説明

レーザ加工における加工不良防止システム

【課題】レーザ加工において、素材に蓄積される熱密度をネスティングデータに基いて算出し、加工不良を防止するNCプログラムを作成する。
【解決手段】素材BからワークW〜Wを切り出す際に、ネスティング領域Nを線S〜Sの長さ寸法の合計として定義し、NGとする。ワークW〜Wのレーザ加工長さ寸法は、線長L〜Lと丸穴の円周長Cを合計し、9倍したものであり、LGと定義される。熱密度HF=LG/NGとして算出し、この熱密度を予め設定したパラメーターと比較し、熱による加工不良を防止する加工手順を設定し、プログラムを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工における熱蓄積の影響による加工不良を防止するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工においては、ワーク素材にレーザ加工を施していくにつれて、テーブル上に残るワーク素材にレーザ加工による熱が蓄積される。新たにレーザ加工を施そうとするワーク素材の部分の温度が所定の値を超えると、レーザビームを照射しても、良好な加工が実行できず加工不良の原因となる。
下記特許文献1は、本出願人の提案に係り、ネスティングデータに基いて加工の手順を変更して熱影響を防止するシステムを開示している。
【特許文献1】特開2005−334919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、上述した先の提案に更に熱密度のアルゴリズムを加味して、より効果的な加工不良防止システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明の加工不良防止システムは、基本的手段として、ネスティングデータによりネスティング領域を規定し、その領域を囲む長さ寸法をネスティング範囲寸法NGと定義する工程と、全てのワークに施すレーザ加工の全体の長さ寸法を演算して全体の加工長さ寸法LGを定義する工程と、
熱密度HF=LG/NG
として演算する工程と、
演算された熱密度HFを予め設定されたパラメーターと比較する工程と、
比較した結果に基いてワークの加工順序を設定してプログラムを作成する工程と、
を備えるものである。
そして、パラメーターは、素材の材質、板厚に応じて設定される。
また、加工パスに沿った両側の領域に、加工で発生した熱影響を受ける熱領域を設定する工程と、熱領域が干渉しないようにワークの加工順序を設定して加工プログラムを作成する工程と、
を備えることもできる。
さらに、ワークの加工順序を最適に設定しても熱領域の干渉が避けられないときには、加工再開できるまでの冷却待機時間を加工プログラムに設定する工程と、
を備え、加工プログラムに冷却待機時間が含まれるときには、加工不良が発生する可能性がある旨の警告を出力する工程を備える。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、熱影響をより正確に予測して加工不良を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1は、板状の金属板素材Bに対してレーザ加工を施す際のネスティングを行う手順を示す。
斜線で示すネスティング領域N内に9個のワークW〜Wがネスティングされた場合を示す。
第1のワークWは、短形の外形形状の中央部に1個の丸穴を有する例を示す。この場合には、第1のワークWに施すレーザ加工の長さは、外周部の辺の長さ寸法と丸穴の円周長さ寸法となる。
【0007】
外周部の辺の長さ寸法は、4個の辺L,L,L,Lの長さ寸法を合計した寸法であり、丸穴の寸法は、穴の円周長さCである。
図1の実施例では、素材B上に同じ形状のワークが9個ネスティングされ、レーザ加工される例を示す。そこで、全体の加工長さ寸法LGは、1個のワークWの加工長さ寸法を9倍にした長さ寸法となる。
【0008】
次に、ネスティング領域Nは、実線S,S,S,Sの4辺に囲まれた領域である。そこで、この4辺の長さ寸法S,S,S,Sを合計した長さ寸法をネスティング範囲寸法NGとする。
【0009】
本発明にあっては、このNGに対するLGの比を熱密度(HF)と定義し、
HF(熱密度)=LG/NG ・・・(式1)
として演算する。
【0010】
図2は、素材B11のネスティング領域N11内に9個のワークW11〜W19のネスティングがされた状態を示す。
第1のワークW11は、4個の辺L11,L12,L13,L14に囲まれた短形形状を有し、8個の丸穴C11が加工されたものである。
【0011】
従って、第1のワークW11の加工長さは、4つの辺L11,L12,L13,L14の長さ寸法に丸穴の円周寸法C11を8倍した長さを加えた寸法LG11が全加工長さ寸法となる。
同様に、ネスティング領域N11は、4つの辺の長さ寸法S11,S12,S13,S14を合計した長さ寸法NG11として表現される。
【0012】
図2に示すネスティングの場合の熱密度HF11は、
HF11=LG11/NG11 ・・・(式2)
として演算される。
【0013】
図1のネスティングと図2のネスティングを比較したときに、ワークWの4つの辺L,L,L,LとワークW11の4つの辺L11,L12,L13,L14は等しいものとし、丸穴CとC11も同じ寸法とすると、ワークW11の加工長さ寸法LG11は、ワークWの加工長さ寸法LGに比べて、丸穴の個数が増加した分だけ長くなる。
【0014】
同様に、図1のネスティング寸法NGと図2のネスティング寸法NG11がほぼ等しいとすると、
HF11>HF
となる。
本発明は、上述した熱密度を演算して、レーザ加工不良の発生を予め防止するシステムを構成するものである。
【0015】
図3は、本発明のシステムによる処理のフロー図である。
ステップS1でネスティング指示が与えられると、ステップS2でネスティングが実行される。
このネスティングにおいて、図1,図2で説明した熱密度HFをネスティングデータに基いて、演算する。そして、この熱密度HFが予め設定されたパラメーターより大きいと判定されると、警告アラームを表示する。パラメーターは、素材の材質、板厚等により設定される。
次に、ステップS3で熱領域を考慮した加工順を設定する。
【0016】
図4は、熱領域を考慮した加工順を説明する。
図4は、素材B上に9個のワークW21〜W29がネスティングされた状態を示す。各ワークはレーザによる切断線CLを有する同一の部材として示されている。切断線CLの両側には熱影響を受ける熱領域HBが設定される。この熱領域HBは、レーザ出力、素材の材質、板厚、切断スピード等により設定される。
【0017】
熱領域HBを考慮しない加工順であれば、隣接するワークW21,W22,W23,W24・・・W29の順序で加工することが、移動距離が短くてすみ、効率的である。
しかしながら、第1のワークW21の熱領域HBが隣接する第2のワークW22の切断線CLの1部と干渉する場合には、この干渉した部分で加工不良が発生するおそれがある。
【0018】
このような場合には、隣接する第2のワークW22を飛ばして、第3のワークW23を2番目に加工する。以下、第7のワークW27を3番目に加工し、第9のワークW29を4番目に加工する。この間に第2のワークW22の熱領域は放熱により冷却され、消滅する。
そこで、第9のワークW29の加工後に第2のワークW22に戻り、加工を施す。
以下、同様の加工順で全てのワークを加工する。
【0019】
上述した熱領域を考慮した加工順を決定した場合でも、放熱する時間が不足して熱影響が残る場合が発生する。この場所を加工する場合には、加工再開が可能になるためドゥエル指令を出力して、加工機を待機状態とする。
【0020】
さらに、ステップS3でNCプログラム作成時に、冷却のためのドゥエル時間がプログラム上に出力された場合には、図5に示す「熱影響による加工不良の可能性があります。ネスティングの部品間隔を大きくするか、熱回避用のドゥエルを長く設定してください。」という警告を出力する。
上述した処理を施した後に、ステップS4でNCプログラムを作成する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】板状の金属板素材に対してレーザ加工を施す際のネスティングを行う手順を示す説明図。
【図2】素材のネスティング領域内に9個のワークのネスティングがされた状態を示す説明図。
【図3】本発明のシステムによる処理のフロー図。
【図4】熱領域を考慮した加工順を示す説明図。
【図5】熱影響による加工不良発生を警告する出力画面。
【符号の説明】
【0022】
素材
ネスティング領域
〜S ネスティング領域を囲む線の長さ寸法
〜W ワーク
〜L ワークWを囲む線の長さ寸法
丸穴の円周の長さ寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ加工により素材からワークを加工する加工プログラムを作成する際の加工不良防止システムであって、
ネスティングデータによりネスティング領域を規定し、その領域を囲む長さ寸法をネスティング範囲寸法NGと定義する工程と、全てのワークに施すレーザ加工の全体の長さ寸法を演算して全体の加工長さ寸法LGを定義する工程と、
熱密度HF=LG/NG
として演算する工程と、
演算された熱密度HFを予め設定されたパラメーターと比較する工程と、
比較した結果に基いてワークの加工順序を設定してプログラムを作成する工程と、
を有するレーザ加工における加工不良防止システム。
【請求項2】
パラメーターは、素材の材質、板厚に応じて設定される請求項1記載のレーザ加工における加工不良防止システム。
【請求項3】
加工パスに沿った両側の領域に、加工で発生した熱影響を受ける熱領域を設定する工程と、
熱領域が干渉しないようにワークの加工順序を設定して加工プログラムを作成する工程と、
を有する請求項1記載のレーザ加工における加工不良防止システム。
【請求項4】
ワークの加工順序を最適に設定しても熱領域の干渉が避けられないときには、加工再開できるまでの冷却待機時間を加工プログラムに設定する工程と、
を有する請求項3記載のレーザ加工における加工不良防止システム。
【請求項5】
加工プログラムに冷却待機時間が含まれるときには、加工不良が発生する可能性がある旨の警告を出力する工程と、
を有する請求項4記載のレーザ加工における加工不良防止システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−55438(P2008−55438A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232338(P2006−232338)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(000114787)ヤマザキマザック株式会社 (80)
【Fターム(参考)】