説明

レーザー光を用いて溶着させる工程を含む複合成形品の製造方法及び複合成形品

【課題】機械的強度が良好でレーザー溶着特性に優れた繊維強化熱可塑性樹脂成形品をレーザー光を用いて溶着させる工程を含む複合成形品の製造方法及び、該製造方法により強固に接着した複合成形品を提供する。
【解決手段】(a)熱可塑性樹脂100重量部に対し、(b)強化繊維10〜150重量部を含有してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)からなる成形品において、その成形品中の(b)強化繊維の重量平均繊維長が0.7〜10mmであることを特徴とするレーザー溶着用繊維強化熱可塑性樹脂成形品と熱可塑性樹脂組成物(B)からなる部材を、レーザー光を用いて溶着させてなる工程を含む複合成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光を用いて溶着させる工程を含む複合成形品の製造方法及び該製造方法により製造された複合成形品に関する。特に、他の樹脂部材とレーザー溶着により強固に接着可能な、レーザー溶着用繊維強化熱可塑性樹脂成形品を用いた製造方法に関する。
【0002】
自動車、電子・電気機器分野の構造部品は、近年、金属製に代わって軽量化可能な熱可塑性樹脂製品が使われるようになってきた。これら構造部品に使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられ、これらの中でも、ポリブチレンテレフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂に代表されるポリエステル樹脂やポリアミド樹脂は、機械的物性、電気特性、耐熱性、寸法安定性、その他の物理的・化学的特性に優れているため、車両部品、電気・電子機器部品、精密機器部品等に幅広く使用されている。近年、その多様な用途の中で、特に、ポリブチレンテレフタレート樹脂が車両電装部品(コントロールユニット等)、各種センサー部品、コネクター部品等の電気回路部分を密封する製品に、ポリアミド樹脂が、例えば、インテークマニホールドのような中空部を有する製品等に展開されてきている。
これらの電気回路部分を密閉する製品や中空部を有する製品では、複数の部材を溶着又は密封することが必要な場合があり、各種溶着・密封技術、例えば、接着剤溶着、振動溶着、超音波溶着、熱板溶着、射出溶着、レーザー溶着技術等が使用されている。
【0003】
しかしながら、接着剤による溶着は、硬化するまでの時間的ロスに加え、周囲の汚染等の環境負荷の問題がある。超音波溶着、熱板溶着等は、振動、熱による製品へのダメージや、摩耗粉やバリの発生により後処理が必要になる等の問題が指摘されている。また、射出溶着は、特殊な金型や成形機が必要である場合が多く、さらに、材料の流動性が良くないと使用できない等の問題がある。
【0004】
一方、レーザー溶着は、レーザー光に対して透過性(非吸収性、弱吸収性とも言う)の樹脂部材と、レーザー光に対して吸収性の樹脂部材とを当接させて溶着させる溶着方法である。これは、透過性の樹脂部材側からレーザー光を接合面に照射して、接合面を形成する吸収性を示す樹脂部材をレーザー光のエネルギーで溶融させ接合する方法である。レーザー溶着は、非圧接で摩耗粉やバリの発生が無く、製品へのダメージも少ないことからレーザー溶着技術による加工が、最近注目されている。
【0005】
また、構造材料として使う場合には、高い剛性を必要とするため、ガラス繊維等のフィラーを添加することによって改良できる。しかしながら、ガラス繊維、ガラスフレーク等のフィラーを添加した場合には、レーザー光の透過率が低下するという問題があり、レーザー光を照射する部材には充填剤の含有量に制約がある等の問題があった。
【0006】
上記の問題を解決するため、ポリブチレンテレフタレート系共重合体を用いて、融点をコントロールして溶着条件幅を広くする方法がある(特許文献1)。この方法だけでは透過率の向上は小さく、製品肉厚設計マージンの向上は期待出来ない。また、ポリブチレンテレフタレート系樹脂に非晶性樹脂やエラストマーを配合する方法が開示されている(特許文献2及び3)。この方法は、透過率が向上する場合もあるが、配合や成形条件で透過率が変動しやすいという問題点がある。
【0007】
第一樹脂部材と第二樹脂部材とを重ね合わせ、該第一樹脂部材側からレーザー光を照射して両者をレーザー溶着するための溶着用材料であって、レーザー光に対して弱吸収性である第一樹脂部材と、レーザー光に対して吸収性である第二樹脂部材からなることを特徴とするレーザー溶着用材料が記載されている。レーザー光に対して弱吸収性である第一樹脂部材の具体例としては、ポリアミド6に変性エチレン・α−オレフィン系共重合体を配合した樹脂組成物が、レーザー光に対して吸収性である第二樹脂部材の具体例としては、ポリアミド6にカーボンブラック0.3重量%を配合した樹脂組成物が記載されている(特許文献4)。
しかしながら、上記特許文献4の樹脂組成物は、機械的強度や剛性が不十分であり、これらの性能が必要とされる用途には使用できなかった。
【0008】
【特許文献1】特許第3510817号公報
【特許文献2】特開2003−292752号公報
【特許文献3】特開2004−315805号公報
【特許文献4】特開2004−148800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、機械的強度が良好でレーザー溶着特性に優れた繊維強化熱可塑性樹脂成形品をレーザー光を用いて溶着させる工程を含む複合成形品の製造方法及び該製造方法により強固に接着した複合成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性樹脂に強化繊維を配合し、同時に、成形品中に残存している強化繊維の繊維長を長く保つこと、具体的には、重量平均繊維長を0.7〜10mmとすることにより、樹脂成形品の透過率と機械的強度(特に、耐衝撃性)が向上し、レーザー溶着特性に優れた熱可塑性樹脂成形品が得られ、その結果、レーザー溶着により強固に接着した複合成形品が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
本発明は、上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)(a)熱可塑性樹脂100重量部に対し、(b)強化繊維10〜150重量部を含有してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)からなる成形品において、その成形品中の(b)強化繊維の重量平均繊維長が0.7〜10mmであることを特徴とするレーザー溶着用繊維強化熱可塑性樹脂成形品と熱可塑性樹脂組成物(B)からなる部材を、レーザー光を用いて溶着させる工程を含む複合成形品の製造方法。
(2)繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)からなる成形品中の、(b)強化繊維の重量平均繊維長が1〜10mmである、(1)に記載の複合成形品の製造方法。
(3)(a)熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む樹脂である、(1)又は(2)に記載の複合成形品の製造方法。
(4)(a)熱可塑性樹脂中の50重量%以上がポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂である、(1)〜(3)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
(5)ポリアミド樹脂の少なくとも1種を構成する、少なくとも1種のモノマーが芳香環を含有する、(3)又は(4)に記載の複合成形品の製造方法。
(6)ポリアミド樹脂が、脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸とからなる塩及び芳香族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とからなる塩より選ばれる少なくとも1種を構成単位(p)として含む、(3)〜(5)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
(7)構成単位(p)が、ポリアミド樹脂全構成単位中の30モル%以上である、(6)に記載の複合成形品の製造方法。
(8)ポリアミド樹脂が、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸ならびに/又はイソフタル酸とからなる塩、及び、キシリレンジアミンとアジピン酸とからなる塩より選ばれる少なくとも1種を構成単位(p)として含む、(3)〜(7)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
(9)ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂である、(3)〜(8)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
(10)繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)が、さらに、(c)エポキシ化合物を(a)熱可塑性樹脂100重量部に対し0.1〜100重量部含有してなる、(1)〜(9)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
(11)繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)が、さらに、(d)着色剤を含有してなる、(1)〜(10)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
(12)(b)強化繊維がガラス繊維である、(1)〜(11)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
(13)(c)エポキシ化合物が、ビスフェノールA型エポキシ化合物又はノボラック型エポキシ化合物である、(10)〜(12)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
(14)繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)からなる成形品が、(a)熱可塑性樹脂でロービング状強化繊維を被覆した後、0.7mm以上の長さにカットされたペレットを用い射出又は押出成形法にて製造されてなる、(1)〜(13)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
(15)熱可塑性樹脂組成物(B)の熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む樹脂である、(1)〜(14)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
(16)熱可塑性樹脂組成物(B)の熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂又はポリブチレンテレフタレート樹脂である、(1)〜(15)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
(17)(1)〜(16)のいずれかに記載の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする複合成形品。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、機械的強度(特に、耐衝撃性)が良好で、レーザー透過性等のレーザー溶着特性に優れた繊維強化熱可塑性樹脂成形品、該樹脂成形品を用いたレーザー溶着方法及び該レーザー溶着工程を含む複合成形品の製造方法を提供することが可能になった。また、本発明のレーザー溶着工程を含む複合成形品の製造方法を用いることにより、レーザー溶着により強固に接着した複合成形品を提供することが可能になった。このような成形品は工業的に広く利用され、その利用価値は極めて高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0014】
<(a)熱可塑性樹脂>
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、成形可能なものであれば特に限定されるものではない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、ゴム変性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS樹脂)等のポリスチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリメチルアクリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂等が挙げられ、これらは単独又は2種類以上組み合わせて用いることが可能である。これらの中でも、熱可塑性樹脂溶接用に通常用いられるレーザーの波長領域(例えば、YAGレーザーは1064nm、半導体レーザーは655〜980nm)における透過率が高いものが好ましい。
【0015】
本発明で採用する(a)熱可塑性樹脂としては、レーザー透過性、機械的物性、電気特性及び耐熱性のバランスに優れる点から、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む樹脂が好ましく、(a)熱可塑性樹脂中の50重量%以上がポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂であることがより好ましい。
【0016】
本発明におけるポリアミド樹脂としては、具体的には、ラクタムの重縮合物、ジアミンとジカルボン酸との重縮合物、ω−アミノカルボン酸の重縮合物等の各種ポリアミド樹脂、又はそれ等の共重合ポリアミド樹脂やブレンド物等である。
【0017】
ポリアミド樹脂の重縮合の原料であるラクタムとしては、例えば、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム等が挙げられる。
ジアミンとしては、例えば、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、(2,2,4−又は2,4,4−)トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナンメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン(MXDA)、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン等の脂肪族、脂環式、芳香族のジアミン等が挙げられる。
ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂肪族、脂環式、芳香族のジカルボン酸等が挙げられる。
ω−アミノカルボン酸としては、例えば、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等が挙げられる。
【0018】
本発明におけるポリアミド樹脂の原料としては、炭素数が4〜15の化合物が好ましい。炭素数を4以上とすることにより、得られるポリアミド樹脂の吸湿性が高くなりすぎるのを抑制できる傾向にあり、炭素数を15以下とすることにより、剛性をより高めることができる。より具体的には、ラクタムとしてはε−カプロラクタム、ジアミンとしてはヘキサメチレンジアミン及びキシリレンジアミン、ジカルボン酸としては、アジピン酸、テレフタル酸及びイソフタル酸が入手容易であり、価格的にも有利であるのでより好ましい。
【0019】
ポリアミド樹脂の構成単位である塩は、上記のジアミンとジカルボン酸を、加圧下高温度の水溶液中で中和することによって得られる。このようにして得られた塩や上記のラクタム、ω−アミノカルボン酸を加圧、高温度下で縮合させることにより、オリゴマー化反応を進行させ、その後減圧により重合を進行させ、本発明で使用するポリアミド樹脂を製造することができる。
【0020】
本発明におけるポリアミド樹脂としては、より好ましくは、次に示すような、半芳香族ポリアミド樹脂、半芳香族ポリアミド樹脂と脂肪族ポリアミド樹脂とのブレンド物が挙げられる。半芳香族ポリアミド樹脂と脂肪族ポリアミド樹脂とをブレンドして用いる場合は、半芳香族ポリアミド樹脂及び脂肪族ポリアミド樹脂を、好ましくは、半芳香族ポリアミド樹脂/脂肪族ポリアミド樹脂=95/5〜20/80、より好ましくは90/10〜30/70の重量比で使用する。
【0021】
半芳香族ポリアミド樹脂とは、脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸とからなる塩及び芳香族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とからなる塩より選ばれる少なくとも1種を構成単位(p)として含むポリアミド樹脂であり、好ましくは、上記構成単位(p)のみからなる単独重合体や共重合体又はこれらのポリアミド構成単位(p)と、ラクタム及び脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とからなる塩より選ばれる少なくとも1種の構成単位(q)とからなるポリアミド共重合体である。構成単位(p)と(q)の両方を含む場合、構成単位(p)及び(q)のモル比は、(p)/(q)=98/2〜30/70が好ましい。より好ましいモル比は、(p)/(q)=95/5〜35/65であり、さらに好ましくは90/10〜40/60である。このようなポリアミド構成単位とすることにより、ポリアミド樹脂の吸水率が高くなりすぎるのをより効果的に抑制することができ、吸水時の物性や寸法精度を良好に保ち、レーザー溶着時の水分による発泡等の不具合を抑制できる傾向にある。
【0022】
このような好ましい半芳香族ポリアミド樹脂の具体例としては、例えば、メタキシリレンジアミンとアジピン酸の塩を主原料とするポリアミドMXD6、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンとアジピン酸を主原料とするポリアミドMP6、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸との塩を主原料にするポリアミド6I、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との塩/ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸との塩の共重合体(ポリアミド66/6I)、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸との塩/ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸との塩の共重合体(ポリアミド6I/6T)等が挙げられ、さらに好ましくは、ポリアミドMXD6、ポリアミドMP6及びポリアミド6I/6Tである。
【0023】
半芳香族ポリアミド樹脂は、特定の見かけの溶融粘度を有するものが好ましい。好ましい見かけの溶融粘度は、キャピラリーレオメーター(東洋精機社製キャピログラフ1C)を使用し、キャピラリーのL/Dは30mm/1mm、温度280℃、せん断速度100sec−1にて測定した値が750〜8000ポイズであり、より好ましくは800〜7500ポイズであり、さらに好ましくは850〜7000ポイズである。見かけの溶融粘度を750ポイズ以上とすることにより機械的強度がより優れる傾向にあり、8000ポイズ以下とすることにより、流動性及び成形性の低下を防ぐことができるため好ましい。
【0024】
脂肪族ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド56、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612等や、これらの共重合体(ポリアミド6/66共重合体、ポリアミド6/12共重合体等)等が挙げられる。
脂肪族ポリアミド樹脂は、ISO307規格に準拠して、温度25℃、96重量%硫酸中、ポリアミド樹脂濃度0.5重量%で測定した粘度数が70〜200ml/gのものが好ましい。粘度数を70ml/g以上とすることにより靭性及び成形品外観を優れたものとすることができ、200ml/g以下とすることにより、コンパウンド、成形加工が容易となり、良好な成形品外観とすることができるため好ましい。
【0025】
本発明におけるポリアミド樹脂の末端は、カルボン酸又はアミンで封止されていてもよく、特に、炭素数6〜22のカルボン酸又はアミンで封止することが好ましい。具体的に、封止に用いるカルボン酸としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等の脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。また、アミンとしては、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン等の脂肪族第一級アミンが挙げられる。封止に使用するカルボン酸又はアミンの量は、成形時の溶融粘度を考慮して、30μeq/g程度がよい。
【0026】
ポリエステル樹脂としては、公知のものを広く用いることができる。
ポリエステル樹脂として、好ましくは、ジカルボン酸又はその誘導体と、ジオールとからなるポリエステル樹脂である。
ジカルボン酸又はその誘導体としては、芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、及び、脂肪族ジカルボン酸、ならびに、これらの低級アルキル又はグリコールのエステルが好ましく、芳香族ジカルボン酸又はこの低級アルキル(例えば、炭素原子数1〜4)あるいはグリコールのエステルがより好ましく、テレフタル酸又はこの低級アルキルエステルがさらに好ましい。
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい例として挙げられる。
脂環式ジカルボン酸としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸及び1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が好ましい例として挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸及びセバシン酸等が好ましい例として挙げられる。
これらのジカルボン酸又はその誘導体は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
ジオールとしては、脂肪族ジオール、脂環式ジオール及び芳香族ジオールが好ましい。
脂肪族ジオールとしては、好ましくは、炭素数2〜20の脂肪族ジオールであり、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール及び1,8−オクタンジオールを好ましい例として挙げることができる。
脂環式ジオールとしては、好ましくは、炭素数2〜20の脂環式ジオールであり、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール及び1,4−シクロヘキサンジメチロールを好ましい例として挙げることができる。
芳香族ジオールとしては、好ましくは、炭素数6〜14の芳香族ジオールであり、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン及びビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンを好ましい例として挙げることができる。
これらのジオールは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
該ポリエステル樹脂は、ヒドロキシカルボン酸、単官能成分、及び/又は三官能以上の多官能成分を有していてもよい。
ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸及びp−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸が好ましい例として挙げられる。
単官能成分としては、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸及びベンゾイル安息香酸が好ましい例として挙げられる。
三官能以上の多官能成分としては、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール及びペンタエリスリトールが好ましい例として挙げられる。
【0029】
ポリエステル樹脂は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)を含有することが好ましく、さらに好ましくはテレフタル酸を唯一のジカルボン酸単位とし、1,4−ブタンジオールを唯一のジオール単位とするポリブチレンテレフタレート単独重合体がさらに好ましい。本発明でいうPBT樹脂とは、テレフタル酸が全ジカルボン酸成分の50モル%以上を占め、1,4−ブタンジオールが全ジオールの50モル%以上を占めることをいう。PBT樹脂は、さらに、ジカルボン酸単位中のテレフタル酸の割合が70モル%以上のものが好ましく、90モル%以上のものがより好ましい。また、ジオール単位中の1,4−ブタンジオールの割合は、70モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましい。このようなPBT樹脂を用いることにより、機械的性質及び耐熱性がより向上する傾向にあり好ましい。
【0030】
本発明におけるPBT樹脂としては、強化繊維の折損による機械的性質の低下、及び耐加水分解性の観点から、30℃のフェノールとテトラクロロエタンとの1対1(重量比)混合液中で測定した極限粘度が0.3〜1.2dl/gのPBT樹脂であることが好ましい。PBT樹脂の極限粘度を0.3dl/g以上とすることにより得られる繊維強化樹脂組成物の機械的性能を優れたものとすることができ、極限粘度を1.2dl/g以下とすることにより、繊維強化樹脂組成物の流動性を良好に保つことができ、成形性が向上する傾向にある。さらに、成形過程における強化繊維の折損を抑止し成形品中の強化繊維の繊維長を長く保つことができ、機械的強度の低下を抑制しやすい傾向となる。PBT樹脂は、極限粘度の異なる2種以上のPBT樹脂を併用し、上記範囲内の極限粘度としてもよい。
また、PBT樹脂の加水分解による強度低下を抑制するために、PBT樹脂中のチタン含有量は、チタン金属の重量基準で60ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましい。チタン含有量は、PBT樹脂の製造時に用いるチタン化合物の配合量により調整することができる。
【0031】
ポリエステル樹脂を製造する場合、公知の方法を広く採用できる。例えば、テレフタル酸成分と1,4−ブタンジオール成分とからなるPBT樹脂の場合、直接重合法及びエステル交換法のいずれの方法も採用できる。直接重合法は、例えば、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを直接エステル化反応させる方法であり、初期のエステル化反応で水が生成する。エステル交換法は、例えば、テレフタル酸ジメチルを主原料として使用する方法であり、初期のエステル交換反応でアルコールが生成する。直接エステル化反応は原料コスト面から好ましい。
また、ポリエステル樹脂は、原料供給又はポリマーの払い出し形態について、回分法及び連続法のいずれの方法で製造してもよい。さらに、初期のエステル化反応又はエステル交換反応を連続操作で行って、それに続く重縮合を回分操作で行ったり、逆に、初期のエステル化反応又はエステル交換反応を回分操作で行って、それに続く重縮合を連続操作で行う方法もある。
【0032】
また、本発明に用いる(a)熱可塑性樹脂として、ポリエステル樹脂と他の熱可塑性樹脂を併用する場合は、レーザー透過性、耐久性、成形性、低吸水性、衝撃強度に優れている点から、他の熱可塑性樹脂として、ポリスチレン系樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂及びこれらの樹脂のアロイから選ばれたものを用いるのが好ましい。ポリエステル樹脂と他の熱可塑性樹脂を併用する場合は、(a)熱可塑性樹脂中の50重量%以上がポリエステル樹脂であることが好ましく、60重量%以上がより好ましい。さらに、ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂であることが特に好ましい。
【0033】
本発明におけるポリカーボネート樹脂としては、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂の何れをも使用できるが、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる熱可塑性重合体である。芳香族ポリカーボネート樹脂は、分岐していてもよいし、共重合体であってもよい。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造できる。また、溶融法によって得られる芳香族ポリカーボネート樹脂を用いる場合、末端基のOH基量を調整して用いてもよい。
【0034】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となる芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(すなわち、ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、好ましくはビスフェノールAである。また、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。
【0035】
分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、上述した芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を、分岐剤、例えば、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物や、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(すなわち、イサチンビスフェノール)、5−クロロイサチン、5,7−ジクロロイサチン、5−ブロムイサチン等の化合物で置換すればよい。これら置換する化合物の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0036】
芳香族ポリカーボネート樹脂としては、上述した中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂、又は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が好ましい。また、シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーとの共重合体等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体であってもよい。さらには、上述した芳香族ポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量として、13,000〜30,000が好ましく、16,000〜28,000がより好ましく、17,000〜24,000がさらに好ましい。粘度平均分子量を30,000以下とすることにより、流動性を良好に保ち、13,000以上とすることにより、衝撃強度をより優れたものとすることができる。
【0038】
<(b)強化繊維>
本発明で用いる(b)強化繊維とは、通常、樹脂の補強用に使用される繊維状の強化材であり、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、合成繊維等を使用することが可能であるが、レーザー透過性と補強効果の点からガラス繊維が好ましい。
【0039】
(b)強化繊維としては、熱可塑性樹脂との界面密着性を向上させ、界面における空隙形成による不透明化要因を低減するために、一般に収束剤又は表面処理剤(例えば、ポリエステル系樹脂用としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シランカップリング剤、チタネート系化合物等の官能性化合物)で表面処理を施したものを用いることが好ましい。特に(a)熱可塑性樹脂としてポリエステル樹脂を用いる場合は、シランカップリング剤及び/又はエポキシ樹脂で表面処理されている強化繊維を用いることが好ましい。
シランカップリング剤としては、アミノシラン系、エポキシシラン系、アリルシラン系、ビニルシラン系等が挙げられる。これらの中では、アミノシラン系が好ましい。アミノ系シランカップリング剤としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン及びγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい例として挙げられる。表面処理剤中のシランカップリング剤の含有量は、0.1〜8重量%が好ましく、0.5〜5重量%がより好ましい。
エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型のエポキシ樹脂及びクレゾールノボラック型のエポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂が好ましい。表面処理剤中のエポキシ樹脂の含有量は1〜20重量%が好ましく、2〜10重量%がより好ましい。
(b)強化繊維に用いられる表面処理剤に含有される成分としては、アミノ系シランカップリング剤と、ノボラック型エポキシ樹脂の組み合わせが特に好ましい。表面処理剤をこのような構成とすることにより、アミノ系シランカップリング剤の無機官能基は(b)強化繊維表面と、アミノシランの有機官能基はエポキシ樹脂のグリシジル基と、エポキシ樹脂のグリシジル基は、ポリエステル樹脂と、それぞれ反応性に富み、(b)強化繊維とエポキシ樹脂との界面密着力が向上する。この結果、本発明の樹脂組成物の機械的性質及び耐加水分解性が向上し、さらには、界面での空隙形成による不透明化が低減するため、透過率も向上する。
(b)強化繊維に用いられる表面処理剤には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、その他の成分、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、帯電防止剤、潤滑剤及び撥水剤等を含めることができる。
表面処理剤での処理方法としては、例えば、特開2001−172055号公報、特開昭53−106749号公報等に記載の方法のように、表面処理剤により予め表面処理しておくこともできるし、本発明の樹脂組成物調製の際に、未処理の(b)強化繊維とは別に表面処理剤を添加して表面処理することもできる。
(b)強化繊維に対する表面処理剤の付着量は、0.01〜5重量%が好ましく、0.05〜2重量%がさらに好ましい。0.01重量%以上とすることにより、機械的強度がより効果的に改善される傾向にあり、2重量%以下とすることにより、必要十分な効果が得られ、経済的である。
【0040】
本発明において、(b)強化繊維がガラス繊維の場合は、その繊維直径は10〜20μmであることが、ガラス繊維の折損を抑制し物性をより一層高める点から好ましい。
ガラス繊維は、Aガラス、Cガラス、Eガラス等の組成からなるものが好ましく、特に、Eガラス(無アルカリガラス)がポリエステル樹脂の熱安定性に悪影響を及ぼさない点で好ましい。また、屈折率1.56〜1.60であるガラスも用いることができる。該ガラスは、通常、ポリエステル樹脂に使用されるEガラス(屈折率1.55)を構成する組成成分からB及びF成分を除き、MgO、TiO、ZnO等の成分の割合を増加したもので、該ガラスを採用することにより、本発明の樹脂組成物のレーザー透過性を向上させることが可能となる。また、ガラス繊維を用いる際は、長繊維タイプ(ロービング)のものや短繊維タイプ(チョップドストランド)のものを使用することが好ましく、成形品中のガラス繊維の繊維長をより長く保つ点から、長繊維タイプのものを使用することがより好ましい。
【0041】
ガラス繊維の製造は、例えば次のような方法によって製造できる。先ず、溶解したガラスをマーブルと称する所定の大きさのガラス玉に成形し、それをプッシングと称する採糸炉にて加熱軟化せしめ、該炉テーブルの多数のノズルから流下させ、この素地を高速度で延伸させる。ガラス繊維を集束させる場合は、その途中に設けた集束剤塗布装置にてガラス繊維を浸漬することにより集束剤を付着させて集束し、乾燥して回転ドラムで巻き取る。この時のノズル径寸法と引き取り速度及び引き取り雰囲気温度等を調節してガラス繊維の平均直径を所望の寸法にすることができる。
【0042】
本発明においては、成形品中に残存している(b)強化繊維の重量平均繊維長が0.7〜10mmであることが、レーザー光透過性及び機械的強度保持の観点から必要である。より優れた機械的強度を得るためには、該重量平均繊維長が1〜10mmであることがより好ましく、1.5〜10mmであることがさらに好ましく、2〜10mmであることが特に好ましい。
本発明において、繊維長の測定は、例えば後述の実施例では、成形品の中央部から約5gのサンプルを切り出し、温度500℃の電気炉内で熱可塑性樹脂成分のみを燃焼させたあと、残った強化繊維をスライドグラス上に分散させ、CCDカメラ付き光学顕微鏡を用い、任意の部分を画像として1000〜2000本の範囲で取り込み、画像解析用ソフトで繊維長を測定し重量平均繊維長を算出した。
【0043】
上記重量平均繊維長の条件を達成するためには、少なくとも、射出又は押出成形に使用される樹脂組成物ペレットの段階において、このような繊維長が確保される必要がある。このような繊維長が確保された樹脂組成物ペレットを製造する方法としては、例えば、強化繊維マットの両側から溶融樹脂シートでプレスし、シートカッターで直方体の粒状物を作成する方法や、強化繊維ロービング表面に樹脂を被覆しストランド状にしてからペレットに切断する方法等が採用される。また、溶融混練で樹脂組成物ペレットを製
造する場合は、混練時に強化繊維が破損しないような混練条件を選択する必要がある。
なかでも、強化繊維をペレットの長さ方向に効率よく平行に配列させることができ、繊維の分散も良好にすることができる点から、引抜き成形法(米国特許第3042570号、特開昭53−50279号公報他)を採用することが好ましい。
【0044】
引抜き成形法とは、基本的には連続した強化繊維束を引きながら樹脂を含浸させる方法であり、例えば、樹脂のエマルジョン、サスペンジョンあるいは溶液を入れた含浸浴の中に繊維を通し含浸する方法、樹脂の粉末を繊維に吹きつける又は粉末を入れた槽の中に繊維を通し繊維に樹脂粉末を付着させたのち樹脂を溶融させ含浸する方法、クロスヘッドの中に繊維を通しながら押出機等からクロスヘッドに溶融樹脂を供給し含浸する方法等が知られており、いずれも利用できる。成形材料として特に好ましいのは、クロスヘッドの中に繊維を通しながら、押出機等からクロスヘッドに溶融樹脂を供給し、含浸、冷却後、好ましくは長さ0.7〜50mm、より好ましくは1〜50mm、さらに好ましくは長さ3〜40mm、特に好ましくは4〜30mmのペレット状にカットしたものである。このようにして得られた樹脂組成物ペレット中の強化繊維は、ペレットの長さ方向とほぼ平行になっているので、強化繊維の長さとペレットの長さはほぼ等しくなっている。ペレットの長さを0.7mm以上とすることにより、強化繊維の長さも長くなり、成形品とした際のレーザー光透過性及び補強効果をより高めることができるため好ましい。また、ペレットの長さを50mm以下とすることにより、嵩密度の増加を抑え、成形加工時にホッパー内でブリッジが発生したり、スクリューへの食い込みが悪くなる現象を防ぎ、安定した成形ができるため好ましい。
【0045】
溶融混練により樹脂組成物ペレットを製造する場合は、例えば、以下のような方法を用いることにより、ペレット中の強化繊維をより長く保つことが容易となる。
原材料の(a)熱可塑性樹脂のなかでも、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等を用いるのが好ましい。これらの熱可塑性樹脂は、溶融時の流動性が良好なため、
溶融混練時の強化繊維の破損を抑止することができる。
溶融混練に用いる原材料の(b)強化繊維としては、平均繊維長が、例えば、1.5〜30mmのものを使用することが好ましく、2〜30mmのものがより好ましく、2.5〜25mmのものがさらに好ましい。強化繊維は、補強効果の高い無機繊維が好ましく、とりわけガラス繊維、炭素繊維が好ましい。特にガラス繊維は、溶融混練時に破損し難く、入手が容易で経済性も高いため好ましい。また、該ガラス繊維は、混練時の作業性の面から、チョップドストランドの形態で使用することが好ましい。このような強化繊維を用いることにより、得られる樹脂組成物ペレット中の強化繊維の重量平均繊維長をより長く保つことができる。
【0046】
溶融混練には、例えば、各種押出機、ブラベンダープラストグラフ、ラボプラストミル、ニーダー、バンバリーミキサー等が使われる。本発明においては、ベント口から脱揮できる設備を有する1軸又は2軸の押出機を混練機として使用する方法が好ましい。(a)熱可塑性樹脂、(b)強化繊維、及び必要に応じて配合される添加剤は、予め混合しておいてもよいし、混合せずに溶融混練機に投入してもよい。予め混合する場合は、例えば、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、ドラムブレンダー等を用い、混合による強化繊維の破損ができるだけ少ないように、混合時間や回転数を調整することが好ましい。
溶融混練に際しての加熱温度は、通常230〜280℃であるが、混練時の溶融樹脂の圧力を低減するために、溶融樹脂の可塑化温度を通常より高めに設定することが好ましい。例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂を溶融混合する場合は、押出機のバレル温度を260〜280℃に設定することが好ましい。また、(a)熱可塑性樹脂、(b)強化繊維、及び必要に応じて配合される添加剤は、混練機に一括して供給してもよいし、順次供給してもよい。本発明においては、強化繊維の破損を低減させるために、熱可塑性樹脂の溶融が完了するバレルのすぐ下流に強化繊維を供給するように、押出機を設計することが有効である。
上記のような条件のいずれかを採用することにより、又は、複数の条件を組み合わせることにより、樹脂組成物ペレット中の強化繊維の繊維長をより長く保つことが可能となる。溶融混練により樹脂組成物ペレットを製造する場合は、樹脂組成物ペレット中の強化繊維の好ましい重量平均繊維長は1〜20mmであり、より好ましくは1.5〜20mmであり、さらに好ましくは2〜15mmである。
【0047】
また、上記記載の方法以外に、(a)熱可塑性樹脂と(b)強化繊維、及び必要に応じて配合される添加剤成分をリボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、ドラムブレンダー等で予め混合した後、そのドライブレンド物を溶融混練することなく、そのまま成形に用いる方法も効果的である。この方法を用いた場合、上記溶融混練での強化繊維の破損を回避することができるため、得られる成形品中の強化繊維長を、より長く保つことが可能である。
【0048】
本発明においては、繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)からなる成形品中の強化繊維の重量平均繊維長が0.7〜10mmであることが、レーザー光透過性及び機械的強度保持の観点から必要である。
射出、押出成形において、強化繊維を折損しないように、成形品中の重量平均繊維長を0.7〜10mmにする方法としては、上記記載の樹脂組成物ペレット及びドライブレンド物を用いる方法以外に、例えば、スクリュー構成、スクリューやシリンダー内壁の加工、ノズル径、金型構造等の成形機条件の選択、可塑化、計量、射出時等の成形条件の調整、成形材料への他成分の添加等、種々の方法が挙げられる。
成形機としては、例えば、未溶融樹脂に急激な剪断をかけないようにスクリュー構成がより緩圧縮なタイプのスクリューを採用する方法や、インラインスクリュータイプ成形機においては、スクリュー先端の逆流防止リング等のクリアランスを大きくする方法等が採用できる。
成形条件の調整においては、特に、高剪断速度での可塑化や射出を回避する必要がある。本発明においては、可塑化、計量、射出時の条件として、例えば、シリンダー温度、背圧、スクリュー回転数、射出速度等を調整することが好ましい。例えば、(a)熱可塑性樹脂がポリエステル樹脂の場合、シリンダー温度を調整する場合は、好ましくは250〜290℃、より好ましくは260℃〜280℃に設定する。背圧を調整する場合は、好ましくは0.25〜5MPa、より好ましくは0.3〜3MPaに設定する。スクリュー回転数を調整する場合は、好ましくは30〜150rpm、より好ましくは40〜100rpmに設定する。射出速度を調整する場合は、好ましくは10〜100mm/sec、より好ましくは10〜50mm/secに設定する。
成形性、強化繊維分散性、成形品物性を損なわない程度に、成形機の条件、シリンダー温度、背圧、スクリュー回転数、射出速度等の成形条件のいずれかを上記好適な範囲内に調整することにより、又は、これら好適な範囲内の2以上の条件を組み合わせることにより、適切な溶融粘度、圧力での成形が可能であり、強化繊維の破損を抑止し、レーザー透過性及び機械的強度の優れた成形品を得ることが可能である。
【0049】
また、他成分を成形材料に添加する方法も効果的である。例えば、滑剤を添加し射出成形時の樹脂溶融粘度を下げる方法や、可塑剤を添加して樹脂流動性を改善する方法等が有効である。
該滑剤及び可塑剤としては、例えば、ステアリン酸金属塩やモンタン酸金属塩等の脂肪酸金属塩、脂肪族炭化水素化合物、高級アルコール、アミド化合物、エステル化合物等が挙げられ、これらを機械物性に大きな影響を与えない範囲で添加することが好ましい。該滑剤や可塑剤の配合量は、例えば、(a)熱可塑性樹脂100重量部に対し0.01〜5重量部が好ましく、0.01〜2重量部がより好ましい。該滑剤、可塑剤は、上記樹脂組成物ペレットの製造時に添加してもよいし、上記樹脂組成物ペレットにドライブレンドして成形に供してもよい。また、(a)熱可塑性樹脂、(b)強化繊維、及び必要に応じて配合されるその他の成分とともにドライブレンドし、そのまま成形に用いることもできる。
【0050】
(b)強化繊維の含有量は、(a)熱可塑性樹脂100重量部に対し10〜150重量部であり、好ましくは20〜100重量部である。強化繊維の含有量を10重量部以上とすることにより、機械的強度を優れたものとすることができ、150重量部以下とすることにより、成形時の流動性を良好なものとすることができると同時に、繊維/繊維間の相互作用による破砕を防ぎ、成形品中の繊維長を長く保つことができるため、機械的強度及びレーザー透過性が向上する。
【0051】
<(c)エポキシ化合物>
本発明で採用する(c)エポキシ化合物は、特に定めるものではなく、単官能性、二官能性又は多官能性の何れでも、さらに、これらの2種以上の混合物でもよい。特に、二官能性以上のエポキシ化合物、すなわち、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物が好ましい。また、エポキシ当量は100〜5000g/eqのものが好ましく、150〜2000g/eqのものがさらに好ましい。
【0052】
(c)エポキシ化合物としては、グリシジルエーテル、ジグリシジルエーテル、グリシジルエステル、ジグリシジルエステル、脂環式ジエポキシ化合物、グリシジルイミド化合物、ノボラック型エポキシ化合物が好ましい例として挙げられる。
グリシジルエーテルとしては、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル及びアリルグリシジルエーテルが好ましい。
ジグリシジルエーテルとしては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル及びプロピレングリコールジグリシジルエーテルが好ましい。
グリシジルエステルとしては、安息香酸グリシジルエステル及びソルビン酸グリシジルエステルが好ましい。
ジグリシジルエステルとしては、アジピン酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル及びオルトフタル酸ジグリシジルエステル等が好ましい。
脂環式ジエポキシ化合物としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレートが好ましい。
グリシジルイミド化合物としては、N−グリシジルフタルイミドが好ましい。
ノボラック型エポキシ化合物としては、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物が好ましい。
【0053】
これらの中でも、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの反応から得られるグリシジルエーテル化合物、特に、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、フェノールノボラックとエピクロロヒドリンとの反応によって得られる多官能のエポキシ化合物であるフェノールノボラック型エポキシ化合物、o−クレゾールとエピクロロヒドリンとの反応によって得られる多官能のエポキシ化合物であるクレゾールノボラック型エポキシ化合物が好ましく用いられる。
【0054】
本発明で用いる(c)エポキシ化合物は、(a)熱可塑性樹脂、特にポリエステル樹脂と反応性や親和性を有するため、(a)熱可塑性樹脂としてポリエステル樹脂を含む場合に、(c)エポキシ化合物の添加が効果的である。また、(c)エポキシ化合物は、(b)強化繊維をエポキシ樹脂で表面処理した場合、そのエポキシ樹脂に対しても反応性や親和性を有する。これらの効果によって、(a)熱可塑性樹脂と(b)強化繊維との密着性が増し、本発明の樹脂成形品の機械的強度が向上するため、レーザー溶着部位での接合強度をさらに高めることが可能となる。
【0055】
(c)エポキシ化合物の含有量は、(a)熱可塑性樹脂100重量部に対して0.1〜100重量部が好ましく、0.3〜50重量部がより好ましい。(c)エポキシ化合物の含有量を0.1重量部以上とすることにより、機械的性質をより効果的に向上させることができ、100重量部以下とすることにより、樹脂混練、成形時等の樹脂溶融時に加水分解が促進され、強度が低下するのをより抑制する傾向にあり好ましい。
【0056】
<(d)着色剤>
本発明における繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)には、染料、顔料等の(d)着色剤を配合してもよい。着色剤を配合する場合は、厚み2mmの成形品の波長940nm又は960nmにおける光線透過率が15%以上となるように、染料、顔料の種類及び量の選定を行い、配合するのが好ましい。染料としては、アントラキノン系、インジゴイド系、ペリレン系、ペリノン系、アゾ系、メチン系、フタロシアニン系等の油溶性染料や分散染料を好ましく用いることができる。顔料としては、無機顔料と有機顔料のいずれも好ましく用いることができる。無機顔料には、酸化物、硫化物、硫酸塩、カーボンブラック等を挙げることができる。有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系等を挙げることができる。(d)着色剤の含有量は、(a)熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは0.005〜5重量部、より好ましくは0.01〜1重量部である。
【0057】
<その他の添加剤>
本発明における繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、他の添加剤を配合してもよい。他の添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、難燃剤、離型剤、触媒失活剤、結晶核剤、結晶化促進剤、及び(b)強化繊維以外の無機充填材等を挙げることができる。これらの添加剤は、(a)熱可塑性樹脂の重合途中又は重合後に添加することができる。さらに、(a)熱可塑性樹脂に所望の性能を付与するため、耐衝撃性改良剤、紫外線吸収剤、耐候安定剤、帯電防止剤、発泡剤等を配合してもよい。
【0058】
酸化防止剤は、樹脂組成物の耐熱老化性をより効果的に改良し、色調、引張強度、伸度等の保持率をより向上させる効果を有する。該酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、及びリン系酸化防止剤より選ばれる1種以上の酸化防止剤を配合することが好ましい。これらの酸化防止剤は、特にポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂及びポリカーボネート樹脂に好適である。
酸化防止剤の配合量は、合計配合量が(a)熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは0.001〜2重量部、より好ましくは0.001〜1.5重量部であり、さらに好ましくは0.03〜1重量部である。
【0059】
フェノール系酸化防止剤とは、フェノール性ヒドロキシル基を有する酸化防止剤をいい、なかでも、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく用いられる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤とは、フェノール性ヒドロキシル基が結合した芳香環の炭素原子に隣接する1個又は2個の炭素原子が、炭素原子数4以上の置換基により置換されている酸化防止剤をいう。炭素原子数4以上の置換基は、芳香環の炭素原子と炭素−炭素結合により結合していてもよく、炭素以外の原子を介して結合していてもよい。
【0060】
フェノール系酸化防止剤としては、p−シクロヘキシルフェノール、3−t−ブチル−4−メトキシフェノール、4,4’−イソプロピリデンジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等の非ヒンダードフェノール系酸化防止剤、2−t−ブチル−4−メトキシフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、4−ヒドロキシメチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、スチレン化フェノール、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(6−t−ブチル−4−エチルフェノール)、2,2’−メチレンビス[4−メチル−6−(1,3,5−トリメチルヘキシル)フェノール]、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−3−t−ブチル−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、1,1,3−トリス[2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル]ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス[3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル]ベンゼン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、トリス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]イソシアヌレート、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、チオビス(β−ナフトール)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤等が挙げられる。特に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、それ自体安定ラジカルとなり易いためにラジカルトラップ剤として好適に使用することができる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の分子量は、通常200以上、好ましくは500以上であり、その上限は通常3000である。
【0061】
本発明におけるイオウ系酸化防止剤とは、イオウ原子を有する酸化防止剤をいい、例えば、ジドデシルチオジプロピオネート、ジテトラデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)、チオビス(N−フェニル−β−ナフチルアミン)、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルジブチルジチオカルバメート、ニッケルイソプロピルキサンテート、トリラウリルトリチオホスファイト等が挙げられる。特に、チオエーテル構造を有するチオエーテル系酸化防止剤は、酸化された物質から酸素を受け取って還元するため、好適に使用することができる。イオウ系酸化防止剤の分子量は、通常200以上、好ましくは500以上であり、その上限は通常3000である。
【0062】
本発明におけるリン系酸化防止剤とは、リン原子を有する酸化防止剤をいい、P(OR)構造を有する酸化防止剤であることが好ましい。ここで、Rは、アルキル基、アルキレン基、アリール基、アリーレン基等であり、3個のRは同一でも異なっていてもよく、任意の2個のRが互いに結合して環構造を形成していてもよい。
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0063】
本発明で用いる繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)において、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤の配合量は、(a)熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは0.001〜1.5重量部であり、より好ましくは0.03〜1重量部である。酸化防止剤の配合量を0.001重量部以上とすることにより、酸化防止効果がより良好に発揮され、酸化防止剤の配合量を1.5重量部以下とすることにより、酸化熱安定性が悪化するのをより抑止するとともに、溶融混練時の樹脂の分解をより起こりにくくすることが可能になる。
【0064】
熱安定剤としては、銅化合物を添加してもよい。熱可塑性樹脂としてポリアミド樹脂を含む場合は、特に、銅化合物を添加すると、樹脂組成物の耐熱性がより向上すると共に、樹脂の劣化物による透過率の低下を抑制する傾向にある。銅化合物の具体的な例としては、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅等のハロゲン化銅化金物や、硫酸第二銅、硝酸第二銅、リン酸銅、酢酸第一銅、酢酸第二銅、サリチル酸第二銅、ステアリン酸第二銅、安息香酸第二銅等の有機酸の銅化合物及び前記ハロゲン化銅化合物とキシリレンジアミン、2−メルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾール等との錯化合物等が挙げられる。中でも1価の銅化合物が好ましく、酢酸第一銅、ヨウ化第一銅がより好ましい。
【0065】
銅化合物の配合量は、特に制限はないが、通常、(a)熱可塑性樹脂100重量部に対して0.01〜2重量部であり、好ましくは0.015〜1重量部である。配合量を0.01重量部以上とすることにより、熱安定性がより発揮されやすい傾向にあり、2重量部以下とすることにより、樹脂が着色し、機械物性が低下するのをより効果的に抑止できる傾向にあり好ましい。銅化合物は2種以上を併用してもよい。
【0066】
本発明においては、ハロゲン化アルカリ化合物を添加してもよい。特に、(a)熱可塑性樹脂としてポリアミド樹脂を含む場合に銅化合物と併用するのが好ましい。このハロゲン化アルカリ化合物の例としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、臭化ナトリウム及びヨウ化ナトリウムを挙げることができ、2種以上併用してもよい。これらの中でも、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムが特に好ましい。銅化合物とハロゲン化アルカリ化合物を併用する場合の配合量は、(a)熱可塑性樹脂100重量部に対し、銅化合物が好ましくは0.005〜1重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部、ハロゲン化アルカリ化合物が好ましくは0.01〜2重量部、より好ましくは0.05〜1重量部である。また、両者の合計配合量は、(a)熱可塑性樹脂100重量部に対し0.015〜3重量部が好ましく、0.06〜1.5重量部がより好ましい。
【0067】
難燃剤としては、特に制限されず、例えば、有機ハロゲン化合物、アンチモン化合物、リン化合物、窒素化合物等の有機難燃剤及び無機難燃剤が挙げられる。有機ハロゲン化合物としては、例えば、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールA、ペンタブロモベンジルポリアクリレート等が挙げられる。アンチモン化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム等が挙げられる。リン化合物としては、例えば、リン酸エステル、ポリリン酸、ポリリン酸アンモニウム、赤リンや、リン原子と窒素原子の結合を主鎖に有するフェノキシホスファゼン、アミノホスファゼン等のホスファゼン化合物等が挙げられる。窒素化合物としては、例えば、メラミン、シアヌル酸、シアヌル酸メラミン等が挙げられる。無機難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ素化合物、ホウ素化合物等が挙げられる。上述の難燃剤及び難燃助剤は、特にポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂及びポリカーボネート樹脂に好適である。
これらの難燃剤の配合量は、(a)熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは0.1〜50重量部である。難燃剤の配合量を0.1重量部以上とすることにより、難燃性をより効果的に発現することができ、50重量部以下にすることにより、物性、特に機械的強度をより高く保つことができる。
【0068】
耐衝撃改良剤としては、オレフィン系、スチレン系、ポリエステル系、ポリアミド系及びウレタン系等の熱可塑性エラストマーならびにコアシェルポリマーが挙げられる。
【0069】
オレフィン系エラストマーとして好ましいものは、エチレン及び/又はプロピレンを主成分とする共重合体であり、具体的にはエチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体等が挙げられる。これらの中でも、酸変性する場合の変性が容易で、耐衝撃性向上効果が大きい点から、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体がより好ましい。
【0070】
スチレン系エラストマーとしては、スチレン等のビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックと未水素化及び/又は水素化した共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体が挙げられる。かかるブロック共重合体を構成するビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−第三級ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、p−メチルスチレン、1,1−ジフェニルスチレン等のうちから1種又は2種以上が選択でき、中でもスチレンが好ましい。また、共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、ピレリレン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、フェニル−1,3−ブタジエン等のうちから1種又は2種以上が選択でき、中でもブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物の共重合比は5/95〜70/30が好ましく、特に10/90〜60/40の重合比がより好ましい。このようなブロック共重合体としては、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)や、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)等の種々のa−b−a型トリブロック構造のものが市販されており、容易に入手可能である。
【0071】
ポリエステル系エラストマーとしては、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリエチレングリコール、ポリプレピレングリコール及びポリテトラメチレングリコール等のポリエーテル、又はポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート及びポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするブロック共重合体が挙げられる。本発明で用いるポリエステル系エラストマーは、これに限定されるものではないが、上記に例示したポリエステル系エラストマーが、相溶性の観点から好ましい。
【0072】
ポリアミド系エラストマーとしては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12等をハードセグメントとし、ポリエーテル又は脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするブロック共重合体が挙げられるが、これに限定されるものではない。ポリエーテル、脂肪族ポリエステルとしては、上記ポリエステル系エストラマーで使用されるものと同様の化合物を使用することができる。
【0073】
ウレタン系エラストマーとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートと、エチレングリコール、テトラメチレングリコール等のグリコールとを反応させることによって得られるポリウレタンをハードセグメントとし、ポリエーテル又は脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするブロック共重合体が挙げられるが、これに限定されるものではない。ポリエーテル、脂肪族ポリエステルとしては、上記ポリエステル系エストラマーで使用されるものと同様の化合物を使用することができる。
【0074】
コアシェルポリマーとは、ゴム層をガラス状の樹脂が包含したコアシェル型グラフト共重合体である。コアのゴム層の粒径は、重量平均粒径1.0μm以下が好ましく、0.2〜0.6μmがより好ましい。ゴム層の重量平均粒径を1.0μm以下とすることにより、耐衝撃性の改善効果がより発揮されやすい傾向にある。ゴム層の種類としては、例えば、珪素系、ジエン系、アクリル系エラストマー等が挙げられ、これらを2種以上共重合したものであってもよい。
【0075】
耐衝撃性改良剤は、機械的強度、熱安定性、流動性の観点から、重合体中の好ましくは0.05〜5重量%、より好ましくは0.2〜4重量%程度が、酸変性又はエポキシ変性されたものが好ましい。
耐衝撃性改良剤の配合量は、(a)熱可塑性樹脂100重量部に対して、好ましくは0.5〜40重量部であり、より好ましくは2〜35重量部、さらに好ましくは5〜30重量部である。配合量を0.5重量部以上とすることにより、耐衝撃性をより優れたものとすることができ、40重量部以下とすることにより、耐熱性、耐紫外線老化性、透過率の低下を抑制することができる。
【0076】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂を配合することができる。これらの熱硬化性樹脂は、(a)熱可塑性樹脂の一部として配合してもよく、2種以上を組み合わせて使用することもできる。これらの熱硬化性樹脂の配合量は、樹脂成分中の50重量%以下であることが好ましく、45重量%以下であることがさらに好ましい。
【0077】
本発明のレーザー溶着用熱可塑性樹脂組成物は、該樹脂組成物からなる厚み2mmの成形品の、波長940nm又は960nmにおける光線透過率が、15%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。
【0078】
本発明で用いる繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)の成形加工方法は、熱可塑性樹脂について一般に使用されている成形法、すなわち、射出成形、中空成形、押し出し成形、プレス成形等の成形法を適用することができる。特に好ましい成形方法は、流動性の良さから、射出成形である。
【0079】
本発明において、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)を用いることにより、少なくとも一方にこの繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)を用いた部材同士を強固に接着させることができ、2以上の樹脂部材を有する成形品を製造するのに好ましく用いることができる。
部材の形状は特に制限されないが、部材同士をレーザー溶着により接合して用いるため、通常、少なくとも面接触箇所(平面、曲面)を有する形状である。
レーザー溶着では、レーザー透過性のある部材を透過したレーザー光が、レーザー吸収性のある部材に吸収されて、溶融し、両部材が溶着される。本発明で用いる繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)は、レーザー光に対する透過性が高いので、レーザー光が透過する部材として好ましく用いることができる。ここで、該レーザーが透過する部材の厚み(レーザー光が透過する方向の厚み)は、用途、組成物の組成その他を勘案して、適宜定めることができるが、例えば5mm以下であり、好ましくは4mm以下である。
【0080】
本発明のレーザー溶着に用いるレーザー光源としては、例えば、Arレーザー(510nm)、He−Neレーザー(630nm)、COレーザー(10600nm)等の気体レーザー、色素レーザー(400〜700nm)等の液体レーザー、YAGレーザー(1064nm)等の固体レーザーや、半導体レーザー(655〜980nm)等が利用できる。ビーム品質、コストの点で、半導体レーザーが好ましく用いられる。また、溶着相手材の種類によって、適宜レーザー種を選択することもできる。
【0081】
より具体的には、本発明で用いる繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)からなる成形品と熱可塑性樹脂組成物(B)からなる部材を溶着する場合、まず、両者の溶着する箇所同士を相互に接触させる。この時、両者の溶着箇所は面接触が望ましく、平面同士、曲面同士、又は平面と曲面の組み合わせであってもよい。次いで、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)からなる成形品側からレーザー光を照射(好ましくは接着面に垂直に照射)する。この時、必要によりレンズ系を利用して両者の界面にレーザー光を集光させてもよい。その集光ビームは樹脂組成物(A)からなる成形品中を透過し、樹脂組成物(B)からなる部材の表面近傍で吸収されて発熱し溶融する。次にその熱は熱伝導によって樹脂組成物(A)からなる成形品側にも伝わって溶融し、両者の界面に溶融プールを形成し、冷却後、両者が接合する。
このようにして部材同士を溶着された複合成形品は、高い接合強度を有する。尚、本発明における複合成形品とは、少なくとも2以上の部材を溶着されたものをいい、完成品や部品の他、これらの一部分を成す部材も含む趣旨である。
【0082】
尚、熱可塑性樹脂組成物(B)からなる部材は、少なくとも熱可塑性樹脂を含み、且つ、本発明における繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)からなる成形品と溶着可能なものであれば特に制限されない。熱可塑性樹脂組成物(B)に含まれる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂等が挙げられ、2種以上の熱可塑性樹脂混合物であってもよい。また、熱可塑性樹脂組成物(B)に含まれる樹脂は、上記のような熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との混合物であってもよい。混合物である場合は、樹脂成分の70重量%以上が熱可塑性樹脂であることが好ましい。さらにまた、熱可塑性樹脂組成物(B)は、前述の繊維強化樹脂組成物(A)であってもよい。これらの中でも、熱可塑性樹脂組成物(B)の樹脂成分としては、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む樹脂が好ましく、樹脂成分の50重量%以上がポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂であることがより好ましく、ポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂単独であることがさらに好ましく、ポリアミド樹脂又はポリブチレンテレフタレート樹脂単独であることが特に好ましい。
熱可塑性樹脂組成物(B)に含まれる樹脂は、照射するレーザー光波長の範囲内に吸収波長を持つものも好ましい。さらに、熱可塑性樹脂組成物(B)に、光吸収剤、例えば着色顔料等を添加含有させることにより、その吸収特性を発現させてもよい。前記着色顔料としては、例えば、無機顔料(カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック等)等の黒色顔料、酸化鉄赤等の赤色顔料、モリブデートオレンジ等の橙色顔料、酸化チタン等の白色顔料)、有機顔料(黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料等)等が挙げられる。中でも、無機顔料は一般に隠ぺい力が強く、レーザー吸収側の熱可塑性樹脂組成物(B)により好ましく用いることができる。これらの光吸収剤は単独でも2種以上組み合わせて使用してもよい。光吸収剤の配合量は、樹脂成分100重量部に対し0.01〜1重量部であることが好ましい。
【0083】
本発明で得られた複合成形品は、高い溶着強度を有し、レーザー光照射による樹脂の損傷も少ないため、種々の用途、例えば、各種保存容器、電気・電子部品、オフィスオートメート(OA)機器部品、家電機器部品、機械機構部品、車両機構部品等に適用できる。特に、車両用電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品等)、車両用中空部品(各種タンク、インテークマニホールド部品等)、モーター部品、各種センサー部品、コネクター部品、スイッチ部品、リレー部品、コイル部品、トランス部品、ランプ部品等のハウジングに好適に用いることができる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0085】
<実施例1〜9及び比較例1〜3>
[各種測定法]
(1)極限粘度
ウベローデ型粘度計を使用し次の要領で求めた。すなわち、フェノールとテトラクロロエタンの重量比1:1混合物溶媒中、30℃、濃度1.0g/dlのポリマー溶液及び溶媒のみの落下秒数を測定し、下記式(1)より求めた。
【0086】
IV=((1+4Kηsp0.5−1)/(2KC) (1)
但し、式(1)中、ηsp=(η/η)−1であり、ηはポリマー溶液落下秒数、ηは溶媒の落下秒数、Cはポリマー溶液濃度(g/dl)、Kはハギンズの定数であり、0.33とした。
【0087】
(2)強化繊維含有率、重量平均繊維長
下記記載の方法で作製された光線透過率測定用の試験片の中央部(光線透過率測定部位を含む)から約5gのサンプルを切り出し、500℃の電気炉(東洋製作所社製「電気マッフル炉KM−280」)内で熱可塑性樹脂成分のみを燃焼させた後、残存するガラス繊維の重量を測定し、燃焼前の試験片の重量に対する比率をガラス繊維含有率とした。また、得られたガラス繊維を破損しないようにスライドグラス上に分散させ、CCDカメラ付き光学顕微鏡を用い、任意の部分を画像として1000〜2000本の範囲で取り込み、画像解析用ソフトで繊維長の測定を行った。得られた繊維長の重量平均値を重量平均繊維長とした。結果を表1、2に示す。
【0088】
(3)光線透過率、曲げ強度、曲げ弾性率
下記記載の方法で得られた各種測定用試験片を用い、光線透過率、曲げ強度及び曲げ弾性率測定を行った。光線透過率は、可視・紫外分光光度計(島津製作所社製:UV-3100PC)を用いて測定し、近赤外領域800〜1100nmの透過光強度と入射光強度の比を百分率で表した。曲げ強度及び曲げ弾性率は、光線透過率測定用試験片と同条件で作製した試験片について、ASTM D790規格に準拠して測定した。評価結果を表1、2に示す。
【0089】
(4)引張強度、シャルピー衝撃強度
下記記載の方法で得られた引張及びシャルピー測定用ISO試験片について、引張強度は東洋精機製作所社製「ストログラフ AP−II」を用いISO527規格に、ノッチ付きシャルピー衝撃強度はISO179規格にそれぞれ従って測定した。評価結果を表1、2に示す。
【0090】
(5)レーザー溶着性評価
図1に示すように試験片を重ね合わせ、レーザー照射を行った。図1中、(a)は試験片を側面から見た図を、(b)は試験片を上方から見た図をそれぞれ示している。1は下記記載の光線透過率測定用の試験片と同条件で作製した試験片(長さ128mm、幅13mm、厚さ1.6mm)を、2は接合する相手材である熱可塑性樹脂組成物(B)からなる試験片(試験片1と同様に作製)を、3はレーザー照射箇所を、それぞれ示している。
試験片1をレーザー透過側、樹脂組成物(B)からなる試験片2をレーザー吸収側として重ね合わせ、透過側からレーザーを照射した。レーザー溶着装置は、一括照射タイプの日本エマソン社製「IRAM−300」を用い、レーザー光波長は960nm、溶着スポットは3mm×6mm、圧力は4.8MPaでレーザーを照射した。レーザー照射時間を変化させ、照射後溶着された試験片を用い、レーザー溶着強度試験を行った。溶着強度の測定は、引張試験機(インストロン社製「5544型」)を使用し、溶着して一体化された試験片1と2を、その長軸方向の両端をクランプで挟み、引張速度5mm/minで引張り、レーザー照射部の引張剪断破壊状況を観察した。このレーザー照射部の引張剪断破壊強度が25MPa以上になった時を完全溶着と判断し、これに要するレーザー照射時間で溶着性を評価した。この完全溶着に要するレーザー照射時間が短いほど、レーザー溶着性に優れているといえる。評価結果を表1、2に示す。
【0091】
[ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)の製造法]
実施例1、6、7用樹脂組成物:
(b−1)連続したガラス繊維ロービング(旭ファイバーグラス社製「商品名:ER740TK」、繊維直径13μm、屈折率(nd)1.55)を開繊して引き取りながら浸ダイの中を通し、含浸ダイに供給される溶融樹脂を含浸させた後、賦形、冷却、切断する引き抜き成形法を用いて、熱可塑性樹脂100重量部に対し、ガラス繊維を43重量部含有する、長さ10mmの繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造した。熱可塑性樹脂としては、(a−1)ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「商品名:ノバデュラン(登録商標)5008」、極限粘度0.85dl/g)を溶融して使用した。得られたペレット中の、ガラス繊維は、繊維直径13μmで、ペレットと同一長さを有し、ペレットの長さ方向に実質的に平行配列しているものであった。
【0092】
実施例2用樹脂組成物:
実施例1において、(b−1)ガラス繊維ロービング量と(a−1)ポリブチレンテレフタレート樹脂量との比率を調整することにより、(b−1)ガラス繊維配合量を、ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し100重量部にかえた以外は、実施例1と同様にして繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造した。
【0093】
実施例3用樹脂組成物:
(a−1)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(c)o-クレゾールノボラック型エポキシ化合物(東都化成社製「商品名:YDCN−704」、エポキシ当量195〜220g/eq)を6重量部添加し、2軸押出機(日本製鋼所社製「型式:TEX30C」、スクリュー径30mm)を用いて、シリンダー温度260℃、スクリュー回転数200rpmの条件で溶融混練を行い、樹脂組成物ペレットを得た。このようにして得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物ペレットを実施例1の熱可塑性樹脂のかわりに使用する以外は、実施例1と同様にして繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造した。
【0094】
実施例4用樹脂組成物:
(a−1)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(d−1)メチン系油溶性染料ベースの着色剤とポリブチレンテレフタレート樹脂を配合して製造された熱可塑性樹脂マスターバッチ(オリヱント化学工業社製「商品名:eBIND LTW−8950C」)を4.3重量部添加し、2軸押出機(日本製鋼所社製「型式:TEX30C」、スクリュー径30mm)を用いて、シリンダー温度260℃、スクリュー回転数200rpmの条件で溶融混練し、樹脂組成物ペレットを得た。このようにして得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物ペレットを実施例1の熱可塑性樹脂のかわりに使用する以外は、実施例1と同様にして繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造した。
【0095】
実施例5用樹脂組成物:
実施例1において、(a−1)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(a−2)ポリカーボネート樹脂(重量比で7対3)から成る熱可塑性樹脂混合物100重量部に対し、(b−1)ガラス繊維の配合量を67重量部とした以外は、実施例1と同様にして繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造した。なお、(a−2)ポリカーボネート樹脂としては、三菱エンジニアリングプラスチックス社製「商品名:ユーピロン(登録商標)H4000」を使用した。
【0096】
実施例8、比較例1用樹脂組成物:
2軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30C」、バレル9ブロック構成)を用いて、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数200rpmの条件下、(a−1)ポリブチレンテレフタレート樹脂をホッパーより供給し、(a−1)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し43重量部の(b−2)ガラス繊維(チョップドストランド、日本電気硝子社製「商品名:ECS03T−187」、平均繊維径13μm、カット長3mm、屈折率(nd)1.55)を、ホッパーから数えて5番目のブロックからサイドフィード方式で供給して溶融混練して押出し、ストランドを長さ3mmにカットして射出成形用の繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造した。
【0097】
実施例9用樹脂組成物:
(a−1)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(b−2)ガラス繊維43重量部を配合しタンブラーで3分混合し、このドライブレンド物を射出成形用の樹脂組成物として用いた。
【0098】
比較例2用樹脂組成物:
実施例8において、(b−2)ガラス繊維の配合量を(a−1)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し100重量部とした以外は、実施例8と同様にして繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造した。
【0099】
比較例3:
実施例8において、(a−1)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(a−2)ポリカーボネート樹脂(重量比で7対3)から成る熱可塑性樹脂混合物100重量部に対し、(b−2)ガラス繊維の配合量を67重量部とした以外は、実施例8と同様にして繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造した。
【0100】
[熱可塑性樹脂組成物(B)の製造法]
(a−1)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、カーボンブラックとポリブチレンテレフタレート樹脂を配合して製造された熱可塑性樹脂マスターバッチ(三菱エンジニアリングプラスチックス社製「商品名:PT20BLMB」)を2.0重量部配合し、2軸押出機(日本製鋼所社製「型式:TEX30C」、スクリュー径30mm)を用いて、シリンダー温度260℃、スクリュー回転数200rpmの条件で溶融混練を行い、樹脂組成物ペレットを得た。このようにして得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を熱可塑性樹脂として使用する以外は、実施例2と同様にして繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造した。
【0101】
[成形条件]
光線透過率、曲げ測定用試験片:
上記記載の方法で得られた実施例1〜8及び比較例1〜3に示した繊維強化熱可塑性樹脂ペレット及び、実施例9に示したドライブレンド物を、120℃で5時間乾燥した後、射出成形機(住友重機械工業社製「型式:SE−50D」)を用いて、表1、2に記載の成形条件で、光線透過率及び曲げ測定用の試験片(長さ128mm、幅13mm、厚さ1.6mm)を作製した。
【0102】
引張試験、シャルピー衝撃試験用試験片:
上記記載の方法で得られた実施例1〜8及び比較例1〜3に示した繊維強化熱可塑性樹脂ペレット及び、実施例9に示したドライブレンド物を、120℃で5時間乾燥した後、射出成形機(住友重機械工業社製「型式:SG−75MIII」)を用いて、表1、2に記載の成形条件で、引張試験及びシャルピー衝撃試験用のISO試験片を作製した。
【0103】
【表1】

【0104】
【表2】

【0105】
表1、2の結果より、次のことが推定される。
(1)実施例1、6〜9と比較例1、実施例2と比較例2、実施例5と比較例3をそれぞれ比較すると、成形品中の重量平均繊維長が長い場合に、光線透過率が向上しレーザー溶着性に優れることが分かる。また、同時に、重量平均繊維長が長いほど、機械的強度、特にシャルピー衝撃強度、曲げ強度が向上し、曲げ弾性率や引張強度も十分であることがわかる。
特に、実施例6は、実施例1よりも射出成形時のシリンダー温度を上げることにより、強化繊維の破砕がより抑えられるため重量平均繊維長が長くなり、レーザー溶着性及び機械的強度が一層向上することがわかる。また、実施例7は、実施例1よりも射出成形時の背圧が高いため強化繊維が破砕しやすく、重量平均繊維長が短くなるが、ガラス繊維としてチョップドストランドを用い、射出成形時の背圧をより高く設定した比較例1に比べると、重量平均繊維長が1.44mmと比較的長いため、実施例7の樹脂組成物は良好なレーザー溶着性及び機械的性質を示すことがわかる。
更に、実施例8及び比較例1は、いずれもガラス繊維をチョップドストランドの形態で使用した例であるが、実施例8は射出成形時の背圧を低く抑えているので、重量平均繊維長が0.76mmと長くでき、良好なレーザー溶着性、曲げ強度、シャルピー衝撃強度を示すことがわかる。比較例1は背圧が高いので重量平均繊維長が短く、これらの性能も不十分であることがわかる。
また、実施例9は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とガラス繊維チョップドストランドをドライブレンドし成形に用いた例であるが、この場合でも、得られる成形品は、良好なレーザー溶着性と機械的性質を示すことがわかる。
(2)実施例1及び3の比較から、エポキシ化合物を配合することにより、光線透過率が一層向上し、レーザー溶着性が優れることがわかる。
(3)通常着色剤を配合した場合透過率が低下するためレーザー溶着性も大きく低下又は溶着できない場合が多いが、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂組成物を用いた場合は、着色剤を配合しても光線透過率が大きく低下することなく、良好な溶着性を保つことができることが、実施例4と比較例1の比較からわかる。
【0106】
<実施例10〜22及び比較例4〜6>
[各種測定法]
(1)強化繊維含有率、重量平均繊維長
上記実施例1〜9及び比較例1〜3に記載の方法と同様の方法で測定した。評価結果を表3、4に示す。
【0107】
(2)光線透過率、曲げ強度、曲げ弾性率
下記記載の方法で得られた各種測定用試験片を用い、光線透過率、曲げ強度及び曲げ弾性率測定を行った。光線透過率は、可視・紫外分光光度計(島津製作所社製:UV-3100PC)を用いて測定し、近赤外領域940nmの透過光強度と入射光強度の比を百分率で表した。曲げ強度及び曲げ弾性率は、光線透過率測定用試験片と同条件で作製した試験片(長さ128mm、幅13mm、厚さ1.6mm)について、ASTM D790規格に準拠して測定した。評価結果を表3、4に示す。
【0108】
(3)引張強度、シャルピー衝撃強度
上記実施例1〜9及び比較例1〜3に記載の方法と同様の方法で測定した。結果を表3、4に示す。評価結果を表3、4に示す。
【0109】
(4)レーザー溶着性評価
図1に示すように試験片を重ね合わせ、レーザー照射を行った。図1中、(a)は試験片を側面から見た図を、(b)は試験片を上方から見た図をそれぞれ示している。1は下記記載の光線透過率測定用の試験片と同条件で作製した試験片(長さ128mm、幅13mm、厚さ2mm)を、2は接合する相手材である熱可塑性樹脂組成物(B)からなる試験片(試験片1と同様に作製)を、3はレーザー照射箇所を、それぞれ示している。
試験片1をレーザー透過側、樹脂組成物(B)からなる試験片2をレーザー吸収側として重ね合わせ、透過側からレーザーを照射した。レーザー溶着装置は、スキャンタイプのパーカーコーポレーション社製「PARK LASER SYSTEM」を用い、レーザー光波長は940nm、溶着スポット径は0.6mm、溶着長さは13mmでレーザーを照射した。レーザー光のスキャン速度は5mm/sec、レーザー出力は18Wとした。溶着強度の測定は、引張試験機(インストロン社製「5544型」)を使用し、溶着して一体化された試験片1と2を、その長軸方向の両端をクランプで挟み、引張速度5mm/minで引張って評価した。引張速度は、溶着部の引張せん断破壊強度で示した。評価結果を表3、4に示す。
【0110】
[ガラス繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)の製造法]
実施例10用樹脂組成物:
(b−1)連続したガラス繊維ロービング(旭ファイバーグラス社製「商品名:ER740TK」、繊維直径13μm)を開繊して引き取りながら含浸ダイの中を通し、含浸ダイに供給される溶融樹脂を含浸させた後、賦形、冷却、切断する引き抜き成形法を用いて、熱可塑性樹脂100重量部に対し、ガラス繊維を100重量部含有する、長さ10mmの繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造した。熱可塑性樹脂としては、(a−3)ポリアミドMXD6(三菱瓦斯化学(株)製、「商品名:MXナイロン6000」、見かけの溶融粘度1600ポイズ(キャピラリーレオメーター(東洋精機製作所社製キャピログラフ1C)を使用し、キャピラリーのL/Dは30mm/1mm、温度280℃、せん断速度100sec-1にて測定した)70重量部と、(a−5)ポリアミド66(デュポン社製、「商品名:ザイテル101」、粘度数150ml/g(ISO307規格に準拠して、温度25℃、96重量%硫酸中、ポリアミド樹脂濃度0.5重量%で測定した)30重量部の混合物を溶融して使用した。得られたペレット中の、ガラス繊維は、繊維直径13μmで、ペレットと同一長さを有し、ペレットの長さ方向に実質的に平行配列しているものであった。
【0111】
実施例11、13用樹脂組成物:
実施例10において、(b−1)ガラス繊維ロービング量と熱可塑性樹脂量との比率を調整することにより、(b−1)ガラス繊維配合量を、熱可塑性樹脂100重量部に対し43重量部にかえた以外は、実施例10と同様にして繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造した。
【0112】
実施例12用樹脂組成物:
(a−3)ポリアミドMXD6 70重量部と(a−5)ポリアミド66 30重量部の合計100重量部に対し、(d−2)酸性染料ベースの着色剤とポリアミド6を配合して製造された熱可塑性樹脂マスターバッチ(オリヱント化学工業社製「商品名:eBIND LTW−8620C」)を4.3重量部添加し、2軸押出機(日本製鋼所社製「型式:TEX30C」、スクリュー径30mm)を用いて、シリンダー温度260℃、スクリュー回転数200rpmの条件で溶融混練し、樹脂組成物ペレットを得た。このようにして得られたポリアミド樹脂組成物ペレットを実施例10の熱可塑性樹脂のかわりに使用する以外は、実施例10と同様にして繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造した。
【0113】
実施例14、比較例5用樹脂組成物:
2軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30C」、バレル9ブロック構成)を用いて、シリンダー温度260℃、スクリュー回転数200rpmの条件下、予めドライブレンドした(a−3)ポリアミドMXD6 70重量部と(a−5)ポリアミド66 30重量部の混合物をホッパーより供給し、上記混合ポリアミド樹脂100重量部に対し43重量部の(b−3)ガラス繊維(チョップドストランド、日本電気硝子社製「商品名:ECS03T−289」、平均繊維径13μm、カット長3mm、屈折率(nd)1.55)を、ホッパーから数えて5番目のブロックからサイドフィード方式で供給して溶融混練して押出し、ストランドを長さ3mmにカットして射出成形用の繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造した。
【0114】
実施例15用樹脂組成物:
(a−3)ポリアミドMXD6 70重量部と(a−5)ポリアミド66 30重量部の合計100重量部に対し、(b−3)ガラス繊維43重量部を配合しタンブラーで3分混合し、このドライブレンド物を射出成形用の樹脂組成物として用いた。
【0115】
実施例16〜18用樹脂組成物
実施例10において、(a−4)ポリアミド6I/6T(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、「商品名:ノバミッド(登録商標)X21」、見かけの溶融粘度6500ポイズ(キャピラリーレオメーター(東洋精機製作所社製キャピログラフ1C)を使用し、キャピラリーのL/Dは30mm/1mm、温度280℃、せん断速度100sec-1にて測定した)を30重量部と、(a−6)ポリアミド6(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名「ノバミッド(登録商標)1013J」、粘度数138ml/g(ISO307規格に準拠して、温度25℃、96重量%硫酸中、ポリアミド樹脂濃度0.5重量%で測定した)を70重量部の混合ポリアミド樹脂100重量部に対し、(b−1)ガラス繊維の配合量を43重量部とした以外は、実施例10と同様にして繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造した。
【0116】
実施例19用樹脂組成物:
実施例14において、熱可塑性樹脂成分を(a−4)ポリアミド6I/6T 30重量部と(a−6)ポリアミド6 70重量部の混合ポリアミド樹脂にかえた以外は、実施例14と同様にして繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造した。
【0117】
実施例20用樹脂組成物:
実施例10において、(a−5)ポリアミド66 100重量部に対し、(b−1)ガラス繊維の配合量を43重量部とした以外は、実施例10と同様にして繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造した。
【0118】
実施例21用樹脂組成物:
実施例10において、(a−6)ポリアミド6 100重量部に対し、(b−1)ガラス繊維の配合量を43重量部とした以外は、実施例10と同様にして繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造した。
【0119】
実施例22、比較例6用樹脂組成物:
実施例14において、熱可塑性樹脂成分を(a−6)ポリアミド6にかえた以外は、実施例14と同様にして繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造した。
【0120】
比較例4用樹脂組成物:
実施例14において、(b−3)ガラス繊維の配合量を(a−3)ポリアミドMXD6 70重量部と、(a−5)ポリアミド66 30重量部の合計100重量部に対し100重量部とした以外は、実施例14と同様にして繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造した。
【0121】
[熱可塑性樹脂組成物(B)の製造法]
後述するそれぞれの実施例及び比較例の樹脂組成物に、カーボンブラック(三菱化学(株)製、品番:MA600B)を、樹脂成分100重量部に対し0.6重量部の割合で配合したものを用いた。
【0122】
[成形条件]
光線透過率、曲げ測定用試験片:
上記記載の方法で得られた実施例10〜14、16〜22、比較例4〜6に示した繊維強化熱可塑性樹脂ペレット及び、実施例15に示したドライブレンド物を、120℃で5時間乾燥した後、射出成形機(住友重機械工業社製「型式:SE−50D」)を用いて、表3、4に記載の成形条件で、光線透過率測定用の試験片(長さ128mm、幅13mm、厚さ2mm)及び曲げ試験用の試験片(長さ128mm、幅13mm、厚さ1.6mm)を作製した。
【0123】
引張試験、シャルピー衝撃試験用試験片:
上記記載の方法で得られた実施例10〜14、16〜22、比較例4〜6に示した繊維強化熱可塑性樹脂ペレット及び、実施例15に示したドライブレンド物を、120℃で5時間乾燥した後、射出成形機(住友重機械工業社製「型式:SG−75MIII」)を用いて、表3、4に記載の成形条件で、引張試験及びシャルピー衝撃試験用のISO試験片を作製した。
【0124】
【表3】

【0125】
【表4】

【0126】
表3、4の結果より、次のことが推定される。
(1)実施例10〜22の結果から、成形品中の強化繊維の重量平均繊維長を長くすることにより、繊維強化樹脂組成物の特にレーザー透過性、機械的強度、レーザー溶着特性が向上することが分かった。
(2)実施例10と比較例4、実施例11〜15と比較例5、実施例21、22と比較例6をそれぞれ比較すると、成形品中の重量平均繊維長が長い場合に、光線透過率が向上しレーザー溶着性に優れることが分かる。また、同時に、重量平均繊維長が長いほど、機械的強度、特にシャルピー衝撃強度、曲げ強度が向上し、曲げ弾性率や引張強度も十分であることがわかる。
(3)実施例17は、実施例16よりも射出成形時のシリンダー温度を上げることにより、強化繊維の破砕がより抑えられるため重量平均繊維長が長くなり、レーザー溶着性及び機械的強度が一層向上することがわかる。
(4)実施例13は、実施例11よりも射出成形時の背圧が高いため強化繊維が破砕しやすく、重量平均繊維長が短くなるが、ガラス繊維としてチョップドストランドを用い、射出成形時の背圧をより高く設定した比較例5に比べると、重量平均繊維長が1.3mmと比較的長いため、実施例13の樹脂組成物は良好なレーザー溶着性及び機械的性質を示すことがわかる。
更に、実施例14、15及び比較例5は、いずれもガラス繊維をチョップドストランドの形態で使用した例であるが、実施例14及び15は射出成形時の背圧を低く抑えているので、重量平均繊維長がそれぞれ、実施例14が0.82mm、実施例15が1.0mmと長くでき、良好なレーザー溶着性、曲げ強度、シャルピー衝撃強度を示すことがわかる。比較例5は背圧が高いので重量平均繊維長が短く、これらの性能も不十分であることがわかる。実施例16及び18に関しても、背圧と重量平均繊維長の関係は、上記の例と同様の傾向にあることがわかる。
(5)実施例15は、ポリアミド樹脂成分とガラス繊維チョップドストランドをドライブレンドし成形に用いた例であるが、この場合でも、得られる成形品は、良好なレーザー溶着性と機械的性質を示すことがわかる。
(6)通常着色剤を配合した場合透過率が低下するためレーザー溶着性も大きく低下又は溶着できない場合が多いが、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂組成物を用いた場合は、着色剤を配合しても光線透過率が大きく低下することなく、良好な溶着性を保つことができることが、実施例12の結果からわかる。
【0127】
本発明により、機械的強度(特に、耐衝撃性)が良好で、レーザー透過性等のレーザー溶着特性に優れた繊維強化熱可塑性樹脂成形品、該樹脂成形品を用いたレーザー溶着方法及び該レーザー溶着工程を含む複合成形品の製造方法を提供することが可能になった。本発明により、溶着可能な製品厚みの範囲が広がり製品設計の自由度を大きくすることができ、さらに、レーザー照射強度や走査速度等のレーザー溶着条件の幅をも広げることができ、部材同士がより強固に接着した成形品を提供することが可能になった。このような成形品は工業的に広く利用され、その利用価値は極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】図1は、本発明の実施例における、レーザー溶着性評価方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0129】
1 試験片1
2 試験片2
3 レーザー照射箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)熱可塑性樹脂100重量部に対し、(b)強化繊維10〜150重量部を含有してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)からなる成形品において、その成形品中の(b)強化繊維の重量平均繊維長が0.7〜10mmであることを特徴とするレーザー溶着用繊維強化熱可塑性樹脂成形品と熱可塑性樹脂組成物(B)からなる部材を、レーザー光を用いて溶着させる工程を含む複合成形品の製造方法。
【請求項2】
繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)からなる成形品中の、(b)強化繊維の重量平均繊維長が1〜10mmである、請求項1に記載の複合成形品の製造方法。
【請求項3】
(a)熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む樹脂である、請求項1又は2に記載の複合成形品の製造方法。
【請求項4】
(a)熱可塑性樹脂中の50重量%以上がポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合成形品の製造方法。
【請求項5】
ポリアミド樹脂の少なくとも1種を構成する、少なくとも1種のモノマーが芳香環を含有する、請求項3又は4に記載の複合成形品の製造方法。
【請求項6】
ポリアミド樹脂が、脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸とからなる塩及び芳香族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とからなる塩より選ばれる少なくとも1種を構成単位(p)として含む、請求項3〜5のいずれか1項に記載の複合成形品の製造方法。
【請求項7】
構成単位(p)が、ポリアミド樹脂全構成単位中の30モル%以上である、請求項6に記載の複合成形品の製造方法。
【請求項8】
ポリアミド樹脂が、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸ならびに/又はイソフタル酸とからなる塩、及び、キシリレンジアミンとアジピン酸とからなる塩より選ばれる少なくとも1種を構成単位(p)として含む、請求項3〜7のいずれか1項に記載の複合成形品の製造方法。
【請求項9】
ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂である、請求項3〜8のいずれか1項に記載の複合成形品の製造方法。
【請求項10】
繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)が、さらに、(c)エポキシ化合物を(a)熱可塑性樹脂100重量部に対し0.1〜100重量部含有してなる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の複合成形品の製造方法。
【請求項11】
繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)が、さらに、(d)着色剤を含有してなる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の複合成形品の製造方法。
【請求項12】
(b)強化繊維がガラス繊維である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の複合成形品の製造方法。
【請求項13】
(c)エポキシ化合物が、ビスフェノールA型エポキシ化合物又はノボラック型エポキシ化合物である、請求項10〜12のいずれか1項に記載の複合成形品の製造方法。
【請求項14】
繊維強化熱可塑性樹脂組成物(A)からなる成形品が、(a)熱可塑性樹脂でロービング状強化繊維を被覆した後、0.7mm以上の長さにカットされたペレットを用い射出又は押出成形法にて製造されてなる、請求項1〜13のいずれか1項に記載の複合成形品の製造方法。
【請求項15】
熱可塑性樹脂組成物(B)の熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む樹脂である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の複合成形品の製造方法。
【請求項16】
熱可塑性樹脂組成物(B)の熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂又はポリブチレンテレフタレート樹脂である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の複合成形品の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする複合成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−75077(P2008−75077A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−213391(P2007−213391)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】