度を測定し、その周囲温度に応じて変調電流を制御する構成(例えば、特許文献1参照。)。
【0010】
(2)光出力をモニタするPD(フォトダイオード)の光電流から、ピークホールド回路等を用いてOMAまたは消光比を測定し、変調電流にフィードバックをかける構成(例えば、特許文献2参照。)。
【0011】
(3)バイアス電流または変調電流に、低周波数のRF信号を重畳し、光出力をモニタするPDの光電流からRF信号成分のみを抽出し、OMAまたは消光比等を測定し、変調電流にフィードバックをかける構成(例えば、特許文献3参照。)。
【0012】
(4)バイアス電流および変調電流の変動量から、OMAまたは消光比が一定になるようなバイアス電流または変調電流を予測し、変調電流にフィードフォワードをかける方法。この方法は、LD特性の変化によるバイアス電流および変調電流の変化は、その原因が温度変化または経時変化のどちらであっても、同じ変化をするという統計的予測に基づいており、具体的には、バイアス電流の変動量と変調電流の変動量との比が一定になるような制御を行い、製造時にその比を設定する。或いは、製造時に周囲温度を変化させて、OMAまたは消光比が一定になるようなバイアス電流および変調電流のデータを取り、そのデータに基づいて制御を行うものである。
【0013】
前記(1)は、最も簡易に構成でき、広く利用されている方法である。また、前記(2)は、直接消光比を測定するため、確実に消光比を制御できる。更に、前記(3)は、PDの応答速度に対応できる低周波数のRF信号を用いるため、光出力のピーク値をとらえることができる。
【特許文献1】特開2002−111120号公報([0030]〜[0050]、図1、図2)
【特許文献2】特開2001−352125号公報([0025]〜[0038]、図1〜図3)
【特許文献3】特開2003−169022号公報([0018]〜[0020]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、従来のレーザダイオードの制御方法、制御回路、および光送信器によると、前記(1)は、LD特性の経時変化には対応できず、また、LDの温度特性の個体差が大きいため、製造時の調整が難しい。前記(2)は、伝送信号が高速になると、伝送速度が光出力をモニタするPDの応答速度よりも速すぎ、ピーク検出ができなくなる。また、外付けの回路が増えるため、光送信器を小型化することが難しくなる。
【0015】
前記(3)は、伝送信号に余分な試験信号を重畳するため、光波形の劣化やジッタの増大、発振などのリスクを伴う。また、外付けの回路が増えるため、高密度実装には不向きである。更に、前記(4)は、経時変化に対する保証が統計的なものにとどまるほか、LDの特性のばらつきのため、製造時の調整にかかる負荷が大きい。
【0016】
したがって、本発明の目的は、製造時の調整が容易に行え、光信号特性を劣化させず、かつ高密度実装を可能にする光送信器のレーザダイオードの制御方法、制御回路、および光送信器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、前記の目的を達成するため、第1の特徴として、レーザダイオードにバイアス電流および変調電流を印加して前記レーザダイオードの光出力を変調すると共に、前記レーザダイオードの光出力と、光変調振幅または消光比とを制御するレーザダイオードの制御方法において、前記レーザダイオードの光出力を測定する第1の工程と、前記光出力が所定の値に一致するようにバイアス電流を調整するAPC(自動光出力制御)を行うと共に、スロープ効率または前記スロープ効率の相当量を測定する第2の工程と、前記光変調振幅または消光比が所定の値に一致するように前記スロープ効率またはその相当量に応じてAAC(自動光変調振幅制御)により前記変調電流を調整する第3の工程とを含むことを特徴とするレーザダイオードの制御方法を提供する。
【0018】
本発明は、前記の目的を達成するため、第2の特徴として、レーザダイオードにバイアス電流および変調電流を印加して前記レーザダイオードの出力を変調するレーザダイオードの制御回路において、受光素子により測定された前記レーザダイオードの光出力が所定の値に一致するようにバイアス電流を調整するAPC(自動光出力制御)部と、前記レーザダイオードのスロープ効率またはその相当量を測定するスロープ効率測定部と、前記光変調振幅または消光比が所定の値に一致するように変調電流を前記スロープ効率測定部による測定結果に応じて調整するAAC(自動光変調振幅制御)部とを備えることを特徴とするレーザダイオードの制御回路を提供する。
【0019】
本発明は、前記の目的を達成するため、第3の特徴として、レーザダイオードと、前記レーザダイオードにバイアス電流を付与する電流源と、前記レーザダイオードに変調電流を印加して前記レーザダイオードの出力を変調する変調回路と、前記レーザダイオードの光出力を測定する光出力測定回路と、前記光出力が所定の値に一致するように前記バイアス電流を調整するAPC(自動光出力制御)、およびレーザダイオードのスロープ効率またはその相当量の測定結果に基づいて、前記光変調振幅または消光比が所定の値に一致するように、前記スロープ効率またはその相当量に応じて変調電流を調整するAAC(自動光変調振幅制御)を行う制御部とを備えることを特徴とする光送信器を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のレーザダイオードの制御方法によれば、光出力の測定結果をフィードバックしてレーザダイオードのバイアス電流を制御すると共に、スロープ効率またはその相当量に基づいて変調電流を調整するようにしたので、製造時の調整が容易に行え、光信号特性の劣化を防止することができる。
【0021】
また、本発明のレーザダイオードの制御回路および光送信器によれば、光出力の測定結果をフィードバックしてレーザダイオードのバイアス電流を制御すると共に、スロープ効率またはその相当量に基づいて変調電流を調整するようにしたので、製造時の調整が容易に行え、光信号特性が劣化するのを防止でき、しかも高密度実装が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を基に説明する。
[第1の実施の形態]
(光送信器の構成)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る光送信器の構成を示す。
光送信器100は、バイアス電流および変調電流に応じた強度で発光したレーザ光を光導波路等へ出射するLD(レーザダイオード)1と、LD1に印加する変調電流を生成する変調回路2と、変調回路2に電流を印加する電流源3と、LD1にバイアス電流を印加する電流源4と、LD1の後方出力と光結合され、LD1の光出力をモニタする受光素子としてのPD(フォトダイオード)5と、光出力測定回路6と、周囲温度を測定する温度測定回路7と、プログラムを内蔵した制御部としてのマイクロプロセッサ8と、前記プログラムのほか、光出力およびOMAの目標値が格納されると共にマイクロプロセッサ8に接続された不揮発性メモリ9と、電流源3とマイクロプロセッサ8との間に接続されたD/A変換器10と、電流源4とマイクロプロセッサ8との間に接続されたD/A変換器11と、光出力測定回路6とマイクロプロセッサ8との間に接続されたA/D変換器12と、温度測定回路7とマイクロプロセッサ8との間に接続されたA/D変換器13と、トランジスタ2bのコレクタとLD1との間に接続されたコンデンサ14とを備える。
【0023】
LD1は、コンデンサ14により変調回路2に交流結合され、変調回路2による変調電流がLD1に印加される。このコンデンサ14からの変調電流が図6に示した変調電流Imになり、LD1からは変調された光出力が発生し、光導波路等に入射される。
【0024】
LD1による光出力の論理“1”レベルをP1、“0”レベルをP0とすると、LD1の光出力の平均値はP1とP0の和の1/2であり、OMAおよび消光比はそれぞれ、P1とP0の差および比である。したがって、光出力の平均値とOMAが与えられれば、消光比は一意に決まるため、光出力とOMAを制御することで消光比も制御することができる。
【0025】
変調回路2は、一対のトランジスタ2a,2bと、それぞれのコレクタと電源Vsの間に接続された抵抗2c,2dと、入力端子2e,2fとを備え、外部から入力端子2e,2fに与えられた送信信号S1,S2に基づいてトランジスタ2a,2bがスイッチングされることにより、LD1に印加する変調電流がトランジスタ2bのコレクタから出力される。
【0026】
光出力測定回路6は、PD5に直列接続されたコンデンサ6aと、このコンデンサ6aに並列接続された抵抗6bとを備え、PD5の光電流出力を積分してLD1の光出力の平均値を生成し、その結果をA/D変換器12に印加する。
【0027】
温度測定回路7は、電源Vsに接続された電流源7aと、この電流源7aに直列接続されたサーミスタ7bとを備える。サーミスタ7bは、設置雰囲気の温度に応じて抵抗値が変化し、その抵抗値に応じた端子電圧を温度検出値として生成する。
【0028】
マイクロプロセッサ8は、例えば、CPUを用いて構成されると共に、光出力測定回路6および温度測定回路7によって測定された値に基づいて、電流源3,4の制御、変調電流およびバイアス電流の制御を、不揮発性メモリ9に格納されたプログラムに従って実行する。
【0029】
この第1の実施の形態の動作は、次に説明する第2の実施の形態と同じであるので、図2を参照して第2の実施の形態と共に説明する。
【0030】
[第2の実施の形態]
(レーザダイオードの制御方法)
図2は、本発明の第2の実施の形態に係るレーザダイオードの制御方法、および第1の実施の形態の光送信器の動作を示し、その実行はマイクロブロセッサ8によってなされる。なお、同図中、Sはステップを表している。
【0031】
また、図3は、光出力およびバイアス電流の変動量とスロープ効率との関係を示す特性図である。図1〜図3を参照してレーザダイオードの制御方法およびマイクロプロセッサの動作を説明する。
【0032】
本実施の形態においては、発振閾値Ithおよびスロープ効率ηの温度変化および経時変化に応じて、光出力およびOMA(光変調振幅)の自動制御が行われる。まず、マイクロプロセッサ8は、バイアス電流Ibおよび変調電流Imの各初期値を出力し、電流源3,4を制御する(S201)。これらの初期値は、LD1が過度の強度で発光し、対向の光受信機の受光素子が破壊するのを防止するため、なるべく小さな値にする。具体的には、光送信器100の動作温度範囲の最低温度におけるときの電流の半分程度の値でよい。LD1の個体差により、これらの値は異なるが、個別に調整する必要はなく、LD1のデータシート、設計値等から最も小さい駆動条件を算出すればよい。なお、これらの初期値は、予め不揮発性メモリ9に書き込まれている。
【0033】
一方、光出力測定回路6によって光出力が測定され(第1の工程)、その測定値はA/D変換器12によってデジタル値に変換され、マイクロプロセッサ8に取り込まれる。マイクロプロセッサ8は、前記初期値とA/D変換器12の出力とに基づいて、光出力の平均値が予め設定された目標値に一致するように、その測定値をフィードバックし、バイアス電流を制御するAPC(自動光出力制御)を実行する(S202;第2の工程)。なお、光出力の目標値は、予め不揮発性メモリ9に書き込まれている。
【0034】
このAPCの実行過程において、マイクロプロセッサ8は、光出力測定回路6による光出力強度Pと印加電流Iとから、LD1のスロープ効率ηを測定する(S202;第2の工程)。この工程で、APCの実行過程における光出力の測定値の変動量ΔPとバイアス電流の変動量ΔIbが得られる。図3に示すように、LD1のIthおよびηが破線で示す特性から、実線で示す特性に変化し、APCを行う前に光出力がΔPだけ減少すると、光出力を目標値に一致させるために、APCによってバイアス電流はΔIbの増加がなされる。このとき、ΔPとΔIbの比、ΔP/ΔIbがスロープ効率ηになるので、容易にηを算出することができる。
【0035】
次に、マイクロプロセッサ8は、S202で得られたスロープ効率ηに基づいてAAC(自動光変調振幅制御)を実行する(S204;第3の工程)。このAACは、予め設定されたOMAの目標値と一致するように、変調電流Imをηに基づいて算出することにより行われる。具体的には、OMAとImの比がηであるから、OMAが一定のとき、Imはηに反比例する。したがって、OMAの目標値とηの比はImになる。なお、OMAの目標値は、不揮発性メモリ9に予め書き込まれている。
【0036】
次に、マイクロプロセッサ8は、光出力測定回路6によって測定された光出力の測定値をチェックする(S205)。LD1の特性が、温度変化または経時変化によって変化し、その測定値が光出力の目標値と一致しない場合、処理をS202に戻し、光出力の測定値が目標値と一致するまで、APCおよびAACを繰り返し実行する。これにより、温度変化および経時変化に応じたLD制御を行うことができる。光出力=目標値であれば、S204の結果を維持する。
【0037】
(光出力およびOMAの目標値の決定方法)
次に、前記光出力およびOMAの目標値の決定方法について説明する。LD1の後方出力とPD5の光結合効率は、一般的に、組み立ての際にばらつきが生じる。そのため、光出力およびOMAの目標値を個別に調整する必要がある。しかし、組立工程において、LD1の前方出力と光導波路とを光結合させるために調芯する際、PD5の光電流も同時に測定することができるため、LD1の前方出力とPD5の光電流の比を予め知ることができる。この比を用いて光出力およびOMAの目標値を算出すればよい。
【0038】
LD1の前方出力とPD5の光結合効率が、温度によって変動することがしばしば発生する。光結合効率の変動量は、一般に、25〜70℃において±0.5dB程度である。高い精度で制御したい場合は、恒温槽などを用い、必要な温度範囲において周囲温度をスイープさせ、LD1の前方出力とPD5の光電流との比の温度特性データを測定する。それらのデータから、各温度における光出力およびOMAの目標値を算出し、目標値のテーブルをそれぞれ作成し、不揮発性メモリ9に記憶する。このとき、S202およびS204における処理は、温度測定回路7で測定された温度を読み込み、テーブルからその温度に対応する目標値を取得する。
【0039】
(第1および第2の実施の形態の効果)
この第1および第2の実施の形態によれば、APCによりバイアス電流を調整すると共に、スロープ効率ηまたはその相当量に基づいてAACによりOMAまたは消光比を所定の値になるようにすることにより、LD1の温度特性の個体差によらず製造時の調整が容易に行え、光信号特性の劣化を防止することができる。
【0040】
更に、発振閾値Ithおよびスロープ効率の温度変化および経時変化に応じて、光出力およびOMAの自動制御を行うようにしたので、LD特性の経時変化に対応することが可能になる。
【0041】
[第3の実施の形態]
(レーザダイオードの制御方法)
図4は、本発明の第3の実施の形態に係るレーザダイオードの制御方法を示す。同図中、Sはステップを表している。本実施の形態は、第2の実施の形態におけるS201およびS202の処理が異なる他は、第2の実施の形態と同じである。図4における処理も不揮発性メモリ9に格納されたプログラムに従ってマイクロプロセッサ8が実行する。
【0042】
マイクロプロセッサ8は、S201の処理を実行後、APCを行うと共に、光出力の変動に伴って変化したバイアス電流の変動量ΔIbをηの相当量としてΔIb測定をする(S202)。次に、ΔP(光出力の変動量)=ΔPs(設定値)か否かを判定する(S301)。光出力測定回路6で測定されたΔPが予め決められたΔPsになったとき、マイクロプロセッサ8の処理はS204へ移行する。S204の処理においては、測定されたΔIbに比例した変調電流Imを出力する。その後、光出力が目標値になるまで、以上のシーケンスが繰り返し実行される。なお、ImとΔIbの比例定数は、目標とするOMAとΔPsの比、OMA/ΔPs=Im/ΔIbであり、予め不揮発性メモリ9に格納されている。
【0043】
さらに、マイクロプロセッサ8は、光出力測定回路6によって測定された光出力の測定値を監視し続け(S205)、LD1の特性が、温度変化または経時変化によって変化し、その測定値が光出力の目標値と一致しない場合は処理をS202に戻し、光出力の測定値が目標値と一致するまで、APCおよびAACを繰り返し実行する。これにより、温度変化および経時変化に応じたLD制御を行うことができる。光出力=目標値であれば、S204の結果を維持する。
【0044】
(第3の実施の形態の効果)
この第3の実施の形態によれば、前記した第1および第2の実施の形態と同様の効果が得られるほか、マイクロプロセッサ8の処理にかかる時間を軽減することができる。
【0045】
[第4の実施の形態]
(制御回路の構成)
図5は、本発明の第4の実施の形態に係るレーザダイオードの制御回路を示す。本実施の形態は、図1の第1の実施の形態において、マイクロプロセッサ8に代えて、スロープ効率測定部15と、APC(自動光出力制御)部16と、AAC(自動光変調振幅制御)部17と、これらのほか不揮発性メモリ9および温度測定回路7に接続されて全体を管理する制御部18とを設け、制御回路500を構成したものである。他の構成は、図1の第1の実施の形態と同様である。従って、図5においては、図1に示したと同一であるものには同一引用数字を用いると共に、重複する説明は省略する。
【0046】
スロープ効率測定部15は、LD1のスロープ効率またはその相当量を測定し、制御部18へ出力する。APC部16は、光出力測定回路6による光出力を所定の値に一致するようにバイアス電流を調整する。AAC部17は、光変調振幅または消光比が所定の値に一致するように変調電流をスロープ効率測定部15による測定結果に応じて調整する。なお、これらの機能をマイクロプロセッサ8に持たせる構成にすることも可能である。その場合の構成は、図1と同じになる。
【0047】
(第4の実施の形態の動作)
第4の実施の形態による制御は、図2および図4で説明した通りである。図2の制御による場合、S202の処理がAPC部16によって行われ、S203の処理がスロープ効率測定部15によって行われ、その測定結果は制御部18を介して不揮発性メモリ9に記憶され、必要時に読み出されてAAC部17に供与される。また、S204の処理がAAC部17によって行われる。その他の制御は、制御部18によって実行される。また、図4の制御による場合、S301、S302の処理がスロープ効率測定部15によって行われる。他は、図2の制御と同じである。
【0048】
(第4の実施の形態の効果)
この第4の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、APC部16によりバイアス電流を調整し、スロープ効率またはその相当量に基づいてAAC部17により光変調振幅間または消光比を所定の値になるようにすることにより、LD1の温度特性の個体差によらず製造時の調整が容易に行え、光信号特性の劣化を防止することができる。
【0049】
更に、発振閾値Ithおよびスロープ効率の温度変化および経時変化に応じて、光出力およびOMAの自動制御を行うようにしたので、LD特性の経時変化に対応することが可能になる。
【0050】
[他の実施の形態]
前記実施の形態においては、LD1と変調回路2のトランジスタ2bとをコンデンサ14による交流結合にしたが、両方のトランジスタと交流結合する差動駆動方式としてもよい。また、LD1と変調回路2との結合は、交流結合に代えて直流結合とすることも可能である。
【0051】
また、第1の実施の形態においては、マイクロプロセッサ8を用いてLD1のAPCおよびAACを行ったが、これに限るものではない。例えば、論理回路、アナログ演算回路、および各種の半導体素子を用いて構成してもよい。
【0052】
また、第2の実施の形態においては、S204のAACを行うに際しては、変調電流Imの変動が大きい場合、チャープの増大を防ぐために、例えば、計算で得られた変調電流Imの1/10ずつの変化としてもよい。
【0053】
更に、前記各実施の形態においては、光出力およびOMA(光変調振幅)を一定にする制御を行ったが、或る状態に応じて光出力またはOMAの目標値を変化させる制御を行っても良い。例えば、温度や信号の伝送速度の状態、あるいは温度やバイアス電流、変調電流が所定の閾値を超えた状態、信号無入力状態等に応じて、目標値を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る光送信器の回路図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係るレーザダイオードの制御方法および第1の実施の形態の動作を示すフローチャートである。
【図3】光出力およびバイアス電流の変動量とスロープ効率との関係を示す図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係るレーザダイオードの制御方法を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第4の実施の形態に係るレーザダイオードの制御回路の構成を示す回路図である。
【図6】レーザダイオードの印加電流と光出力強度の関係を示す特性図である。
【図7】レーザダイオードの温度変化および経時変化を示す特性図である。
【符号の説明】
【0055】
1 LD(レーザダイオード)
2 変調回路
2a,2b トランジスタ
2c,2d 抵抗
2e,2f 入力端子
3,4 電流源
5 PD(フォトダイオード)
6 光出力測定回路
6a コンデンサ
6b 抵抗
7 温度測定回路
7a 電流源
7b サーミスタ
8 マイクロプロセッサ
9 不揮発性メモリ
10,11 D/A変換器
12,13 A/D変換器
14 コンデンサ
15 スロープ効率測定部
16 APC部
17 AAC部
18 制御部
100 光送信器
500 制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザダイオードにバイアス電流および変調電流を印加して前記レーザダイオードの光出力を変調すると共に、前記レーザダイオードの光出力と、光変調振幅または消光比とを制御するレーザダイオードの制御方法において、
前記レーザダイオードの光出力を測定する第1の工程と、
前記光出力が所定の値に一致するようにバイアス電流を調整するAPC(自動光出力制御)を行うと共に、スロープ効率または前記スロープ効率の相当量を測定する第2の工程と、
前記光変調振幅または消光比が所定の値に一致するように前記スロープ効率またはその相当量に応じてAAC(自動光変調振幅制御)により前記変調電流を調整する第3の工程とを含むことを特徴とするレーザダイオードの制御方法。
【請求項2】
前記第1の工程は、前記レーザダイオードの光出力を受光素子により測定し、
前記第3の工程は、前記受光素子の光電流および前記レーザダイオードの設置雰囲気の温度検出値に基づいて、前記光出力の所定の値および前記光変調振幅の所定の値を変化させることを特徴とする請求項1記載のレーザダイオードの制御方法。
【請求項3】
前記第2の工程における前記光出力の変動量と前記バイアス電流の変動量の比を前記スロープ効率とすることを特徴とする請求項1記載のレーザダイオードの制御方法。
【請求項4】
前記第3の工程は、前記スロープ効率またはその相当量に反比例した変調電流が出力されるように前記AACを実行することを特徴とする請求項1記載のレーザダイオードの制御方法。
【請求項5】
前記第3の工程は、前記APCの実行過程における前記光出力の変動量が予め定められた値に達したとき、前記バイアス電流の変動量を前記スロープ効率の相当量とし、前記スロープ効率の相当量に比例した変調電流を出力して前記AACを行うことを特徴とする請求項1記載のレーザダイオードの制御方法。
【請求項6】
レーザダイオードにバイアス電流および変調電流を印加して前記レーザダイオードの出力を変調するレーザダイオードの制御回路において、
受光素子により測定された前記レーザダイオードの光出力が所定の値に一致するようにバイアス電流を調整するAPC(自動光出力制御)部と、
前記レーザダイオードのスロープ効率またはその相当量を測定するスロープ効率測定部と、
前記光変調振幅または消光比が所定の値に一致するように変調電流を前記スロープ効率測定部による測定結果に応じて調整するAAC(自動光変調振幅制御)部とを備えることを特徴とするレーザダイオードの制御回路。
【請求項7】
前記AAC部は、前記スロープ効率測定部で測定されたスロープ効率またはその相当量に反比例した変調電流を出力することを特徴とする請求項6記載のレーザダイオードの制御回路。
【請求項8】
前記スロープ効率測定部は、前記APC部における光出力の変動量とバイアス電流の変動量の比を前記スロープ効率として測定することを特徴とする請求項6または7記載のレーザダイオードの制御回路。
【請求項9】
前記スロープ効率測定部は、前記APCの過程における前記光出力の変動量が予め定められた値に達したとき、前記バイアス電流の変動量を前記スロープ効率の相当量とし、
前記AAC部は、前記相当量に比例した変調電流を出力することを特徴とする請求項6記載のレーザダイオードの制御回路。
【請求項10】
前記AAC部は、前記レーザダイオードの光出力を受光素子により測定した際の前記受光素子の光電流および前記レーザダイオードの設置雰囲気の温度検出値に基づいて、前記光出力の所定の値および前記光変調振幅の所定の値を変化させることを特徴とする請求項6,7または9に記載のレーザダイオードの制御回路。
【請求項11】
レーザダイオードと、
前記レーザダイオードにバイアス電流を付与する電流源と、
前記レーザダイオードに変調電流を印加して前記レーザダイオードの出力を変調する変調回路と、
前記レーザダイオードの光出力を測定する光出力測定回路と、
前記光出力が所定の値に一致するように前記バイアス電流を調整するAPC(自動光出力制御)、およびレーザダイオードのスロープ効率またはその相当量の測定結果に基づいて、前記光変調振幅または消光比が所定の値に一致するように、前記スロープ効率またはその相当量に応じて変調電流を調整するAAC(自動光変調振幅制御)を行う制御部とを備えることを特徴とする光送信器。
【請求項12】
前記制御部は、前記スロープ効率またはその相当量に反比例した変調電流を生成して前記AACを行うことを特徴とする請求項11記載の光送信器。
【請求項13】
前記制御部は、前記光出力の変動量と前記バイアス電流の変動量の比を前記スロープ効率として用いることを特徴とする請求項11または12記載の光送信器。
【請求項14】
前記制御部は、前記APCの実行過程にあって、前記光出力の変動量が予め定められた値に達したとき、前記バイアス電流の変動量を前記スロープ効率の相当量として測定し、前記相当量に比例した変調電流を生成して前記AACを行うことを特徴とする請求項11記載の光送信器。
【請求項15】
前記レーザダイオードの光出力を測定する受光素子を備え、
前記制御部は、前記受光素子の光電流および前記レーザダイオードの設置雰囲気の温度検出値に基づいて、前記光出力の所定の値および前記光変調振幅の所定の値を変化させることを特徴とする請求項11,12または13記載の光送信器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−13252(P2006−13252A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190371(P2004−190371)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】