説明

レーザ加工機

【課題】レーザ光を大形の加工対象物の所要の箇所に照射して加工を行うレーザ加工機に関し、ガルバノスキャナを採用する場合の問題を回避する。
【解決手段】加工対象となる基板0を支持しながら所定の回転軸A回りに基板0を回動させることが可能な支持体1と、前記支持体1に支持させた基板0の被加工面に向けてレーザ光を照射するとともにそのレーザ光軸を前記回転軸Aと略平行な軸B回りに回動させることが可能なレーザ照射装置2とを具備するレーザ加工機を構成した。基板0の被加工面に向かうレーザ光の光軸の鉛直方向に対する角度θ1と、支持体1に支持させた基板0の被加工面の水平方向に対する角度θ2とは、θ2≒θ1/2の関係に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を大形の加工対象物の所要の箇所に照射して加工を行うレーザ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
加工対象物の所要の箇所にレーザ光を照射する加工機には、レーザ光軸の方向を操作するものが存在する。レーザ光軸の方向を変化させるための具体的手段としては、ガルバノスキャナ(例えば、下記特許文献を参照)と集光レンズとの組み合わせが一般的である。
【0003】
ガルバノスキャナを介してレーザ光軸の方向を変化させる態様の加工機では、幾つかの問題に直面する。まず、レーザ光の照射箇所によって、レーザ光軸の方向と加工対象物の被加工面とがなす角度が変化することが挙げられる。レーザ光軸が被加工面に対して直交する状態と、被加工面に対して傾倒している状態とでは、被加工面上におけるレーザ光の投影形状が当然に異なる。そのような投影形状の歪み変形は、被加工面に照射されるレーザビームのプロファイル(エネルギ分布)の変動に直結し、加工精度を低下させる要因となる。
【0004】
さらには、ガルバノスキャナの出射口から加工対象物の被加工面までの距離も、長くなったり短くなったりする。このため、レーザ光の焦点を常に被加工面に合わせるべく、集光レンズを適時変位させる制御を行わなくてはならない。だが、その変位制御は非線形的であって容易ではなく、高速な処理が難しい。
【0005】
加えて、ガルバノスキャナの構成要素であるミラーの回転角と、レーザ光の照射箇所との関係も線形的ではない。レーザ光軸が被加工面に対して直交する状態と、被加工面に対して傾倒している状態とでは、ミラーを所定角度回転させたときのレーザ光の照射箇所の移動量が相異する。パルスレーザビームを連続的に照射して被加工面上に溝を切削するような加工を行う場合、ミラーの回転速度を適確に制御しないと、パルスレーザビームの照射箇所が飛び飛びとなり、連続した溝を形成できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−170579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、レーザ光を大形の加工対象物の所要の箇所に照射して加工を行うレーザ加工機に関し、ガルバノスキャナを採用する場合の上述の問題を回避することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、加工対象となる基板を支持しながら所定の回転軸回りに基板を回動させることが可能な支持体と、前記支持体に支持させた基板の被加工面に向けてレーザ光を照射するとともにそのレーザ光軸を前記回転軸と略平行な軸回りに回動させることが可能なレーザ照射装置とを具備するレーザ加工機を構成した。
【0009】
本発明は特に、薄膜太陽電池の製造過程において、前記基板に製膜された透明性導電膜、発電層または裏面電極膜にレーザ光を照射してこれを切削する加工機としての利用に好適となる。薄膜太陽電池の製造は、特定の方向に延伸する溝を複数本切削形成する工程を伴うが、本発明に係るレーザ加工機によれば、前記回転軸に対して略直交する方向に基板の被加工面を走査する加工処理を精度よく実施することが可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガルバノスキャナを採用する場合の上述の問題を有効に回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態のレーザ加工機の概略構成を示す斜視図。
【図2】同レーザ加工機によるレーザ加工時の基板の姿勢及びレーザ光軸の向きの制御の模様を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。本実施形態のレーザ加工機は、例えば薄膜太陽電池の製造過程において使用されるものであり、加工対象物であるガラス基板0の被加工面に製膜される薄膜、即ち透明導電膜、光電変換膜(発電層となるアモルファスシリコン、単結晶シリコン、多結晶シリコン若しくは微結晶シリコンの膜)または裏面電極膜にレーザ光を照射して、当該薄膜を分断する分離溝等のパターニングを行うものである。
【0013】
説明の簡明化のため、ここでは、(基板0を水平姿勢とした場合に)薄膜に形成される分離溝が延伸している方向をY軸(前後)方向と定義し、複数本の分離溝が間欠的に並んでいる方向をX軸(左右)方向と定義して記述する。図1に示すように、本実施形態のレーザ加工機は、基板0を支持する支持体1と、その支持体1の上方に配置したレーザ照射装置2とを具備している。
【0014】
支持体1は、例えば上下方向に貫通した中空の枠体であり、その上面側に被加工面を下に向けた基板0を載置して支持することができる。支持体1には、図示しないクランプ装置等を付設しておき、当該クランプ装置等を介して基板0の外周縁部を挟持する。支持体1は、Y軸方向に伸びる回転軸A回りに回動する。即ち、自らが支持している基板0を、同回転軸A回りに回動させる機能を有する。
【0015】
レーザ照射装置2は、支持体1に支持させた基板0の被加工面に向けてレーザ光を照射するものである。本実施形態では、透明な基板0の上方から、レーザ光をこの基板0を透過させて下に向けた被加工面に照射する。レーザ照射装置2は、複数の加工ノズル21と、各加工ノズル21から出射したレーザ光を基板0に向けて屈折させるミラー22とを要素とする。
【0016】
加工ノズル21は、X軸方向に並んでおり、各々がX軸方向に変位することが可能であるようにレーザ設置ベース23に支持させてある。加工ノズル21は、レーザ光の焦点を調整するためのレンズを内蔵している。各加工ノズル21は、ミラー22に向け、Y軸方向にレーザ光を出射する。
【0017】
ミラー22は、X軸方向に拡張しており、一枚で複数の加工ノズル21から出射したレーザ光を受け、それらを基板0に向けて反射させる。ミラー22は、支持体1の回転軸Aに対して略平行Bな軸回りに、換言すればY軸方向に伸びる回転軸B回りに回動する。なお、ミラー22の回転軸Bは、各加工ノズル21から出射するレーザ光が当たる位置に所在している。即ち、ミラー22の回転角度によらず、ミラー22においてレーザ光が当たる箇所は不動である。
【0018】
支持体1の回動と、ミラー22の回動とは同期する。支持体1及びミラー22をそれぞれ回転駆動する駆動源(ステッピングモータ等)の制御、加えて各加工ノズル21のX軸方向位置を変位させる駆動源(リニアモータ台車等)の制御を司る図示しない制御部は、パーソナルコンピュータ、ワークステーション、またはプログラマブルコントローラ(シーケンサ)等を主体とするもので、プロセッサ、メモリ、I/Oインタフェース等を有し、これらが連携動作する。メモリは、主記憶デバイスの他、フラッシュメモリやハードディスクドライブといった補助記憶デバイスを含む。制御処理において実行するべきプログラムは、メモリに記憶されており、プログラム実行の際にプロセッサによって解読される。
【0019】
制御部は、支持体1に支持させた基板0の回動角度と、ミラー22の回転角度とを同期させる。図2に示しているように、基板0の被加工面に向かうレーザ光の光軸の鉛直方向に対する角度θ1と、支持体1に支持させた基板0の被加工面の水平方向に対する角度θ2との間には、θ2≒θ1/2の関係が成立する。
【0020】
本実施形態では、加工対象となる基板0を支持しながら所定の回転軸A回りに基板0を回動させることが可能な支持体1と、前記支持体1に支持させた基板の被加工面に向けてレーザ光を照射するとともにそのレーザ光軸を前記回転軸Aと略平行な軸B回りに回動させることが可能なレーザ照射装置2とを具備するレーザ加工機を構成した。本レーザ加工機は、前記回転軸A、Bに対して略直交するY軸方向にレーザ光の照射位置を変位させるに際して、θ2≒θ1/2の関係が成立するように、支持体1及びレーザ照射装置2のミラー22の回転角度を制御する。
【0021】
これにより、レーザ光の光軸を回転軸B回りに回転させ、レーザ光のY軸方向に沿った照射位置を変位させる加工を行う場合において、ミラー22から基板0の被加工面までの距離が殆ど変化せず、レーザ光の焦点を細かく調整する必要がなくなる。つまり、加工ノズル21に内蔵しているレンズを高速に操作せずに済むため、タクトタイムの短縮に奏功する。
【0022】
のみならず、基板0の被加工面と、当該被加工面に照射するレーザ光の光軸とがなす角度を、常に略一定に保つことができるので、被加工面に照射されるレーザビームのプロファイル(エネルギ分布)が変動せず、加工精度が改善する。
【0023】
さらに、基板0の被加工面に照射されるレーザ光軸の回転角度θ1と、被加工面上におけるレーザ光のY軸方向に沿った照射位置との関係が線形的となることから、ミラー22を回転駆動する駆動源の制御がより容易となり、その意味でも処理を高速化することが可能となる。
【0024】
本実施形態のレーザ加工機は、基板0の被加工面に製膜した薄膜にY軸方向に延伸する溝を切削形成する加工に特に適している。
【0025】
なお、以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、レーザ照射装置2の要素としてミラー22を採用し、このミラー22を回転させることを通じてレーザ光軸の向きを変化させるものとしていたが、ミラー22を採用せず、レーザ光を発射する加工ノズル21自体を前記回転軸B回りに回動可能に配設するようにしても構わない。
【0026】
また、上記実施形態では、基板0、レーザ光軸がともにY軸方向に伸びる回転軸A、B回りに回動するのみであった。即ち、被加工面に対するレーザ光の照射位置をX軸方向に変位させるためには、加工ノズル21自体をX軸方向に移動させる必要があった。これに対し、基板0及びレーザ光軸をともに、Y軸方向に伸びる回転軸回りにも、X軸方向に伸びる回転軸回りにも、回動可能に構成することも考えられる。この場合、例えば、基板0を支持する支持体1と、レーザ照射装置2の要素であるミラー22とをそれぞれ、Y軸方向に伸びる軸回りにもX軸方向に伸びる軸回りにも回動させ得るようにする。このようなものであれば、加工ノズル21をリニアモータ台車等でX軸方向に移動させる必要がなく、また、複数の加工ノズル21を配備せずとも基板0の被加工面の広範囲に亘ってレーザ加工を施すことが可能となる。この場合、加工ノズル21から発射するレーザ光は、ミラー22における、Y軸方向に伸びる回転軸とX軸方向に伸びる回転軸との交点の箇所に当てるようにする。
【0027】
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、例えば太陽電池パネル等の製造過程における、薄膜のレーザスクライブ、アブレーション、パターニングを実施する加工機として利用できる。
【符号の説明】
【0029】
0…基板
1…支持体
2…レーザ照射装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象となる基板を支持しながら所定の回転軸回りに基板を回動させることが可能な支持体と、
前記支持体に支持させた基板の被加工面に向けてレーザ光を照射するとともにそのレーザ光軸を前記回転軸と略平行な軸回りに回動させることが可能なレーザ照射装置と、
を具備するレーザ加工機。
【請求項2】
前記レーザ光は、前記回転軸に対して略直交する方向に前記基板の被加工面を走査する請求項1記載のレーザ加工機。
【請求項3】
薄膜太陽電池を製造するための加工機であり、
前記基板に製膜された透明性導電膜、発電層または裏面電極膜にレーザ光を照射してこれを切削する請求項1または2記載のレーザ加工機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−71318(P2012−71318A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216740(P2010−216740)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(598072179)株式会社片岡製作所 (24)
【Fターム(参考)】