説明

レーザ処置システムおよびレーザ処置方法

【課題】効果的なFP処置に好適に用いられ得るレーザ処置システム等を提供する。
【解決手段】レーザ処置システム1は、処置対象である生体組織90上に離散的に存在する複数の被照射領域91a〜91eに対して熱処理を行って生体組織90に生物学的に有益な効果をもたらすものであって、光源部10、光学系20、光検出部30、記憶部40および計算部50を備える。光源部10は、波長範囲400nm〜2000nmに属する第1波長のレーザ光を出力する光源としてレーザダイオード11およびファイバレーザ光源12の何れかを含み、波長範囲400nm〜460nmに属する第2波長のレーザ光を出力する光源として6個のレーザダイオード13a〜13fを含む。第1波長のレーザ光の照射によって生体組織90の一部の領域を剥離し、第2波長のレーザ光の照射によって、その剥離された領域の周囲の生体組織90に存在する血管を凝固させて止血する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ処置システムおよびレーザ処置方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚に対する処置方法として分画的光熱分解(fractionalphotothermolysis: FP)が知られている。FP処置技術に関する発明が特許文献1〜3に開示されている。FP処置は、皮膚にレーザ光を照射して皮膚の微小処置領域(microscopic treatment zone: MTZ)の配列を形成する処置である。MTZは、例えば、直径約100μmおよび深さ約300μmの形状を有し、約250μmの間隔で配列される。MTZでは、微小表皮壊死小片(micro-epidermalnecrotic debris: MEND)が生じる。
【0003】
FP処置直後のMENDでは表皮および真皮の細胞の一部は壊死しているが、MENDの周囲の領域では正常組織であるので、MENDは周囲から治癒する。MENDの治癒過程で皮膚組織の再構築が生じる結果、皮膚の光老化の治癒や、しわの縮小が生じる。また、FP処置は、従来の剥離的リサーフェシング(ablative resurfacing: AR)に比べて処置直後紅斑などの副作用が少ない。FP処置では、波長1480nm〜1550nm、パルスエネルギー約5mJ、パルス幅1.5ms〜5msのレーザ光が用いられる。
【0004】
特許文献1は、マスクを用いてFP処置について詳細に開示している。この文献では、微小処置領域(MTZ)における処置の内容として、アブレーション・除去・破壊・損傷・刺激を挙げており、MTZの形状として円・楕円・円弧・線状を挙げている。MTZの大きさは10μm〜1,000μmとされ、FP処置の効果が及ぶ処置対象領域の大きさは1mm〜100mmとされ、fill factor(=MTZ面積/処置対象領域の面積)は0.1%〜90%であるとされている。MTZは表皮、真皮、またはその両方に渡って形成される。
【0005】
特許文献1に記載されたFP処置において用いられる電磁放射源は、レーザ、フラッシュランプ、タングステンランプ、ダイオード、ダイオードアレイ、COレーザ、Er:YAGレーザなどであり、波長は400nm〜11,000nm、パルス幅は1μs〜10s、フルエンスは0.01J/cm〜100J/cmである。熱処置の際には皮膚温度が少なくとも45℃〜100℃に上昇することが開示されている。
【0006】
また、特許文献1には、照射領域を制御するために照射マスクを用いることも開示されている。さらに、照射マスクで処置対象の皮膚を圧迫して皮膚血流を制限すると、血液と電磁放射との干渉が低下し、より深いアブレーションが可能であることや、複数のパルスを用いてアブレーション深さを調整できることが示されている。
【0007】
特許文献2も、FP処置の方法および装置について詳細に開示している。この文献では、微小処置領域(MTZ)のアスペクト比(=幅/深さ)は好ましくは1:2以上、より好ましくは1:4以上であるとしている。MTZは、表皮、真皮、またはその両方に存在し、最表面の角質層を無傷で残すことも好ましいとしている。MTZの形状は円柱、球、その他の形状、深さは10μm〜4000μm、径は10μm〜1000μmであり、光波長、パルス持続時間、パルス幅、ビームプロファイル、パルス強度、コンタクトチップ温度、コンタクトチップ熱伝導率、コンタクトローション、集光NA、光源輝度、光源パワーなどのパラメタの組み合わせによって実現されるとしている。また、皮膚への光照射は皮膚の温度を変化させ、皮膚の温度変化は皮膚の光学特性を変化させることから、光照射の条件を適切に設計することによってMTZの形状や大きさを制御することができることも開示されている。
【0008】
また、特許文献2では、FP処置に用いる光源に関しては、波長0.4μm〜12μmのレーザ光源を、皮膚内の光吸収物質に合わせて選択することが示されている。光吸収物質の具体例として、水、ヘモグロビン、メラニンが挙げられている。特に波長1μm〜2μmでは水の吸収が高く散乱が低いため、数mmの深さの組織に対して処置を行うのに適していることが示されている。また、複数の光源を組み合わせて用いることにより、MTZの形状を制御することや、複数種類の光吸収物質を加熱することも示されている。
【0009】
特許文献3は、FP処置に用いることのできるレーザ装置を開示している。この文献のレーザ装置および方法では、メインスキャン方向のレーザビーム移動を検知し、その情報を用いてサブスキャン方向にビームをディザリングすることにより、ビームアレイが効率的に形成される。
【0010】
また、特許文献3では、レーザ光源としては、レーザダイオード、ダイオード励起固体レーザ、ファイバレーザ、フラッシュランプが挙げられており、具体的には、Er:YAGレーザ、Nd:YAGレーザ、アルゴンイオンレーザ、HeNeレーザ、COレーザ、エキシマレーザ、Erファイバレーザ、ルビーレーザが挙げられている。波長は可視帯(0.4μm〜0.7μm)、赤外(0.7μm〜11μm)、紫外(0.18μm〜0.40μm)が挙げられている。また、一種類だけでなく複数種類のレーザを併用することも可能とされている。また、ビームアレイの形成手段としては、光ファイバや光導波路による光分岐や、レーザダイオードアレイなどのアレイ型光源や、ファイババンドルが挙げられている。
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0155266号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0049582号明細書
【特許文献3】米国特許第7090670号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来のFP処置技術では、その処置途中に出血が生じると、レーザ光等の電磁波の伝播が血液により妨げられることにより、MTZの形成が妨げられて、効果的な処置が行われ得ない。また、皮膚組織では、真皮は表皮に比べて深部にあって血流もより豊富であるため、出血しやすいことから、特に、深い領域に微小処置領域(MTZ)を形成することが困難である。深い領域でのMTZ形成が難しいことから、組織の深部にまで達する病変または異常をFP処置によって治療または改善させることは難しい。
【0012】
なお、特許文献1には、止血の必要性や止血方法の一例として圧迫が示されているが、処置対象への侵襲度が高く、効果は限定的であった。
【0013】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、効果的なFP処置に好適に用いられ得るレーザ処置システムおよびレーザ処置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るレーザ処置システムは、(1) 波長範囲400nm〜2000nmに属する第1波長のレーザ光と、波長範囲400nm〜1300nmに属する第2波長のレーザ光とを、出力する光源部と、(2) 光源部に光学的に結合され、光源部から出力される第1波長のレーザ光および第2波長のレーザ光を、処置対象である生体組織上に離散的に存在する複数の被照射領域に集光照射する光学系と、を備えることを特徴とする。更に、本発明に係るレーザ処置システムは、第1波長のレーザ光の照射によって生体組織の一部の領域を剥離し、第2波長のレーザ光の照射によって、その剥離された領域の周囲の生体組織に存在する血管を凝固させて止血することを特徴とする。
【0015】
また、いずれのレーザ光もパルス発振または変調可能であり、パルス光を発生させるのが好適であり、第1波長のレーザ光および第2波長のレーザ光をパルス発光可能なようにそれぞれの波長の光の光パワーおよび発光時間を調整する制御部を更に備えるのが好適である。また、第2波長は波長範囲400nm〜460nmに属するのが好適である。
【0016】
処置対象である生体組織の血管内の血液中に存在するヘモグロビンは第2波長において高い吸収係数を有するため、第2波長の光の照射によって血液を選択的に加熱し、血管周囲の生体組織を凝固させることができ、第1波長の光の照射による剥離(ablation)の際の出血(bleeding)を止めることができる。その結果、組織の深部まで剥離することができ、深部の病変または異常の治療または改善が可能となる。さらに、血液を選択的に加熱するため、血管から離れた組織の凝固を抑制することができる。その結果、凝固した組織の治癒に要する時間が短い。
【0017】
第1波長の光のパワーが200mW以上であり、第1波長の光のパワーが100mW以上であり、被照射位置におけるビームウエスト径が0.5mm以下であるのが好適である。この場合には、剥離および止血を効果的に行うことができ、処置対象組織の治療または改善に要する時間が短い。
【0018】
光源部は、第1波長の光を発生させるレーザダイオードまたはファイバレーザ光源と、第2波長の光を発生させるレーザダイオードと、を含むのが好適である。この場合には、剥離および止血に必要な光パワーを供給でき、装置を小型化できる。
【0019】
光学系は、入力端が光源部に光学的に接続され出力端が束ねられた複数本の光ファイバと、複数本の光ファイバの出力端から出力されるレーザ光を集光するレンズとを含み、複数本の光ファイバの出力端において、第1波長のレーザ光を伝送する光ファイバの周囲に、第2波長のレーザ光を伝送する光ファイバが配置されているのが好適である。この場合には、複数のレーザダイオードからの光パワーを高密度に束ねることで大きな光パワーを容易に得ることができる。さらに、剥離を行う第1波長の光ビームの周囲に止血を行う第2波長の光ビームが配置されるため、剥離された領域の周囲の組織における血管を効率的に止血することができ、出血を抑制して深い剥離を行うことが可能となる。
【0020】
複数本の光ファイバそれぞれはコアおよびクラッドを有し、複数本の光ファイバのうち何れかの光ファイバでは、出力端におけるコア面積/クラッド面積の比が、入力端におけるコア面積/クラッド面積の比の1.1倍以上であるのが好適である。この場合には、光ファイババンドル出射端における輝度(brightness)を高めることにより被照射位置における光パワー密度が高まるため、剥離および止血を効果的に行うことができる。
【0021】
光源部は、第1波長の光を発生させるレーザダイオードと、第2波長の光を発生させるレーザダイオードとを含み、光学系は、レンズを含み、レーザダイオードで発生した光を光ファイバを介さずに被照射位置に集光させるのが好適である。この場合には、光ファイバを介さないことにより、ビーム品質の低下および結合損失の発生を抑制することができるため、被照射位置におけるパワー密度が高まり、剥離および止血を効果的に行うことができる。
【0022】
第1波長と第2波長が互いに同一であり、共にレーザダイオードによって発生させられるのが好適である。この場合には、一種類のレーザダイオードで装置を構成できる。その結果、光源を簡素化することができると共に、光学系もGaN系レーザダイオードの波長帯で最適化できるため、結合効率の向上とコストの低減を行うことができる。
【0023】
第1波長は波長範囲1300nm〜1600nmに属するのが好適である。また、第1波長の光を発生させるレーザ光源はシングルモード発振するのが好適である。1300〜1600nmでは生体組織内の水およびOH結合による吸光度が高いため、剥離を効率的に行うことができると共に、剥離領域の周辺の組織の熱損傷を低減することができる。さらに、同波長帯ではシングルモード発振する高パワーレーザの実現が容易であり、シングルモードのレーザを用いることで高い輝度が得られ、その結果、剥離を効果的に行うことができる。
【0024】
本発明に係るレーザ処置システムは、(1) 生体組織からの拡散反射光のパワーを測定する光検出部と、(2) 処置後の臨床結果と、光検出器により測定される光パワーの値と、処置に用いられたレーザ光パワーの値と、の間の関係を表すデータを記憶する記憶部と、(3)記憶部により記憶されたデータと、処置中に光検出器により測定される光パワーの値とに基づいて出力すべきレーザ光パワーを計算する計算部と、を更に備えるのが好適である。この場合には、処置対象の生体組織の色素量や散乱係数などの個体間および経時的なバラツキを補償し、安定した臨床結果を得ることが可能となる。
【0025】
本発明に係るレーザ処置方法は、波長範囲400nm〜2000nmに属する第1波長のレーザ光の照射によって、生体組織(ヒトを除く)の一部の領域を剥離し、波長範囲400nm〜1300nmに属する第2波長のレーザ光の照射によって、その剥離された領域の周囲の生体組織に存在する血管を凝固させて止血するように前記第1波長のレーザ光および前記第2波長のレーザ光それぞれの照射光パワーおよび発光タイミングを調節することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るレーザ処置システムおよびレーザ処置方法は効果的なFP処置に好適に用いられ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0028】
(第1実施形態)
【0029】
先ず、本発明に係るレーザ処置システムおよびレーザ処置方法の第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係るレーザ処置システム1の構成図である。この図に示されるレーザ処置システム1は、処置対象である生体組織90上に離散的に存在する複数の被照射領域91a〜91eに対して熱処理を行って生体組織90に生物学的に有益な効果をもたらすものであって、光源部10、光学系20、光検出部30、記憶部40および計算部50を備える。
【0030】
光源部10は、波長範囲400nm〜2000nmに属する第1波長のレーザ光と、波長範囲400nm〜1300nmに属する第2波長のレーザ光とを、出力するものである。光源部10は、第1波長のレーザ光を出力する光源としてレーザダイオード11およびファイバレーザ光源12の何れかを含む。また、光源部10は、第2波長のレーザ光を出力する光源として6個のレーザダイオード13a〜13fを含む。
【0031】
例えば、レーザダイオード11は、近赤外域の波長のレーザ光を出力するものであって、InGaAsP系の材料で構成され、1400〜1500nmの波長で200〜300mWのパワーの光をシングルモードで発振する。レーザダイオード11から出力されるレーザ光は、シングルモードであるので、波長多重または偏波多重を用いて複数のレーザダイオードからの光を1本のシングルモードファイバに多重化することも可能であり、それによってさらに高い光パワーが得られる。近赤外レーザダイオード11に替えて、エルビウム添加光ファイバを用いたファイバレーザ光源12が用いられてもよい。ファイバレーザ光源12は、1530〜1600nmの波長で100〜5000mWのパワーの光をシングルモードで発振する。レーザダイオード13a〜13fそれぞれは、青紫の波長のレーザ光を出力するものであって、GaN系の材料で構成され、400〜460nmの波長で100〜300mWのパワーの光をマルチモードで発振する。
【0032】
光学系20は、光源部10に光学的に結合され、光源部10から出力される第1波長のレーザ光および第2波長のレーザ光を、生体組織90上に離散的に存在する複数の被照射領域91a〜91eに集光照射するものである。光学系20は、7本の光ファイバ22a〜22gからなる光ファイババンドル21、レンズ23、可動鏡24およびレンズ25を含む。
【0033】
光ファイババンドル21の集合端(出力端)21Aでは、図2に示されるように、光ファイバ22gの周囲に6本の光ファイバ22a〜22fが細密構造で配置されていて、これらがスリーブ管26の内部に樹脂等により固定されている。光ファイバ22gは、シングルモード光ファイバであって、入力端がレーザダイオード11およびファイバレーザ光源12の何れかの光出力に光学的に接続されている。光ファイバ22a〜22fは、マルチモード光ファイバであって、入力端がレーザダイオード13a〜13fの光出力に光学的に接続されている。光ファイバ22gのコア径は、光ファイバ22a〜22fそれぞれのコア径より小さい。
【0034】
また、光ファイババンドル21の集合端(出力端)21A付近では、図3に断面が示されるように、7本の光ファイバ22a〜22gそれぞれの樹脂被覆が除去され、さらに、クラッドの一部がエッチングされて細くなっている。図3には、光ファイバ22aのコア27aおよびクラッド28a、光ファイバ22dのコア27dおよびクラッド28d、ならびに、光ファイバ22gのコア27gおよびクラッド28g、が示されている。
【0035】
例えば、光ファイバ22a〜22fそれぞれは、非集合端(入力端)においてコア径40μmでありクラッド径80μmであってコア面積/クラッド面積の比が0.25であり、一方で、集合端(出力端)21Aにおいてコア径40μmでありクラッド径50μmであってコア面積/クラッド面積の比が0.64である。集合端におけるコア面積/クラッド面積の比は、非集合端における値の2.56倍である。その結果、平均化された光パワー密度も約2.56倍上昇し、集合端において高い輝度を実現することが可能となる。クラッド径50μmの7本の光ファイバ22a〜22gが蜂の巣状に集合された結果、集合端における光ビームの直径は約150μmとなる。なお、7本の光ファイバ22a〜22gそれぞれのNAは0.10〜0.15である。
【0036】
レンズ23,可動鏡24およびレンズ25は、光ファイババンドル21の集合端(出力端)21Aから外部へ出力されるレーザ光を入力して、生体組織90上に離散的に存在する複数の被照射領域91a〜91eの何れかに集光照射する。レンズ23,25の結像倍率は1倍であり、その結果、被照射領域におけるビームウエスト径は約150μmとなる。レンズ23,25の結像倍率は1倍以外であってもよく、それによって被照射領域の深さや断面積を調整することができる。
【0037】
光照射の結果、波長範囲400nm〜2000nmに属する第1波長のレーザ光の照射によって、生体組織90の一部の領域91a〜91eそれぞれが剥離される。また、波長範囲400nm〜1300nmに属する第2波長のレーザ光の照射によって、その剥離された領域91a〜91eそれぞれの周囲の生体組織90に存在する血管が凝固変性されて止血される。このとき、レンズ23とレンズ25との間に挿入された可動鏡24を動かすことにより、被照射領域91a〜91eを移動させることができる。また、処置対象側のレンズ25の位置を光軸方向に移動させることによって、生体組織90内でのビームウエストの位置を調整し、最適な剥離および止血効果が得られるように最適化することも可能である。
【0038】
光検出部30は、生体組織90からの拡散反射光のパワーを測定する。記憶部40は、過去の処置結果から得られた、処置後の出血の有無や治癒の速度、治癒の程度(外観)、痛みの有無と程度、など定性的項目を定量化したものを含む定量的な臨床結果と、光検出器30により測定される光パワーの値と、処置に用いられたレーザ光パワーの値と、の間の関係を表すデータを記憶する。計算部50は、記憶部40により記憶されたデータと、処置中に光検出器30により測定される光パワーの値とに基づいて、期待される臨床結果が最良となるよう出力すべきレーザ光パワーを計算する。このような光検出部30,記憶部40および計算部50を備えることにより、生体組織90に対して最適な処置が可能となる。
【0039】
図4は、生体組織90の被照射領域91a周辺の断面の模式図である。生体組織90の皮膚組織は、表面から順に表皮90a,真皮90bおよび脂肪層90cからなり、脂肪層90cおよび真皮90bには血管90d,90eが存在する。
【0040】
FP処置技術として公知のように、表皮と真皮の一部を剥離して治癒させることにより、皺やしみの除去といった生物学的効果を得ることができる。このとき、剥離された領域を短期間で治癒させるためには、剥離された領域の直径は300μm以下であることが好ましい。一方で、真皮まで達する病変または異常を治療または改善させるためには、剥離された領域の深さは1.5mm以上であることが好ましい。従って、剥離された領域のアスペクト比(深さ/径の比)は5以上であることが好ましい。また、真皮には血管が存在するため、剥離と共に止血を行うことが深い剥離および早い治癒のために好ましい。
【0041】
本実施形態では、深い剥離および止血を実現するために、剥離のための光(第1波長のレーザパルス光)および止血のための光(第2波長のレーザパルス光)を用いる。本実施形態では、近赤外レーザダイオードまたはファイバレーザが第1波長のレーザパルス光を発生させ、青紫レーザダイオードが第2波長のレーザパルス光を発生させる。
【0042】
被照射領域91aの中心付近の領域93では、第1波長のレーザパルス光によって主として水分が加熱されて蒸散する結果、組織の剥離が生じ、その周辺の領域94では変性が生じる。本発明では、被照射領域の周辺部はレーザダイオード13a〜13fからの波長400〜460nmの光によって照明される。波長400〜460nmの光はヘモグロビンによって強く吸収されるため、血管90eを中心とした領域が選択的に加熱される。その結果、剥離された領域93の周辺であると同時に血管90eの周辺でもある領域95では、特に強い変性が生じ、タンパク質の凝固や血液の凝固などによって細血管および毛細血管が閉塞され、出血が抑制される。
【0043】
剥離された領域93を短期間で治癒させるためには、剥離された領域93の径は300μm以下であることが好ましい。一方で、真皮90bまで達する病変または異常を治療または改善させるためには、剥離された領域93の深さは1.5mm以上であることが好ましい。従って、剥離された領域93のアスペクト比(深さ/径の比)は5以上であることが好ましい。
【0044】
さらに、第1波長のレーザパルス光の照射から10msから3sの時間差で、第2波長のレーザパルス光の照射を開始することが好ましい。第1波長のレーザパルス光の照射開始から10msより後では、組織の一部が剥離され始めるため、止血すべき組織(剥離された領域の周囲の組織)へ光が到達でき、3sより前では、出血を効率的に止めることが可能である。図5はレーザ発光のタイミングを模式的に示す。第1波長のレーザパルス光の発光から第2波長のレーザパルス光の発光までの時間差は上記のようにΔT=10ms〜3sである。第1波長および第2波長のレーザパルス光のパルス幅はT1およびT2、ピークパワーはP1およびP2である。T1およびT2は典型的に1ms〜1s、P1およびP2は典型的に100mW〜1Wであり、対象組織の光学特性や必要とされる処置の内容に応じて調整されることが好ましい。
【0045】
(第2実施形態)
【0046】
次に、本発明に係るレーザ処置システムおよびレーザ処置方法の第2実施形態について説明する。図6は、第2実施形態に係るレーザ処置システム2の構成図である。この図に示されるレーザ処置システム2は、処置対象である生体組織90上に離散的に存在する複数の被照射領域91a〜91eに対して熱処理を行って生体組織90に生物学的に有益な効果をもたらすものであって、光源部10、光学系20、光検出部30、記憶部40および計算部50を備える。
【0047】
図1に示された第1実施形態に係るレーザ処置システム1の構成と比較すると、この図6に示される第2実施形態に係るレーザ処置システム2は、光源部10が第1波長のレーザ光を出力する光源としてレーザダイオード11およびファイバレーザ光源12に替えてレーザダイオード14を含む点で相違し、また、光学系20に含まれる光ファイバ22gがマルチモード光ファイバである点で相違する。
【0048】
レーザダイオード14は、レーザダイオード13a〜13fと同様のものであり、GaN系の材料で構成され、400〜460nmの波長で100〜300mWのパワーの光をマルチモードで発振する。光ファイバ22gは、光ファイバ22a〜22fと同様のものであり、レーザダイオード14から出力されるレーザ光を入力端に入力し、そのレーザ光をマルチモードで導波させて出力端から外部へ出力する。
【0049】
光ファイババンドル21の集合端(出力端)21Aでは、図6に示されるように、光ファイバ22gの周囲に6本の光ファイバ22a〜22fが細密構造で配置されていて、これらがスリーブ管26の内部に樹脂等により固定されている。光ファイバ22gは、マルチモード光ファイバであって、入力端がレーザダイオード14の光出力に光学的に接続されている。光ファイバ22a〜22fは、マルチモード光ファイバであって、入力端がレーザダイオード13a〜13fの光出力に光学的に接続されている。光ファイバ22gのコア径は、光ファイバ22a〜22fそれぞれのコア径と同程度である。
【0050】
また、光ファイババンドル21の集合端(出力端)21A付近では、図7に断面が示されるように、7本の光ファイバ22a〜22gそれぞれの樹脂被覆が除去され、さらに、クラッドの一部がエッチングされて細くなっている。図7には、光ファイバ22aのコア27aおよびクラッド28a、光ファイバ22dのコア27dおよびクラッド28d、ならびに、光ファイバ22gのコア27gおよびクラッド28g、が示されている。
【0051】
第2実施形態では、剥離および止血の両方を400〜460nmの波長の青紫のレーザ光によって行う。波長400〜460nmの青紫の光は、ヘモグロビンだけでなく、メラニンやコラーゲンなどの生体内物質や、光照射によって生じた炭化組織によって吸収されるため、青紫の光だけを使っても生体組織90に十分な量の光エネルギーを吸収させることができ、組織の剥離を行うことができる。
【0052】
また、第1実施形態の項に記述したように、ヘモグロビンによる吸収によって血管を選択的に加熱して凝固することによって止血を実現できる。従って、図9のような発光タイミングを実現することで剥離と止血を共に行うことができる。レーザ光は、剥離のための第1波長のレーザパルス光と止血のための第2波長のレーザパルス光とからなり、前者および後者のパルス幅はT1およびT2、ピークパワーはP1およびP2である。P1およびT1は典型的には300mW〜1Wおよび1ms〜0.3sであり、P2およびT2は典型的には10mW〜300mWおよび100ms〜1sであり、対象組織の光学特性や必要とされる処置の内容に応じて調整されることが好ましい。
【0053】
発明者らは、図6に示される構成のレーザ処置システム2を用いて、生体組織90の切片に対して光照射実験を行った。光源部10は、波長400〜420nmのレーザ光を出力する7個の青紫レーザダイオードを含み、光学系20は、集光端21Aにおける各光ファイバのコア径が40μmでありクラッド径が50μmである光ファイババンドル21と、1倍の結像レンズ23,25とを含んでいた。レーザ光は、パルス幅300msでパルス間隔約1secのパルス波形で変調され、集光端での光パワーのピーク値は1Wであった。生体組織90として、解凍されたマグロの肉が用いられた。照射結果が図10に示されている。図10(a)は、照射によって生じた剥離領域(細穴)の開口部の形状を示し、図10(b)は、その剥離領域の深さ方向の断面構造を示す。この図に示されているように、直径約130μmで深さ約1400μm(アスペクト比10.8)の深い剥離が実現された。
【0054】
(第3実施形態)
【0055】
次に、本発明に係るレーザ処置システムおよびレーザ処置方法の第3実施形態について説明する。図11は、第3実施形態に係るレーザ処置システム3の構成図である。
【0056】
この図に示されるレーザ処置システム3では、光源部10は、1セットのファイバレーザであって、種光源15、増幅用光ファイバ16および励起光源17を含む。ファイバレーザである光源部10は、MOPA(Master Oscillator / Power Amplifier)構成として知られる構成を有し、種光源15において所定の変調波形を有するレーザパルス光を発生させ、励起光源17により励起された増幅用光ファイバ16に種光を通過させることで該種光を増幅し、その増幅した光を出力する。そして、光源部10から出力された光は、光ファイバ26を経てレンズ23によりコリメートされる。
【0057】
例えば、種光源15は波長1060nmの直接変調されたレーザダイオードであり、増幅用光ファイバ16はYb添加光ファイバであり、励起光源17は波長930nmの励起光を出力する。Yb添加光ファイバ16から出力されるパルス光は、図9に示されたものと同様である。波長1060nmのレーザ光は、組織による散乱および吸収の両方が低いことから、真皮の深い領域まで到達することができる。同時に、MOPA構成によりピークパワーの高いパルスが得られるため、効率的に剥離を行うことができると共に、ピークパワーを下げることで止血を行うこともできる。
【0058】
(第4実施形態)
【0059】
次に、本発明に係るレーザ処置システムおよびレーザ処置方法の第4実施形態について説明する。図12は、第4実施形態に係るレーザ処置システム4の構成図である。この図に示されるレーザ処置システム4は、処置対象である生体組織90上に離散的に存在する複数の被照射領域91a〜91cに対して熱処理を行って生体組織90に生物学的に有益な効果をもたらすものであって、光源部60および光学系70を備える。
【0060】
光源部60は、波長範囲400nm〜2000nmに属する第1波長のレーザ光と、波長範囲400nm〜1300nmに属する第2波長のレーザ光とを、出力するものである。光源部60は、第1波長のレーザ光を出力する光源としてレーザダイオード61を含む。また、光源部10は、第2波長のレーザ光を出力する光源としてレーザダイオード62を含む。
【0061】
例えば、レーザダイオード61は、近赤外域の波長のレーザ光を出力するものであって、InGaAsP系の材料で構成され、1400〜1500nmの波長で200〜300mWのパワーの光を出力する。レーザダイオード62は、青紫の波長のレーザ光を出力するものであって、GaN系の材料で構成され、400〜460nmの波長で100〜300mWのパワーの光を出力する。
【0062】
光学系70は、光源部60に光学的に結合され、光源部60から出力される第1波長のレーザ光および第2波長のレーザ光を、生体組織90上に離散的に存在する複数の被照射領域91a〜91cに集光照射するものである。光学系70は、レンズ71,レンズ72,ダイクロイックミラー73およびミラー74を含み、その一方で、光ファイバを含んでいない。
【0063】
光学系70は、レーザダイオード61から出力された第1波長のレーザ光をレンズ71によりコリメートし、また、レーザダイオード62から出力された第2波長のレーザ光をレンズ72によりコリメートして、これらコリメートされた2つのレーザ光をダイクロイックミラー73により合波した後にレンズ74により集光する。
【0064】
本実施形態では、光学系70に光ファイバを用いないため、被照射領域91a〜91cでのビーム品質はレーザダイオード出射端面でのビーム品質にほぼ等しい。通常の端面出射型レーザダイオードは、長方形の出射ビーム形状を有し、ビーム径およびNAが縦と横とで2〜5倍異なる。一方で、光ファイバを用いる場合には、光ファイバのコア径およびNAが通常は円対称であるため、レーザダイオードの出射光を光ファイバに入射させた場合、ビーム品質が低下する。光ファイバを用いる場合であっても、シリンドリカルレンズなどを用いてレーザダイオードの出射ビームを円対称に近づければ、ビーム品質の低下をある程度抑えることができるが、挿入損失および追加コストの問題が生じる。そこで、本実施形態では、光ファイバを用いない光学系によって、レーザダイオードの光を被照射領域に集光することで、レーザダイオード出射端面でのビーム品質を保持したまま、被照射領域にビームを集光することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】第1実施形態に係るレーザ処置システム1の構成図である。
【図2】第1実施形態に係るレーザ処置システム1に含まれる光ファイババンドル21の集合端(出力端)21Aの構成図である。
【図3】第1実施形態に係るレーザ処置システム1に含まれる光ファイババンドル21の断面図である。
【図4】生体組織90の被照射領域91a周辺の断面の模式図である。
【図5】レーザ発光のタイミングを模式的に示す図である。
【図6】第2実施形態に係るレーザ処置システム2の構成図である。
【図7】第2実施形態に係るレーザ処置システム2に含まれる光ファイババンドル21の集合端(出力端)21Aの構成図である。
【図8】第2実施形態に係るレーザ処置システム2に含まれる光ファイババンドル21の断面図である。
【図9】レーザ発光のタイミングを模式的に示す図である。
【図10】第2実施形態に係るレーザ処置システム2を用いて行った実験の結果を示す図である。
【図11】第3実施形態に係るレーザ処置システム3の構成図である。
【図12】第4実施形態に係るレーザ処置システム4の構成図である。
【符号の説明】
【0066】
1〜4…レーザ処置システム、10…光源部、11…レーザダイオード、11…ファイバレーザ光源、13a〜13f…レーザダイオード、14…レーザダイオード、20…光学系、21…光ファイババンドル、22a〜22g…光ファイバ、23…レンズ、24…可動鏡、25…レンズ、30…光検出部、40…記憶部、50…計算部、60…光源部、61,62…レーザダイオード、70…光学系、71,72…レンズ、73…ダイクロイックミラー、74…レンズ、90…生体組織、91…被照射領域。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長範囲400nm〜2000nmに属する第1波長のレーザ光と、波長範囲400nm〜1300nmに属する第2波長のレーザ光とを、出力する光源部と、
前記光源部に光学的に結合され、前記光源部から出力される前記第1波長のレーザ光および前記第2波長のレーザ光を、処置対象である生体組織上に離散的に存在する複数の被照射領域に集光照射する光学系と、
を備え、
前記第1波長のレーザ光の照射によって前記生体組織の一部の領域を剥離し、
前記第2波長のレーザ光の照射によって、その剥離された領域の周囲の前記生体組織に存在する血管を凝固させて止血する、
ことを特徴とするレーザ処置システム。
【請求項2】
前記第1波長のレーザ光および前記第2波長のレーザ光をパルス発光可能なようにそれぞれの波長の光の光パワーおよび発光時間を調整する制御部を更に備えることを特徴とする請求項1記載のレーザ処置システム。
【請求項3】
前記第2波長は波長範囲400nm〜460nmに属することを特徴とする請求項1記載のレーザ処置システム。
【請求項4】
前記光学系は、入力端が前記光源部に光学的に接続され出力端が束ねられた複数本の光ファイバと、前記複数本の光ファイバの出力端から出力されるレーザ光を集光するレンズと、を含み、
前記複数本の光ファイバの出力端において、前記第1波長のレーザ光を伝送する光ファイバの周囲に、前記第2波長のレーザ光を伝送する光ファイバが配置されている、
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のレーザ処置システム。
【請求項5】
前記複数本の光ファイバそれぞれはコアおよびクラッドを有し、
前記複数本の光ファイバのうち何れかの光ファイバでは、出力端におけるコア面積/クラッド面積の比が、入力端におけるコア面積/クラッド面積の比の1.1倍以上である、
ことを特徴とする請求項4記載のレーザ処置システム。
【請求項6】
前記第1波長は波長範囲1300nm〜1600nmに属する、
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のレーザ処置システム。
【請求項7】
前記生体組織からの拡散反射光のパワーを測定する光検出部と、
処置後の臨床結果と、前記光検出器により測定される光パワーの値と、処置に用いられたレーザ光パワーの値と、の間の関係を表すデータを記憶する記憶部と、
前記記憶部により記憶されたデータと、処置中に前記光検出器により測定される光パワーの値とに基づいて出力すべきレーザ光パワーを計算する計算部と、
を更に備えることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のレーザ処置システム。
【請求項8】
波長範囲400nm〜2000nmに属する第1波長のレーザ光の照射によって、生体組織(ヒトを除く)の一部の領域を剥離し、
波長範囲400nm〜1300nmに属する第2波長のレーザ光の照射によって、その剥離された領域の周囲の前記生体組織に存在する血管を凝固させて止血するように前記第1波長のレーザ光および前記第2波長のレーザ光それぞれの照射光パワーおよび発光タイミングを調節する、
ことを特徴とするレーザ処置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−246003(P2008−246003A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92456(P2007−92456)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】