レーザー発振装置
【課題】光共振器のフィネスを高くしても、共振を安定させることができると共に、光共振機内にレーザー光を蓄積させることにより従来装置と比較してより強いレーザー光を発生可能なレーザー発振装置を提供する。
【解決手段】励起用のレーザー光を発生する励起用レーザー光源と、励起用レーザー光源で生成されたレーザー光が供給されたとき、所望波長のレーザー光を生成するファイバ増幅器と、光共振器と、光共振器とファイバ増幅器との間に介挿され、ファイバ増幅器からのレーザー光を光共振器の一方に導き、逆方向のレーザー光を遮断する光アイソレータと、光共振器の他方から出射されるレーザー光を取り込み、ファイバ増幅器、光アイソレータを介し、光共振器に戻し、共振を促進させる光周回路と、光周回路内のレーザー光を振幅変調する変調器とを備える。
【解決手段】励起用のレーザー光を発生する励起用レーザー光源と、励起用レーザー光源で生成されたレーザー光が供給されたとき、所望波長のレーザー光を生成するファイバ増幅器と、光共振器と、光共振器とファイバ増幅器との間に介挿され、ファイバ増幅器からのレーザー光を光共振器の一方に導き、逆方向のレーザー光を遮断する光アイソレータと、光共振器の他方から出射されるレーザー光を取り込み、ファイバ増幅器、光アイソレータを介し、光共振器に戻し、共振を促進させる光周回路と、光周回路内のレーザー光を振幅変調する変調器とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光蓄積共振器を含む自己発振システムを用いて、強いレーザー光を発生することが可能なレーザー発振装置において、パルス動作させることでより高いピーク強度を得ることができるようにしたレーザー発振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザーコンプトン散乱を利用した小型光源装置の開発が行われている。このような光源装置の光源としての強度は、実現可能なレーザー標的の強度に依存する。パルス運転する線形加速器をベースにする場合、レーザー光も高強度のパルスレーザーを用いるか、一時的にバースト増幅して用いる手法がとられる。
【0003】
一方、図36に示すようなコンプトン散乱を利用した蓄積リング型装置や超伝導加速器をベースにした連続運転のシステムによってレーザーの平均強度を高めようとすると、連続的に高強度のレーザー標的が必要となる。
【0004】
このため、レーザー光と電子を衝突させたときのレーザー逆コンプトン散乱でX線を発生させる従来のX線発生装置(例えば、特許文献1を参照)では、公知の大強度モードロック発振器、例えば500W、10psec/パルス、波長“1064nm”、繰り返し周波数“150MHz”の性能を持つ大強度モードロック発振器と、光蓄積共振器とを持つレーザー発生装置を使用し、強いレーザー光を発生させている。
【0005】
ここで、光蓄積共振器とは、複数の鏡で光路を閉じた空間にレーザー光を閉じ込める光共振器で、比較的低出力のレーザー光源からの光を実効的に強度増大し、連続的に高強度レーザー光を実現できる有望な技術である。
【0006】
図22は、従来型のレーザー蓄積装置の構成例を示す。レーザー発振器からの出力は独立に用意された外部共振器に蓄積される。光共振器に光が蓄積されるには、光共振器内に定在波が起こる、即ち鏡間隔が半波長の整数倍に合致する条件が満たされなければならない。その共鳴幅は共振器鏡の反射率で決まり、高増大率を得ようと高反射率の鏡を使用する程、狭くなっていく。増大率1000倍の共振器では、共鳴幅は共振器鏡の位置精度にしてサブナノメートルになり、振動などの環境の擾乱で簡単に共鳴状態が失われてしまう。共鳴条件を機械的に制御し、レーザー蓄積状態を維持させるため、共振器鏡をピエゾ駆動にし、高度なフィードバック制御を行うことが必要とされる。現状では、安定に共鳴を維持できる技術的限界は増大率1000倍程度となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−16488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような従来のレーザー発振装置で使用される大強度モードロック発振器は、非常に高価であることから、レーザー発振装置自体も、高価になってしまうという問題があった。また、従来のレーザー発振装置においては、光共振器の共鳴状態を高精度で制御する高度な技術を必要とするのが難点であり、このことが増大率の技術的な限界を決めることとなる。
【0009】
さらに、従来のレーザー発振装置では、大強度モードロック発振器で生成されたレーザーパルスを光蓄積共振器に導いて、蓄積させる際、フィードバック制御の精度をかなり高くしないと、安定的に蓄積させることができないという問題があった。また、従来のレーザー発振装置では、1000倍程度の蓄積増幅しかできず、光蓄積共振器内のレーザーパルスエネルギーも100μJ/パルス程度にしかならないという問題があった。
【0010】
このため、本発明は、光共振器のフィネス(蓄積増幅度)を高くしても、共振を安定させて、光共振機内にレーザー光を蓄積させることにより従来と比較してより強いレーザー光を発生可能なレーザー発振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、その第1の形態として、励起用のレーザー光を発生するレーザー光源と、前記レーザー光から所望波長のレーザー光を生成させるためのファイバ増幅器と、前記ファイバ増幅器により生成された前記レーザー光を共振蓄積する光共振器と、前記ファイバ増幅器の出力側に配置され、前記レーザー光を前記光共振器の一方に導くと共に、逆方向のレーザー光を遮断する光アイソレータと、前記ファイバ増幅器、前記光共振器及び前記光アイソレータが前記レーザー光を共振させる光周回路として形成され、前記光周回路長に対応した周波数の整数倍に調整された変調信号により前記レーザー光を振幅変調する能動モードロック方式の振幅変調器を前記ファイバ増幅器の入力側に設けたことを特徴とするレーザー発振装置と、を備えたことを特徴とするレーザー発振装置を提供するものである。
【0012】
さらに、本発明は、その第2の形態として、励起用のレーザー光を発生するレーザー光源と、前記レーザー光から所望波長のレーザー光を生成させるためのファイバ増幅器と、前記ファイバ増幅器により生成された前記レーザー光を共振蓄積する光共振器と、前記ファイバ増幅器の出力側に配置され、前記レーザー光を前記光共振器の一方に導くと共に、逆方向のレーザー光を遮断する光アイソレータと、前記ファイバ増幅器、前記光共振器及び前記光アイソレータが前記レーザー光を共振させる光周回路として形成され、前記光アイソレータの出力をモニタリングし、前記光周回路を周回するレーザー光の周波数信号自身により前記レーザー光を振幅変調する再生モードロック方式の振幅変調器を前記ファイバ増幅器の入力側に設けたことを特徴とするレーザー発振装置を提供するものである。
【0013】
ここで、前記再生モードロック方式の振幅変調器は、前記ファイバ増幅器からのレーザー光の一部を取り出すためのフォトダイオードと、前記フォトダイオードの出力信号を増幅する第1のRF増幅器と、前記RF増幅器の出力信号の中から成長させたい所望の周波数帯域のRF信号を取り出すためのバンドパスフィルタと、前記バンドパスフィルタを通過したRF信号の位相変調を行う位相変調器と、前記位相変調されたRF信号により当該振幅変調器を駆動する第2のRF増幅器と、を含むことを特徴とする。
【0014】
前記光周回路には、前記レーザー光から所望波長のレーザー光を生成させるための第2のファイバ増幅器が配置されることを特徴とする。
【0015】
前記光周回路上には、当該光周回路の光路長を微調整するための調整ケーブルを設けたことを特徴とする。
【0016】
前記光共振器は、所定の間隔で相互に向かい合う2枚の凹面鏡を少なくとも有するフォックス・スミス干渉計タイプの共振器であることを特徴とする。
【0017】
さらに、前記光共振器は、前記2枚の凹面鏡によって形成される共振器長を前記所望波長のレーザー光に対応させて微調整させるピエゾ調整器を有することを特徴とする。
【0018】
前記ファイバ増幅器は、Ybがドープされたコアを持つ前記光ファイバにより形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
これにより、本発明に係るレーザー発振装置は、光共振器のフィネスを高くしても、共振を安定させることができると共に、光共振機内にレーザー光を蓄積させて、強いレーザー光を発生させることを可能としたのである。
【0020】
また、本装置は、蓄積共振器と増幅器を組み合わせによる自己発振システムとし、これに振幅変調を加えることで、周回光が共振器長に対応する間隔の安定したパルス構造を持つことにより、同時に蓄積共振器内部で強度増大が起こるパルス動作させることが出来るために、より一層高いピーク強度が得られる。
【0021】
さらに、本装置は、自己発振システムにおいて、レーザー発振器自体のノイズを電気的に取り出して振幅変調をかけることで系の基本周波数に正確に一致した変調信号をフィードバックすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】周回発振型光蓄積装置の概念を示す。
【図2】本発明の第1の実施形態による周回発振型光蓄積によるレーザー発振装置の構成を示す。
【図3】本装置の自由空間部の光学系を調整するときのシステムを示す。
【図4】コート無し共振器鏡で変調器オフでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。
【図5】コート無し共振器鏡で変調器オンでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。
【図6】コート無し共振器鏡で変調器オンでのPD1の信号のオシロスコープでの観測波形を示す。
【図7】90%反射率の共振器鏡で変調器オフでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。WDM WDM
【図8】本装置による再生モードロックしたときのPD1のスペクトルアナライザ測定によるノイズピークの観測結果を示す。
【図9】本装置による再生モードロックしたときのオシロスコープにてPD1を観測したパルス波形を示す。
【図10】99%反射率の共振器鏡での変調器オフでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。
【図11】99%反射率の共振器鏡で変調器オンでのPD1の信号をスペクトラムアナライザにて測定した結果を示す。
【図12】99%反射率の共振器鏡で変調器オンでのオシロスコープでPD1を観測したパルス波形を示す。
【図13】レーザー光を振幅変調するのに再生モードロック方式を採用したレーザー発振装置の構成を示す。
【図14】コート無し共振器鏡で変調器オフでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。
【図15】コート無し共振器鏡で変調器オフでのモニタ信号をオシロスコープで測定した結果を示す。
【図16】コート無し共振器鏡で変調器オンでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。
【図17】コート無し共振器鏡で変調器オンでのPD1の信号をオシロスコープで測定した結果を示す。
【図18】90%反射率の共振器鏡で変調器オフでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。
【図19】90%反射率の共振器鏡で変調器オフでのPD1の信号の波形を示す。
【図20】90%反射率の共振器鏡で変調器オンでのPD1の信号をスペクトラムアナライザにて測定した結果を示す。
【図21】90%反射率の共振器鏡で変調器オンでのPD1の信号の波形を示す。
【図22】従来のレーザー蓄積装置の構成を説明している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.本発明の第1の実施形態の説明
図1は、自己発振システムである周回発振型光蓄積装置の概念を説明する図であり、光共振器とレーザー増幅器が全体で一体となってレーザー発振器を構成する点を特徴としている。発振回路そのものが自動的に共鳴条件を追従することになるので、制御をせずとも共鳴状態が続く利点がある。増幅部でのゲインが共振器部を含め周回のロスを上回れば、系は発振状態になり、自動的にレーザー光が光周回路を周回し続けることになる。発振は増幅器の自然放出光ノイズから始まる。ノイズ光のうちたまたま光共振器の共鳴幅に受け入れられたスペクトル成分が光共振器を通過し、以降の種光となって周回の中で増幅されていき、最終的にはレーザー増幅器を励起する全エネルギーは全てこの成分に集約され、増幅部が飽和するところで系は定常状態となる。
【0024】
共振器部と増幅部が全体で一体となってレーザー発振器を構成する点が従来方式と異なる。従来方式では振動等によって共鳴条件が外れるのを高速高精度フィードバック技術によって無理矢理に維持していたのに対し、新方式では発振回路そのものが自動的に共鳴条件を追従することになるので、制御をせずとも共鳴状態が続く利点がある。
【0025】
共振器を透過した複雑な光路のロスを補う為には高ゲインの増幅部が必要であり、単一パスで高ゲインの得られるファイバ増幅器がこのシステム開発の要になる。そこで、光蓄積共振器と、高効率ファイバレーザー増幅法との基礎研究によって、自己発振を生じさせた閉光学系(周回発振)の着想に至った。このような高フィネス(finesse)タイプの光共振器においては、共振するレーザー光のみを蓄積するので、光共振器を透過したレーザー光を高効率ファイバレーザー増幅器に戻すことにより、安定なレーザー光増幅と共に、レーザー光蓄積とを実現するものである。
【0026】
そして、高効率ファイバレーザー増幅器によって、光共振器に共鳴したレーザー光を増幅させることができるとともに、安定した増幅で得られたレーザー光を光共振器に蓄積させることができることを確認した。
【0027】
この際、光共振器に入射するレーザー光のエネルギーの1万倍以上のエネルギーを持つレーザー光が光共振器内に存在しているのを確認した。
【0028】
そして、電子ビームを加速させる加速器の出射路内に、光共振器を配置させ、加速器で十分に加速された電子ビームを出射路に導いて、光共振器内のレーザー光に直接、衝突させ、軟X線からガンマ線ビームまで生成させることができることを確認した。
【0029】
図2は本発明の第1の実施例に係るレーザー発振装置を示しており、同図において、右半分の自由空間の光学系には光共振器と、この光共振器を挟んで配置した1組のマッチングレンズ群1及び2と、入出力端にそれぞれは位置した一組のコリメータレンズを具備し、左半分のファイバ光学系には調整ケーブルと、分波/合波器(WDM)と、光アイソレータと、ファイバ増幅器と、振幅変調器とがファイバにて接続されて、自由空間の光学系と閉ループになっている。
【0030】
発振条件を満たすためのゲインに余裕を持つために、ファイバ増幅器を2個設けており、何れのファイバ増幅器1、2もYbファイバ増幅器である。Ybファイバは、コアにYbがドープされたダブルクラッドタイプのファイバであり、所定の波長のレーザー光(励起用のレーザー光)が供給されて励起されたとき、これとは異なる波長のレーザー光を発生し供給する。
【0031】
周回方向を規定するために、光アイソレータ1、2を2ヶ所に挿入している。光アイソレータは、端子に供給されたレーザー光を通過させて端子から出射する。
【0032】
励起用のレーザー光を発生するレーザー光源は、レーザーダイオードLDと、光アイソレータ3と、前記した分波/合波器(WDM)とから構成している。レーザーダイオードは、ファイバ増幅器を励起させるのに必要な波長のレーザー光を発生する半導体レーザー素子などによって構成しており、駆動電圧が印加されているとき、レーザー光を発生し、レーザーダイオード→光ファイバ→光アイソレータの端子なる経路で、光アイソレータに供給する。
【0033】
光アイソレータ3は、端子に供給されたレーザー光を通過させて端子から出射させ、また端子に供給されたレーザー光を遮断して、端子から出射しないように構成されており、レーザーダイオードからレーザー光が供給されると、端子に接続された光ファイバを介して、これを取り込み、通過させて、端子から出射し、端子→光ファイバ→分波/合波器の端子なる経路で、分波/合波器に供給する。また、分波/合波器からレーザー光が出射され、これが光ファイバを介して、端子に供給されたとき、これを遮断させて、レーザーダイオードを保護する。
【0034】
分波/合波器は、一方の各端子から第1の波長のレーザー光、第2の波長のレーザー光が入射されたとき、これを合波して、他方の端子から出射し、またこの端子から合波されたレーザー光が入射したとき、これを分波して、当該分波したレーザー光を端子から出射し、これを端子から出射するように構成されており、光アイソレータ3からレーザー光が出力され、これが光ファイバに接続された端子に供給されたとき、このレーザー光を取り込み、端子に接続されたファイバ増幅器2に供給する。また、ファイバ増幅器2からレーザー光が出射され、これが端子に供給されると、このレーザー光を分波して、分派した波長のレーザー光を端子から出射し、分波/合波器の端子→光ファイバ→光アイソレータの端子なる経路で、光アイソレータに供給する。
【0035】
また、光アイソレータ2は、端子に供給されたレーザー光を取り込み、通過させて端子から出射し、また端子に供給されたレーザー光を遮断して、端子から出射しないように構成されており、分波/合波器の端子→光ファイバ→端子なる経路で、分波/合波器から出射されたレーザー光が供給されたとき、これを通過させ、端子→光ファイバ→振幅変調器→ファイバ増幅器1→光アイソレータ1なる経路にて光学系に供給する。また、光アイソレータ1は光学系→光ファイバ→端子なる経路で、光学系からレーザー光が供給されたとき、これを遮断して、レーザー光が分波/合波器に戻らないようにする。
【0036】
そして、光周回路の光路長には、光周回路の光路長を微調整するための調整ケーブルを設けているが、この調整ケーブルもファイバにて構成している。
【0037】
調整ケーブルとファイバ増幅器は偏波非保存であるが、変調器以降の偏波保存の系に対して偏光面を合わせる必要がある為、パドル式の偏光コントローラを挿入している。ファイバ系の最後に10%カプラを設置し、周回光の一部(10%)を取り出してフォトダイオード(PD)でモニタしている。
アクティブモードロック方式でパルス化を引き起こすために、振幅変調器には、外部から加えるRF信号で駆動するようになっている。
【0038】
マッチングレンズ群1は、コリメータレンズ1を介してファイバと接続され、レーザー光を反射する複数のミラーと、レーザー光の径などを調整するマッチングレンズを備えており、コリメータレンズ1からのレーザー光を取り込み、反射させながら、径、偏向方向などを調整し、電子ビームを加速させる加速器の出射路内に配置された光共振器に入射させる。
【0039】
光共振器は、電子ビームを加速させる加速器の出射路内に配置される共振器構造体(図示は省略する)と、反射率が90%以上、曲率半径が250mmの、共振器構造体に取り付けられる凹面鏡と、反射率90%以上、曲率半径が250mmで、レーザー光の波長と対応する距離だけ、凹面鏡と離間され、かつ凹面側が対向するように、共振器構造体に取り付けられる凹面鏡と、凹面鏡の裏面と共振器構造体との間に配置され、印加された電圧に応じて、変形し、凹面鏡の位置、取り付け角度などを調整するピエゾ素子とを備えており、マッチングレンズ群1、マッチングレンズ群2から各凹面鏡の裏面にレーザー光が供給されたとき、各凹面鏡を透過させて、各凹面鏡の間に、これを閉じ込め、蓄積しながら、位相を調整する。また、この動作と並行し、各凹面鏡の間に蓄積している強いレーザー光の一部を各凹面鏡から出射させ、マッチングレンズ群1、マッチングレンズ群2に供給する。
【0040】
マッチングレンズ群2は、コリメータレンズ2を介してファイバと接続され、レーザー光を反射する複数のミラーと、レーザー光の径を調整するマッチングレンズを備えて、供給されたレーザー光を取り込み、反射させながら、径、偏向方向などを調整し、光共振器に入射させる。また、光共振器から出射されるレーザー光を取り込み、反射させながら、径、偏向方向などを調整し、コリメータレンズ2から出射し、光ファイバを介して、出力カプラの端子に供給する。
【0041】
このように、ファイバから自由空間へはコリメータレンズ1から出射し、マッチング用のレンズの組で調整したうえで、光共振器に入射される。後に述べる調整により、光共振器長は420mm(周波数357MHz)に合わせている。片方の共振器鏡にはマイクロメータステージを取り付け、光共振器長の微調整に使用し、もう片方の光共振器鏡はピエゾ駆動にし、調整の際のスキャンに用いる。光共振器透過後は対称な光学系を通過し、コリメータレンズ2からファイバへ再入力される。途中、ビームサンプラにより一部を反射し、PD2は共振器の反射光をモニタし、PD3は光共振器の透過光をモニタするようになっている。
【0042】
PD1〜PD3で各部をモニタするが、このときモニタするパワーと、光周回路の各部でのパワーとの対応付けが必要となる。その理由は、この装置においての発振波長は1035nm付近であるが、市販の共振器鏡等の各要素の波長と相違する場合には、キャリブレーションを行う必要があるからである。この場合の光周回路のモニタ点としては、ファイバアンプ1を励起して発生したASE光を使って、各部のパワーを測定し、対応付けする。
【0043】
上記構成において、自己発振システムのパルス動作を行うための光共振器繰り返し周波数の調整と光周回路の調整について説明する。
【0044】
自由空間部の光学系を決めるために、例えば714MHzモードロックレーザーを用いて調整を行うものとする。まず、光共振器の共振器長を精度良く決めようという狙いである。共振器は、曲率半径250mmの凹面鏡を420mm間隔で向かい合わせた、FSR=357MHzの構成とした。
【0045】
図3で示すように、モードロックレーザーからの光をファイバで輸送し、FC/APCコネクタでコリメータに接続して出射する。このとき、光共振器の透過光を見ながら調整し、共鳴を最大にするようにマイクロメータで光共振器長を調整する。マッチングは、ファイバ接続を順方向、逆方向、と切替え、上流側と下流側のマッチングを独立に調整する。順方向から入力し、出射側でファイバに再入力した後の信号を測定し、全体の光学系マッチングを確認する。
【0046】
次に、光周回路の調整について説明する。光共振器の鏡を、同じ形状の基板でコート無しのものに交換でき、その場合、光共振器長に相当する光路長は経由するが、共鳴現象は起きないようになっている。ここで多少のマッチングのずれについては、ファイバ再入力部の鏡を微調整して回復させることが出来る。これで基本的には単純なリングレーザーの構成になる。振幅変調器はRFオフの状態で、ファイバ増幅器をオンにし、フォトダイオードPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定すると、周回の光路長に相当するスーパーモードノイズピークが観測できる。この状態で、ピーク強度を最大にするように、偏光コントローラのパドルの調整と、振幅変調器のDCオフセットの調整を行う。本構成では、周回の基本周波数は6.5MHz程度になっているので、これを目標の357MHzに合わせる為に、基本周波数の55倍のハーモニクスを使う。55番目のピークが357MHzに一致するように、調整ケーブルの長さを調整するが、本例では357.067MHzまで調整が出来る。更に精度を出すためには、ピエゾストレッチャとディレイラインを用いることも考えられる。また、広いスパンで見ると、6.49MHz間隔にスーパーモードノイズピークを確認できる。
【0047】
こうした調整により、光周回路長に対応した周波数の整数倍に調整した357MHzのRF信号を振幅変調器に入力して、パルス発振させると、変調をかけた357MHzの成分が強まり、その他のノイズピークは抑制され、変調の周期でパルス構造が出来上がる。すなわち、繰り返し周波数357MHzに調整した自由空間蓄積共振器を、周回光路長をこの55倍に調整したファイバ増幅器システムに組み込んで発振させた振幅変調を導入した結果、周回光が共振器長に対応する間隔の安定したパルス構造を持ち、同時に蓄積共振器内部で強度増大が起こる。
【0048】
この確認は、PD1の信号をスペクトラムアナライザで測定することで、変調をかけた357MHzの成分が強まりパルス化して発振していることを確認できる。
【0049】
共振器鏡は波長1064nmにおいて、反射率90%、あるいは、99%の仕様になっている。同様にASE光を入射して、透過率を測定した。90%鏡は透過率7.5%、99%鏡は透過率1.3%である、との結果が得られた。この説明では、90%鏡、99%鏡と呼ぶが、実際に共振器透過光パワーから共振器内部でのパワーを見積る際には、測定結果の透過率から算出することになる。
【0050】
本装置の実証確認について説明する。光共振器の共振器鏡が、コート無し及び反射率90%と99%であるそれぞれの場合について、振幅変調器をオン及びオフ(振幅変調器へ入力するケーブルをカプラから外したとき)で測定した結果を示す。
【0051】
a)コート無し共振器鏡での結果
図4に、変調器オフでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。図4(a)によると、357MHz付近にスーパーノイズピークが見られる。また、広いスパンで見る図4(b)の測定によると、6.5MHz間隔でスーパーモードノイズピークが観測できる。
【0052】
図5に、変調器オンでのPD1の信号をスペクトラムアナライザの測定結果を示す。図5(a)によると変調をかけた357MHzの成分が強まり、その他のノイズピークは抑制されていることを広いスパンで見る図5(b)は示している。オシロスコープでPD1を観測した図6のパルス波形は変調の周期でパルス構造が出来ていることを示す。
【0053】
b)90%反射率の共振器鏡での結果
図7に、変調器オフでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。図7(a)によると357MHz付近にピークが見られ、また、広いスパンで見ても、スーパーモードノイズピークは観測されないことを図7(b)は示す。これは、共振器構造によって、他のピークが抑制される為である。
【0054】
図8に、変調器オンでのPD1の信号をスペクトラムアナライザの測定結果を示す。変調をかけた357MHzの成分が強まり、パルス化して発振することを図8(a)及び広いスパンで見る図8(b)は示している。オシロスコープでPD1を観測した図9のパルス波形は、コート無しの場合よりも安定したパルス列が構成されていることを示す。
【0055】
c)99%反射率の共振器鏡での結果
図10に、変調器オフでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。図10(a)によると357MHz付近にピークが見られ、また、図10(b)は広いスパンで見ても、スーパーモードノイズピークは観測されないことを示す。
【0056】
図11に、変調器オンでのPD1の信号をスペクトラムアナライザの測定結果を示す。変調をかけた357MHzの成分が強まり、パルス化して発振することを図11(a)及び広いスパンで見る図11(b)は示している。オシロスコープでPD1を観測した図12のパルス波形は、コート無しの場合よりも安定したパルス列が構成されていることを示す。
【0057】
2.本発明の第2の実施形態の説明
本発明の第1の実施形態の説明では、レーザー発振器のシステムに外部の信号発生器を用いて強制的に振幅変調を与えることで、ハーモニックパルス化を行った。この方式は、構成が比較的簡単で、発振させるハーモニクスを変更することも容易である。
【0058】
これに対して、これから述べる第2の実施形態では、外部の変調信号発生器を用いるかわりに、レーザー発振器自体のノイズを電気的に取り出し、振幅変調器を駆動することで、系の基本周波数に正確に一致した変調信号をフィードバックすることが可能である。この方式に依れば、振幅変調器の駆動信号を自らの発振信号から再生して作る、再生モードロック方式を用いることで、発振周波数自体が変動しても、変調信号と周回長との関係は変わらない為に、パルス発振は安定する利点がある。
【0059】
図13は、レーザー光を振幅変調するのに再生モードロック方式を採用したレーザー発振装置の構成を示す。図2と同様の構成であるが、レーザー発振器自体のノイズを電気的に取り出して振幅変調器に変調信号をフィードバックするフィードバック回路を具備した点が異なる。
【0060】
このフィードバック回路は、10%ファイバカプラから一部の光を取り出し、フォトダイオード(PD1)でモニタする。PD1の電気信号を増幅し、357MHz±7MHzのバンドパスフィルタ(BPF)により、スーパーモードノイズのうち、成長させたい成分を取り出す。これをフェーズシフタで適宜に位相を調整したうえで、RF増幅器で適当な振幅に増幅し、ファイバ増幅器の入力側に設けている振幅変調器を駆動する。
【0061】
また、光周回路の光路長も、図2の構成と同様に、長さを調整した調整ケーブルを挿入して、基本周波数を6.49MHz、55番目のハーモニクスが蓄積共振器の357MHzと一致するようにしている。
【0062】
そして、PD1の信号をスプリッタで2つに分けて、周回パルス構造をモニタするようにし、また、振幅変調器へ戻す信号も2つに分けて、フィードバック信号をモニタすることができるようにすることで、これらの信号をオシロスコープまたはスペクトラムアナライザで観測することで本システムによる効果を確認できる。
【0063】
本装置の実証確認について説明すると、光共振器の共振器鏡が、コート無し及び反射率90%の共振器鏡を用いた場合について測定を行うものとし、再生モードロックによる効果を確認するために、振幅変調器へ入力するケーブルをコネクタから取り外し、フィードバックループをオープンにした場合と、ループをクローズした場合を比較する。
【0064】
a)コート無し共振器鏡での結果
図14に、変調器オフでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。図14(b)によると6.49MHz間隔でスーパーノイズピークが見られ、図14(a)にて357MHz付近に55番目のピークがあることを示す。図15はモニタ信号をオシロスコープで測定したものであり、ノイズは複数の成分から成るためランダムな波形となる。また、広いスパンで見ると、6.5MHz間隔でスーパーモードノイズピークが観測できる。
【0065】
図16は、変調器オンでのPD1の信号をスペクトラムアナライザの測定結果を示す。図16(a)及びスーパーノイズピークが成長しており、広いスパンで見る図16(b)は他のピークは抑制されていることを示す。オシロスコープでPD1を観測した図17のパルス波形は、図17(a)はパルス構造が生じていることを示し、また、長いスパンで見ても安定にパルス発振していることを図17(b)は示す。
【0066】
b)90%反射率の共振器鏡での結果
図18に、変調器オフでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。図18(a)によると357MHzにスーパーノイズピークが見られ、広いスパンで示す図18(b)はその他のピークは、共振器の効果のために抑制されていることを示す。図19はこのときの波形であるが、ノイズの成分が少ないために、特にBPFの後の信号には、図19(a)で短いスパンで見ると357MHzの波形が見られるが、図19(b)の長いスパンで観測すると不安定に振幅が揺らいでいることを示している。
【0067】
図20は、変調器オンでのPD1の信号をスペクトラムアナライザの測定結果を示しており、図20(a)、図20(b)でも発振信号はより鋭くなっていることを示す。図21はこのときの波形であり、図21(a)、図21(b)共にパルス発振が安定していることを示している。
【0068】
以上の測定結果は、本発明の装置に依れば、発振のノイズピークから適当なハーモニクスの信号を電気的に取り出し、振幅変調に用いることで、自動的に変調周波数の最適化を行うことができることを示す。よって、発振のノイズピークから適当なハーモニクスの信号を電気的に取り出し、振幅変調に用いることで、自動的に変調周波数の最適化を行うことができパルス発振を安定させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、強いレーザー光を発生させるレーザー装置に関し、特に、光共振器のフィネスを高めた時でも、安定して発振させ得るようにしたレーザーコンプトン散乱を利用した光源用レーザーに関するものであり、しかも振幅変調を導入することでより高いピーク強度を得ることができるために産業上の利用可能性を有する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光蓄積共振器を含む自己発振システムを用いて、強いレーザー光を発生することが可能なレーザー発振装置において、パルス動作させることでより高いピーク強度を得ることができるようにしたレーザー発振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザーコンプトン散乱を利用した小型光源装置の開発が行われている。このような光源装置の光源としての強度は、実現可能なレーザー標的の強度に依存する。パルス運転する線形加速器をベースにする場合、レーザー光も高強度のパルスレーザーを用いるか、一時的にバースト増幅して用いる手法がとられる。
【0003】
一方、図36に示すようなコンプトン散乱を利用した蓄積リング型装置や超伝導加速器をベースにした連続運転のシステムによってレーザーの平均強度を高めようとすると、連続的に高強度のレーザー標的が必要となる。
【0004】
このため、レーザー光と電子を衝突させたときのレーザー逆コンプトン散乱でX線を発生させる従来のX線発生装置(例えば、特許文献1を参照)では、公知の大強度モードロック発振器、例えば500W、10psec/パルス、波長“1064nm”、繰り返し周波数“150MHz”の性能を持つ大強度モードロック発振器と、光蓄積共振器とを持つレーザー発生装置を使用し、強いレーザー光を発生させている。
【0005】
ここで、光蓄積共振器とは、複数の鏡で光路を閉じた空間にレーザー光を閉じ込める光共振器で、比較的低出力のレーザー光源からの光を実効的に強度増大し、連続的に高強度レーザー光を実現できる有望な技術である。
【0006】
図22は、従来型のレーザー蓄積装置の構成例を示す。レーザー発振器からの出力は独立に用意された外部共振器に蓄積される。光共振器に光が蓄積されるには、光共振器内に定在波が起こる、即ち鏡間隔が半波長の整数倍に合致する条件が満たされなければならない。その共鳴幅は共振器鏡の反射率で決まり、高増大率を得ようと高反射率の鏡を使用する程、狭くなっていく。増大率1000倍の共振器では、共鳴幅は共振器鏡の位置精度にしてサブナノメートルになり、振動などの環境の擾乱で簡単に共鳴状態が失われてしまう。共鳴条件を機械的に制御し、レーザー蓄積状態を維持させるため、共振器鏡をピエゾ駆動にし、高度なフィードバック制御を行うことが必要とされる。現状では、安定に共鳴を維持できる技術的限界は増大率1000倍程度となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−16488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような従来のレーザー発振装置で使用される大強度モードロック発振器は、非常に高価であることから、レーザー発振装置自体も、高価になってしまうという問題があった。また、従来のレーザー発振装置においては、光共振器の共鳴状態を高精度で制御する高度な技術を必要とするのが難点であり、このことが増大率の技術的な限界を決めることとなる。
【0009】
さらに、従来のレーザー発振装置では、大強度モードロック発振器で生成されたレーザーパルスを光蓄積共振器に導いて、蓄積させる際、フィードバック制御の精度をかなり高くしないと、安定的に蓄積させることができないという問題があった。また、従来のレーザー発振装置では、1000倍程度の蓄積増幅しかできず、光蓄積共振器内のレーザーパルスエネルギーも100μJ/パルス程度にしかならないという問題があった。
【0010】
このため、本発明は、光共振器のフィネス(蓄積増幅度)を高くしても、共振を安定させて、光共振機内にレーザー光を蓄積させることにより従来と比較してより強いレーザー光を発生可能なレーザー発振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、その第1の形態として、励起用のレーザー光を発生するレーザー光源と、前記レーザー光から所望波長のレーザー光を生成させるためのファイバ増幅器と、前記ファイバ増幅器により生成された前記レーザー光を共振蓄積する光共振器と、前記ファイバ増幅器の出力側に配置され、前記レーザー光を前記光共振器の一方に導くと共に、逆方向のレーザー光を遮断する光アイソレータと、前記ファイバ増幅器、前記光共振器及び前記光アイソレータが前記レーザー光を共振させる光周回路として形成され、前記光周回路長に対応した周波数の整数倍に調整された変調信号により前記レーザー光を振幅変調する能動モードロック方式の振幅変調器を前記ファイバ増幅器の入力側に設けたことを特徴とするレーザー発振装置と、を備えたことを特徴とするレーザー発振装置を提供するものである。
【0012】
さらに、本発明は、その第2の形態として、励起用のレーザー光を発生するレーザー光源と、前記レーザー光から所望波長のレーザー光を生成させるためのファイバ増幅器と、前記ファイバ増幅器により生成された前記レーザー光を共振蓄積する光共振器と、前記ファイバ増幅器の出力側に配置され、前記レーザー光を前記光共振器の一方に導くと共に、逆方向のレーザー光を遮断する光アイソレータと、前記ファイバ増幅器、前記光共振器及び前記光アイソレータが前記レーザー光を共振させる光周回路として形成され、前記光アイソレータの出力をモニタリングし、前記光周回路を周回するレーザー光の周波数信号自身により前記レーザー光を振幅変調する再生モードロック方式の振幅変調器を前記ファイバ増幅器の入力側に設けたことを特徴とするレーザー発振装置を提供するものである。
【0013】
ここで、前記再生モードロック方式の振幅変調器は、前記ファイバ増幅器からのレーザー光の一部を取り出すためのフォトダイオードと、前記フォトダイオードの出力信号を増幅する第1のRF増幅器と、前記RF増幅器の出力信号の中から成長させたい所望の周波数帯域のRF信号を取り出すためのバンドパスフィルタと、前記バンドパスフィルタを通過したRF信号の位相変調を行う位相変調器と、前記位相変調されたRF信号により当該振幅変調器を駆動する第2のRF増幅器と、を含むことを特徴とする。
【0014】
前記光周回路には、前記レーザー光から所望波長のレーザー光を生成させるための第2のファイバ増幅器が配置されることを特徴とする。
【0015】
前記光周回路上には、当該光周回路の光路長を微調整するための調整ケーブルを設けたことを特徴とする。
【0016】
前記光共振器は、所定の間隔で相互に向かい合う2枚の凹面鏡を少なくとも有するフォックス・スミス干渉計タイプの共振器であることを特徴とする。
【0017】
さらに、前記光共振器は、前記2枚の凹面鏡によって形成される共振器長を前記所望波長のレーザー光に対応させて微調整させるピエゾ調整器を有することを特徴とする。
【0018】
前記ファイバ増幅器は、Ybがドープされたコアを持つ前記光ファイバにより形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
これにより、本発明に係るレーザー発振装置は、光共振器のフィネスを高くしても、共振を安定させることができると共に、光共振機内にレーザー光を蓄積させて、強いレーザー光を発生させることを可能としたのである。
【0020】
また、本装置は、蓄積共振器と増幅器を組み合わせによる自己発振システムとし、これに振幅変調を加えることで、周回光が共振器長に対応する間隔の安定したパルス構造を持つことにより、同時に蓄積共振器内部で強度増大が起こるパルス動作させることが出来るために、より一層高いピーク強度が得られる。
【0021】
さらに、本装置は、自己発振システムにおいて、レーザー発振器自体のノイズを電気的に取り出して振幅変調をかけることで系の基本周波数に正確に一致した変調信号をフィードバックすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】周回発振型光蓄積装置の概念を示す。
【図2】本発明の第1の実施形態による周回発振型光蓄積によるレーザー発振装置の構成を示す。
【図3】本装置の自由空間部の光学系を調整するときのシステムを示す。
【図4】コート無し共振器鏡で変調器オフでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。
【図5】コート無し共振器鏡で変調器オンでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。
【図6】コート無し共振器鏡で変調器オンでのPD1の信号のオシロスコープでの観測波形を示す。
【図7】90%反射率の共振器鏡で変調器オフでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。WDM WDM
【図8】本装置による再生モードロックしたときのPD1のスペクトルアナライザ測定によるノイズピークの観測結果を示す。
【図9】本装置による再生モードロックしたときのオシロスコープにてPD1を観測したパルス波形を示す。
【図10】99%反射率の共振器鏡での変調器オフでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。
【図11】99%反射率の共振器鏡で変調器オンでのPD1の信号をスペクトラムアナライザにて測定した結果を示す。
【図12】99%反射率の共振器鏡で変調器オンでのオシロスコープでPD1を観測したパルス波形を示す。
【図13】レーザー光を振幅変調するのに再生モードロック方式を採用したレーザー発振装置の構成を示す。
【図14】コート無し共振器鏡で変調器オフでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。
【図15】コート無し共振器鏡で変調器オフでのモニタ信号をオシロスコープで測定した結果を示す。
【図16】コート無し共振器鏡で変調器オンでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。
【図17】コート無し共振器鏡で変調器オンでのPD1の信号をオシロスコープで測定した結果を示す。
【図18】90%反射率の共振器鏡で変調器オフでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。
【図19】90%反射率の共振器鏡で変調器オフでのPD1の信号の波形を示す。
【図20】90%反射率の共振器鏡で変調器オンでのPD1の信号をスペクトラムアナライザにて測定した結果を示す。
【図21】90%反射率の共振器鏡で変調器オンでのPD1の信号の波形を示す。
【図22】従来のレーザー蓄積装置の構成を説明している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.本発明の第1の実施形態の説明
図1は、自己発振システムである周回発振型光蓄積装置の概念を説明する図であり、光共振器とレーザー増幅器が全体で一体となってレーザー発振器を構成する点を特徴としている。発振回路そのものが自動的に共鳴条件を追従することになるので、制御をせずとも共鳴状態が続く利点がある。増幅部でのゲインが共振器部を含め周回のロスを上回れば、系は発振状態になり、自動的にレーザー光が光周回路を周回し続けることになる。発振は増幅器の自然放出光ノイズから始まる。ノイズ光のうちたまたま光共振器の共鳴幅に受け入れられたスペクトル成分が光共振器を通過し、以降の種光となって周回の中で増幅されていき、最終的にはレーザー増幅器を励起する全エネルギーは全てこの成分に集約され、増幅部が飽和するところで系は定常状態となる。
【0024】
共振器部と増幅部が全体で一体となってレーザー発振器を構成する点が従来方式と異なる。従来方式では振動等によって共鳴条件が外れるのを高速高精度フィードバック技術によって無理矢理に維持していたのに対し、新方式では発振回路そのものが自動的に共鳴条件を追従することになるので、制御をせずとも共鳴状態が続く利点がある。
【0025】
共振器を透過した複雑な光路のロスを補う為には高ゲインの増幅部が必要であり、単一パスで高ゲインの得られるファイバ増幅器がこのシステム開発の要になる。そこで、光蓄積共振器と、高効率ファイバレーザー増幅法との基礎研究によって、自己発振を生じさせた閉光学系(周回発振)の着想に至った。このような高フィネス(finesse)タイプの光共振器においては、共振するレーザー光のみを蓄積するので、光共振器を透過したレーザー光を高効率ファイバレーザー増幅器に戻すことにより、安定なレーザー光増幅と共に、レーザー光蓄積とを実現するものである。
【0026】
そして、高効率ファイバレーザー増幅器によって、光共振器に共鳴したレーザー光を増幅させることができるとともに、安定した増幅で得られたレーザー光を光共振器に蓄積させることができることを確認した。
【0027】
この際、光共振器に入射するレーザー光のエネルギーの1万倍以上のエネルギーを持つレーザー光が光共振器内に存在しているのを確認した。
【0028】
そして、電子ビームを加速させる加速器の出射路内に、光共振器を配置させ、加速器で十分に加速された電子ビームを出射路に導いて、光共振器内のレーザー光に直接、衝突させ、軟X線からガンマ線ビームまで生成させることができることを確認した。
【0029】
図2は本発明の第1の実施例に係るレーザー発振装置を示しており、同図において、右半分の自由空間の光学系には光共振器と、この光共振器を挟んで配置した1組のマッチングレンズ群1及び2と、入出力端にそれぞれは位置した一組のコリメータレンズを具備し、左半分のファイバ光学系には調整ケーブルと、分波/合波器(WDM)と、光アイソレータと、ファイバ増幅器と、振幅変調器とがファイバにて接続されて、自由空間の光学系と閉ループになっている。
【0030】
発振条件を満たすためのゲインに余裕を持つために、ファイバ増幅器を2個設けており、何れのファイバ増幅器1、2もYbファイバ増幅器である。Ybファイバは、コアにYbがドープされたダブルクラッドタイプのファイバであり、所定の波長のレーザー光(励起用のレーザー光)が供給されて励起されたとき、これとは異なる波長のレーザー光を発生し供給する。
【0031】
周回方向を規定するために、光アイソレータ1、2を2ヶ所に挿入している。光アイソレータは、端子に供給されたレーザー光を通過させて端子から出射する。
【0032】
励起用のレーザー光を発生するレーザー光源は、レーザーダイオードLDと、光アイソレータ3と、前記した分波/合波器(WDM)とから構成している。レーザーダイオードは、ファイバ増幅器を励起させるのに必要な波長のレーザー光を発生する半導体レーザー素子などによって構成しており、駆動電圧が印加されているとき、レーザー光を発生し、レーザーダイオード→光ファイバ→光アイソレータの端子なる経路で、光アイソレータに供給する。
【0033】
光アイソレータ3は、端子に供給されたレーザー光を通過させて端子から出射させ、また端子に供給されたレーザー光を遮断して、端子から出射しないように構成されており、レーザーダイオードからレーザー光が供給されると、端子に接続された光ファイバを介して、これを取り込み、通過させて、端子から出射し、端子→光ファイバ→分波/合波器の端子なる経路で、分波/合波器に供給する。また、分波/合波器からレーザー光が出射され、これが光ファイバを介して、端子に供給されたとき、これを遮断させて、レーザーダイオードを保護する。
【0034】
分波/合波器は、一方の各端子から第1の波長のレーザー光、第2の波長のレーザー光が入射されたとき、これを合波して、他方の端子から出射し、またこの端子から合波されたレーザー光が入射したとき、これを分波して、当該分波したレーザー光を端子から出射し、これを端子から出射するように構成されており、光アイソレータ3からレーザー光が出力され、これが光ファイバに接続された端子に供給されたとき、このレーザー光を取り込み、端子に接続されたファイバ増幅器2に供給する。また、ファイバ増幅器2からレーザー光が出射され、これが端子に供給されると、このレーザー光を分波して、分派した波長のレーザー光を端子から出射し、分波/合波器の端子→光ファイバ→光アイソレータの端子なる経路で、光アイソレータに供給する。
【0035】
また、光アイソレータ2は、端子に供給されたレーザー光を取り込み、通過させて端子から出射し、また端子に供給されたレーザー光を遮断して、端子から出射しないように構成されており、分波/合波器の端子→光ファイバ→端子なる経路で、分波/合波器から出射されたレーザー光が供給されたとき、これを通過させ、端子→光ファイバ→振幅変調器→ファイバ増幅器1→光アイソレータ1なる経路にて光学系に供給する。また、光アイソレータ1は光学系→光ファイバ→端子なる経路で、光学系からレーザー光が供給されたとき、これを遮断して、レーザー光が分波/合波器に戻らないようにする。
【0036】
そして、光周回路の光路長には、光周回路の光路長を微調整するための調整ケーブルを設けているが、この調整ケーブルもファイバにて構成している。
【0037】
調整ケーブルとファイバ増幅器は偏波非保存であるが、変調器以降の偏波保存の系に対して偏光面を合わせる必要がある為、パドル式の偏光コントローラを挿入している。ファイバ系の最後に10%カプラを設置し、周回光の一部(10%)を取り出してフォトダイオード(PD)でモニタしている。
アクティブモードロック方式でパルス化を引き起こすために、振幅変調器には、外部から加えるRF信号で駆動するようになっている。
【0038】
マッチングレンズ群1は、コリメータレンズ1を介してファイバと接続され、レーザー光を反射する複数のミラーと、レーザー光の径などを調整するマッチングレンズを備えており、コリメータレンズ1からのレーザー光を取り込み、反射させながら、径、偏向方向などを調整し、電子ビームを加速させる加速器の出射路内に配置された光共振器に入射させる。
【0039】
光共振器は、電子ビームを加速させる加速器の出射路内に配置される共振器構造体(図示は省略する)と、反射率が90%以上、曲率半径が250mmの、共振器構造体に取り付けられる凹面鏡と、反射率90%以上、曲率半径が250mmで、レーザー光の波長と対応する距離だけ、凹面鏡と離間され、かつ凹面側が対向するように、共振器構造体に取り付けられる凹面鏡と、凹面鏡の裏面と共振器構造体との間に配置され、印加された電圧に応じて、変形し、凹面鏡の位置、取り付け角度などを調整するピエゾ素子とを備えており、マッチングレンズ群1、マッチングレンズ群2から各凹面鏡の裏面にレーザー光が供給されたとき、各凹面鏡を透過させて、各凹面鏡の間に、これを閉じ込め、蓄積しながら、位相を調整する。また、この動作と並行し、各凹面鏡の間に蓄積している強いレーザー光の一部を各凹面鏡から出射させ、マッチングレンズ群1、マッチングレンズ群2に供給する。
【0040】
マッチングレンズ群2は、コリメータレンズ2を介してファイバと接続され、レーザー光を反射する複数のミラーと、レーザー光の径を調整するマッチングレンズを備えて、供給されたレーザー光を取り込み、反射させながら、径、偏向方向などを調整し、光共振器に入射させる。また、光共振器から出射されるレーザー光を取り込み、反射させながら、径、偏向方向などを調整し、コリメータレンズ2から出射し、光ファイバを介して、出力カプラの端子に供給する。
【0041】
このように、ファイバから自由空間へはコリメータレンズ1から出射し、マッチング用のレンズの組で調整したうえで、光共振器に入射される。後に述べる調整により、光共振器長は420mm(周波数357MHz)に合わせている。片方の共振器鏡にはマイクロメータステージを取り付け、光共振器長の微調整に使用し、もう片方の光共振器鏡はピエゾ駆動にし、調整の際のスキャンに用いる。光共振器透過後は対称な光学系を通過し、コリメータレンズ2からファイバへ再入力される。途中、ビームサンプラにより一部を反射し、PD2は共振器の反射光をモニタし、PD3は光共振器の透過光をモニタするようになっている。
【0042】
PD1〜PD3で各部をモニタするが、このときモニタするパワーと、光周回路の各部でのパワーとの対応付けが必要となる。その理由は、この装置においての発振波長は1035nm付近であるが、市販の共振器鏡等の各要素の波長と相違する場合には、キャリブレーションを行う必要があるからである。この場合の光周回路のモニタ点としては、ファイバアンプ1を励起して発生したASE光を使って、各部のパワーを測定し、対応付けする。
【0043】
上記構成において、自己発振システムのパルス動作を行うための光共振器繰り返し周波数の調整と光周回路の調整について説明する。
【0044】
自由空間部の光学系を決めるために、例えば714MHzモードロックレーザーを用いて調整を行うものとする。まず、光共振器の共振器長を精度良く決めようという狙いである。共振器は、曲率半径250mmの凹面鏡を420mm間隔で向かい合わせた、FSR=357MHzの構成とした。
【0045】
図3で示すように、モードロックレーザーからの光をファイバで輸送し、FC/APCコネクタでコリメータに接続して出射する。このとき、光共振器の透過光を見ながら調整し、共鳴を最大にするようにマイクロメータで光共振器長を調整する。マッチングは、ファイバ接続を順方向、逆方向、と切替え、上流側と下流側のマッチングを独立に調整する。順方向から入力し、出射側でファイバに再入力した後の信号を測定し、全体の光学系マッチングを確認する。
【0046】
次に、光周回路の調整について説明する。光共振器の鏡を、同じ形状の基板でコート無しのものに交換でき、その場合、光共振器長に相当する光路長は経由するが、共鳴現象は起きないようになっている。ここで多少のマッチングのずれについては、ファイバ再入力部の鏡を微調整して回復させることが出来る。これで基本的には単純なリングレーザーの構成になる。振幅変調器はRFオフの状態で、ファイバ増幅器をオンにし、フォトダイオードPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定すると、周回の光路長に相当するスーパーモードノイズピークが観測できる。この状態で、ピーク強度を最大にするように、偏光コントローラのパドルの調整と、振幅変調器のDCオフセットの調整を行う。本構成では、周回の基本周波数は6.5MHz程度になっているので、これを目標の357MHzに合わせる為に、基本周波数の55倍のハーモニクスを使う。55番目のピークが357MHzに一致するように、調整ケーブルの長さを調整するが、本例では357.067MHzまで調整が出来る。更に精度を出すためには、ピエゾストレッチャとディレイラインを用いることも考えられる。また、広いスパンで見ると、6.49MHz間隔にスーパーモードノイズピークを確認できる。
【0047】
こうした調整により、光周回路長に対応した周波数の整数倍に調整した357MHzのRF信号を振幅変調器に入力して、パルス発振させると、変調をかけた357MHzの成分が強まり、その他のノイズピークは抑制され、変調の周期でパルス構造が出来上がる。すなわち、繰り返し周波数357MHzに調整した自由空間蓄積共振器を、周回光路長をこの55倍に調整したファイバ増幅器システムに組み込んで発振させた振幅変調を導入した結果、周回光が共振器長に対応する間隔の安定したパルス構造を持ち、同時に蓄積共振器内部で強度増大が起こる。
【0048】
この確認は、PD1の信号をスペクトラムアナライザで測定することで、変調をかけた357MHzの成分が強まりパルス化して発振していることを確認できる。
【0049】
共振器鏡は波長1064nmにおいて、反射率90%、あるいは、99%の仕様になっている。同様にASE光を入射して、透過率を測定した。90%鏡は透過率7.5%、99%鏡は透過率1.3%である、との結果が得られた。この説明では、90%鏡、99%鏡と呼ぶが、実際に共振器透過光パワーから共振器内部でのパワーを見積る際には、測定結果の透過率から算出することになる。
【0050】
本装置の実証確認について説明する。光共振器の共振器鏡が、コート無し及び反射率90%と99%であるそれぞれの場合について、振幅変調器をオン及びオフ(振幅変調器へ入力するケーブルをカプラから外したとき)で測定した結果を示す。
【0051】
a)コート無し共振器鏡での結果
図4に、変調器オフでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。図4(a)によると、357MHz付近にスーパーノイズピークが見られる。また、広いスパンで見る図4(b)の測定によると、6.5MHz間隔でスーパーモードノイズピークが観測できる。
【0052】
図5に、変調器オンでのPD1の信号をスペクトラムアナライザの測定結果を示す。図5(a)によると変調をかけた357MHzの成分が強まり、その他のノイズピークは抑制されていることを広いスパンで見る図5(b)は示している。オシロスコープでPD1を観測した図6のパルス波形は変調の周期でパルス構造が出来ていることを示す。
【0053】
b)90%反射率の共振器鏡での結果
図7に、変調器オフでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。図7(a)によると357MHz付近にピークが見られ、また、広いスパンで見ても、スーパーモードノイズピークは観測されないことを図7(b)は示す。これは、共振器構造によって、他のピークが抑制される為である。
【0054】
図8に、変調器オンでのPD1の信号をスペクトラムアナライザの測定結果を示す。変調をかけた357MHzの成分が強まり、パルス化して発振することを図8(a)及び広いスパンで見る図8(b)は示している。オシロスコープでPD1を観測した図9のパルス波形は、コート無しの場合よりも安定したパルス列が構成されていることを示す。
【0055】
c)99%反射率の共振器鏡での結果
図10に、変調器オフでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。図10(a)によると357MHz付近にピークが見られ、また、図10(b)は広いスパンで見ても、スーパーモードノイズピークは観測されないことを示す。
【0056】
図11に、変調器オンでのPD1の信号をスペクトラムアナライザの測定結果を示す。変調をかけた357MHzの成分が強まり、パルス化して発振することを図11(a)及び広いスパンで見る図11(b)は示している。オシロスコープでPD1を観測した図12のパルス波形は、コート無しの場合よりも安定したパルス列が構成されていることを示す。
【0057】
2.本発明の第2の実施形態の説明
本発明の第1の実施形態の説明では、レーザー発振器のシステムに外部の信号発生器を用いて強制的に振幅変調を与えることで、ハーモニックパルス化を行った。この方式は、構成が比較的簡単で、発振させるハーモニクスを変更することも容易である。
【0058】
これに対して、これから述べる第2の実施形態では、外部の変調信号発生器を用いるかわりに、レーザー発振器自体のノイズを電気的に取り出し、振幅変調器を駆動することで、系の基本周波数に正確に一致した変調信号をフィードバックすることが可能である。この方式に依れば、振幅変調器の駆動信号を自らの発振信号から再生して作る、再生モードロック方式を用いることで、発振周波数自体が変動しても、変調信号と周回長との関係は変わらない為に、パルス発振は安定する利点がある。
【0059】
図13は、レーザー光を振幅変調するのに再生モードロック方式を採用したレーザー発振装置の構成を示す。図2と同様の構成であるが、レーザー発振器自体のノイズを電気的に取り出して振幅変調器に変調信号をフィードバックするフィードバック回路を具備した点が異なる。
【0060】
このフィードバック回路は、10%ファイバカプラから一部の光を取り出し、フォトダイオード(PD1)でモニタする。PD1の電気信号を増幅し、357MHz±7MHzのバンドパスフィルタ(BPF)により、スーパーモードノイズのうち、成長させたい成分を取り出す。これをフェーズシフタで適宜に位相を調整したうえで、RF増幅器で適当な振幅に増幅し、ファイバ増幅器の入力側に設けている振幅変調器を駆動する。
【0061】
また、光周回路の光路長も、図2の構成と同様に、長さを調整した調整ケーブルを挿入して、基本周波数を6.49MHz、55番目のハーモニクスが蓄積共振器の357MHzと一致するようにしている。
【0062】
そして、PD1の信号をスプリッタで2つに分けて、周回パルス構造をモニタするようにし、また、振幅変調器へ戻す信号も2つに分けて、フィードバック信号をモニタすることができるようにすることで、これらの信号をオシロスコープまたはスペクトラムアナライザで観測することで本システムによる効果を確認できる。
【0063】
本装置の実証確認について説明すると、光共振器の共振器鏡が、コート無し及び反射率90%の共振器鏡を用いた場合について測定を行うものとし、再生モードロックによる効果を確認するために、振幅変調器へ入力するケーブルをコネクタから取り外し、フィードバックループをオープンにした場合と、ループをクローズした場合を比較する。
【0064】
a)コート無し共振器鏡での結果
図14に、変調器オフでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。図14(b)によると6.49MHz間隔でスーパーノイズピークが見られ、図14(a)にて357MHz付近に55番目のピークがあることを示す。図15はモニタ信号をオシロスコープで測定したものであり、ノイズは複数の成分から成るためランダムな波形となる。また、広いスパンで見ると、6.5MHz間隔でスーパーモードノイズピークが観測できる。
【0065】
図16は、変調器オンでのPD1の信号をスペクトラムアナライザの測定結果を示す。図16(a)及びスーパーノイズピークが成長しており、広いスパンで見る図16(b)は他のピークは抑制されていることを示す。オシロスコープでPD1を観測した図17のパルス波形は、図17(a)はパルス構造が生じていることを示し、また、長いスパンで見ても安定にパルス発振していることを図17(b)は示す。
【0066】
b)90%反射率の共振器鏡での結果
図18に、変調器オフでのPD1の信号をスペクトラムアナライザで測定した結果を示す。図18(a)によると357MHzにスーパーノイズピークが見られ、広いスパンで示す図18(b)はその他のピークは、共振器の効果のために抑制されていることを示す。図19はこのときの波形であるが、ノイズの成分が少ないために、特にBPFの後の信号には、図19(a)で短いスパンで見ると357MHzの波形が見られるが、図19(b)の長いスパンで観測すると不安定に振幅が揺らいでいることを示している。
【0067】
図20は、変調器オンでのPD1の信号をスペクトラムアナライザの測定結果を示しており、図20(a)、図20(b)でも発振信号はより鋭くなっていることを示す。図21はこのときの波形であり、図21(a)、図21(b)共にパルス発振が安定していることを示している。
【0068】
以上の測定結果は、本発明の装置に依れば、発振のノイズピークから適当なハーモニクスの信号を電気的に取り出し、振幅変調に用いることで、自動的に変調周波数の最適化を行うことができることを示す。よって、発振のノイズピークから適当なハーモニクスの信号を電気的に取り出し、振幅変調に用いることで、自動的に変調周波数の最適化を行うことができパルス発振を安定させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、強いレーザー光を発生させるレーザー装置に関し、特に、光共振器のフィネスを高めた時でも、安定して発振させ得るようにしたレーザーコンプトン散乱を利用した光源用レーザーに関するものであり、しかも振幅変調を導入することでより高いピーク強度を得ることができるために産業上の利用可能性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起用のレーザー光を発生するレーザー光源と、
前記レーザー光から所望波長のレーザー光を生成させるためのファイバ増幅器と、
前記ファイバ増幅器により生成された前記レーザー光を共振蓄積する光共振器と、
前記ファイバ増幅器の出力側に配置され、前記レーザー光を前記光共振器の一方に導くと共に、逆方向のレーザー光を遮断する光アイソレータと、
前記ファイバ増幅器、前記光共振器及び前記光アイソレータが前記レーザー光を共振させる光周回路として形成され、
前記光周回路長に対応した周波数の整数倍に調整された変調信号により前記レーザー光を振幅変調する能動モードロック方式の振幅変調器を前記ファイバ増幅器の入力側に設けたことを特徴とするレーザー発振装置。
【請求項2】
励起用のレーザー光を発生するレーザー光源と、
前記レーザー光から所望波長のレーザー光を生成させるためのファイバ増幅器と、
前記ファイバ増幅器により生成された前記レーザー光を共振蓄積する光共振器と、
前記ファイバ増幅器の出力側に配置され、前記レーザー光を前記光共振器の一方に導くと共に、逆方向のレーザー光を遮断する光アイソレータと、
前記ファイバ増幅器、前記光共振器及び前記光アイソレータが前記レーザー光を共振させる光周回路として形成され、
前記光アイソレータの出力をモニタリングし、前記光周回路を周回するレーザー光の周波数信号自身により前記レーザー光を振幅変調する再生モードロック方式の振幅変調器を前記ファイバ増幅器の入力側に設けたことを特徴とするレーザー発振装置。
【請求項3】
前記再生モードロック方式の振幅変調器は、
前記ファイバ増幅器からのレーザー光の一部を取り出すためのフォトダイオードと、
前記フォトダイオードの出力信号を増幅する第1のRF増幅器と、
前記RF増幅器の出力信号の中から成長させたい所望の周波数帯域のRF信号を取り出すためのバンドパスフィルタと、
前記バンドパスフィルタを通過したRF信号の位相変調を行う位相変調器と、
前記位相変調されたRF信号により当該振幅変調器を駆動する第2のRF増幅器と、を含むことを特徴とする請求項2に記載のレーザー発振装置。
【請求項4】
前記光周回路上には、前記レーザー光から所望波長のレーザー光を生成させるための第2のファイバ増幅器が配置されることを特徴とする請求項1乃至3の何れかの項に記載のレーザー発振装置。
【請求項5】
前記光周回路上は、当該光周回路の光路長を微調整するための調整ケーブルを設けたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかの項に記載のレーザー発振装置。
【請求項6】
前記光共振器は、所定の間隔で相互に向かい合う2枚の凹面鏡を少なくとも有するフォックス・スミス干渉計タイプの共振器であることを特徴とする請求項1乃至5の何れかの項に記載のレーザー発振装置。
【請求項7】
前記光共振器は、前記2枚の凹面鏡によって形成される共振器長を前記所望波長のレーザー光に対応させて微調整させるピエゾ調整器を有することを特徴とする請求項6に記載のレーザー発振装置。
【請求項8】
前記ファイバ増幅器は、Ybがドープされたコアを持つ前記光ファイバにより形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザー発振装置。
【請求項1】
励起用のレーザー光を発生するレーザー光源と、
前記レーザー光から所望波長のレーザー光を生成させるためのファイバ増幅器と、
前記ファイバ増幅器により生成された前記レーザー光を共振蓄積する光共振器と、
前記ファイバ増幅器の出力側に配置され、前記レーザー光を前記光共振器の一方に導くと共に、逆方向のレーザー光を遮断する光アイソレータと、
前記ファイバ増幅器、前記光共振器及び前記光アイソレータが前記レーザー光を共振させる光周回路として形成され、
前記光周回路長に対応した周波数の整数倍に調整された変調信号により前記レーザー光を振幅変調する能動モードロック方式の振幅変調器を前記ファイバ増幅器の入力側に設けたことを特徴とするレーザー発振装置。
【請求項2】
励起用のレーザー光を発生するレーザー光源と、
前記レーザー光から所望波長のレーザー光を生成させるためのファイバ増幅器と、
前記ファイバ増幅器により生成された前記レーザー光を共振蓄積する光共振器と、
前記ファイバ増幅器の出力側に配置され、前記レーザー光を前記光共振器の一方に導くと共に、逆方向のレーザー光を遮断する光アイソレータと、
前記ファイバ増幅器、前記光共振器及び前記光アイソレータが前記レーザー光を共振させる光周回路として形成され、
前記光アイソレータの出力をモニタリングし、前記光周回路を周回するレーザー光の周波数信号自身により前記レーザー光を振幅変調する再生モードロック方式の振幅変調器を前記ファイバ増幅器の入力側に設けたことを特徴とするレーザー発振装置。
【請求項3】
前記再生モードロック方式の振幅変調器は、
前記ファイバ増幅器からのレーザー光の一部を取り出すためのフォトダイオードと、
前記フォトダイオードの出力信号を増幅する第1のRF増幅器と、
前記RF増幅器の出力信号の中から成長させたい所望の周波数帯域のRF信号を取り出すためのバンドパスフィルタと、
前記バンドパスフィルタを通過したRF信号の位相変調を行う位相変調器と、
前記位相変調されたRF信号により当該振幅変調器を駆動する第2のRF増幅器と、を含むことを特徴とする請求項2に記載のレーザー発振装置。
【請求項4】
前記光周回路上には、前記レーザー光から所望波長のレーザー光を生成させるための第2のファイバ増幅器が配置されることを特徴とする請求項1乃至3の何れかの項に記載のレーザー発振装置。
【請求項5】
前記光周回路上は、当該光周回路の光路長を微調整するための調整ケーブルを設けたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかの項に記載のレーザー発振装置。
【請求項6】
前記光共振器は、所定の間隔で相互に向かい合う2枚の凹面鏡を少なくとも有するフォックス・スミス干渉計タイプの共振器であることを特徴とする請求項1乃至5の何れかの項に記載のレーザー発振装置。
【請求項7】
前記光共振器は、前記2枚の凹面鏡によって形成される共振器長を前記所望波長のレーザー光に対応させて微調整させるピエゾ調整器を有することを特徴とする請求項6に記載のレーザー発振装置。
【請求項8】
前記ファイバ増幅器は、Ybがドープされたコアを持つ前記光ファイバにより形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザー発振装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図13】
【図22】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図13】
【図22】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2012−38866(P2012−38866A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176690(P2010−176690)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業「超伝導加速による次世代小型高輝度光子ビーム源の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業「超伝導加速による次世代小型高輝度光子ビーム源の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)
【Fターム(参考)】
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