説明

レーザーパワーセンサ

【課題】レーザーパワーセンサにおいて、単純な構成で応答速度が速く、長時間使用しても測定精度の良い熱型センサを提供する。
【解決手段】レーザー光の出力を測定するレーザーパワーセンサであって、一方の主面でレーザー光を受光する面状の光吸収体と、光吸収体の主面と背向する面に接して配設された熱伝導体と、熱伝導体に接するように配設された温度検出用のサーモパイルとからなる光検出部を有する。サーモパイルは、基板上に、直列に接続された複数の薄膜熱電対と、薄膜熱電対で発生する電圧を出力する導線を接続するためのコネクタ部と、薄膜熱電対上に積層された保護膜を有する。複数の薄膜熱電対は、基板上の略中央領域に一定の間隔を置いて配設された温接点と、基板上の略外周領域に一定の間隔を置いて配設された冷接点を有し、温接点は、熱伝導体に保護膜を介して接していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーパワーセンサに係り、特に、熱型センサを備えたレーザーパワーセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療機器、通信機器、精密機器、分析機器、半導体・液晶等の分野において、レーザー装置の導入や普及が進んでおり、その用途やレーザー光源の種類も多岐にわたっている。例えば、医療機器分野ではレーザーメス等の治療器具、また、半導体・液晶分野ではレーザー加工機等のレーザー装置が使用されており、今後もレーザー装置の需要は増加すると予想されている。
このようなレーザー装置の構成要素として、レーザーパワーセンサは必須の構成要素の一つである。レーザーパワーセンサは、レーザー装置内で光源より照射されるレーザー光のパワー測定を行うために必要とされ、レーザー装置を安全且つ有効に使用するために不可欠な構成部品である。
【0003】
レーザーパワーセンサは主として二種類に大別され、一方は、レーザー光を熱に変換して温度上昇を測定する熱型センサ、もう一方は結晶の温度変化に伴う焦電効果を利用した焦電型センサとして知られている。しかし、焦電型センサは、変化量に対応した出力電圧を信号として得るという原理から、変化量が小さい場合の長時間の測定には適しておらず、熱形センサが主流となっている。この熱型センサには、熱電対を用いたサーモパイルが備えられているのが一般的であり、このサーモパイルにおいて、レーザー光により与えられた熱エネルギーを電気エネルギーに変換し、その結果、レーザー光のパワーを測定することができる。
【0004】
サーモパイルには、複数の熱電対からなる熱電対列が搭載されている。これは、単独の熱電対を用いた場合、十分な大きさの熱起電力が得られないためである。これら複数の熱電対は直列、あるいは並列に接続して形成することが可能であるが、直列に接続した場合には出力電圧を増大させることができるため、感度が良い測定が可能となる。さらに熱電対を直列に接続した場合、温度を空間的に平均化することができる。したがって、サーモパイルにおいては、熱電対を直列に接続したものが一般的に用いられている。また、サーモパイルは常温で動作し、レーザー光の入射エネルギー量に応じた電圧出力が得られ、比較的長寿命であるという利点を有している。さらに、測定波長に依存しない分光感度特性を有するため、様々な用途で用いることができる。
【0005】
サーモパイルを用いる熱型センサに関し、特許文献1では、サーモパイルに直接レーザー光を照射する技術が提案されている。また、特許文献2では、熱容量の大きな光吸収体でレーザー光を吸収し、光吸収体の温度上昇を測定する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭64−71192号公報
【特許文献2】特開2003−294526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に熱型センサは、レーザー光が入射しはじめてから出力が安定するまでに時間を要するため、応答速度が遅いという問題がある。応答速度に関し、特許文献1では、レーザー光を直接サーモパイルに照射するため、レーザー光による温度変化に対し応答が速く、比較的有利である。しかし、レーザー光を直接照射する場合、サーモパイルに多大なエネルギーが吸収されることになるため、長時間の連続測定においては、特定箇所の異常過熱による故障等が発生しやすく、測定精度が低下するという問題がある。
【0008】
これに対し、特許文献2では熱容量の大きな光吸収体(受光板)を設置し、複数の温度検出手段を用いて受光板の裏側の温度を検出し、その出力差分を考慮することにより、精度良くレーザーパワーを測定する技術が提案されている。この技術は熱型センサを用いる際に伴う応答速度低下という問題点を、温度検出位置と演算方法の工夫で解消したものといえるが、感度補正等の演算部分が複雑になるという問題点がある。
【0009】
上述のように、熱型センサを用いたレーザーパワーセンサにおいて、応答性を向上させるためにサーモパイルに直接レーザー光を入射する場合、サーモパイルの損傷が生じやすい。一方、レーザー光を光吸収体で吸収する構成とした場合、応答性が低下する、という問題点がある。
【0010】
さらに、測定するレーザーパワーが数Wという比較的大きなエネルギーを有する場合、発生熱量が大きいため、サーモパイルに備えられた薄膜熱電対の冷接点周囲まで熱が伝導しやすくなり、その結果、測定精度が悪くなるという問題点が挙げられる。
【0011】
本発明の目的は、レーザーパワーセンサにおいて、簡単な構成で応答速度が速い熱型センサを提供することにある。また、本発明の他の目的は、レーザーパワーセンサにおいて、長時間使用しても測定精度の良い測定を行うことができる熱型センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題は、本発明に係るレーザーパワーセンサによれば、レーザー光の出力を測定するレーザーパワーセンサであって、一方の主面でレーザー光を受光する面状の光吸収体と、該光吸収体の前記主面と背向する面に接して配設された熱伝導体と、該熱伝導体に接するように配設された温度検出用のサーモパイルと、からなる光検出部と、を有し、前記サーモパイルは、基板上に、直列に接続された複数の薄膜熱電対と、該薄膜熱電対で発生する電圧を出力する導線を接続するためのコネクタ部と、前記薄膜熱電対上に積層された保護膜と、を有し、前記複数の薄膜熱電対は、基板上の略中央領域に一定の間隔を置いて配設された温接点と、基板上の略外周領域に一定の間隔を置いて配設された冷接点と、を有し、前記温接点は、前記熱伝導体に前記保護膜を介して接していること、により解決される。
【0013】
このように、薄膜熱電対を搭載したサーモパイルは、熱容量が小さいため、レーザーパワーセンサの応答速度を向上させることができる。さらに光検出部に熱伝導体を備え、光吸収体から薄膜熱電対の温接点までの熱伝導速度を速くすることにより、レーザーパワーセンサの応答速度を向上させることができる。また、光検出部に光吸収体及び熱伝導体を備えているため、サーモパイルに直接過大なエネルギーが吸収されることがない。さらに、光検出部に、光透過窓、キャン及びステム等の容器を備えておらず、単純な構成としているため、レーザー光により得られたエネルギーを効率よく放出することができる。したがって、長時間安定したレーザーパワー測定を行うことができる。
【0014】
このとき、請求項2のように、前記光検出部において、前記熱伝導体が、前記薄膜熱電対の冷接点と接触することなく配置されていると好適である。
このように薄膜熱電対の冷接点が、光吸収体にレーザー光が入射することにより発生した熱を、熱伝導体を介して受け取ることがないため、冷接点と温接点の温度差が明確になりやすく、精度の高いレーザーパワー測定を行うことができる。また、冷接点と熱伝導体が接触することがないため、レーザー光により発生した熱が冷接点まで伝導しにくく、したがって冷接点温度を別途管理することが容易となる。
【0015】
また、請求項3のように、前記光検出部において、前記薄膜熱電対の冷接点及び前記サーモパイルの基板の外周部を覆う位置に配設されたヒートシンクを備えていると好ましい。
このとき、薄膜熱電対の冷接点部の温度を均一に保つことができ、光吸収体にレーザー光が吸収された際に発生する熱が冷接点へ伝導することがないため、温接点との温度差を大きくすることができ、その結果、精度の高いレーザーパワー測定を行うことができる。
【0016】
さらにまた、請求項4のように、前記薄膜熱電対の冷接点近傍において、複数の冷接点間の基板に均等な形状のスリットを有していると好ましい。
このとき、薄膜熱電対の冷接点周囲の熱伝導を抑制し、且つ放熱効率を良くすることができるので、測定精度を向上させることができる。また、スリット形状を均一にすることにより、放熱特性も均一とすることができるため、冷接点温度を均一に制御しやすい。
【0017】
また、請求項5のように、前記光検出部において、前記熱伝導体の外周部に、ヒートシンクを有していると好適である。
このとき、光吸収体により発生した熱は、熱伝導体を通して薄膜熱電対の温接点に伝導し、熱伝導体の外周方向に流れ、ヒートシンクから速やかに放散される。したがって測定するレーザー光のエネルギーが大きい場合であっても、サーモパイルの温度上昇が極度に大きくなることがないため、精度良く、且つ長時間にわたってレーザーパワー測定を行うことができる。
【0018】
さらにまた、請求項6のように、前記サーモパイルのコネクタ部において、前記導線が、異方性導電体を介して接続されていると好ましい。
このとき、演算部及び演算結果表示部を備えた機器と、光検出部とを接続する金属線を、サーモパイルのコネクタ部に電気的接続を損なうことなく固定することができ、且つ接続部の強度も確保できるため、安定した動作をするレーザーパワーセンサを得ることができる。さらに、異方性導電体を用いてフレキシブルフラットケーブルを接続することができるため、レーザーパワーセンサの内部設計において自由度を確保することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の請求項1のレーザーパワーセンサによれば、サーモパイルに熱容量の小さい薄膜熱電対を搭載することによりレーザーパワーセンサの応答速度を向上させることができる。また、光検出部に光吸収体及び熱伝導体を備えることにより、サーモパイルに直接過大なエネルギーが吸収されることがなく、長時間安定したレーザーパワー測定を行うことができる。
また請求項2の発明によれば、熱伝導体が、薄膜熱電対の冷接点と接触することなく配置されていて、冷接点が光吸収体及び熱伝導体からなる熱源から直接熱伝導を受けることがないため、冷接点と温接点の温度差が明確になりやすく、精度の高いレーザーパワー測定を行うことができる。
さらにまた、請求項3の発明によれば、薄膜熱電対の冷接点及びサーモパイル基板の外周部を覆うようにヒートシンクが配設されているため、薄膜熱電対の冷接点部の温度を均一に保つことができる。また、レーザー光により発生した熱が冷接点へ伝導することがないため、温接点との温度差を大きくすることができ、精度の高いレーザーパワー測定を行うことができる。
さらに請求項4の発明によれば、薄膜熱電対の冷接点近傍の基板に均等な形状のスリットを有するため、薄膜熱電対の冷接点周囲の熱伝導を抑制し、且つ放熱効率を良くすることができるので、測定精度が向上する。また、冷接点温度を均一に制御しやすくすることができる。
また請求項5の発明によれば、熱伝導体の外周部に、ヒートシンクを備えるため、光吸収体により発生した熱が速やかに熱伝導体中を流れてヒートシンクから放散される。したがって測定するレーザー光のエネルギーが大きい場合であっても、サーモパイルの温度上昇が極度に大きくなることがないため、精度良く、且つ長時間にわたってレーザーパワー測定を行うことができる。
さらに請求項6の発明によれば、サーモパイルのコネクタ部において異方接続されるため、接続用の導線と、サーモパイルとを電気的接続を損なうことなく確実に固定することができる。また、導線接続部の強度も確保できるため、導線が脱離しにくく、安定した動作をするレーザーパワーセンサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係るレーザーパワーセンサの概略図である。
【図2】本発明の実施形態1に係るサーモパイルのパターン図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る図1のI−I線に相当する断面図である。
【図4】本発明の実施形態2に係るサーモパイルのパターン図である。
【図5】本発明の実施形態2に係る図1のI−I線に相当する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態に係るレーザーパワーセンサを図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する材料、配置、構成等は、本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
図1乃至図3は本発明の実施形態1に係るもので、図1はレーザーパワーセンサの概略図、図2はサーモパイルのパターン図、図3は本発明の実施形態1に係る図1のI−I線に相当する断面図、図4及び図5は本発明の実施形態2に係るもので、図4はサーモパイルのパターン図、図5は図1のI−I線に相当する断面図である。
【0022】
[実施形態1]
本発明の実施形態1に係るレーザーパワーセンサは、図1に示すように、光検出部D1、演算部C2及び演算結果表示部C4を備えた機器と、これら機器及び光検出部を接続する導線である金属線C1を備えている。光検出部D1はレーザー光を吸収する光吸収体3と、その下部にある熱伝導体13(図3を参照)の外周部に備えられたヒートシンク2を筐体F1に保持されることにより形成されている。さらに光検出部D1は、金属線C1が接続されており、この金属線C1は演算部C2及び演算結果表示部C4を備えた機器に接続されている。なお、演算部C2はCPUを備えており、接続線C3によって演算結果表示部C4と接続されていて、光検出部D1において計測された熱起電力はCPU上で演算・増幅することにより、演算部C2においてレーザー光のパワー値に換算され、演算結果表示部C4にその値が表示される。
【0023】
実施形態1に係るレーザーパワーセンサの光検出部D1には、図2に示すようなサーモパイルS1が備えられている。なお、図2は測定するレーザー光のパワーが比較的小さい時に用いられるサーモパイルS1のパターン図である。サーモパイルS1は、基板1上に、金属薄膜4,5及び5aよりなる直列に接続された複数の薄膜熱電対を備えている。
【0024】
金属薄膜4及び5(5a)はそれぞれ異種材料であり、熱電対の温接点7において接合されている。ただし、金属薄膜5と5aは同種材料とする。温接点7は、金属薄膜4及び5が重なるように接合されている。また、金属薄膜4及び5は、金属薄膜5a上に重なるように接合されていて、金属薄膜4及び5aの接合点を冷接点6とし、金属薄膜4及び5(5a)よりなる熱電対が基板1上に複数組、直列に接続されている。
【0025】
この時、温接点7は基板上の略中央領域に、また、冷接点6は略外周領域に一定の間隔を置いて配設されていれば良く、例えば、薄膜熱電対を十字状に配置してもよいし、図2のように放射状に配置しても良い。ただし、温接点7は光吸収体3及び光吸収体3の下部にある熱伝導体13(図3を参照)に覆われる範囲に配設される。このとき、図2のように放射状に薄膜熱電対を形成すると、各冷接点6及び各温接点7の熱伝導が均一となり易いため、好ましい。また、冷接点6は、図3のように、熱伝導体13と接触することなく配置されており、さらに図2中の一点鎖線で示されるドーナツ形状のヒートシンク2を設置する場合(図3では図示していないが、熱伝導体支持部材14の代わりにヒートシンク2としてもよい)、ヒートシンク2に覆われる位置に配設されると好ましい。なお、この時ヒートシンク2は基板1の外周部を覆うように配設されると好ましい。
【0026】
一般に、レーザー光が温接点7上に形成された光吸収体3(図3を参照)に吸収されて熱に変換され、冷接点6と温接点7に温度差が生じることで薄膜熱電対の電極間に起電力が生じる。ここで、放射率をη、サーモパイルS1の熱電対数をn、ゼーペック係数をα、熱伝導率をG、角周波数をω、熱時定数をtとすると、サーモパイルの感度(Rv)は以下の式(1)で表される。
Rv=η×n×α/G(1+ω1/2 [V/W]・・・(1)
したがって、設置する熱電対の数を増やすことにより、得られる熱起電力が大きくなり、感度の高いレーザーパワー測定が可能となる。
【0027】
光検出部D1と演算部C2及び演算結果表示部C4を備えた機器の接続に関し、図2に示すように、基板1上に備えられたサーモパイルS1は、コネクタ部8上に薄い箔状の金属線9を積層させることにより電気的に接続され、さらに金属線9は、演算部C2に測定された熱起電力を伝達するため、金属線接続部10に接続される。この時、金属線9及び金属線接続部10の接続方法として、ワイヤボンディング、はんだ、レーザー溶接などを用いることができる。
また、コネクタ部8において、金属線9として、フレキシブルフラットケーブル9を用い、さらに異方性導電体(ACF)を用いて、コネクタ部8と接続することもできる。これにより、作業が簡略化されると共に、薄膜熱電対と金属線C1の接続強度を向上させることができるため好ましい。
【0028】
実施形態1は測定するレーザー光のパワーが比較的小さい場合の例であり、用いられる光検出部D1の断面図(図3)を用いて以下詳細に説明する。
熱伝導体13の周囲には筐体F1及び圧着部材16により保持されるため、熱伝導体支持部材14が設置されている。なお、圧着部材16として、筐体F1に圧着できる機能を有する部材を用いることができ、たとえば、ネジ、ボルト・ナット、ばね等を用いることができる。また、サーモパイルS1の外周にはフレーム15が配設され、フレーム15と圧着部材16が接し、圧着部材16がフレーム15を筐体F1に押しつける構造とすることにより、筐体F1にサーモパイルS1が固定される。
【0029】
さらにこの時、サーモパイルS1と熱伝導体13の間に熱伝導性の良い接着剤で接着剤層12を設けると、光吸収体3で発生した熱が、熱伝導体13、さらに接着剤層12を介して伝導しやすくなるため、熱伝導が早くなり、レーザーパワーセンサの応答速度が向上するため好ましい。また、接着剤層12を設けることにより、各部材がより強固に固定されるという効果も得られる。
【0030】
上述の構成のレーザーパワーセンサに対し、レーザー光が入射すると、光吸収体3に吸収され、熱に変換される。光吸収体3の半径方向の熱伝導性が高いほど、光吸収体3の温度が安定するまでの時間が早くなり、応答性が向上する。光吸収体3で発生した熱は、光吸収体3に接する熱伝導体13、さらに熱伝導体13に接する接着剤層12、保護膜17を介して温接点7に到達し、この時、冷接点6と温接点7に温度差が生じることで薄膜熱電対の電極間に起電力が生じる。この起電力を計測、演算処理し、レーザー光のパワー測定を行う。なお、測定するレーザー光のパワーが比較的大きい時には、光吸収体3の温度が上昇し続けてしまうため、ヒートシンク2を備えた構成とし、発生する熱を放散する。
光吸収体3は、光から熱への変換効率の良い材料を熱伝導体13の表面に薄膜状に成膜して形成される。あるいは板状のバルク材を熱伝導体13の上に置く構成でも良い。
【0031】
上述の構成のレーザーパワーセンサは、サーモパイルS1に薄膜熱電対を搭載しているため、金属細線による熱電対を搭載した場合よりも熱容量が小さく、レーザーパワーセンサの応答速度を向上させることができる。また、熱伝導体に金属細線の熱電対を複数個取り付けるよりも、光検出部の組み立て工程を簡素化することができる。
また、熱伝導体13とサーモパイルS1とを別部材として製造することができ、且つ単純な構成のレーザーパワーセンサとなるため、製造工程を簡素化することができる。
【0032】
さらにまた、光検出機器には光透過窓、キャン及びステム等の容器が設けられているのが一般的であるが、上述の構成のレーザーパワーセンサは、光検出部D1に、光透過窓、キャン及びステム等の容器を備えていないため、レーザー光により得られたエネルギーを効率よく放出することができ、且つ製造工程を簡素化することができる。
【0033】
なお、図2のサーモパイルS1を備えた光検出部D1において、図5のようにヒートシンク2を有しても良いし、図4のサーモパイルS2を備えた光検出部D1において、図3のようにヒートシンク2を備えない構造としても良く、測定するレーザー光のパワーに依存して適宜選択される。
【0034】
サーモパイルS1を形成する基板1としては、ガラス、フィルムなどの耐熱性を有し、且つ熱伝導性が低い材料を用いることができる。
ガラス、フィルムは金属などの導電性のある基板のように、絶縁膜を形成する必要がないため、操作が煩雑になることが無く、好適である。また、フィルムはその可撓性により、サーモパイルS1及びS2の強度を高めることができるが、好ましくは熱伝導性の低いポリイミドフィルムを用いるのが良い。ポリイミドフィルムは、折り曲げることが可能で基板を数十ミクロンの厚さにしても壊れにくく取り扱いが容易である点と、200℃を超える温度でも比較的安定している点において、レーザーパワーセンサのサーモパイル基板として適した材料である。
【0035】
金属薄膜4、5及び5aよりなる薄膜熱電対を構成する異種金属の組み合わせとしては、クロメル−アルメル、PtRh−Pt、クロメル−コンスタンタン、ナイクロシル−ナイシル、Cu−コンスタンタン、Fe−コンスタンタン、Ir−IrRh、W−Re、Au−Pt、Pt−Pd、Bi−Sbなどを用いることができる。好ましくは、使用温度範囲が広く、温度と熱起電力の関係が直線的である、クロメル−アルメルの組み合わせを用いるのが良い。
【0036】
金属薄膜4、5及び5aよりなる薄膜熱電対の形成方法としては、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、加熱蒸着法等の真空成膜法や、塗布法等を用いることができる。好ましくは、より薄く均一に薄膜を形成できる真空成膜法を用いるのが良い。さらに好ましくは、蒸着物質との原子組成のずれが少なく、均一に成膜ができるスパッタリング法を用いるのが良い。
【0037】
金属薄膜4、5及び5aよりなる薄膜熱電対は厚さ1〜2μm程度の保護膜17により覆われていることが望ましい。保護膜17は薄膜熱電対の耐環境性を高めると共に、薄膜熱電対が外力により変形した際に懸念されるクラックの発生を防ぐ効果もあるためである。適用可能な保護膜は、SiO、Alなどを蒸着法、スパッタリング法、ディッピング法等により形成した絶縁膜、スクリーン印刷法によるポリイミドフィルムなどである。好ましくは、耐熱性および耐薬品性が高く、接着性の高いポリイミドフィルムを用いるのがよい。
【0038】
接着剤層12の材料は、熱伝導性が高く、絶縁体である材料を用いることができ、例えば、シリコーン系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤等を用いることができる。
【0039】
ヒートシンク2の材料は、熱伝導性の高いアルミニウム、銅、アルミシリコンカーバイド、窒化アルミニウムセラミックス、銅−タングステン合金、銅−モリブデン合金、等を用いることができる。好ましくは、より加工しやすいアルミニウムを用いる。また、ヒートシンク2の表面は黒色または白色アルマイト処理を施すと、さらに優れた放熱効果が得られると共に、その皮膜により強度が向上するため好ましい。
【0040】
本実施形態では、光吸収体3は熱伝導体13の表面に薄膜状に形成する。薄膜を構成する材料としては、金、ニッケル−リン合金、カーボンペースト、白金、窒化アルミニウム、等を用いることができ、測定するレーザー光の波長に依存して、適宜選択される。赤外領域では、金を低真空度で蒸着した黒化金(金黒)が一般的である。
【0041】
熱伝導体13の材料は、熱伝導性の高いアルミニウム、銅、アルミシリコンカーバイド、窒化アルミニウムセラミックス、などのアルミニウム合金、銅−タングステン合金、銅−モリブデン合金、等を用いることができる。
【0042】
図2のサーモパイルS1において、基板1は直径25mmの円板状に成形したポリイミドフィルムを用い、金属薄膜4,5,5aからなる薄膜熱電対はクロメル−アルメルを用い、スパッタリング法により、基板1上に薄膜熱電対を60対、直列に接続されるように形成する。なお、図2では、熱電対の接続状態がわかるよう、数は間引いて図示している。この時、温接点7は中心から0.5mm、冷接点6は中心から10mmの位置に配設する。さらに、薄膜熱電対に基板1とは異なる厚さ1μm程度のポリイミドフィルムを接着し、それを保護膜とする。さらに、コネクタ部8上に、異方性導電体(ACF)、フレキシブルフラットケーブル9をこの順に重ねて150℃程度に加熱して熱圧着する。なお、この時フレキシブルフラットケーブル9は金属線C1に、はんだ等を用いて接続されている。
【0043】
上述のようにして得られたサーモパイルS1の周囲にアルミ製のフレーム15を装着してサーモパイルS1の強度を確保し、筐体F1に収め、圧着部材16としてネジを用いて係止する。この筐体F1は、サーモパイルS1が収まる形状で設計されているほか、ネジ等でフレーム15を圧着できるような凸部を設けている。
【0044】
一方、サーモパイルS1上の温接点7を覆う位置に、直径8mm、厚さ数μmの光吸収体3が表面に成膜された直径10mmの熱伝導体13、及び熱伝導体13の外周に接するように配設された、幅10mmのドーナツ状の熱伝導体保持部材14を備え、一体とした部材を作成する。この時、光吸収体3には金黒の薄膜、熱伝導体13と熱伝導体保持部材14には銅を用いる。
【0045】
次に図3のように、熱伝導体13に、シリコーン系接着剤を塗布し、接着剤層12を介してサーモパイルS1上の温接点7上に熱伝導体13が配設されるように接着する。さらに圧着部材16としてネジを用いて、熱伝導体保持部材14とネジが接するようにして筐体F1に設置する。
上述のようにして得られた光検出部D1は、金属線C1を介して演算部C2及び演算結果表示部C4を備えた機器に接続され、レーザーパワーセンサを得る。
【0046】
[実施形態2]
本発明の実施形態2に係るレーザーパワーセンサは、測定するレーザー光のパワーが比較的大きい時に用いられ、放熱効率を高め、且つ熱伝導を抑制するために設計された箇所以外は、上述の実施形態1(図1)と同様な配置、材料で構成されている。以下、図4及び図5を参照し、実施形態1と比較して異なる点を説明する。
【0047】
本発明の実施形態2に係るレーザーパワーセンサにおいて、光検出部D1には、図4に示すようなサーモパイルS2が備えられている。サーモパイルS2を構成する材料、配置、構成は上述の実施形態1と同様であるが、放熱効率を高めるため、スリット11が設けられる。このスリット11は、基板1において、冷接点6の間に均等な形状で設けられ、冷接点6の近傍の熱伝導を抑制することができる。このスリット11の大きさ、数は、基板1上に設ける薄膜熱電対の組数、大きさに依存し、適当な大きさ、数とする。
さらに、冷接点6は図4のようにヒートシンク2に覆われる位置に配設されると好ましい。なお、この時ヒートシンク2は基板1の外周部を覆うように配設されると好ましい。
【0048】
図5に示す構成のレーザーパワーセンサに対し、レーザー光が入射すると、光吸収体3に吸収され、熱に変換される。光吸収体3の半径方向の熱伝導性が高いほど、光吸収体3の温度が安定するまでの時間が早くなり、応答性が向上する。光吸収体3で発生した熱は、光吸収体3に接する熱伝導体13、に伝導し、その熱の一部はさらに熱伝導体13に接する接着剤層12、保護膜17を介して温接点7に到達するが、残りの熱は熱伝導体13に設置されたヒートシンク2を介して放散される。したがって、測定するレーザー光のパワーが比較的大きい時には、上述の実施形態1(図3)における熱伝導体支持部材14を、図5のようにヒートシンク2とすることにより、放熱効率を高め、光吸収体3の温度上昇を防ぐことができ、その結果、より高いパワーを有するレーザー光の測定を行うことができる。
【0049】
上述のようにして得られた光検出部D1は、金属線C1を介して演算部C2及び演算結果表示部C4を備えた機器に接続されることにより、レーザーパワーセンサを得る。
【0050】
上述のように、本発明の薄膜熱電対を用いたサーモパイルS1またはS2を搭載する光検出部D1を備えたレーザーパワーセンサは、熱容量の小さい薄膜熱電対を用いることにより、応答の速いレーザーパワーセンサとすることができる。また、ヒートシンク2、基板上のスリット11等の放熱効果を高める機構を備えることにより、薄膜熱電対を備えたサーモパイルS1またはS2を用いるレーザーパワーセンサであっても、長時間安定して動作するレーザーパワーセンサとすることができる。さらに、熱伝導体13を、サーモパイルS1またはS2と別部材として作成できる構成のため、製造工程を簡素化することができる。本発明により作製されたレーザーパワーセンサは、医療用レーザー、加工用レーザー等のパワー測定などに有用であると期待される。
【符号の説明】
【0051】
S1,S2 サーモパイル
C1 金属線
C2 演算部
C3 接続線
C4 演算結果表示部
D1 光検出部
F1 筐体
1 基板
2 ヒートシンク
3 光吸収体
4,5,5a 金属薄膜
6 冷接点
7 温接点
8 コネクタ部
9 金属線(フレキシブルフラットケーブル)
10 金属線接続部
11 スリット
12 接着剤層
13 熱伝導体
14 熱伝導体支持部材
15 フレーム
16 圧着部材
17 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光の出力を測定するレーザーパワーセンサであって、
一方の主面でレーザー光を受光する面状の光吸収体と、
該光吸収体の前記主面と背向する面に接して配設された熱伝導体と、
該熱伝導体に接するように配設された温度検出用のサーモパイルと、からなる光検出部と、を有し、
前記サーモパイルは、基板上に、直列に接続された複数の薄膜熱電対と、
該薄膜熱電対で発生する電圧を出力する導線を接続するためのコネクタ部と、前記薄膜熱電対上に積層された保護膜と、を有し、
前記複数の薄膜熱電対は、基板上の略中央領域に一定の間隔を置いて配設された温接点と、基板上の略外周領域に一定の間隔を置いて配設された冷接点と、を有し、
前記温接点は、前記熱伝導体に前記保護膜を介して接していることを特徴とするレーザーパワーセンサ。
【請求項2】
前記光検出部において、前記熱伝導体が、前記薄膜熱電対の冷接点と接触することなく配置されていることを特徴とする請求項1に記載のレーザーパワーセンサ。
【請求項3】
前記光検出部において、前記薄膜熱電対の冷接点及び前記サーモパイルの基板の外周部を覆う位置に配設されたヒートシンクを備えることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザーパワーセンサ。
【請求項4】
前記薄膜熱電対の冷接点近傍において、複数の冷接点間の基板に均等な形状のスリットを有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のレーザーパワーセンサ。
【請求項5】
前記光検出部において、前記熱伝導体の外周部に、ヒートシンクを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のレーザーパワーセンサ。
【請求項6】
前記サーモパイルのコネクタ部において、前記導線が、異方性導電体を介して接続されてなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のレーザーパワーセンサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−261908(P2010−261908A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114793(P2009−114793)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(591124765)ジオマテック株式会社 (35)
【Fターム(参考)】